JP3617675B2 - 2−オキソグルタル酸含有液状試薬 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、安定な2−オキソグルタル酸含有液状試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
医療分野において、適切な治療を行うためには、正確に疾病を診断することが必要である。生体試料中に含まれる多数の指標物質を、精度良く、迅速・簡便に測定することが望まれ、種々の試験法、試薬及び分析機器が開発されてきた。
近年は、自動検査装置によって多数の検体を短時間で処理し、自動的に測定結果を得ることが主流となり、ハード(検査装置)、ソフト(試薬)の両面でより高度な性能が求められている。
特に試薬に関しては、従来は、酵素や基質物質等の試薬組成物の保存安定性を考慮して、多くの場合、試薬は凍結乾燥品として供給され、検査時に溶解して用いてきたが、近年は、検査時における手間を省くために、試薬の形態を、当初から液状のままで供給することが望まれている。
【0003】
また、測定対象物質は多岐に渡っており、多くの指標物質が測定されている。中でも、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(以下、GPTともいう)及びグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(以下、GOTともいう)は、心臓や肝に多く分布する酵素であり、各種疾患時に血中に遊出されるので、尿や血液等の生体液中のGPT並びにGOTの測定は心疾患、肝疾患の診断や治療の経過観察の指標として重要な項目の一つとして、頻繁に測定されている。
【0004】
GPTの測定法としては、L−アラニンとα−ケトグルタル酸(2−オキソグルタル酸)を基質として、GPTによって生成されるピルビン酸を乳酸脱水素酵素(以下、LDHと略称する)によって乳酸に変え、共存させておいた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下、NADHと略称する)量の減少量を、波長340nm付近で測定することによりGPTを測定する方法が汎用されている。
【0005】
この反応式を示せば、以下のとおりである。
なお、NADは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(以下同様)である。
【0006】
また、GOTの測定法としては、L−アスパラギン酸とα−ケトグルタル酸を基質として、GOTによって生成されるオキザロ酢酸をリンゴ酸脱水素酵素(以下、MDHと略称する)によってリンゴ酸に変え、共存させておいた還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)量の減少量を、波長340nm付近で測定することによりGOTを測定する方法が汎用されている。
【0007】
この反応式を示せば、以下のとおりである。
【0008】
前述の通り、一般的に酵素を含む試薬は、その保存安定性の面を考慮して、反応に必要な組成物を含む凍結乾燥品として提供され、使用時に緩衝液等で溶解して用いられていた。しかし、作業性やコスト面から、予め液状の試薬形態で供給することが要求されるようになった。これらの試薬は多くの場合、自動分析機にて使用されるので、試薬構成を2試薬系とし、しかも試薬組成物の安定性を長期間(例えば半年から1年)維持する必要がある。
特に、溶液状態においては酵素類の安定性が著しく低下するため、溶液の至適pHの設定や各種安定化剤の添加等が検討され、一応の成果が得られている。
【0009】
これに対して、基質物質(上記の例の場合、L−アラニンあるいはL−アスパラギン酸及び2−オキソグルタル酸)については、酵素類に対するほど安定化の検討が行われていない。というのも、一般的に、基質物質の多くは、化学的に安定な物質が多く、酵素のように急激に分解することはなく、また、試薬組成として大過剰量添加するように設計されているため、たとえある程度の分解が進行しても、測定時において所望の反応が発現するのに十分な量が残存していれば、目的物質の検出には支障が無いので、酵素と比較して、安定化という面でさほど重要視されていなかった。
【0010】
例えば、特開昭57−39799号及び特開昭57−39800号各公報には、GOT及びGPT試薬の安定性に関する技術が記載されている。特にLDHの安定化のために、従来からの殺菌剤の添加のみならず、スルフヒドリル化合物(例えば還元型グルタチオン、N−アセチルシステイン等)とキレート剤(例えばEDTA、EGTA)を併用・添加してLDHの安定化を図ったものである。
しかし、これらの特許公報に記載されている技術は3試薬系であり、溶液状態での保存安定性は室温で10日程度しかない。また、これらのLDH等の酵素類の安定性に主眼をおいており、GOT及びGPT測定に必要なその他の配合成分、例えばNADHの安定性については、単にpH9〜11のアルカリ性条件下におけば、その寿命に問題はなく、特に基質のα−ケトグルタル酸についても殺菌剤(アルカリ金属のアジ化物、陽イオン界面活性剤、安息香酸の誘導体、メチレングルタロニトリルの臭化物、種々の抗生物質等)を使用すればその安定性に問題はないと記載しているに過ぎない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、本発明者らが確認したところによれば、例えば、従来、その安定性についてはさほど重要視されていなかった基質2−オキソグルタル酸を過剰量添加した液状試薬を調製し、長期間保存後の含有量を測定したところ、試薬の組成条件によっては、最初の含有量の50%以下に低下することが認められ、測定対象物質の検出結果にも影響を与えることがわかった。
【0012】
例えば、2−オキソグルタル酸を試薬構成成分として用いる診断用測定試薬の代表例としては、前述のGOTやGPTの測定試薬がある。これら測定試薬としては、種々の市販品が存在し、例えば、日本臨床化学会(JSCC)勧告法に準ずる試薬の組成は以下に示すように2試薬系で構成されている。
【0013】
GOT測定用試薬
第1試薬:
NADH:0.2mM
MDH :625U
LDH :625U
L−アスパラギン酸:250mM
88mMトリス緩衝液
(pH7.80,30℃)
第2試薬:
α−KG:100mM
88mMトリス緩衝液
(pH7.80,30℃)
【0014】
GPT測定用試薬
第1試薬:
NADH:0.2mM
LDH :2500U
L−アラニン:620mM
111mMトリス緩衝液
(pH7.50、30℃)
第2試薬:
α−KG:150mM
111mMトリス緩衝液
(pH7.50、30℃)
【0015】
本発明者は、前記のGOT測定用試薬及びGPT測定用試薬のそれぞれの第2試薬の2−オキソグルタル酸(α−KG)基質溶液について保存安定性を追跡したところ、調製直後のα−KG量を100%とした場合、約3週間でそれぞれ70〜80%の残存量しかないことが確認された。より長期間保存した試薬においては、更にα−KG量が低下してしまう。α−KGの残存量が50%まで低下すると、GOTやGPT活性値が約3〜5%低値として測定され、正確な診断を要求されるケースにおいては影響が大きい。
【0016】
上記のように2試薬系で試薬を構成する際に、測定で使用する酵素や基質を安定な条件で維持し、なおかつ、両者を混合した後の反応時のpHをGOTやGPTの至適pH付近に設定するためには、それぞれの成分を緩衝液で溶解し構成することが常である。例えば、特開昭55−26894号公報はGOT及びGPTの測定方法及び測定試薬について開示しているが、該公報に記載されているように、通常の測定用試薬に用いる緩衝液に対しては、あくまでもその緩衝作用を期待するものであって、緩衝剤の種類は厳密ではないというのが一般的認識である。従って、構成成分の安定化に対しては、緩衝液のpHや各種安定化剤の添加の検討が中心に行われてきたのである。
【0017】
これに対して、本発明者は、試薬成分の2−オキソグルタル酸(α−KG)の安定化を目的とする研究を行ったところ、単にpHの調整を行うだけでなく、緩衝液の種類によって安定化効果が異なることを確認し、驚くべきことに、両性イオン緩衝液を用いると、2−オキソグルタル酸を長期間安定に保てることを見出した。
従って、本発明の目的は、2−オキソグルタル酸を含有する液状試薬の安定化を図り、信頼性の高い試薬を提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)又はグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)測定用であって、2−オキソグルタル酸が両性イオン緩衝液に溶解していることを特徴とする、安定な2−オキソグルタル酸含有液状試薬に関する。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいう両性イオン緩衝液とは、同一分子内に酸性基と塩基性基とを有し、電離によって正負の両電荷を帯び、水中では両性イオンとなる両性電解質物質を用いた緩衝液をいう。例えば、両性電解質として分子内にアミノ酸を有する物質を用いた緩衝液をいう。具体的には、N−置換タウリン類あるいはN−置換グリシン類あるいは脂肪族アミン類等のアミノ酸誘導体、又は未置換アミノ酸類をいう。
この場合、単に酸性基、塩基性基を有していてもm−アミノフェノール等の弱酸−弱塩基の電荷をもたない物質は効果が少なく、少なくとも中性種が正負両方の電荷をもつ物質が好ましい。
【0020】
上記のような特性を有する物質として、グリシン;タウリン;グリシルグリシン;アミノアセトアミド;N−置換グリシン、例えば、N−(2−アセトアミド)イミノ2酢酸、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン、又はN,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン;N−置換タウリン、例えば、2−モルホリノエタンスルホン酸、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)、N−(2−アセトアミド)2−アミノエタンスルホン酸、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸、シクロヘキシルプロパンスルホン酸、3−〔N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸、又はピペラジン−N,N’−ビス(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸);脂肪族アミン、例えば、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、又は(2−アミノエチル)トリメチルアンモニウムクロリド塩酸塩;あるいは、N−置換アミノプロパンスルホン酸、例えば、3−モルホリノプロンスルホン酸、N−トリス(ヒドロキシメチル)−3−アミノプロパンスルホン酸、又はシクロヘキシルプロパンスルホン酸等を挙げることができる。これらの多くは、一般的にグッド緩衝剤(液)と呼ばれている。
【0021】
前記の両性電解質化合物は、1〜500mMの濃度範囲内で用いる。好ましくは5〜500mM、より好ましくは10〜300mMの濃度範囲となるように用いる。前記の両性電解質緩衝液で、構成成分(α−KG)を所望の濃度となるように溶解する。両性電解質化合物の濃度が1mMよりも低いとpH緩衝能が不十分で、長期保存時に溶液のpHが変動する危険性があり好ましくない。また、500mMを超えると、2−オキソグルタル酸の安定性の面では問題は無いものの、2試薬系の場合、一方の試薬の緩衝能が強すぎると、所望の反応系の至適pHに設定するのが難しくなる点で好ましくない。
【0022】
こうして調製したα−KG含有液のpHを適当な酸(例えば、HCl)あるいはアルカリ(例えば、KOH)で所望の値に設定することができる。本発明で用いられる両性イオン緩衝液は、その緩衝能が中性付近で好適に発現することから、α−KG単独での安定性を保つには、pH6.0〜9.5であれば良い。しかし、多くの場合には、α−KGを含まないもう一方の試薬と混合して用いられることから、混合時の反応系のpHが目的の至適付近に設定されるように、上記pH範囲内で適宜調整して用いればよい。
前記の必須の配合成分の他に、必要により、一般的に添加される成分、例えばEDTA等のキレート剤、アジ化物等の防腐剤、及び各種界面活性剤等を適宜添加することができる。
【0023】
このように構成された2−オキソグルタル酸液状試薬は、半年以上に渡って安定性を保つことができる。この2−オキソグルタル酸含有試薬は、前述のとおり、GOT又はGPT測定用試薬に用いることができる。この際、試薬構成として、2−オキソグルタル酸含有試薬に、GOTやGPTの測定時に用いられるもう一方の基質物質(L−アスパラギン酸あるいはL−アラニン)と混合して構成しても何ら問題は無く、GOT又はGPTを正確に測定することができる。また、場合により、2−オキソグルタル酸と、酵素、例えば、LDH(GPT測定用試薬)又はLDH及びMDH(GOT測定用試薬の場合)との組み合わせから試薬を構成しても、酵素類に対する影響は無い。
【0024】
更に、本発明の液状試薬は、GOT又はGPT測定試薬だけでなく、その他の2−オキソグルタル酸を用いる測定試薬に広く適用することができる。例えば、尿素窒素測定試薬やグルタミン酸脱水素酵素測定試薬等に適用できる。
【0025】
【作用】
本発明による2−オキソグルタル酸の安定化の機構は、現在のところ不明であるが、両性イオン緩衝液が水に極めて溶解し易い点、イオン強度が低い点、錯塩形成能が低い点等が相俟って、2−オキソグルタル酸の非酵素的分解が効果的に抑制され、長期間に渡って安定化を可能にしたものと推察される。
【0026】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1
両性イオン緩衝液として、100mM N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(以下、BESという)緩衝液に2−オキソグルタル酸4.6g及びL−アスパラギン酸ナトリウム塩70gを溶解し、全量を1リットルとした後、KOHでpH7.80に調整し、本発明による液状試薬GOT用−BESを調製した。
また、これとは別に、上記の両性イオン緩衝液に2−オキソグルタル酸6.8g及びL−アラニン90gを溶解し、全量を1リットルとした後、KOHでpH7.50に調整し、本発明による液状試薬GPT用−BESを調製した。
【0027】
上記と同様に本発明による液状試薬を調製したが、但しBESに換えて、両性イオン緩衝液として、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−ヒドロキシ−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPSO)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(POPSO)、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、3−〔N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ〕−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)及びグリシン(Gly)による緩衝液を用いて2−オキソグルタル酸及びL−アスパラギン酸(あるいはL−アラニン)を同量添加して溶解し、KOHでpHを調整し、それぞれ本発明による液状試薬GOT用−HEPES、GOT用−TAPSO、GOT用−POPSO、GOT用−MOPS、GOT用−TES、GOT用−DIPSO、GOT用−Gly及びGPT用−HEPES、GPT用−TAPSO、GPT用−POPSO、GPT用−MOPS、GPT用−TES、GPT用−DIPSO、GPT用−Glyを調製した。
【0028】
比較用として前記と同様の液状試薬を調製したが、但し、前記の両性イオン緩衝液に換えて、100mMトリス緩衝液、200mMトリス緩衝液、100mMイミダゾール緩衝液、及び100mMトリエタノールアミン緩衝液を用いて、それぞれ比較用液状試薬GOT用−100トリス、GOT用−200トリス、GOT用−イミダゾール、GOT用−トリエタ及びGPT用−100トリス、GPT用−200トリス、GPT用−イミダゾール、及びGPT用−トリエタを調製した。
【0029】
それぞれの2−オキソグルタル酸含有溶液を10℃にて保存し、調製直後、1ケ月後及び3ケ月後の2−オキソグルタル酸の含有量を以下の操作により測定した。
すなわち、それぞれの2−オキソグルタル酸含有液1mlを0.1Mトリエタノールアミン緩衝液(pH7.6)で希釈して2−オキソグルタル酸希釈液20mlを得た。その希釈液0.1mlに10mg/mlのNADH及び160mg/mlの塩化アンモニウムを含む0.1Mトリエタノールアミン緩衝液(pH7.6)2.9mlを添加し、次いでグルタミン酸脱水素酵素水溶液(60mg/ml)10μlを添加し、25℃で10分間反応させた後、波長340nmにおける吸光度を測定した。
これとは別に、2−オキソグルタル酸標準溶液を用いて同様の操作を行い吸光度を測定した。また、標準溶液に換えて、0.1Mトリエタノールアミン緩衝液(pH7.6)を用いて同様の操作を行い吸光度を測定した(ブランク)。
各吸光度値から、保存溶液中に含まれる2−オキソグルタル酸の含量を、調製直後を100%として求めた。結果を表1(GOT)及び表2(GPT)に示す。以上の結果から、本発明によって調製した液状試薬中の2−オキソグルタル酸は、長期間に渡って安定化されていることを確認することができた。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、2−オキソグルタル酸を両性イオン緩衝液に溶解させることにより、安定な2−オキソグルタル酸含有液状試薬を提供することができる。
Claims (2)
- グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(GPT)又はグルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)測定用であって、2−オキソグルタル酸が両性イオン緩衝液に溶解していることを特徴とする、安定な2−オキソグルタル酸含有液状試薬。
- 両性イオン緩衝液がグッド緩衝液である、請求項1に記載の安定な2−オキソグルタル酸含有液状試薬。
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