JP3567649B2 - ビスカスヒータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、粘性流体をせん断により発熱させ、放熱室内を循環する循環流体に熱交換して暖房熱源に利用するビスカスヒータに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、特開平2−246823号公報に車両用暖房装置に利用されるビスカスヒータが開示されている。このビスカスヒータでは、前部及び後部ハウジングが対設された状態で通しボルトにより締結され、内部に発熱室と、この発熱室の外域にウォータジャケットとを形成している。ウォータジャケット内では循環水が入水ポートから取り入れられ、出水ポートから外部の暖房回路へ送り出されるべく循環されている。前部ハウジングには軸受装置を介して駆動軸が回動可能に支承され、駆動軸には発熱室内で回動可能なロータが固定されている。ロータの周縁部の前後端面及び発熱室の前記壁面には互いに近接するラビリンス溝がそれぞれ形成され、両ラビリンス溝は僅かな隙間(液密的間隙)を保ちながら係合しており、発熱室内に封入されたシリコンオイル等の粘性流体がこの液密的間隙に介在される。
【0003】
車両の暖房装置に組み込まれたこのビスカスヒータでは、駆動軸がエンジンにより駆動されれば、発熱室内でロータが回動するため、発熱室内に封入され上記液密的間隙に介在する粘性流体がせん断により発熱する。この発熱はウォータジャケット内の循環水に熱交換され、加熱された循環水が暖房回路で車両の暖房に供されることとなる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、ビスカスヒータにおける発熱量は、粘性流体の接触面積、すなわちロータ外面及び発熱室を区画するハウジング壁面の表面積が大きいほど向上する。一方、ビスカスヒータを例えば車両用暖房熱源に利用する場合、エンジンルーム内で他の車両用補機類の搭載スペースを確保する観点から、ビスカスヒータの大型化を避ける必要がある。このため、上記従来のビスカスヒータでは、ロータの前後端面及びこのロータの前後端面と対面するハウジングの前後壁面にラビリンス溝を形成することにより、ロータ及びハウジングの大型化を避けつつ、ロータの外面及び発熱室の壁面間の上記液密的間隙を確保して、粘性流体の接触面積、すなわちロータ外面及びハウジング壁面の表面積(発熱有効領域)を拡大してビスカスヒータの発熱量を向上させている。
【0005】
しかし、上記ラビリンス溝の形成によりロータ外面及びハウジング壁面の表面積を拡大することは、製造技術及び製造コスト等の面で限界がある。このため、ラビリンス溝等を形成して粘性流体の接触面積を拡大させることにより、発熱量のさらなる向上を図ることは困難である。また、ロータやハウジングにラビリンス溝を形成することは面倒であるため、製造コストの高騰化を招くという問題もある。さらに、上記従来のビスカスヒータでは、これらのラビリンス溝が軸心回りに同心状のものであるため、これらを極めて精度よく製造し、かつ組付けなければ、駆動軸の傾斜に伴ってロータがハウジングと干渉してしまうという問題もある。
【0006】
なお、特開平3−57877号公報には、ロータの周縁部に上記ラビリンス溝を形成するとともに、ロータの中央域に軸方向前後に貫通する貫通孔を形成したビスカスヒータが開示されている。この貫通孔が形成されたロータの内周域においては、ロータの前後端面と発熱室の前後壁面との間には大きな隙間があり、この貫通孔は、粘性流体に対して効果的にせん断力を与えることのできる上記液密的間隙に形成されたものではなく、単に粘性流体の連通路として形成されたものである。したがって、この貫通孔は、後述する本発明特有の作用効果、すなわち粘性流体において分子の拘束作用の助長に伴ってせん断力を向上させるという効果を発揮するものではない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、発熱有効領域を拡大することなく、発熱量を効率的に向上させることのできるビスカスヒータを創出することを解決すべき技術課題とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
(1)請求項1のビスカスヒータは、内部に発熱室及び該発熱室に隣接して循環流体を循環させる放熱室を形成するハウジングと、該ハウジングに軸受装置を介して回動可能に支承された駆動軸と、該発熱室内で該駆動軸により回動可能に設けられるとともに該発熱室の壁面との間に液密的間隙を形成するロータと、該発熱室内に封入され、該液密的間隙に介在して該ロータの回動により発熱される粘性流体とを有するビスカスヒータにおいて、
前記ロータは、軸方向前後に貫通され、ロータの回動により前記液密的間隙を拡大変化可能に形成された貫通部を有していることを特徴とする。
【0009】
ここで、上記液密的間隙とは、ロータの回動により十分な発熱が確保できる粘性流体に対してのせん断力付与空間をいう。
このビスカスヒータでは、貫通部の存在により、ロータの外面及び発熱室の壁面間の液密的間隙がロータの回動により拡大変化するので、その変化により粘性流体における分子の拘束作用が助長される。この作用により、ロータの回転に伴う粘性流体の従動回転が規制され、粘性流体のせん断力が向上される。
【0010】
また、粘性流体中に混入している気体(又は気泡)が貫通部内に集められるので、ロータの外面及びハウジングの壁面間の液密的間隙(該貫通部以外の部分の液密的間隙)、すなわち発熱有効領域に気体がほとんど存在しなくなる。このため、より効率的に粘性流体にせん断力を与えることが可能となる。
したがって、粘性流体のせん断力の向上により、粘性流体の発熱量を効果的に向上させることができる。
【0011】
さらに、貫通部を介して粘性流体がロータの前後に流通されるので、ロータの前後両側における粘性流体の圧力分布が均一化され、粘性流体の量がロータの前方側及び後方側で均一化される。このため、粘性流体の偏在により発熱量が低下することを回避することができる。
(2)請求項2記載のビスカスヒータは、請求項1記載のビスカスヒータにおいて、ロータの前後端面と対面する発熱室の前後壁面の少なくとも一方には非円周方向に延在する溝が設けられ、該溝と貫通部とは、ロータの回動中に相互に対向する範囲を有していることを特徴とする。
【0012】
このビスカスヒータでは、ロータの回動により主に円周方向に流れる粘性流体に対して、発熱室の前後壁面の少なくとも一方に設けられた非円周方向に延在する溝により効果的にせん断力を与えることができる。このため、ロータの半径方向の少なくとも一部において、貫通部及び非円周方向に延在する溝の双方により、ロータ及び発熱室の壁面間の液密的間隙に存在する粘性流体に対して、前後方向の両側からせん断力を効果的に与えることができる。
【0013】
(3)請求項3記載のビスカスヒータは、請求項1又は2記載のビスカスヒータにおいて、貫通部はロータの前後端面の外周域に設けられた貫通孔であることを特徴とする。
なお、上記外周域とは、ロータの外径をr0としたとき、ロータの中心からr0/4以上離れた範囲をいう。
【0014】
ロータの外周域と内周域とを比較した場合、外周域の方が軸心からの距離が大きいことから、周回速度が大きい。このため、粘性流体のせん断による摩擦トルクの発生には、ロータの内周域よりも外周域の方が大きく貢献する。したがって、ロータの外周域に貫通部を設けることにより、粘性流体のせん断により発生する摩擦トルク、ひいては粘性流体の発熱量をより効果的に増大させることができる。
【0015】
また、粘性流体が発熱室内には不可避的に気体も残留している。このため、ビスカスヒータを停止状態で放置していると、粘性流体が自重により発熱室の下方部に滞留し、発熱室の上方部には気体が存在する。特に、請求項8又は9記載のビスカスヒータのように該発熱室と連通する貯溜室又は制御室をもつタイプのものでは、通常、発熱室における粘性流体の収容容積と貯溜室又は制御室における粘性流体の収容容積との合計量よりも少ない量の粘性流体をこれらの室に収容していることから、停止放置状態においてより多くの気体が発熱室の上方部に存在する。このように粘性流体が発熱室の下方部に滞留した状態でビスカスヒータを起動させた場合、ロータの回動に伴うロータの前後端面との摩擦抵抗力を利用することのみでは、粘性流体を発熱有効領域の全域(ロータの全周)に行き渡らせるのに時間がかかり、ビスカスヒータの立ち上がりが遅くなるという問題がある。
【0016】
この点、このビスカスヒータでは、ロータの外周域に貫通孔が設けられていることから、この貫通孔に歯車ポンプなどにみられるオイルかき揚げ効果をもたせることができる。すなわち、ビスカスヒータの停止放置状態においてロータの外周域に設けられた貫通孔の一部は発熱室の下方部に滞留している粘性流体中に浸っており、ビスカスヒータの駆動後ロータの回動に伴って、この粘性流体中に浸っていた貫通孔に粘性流体を保持させて発熱室の上方部に持ち上げることができる。このため、ビスカスヒータの起動後、発熱室の下方部に滞留している粘性流体を発熱有効領域の全域に速やかに行き渡らせることが可能となる。特に、ロータの外周域に貫通孔が設けられていることから、粘性流体のせん断による摩擦トルク発生に大きく貢献するロータの外周域の全周に速やかに粘性流体を行き渡らせることができる。したがって、ビスカスヒータの立ち上がり性向上に貢献する。
【0017】
(4)請求項4記載のビスカスヒータは、請求項3記載のビスカスヒータにおいて、貫通孔は円形孔であり、ロータの外径をr0としたとき、該円形孔は、中心が該ロータの中心から0.3×r0以上離れた位置にあり、半径が(0.05〜0.15)×r0の範囲内にあることを特徴とする。
上記したようにロータの外周域では摩擦トルクの発生に大きく貢献するため、ロータの外径をr0として、円形孔の中心をロータの中心から0.3×r0以上離れた位置とすることにより、粘性流体のせん断により発生する摩擦トルク、ひいては粘性流体の発熱量をより効果的に増大させることができる。
【0018】
また、円形孔の大きさについては、大きくなるほど粘性流体の摩擦面積が減少して摩擦トルクが低下するため、円形孔が大きすぎると上記した粘性流体の拘束作用の助長によるせん断力向上を加味しても、トータルで摩擦トルクが減少する。一方、円形孔が小さすぎると、上記した粘性流体の拘束作用の助長によるせん断力向上の効果が期待できない。このため、粘性流体の発熱量を効果的に向上させるには、摩擦トルクの発生に大きく貢献する外周域にある円形孔の大きさを適切に設定する必要がある。そして、この外周域にある円形孔の半径を、ロータの外径r0に対して、(0.05〜0.15)×r0の範囲内とすることにより、粘性流体の発熱量をより効果的に増大させることができる。
【0019】
なお、このビスカスヒータも請求項4記載のビスカスヒータと同様、貫通孔のオイルかき揚げ効果により、ビスカスヒータの立ち上がり性向上に貢献する。
(5)請求項5記載のビスカスヒータは、請求項2、3又は4記載のビスカスヒータにおいて、貫通部及び非円周方向に延在する溝はそれぞれ周方向に複数設けられ、該貫通部及び該溝の周方向の間隔は互いに相違していることを特徴とする。
【0020】
ロータの形成された複数の貫通部の周方向の間隔と、発熱室の前後壁面に形成された複数の溝の周方向の間隔とが同等である場合は、ロータの回動中に、ロータの前後端面に形成された複数の貫通部と、発熱室の前後壁面に形成された複数の溝とは、全て同時に相互に対向するので、周方向に配設された複数の貫通部及び溝が全て同時に粘性流体にせん断力を与えて摩擦トルクを発生させる。このため、発熱量増大には大きく貢献するが、複数の貫通部及び溝による摩擦トルクのピークがそれぞれ重なってトルク変動が大きくなり、振動や騒音を発生させる原因となる。
【0021】
この点、このビスカスヒータでは、ロータに形成された複数の貫通部の周方向の間隔と、発熱室の前後壁面に形成された複数の溝の周方向の間隔とが互いに相違している。このため、ロータの回動中に、ロータに形成された複数の貫通部と発熱室の前後壁面に形成された複数の溝とが全て同時に相互に対向することはない。したがって、複数の貫通部及び溝による摩擦トルクのピークがそれぞれ重なることによる振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0022】
(6)請求項6記載のビスカスヒータは請求項1、2又は5記載のビスカスヒータにおいて、貫通部はロータの外周側面に設けられた欠切部であることを特徴とする。
このビスカスヒータも、請求項1、2又は5記載のビスカスヒータと同様に作用する。また、ロータの外周側面及び発熱室の内周側面間の液密的間隙も周方向において変化しているので、ロータの外周側面及び発熱室の内周側面間に存在する粘性流体に対しても、分子の拘束作用の助長により効果的にせん断力を与えることができる。
【0023】
また、このビスカスヒータは、ロータの外周側面に欠切部が設けられていることから、請求項3又は4記載のビスカスヒータがもつオイルかき揚げ効果をより有効に発揮することができる。すなわち、ロータの前後端面に設けられた貫通孔とロータの外周側面に設けられた欠切部とを比較した場合、ロータの回転面と平行な開口面をもつ貫通孔よりロータの回転面と垂直な開口面をもつ欠切部の方が、ロータの回動に伴う粘性流体の導入及び排出を円滑に行い易い。このため、ロータの外周側面に欠切部をもつこのビスカスヒータでは、より有効にオイルかき揚げ効果を発揮することができ、ビスカスヒータの立ち上がり性向上に大きく貢献する。
【0024】
(7)請求項7記載のビスカスヒータは、請求項1、2、3、4、5又は6記載のビスカスヒータにおいて、貫通部は角張った凸状角部を有していることを特徴とする。
このビスカスヒータでは、角張った凸状角部により、粘性流体の分子の拘束作用を効果的に助長され、より効果的に粘性流体にせん断力を与えることができる。また、一旦貫通部内に集まった気体が外に逃げにくくなるので、貫通部の気体貯溜能力を高めることができる。
【0025】
(8)請求項8記載のビスカスヒータは、請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のビスカスヒータにおいて、ハウジングには、発熱室と回収通路及び供給通路により連通され、該発熱室内における粘性流体の収容容積を超える粘性流体を収容可能な貯留室が配設されていることを特徴とする。
このビスカスヒータでは、貯留室が間隙の容積を超える粘性流体を収容可能であるため、粘性流体の厳しい収容量管理が不要となる。
【0026】
そして、回収通路が発熱室の中央域と連通されている場合には、ワイセンベルク効果及び気体の移動により発熱室の中央域に集められた粘性流体を、回収通路を介して発熱室から貯留室内に迅速に回収可能であるとともに、粘性流体を供給通路により貯留室から発熱室内に供給可能である。こうして、このビスカスヒータでは、発熱室と貯留室との間で粘性流体を入れ換えつつ、十分な発熱量を発揮するために必要な粘性流体の収容量を確保できるとともに、粘性流体の収容割合の増大に伴って内圧上昇による軸封装置の軸封能力が低下することを防止できる。
【0027】
また、このビスカスヒータでは、貯留室内に間隙の容積を超える粘性流体を収納可能であることから、せん断される粘性流体の量に余裕を生じ、特定の粘性流体のみを常にせん断することにならないため、粘性流体の劣化遅延を図ることが可能になる。
さらに、このビスカスヒータでは、停止放置状態において多くの気体が発熱室の上方部に存在していることから、ロータの前後端面の外周域に設けられた貫通孔又はロータの外周側面に設けられた欠切部によるオイルかき揚げ効果の働きがより大きく関与する。なお、このビスカスヒータでは、停止放置状態において多くの気体が発熱室の上方部に存在していることから、ロータの前後端面の外周域に設けられた貫通孔のみならず内周域の設けられた貫通孔も、オイルかき揚げ効果を発揮しうる。
【0028】
(9)請求項9記載のビスカスヒータは、請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のビスカスヒータにおいて、ハウジングには、発熱室と連通する回収通路と、該発熱室と連通する供給通路と、該回収通路及び該供給通路と連通する制御室とが形成されるとともに、該回収通路及び該供給通路のうちの少なくとも一方が開閉可能とされ、該回収通路を経て該発熱室内の前記粘性流体を該制御室内に回収して能力縮小を行なうとともに、該供給通路を経て該制御室内の該粘性流体を該発熱室内に供給して能力拡大を行なうように構成されていることを特徴とする。
【0029】
このビスカスヒータでは、ハウジングに発熱室と回収通路及び供給通路により連通する制御室が配設され、回収通路及び供給通路のうちの少なくとも一方が開閉可能とされている。このため、制御室内の粘性流体は開放されている供給通路を経て発熱室内に供給され、発熱室の粘性流体は開放されている回収通路を経て制御室内に回収されうる。
【0030】
すなわち、回収通路及び/又は供給通路の開閉に伴う粘性流体の回収量と供給量との調整により、発熱室内に存在する粘性流体の量を調整して、粘性流体の発熱量、すなわちビスカスヒータの能力を可変とすることができる。
また、このビスカスヒータでは、粘性流体を発熱室から制御室内に回収したり、逆に制御室から発熱室内に供給したりする際、発熱室と回収通路と供給通路と制御室との合計の内部容積は変化しないため、粘性流体が移動することによる負圧は生じない。このため、粘性流体は、新たな空気と接触することはなく、また随時空気中の水分が補充される訳ではないので、劣化や悪影響を生じることはない。
【0031】
供給通路は、強制供給手段を別途設ける場合に発熱室の中央域と連通することが許容される他は、発熱室の外周域と連通されることが好ましい。なぜなら、発熱室の外周域に供給された粘性流体は、そのワイセンベルク効果により発熱室の中央域まで全域に行き渡りやすく、これにより発熱室の壁面とロータの外面との液密的間隙の発熱量が迅速に増大するからである。
【0032】
したがって、このビスカスヒータは、能力縮小が確実に行われ、長期間使用後の耐久後の発熱効率の低下を防止できる。そして、こうして確実に能力制御を行い得るため、暖房の要・不要に際して電磁クラッチを必ずしも必要とせず、暖房装置の低コスト化及び軽量化を実現することができる。
また、このビスカスヒータでは、停止放置状態において多くの気体が発熱室の上方部に存在していることから、ロータの前後端面の外周域に設けられた貫通孔又はロータの外周側面に設けられた欠切部によるオイルかき揚げ効果の働きがより大きく関与する。なお、このビスカスヒータでは、停止放置状態において多くの気体が発熱室の上方部に存在していることから、ロータの前後端面の外周域に設けられた貫通孔のみならず内周域の設けられた貫通孔も、オイルかき揚げ効果を発揮しうる。
【0033】
さらに、暖房が過強になって発熱量を減少(能力縮小)させるために発熱室内の粘性流体量を減少させ、能力縮小状態で運転後、再び能力縮小状態から能力拡大状態に復帰させようとする場合、発熱室内の粘性流体量を能力縮小時に抜き過ぎてしまうと、特にロータの低速回転時における復帰性が低下するという問題がある。
【0034】
この点、このビスカスヒータでは、発熱室内の粘性流体量が過少で、かつ、ロータが低速回転であっても、ロータの前後端面の外周域に設けられた貫通孔又はロータの外周側面に設けられた欠切部によるオイルかき揚げ効果の働きにより、発熱室の下方部にある粘性流体を速やかに発熱有効領域の全域に行き渡らせることができるので、能力縮小状態から能力拡大状態への復帰性を向上させることができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、各請求項記載の発明を具体化した実施形態を図面を参照しつつ説明する。
(実施形態1)
このビスカスヒータでは、図1に示すように、製造を容易にするため、前部ハウジング本体1、前部プレート2、後部プレート3及び後部ハウジング本体4が前部ハウジング本体1と前部プレート2との間及び後部プレート3と後部ハウジング本体4との間にガスケット5、6を介し、各々積層された状態で複数本の通しボルト7により締結されている。ここで、前部ハウジング本体1及び前部プレート2が前部ハウジングを構成し、後部プレート3及び後部ハウジング本体4が後部ハウジングを構成している。そして、前部プレート2の後端面に底面が平坦に凹設された抉部2aは後部プレート3の平坦な前端面3aとともに閉塞状態に保持された断面円形状の発熱室8を形成している。
【0036】
また、前部ハウジング本体1の内面と前部プレート2の前端面とが発熱室8の前部に隣接する前部放熱室としての前部ウォータジャケットFWを形成し、後部プレート3の後端面と後部ハウジング本体4の内面とが発熱室8の後部に隣接する後部放熱室としての後部ウォータジャケットRWを形成している。
後部ハウジング本体4の後面の外域には入水ポート9及び図示しない出水ポートが隣接して形成され、入水ポート9と出水ポートとは後部ウォータジャケットRWに連通されている。後部プレート3及び前部プレート2には、各通しボルト7間で等間隔に複数の流体路としての水路10が貫設され、前部ウォータジャケットFWと後部ウォータジャケットRWとは水路10により連通されている。
【0037】
また、前部プレート2のボス2b内には発熱室8に隣接して軸封装置12が設けられ、前部ハウジング本体1のボス1a内には軸受装置13が設けられている。これら軸封装置12及び軸受装置13を介して駆動軸14が回動可能に支承され、駆動軸14の後端には、図2に示すように、軸長より駆動軸14の軸心からの半径の長い前後端面を有する平円板形状のロータ15が圧入され、このロータ15は発熱室8内で回動可能になされている。なお、ロータ15の外径r0は発熱室8の内径よりも若干小さくされている。また、ロータ15の前後端面15a、15bと発熱室8の前後壁面との間の液密的間隙のクリアランスCLはそれぞれ0.003×r0とされている。そして、発熱室8内には粘性流体としてのシリコンオイルが封入され、上記液密的間隙にはこのシリコンオイルが介在されている。また、駆動軸14の先端には図示しないプーリ又は電磁クラッチが設けられ、車両のエンジンによりベルトで回転されるようになっている。
【0038】
さて、本実施形態のビスカスヒータでは、図2及び図3に示すように、ロータ15の外周域部に8個の外周円形孔(貫通部)19が周方向に等間隔で形成されるとともに、ロータ15の内周域部にも4個の内周円形孔(貫通部)20が周方向に等間隔で形成されている。この外周円形孔19及び内周円形孔20は、ロータ15の軸方向前後に貫通され、ロータ15の回動により前記液密的間隙を拡大変化せしめる貫通部を構成する。
【0039】
外周円形孔19は、ロータ15の外径をr0としたとき、中心がロータ15の中心から0.86×r0離れた位置にあり、半径が0.09×r0である。一方、内周円形孔20は、同じくロータ15の外径をr0としたとき、中心がロータ15の中心から0.33×r0離れた位置にあり、また半径が0.06×r0である。
【0040】
また、外周円形凹部19及び内周円形凹部20は、ともに角部が面取りされておらず、凸状角部19a及び20aを有している。
また、発熱室8を区画する後部プレート3の前端面3aには、図4に示すように、ロータ15の径方向に対してロータ15の回動方向(図4のP矢印方向)側に傾斜する9本の斜め溝16が周方向に等間隔で形成されている。この斜め溝16は、図5の部分断面図に示すように、角張った凸状角部16aを有しており、ロータ15の径方向に対する斜め溝16の傾斜角度は30度であり、ロータ15の外径をr0としたとき、深さは0.007×r0である。なお、発熱室8を区画する前部プレート2の抉部2aの後端面にも、9本の斜め溝16が同様に形成されている。これら後部プレート3の前端面3a及び前部プレート2の抉部2aの斜めみぞ16は、ロータ15の回動中に、ロータ15に形成された外周円形孔19と相互に対向するように形成されている。
【0041】
なお、上記斜め溝16もロータ15の回動により前記液密的間隙を拡大変化せしめるように機能する。また、上記内周円形孔20が形成されたロータ15の内周域においては、ロータ15の前端面15aと軸封装置12との間に大きな隙間が存在し、この隙間は前記液密的間隙には含まれない。
車両の暖房装置に組み込まれたこのビスカスヒータでは、駆動軸14がプーリ等を介してエンジンにより駆動されれば、発熱室8内でロータ15が回動するため、シリコンオイルが発熱室8の壁面とロータ15の外面との間の液密的間隙でせん断により発熱する。この発熱は後部ウォータジャケットRW及び前部ウォータジャケットFW内の循環流体としての循環水に充分に熱交換され、加熱された循環水が暖房回路で車両の暖房に供されることとなる。
【0042】
そして、このビスカスヒータでは、外周円形孔19、内周円形孔20及び斜め溝16の存在により、発熱室8の前後壁面(前部プレート2の抉部2aの後端面及び後部プレート3の前端面3a、以下同様)とロータ15の前後端面15a、15bとの間の液密的間隔が周方向において変化しており、この液密的間隙がロータ15の回動により拡大変化するので、その変化により粘性流体における分子の拘束作用が助長される。この作用により、ロータ15の回転に伴う粘性流体の従動回転が規制され、粘性流体のせん断力が向上される。
【0043】
とくに、このビスカスヒータでは、ロータ15の外周域の所定範囲に所定の大きさの外周円形孔19が形成され、しかもこの外周円形孔19は、ロータ15の回動中に、発熱室8の前後壁面に形成された斜め溝16と相互に対向するように形成されているため、摩擦トルクの発生に大きく貢献する外周域において、外周円形孔19及び斜め溝16により、前後方向の両側から極めて効果的に粘性流体にせん断力を与えることができる。さらに、図1の如く斜め溝16と外周円形孔19とがロータ15のより外周域で対向(オーバーラップ)することで、発熱量の増加を一層向上させることができる。
【0044】
また、このビスカスヒータでは、粘性流体中に混入している気体が外周円形孔19、内周円形孔20及び斜め溝16内に集められるので、発熱有効領域であるロータ15の外面と発熱室8の前後壁面との間の液密的間隙(斜め溝16以外の部分の間隙)に気体がほとんど存在しなくなる。このため、より効率的に粘性流体にせん断力を与えることが可能となる。
【0045】
さらに、上記外周円形孔19、内周円形孔20及び斜め溝16は、それぞれ角張った凸状角部19a、20a、16aを有しているので、これらの角部が面取りされて丸まっている場合と比較して、粘性流体の分子の拘束作用を効果的に助長させることが可能となり、より効果的に粘性流体にせん断力を与えることができる。また、外周円形孔19、内周円形孔20又は斜め溝16内に集まった気体が外に逃げにくくなるので、これらの気体貯溜能力が高まり、上記したように粘性流体のせん断力向上に貢献しうる。
【0046】
なお、このような外周円形孔19、内周円形孔20及び斜め溝16の存在により、発熱有効領域は縮小することになるが、上述した粘性流体の分子の拘束作用により、せん断力を著しく向上させることができるため、発熱量は効率的に向上される。
また、このビスカスヒータでは、ロータ15が回動されると、ロータ15の回動に追従回動してロータ15の回動方向に流動する粘性流体が、径方向に対してロータ15の回動方向側に傾斜するように発熱室8の前後壁面にそれぞれ形成された斜め溝16により、外周側に押しやられるため、内周域の粘性流体を外周域に効果的に供給することができる。とくに、この斜め溝16は、ロータ15の前後端面15a、15bと発熱室8の前後壁面との液密的間隙にクリアランスCLの大きさよりも深くされているので、粘性流体が斜め溝16内に導入されやすい。このため、内周域の粘性流体を外周域により効果的に供給することができる。また、凹条の深さがある一定以上の深さになると、ワイセンベルク効果よりも遠心力が大きく働くことになるため、斜め溝16内に存在する粘性流体をさらに一層、外周域に供給しやすくなる。したがって、発熱性能の向上に大きく貢献するロータ15の外周域により多くの粘性流体を集めることができ、粘性流体の発熱量を効果的に向上させることが可能である。
【0047】
このように、このビスカスヒータでは、発熱有効領域を拡大することなく、発熱量のさらなる向上を図ることが可能となる。
さらに、ロータ15には外周円形孔19及び内周円形孔20が形成されていることから、粘性流体をロータ15の前後に流通させることができる。このため、ロータ15の前後両側における粘性流体の圧力分布を均一化することができ、粘性流体の量がロータ15の前方側及び後方側で均一化される。したがって、粘性流体の偏在により発熱量が低下することを回避することができる。なお、ロータ15が駆動軸14に相対回動不能かつ駆動軸14の軸芯に対して軸方向の変位可能にスプライン嵌合されている場合は、ロータ15の前後両側における粘性流体の圧力分布が均一化されることから、ロータ15を軸方向の適性位置に保持することが可能となる。
【0048】
さらに、このビスカスヒータでは、発熱室8の前後壁面には9本の斜め溝16がそれぞれ形成され、一方、ロータ15にはこの斜め溝16とロータ15の回動中に対向する外周円形孔19が8個形成されていることから、発熱室8の前後壁面にそれぞれ形成された斜め溝16の周方向の間隔と、ロータ15に形成された外周円形孔19の周方向の間隔とが互いに異なっている。このため、ロータ15の回動中に、発熱室の前後壁面に形成された9本の斜め溝16とロータ15に形成された8個の外周円形孔19とが全て同時に相互に対向することはなく、トルク変動に基づく振動や騒音の発生を抑制することができる。
【0049】
さらに、このビスカスヒータでは、ロータ15の外周域に外周円形孔19が設けられていることから、この外周円形孔19にオイルかき揚げ効果をもたせることができる。すなわち、ビスカスヒータの停止放置状態においてロータ15の外周域に設けられた外周円形孔19の一部は、発熱室8内に不可避的に残留する気体の存在により発熱室8の下方部に自重により滞留している粘性流体中に浸っており、ビスカスヒータの駆動後ロータ15の回動に伴って、この粘性流体中に浸っていた外周円形孔19に粘性流体を保持させて発熱室8の上方部に持ち上げることができる。このため、ビスカスヒータの起動後、発熱室8の下方部に滞留している粘性流体を発熱有効領域の全域に速やかに行き渡らせることが可能となり、ビスカスヒータの立ち上がり性向上に貢献する。
【0050】
(貫通孔の中心位置について)
ここで、外周円形孔19及び内周円形孔20を形成していないロータについて、r=xr0とした場合、r以下の半径内での発熱量を縦軸に、無次元半径:x=r/r0を横軸にとったときの理論的な関係を図6に示す。なお、x=1のとき、全発熱量となる。図6からわかるように、r=0.25r0より小さい領域(x<0.25)では、せん断速度が極小であり、発熱量の寄与率が1%以下である。このため、このような領域に貫通孔を設けたとしても、貫通孔による発熱量増大の効果は期待できないと考えられる。したがって、貫通孔の中心位置は、ロータの外径をr0としたとき、ロータの中心から0.3r0以上離れた位置とすることが好ましい。なお、0.3r0は、0.25r0に貫通孔の半径の最小値(0.05r0)を加えた値である。
【0051】
(液密的間隙のクリアランスCLについて)
また、前記液密的間隙のクリアランスをCLとした場合、発熱量を縦軸に、無次元クリアランス:y=CL/r0を横軸にとったときの理論的な関係を図7に示すように、前記液密的間隙のクリアランスCLを小さくするほど大きな発熱量が得られる。しかし、実際には、ロータ15等の製品公差を考慮すると、無次元クリアランスyの値が0.0025より小さくなると、ロータの前後端面と発熱室の前後壁面とが接触するおそれが生じる。このため、液密的間隙のクリアランスCLの値は0.0025r0以上とすることが好ましく、上記実施形態では、製品公差を加味して、液密的間隙のクリアランスCLを、CL=yr0=0.003r0とした。
【0052】
なお、液密的間隙のクリアランスCLの値は、0.0045r0 以下とすることが好ましく、また、0.0035r0 以下とすることが更に好ましい。これにより、上記実施形態の液密的間隙のクリアランスCLにおける発熱量の約67%(実験による)以上を確保でき、ヒータとしての能力を十分に確保できる。
(貫通孔の半径について)
また、上記外周円形孔19、内周円形孔20及び斜め溝16の占める面積が大きすぎると、前述したように、発熱有効領域であるロータ15の前後端面15a、5bと発熱室8の前後壁面との間の液密的間隙の狭い部分における粘性流体の摩擦面積が減少して発生する摩擦トルクが減少し、せん断向上による摩擦トルクの増大を加味してもトータルで摩擦トルクが減少する。
【0053】
ここで、発熱量を縦軸に、ロータ15に対する外周円形孔19及び内周円形孔20の占有面積率を横軸にとったときの実験的に求めた関係を図8に示すように、ロータ15に対する外周円形孔19及び内周円形孔20の占有面積率が20%を超えると、貫通孔形成による発熱量増大の効果がなくなる。このため、ロータ15に形成する外周円形孔19及び内周円形孔20の総面積は、ロータ15の一端面の面積の20%以下とすることが好ましい。そして、外周円形孔19の半径は、ロータ15に対する占有面積率との関係等を考慮して(0.05〜0.15)×r0とすることが好ましい。また、前部プレート2の抉部2aの後端面又は後部プレート3の前端面3aに形成する斜め溝16の総面積は、ロータ15の一端面の面積の20%以下とすることが好ましい。
【0054】
また、上記内周円形孔20は、主に粘性流体をロータ15の前後に流通させ、ロータ15の前後における粘性流体の量を均一化させる作用をする。この作用を効果的にするためには、ロータの外径をr0としたとき、内周円形孔20は、中心位置が該ロータの中心から0.5×r0以下の範囲にあり、半径が(0.05〜0.15)×r0の範囲内にあることが好ましい。
【0055】
(実施形態2)
本実施形態のビスカスヒータは、図9及び図10に示すように、上記実施形態1のロータ15において、その外周側面に8個の欠切部(貫通部)21を周方向に等間隔に設けたものであり、それ以外の構成は上記実施形態1と同様である。なお、この欠切部21も角張った凸条角部21aを有している。
【0056】
したがって、このビスカスヒータも上記実施形態1のビスカスヒータと同様の作用効果を奏する。
また、ロータ15の外周側面に形成された欠切部21は、ロータ15の回動により液密的間隙を拡大変化せしめる貫通部として機能することから、外周円形孔19等による粘性流体における分子の拘束作用の他に、この欠切部21による粘性流体における分子の拘束作用が加味されるので、粘性流体のせん断力をさらに向上させて、粘性流体の発熱量をさらに向上させることが可能となる。
【0057】
さらに、上記欠切部21の存在により、ロータ15の外周側面及び発熱室8の内周側面間の液密的間隙も周方向において変化しており、このロータ15の外周側面及び発熱室8の内周側面間の液密的間隙もロータ15の回動により拡大変化するので、ロータ15の外周側面及び発熱室8の内周側面間に存在する粘性流体に対しても、分子の拘束作用の助長により効果的にせん断力を与えることができる。
【0058】
さらに、外周円形孔19によるオイルかき揚げ効果の他に、ロータ15の外周側面に形成された欠切部21によるオイルかき揚げ効果も加味されるので、ビスカスヒータの立ち上がり性をさらに向上させることができる。
なお、上記実施形態では、貫通孔として外周円形孔19及び内周円形孔20を採用したが、貫通孔の形状は円形に限定されない。
【0059】
また、上記実施形態では、発熱室の前後壁面に形成する溝として、斜め溝16を採用したが、非円周方向に延在する溝であれば特にこれに限定されず、例えば放射溝等を採用することも可能である。
(実施形態3)
本実施形態のビスカスヒータは、図11に示すように、後部ハウジング本体4の中央域には貯留室SRが形成されている。また、後部プレート3には、中央域の上方の位置に回収通路としての回収孔3jが貫設されている。さらに、後部プレート3には、中央域の下方の位置に回収孔3jより連通面積の大きな供給通路としての供給孔3kが貫設されている。
【0060】
そして、このビスカスヒータのロータ15には、図12に示すように、その外周側面に9個の欠切部(貫通部)21のみが周方向に等間隔に設けられている。なお、この欠切部21も角張った凸条角部21aを有している。また、このビスカスヒータの発熱室8の前後壁面には斜め溝が設けられていない。その他の構成は上記実施形態1と同様である。
【0061】
したがって、このビスカスヒータも、外周円形孔19、内周円形孔20及び斜め溝16の存在による作用効果を除いて、上記実施形態1のビスカスヒータと同様の作用効果を奏する。すなわち、このビスカスヒータは、欠切部21の存在により、粘性流体における拘束作用の助長、及び欠切部21への粘性流体中の気体集中に基づく粘性流体のせん断力向上、並びにオイルかき揚げ効果に基づく立ち上がり性向上の効果を発揮しうる。
【0062】
なお、このビスカスヒータでは、貯留室SRが設けられている関係上、停止放置状態において多くの気体が発熱室8の上方部に存在していることから、貯留室SRが設けられていない実施形態1のビスカスヒータと比較して、ロータ15の外周円形孔19又はロータ15の外周側面に設けられた欠切部21によるオイルかき揚げ効果の働きがより大きく関与する。また、このビスカスヒータでは、停止放置状態において多くの気体が発熱室8の上方部に存在していることから、ロータ15の外周円形孔19のみならず内周円形孔20も、オイルかき揚げ効果を発揮しうる。
【0063】
さらに、このビスカスヒータでは、発熱室8内における粘性流体の収容容積を超える粘性流体を貯留室SRが収容可能であるため、粘性流体の厳しい収容量管理が不要となる。そして、貯留室SRを発熱室8の中央域と連通させているため、ワイセンベルク効果及び気体の移動により発熱室8の中央域に集められた粘性流体を、回収通路3jを介して発熱室8から貯留室SR内に回収可能であるとともに、粘性流体を供給通路3kにより貯留室SRから発熱室8内に供給可能である。こうして、このビスカスヒータでは、発熱室8と貯留室SRとの間で粘性流体を入れ換えつつ、十分な発熱量を発揮するために必要な粘性流体の収容量を確保できるとともに、粘性流体の収容割合の増大に伴って軸封装置12の軸封能力が低下することを防止できる。
【0064】
さらに、このビスカスヒータでは、貯留室SR内に間隙の容積を超える粘性流体を収納可能であることから、せん断される粘性流体の量に余裕を生じ、特定の粘性流体のみを常にせん断することにならないため、粘性流体の劣化遅延を図ることが可能になる。
(実施形態4)
本実施形態のビスカスヒータは、図13、図15及び図16に示すように、後部プレート3の前端面3aに、発熱室8の中央域と対面する回収凹部3bが凹設され、回収凹部3bの外よりの位置において第1回収孔3cが後端面まで貫設されている。また、この後部プレート3の前端面3aには、回収凹部3bの下側外方から発熱室8の下側外域まで供給溝3dが延在されており、供給溝3dの内よりの位置において第1供給孔3eがやはり後端面まで貫設されている。これら供給溝3d及び第1供給孔3eは、粘性流体としてのシリコンオイルを発熱室8に供給しやすいように、第1回収孔3cよりも幅又は径が大きく設定されている。かかる供給溝3dはロータ15と対応する位置より長く形成することが好ましい。さらに、この後部プレート3の前端面3aには、回収凹部3bの上側外方から発熱室8の上側外域まで気体通路の一部を構成する気体溝3fが延在されており、気体溝3fの内よりの位置において気体通路の残部を構成する気体孔3gがやはり後端面まで貫設されている。
【0065】
また、図13に示すように、後部ハウジング本体4にはガスケット6と当接する第1リブ4aがリング状に突設されており、後部プレート3の後端面と後部ハウジング本体4の第1リブ4aより外側の内面とが発熱室8の後部に隣接する後部放熱室としての後部ウォータジャケットRWを形成しているとともに、後部プレート3の後端面と後部ハウジング本体4の第1リブ4aより内側の内面とが第1回収孔3c、第1供給孔3e及び気体孔3gと連通する制御室CRを形成している。
【0066】
後部ハウジング本体4の制御室CR内には第2リブ4bがリング状に突設されているとともに、第2リブ4bの中央に弁軸22が回動可能に保持されている。第2リブ4bには温度感応型アクチュエータとしてのバイメタル渦巻ばね23の外端が係止され、バイメタル渦巻ばね23の内端は弁軸22に係止されている。このバイメタル渦巻ばね23は、設定された暖房温度の過強・過弱に基づき、変位のための所定温度が設定されている。また、弁軸22の前端には単一の第1、2弁手段としての円板状の回転弁24が固定されており、この回転弁24は第2リブ4bの前端面を座面とする付勢手段としての皿ばね25により第1回収孔3c及び第1供給孔3eの制御室CR側の開口を閉塞する方向に押圧されている。この回転弁24には、図14にも示すように、回転弁24の回転角度により第1回収孔3c又は第1供給孔3eと連通可能な弧状の第2回収孔24a及び第2供給孔24bが貫設されている。第2供給孔24bは、シリコンオイルを発熱室8に供給しやすいように、第2回収孔24aよりも径が大きく設定されている。こうして、回収凹部3b、第1回収孔3c及び第2回収孔24aが回収通路を構成し、供給溝3d、第1供給孔3e及び第2供給孔24bが供給通路を構成している。こうしてこのビスカスヒータでは、回収通路3b等及び供給通路3c等の開閉を可能にしつつ、軸長が短くなっている。
【0067】
さらに、図17に示すように、ロータ15には、その外周側面に9個の欠切部(貫通部)21が周方向に等間隔に設けられ、またその中央域には前後に貫通する複数個の内周円形孔20が貫設されている。
なお、シリコンオイルは、常時バイメタル渦巻ばね23のほとんどが浸る程度で制御室CR内にも介在されている。但し、発熱室8と回収通路3b等と供給通路3d等と制御室CRとには、シリコンオイルが介在されている他、組付け時に不可避の空気が多少は残留されている。
【0068】
その他の構成については、上記実施形態1と同様である。
このビスカスヒータでは、図13に示す駆動軸14がエンジンにより駆動されれば、発熱室8内でロータ15が回動するため、シリコンオイルが発熱室8の壁面とロータ15の外面との液密的間隙でせん断により発熱する。この発熱は前部及び後部ウォータジャケットFW、RW内の循環流体としての循環水に熱交換され、加熱された循環水が暖房回路で車両の暖房に供されることとなる。
【0069】
この間、ロータ15が回動されたままであれば、発熱室8内のシリコンオイルは、ワイセンベルク効果により、中央域に集合しようとする。特に、上記形状の発熱室8及びロータ15の採用により、シリコンオイルは軸芯と直角の液面の面積が大きいことから、このワイセンベルク効果を確実に生じることとなる。
ここで、制御室CR内のシリコンオイルの温度が低ければ、暖房が過弱であるため、図15に示すように、バイメタル渦巻ばね23が弁軸22を介して回転弁24を図中左に回転している。このときには、第1回収孔3cと第2回収孔24aとが連通せず、第1供給孔3eと第2供給孔24bとが連通している。すなわち、図18(グラフは模式的なものである。)の回転角度−A°のように、回収通路3b等が制御室CR内で閉塞され、同時に供給通路3d等が制御室CR内に開放されている。このため、発熱室8内のシリコンオイルは回収凹部3b、第1回収孔3c及び第2回収孔24aを経ては制御室CR内に回収されない。また、制御室CR内に回収されていたシリコンオイルは第2供給孔24b、第1供給孔3e及び供給溝3dを経て発熱室8内に供給される。このとき、図13に示すように、制御室CR内のシリコンオイルが発熱室8の前壁面とロータ15の前端面15aとの間に内周円形孔20を経て送り出されやすい。そして、発熱室8の壁面とロータ15の外面との液密的間隙にシリコンオイルが供給されれば、不可避の空気はシリコンオイルに押されて発熱室8の上方から気体溝3f及び気体孔3gを経て制御室CRに移動し、気泡が発熱室8の壁面とロータ15の外面との液密的間隙にほとんど存在しなくなる。このため、発熱室8の壁面とロータ15の外面との液密的間隙の発熱量が増大し(能力拡大)、暖房が強められることとなる。
【0070】
他方、制御室CR内のシリコンオイルの温度が高くなれば、暖房が過強になりつつあるため、図16に示すように、バイメタル渦巻ばね23が弁軸22を介して回転弁24を図中右にやや回転させる。これにより、第1回収孔3cと第2回収孔24aとが連通し、同時に第1供給孔3eと第2供給孔24bとが連通しなくなる。すなわち、図18の回転角度+A°のように、回収通路3b等が制御室CR内に開放され、同時に供給通路3d等が制御室CR内で閉塞される。このため、発熱室8内のシリコンオイルは回収凹部3b、第1回収孔3c及び第2回収孔24aを経て制御室CR内に回収される。このとき、図13に示すように、発熱室8の前壁面とロータ15の前端面15aとの間のシリコンオイルが内周円形孔20を経て制御室CRに回収されやすい。また、制御室CR内に回収されたシリコンオイルは第2供給孔24b、第1供給孔3e、供給溝3dを経ては発熱室8内に供給されない。そして、制御室CRにシリコンオイルが回収されれば、不可避の空気はシリコンオイルに押されて制御室CRの上方から気体溝3f及び気体孔3gを経て発熱室8に移動し、気泡が発熱室8の壁面とロータ15の外面との液密的間隙に存在する。このため、発熱室8の壁面とロータ15の外面との液密的間隙の発熱量が減少し(能力縮小)、暖房が弱められることとなる。
【0071】
したがって、このビスカスヒータは、簡易な構成の下、ビスカスヒータ内部の物性変化により能力縮小及び能力拡大を確実に行うことができる。このため、暖房の要・不要に際して電磁クラッチを必ずしも必要とせず、かつ能力変化のための外部入力を必要としないため、暖房装置の低コスト化及び軽量化を実現することができる。
【0072】
また、このビスカスヒータでは、シリコンオイルを発熱室8から制御室CR内に回収したり、逆にシリコンオイルを制御室CRから発熱室8内に供給したりする際、密閉状態である発熱室8と回収通路3b等と供給通路3d等と制御室CRとの合計の内部容積は変化しないため、シリコンオイルが移動することによる負圧は生じない。このため、シリコンオイルは、新たな空気と接触することはなく、また随時空気中の水分が補充される訳ではないので、劣化や悪影響を生じることはない。したがって、このビスカスヒータは、長期間使用後の耐久後の発熱効率の低下を防止できる。
【0073】
さらに、このビスカスヒータでは、単一の回転弁24を採用して同期制御しているため、部品点数の削減等の長所を得ることができる。
また、このビスカスヒータは、軸長が短くなっているため、車両等への搭載性に優れている。
さらに、このビスカスヒータでは、ロータ15の外周側面に欠切部21が設けられるとともに内周円形孔20が設けられていることから、外周円形孔19及び斜め溝16の存在による作用効果を除いて、上記実施形態1のビスカスヒータと同様の作用効果を奏する。すなわち、このビスカスヒータは、欠切部21の存在により、粘性流体における拘束作用の助長、及び欠切部21への粘性流体中の気体集中に基づく粘性流体のせん断力向上、並びにオイルかき揚げ効果に基づく立ち上がり性向上の効果を発揮しうる。また、内周円形孔20の存在により、粘性流体をロータ15の前後に流通させることができるため、ロータ15の前後両側における粘性流体の圧力分布を均一化することができ、粘性流体の量がロータ15の前方側及び後方側で均一化される。したがって、粘性流体の偏在により発熱量が低下することを回避することができる。
【0074】
なお、このビスカスヒータでは、制御室CRが設けられている関係上、停止放置状態において多くの気体が発熱室8の上方部に存在していることから、制御室CRが設けられていない実施形態1のビスカスヒータと比較して、ロータ15の外周側面に設けられた欠切部21によるオイルかき揚げ効果の働きがより大きく関与する。
【0075】
さらに、このビスカスヒータでは、発熱室8内の粘性流体量が過少で、かつ、ロータ15が低速回転であっても、ロータ15の外周側面に設けられた欠切部21によるオイルかき揚げ効果の働きにより、発熱室8の下方部にある粘性流体を速やかに発熱有効領域の全域に行き渡らせることができるので、能力縮小状態から能力拡大状態への復帰性を向上させることができる。
【0076】
なお、上記実施形態1〜4において、上記プーリの代わりに電磁クラッチを用いて駆動軸14の断続駆動を行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1のビスカスヒータの断面図である。
【図2】実施形態1のビスカスヒータに係るロータの平面図である。
【図3】実施形態1のビスカスヒータに係るロータの断面図である。
【図4】実施形態1のビスカスヒータに係る後部プレートの平面図である。
【図5】実施形態1のビスカスヒータに係る後部プレートの部分断面図である。
【図6】ロータの外径をr0としたとき、r以下の半径内での発熱量と、無次元半径:x=r/r0との関係を示す線図である。
【図7】ロータの外径をr0、液密的間隙のクリアランスをCLとしたとき、発熱量と、無次元クリアランス:y=CL/r0との関係を示す線図である。
【図8】発熱量と、ロータに対する貫通孔の占有面積率との関係を示す線図である。
【図9】実施形態2のビスカスヒータに係るロータの平面図である。
【図10】実施形態2のビスカスヒータに係るロータを示す、図6のI−I線断面図である。
【図11】実施形態3のビスカスヒータの断面図である。
【図12】実施形態3のビスカスヒータに係るロータの平面図である。
【図13】実施形態4のビスカスヒータの縦断面図である。
【図14】実施形態4のビスカスヒータ回転弁に係り、フロント側からの平面図である。
【図15】実施形態4のビスカスヒータの後部プレート等に係り、能力拡大の際のフロント側からの平面図である。
【図16】実施形態4のビスカスヒータの後部プレート等に係り、能力縮小の際のフロント側からの平面図である。
【図17】実施形態4のビスカスヒータに係るロータの平面図である。
【図18】実施形態4のビスカスヒータに係り、回収通路及び供給通路の開閉と回転弁の回転角度との関係を示すタイミングチャートである。
【符号の説明】
8…発熱室
FW…前部放熱室(前部ウォータジャケット)
RW…後部放熱室(後部ウォータジャケット)
1、2、3、4…ハウジング(1…前部ハウジング本体、2…前部プレート、3…後部プレート、4…後部ハウジング本体)
13…軸受装置
14…駆動軸
15…ロータ
7…通しボルト
16…斜め溝
19…外周円形孔(貫通部)
20…内周円形孔(貫通部)
21…欠切部(貫通部)
3j…回収孔(回収通路)
3k…供給孔(供給通路)
SR…貯留室
3b、3c、24a…回収通路(3b…回収凹部、3c…第1回収孔、24a…第2回収孔)
3d、3e、24b…供給通路(3d…供給溝、3e…第1供給孔、24b…第2供給孔)
CR…制御室
Claims (9)
- 内部に発熱室及び該発熱室に隣接して循環流体を循環させる放熱室を形成するハウジングと、該ハウジングに軸受装置を介して回動可能に支承された駆動軸と、該発熱室内で該駆動軸により回動可能に設けられるとともに該発熱室の壁面との間に液密的間隙を形成するロータと、該発熱室内に封入され、該液密的間隙に介在して該ロータの回動により発熱される粘性流体とを有するビスカスヒータにおいて、
前記ロータは、軸方向前後に貫通され、ロータの回動により前記液密的間隙を拡大変化可能に形成された貫通部を有していることを特徴とするビスカスヒータ。 - ロータの前後端面と対面する発熱室の前後壁面の少なくとも一方には非円周方向に延在する溝が設けられ、該溝と貫通部とは、ロータの回動中に相互に対向する範囲を有していることを特徴とする請求項1記載のビスカスヒータ。
- 貫通部はロータの前後端面の外周域に設けられた貫通孔であることを特徴とする請求項1又は2記載のビスカスヒータ。
- 貫通孔は円形孔であり、ロータの外径をr0としたとき、該円形孔は、中心が該ロータの中心から0.3×r0以上離れた位置にあり、半径が(0.05〜0.15)×r0の範囲内にあることを特徴とする請求項3記載のビスカスヒータ。
- 貫通部及び非円周方向に延在する溝はそれぞれ周方向に複数設けられ、該貫通部及び該溝の周方向の間隔は互いに相違していることを特徴とする請求項2、3又は4記載のビスカスヒータ。
- 貫通部はロータの外周側面に設けられた欠切部であることを特徴とする請求項1、2又は5記載のビスカスヒータ。
- 貫通部は角張った凸状角部を有していることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載のビスカスヒータ。
- ハウジングには、発熱室と回収通路及び供給通路により連通され、該発熱室内における粘性流体の収容容積を超える粘性流体を収容可能な貯留室が配設されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のビスカスヒータ。
- ハウジングには、発熱室と連通する回収通路と、該発熱室と連通する供給通路と、該回収通路及び該供給通路と連通する制御室とが形成されるとともに、該回収通路及び該供給通路のうちの少なくとも一方が開閉可能とされ、該回収通路を経て該発熱室内の前記粘性流体を該制御室内に回収して能力縮小を行なうとともに、該供給通路を経て該制御室内の該粘性流体を該発熱室内に供給して能力拡大を行ないうるように構成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のビスカスヒータ。
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