JP3588968B2 - ビスカスヒータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粘性流体をせん断により発熱させ、放熱室内を循環する循環流体に熱交換して暖房熱源に利用するビスカスヒータに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、実開平3−98107号公報に能力可変のビスカスヒータが開示されている。このビスカスヒータでは、前部及び後部ハウジングが対設された状態で締結され、内部に発熱室と、この発熱室の外域にウォータジャケットとを形成している。ウォータジャケット内では循環水が入水ポートから取り入れられ、出水ポートから外部の暖房回路へ送り出されるべく循環されている。前部及び後部ハウジングには軸受装置を介して駆動軸が回動可能に支承され、駆動軸には発熱室内で回動可能なロータが固着されている。発熱室の壁面とロータの外面とは互いに近接する軸方向のラビリンス溝を構成し、これら発熱室の壁面とロータの外面との間隙にはシリコーンオイル等の粘性流体が介在される。
【0003】
また、このビスカスヒータの特徴的な構成として、前部及び後部ハウジングの下方には内部にダイアフラムを備えた上下カバーが設けられ、上カバーとダイアフラムとにより制御室が区画されている。発熱室は前部及び後部ハウジングの上端に貫設された貫通孔により大気と連通されているとともに、上下カバーに設けられた連通管により制御室と連通されており、ダイアフラムはマニホールド負圧及びコイルスプリング等により制御室の内部容積を調整可能になされている。
【0004】
車両の暖房装置に組み込まれたこのビスカスヒータでは、駆動軸がエンジンにより駆動されれば、発熱室内でロータが回動するため、粘性流体が発熱室の壁面とロータの外面との間隙でせん断により発熱する。この発熱はウォータジャケット内の循環水に熱交換され、加熱された循環水が暖房回路で車両の暖房に供されることとなる。
【0005】
ここで、このビスカスヒータの能力変化は同公報によれば以下の作用となる。すなわち、暖房が過強である場合、マニホールド負圧でダイアフラムを下方に変位させて制御室の内部容積を拡大する。これにより、発熱室内の粘性流体が制御室内に回収されるため、発熱室の壁面とロータの外面との間隙の発熱量が減少し、暖房が弱められることとなる。逆に、暖房が過弱である場合、気圧調整孔及びコイルスプリングの作用でダイアフラムを上方に変位させて制御室の内部容積を縮小する。これにより、制御室内の粘性流体は発熱室内に送り出されるため、発熱室の壁面とロータの外面との間隙の発熱量が増大し、暖房が強められることとなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記従来の能力可変型ビスカスヒータでは、粘性流体を発熱室から制御室内に回収する際、これによる発熱室内の負圧を貫通孔から導かれる新たな空気により相殺している。粘性流体は、こうして能力縮小の度に新たな空気と接触することにより、酸化劣化が進行しやすくなり、また随時空気中の水分が補充される形となって、その水分による悪影響(トルク低下)を受ける。
【0007】
また、このビスカスヒータでは、制御室内に粘性流体を回収しない状態で駆動軸が高回転数を維持すると、発熱室内の粘性流体を入れ替える手段も有していないことから、発熱室内の粘性流体が上限なく高温化し、粘性流体が耐熱限界を超えて劣化してしまう。この場合、高速運転後の発熱量が低下してしまう。
この点、ドイツ公開特許公報第3832966号公報記載の暖房装置(ビスカスヒータ)では、ハウジングに発熱室と連通する通口と、この通口と連通する制御室とを形成し、発熱室及び制御室を密閉状態としているため、劣化や悪影響を受けることはない。また、この暖房装置では、通口を閉鎖装置により開閉可能にしたため、長期間使用後の耐久後又は高速運転後の発熱量の低下を防止可能である。
【0008】
しかしながら、かかる暖房装置では、ホイール状のロータを採用しているため、軸長が大きく、車両等への搭載性が損なわれることとなる。
他方、特開平8−337110号公報記載の暖房装置(ビスカスヒータ)では、前後端面が主なせん断面である平板形状のロータを採用しているため、軸長が短く、車両等への搭載性に優れる。また、この暖房装置では、発熱室を密閉状態としているため、発熱室に介在される粘性流体が新たな空気と接触することはなく、また随時空気中の水分が補充される訳ではないので、劣化や悪影響を受けることはない。
【0009】
しかしながら、かかる暖房装置においては、単に発熱室の内周壁面とロータの外周面との液密的間隙によって発熱室におけるロータの前後壁面側を連通させているため、前部及び後部発熱室の粘性流体は相互に積極的な流れを生じにくい。このため、例え前部及び後部発熱室内でそれぞれ独立して粘性流体が循環しても、その際に前部及び後部発熱室の粘性流体の相互の入れ替わりを生じにくいので、前部及び後部発熱室でせん断する粘性流体の量に差異がある場合には、前部及び後部発熱室の粘性流体で劣化の程度に差異を生じることとなる。これではビスカスヒータ全体として長期にわたって安定した発熱効率を確保できない。
【0010】
本発明の課題は、前部及び後部発熱室でせん断する粘性流体の量に差異がある場合であっても、前部及び後部発熱室の粘性流体の劣化に程度の差異を生じることとないビスカスヒータを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
(1)請求項1のビスカスヒータは、内部に発熱室及び該発熱室に隣接して循環流体を循環させる放熱室を形成するハウジングと、該ハウジングに軸受装置を介して回動可能に支承された駆動軸と、該発熱室内で該駆動軸により回動可能に設けられたロータと、該発熱室の壁面と該ロータの外面との液密的間隙に介在され、該ロータの回動によりせん断されて発熱する粘性流体とを有するビスカスヒータにおいて、
前記発熱室は密閉状態とされ、該発熱室は外周側に前記ロータの前後端面側を連通させるとともに前記液密的間隙を超える間隙の連通部を有し、
前記ハウジングには、前記発熱室と回収通路及び供給通路により連通され、前記液密的間隙の容積を超える粘性流体を収納可能な貯蔵室が密閉状態で配設され、
前記供給通路は、前記発熱室の後部壁面に凹設され、前記ロータの外周に向かって延在して前記連通部と連通する後部供給溝を有していることを特徴とする。
【0012】
このビスカスヒータでは、発熱室及び貯留室が密閉状態であるため、発熱室及び貯留室に介在される粘性流体が新たな気体と接触することはなく、また随時気体中の水分が補充される訳ではないので、劣化や悪影響を受けることはない。
また、このビスカスヒータでは、発熱室が外周側に液密的間隙を超える間隙を有する連通部を有するため、発熱室におけるロータの前後壁面側の粘性流体がその連通部により相互に繋がれ、相互に積極的な流れを生じる。ここで、連通部が粘性流体の循環量の多い発熱室の外周側に位置し、連通部の圧力が発熱室の内周に比べ大きくなっていることから、この傾向は特に駆動軸の回転数が高いことにより遠心力が大きく作用する間に大きい。このため、前部及び後部発熱室内でそれぞれ独立して粘性流体が循環すれば、その際に前部及び後部発熱室の粘性流体の相互の入れ替わりを生じるので、前部及び後部発熱室でせん断する粘性流体の量に差異がある場合であっても、前部及び後部発熱室の粘性流体で劣化の程度に差異を生じない。このため、ビスカスヒータ全体として長期にわたって安定した発熱効率を確保できる。
【0014】
そして、このビスカスヒータでは、貯留室が液密的間隙の容積を超える粘性流体を収容可能であるため、粘性流体の厳しい収容量管理が不要となる。
さらに、このビスカスヒータでは、貯留室を発熱室と連通させているため、粘性流体を回収通路により発熱室から貯留室内に回収可能であるとともに、粘性流体を供給通路により貯留室から発熱室内に供給可能である。
また、貯留室内に回収されていた粘性流体が供給通路内の後部供給溝を経て後部発熱室の外周域及び連通部に供給される。そして、後部発熱室の外周域に供給された粘性流体は例えばそのワイセンベルク効果や遠心力の作用による発熱室内部の循環により後部発熱室の中央域まで全域に行き渡る。さらに、連通部に供給された粘性流体も同様に前部発熱室の中央域まで全域に行き渡る。
ここで、このビスカスヒータでは、貯留室内に液密的間隙の容積を超える粘性流体を収納可能であることから、せん断される粘性流体の量に余裕を生じ、特定の粘性流体のみを常にせん断することにならないため、粘性流体の劣化遅延を図ることが可能になる。
こうして、このビスカスヒータでは、発熱室と貯留室との間で粘性流体を確実に入れ換えつつ、十分な発熱量の発揮と、十分な軸封能力の確保とが実現される。
なお、後部供給溝の深さとしては、液密的間隙の2〜30倍程度が好適である。また、同様の前部回収溝を凹設することもでき、この場合の深さとしては、液密的間隙の2〜30倍程度が好適である。
【0015】
(2)請求項2のビスカスヒータは、請求項1記載のビスカスヒータにおいて、回収通路及び供給通路は駆動軸の駆動中に常時開放されていることを特徴とする。
【0016】
このビスカスヒータでは、駆動軸の駆動中に発熱室と貯留室とで粘性流体が常時入れ換わる。
(3)請求項3のビスカスヒータは、請求項1記載のビスカスヒータにおいて、回収通路及び供給通路の少なくとも一方は開閉可能になされていることを特徴とする。
【0017】
このビスカスヒータは、回収通路の開閉により発熱室から貯留室への粘性流体の回収の開始又は停止が行われ、供給通路の開閉により貯留室から発熱室への粘性流体の供給の開始又は停止が行われることとなるため、貯留室を制御室とする能力可変型のものとなる。こうして、能力縮小が行われれば、駆動軸が高速回転を維持していても、発熱室内の粘性流体の高温化が抑制され、劣化が防止される。
【0019】
(4)請求項4のビスカスヒータは、請求項1記載のビスカスヒータにおいて、後部供給溝はロータの回動により貯留室内の粘性流体が後部発熱室の外周域及び連通部内に引き込まれやすく形成されていることを特徴とする。
【0020】
このビスカスヒータでは、起動後、貯留室内の粘性流体が後部発熱室の外周域及び連通部に移動しやすいため、迅速に後部及び前部発熱室内に粘性流体が行き渡る。なお、後部供給溝をロータの径方向に対してロータの回転方向前方側に傾斜させる場合には、0〜80°程度が有効である。
(5)請求項5のビスカスヒータは、請求項1又は4記載のビスカスヒータにおいて、供給通路は、発熱室の後部壁面に凹設され、連通部と連通してロータの回転方向前方側に向かって延在する後部供給補助溝を有することを特徴とする。
【0021】
このビスカスヒータでは、後部供給補助溝がロータの回転方向前方側に向かって延在しているため、起動後、また能力可変型のビスカスヒータでは供給通路を閉塞状態から開放状態にした後、粘性流体にロータの回動による引きずり力の分力を付与する。このため、このビスカスヒータでは粘性流体をロータの外周域に迅速に行き渡らせることができる。
【0022】
(6)請求項6のビスカスヒータは、請求項1、2、3、4又は5記載のビスカスヒータにおいて、供給通路は、発熱室の前部壁面に凹設され、連通部と連通してロータの回転方向前方側に向かって延在する前部供給補助溝を有することを特徴とする。
このビスカスヒータでは、前部供給補助溝がロータの回転方向前方側に向かって延在しているため、起動後、また能力可変型のビスカスヒータでは供給通路を閉塞状態から開放状態にした後、粘性流体にロータの回動による引きずり力の分力を付与する。このため、このビスカスヒータでは供給通路から粘性流体をロータの外周域に迅速に行き渡らせることができる。
【0023】
(7)請求項7のビスカスヒータは、請求項6記載のビスカスヒータにおいて、前部供給補助溝はロータの回動により連通部内の粘性流体が前部発熱室の外周域に引き込まれやすく形成されていることを特徴とする。
このビスカスヒータでは、起動後、連通部内の粘性流体が前部発熱室の外周域に移動しやすいため、迅速に前部発熱室内に粘性流体が行き渡る。
【0024】
(8)請求項8のビスカスヒータは、請求項7記載のビスカスヒータにおいて、前部供給補助溝の発熱室側の開口におけるロータの回転方向前方側の縁部には、面取りが施されていることを特徴とする。
面取りによって前部供給補助溝内の粘性流体が滑らかに前部発熱室に移動する。
【0025】
(9)請求項9のビスカスヒータは、請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のビスカスヒータにおいて、回収通路は、ロータを挟んだ発熱室の前後壁面の少なくとも一方に凹設され、該発熱室の中央域から外周域に向かって延在して連通部と連通する回収溝を有することを特徴とする。
このビスカスヒータでは、回収溝が発熱室の中央域から外周域に向かって延在して連通部と連通していることから、粘性流体を貯留室に迅速に回収することができる。なお、回収溝の深さとしては、液密的間隙の2〜30倍程度が好適である。また、回収溝をロータの径方向に対して傾斜させる場合には、0〜80°程度が有効である。
【0026】
(10)請求項10のビスカスヒータは、請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のビスカスヒータにおいて、連通部はハウジングに凹設されて形成されていることを特徴とする。
ハウジングに連通部を凹設することは簡易である。粘性流体の熱膨脹を許容すべくハウジングに形成した余剰空間を連通部として採用することもできる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、各請求項記載の発明を具体化した実施形態1〜3を図面を参照しつつ説明する。
(実施形態1)
実施形態1のビスカスヒータは能力可変型のものとして請求項1、3〜7、9、10を具体化している。
【0028】
すなわち、このビスカスヒータでは、図1に示すように、前部プレート2と後部プレート3とが間にOリング5を介して前部ハウジング本体1内に収容され、前部ハウジング本体1はOリング6を介して複数本の通しボルト7により後部ハウジング本体4で閉塞されている。
前部プレート2の後端面に円形に凹設された凹部は後部プレート3の前端面とともに発熱室8を形成している。また、前部プレート2の前面外周側には円弧状のフィン2aが前方に突出されており、前部ハウジング本体1の内面外周側とで発熱室8の前部に隣接する前部放熱室としての前部ウォータジャケットFWを形成している。他方、後部プレート3の後面外周側にも円弧状のフィン3eが後方に突出されており、後部ハウジング本体4の内面外周側とで発熱室8の後部に隣接する後部放熱室としての後部ウォータジャケットRWを形成しており、後部プレート3の後面内周側と後部ハウジング本体4の内面内周側とが制御室CRを形成している。前部ハウジング本体1の外周面には図示しない入水ポート及び出水ポートが隣接して形成され、入水ポートと出水ポートとは前部及び後部ウォータジャケットFW、RWに連通されている。
【0029】
さらに、前部プレート2のボス2bには発熱室8に隣接する軸封装置内蔵の軸受装置9が設けられ、前部ハウジング本体1のボス1bにはグリス封入式の軸受装置10が設けられ、これら軸受装置9、10により駆動軸12が回動可能に支承されている。また、前部ハウジング本体1のボス1bには、電磁クラッチMCが装着されている。ここで、電磁クラッチMCでは、ボス1bに軸受装置21を介してプーリ22が回転可能に支承されているとともに、プーリ22内に位置すべく励磁コイル23が設けられている。そして、駆動軸12にボルト24を螺合させるとともにキー25を圧入することによりハブ26が固定され、ハブ26はゴム部材27及びフランジ28を介してアーマチュア29と固定されている。プーリ22は図示しない車両のエンジンによりベルトで回転されるようになっている。
【0030】
駆動軸12の後端部には、発熱室8内で回動可能な前後端面が主なせん断面である平板形状のロータ13が圧入されている。ここで、前部プレート2の凹部はロータ13の外径より大きな内径で凹設されているため、発熱室8の外周面はロータ13の外周面とともにロータ13の前後壁面側を連通させる連通部8aを形成している。かかる連通部8aは前部プレート2に凹部を簡易に凹設するだけで形成され、ロータ13の端面とその端面に対向する発熱室8内の壁面との液密的間隙を超える間隙をロータ13の外周面と発熱室8の内周面との間に形成している。ここで、液密的間隙とは、後述するシリコーンオイルに対し、ロータ13の回動により充分な発熱が確保できるせん断力を付与可能な間隙である。
【0031】
そして、後部プレート3には、図2にも示すように、発熱室8側が開口し、後部発熱室8の中央域上方からロータ13の上方外周に向かって直線状に延在する後部回収溝3dが凹設されている。この後部回収溝3dは、ロータ13の径方向に対し、二点鎖線で示すロータ13の回転方向後方側に傾斜されており、ロータ13の外径を超えて延在されているため、その外端が連通部8aに開放されている。また、この後部回収溝3dの内端には制御室CRまで貫通する回収孔3aが後端面まで貫設されている。
【0032】
また、後部プレート3には、発熱室8側が開口し、後部発熱室8の中央域下方からロータ13の下方外周に向かって直線状に延在する後部供給溝3cと、この後部供給溝3cの外端からロータ13の回転方向に屈曲して周方向に延在する後部供給補助溝3gとが凹設されている。後部供給溝3cは、ロータ13の径方向に対しロータ13の回転方向前方側に傾斜されており、後部供給補助溝3gの基端部とともにロータ13の外径を超えて延在されているため、それらの外端が連通部8aに開放されている。また、この後部供給溝3cの内端には制御室CRまで貫通する供給孔3bが後端面まで貫設されている。
【0033】
他方、前部プレート2には、図3にも示すように、発熱室8側が開口し、前部発熱室8の中央域上方からロータ13の上方外周に向かって直線状に延在する前部回収溝2cが凹設されている。この前部回収溝2cは、ロータ13の径方向に対しロータ13の回転方向前方側に傾斜されており、ロータ13の外径を超えて延在されているため、その外端が連通部8aに開放されている。
【0034】
また、前部プレート2の下方外周には、発熱室8側が開口し、外端が連通部8aに開放されてロータ13の回転方向で周方向に延在する前部供給補助溝2dが凹設されている。
そして、図1に示す制御室CR及び発熱室8の壁面とロータ13の外面との液密的間隙には、空気とともに粘性流体としてのシリコーンオイルが介在されている。ここで、このビスカスヒータでは、制御室CRが液密的間隙の容積を超えるシリコーンオイルを収容可能であるため、シリコーンオイルの厳しい収容量管理が不要となる。なお、前部発熱室8ではボス2bの穴が開口されている一方、後部発熱室8では回収孔3a及び供給孔3bが開口されており、発熱面積が前後で異なるので、前部発熱室8と後部発熱室8とでは、必然的にせん断するシリコーンオイルの量に差異を生じている。制御室CR内では、回収孔3aの制御室CR側の開口をシリコーンオイルの温度上昇により開放可能なバイメタル型のフラッパ弁14と、供給孔3bの制御室CR側の開口をシリコーンオイルの温度上昇により閉塞可能なバイメタル型のフラッパ弁15とが後部プレート3に固定されている。
【0035】
車両の暖房装置に組み込まれたこのビスカスヒータでは、駆動軸12が電磁クラッチMCを介してエンジンにより駆動されれば、発熱室8内でロータ13が回動するため、シリコーンオイルが発熱室8の壁面とロータ13の外面との液密的間隙でせん断される。このとき、前部及び後部発熱室8では、ワイセンベルク効果と遠心力とにより、それぞれの間隙内においてシリコーンオイルが径方向に循環している。なお、前部回収溝2c、後部回収溝3d、回収孔3a、供給孔3b、後部供給溝3c、後部供給補助溝3g及び前部供給補助溝2dのピン角に形成された縁部によってはせん断効果が高められている。そして、発熱は前部及び後部ウォータジャケットFW、RW内の循環流体としての循環水に熱交換され、加熱された循環水が暖房回路で車両の暖房に供されることとなる。
【0036】
この間、このビスカスヒータでは、発熱室8及び制御室CRが密閉状態であるため、発熱室8及び制御室CRに介在されるシリコーンオイルが新たな空気と接触することはなく、また随時空気中の水分が補充される訳ではないので、劣化や悪影響を受けることはない。
また、このビスカスヒータでは、前後端面が主なせん断面である平板形状のロータ13を採用しているため、軸長が短く、車両等への搭載性に優れる。
【0037】
さらに、このビスカスヒータでは、エンジンの回転数が低いことにより駆動軸12の回転数が比較的低くロータ13が回動されたままであれば、発熱室8内のシリコーンオイルは、遠心力よりも支配的なワイセンベルク効果により、中央域に集合しようとする。特に、上記形状の発熱室8及びロータ13の採用により、シリコーンオイルは軸芯と直角の液面の面積が大きいことから、このワイセンベルク効果を確実に生じることとなる。
【0038】
ここで、制御室CR内のシリコーンオイルの温度が低ければ、暖房が過弱であるため、フラッパ弁14が回収孔3aを閉塞し、フラッパ弁15が供給孔3bを開放している。このとき、前部発熱室8、連通部8a及び後部発熱室8内のシリコーンオイルは前部回収溝2c、連通部8a、後部回収溝3d及び回収孔3aを経ては制御室CR内に回収されない。他方、制御室CR内に回収されていたシリコーンオイルは供給孔3b、後部供給溝3c及び後部供給補助溝3gを経て後部発熱室8及び連通部8a内に供給される。そして、後部発熱室8の外周域に供給されたシリコーンオイルは例えばそのワイセンベルク効果や遠心力の作用による発熱室8内部の循環により後部発熱室8の中央域まで全域に行き渡る。また、連通部8aに供給されたシリコーンオイルも同様に前部発熱室8の中央域まで全域に行き渡る。
【0039】
また、フラッパ弁15が供給孔3bを開放した後、後部供給溝3cが傾斜しているため、制御室CR内のシリコーンオイルが後部発熱室8の外周域及び連通部8aに移動しやすく、迅速に後部及び前部発熱室8内にシリコーンオイルが行き渡る。また、後部供給補助溝3gがロータ13の回転方向前方側に向かって延在しているため、シリコーンオイルにロータ13の回動による引きずり力の分力を付与する。
【0040】
このため、このビスカスヒータではシリコーンオイルをロータ13の外周域に迅速に行き渡らせることができる。このため、発熱室8の壁面とロータ13の外面との間隙の発熱量が増大し(能力拡大)、暖房が強められることとなる。
この一方、エンジンの回転数が高いことにより駆動軸12の回転数が比較的高くロータ13が回動されたままであれば、発熱室8内のシリコーンオイルは、ワイセンベルク効果よりも支配的な遠心力により、外周域に集合しようとする。
【0041】
ここで、制御室CR内のシリコーンオイルの温度が高くなれば、暖房が過強になりつつあるため、フラッパ弁14が回収孔3aを開放し、フラッパ弁15が供給孔3bを閉塞する。このとき、前部発熱室8内のシリコーンオイルは前部回収溝2cから連通部8aに回収される。そして、連通部8a及び後部発熱室8内のシリコーンオイルは回収溝3d及び回収孔3aを経て制御室CR内に回収される。このとき、前部回収溝2c及び後部回収溝3dが傾斜しているため、起動後は、後部発熱室8及び連通部8a内のシリコーンオイルが制御室CRに引き込まれやすい。他方、制御室CR内に回収されていたシリコーンオイルは供給孔3b、後部供給溝3c、後部供給補助溝3g、連通部8a及び前部供給補助溝2dを経ては後部発熱室8、連通部8a及び前部発熱室8内に供給されない。このため、発熱室28の壁面とロータ33の外面との間隙の発熱量が減少し(能力縮小)、暖房が弱められることとなる。
【0042】
こうして、このビスカスヒータでは、発熱室8におけるロータ13の前後壁面側のシリコーンオイルが連通部8aにより相互に繋がれ、相互に積極的な流れを生じる。ここで、連通部8aがシリコーンオイルの循環量の多い発熱室の外周側に位置し、連通部8aの圧力が発熱室8の内周に比べ大きくなっていることから、この傾向は特に駆動軸12の回転数が高いことにより遠心力が大きく作用する間に大きい。このため、前部及び後部発熱室8で循環するシリコーンオイルが相互に入れ替わりを生じるので、前部及び後部発熱室8でせん断するシリコーンオイルの量に差異がある場合であっても、前部及び後部発熱室8のシリコーンオイルで劣化の程度に差異を生じない。このため、ビスカスヒータ全体として長期にわたって安定した発熱効率を確保できる。
【0043】
また、こうして、このビスカスヒータでは、回収孔3aの開閉により発熱室8から制御室CRへのシリコーンオイルの回収の開始又は停止が行われ、供給孔3bの開閉により制御室CRから発熱室8へのシリコーンオイルの供給の開始又は停止が行われる能力可変型のものとなっている。こうして、能力縮小が行われれば、駆動軸12が高速回転を維持していても、発熱室8内のシリコーンオイルの高温化が抑制され、劣化が防止される。
【0044】
さらに、このビスカスヒータでは、制御室CR内に間隙の容積を超えるシリコーンオイルを収納可能であることから、せん断されるシリコーンオイルの量に余裕を生じ、特定のシリコーンオイルのみを常にせん断することにならないため、シリコーンオイルの劣化遅延を図ることが可能になる。こうして、このビスカスヒータでは、発熱室8と制御室CRとの間でシリコーンオイルを確実に入れ換えつつ、十分な発熱量の発揮と、十分な軸封能力の確保とが実現される。
【0045】
(実施形態2)
実施形態2のビスカスヒータでは、請求項1、3〜10を具体化し、図4に示すように、前部プレート2において、ロータ13の回転方向後方側の縁部に面取り2eを施した前部回収溝2cを採用するとともに、ロータ13の回転方向前方側の縁部に面取り2fを施した前部供給補助溝2dを採用している。他の構成は実施形態1と同一としている。
【0046】
このビスカスヒータでは、図5に示すように、前部発熱室8内のシリコーンオイルがロータ13の回転方向前方側のピン角に形成された縁部によっては掻き落とされる一方、ロータ13の回転方向後方側の面取り2eによって滑らかに前部回収溝2cに導かれ、ひいては制御室CRに移動する。また、このビスカスヒータでは、図6に示すように、面取り2fによって前部供給補助溝2d内のシリコーンオイルが滑らかに前部発熱室8に移動する。他の作用及び効果は実施形態1と同様である。
【0047】
(実施形態3)
実施形態3のビスカスヒータは能力固定型のものとして請求項1、2、4〜7、9、10を具体化している。
すなわち、図7に示すように、実施形態1の回収孔3a(図1参照)より小径の回収孔3fを後部プレート3に貫設するとともに、実施形態1のようなフラッパ弁14、15(図1参照)を設けない貯留室SRを採用している。他の構成は実施形態1と同一としている。
【0048】
このビスカスヒータでは、駆動軸12の駆動中に発熱室8と貯留室SRとでシリコーンオイルが常時入れ換わる。他の作用及び効果は実施形態1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1のビスカスヒータの縦断面図である。
【図2】実施形態1のビスカスヒータのII−II矢視断面図である。
【図3】実施形態1のビスカスヒータのIII−III矢視断面図である。
【図4】実施形態2のビスカスヒータに係り、図3と同様の矢視断面図である。
【図5】実施形態2のビスカスヒータに係り、前部回収溝等の拡大断面図である。
【図6】実施形態2のビスカスヒータに係り、前部供給溝等の拡大断面図である。
【図7】実施形態3のビスカスヒータに係り、図1と同様の縦断面図である。
【符号の説明】
1、2、3、4…ハウジング(1…前部ハウジング本体、2…前部プレート、3…後部プレート、4…後部ハウジング本体)
8…発熱室
FW、RW…放熱室(FW…前部ウォータジャケット、RW…後部ウォータジャケット)
9、10…軸受装置
12…駆動軸
13…ロータ
8a、8b…連通部
2c、3a、3d…回収通路(2c…前部回収溝、3a…回収孔、3d…後部回収溝)
2d、3b、3c、3g…供給通路(2d…前部供給補助溝、3b…供給孔、3c…後部供給溝、3g…後部供給補助溝)
SR…貯留室(CR…制御室)
2e、2f…面取り
Claims (10)
- 内部に発熱室及び該発熱室に隣接して循環流体を循環させる放熱室を形成するハウジングと、該ハウジングに軸受装置を介して回動可能に支承された駆動軸と、該発熱室内で該駆動軸により回動可能に設けられたロータと、該発熱室の壁面と該ロータの外面との液密的間隙に介在され、該ロータの回動によりせん断されて発熱する粘性流体とを有するビスカスヒータにおいて、
前記発熱室は密閉状態とされ、該発熱室は外周側に前記ロータの前後端面側を連通させるとともに前記液密的間隙を超える間隙の連通部を有し、
前記ハウジングには、前記発熱室と回収通路及び供給通路により連通され、前記液密的間隙の容積を超える粘性流体を収納可能な貯蔵室が密閉状態で配設され、
前記供給通路は、前記発熱室の後部壁面に凹設され、前記ロータの外周に向かって延在して前記連通部と連通する後部供給溝を有していることを特徴とするビスカスヒータ。 - 回収通路及び供給通路は駆動軸の駆動中に常時開放されていることを特徴とする請求項1記載のビスカスヒータ。
- 回収通路及び供給通路の少なくとも一方は開閉可能になされていることを特徴とする請求項1記載のビスカスヒータ。
- 後部供給溝はロータの回動により貯留室内の粘性流体が後部発熱室の外周域及び連通部内に引き込まれやすく形成されていることを特徴とする請求項1記載のビスカスヒータ。
- 供給通路は、発熱室の後部壁面に凹設され、連通部と連通してロータの回転方向前方側に向かって延在する後部供給補助溝を有することを特徴とする請求項1又は4記載のビスカスヒータ。
- 供給通路は、発熱室の前部壁面に凹設され、連通部と連通してロータの回転方向前方側に向かって延在する前部供給補助溝を有することを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のビスカスヒータ。
- 前部供給補助溝はロータの回動により連通部内の粘性流体が前部発熱室の外周域に引き込まれやすく形成されていることを特徴とする請求項6記載のビスカスヒータ。
- 前部供給補助溝の発熱室側の開口におけるロータの回転方向前方側の縁部には、面取りが施されていることを特徴とする請求項7記載のビスカスヒータ。
- 回収通路は、ロータを挟んだ発熱室の前後壁面の少なくとも一方に凹設され、該発熱室の中央域から外周域に向かって延在して連通部と連通する回収溝を有することを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載のビスカスヒータ。
- 連通部はハウジングに凹設されて形成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載のビスカスヒータ。
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