JP3627412B2 - 固体高分子型燃料電池用集電体 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、固体高分子型燃料電池において用いる集電体に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子型燃料電池の集電体には、集電機能に加えて電極反応に関与する物質の拡散・透過性が要求される。また、集電体を構成する材料には、導電性、ガス拡散・透過性、ハンドリングに耐えるための強度、電極製造時や電池に組んだときの圧縮に耐える強度等が必要とされる。もっとも、リン酸型燃料電池の集電体に要求される特性と比較してみると、固体高分子型燃料電池の集電体は、高分子電解質膜の強度が高いために集電体の強度はそれ自身のハンドリングに耐えればよい。また、耐食性が低くてよいために高分子物質の選択の幅も広い。しかしながら、一方で、高分子電解質膜の強度、抵抗が高く、その厚みが薄くなっていることから、高分子電解質膜を通して短絡を起こす凸部のないことが要求される。また、高分子電解質と、触媒層と、集電体とを加圧によって一体化することが多いことから、電池に組んだときの加圧だけでなく、一体化時の加圧によっても壊れないこと、高分子電解質膜を通しての短絡を起こさないことが要求される。
【0003】
このような固体高分子型燃料電池の集電体としては、たとえば特開平6−20710号公報、特開平7−326362号公報、特開平7−220735号公報に記載されるような、炭素短繊維を炭素で結着してなる多孔質炭素板を用いたものが知られている。しかしながら、このような集電体は、まず炭素繊維またはその前駆体繊維からなる短繊維の集合体を作り、これに樹脂を含浸または混合し、さらに焼成することによって作ることから製造コストが高い。また、密度が低い場合には、電極製造時や電池に組んだときの加圧により結着炭素が壊れやすいという問題もある。
【0004】
製造コストの問題を解決する方法として、特開平7−105957号公報や特開平8−7897号公報は、紙状の炭素短繊維集合体を集電体として用いることを提案している。このような集電体は、炭素による結着を行っていないために、高分子電解質、触媒層、集電体の一体化時のみならず、厚み方向の電気抵抗を低くするために電池として使用するときにも厚み方向に加圧する必要がある。しかしながら、これらの発明においては、加圧時における集電体の抵抗の低減や破壊防止についての配慮はしていない。さらに、特開平7−105957号公報に記載のものは、炭素短繊維が任意の方向に向いているために、電極製造時や電池に組んで加圧したときに厚み方向を向いている炭素短繊維が高分子電解質膜を突き抜けて対極との短絡を起こしたり、炭素短繊維の折損が起こりやすい。また、特開平8−7897号公報には、電極となる電解質膜、触媒反応層、拡散層の接合体の拡散層側の表面に、その拡散層に含まれる炭素粒子と絡み合った状態で炭素短繊維を付着させたものが記載されているが、炭素短繊維が拡散層中の炭素粒子と絡み合うことで固定されているために表面に現れている炭素短繊維は全て接合体の面方向からある角度をもってその厚み方向を向いていることになり、電池に組んで加圧したときに炭素短繊維が高分子電解質膜を突き抜けて対極との短絡を起こしたり、炭素短繊維の折損が起こりやすい。また、炭素短繊維の層が薄いためにその層の面方向へのガス拡散・透過性が低く、拡散層を別に設ける必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、従来の技術における上述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、対極との短絡を起こす心配が少なく、また、加圧によっても壊れる虞が少ないうえに、抵抗値も比較的低く、しかも安価な固体高分子型燃料電池用集電体を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向された炭素短繊維を高分子物質で結着してなる炭素繊維紙を含み、炭素短繊維の長さが、少なくとも3mmで、かつ、炭素繊維紙の厚みの少なくとも5倍である固体高分子型燃料電池用集電体を特徴とするものである。
【0007】
上記集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を2分間加え、その面圧を解除した後の重量減少率が3%以下であるのが好ましい。
【0008】
また、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの厚みが0.02〜0.2mmの範囲内にあるのが好ましく、同様に厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの密度が0.3〜0.8g/cm3の範囲内にあるのがの好ましい。目付は10〜100g/m2の範囲内にあるのが好ましい。
【0009】
さらに、炭素短繊維の直径D(μm)と、引張強さσ(MPa)と、引張弾性率E(MPa)との関係が次式を満足しているのが好ましい。
【0010】
σ/(E×D)≧0.5×10−3
さらにまた、炭素短繊維の直径は20μm以下であるのが好ましく、炭素短繊維の体積抵抗率は200μΩ・m以下であるのが好ましく、X線光電子分光分析法による炭素短繊維表面の酸素原子と炭素原子との原子数比(酸素原子数/炭素原子数)が0.35以下であるのが好ましい。
【0011】
また、高分子物質の含有率は2〜30重量%の範囲内にあるのが好ましく、炭素質微粒子をさらに含んでいたり、三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維をさらに含んでいるのが好ましい。また、次の式で表される抵抗増加比Rが15以下であるのも好ましいことである。
【0012】
R=RCF/R0
ただし、R0 :2枚のガラス状炭素板を重ねて2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)
RCF:2枚のガラス状炭素板の間に固体高分子型燃料電池用集電体を挟んで2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)
この発明の集電体は、それと触媒層とを層状に配置したり、集電体と、触媒層と、高分子電解質膜と、触媒層と、集電体とをこの順序で層状に配置したりしてユニットを構成し、そのユニットの複数個を積層して固体高分子型燃料電池を構成する。ユニットを構成する集電体に三次元方向に配向された炭素短繊維を含んでいる場合、その長さL(mm)と、高分子電解質膜の厚みT(mm)と、集電体と高分子電解質膜との間の触媒層の厚みt(mm)との関係が次式を満足しているのが好ましい。
【0013】
L≦T/2+t
【0014】
【発明の実施の形態】
この発明の固体高分子型燃料電池は、電解質に高分子電解質膜を使用した燃料電池で、その1例を図1に示す。図1に示すものは、それぞれシート状の集電体1、触媒層2、高分子電解質膜3からなる単電池であり、このような単電池を溝付セパレータ4を介して複数個積層して燃料電池とする。触媒層は、たとえば白金系の触媒微粒子を担持した炭素粉末を樹脂で結着してなるようなもので、厚みは0.02〜0.2mm程度である。この触媒層に高分子電解質を含浸、混合してもよい。また、触媒層は、単独でシート状とするよりも、高分子電解質膜や集電体上に形成するほうがよい。高分子電解質膜は、たとえばフッ素樹脂系の陽イオン交換膜のようなもので、厚みは0.05〜0.15mm程度である。高分子電解質膜と触媒層との間、触媒層と集電体との間は必ずしも図1の様に直線によって明確に区別できるものではない。セパレータ4は、炭素板や導電性プラスチック板等の、導電性で気体不透過性の材料からなっており、燃料や空気、電極反応生成物である水の流路となる溝5が両面に形成されている。積層された複数個の単電池は、燃料電池の運転時には積層方向に加圧される。その圧力は0.5〜10MPaの範囲が好ましい。
【0015】
さて、本発明に係る固体高分子型燃料電池用集電体は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向された炭素短繊維を高分子物質で結着してなる炭素繊維紙を含み、炭素短繊維の長さが、少なくとも3mmで、かつ、炭素繊維紙の厚みの少なくとも5倍である。ここで、炭素繊維紙の厚みはJIS P8118に準じて測定する。測定時の面圧は13kPaとする。
【0016】
炭素短繊維が実質的に二次元平面内において配向されているということの意味は、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているというほどの意味である。このことにより炭素短繊維による対極との短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。
【0017】
炭素短繊維を実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させる方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中で炭素短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法がある。炭素短繊維を確実に実質的に二次元平面内において配向させるため、また、炭素繊維紙の強度を高くするためには、湿式法が好ましい。
【0018】
炭素短繊維を高分子物質で結着することにより、炭素繊維紙の強度、ハンドリング性を高め、炭素短繊維が炭素繊維紙から外れたり、炭素繊維紙の厚み方向を向くのを防止できる。また、高分子物質で結着することによって圧縮や引張りに強くなる。
【0019】
高分子物質を付着させる方法としては、炭素短繊維を実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるときに繊維状、粒状、液状の高分子物質を混合する方法と、炭素短繊維が実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向された集合体に繊維状、液状の高分子物質を付着させる方法等がある。液状の概念には、エマルジョン、ディスパージョンやラテックス等、液体中に高分子物質の微粒子が分散して実質的に液体として取り扱うことができるものも含まれる。炭素短繊維の結着を強くしたり、炭素繊維紙、ひいては集電体の電気抵抗を低くしたりするためには、繊維状、エマルジョン、ディスパージョン、ラテックスであるのが好ましい。繊維状の高分子物質の場合、含有率を低くするため、フィラメント糸を使用するのが好ましい。
【0020】
炭素短繊維を結着する高分子物質は、炭素またはケイ素を主鎖に持つ高分子物質が好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(酢ビ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂のほか、熱可塑性エラストマー、ブタジエン・スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)等のエラストマー、ゴム、セルロース、パルプ等を用いることができる。フッ素樹脂等の撥水性の樹脂を用い、炭素短繊維の結着と同時に炭素繊維紙の撥水化処理を行ってもよい。
【0021】
集電体の加圧時の壊れにくさのためには、炭素短繊維を結着する高分子物質は軟らかいほうがよく、繊維状または粒状のものを用いる場合には熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム、セルロース、パルプが好ましい。液状のものを用いる場合には、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴムや、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム等の軟質材料で変性した熱硬化性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴムがより好ましい。
【0022】
高分子物質は、23℃における圧縮弾性率が4, 000MPa以下であるが好ましく、2, 000MPa以下であるのがより好ましく、1, 000MPa以下であるのがさらに好ましい。圧縮弾性率の低い高分子物質は結着部にかかる応力を緩和して結着を外れにくくし、また、炭素短繊維にかかる応力を緩和して炭素短繊維を折れにくくする。
【0023】
また、高分子物質が結晶性高分子物質である場合、そのガラス転移点(Tg)は100℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましく、0℃以下であるのがさらに好ましい。ガラス転移点以上では高分子物質が結晶化していないために比較的軟かい。ガラス転移点との温度差が大きくなるほど柔さは増す。なお、共重合体のガラス転移点Tgは次式によって求める。
【0024】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn
Tg :共重合体のガラス転移点(K)
Wn :モノマーnの重量分率
Tgn:モノマーnより重合した高分子物質のガラス転移点(K)
後述の炭素繊維紙の集電体への加工時や一体化時に水を使用する場合、炭素短繊維を結着する高分子物質が水に溶解して結着が外れるのを防ぐために、非水溶性の高分子物質を使用することが好ましい。非水溶性の高分子物質としては、酢ビ、PET、PP、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、SBR、NBR等がある。水溶性高分子物質としてはPVAが使用できるが、その場合、他の高分子物質との混合、共重合物を用いたり、ケン化度の高いPVAを使用するのが好ましい。ケン化度は85mol%以上が好ましく、95mol%以上がより好ましい。
【0025】
固体高分子型燃料電池は、カソード(空気極、酸素極)において電極反応生成物としての水や電解質を透過した水が発生する。また、アノード(燃料極)においては高分子電解質膜の乾燥防止のために燃料を加湿して供給する。これらの水の結露と滞留、水による高分子物質の膨潤が電極反応物の供給の妨げになるので、高分子物質の吸水率は低いほうがよい。好ましくは20%以下、より好ましくは7%以下である。具体的には酢ビ、PET、PP、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、SBR、NBR等がある。
【0026】
触媒活性の低下や高分子電解質膜の導電性の低下を防ぐために、高分子物質に含まれる不純物は少ないほうがよい。集電体中に占めるアルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)、アルカリ土類金属(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)以外の金属元素の重量比は500ppm以下が好ましく、より好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。さらに、ホウ素(B)、ケイ素(Si)以外の金属元素の重量比は1, 000ppm以下が好ましく、より好ましくは700ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。具体的にはPET、PP、ポリエチレン、ポリスチレン等がある。また、エラストマーの場合、加硫剤として硫黄を含む物質を用いていないものが好ましい。
【0027】
集電体中における高分子物質の含有率は、2〜30重量%の範囲にあるのが好ましい。より好ましいのは4〜20重量%の範囲であり、さらに好ましいのは5〜15重量%の範囲である。炭素繊維紙の電気抵抗を低くするためには高分子物質の含有率は少ないほうがよいが、2重量%未満ではハンドリングに耐える強度が不足することがあり、炭素短繊維の脱落も多くなる。逆に、30重量%を超えると炭素繊維紙の電気抵抗が増えてくる。
【0028】
炭素繊維紙は、そのまま集電体として用いる場合と、さらに後処理して用いる場合とがある。後処理の例としては、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐために行う撥水処理、水の排出路を形成するための部分的溌水、親水処理や、抵抗を下げるために行われる炭素質粉末の添加等がある。
【0029】
炭素繊維紙の強度、ハンドリング性を高くしたり、炭素短繊維を実質的に二次元平面内において配向させるために、炭素短繊維の長さは3mm以上、好ましくは4.5mm以上、さらに好ましくは6mm以上とする。3mm未満では、強度、ハンドリング性を保つのが難しくなる。さらに、炭素短繊維を実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるため、炭素短繊維の長さは炭素繊維紙の厚みの5倍以上、好ましくは8倍以上、さらに好ましくは12倍以上とする。5倍未満では、二次元への配向の確保が難しくなる。長さの上限は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるためには30mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、8mm以下がさらに好ましい。炭素短繊維が長すぎると分散不良を発生しやすい。分散不良には、たとえば多数の炭素短繊維が束状のまま残る場合があり、束状の部分は空隙率が低く、加圧時の厚みが厚くなるために加圧時に高い圧力がかかり、炭素繊維紙の破壊や、高分子電解質膜や触媒層の局部的な薄層化等の問題が起こりやすくなる。
【0030】
また、炭素短繊維は直線状であるのが好ましい。直線状の炭素短繊維は炭素短繊維を曲げる外力を取り除いた状態で炭素短繊維の長さ方向にある長さ(L)をとったときに、その長さ(L)に対する直線性からのずれ(Δ)を測定し、Δ/Lがおおむね0.1以下であれば直線状の炭素短繊維であるといってよい。炭素短繊維が直線状であると、炭素短繊維による対極との短絡をより完全に防止できる。非直線状の炭素短繊維は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるときに三次元方向を向きやすい。
【0031】
集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を2分間加え、その面圧を解除した後の重量減少率が3%以下であるのが好ましい。これにより、加圧時に壊れにくく、集電体の破壊により燃料電池が使用できなくなるのを防止できる。
【0032】
集電体は、高分子電解質膜、触媒層、集電体の一体化時や電池として使用する際に厚み方向に加圧され、壊れることがある。また、電池として使用するときには溝付セパレータと向かい合った状態で厚み方向に加圧されるため、溝付セパレータの山と向かい合う部分に大きな圧力がかかるのに加えて、山と谷の境と向かい合う部分が壊れやすい。集電体が壊れると、折れた炭素短繊維の脱落、集電体の強度低下、面方向の電気抵抗増大等が起こり、電池として使用できなくなることがある。折れた炭素短繊維の脱落、集電体の強度低下等により集電体が使用できなくなるのを防ぐため、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を2分間加え、その面圧を解除した後の重量減少率は3%以下とする。好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。重量減少率が3%より高い集電体は面圧解除後弱くなっており、ハンドリングで壊れやすい。
【0033】
重量減少率の測定は、以下のようにして行う。まず、集電体を直径46mmの円形にカットし、重量を測定する。次に、その集電体よりも大きく、平滑表面を有する2枚のガラス状炭素板でカットした集電体を挟み、集電体の面積当たり2.9MPaの圧力になるよう加圧し、2分保つ。圧力を取り除いて集電体を取り出し、その面方向を垂直方向に向けて30mmの高さから落下させる。この落下を10回行った後に重量を測定し、重量減少率を算出する。
【0034】
炭素短繊維の折損を防止し、重量減少率を3%以下とするために、使用する炭素短繊維は、炭素連続繊維をカットしたものが好ましく、熱処理時に張力をかけたものがより好ましく、熱処理時に延伸したものがさらに好ましい。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維のいずれかを用いるのが好ましい。なかでも、PAN系炭素繊維が好ましい。PAN系炭素繊維はピッチ系炭素繊維にくらべて圧縮強さ、引張破断伸度が大きく、折れにくい。このことは、炭素繊維を構成する炭素の結晶化の相異によると考えられる。折れにくい炭素繊維を得るためには、炭素繊維の熱処理温度は2,500℃以下が好ましく、2,000℃がより好ましい。
【0035】
集電体中に含まれる炭素短繊維は、直径D(μm)と、引張強さσ(MPa)と、引張弾性率E(MPa)との関係が次式を満足しているのがよい。そのような炭素短繊維からなる炭素繊維紙を含む集電体は、壊れにくい。すなわち、炭素短繊維の直径が細く、引張強さが強く、引張弾性率が低いほうが炭素短繊維は折れにくく、加圧時に集電体が壊れにくくなる。
【0036】
σ/(E×D)≧0.5×10−3
ここで、炭素繊維の引張強さ、引張弾性率はJIS R7601に準じて測定する。偏平な断面の炭素繊維の場合、長径と短径の平均値を直径とする。種類の異なる炭素短繊維が混合されている場合、D、σ、Eについてそれぞれ重量平均した値を用いる。好ましくはσ/(E×D)≧1.1×10−3であり、より好ましくはσ/(E×D)≧2.4×10−3である。
【0037】
炭素短繊維の引張破断伸度は0.7%以上であるのが好ましく、より好ましくは1.2%以上であり、さらに好ましくは1.8%以上である。引張破断伸度は引張強さ(σ)を引張弾性率(E)で除した値である。
【0038】
また、炭素短繊維の折損は様々な状況で発生するため、炭素短繊維の引張強さは500MPa以上であるのが好ましく、1, 000MPa以上であるのがより好ましく、2, 000MPa以上であるのがさらに好ましい。
【0039】
集電体に含まれる炭素短繊維の直径は、20μm以下であるのが好ましい。より好ましいのは12μm以下、さらに好ましいのは8μm以下である。集電体に含まれる炭素繊維紙の表面には、炭素短繊維の直径の5〜10倍の直径の空隙が観察される。触媒層との一体化時に集電体表面の炭素短繊維と空隙によって高分子電解質膜、触媒層、集電体の面を凹凸化して電極反応を起こりやすくする。このため、炭素短繊維の直径は細いほうがよい。直径が20μmを超えると集電体表面の空隙の半径が触媒層の厚みと同程度になり、触媒層内の触媒粒子と集電体中の炭素短繊維の間の電子の流れる距離が長くなる。また、炭素短繊維は細いほど厚み方向の加圧時に折れにくい。直径の異なる炭素短繊維が混合されている場合は、重量平均によって直径を求める。一方、炭素短繊維の直径が細くなりすぎると、一体化時に触媒層の集電体への浸入が起こりにくくなるため、炭素短繊維の直径は2μm以上であるのが好ましい。
【0040】
集電体に含まれる炭素繊維の体積抵抗率は200μΩ・m以下が好ましく、50μΩ・m以下がより好ましく、15μΩ・m以下がさらに好ましい。炭素繊維の体積抵抗率の測定はJIS R7601に準じて行う。定められた繊維長さが得られない場合、得られた繊維長さで測定を行う。
【0041】
集電体に含まれる炭素短繊維は、X線光電子分光分析法による表面の酸素原子と炭素原子との原子数比(酸素原子数/炭素原子数)が0.35以下、好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.10以下であるものがよい。湿式抄紙法によって炭素繊維紙を得る場合、酸素原子と炭素原子との原子数比が高いと炭素短繊維の分散が難しくなって分散不良が増加する。0.35を超えると均一な炭素繊維紙を得ることが難しくなる。酸素原子と炭素原子との原子数比を低くするためには、炭素繊維の表面処理やサイジング剤の付与をやめたり、不活性または還元雰囲気中での熱処理によって表面の酸素原子を取り除く方法がある。
【0042】
集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの厚みが0.02〜0.2mmであるのが好ましい。より好ましくは0.04〜0.16mm、さらに好ましくは0.08〜0.12mmである。0.02mmより薄いと集電体が触媒層に埋没し、面方向への拡散・透過性が低くなってくる。0.2mmよりも厚いと厚み方向の電気抵抗が増えてくる。なお、厚みは、集電体を均一な厚みで平滑な表面を有する2枚のガラス状炭素板で挟み、2.9MPaの一様の面圧で加圧し、集電体を挟まないときと挟んだときの上下の圧子の間隔の差から求める。圧子の間隔の測定においては、圧子の中心点を挟む両端で微小変位検出装置により圧子の間隔を測定し、両端の間隔の平均値として圧子の間隔を算出する。一様な面圧とするために、一方の圧子は球座で受けて上下の圧子の加圧面のなす角度を可変にする。
【0043】
厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたとき上記の厚みとなる集電体に含まれる炭素繊維紙の、13kPaの面圧で測定した厚みは0.1〜2.0mmが好ましく、0.2〜1.2mmがより好ましい。2mmを超えると炭素繊維紙が嵩高になり、炭素短繊維が厚み方向を向いたり、炭素繊維紙の強度が弱くなる。0.1mm未満の厚みにするためには、多量の高分子物質によって炭素短繊維の結着を強固に行う必要がでてくる。
【0044】
集電体の目付は10〜100g/m2 であるのが好ましい。より好ましくは20〜80g/m2、さらに好ましくは35〜60g/m2である。10g/m2 未満では集電体の強度が低くなる。また、高分子電解質膜、触媒層、集電体の一体化時や電池に組んだときに集電体が薄くなり触媒層に埋没して面方向への拡散・透過効果が不十分になる。100g/m2を超えると電池に組んだ時に集電体が厚くなり抵抗が大きくなる。
【0045】
集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの密度が0.3〜0.8g/cm3 であるのが好ましい。より好ましいのは0.35〜0.7g/cm3であり、さらに好ましいのは0.4〜0.6g/cm3である。厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの集電体の密度は、集電体の目付と厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの集電体の厚みから計算によって求める。
【0046】
集電体の拡散・透過性を高くするためには気孔率を高くする必要があるが、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの密度が0.8g/cm3 よりも大きくなると気孔率が下がり、拡散・透過性が不十分になる。また、0.3g/cm3 よりも小さいと、厚み方向の抵抗値が大きくなる。
【0047】
集電体は、厚み方向への面圧による加圧を行わない状態で、厚み方向に14cm/secの空気を透過させたときの圧力損失が、10mmAq以下であるのが好ましい。より好ましいのは3mmAq以下であり、さらに好ましいのは1mmAq以下である。
【0048】
集電体は、抵抗を低くするために、炭素質微粒子を含んでいるのが好ましい。炭素質微粒子の粒径は3μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。粒径の大きな炭素質微粒子は抵抗を下げる効果が小さく、拡散性を下げ、集電体から脱落しやすい。炭素質微粒子の例としてはカーボンブラックや黒鉛粉末などがある。炭素質微粒子を含ませる方法としては、炭素質微粒子を含む高分子物質によって炭素短繊維を結着する方法や、高分子物質によって炭素短繊維と炭素質微粒子を付着させる方法などがあり、炭素質微粒子も高分子物質によって炭素繊維紙に結着していることが好ましい。
【0049】
集電体に三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維をさらに含ませると、その炭素短繊維による触媒層や固体電解質膜の凹凸によって抵抗値が下がり、電極反応が行われる面積が増大するので好ましい。
【0050】
三次元方向に配向された炭素短繊維の長さは、高分子電解質膜を通しての短絡を防止するために、また、触媒層や固体電解質膜に凹凸を付与するために0.05〜0.25mmが好ましく、0.1〜0.2mmがより好ましい。短絡防止を確実に達成するためには、アノードとカソードに用いる集電体の少なくとも一方において0.2mm以下とするのが好ましい。
【0051】
三次元方向に配向された炭素短繊維を含ませる方法は、炭素繊維紙の作成時に三次元方向に配向された炭素短繊維を含ませる方法、炭素繊維紙にさらに三次元方向に配向された炭素短繊維を高分子物質で結着する方法、燃料電池用ユニットの一体化時に三次元方向に配向された炭素短繊維を接着する方法等がある。三次元方向に配向された炭素短繊維も、長さを除き上述した炭素短繊維と同じである。
【0052】
集電体は、次式に示す抵抗増加比Rが15以下であるのが好ましい。好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2.5以下である。
【0053】
R=RCF/R0
ただし、R0 :2枚のガラス状炭素板を重ねて2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)RCF:2枚のガラス状炭素板の間に固体高分子型燃料電池用集電体を挟んで2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)
R0 の測定においては、幅50mm、長さ200mm、厚み1.5mmの平滑表面を有するガラス状炭素板に幅50mm、長さ200mm、厚み0.1mmの銅箔を重ねたものを2枚用意する。これを試験電極と呼ぶ。2枚の試験電極をガラス状炭素板同士を向かい合わせて中央部で直行するように重ねる。重なった部分は一辺50mmの正方形になる。この2枚の試験電極を厚み方向に加圧し、試験電極の重なった部分に2.9MPaの圧力をかける。加圧用の装置と試験電極の間は厚み25μmのポリイミドフィルムで絶縁する。2枚の試験電極の長手方向の1端に電流用の端子を設け、他端に電圧用の端子を設ける。このとき電圧用の端子は銅箔には触れないようにする。電流用の端子を用いて2枚の試験電極の間に1Aの電流を流す。電圧用の端子間の電圧V0 (V)を測定し、次式によりR0(Ω・cm2)を算出する。
【0054】
R0=V0×25/1
RCFの測定においては、集電体を直径46mmの円形にカットし中央部でガラス状炭素板同士を向かい合わせて直行した2枚の試験電極間に挟むことと、固体高分子型燃料電池用集電体の面積に対して2.9MPaの圧力となるよう加圧することを除いてはV0 の測定と同様に端子間の電圧VCF(V)を測定し、次式によりRCF(Ω・cm2)を算出する。ただしπは円周率である。
【0055】
RCF=VCF×2.3×2.3×π/1
抵抗増加比を小さくするためには、炭素繊維の熱処理温度は好ましくは800℃以上、さらに好ましくは1, 000℃以上である。
【0056】
上記の抵抗増加比Rの測定において、集電体に代えてそれに使用される炭素繊維紙を用いた場合の抵抗増加比Rは、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2.5以下である。
【0057】
さて、固体高分子型燃料電池用ユニットは、少なくとも、上述した集電体と触媒層を含み、高分子電解質膜を通しての短絡や集電体の破壊が起こりにくい。触媒層と集電体の間に炭素粉末を樹脂で結着した拡散層を設けてもよいが、集電体をある程度厚くして、厚み方向だけでなく面方向のガス拡散・透過性を持たせて拡散層の働きを兼ね、拡散層を設けない方が製造工程の簡素化になり好ましい。
【0058】
三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維を含む集電体を用いる場合、ユニットは、三次元方向に配向された炭素短繊維の長さL(mm)と、高分子電解質膜の厚みT(mm)と、集電体と高分子電解質膜との間の触媒層の厚みt(mm)との関係が次式を満足しているのが好ましい。そうすることで、三次元方向に配向された炭素短繊維による高分子電解質膜を通しての短絡を防止する。
【0059】
L≦T/2+t
アノードとカソードの両方に三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維を含む集電体を用いる場合、短絡防止を確実に達成するためにアノードとカソードの少なくとも一方はL≦tが好ましい。
【0060】
また、触媒層や高分子電解質膜を凹凸にする効果を得るためにはL≧t/2が好ましい。
【0061】
ユニットは一体化したものが好ましい。一体化時または一体化後に加圧することが好ましく、加圧と同時に加熱することが好ましい。加圧と同時に加熱を行うことは高分子電解質膜を含めて一体化する場合に特に有効である。加圧する圧力は0.1〜20MPaが好ましく、0.5〜10MPaがより好ましく、1.5〜7MPaがさらに好ましい。加熱温度は50〜250℃が好ましく、80〜200℃がより好ましく、120〜180℃がさらに好ましい。一体化によって接触抵抗を低減し、さらに、触媒層や固体電解質膜の凹凸化により、抵抗値の低減、触媒層と電解質膜の接触を良好にして触媒利用率を高くする効果、集電体から触媒層内の触媒微粒子までの距離を短くして電子の移動距離、水素、酸素、水の給排路を短くする効果が得られ電極反応を起こりやすくする。このユニットは燃料電池として使用するときに高分子電解質膜を通しての短絡と集電体の破壊を防止する効果を奏するが、加圧によって一体化する場合には、さらに一体化時の加圧による高分子電解質膜を通しての短絡と集電体の破壊を防止する効果を奏する。一体化時に加圧と同時に加熱を行う場合には高分子電解質膜が軟化して高分子電解質膜を通しての短絡の危険が増すため、高分子電解質膜を通しての短絡を防止する効果がより有効に発揮される。
【0062】
【実施例】
実施例1
長さ12mmにカットしたPAN系炭素繊維の短繊維を水中で分散、金網上に抄造し、炭素短繊維を結着する高分子物質であるPVAと酢ビの混合物からなるエマルジョンを付着させて乾燥し、炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0063】
実施例2〜4
目付、または、目付と高分子含有率を変えたほかは実施例1と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0064】
実施例5〜8
炭素短繊維を別のPAN系炭素短繊維に変えたほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0065】
実施例9
炭素短繊維を結着する高分子物質としてSBRのエマルジョンを使用したほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0066】
実施例10,11
目付、または、目付と高分子含有率を変えたほかは実施例9と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0067】
実施例12〜15
PAN系炭素短繊維と炭素短繊維を結着する高分子物質繊維の短繊維を水中で分散、金網上に抄造し、微小圧力での加圧下の加熱で乾燥と結着を行い、炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0068】
実施例16
フェノール系炭素繊維紙を使用した。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0069】
実施例17
PAN系炭素繊維の短繊維とピッチ系炭素短繊維を重量比で1:1で混合して使用したほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0070】
実施例18〜20
ピッチ系炭素繊維の短繊維を使用したほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0071】
【表1】
実施例21〜22
ESCAによる酸素と炭素の原子数比(O/C)が異なる炭素短繊維を用いたほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。O/Cと分散不良の数について表2に示す。表2からO/Cが小さくなるとともに分散不良の数が減少することがわかる。
【0072】
【表2】
実施例23
炭素短繊維の長さのほかは実施例8と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素短繊維の長さと分散不良の数について表3に示す。表3から炭素短繊維の長さが短くなると分散不良の数が減少することがわかる。
【0073】
【表3】
比較例1
ピッチ系炭素繊維紙を使用した。この炭素繊維紙は炭素短繊維を炭素によって結着した炭素繊維紙であり、嵩密度は0.13g/cm3であった。
【0074】
比較例2
レーヨン繊維紙を空気中において300℃で1時間熱処理した後、不活性雰囲気下、2, 200℃で熱処理して炭素繊維紙を得た。
【0075】
実施例1〜20、比較例1、2の炭素繊維紙をそのまま集電体として物性の測定を行った。実施例1〜20の物性測定結果を表4に示す。比較例1、2は2.9MPaの加圧で壊れた。比較例1の集電体は、炭素短繊維を結着する炭素が加圧により壊れた。比較例2の集電体は、炭素短繊維の折損が多数発生した。
【0076】
【表4】
表4から、実施例の集電体は、2.9MPaで加圧した後の重量減少が少なく、抵抗増加比が低い。また、実施例1〜8の比較および実施例18〜20の比較から、σ/(E×D)が大きい炭素短繊維を使用したほうが2.9MPaで加圧した後の重量減少が少なくなることがわかる。特に、実施例19では重量減少率が7%と非常に多くなっている。さらに、実施例3、4の比較および実施例10、11の比較から、炭素短繊維を結着する高分子物質の含有率が少ないほうが抵抗増加比が小さいことがわかる。また、実施例1、2、4の比較および実施例9、11の比較から、集電体の目付が低く、厚み方向に2.9MPaの圧力で加圧したときの厚みが薄い方が抵抗増加比が大きいことがわかる。さらに、2.9MPaで加圧した後の重量減少が1%を超えたあたりから触感が柔らかくなり始める。脱落していない炭素短繊維にも折損が発生していると考えられ、加圧後のハンドリングによって壊れる可能性が増大する。
【0077】
【発明の効果】
この発明の固体高分子型燃料電池用集電体は、安価であるうえに、炭素短繊維による高分子電解質膜を通しての短絡を防止できる。また、加圧時に発生する炭素短繊維の折損や、高分子物質による結着の外れによる破壊を防止できる。さらに、厚み方向の抵抗も低い。したがって、集電体に起因する短絡、抵抗増加、拡散・透過性低下等の少ない固体高分子型燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施態様に係る固体高分子型燃料電池の側面図である。
【符号の説明】
1:集電体
2:触媒層
3:高分子電解質膜
4:セパレータ
5:溝
【発明の属する技術分野】
この発明は、固体高分子型燃料電池において用いる集電体に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体高分子型燃料電池の集電体には、集電機能に加えて電極反応に関与する物質の拡散・透過性が要求される。また、集電体を構成する材料には、導電性、ガス拡散・透過性、ハンドリングに耐えるための強度、電極製造時や電池に組んだときの圧縮に耐える強度等が必要とされる。もっとも、リン酸型燃料電池の集電体に要求される特性と比較してみると、固体高分子型燃料電池の集電体は、高分子電解質膜の強度が高いために集電体の強度はそれ自身のハンドリングに耐えればよい。また、耐食性が低くてよいために高分子物質の選択の幅も広い。しかしながら、一方で、高分子電解質膜の強度、抵抗が高く、その厚みが薄くなっていることから、高分子電解質膜を通して短絡を起こす凸部のないことが要求される。また、高分子電解質と、触媒層と、集電体とを加圧によって一体化することが多いことから、電池に組んだときの加圧だけでなく、一体化時の加圧によっても壊れないこと、高分子電解質膜を通しての短絡を起こさないことが要求される。
【0003】
このような固体高分子型燃料電池の集電体としては、たとえば特開平6−20710号公報、特開平7−326362号公報、特開平7−220735号公報に記載されるような、炭素短繊維を炭素で結着してなる多孔質炭素板を用いたものが知られている。しかしながら、このような集電体は、まず炭素繊維またはその前駆体繊維からなる短繊維の集合体を作り、これに樹脂を含浸または混合し、さらに焼成することによって作ることから製造コストが高い。また、密度が低い場合には、電極製造時や電池に組んだときの加圧により結着炭素が壊れやすいという問題もある。
【0004】
製造コストの問題を解決する方法として、特開平7−105957号公報や特開平8−7897号公報は、紙状の炭素短繊維集合体を集電体として用いることを提案している。このような集電体は、炭素による結着を行っていないために、高分子電解質、触媒層、集電体の一体化時のみならず、厚み方向の電気抵抗を低くするために電池として使用するときにも厚み方向に加圧する必要がある。しかしながら、これらの発明においては、加圧時における集電体の抵抗の低減や破壊防止についての配慮はしていない。さらに、特開平7−105957号公報に記載のものは、炭素短繊維が任意の方向に向いているために、電極製造時や電池に組んで加圧したときに厚み方向を向いている炭素短繊維が高分子電解質膜を突き抜けて対極との短絡を起こしたり、炭素短繊維の折損が起こりやすい。また、特開平8−7897号公報には、電極となる電解質膜、触媒反応層、拡散層の接合体の拡散層側の表面に、その拡散層に含まれる炭素粒子と絡み合った状態で炭素短繊維を付着させたものが記載されているが、炭素短繊維が拡散層中の炭素粒子と絡み合うことで固定されているために表面に現れている炭素短繊維は全て接合体の面方向からある角度をもってその厚み方向を向いていることになり、電池に組んで加圧したときに炭素短繊維が高分子電解質膜を突き抜けて対極との短絡を起こしたり、炭素短繊維の折損が起こりやすい。また、炭素短繊維の層が薄いためにその層の面方向へのガス拡散・透過性が低く、拡散層を別に設ける必要がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、従来の技術における上述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、対極との短絡を起こす心配が少なく、また、加圧によっても壊れる虞が少ないうえに、抵抗値も比較的低く、しかも安価な固体高分子型燃料電池用集電体を提供するにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向された炭素短繊維を高分子物質で結着してなる炭素繊維紙を含み、炭素短繊維の長さが、少なくとも3mmで、かつ、炭素繊維紙の厚みの少なくとも5倍である固体高分子型燃料電池用集電体を特徴とするものである。
【0007】
上記集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を2分間加え、その面圧を解除した後の重量減少率が3%以下であるのが好ましい。
【0008】
また、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの厚みが0.02〜0.2mmの範囲内にあるのが好ましく、同様に厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの密度が0.3〜0.8g/cm3の範囲内にあるのがの好ましい。目付は10〜100g/m2の範囲内にあるのが好ましい。
【0009】
さらに、炭素短繊維の直径D(μm)と、引張強さσ(MPa)と、引張弾性率E(MPa)との関係が次式を満足しているのが好ましい。
【0010】
σ/(E×D)≧0.5×10−3
さらにまた、炭素短繊維の直径は20μm以下であるのが好ましく、炭素短繊維の体積抵抗率は200μΩ・m以下であるのが好ましく、X線光電子分光分析法による炭素短繊維表面の酸素原子と炭素原子との原子数比(酸素原子数/炭素原子数)が0.35以下であるのが好ましい。
【0011】
また、高分子物質の含有率は2〜30重量%の範囲内にあるのが好ましく、炭素質微粒子をさらに含んでいたり、三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維をさらに含んでいるのが好ましい。また、次の式で表される抵抗増加比Rが15以下であるのも好ましいことである。
【0012】
R=RCF/R0
ただし、R0 :2枚のガラス状炭素板を重ねて2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)
RCF:2枚のガラス状炭素板の間に固体高分子型燃料電池用集電体を挟んで2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)
この発明の集電体は、それと触媒層とを層状に配置したり、集電体と、触媒層と、高分子電解質膜と、触媒層と、集電体とをこの順序で層状に配置したりしてユニットを構成し、そのユニットの複数個を積層して固体高分子型燃料電池を構成する。ユニットを構成する集電体に三次元方向に配向された炭素短繊維を含んでいる場合、その長さL(mm)と、高分子電解質膜の厚みT(mm)と、集電体と高分子電解質膜との間の触媒層の厚みt(mm)との関係が次式を満足しているのが好ましい。
【0013】
L≦T/2+t
【0014】
【発明の実施の形態】
この発明の固体高分子型燃料電池は、電解質に高分子電解質膜を使用した燃料電池で、その1例を図1に示す。図1に示すものは、それぞれシート状の集電体1、触媒層2、高分子電解質膜3からなる単電池であり、このような単電池を溝付セパレータ4を介して複数個積層して燃料電池とする。触媒層は、たとえば白金系の触媒微粒子を担持した炭素粉末を樹脂で結着してなるようなもので、厚みは0.02〜0.2mm程度である。この触媒層に高分子電解質を含浸、混合してもよい。また、触媒層は、単独でシート状とするよりも、高分子電解質膜や集電体上に形成するほうがよい。高分子電解質膜は、たとえばフッ素樹脂系の陽イオン交換膜のようなもので、厚みは0.05〜0.15mm程度である。高分子電解質膜と触媒層との間、触媒層と集電体との間は必ずしも図1の様に直線によって明確に区別できるものではない。セパレータ4は、炭素板や導電性プラスチック板等の、導電性で気体不透過性の材料からなっており、燃料や空気、電極反応生成物である水の流路となる溝5が両面に形成されている。積層された複数個の単電池は、燃料電池の運転時には積層方向に加圧される。その圧力は0.5〜10MPaの範囲が好ましい。
【0015】
さて、本発明に係る固体高分子型燃料電池用集電体は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向された炭素短繊維を高分子物質で結着してなる炭素繊維紙を含み、炭素短繊維の長さが、少なくとも3mmで、かつ、炭素繊維紙の厚みの少なくとも5倍である。ここで、炭素繊維紙の厚みはJIS P8118に準じて測定する。測定時の面圧は13kPaとする。
【0016】
炭素短繊維が実質的に二次元平面内において配向されているということの意味は、炭素短繊維がおおむね一つの面を形成するように横たわっているというほどの意味である。このことにより炭素短繊維による対極との短絡や炭素短繊維の折損を防止することができる。
【0017】
炭素短繊維を実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させる方法としては、液体の媒体中に炭素短繊維を分散させて抄造する湿式法や、空気中で炭素短繊維を分散させて降り積もらせる乾式法がある。炭素短繊維を確実に実質的に二次元平面内において配向させるため、また、炭素繊維紙の強度を高くするためには、湿式法が好ましい。
【0018】
炭素短繊維を高分子物質で結着することにより、炭素繊維紙の強度、ハンドリング性を高め、炭素短繊維が炭素繊維紙から外れたり、炭素繊維紙の厚み方向を向くのを防止できる。また、高分子物質で結着することによって圧縮や引張りに強くなる。
【0019】
高分子物質を付着させる方法としては、炭素短繊維を実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるときに繊維状、粒状、液状の高分子物質を混合する方法と、炭素短繊維が実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向された集合体に繊維状、液状の高分子物質を付着させる方法等がある。液状の概念には、エマルジョン、ディスパージョンやラテックス等、液体中に高分子物質の微粒子が分散して実質的に液体として取り扱うことができるものも含まれる。炭素短繊維の結着を強くしたり、炭素繊維紙、ひいては集電体の電気抵抗を低くしたりするためには、繊維状、エマルジョン、ディスパージョン、ラテックスであるのが好ましい。繊維状の高分子物質の場合、含有率を低くするため、フィラメント糸を使用するのが好ましい。
【0020】
炭素短繊維を結着する高分子物質は、炭素またはケイ素を主鎖に持つ高分子物質が好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ酢酸ビニル(酢ビ)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル樹脂、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂のほか、熱可塑性エラストマー、ブタジエン・スチレン共重合体(SBR)、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体(NBR)等のエラストマー、ゴム、セルロース、パルプ等を用いることができる。フッ素樹脂等の撥水性の樹脂を用い、炭素短繊維の結着と同時に炭素繊維紙の撥水化処理を行ってもよい。
【0021】
集電体の加圧時の壊れにくさのためには、炭素短繊維を結着する高分子物質は軟らかいほうがよく、繊維状または粒状のものを用いる場合には熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム、セルロース、パルプが好ましい。液状のものを用いる場合には、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴムや、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴム等の軟質材料で変性した熱硬化性樹脂が好ましく、熱可塑性樹脂、エラストマー、ゴムがより好ましい。
【0022】
高分子物質は、23℃における圧縮弾性率が4, 000MPa以下であるが好ましく、2, 000MPa以下であるのがより好ましく、1, 000MPa以下であるのがさらに好ましい。圧縮弾性率の低い高分子物質は結着部にかかる応力を緩和して結着を外れにくくし、また、炭素短繊維にかかる応力を緩和して炭素短繊維を折れにくくする。
【0023】
また、高分子物質が結晶性高分子物質である場合、そのガラス転移点(Tg)は100℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましく、0℃以下であるのがさらに好ましい。ガラス転移点以上では高分子物質が結晶化していないために比較的軟かい。ガラス転移点との温度差が大きくなるほど柔さは増す。なお、共重合体のガラス転移点Tgは次式によって求める。
【0024】
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wn/Tgn
Tg :共重合体のガラス転移点(K)
Wn :モノマーnの重量分率
Tgn:モノマーnより重合した高分子物質のガラス転移点(K)
後述の炭素繊維紙の集電体への加工時や一体化時に水を使用する場合、炭素短繊維を結着する高分子物質が水に溶解して結着が外れるのを防ぐために、非水溶性の高分子物質を使用することが好ましい。非水溶性の高分子物質としては、酢ビ、PET、PP、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、SBR、NBR等がある。水溶性高分子物質としてはPVAが使用できるが、その場合、他の高分子物質との混合、共重合物を用いたり、ケン化度の高いPVAを使用するのが好ましい。ケン化度は85mol%以上が好ましく、95mol%以上がより好ましい。
【0025】
固体高分子型燃料電池は、カソード(空気極、酸素極)において電極反応生成物としての水や電解質を透過した水が発生する。また、アノード(燃料極)においては高分子電解質膜の乾燥防止のために燃料を加湿して供給する。これらの水の結露と滞留、水による高分子物質の膨潤が電極反応物の供給の妨げになるので、高分子物質の吸水率は低いほうがよい。好ましくは20%以下、より好ましくは7%以下である。具体的には酢ビ、PET、PP、ポリエチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、SBR、NBR等がある。
【0026】
触媒活性の低下や高分子電解質膜の導電性の低下を防ぐために、高分子物質に含まれる不純物は少ないほうがよい。集電体中に占めるアルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)、アルカリ土類金属(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)、ホウ素(B)、ケイ素(Si)以外の金属元素の重量比は500ppm以下が好ましく、より好ましくは300ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。さらに、ホウ素(B)、ケイ素(Si)以外の金属元素の重量比は1, 000ppm以下が好ましく、より好ましくは700ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。具体的にはPET、PP、ポリエチレン、ポリスチレン等がある。また、エラストマーの場合、加硫剤として硫黄を含む物質を用いていないものが好ましい。
【0027】
集電体中における高分子物質の含有率は、2〜30重量%の範囲にあるのが好ましい。より好ましいのは4〜20重量%の範囲であり、さらに好ましいのは5〜15重量%の範囲である。炭素繊維紙の電気抵抗を低くするためには高分子物質の含有率は少ないほうがよいが、2重量%未満ではハンドリングに耐える強度が不足することがあり、炭素短繊維の脱落も多くなる。逆に、30重量%を超えると炭素繊維紙の電気抵抗が増えてくる。
【0028】
炭素繊維紙は、そのまま集電体として用いる場合と、さらに後処理して用いる場合とがある。後処理の例としては、水の滞留によるガス拡散・透過性の低下を防ぐために行う撥水処理、水の排出路を形成するための部分的溌水、親水処理や、抵抗を下げるために行われる炭素質粉末の添加等がある。
【0029】
炭素繊維紙の強度、ハンドリング性を高くしたり、炭素短繊維を実質的に二次元平面内において配向させるために、炭素短繊維の長さは3mm以上、好ましくは4.5mm以上、さらに好ましくは6mm以上とする。3mm未満では、強度、ハンドリング性を保つのが難しくなる。さらに、炭素短繊維を実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるため、炭素短繊維の長さは炭素繊維紙の厚みの5倍以上、好ましくは8倍以上、さらに好ましくは12倍以上とする。5倍未満では、二次元への配向の確保が難しくなる。長さの上限は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるためには30mm以下が好ましく、15mm以下がより好ましく、8mm以下がさらに好ましい。炭素短繊維が長すぎると分散不良を発生しやすい。分散不良には、たとえば多数の炭素短繊維が束状のまま残る場合があり、束状の部分は空隙率が低く、加圧時の厚みが厚くなるために加圧時に高い圧力がかかり、炭素繊維紙の破壊や、高分子電解質膜や触媒層の局部的な薄層化等の問題が起こりやすくなる。
【0030】
また、炭素短繊維は直線状であるのが好ましい。直線状の炭素短繊維は炭素短繊維を曲げる外力を取り除いた状態で炭素短繊維の長さ方向にある長さ(L)をとったときに、その長さ(L)に対する直線性からのずれ(Δ)を測定し、Δ/Lがおおむね0.1以下であれば直線状の炭素短繊維であるといってよい。炭素短繊維が直線状であると、炭素短繊維による対極との短絡をより完全に防止できる。非直線状の炭素短繊維は、実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向させるときに三次元方向を向きやすい。
【0031】
集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を2分間加え、その面圧を解除した後の重量減少率が3%以下であるのが好ましい。これにより、加圧時に壊れにくく、集電体の破壊により燃料電池が使用できなくなるのを防止できる。
【0032】
集電体は、高分子電解質膜、触媒層、集電体の一体化時や電池として使用する際に厚み方向に加圧され、壊れることがある。また、電池として使用するときには溝付セパレータと向かい合った状態で厚み方向に加圧されるため、溝付セパレータの山と向かい合う部分に大きな圧力がかかるのに加えて、山と谷の境と向かい合う部分が壊れやすい。集電体が壊れると、折れた炭素短繊維の脱落、集電体の強度低下、面方向の電気抵抗増大等が起こり、電池として使用できなくなることがある。折れた炭素短繊維の脱落、集電体の強度低下等により集電体が使用できなくなるのを防ぐため、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を2分間加え、その面圧を解除した後の重量減少率は3%以下とする。好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下である。重量減少率が3%より高い集電体は面圧解除後弱くなっており、ハンドリングで壊れやすい。
【0033】
重量減少率の測定は、以下のようにして行う。まず、集電体を直径46mmの円形にカットし、重量を測定する。次に、その集電体よりも大きく、平滑表面を有する2枚のガラス状炭素板でカットした集電体を挟み、集電体の面積当たり2.9MPaの圧力になるよう加圧し、2分保つ。圧力を取り除いて集電体を取り出し、その面方向を垂直方向に向けて30mmの高さから落下させる。この落下を10回行った後に重量を測定し、重量減少率を算出する。
【0034】
炭素短繊維の折損を防止し、重量減少率を3%以下とするために、使用する炭素短繊維は、炭素連続繊維をカットしたものが好ましく、熱処理時に張力をかけたものがより好ましく、熱処理時に延伸したものがさらに好ましい。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維のいずれかを用いるのが好ましい。なかでも、PAN系炭素繊維が好ましい。PAN系炭素繊維はピッチ系炭素繊維にくらべて圧縮強さ、引張破断伸度が大きく、折れにくい。このことは、炭素繊維を構成する炭素の結晶化の相異によると考えられる。折れにくい炭素繊維を得るためには、炭素繊維の熱処理温度は2,500℃以下が好ましく、2,000℃がより好ましい。
【0035】
集電体中に含まれる炭素短繊維は、直径D(μm)と、引張強さσ(MPa)と、引張弾性率E(MPa)との関係が次式を満足しているのがよい。そのような炭素短繊維からなる炭素繊維紙を含む集電体は、壊れにくい。すなわち、炭素短繊維の直径が細く、引張強さが強く、引張弾性率が低いほうが炭素短繊維は折れにくく、加圧時に集電体が壊れにくくなる。
【0036】
σ/(E×D)≧0.5×10−3
ここで、炭素繊維の引張強さ、引張弾性率はJIS R7601に準じて測定する。偏平な断面の炭素繊維の場合、長径と短径の平均値を直径とする。種類の異なる炭素短繊維が混合されている場合、D、σ、Eについてそれぞれ重量平均した値を用いる。好ましくはσ/(E×D)≧1.1×10−3であり、より好ましくはσ/(E×D)≧2.4×10−3である。
【0037】
炭素短繊維の引張破断伸度は0.7%以上であるのが好ましく、より好ましくは1.2%以上であり、さらに好ましくは1.8%以上である。引張破断伸度は引張強さ(σ)を引張弾性率(E)で除した値である。
【0038】
また、炭素短繊維の折損は様々な状況で発生するため、炭素短繊維の引張強さは500MPa以上であるのが好ましく、1, 000MPa以上であるのがより好ましく、2, 000MPa以上であるのがさらに好ましい。
【0039】
集電体に含まれる炭素短繊維の直径は、20μm以下であるのが好ましい。より好ましいのは12μm以下、さらに好ましいのは8μm以下である。集電体に含まれる炭素繊維紙の表面には、炭素短繊維の直径の5〜10倍の直径の空隙が観察される。触媒層との一体化時に集電体表面の炭素短繊維と空隙によって高分子電解質膜、触媒層、集電体の面を凹凸化して電極反応を起こりやすくする。このため、炭素短繊維の直径は細いほうがよい。直径が20μmを超えると集電体表面の空隙の半径が触媒層の厚みと同程度になり、触媒層内の触媒粒子と集電体中の炭素短繊維の間の電子の流れる距離が長くなる。また、炭素短繊維は細いほど厚み方向の加圧時に折れにくい。直径の異なる炭素短繊維が混合されている場合は、重量平均によって直径を求める。一方、炭素短繊維の直径が細くなりすぎると、一体化時に触媒層の集電体への浸入が起こりにくくなるため、炭素短繊維の直径は2μm以上であるのが好ましい。
【0040】
集電体に含まれる炭素繊維の体積抵抗率は200μΩ・m以下が好ましく、50μΩ・m以下がより好ましく、15μΩ・m以下がさらに好ましい。炭素繊維の体積抵抗率の測定はJIS R7601に準じて行う。定められた繊維長さが得られない場合、得られた繊維長さで測定を行う。
【0041】
集電体に含まれる炭素短繊維は、X線光電子分光分析法による表面の酸素原子と炭素原子との原子数比(酸素原子数/炭素原子数)が0.35以下、好ましくは0.20以下、さらに好ましくは0.10以下であるものがよい。湿式抄紙法によって炭素繊維紙を得る場合、酸素原子と炭素原子との原子数比が高いと炭素短繊維の分散が難しくなって分散不良が増加する。0.35を超えると均一な炭素繊維紙を得ることが難しくなる。酸素原子と炭素原子との原子数比を低くするためには、炭素繊維の表面処理やサイジング剤の付与をやめたり、不活性または還元雰囲気中での熱処理によって表面の酸素原子を取り除く方法がある。
【0042】
集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの厚みが0.02〜0.2mmであるのが好ましい。より好ましくは0.04〜0.16mm、さらに好ましくは0.08〜0.12mmである。0.02mmより薄いと集電体が触媒層に埋没し、面方向への拡散・透過性が低くなってくる。0.2mmよりも厚いと厚み方向の電気抵抗が増えてくる。なお、厚みは、集電体を均一な厚みで平滑な表面を有する2枚のガラス状炭素板で挟み、2.9MPaの一様の面圧で加圧し、集電体を挟まないときと挟んだときの上下の圧子の間隔の差から求める。圧子の間隔の測定においては、圧子の中心点を挟む両端で微小変位検出装置により圧子の間隔を測定し、両端の間隔の平均値として圧子の間隔を算出する。一様な面圧とするために、一方の圧子は球座で受けて上下の圧子の加圧面のなす角度を可変にする。
【0043】
厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたとき上記の厚みとなる集電体に含まれる炭素繊維紙の、13kPaの面圧で測定した厚みは0.1〜2.0mmが好ましく、0.2〜1.2mmがより好ましい。2mmを超えると炭素繊維紙が嵩高になり、炭素短繊維が厚み方向を向いたり、炭素繊維紙の強度が弱くなる。0.1mm未満の厚みにするためには、多量の高分子物質によって炭素短繊維の結着を強固に行う必要がでてくる。
【0044】
集電体の目付は10〜100g/m2 であるのが好ましい。より好ましくは20〜80g/m2、さらに好ましくは35〜60g/m2である。10g/m2 未満では集電体の強度が低くなる。また、高分子電解質膜、触媒層、集電体の一体化時や電池に組んだときに集電体が薄くなり触媒層に埋没して面方向への拡散・透過効果が不十分になる。100g/m2を超えると電池に組んだ時に集電体が厚くなり抵抗が大きくなる。
【0045】
集電体は、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの密度が0.3〜0.8g/cm3 であるのが好ましい。より好ましいのは0.35〜0.7g/cm3であり、さらに好ましいのは0.4〜0.6g/cm3である。厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの集電体の密度は、集電体の目付と厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの集電体の厚みから計算によって求める。
【0046】
集電体の拡散・透過性を高くするためには気孔率を高くする必要があるが、厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの密度が0.8g/cm3 よりも大きくなると気孔率が下がり、拡散・透過性が不十分になる。また、0.3g/cm3 よりも小さいと、厚み方向の抵抗値が大きくなる。
【0047】
集電体は、厚み方向への面圧による加圧を行わない状態で、厚み方向に14cm/secの空気を透過させたときの圧力損失が、10mmAq以下であるのが好ましい。より好ましいのは3mmAq以下であり、さらに好ましいのは1mmAq以下である。
【0048】
集電体は、抵抗を低くするために、炭素質微粒子を含んでいるのが好ましい。炭素質微粒子の粒径は3μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。粒径の大きな炭素質微粒子は抵抗を下げる効果が小さく、拡散性を下げ、集電体から脱落しやすい。炭素質微粒子の例としてはカーボンブラックや黒鉛粉末などがある。炭素質微粒子を含ませる方法としては、炭素質微粒子を含む高分子物質によって炭素短繊維を結着する方法や、高分子物質によって炭素短繊維と炭素質微粒子を付着させる方法などがあり、炭素質微粒子も高分子物質によって炭素繊維紙に結着していることが好ましい。
【0049】
集電体に三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維をさらに含ませると、その炭素短繊維による触媒層や固体電解質膜の凹凸によって抵抗値が下がり、電極反応が行われる面積が増大するので好ましい。
【0050】
三次元方向に配向された炭素短繊維の長さは、高分子電解質膜を通しての短絡を防止するために、また、触媒層や固体電解質膜に凹凸を付与するために0.05〜0.25mmが好ましく、0.1〜0.2mmがより好ましい。短絡防止を確実に達成するためには、アノードとカソードに用いる集電体の少なくとも一方において0.2mm以下とするのが好ましい。
【0051】
三次元方向に配向された炭素短繊維を含ませる方法は、炭素繊維紙の作成時に三次元方向に配向された炭素短繊維を含ませる方法、炭素繊維紙にさらに三次元方向に配向された炭素短繊維を高分子物質で結着する方法、燃料電池用ユニットの一体化時に三次元方向に配向された炭素短繊維を接着する方法等がある。三次元方向に配向された炭素短繊維も、長さを除き上述した炭素短繊維と同じである。
【0052】
集電体は、次式に示す抵抗増加比Rが15以下であるのが好ましい。好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2.5以下である。
【0053】
R=RCF/R0
ただし、R0 :2枚のガラス状炭素板を重ねて2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)RCF:2枚のガラス状炭素板の間に固体高分子型燃料電池用集電体を挟んで2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)
R0 の測定においては、幅50mm、長さ200mm、厚み1.5mmの平滑表面を有するガラス状炭素板に幅50mm、長さ200mm、厚み0.1mmの銅箔を重ねたものを2枚用意する。これを試験電極と呼ぶ。2枚の試験電極をガラス状炭素板同士を向かい合わせて中央部で直行するように重ねる。重なった部分は一辺50mmの正方形になる。この2枚の試験電極を厚み方向に加圧し、試験電極の重なった部分に2.9MPaの圧力をかける。加圧用の装置と試験電極の間は厚み25μmのポリイミドフィルムで絶縁する。2枚の試験電極の長手方向の1端に電流用の端子を設け、他端に電圧用の端子を設ける。このとき電圧用の端子は銅箔には触れないようにする。電流用の端子を用いて2枚の試験電極の間に1Aの電流を流す。電圧用の端子間の電圧V0 (V)を測定し、次式によりR0(Ω・cm2)を算出する。
【0054】
R0=V0×25/1
RCFの測定においては、集電体を直径46mmの円形にカットし中央部でガラス状炭素板同士を向かい合わせて直行した2枚の試験電極間に挟むことと、固体高分子型燃料電池用集電体の面積に対して2.9MPaの圧力となるよう加圧することを除いてはV0 の測定と同様に端子間の電圧VCF(V)を測定し、次式によりRCF(Ω・cm2)を算出する。ただしπは円周率である。
【0055】
RCF=VCF×2.3×2.3×π/1
抵抗増加比を小さくするためには、炭素繊維の熱処理温度は好ましくは800℃以上、さらに好ましくは1, 000℃以上である。
【0056】
上記の抵抗増加比Rの測定において、集電体に代えてそれに使用される炭素繊維紙を用いた場合の抵抗増加比Rは、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは2.5以下である。
【0057】
さて、固体高分子型燃料電池用ユニットは、少なくとも、上述した集電体と触媒層を含み、高分子電解質膜を通しての短絡や集電体の破壊が起こりにくい。触媒層と集電体の間に炭素粉末を樹脂で結着した拡散層を設けてもよいが、集電体をある程度厚くして、厚み方向だけでなく面方向のガス拡散・透過性を持たせて拡散層の働きを兼ね、拡散層を設けない方が製造工程の簡素化になり好ましい。
【0058】
三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維を含む集電体を用いる場合、ユニットは、三次元方向に配向された炭素短繊維の長さL(mm)と、高分子電解質膜の厚みT(mm)と、集電体と高分子電解質膜との間の触媒層の厚みt(mm)との関係が次式を満足しているのが好ましい。そうすることで、三次元方向に配向された炭素短繊維による高分子電解質膜を通しての短絡を防止する。
【0059】
L≦T/2+t
アノードとカソードの両方に三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維を含む集電体を用いる場合、短絡防止を確実に達成するためにアノードとカソードの少なくとも一方はL≦tが好ましい。
【0060】
また、触媒層や高分子電解質膜を凹凸にする効果を得るためにはL≧t/2が好ましい。
【0061】
ユニットは一体化したものが好ましい。一体化時または一体化後に加圧することが好ましく、加圧と同時に加熱することが好ましい。加圧と同時に加熱を行うことは高分子電解質膜を含めて一体化する場合に特に有効である。加圧する圧力は0.1〜20MPaが好ましく、0.5〜10MPaがより好ましく、1.5〜7MPaがさらに好ましい。加熱温度は50〜250℃が好ましく、80〜200℃がより好ましく、120〜180℃がさらに好ましい。一体化によって接触抵抗を低減し、さらに、触媒層や固体電解質膜の凹凸化により、抵抗値の低減、触媒層と電解質膜の接触を良好にして触媒利用率を高くする効果、集電体から触媒層内の触媒微粒子までの距離を短くして電子の移動距離、水素、酸素、水の給排路を短くする効果が得られ電極反応を起こりやすくする。このユニットは燃料電池として使用するときに高分子電解質膜を通しての短絡と集電体の破壊を防止する効果を奏するが、加圧によって一体化する場合には、さらに一体化時の加圧による高分子電解質膜を通しての短絡と集電体の破壊を防止する効果を奏する。一体化時に加圧と同時に加熱を行う場合には高分子電解質膜が軟化して高分子電解質膜を通しての短絡の危険が増すため、高分子電解質膜を通しての短絡を防止する効果がより有効に発揮される。
【0062】
【実施例】
実施例1
長さ12mmにカットしたPAN系炭素繊維の短繊維を水中で分散、金網上に抄造し、炭素短繊維を結着する高分子物質であるPVAと酢ビの混合物からなるエマルジョンを付着させて乾燥し、炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0063】
実施例2〜4
目付、または、目付と高分子含有率を変えたほかは実施例1と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0064】
実施例5〜8
炭素短繊維を別のPAN系炭素短繊維に変えたほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0065】
実施例9
炭素短繊維を結着する高分子物質としてSBRのエマルジョンを使用したほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0066】
実施例10,11
目付、または、目付と高分子含有率を変えたほかは実施例9と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0067】
実施例12〜15
PAN系炭素短繊維と炭素短繊維を結着する高分子物質繊維の短繊維を水中で分散、金網上に抄造し、微小圧力での加圧下の加熱で乾燥と結着を行い、炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0068】
実施例16
フェノール系炭素繊維紙を使用した。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0069】
実施例17
PAN系炭素繊維の短繊維とピッチ系炭素短繊維を重量比で1:1で混合して使用したほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0070】
実施例18〜20
ピッチ系炭素繊維の短繊維を使用したほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素繊維紙、使用した炭素短繊維、高分子物質について表1に示す。
【0071】
【表1】
実施例21〜22
ESCAによる酸素と炭素の原子数比(O/C)が異なる炭素短繊維を用いたほかは実施例2と同様にして炭素繊維紙を得た。O/Cと分散不良の数について表2に示す。表2からO/Cが小さくなるとともに分散不良の数が減少することがわかる。
【0072】
【表2】
実施例23
炭素短繊維の長さのほかは実施例8と同様にして炭素繊維紙を得た。炭素短繊維の長さと分散不良の数について表3に示す。表3から炭素短繊維の長さが短くなると分散不良の数が減少することがわかる。
【0073】
【表3】
比較例1
ピッチ系炭素繊維紙を使用した。この炭素繊維紙は炭素短繊維を炭素によって結着した炭素繊維紙であり、嵩密度は0.13g/cm3であった。
【0074】
比較例2
レーヨン繊維紙を空気中において300℃で1時間熱処理した後、不活性雰囲気下、2, 200℃で熱処理して炭素繊維紙を得た。
【0075】
実施例1〜20、比較例1、2の炭素繊維紙をそのまま集電体として物性の測定を行った。実施例1〜20の物性測定結果を表4に示す。比較例1、2は2.9MPaの加圧で壊れた。比較例1の集電体は、炭素短繊維を結着する炭素が加圧により壊れた。比較例2の集電体は、炭素短繊維の折損が多数発生した。
【0076】
【表4】
表4から、実施例の集電体は、2.9MPaで加圧した後の重量減少が少なく、抵抗増加比が低い。また、実施例1〜8の比較および実施例18〜20の比較から、σ/(E×D)が大きい炭素短繊維を使用したほうが2.9MPaで加圧した後の重量減少が少なくなることがわかる。特に、実施例19では重量減少率が7%と非常に多くなっている。さらに、実施例3、4の比較および実施例10、11の比較から、炭素短繊維を結着する高分子物質の含有率が少ないほうが抵抗増加比が小さいことがわかる。また、実施例1、2、4の比較および実施例9、11の比較から、集電体の目付が低く、厚み方向に2.9MPaの圧力で加圧したときの厚みが薄い方が抵抗増加比が大きいことがわかる。さらに、2.9MPaで加圧した後の重量減少が1%を超えたあたりから触感が柔らかくなり始める。脱落していない炭素短繊維にも折損が発生していると考えられ、加圧後のハンドリングによって壊れる可能性が増大する。
【0077】
【発明の効果】
この発明の固体高分子型燃料電池用集電体は、安価であるうえに、炭素短繊維による高分子電解質膜を通しての短絡を防止できる。また、加圧時に発生する炭素短繊維の折損や、高分子物質による結着の外れによる破壊を防止できる。さらに、厚み方向の抵抗も低い。したがって、集電体に起因する短絡、抵抗増加、拡散・透過性低下等の少ない固体高分子型燃料電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施態様に係る固体高分子型燃料電池の側面図である。
【符号の説明】
1:集電体
2:触媒層
3:高分子電解質膜
4:セパレータ
5:溝
Claims (17)
- 実質的に二次元平面内において無作為な方向に配向された炭素短繊維を高分子物質で結着してなる炭素繊維紙を含み、炭素短繊維の長さが、少なくとも3mmで、かつ、炭素繊維紙の厚みの少なくとも5倍である固体高分子型燃料電池用集電体。
- 厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を2分間加え、その面圧を解除した後の重量減少率が3%以下である、請求項1記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの厚みが0.02〜0.2mmの範囲内にある、請求項1または2に記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 厚み方向に2.9MPaの一様な面圧を加えたときの密度が0.3〜0.8g/cm3の範囲内にある、請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 目付が10〜100g/m2の範囲内にある、請求項1〜4のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 炭素短繊維の直径D(μm)と、引張強さσ(MPa)と、引張弾性率E(MPa)との関係が次式を満足している、請求項1〜5のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
σ/(E×D)≧0.5×10−3 - 炭素短繊維の直径が20μm以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 炭素短繊維の体積抵抗率が200μΩ・m以下である、請求項1〜7のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- X線光電子分光分析法による炭素短繊維表面の酸素原子と炭素原子との原子数比(酸素原子数/炭素原子数)が0.35以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 高分子物質の含有率が2〜30重量%の範囲内にある、請求項1〜9のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 炭素質微粒子をさらに含む、請求項1〜10のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 三次元方向に配向された長さ0.4mm以下の炭素短繊維をさらに含む、請求項1〜11のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
- 次式で表される抵抗増加比Rが15以下である、請求項1〜12のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用集電体。
R=RCF/R0
ただし、R0 :2枚のガラス状炭素板を重ねて2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2)
RCF:2枚のガラス状炭素板の間に固体高分子型燃料電池用集電体を挟んで2.9MPaの一様な面圧を加えたときの抵抗(Ω・cm2) - 請求項1〜13のいずれかに記載の集電体と、触媒層とを層状に配置してなる固体高分子型燃料電池用ユニット。
- 請求項1〜13のいずれかに記載の集電体と、触媒層と、高分子電解質膜と、触媒層と、請求項1〜13のいずれかに記載の集電体とをこの順序で層状に配置してなる固体高分子型燃料電池用ユニット。
- 請求項12の集電体を含み、かつ、三次元方向に配向された炭素短繊維の長さL(mm)と、高分子電解質膜の厚みT(mm)と、集電体と高分子電解質膜との間の触媒層の厚みt(mm)との関係が次式を満足している、請求項14または15に記載の固体高分子型燃料電池用ユニット。
L≦T/2+t - 請求項1〜13のいずれかに記載の集電体または請求項14〜16のいずれかに記載のユニットを有する固体高分子型燃料電池
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