JP3548171B2 - 磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記憶装置 - Google Patents

磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記憶装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記憶装置に関し、更に詳細には、ハードディスク、フロッピーディスク(登録商標)のようにヘッドが一時的または定常的に接触するタイプの磁気記録媒体及びその製造方法並びに磁気記憶装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年の高度情報化社会の進展に対応して、情報記録装置の大容量化・高密度化に対するニーズは高まる一方である。かかるニーズに応える情報記録装置の一つとして磁気記憶装置が知られている。磁気記憶装置は、例えば、大型サーバー、並列型コンピュータ、パーソナルコンピュータ、ネットワークサーバー、ムービーサーバー、モバイルPC等の大容量記憶装置として使用されている。磁気記憶装置は、情報が記録される磁気記録媒体と、磁気記録媒体の情報を記録再生するための磁気ヘッドを備える。磁気記録媒体は、円板状の基板の上に記録層としてコバルト合金などの強磁性薄膜がスパッタ法などにより形成されており、記録層上には、耐摺動性、耐食性を高めるために、保護膜と潤滑膜が形成されている。
【0003】
磁気記憶装置の大容量化に伴って、磁気記録媒体の記録層に微細な記録磁区を記録することによる磁気記録媒体の記録密度の向上が進められており、記録磁区を微細に記録するための方法として垂直磁気記録方式が注目されている。垂直磁気記録方式では、垂直磁化を示す記録層を有する磁気記録媒体を用いて、記録層に垂直磁化を有する磁区を形成することによって磁気記録を行なう。かかる垂直磁気記録方式では記録層に微細な磁区を形成できるため磁気記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0004】
かかる垂直磁気記録方式に従う磁気記録媒体の記録層の材料としては、従来、Co−Cr系の多結晶膜が用いられてきた。この多結晶膜は、強磁性を有するCoリッチな領域と非磁性のCrリッチな領域とが互いに分離された構造を有し、非磁性領域が、隣り合う強磁性領域の間で働く磁気的相互作用を断ち切っている。これにより高密度化と低ノイズを実現している。
【0005】
また、垂直磁気記録方式においては、磁気ヘッドからの磁界を効率よく記録層に印加させるために、軟磁性材料からなる軟磁性層と、硬磁性材料からなり、情報を記録するための記録層とを組み合わせた2層の磁性膜を備える磁気記録媒体が提案されている。
【0006】
磁気記録媒体の面記録密度を更に向上させるためには、媒体ノイズを低減させる必要がある。そのためには、磁化反転単位の微細化や読み取りヘッドの高感度化が有効なことがわかっている。このうち、磁化反転単位を微細化するには、磁性結晶粒を微細化すればよいことがわかっている。しかし、磁性結晶粒をあまり微細化してしまうと、磁性結晶粒の磁化状態が熱的に不安定になる、いわゆる熱減磁を起こしてしまう。これを防ぐために、例えば、特開平8−30951号公報には、非磁性基板上に、軟磁性層、炭素からなる第1中間層、第2中間層及び人工格子構造を持つ記録膜を順に積層した磁気記録媒体が開示されている。
【0007】
ところで、磁気記録媒体の記録層として、上述のCo−Cr系の多結晶膜よりも高い磁気異方性を有し、熱擾乱に対する耐性に優れる磁性層の研究が進められており、かかる磁性層として、例えば、CoとPdもしくはCoとPtを交互に積層した人工格子多層膜(交互積層多層膜ともいう)や、FeとPtもしくはCoとPtなどの合金膜を高温で熱処理することによって得られる規則格子合金膜などが知られている。これら人工格子多層膜や規則格子合金膜は、高い磁気異方性を有するため、熱擾乱に対しては高い耐性が期待される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの膜はCo−Cr系多結晶膜と異なり、面内方向(基板表面に対して平行な方向)の磁気的相互作用が強いために小さな磁区が形成できず、転移性の媒体ノイズが大きいという欠点があった。前述の特開平8−30951号公報に開示されている磁気記録媒体では、軟磁性層上に形成した炭素からなる第1中間層の上にPtまたはPdからなる第2中間層を設け、その上にCo/PtあるいはCo/Pd人工格子膜を形成することにより、人工格子膜の結晶配向を向上させ、垂直磁気異方性を高くして保磁力を向上させている。しかしながら、かかる磁気記録媒体では、記録層の面内方向の磁気的交換結合力が強くなり、線記録密度が高くなったときにジッターとして現れる遷移ノイズが高くなってしまい、高記録密度の記録再生は困難であった。また、第1中間層と第2中間層の2つの中間層を用いているため、磁気ヘッドからの書き込み磁界が軟磁性層まで有効に到達せず、飽和記録特性が劣るという問題があった。
【0009】
特許公報第2727582号には、耐蝕性、耐久性等の実用特性に優れるとともに、垂直磁気特性、磁気光学特性に優れる垂直磁気記録膜として、Fe、Co、Niのいずれかの酸化物あるいは任意の組み合わせによる複合酸化物からなる下地膜の上にCo−Pt人工格子膜が積層されてなる垂直磁化膜が開示されている。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、記録層の面内方向の磁気的交換結合力が低く、遷移ノイズが低減され、高S/Nで情報を再生できる磁気記録媒体及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、優れた耐熱擾乱特性を備え、高い面記録密度で情報を記録してもその情報を高S/Nで再生できる磁気記憶装置を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の態様に従えば、磁気記録媒体であって、
基板と;
該基板上に直接または間接的に形成された、Fe酸化物を含むシード層と;
該シード層上に直接形成された、Pd及びPtの少なくとも一方の白金族元素層とCo層とを交互に積層して形成された記録層と;を備えた磁気記録媒体が提供される。
【0013】
本発明の磁気記録媒体は、基板と、Pd及びPtの少なくとも一方の白金族元素層とCo層とを交互に積層して形成され、情報を記録するための記録層と、Fe酸化物を含むシード層とを備える。シード層は、その表面に記録層を構成する磁性粒子の核を所定の間隔で成長させることができる。記録層は、人工格子構造で垂直磁化を示す硬磁性材料から形成されていることが好ましい。また、上記基板と上記シード層との間に軟磁性材料から形成された軟磁性層が形成されていることが好ましい。かかる記録層の下地として、Fe酸化物を含むシード層を形成することにより、微小な磁性粒子の集合体からなる記録層を形成することができる。その理由を以下に説明する。
【0014】
シード層に含まれるFe酸化物は、記録層を構成する白金族元素、例えば、PtやPdに対して濡れ性が低い。それゆえ、かかるシード層上に、PtまたはPdを例えばスパッタ法を用いて堆積すると、PtまたはPdは、その表面張力によりシード層上で面内方向に微細に分散して形成される。このように、シード層上で微細に分散して存在するPtまたはPdは、記録層の磁性粒子が成長する核となるため、その上にCoとPtまたはPdとを交互に堆積させることにより、それらの核から磁性粒子は個別に且つ孤立した状態で成長する。こうして成長した磁性粒子は、かかる微細に分散した核を単位としているので比較的微小な磁性粒子がシード層上に得られることになる。記録層は、このような微小な磁性粒子の集合体から構成されるので、微小な記録磁区を形成することができるとともに、記録層の磁性粒子の磁気的相互作用も低減され、しかも記録磁区同士の境界部分が明瞭になるため、ノイズを低減することができる。
【0015】
本発明の磁気記録媒体において、シード層はFe酸化物に加え、金属として存在するFe(Fe金属)を含むことが好ましく、かかるシード層を備える磁気記録媒体は媒体ノイズを一層低減することができる。その理由について以下に説明する。
【0016】
Fe酸化物に加えてFe金属を含んでいるシード層は、Fe酸化物中に極めて微小なFe金属粒子が分散した状態であると考えられる。上述したように、Fe酸化物は、例えば記録層を構成する元素である白金族元素例えばPdやPtとの濡れ性が低い。一方、Fe金属はPdやPtと濡れ性が高い。そのため、Fe金属粒子がFe酸化物中で分散して存在するシード層上にPdまたはPtを堆積すると、PdまたはPtはFe金属に選択的に吸着する。このとき、シード層中のFe金属は極めて微小であるため、Fe金属に吸着したPdまたはPtは、前述のFe酸化物からなるシード層上に形成した場合よりも一層微小となる。しかも、Fe金属の周囲には、PdまたはPtに対して濡れ性の悪いFe酸化物が存在するため、シード層上に堆積されたPdまたはPtは、二次元的に、すなわち面内方向に広がることが制限され、微小な状態を維持したまま所定の間隔で個別に分散すると考えられる。このように、極めて微小に分散したPdまたはPtは、記録層の磁性粒子が成長する核となるため、その上にCoとPdまたはPtとを交互に堆積させることにより、それら微小な核から、記録層の磁性粒子が成長する。すなわち、Fe酸化物とFe金属とを含むシード層を記録層の下地として用いた場合は、シード層中のFe金属が、記録層に極めて微細な磁性粒子を成長させるための核としての役割を果たしている。そして、かかる微小な核を単位に磁性粒子が成長するため、微小な磁性粒子から形成された記録層が得られる。これにより、記録層に形成される磁区もまた微細化し、ノイズを一層低減することが可能となる。
【0017】
また、本発明の磁気記録媒体においては、シード層中に金属として存在するFeの原子数をFeMetとし、酸化物として存在するFeの原子数をFeOxiとしたときに、それらの原子数比(FeMet/FeOxi)が0.02<(FeMet/FeOxi)<0.2を満足することが好ましい。後述する実施例に示すように、上記原子数比が0.02よりも大きいときに、記録層に高密度に情報を記録することができるとともに高S/Nでその情報を再生することができる。しかし、上記原子数比が0.2よりも大きくなると、シード層中のFe金属が多くなりすぎて白金族元素の吸着に選択性がなくなって記録層に微小な磁性粒子を形成できなくなるおそれがある。
【0018】
本発明の磁気記録媒体において、Fe酸化物を含むシード層は、全体として80vol%以上のFe酸化物を含むことが好ましく、後述するように軟磁性層を高温で酸化させることによりシード層を形成した場合には、Fe酸化物或いはFe金属以外に不純物を10at%程度含んでいてもよい。
【0019】
本発明の磁気記録媒体において、シード層の膜厚は、磁気スペーシングとなって記録効率が低下しないようにするために30nm以下であることが好ましい。
【0020】
本発明の磁気記録媒体において、硬磁性材料を用いて形成される記録層は膜面に対して垂直方向に磁化を有する垂直磁化膜にし得る。かかる記録層には、人工格子多層膜(交互積層多層膜)に加えて、規則格子合金膜を用いることができる。硬磁性材料としては、主として白金族元素とCoとから構成される材料であることが好ましい。白金族元素はPt及びPdの少なくとも一方の元素が好適であり、かかる白金族元素とCoとを交互に積層した交互積層多層膜を用いて記録層を形成することが好ましい。交互積層多層膜や規則格子合金膜は、室温または比較的低い基板温度で成膜することができるため生産性に優れ、しかも、高い磁気異方性を有するため耐熱擾乱特性に優れている。それゆえ、高密度記録用の記録層として極めて最適である。
【0021】
本発明の磁気記録媒体において、軟磁性層は、磁気ヘッドからの磁界を記録層に効率的に印加するという観点から、Fe中にTa、Nb、Zrのうちより選ばれる少なくとも1種類の元素の窒化物あるいは炭化物を均一に分散させた微結晶構造を有する軟磁性膜が好適である。また、かかる材料以外に、例えば、Co−Zrを主体とし、これにTa、Nb、Tiのうちより選ばれる少なくとも1種類の元素を含んだ非晶質合金であってもよい。これらの軟磁性膜は1.5T以上の大きな飽和磁束密度を有するため高密度記録に適している。具体的な材料としては、高透磁率を有するNiFe、CoTaZr、CoNbZr、FeTaC等を用いることができ、これらの材料からなるな磁性層は、膜厚1000nm以下でスパッタ法や蒸着法等によって形成することができる。
【0022】
本発明では、軟磁性層の表面が平坦であることが好ましく、軟磁性層の表面の表面粗さRaは0.20nm〜0.40nmであることが好ましい。このように、表面が平坦な軟磁性層を用いると、後述する実施例に示すように、記録層の磁性結晶粒子の境界すなわち結晶粒界は極めて明瞭となり、記録層の磁性結晶粒子の孤立化が一層促進される。かかる記録層の磁性結晶粒子は結晶粒界によって磁気的に分断されているため、面内方向の磁気的交換結合力が低減している。これにより記録層には微小な磁区を形成することが可能となるとともに磁化遷移領域の直線性が高くなる。軟磁性層の表面を平坦にすることにより、記録層の結晶粒界が明瞭となるのは以下の原理によるものと考えられる。
【0023】
軟磁性層上にシード層を成膜するとき、軟磁性層表面に凹凸が存在すると、スパッタ粒子が凹凸部に捕獲されてしまうと考えられる。このため、軟磁性層上には、シード層を構成する粒子が十分な間隔で隔てられることなく成長した初期成長層が形成されると考えられる。一方、軟磁性層の表面が平坦であると、軟磁性層表面に到達したスパッタ粒子はその面方向に十分拡散するため、シード層を形成する粒子が互いに十分に隔てられた状態で成長した初期成長層が成膜される。このように十分な間隔で隔てられた初期成長層に基づいて形成されたシード層は、SiN(或いはSiN網構造)中において微結晶或いは部分的非晶質構造として存在するPdまたはPtも十分な間隔で隔てられ、分散が一層促進されているものと考えられる。このようにPdまたはPtの分散が一層促進されたシード層上に記録層を成膜することにより、記録層に極めて明瞭な結晶粒界が得られていると考えられる。軟磁性層の表面を平坦にするには、例えば、軟磁性層の成膜後、表面をドライエッチングすればよい。
【0024】
本発明の磁気記録媒体において、基板には、例えば、アルミニウム・マグネシウム合金基板、ガラス基板、グラファイト基板などの非磁性基板を用い得る。アルミニウム・マグネシウム合金基板には、表面をニッケル・リンでメッキしてもよい。基板を回転させながら、基板表面にダイヤモンド砥粒や研磨用テープを押し当てることにより基板表面を平坦に処理してもよい。これにより、磁気記録媒体上を磁気ヘッドを浮上させたときに、磁気ヘッドの走行特性を向上させることができる。基板表面の中心線粗さRaは、基板上に形成される保護膜の中心線粗さが1nm以下となるように望ましい。ガラス基板においては、強酸などの薬品により表面を化学的にエッチングして平坦化してもよい。また、化学的に表面に微細な高さ、例えば、1nm以下の突起を形成することにより、負圧スライダーを用いた場合に安定な低浮上量を実現することができる。
【0025】
磁気記録媒体の基板上には、上記軟磁性層を成膜する前に密着性を向上させるためにTiなどの接着層を形成しても良い。
【0026】
本発明の磁気記録媒体は記録層上に保護層を備え得る。保護膜としては、例えば、非晶質炭素、ケイ素含有非晶質炭素、窒素含有非晶質炭素、ホウ素含有非晶質炭素、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム及び立方晶窒化ホウ素のうちのいずれか一種を好適に用いることができる。これら非晶質炭素保護膜の形成方法としては、例えば、グラファイトをターゲットとした不活性ガス中、あるいは不活性ガスとメタンなどの炭化水素ガスの混合ガス中のスパッタリングによって形成する方法や、炭化水素ガス、アルコール、アセトン、アダマンタンなどの有機化合物を単独あるいは水素ガス、不活性ガスなどを混合してプラズマCVDにより形成する方法、あるいは有機化合物をイオン化して電圧をかけて加速し、基板に衝突させて形成する方法などがある。更には、高出力のレーザー光をレンズで集光し、グラファイト等のターゲットに照射するアブレーション法によって保護膜を形成してもよい。
【0027】
保護膜の上には、耐摺動特性を良好なものにするために、潤滑剤を塗布することができる。潤滑剤としては、主鎖構造が炭素、フッ素、酸素の3つの元素からなるパーフルオロポリエーテル系高分子潤滑剤が用いられる。或いは、フッ素置換アルキル化合物を潤滑剤として用いることもできる。安定な摺動と耐久性を有する材料であれば、他の有機系潤滑剤や無機系潤滑剤を用いてもよい。
【0028】
これらの潤滑剤の形成方法としては溶液塗布法が一般的である。また、地球温暖化を防ぐため、あるいは工程を簡略化するために、溶剤を使わない光CVD法によって潤滑膜を形成してもよい。光CVD法は、フッ化オレフィンと酸素の気体原料に紫外光を照射することによって行われる。
【0029】
潤滑剤の膜厚としては、平均値として0.5nm〜3nmが適当である。0.5nmより薄いと潤滑特性が低下し、3nmよりも厚くなるとメニスカス力が大きくなり、磁気ヘッドと磁気ディスクの静摩擦力(スティクション)が大きくなるため好ましくない。これら潤滑膜を形成した後に100℃前後の熱を1〜2時間窒素中あるいは空気中で与えてもよい。これにより、余分な溶剤や低分子量成分を飛ばして潤滑膜と保護膜の密着性を向上させることができる。かかる後処理以外に、例えば、潤滑膜形成後に紫外線ランプにより紫外線を短時間照射させる方法を用いてもよく、かかる方法によっても同様の効果が得られる。
【0030】
本発明の第2の態様に従えば、磁気記録媒体の製造方法であって、
基板を用意する工程と;
上記基板上に軟磁性層を形成する工程と;
上記軟磁性層上に、Fe酸化物を含むシード層を形成する工程と;
上記シード層上に直接Pd及びPtの少なくとも一方の白金族元素とCoとを交互に供給して成膜することにより記録層を形成する工程と;を含む磁気記録媒体の製造方法が提供される。
【0031】
本発明の製造方法においては、例えば、Feを主体とするターゲットを、酸素を含むスパッタガスを用いて反応性スパッタすることによってシード層を形成することができる。かかる方法により形成されたシード層はFe酸化物を含んでいる。
【0032】
また、本発明の製造方法では、スパッタガス中の酸素ガスの流量を制御することによって、Fe酸化物に加えてFe金属を含んだシード層を形成することができる。Fe酸化物とFe金属とを含むシード層は、前述したように、記録層の下地として用いた場合に、記録層に微小な磁性粒子の集合体を形成することができるので、かかるシード層を備える磁気記録媒体は媒体ノイズを一層低減することができる。また、上述のように、酸素ガスの流量を制御してシード層中にFe金属を形成する場合は、シード層を形成してからシード層上に記録層を形成するまでの間に、シード層の表面をスパッタエッチングすることが望ましい。その理由について以下に説明する。
【0033】
酸素ガスを含有するスパッタガスを用いて反応性スパッタによりシード層を形成した後は、成膜チャンバー内には酸素ガスが残留している。この酸素ガスを完全に排気するには一定の時間を要するため、その間、チャンバー内に残留する酸素ガスによってシード層中のFe金属の表面に酸化皮膜が薄く形成されてしまう。かかる酸化被膜は、例えばシード層上に白金族元素を含む記録層を形成するときに、記録層中の白金族元素がFe金属に吸着することを阻害するため、白金族元素の吸着選択性が低下するおそれがある。そこで、上述のように、シード層の成膜後に、シード層の表面をスパッタエッチングしてFe金属の表面に形成された酸化皮膜を除去することにより、記録層を構成するPdやPtなどの白金族元素をシード層表面のFe金属に確実に吸着させることができるため、記録層に微小な磁性粒子を形成することができる。スパッタエッチングに用いるガスはAr,Kr,Xeなどの不活性ガス、もしくはこれらの不活性ガスと水素ガスとの混合ガスが好適である。
【0034】
また、本発明の製造方法において、例えば、軟磁性層としてFeを含む軟磁性層を用いた場合には、Feを含む軟磁性層を形成した後に、軟磁性層の表面を高温で酸化させることによってもFe酸化物を含むシード層を形成することができる。
【0035】
本発明の製造方法において、軟磁性層、第1シード層、第2シード層及び記録層の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、MBE法、スパッタ法、イオンビーム法、分子層エピタキシー法、プラズマCVD等を用いることができる。スパッタ法としては、例えば、ECRスパッタ法、DCスパッタ法、RFスパッタ法など既に知られたスパッタ法を用いることができる。
【0036】
本発明の第3の態様に従えば、第1の態様の磁気記録媒体と;
情報を記録または再生するための磁気ヘッドと;
上記磁気記録媒体を上記磁気ヘッドに対して駆動するための駆動装置と;を備える磁気記憶装置が提供される。
【0037】
本発明の磁気記憶装置は、本発明の第1の態様の磁気記録媒体を備えるので、高い面記録密度で情報を記録してもその情報を高S/Nで再生できるとともに、優れた耐熱擾乱特性を備えている。
【0038】
本発明の磁気記憶装置において、磁気ヘッドは、磁気記録媒体に情報を記録するための記録用磁気ヘッドと、磁気記録媒体に記録された情報を再生するための再生用磁気ヘッドとから構成され得る。記録用磁気ヘッドのギャップ長は、0.2μm〜0.02μmが望ましい。ギャップ長が0.2μmを越えると、400kFCI以上の高い線記録密度で記録することが困難になる。また、ギャップ長が0.02μmより小さい記録ヘッドは製造が困難であり、静電気誘起による素子破壊が起こりやすくなる。
【0039】
再生用磁気ヘッドは、磁気抵抗効果素子を用いて構成することができる。再生用磁気ヘッドの再生シールド間隔は、0.2μm〜0.02μmが望ましい。再生シールド間隔は、再生分解能に直接関係し、短いほど分解能が高くなる。再生シールド間隔の下限値は、素子の安定性、信頼性、耐電気特性、出力等に応じて上記範囲内で適宜選択することが望ましい。
【0040】
本発明の磁気記憶装置において、駆動装置は、磁気記録媒体を回転駆動させるスピンドルを用いて構成することができ、スピンドルの回転速度は毎分3000回転〜20000回転が望ましい。スピンドルの回転速度が毎分3000回転より遅いとデータ転送速度が低くなるため好ましくない。また、毎分20000回転を越えると、スピンドルの騒音や発熱が大きくなるため望ましくない。これらの回転速度を勘案すると、磁気記録媒体と磁気ヘッドの最適な相対速度は2m/秒〜30m/秒となる。
【0041】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に従う磁気記録媒体及びそれを用いた磁気記憶装置の実施例について図面を用いて具体的に説明する。以下の実施例では、磁気記録媒体として、磁気ディスク(ハードディスク)を作製したが、本発明は、フロッピーディスク(登録商標)、磁気テープ、磁気カードなどのように、記録または再生時に磁気ヘッドと磁気記録媒体が接触するタイプの記録媒体にも適用できる。
【0042】
【実施例1】
図1に、本発明の磁気記録媒体の概略断面図を示す。磁気記録媒体100は、密着層2を有する基板1上に、軟磁性層3、シード層4、記録層5、保護層6及び潤滑層7を備える。かかる積層構造を有する磁気記録媒体100の製造方法を以下に説明する。
【0043】
まず、直径65mmのガラス基板1を用意し、ガラス基板1上に連続スパッタ装置により、密着層2として厚さ5nmのTiを成膜した。
【0044】
次いで、密着層2上に、軟磁性層3として、Fe79Ta12を膜厚400nmにて成膜した。更に、成膜されたFe79Ta12を真空中でカーボンヒーターにより450℃の温度で30秒間加熱した後、徐冷した。こうしてFeの微結晶を含有する軟磁性層3を形成した。
【0045】
次いで、基板1を交互スパッタ装置のチャンバーに移送し、軟磁性層3上にシード層4を成膜した。シード層4の成膜では、チャンバー内にアルゴンガスを導入しながら、PdターゲットをDCスパッタし、SiNターゲットをRFスパッタすることにより、軟磁性層3上に、73at%のPdと、26at%のSiと、1at%のNからなるシード層4を膜厚5nmで成膜した。
【0046】
つぎに、シード層4上に人工格子構造の記録層5を成膜した。記録層5の成膜では、Arガス中で、CoターゲットとPdターゲットのシャッターを交互に開閉しながらDCスパッタして、Co層とPd層とが交互に積層された人工格子構造の記録層5を形成した。Co層の1層あたりの膜厚は0.12nm、Pd層の1層あたりの膜厚は0.85nmであり、Pd層とCo層の積層数はそれぞれ26層であった。
【0047】
次いで、記録層5上に、アモルファスカーボンからなる保護層6をプラズマCVD法により膜厚3nmにて形成した。保護層6の形成後、基板を成膜装置から取り出した。最後に、保護層6上にパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を1nmの厚さで塗布して潤滑層7を形成した。
【0048】
こうして図1に示す積層構造を有する磁気記録媒体100を作製した。
【0049】
【実施例2】
シード層に更にCoを含有させた以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。シード層の成膜では、Arガスをチャンバー内に導入しながらCoターゲットとPdターゲットをDCスパッタし、SiNターゲットをRFスパッタした。これにより、軟磁性層上に、6at%のCoと、70at%のPdと、23at%のSiと、1at%のNからなるシード層を成膜した。
【0050】
【実施例3】
本実施例では、人工格子構造の記録層を、交互スパッタ法により、膜厚0.15nmのCo層と膜厚0.85nmのPt層とを15周期繰り返して成膜した。また、かかる人工格子構造の記録層の結晶成長を良好に制御するために、シード層として73at%のPt、26at%のSi、1at%のNからなるシード層を膜厚5nmにて形成した。これ以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0051】
【実施例4】
図3に、本発明に従う磁気記憶装置200の概略構成図を示す。磁気記憶装置200は、磁気記録媒体100と、磁気記録媒体100を回転駆動するための回転駆動部18と、磁気ヘッド10と、磁気ヘッド10を磁気記録媒体上で所望の位置に移動させるヘッド駆動装置11と、記録再生信号処理装置12を備える。磁気記録媒体100には実施例1で作製した磁気記録媒体を用いた。磁気ヘッド10は、単磁極型書き込み素子とGMR(Giant Magneto−Resistive)読み込み素子を備え、ヘッド駆動装置11のアームの先端に設けられている。磁気ヘッド10の単磁極型書き込み素子は、情報記録時に磁気記録媒体に記録するデータに応じた磁界を印加して磁気記録媒体に情報を記録することができる。磁気ヘッド10のGMR読み込み素子は、磁気記録媒体からの漏洩磁界の変化を検出して磁気記録媒体に記録されている情報を再生することができる。記録再生信号処理装置12は、磁気記録媒体100に記録するデータを符号化して磁気ヘッド10の単磁極型書き込み素子に記録信号を送信することができる。また、記録再生信号処理装置12は、磁気ヘッド10のGMR読み込み素子により検出された磁気記録媒体100からの再生信号を復号することができる。
【0052】
かかる磁気記憶装置200を駆動し、磁気的スペーシング(磁気ヘッド10の主磁極表面と磁気記録媒体100の記録層表面との距離)を13nmに維持しながら、線記録密度1000kBPI、トラック密度150kTPIの条件にて情報を記録し、記録した情報を再生して記録再生特性を評価したところ、トータルS/Nとして24.5dBを得た。更に、面記録密度150ギガビット/平方インチの記録密度にて記録再生することができた。また、ヘッドシーク試験として、磁気ヘッドを磁気記録媒体上の内周から外周まで10万回シークさせ、かかるヘッドシーク試験後に磁気記録媒体のビットエラーを測定したところビットエラー数は10ビット/面以下であり、30万時間の平均故障間隔を達成することができた。なお、上記S/Nは下記式を用いて求めた。
S/N=20log(S0−p/Nrms
式中、S0−pは、ゼロ点からピークまで(zero to peak)の再生信号振幅の半分の値であり、Nrmsはスペクトルアナライザーにより測定したノイズの振幅の平方自乗平均値である。
【0053】
【比較例1】
シード層としてPdからなる層を膜厚5nmで形成した以外は、実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0054】
【比較例2】
シード層としてPtからなる層を膜厚5nmで形成した以外は、実施例3と同様にして磁気記録媒体を作製した。
【0055】
【比較例3】
比較例1の磁気記録媒体を実施例4に示した磁気記憶装置200に搭載して記録再生特性を評価した。磁気的スペーシング13nm、線記録密度1000kBPI、トラック密度150kTPIの条件で記録再生特性を評価したところ、トータルS/Nは18.5dBであり、十分な記録再生を行なうことができなかった。更に、面記録密度50ギガビット/平方インチの記録密度で記録した後、ヘッドシーク試験として、磁気ヘッドを磁気記録媒体上の内周から外周まで10万回シークさせ、かかるヘッドシーク試験後に磁気記録媒体のビットエラーを測定したところビットエラー数は150ビット/面以下であり、19万時間の平均故障間隔であった。
【0056】
〔電磁変換特性の測定〕
つぎに、実施例1〜3及び比較例1、2の磁気記録媒体の電磁変換特性を、スピンスタンドの記録再生試験機を用いて測定した。記録再生試験機の磁気ヘッドとしては単磁極型書き込み素子とGMR読み取り素子の複合型ヘッドを使用した。単磁極型書き込み素子のメインポール(主磁極)の実効書き込みトラック幅は110nm、Bsは2.1Tであった。また、GMR素子の実効トラック幅は97nm、シールド間隔は45nmであった。記録再生試験の際、磁気ヘッドの単磁極型書き込み素子の主磁極表面と磁気記録媒体の記録層表面との間隔を13nmとした。電磁変換特性の測定結果を図4に示す。図4において、S/Ndは500kFCIにおけるS/Nであり、Reは孤立波出力で割った出力分解能である。また、熱減磁率は、24℃の環境下において、線記録密度100kFCIにて記録した信号を再生したときの再生信号振幅の時間に対する変化の割合とした。図4から明らかなように、実施例1〜3で作製した磁気記録媒体は、良好なS/Nが得られており、分解能も18%以上と高いのに対し、比較例の磁気記録媒体では10%に満たなかった。このことから、実施例1〜3の磁気記録媒体は、高域でも遷移性ノイズが低減しており、高分解能と高S/Nが両立されていることがわかる。
【0057】
〔記録層の断面構造の観察〕
つぎに、実施例1〜3の磁気記録媒体の記録層の断面構造を、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて観察した。図2に、人工格子構造の記録層5の断面構造の観察結果を模式的に示した。図2に示すように、記録層5は、円柱形状の結晶粒子31の集合体から構成されており、それぞれの結晶粒子31の上面は半球状であった。円柱形状の結晶粒子の回転軸に対して垂直な断面の直径dは約8nmであり、結晶粒子の表面の半球の最上部Aと最下部Bの差hは2nmであった。記録層5は、かかる円柱形状の結晶粒子から構成されているために面内方向の磁気的結合力が低減され、微細な記録ビットが安定になり、磁化遷移領域の直線性がよくなると考えられる。
【0058】
更に、図4の24℃における熱減磁率の結果からわかるように、実施例1〜3の磁気記録媒体においては熱減磁が認められなかったのに対し、比較例1及び2の磁気記録媒体においては熱揺らぎによる減磁が顕著に見られた。この結果は、実施例1〜3の磁気記録媒体においては記録層の磁化遷移領域が明瞭で直線性が高いのに対し、比較例1及び2の磁気記録媒体においては磁化遷移領域が乱れて熱的に外乱を受けやすいことを示していると考えられる。また、オントラックで1000kBPIにてエラーレートを測定したところ、実施例1〜3の磁気記録媒体はいずれも1×10−5以下であったのに対し、比較例1及び2の磁気記録媒体は1×10−4以上であった。
【0059】
【実施例5】
この実施例では、シード層の組成を下記表に示す値に変更した以外は、実施例1と同様にして9種類の磁気記録媒体(試料1〜9)を作製した。得られた9種類の磁気記録媒体について、前述の電磁変換特性の測定と同様にスピンスタンドの記録再生試験機を用いて、S/Nd、Re及び熱減磁率を測定した。下記表に測定結果を示した。
【0060】
【表1】
Figure 0003548171
【0061】
上記表1からわかるように、試料1〜7の磁気記録媒体において14.6%以上の極めて良好なS/Ndが得られており、分解能も19%以上と極めて高かった。すなわち、高S/Nと高分解能が実現されていた。また、試料1〜7のいずれの磁気記録媒体も熱減磁は認められておらず、熱的安定性が高いことがわかる。一方、試料8及び9の磁気記録媒体は、S/Ndと分解能のどちらも低かった。また熱減磁が認められていた。以上の結果からすると、磁気記録媒体のPdSiNのシード層の組成が、Pdが50at%〜80at%、Siが10at%〜35at%、Nが0.1at〜10at%のときに、比較的高いS/Nと分解能が得られ、熱的安定性に優れると考えられる。
【0062】
【実施例6】
この実施例では、シード層の組成を下記表2に示す値に変更した以外は、実施例3と同様にして9種類の磁気記録媒体(試料10〜18)を作製した。得られた9種類の磁気記録媒体について、前述の電磁変換特性の測定と同様にスピンスタンドの記録再生試験機を用いて、S/Nd、Re及び熱減磁率を測定した。下記表2に測定結果を示した。
【0063】
【表2】
Figure 0003548171
【0064】
表2からわかるように、試料10〜16の磁気記録媒体では14.6%以上の極めて良好なS/Ndが得られており、分解能も19%以上と極めて高かった。すなわち、高S/Nと高分解能が実現されていた。また、試料10〜16の磁気記録媒体では熱減磁は認められておらず、熱的安定性が高いことがわかる。一方、試料17及び18の磁気記録媒体は、S/Ndと分解能のどちらも低かった。また熱減磁が認められていた。以上の結果からすると、磁気記録媒体のPtSiNのシード層の組成が、Ptが50at%〜80at%、Siが10at%〜35at%、Nが0.1at〜10at%のときに、比較的高いS/Nと分解能が得られ、熱的安定性に優れることがわかる。
【0065】
【実施例7】
図5に、本実施例の磁気記録媒体の概略断面図を示す。磁気記録媒体500は、基板上1に、軟磁性層53、シード層54、記録層55、保護層56及び潤滑層57を備える。かかる磁気記録媒体を以下のようにして製造した。
【0066】
まず、直径65mmのガラス基板1を用意し、ガラス基板1上に、軟磁性層53として、Fe79Ta12を膜厚400nmで成膜した。更に、成膜されたFe79Ta12の飽和磁化を高めるために、真空中でカーボンヒーターにより400℃の温度で30秒間加熱した後、徐冷した。かかる加熱処理後、軟磁性層53の表面をプラズマエッチング処理した。プラズマエッチング処理は、Arガス圧0.9Pa、パワー500Wで120秒間行なった。
【0067】
次いで、基板1を交互スパッタ装置のスパッタチャンバーに移送し、軟磁性層53上にシード層54を成膜した。シード層54の成膜では、チャンバー内にアルゴンガスを導入しながら、PdターゲットをDCスパッタし、SiNターゲットをRFスパッタすることにより、軟磁性層53上に、70at%のPdと、20at%のSiと、10at%のNからなるシード層54を膜厚3nmで成膜した。
【0068】
つぎに、シード層54上に人工格子構造の記録層55を成膜した。記録層55の成膜では、Arガス中で、CoターゲットとPdターゲットのシャッターを交互に開閉しながらDCスパッタして、Co層とPd層とが交互に積層された人工格子構造の記録層55を形成した。Co層の1層あたりの膜厚は0.2nm、Pd層の1層あたりの膜厚は0.8nmであり、Pd層とCo層の積層数はそれぞれ26層であった。
【0069】
次いで、記録層55上に、アモルファスカーボンからなる保護層56をプラズマCVD法により膜厚3nmにて形成した。保護層56の形成後、基板を成膜装置から取り出した。最後に、保護層56上にパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を1nmの厚さで溶液塗布して潤滑層57を形成した。
【0070】
こうして図5に示す積層構造を有する磁気記録媒体500を作製した。また、軟磁性層の表面をプラズマエッチングすることによる効果を調べるために、軟磁性層の表面をプラズマエッチングしなかった以外は、上記と同様に磁気記録媒体を作製した。
【0071】
軟磁性層の表面をエッチング処理した磁気記録媒体とエッチング処理しない磁気記録媒体について、膜面に対して垂直方向に外部磁界を印加しながら記録層のカー回転角の変化を測定した。図6に、エッチング処理した磁気記録媒体の外部磁界に対するカー回転角曲線を示す。記録層のカー回転角は、記録層の磁化の大きさに比例するので、カー回転角と外部磁界との関係を表すカー回転角曲線は、通常の磁化測定で求めた磁化曲線と実質的に同等の形状であり、ヒステリシスを示す。本実施例では、カー回転角曲線から記録層の保磁力、ニュークリエーション磁界、外部磁界H=Hcにおける曲線の傾き4π(dM/dH)H=Hcを見積もった。ここで、ニュークリエーション磁界とは、所定の方向に外部磁界を印加して磁化を一旦飽和させた後に、逆方向の外部磁界を印加させ、逆磁区(飽和された磁区の磁化に対して逆方向に向いた磁区)が発生するときの磁界である。図6のグラフにおいては、カー回転角曲線の第2象限の肩の部分(降下開始点)に相当する。
【0072】
エッチング処理した磁気記録媒体では、保磁力Hcは3.9kOe、負のニュークリエーション磁界は−2.1kOe、外部磁界H=Hcにおける曲線の傾き4π(dM/dH)H=Hcは1.4であった。一方、エッチング処理しない磁気記録媒体は、保磁力Hcは2.6kOe、ニュークリエーション磁界は−1.6kOe、外部磁界H=Hcにおける曲線の傾き4π(dM/dH)H=Hcは1.8であった。
【0073】
つぎに、軟磁性層にエッチング処理した磁気記録媒体とエッチング処理しない磁気記録媒体の記録層の表面を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。図7(a)及び(b)に、それぞれ、エッチング処理した磁気記録媒体とエッチング処理しない磁気記録媒体の記録層の表面のTEMによる観察像を示す。図7(a)に示すように、エッチング処理した磁気記録媒体の記録層は、孤立した円柱状の結晶粒子の集合体が形成され、結晶粒子同士の境界すなわち結晶粒界は極めて明瞭であることがわかる。一方、図7(b)に示すように、エッチング処理しない磁気記録媒体の記録層は、エッチング処理した磁気記録媒体の記録層に比べて、結晶粒界は不明瞭であった。
【0074】
また、記録層の表面のTEM像から結晶粒子の平均粒径と分散度(標準偏差を平均値で割った値)を求めた。図8に、記録層の610個の結晶粒子の直径と結晶粒子の個数との関係をヒストグラムにして示した。図8(a)は、エッチング処理した磁気記録媒体のヒストグラムであり、図8(b)はエッチング処理しない磁気記録媒体のヒストグラムである。エッチング処理した磁気記録媒体では、平均粒子径は13.7nmであり、分散度は21.7%であった。一方、エッチング処理しない磁気記録媒体では、平均粒子径は11.3nmであり、分散度は21.0%であった。
【0075】
ここで、エッチング処理した磁気記録媒体のシード層の断面をTEMにより観察したところ、シード層は無秩序構造を有していた。このような無秩序構造を有するシード層は、その表面上に、Co/Pd初期化層を分散して形成することができ、かかるCo/Pd初期化層を単位に柱状の結晶粒子が孤立した状態で成長するものと考えられる。
【0076】
つぎに、エッチング処理した磁気記録媒体とエッチング処理しない磁気記録媒体について、実施例1で用いたスピンスタンドの記録再生試験機を用いて記録再生試験を行なったところ、エッチング処理した磁気記録媒体のほうがエッチング処理しない磁気記録媒体よりもS/Nが1.6dBだけ高かった。
【0077】
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、軟磁性層の成膜直後の表面粗さと、プラズマエッチング後の表面粗さを測定した。図9(a)及び(b)に、軟磁性層の成膜直後の表面と、プラズマエッチング後の表面のAFMによる観察像をそれぞれ示す。かかる観察像から、軟磁性層の表面粗さを見積もったところ、軟磁性層の成膜直後の表面粗さは0.46nmであったのに対し、プラズマエッチングを行なった軟磁性層の表面粗さは0.39nmであり、プラズマエッチングを行なうことによって軟磁性層の表面が平坦になっていることがわかる。このような軟磁性層の表面のプラズマエッチングによる平坦化が、記録再生特性におけるS/Nの向上に寄与しているものと考えられる。
【0078】
つぎに、エッチング処理した磁気記録媒体に100kFCI、200kFCI、300kFCI及び400kFCIの線記録密度で繰り返しパターンを記録し、記録層に記録された記録マークを磁気力顕微鏡(MFM)を用いて観察した。図10に、MFMによる観察像を示す。図10からわかるように、線記録密度が400kFCIであっても磁化遷移領域は極めて明瞭である。
【0079】
次いで、記録層に250kFCIの線記録密度で繰り返しパターンを記録した後、かかる繰り返しパターンに隣接するように、記録ヘッドをヘッド幅の分だけオフトラックして同じ線記録密度で繰り返しパターンを記録した。そして、得られた2列の繰り返しパターンのトラック幅方向のほぼ中央に、100kFCIの線記録密度で繰り返しパターンを重ね書きした。また、同様に、記録層に100kFCIの線記録密度で繰り返しパターンを記録した後、かかる繰り返しパターンに隣接するように、記録ヘッドをヘッド幅の分だけオフトラックして同じ線記録密度で繰り返しパターンを記録し、得られた2列の繰り返しパターンのトラック幅方向のほぼ中央に、250kFCIの線記録密度で繰り返しパターンを重ね書きした。このように、繰り返しパターン上に異なる線記録密度で繰り返しパターンを重ね書きした記録層のMFMによる観察像を図11に示す。図11からわかるように、重ね書きした繰り返しパターン(オーバーライトパターン)は明瞭であり、このオーバーライトパターンのすぐ両側に存在する重ね書き前の繰り返しパターンは消去されずに残っており、いわゆる、イレースバンドは殆ど認められていない。このことから、本発明の磁気記録媒体は、トラックピッチを狭めて記録することが可能であり、高トラック密度に対応した記録媒体であることがわかる。
【0080】
以上の結果から、軟磁性層の表面をプラズマエッチングして平坦化し、平坦化された軟磁性層上にPd−SiNのシード層を形成することにより、シード層上に、結晶粒子の境界すなわち結晶粒界は極めて明瞭な記録層を形成することができる。かかる明瞭な結晶粒界により、結晶粒子は、面内方向の磁気的結合力がより一層低減されるため、微小な記録ビットを形成することが可能となるとともに磁化遷移領域の直線性が高くなる。これにより高密度記録が可能になるとともに、高密度記録された情報を低ノイズで再生することが可能となる。
【0081】
【実施例8】
この実施例では、軟磁性層の表面のプラズマエッチング処理として、Arガス圧0.9Pa、パワー400W、エッチング時間10秒間でプラズマエッチングした以外は、実施例5と同様にして磁気記録媒体を作製した。プラズマエッチング後の軟磁性層の表面粗さを実施例5と同様にAFMにより測定したところ、0.40nmであった。また、実施例1と同様にスピンスタンドで記録再生試験を行なったところ、エッチング処理しないで作製した磁気記録媒体に比べてS/Nが0.5dB高くなっていた。
【0082】
【実施例9】
この実施例では、軟磁性層の表面のプラズマエッチング処理として、Arガス圧0.9Pa、パワー600W、エッチング時間300秒間でプラズマエッチングした以外は、実施例5と同様にして磁気記録媒体を作製した。プラズマエッチング後の軟磁性層の表面粗さを実施例5と同様にAFMにより測定したところ、0.20nmであった。また、実施例1と同様にスピンスタンドで記録再生試験を行なったところ、エッチング処理しないで作製した磁気記録媒体に比べてS/Nが2.0dB高くなっていた。上述の実施例7及び8の結果とあわせて考えると、軟磁性層の表面が平坦化されるほどS/Nが向上することがわかる。
【0083】
【実施例10】
図12に、本発明に従う磁気ディスクの概略断面図を示す。磁気ディスク600は、基板1上に、軟磁性材料から形成された軟磁性層63、Fe酸化物からなるシード層64、硬磁性材料から形成された記録層65及び保護層66を備える。本実施例の磁気記録媒体600は、軟磁性層63としてFeTaC膜を用い、記録層65としてCoとPdを交互に積層したCo/Pd交互積層膜(人工格子膜)を用い、Fe酸化物からなるシード層64を反応性スパッタ法により形成した場合である。磁気ディスク600を以下のような方法により製造した。
【0084】
[軟磁性層の成膜]
磁気ディスク用の基板1として2.5インチ(約6.25cm)直径のガラス基板を用いた。このガラス基板1上に、軟磁性層63としてFeTaC膜をDCマグネトロンスパッタ法により形成した。ターゲットにはFe79Ta12組成の合金を用いた。膜厚は400nmとした。成膜後の膜に真空中でランプ加熱処理を施した。加熱温度は450℃とした。この加熱処理によって、FeTaC膜中にFe微結晶が析出し、軟磁気特性が出現する。
【0085】
[シード層の成膜]
次いで、軟磁性層63の上にシード層64を反応性スパッタ法により形成した。シード層64の成膜では、Arと酸素の混合ガス(Arに対する酸素の流量比=20%)を導入しながらFeターゲットをDCスパッタすることによって、膜厚5nmでFe酸化物を堆積させた。
【0086】
[記録層の成膜]
つぎに、記録層65としてCo/Pd交互多層膜をDCスパッタ法により作製した。まず、シード層上にPdを5nmの厚さで堆積させ、その上にCoとPdを交互に堆積した。Co/Pd交互多層膜の成膜では、PdターゲットとCoターゲットのシャッターを開閉することによって、0.11nm厚のCoと0.76nm厚のPdを交互に積層し、Co層とPd層の積層数は各26層とした。Co/Pd交互多層膜の成膜時には基板加熱は行わなかった。
【0087】
[保護層の成膜]
最後に保護層66としてC(カーボン)膜をRFスパッタ法により膜厚8nmにて形成して磁気ディスクとした。
【0088】
【実施例11】
この実施例では、シード層を高温酸化法により形成した以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。以下に、高温酸化法によるシード層の形成方法を説明する。なお、シード層以外の層の成膜方法は、実施例10と同様であるので、その説明については省略する。
【0089】
実施例10と同様に、ガラス基板上に、FeTaCからなる軟磁性層を形成し、ランプ加熱処理を施した。加熱終了後、そのまま真空中で1分間保持し、その後、酸素ガスを流量200sccmで3分間導入した。このようにFeTaC膜が加熱処理の余熱でまだ高温状態にあるうちに酸素ガスに曝すことによってFeTaC膜表面にFe酸化物の膜、すなわちシード層を形成した。シード層の膜厚は5nmとした。
【0090】
かかるシード層上に記録層及び保護層を実施例10と同様に形成することにより磁気ディスクを作製した。
【0091】
【実施例12】
この実施例では、軟磁性層をCoZrTa膜を用いて形成した以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。軟磁性層の成膜では、DCマグネトロンスパッタ法を用い、ターゲットにはCo80Zr12Ta組成の合金を用いた。層厚は400nmとした。軟磁性層以外の層の形成方法は実施例10と同様である。
【0092】
【実施例13】
この実施例では、記録層としてCoとPtを交互に積層したCo/Pt交互多層膜を用いた以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。Co/Pt交互多層膜の成膜にはDCスパッタ法を用い、シード層上に、まずPtを5nmの厚さで堆積させ、その上に0.12nm厚のCoと0.80nm厚のPtを交互に積層した。Pt層とCo層の積層数はともに23層とした。Co/Pt交互多層膜の成膜時の基板温度は250℃とした。記録層以外の層の形成方法は実施例10と同様である。
【0093】
【実施例14】
この実施例では、シード層の膜厚を30nmとした以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0094】
【参考例1】
ここでは、シード層の膜厚を40nmとした以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0095】
【参考例2】
ここでは、シード層の膜厚を50nmとした以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0096】
【比較例4】
シード層を設けなかった以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0097】
【比較例5】
シード層を設けなかった以外は、実施例12と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0098】
【比較例6】
シード層を設けなかった以外は、実施例13と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0099】
【比較例7】
軟磁性層を設けなかった以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0100】
[媒体の評価]
上記実施例10〜14、比較例4〜7及び参考例1、2の磁気ディスクの保護層上に潤滑剤を塗布した後、各磁気ディスクの記録再生特性を評価した。記録再生特性の評価にはスピンスタンド式の記録再生装置を用いた。記録には1.6Tの飽和磁束密度を有する軟磁性膜を用いた薄膜磁気ヘッドを用い、再生にはスピンバルブ型GMR磁気ヘッドを用いた。磁気ヘッドのギャップ長は0.12μmである。ヘッド面とディスク面との距離は20nmに保った。
【0101】
実施例、参考例及び比較例の磁気ディスクの評価結果を図13の表に示す。ここでLFop/Ndは、線記録密度10kFCIの信号を記録したとき再生出力LFopと、400kFCIを記録した時のノイズであるNdとの比であり、媒体のS/Nの指標とした。また、D50は再生出力がLFopの1/2に低下する線記録密度であり、記録分解能の指標とした。
【0102】
シード層を膜厚5nmで反応性スパッタで形成した実施例10、12及び13の磁気ディスクでは、高いLFop/Ndと良好なD50が得られていることがわかる。またシード層を高温酸化法によって形成した実施例11の磁気ディスクにおいても優れたLFop/NdとD50が得られている。シード層の膜厚を30nmとした実施例14の磁気ディスクにおいては、高いLFop/Ndが得られているもののD50の低下が見られた。これに対し、シード層を設けなかった比較例4〜7の磁気ディスクでは、D50は若干高いものの、LFop/Ndが明らかに低い。特に軟磁性層を設けていない比較例7の磁気ディスクではLFop/Ndが極端に低かった。参考例1及び2の磁気ディスクにおいては、LFop/Ndが20dB以上で良好であったが、D50が若干低下していた。これは、シード層を厚くしたことにより、磁気ヘッドと軟磁性層との距離が増したためであると考えられる。
【0103】
作製した磁気ディスクの構造と組成を、高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)およびオージェ電子分光法(AES)によって分析したところ、実施例10〜13および比較例7のそれぞれの磁気ディスクにおいて、軟磁性層上またはガラス基板の上に、Feと酸素を主成分とするFe酸化物からなる層が約5nmの厚さで形成されていることを確認した。また、実施例14の磁気ディスクにおいて、Fe酸化物からなる層が約30nmの膜厚で形成されていることを確認した。
【0104】
つぎに、実施例11の磁気ディスクを、実施例4と同様に図3に示す磁気ディスク装置に組み込んで記録再生特性を評価した。
【0105】
実施例11で作製した磁気ディスクに面密度40Gb/inchに相当する信号(700kFCI)を記録してディスクのS/Nを評価したところ、34dBの値を得た。またエラーレートを測定したところ、信号処理を行わない場合の値で1×10−5以下であった。
【0106】
【実施例15】
この実施例では、Fe酸化物及びFe金属が含まれるようにシード層を形成した以外は、実施例10と同様にして磁気ディスクを作製した。シード層の成膜には、反応性スパッタ法を用い、Arガスに対して6%の流量比の酸素ガスを導入しながらFeターゲットをDCスパッタした。かかるスパッタによりFe酸化物とFe金属とを含むシード層を膜厚5nmにて形成した。
【0107】
【実施例16】
この実施例では、シード層を反応性スパッタ法により形成する際に、Arガスに対する酸素ガスの流量比を2.5%とした以外は、実施例15と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0108】
【実施例17】
記録層としてCoとPtを交互に積層したCo/Pt多層膜を用いた以外は、実施例15と同様にして磁気ディスクを作製した。Co/Pt交互多層膜の成膜にはDCスパッタ法を用い、シード層上に、まずPtを5nmの厚さで堆積させ、その上に0.12nm厚のCoと0.80nm厚のPtを交互に積層した。Co層とPt層の積層数はともに23層とした。Co/Pt交互多層膜の成膜時の基板温度は200℃とした。
【0109】
【実施例18】
この実施例では、シード層を形成した後、シード層の表面をスパッタエッチングした以外は、実施例15と同様にして磁気ディスクを作製した。シード層表面のエッチング処理として、実施例10と同じ方法でシード層を形成した後、真空度が0.9Paになる流量のArガスを導入してシード層の表面をRFスパッタエッチングした。スパッタエッチング時間は30秒とした。かかるスパッタエッチング後、実施例15と同じ方法で記録層と保護層を形成して磁気ディスクを作製した。
【0110】
【実施例19】
この実施例では、シード層を反応性スパッタ法により形成する際に、Arガスに対する酸素ガスの流量比を8%とした以外は、実施例15と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0111】
【実施例20】
この実施例では、シード層を反応性スパッタ法により形成する際に、Arガスに対する酸素ガスの流量比を1.5%とした以外は、実施例15と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0112】
【実施例21】
この実施例では、シード層を膜厚30nmで形成した以外は、実施例15と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0113】
【実施例22】
この実施例では、シード層を反応性スパッタ法により形成する際に、Arガスに対する酸素ガスの流量比を8%とした以外は、実施例17と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0114】
【実施例23】
この実施例では、シード層を反応性スパッタ法により形成する際に、Arガスに対する酸素ガスの流量比を1.5%とした以外は、実施例17と同様にして磁気ディスクを作製した。
【0115】
以上のようにして作製した磁気ディスクの保護層上に潤滑剤を塗布した後、各磁気ディスクの記録再生特性を上述の「媒体の評価」と同様の方法により評価した。図14に、実施例15〜23のそれぞれの磁気ディスクの記録再生特性を示す。
【0116】
また、図14には、シード層中に酸化物として存在するFeの原子数FeOxiと、金属として存在するFeの原子数FeMetの原子数との比(FeMet/FeOxi)を示した。原子数比(FeMet/FeOxi)は、作製した磁気ディスクのシード層の化学状態をX線光電子分光法(XPS)を用いた深さ方向分析により分析し、Fe酸化物とFe金属からなるシード層のFeスペクトルを、酸化物由来のピークと金属由来のピークの2種類のピークに分離することにより求めた。
【0117】
実施例15〜19、22及び23の磁気ディスクでは、21.5〜27.1dBの高いLFop/Ndが得られている。特に、実施例15〜19の磁気ディスクは、LFop/Nd及びD50ともに良好であることがわかる。これら実施例15〜19の磁気ディスクのFeMet/FeOxiの値は、0.02<FeMet/FeOxi<0.2の範囲内にあった。シード層の表面をスパッタエッチングした実施例18の磁気ディスクにおいては、LFop/Ndの値が27.1と極めて高かった。また、シード層成膜時の酸素ガスを1.5%とした実施例20と実施例24の磁気ディスクは、LFop/Ndはそれぞれ15.7dB、14.8dBと低くなっていた。実施例20及び24の磁気ディスクのシード層のFeMet/FeOxi値はそれぞれ0.22、0.21であった。すなわち、実施例20及び24の磁気ディスクは、他の実施例の磁気ディスクに比べてシード層中にFe金属が多く含まれていた。このことから、シード層中にFe金属を比較的多く含むために、シード層上に記録層を形成したときに、記録層を構成する白金族元素のFe金属への吸着が増大し、微小な磁性粒子が形成されにくくなっていたものと考えられる。また、シード層の厚さを30nmとした実施例22の磁気ディスクではD50が144kFCIと低くなっていた。これは、シード層の膜厚を厚くしたために磁気ヘッドと軟磁性層との間隔が厚くなり、磁気ヘッドからの磁界が記録層に十分な磁界強度で印加されなかったものと考えられる。
【0118】
つぎに、実施例15の磁気ディスクを、実施例4と同様に、図3に示す磁気ディスク装置に組み込んで記録再生特性を評価した。実施例15の磁気ディスクに面密度40Gb/inchに相当する信号(700kFCI)を記録して磁気ディスクのS/Nを評価したところ、36dBの値を得た。またエラーレートを測定したところ、信号処理を行わない場合の値で1×10−5以下であった。
【0119】
【実施例24】
図15に、本実施例の磁気記録媒体の概略断面図を示す。磁気記録媒体700は、基板1上に、軟磁性材料から形成された軟磁性層73、Fe酸化物からなる第1シード層74、Pd−SiNからなる第2シード層75、硬磁性材料から形成された記録層76及び保護層77を備える。磁気記録媒体700の製造方法を以下に説明する。
【0120】
[基板の準備]
まず、直径65mmのガラス基板1を用意し、ガラス基板1上に連続スパッタ装置により、密着層72として厚さ5nmのTiを成膜した。
【0121】
[軟磁性層の成膜]
次いで、密着層72上に、軟磁性層73としてFeTaC膜をDCマグネトロンスパッタ法により形成した。ターゲットにはFe79Ta12組成の合金を用いた。膜厚は400nmとした。更に、成膜されたFe79Ta12を真空中でカーボンヒーターにより450℃の温度で30秒間加熱した後、徐冷した。こうしてFeの微結晶を含有する軟磁性層73を形成した。
【0122】
[第1シード層の成膜]
次いで、軟磁性層73の上に第1シード層74を反応性スパッタ法により形成した。第1シード層74の成膜では、Arと酸素の混合ガス(Arに対する酸素の流量比=20%)を導入しながらFeターゲットをDCスパッタすることによって、膜厚5nmでFe酸化物を堆積させた。
【0123】
[第2シード層の成膜]
次いで、基板1を交互スパッタ装置のチャンバーに移送し、第1シード層74上に第2シード層75を成膜した。第2シード層75の成膜では、チャンバー内にアルゴンガスを導入しながら、PdターゲットをDCスパッタし、SiNターゲットをRFスパッタした。これにより、第1シード層74上に、73at%のPdと、26at%のSiと、1at%のNからなる第2シード層75を膜厚5nmで成膜した。
【0124】
[記録層の成膜]
つぎに、記録層76としてCo/Pd交互多層膜をDCスパッタ法により作製した。Co/Pd交互多層膜の成膜では、PdターゲットとCoターゲットのシャッターを開閉することによって、0.12nm厚のCoと0.85nm厚のPdを交互に積層した。Co層とPd層の積層数は各26層とした。
【0125】
[保護層及び潤滑層の成膜]
次いで、記録層76上に、アモルファスカーボンからなる保護層77をプラズマCVD法により膜厚3nmにて形成した。保護層77の形成後、基板を成膜装置から取り出した。最後に、保護層77上にパーフルオロポリエーテル系潤滑剤を1nmの厚さで塗布して潤滑層78を形成した。
【0126】
こうして図15に示す積層構造を有する磁気記録媒体700を作製した。
【0127】
かかる磁気記録媒体700を実施例4と同様に図3に示す磁気記憶装置に装着した。そして、磁気記憶装置を駆動して、実施例4と同様の条件で記録再生特性を評価したところ、トータルS/Nとして24.5dBを得た。更に、面記録密度150Gb/inchの記録密度にて記録再生することができた。また、ヘッドシーク試験として、磁気ヘッドを磁気記録媒体上の内周から外周まで10万回シークさせ、かかるヘッドシーク試験後に磁気記録媒体のビットエラーを測定したところビットエラー数は10ビット/面以下であり、30万時間の平均故障間隔を達成することができた。
【0128】
つぎに、磁気記録媒体700について、前述の電磁変換特性の測定と同様の条件にてスピンスタンドの記録再生試験機を用いて電磁変換特性を測定した。測定結果を下記表3に示す。表3において、S/Ndは500kFCIにおけるS/Nであり、Reは孤立波出力で割った出力分解能である。また、熱減磁率は、24℃の環境下において、線記録密度100kFCIにて記録した信号を再生したときの再生信号振幅の時間に対する変化の割合とした。
【0129】
【表3】
Figure 0003548171
【0130】
表3からわかるように、本実施例においては良好なS/Nが得られている。また、分解能も18%以上と極めて高い。このことから、本実施例の磁気ディスクは、高域でも遷移性ノイズが低減しており、高分解能と高S/Nが両立されていることがわかる。
【0131】
また、磁気ディスクの記録層の断面構造を、高分解能透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、前述の実施例1〜3の磁気記録媒体と同様に図2に示すような構造を有していた。図2における円柱形状の結晶粒子の回転軸に対して垂直な断面の直径dは約8nmであり、結晶粒子の表面の半球の最上部Aと最下部Bの差hは2nmであった。本実施例の磁気記録媒体の記録層は、かかる円柱形状の結晶粒子から構成されているために面内方向の磁気的結合力が低減され、微細な記録ビットが安定になり、磁化遷移領域の直線性がよくなると考えられる。
【0132】
また、上記表3の熱減磁率の結果からわかるように、本実施例の磁気記録媒体においては熱減磁が認められなかった。このように、本実施例の磁気記録媒体において熱減磁が認められなかったのは、記録層の磁化遷移領域が明瞭で直線性が高くなっていることに起因すると考えられる。また、オントラックで1000kBPIにてエラーレートを測定したところ、本実施例の磁気記録媒体はいずれも1×10−5以下であった。
【0133】
【実施例25】
この実施例では、図15に示す磁気記録媒体と同様の積層構造を有する磁気記録媒体を作製した。第1シード層74として、実施例18で用いたFe酸化物とFe金属を含むシード層を用い、第2シード層75として、実施例1で用いたPdSiNから構成されたシード層を用いた。基板1上の軟磁性層73と第1シード層74は実施例18と同様の方法を用いて形成した。第2シード層75、記録層76、保護層77及び潤滑層78は、実施例1と同様の方法を用いて形成した。本実施例では、第2シード層を種々の組成に変更して7種類の磁気記録媒体(試料15〜21)を作製した。それぞれの磁気記録媒体の第2シード層の組成を下記表4に示した。作製したそれぞれの磁気記録媒体について、前述の電磁変換特性の測定と同様にスピンスタンドの記録再生試験機を用いて、S/Nd、Re及び熱減磁率を測定した。下記表4に測定結果を示した。
【0134】
【表4】
Figure 0003548171
【0135】
上記表からわかるように、全てに試料において14.7dB以上の良好なS/Ndが得られた。またReも19%以上と極めて高かった。すなわち、本実施例の磁気記録媒体は高分解能と高S/Nが実現されていることがわかる。また熱減磁も認められなかったことから、熱的安定性に優れていることがわかる。
【0136】
以上、本発明の磁気記録媒体について具体的に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の変形例及び改良例を含み得る。
【0137】
【発明の効果】
本発明の磁気記録媒体は、Fe酸化物を含む第1シード層を、Pd及びPtの一方と、SiとNとを含む第2シード層の下地として用いているので、第2シード層のPdまたはPtのSiN中の分散が促進されている。更に、PdまたはPtの分散が促進された第2シード層上に記録層を備えるので、記録層には粒界の明瞭な微細な結晶粒子が形成される。このため記録層の面内方向の磁気的結合力が低減されるので、線記録密度を高めても低ノイズで情報を再生することができる。
【0138】
また、本発明の磁気記録媒体は、人工格子構造を有する記録層の下地として、Pd及びPtの一方と、SiとNとを含むシード層を用いているので、記録層の面内方向の磁気的結合力を低減することができる。これにより、記録層の磁化遷移領域の乱れが低減するため、線記録密度を高めても低ノイズで情報を再生することができる。また。磁気異方性の高い人工格子膜を記録層として用いているため、高い熱安定性を有している。
【0139】
さらに、本発明の磁気記録媒体は、Fe酸化物を主成分とするシード層を、軟磁性材料からなる軟磁性層と硬磁性材料からなる記録層との間に備えるので、例えば、記録層として高い磁気異方性を有するCo/Pt人工格子膜を用いた場合であっても、記録層の磁性粒子を微小化することができ、記録層に微小な磁区を形成することが可能である。このため、媒体ノイズが低減され、高S/Nで情報を再生することができる。また、高い磁気異方性を有する人工格子膜を用いて記録層を形成することができるので、熱擾乱に対して高い耐性を有し、高密度に情報を記録することができる。
【0140】
本発明の製造方法によれば、面内方向の磁気的交換結合力が低減された記録層を備える磁気記録媒体を製造することができるので、高密度記録された情報を低ノイズで再生可能な磁気記録媒体を提供することができる。
【0141】
本発明の磁気記憶装置は、本発明の磁気記録媒体を備えるため、150Gb/inch(約23.25Gb/cm)の高い面記録密度で情報を記録しても高S/Nで情報を再生することができるとともに、高い耐熱減磁特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例1で製造した本発明に従う磁気記録媒体の概略断面図である。
【図2】図2は、磁気記録媒体の記録層の断面構造を模式的に示した図である。
【図3】図3は、本発明に従う磁気記憶装置の平面模式図である。
【図4】図4は、実施例1で製造した磁気記録媒体の電磁変換特性の測定結果である。
【図5】図5は、実施例7で製造した磁気記録媒体の概略断面図である。
【図6】図6は、軟磁性層の表面をプラズマエッチングして作製した磁気記録媒体の外部磁界に対するカー回転角曲線である。
【図7】図7は、磁気記録媒体の記録層のTEMによる観察像を示し、図7(a)は、軟磁性層の表面をプラズマエッチングして作製した磁気記録媒体の記録層のTEMによる観察像であり、図7(b)は、軟磁性層の表面のプラズマエッチングを行なわずに作製した磁気記録媒体の記録層のTEMによる観察像である。
【図8】図8は、磁気記録媒体の記録層の結晶粒子の直径と粒子数のヒストグラムであり、図8(a)は、軟磁性層の表面をプラズマエッチングして作製した磁気記録媒体の場合であり、図8(b)は軟磁性層の表面のプラズマエッチングを行なわずに作製した磁気記録媒体の場合である。
【図9】図9は、AFMによる観察像を示し、図9(a)は、プラズマエッチングする前の軟磁性層表面のAFMによる観察像であり、図9(b)は、プラズマエッチングした後の軟磁性層表面のAFMによる観察像である。
【図10】図10は、軟磁性層をプラズマエッチングして作製した磁気記録媒体の記録層に記録した繰り返しパターンのMFMによる観察像である。
【図11】図11は、軟磁性層をプラズマエッチングして作製した磁気記録媒体の記録層に互いに異なる線記録密度で繰り返しパターンを重ね書きしたときのMFMによる観察像である。
【図12】図12は、実施例10で作製した本発明に従う磁気ディスクの断面構造を模式的に示す図である。
【図13】図13は、実施例10〜14及び比較例4〜7の磁気ディスクの記録再生特性の結果を示す表である。
【図14】図14は、実施例15〜23の磁気ディスクの記録再生特性の結果を示す表である。
【図15】図15は、実施例24で製造した本発明に従う磁気記録媒体の概略断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 密着層
3,53,63,73 軟磁性層
4,54,64 シード層
5,55,65,76 記録層
6,56,66,77 保護層
7,57,78 潤滑層
10 磁気ヘッド
74 第1シード層
75 第2シード層
100,500,600,700 磁気記録媒体
200 磁気記憶装置

Claims (9)

  1. 磁気記録媒体であって、
    基板と;
    該基板上に直接または間接的に形成された、Fe酸化物及び金属として存在するFeを含むシード層と;
    該シード層上に直接形成された、Pd及びPtの少なくとも一方の白金族元素層とCo層とを交互に積層して形成された記録層と;を備え
    上記シード層中に金属として存在するFeの原子数をFe Met とし、酸化物として存在するFeの原子数をFe Oxi とするとき、それらの原子数比Fe Met /Fe Oxi が、
    0.02<(Fe Met /Fe Oxi )<0.2
    の関係を満たすことを特徴とする磁気記録媒体。
  2. 上記記録層が人工格子構造で垂直磁化を示し、上記基板と上記シード層との間に軟磁性層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
  3. 上記シード層の厚さが30nm以下である請求項1に記載の磁気記録媒体。
  4. 上記軟磁性層は、Fe中に、Ta、Nb及びZrからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素の窒化物または炭化物を分散させてなる構造を有する請求項2に記載の磁気記録媒体。
  5. 上記軟磁性層は、Co−Zrを主体とし、これにTa、Nb及びTiからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を含む非晶質合金から形成されている請求項2に記載の磁気記録媒体。
  6. 磁気記録媒体の製造方法であって、
    基板を用意する工程と;
    上記基板上に軟磁性層を形成する工程と;
    上記軟磁性層上に、Fe酸化物を含むシード層を、酸素を含むスパッタガスを用いてFeを含むターゲットを反応性スパッタすることにより形成する工程と;
    上記シード層上に直接Pd及びPtの少なくとも一方の白金族元素とCoとを交互に供給して成膜することにより記録層を形成する工程と;を含み、
    上記スパッタガス中の酸素の量を制御して、上記シード層中に金属として存在するFeを含有させることを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
  7. 更に、上記シード層の表面をスパッタエッチングすることを含む請求項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  8. 上記軟磁性層はFeを含み、
    Feを含む軟磁性層を形成した後、該軟磁性層の表面を高温で酸化させることによって上記シード層を形成することを含む請求項に記載の磁気記録媒体の製造方法。
  9. 請求項1の磁気記録媒体と;
    情報を記録または再生するための磁気ヘッドと;
    上記磁気記録媒体を上記磁気ヘッドに対して駆動するための駆動装置と;を備える磁気記憶装置。
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