JP7368895B2 - 易解体性接着材料、物品および解体方法 - Google Patents
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Description
易解体性接着材料を設計するには、一度発現させた接着強さを再び低下させる必要がある。また、易解体性接着材料は、経年劣化等と異なり、オンデマンドかつ短時間で解体することが要求される。よって、易解体性接着材料には、外部刺激に応答して、分解、界面相互作用の低下、弾性率変化などによる接着力低下が起こるような解体の仕掛けを組み込んでおく必要がある。
熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含む。
(i)硬化成分が硬化剤を含む場合は、エポキシ樹脂および硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)硬化成分が硬化剤を含まない場合は、エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。
被着体と、該被着体に接合した、上記の易解体性接着材料の硬化体とを含む。
上記の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
本明細書において、数値範囲に関する「~」の表記は、以上・以下を表す。例えば、「100~200℃」との標記は、100℃以上200℃以下のことを表す。
本実施形態の易解体性接着材料は、熱膨張性粒子と、分子内に熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含有する熱硬化性樹脂とを含む。
本実施形態の易解体性接着材料は、これら、熱膨張性粒子と熱解離性化合物との相乗作用により、優れた接着強度と易解体性のトレードオフバランスを改善する。
具体的には、本実施形態の易解体性接着材料を被着体に付着させた後、第1の熱処理を施すと、典型的には架橋構造を有する硬化体が得られる。その後、第2の熱処理を施すと、熱膨張性粒子が膨張するとともに熱解離性化合物が有する熱解離性構造が解離する。これら「熱膨張性粒子の膨張と、熱解離性構造の解離の相乗作用」により、硬化体自体が十分に脆弱化し、容易な剥離が可能となる(図2)。
熱解離性化合物は、分子中に熱解離性構造を有する化合物である。熱解離性構造とは、加熱により解離する結合(以下、適宜、「熱解離性結合」という)を含む構造をいう。熱解離性化合物は、分子中に1のみの熱解離性構造を有してもよいし、分子中に2以上(例えば2~4)の熱解離性構造を有してもよい。分子中に2以上の熱解離性構造を有する熱解離性化合物を用いることで、易解体性を一層高めうる。
熱解離性結合は、好ましくは共有結合である。
適切な熱解離性構造を選択することで、解離時の低分子化合物の発生が抑えられ、易解体性接着材料でしばしば問題となる揮発性有機化合物(VOC)の発生量低減などにつながる。
この例では、2種類のエポキシ樹脂を用い、そのうち1種にディールズアルダー付加体構造を導入している。これらのエポキシ樹脂を硬化剤と反応させることで硬化体を得ることができる(図5では、硬化剤としてジエチレントリアミンを用い、60℃7時間の加熱)。得られた硬化体には、熱で解離が起こる箇所が導入される。この例においては、2種類のエポキシ樹脂および硬化剤は、硬化体中に実質的に均一に分布すると考えられる。硬化体中に実質的に均一に分布した熱解離性構造と、熱膨張性粒子との相乗効果により、硬化体全体が均質に脆弱化して、良好な易解体性が得られると考えられる。
ディールズアルダー付加体構造においては、例えば80℃から160℃、具体的には90℃から150℃程度での熱処理によりレトロディールズアルダー反応が進行し、共有結合が解離する(図6の左から右に反応が進行)。すなわち、熱により、硬化体中の三次元架橋構造を構成する結合の一部が破壊される。そして、易解体性接着材料と被着体との接着力の低下がもたらされる。
(i)熱により解離した後、室温(25℃)まで冷却しても再結合が起こらない、不可逆型の熱解離性構造
(ii)熱により解離した後、室温(25℃)まで冷却すると再結合する、可逆型の熱解離性構造
熱解離性構造を、上記(ii)の可逆型の熱解離性構造とした場合、もし、本実施形態の易解体性接着材料を熱硬化する際の熱処理(第一の熱処理)により結合解離が起こっても、その後、室温に戻した段階で再結合が起こる。このため、得られる硬化体の機械的強度や被着体との接着力を十二分なものとすることができる。
一方、解体の際の熱処理(第二の熱処理)においては、熱膨張性粒子が膨張することにより、再結合が抑制される。熱膨張性粒子の膨張により、解離した部分が「引き離される」ためである。すなわち、熱解離性構造として可逆型の熱解離性構造を採用した場合であっても、熱膨張性粒子の存在により、可逆反応が「不可逆化」し、硬化体が十分に脆弱化されやすくなる。
(i)の不可逆型の熱解離性構造の場合、解離温度TDISは好ましくは90℃以上、より好ましくは110℃以上である。こうすることにより、硬化体を得るための第1の熱処理の熱処理条件のマージンを広くとることが可能となる。また、解離温度TDISの上限については、好ましくは260℃、より好ましくは200℃である。こうすることにより、解体にあたり必要となるエネルギーを低減することができる。
(ii)の可逆型の熱解離性構造の場合は、硬化体を得るための第1の熱処理を行った際に解離が起こっても、その後、室温に戻した段階で再結合が起こるため、得られる硬化体の機械的強度や被着体との接着力を充分なものとすることができる。このため、解離温度TDISが低くても問題がなく、室温より高い温度(例えば30℃以上)であればよい。
可逆型の熱解離性構造の場合における熱解離性構造の解離温度TDISは、例えば40℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上、特に好ましくは110℃以上、とりわけ好ましくは115℃以上である。TDISがある程度高い温度であることにより、解体前における硬化体の耐熱性を高めることができる。
また、可逆型の熱解離性構造の場合における熱解離性構造の解離温度TDISは、例えば260℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは160℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。こうすることにより、解体の際に必要となるエネルギーを低減することができる。
解体前における熱安定性を重視する観点からは、TDISがある程度大きい熱解離性構造を選択することが好ましい。一方、解体のしやすさを重視する観点からは、TDISがある程度小さい熱解離性構造を選択することが好ましい。すなわち、易解体性接着材料の使用目的や使用場所などを考慮して、適当なTDISを有する熱解離性構造を選択することが好ましい。
(d1)ディールズアルダー付加体構造
(d2)ジスルフィド構造
(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造
(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造
Xは、2価または3価の基を表し、
Yは、2価の基を表し、
EWGは、電子求引性基を表し、
直線と破線の組み合わせで表された結合は、単結合または二重結合のいずれかを表し、
波線は、他の原子との結合手を表す。
Xの3価の基としては、窒素原子などを挙げることができる。
Yの2価の基としては、直鎖または分岐のアルキレン基、エーテル基(-O-)、スルフィド基(-S-)などを挙げることができる。直鎖または分岐のアルキレン基の炭素数は、典型的には1から3、好ましくは1から2、より好ましくは1である。
EWGとしては、酸素原子(=O)、フッ化アルキル基、ハロゲノ基、ニトロ基、シアノ基などを挙げることができる。
ジスルフィド交換反応は、通常、70℃程度で進行する。
ジスルフィド交換反応については、例えば、ACS Appl. Mater. Interfaces 2012,4,11,6280-6288を参考とすることができる。
(i)硬化成分が硬化剤を含む場合は、エポキシ樹脂および硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)硬化成分が硬化剤を含まない場合は、エポキシ樹脂が熱解離性化合物を含む。
上記(i)の場合、熱解離性化合物は、エポキシ樹脂および硬化剤のうち、いずれか一方にのみ含まれていてもよいし、両方に含まれていてもよい。
好ましい例としては、主剤がエポキシ樹脂および硬化剤を含み、少なくともそのエポキシ樹脂が熱解離性化合物を含む態様が挙げられる。
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、熱解離性化合物を含んでいてもよい。
本実施形態におけるエポキシ樹脂は、以下の(i)から(iii)のいずれの態様であってもよい。
(i)熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)と、熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)とを含む態様
(ii)熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)のみを含む態様
(iii)熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)のみを含む態様
nは、2以上の整数であり、
Lは、単結合または2価の連結基を表し、
Aは、熱解離性構造を含むn価の有機基を表す。
Lの2価の連結基は特に限定されない。Lは、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシ基(-COOまたは-OCO-)、スルフィド基、これら基から選ばれる2種以上の基を連結して構成される2価の基などであることができる。Lは、例えば炭素数1から10の2価の有機基である。一般式(a1-1)中にはn個のLが存在するが、それらのLは互いに同一であっても異なっていてもよい。
Aが含む熱解離性構造の例としては、前述の(d1)ディールズアルダー付加体構造、(d2)ジスルフィド構造、(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造および(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造からなる群より選ばれる1または2以上の構造を挙げることができる。Aは、熱解離性構造を1のみ含んでもよいし、2以上含んでもよい。
X、YおよびEWGの定義および具体例は、前述の一般式(d1-1)から(d1-4)と同様であり、ただし一般式(a1-3)における2つのXは、それぞれ独立に、3価の基(例えば窒素原子)を表し、
Lの定義および具体例は、前述の一般式(a1-1)と同様であり、
nは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、好ましくは1から3の整数、より好ましくは1または2である。
CAS登録番号1642327-20-5のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度78℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度115℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号630109-37-4のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度75℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度95℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号451456-99-8のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度75℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度95℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1354635-72-5のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度60℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度104℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1142408-09-0のエポキシ樹脂については、当該樹脂が記載されている文献において、加熱温度60℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度111℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
脂環式エポキシ化合物の市販品としては、例えば、ダイセル社製の「セロキサイド」シリーズを挙げることができる。
本実施形態における硬化剤は、熱解離性化合物を含んでいてもよい。
本実施形態における硬化剤は、以下の(i)から(iii)のいずれの態様であってもよい。
(i)熱解離性構造を含む硬化剤(b1)と、熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)とを含む態様
(ii)熱解離性構造を含む硬化剤(b1)のみを含む態様
(iii)熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)のみを含む態様
n、AおよびLの定義および具体例は、一般式(a1-1)と同様であり、
Zは、アミノ基、ヒドロキシ基およびカルボキシ基からなる群より選択される少なくともいずれかである。一般式(b1-1)中にZは複数存在しうるが、複数のZは互いに同じでも異なっていてもよい。
Lの定義および具体例は、前述の一般式(a1-1)および(b1-1)と同様であり、
Zの定義および具体例は、前述の一般式(b1-1)と同様であり、
nは、それぞれ独立に、1以上の整数であり、好ましくは1から3の整数、より好ましくは1または2である。
CAS登録番号1629090-33-0の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度78℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1629090-36-3の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度90℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号2170611-60-4の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度150℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1449422-51-8の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度70℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度150℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1438275-50-3の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度40℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度110℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号2131218-36-3の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号2270969-71-4の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行する旨が報告されている(レトロディールズアルダー反応の加熱温度については記載なし)。
CAS登録番号2363046-97-1の硬化剤については、これが記載されている文献において、室温でディールズアルダー反応が進行する旨が報告されている(レトロディールズアルダー反応の加熱温度については記載なし)。
CAS登録番号1788898-24-7の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度60℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度90~97℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1280739-86-7の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度65℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度130℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号107958-95-2の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度80℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度129~140℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1438275-48-9の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度40℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度110℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
CAS登録番号1869990-66-8の硬化剤については、これが記載されている文献において、加熱温度70℃でディールズアルダー反応が進行し、加熱温度120℃でレトロディールズアルダー反応(すなわち熱解離)が進行する旨が報告されている。
硬化剤として用いる化合物は、脂肪族ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物および脂環式ポリアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン化合物であって、1級アミノ基を2個以上有するポリアミン化合物であることが好ましい。
本実施形態においては、硬化促進剤を用いてもよいし、用いなくてもよい。
硬化促進剤を用いる場合、その種類や量は適宜選択すればよい。硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、有機金属塩、3級アミン類、フェノール化合物、有機酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐熱性の観点から、有機リン化合物、有機リン化合物と有機ボロン化合物との錯体、有機リン化合物にπ結合をもつ化合物を付加してなる分子内分極を有する化合物からなる群より選択される少なくとも1つを用いることができる。π結合をもつ化合物として、例えば、無水マレイン酸、キノン化合物、ジアゾフェニルメタン、フェノール樹脂等が挙げられる。また、4級ホスホニウム塩系化合物、4級アンモニウム塩系化合物、脂肪酸塩系化合物、金属キレート系化合物、金属塩系化合物などを使用してもよい。また、ジシアンジミド、アジピン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物、グアナミン酸、メラミン酸、エポキシ化合物とイミダゾール化合物との付加化合物、エポキシ化合物とジアルキルアミン類との付加化合物、アミンとチオ尿素との付加化合物、アミンとイソシアネートとの付加化合物等の潜在性硬化促進剤を使用してもよい。
本実施形態において使用可能な熱膨張性粒子は特に限定されない。前述のように、熱解離性構造の解離との相乗効果による易解体性の効果が得られる限り、任意の熱膨張性粒子を用いることができる。
熱膨張性粒子は、典型的には、高分子からなるシェルと、揮発性膨張剤を含むコアと、を備える熱膨張性マイクロカプセルである。
熱膨張性マイクロカプセルにおけるシェルは、通常、熱可塑性樹脂で構成される。シェルは、アクリロニトリル、メタクリロニトリル及び塩化ビニリデンからなる群より選択される1または2以上の重合性モノマーを含有するモノマー混合物を重合させて得られる重合体で構成されることが好ましい。
熱膨張性マイクロカプセルにおけるコアは、揮発性膨張剤として、通常は有機溶剤などの揮発性有機物質、具体的には比較的低沸点の(25℃で液体状の)炭化水素を含む。
このようなシェルおよびコアを備えるマイクロカプセルを加熱すると、シェルが軟化し、かつ、コアの炭化水素が気化する。そして、気化の圧力でカプセルが膨張する。マイクロカプセルの種類にもよるが、公知の熱膨張性マイクロカプセルにおいては、体積で最大50から100倍に膨張するものもある。
具体的には、(TINI-TDIS)は、好ましくは-20℃以上20℃以下、より好ましくは-15℃以上15℃以下、さらに好ましくは-10℃以上10℃以下である。TINIとTDISがほぼ同程度の温度であることにより、解体時の熱処理において、熱解離性構造の解離とほぼ同時に熱膨張性粒子が膨らみ、硬化体の脆弱化が効果的に行われることとなる。特に、熱解離性構造として可逆型の熱解離性構造を採用した場合、この効果は顕著である。
TINIが100℃以上であることにより、接着(エポキシ樹脂の硬化反応)の際に通常採用される加熱温度における熱膨張性粒子の膨張が実質的に抑えられるため、確実な接着を行うことができる。また、TINIが100℃以上であることにより、解体前における硬化体の耐熱性をより高めることができる。
TINIが150℃以下であることにより、解体の際のエネルギー消費を抑えることができる。
TMAXが130℃以上であることにより、接着(エポキシ樹脂の硬化反応)の際に通常採用される加熱温度における熱膨張性粒子の膨張が十分に抑えられるため、確実な接着を行いやすい。また、解体前における硬化体の耐熱性を高めることができる。
TMAXが200℃以下であることにより、解体の際のエネルギー消費を抑えることができる。
熱膨張性粒子として市販品を用いる場合であって、カタログや仕様書などにTINI、TMAX、平均粒子径などの記載がある場合には、その値をTINI、TMAX、平均粒子径として採用することができる。この際、カタログや仕様書などに記載された数値に幅がある場合は、その数値幅の中心値を採用する。例えば、カタログにTMAXが175~185℃と記載されている場合には、TMAXは180℃であるとする。
カタログや仕様書などからはTINIやTMAXが不明である場合には、熱膨張性粒子を光学顕微鏡で観察しながら徐々に加熱して、粒子が膨張し始める点(変曲点)をTINIとし、直径が最大となったときの温度をTMAXとすることができる。また、平均粒子径については、熱膨張性粒子を室温(25℃)下で光学顕微鏡を用いて観察し、粒子100個以上の直径(円相当径)を測定し、その数平均を平均粒子径とすることができる。
一方、別の態様として、易解体性接着材料を被着体表面に塗布して膜とした際に、空気-膜界面または膜-被着体界面に偏在するような熱膨張性粒子を選択することも考えられる。これにより、解体モードを界面剥離的に制御できると考えられる。また、これにより、熱膨張性粒子の使用量を少なくすることができ、解体性接着材料の原料コスト削減につながりうる。
本実施形態の易解体性接着材料は、充填材を含んでもよい。これにより、例えば硬化体と被着体との熱膨張率を同程度として、温度変化による応力発生を抑えることができ、ひいては解体前における接着強度の安定につながる。
念のため述べておくと、充填材は、熱膨張性粒子とは異なる成分である。
有機充填材としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、炭素繊維、セルロース、ポリエチレンポリプロピレン粉等が挙げられる。
無機充填材としては、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、タルク、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ガラス繊維、アスベスト繊維、ほう素繊維、石英紛、鉱物性ケイ酸塩、雲母、アスベスト粉、スレート粉等が挙げられる。
充填材を用いる場合、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の易解体性接着材料は、熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子以外に、種々の成分を含んでいてもよい。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタン等の塩素系溶剤類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。
硬化剤が用いられる場合、エポキシ樹脂と硬化剤との混合比(エポキシ樹脂/硬化剤のモル比)は、1/0.01から1/10であり、より好ましいモル比は1/0.03から1/10であり、さらに好ましいモル比は1/0.05から1/10である。
特に、硬化剤が、1級アミンまたは2級アミン、フェノール化合物、カルボン酸基を有する化合物、チオール化合物等の活性水素を有する化合物である場合は、エポキシ樹脂中のエポキシ基のモル数と、硬化剤中の活性水素のモル数とが、当量比近辺となるように混合することが好ましい。例えば、エポキシ基と活性水素との比(エポキシ基のモル数/活性水素のモル数)は、好ましくは1/0.4から1/3であり、より好ましくは1/0.7から1/2であり、さらに好ましいモル比は1/0.8から1/1.5である。
具体的には、易解体性接着材料中の、熱解離性構造を含むエポキシ樹脂(a1)の質量をMa1、熱解離性構造を含まないエポキシ樹脂(a2)の質量をMa2、熱解離性構造を含む硬化剤(b1)の質量をMb1、熱解離性構造を含まない硬化剤(b2)の質量をMb2としたとき、(Ma1+Mb1)/(Ma1+Ma2+Mb1+Mb2)の値は、例えば0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、さらに好ましくは0.2以上である。この値の上限は1であってもよいが、コスト等の観点から、上限は例えば0.8、好ましくは0.5である。
本実施形態の易解体性接着材料において、以下の条件で測定されるF2およびF1の比(F2/F1)は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下であることが好ましい。下限については特に制限がなく0であってもよいが、例えば0.01以上あるいは0.1以上とすることで十分である。こうすることにより、使用時の高い接着強度と弱い力で簡単に剥がせる解体性を、高いレベルで両立させることができる。
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠して引張せん断接着強さを測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を60℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1のせん断接着強度をF1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、140℃15分間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2の引張せん断接着強さをF2とする。
本実施形態の易解体性接着材料は、例えば、(1)被着体の表面に易解体性接着材料を付着させ、(2)その後、その易解体性接着材料を加熱硬化させて、被着体に易解体性接着材料の硬化体が接合した硬化体を得、(3)さらにその後、熱処理することで被着体から易解体性接着剤硬化体を剥がして解体する、というプロセスに用いられる。上記(2)の加熱硬化にあたって採用する温度条件を第1温度条件とし、上記(3)の解体にあたって採用する温度条件を第2温度条件とすると、第2温度条件は第1温度条件に比べて、より高い硬化温度とすることが好ましい。
換言すると、上記のような(T2-T1)、T1およびT2が実現されるように、熱解離性構造の解離温度TDIS、熱膨張性粒子の膨張開始温度TINI、最大膨張温度TMAXなどを調整する(そのために適切な熱解離性構造や熱膨張性粒子を選択する)ことが好ましい。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料。
(i)前記硬化成分が硬化剤を含む場合は、前記エポキシ樹脂および前記硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)前記硬化成分が硬化剤を含まない場合は、前記エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。
2.
1.に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性化合物は、以下の(d1)から(d4)のいずれかの熱解離性構造を有する、易解体性接着材料。
(d1)ディールズアルダー付加体構造
(d2)ジスルフィド構造
(d3)イミダゾール-1-カルボキサミド構造
(d4)N-ヘテロ環状カルベン二量体構造
3.
1.または2.に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性構造は、熱により解離した後に25℃まで冷却すると再結合する可逆型の熱解離性構造である、易解体性接着材料。
4.
1.から3.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性構造は、前掲の一般式(d1-1)から(d1-4)で表される何れかの構造を含む、易解体性接着材料。
一般式(d1-1)から(d1-4)において、
Xは、2価または3価の基を表し、
Yは、2価の基を表し、
EWGは、各々独立に、電子求引性基を表し、
直線と破線の組み合わせで表された結合は、単結合または二重結合のいずれかを表し、
波線は、他の原子との結合手を表す。
5.
1.から4.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記エポキシ樹脂が、前記熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料。
6.
1.から5.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子は、高分子からなるシェルと、揮発性膨張剤を含むコアと、を備える熱膨張性マイクロカプセルである、易解体性接着材料。
7.
1.から6.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度をT INI とし、
前記熱解離性構造の解離温度をT DIS としたとき、
(T INI -T DIS )は、-20℃以上20℃以下である、易解体性接着材料。
8.
1.から7.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度T INI は、100℃以上である、易解体性接着材料。
9.
1.から8.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の最大膨張温度T MAX は、130℃以上である、易解体性接着材料。
10.
1.から9.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料であって、
当該易解体性接着材料を被着体の表面に付着させ、第1の熱処理を行うことにより前記被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に第2の熱処理を行うことにより前記被着体と前記硬化体とを解体するのに用いられる、易解体性接着材料。
11.
被着体と、該被着体に接合した、1.から10.のいずれか1つに記載の易解体性接着材料の硬化体とを含む物品。
12.
11.に記載の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む、解体方法。
易解体性接着材料の配合例をいくつか示す。
(配合例1)
[CAS登録番号1426573が付与された化合物(フルフリルアミンとオクタメチレンビスマレイミドのディールズアルダー付加体)]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=1:2(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例2)
[CAS登録番号1426573が付与された化合物(フルフリルアミンとオクタメチレンビスマレイミドのディールズアルダー付加体)]:[オクタメチレンジアミン]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=0.1:0.9:2(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例3)
[CAS登録番号2170611-60-4が付与された化合物(フルフリルアミンとビスマレイミドジフェニルメタンのディールズアルダー付加体)]:[オクタメチレンジアミン]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=0.1:0.9:2(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例4)
[CAS登録番号1009048-76-3が付与された化合物(フルフリルアルコールと2-ヒドロキシエチルマレイミドのディールズアルダー付加体)]:[ビスフェノールAジグリシジルエーテル]=1:1(モル比)の熱硬化性樹脂に、熱膨張性マイクロカプセル(例えば後掲の実施例で使用のもの)を、熱硬化性樹脂に対して20質量%加えたもの
(配合例5)
熱膨張性粒子の量を、エポキシ化合物(BADGEとFDB)の合計量(質量)に対して10質量%に変更した以外は、後掲の実施例1と同様のもの
(配合例6)
熱膨張性粒子の量を、エポキシ化合物(BADGEとFDB)の合計量(質量)に対して5質量%に変更した以外は、後掲の実施例1と同様のもの
[試薬]
エピクロロヒドリン(>99%、キシダ化学株式会社)、テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB、>99%、東京化成工業株式会社)、フルフリルアルコール(>97%、和光純薬工業株式会社)、水酸化ナトリウム(>93%、和光純薬工業株式会社)、4,4'-ビスマレイミドジフェニルメタン(>96%、東京化成工業株式会社)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDGE、純度記載なし、東京化成工業株式会社)、および、ジエチレントリアミン(DETA>98%、東京化成工業株式会社)は、市販品をそのまま使用した。テトラヒドロフラン(THF)については蒸留により精製したものを使用した。その他の溶媒及び試薬については市販品をそのまま使用した。
エピクロロヒドリン51g(0.55mol)とTBAB3.8g(1.18×10-2mol)を攪拌して混合した。15分間窒素置換を行った後、窒素雰囲気下、室温でフルフリルアルコール49g(0.50mol)を30分かけて滴下し、室温で2時間攪拌した。その後、予めNaOH40g(1.0mol)から調製したNaOH水溶液およそ80mLを室温で1h以内で滴下し、2h攪拌した。ジエチルエーテルおよそ100mLを加えて有機層を抽出し、これを蒸留水およそ50mLで三回洗浄した。その後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、エバポレーターでジエチルエーテルを留去して褐色液体を得た。この液体を減圧下、オイルバス中で減圧蒸留し、b.p.103-105℃/11mmHgの無色透明液体のFGEを単離した。単離したFGEの1H NMRスペクトルを図8に示す。収量および収率は16g及び21%であった。
フルフリルグリシジルエーテル(FGE): 1H NMR(300MHz,CDCl3):δ 7.44-7.39(m,1H),6.38-6.31(m,2H),4.53(q,J=12.8Hz,2H),3.75(J=11.5,3.1Hz,1H),3.44(J=11.5,5.8Hz,1H),3.16(J=5.8,4.0,2.9Hz,1H),2.80(J=9.2,4.4Hz,1H),2.61(J=5.0,2.7Hz,1H)
4,4'-ビスマレイミドジフェニルメタン(bisM)7.14g(0.02mol)を蒸留したTHF50mLに攪拌しながら溶解させた。15分間窒素置換を行った後、窒素雰囲気下、室温でFGE6.16g(0.04mol)を滴下し、24時間還流した。反応溶液を過剰量(およそ600mL)のジエチルエーテルに滴下し、生じた黄白色沈殿を吸引ろ過して減圧下で一晩乾燥させた。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:アセトン=10:3(v/v))によって精製し、無色透明固体のFDBを収率7.3%で単離した。単離したFDBの1H NMRスペクトルを図9に示す。DA付加体に特有のプロトン(e,e',f,g)に帰属されるピークがスペクトル中に見られたほか、FDBの各プロトンに帰属されるピークの積分強度比が理論値(a:b:c:d:e:f:g:h:i:j=1.98:1.01:2.07:2.01:2.07:1.00:2.10:2.12:2.07:1.06)とおおよそ一致したことから、FDBの合成および単離が達成されたと判断した。
2,2'-(メチレンビス(4,1-フェニレン))ビス(4-((オキシラン-2-イルメトキシ)メチル)-3a,4,7,7a-テトラヒドロ-1H-4,7-エポキシイソインドール-1,3(2H)-ジオン)(FDB): 1H NMR(300MHz,DMSO-d6): δ7.39-7.32(2H),7.15(2H),6.57(2H),5.21(1H),4.23(2H),4.08-3.98(1H),3.85-3.75(2H),3.36-3.32(1H),3.19(1H),3.06(1H),2.74-2.68(1H),2.56-2.51(1H)
松本油脂製薬株式会社製のマツモトマイクロスフェアー(登録商標)FN-100MDを使用した。下表に、同社の資料に記載されているこの熱膨張性粒子の一般的性質を示す。
市販のエポキシ樹脂であるビスフェノールAジグリシジルエーテル(BADGE)と、上記で得たFDBと、DETAと、熱膨張性粒子FN-100MDとを、ジクロロメタン/1,2-ジクロロエタン=2/1(v/v)混合溶剤中で混合した。そして、液状の接着材料を調製した。
各成分の比率については以下のようにした。
[BADGE+FDB]:[DETA]=5:2(モル比)
BADGE/FDB=70/30(w/w)
熱膨張性粒子の量:エポキシ化合物(BADGEとFDB)の合計量(質量)に対して20質量%
混合溶剤の量:BADGE、FDBおよびDETAの合計量(質量)のおよそ3.7倍
(1)上記で調製した易解体性接着材料を、縦100mm×横10mm×厚み1mmのアルミニウム板またはステンレス(SUS304)板に滴下し、端部の10mm×10mmの領域に塗り広げた試験片を準備した。易解体性接着材料の塗布量については、アルミニウム板の場合は硬化後付着量が6.2mgとなるように、ステンレス板の場合は硬化後付着量が6.5mgとなるようにした。
(2)室温、減圧下で3時間乾燥させ、溶媒を留去した。
(3)試験片同士を、上記(1)で易解体性接着材料を塗り広げた10mm×10mmの領域で貼り合わせ、クリップで固定した。
(4)恒温槽中、60℃で7時間加熱し(第1の熱処理)、易解体性接着材料を硬化させて試験片同士を接合し、室温まで冷却した。このようにして試験用接合体を得た。
(5)上記(4)で得られた試験用接合体の引張せん断試験を行った。
(6)上記(4)で得られた試験用接合体(上記(5)で用いたものとは別のもの)を、140℃で15分間加熱し(第2の熱処理)、室温まで冷却後、引張せん断試験を行った。
図10には、以下の値も記載した。
(i)熱処理として第1の熱処理のみを行った場合の引張せん断接着強さの値、具体的には、上記(5)の引張せん断試験で得られた引張せん断接着強さの値(3回の平均値で、アルミニウムの場合は4.43±0.34MPa、ステンレスの場合は2.50±0.20MPa)
(ii)熱処理として第1の熱処理および第2の熱処理を行った場合の引張せん断接着強さの値、具体的には、上記(6)の引張せん断試験で得られた引張せん断接着強さの値(3回の平均値で、アルミニウムの場合は1.95±0.73MPa、ステンレスの場合は0.89±0.33MPa)
(iii)引張せん断接着強さの低下率(%)、具体的には、{1-(上記(ii)の値/上記(i)の値)}×100で計算される値に、負号をつけたもの(アルミニウムの場合は-56%、ステンレスの場合は-64%)
第2の熱処理の条件を120℃で60分間とした以外は、実施例1と同様にして、金属板としてアルミニウム板を用いたときの接着性や易解体性を評価した。この評価において、第2の熱処理による引張せん断接着強さの低下は4%であった。つまり、接合強度は96%保持された。
このことは、FDB由来のディールズアルダー付加体構造の解離温度(130℃)よりも低く、また、熱膨張性粒子の膨張開始温度(125-135℃)よりも低い温度である120℃という温度での加熱では、解体性は発現しなかったことを示唆している。
また、この結果より、実施例1の接着材料は、120℃程度の高温での解体が抑えられた、耐熱性良好な接着材料であるといえる。
比較例1は、熱解離性化合物は用いたが、熱膨張性粒子は用いなかった例である。
具体的には、易解体性接着材料の調製の際、熱膨張性粒子を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして、接着材料の調製と、接着性および易解体性の評価(S-Sカーブの取得)を行った。ただし、塗布量については、アルミニウム板の場合には硬化後付着量が3.8mgとなるように、ステンレス板の場合には硬化後付着量が2.8mgとなるようにした。
比較例2は、熱膨張性粒子は用いたが、熱解離性化合物は用いなかった例である。
市販のエポキシ樹脂であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDEG)と、DETAと、熱膨張性粒子FN-100MDとを、ジクロロメタン/1,2-ジクロロエタン=2/1(v/v)混合溶剤中で混合した。そして、液状の接着材料を調製した。
各成分の比率については以下のようにした。
[EGDEG]:[DETA]=5:2(モル比)
熱膨張性粒子の量:EGDEGの量(質量)に対して20質量%
混合溶剤の量:EGDEGおよびDETAの合計量(質量)のおよそ3.7倍
実施例1、比較例1および比較例2(金属板としてアルミニウム板を用いた場合)の、第2の熱処理による引張せん断接着強さの低下率を、図13の棒グラフにまとめた。この棒グラフにおいて、低下率の「負号」は記載していない。
グラフより、熱解離性構造の熱解離作用と、熱膨張性粒子の膨張作用の「両方」が、良好な易解体性に必要なことが理解される。
Claims (14)
- 熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含み、
前記熱解離性化合物は、前記熱解離性構造として(d1)ディールズアルダー付加体構造を有する、易解体性接着材料であって、
当該易解体性接着材料は、被着体の表面に付着させ、第1の熱処理を行うことにより前記被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に前記熱膨張性粒子を膨張させ、かつ、前記熱解離性化合物が有する前記熱解離性構造を解離させる第2の熱処理を行って、更に室温まで冷却した後に前記被着体と前記硬化体とを解体するのに用いられる、易解体性接着材料。
(i)前記硬化成分が硬化剤を含む場合は、前記エポキシ樹脂および前記硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)前記硬化成分が硬化剤を含まない場合は、前記エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。 - 請求項1に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱解離性構造は、熱により解離した後に25℃まで冷却すると再結合する可逆型の熱解離性構造である、易解体性接着材料。 - 請求項1から3のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記エポキシ樹脂が、前記熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料。 - 請求項1から4のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記エポキシ樹脂が、以下一般式(a1-2)または(a1-3)で表される熱解離性構造を含むエポキシ樹脂を含む、易解体性接着材料。
Xは、2価または3価の基を表し、
Yは、2価の基を表し、
EWGは、各々独立に、電子求引性基を表し、
Lは、アルキレン基、シクロアルキレン基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシ基(-COOまたは-OCO-)、スルフィド基、これら基から選ばれる2種以上の基を連結して構成される2価の基を表し、
L'は、単結合または2価の基を表し、
nは、それぞれ独立に、1以上の整数である。 - 請求項1から5のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子は、高分子からなるシェルと、揮発性膨張剤を含むコアと、を備える熱膨張性マイクロカプセルである、易解体性接着材料。 - 請求項1から6のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度をTINIとし、
前記熱解離性構造の解離温度をTDISとしたとき、
(TINI-TDIS)は、-20℃以上20℃以下である、易解体性接着材料。 - 請求項1から7のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の膨張開始温度TINIは、100℃以上である、易解体性接着材料。 - 請求項1から8のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱膨張性粒子の最大膨張温度TMAXは、130℃以上である、易解体性接着材料。 - 請求項1から9のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
以下の条件で測定されるF2およびF1の比(F2/F1)が0.8以下である易解体性接着材料。
(条件)
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠して引張せん断接着強さを測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を60℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理した後に室温まで冷却して得られる試料1の引張せん断接着強さをF1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、140℃15分間の第2熱処理条件で加熱処理し、さらにその後、室温まで冷却して得られる試料2の引張せん断接着強さをF2とする。 - 被着体と、該被着体に接合した、請求項1から10のいずれか1項に記載の易解体性接着材料の硬化体とを含む物品であって、
当該物品に、前記熱膨張性粒子を膨張させ、かつ、熱解離性化合物が有する熱解離性構造を解離させる熱処理を行って、更に室温まで冷却した後に前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する、物品。 - 請求項11に記載の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する解体工程を含む、解体方法であって、
前記解体工程では、前記物品に前記熱膨張性粒子を膨張させ、かつ、前記熱解離性化合物が有する前記熱解離性構造を解離させる熱処理を行って、更に室温まで冷却した後に前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する、解体方法。 - 熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料であって、
(i)前記硬化成分が硬化剤を含む場合は、前記エポキシ樹脂および前記硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)前記硬化成分が硬化剤を含まない場合は、前記エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。
当該易解体性接着材料は、被着体の表面に付着させ、第1の熱処理を行うことにより前記被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に前記熱膨張性粒子を膨張させ、かつ、前記熱解離性化合物が有する前記熱解離性構造を解離させる第2の熱処理を行って、更に室温まで冷却した後に前記被着体と前記硬化体とを解体するのに用いられる、易解体性接着材料。 - 被着体と、該被着体に接合した、以下<易解体性接着材料>の硬化体とを含む物品に、熱膨張性粒子を膨張させ、かつ、熱解離性化合物が有する熱解離性構造を解離させる熱処理を行って、更に室温まで冷却した後に、前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する、解体方法。
<易解体性接着材料>
熱硬化性樹脂および熱膨張性粒子を含み、
前記熱硬化性樹脂は、
エポキシ樹脂と、
硬化剤および硬化促進剤のうち一方または両方を含む硬化成分と、
を含み、
前記熱硬化性樹脂は、以下の(i)または(ii)のいずれかの態様で、熱解離性構造を有する熱解離性化合物を含む、易解体性接着材料。
(i)前記硬化成分が硬化剤を含む場合は、前記エポキシ樹脂および前記硬化剤の一方または両方が、熱解離性化合物を含む。
(ii)前記硬化成分が硬化剤を含まない場合は、前記エポキシ樹脂が、熱解離性化合物を含む。
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