JP3538613B2 - 溶接性に優れた鋼製厚肉材料とその製造方法 - Google Patents

溶接性に優れた鋼製厚肉材料とその製造方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、溶接性に
優れた鋼製厚肉材料とその製造方法に関するものであ
る。さらに詳しくは、この出願の発明は、高強度かつ高
靱性であり、また、溶接性にも優れた鋼製厚肉材料とこ
れを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】フェライト結晶粒径の微細化
は、鋼の強度及び靱性を向上させるのに有効であること
が知られている。鋼製の棒材、線材、異形材等の厚肉材
料に関し、組織微細化のための手法として、穴型圧延に
よる温間圧延及び再結晶処理という一連の工程が提案さ
れている。これにより、圧延方向に直角な面全体が、公
称で粒径2μm以下のフェライト主体組織で形成され、
直径又は短辺長が5mm以上の鋼製厚肉材料が創製可能と
なっている。
【0003】その一方で、鋼には、溶接した際に、溶接
熱影響部(HAZ) に粗大で針状のウィドマンステッテンフ
ェライトが生成し、結晶粒が粗大化するという現象が見
られる。結晶粒の粗大化は、溶接熱影響部の靱性を低下
させる。この出願の発明は、創製可能とされた上記鋼製
肉厚材料の強度及び靱性をさらに向上させるとともに、
溶接性が改善された鋼製厚肉材料とこれを製造するため
の製造方法を提供することを目的としている。
【0004】
【0005】
【0006】
【課題を解決するための手段】 この発明は、上記の課
題を解決するものとして、第1には 、溶鋼を酸化物のス
ラグ中に配置して過冷却し、組織中に、粒径1μm以下
の酸化物を晶出させ、分散密度 10000〜100000個/mm2
で均一に分散させた後に、 400 ℃以上 Ac3 以下の温度域
で穴型圧延し、次いで再結晶処理して、圧延方向に直角
な面全体に粒径2μm以下の均一なフェライト粒を形成
させ、直径又は短辺長が5 mm 以上の溶接性に優れた鋼製
厚肉材料を得る溶接性に優れた鋼製厚肉材料の製造方法
を提供する。また、第2には、溶鋼の化学組成が、C、
Si、及びMnを、それぞれ、C:材料中の炭化物の体
積率が20%以下となる量、Si: 0.8重量%以下、M
n:0.05〜 3.0重量%含有するとともに、酸化物を形成
するTi、Mg、又はAlの1種又は2種以上を単独又
は混合体として 0.3重量%以下含有し、残部がFe及び
不可避的不純物からなる上記の溶接性に優れた鋼製厚肉
材料を提供する。
【0007】
【発明の実施の形態】この出願の発明の溶接性に優れた
鋼製厚肉材料は、文字通り、鋼製の材料であり、一連の
穴型圧延による温間圧延及び再結晶処理によって製造さ
れる、圧延方向に直角な面全体に粒径2μm以下の均一
なフェライト粒が形成している直径又は短辺長が5mm以
上の厚肉材料である。その形態は、棒材、線材、異形材
等の各種のものをとることができる。
【0008】そして、この出願の発明の溶接性に優れた
鋼製厚肉材料では、その組織中に、粒径1μm以下の酸
化物が分散密度 10000〜100000個/mm2 で均一に分散し
ている。この粒径1μm以下の酸化物により、圧延加工
の際に材料内部に生じる歪み量が増加し、再結晶時に生
じるフェライト粒を確実に粒径2μm以下に微細化させ
ることができる。フェライト粒の微細化により鋼製厚肉
材料が、さらに高強度かつ高靱性となる。たとえば、66
0MPa以上の引張強度を有する鋼製厚肉材料が実現され
る。酸化物の粒径を粒径1μm以下と規定したのは、鋼
製厚肉材料の強度及び靱性を考慮した結果である。酸化
物が粒径1μmを超えると、逆に、鋼製厚肉材料の強度
及び靱性に悪影響を及ぼす。
【0009】また、粒径1μm以下の酸化物は、組織中
に分散密度 10000〜100000個/mm2で均一に分散してい
るため、溶接の際に、溶接熱影響部(HAZ) に分散した酸
化物が核となってフェライトの生成を促進し、結晶粒の
粗大化を防止することができる。粗大で針状のウィドマ
ンステッテンフェライトの生成が抑制され、溶接熱影響
部(HAZ) における靱性が向上する。
【0010】このように、この出願の発明の溶接性に優
れた鋼製厚肉材料は、従来品に比較してさらに高強度か
つ高靱性であり、しかも優れた溶接性を有している。そ
して、このような特性向上が、従来よく行われているN
i(ニッケル)等の強化元素の添加ではなく、所定粒径
の酸化物の所定分散密度での均一分散、及び圧延方向に
直角な面全体に形成される所定粒径のフェライト粒によ
り実現されることは特筆すべき点である。
【0011】この出願の発明の溶接性に優れた鋼製厚肉
材料の製造方法は、以下の通りである。すなわち、組織
中に、粒径1μm以下の酸化物を晶出させ、分散密度 1
0000〜100000個/mm2 で均一に分散させた後に、 400℃
以上 Ac3以下の温度域で穴型圧延し、次いで再結晶処理
して、圧延方向に直角な面に粒径2μm以下の均一なフ
ェライト粒を形成させ、直径又は短辺長が5mm以上の溶
接性に優れた鋼製厚肉材料を得るのである。
【0012】穴型圧延加工を行うのは、鋼材が、たとえ
ば溝ロール加工のように多方向から加工され、つまり、
多軸加工され、これが組織の微細化に有効であり、ま
た、組織微細化のための工程が簡略となるからである。
穴型圧延加工時の加工温度は、 400℃以上 Ac3以下であ
る。その理由は、 400℃未満では、圧延加工において組
織が単純なフェライト組織となり、伸長してしまい、等
軸化せず、強度の方向性が大きくなること、及び Ac3を
超えると、圧延加工後の結晶粒成長が速くなり過ぎ、組
織が粗大化して強度及び靱性の低下を招くことの2点に
ある。
【0013】この穴型圧延、そして引き続いて行う再結
晶により、圧延方向に直角な面に粒径2μm以下の均一
なフェライト粒が形成する。この出願の発明の溶接性に
優れた鋼製厚肉材料の製造方法では、これら一連の穴型
圧延及び再結晶処理に先立ち、上記の通りに、組織中
に、粒径1μm以下の酸化物を晶出させ、分散密度 100
00〜100000個/mm2 で均一に分散させる。そのための手
法は、幾つか考えられるが、中でも過冷却を利用した方
法は好ましいものとして例示される。
【0014】すなわち、溶鋼を酸化物のスラグ中に配置
して過冷却するという方法である。過冷却とは、融液が
融点以下の温度に保持される状態である。この時の過冷
度は、材料の融点の1/5を最大値とする。過冷却され
る溶鋼の凝固速度は、急冷凝固よりもさらに大きく、ま
た、急冷凝固では達成できない凝固速度となる。その結
果として、溶鋼中には存在せず、凝固時に固相部から溶
鋼中に排出される酸素により生じる2次脱酸生成物、す
なわち分散させようとする酸化物の凝集が防止され、晶
出する酸化物の粒径が増加するのを抑えることができ
る。その結果、酸化物の微細化が促進され、しかも高密
度分散が可能となる。過冷却した場合に得られる酸化物
の分散密度は、急冷凝固法の場合の2倍以上にもなる。
【0015】このような過冷却は、具体的には、溶鋼を
スラグで包んだり、又は溶鋼をスラグ内に流入して行う
ことができる。用いる溶鋼については、C、Si、及び
Mnを、それぞれ、C:材料中の炭化物の体積率が20
%以下となる量、Si: 0.8重量%以下、Mn:0.05〜
3.0重量%含有するとともに、酸化物を形成するTi、
Mg、又はAlの1種又は2種以上を単独又は混合体と
して 0.3重量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不
純物からなる化学組成を例示することができる。以上に
おいて、各成分元素の含有量の規定は、以下の事実に基
づいている。
【0016】すなわち、C(炭素)については、セメン
タイト等の炭化物が材料中に20体積%を超えると靱性
の低下が起こるためである。したがって、材料中の炭化
物の体積率が20%以下となる量が好ましい。Si(ケ
イ素)は、含有量が 0.8重量%を超えると、鋼の著しい
脆化をもたらす。
【0017】Mn(マンガン)は、強度を確保するため
には、0.05重量%以上は必要であるが、 3.0重量%を超
えると、溶接性がかなり劣化する。したがって、0.05〜
3.0重量%が好ましい。また、酸化物を生成するTi
(チタン)、Mg(マグネシウム)、又はAl(アルミ
ニウム)に関する 0.3重量%以下の含有量は、酸化物が
粒径1μmで、分散密度100000個/mm2 で組織中に分散
する場合に対応した量である。
【0018】もちろん、溶鋼には、各種の特性を発現さ
せることを目的として、上記以外の成分元素を添加する
ことができる。ただ、その添加は、酸化物の粒径及び分
散密度、また、圧延加工性等を悪化させないことを前提
として行う必要はある。実際に、酸化物生成元素として
Tiを含む溶鋼を複数の酸化物からなるスラグで包み、
90Kの過冷度とすることにより、溶鋼表面からの核生
成が抑制され、2次脱酸生成物の1種であるTi酸化物
が粒径1μm以下で、かつ50000 個/mm 2 以上の分散密
度で分散した。
【0019】以下、実施例を示し、この出願の発明の溶
接性に優れた鋼製厚肉材料とその製造方法についてさら
に詳しく説明する。
【0020】
【実施例】
【0021】
【表1】
【0022】上記表1に示した化学組成を有する鋼を、
SiO2 、Al2 3 、及びNa2Oからなる混合酸化
物粉末、又は顆粒内に埋設し、無酸化雰囲気中で誘導炉
又は抵抗加熱によって溶解し、この溶鋼をガラス状混合
酸化物のスラグで包み込み、液相線温度以上50Kに加
熱した。そして、1次脱酸生成物がスラグに吸着される
まで静置した。
【0023】次いで、静置した溶鋼を過冷却し、固相線
温度以下60Kにおいて凝固を開始させ、40φ×60
mmの鋳片を作製した。この鋳片を1200℃に再加熱した後
に、鍛造により30×30×85mmに加工し、水冷後
に、炉中において 640℃に 300秒保持して再結晶を行っ
た。この後に、穴型圧延として1パス減面率約10%の
溝ロール圧延を行い、次いで炉中において 640℃に 300
秒保持し、再結晶処理した。この穴型圧延及びこれに引
き続いて行う再結晶処理を全減面率90%となるまで繰
り返し、その後水冷した。
【0024】そして、直径5mmの鋼製棒材を得た(実施
例1)。図1は、このようにして得られた実施例1の鋼
製棒材の組織を示した図面に代わる走査型電子顕微鏡写
真である。この図1の写真は、圧延方向に垂直な断面、
すなわちC断面の像であり、酸化物は白色に、フェライ
ト+炭化物組織は黒色に写し出されている。酸化物は、
Ti−Mn−Siの複合酸化物であり、その分散密度は
54000個/mm2 である。また、図1の写真から、フェラ
イト+炭化物組織は、平均粒径0.75μmで、表層から中
心までほぼ均一に分布していることが確認される。
【0025】そして、この棒材について、引張強さ(T
S)、下降伏点(LYS) 、均一伸び(U.EL)、及び全伸び(T.E
L)を測定した。比較のために、酸化物分散密度:数百個
/mm2、フェライト+炭化物組織の平均粒径:0.79μm
の鋼製棒材(比較例1)についても同じ測定をした。そ
の結果を示したのが表2である。
【0026】
【表2】
【0027】この表2から明らかであるように、実施例
1の鋼製棒材は、引張強さ(TS)、下降伏点(LYS) がとも
に700MPa以上であり、酸化物の分散の少ない比較例1の
鋼製棒材に比べ、強度がより高いことが確認される。ま
た、実施例1の鋼製棒材は、均一伸び(U.EL)は2%以
上、全伸び(T.EL)は10%以上であり、十分な靱性をも
有することが確認される。
【0028】これら実施例1及び比較例1の2つの鋼製
棒材については、その溶接性の比較も行った。棒材を各
々1400℃に 100K/sの速度で加熱した後に、900 ℃まで
50K/s、さらに300 ℃まで10K/sの速度で冷却し、
溶接時に生じる熱影響部(HAZ) を再現した。その結果を
示したのが、図2<a><b>の走査型電子顕微鏡写真
である。
【0029】実施例1の鋼製棒材では、図2<a>図中
に矢印で示したように、靱性に優れたポリゴナルフェラ
イトが生成している。また、分散酸化物により、オース
テナイト粒内にフェライトが生成していることも確認さ
れる。そして、靱性を示す脆性破面遷移温度は−40℃
であり、靱性が十分に確保されている。一方、比較例1
の鋼製棒材では、図2<b>図中に矢印で示したよう
に、粗大で針状のウィドマンステッテンフェライトが生
成している。このウィドマンステッテンフェライトは、
溶接熱影響部(HAZ) の靱性が低下する因子として確認さ
れているものである。
【0030】もちろんこの出願の発明は、以上の実施例
によって限定されるものではない。鋼製厚肉材料の形
態、製造条件等の細部については様々な態様が可能であ
ることは言うまでもない。
【0031】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この出願の発
明によって、微細な酸化物が高密度で均一に分散した、
より強度及び靱性の高く、また、溶接性にも優れた、棒
材、線材、異形材等の各種形態を有する鋼製厚肉材料が
提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の鋼製棒材の組織を示した図面に代わ
る走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】<a><b>は、各々、実施例1及び比較例2
の構成棒材の再現HAZ 熱処理後の組織を示した図面に代
わる走査型電子顕微鏡写真である。
フロントページの続き (72)発明者 津崎 兼彰 茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科 学技術庁金属材料技術研究所内 (72)発明者 長井 寿 茨城県つくば市千現1丁目2番1号 科 学技術庁金属材料技術研究所内 (56)参考文献 特開 平9−3600(JP,A) 特開 平9−202919(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 33/04 C21D 8/00 C22C 38/00 - 38/60

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 溶鋼を酸化物のスラグ中に配置して過冷
    却し、組織中に、粒径1μm以下の酸化物を晶出させ、
    分散密度 10000〜100000個/mm2 で均一に分散させた後
    に、 400 ℃以上 Ac3 以下の温度域で穴型圧延し、次いで
    再結晶処理して、圧延方向に直角な面全体に粒径2μm
    以下の均一なフェライト粒を形成させ、直径又は短辺長
    が5 mm 以上の溶接性に優れた鋼製厚肉材料を得ることを
    特徴とする溶接性に優れた鋼製厚肉材料の製造方法
  2. 【請求項2】 溶鋼の化学組成が、C、Si、及びMn
    を、それぞれC:材料中の炭化物の体積率が20%以下となる量Si: 0.8 重量%以下Mn: 0.05 3.0 重量% 含有するとともに、酸化物を形成するTi、Mg、又は
    Alの1種又は2種以上を単独又は混合体として 0.3
    量%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からな
    る請求項3記載の 溶接性に優れた鋼製厚肉材料の製造方
    法。
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