JP4003331B2 - 防振支持装置及びこの装置を搭載した車両 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、流体がオリフィスを通過する際に発生する減衰力を利用して防振効果を得るとともに、支持弾性体によって画成された流体室の容積を積極的に変化させることにより能動的な支持力を発生することができる防振支持装置及びこの装置を搭載した車両に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の先行技術としては、例えば本出願人が先に提案した特開平9−250590号公報に記載したものがある。
すなわち、特開平9−250590号公報の防振支持装置を図4を参照して説明すると、この防振支持装置1は、例えばエンジン等の振動体側に固定される平板状の固定部材2を有し、この固定部材2の上面にはエンジンへの取り付け用のボルト2aが一体に設けられていて、この固定部材2の裏面には、支持弾性体3の上面中央部が加硫接着されている。
【0003】
支持弾性体3は、その中央部が周縁部よりも上方に盛り上がって内面に断面山形状の空洞部3aが形成されている。この支持弾性体3の薄肉形状とした下端部は、中間筒4の内周面に加硫接着により結合されている。中間筒4は、小径筒部4aを形成して外周側に環状凹部を設けた部材であり、図示しないが、小径筒部4cに開口部を形成して中間筒4の内側及び外側が連通している。中間筒4の外側に嵌合している外筒5は、周面に形成した開口部5aの縁部にダイアフラム6が結合しており、このダイアフラム6は開口部5aを閉塞しながら中間筒4の環状凹部に向けて膨出している。
【0004】
また、中間筒4の内側に嵌合しているオリフィス構成部材7は、中間筒4の小径筒部4aより小径に形成した最小径筒部7aと、最小径筒部7aの上部から径方向外方に向けて延在する環状の上部平坦部7bと、最小径筒部7aの下部から径方向外方に向けて延在する環状の下部平坦部7cとを備えた部材であり、中間筒4の内周面との間に環状空間が画成されている。
【0005】
そして、支持弾性体3、中間筒4、外筒5、ダイアフラム6及びオリフィス構成部材7の一体部品を装置ケース8の下端開口部から内部に挿入し、上端かしめ部8aに中間筒4及び外筒5の上部を当接させた状態で装置ケース8上部に配設されている。
また、装置ケース8の下部には、シールリング9、可動部材10と一体化した板ばね11、ギャップ保持リング12、電磁アクチュエータ13、荷重センサ14が順次組み込まれており、これら部品の組み込みが完了した後に、装置ケース8の下端開口部を蓋部材15で閉塞して装置ケース8の下端部を径方向内方に向けてかしめていくことにより、上記部品が装置ケース8内に内蔵される。
【0006】
さらに支持弾性体3の空洞部3aからダイアフラム6が膨出している空間までの連通路に油等の流体が封入されているが、支持弾性体3の空洞部3aからオリフィス構成部材7と中間筒4の間の環状空間までの連通路を主流体室とすると、中間筒4に形成した開口部の近傍をオリフィスとし、ダイアフラム6に囲まれながら前記開口部に対向している領域を副流体室とした流体共振系が形成されている。
【0007】
そして、この防振支持装置1は、前記流体共振系のオリフィスを通じての主流体室及び副流体室間の流体の移動が可能な比較的低周波数の振動入力に対しては、オリフィス内の流体共振により高動バネ定数、高減衰力の防振支持装置となる一方、前記オリフィスを通じての流体の移動が不可能になる比較的高周波数の振動が入力した場合には、その振動入力による流体の圧力変動が相殺される様な制御信号を電磁アクチュエータ13に供給して可動部材10を変位させることにより、流体室内の容積が変化して(実際には変化させないようにして)低動バネ定数の防振支持装置となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記構成の防振支持装置1に対して振動体側から荷重(加振力)が入力すると、支持弾性体3が可動部材10側に向けて圧縮変形するが、若し、大荷重(大きな加振力)が入力すると、支持弾性体3の空洞部3a側の全周が、オリフィス構成部材7の環状の上部平坦部7bに当接して過剰に圧縮された状態となり、当接しないでさらに変形する部分との間に応力が集中して支持弾性体の耐久性を悪化させてしまう。
【0009】
このように、支持弾性体3の空洞部3a側の全周にわたって過剰に圧縮された状態となるため、支持方向(振動体を支持する方向)のばね定数が急激に高くなり、支持方向ばねが硬い支持弾性体3となってしまうので、振動伝達率が悪化してしまう。
また、大荷重が入力してもオリフィス構成部材7に当接しないように形成することも考えられるが、支持弾性体3の変形を規制するものがないため過度に変形してしまい、支持弾性体3の耐久性の点で好ましくないという問題が発生する。
【0010】
そこで、本出願人は、先に特願平10−68578にて提案しているようにオリフィス構成部材の上部平坦部をテーパ形状とすることにより、大荷重の入力により支持弾性体が過剰に圧縮しても支持弾性体の耐久性及び十分な振動低減効果を得ることができる防振支持装置及びこの装置を搭載した車両を提供している。しかしながら、上部平坦部を全周に渡ってテーパ形状とするために肉盛りしているため、その分だけ流体室の容積が小さくなり、制御性能が低下することが懸念されていた。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、振動体側及び支持体側間に支持弾性体を介在し、この支持弾性体に、軸心が振動体支持方向を向き且つ軸方向の一部に小径筒部を形成した第1筒状部材を結合し、前記小径筒部の内側に第2筒状部材を結合し、前記第1及び第2筒状部材の内側と前記支持弾性体の内面とで囲まれた空間に主流体室を配置し、前記小径筒部の外周面と前記第2筒状部材の内周面とで囲まれた環状空間に、容積可変の副流体室とオリフィスとを配置するとともに、前記主流体室の隔壁の一部を形成し且つその流体室の容積を変化させる方向に変位可能な可動部材と、この可動部材を前記方向に変位させるアクチュエータとを備えた防振支持装置において、前記第2筒状部材の前記支持弾性体の内面に面しており、前記支持弾性体の軸心に対して前記振動体の振動体入力方向に対向している部分の一部のみに、前記支持弾性体の内面に向けて突出する弾性体当接部を形成し、前記弾性支持体が前記第2筒状部材に向かって局部的に変形する場合に、この局部的に変形する部位に前記弾性体当接部を対向させた。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、振動体側及び支持体側間に支持弾性体を介在し、この支持弾性体に、軸心が振動体支持方向を向き且つ軸方向の一部に小径筒部を形成した第1筒状部材を結合し、前記小径筒部の内側に第2筒状部材を結合し、前記第1及び第2筒状部材の内側と前記支持弾性体の内面とで囲まれた空間に主流体室を配置し、前記小径筒部の外周面と前記第2筒状部材の内周面とで囲まれた環状空間に、容積可変の副流体室とオリフィスとを配置するとともに、前記主流体室の隔壁の一部を形成し且つその流体室の容積を変化させる方向に変位する磁化可能な可動部材と、駆動信号に応じて前記可動部材を変位させる電磁力を発生する電磁アクチュエータとを備えた防振支持装置において、前記第2筒状部材の前記支持弾性体の内面に面しており、前記支持弾性体の軸心に対して前記振動体の振動体入力方向に対向している部分の一部のみに、前記支持弾性体の内面に向けて突出する弾性体当接部を形成し、前記弾性支持体が前記第2筒状部材に向かって局部的に変形する場合に、この局部的に変形する部位に前記弾性体当接部を対向させた。
【0013】
また、請求項3に係る防振支持装置を搭載した車両は、前記請求項1又は2記載の防振支持装置を、車体に対して横向きに搭載した横置きエンジンを含むパワープラントに対して車体前後方向の前方及び後方に少なくとも一対、前記軸心を上下方向に向けて配置するとともに、これら防振支持装置の弾性主軸が前記軸心と一致せず車体の前方側に傾いた軸であるときには、前記第2筒状部材の弾性体当接部を前記車体の前方側に位置し、前記弾性主軸が前記軸心と一致せず車体の後方側に傾いた軸であるときには、前記第2筒状部材の弾性体当接部を前記車体の後方側に位置するようにした。
【0014】
【発明の効果】
請求項1の発明によると、振動体側或いは支持体側から大きな加振力が入力し、支持弾性体が過剰に圧縮されて第2筒状部材に向かって局部的に変形する場合、支持弾性体の軸心に対して振動体の振動入力方向であることから、その支持弾性体の局部的に変形する部位が、第2筒状部材の弾性体当接部に集中的に当接する。このように、弾性体当接部に支持弾性体が集中的に当接すると、第2筒状部材の支持弾性体に面する他の部分が支持弾性体に接触しないので、支持弾性体のばね定数が高くなることを防止できるとともに、支持弾性体の過大な弾性変形を防止して耐久性を向上させることができる。また、弾性体当接部は、支持弾性体の内面に面している部分の一部のみに形成していることから、この突出による主流体室に占める容積を最小にでき、主流体室の容積の低減による性能の低下を最小に抑えることができる。
【0015】
また、請求項2の発明によると、請求項1の発明と同様の効果を得ることができるとともに、振動体側或いは支持体側から大きな加振力が入力しても、支持弾性体の支持方向のばね定数が大きな値に変化しないので、振動伝達率が悪化せず、可動部材の変位量を増大させなくても十分に減衰効果を得ることができる。したがって、電磁アクチュエータの小型化を図ったり、コストの低減化を図ることができる。
【0016】
一方、請求項3記載の発明によると、車体に対して横向きに搭載した横置きエンジンを含むパワープラントを備えた車両がエンジンブレーキ等により減速するときには、車体の前方側に配置した防振支持装置にパワープラントからのトルク反力により支持弾性体を過剰に圧縮する加振力が作用する。ここで、この防振支持装置の上下方向を向く軸心に対して装置の弾性主軸が一致せず、車体の前方側に傾いた軸となっており、支持弾性体の車体の前方側が局部的に変形する場合には、本発明では、請求項1又は2記載の防振支持装置の第2筒状部材の弾性体当接部を車体の前方側に位置しておく。これにより、支持弾性体の車体の前方側が局部的に変形すると、その部分が第2筒状部材の弾性体当接部に集中的に当接し、第2筒状部材の支持弾性体に面する他の部分が支持弾性体に接触しないので、支持弾性体のばね定数が高くなることを防止できる。また、車両が急発進するときにも、車体の後方側に配置した防振支持装置にパワープラントからのトルク反力により支持弾性体を過剰に圧縮する加振力が作用する。ここで、この防振支持装置の軸心に対して装置の弾性主軸が一致せず、車体の後方側に傾いた軸となっており、支持弾性体の車体の後方側が局部的に変形する場合には、本発明では、請求項1又は2記載の防振支持装置の第2筒状部材の弾性体当接部を車体の後方側に位置しておく。これにより、支持弾性体の車体の後方側が局部的に変形すると、その部分が第2筒状部材の弾性体当接部に集中的に当接し、第2筒状部材の支持弾性体に面する他の部分が支持弾性体に接触しないので、支持弾性体のばね定数が高くなることが防止できる。
【0017】
したがって、本発明では、支持弾性体の耐久性が向上しながら十分に防振支持効果を得ることができるとともに、車室内において充分な静粛性を得ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、車両の能動型エンジンマウントとして搭載した防振支持装置を示すものであり、横置きに搭載したエンジン22の車体前後方向の前方及び後方に防振支持装置20A、20Bが配設されている。
【0019】
エンジン(振動体)22の車体前方に配設した防振支持装置20Aは、その上部がエンジン22のクランク軸の軸心Qより下側に位置するブラケット24を介して車体メンバ(支持体)28に取り付けられており、エンジン22の車体後方に配設した防振支持装置20Bは、その上部がエンジン22のクランク軸の軸心Qより上側に位置するブラケット26を介して車体メンバ28に取り付けられており、これら防振支持装置20A、20Bによって、エンジン22を含むパワーユニットから車体メンバ28に伝達される振動を能動的に低減する。なお、実際には、エンジン22及び車体メンバ28間には、防振支持装置20の他にエンジン22及び車体メンバ28間の相対変位に応じた受動的な支持力を発生する複数のエンジンマウントも介在している。受動的なエンジンマウントとしては、例えばゴム状の弾性体で荷重を支持する通常のエンジンマウントや、ゴム状の弾性体内部に減衰力発生可能に流体を封入してなる公知の流体封入式のマウントインシュレータ等が適用できる。
【0020】
次に、図2に示すものは、防振支持装置20A、20Bの具体的な構成を示すものであり、装置ケース43に外筒34、中間筒(第1筒状部材)36、オリフィス構成部材(第2筒状部材)37、支持弾性体32等のマウント部品を内蔵し、これらマウント部品の下部に、流体室84の隔壁の一部を形成しながら弾性支持された可動部材78を流体室84の容積が変化する方向に変位させる電磁アクチュエータ52と、車体メンバ28の振動状況を検出する荷重センサ54とを内蔵している。
【0021】
すなわち、防振支持装置20A、20Bは、連結ボルト30aを上方に向けて固定したエンジン側連結部材30を備えている。このエンジン側連結部材30の下部には、断面逆台形状の中空筒体30bが固定されている。
前記エンジン側連結部材30の下面側には、エンジン側連結部材30の下部側及び中空筒体30bの周囲を覆うように、支持弾性体32が加硫接着により固定されている。この支持弾性体32は、中央部から外周部に向けて緩やかに下方に傾斜する厚肉の略円筒状の弾性体であって、内面に断面山形状の空洞部32aが形成されている。そして、薄肉形状とした支持弾性体32の下端部は、軸心(以下、マウント軸と称する)P1 が中空筒体30bと同軸に振動体支持方向(この場合は、上下方向)を向く中間筒36の内周面に加硫接着により結合している。
【0022】
中間筒36は、同一外周径とした上端筒部36a及び下端筒部36bの間に小径筒部36cを連続して形成した部材であり、外周に環状凹部を設けている。また、図示しないが、小径筒部36cには開口部が形成されており、この開口部を介して中間筒36の内側及び外側が連通している。
中間筒36の外側には外筒34が嵌合しており、この外筒34は内周径を中間筒36の上端筒部36a及び下端筒部36bの外周径と同一寸法とし、軸方向の長さを中間筒36と同一寸法に設定した円筒部材である。また、この外筒34には開口部34aが形成されており、この開口部34aの開口縁部にゴム製の薄膜弾性体からなるダイアフラム42の外周が結合して開口部34aを閉塞しつつ、外筒34の内側に向けて膨出している。
【0023】
そして、上記構成の外筒34を、環状凹部を囲むように中間筒36に外嵌すると、外筒34及び中間筒36間の周方向に環状空間が画成され、その環状空間にダイアフラム42が膨出した状態で配設される。そして、中間筒36の内側に、筒状のオリフィス構成部材37が嵌合している。
このオリフィス構成部材37は、支持弾性体32に下方から対向している環状の上部平坦部(平坦部)37aと、この上部平坦部37aの一部から上方に突出して支持弾性体32に近接している弾性体当接部37bと、上部平坦部37aの内側から連続し、径方向内方に向かうに従い支持弾性体32から徐々に離間する下り傾斜面を付けて形成した傾斜部37cと、傾斜部37cの下部から連続している小径筒部37dと、小径筒部37dの下部から径方向外方に延在している環状の下部平坦部37eとで構成されている。また、傾斜部37c及び小径筒部37dにかけて第2開口部37fが形成されている。
【0024】
そして、上部平坦部37a、傾斜部37c、小径筒部37d及び下部平坦部37eとで囲む外周位置と中間筒36との間に環状空間が設けられている。
また、装置ケース43は、その上端部に上端筒部36aの外周径より小径の円形開口部を有する上端かしめ部43aが形成されているとともに、この上端かしめ部43aと連続するケース本体の形状を、内周径が外筒34の外周径と同一寸法で下端開口部まで連続する円筒形状(下端開口部を図2の破線で示した形状)とした部材であり、全てのマウント部品の組み込みが完了した後に下端開口部を径方向内方に向けてかしめていくことにより、図2の実線で示すかしめ部が形成される。
【0025】
そして、支持弾性体32、中間筒36、オリフィス構成部材37及びダイアフラム42を一体化した外筒34を装置ケース43の下端開口部から内部に嵌め込んでいき、上端かしめ部43aの下面に外筒34及び中間筒36の上端部を当接させると、それらが装置ケース43内の上部に配設される。この際、装置ケース43の内周面とダイヤフラム42とで囲まれた部分に空気室42cが画成されるが、この空気室42cを臨む位置に空気孔43cが形成されており、この空気孔43cを介して空気室42cと大気が連通している。
【0026】
装置ケース43内の下部には円筒状のスペーサ70が嵌め込まれており、このスペーサ70内の上部に可動部材78が配置されているとともに、スペーサ70内の下部に電磁アクチュエータ52が配置されている。
前記スペーサ70は、円筒状の上部筒体70aと、円筒状の下部筒体70bと、これら筒体の上下端部間に加硫接着したゴム製の薄膜弾性体からなる略円筒状のダイアフラム70cとで構成されている。
【0027】
前記電磁アクチュエータ52は、外観円筒形のヨーク52aと、ヨーク52aの上端面側に配設した円環状の励磁コイル52bと、ヨーク52aの上面中央部に磁極を上下方向に向けて固定した永久磁石52cとで構成されている。また、前記ヨーク52aは、円環状の第1ヨーク部材53aと、中央円筒部に永久磁石52cを固定した第2ヨーク部材53bとで構成されている。
【0028】
そして、上部及び下部筒体70a、70b間のダイアフラム70cは、ヨーク52aの外周に形成した凹部52dに向かって膨出している。
また、ヨーク52aの下面と、車体側連結ボルト60を備えた蓋部材62との間には、振動低減制御に必要な残留振動を検出るために、加重センサ64が介装されている。荷重センサ64としては、圧電素子,磁歪素子,歪ゲージ等が適用可能であり、このセンサの検出結果が残留振動信号として、図1に示すコントローラ25に供給されるようになっている。
【0029】
一方、前記電磁アクチュエータ52の上方には、シール部材固定用のシールリング72と、後述する板ばね82の外周部を下側から自由端支持する支持リング74と、電磁アクチュエータ52の永久磁石52c及び可動部材78間のギャップHを設定するギャップ保持リング76とが配置されている。これらシールリング72、支持リング74及びギャップ保持リング76の外周径は、前述したスペーサ70の上部筒体70aの内周径と同一寸法に設定されており、ヨーク52aから上方に突出している上部筒体70a内にシールリング72、支持リング74及びギャップ保持リング76の全てが内嵌されている。そして、これらシールリング72、支持リング74及びギャップ保持リング76の内側には、上下方向に変位可能となるように可動部材78が配置されている。
【0030】
この可動部材78は、外観円盤状の隔壁形成部材78Aと、この隔壁形成部材78Aより大径円盤状に形成した磁路形成部材78Bとで構成した部材であって、電磁アクチュエータ52に対して遠い方に位置する隔壁形成部材78Aの軸心にボルト孔80aを形成し、電磁アクチュエータ52に近い磁路形成部材78Bを貫通した可動部材用ボルト80がボルト孔80aに螺合することにより、隔壁形成部材78A及び磁路形成部材78Bを一体に連結した構造となっている。
【0031】
隔壁形成部材78A及び磁路形成部材78B間には、リング状に連続したくびれ部79が画成されているが、このくびれ部79に可動部材78を弾性支持するための板ばね82が収容されている。つまり、板ばね82は、中央部に孔部を形成した円盤形状の部材であり、この板ばね82の内周部を隔壁形成部材78Aの裏面中央部の下側から自由端支持し、板ばね82の外周部を支持リング74のばね支持部74aが下側から自由端支持しており、これにより可動部材78が装置ケース43に板ばね82を介して弾性支持されている。
【0032】
前記隔壁形成部材78Aは、流体室84に面している隔壁部80cの肉厚を薄くし、隔壁部80cの外周から上方に突出する環状のリブ80bを形成した部材である。そして、隔壁形成部材78の上面と、支持弾性体32の下面と、オリフィス構成部材37の内周面とで流体室84が形成され、この流体室84内に流体が封入される。
【0033】
また、流体室84から板ばね82を収容しているくびれ部79側への流体の漏洩を防止するため、隔壁形成部材78Aの外周とシールリング72の内周との間には、ゴム状弾性体からなるリング形状のシール部材86が固定されており、このシール部材86の弾性変形によって、シールリング7や装置ケース43に対する可動部材78の上下方向への相対変位を許容している。
【0034】
次に、アイドル振動、高周波の振動(例えば、こもり音振動)が入力した場合の本実施形態の防振支持装置20A、20Bの振動入力減衰作用について説明する。
本実施形態の防振支持装置20A、20Bは、支持弾性体32の空洞部32aとオリフィス構成部材37の軸中央空間とが連通し、オリフィス構成部材37の軸中央空間及びオリフィス構成部材37と中間筒36との間の環状空間が、第2開口部37dを介して連通し、前記環状空間及びダイアフラム42が膨出している空間が、中間筒36に形成した開口部を介して連通しており、これら支持弾性体32の空洞部32aからダイアフラム42が膨出している空間までの連通路内に、油等の流体が封入されている。
【0035】
そして、支持弾性体32の空洞部32aからオリフィス構成部材37と中間筒36との間の環状空間までの連通路を主流体室84とすると、中間筒36に形成した開口部の近傍をオリフィスとし、この開口部に対向しながらダイアフラム42に囲まれている領域を副流体室とした流体共振系が形成されている。この流体共振系の特性、即ち、オリフィス内の流体の質量と、支持弾性体32の拡張方向ばね、ダイアフラム42の拡張方向ばねで決まる特性は、車両停止中のアイドル振動の発生時、つまり20〜30Hzで防振支持装置20A、20Bが加振された場合に高動ばね定数、高減衰力を示すように調整されている。
【0036】
一方、電磁アクチュエータ52の励磁コイル52bは、コントローラ25から供給される電流である駆動信号yに応じて所定の電磁力を発生するようになっている。コントローラ25は、マイクロコンピュータ,必要なインタフェース回路,A/D変換器,D/A変換器,アンプ、ROM,RAM等の記憶媒体等を含んで構成され、エンジン22で発生する振動を低減できる能動的な支持力が防振支持装置20に発生するように、防振支持装置20A、20Bに対する駆動信号y1 、y2 を生成し出力するようになっている。
【0037】
また、前述したように防振支持装置20A、20Bには荷重センサ64が内蔵されており、車体18の振動状況を荷重の形で検出し残留振動信号e1 、e2 として出力し、それら残留振動信号e1 、e2 が干渉後における振動を表す信号としてコントローラ25に供給されている。
ここで、エンジン22で発生するアイドル振動やこもり音振動は、例えばレシプロ4気筒エンジンの場合、エンジン回転2次成分のエンジン振動が車体メンバ28に伝達されることが主な原因であるから、そのエンジン回転2次成分に同期して駆動信号y1 、y2 を生成し出力すれば、車体側振動の低減が可能となる。そこで、本実施の形態では、エンジン22のクランク軸の回転に同期した(例えば、レシプロ4気筒エンジンの場合には、クランク軸が180度回転する度に一つの)インパルス信号を生成し基準信号xとして出力するパルス信号生成器19を設けていて、その基準信号xが、コントローラ25に供給されている。
【0038】
そして、コントローラ25は、供給される残留振動信号e1 、e2 及び基準信号xに基づき、逐次更新型の適応アルゴリズムの一つである同期式Filtered−X LMSアルゴリズムを実行することにより、防振支持装置20A、20Bに対する駆動信号y1 、y2 を演算し、その駆動信号y1 、y2 を防振支持装置20A、20Bに出力するようになっている。
【0039】
具体的には、コントローラ25は、フィルタ係数Wi (i=0,1,2,…,I−1:Iはタップ数)可変の適応ディジタルフィルタWを有していて、最新の基準信号xが入力された時点から所定のサンプリング・クロックの間隔で、その適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を順番に駆動信号yj (j=1、2)として出力する一方、基準信号x及び残留振動信号ej に基づいて適応ディジタルフィルタWのフィルタ係数Wi を適宜更新する処理を実行するようになっている。
【0040】
適応ディジタルフィルタWの更新式は、Filtered−X LMSアルゴリズムに従った下記の(1)式のようになる。
i (n+1)=Wi (n)−μRT e(n) ……(1)
ここで、(n),(n+1)が付く項はサンプリング時刻n,n+1における値であることを表し、μは収束係数である。また、更新用基準信号RT は、理論的には、基準信号xを、防振支持装置20の電磁アクチュエータ52及び荷重センサ64間の伝達関数Cを有限インパルス応答型フィルタでモデル化した伝達関数フィルタC^でフィルタ処理した値であるが、基準信号xの大きさは“1”であるから、伝達関数フィルタC^のインパルス応答を基準信号xに同期して次々と生成した場合のそれらインパルス応答波形のサンプリング時刻nにおける和に一致する。また、理論的には、基準信号xを適応ディジタルフィルタWでフィルタ処理して駆動信号yを生成するのであるが、基準信号xの大きさが“1”であるため、フィルタ係数Wi を順番に駆動信号yとして出力しても、フィルタ処理の結果を駆動信号yj としたのと同じ結果になる。
【0041】
そして、高周波の振動が入力している場合には、その振動と同じ周期で且つ位相が逆相の制御振動が防振支持装置20に発生して、車体メンバ28への振動の伝達力が“0”となるように(より具体的には、エンジン22側の振動によって防振支持装置20A、20Bに入力される加振力が、電磁アクチュエータ52の電磁力に得られる制御力で相殺されるように)、駆動信号y1 、y2 を生成し励磁コイル52bに供給するようになっている。
【0042】
この結果、励磁コイル52bに駆動信号y1 、y2 に応じた磁力が発生するが、磁路形成部材78Bには、既に永久磁石52cによる一定の磁力が付与されているから、その励磁コイル52bによる磁力は永久磁石52cの磁力を強める又は弱めるように作用すると考えることができる。このように、永久磁石52cの磁力が強まったり、弱まったりすると可動部材78が正逆両方向に変位し、可動部材78が変位すれば、流体室84の隔壁の一部を形成する隔壁形成部材78Aも変位し、これにより流体室84の容積が変化し、その容積変化によって支持弾性体32の拡張ばねが変形するから、防振支持装置20A、20Bに正逆両方向の能動的な支持力が発生するのである。
【0043】
次に、エンジン22に対する本実施形態の防振支持装置20A、20Bの配置位置と、それによる本実施形態特有の作用効果について図面を参照しながら説明する。
図3は、エンジン22に対して車体前方側に配置した防振支持装置20Aの一部を示すものであり、この防振支持装置20Aは、オリフィス構成部材37の上部平坦部37aから上方に突出している弾性体当接部37bを車体前方に位置させている。また、図4は、エンジン22に対して車体後方側に配置した防振支持装置20Bの一部を示すものであり、この防振支持装置20Bは、オリフィス構成部材37の弾性体当接部37bを車体後方に位置させている。
【0044】
車両がエンジンブレーキ等により減速するときには、エンジン22に対して車体前方側に配置した防振支持装置20Aに、エンジン22側からのトルク反力によって下向きの大きな荷重(加振力)Fが入力し、支持弾性体32が過剰に圧縮された状態となる。
ここで、図1に示したように、エンジン22の車体前方に配設した防振支持装置20Aはクランク軸の軸心Qより下側に位置しているので、荷重Fによって圧縮される支持弾性体32の変位中心線、すなわち弾性主軸M1 は、マウント軸P1 と一致せず車体の前方側に傾いた軸となる。この弾性主軸M1 に沿って支持弾性体32の車体前方側32bが大きく変形してオリフィス構成部材37に当接するが、その当接する部分は、図3に示すように、車体前方に位置した弾性体当接部37bに集中する。この弾性体当接部37bに支持弾性体32が集中して当接することにより、他の上部平坦部37aに支持弾性体32が接触しないので、支持弾性体32の支持方向のばね定数が硬くならない。また、上部平坦部37aの一部のみに弾性体当接部37bを形成するだけであるから流体室84に占める容積も最小にすることができる。
【0045】
また、車両が急発進するときには、エンジン22に対して車体後方側に配置した防振支持装置20Bに、エンジン22側からのトルク反力によって下向きの大きな荷重Fが入力し、支持弾性体32が過剰に圧縮された状態となる。
図1に示したように、エンジン22の車体後方に配設した防振支持装置20Bはクランク軸の軸心Qより上側に位置しているので、支持弾性体32の弾性主軸M2 は、マウント軸P1 と一致せず車体の後方側に傾いた軸となる。この弾性主軸M2 に沿って支持弾性体32の車体後方側32cが大きく変形し、オリフィス構成部材37に当接するが、その当接する部分は、図4に示すように、車体後方に位置した弾性体当接部37bに集中する。この弾性体当接部37bに支持弾性体32が集中して当接することにより、他の上部平坦部37aには支持弾性体32が接触しないので、支持弾性体32の支持方向のばね定数が硬くならない。
【0046】
したがって、本実施形態では、車両の急発進時、減速時にエンジン22側からのトルク反力によって下向きの大きな荷重Fが入力しても、支持弾性体32がオリフィス構成部材37の弾性体当接部37bに局部的に当接し、支持弾性体32の支持方向のばね定数が硬くならない特性となるので、振動伝達率が急激に悪化するおそれがない。そのため、可動部材78の変位量を増大させなくても十分に減衰効果を得ることができるので、車室内において十分な静粛性を得ることができるとともに、電磁アクチュエータ52の小型化を図ったり、コストの低減化を図ることができる。
【0047】
また、支持弾性体32がオリフィス構成部材37の弾性体当接部37bに局部的に当接することによって支持弾性体32の過度の変位を防止することができ、大きな加振入力があっても支持弾性体32の過大変位を規制できるので、支持弾性体32の耐久性を向上させることができる。
なお、本発明の適用対象は車両に限定されるものではなく、エンジン22以外で発生する振動を低減するための防振支持装置であっても本発明は適用可能であり、適用対象に関係なく上記各実施の形態と同様の作用効果を奏することができる。例えば、工作機械からフロアや室内に伝達される振動を低減する防振支持装置であっても、本発明は適用可能である。
【0048】
また、上記各実施の形態では、駆動信号yを生成するアルゴリズムとして同期式Filtered−X LMSアルゴリズムを適用しているが、適用可能なアルゴリズムはこれに限定されるものではなく、例えば、通常のFiltered−X LMSアルゴリズム等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る防振支持装置の配置状態を示す全体構成図である。
【図2】本発明に係る防振支持装置の構成を示す断面図である。
【図3】車体の前後方向の前方側に配置した防振支持装置の内部を示す図である。
【図4】車体の前後方向の後方側に配置した防振支持装置の内部を示す図である。
【図5】先行する防振支持装置を示す図である。
【符号の説明】
22 エンジン(振動体)
28 車体メンバ(支持体)
20A、20B 防振支持装置
32 支持弾性体
32b 支持弾性体の車体前方側の内面
32c 支持弾性体の車体後方側の内面
36 中間筒(第1筒状部材)
36c 小径筒部36c
37 オリフィス構成部材(第2筒状部材)
37a 上部平坦部(平坦部)
37b 弾性体当接部
42 ダイアフラム
52 電磁アクチュエータ
1 マウント軸(防振支持装置の軸心)
1 、M2 弾性主軸

Claims (3)

  1. 振動体側及び支持体側間に支持弾性体を介在し、この支持弾性体に、軸心が振動体支持方向を向き且つ軸方向の一部に小径筒部を形成した第1筒状部材を結合し、前記小径筒部の内側に第2筒状部材を結合し、前記第1及び第2筒状部材の内側と前記支持弾性体の内面とで囲まれた空間に主流体室を配置し、前記小径筒部の外周面と前記第2筒状部材の内周面とで囲まれた環状空間に、容積可変の副流体室とオリフィスとを配置するとともに、前記主流体室の隔壁の一部を形成し且つその流体室の容積を変化させる方向に変位可能な可動部材と、この可動部材を前記方向に変位させるアクチュエータとを備えた防振支持装置において、
    前記第2筒状部材の前記支持弾性体の内面に面しており、前記支持弾性体の軸心に対して前記振動体の振動体入力方向に対向している部分の一部のみに、前記支持弾性体の内面に向けて突出する弾性体当接部を形成し、前記弾性支持体が前記第2筒状部材に向かって局部的に変形する場合に、この局部的に変形する部位に前記弾性体当接部を対向させることを特徴とする防振支持装置。
  2. 振動体側及び支持体側間に支持弾性体を介在し、この支持弾性体に、軸心が振動体支持方向を向き且つ軸方向の一部に小径筒部を形成した第1筒状部材を結合し、前記小径筒部の内側に第2筒状部材を結合し、前記第1及び第2筒状部材の内側と前記支持弾性体の内面とで囲まれた空間に主流体室を配置し、前記小径筒部の外周面と前記第2筒状部材の内周面とで囲まれた環状空間に、容積可変の副流体室とオリフィスとを配置するとともに、前記主流体室の隔壁の一部を形成し且つその流体室の容積を変化させる方向に変位する磁化可能な可動部材と、駆動信号に応じて前記可動部材を変位させる電磁力を発生する電磁アクチュエータとを備えた防振支持装置において、
    前記第2筒状部材の前記支持弾性体の内面に面しており、前記支持弾性体の軸心に対して前記振動体の振動体入力方向に対向している部分の一部のみに、前記支持弾性体の内面に向けて突出する弾性体当接部を形成し、前記弾性支持体が前記第2筒状部材に向かって局部的に変形する場合に、この局部的に変形する部位に前記弾性体当接部を対向させることを特徴とする防振支持装置。
  3. 前記請求項1又は2記載の防振支持装置を、車体に対して横向きに搭載した横置きエンジンを含むパワープラントに対して車体前後方向の前方及び後方に少なくとも一対、前記軸心を上下方向に向けて配置するとともに、これら防振支持装置の弾性主軸が前記軸心と一致せず車体の前方側に傾いた軸であるときには、前記第2筒状部材の弾性体当接部を前記車体の前方側に位置し、前記弾性主軸が前記軸心と一致せず車体の後方側に傾いた軸であるときには、前記第2筒状部材の弾性体当接部を前記車体の後方側に位置することを特徴とする防振支持装置を搭載した車両。
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