JP3598888B2 - 車両用能動型振動制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、エンジンから車体に伝達される振動を、エンジン及び車体間に介在した能動型エンジンマウントが発生する制御振動によって低減するようになっている車両用能動型振動制御装置に関し、特に、振動低減制御のさらなる精度向上を図ったものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の従来の技術としては、例えば特開平4−302729号公報に開示されたものがある。即ち、上記公報には、能動的な支持力を発生可能な液体封入式の能動型エンジンマウントが開示されており、かかる能動型エンジンマウントにあっては、エンジンシェイクのような比較的低周波の振動に対しては、受動的な液体封入式のエンジンマウントと同様に、二つの液体室間を往来する液体の共振を利用して振動体から支持体に伝達される振動を減衰する一方、アイドル振動以上の比較的高周波の振動に対しては、液体室の隔壁の一部を形成する可動部材を能動的に変位させ、液体室の圧力変化を支持弾性体の拡張ばねに作用させて積極的に支持力を発生させ振動を打ち消すようにしていた。
【0003】
そして、上記公報に開示された装置にあっては、車体側に伝達される残留振動を検出し、その残留振動を評価関数としてLMSアルゴリズム等の適応アルゴリズムを実行することにより、能動型エンジンマウントを駆動するための駆動信号を生成するようになっていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
確かに、上記のような能動型エンジンマウントであれば、その能動型エンジンマウントを通じてパワーユニットから車体に伝達される振動を、能動的な支持力によってある程度相殺して、車体側の振動低減に寄与することができる。
一方、本発明者等が鋭意研究したところ、本発明のような装置にあっては、エンジンで発生する振動の基本周波数に対し“整数分の1”成分の残留振動が大きい場合に、振動低減制御が低下することが確認された。
【0005】
かかる現象が発生する状況としては、例えばアイドル時のエンジン回転2次の振動の周波数(20〜25Hz)に対しエンジン回転0.5次に相当する周波数(5〜6Hz)の振動が大きい場合や、通常走行時に40Hz以上の振動を対象とした低減制御の実行中にエンジンシェイク(10〜15Hz)が大きい場合等がある。つまり、基本制御周波数より低い外乱定常振動が発生している状況で、その基本制御周波数が、外乱定常振動の周波数の整数倍に近づくと(逆に言えば、外乱定常振動の周波数が、基本制御周波数の整数分の1に近づくと)、振動低減制御の効果が低減してしまうのである。
【0006】
本発明は、このような解決すべき課題に着目してなされたものであって、上記のような振動低減制御の効果が低減してしまう状況を回避することができる車両用能動型振動制御装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、エンジン及び車体間に介在し且つ前記エンジンで発生した振動と干渉する制御振動を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記干渉後の振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、前記残留振動信号に基づいて前記車体の振動が低減するように前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、前記残留振動信号をハイパス・フィルタ処理するハイパス・フィルタを設け、前記制御手段は、前記ハイパス・フィルタ処理された前記残留振動信号に基づいて前記駆動制御を行うようになっており、前記ハイパス・フィルタのカットオフ周波数を、前記エンジンで発生するアイドル時の振動の周波数の1/a(aは2以上の任意の整数)とした。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、上記請求項1に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記ハイパス・フィルタのカットオフ周波数を、5〜6Hzとした。
【0010】
そして、上記目的を達成するために、請求項3に係る発明は、エンジン及び車体間に介在し且つ前記エンジンで発生した振動と干渉する制御振動を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記干渉後の振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、前記残留振動信号に基づいて前記車体の振動が低減するように前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、前記残留振動信号をハイパス・フィルタ処理するハイパス・フィルタを設け、前記制御手段は、前記ハイパス・フィルタ処理された前記残留振動信号に基づいて前記駆動制御を行うようになっており、前記ハイパス・フィルタのカットオフ周波数を、前記エンジンで発生した振動の周波数の1/a(aは2以上の任意の整数)となるように変化させるようにした。
さらに、請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3に係る発明である車両用能動型振動制御装置において、前記制御手段は、前記振動の発生状態を検出し基準信号として出力する基準信号生成手段と、フィルタ係数可変の適応ディジタルフィルタと、前記基準信号及び前記残留振動信号に基づき且つ適応アルゴリズムに従って前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ係数更新手段と、前記基準信号及び前記適応ディジタルフィルタに基づき前記能動型エンジンマウントを駆動する駆動信号を生成し出力する駆動信号生成手段と、を備え、前記フィルタ係数更新手段は、前記基準信号及び前記ハイパス・フィルタ処理された前記残留振動信号に基づき前記フィルタ係数を更新するようにした。
【0011】
ここで、本発明にあっては、ハイパス・フィルタを設けており、残留振動信号はそのハイパス・フィルタでフィルタ処理されてから制御手段における制御に用いられるから、そのフィルタ処理前の残留振動信号に種々の低周波成分が含まれていても、ハイパス・フィルタのカットオフ周波数以下の周波数成分は制御手段の制御には用いられない。
【0012】
このため、カットオフ周波数をシミュレーション等に基づいて適宜選定してさえいれば、制御対象周波数に対して所定の関係にある外乱定常振動の周波数成分が、制御手段における制御に与える影響を低減できる。
【0013】
そして、通常の車両のアイドル時のエンジン回転数が600〜750rpm 程度であり、エンジン振動が問題となる可能性の高い通常の4気筒エンジンにおいて、アイドル時のエンジンの燃焼タイミング(エンジン回転2次)に同期して発生する振動の周波数は、20〜24Hzであるが、かかる20〜24Hzの振動を制御対象としている場合、制御の効果に最も影響を与える外乱定常振動の周波数は、その1/4近傍の周波数、つまり5〜6Hzである。よって、請求項1、2に係る発明のように、ハイパス・フィルタのカットオフ周波数を設定すれば、アイドル時における振動制御の効果が低下することを抑制できる。
【0016】
そして、請求項3に係る発明のように、ハイパス・フィルタのカットオフ周波数を、エンジンで発生する振動の周波数の1/a(例えば、a=4)となるように変化させれば、アイドル時や通常走行時に制御効果の低下を招く恐れのある外乱定常振動の周波数成分を、的確に残留振動信号から除去することができるようになる。
さらに、制御手段が、請求項4に係る発明のような構成の場合には、適応ディジタルフィルタのフィルタ係数が、上記のような外乱定常振動の周波数成分の影響を受けて好ましくない形に成長することが防止されるから、その適応ディジタルフィルタと基準信号とに基づいて生成される駆動信号の波形も、制御対象振動を低減するのに適した形になる。
【0017】
【発明の効果】
本発明によれば、残留振動信号をハイパス・フィルタ処理してから振動低減制御に用いるようにしたため、外乱定常振動に起因して振動低減効果が低下する可能性を低減できるという効果がある。
特に、請求項1、2に係る発明であれば、アイドル時に有効である。
【0018】
さらに、請求項3に係る発明であれば、外乱定常振動の周波数が変化しても対処できるという効果もある。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至図5は本発明の第1の実施の形態を示す図であって、図1は本発明に係る車両用能動型振動制御装置を適用した車両の概略側面図である。
先ず、構成を説明すると、横置きに搭載したエンジン17が、車体前後方向の後方に配置した能動型エンジンマウント20を介して、サスペンションメンバ等から構成される車体18に支持されている。なお、実際には、エンジン17及び車体18間には、能動型エンジンマウント20の他にエンジン17及び車体18間の相対変位に応じた受動的な支持力を発生する複数のエンジンマウントも介在している。受動的なエンジンマウントとしては、例えばゴム状の弾性体で荷重を支持する通常のエンジンマウントや、ゴム状の弾性体内部に減衰力発生可能に流体を封入してなる公知の流体封入式のマウントインシュレータ等が適用できる。
【0020】
図2は、エンジン17に固定したブラケット(図示せず)を介して連結する能動型エンジンマウント20の上部構造を平面視で示すものであり、エンジン側連結部材30から上方に向けて突出している2本の連結ボルト30aを、上述したブラケットの挿通孔に下側から挿通し、ナットを螺合することによりエンジン17に上端部が固定される。また、符号60はリバウンド規制部材であり、このリバウンド規制部材60は、2本の連結ボルト30a間を結ぶ線に対して直交し、エンジン側連結部材30の上方をアーチ状に延在しながら装置ケース43に固定されており、エンジン側連結部材30の上面に固定したゴム製の弾性体からなるリバウンドストッパ31の上方に位置している。
【0021】
図3は、図2の矢視断面図で示す能動型エンジンマウント20の内部構造を示すものであり、図2の2本の連結ボルト30a間を結ぶ線に沿うA−A矢視断面を、図3の軸心(以下、マウント軸と称する)P1 を境界として右側に示し、図2の2本の連結ボルト30a間を結ぶ線に対して直交する方向のB−B矢視断面を、図3のマウント軸P1 を境界として右側に示している。
【0022】
この能動型エンジンマウント20は、装置ケース43に外筒34、中間筒36、オリフィス構成部材37、支持弾性体32等のマウント部品を内蔵し、これらマウント部品の下部に、流体室84の隔壁の一部を形成しながら弾性支持された可動部材78を流体室84の容積が変化する方向に変位させる電磁アクチュエータ52と、図示しない車体メンバの振動状況を検出する荷重センサ64とを内蔵した装置であり、より具体的に説明していくと、前述したエンジン側連結部材30は、下端周縁部30gが丸みを付けて形成されていると共に、マウント軸P1 に沿う位置に第1孔30cが形成されている。また、このエンジン連結部材30に下側から嵌入されて上方を向いている連結ボルト30aは、その頭部30dがエンジン側連結部材30の下面から突出している。ここで、その頭部30dの外周縁部は、丸みが付けられて形成されている。
【0023】
また、エンジン側連結部材30の下面には、断面逆台形状の中空筒体30bが固定されている。この中空筒体30bには、連結ボルト30aに近接する位置に第2孔30eが形成されていると共に、マウント軸P1 に沿う下面に第3孔30fが形成されている。なお、この中空筒体30bの連結ボルト30aから離間している位置には、孔を形成していない。
【0024】
そして、前記エンジン側連結部材30の下面側には、中空筒体30bの内部及びエンジン側連結部材30の下部側を覆うように、ゴム製の支持弾性体32が加硫接着により固定されている。
すなわち、この支持弾性体32は、エンジン側連結部材30側から下方に向けて拡径した形状のゴム製の弾性体であって、内面に断面山形状の空洞部32aを形成しているが、連結ボルト30aから離れている部分の支持弾性体32の外周面は、図3の左側に示すように、エンジン側連結部材30の外周部を覆いながらリバウンドストッパ31に連続している。一方、連結ボルト30aに近接している支持弾性体32は、図3の右側に示すように、連結ボルト30aの頭部30dの全域を覆う被覆部32bが形成されていると共に、頭部30dの下方位置の外周を、内側に大きく凹んだ形状としている(以下、符号32cで示す凹み外周部と称する)。そして、前述した空洞部32aを形成しながら前記凹み外周部32cに対向している支持弾性体32の内面も、内側に大きく膨らんだ形状としている(以下、符号32dで示す膨らみ内周部と称する)。そして、連結ボルト30aに近接している部分の支持弾性体32の肉厚は、凹み外周部32cに対向して膨らみ内周部32dを設けたことにより、連結ボルト30aから離れている部分の肉厚と略同一に設定している。
【0025】
そして、薄肉形状とした支持弾性体32の下端部は、マウント軸P1 が中空筒体30bと同軸に振動体支持方向を向く中間筒体36の内周面に加硫接着により結合している。
中間筒体36は、同一外周径とした上端筒部36a及び下端筒部36bの間に小径筒部36cを連続して形成した部材であり、外周に環状凹部を設けている。また、図示しないが、小径筒部36cには開口部が形成されており、この開口部を介して中間筒体36の内側及び外側が連通している。
【0026】
中間筒体36の外側には外筒34が嵌合しており、この外筒34は内周径を中間筒体36の上端筒部36a及び下端筒部36bの外周径と同一寸法とし、軸方向の長さを中間筒体36と同一寸法に設定した円筒部材である。また、この外筒34には開口部34aが形成されており、この開口部34aの開口縁部にゴム製の薄膜弾性体からなるダイアフラム42の外周が結合して開口部34aを閉塞しつつ、外筒34の内側に向けて膨出している。
【0027】
そして、上記構成の外筒34を、環状凹部を囲むように中間筒体36に外嵌すると、外筒34及び中間筒体36間の周方向に環状空間が画成され、その環状空間にダイアフラム42が膨出した状態で配設される。そして、中間筒体36の内側に、筒状のオリフィス構成部材37が嵌合している。
このオリフィス構成部材37は、中間筒体36の小径筒部36cより小径に形成した最小径筒部37aを備え、その最小径筒部37aの上下端部に径方向外方に向けて上部環状部37b及び下部環状部37cが形成されており、これら最小径筒部37a、上部及び下部環状部37b、37cで囲んだ位置と中間筒体36との間に環状空間が設けられている。また、最小径筒部37aの一部に第2開口部37dが形成されている。ここで、上部環状部37bは、支持弾性体32の下方に位置しているが、図2の右側に示すように、連結ボルト30aに近接している支持弾性体32の下方に位置している上部環状部37b1 は肉厚を薄く形成して凹みを設けており、支持弾性体32の膨らみ内周部32dから離れた位置で対向している。
【0028】
また、装置ケース43は、その上端部に上端筒部36aの外周径より小径の円形開口部を有する上端かしめ部43aが形成されていると共に、この上端かしめ部43aと連続するケース本体の形状を、内周径が外筒34の外周径と同一寸法で下端開口部まで連続する円筒形状(下端開口部を図2の破線で示した形状)とした部材であり、全てのマウント部品の組み込みが完了した後に下端開口部を径方向内方に向けてかしめていくことにより、図2の実線で示すかしめ部が形成される。
【0029】
そして、支持弾性体32、中間筒体36、オリフィス構成部材37及びダイアフラム42を一体化した外筒34を装置ケース43の下端開口部から内部に嵌め込んでいき、上端かしめ部43aの下面に外筒34及び中間筒体36の上端部を当接させると、それらが装置ケース43内の上部に配設される。この際、装置ケース43の内周面とダイヤフラム42とで囲まれた部分に空気室42cが画成されるが、この空気室42cを臨む位置に空気孔43aが形成されており、この空気孔43aを介して空気室42cと大気が連通している。
【0030】
装置ケース43内の下部には円筒状のスペーサ70が嵌め込まれており、このスペーサ70内の上部に可動部材78が配置されていると共に、スペーサ70内の下部に電磁アクチュエータ52が配置されている。前記スペーサ70は、円筒状の上部筒体70aと、円筒状の下部筒体70bと、これら筒体の上下端部間に加硫接着したゴム製の薄膜弾性体からなる略円筒状のダイアフラム70cとで構成されている。
【0031】
前記電磁アクチュエータ52は、外観円筒形のヨーク52aと、ヨーク52aの上端面側に配設した円環状の励磁コイル52bと、ヨーク52aの上面中央部に磁極を上下方向に向けて固定した永久磁石52cとで構成されている。また、前記ヨーク52aは、円環状の第1ヨーク部材53aと、中央円筒部に永久磁石52cを固定した第2ヨーク部材53bとで構成されている。
【0032】
そして、上部及び下部筒体70a、70b間のダイアフラム70cは、ヨーク52aの外周に形成した凹部52dに向かって膨出している。
また、ヨーク52aの下面と、車体側連結ボルト60を備えた蓋部材62との間には、振動低減制御に必要な残留振動を検出するために、荷重センサ64が介装されている。荷重センサ64としては、圧電素子,磁歪素子,歪ゲージ等が適用可能であり、このセンサの検出結果は、図1に示すように、残留振動信号eとしてコントローラ25に供給されるようになっている。
【0033】
一方、前記電磁アクチュエータ52の上方には、シール部材固定用のシールリング72と、後述する板ばね82の外周部を下側から自由端支持する支持リング74と、電磁アクチュエータ52の永久磁石52c及び可動部材78間のギャップHを設定するギャップ保持リング76とが配置されている。これらシールリング72、支持リング74及びギャップ保持リング76の外周径は、前述したスペーサ70の上部筒体70aの内周径と同一寸法に設定されており、ヨーク52aから上方に突出している上部筒体70a内にシールリング72、支持リング74及びギャップ保持リング76の全てが内嵌されている。そして、これらシールリング72、支持リング74及びギャップ保持リング76の内側には、上下方向に変位可能となるように可動部材78が配置されている。
【0034】
この可動部材78は、外観円盤状の隔壁形成部材78Aと、この隔壁形成部材78Aより大径円盤状に形成した磁路形成部材78Bとで構成した部材であって、電磁アクチュエータ52に対して遠い方に位置する隔壁形成部材78Aの軸心にボルト孔80aを形成し、電磁アクチュエータ52に近い磁路形成部材78Bを貫通した可動部材用ボルト80がボルト孔80aに螺合することにより、隔壁形成部材78A及び磁路形成部材78Bを一体に連結した構造となっている。
【0035】
隔壁形成部材78A及び磁路形成部材78B間には、リング状に連続したくびれ部79が画成されているが、このくびれ部79に可動部材78を弾性支持するための板ばね82が収容されている。つまり、板ばね82は、中央部に孔部を形成した円盤形状の部材であり、この板ばね82の内周部を隔壁形成部材78Aの裏面中央部の下側から自由端支持し、板ばね82の外周部を支持リング74のばね支持部74aが下側から自由端支持しており、これにより可動部材78が装置ケース43に板ばね82を介して弾性支持されている。
【0036】
前記隔壁形成部材78Aは、流体室84に面している隔壁部80cの肉厚を薄くし、隔壁部80cの外周から上方に突出する環状のリブ80bを形成した部材である。そして、隔壁形成部材78Aの上面と、支持弾性体32の下面と、オリフィス構成部材37の内周面とで流体室84が形成され、この流体室84内に流体が封入される。
【0037】
また、流体室84から板ばね82を収容しているくびれ部79側への流体の漏洩を防止するため、隔壁形成部材78Aの外周とシールリング72の内周との間には、ゴム状弾性体からなるリング形状のシール部材86が固定されており、このシール部材86の弾性変形によって、シールリング72や装置ケース43に対する可動部材78の上下方向への相対変位を許容している。
【0038】
次に、本実施形態の能動型エンジンマウント20の振動入力減衰作用について簡潔に説明する。本実施形態の能動型エンジンマウント20は、支持弾性体32の空洞部32aとオリフィス構成部材37の軸中央空間とが連通し、オリフィス構成部材37の軸中央空間及びオリフィス構成部材37と中間筒体36との間の環状空間が、第2開口部37dを介して連通し、前記環状空間及びダイアフラム42が膨出している空間が、中間筒体36に形成した開口部を介して連通しており、これら支持弾性体32の空洞部32aからダイアフラム42が膨出している空間までの連通路内に、エチレングリコール等の流体が封入されている。
【0039】
そして、支持弾性体32の空洞部32aからオリフィス構成部材37と中間筒体36との間の環状空間までの連通路を主流体室84とすると、中間筒体36に形成した開口部の近傍をオリフィスとし、この開口部に対向しながらダイアフラム42に囲まれている領域を副流体室とした流体共振系が形成されている。この流体共振系の特性、即ち、オリフィス内の流体の質量と、支持弾性体32の拡張方向ばね、ダイアフラム42の拡張方向ばねで決まる特性は、車両停止中のアイドル振動の発生時、つまり20〜30Hzでエンジンマウント20A、20Bが加振された場合に高動ばね定数、高減衰力を示すように調整されている。
【0040】
一方、電磁アクチュエータ52の励磁コイル52bは、コントローラ25から例えばハーネスを通じて供給される電流である駆動信号yに応じて所定の電磁力を発生するようになっている。コントローラ25は、マイクロコンピュータ,必要なインタフェース回路,A/D変換器,D/A変換器,アンプ、ROM,RAM等の記憶媒体等を含んで構成され、エンジン17で発生する振動を低減できる能動的な支持力が能動型エンジンマウント20に発生するように、能動型エンジンマウント20に対する駆動信号yを生成し出力するようになっている。
【0041】
また、前述したように能動型エンジンマウント20には荷重センサ64が内蔵されており、車体18の振動状況を荷重の形で検出して残留振動信号eとして出力し、その残留振動信号eが干渉後における振動を表す信号として例えばハーネスを通じてコントローラ25に供給されている。
ここで、エンジン17で発生するアイドル振動やこもり音振動は、例えばレシプロ4気筒エンジンの場合、エンジン回転2次成分のエンジン振動が車体18に伝達されることが主な原因であるから、そのエンジン回転2次成分に同期して駆動信号yを生成し出力すれば、車体側振動の低減が可能となる。そこで、本実施の形態では、エンジン17のクランク軸の回転に同期した(例えば、レシプロ4気筒エンジンの場合には、クランク軸が180度回転する度に一つの)インパルス信号を生成し基準信号xとして出力するパルス信号生成器19を設けていて、その基準信号xが、コントローラ25に供給されている。
【0042】
そして、コントローラ25は、供給される残留振動信号e及び基準信号xに基づき、適応アルゴリズムの一つである同期式Filtered−X LMSアルゴリズム(以下、SFXアルゴリズムと称す。)を実行することにより、能動型エンジンマウント20に対する駆動信号yを演算し、その駆動信号yを能動型エンジンマウント20に出力するようになっている。
【0043】
具体的には、コントローラ25は、フィルタ係数Wi (i=0,1,2,……,I−1:Iはタップ数)可変の適応ディジタルフィルタWを有していて、最新の基準信号xが入力された時点から所定のサンプリング・クロックの間隔で、その適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を順番に駆動信号yとして出力する一方、基準信号x及び残留振動信号eに基づいて適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を適宜更新する処理を実行するようになっている。
【0044】
ただし、この実施の形態では、SFXアルゴリズムにおける評価関数として、下記の(1)式を用いている。
Jm={e(n)}2 +β{y(n)}2 ……(1)
つまり、SFXアルゴリズムにあっては、評価関数Jmが小さくなる方向にフィルタ係数Wi が更新されるのであるから、上記(1)式の右辺の内容からも明らかなように、フィルタ係数Wi は、残留振動信号eの自乗値が小さくなると共に、駆動信号yの自乗値をβ倍した値が小さくなるように、逐次更新されることになる。そして、βは発散抑制係数と称される係数であって、この発散抑制係数βが大きくなる程、駆動信号yは小さくなる傾向となる。つまり、発散抑制係数βには制御の発散を抑制する作用がある。
【0045】
そして、収束係数をαとし、上記(1)式で表される評価関数Jmに基づいてフィルタ係数Wi の更新式を求めると、下記の(2)式のようになる。
Wi (n+1)=Wi (n)+2αRT e(n)−2βαy(n)……(2)
そこで、この(2)式中の「2α」を新たな収束係数αとし、「2βα」を新たな発散抑制係数βとすれば、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi の更新式は下記の(3)式のようになる。
【0046】
Wi (n+1)=Wi (n)+αRT e(n)−βy(n)……(3)
ここで、(n),(n+1)が付く項は、サンプリング時刻n,n+1,における値であることを表している。また、更新用基準信号RT は、理論的には、基準信号xを、能動型エンジンマウント20の電磁アクチュエータ52及び荷重センサ64間の伝達関数Cをモデル化した伝達関数フィルタC^でフィルタ処理をした値であるが、基準信号xの大きさは“1”であるから、伝達関数フィルタC^のインパルス応答を基準信号xに同期して次々と生成した場合のそれらインパルス応答波形のサンプリング時刻nにおける和に一致する。
【0047】
また、理論的には、基準信号xを適応ディジタルフィルタWでフィルタ処理して駆動信号yを生成するのであるが、基準信号xの大きさが“1”であるため、フィルタ係数Wi を順番に駆動信号yとして出力しても、フィルタ処理の結果を駆動信号yとしたのと同じ結果になる。
そして、コントローラ25は、上記のような駆動信号yの出力処理及び適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi の更新処理を、基準信号xの最新のインパルスが生成された時点を基準に開始される固定サンプリング・クロックに同期して実行するようになっている。ここで、基準信号xのインパルスの生成に伴ってクリアされ固定サンプリング・クロックに同期してインクリメントされるカウンタをi(=0、1、2、…、L−1)、サンプリング・クロックの一周期内(サンプリング周期内)に実行されるフィルタ係数Wj の更新処理を各フィルタ係数Wj に対して実行するために用いられるカウンタをj(=0、1、2、…、L−1)とすると、上記(3)式に示した各フィルタ係数Wj の更新式は、それらi,jの関係から、具体的には下記のようになる。
【0048】
i=j;
Wj (n+1)=Wj (n)+αR(0)e(n)−βy(n)……(4)
i−j<0;
Wj (n+1)=Wj (n)+αR(L1+i−j)e(n)……(5)
i−j≧L1;
Wj (n+1)=Wj (n)+αR(i−j−L1)e(n)……(6)
0<i−j<L1;
Wj (n+1)=Wj (n)+αR(i−j)e(n) ……(7)
但し、Lは、基準信号xの一周期(制御周期)内に駆動信号yとして出力されるフィルタ係数Wj の個数(タップ数)であり、基準信号xの周期Tx を固定サンプリング・クロックの周期Tc で割った結果の小数点以下を切り上げた値である。また、L1は、基準信号xの一周期内に駆動信号yとして出力されるフィルタ係数Wj の実際のタップ長の小数点以下まで考慮して求められる整数タップ長であって、基準信号xの周期Tx を固定サンプリング・クロックの周期Tc で割った結果を小数点第一位で四捨五入した値である。
【0049】
つまり、コントローラ25内では、0〜(L−1)の間で1ずつ増加するカウンタiのそれぞれに対して、カウンタjを0から(L−1)にまで1ずつ増加させる毎に、上記(4)〜(7)のいずれかの更新式に従ってフィルタ係数Wj が更新されるのである。
そして、上記(4)〜(7)式を実行するためには、上述したタップ数L及び整数タップ長L1を常に把握しておかなければならないから、基準信号xの周期Tx の最新の値を常に検出するようになっている。具体的には、基準信号xの最新のインパルスとその一つ前のインパルスとの入力間隔を、クロックパルスをカウントする周期測定用タイマによって常時計測し、これにより周期Tx を取得するようになっている。
【0050】
また、コントローラ25は、周期測定用タイマの他に、サンプリング・クロックの周期が経過したことを認識するためのタイマ(サンプリング・クロック測定用タイマ)を有していて、最新の基準信号xのインパルスが生成された時点から、サンプリング・クロックの周期と同じ時間を繰り返し測定し、そのサンプリング・クロックに同期して駆動信号yを出力するようになっている。
【0051】
さらに、コントローラ25内では、残留振動信号eを所定のカットオフ周波数に設定されたハイパス・フィルタでフィルタ処理してから、上記(4)〜(7)式の更新式に用いるようになっている。かかるハイパス・フィルタのカットオフ周波数は、本実施の形態では5Hzとしている。従って、ハイパス・フィルタの特性を図示すると、図5の特性Aに示すようになる。
【0052】
次に、本実施の形態の動作を説明する。
イグニッションスイッチがオンとなって電源が供給されるようになると、コントローラ25は、所定の演算処理を実行し、電磁アクチュエータ52に駆動信号yを出力し、能動型エンジンマウント20に振動を低減し得る能動的な支持力を発生させるようになる。これをコントローラ25内で実行される処理の概要を示すフローチャートである図4に従って具体的に説明する。
【0053】
即ち、電源が供給されると、コントローラ25は所定の初期設定を行い、イグニッションスイッチがオンになった後に、運転者がエンジンキーをさらに回すと、エンジン17が起動し、基準信号xがコントローラ25に供給されるようになる。そして、基準信号xのインパルスが確認されたら、基準信号xの立ち上がりが検出されて基準信号xの周期TX が検出され、その周期Tx と固定サンプリング・クロックの周期Tc とに基づき、ステップ101においてタップ数L及び整数タップ長L1が演算される。なお、図4の処理が開始されてからステップ101の処理の実行回数が2以上の場合には、後述するカウンタiの値に基づいてタップ数Lを求め、また、そのカウンタiの値とサンプリング・クロック測定用タイマの値とに基づいて整数タップ長L1を求めることも可能である。
【0054】
次いで、ステップ102に移行し、カウンタiが零クリアされた後に、ステップ103に移行し、サンプリング・クロック測定用タイマがクリア・スタートされる。そして、ステップ104に移行し、適応ディジタルフィルタWのi番目のフィルタ係数Wi が駆動信号yとして出力される。
次いで、ステップ105に移行し、カウンタiが0か否かが判定され、この判定が「YES」の場合には、制御周期(基準信号xの周期)が始まった直後であると判断して、一制御周期が始まったことに伴う初期処理を実行すべく、ステップ106に移行し、伝達関数フィルタC^に基づき更新用基準信号RT が演算される。なお、ステップ106では、基準信号xの新たな一周期分の更新用基準信号R(更新用基準信号RT は、更新用基準信号Rの転置行列である。)がまとめて演算される。
【0055】
ステップ105の判定が「NO」の場合並びにステップ106の処理を終えた場合には、ステップ107に移行し、残留振動信号eが読み込まれる。
そして、ステップ108に移行し、残留振動信号eを、ハイパス・フィルタ処理する。かかるハイパス・フィルタ処理のカットオフ周波数は、図5の特性Aに示したように、5Hzに設定されているから、このステップ108の処理を行うことによって、残留振動信号eからは5Hzよりも低い周波数成分が除去される。
【0056】
次いで、ステップ109に移行して、カウンタjが零クリアされ、そして、ステップ110に移行し、適応ディジタルフィルタWのj番目のフィルタ係数Wj が上記(4)〜(7)式に従って更新される。
次いで、ステップ111に移行し、基準信号xの次のインパルスが入力されているか否かを判定し、ここで基準信号xが入力されていないと判定された場合には、適応ディジタルフィルタWの次のフィルタ係数の更新又は駆動信号yの出力処理を実行すべくステップ112に移行する一方、ステップ111で基準信号xの新たなインパルスが入力されたと判断された場合には、ステップ101に戻って、上述した処理を繰り返し実行する。
【0057】
ステップ112では、全フィルタ係数Wj に対する更新演算が完了しているか否か、つまりカウンタjがタップ数L(正確には、カウンタjは0からスタートするため、タップ数Lから1を減じた値)に達しているか否かが判定され、この判定が「NO」の場合には、ステップ113に移行し、カウンタjをインクリメントした後に、ステップ110に戻って上述した処理を繰り返し実行する。
【0058】
しかし、ステップ112の判定が「YES」の場合には、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wj のうち、駆動信号yとして必要な数のフィルタ係数の更新処理が完了したと判断できるから、ステップ114に移行してカウンタiをインクリメントする。
次いで、ステップ115に移行し、上記ステップ103でクリア・スタートさせたサンプリング・クロック測定用タイマの値が固定サンプリング・クロックの周期TC に達するまで待機した後、上記ステップ103に戻って上述した処理を繰り返し実行する。
【0059】
このような図4の処理を繰り返し実行する結果、コントローラ25から能動型エンジンマウント20の電磁アクチュエータ52に対しては、基準信号xが入力された時点から、固定サンプリング・クロックに同期して、適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi が順番に駆動信号yとして供給される。
この結果、励磁コイル52bに駆動信号yに応じた磁力が発生するが、磁路形成部材78Bには、すでに永久磁石52cによる一定の磁力が付与されているから、その励磁コイル52bによる磁力は永久磁石52cの磁力を強める又は弱めるように作用すると考えることができる。このように、永久磁石52cの磁力が強まったり弱まったりすると、可動部材78が正逆両方向に変位し、可動部材78が変位すれば、主流体室84の容積が変化し、その容積変化によって支持弾性体32の拡張ばねが変形するから、この能動型エンジンマウント20に正逆両方向の能動的な支持力が発生するのである。
【0060】
そして、駆動信号yとなる適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi は、SFXアルゴリズムに従った上記(4)〜(7)式によって逐次更新されるため、ある程度の時間が経過して適応ディジタルフィルタWの各フィルタ係数Wi が最適値に収束した後は、駆動信号yが能動型エンジンマウント20に供給されることによって、エンジン17から能動型エンジンマウント20を介して車体18側に伝達されるアイドル振動やこもり音振動が低減されるようになる。
【0061】
しかも、本実施の形態では、残留振動信号eをハイパス・フィルタ処理してからフィルタ係数Wi の更新処理に用いるようになっているため、アイドル時の振動低減効果が低下することを抑制できるという利点がある。つまり、本実施の形態のエンジン17の場合、燃焼タイミングに同期して発生する振動は、エンジン回転2次の振動であり、アイドル時のエンジン回転数が600〜750Hzであることから、アイドル時の制御対象振動の周波数は20〜24Hzである。すると、かかる振動の1/2の周波数は10〜12Hz、1/3の周波数は6.66〜8Hz、1/4の周波数は5〜6Hzであるから、ハイパス・フィルタ処理のカットオフ周波数を5Hzとすれば、アイドル振動周波数の1/4の周波数の振動(図5の特性Bで示すような振動)が、残留振動信号としてフィルタ係数Wi の更新式に取り込まれることを回避できる。
【0062】
その結果、アイドル時にフィルタ係数Wi が好ましくない形状に成長することが避けられるから、振動低減効果が低下することを抑制できるのである。
なお、ハイパス・フィルタ処理におけるカットオフ周波数は、5Hzに限定されるものではなく、例えば、通常走行時におけるエンジンシェイクの影響が懸念される車両の場合には、カットオフ周波数を、10〜15Hzに設定してもよい。つまり、通常走行時のエンジン17の回転数が1200rpm 以上だとすると、そのときに燃焼タイミングに同期して発生する振動の周波数は、40Hz以上ということになる。すると、エンジンシェイクの周波数が、通常10〜15Hz近傍であるから、通常走行時に、エンジン振動周波数が、エンジンシェイク周波数の4倍になる状況が考えられ、そのエンジンシェイクが過大な場合にそれが残留振動信号eに重畳されてフィルタ係数Wi の更新式に用いられて振動低減効果が低下する可能性がある。そこで、図5の特性Cで示すように、ハイパス・フィルタ処理のカットオフ周波数を10Hz程度に設定することにより、図5の特性Dで示すような振動の成分がフィルタ係数Wi の更新式に用いられることが回避されるから、通常走行時にエンジンシェイクが過大であることに起因して振動低減効果が低下することを避けられるのである。
【0063】
ここで、本実施の形態では、パルス信号生成器19が基準信号生成手段に対応し、荷重センサ64が残留振動検出手段に対応し、コントローラ25が制御手段に対応し、図4の処理において、所定のサンプリング・クロックに同期してステップ104でフィルタ係数Wi を駆動信号yとして出力する処理が駆動信号生成手段に対応し、ステップ108の処理がハイパス・フィルタを構成し、ステップ110の処理がフィルタ係数更新手段に対応する。
【0064】
図6は、本発明の第2の実施の形態を示す図であって、図4と同様にコントローラ25内で実行される振動低減処理の概要を示すフローチャートであり、図4と同じ処理には同じ符号を付しその重複する説明は省略する。また、その他の構成は上記第1の実施の形態と同様であるため、その図示及び説明は省略する。
即ち、本実施の形態における要点は、残留振動信号eをフィルタ処理するハイパス・フィルタのカットオフ周波数を、可変した点である。
【0065】
具体的には、ステップ105の判定が「YES」となってステップ106の処理を実行した後に、ステップ201に移行し、ここで、カットオフ周波数が演算される。
ハイパス・フィルタ処理のカットオフ周波数は、そのときエンジン17の燃焼に同期して発生している振動の周波数の、1/aとして設定する。aは、2以上の整数であるが、アイドル時に残留振動信号eから除去したい振動の周波数成分や、通常走行時に残留振動信号eから除去したいエンジンシェイクの周波数成分は、凡そ、エンジン17の燃焼に同期して発生している振動の周波数の1/4であることが比較的多いことから、a =4とすることが好ましいが、車両によってはそれ以外の値を採用してもよい。
【0066】
なお、エンジン17の燃焼に同期して発生している振動の周波数は、エンジン17の回転数が判れば容易に求められるが、本実施の形態であれば、基準信号xの周期TX が既知であるから、その周期Tx の逆数(1/Tx )を演算することにより、エンジン17の燃焼に同期して発生している振動の周波数を求めることも可能である。
【0067】
このような構成であれば、ステップ108におけるハイパス・フィルタ処理のカットオフ周波数は、エンジンで発生する振動の周波数の変化を追従するように変化するため、常に的確なハイパス・フィルタ処理が行われる。つまり、図5を例に説明すれば、ハイパス・フィルタの特性は、エンジンで発生する振動の周波数の変化に応じて、特性Aと特性Cとの間で連続的に変化するため、特性Bの振動や特性Dの振動を、的確に除去できるのである。ちなみに、ハイパス・フィルタのカットオフ周波数が固定であると、例えば特性Aのようなハイパス・フィルタを設定した場合、通常走行時には、特性Dのようなエンジンシェイク成分の減衰が不十分となる可能性があるし、逆に、特性Cのようなハイパス・フィルタを設定した場合、アイドル時の振動低減制御に必要な成分をも減衰してしまい却って振動低減効果が減少してしまう可能性があるが、本実施の形態であれば、そのような不具合をも除去することができるのである。
【0068】
なお、上記実施の形態においては、残留振動を能動型エンジンマウント20に内蔵した荷重センサ64によって検出しているが、これに限定されるものではなく、例えば車室内の乗員足元位置にフロア振動を検出する加速度センサを配設し、その加速度センサの出力信号を残留振動信号eとしてもよい。
また、上記各実施の形態では、駆動信号yを生成するアルゴリズムとしてSFXアルゴリズムを適用しているが、適用可能なアルゴリズムはこれに限定されるものではなく、例えば、通常のLMSアルゴリズム、Filtered−X LMSアルゴリズム等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施の形態における車両の概略側面図である。
【図2】能動型エンジンマウントの一例を平面視で示した図である。
【図3】図2のA−A矢視断面及びB−B矢視断面図である。
【図4】振動低減処理の概要を示すフローチャートである。
【図5】ハイパス・フィルタ処理の周波数特性図である。
【図6】第2の実施の形態の振動低減処理の概要を示すフローチャートである。
【符号の説明】
17 エンジン
18 車体
19 パルス信号生成器(基準信号生成手段)
20 能動型エンジンマウント
25 コントローラ
52 電磁アクチュエータ
64 荷重センサ(残留振動検出手段)
Claims (4)
- エンジン及び車体間に介在し且つ前記エンジンで発生した振動と干渉する制御振動を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記干渉後の振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、前記残留振動信号に基づいて前記車体の振動が低減するように前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、
前記残留振動信号をハイパス・フィルタ処理するハイパス・フィルタを設け、前記制御手段は、前記ハイパス・フィルタ処理された前記残留振動信号に基づいて前記駆動制御を行うようになっており、
前記ハイパス・フィルタのカットオフ周波数は、前記エンジンで発生するアイドル時の振動の周波数の1/a(aは2以上の任意の整数)であることを特徴とする車両用能動型振動制御装置。 - 前記ハイパス・フィルタのカットオフ周波数は、5〜6 Hz である請求項1記載の車両用能動型振動制御装置。
- エンジン及び車体間に介在し且つ前記エンジンで発生した振動と干渉する制御振動を発生可能な能動型エンジンマウントと、前記干渉後の振動を検出し残留振動信号として出力する残留振動検出手段と、前記残留振動信号に基づいて前記車体の振動が低減するように前記能動型エンジンマウントを駆動制御する制御手段と、を備えた車両用能動型振動制御装置において、
前記残留振動信号をハイパス・フィルタ処理するハイパス・フィルタを設け、前記制御手段は、前記ハイパス・フィルタ処理された前記残留振動信号に基づいて前記駆動制御を行うようになっており、
前記ハイパス・フィルタのカットオフ周波数を、前記エンジンで発生した振動の周波数の1/a(aは2以上の任意の整数)となるように変化させるようになっていることを特徴とする車両用能動型振動制御装置。 - 前記制御手段は、前記振動の発生状態を検出し基準信号として出力する基準信号生成手段と、フィルタ係数可変の適応ディジタルフィルタと、前記基準信号及び前記残留振動信号に基づき且つ適応アルゴリズムに従って前記適応ディジタルフィルタのフィルタ係数を更新するフィルタ係数更新手段と、前記基準信号及び前記適応ディジタルフィルタに基づき前記能動型エンジンマウントを駆動する駆動信号を生成し出力する駆動信号生成手段と、を備え、
前記フィルタ係数更新手段は、前記基準信号及び前記ハイパス・フィルタ処理された前記残留振動信号に基づき前記フィルタ係数を更新するようになっている請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の車両用能動型振動制御装置。
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