JP5692138B2 - 熱影響部低温靭性に優れる超大入熱溶接用高張力鋼 - Google Patents

熱影響部低温靭性に優れる超大入熱溶接用高張力鋼 Download PDF

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Description

本発明は、高層建築等のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、あるいは、造船・橋梁等で適用されるエレクトロガス溶接などの超大入熱溶接における熱影響部(以下、HAZと称する)の低温靭性に優れた溶接用高張力鋼に関するものである。特に、入熱が200kJ/cm以上で、例えば400〜500kJ/cm程度でも優れたHAZ低温靭性を有する超大入熱溶接用高張力鋼に関するものである。
最近の建築構造物の高層化に伴い、鋼製柱が大型化し、これに使用される鋼材の板厚も増してきた。このような大型の鋼製柱を溶接で組み立てる際に、高能率で溶接することが必要であり、極厚鋼板を1パスで溶接できるエレクトロスラグ溶接が広く適用されるようになってきている。また、造船・橋梁分野においても板厚が50mm程度以上の鋼板を1パスで溶接するエレクトロガス溶接が広く適用されるようになってきた。典型的な入熱の範囲は200〜500kJ/cmであり、このような超大入熱溶接ではサブマージアーク溶接などの大入熱溶接(200kJ/cm未満)とは異なり、溶接融合線(FL)付近やHAZが受ける熱履歴において1350℃以上の高温滞留時間が極めて長くなり、オーステナイト粒の粗大化が極めて顕著であり、HAZの低温靭性を確保することが困難であった。−20℃のような厳しい低温環境下における建築構造物、船舶、橋梁等の溶接鋼構造物の安全性確保に向け、このような超大入熱溶接HAZ部の低温靭性向上を達成することは極めて重要な課題である。
従来から大入熱溶接HAZ部の靭性向上に関しては、以下に示すように多くの知見・技術があるが、上記の通り、入熱が200kJ/cm以上の超大入熱溶接と大入熱溶接とではHAZが受ける熱履歴、特に、1350℃以上における滞留時間が大きく異なるために、従来の大入熱溶接HAZ靭性向上技術を単純に本発明の対象分野に適用することはできない。
従来の大入熱溶接HAZ靭性向上は、大きく分類すると主に二つの基本技術に基づいたものであった。その一つは鋼中粒子によるピン止め効果を利用したオーステナイト粒粗大化防止技術であり、他の一つはオーステナイト粒内フェライト変態利用による有効結晶粒微細化技術である。
非特許文献1には、各種の鋼中窒化物・炭化物についてオーステナイト粒成長抑制効果を検討し、Tiを添加した鋼ではTiNの微細粒子が鋼中に生成し、大入熱溶接HAZにおけるオーステナイト粒成長を効果的に抑制する技術が開示されている。
特許文献1には、Alを0.04〜0.10%、Tiを0.002〜0.02%、さらに、希土類元素(REM)を0.003〜0.05%含有する鋼において、入熱が150kJ/cmの大入熱溶接HAZ靭性を向上させる技術が開示されている。これは、REMが硫・酸化物を形成して大入熱溶接時にHAZ部の粗粒化を防止する作用を有するためである。
特許文献2には、粒子径が0.1〜3.0μm、粒子数が5×10〜1×10個/mmのTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかを含有する鋼では、入熱が100kJ/cmの大入熱溶接HAZ内でこれら粒子がフェライト変態核として作用することによりHAZ組織が微細化してHAZ靭性を向上できる技術が開示されている。
特許文献3には、TiとSを適量含有する鋼において大入熱溶接HAZ組織中にTiNとMnSの複合析出物を核として粒内フェライトが生成し、HAZ組織を微細化することによりHAZ靭性の向上が図れる技術が開示されている。
特許文献4には、Alを0.005〜0.08%、Bを0.0003〜0.0050%含み、さらに、Ti、Ca、REMのうち少なくとも1種以上を0.03%以下含む鋼は大入熱溶接HAZで未溶解のREM・Caの酸化・硫化物あるいはTiNを起点として冷却過程でBNを形成し、これからフェライトが生成することにより大入熱HAZ靭性が向上する技術が開示されている。
特許文献5には、Mg含有酸化物を1平方mmあたり40,000〜100,000個含み、且つ、粒子径が0.20〜5.0μmのTi含有酸化物とMnSからなる複合体を1平方mmあたり20〜400個含む鋼では、オーステナイト粒成長抑制と粒内フェライト変態促進により超大入熱溶接HAZ靭性を向上できる技術が開示されている。
特許文献6には、粒子径が0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を含む鋼では、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性を向上できる技術が開示されている。
特許文献7には、粒子径が0.005〜0.5μmの(Mn、Mg)Sを多く含む鋼では、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性を向上できる技術が開示されている。
非特許文献1に開示されている技術は、TiNをはじめとする窒化物を利用してオーステナイト粒成長抑制を図るものであり、大入熱溶接では効果が発揮されるが、本発明が対象とする超大入熱溶接では1350℃以上の滞留時間が極めて長いために、ほとんどのTiNは固溶し、粒成長抑制の効果を失う。また、一部の溶け残った粗大なミクロンサイズのTiNが、−20℃での超大入熱HAZ部では脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。従って、この技術を本発明が目的とする超大入熱溶接HAZの靭性には適用できない。
特許文献1に開示された技術は、REMの硫化・酸化物を利用して大入熱溶接時にHAZ部の粗粒化を防止するものである。硫化・酸化物は窒化物に比べて1350℃以上の高温における安定性は高いので、粒成長抑制効果は維持される。しかしながら、硫・酸化物を微細に分散させることは困難である。硫・酸化物の個数密度が低いために、個々の粒子のピン止め効果は維持されるとしても超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒径を小さくすることには限度があり、これだけで靭性向上をはかることはできない。また、粗大なミクロンサイズのREMの硫化・酸化物が、−20℃での超大入熱HAZ部では脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献2に記載された技術は、Ti酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかの粒子がフェライト変態核として作用することによりHAZ組織を微細化させてHAZ靭性を向上させるものであり、Ti酸化物の高温安定性を考慮すると超大入熱溶接においてもその効果は維持される。しかしながら、粒内変態核から生成するフェライトの結晶方位は全くランダムというわけではなく、母相オーステナイトの結晶方位の影響を受ける。従って、超大入熱溶接でオーステナイト粒が粗大化する場合には粒内変態だけでHAZ組織を微細化することには限度がある。また、粗大なミクロンサイズのTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体が、−20℃での超大入熱HAZ部では脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献3に開示された技術は、TiN−MnS複合析出物からフェライトを変態させるものであり、大入熱溶接のように1350℃以上の滞留時間が比較的短い場合には効果を発揮するが、エレクトロスラグあるいはエレクトロガス溶接のような超大入熱溶接においては1350℃以上の滞留時間が長く、この間に多くのTiNは固溶してしまうためにフェライト変態核が消失し、その効果が十分には発揮できない。また、粗大なミクロンサイズのTiN−MnS複合析出物が、−20℃での超大入熱HAZ部では脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献4に開示された技術は、REM・Caの酸化・硫化物あるいはTiN上にBNを形成し、これからフェライトを生成させることによりHAZ組織を微細化するものであり、超大入熱溶接においても同様な効果は期待できる。しかしながら、REM・Caの酸化・硫化物の個数を増加させることは困難であり、しかもTiNは固溶してフェライト変態だけでは超大入熱溶接HAZの靭性向上には限度がある。また、REM・Caの酸化・硫化物あるいはTiN上にBNが析出した粗大なミクロンサイズの複合析出物が、−20℃での超大入熱HAZ部では脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献5に開示された技術は、0.01〜0.20μmの微細なMg含有酸化物によるオーステナイト粒成長抑制と0.20〜5.0μmのTi含有酸化物とMnSからなる複合体による粒内フェライト変態促進により超大入熱溶接HAZ靭性を向上できる。しかしながら、Ti含有酸化物の生成にはAl量を0.005%以下に抑制する必要があり、従来のAl添加鋼の利点を損なう。すなわち、従来のAl量が0.010〜0.5%程度のAl脱酸鋼においては、鋼中のAlによる酸化発熱を利用することで溶鋼温度を容易に制御することができ、安価かつ安定な鋼の量産を可能にしてきた。Al添加量を0.005%程度以下に制限すると、溶鋼加熱装置による加熱等の、Alの酸化発熱による溶鋼温度制御を代替する手段が必要となる。溶鋼中のAlは大気中の酸素による溶鋼汚染防止の役割も有し、また、Alは窒化物を形成することで材質確保に有効であることも広く知られており、Al量の0.005%以下への低減はこれらのAl添加の利点を損なうことが課題として残る。
特許文献6に開示された技術は、0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を含む鋼では、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性を向上できる。しかしながら、微細なMgOの生成にはAl量を0.01%以下に抑制する必要があり、やはり、上述したAl添加の利点を損なうことが課題として残る。
特許文献7に開示された技術は、本発明者らによるものであり、Al添加を前提に検討した結果、粒子径が0.005〜0.5μmの(Mn、Mg)Sを多く含む鋼では、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性を向上できる技術が開示されている。しかしながら、そのHAZ靭性向上が認められる評価温度は−5℃であり、−20℃のような厳しい低温環境下でのHAZ靭性確保は課題として残っており、特に、−20℃でのシャルピー試験において安定して良好な値を得ることが課題である。
特開昭60−184663号公報 特開昭60−245768号公報 特開平2−254118号公報 特開昭61−253344号公報 特開平9−157787号公報 特開平11−286743号公報 特開2002−3986号公報
「鉄と鋼」、第61年(1975)第11号、第65項
そこで、本発明は、高層建築物のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、造船・橋梁等で適用されるエレクトロガス溶接などの入熱が200kJ/cm以上の超大入熱溶接におけるHAZの低温靭性に優れた溶接用高張力鋼を、Al添加鋼を前提に提供することを目的とするものであり、加えて、本発明の特徴である微細な(Mg、Mn)Sを多く含む細粒鋼とすることで、超大入熱溶接におけるHAZの低温靭性を劣化させることなく比較的安価なCやBを従来鋼以上に利用することが可能となり、その分、比較的高価なSiやMn等の合金添加量を低減できるため、製造コストを低減できるものである。
尚、本発明が対象とする具体的な鋼板の特性は、以下のとおりである。
(a)母材の板厚の1/4部(1/4t部)において、引張強さ510MPa以上、降伏応力390MPa以上、−40℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上。
(b)y割れ試験時の必要予熱温度が25℃以下。
(c)溶接入熱400kJ/cmでの超大入熱溶接継手の溶接熱影響部(HAZ部)の溶接融合線(FL)付近の熱履歴をシミュレートした熱サイクルを付与した時の、シャルピー吸収エネルギーが−20℃で70J以上。
また、本発明が対象とする鋼板の板厚は、60〜80mmである。
本発明者らは、特許文献7にて開示した、Al添加が可能で、粒子径が0.005〜0.5μmの(Mn、Mg)Sを多く含む鋼では、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性を向上できる技術を前提に、オーステナイト粒成長抑制においてより有効な粒子の調査と、HAZのさらなる低温靭性の向上を可能にし得る技術につき数多くの検討を行った。その結果、C添加量を0.09%以上、0.12%未満に厳格に規制し、Si添加量を0.10%未満に厳格に規制し、Mn添加量を1.0%以上、1.4%未満に厳格に規制し、鋼中N量を0.0020%以上、0.0035%以下に低減し、鋼中O量を0.0007%以上、0.0020%以下に低減し、B添加量を0.0005%以上、0.0020%以下に規制し、併せて焼入れ性指数DI値で評価し得る鋼の焼入れ性を0.71以上、2.00以下の最適範囲とし、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Mn)Sを1平方mmあたり1.0x10〜3.0x10個含む場合にのみ、超大入熱溶接時のHAZにおける低温靭性の向上が安定して可能となることを新規に知見した。
この新規知見により、超大入熱溶接におけるHAZの低温靭性に優れた溶接用高張力鋼をAl添加鋼を前提に提供できることを知見して本発明を成した。
即ち、本発明の要旨は次の通りである。
(1)質量%で、
0.09≦C<0.12%、 0≦Si<0.10%、
1.0≦Mn<1.4%、 0≦P≦0.01%、
0.002≦S≦0.008%、 0.015<Al≦0.05%、
0.004≦Ti≦0.007%、 0.0005≦B≦0.0020%、
0.0015≦Mg≦0.0030%、
0≦Ca≦0.0005%、 0≦REM≦0.0005%、
0.0020≦N≦0.0035%、 0.0007≦O≦0.0020%、
を含有し、下記に示される溶接割れ感受性指数Pcm値が0.18〜0.21%であり、かつ、下記に示される焼入れ性指数DI値が0.71〜2.00であり、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Mn)Sを1平方mmあたり1.0x10〜3.0x10個含み、残部Feおよび不可避的不純物よりなる鋼であることを特徴とする熱影響部低温靭性に優れる超大入熱溶接用高張力鋼。
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B]
DI=0.367([C]1/2)(1+0.7[Si])(1+3.33[Mn])(1+0.35[Cu])(1+0.36[Ni])(1+2.16[Cr])(1+3.0[Mo])(1+1.75[V])(1+1.77[Al])
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Al、Bの質量%で表した含有量を意味する。
(2)更に母材強度上昇元素群を、質量%で、
0.05≦Cu≦1.0%、 0.05≦Ni≦1.5%、
0.02≦Cr≦0.6%、 0.02≦Mo≦0.4%、
0.005≦Nb≦0.02%、 0.005≦V≦0.06%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)記載の熱影響部低温靭性に優れる超大入熱溶接用高張力鋼。
また、本発明で言うところの「溶接用高張力鋼」とは、例えば、JIS G3106「溶接構造用圧延鋼材」、JIS G3115「圧力容器用鋼板」、JIS G3126「低温用圧力容器用炭素鋼鋼板」に相当するものである。
本発明鋼によれば、超大入熱溶接が適用される構造物に適用することにより、超大入熱溶接HAZの低温靭性に優れた、極めて信頼性の高い溶接構造物を製造することが可能であり、その工業界への効果は極めて大きい。
このようなHAZ低温靭性に優れる超大入熱溶接用高張力鋼を、大量の製造実績があり優れた量産プロセスであるAl脱酸を前提に製造する。
本発明者らは、超大入熱溶接HAZの組織と靭性の関係に関する詳細な調査・研究を実施した結果、従来の大入熱溶接HAZの組織制御または靭性向上法をそのまま適用しても、超大入熱溶接HAZ靭性は限られたものであり、靭性向上にはHAZのオーステナイト粒を著しく微細化する必要があるとの結論に達した。
まず、オーステナイト粒の微細化には鋼中粒子によるピン止め効果を利用することが有効であるが、窒化物の中で最も熱的に安定であるとされるTiNでも1350℃以上に長時間加熱されるとほとんどが溶解し、ピン止め効果を失うために、超大入熱溶接への適用には限度がある。従って、高温で安定である粒子の利用が必須となる。しかしながら、従来技術のREMあるいはCa酸化物(酸化・硫化物も含む)では、超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒粗大化抑制に十分な程度にこれら酸化物を鋼中に微細分散させることは極めて困難である。
本発明者らはAl脱酸鋼を前提に各種の粒子について比較検討した結果、(Mn、Mg)S粒子が高温で安定で、しかも微細分散に適した粒子であることを知見しており、HAZのオーステナイト粒成長抑制に効果を発揮する粒子は主に0.1μm以下のものであるが、Mn、Mg、S、Al添加量などを制御することにより、微細な(Mn、Mg)Sを鋼中に多量に微細分散させることが可能である。
しかしながら、そのHAZ靭性向上が認められる評価温度は−5℃であり、−20℃のような厳しい低温環境下でのHAZ靭性確保は課題として残っていた。すなわち、靭性評価温度が−20℃のような低温になると、HAZ部のオーステナイト粒の細粒化による靭性向上効果は限られたものであり、特許文献7に開示されたHAZ靭性向上技術の知見だけでは−20℃でのHAZ靭性を安定して得ることは困難であった。
この課題に対し、本発明者らは(Mg、Mn)S粒子によりオーステナイト粒成長を強力に抑制した時のHAZ部を前提に、さらなる靭性向上に向けて数多くの検討を行った結果、C添加量とSi添加量、Mn添加量、B添加量、N量、O量を厳格に規制した上で、DI値で表せる焼入れ性を厳格に規制することにより、HAZ低温靭性を向上できることを新規に知見し、本発明を完成したものである。
靭性の評価温度が−20℃のような低温になると、−5℃では問題にならなかった微細な脆化相についても靭性に悪影響を及ぼすようになり、靭性の安定化を阻害する場合があることがわかった。本発明者らは−5℃での靭性評価では悪影響が認められなかった小さく少量の島状マルテンサイト(硬質の脆化組織であるマルテンサイトとオーステナイトの混合相)についても、この量をさらに少なくすることで−20℃での靭性が顕著に向上する場合があることを知見した。そして島状マルテンサイトを減らすにはC添加量の厳格な制御とSi添加量の抑制、Mn添加量とB添加量、N量の厳格制御に加え、DI値で表される指標を制御することが有効であることを知見した。(Mg、Mn)S粒子によりオーステナイト粒成長を強力に抑制した時のHAZ部では、細粒のフェライトとパーライトが主体のミクロ組織となり、島状マルテンサイトは微細に分散しており靭性への有害度は低いと考えられたが、それでも−20℃では靭性への悪影響があるため上記の規制が必要であり、さらに、DI値の規制はフェライト組織をより細粒にする点からも必要である。
−20℃ではフェライト組織が十分に細粒になっていないと少量の島状マルテンサイトや後述する少量の酸化物や窒化物の悪影響が現れやすくなることがわかったが、フェライトを十分に細粒化するのに(Mg、Mn)S粒子によるオーステナイト粒成長の抑制だけでは不十分で、さらにフェライト変態の進行を遅らせることでフェライトをより細粒化することができ、より細粒のフェライトと細粒のパーライトと細粒のベイナイトの組織で、かつ、島状マルテンサイトの生成が抑制されることでHAZ靭性が安定化することを見出した。
(Mg、Mn)S粒子によりオーステナイト粒成長を抑制した場合にはオーステナイト粒界面積が大きくなるためHAZ部でのフェライト変態が過剰に進行しやすく、フェライト変態の進行を遅らせることによりフェライトサイズと分率を最適化することが重要となる。この手段として、上述したC添加量の厳格な制御とDI値等による規制が有効であることを新規に知見したものである。
しかしながら、その靭性向上効果は安定して得られるものではなく、C添加量、Si添加量、Mn添加量、DI値を厳格に制御し島状マルテンサイトがほとんど生成していない細粒のフェライト主体のミクロ組織で検討を重ねた結果、−5℃での靭性評価では悪影響が認められなかったミクロンサイズの少量の酸化物と窒化物、硫化物についても、この量を少なくすることで−20℃での靭性が安定して顕著に向上することを新規に知見し、これにはO量、Ti量、N量、Mn量、S量の全ての上限値を厳格に規制することが有効であることを新規に知見して本発明を成したものである。
尚、オーステナイト粒の粗大化抑制や粒内変態フェライトの生成核としてTiNのような窒化物や酸化物を利用する従来技術ではO量、Ti量、N量の全ての上限値を本発明のように厳格に規制することは難しく、本発明では微細な硫化物である(Mg、Mn)Sをオーステナイト粒の粗大化抑制に利用するので、O量、Ti量、N量の全ての上限値を厳格に規制することが可能になるとともに、オーステナイト粒の粗大化抑制に有効な微細な(Mg、Mn)Sとして利用するMn量、S量は微量であるため、Mn量、S量の上限値を厳格に規制した上で、オーステナイト粒の粗大化抑制が可能となる。
従来よりAl脱酸鋼には0.2〜2%程度のMnおよび0.002〜0.02%程度のSは添加されており、MnSを形成することは広く知られている。このMnSは高温で不安定であり溶解してしまうため、オーステナイト粒微細化粒子にはなり得なかった。しかしながら、MnS中のMnの7割以上がMgに置き換わったと考えられる(Mg、Mn)Sでは、MnSとはその性質が全く異なり、高温で極めて安定であり、しかも容易に微細分散することができる。(Mg、Mn)Sが高温で安定であり、かつ、微細分散しやすい理由は現在の所不明である。
また、(Mg、Mn)S中のMgとMnの割合につき、Mgの割合が増える程、粒子は高温で安定し、強いオーステナイト粒成長抑制効果を持つと考えられるが、特許文献7にて同定されていた(Mn、Mg)S粒子はMn主体の硫化物であったが、本発明者らは新規に、Mgの添加に先立ちAlを先に0.015%以上添加し、Ca、REMの混入が0.0005%未満に抑制できていることを確認してからMgを添加することで、Mgが主体の(Mg、Mn)Sが得られることを知見した。
そして、そうして製造した本発明の化学成分の範囲内では特許文献7にて同定されていた(Mn、Mg)Sとは異なり、より高温での安定性が高まった(Mg、Mn)S、すなわち、MgとMnの割合は原子%で70%≦Mg≦90%、10%≦Mn≦30%と、Mgを主とした硫化物が生成することがわかり、これがHAZ靭性を安定に良好にする一つの大きな要因であることがわかった。
単に鋼中にMgを添加しただけでは(Mg、Mn)Sはほとんど生成しない。その理由はMgが強脱酸元素であり酸化物となってしまうことにある。Mgは蒸気圧が高く、多量に添加しても溶鋼中に歩留りにくい元素である。このため、0.0015〜0.003%程度の微量のMgが酸化物として消費されてしまうのを防ぎ、(Mg、Mn)Sを生成させることは極めて重要となる。Al添加量が0.015%未満では(Mg、Mn)S粒子の個数は少ない。この時のMgは主にMgAlあるいはMgOとして酸化物として存在する。一方、Al添加量が0.015%以上では、(Mg、Mn)S粒子の個数が顕著に増加し、酸化物はAl主体でMgの多くは(Mg、Mn)Sとして存在する。すなわち、0.015%以上のAl添加により微細な(Mg、Mn)S粒子を多数生成させることができる。
本発明では、(Mg、Mn)Sの粒子径を0.015〜0.2μmに限定した。0.015μm未満ではオーステナイト粒成長抑制効果が小さくなる。より好ましい粒子径の下限は0.020μmである。また、0.2μm超の粒子が増加すると、鋼中のMg量が限られているため結果的により微細な粒子の個数が大幅に減少することになり、オーステナイト粒成長抑制効果が小さくなる。より好ましい粒子径の上限は0.15μm、さらにより好ましくは0.12μmである。
0.015〜0.2μmのサイズの(Mg、Mn)S粒子の個数が1平方mmあたり1.0×10個以上の場合にオーステナイト粒成長抑制効果が顕著となる。より好ましい粒子個数の下限は1平方mmあたり3.0×10個以上であり、さらに好ましい下限値は1平方mmあたり4.0×10個以上である。3.0×10個以上に増やすには過剰なMg添加が必要となり経済性を損なうので(Mg、Mn)S粒子の個数の上限を1平方mmあたり3.0×10個に制限した。より好ましい上限値は1平方mmあたり2.0×10個である。
粒子個数の測定方法は、鋼板から抽出レプリカを作成し、特性X線検出器(EDX)付きの透過型電子顕微鏡(TEM)で、0.015〜0.2μmの大きさの粒子個数を、少なくとも1000μm以上の面積につき測定し、単位面積当たりの個数に換算する。例えば、2万倍の倍率にて1視野を100mm×80mmとして観察した場合、1視野あたりの観察面積は20μmであるから少なくとも50視野につき観察を行う。この時の0.015〜0.2μmの粒子の個数が50視野(1000μm)で100個であれば、粒子個数は1平方mmあたり1×10個と換算できる。
次に、個数を測定した粒子のうち、(Mg、Mn)S粒子がどれだけ存在したかを測定するが、粒子個数は多い場合には1000個以上となるため全粒子を逐一同定することは大変な作業となる。このため、少なくとも20個以上の粒子について下記の条件にて(Mg、Mn)Sであるかどうかを同定しその存在割合を求め、先に求めた粒子個数に(Mg、Mn)Sの存在割合をかけることで(Mg、Mn)Sの個数を求める。例えば、上述した粒子個数、1平方mmあたり1×10個に対し、(Mg、Mn)Sの存在割合が90%であった場合には(Mg、Mn)Sの個数は1平方mmあたり9×10個であるとする。
次に(Mg、Mn)Sの同定方法について述べる。本発明では(Mg、Mn)S中のMgとMnの割合を原子%で70%≦Mg≦90%、10%≦Mn≦30%に限定する。Mg、Mn以外の元素、例えばCuなどが検出されても、Mg、Mnを主体とする硫化物であれば本発明のオーステナイト粒微細化効果を発揮するものと考えられる。また、粒子中から微量のOが検出される場合があるが、SとOの割合が原子%にて95%≦Sであり、含まれているOが5%未満と微量であれば(Mg、Mn)Sであるとみなす。
尚、SとOの割合が原子%にて95%≦Sであり、含まれているOが5%未満であっても、粒子が明らかにMnSとMgOの複合体であると同定できる場合には、(Mg、Mn)Sとはみなさない。MgとMnの割合およびSとOの割合は、EDXにて定量して求める。この定量時に使用する電子ビーム径は0.001〜0.02μm、TEM観察倍率は5万〜100万倍とし、微細な(Mg、Mn)S粒子内の任意の位置を定量する。
鋼板から抽出レプリカを作成した場合に、0.015〜0.2μmのサイズの(Mg、Mn)S以外の析出物、例えばセメンタイトや合金炭窒化物などが多数生成して(Mg、Mn)S粒子の個数を測定しにくい場合には、1400℃にて60秒程度保持して(Mg、Mn)S以外の粒子を固溶させ、その後急冷、もしくは急冷途中でフェライトが生成する熱サイクルを付与してセメンタイトや合金炭窒化物が少ないサンプルを作成し、これから抽出レプリカを作成すると良い。
上記のようなサイズおよび個数の粒子を鋼中に分散させるためには、Mg、Mn、S、およびAlの含有量を下記のとおり限定することが望ましい。
Mgは(Mg、Mn)Sの生成に必須の元素である。0.0015%未満では必要な個数の(Mg、Mn)S粒子を得ることはできない。より多量の微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させるためには0.0020%以上の添加がより好ましい。0.003%超の添加はMgが粗大な酸化物を生成しやすくなり(Mg、Mn)S量が飽和しHAZ靭性向上効果も飽和する上、経済性を損なうのでその上限値を0.003%とした。
Mnは(Mg、Mn)Sを構成する元素であるため本発明に必須の元素である。Mnは0.2%以上添加することで微細な(Mg、Mn)Sの多量分散が可能となるが、強度とHAZ靭性を確保するために1.0%を下限とした。Mnが1.4%を超えると偏析部に粗大なMnSが生成したり、MA相が増加することでHAZ靭性の低値が発生する場合がある。また、Mn添加量の増加は製造コストの上昇を招くため上限を1.4%未満とした。
Sは(Mg、Mn)Sを生成させるために必須の元素である。0.002%未満では(Mg、Mn)Sの量が不十分であるので、下限を0.002%とした。より多量の微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させるためには0.003%以上の添加がより好ましい。0.008%超含有すると、粗大な(Mg、Mn)Sが生成して超大入熱溶接HAZのγ粒細粒化効果が小さくなる場合があると共に、粗大な(Mg、Mn)Sが脆性破壊の発生起点として作用し低温HAZ靭性の低下を招く場合があるので、その上限値を0.008%とした。
AlはMgが酸化物を生成することを抑制し、Mgが(Mg、Mn)Sを生成するために必須の元素であり、0.015%以上の添加が必要である。より多量の微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させるためには、0.02%以上のAl添加がより好ましい。0.05%を超えて含有すると、HAZ部に硬質の脆化組織であるマルテンサイトとオーステナイトの混合相(MA)が生成しやすくなったり、固溶AlによるHAZ脆化が起こるため(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きな靭性向上効果が得られない場合がある。また、Al添加量の増加は製造コストの上昇を招くため上限を0.05%とした。
本発明では微細な(Mg、Mn)Sを生成させることが必要であり、このためにMg、Mn以外の硫化物形成元素の含有量は極力低減することが望ましい。代表的な元素はCaおよびREMであり、これらは0.0005%以下とする必要があるのでCaおよびREMの上限値を0.0005%とした。下限値は特に限定せず0とした。より望ましい上限値は0.0003%である。
HAZ靭性はオーステナイト粒微細化と粒内組織微細化だけではなく、合金元素の添加量により大きく変化する。また、母材の強度確保のためにも適正な合金元素を含有させる場合があるので、以下の理由により合金元素の添加量を限定した。
Cは母材の強度上昇に有効であると共に、HAZ部のフェライト組織を細粒化してる元素である。0.09%未満ではHAZ部のフェライト組織が粗大化しHAZ靭性が低下するため0.09%を下限とした。より好ましいC添加量の下限値は0.10%である。逆に、C添加量が0.12%を超えると、脆性破壊の起点となるセメンタイトや島状マルテンサイトが増加するため、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きな靭性向上効果が得られない。特に、−20℃での低温靭性に対しては、比較的少量の小さなセメンタイトや島状マルテンサイトでも脆性破壊の起点となりやすく靭性を低下させる場合があるため、C添加量の上限については厳格な規制が必要である。より好ましいC添加量の上限値は0.11%である。
Siを添加するとHAZ部のミクロ組織中に硬質な脆化組織である島状マルテンサイト相が生成しやすくなるため低温靭性を向上させることができない。このためSi添加量は0.10%未満に厳格に抑制する必要があり、含有量は少ないほうが望ましい。そこで下限値を0とした。しかし、0.03%未満へのSi含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があり、その場合には0.03%を下限とすることが望ましい。
Pは粒界脆化をもたらし、靭性に有害な元素であり、含有量は少ないほうが望ましいので下限値を0とした。しかし、0.001%未満へのP含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があり、その場合には0.001%を下限とすることが望ましい。0.01%超含有すると(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ低温靭性が低下する場合があるので0.01%を上限とする。
Tiは主にBの焼入れ性向上効果を高め母材の強度上昇およびHAZ組織の細粒化に有効であり、また、TiNによるオーステナイト粒の粒成長抑制効果による母材の細粒化と1350℃以下に加熱されるHAZ組織の細粒化に有効な元素である。0.004%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.004%とした。0.007%超含有すると、粗大なTiNを生成しこれが破壊の発生起点となるため、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ靭性向上効果が得られない。従って、上限値を0.007%とした。
Bは制御冷却を施す場合に顕著な強度上昇の効果を発揮し、母材強度上昇に有効な元素であると共に、超大入熱HAZ部において固溶Bがフェライト変態を遅らせることでミクロ組織の細粒化に有効であり、本発明において必須の元素である。0.0005%未満の含有量では強度上昇効果が得られないので下限値を0.0005%とした。逆に、0.0020%超含有すると粗大なB窒化物や炭硼化物を析出してこれが破壊の起点となるために、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ靭性向上効果が得られない。従って、上限値を0.0020%とした。
Nは添加量が多いと粗大なTiNや(Ti、Nb)(C、N)を生成しやすくなり、これが脆性破壊の発生起点となり、特に、超大入熱HAZ部の−20℃での評価では数μmのTiNや(Ti、Nb)(C、N)でも起点になり低値の発生を招きやすいため、厳格な制御が必要である。また、固溶Bがフェライト変態を遅らせHAZ組織を細粒化させる際や母材強度確保に固溶Bを利用する際に、固溶N量が多いとBNを生成し固溶B量が低減するので好ましくない。特に粗大なTiNを生成させないようにTi添加量を0.007%以下に限定し、Tiに固定されていない固溶N量が増えやすいため、最初からN添加量を厳格に制限しておく必要がある。このため上限値を0.0035%とした。より好ましい上限値は0.0030%であり、さらにより好ましくは0.0025%である。N含有量は少ないほうが望ましいが、0.0020%未満へのN含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0020%を下限とした。
O含有量が多いと粗大な酸化物が多数生成しやすく、これが破壊の発生起点となるため、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ靭性向上効果が安定して得られない場合がある。このためO含有量の上限を0.0020%とした。より好ましい上限値は0.0016%である。O含有量は少ないほうが望ましいが、0.0007%未満へのO含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0007%を下限とした。
下記式で示す溶接割れ感受性指数のPcm値は、y割れ試験時の必要予熱温度を25℃以下とするために、その上限値は0.21%に規制する必要がある。Pcm値が0.18%を下回ると母材強度、あるいは継手強度が不足する場合があるのでPcm値の下限値を0.18%とした。より好ましい下限値は0.19%である。
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B]
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Bの質量%で表した含有量を意味する。
下記式で示す焼入れ性指数DI値は、0.71未満では、超大入熱溶接HAZ部の焼入れ性が不足し高温でフェライト変態が始まるためフェライト粒が成長し粗大化することで超大入熱HAZ部の靭性が低下しやすい。このためDI値の下限を0.71とした。より好ましいDI値の下限値は0.75である。DI値が2.00を超えるとHAZ部が硬化しHAZ靭性が低下するため上限値を2.00とした。より好ましいDI値の上限値は1.80であり、さらに好ましくは1.60である。
DI=0.367([C]1/2)(1+0.7[Si])(1+3.33[Mn])(1+0.35[Cu])(1+0.36[Ni])(1+2.16[Cr])(1+3.0[Mo])(1+1.75[V])(1+1.77[Al])
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Alの質量%で表した含有量を意味する。
さらに、母材強度上昇に効果のある選択元素の限定範囲を以下の理由で決定した。
Cuは母材強度上昇に有効な元素であり、0.05%未満では強度上昇が得られないので、0.05%を下限値とした。1.0%超含有すると超大入熱HAZ部におけるCuの析出が顕著となり、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ低温靭性向上効果が得られない。従って、上限値を1.0%とした。
Niは焼入れ性を上昇させることにより母材強度上昇に効果を有し、さらに、靭性を向上させる。0.05%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.05%とした。Niは高価な元素であり、1.5%超含有すると経済性を損なうため上限値を1.5%とした。
Crは母材強度上昇に効果を有する。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、0.6%超含有するとHAZ部に島状マルテンサイトが生成し、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ低温靭性向上効果が得られない。従って、上限値を0.6%とした。
Moは母材強度上昇に効果を有する。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、0.4%超含有するとHAZに硬化組織を生成し、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ靭性向上効果が得られない。従って、上限値を0.4%とした。
Nbは母材の強度上昇および細粒化に有効な元素である。0.005%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.005%とした。逆に、0.02%超含有するとHAZ部におけるNb炭窒化物の析出が顕著となり、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ低温靭性向上効果が得られない。従って、上限値を0.02%とした。
Vは母材の強度上昇および細粒化に有効な元素である。0.005%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.005%とした。逆に、0.06%超含有するとHAZにおける炭窒化物の析出が顕著となり、(Mg、Mn)SによってHAZのオーステナイト粒を微細化しても大きなHAZ靭性向上効果が得られない。従って、上限値を0.06%とした。
本発明によるHAZ靭性向上効果は超大入熱溶接ばかりでなく、大入熱溶接(例えば、100〜200未満kJ/cm程度)でも有効である。
なお、本発明では鋼中に通常不可避的に含有される不純物元素は許容できる。Cu、Ni、Cr、Mo、Nb、V等が不純物として混入しても本発明の性質を損なうことはない。例えば、Cu、Niは0.05%未満、Cr、およびMoは0.02%未満、Nb、Vは0.005%未満まで不純物として含有されていても特に悪影響を及ぼさない。
鋼の溶製方法は、例えば溶鋼温度を1650℃以下として、溶鋼O濃度を0.01%以下、溶鋼S濃度を0.02%以下とした状態で、Mgの添加に先立ちAlを先に0.015%以上添加し、Ca、REMの混入が0.0005%未満に抑制できていることを確認してからMgを添加し、連続鋳造により鋳造することにより、鋼中に(Mg、Mn)Sの微細粒子を含有した鋳片を得ることができる。鋳造後の加熱、圧延、熱処理条件は母鋼材の機械的性質に応じて適宜選定すればよい。
以下に本発明の実施例を示す。
転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さが320mmのスラブを製造した。表1、表2に本発明鋼および比較鋼の化学成分を示す。表3、表4に本発明鋼および比較鋼の製造方法と板厚、母材特性と溶接再現熱サイクルによる継手靭性評価結果を示す。表3、表4に示すとおり、制御圧延・制御冷却法、直接焼入れ・焼戻し法、焼入れ・焼戻し法により鋼板を製造した。板厚は60〜80mmとした。
制御圧延・制御冷却法では、加熱温度を1050〜1190℃、圧延開始温度を1030〜1160℃、制御圧延開始温度を750〜850℃、制御圧延終了温度を730〜830℃、制御冷却開始温度を700〜800℃、制御冷却停止温度を250〜600℃とした。
直接焼入れ・焼戻し法では、加熱温度を1080〜1190℃、圧延開始温度を1070〜1180℃、圧延終了温度を920〜990℃、焼入れ開始温度を900〜960℃、焼入れ停止温度を60〜130℃、焼戻し温度を520〜630℃とした。
焼入れ・焼戻し法では加熱温度を1120〜1170℃、圧延開始温度を1090〜1130℃、圧延終了温度を940〜960℃、焼入れ温度を880〜920℃、焼戻し温度を520〜620℃とした。
母材強度は、JIS Z 2201に規定の4号丸棒引張試験片を板厚の1/4部(1/4t部)から圧延方向に平行な方向(L方向)にて採取し、JIS Z 2241に規定の方法で測定した。
母材靭性は、1/4t部から圧延方向に直角な方向(C方向)にJIS Z 2202に規定の衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242に規定の方法で−40℃でのシャルピー吸収エネルギー(vE−40)を求めて評価した。
溶接性はJIS Z 3158に規定の方法で、入熱1.7kJ/mmで被覆アーク溶接を行い、ルート割れ防止に必要な予熱温度を求めて評価した。
継手靭性の評価は入熱400kJ/cmでの超大入熱溶接を再現した熱サイクルを付与した試験片からシャルピー衝撃試験片を採取することで評価した。
熱サイクルはピーク温度1400℃で20秒保持し、その後1.1℃/秒の冷却速度で100℃以下まで冷却した。
衝撃試験は−20℃で行い(vE−20)、9本繰り返しの平均値と最低値で靭性を評価した。
また、ピーク温度1400℃で60秒保持後、100℃以下まで急冷する熱サイクルを付与したサンプルにつき、オーステナイト粒径を測定し、さらに、0.015〜0.2μmの粒子径の(Mg、Mn)Sの粒子個数を上述の方法に従って測定した。
各特性の目標値はそれぞれ母材降伏応力が390MPa以上、母材引張強さが510MPa以上、母材のvE−40が100J以上、必要予熱温度が25℃以下、超大入熱溶接を再現した熱サイクルを付与したvE−20が平均値で100J以上、最低値で70J以上とした。
表3、表4から明らかなとおり、本発明鋼1〜20は母材強度、母材靭性、必要予熱温度、超大入熱溶接を再現した熱サイクルでのHAZ靭性の目標値をいずれも満足し、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Mn)Sを1平方mmあたり1.0x10個以上含み、オーステナイト粒径が150μm以下と細粒である。
これに対して、比較鋼21、25、32、34、41はそれぞれC量、Mn量、Ti量、B量、Pcm値が不足しており、母材強度を満足しない。
比較鋼22、24、35、44はそれぞれC量、Si量、B量、DI値が上限値を超えており、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
比較鋼23、26、27、31、33、39はそれぞれSi量、Mn量、P量、Al量、Ti量、N量が上限値を超えており、また比較鋼43はDI値が不足しているため、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性の平均値では目標値を満足できるものの、最低値が目標値を満足できない。
比較鋼28、30、36はS量、Al量、Mg量が不足しており、(Mg、Mn)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。
比較鋼29、37、38、40はS量、Ca量、REM量、O量が過剰であり、(Mg、Mn)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。比較鋼42はPcm値が上限値を超えており、必要予熱温度の目標値25℃以下を満足できない。
上記したように、本発明は超大入熱溶接HAZに優れた低温靭性を有し、極めて信頼性の高い溶接構造物を得ることができる。
Figure 0005692138
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Claims (2)

  1. 質量%で、
    0.09≦C<0.12%、
    0≦Si<0.10%、
    1.0≦Mn<1.4%、
    0≦P≦0.01%、
    0.002≦S≦0.008%、
    0.015<Al≦0.05%、
    0.004≦Ti≦0.007%、
    0.0005≦B≦0.0020%、
    0.0015≦Mg≦0.0030%、
    0≦Ca≦0.0005%、
    0≦REM≦0.0005%、
    0.0020≦N≦0.0035%、
    0.0007≦O≦0.0020%
    を含有し、下記に示される溶接割れ感受性指数Pcm値が0.18〜0.21%であり、かつ、下記に示される焼入れ性指数DI値が0.71〜2.00であり、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Mn)Sを1平方mmあたり1.0x10〜3.0x10個含み、残部Feおよび不可避的不純物よりなる鋼であることを特徴とする熱影響部低温靭性に優れる超大入熱溶接用高張力鋼。
    Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5[B]
    DI=0.367([C]1/2)(1+0.7[Si])(1+3.33[Mn])(1+0.35[Cu])(1+0.36[Ni])(1+2.16[Cr])(1+3.0[Mo])(1+1.75[V])(1+1.77[Al])
    ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Al、Bの質量%で表した含有量を意味する。
  2. 更に母材強度上昇元素群を、質量%で、
    0.05≦Cu≦1.0%、
    0.05≦Ni≦1.5%、
    0.02≦Cr≦0.6%、
    0.02≦Mo≦0.4%、
    0.005≦Nb≦0.02%、
    0.005≦V≦0.06%、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の熱影響部低温靭性に優れる超大入熱溶接用高張力鋼。
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