JP3752075B2 - 超大入熱溶接用高張力鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は高層建築等のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、あるいは、造船・橋梁で適用されるエレクトロガス溶接などの超大入熱溶接における熱影響部(以下、HAZと称する)靱性に優れた溶接用高張力鋼に関するものである。特に、入熱が200kJ/cm以上で、例えば、750〜1500kJ/cm程度でも優れたHAZ靱性を有するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近の建築構造物の高層化に伴い、鋼製柱が大型化し、これに使用される鋼材の板厚も増してきた。このような大型の鋼製柱を溶接で組み立てる際に、高能率で溶接することが必要であり、極厚鋼板を1パスで溶接できるエレクトロスラグ溶接が広く適用されるようになってきている。また、造船・橋梁分野においても板厚が25mm程度以上の鋼板を1パスで溶接するエレクトロガス溶接が広く適用されるようになってきた。典型的な入熱の範囲は200〜1500kJ/cmであり、このような超大入熱溶接ではサブマージアーク溶接などの大入熱溶接(入熱は200kJ/cm未満)とは異なり、溶接融合線(FL)付近やHAZが受ける熱履歴において1350℃以上の高温滞留時間が極めて長くなり(超大入熱溶接では大入熱溶接の数倍〜数十倍長時間滞留する)、オーステナイト粒の粗大化が極めて顕著であり、HAZの靱性を確保することが困難であった。最近の大地震を契機として建築構造物の信頼性確保が急務の課題であり、このような超大入熱溶接HAZ部の靱性向上を達成することは極めて重要な課題である。
【0003】
従来から大入熱溶接HAZ靱性向上に関しては以下に示すように多くの知見・技術があるが、上記のとおり超大入熱溶接と大入熱溶接とではHAZが受ける熱履歴、特に、1350℃以上における滞留時間が大きく異なるために、大入熱溶接HAZ靱性向上技術を単純に本発明の対象分野に適用することはできない。
【0004】
従来の大入熱溶接HAZ靱性向上は大きく分類すると主に二つの基本技術に基づいたものであった。その一つは鋼中粒子によるピン止め効果を利用したオーステナイト粒粗大化防止技術であり、他の一つはオーステナイト粒内フェライト変態利用による有効結晶粒微細化技術である。
【0005】
「鉄と鋼」、第61年(1975)第11号、第68頁には、各種の鋼中窒化物・炭化物についてオーステナイト粒成長抑制効果を検討し、Tiを添加した鋼ではTiNの微細粒子が鋼中に生成し、大入熱溶接HAZにおけるオーステナイト粒成長を効果的に抑制する技術が示されている。
【0006】
特開昭60−184663号公報には、Alを0.04〜0.10%、Tiを0.002〜0.02%、さらに、希土類元素(REM)を0.003〜0.05%含有する鋼において、入熱が150kJ/cmの大入熱溶接HAZ靱性を向上させる技術が開示されている。これは、 REMが硫・酸化物を形成して大入熱溶接時にHAZ部の粗粒化を防止する作用を有するためである。
【0007】
特開昭60−245768号公報には、粒子径が0.1〜3.0μm、粒子数が5×103〜1×107ケ/mm3のTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかを含有する鋼では、入熱が100kJ/cmの大入熱溶接HAZ内でこれら粒子がフェライト変態核として作用することによりHAZ組織が微細化してHAZ靱性を向上できる技術が開示されている。
【0008】
特開平2−254118号公報には、TiとSを適量含有する鋼において大入熱溶接HAZ組織中にTiNとMnSの複合析出物を核として粒内フェライトが生成し、HAZ組織を微細化することによりHAZ靱性の向上が図れる技術が開示されている。
【0009】
特開昭61−253344号公報には、Alを0.005〜0.08%、Bを0.0003〜0.0050%含み、さらに、Ti、Ca、REMのうち少なくとも1種以上を0.03%以下含む鋼は大入熱溶接HAZで未溶解のREM・Caの酸化・硫化物あるいはTiNを起点として冷却過程でBNを形成し、これからフェライトが生成することにより大入熱HAZ靱性が向上する技術が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
「鉄と鋼」、第61年(1975)第11号、第68頁に開示されている技術はTiNをはじめとする窒化物を利用してオーステナイト粒成長抑制を図るものであり、大入熱溶接では効果が発揮されるが、本発明が対象とする超大入熱溶接では1350℃以上の滞留時間が極めて長いために、ほとんどのTiNは固溶し、粒成長抑制の効果を失う。従って、この技術を本発明が目的とする超大入熱溶接HAZの靱性には適用できない。
【0011】
特開昭60−184663号公報に開示された技術はREMの硫化・酸化物を利用して大入熱溶接時にHAZ部の粗粒化を防止するものである。硫化・酸化物は窒化物に比べて1350℃以上の高温における安定性は高いので、粒成長抑制効果は維持される。しかしながら、硫・酸化物を微細に分散させることは困難である。硫・酸化物の個数密度が低いために、個々の粒子のピン止め効果は維持されるとしても超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒径を小さくすることには限度があり、これだけで靱性向上をはかることはできない。
【0012】
特開昭60−245768号公報に記載された技術はTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかの粒子がフェライト変態核として作用することによりHAZ組織を微細化させてHAZ靱性を向上させるものであり、Ti酸化物の高温安定性を考慮すると超大入熱溶接においてもその効果は維持される。しかしながら、粒内変態核から生成するフェライトの結晶方位は全くランダムというわけではなく、母相オーステナイトの結晶方位の影響を受ける。従って、超大入熱溶接HAZではオーステナイト粒が粗大化する場合には粒内変態だけでHAZ組織を微細化することには限度がある。
【0013】
特開平2−254118号公報に開示された技術は、TiN−MnS複合析出物からフェライトを変態させるものであり、大入熱溶接のように1350℃以上の滞留時間が比較的短い場合には効果を発揮するが、エレクトロスラグあるいはエレクトロガス溶接のような超大入熱溶接においては1350℃以上の滞留時間が長く、この間に多くのTiNは固溶してしまうためにフェライト変態核が消失し、その効果が十分には発揮できない。
【0014】
特開昭61−253344号公報に開示された技術は、REM・Caの酸化・硫化物あるいはTiN上にBNを形成し、これからフェライトを生成させることによりHAZ組織を微細化するものであり、超大入熱溶接においても同様な効果は期待できる。しかしながら、REM・Caの酸化・硫化物の個数を増加させることは困難であり、しかもTiNは固溶してフェライト生成核としての作用を発揮できず、粒内フェライト変態だけでは超大入熱溶接HAZの靱性向上には限度がある。
【0015】
本発明は高層建築物のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、造船・橋梁で適用されるエレクトロガス溶接などの入熱が200kJ/cm以上の超大入熱溶接におけるHAZ靱性に優れた溶接用高張力鋼を提供することにある。
【0016】
【問題を解決するための手段】
本発明は、超大入熱溶接HAZの靱性向上にはHAZ組織の微細化が必須であり、このためにはHAZのオーステナイト粒成長を著しく抑制することにより可能であるとの結論に達した。
【0017】
本発明の要旨は次のとおりである。
【0018】
(1) 重量%で、
0.04≦C≦0.2、
0.02≦Si≦0.5、
0.6≦Mn≦2.0、
P≦0.02、
0.003≦S≦0.01、
Al≦0.01、
0.0002≦Mg≦0.005、
0.0005≦O≦0.005、
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、粒子径が0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を含む鋼であることを特徴とする超大入熱溶接用高張力鋼。
【0019】
(2) 粒子径が0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を1平方mmあたり1.0×105〜1.0×107個含むことを特徴とする上記(1)記載の超大入熱溶接用高張力鋼。
【0021】
(3) 更に、重量%で、
0.005≦Ti≦0.025、
0.002≦N≦0.008、
を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の超大入熱溶接用高張力鋼。
【0022】
(4) 更に母材強度上昇元素群を、重量%で、
0.05≦Cu≦1.5、
0.05≦Ni≦2.0、
0.02≦Cr≦1.0、
0.02≦Mo≦1.0、
0.005≦Nb≦0.05、
0.005≦V≦0.1、
0.0004≦B≦0.004、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の超大入熱溶接用高張力鋼。
【0023】
また、本発明でいうところの「溶接用高張力鋼」とは、例えば、JIS G3106「溶接構造用圧延鋼材」、JIS G3115「圧力容器用鋼板」、JIS G3118「中・常温圧力容器用炭素鋼鋼板」、JIS G3124「中・常温圧力容器用高強度鋼板」、JIS G3126「低温用圧力容器用炭素鋼鋼板」、及び、JIS G3128「溶接構造用高降伏点鋼板」に相当するものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、超大入熱溶接HAZの組織と靱性の関係に関する詳細な調査・研究を実施した結果、従来の大入熱溶接HAZの組織制御または靱性向上法をそのまま適用しても、超大入熱溶接HAZ靱性向上は限られたものであり、靭性向上にはHAZのオーステナイト粒を著しく微細化する必要があるとの結論に達した。
【0025】
まず、オーステナイト粒の微細化には鋼中粒子によるピン止め効果を利用することが有効であるが、窒化物の中でも最も熱的に安定であるとされるTiNでも1350℃以上に長時間加熱されるとほとんどが溶解し、ピン止め効果を失うために、超大入熱溶接への適用には限度がある。従って、高温で安定である粒子の利用が必須となる。しかしながら、従来技術のREMあるいはCa酸化物(酸化・硫化物も含む)では、超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒粗大化抑制に十分な程度にこれら酸化物を鋼中に微細分散させることは極めて困難である。本発明者らは各種の粒子について比較検討した結果、Mgの酸化物と硫化物が高温で安定でしかも微細分散に適した粒子であることを知見した。HAZのオーステナイト粒成長抑制に効果を発揮する粒子は主に0.1μm以下のものであるが、Mg添加量、S添加量、溶鋼O濃度などを制御することにより微細なMg酸化物・硫化物を鋼中に微細分散させることが可能である。ここで、Mgは酸化物と硫化物を共に生成し、さらにはOとSの割合が任意な酸化・硫化物Mg(O,S)を生成する。HAZオーステナイト粒粗大化抑制にはこれら粒子は等しく作用するので、これらを区別する必要はない。
【0026】
MgOのみでHAZオーステナイト粒成長抑制を図ろうとすると、必然的に鋼中O含有量を高くする必要があり、その結果として延性・靭性を低下させるばかりでなく、溶鋼中のOとMgの反応により微細なMgOを生成させることが困難となる。一方、溶鋼中に適量のOとSが存在する状態でMgあるいはMg含有合金を添加するとMgOだけでなくMgS、Mg(O,S)が微細に多数生成する。これら粒子を利用して超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒成長抑制を従来鋼よりも効果的に発揮できる。図1は、合金元素含有量の平均がC:0.07%、Si:0.15%、Mn:0.85%、P:0.005%、Al:0.001%以下、Mg:0.002%、O:0.002%で、S含有量を変化させた鋼塊を実験室溶解し、20mmに熱間圧延して製造した鋼から溶接再現熱サイクル試験片を加工し、最高加熱温度が1400℃、保持時間が8秒、800℃から500℃の冷却時間が200秒の超大入熱溶接再現熱サイクルを賦与した試験片の旧オーステナイト(γ)粒径と0℃におけるシャルピー吸収エネルギーを示したものである。S含有量が高くなるほどγ粒径が小さくなり、これに伴って靭性も向上することがわかる。ただし、S含有量が高すぎると、γ粒径は小さくなるものの、靭性はむしろ低下する。
【0027】
一方、従来技術からも明らかなように、大入熱溶接HAZのオーステナイト粒成長抑制にはTiNが有効である。超大入熱溶接においてもTiNの溶解を抑制できればTiNをオーステナイト粒成長抑制に利用できる。MgOはNaCl型の立方晶の結晶構造を有するが、TiNも同一の結晶構造であり、しかも、格子定数がMgOでは4.21オングストローム、TiNでは4.24オングストロームと極めて近い。従って、鋼中にMgOが分散しており、固溶Tiと固溶Nが存在していればMgO上にTiNが容易に析出できるものと本発明者らは考えた。この原理を利用して、鋼中に適量のTiとNを含有させれば、微細分散したMgO上にTiNを微細に析出させることが可能であり、MgO、MgS、及びMg(O,S)だけの場合よりもオーステナイト粒成長抑制をより効果的に発揮できる。MgS及びMg(O,S)は必ずしもTiNとの格子整合性は良くないが、不均一核生成の機構により、MgS及びMg(O,S)上にTiNが析出することがあり、オーステナイト粒成長抑制効果を高める。さらに、MgO、MgS、Mg(O,S)上に、MnS等の硫化物が析出してもよく、この場合にはこれら粒子を核としてフェライトが生成しやすくなるので、さらに靭性が向上する。
【0028】
本発明では、MgO、MgS、及びMg(O,S)の粒子径を0.005〜0.5μmに限定した。0.005μm未満ではオーステナイト粒成長抑制効果が少なくなる。また、0.5μm超ではこれら粒子が破壊起点となる確率が高くなり靭性を低下させる。
【0029】
鋼板から抽出レプリカを作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)でMgO、MgS、Mg(O,S)粒子を観察して1平方mmあたりの個数に換算する。粒子個数が1.0×105未満ではオーステナイト粒成長抑制に不十分の場合があり、1.0×107超では鋼の清浄度が低下して母材の靭性・延性を低下させやすいので好ましくない。
【0030】
前記のMgO、MgS、及びMg(O,S)は、鋼板でも溶接熱影響部でもその形態はほぼ同じであると考えられるので、溶接部でなく、母材部または溶接前の母鋼板で検出されれば本発明の効果は発揮される。MgO、MgS、及びMg(O,S)は、鋼板(溶接前又は溶接後)から、抽出レプリカを作成し、特性X線検出器(EDX)付の透過電子顕微鏡(TEM)で求めることができる。
【0031】
特性X線検出器(EDX)でMg以外の元素が検出されても、Mgを主体とする酸化物、硫化物であれば本発明のオーステナイト粒微細化効果を発揮するものと考えられる。また、前記TEMの倍率として、1万〜5万倍で複数視野を観察すれば良い。レプリカによっては、前記粒子がうまく抽出されていない視野も存在するので、抽出された視野にて10視野程度観察し、そのTEM写真から粒子サイズと分布個数を求めれば良い。
【0032】
上記のようなサイズおよび個数の粒子を鋼中に分散させるためにはAl、Mg、O、Sの含有量を下記のとおり限定することが望ましい。
【0033】
Alを0.01%超含有するとアルミナ主体の酸化物が増加し、MgOの生成が抑制される。従って、Alを0.01%以下とする必要がある。Alの下限値は特に限定するものではないが、経済的には0.0001%が望ましい。
【0034】
MgはMgO、MgS、及びMg(O,S)の生成に必須な元素である。0.0002%未満では必要な個数のMgO粒子を得ることはできない。0.005%超では粗大MgO、MgS、及びMg(O,S)が生成して靭性・延性を低下させる。従ってMgの範囲を0.0002〜0.005%とした。
【0035】
OはMgO及びMg(O,S)生成に必須の元素である。0.0005%未満では必要な個数のMgO及びMg(O,S)粒子を得ることはできない。0.005%超では粗大MgOが生成して靭性・延性を低下させる。従ってMgの範囲を0.0005〜0.005%とした。
【0036】
SはMgS及びMg(O,S)を生成させるために必須の元素である。0.003%未満ではMgS及びMg(O,S)の量が不十分であるので、下限を0.003%とした。0.01%超含有すると、粗大なMgSが生成して延性・靭性を低下させるとともに、MnSの生成量も増えて板厚方向の特性、特に耐ラメラーテアー性を低下させる。従って、上限を0.01%とした。
【0037】
MgO、MgS、及びMg(O,S)粒子の上にTiNを生成させるためにはTiとNを鋼中に含有させることが必要である。
【0038】
Tiが0.005%未満ではTiN生成量が不十分であり、0.025%を超えるとMgO、MgS、及びMg(O,S)上に粗大なTiNが生成するために靭性を低下させる。従って、Ti含有量を0.005〜0.025%とした。
【0039】
NもTiN生成に必要な元素である。0.002%未満ではMgO、MgS、及びMg(O,S)上でのTiN生成が不十分となる。0.008%超ではMgO−TiN複合析出物中に粗大TiNを生成して靭性を低下させる。従って、Nの範囲を0.002〜0.008%とした。また、TiC析出による靭性低下を抑制するために、Ti/N比を3.4以下とすることが望ましい。
【0040】
HAZ靭性はオーステナイト粒微細化と粒内組織微細化だけでなく、合金元素により大きく変化する。また、母材の強度確保のためにも適正な合金元素を含有させる場合があるので、以下の理由により合金元素の範囲を限定した。
【0041】
Cは母材の強度を上昇できる元素である。0.04%未満では母材強度の確保が得られないので0.04%を下限値とした。逆にCを多く含有すると、脆性破壊の起点となるセメンタイトを増加させるため、母材・HAZの靱性を低下させる。0.20%を超えると靱性低下が顕著となるので、これを上限値とした。
【0042】
Siは母材強度上昇に有効な元素である。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、0.5%超含有すると、HAZ組織中に島状マルテンサイトが多量に生成し、さらに、フェライト地を硬化させるので、MgO、MgS、Mg(O,S)によってHAZのオーステナイト粒を微細化しても靱性向上は得られない。従って、上限を0.5%とした。
【0043】
Mnは母材の強度上昇に有効な元素である。0.6%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.6%とした。逆に、2.0%超含有すると靱性低下が顕著となる。従って、上限値を2.0%とした。
【0044】
Pは粒界脆化をもたらし、靱性に有害な元素であり、低いほうが望ましい。0.02%超含有すると靱性低下が顕著となるので、0.02%を上限とする。
【0045】
さらに、母材強度上昇に効果のある選択元素の限定範囲を以下の理由で決定した。
【0046】
Cuは母材強度上昇に有効な元素であり、特に、時効熱処理により微細Cu相を析出させることにより著しい強度上昇が得られる。0.05%未満では強度上昇が得られないので、0.05%を下限値とした。逆に、1.5%超含有すると母材やHAZの脆化が顕著となるので上限値を1.5%とした。
【0047】
Niは焼入れ性を上昇させることにより母材強度上昇に効果を有し、さらに、靱性を向上させる。0.05%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.05%とした。逆に、2.0%超含有すると焼入れ性が高くなりすぎてHAZ硬化組織を生成しやすくなり、MgO、MgS、Mg(O,S)によってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ靱性を低下させる。従って、上限値を2.0%とした。
【0048】
Crは母材強度上昇に効果を有する。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、1.0%超含有するとHAZに硬化組織を生成し、MgO、MgS、Mg(O,S)によってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ靱性を低下させる。従って、上限値を1.0%とした。
【0049】
Moは母材強度上昇に効果を有する。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、1.0%超含有するとHAZに硬化組織を生成し、MgO、MgS、Mg(O,S)によってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ靱性を低下させる。従って、上限値を1.0%とした。
【0050】
Nbは母材の強度上昇および細粒化に有効な元素である。0.005%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.005%とした。逆に、0.05%超含有するとHAZにおけるNb炭窒化物の析出が顕著となり、MgO、MgS、Mg(O,S)によってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ靱性低下が著しくなる。従って、上限値を0.05%とした。
【0051】
Vは母材の強度上昇および細粒化に有効な元素である。0.005%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.005%とした。逆に、0.1%超含有するとHAZにおける炭窒化物の析出が顕著となり、MgO、MgS、Mg(O,S)によってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ靱性低下が著しくなる。従って、上限値を0.1%とした。
【0052】
Bは制御冷却および焼入れ熱処理を施す場合に特に顕著な強度上昇の効果を発揮する。また、0.0004%未満の含有量では強度上昇効果が得られないので下限値を0.0004%とした。逆に、0.004%超含有すると粗大なB窒化物や炭ホウ化物を析出してこれが破壊の起点となるために、MgO、MgS、Mg(O,S)によってHAZのオーステナイト粒を微細化しても靱性を低下させる。従って、上限値を0.004%とした。
【0053】
本発明では微細なMgの硫化物を生成させることが必要であり、このために、Mg以外の硫化物形成元素は極力下げることが望ましい。代表的な元素はCa及びREMであり、これらは0.0005%以下とすることが望ましい。
【0054】
本発明によるHAZ靭性向上効果は超大入熱溶接ばかりでなく、大入熱溶接(例えば100〜200未満kJ/cm程度)でも有効である。
【0055】
なお、本発明では鋼中に通常不可避的に含有される不純物元素は許容できる。Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V、B、N、Ti等が不純物として混入しても本発明の鋼の性質を損うことはない。例えば、Cu、Ni、Cr及びMoは約0.02%、Nbは約0.002%、Vは約0.002%、Bは約0.00025%、Nは約0.0017%、Tiは約0.002%迄不純物として含有されていても特に悪影響を及ぼさない。
【0056】
鋼の溶製方法は、例えば溶鋼温度を1650℃以下とし、溶鋼O濃度を0.01%以下、溶鋼S濃度を0.01%以下とした状態で、適量のMgを添加することにより溶鋼中に微細なMgO、MgS、及びMg(O,S)を生成できる。この溶鋼をを連続鋳造により鋳造することにより鋼中にこれらの微細粒子を含有させることができる。TiNを利用する場合には、Mg添加前にTiを添加すると粒子が微細化しやすい。鋼の製造方法は、MgO、MgS、Mg(O,S)が所定量存在すればよいので、鋳造後の加熱、圧延、熱処理条件は母鋼材の機械的性質に応じて適宜選定すればよい。
【0057】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示す。転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さが240mmのスラブを製造した。表1に鋼材の化学成分を示す。HAZ靱性は炭素当量にも大きく依存するので、本発明の効果を確認するために、ほぼ同一の化学成分でAl、N、Ti、Mg、O、Sのみを変えた鋼を溶製して比較した。
【0058】
【表1】
表2に鋼板の製造方法と板厚、母材の機械的性質を示す。同表に示すとおり、制御圧延・制御冷却法、焼入れ・焼戻し法、および、直接焼入れ・焼戻し法により鋼板を製造した。板厚は40〜100mmとした。
【0059】
【表2】
図2に示すエレクトロスラグ溶接及びエレクトロガス溶接により溶接試験体を作成した。エレクトロスラグ溶接の電流は380A、電圧は46V、速度は1.14cm/分とした。入熱は920kJ/cmである。同図に示すように、溶接融合線(FL)および溶接融合線から3mm(HAZ3)の位置がノッチ位置に一致するようにシャルピー衝撃試験片を採取した。また、板厚を35mmにそろえて、入熱が310kJ/cmのエレクトロガス溶接も実施した。ここで、溶接の電流を610A、電圧を35V、速度を4.1cm/分とした。エレクトロスラグ溶接と同じノッチ位置となるようにシャルピー衝撃試験片を採取した。衝撃試験は0℃で行い、3本繰り返しの平均値で靱性を評価した。結果を表3に示す。また、エレクトロスラグ溶接部FL直近のHAZのミクロ組織観察を実施し、γ粒径を測定した。さらに、MgO、MgS、及びMg(O,S)の粒子径が0.005〜0.5μmの大きさの粒子数の合計を上記の方法に従って測定した。結果を表3に示す。図3にエレクトロガス溶接HAZ靱性(ノッチ位置はFL)を、図4にエレクトロスラグ溶接HAZ靱性(ノッチ位置はFL)を示す。
【0060】
【表3】
表3から明らかなとおり、発明鋼はMgO、MgS、及びMg(O,S)の粒子の個数が多く、エレクトロスラグ溶接HAZのγ粒径が小さい。その結果、超大入熱溶接HAZの靱性が高い。同様に、エレクトロガス溶接でも発明鋼のHAZ靭性向上が明らかである。これに対して、比較鋼2、5、22、28では、低AlでMgを含有していても、S含有量が本発明範囲より低いとγ粒成長抑制効果は小さく、HAZ靭性向上効果は少ない。また、比較鋼14ではγ粒径は小さいが、S含有量が高すぎてHAZ靭性は低い。さらに、比較鋼12、24では、Mgを含有し、かつ、S含有量も本発明範囲内であるが、Alが高いためにMg酸化物、硫化物の生成が少なく、HAZ靭性は低い。
【0061】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明鋼ではを鋼中にMgO、MgS、及びMg(O,S)の粒子を微細分散させることにより入熱が200kJ/cm以上の超大入熱溶接のFL及びHAZのγ粒成長抑制作用によりHAZの有効結晶粒が微細化され、HAZ靱性を顕著に向上させることができる。本発明を超大入熱溶接が適用される構造物に適用することにより、極めて信頼性の高い溶接構造物を製造することが可能である。従って、本発明は工業上極めて効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】大入熱再現HAZ材のγ粒径と靭性に及ぼすS量の影響を示す図である。
【図2】エレクトロスラグ溶接とエレクトロガス溶接の条件を示す図である。
【図3】エレクトロガス溶接HAZ靱性をPcmに対してプロットした図である。
【図4】エレクトロスラグ溶接HAZ靱性をPcmに対してプロットした図である。
Claims (4)
- 重量%で、
0.04≦C≦0.2、
0.02≦Si≦0.5、
0.6≦Mn≦2.0、
P≦0.02、
0.003≦S≦0.01、
Al≦0.01、
0.0002≦Mg≦0.005、
0.0005≦O≦0.005、
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、粒子径が0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を含む鋼であることを特徴とする超大入熱溶接用高張力鋼。 - 粒子径が0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を1平方mmあたり1.0×105〜1.0×107個含むことを特徴とする請求項1記載の超大入熱溶接用高張力鋼。
- 更に、重量%で、
0.005≦Ti≦0.025、
0.002≦N≦0.008、
を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の超大入熱溶接用高張力鋼。 - 更に母材強度上昇元素群を、重量%で、
0.05≦Cu≦1.5、
0.05≦Ni≦2.0、
0.02≦Cr≦1.0、
0.02≦Mo≦1.0、
0.005≦Nb≦0.05、
0.005≦V≦0.1、
0.0004≦B≦0.004、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超大入熱溶接用高張力鋼。
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