JP3593140B2 - 二次電池負極用炭素材料の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は近年急速に開発が進められているリチウムイオン二次電池の負極に使用される炭素材料の製造方法に係わる。
【0002】
【従来の技術】
リチウムイオン二次電池は優れた電池容量とサイクル寿命を有し、また環境汚染上の問題の少ないことから現在の主流であるニッケル・カドミウム電池に代わる次世代の二次電池として注目を浴びている。リチウムイオン二次電池が実用化可能となったのは、負極材料として安全性に問題のあったリチウム金属に代わり、リチウムイオンをインターカレートした炭素材料が安定したドープ材料となりうることが発見されてからであり、リチウムイオン二次電池の実用化と性能向上に果たす炭素材料の役割は大きい。こうした中で炭素材料に関する多くの発明考案がなされてきた。中でも、特開平4−115458号、特開平4−184862号、特開平4−188559号、特開平4−190556号、特開平4−190557号、特開平4−332484号等に、ピッチ類を熱処理する際にピッチ中に生成するメソフェーズカーボン小球体を高温処理した炭素材料の使用が、リチウムイオン二次電池の負極に適していることが示されている。
【0003】
これは、メソフェーズカーボン小球体が数十〜数μmの微小な球体であり、リチウムイオンの挿入・離脱のサイトが多いこと、電極製造時において電極の単位表面積当たりの炭素材料の充填率が大きくとれることに加えて、メソフェーズカーボン小球体が1000℃以上の高温処理によって適度な黒鉛構造を取りうることに起因するためと考えられている。
【0004】
炭素を用いたリチウムイオン二次電池での、負極におけるリチウムイオンの挿入・離脱の機構は現在の処充分に理解されてはいない。黒鉛層間化合物との類似性から黒鉛構造との関連性が言われているものの、電解質や溶媒などの電池の構成要素により最適な黒鉛構造は異なると言われている。
【0005】
たとえば、特開平4−190556号では、炭素のX線回折におけるC軸方向の結晶格子の厚み(Lc)が200Å以下であって、かつA軸方向の結晶格子の厚み(La)との比Lc/Laが1.3以上である炭素材料が負極として良い性能を与えること、また、特開平4−190557号では、Laが150Å以上であって、かつLc/Laが1.67以下である炭素材料が負極として良い性能を与えることが述べられている。また、特開平4−188559号では、格子面間隔(d002)が3.45Å以下であって、かつLcが300Å以上である炭素材料が負極として良い性能を与えるとしている。さらに、特開平4−184862号では、d002が3.35〜3.40であって、かつLcおよびLaが200Å以上であり、かつ真密度が2.00〜2.25g/cm2 である炭素材料がリチウムイオン二次電池負極用炭素材料として好適であることが述べられている。
【0006】
このようにリチウムイオン二次電池負極用炭素材料としての最適な黒鉛構造は千差万別であり、それぞれの電池が好適な黒鉛構造をもつ炭素材料を提供することが必要となっており、黒鉛構造の制御が負極用炭素材料を提供するにあたって重要な課題となっている。
【0007】
一方、電池という限られた空間において最大の電池容量を実現するには、負極用炭素材料の集電板上での充填率を最大にする必要があり、このため球形を有するメソフェーズカーボン小球体は好適とされる。
また、この際にメソカーボン小球体の粒径は重要である。たとえば特開平5−36413号では、粒径が5〜10μm以下の炭素質材料の使用によって自己放電が起きること、および大粒径炭素の存在により、これがセパレーターを貫通して内部ショートが発生しやすくなる他、充填密度の低下が起きて放電容量等の点において不都合が生じることが述べられている。このため、電池に好適な粒径をもつ炭素材料を提供することが必要となっている。
【0008】
しかしながら、メソフェーズカーボン小球体は高温処理(約500〜600℃)時に融着を起こし、球体の維持が困難となるため、工業的に安定して上記の特性(高充填率)を有する負極材に適した炭素材料を供給することは困難であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
一般にメソフェーズカーボン小球体は、石油ピッチやコールタール、コールタールピッチ、エチレンボトム油等を常圧もしくは加圧下において350〜500℃で熱処理することによって発生する光学的異方性小球体を、トルエン、ピリジン、タール軽油、粗ナフタレン油、洗浄油、脱晶アントラセン油等の溶剤でマトリックス成分と呼ばれる小球体以外の成分と分離することで得られる。
さらに、得られたメソフェーズカーボン小球体を不活性ガス雰囲気下もしくは還元性ガス雰囲気下で1000〜3000℃で焼成処理することによりリチウムイオン二次電池負極用炭素材料とする。
【0010】
しかしながら、こうして得られる炭素材料は原料とするピッチやタールの品質、熱処理での条件によって粒径は数μm〜数十μmと変動する。また、かかる製造方法では、大きい昇温温度で1000℃の加熱処理を実施すると、メソフェーズカーボン小球体中に残る軽質分の影響でメソフェーズ小球体の軟化が促進されて溶融焼結することにより、平均粒径が好適に制御された球状の炭素質を効率よく得ることはできなくなる。
【0011】
したがって、本発明は、上述した従来技術の欠点を解消し、リチウムイオン二次電池の負極用炭素として平均粒径が好適に制御された球状の炭素質を効率良く得ることができる二次電池負極用炭素材料の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解説するための手段】
上記のような問題点は、次のような方法をとることにより解決することができる。
【0013】
▲1▼ 本発明者らは、メソフェーズ小球体の溶融が550℃までに起きること、さらに、溶融の程度は昇温速度によって異なり、昇温速度が遅いほど溶融の程度が少なくなることを見出した。したがって、メソフェーズ小球体を目標とする粒度に粉砕した後、溶融のおきる温度以上の600〜700℃までの熱処理を10℃/hr以下の昇温速度で実施することによって粒子の融着が起きにくくなるため、粉砕した粒度を維持したままで炭素材の製造が可能である。
▲2▼ また、熱処理時の溶融を防止するために不融化処理を行うことも有効である。これには酸化性雰囲気下で300℃以下の温度で酸化処理を実施すればよい。
▲3▼ また、本発明者らは、メソフェーズ小球体の溶融が550℃までに起きること、さらに、焼結の進行する反応がさらに高温であることを見出した。したがって、溶融のおきる温度で熱処理した小球体は焼結力が弱く粉砕が容易であることから、600〜700℃の温度範囲内まで熱処理した後、ここで一旦熱処理を停止して粉砕して粒度を調整してやれば、その後の1000〜3000℃の熱処理を行っても球形が維持され、なおかつ好適な黒鉛化度の炭素質球体が得られる。
▲4▼ また、これら以外の方法として、1000〜3000℃の熱処理を行った後に粉砕を実施することも有効である。
【0014】
すなわち本発明は、フリーカーボンを含有するコールタールを350〜500℃で熱処理し、生成するメソフェーズカーボン小球体をピッチマトリックスから有機溶剤で洗浄分離した後、粉砕を行い平均粒径を3〜10μmとし、さらに10℃/hr以下の昇温速度で600〜700℃の温度範囲内まで昇温し、該温度範囲内での熱処理を行い、その後、1000〜3000℃で焼成することを特徴とする二次電池負極用炭素材料の製造方法を提供するものである。
【0015】
また本発明は、フリーカーボンを含有するコールタールを350〜500℃で熱処理し、生成するメソフェーズカーボン小球体をピッチマトリックスから有機溶剤で洗浄分離した後、粉砕を行い平均粒径を3〜10μmとし、その後酸化性雰囲気中で300℃以下の温度で酸化処理を施し、その後、1000〜3000℃で焼成することを特徴とする二次電池負極用炭素材料の製造方法を提供するものである。
【0018】
【作用】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
メソフェーズカーボン小球体の原料(特にコールタール)中にはフリーカーボンと呼ばれる成分が含まれている。フリーカーボンとは、コークス炉での上部空間でタールが800℃以上に急速に加熱された時に生成する非晶質炭素であり、難黒鉛化性炭素材料に属しコールタール中のQI(キノリン不溶成分)として定量化が可能である。
【0019】
コールタール中に含まれるフリーカーボン(以下FCと称する)量はメソフェーズカーボン小球体の発生およびかかるメソフェーズカーボン小球体の粒径およびこれを焼成、黒鉛化した際の黒鉛構造に大きな影響を及ぼす。このため、コールタール中のFCは0.5重量%以上であって5.0重量%以下であることが望ましい。
FCが0.5重量%未満ではメソフェーズカーボン小球体を発生させる400℃前後での熱処理時に、発生したメソフェーズ小球体が反応中に沈降してコークスが容易に生成し、球体を工業的に得ることはできない。
また、FCが5.0重量%を越える場合にはメソフェーズ小球体中のFC量が多くなり、その後の焼成によっても黒鉛構造が発達しない。このため、リチウムイオン二次電池負極用炭素材料として求められる黒鉛構造を満足しない。
【0020】
このようなコールタールを350〜500℃で熱処理するとメソフェーズカーボン小球体が生成する。これを溶剤で洗浄し、マトリックスからメソフェーズカーボン小球体を分離する。この時に使用する溶剤の種類および洗浄の温度は、得られたメソフェーズカーボン小球体を焼成、黒鉛化した際の黒鉛構造に大きな影響を及ぼす。なぜなら、これらの洗浄によって得られるメソフェーズカーボン小球体にはキノリン可溶分(QS)と呼ばれる比較的に分子量の低い成分が残存し、これらの成分は焼成、黒鉛化を経ることで黒鉛化度の低い非晶質炭素となるからである。このキノリン可溶分は、メソフェーズカーボン小球体を過剰量のアセトンで洗浄した後、これをさらにキノリンで洗浄することによって溶解してくる成分として定量できる。
【0021】
前記溶剤としては通常、芳香族系の溶剤が使用される。好適な溶剤はベンゼン、トルエン、ピリジン、キノリン、タール軽油、粗ナフタレン油、洗浄油、脱晶アントラセン油等のピッチ類に対し強い抽出力を有する沸点120〜280℃までの範囲に入る有機溶剤を使用すると良い。これらの有機溶剤は単独で用いても良いし二種以上を混合して用いても良い。洗浄温度は50℃から溶剤の沸点までが好適である。これより温度が低いと洗浄力が極端に低下する。キノリン可溶分は目標とする黒鉛化度によって異なるが、通常、キノリン可溶分で50〜0%である。キノリン可溶分が多ければ黒鉛化したときの黒鉛化度は低下し、少なければ黒鉛化度は高くなる。
【0022】
洗浄後のメソフェーズ小球体は窒素などの不活性雰囲気下もしくは減圧下で乾燥させて洗浄溶剤を除去する。
【0023】
乾燥したメソフェーズカーボン小球体は以下の方法で粉砕、熱処理を経て黒鉛化した球状の炭素質粒子とするが、これには先述した方法のいずれも用いることが可能である。
目標とする球状炭素質粒子の平均粒径は3〜10μmであるのが望ましい。平均粒径が3μmに満たない場合には自己放電が著しくなる、副反応が起きるなど望ましくない。また平均粒径が10μmを越えると極板上への炭素材の充填密度が低下し、体積当たりの容量が低下する。
【0024】
(方法1)
乾燥後のメソフェーズカーボン小球体を粉砕し平均粒径を3〜10μmとする。この際に使用される粉砕機は一般的に使用されるどのような粉砕機でも使用可能であるが、粉砕後の粒子の形状から、より望ましくはジェットミルが好適である。
粉砕後のメソフェーズカーボン小球体は10℃/hr以下の昇温速度で600〜700℃の温度で熱処理される。昇温速度が10℃/hrを超えると粒子表面が溶融し粒子同士の融着が発生して望ましくない。
この後、さらに1000〜3000℃までの温度で熱処理し黒鉛化する。
【0025】
(方法2)
粉砕までは方法1と同様に行い、その後、不融化を実施する。不融化には通常行われる空気酸化が好適である。粉砕後のメソフェーズカーボン小球体を空気中またはCO2 等の酸化性ガス雰囲気下にて300℃以下の温度で、後工程である1000〜3000℃の温度範囲で行う熱処理時に溶融しなくなるまで酸化する。
この後、さらに1000〜3000℃までの温度で熱処理し黒鉛化する。
【0028】
本発明方法においては、黒鉛化後の炭素材の球形度維持の面からは、方法1または方法2が最も好ましい。
これは低温(350〜500℃)での熱処理後の段階で、粉砕を行えば、カーボンの硬度が小で、軽度の粉砕で良く、球形度が最も良好に保持されるためである。
【0030】
【実施例】
以下に本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
<実施例1>
フリーカーボン(QI)を1.5%含有するコールタール10重量部を450℃で0.2hr熱処理してメソフェーズカーボン小球体を生成させた。かかる熱処理ピッチをタール中油(bp130〜250℃)60重量部を使用して140℃で2回の洗浄を行い、ピッチマトリックス中から平均粒径22μmのメソフェーズカーボン小球体3.4重量部を分離した。かかる小球体を窒素雰囲気下で100℃で7時間で乾燥させた。さらにジェットミルを使用し平均粒径5.0μmの粉末とした。これをアルゴン雰囲気下で昇温速度5℃/hrで600℃まで昇温し、さらに、3時間で2500℃まで昇温し黒鉛化した。黒鉛化した試料のSEM写真を図1に示す。得られた炭素質球体の平均粒径は4.6μmで球形を維持しており、X線回折による解析から、d(002)=3.39Å、Lc(002)=360Åであった。
【0031】
<実施例2>
粉砕までを実施例1と同様の方法で得たメソカーボン小球体を空気中にて250℃で酸化した後、アルゴン雰囲気下で3時間で2500℃まで昇温し黒鉛化した。得られた炭素質球体の平均粒径は4.4μmで球形を維持しており、X線回折による解析から、d(002)=3.39Å、Lc(002)=360Åであった。
【0034】
<比較例1>
実施例1の方法で600℃までを100℃/hrで昇温させたところ、粒子が融着し元の粒径は維持できなかった。
【0035】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、コールタールの熱処理により得られるメソフェーズカーボン小球体の球体という特性を、その後の黒鉛化後迄維持することが可能となり、本発明により製造された炭素質粉末をリチウムイオン二次電池の負極用炭素に用いた場合、集電板上での充填率が最大となり、電池容量を大とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた黒鉛化試料の結晶構造を示す走査型電子顕微鏡による図面代用写真。
Claims (3)
- フリーカーボンを含有するコールタールを350〜500℃で熱処理し、生成するメソフェーズカーボン小球体をピッチマトリックスから有機溶剤で洗浄分離した後、粉砕を行い平均粒径を3〜10μmとし、さらに10℃/hr以下の昇温速度で600〜700℃の温度範囲内まで昇温し、該温度範囲内での熱処理を行い、その後、1000〜3000℃で焼成することを特徴とする二次電池負極用炭素材料の製造方法。
- フリーカーボンを含有するコールタールを350〜500℃で熱処理し、生成するメソフェーズカーボン小球体をピッチマトリックスから有機溶剤で洗浄分離した後、粉砕を行い平均粒径を3〜10μmとし、その後酸化性雰囲気中で300℃以下の温度で酸化処理を施し、その後、1000〜3000℃で焼成することを特徴とする二次電池負極用炭素材料の製造方法。
- コールタールのフリーカーボン含有量は0.5〜5重量%である請求項1または2に記載の二次電池負極用炭素材料の製造方法。
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JP08542194A JP3593140B2 (ja) | 1994-03-31 | 1994-03-31 | 二次電池負極用炭素材料の製造方法 |
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JPH07272725A JPH07272725A (ja) | 1995-10-20 |
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1994
- 1994-03-31 JP JP08542194A patent/JP3593140B2/ja not_active Expired - Lifetime
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