JP5321766B1 - 溶接用鋼材 - Google Patents

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Abstract

この溶接用鋼材は、質量%で、C:0.05%以上、0.12%未満、Mn:1.40%以上、1.80%以下、S:0.0020%以上、0.0080%以下、Al:0.020%以上、0.070%以下、Ti:0.004%以上、0.012%以下、B:0.0005%以上、0.0020%以下、Mg:0.0015%以上、0.0030%以下、N:0.0020%以上、0.0050%以下、O:0.0007%以上、0.0020%以下を含有し、溶接割れ感受性指数Pcm値が0.16%以上、0.23%以下であり、焼入れ性指数DI値が0.70以上、2.30以下であり、粒子径が0.015μm以上0.2μm以下のMg・Mn含有硫化物を1平方mmあたり1.0×10個以上3.0×10個以下含み、前記Mg・Mn含有硫化物において、MgとMnとの合計に占めるMgの割合が、原子%で70%以上90%以下である。

Description

本発明は、高層建築等のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、あるいは、造船・橋梁等で適用されるエレクトロガス溶接などの超大入熱溶接における溶接熱影響部(Heat Affected Zone:以下、HAZと称する)の低温靭性に優れた溶接用鋼材に関する。特に、入熱が200kJ/cm以上で、例えば400〜500kJ/cm程度でも優れたHAZの低温靭性を有する。
最近の建築構造物の高層化に伴い、鋼製柱が大型化している。これに伴い、鋼製柱に使用される鋼材の板厚も増してきた。このような大型の鋼製柱を溶接で組み立てる際に、高能率で溶接することが求められており、極厚の鋼板を1パスで溶接できるエレクトロスラグ溶接が広く適用されるようになってきている。また、造船分野や橋梁分野においても板厚が50mm程度以上の鋼板を1パスで溶接するエレクトロガス溶接が広く適用されるようになってきている。これらのエレクトロスラグ溶接、またはエレクトロガス溶接を行う場合、典型的な入熱の範囲は200〜500kJ/cmであり、いわゆる超大入熱溶接である。このような超大入熱溶接ではサブマージアーク溶接などの大入熱溶接(入熱200kJ/cm未満)とは異なり、溶接融合線(FL:Fusion Line)付近やHAZが受ける熱履歴において1350℃以上の高温滞留時間が極めて長くなる。そのため、オーステナイト粒の粗大化が極めて顕著であり、HAZの低温靭性を確保することが困難である。そのため、例えば−20℃のような厳しい低温環境下における建築構造物、船舶、橋梁等の溶接鋼構造物の安全性確保に向け、このような超大入熱溶接のHAZの低温靭性向上を達成することは極めて重要な課題である。
従来から大入熱溶接を行った際のHAZ(大入熱溶接HAZ)の靭性向上に関しては以下に示すように多くの知見・技術がある。しかしながら、上記の通り、入熱が200kJ/cm以上の超大入熱溶接と大入熱溶接とではHAZが受ける熱履歴、特に、1350℃以上における滞留時間が大きく異なる。そのため、従来の大入熱溶接HAZ靭性向上技術を単純に本発明の対象分野に適用することはできない。
従来の大入熱溶接HAZの靭性向上に関する技術は、大きく分類すると主に二つの基本技術に基づいている。その一つは鋼中粒子によるピン止め効果を利用したオーステナイト粒粗大化防止技術であり、他の一つはオーステナイト粒内フェライト変態利用による有効結晶粒微細化技術である。
例えば、非特許文献1には、各種の鋼中窒化物・炭化物についてオーステナイト粒成長抑制効果を検討した結果、Tiを添加した鋼ではTiNの微細粒子が鋼中に生成し、大入熱溶接HAZにおけるオーステナイト粒成長を効果的に抑制できることが開示されている。
特許文献1には、Alを0.04〜0.10%、Tiを0.002〜0.02%、さらに、希土類元素(REM:Rare Earth Metal)を0.003〜0.05%含有する鋼において、入熱が150kJ/cmの大入熱溶接HAZ靭性を向上させる技術が開示されている。これは、REMが酸・硫化物(酸化物と硫化物の複合粒子)を形成して大入熱溶接時にHAZ組織の粗粒化を防止する作用を活用した技術である。
特許文献2には、粒子径が0.1〜3.0μm、粒子数が5×10〜1×10個/mmのTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかを含有する鋼では、入熱が100kJ/cmの大入熱溶接HAZ内でこれら粒子がフェライト変態核として作用することによりHAZ組織が微細化してHAZ靭性が向上することが開示されている。
特許文献3には、TiとSとを適量含有する鋼において、大入熱溶接HAZ組織中にTiN及びMnSの複合析出物を核として粒内フェライトが生成し、HAZ組織が微細化することによりHAZ靭性が向上することが開示されている。
特許文献4には、Alを0.005〜0.08%、Bを0.0003〜0.0050%含み、さらに、Ti、Ca、REMのうち少なくとも1種以上を0.03%以下含む鋼において、大入熱溶接HAZで未溶解のREM・Caの酸・硫化物あるいはTiNを起点として冷却過程でBNが形成され、これからフェライトが生成することにより大入熱HAZ靭性が向上することが開示されている。
特許文献5には、Mg含有酸化物を1平方mmあたり40,000〜100,000個含み、且つ、粒子径が0.20〜5.0μmのTi含有酸化物とMnSとからなる複合体を1平方mmあたり20〜400個含む鋼では、オーステナイト粒成長抑制と粒内フェライト変態促進とにより超大入熱溶接HAZ靭性が向上することが開示されている。
特許文献6には、粒子径が0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を含む鋼では、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性が向上することが開示されている。
特許文献7には、粒子径が0.005〜0.5μmの(Mg、Mn)S粒子を多く含む鋼では、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性が向上することが開示されている。
しかしながら、上述の技術では、以下のような問題がある。
非特許文献1に開示されている技術はTiNをはじめとする窒化物を利用してオーステナイト粒成長抑制を図る技術である。そのため、大入熱溶接では効果が発揮されるが、本発明が対象とする超大入熱溶接では1350℃以上の滞留時間が極めて長いために、ほとんどのTiNは固溶し、粒成長抑制の効果を失う。また、一部の溶け残った粗大なミクロンサイズのTiNが、−20℃での超大入熱HAZでは脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。従って、この技術は本発明が目的とする超大入熱溶接HAZの靭性には適用できない。
特許文献1に開示された技術は、REMの酸・硫化物を利用して大入熱溶接時にHAZの粗粒化を防止するものである。酸・硫化物は窒化物に比べて1350℃以上の高温における安定性は高いので、粒成長抑制効果は維持される。しかしながら、酸・硫化物を微細に分散させることは困難である。すなわち、酸・硫化物の個数密度が低いために、個々の粒子のピン止め効果は維持されるとしても、超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒径を小さくすることには限度があり、これだけで靭性向上をはかることはできない。また、粗大なミクロンサイズのREMの酸・硫化物が、−20℃での超大入熱HAZでは脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献2に記載された技術は、Ti酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかの粒子をフェライト変態核として作用させることによりHAZ組織を微細化させてHAZ靭性を向上させる技術である。Ti酸化物の高温安定性を考慮すると超大入熱溶接においてもその効果は維持される。しかしながら、粒内変態核から生成するフェライトの結晶方位は全くランダムというわけではなく、母相オーステナイトの結晶方位の影響を受ける。従って、超大入熱溶接でオーステナイト粒が粗大化する場合には粒内変態だけでHAZ組織を微細化することには限度がある。また、粗大なミクロンサイズのTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体が、−20℃での超大入熱HAZでは脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献3に開示された技術は、TiN−MnS複合析出物からフェライトを変態させる技術である。この方法は、大入熱溶接のように1350℃以上の滞留時間が比較的短い場合には効果を発揮する。しかしながら、エレクトロスラグあるいはエレクトロガス溶接のような超大入熱溶接においては1350℃以上の滞留時間が長く、この間に多くのTiNは固溶してしまうためにフェライト変態核が消失し、その効果が十分には発揮できない。また、粗大なミクロンサイズのTiN−MnS複合析出物が、−20℃での超大入熱HAZでは脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献4に開示された技術は、REM・Caの酸・硫化物あるいはTiN上に形成されたBNからフェライトを生成させることによりHAZ組織を微細化する技術であり、超大入熱溶接においても微細化の効果は期待できる。しかしながら、REM・Caの酸・硫化物の個数を増加させることは困難である。さらに、TiNは固溶してしまうため、フェライト変態だけでは超大入熱溶接HAZの靭性向上には限度がある。また、REM・Caの酸・硫化物あるいはTiN上にBNが析出した粗大なミクロンサイズの複合析出物が、−20℃での超大入熱HAZでは脆性破壊の発生起点として作用し靭性を低下させる場合がある。
特許文献5に開示された技術は、0.01〜0.20μmの微細なMg含有酸化物によるオーステナイト粒成長抑制と、0.20〜5.0μmのTi含有酸化物及びMnSからなる複合体による粒内フェライト変態促進とにより超大入熱溶接HAZ靭性を向上させる技術である。しかしながら、Ti含有酸化物の生成にはAl量を0.005%以下に抑制する必要があり、従来のAl添加鋼の利点を損なう。すなわち、従来のAl量が0.010〜0.5%程度のAl脱酸鋼においては、鋼中のAlによる酸化発熱を利用することで溶鋼温度を容易に制御することができ、安価かつ安定な鋼の量産を可能にしてきた。特許文献5のように、Al添加量を0.005%程度以下に制限すると、溶鋼加熱装置による加熱等の、Alの酸化発熱による溶鋼温度制御を代替する手段が必要となる。溶鋼中のAlは大気中の酸素による溶鋼汚染防止の役割も有し、また、Alは窒化物を形成することで材質確保に有効であることも広く知られており、Al量の0.005%以下への低減はこれらのAl添加の利点を損なう。
特許文献6に開示された技術は、0.005〜0.5μmのMgO、MgS、Mg(O,S)の2種以上を含む鋼において、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性を向上させる技術である。しかしながら、微細なMgOの生成にはAl量を0.01%以下に抑制する必要があり、やはり、上述したAl添加の利点を損なうことが課題である。
特許文献7に開示された技術は、本発明者らによるものであり、0.015%以上のAl添加を前提に、粒子径が0.005〜0.5μmの(Mg、Mn)S粒子を多く含む鋼において、これらの微細粒子によるオーステナイト粒成長抑制により超大入熱溶接HAZ靭性を向上させる技術である。しかしながら、そのHAZ靭性向上が認められる評価温度は−5℃であり、−20℃のような厳しい低温環境下でのHAZ靭性確保、特に、−20℃でのシャルピー試験において安定して良好な値を得ることが課題として残っていた。
日本国特開昭60−184663号公報 日本国特開昭60−245768号公報 日本国特開平2−254118号公報 日本国特開昭61−253344号公報 日本国特開平9−157787号公報 日本国特開平11−286743号公報 日本国特開2002−3986号公報
「鉄と鋼」、日本鉄鋼協会発行、第61年(1975)第11号、第65頁
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものである。すなわち、高層建築物のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、及び、造船・橋梁等で適用されるエレクトロガス溶接などの、入熱が200kJ/cm以上の超大入熱溶接におけるHAZの低温靭性に優れた溶接用鋼材を、Al添加鋼を前提に提供することを目的とする。
本発明が対象とする具体的な溶接用鋼材の特性は、以下の通りである。
(a)y形溶接割れ試験時の必要予熱温度が25℃以下。
(b)溶接入熱400kJ/cmでの超大入熱溶接継手の溶接熱影響部(HAZ)の溶接融合線(FL)付近の熱履歴をシミュレートした熱サイクルを付与した時の、シャルピー吸収エネルギーが−20℃で100J以上。
なお、上記の部材への適用を考えた場合、母材の特性は以下の通りとすることが望ましい。
(c)板厚が40mm以上100mm以下、特に、60mm以上80mm以下であって、母材の板厚の1/4部(1/4t部)において、引張強さが490MPa以上、特に510MPa以上、720MPa以下、降伏応力が355MPa以上、特に、390MPa以上、−40℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上。
なお、引張強さが高くなるとHAZ靱性確保が困難になるため、降伏応力の上限を650MPa又は600MPa、引張強さの上限を670MPa又は650MPaとしてもよい。対象とする鋼材を、厚鋼板に限定してもよい。
本発明者らは、上記の課題を解決して係る目的を達成するために、特許文献7にて開示した、粒子径が0.005〜0.5μmの(Mg、Mn)Sの微細粒子によってオーステナイト粒成長を抑制できるAl添加鋼に対して、さらなる低温靭性の向上を図るため、オーステナイト粒成長抑制に有効な粒子の種類、及び個数の調査をはじめ、数多くの検討を行った。その結果、C含有量(添加量)を0.05%以上、0.12%未満に厳格に規制し、Si含有量を0.10%未満に厳格に規制し、鋼中N含有量を0.0050%以下に低減し、鋼中O量を0.0020%以下に低減し、B含有量を0.0005%以上、0.0020%以下に規制し、併せて焼入れ性指数DI値で評価し得る鋼の焼入れ性を0.70以上、2.30以下の最適範囲とし、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Mn)S、すなわちMg・Mn含有硫化物を1平方mmあたり1.0×10〜3.0×10個含み、さらに、(Mg、Mn)S粒子におけるMgとMnとの合計に占めるMgの割合を原子%で70%以上90%以下に制御することが、超大入熱溶接時のHAZにおける低温靭性の向上に有効であることを新規に知見した。この新規知見により、超大入熱溶接におけるHAZの低温靭性に優れた溶接用鋼材をAl添加鋼を前提に提供できることを知見して本発明を成した。
本発明における「溶接用鋼材」とは、例えば、JIS G3106「溶接構造用圧延鋼材」、JIS G3115「圧力容器用鋼板」、JIS G3126「低温用圧力容器用炭素鋼鋼板」に相当する。
すなわち、本発明は以下を採用した。
(1)本発明の一態様に係る溶接用鋼材は、質量%で、C:0.05%以上、0.12%未満、Mn:1.40%以上、1.80%以下、S:0.0020%以上、0.0080%以下、Al:0.020%以上、0.070%以下、Ti:0.004%以上、0.012%以下、B:0.0005%以上、0.0020%以下、Mg:0.0015%以上、0.0030%以下、N:0.0020%以上、0.0050%以下、O:0.0007%以上、0.0020%以下、を含有し、Si:0.10%未満、Ca:0.0005%以下、REM:0.0005%以下、P:0.01%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.5%以下、Cr:0.6%以下、Mo:0.4%以下、Nb:0.02%以下、V:0.06%以下、に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記式1で表される溶接割れ感受性指数であるPcm値が0.16%以上、0.23%以下であり、下記式2で表される焼入れ性指数であるDI値が0.70以上、2.30以下であり、粒子径が0.015μm以上0.2μm以下のMg・Mn含有硫化物を1平方mmあたり1.0×10個以上3.0×10個以下含み、前記Mg・Mn含有硫化物において、MgとMnとの合計に占めるMgの割合が、原子%で70%以上90%以下である。
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]…式1
DI=0.367×([C]1/2)×(1+0.7×[Si])×(1+3.33×[Mn])×(1+0.35×[Cu])×(1+0.36×[Ni])×(1+2.16×[Cr])×(1+3.0×[Mo])×(1+1.75×[V])×(1+1.77×[Al])…式2
ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Al、Bの質量%で表した含有量を意味する。
(2)上記(1)に記載の溶接用鋼材では、更に、質量%で、Ni:0.7%以下、に制限してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の溶接用鋼材では、更に、質量%で、Cu:0.5%以下、Cr:0.3%以下、Mo:0.10%以下、に制限してもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の溶接用鋼材では、板厚が、40mm以上100mm以下、降伏応力が、355MPa以上、引張強さが、490MPa以上720MPa以下、であってもよい。
本発明の上記態様に示す溶接用鋼材によれば、超大入熱溶接が適用される構造物に適用することにより、極めて信頼性の高い溶接構造物を製造することが可能であり、その工業界への効果は極めて大きい。
以下、本発明の一実施形態に係る溶接用鋼材について説明する。
本実施形態に係る溶接用鋼材は、大量の製造実績があり優れた量産プロセスであるAl脱酸を含む製造方法により製造された鋼材であることを前提とする。
本発明者らは、超大入熱溶接HAZの組織と靭性との関係に関する詳細な調査・研究を実施した。その結果、従来の大入熱溶接HAZの組織制御または靭性向上法をそのまま適用しても、超大入熱溶接HAZ靭性は限られたものであるとの結論に達した。また、靭性向上には超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒を著しく微細化(細粒化)する必要があることを見出した。
オーステナイト粒の微細化には鋼中粒子によるピン止め効果を利用することが有効である。しかしながら、窒化物の中で最も熱的に安定であるとされるTiNでも1350℃以上に長時間加熱されるとほとんどが溶解し、ピン止め効果を失うために、窒化物の超大入熱溶接への適用には限度がある。従って、高温で安定である粒子の利用が必須となる。しかしながら、従来技術のREMあるいはCa酸化物(酸・硫化物も含む)では、高温での安定性は比較的高いものの、超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒粗大化抑制に十分な程度にこれら酸化物を鋼中に微細分散させることは極めて困難である。
従来、Al脱酸鋼には0.2〜2%程度のMnおよび0.002〜0.02%程度のSが添加されており、MnSが形成されることは広く知られている。このMnSは高温で溶解してしまうため、オーステナイト粒を微細化する粒子にはなり得なかった。本発明者らはAl脱酸鋼を前提に各種の粒子について比較検討した結果、Mg・Mn含有硫化物である(Mg、Mn)S粒子が高温において安定で、しかも微細分散に適した粒子であることを知見している。また、HAZのオーステナイト粒成長抑制に効果を発揮する粒子は主に0.2μm以下の粒子であるが、Mn、Mg、S、Al含有量などを制御することにより、微細な(Mg、Mn)Sを鋼中に多量に微細分散させることが可能であることを知見している。
しかしながら、これまで(Mg、Mn)S粒子によるHAZ靭性向上効果が認められる評価温度は−5℃であった。すなわち、−20℃のような厳しい低温環境下でのHAZ靭性確保は課題であった。靭性評価温度が−20℃のような低温になると、HAZのオーステナイト粒の微細化による靭性向上効果は限られたものであり、特許文献7に開示されたHAZ靭性向上技術の知見だけでは−20℃でのHAZ靭性を安定して得ることは困難であった。
この課題に対し、本発明者らはさらなる靭性向上に向けて数多くの検討を行った。その結果、(Mg、Mn)S粒子において、Mg及びMnの合計に占めるMgの割合を制御すること、さらに、C含有量、Si含有量、B含有量、N含有量、O含有量を厳格に規制した上で、DI値で表される焼入れ性を厳格に規制することにより、HAZ低温靭性の更なる向上を図れることを新規に知見した。
以下に詳細を説明する。
本発明者らは、(Mg、Mn)S粒子中のMg及びMnの割合につき、Mgの割合が増える程、粒子は高温で安定となり、強いオーステナイト粒成長抑制効果を持つことを見出した。特許文献7にて同定されていた(Mg、Mn)S粒子はMn主体の硫化物であり、Mg及びMnの割合が重量%でMgが5%以上、40%以下(原子%に換算すると、Mgが10.6%以上、60.1%以下)の粒子であった。これらの粒子は、高温で安定なMgSよりも、高温で不安定なMnSに近い粒子組成であるため、粒子の高温での安定性が十分ではなく、−20℃でのHAZ靭性を安定に良好にすることはできなかった。しかしながら、MnS中のMnの7割以上がMgに置き換わったと考えられる(Mg、Mn)S粒子、すなわち粒子中のMgとMnとの合計に占める割合が、原子%で、70%≦Mg≦90%、10%≦Mn≦30%の(Mg、Mn)S粒子であれば、高温で極めて安定であり、しかも容易に微細分散することを見出した。このような(Mg、Mn)S粒子が高温で安定であり、かつ、微細分散しやすい理由は現在のところ不明である。
特許文献7の発明者には本発明者らが含まれる。特許文献7に係る超大入熱高張力鋼は、製造工程において、十分なAl量を添加する前にMgを添加していた。本発明者らは、十分なAl量を添加する前にMgを添加した場合、Mgは粗大な酸化物として存在する割合が増え、結果的に微細な(Mg、Mn)S粒子中のMgの割合が低下することを新たに見出した。すなわち、特許文献7に開示された(Mg、Mn)S粒子はMn主体の硫化物であり、Mg及びMnの割合が重量%でMgが5%以上、40%以下(原子%に換算するとMgが10.6%以上、60.1%以下)の粒子であった。この(Mg、Mn)S粒子は高温での安定性が十分ではなく、FL部のγ粒が一部で粗大化する場合がある。一部に粗大なオーステナイト粒があっても平均のオーステナイト粒径は細粒であるため、−5℃での靭性は満足し得る。しかしながら、−20℃では一部の粗大なオーステナイト粒に起因した粗大なフェライト粒やベイナイト粒等が破壊の発生起点となるため特許文献7に開示されたMn主体の(Mg、Mn)S粒子では安定した靭性向上が困難であった。
本発明者らは粒子の高温での安定性をさらに高めるための検討を数多く実施した。その結果、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加し、Ca、REMの混入が0.0005%以下に抑制できていることを確認してからMgを添加することで、原子%にてMgが主体で、かつMgの原子割合の高い(Mg、Mn)S粒子が安定して得られることを知見した。そして、そのようにして製造した本実施形態に係る溶接用鋼材の化学成分の範囲内では特許文献7にて同定されていた(Mg、Mn)S粒子とは異なり、より高温での安定性が高まった(Mg、Mn)S粒子、すなわち、Mg及びMnの割合が原子%で70%≦Mg≦90%、10%≦Mn≦30%であるMgの原子割合の高い硫化物が生成することがわかった。また、このような粒子を用いることで、−20℃でのHAZ靭性を向上させることができることを見出した。
さらに、靭性の評価温度が−20℃のような低温になると、−5℃では問題にならなかった微細な脆化相が靭性に悪影響を及ぼすようになり、靭性の安定化を阻害する場合があることがわかった。本発明者らは−5℃での靭性評価では悪影響が認められなかった小さく少量の島状マルテンサイト(硬質の脆化組織であるマルテンサイトとオーステナイトの混合相:MA)の量をさらに少なくすることで−20℃での靭性が顕著に向上することを知見した。そして島状マルテンサイトを減らすにはC含有量の厳格な制御と、Si含有量の抑制と、B含有量及びN含有量の厳格制御とに加え、DI値で表される指標を制御することが有効であることを知見した。
上述のMgの原子割合の高い(Mg、Mn)S粒子によりオーステナイト粒成長を抑制したときのHAZでは細粒のフェライトとパーライトとが主体のミクロ組織となる。このような組織では、島状マルテンサイトは微細に分散しており靭性への有害度は低いと考えられていた。しかしながら、−20℃では靭性への悪影響があるため上記の規制が必要である。さらに、DI値の規制はフェライト組織をより細粒にする点からも有効である。
さらに、−20℃ではフェライト組織が十分に細粒になっていないと少量の島状マルテンサイトや後述する少量の酸化物や窒化物の悪影響が大きくなる。本発明者らは、フェライトを十分に微細化(細粒化)するのに(Mg、Mn)S粒子によるオーステナイト粒成長の抑制だけでは不十分で、さらにフェライト変態の進行を遅らせることが重要であることを見出した。より細粒のフェライトと細粒のパーライトと細粒のベイナイトとを含む組織であり、かつ、島状マルテンサイトの生成が抑制されることで低温でのHAZ靭性が安定して向上する。
(Mg、Mn)S粒子によりオーステナイト粒成長を抑制した場合にはオーステナイト粒界面積が大きいためフェライト変態が過剰に進行しやすい。そのため、フェライト変態の進行を遅らせることによりフェライトのサイズ及び分率を最適化することが重要となる。これに対し、本発明者らは、フェライト変態の進行を遅らせる手段として、上述したDI値等による規制が有効であることを新規に知見した。さらに、検討を重ねた結果、DI値等による靭性向上効果をより安定して得るためにC含有量、Si含有量及びDI値を厳格に制御すること、並びに−5℃での靭性評価では悪影響が認められなかったミクロンサイズの酸化物及び窒化物の量を少なくすることが有効であることを新規に知見した。また、このミクロンサイズの酸化物及び窒化物の量を制御するには、O含有量、Ti含有量及びN含有量の全ての上限値を厳格に規制することが有効であることを新規に知見した。
オーステナイト粒の粗大化抑制や粒内変態フェライトの生成核としてTiNのような窒化物や酸化物を利用する従来技術では、O含有量、Ti含有量、N含有量の全ての上限値を厳格に規制することは難しい。本実施形態に係る溶接用鋼材では硫化物である(Mg、Mn)S粒子をオーステナイト粒の粗大化抑制に利用するので、O含有量、Ti含有量、N含有量の全ての上限値を厳格に規制することが可能となる。
また、本実施形態において、(Mg、Mn)S粒子の粒子径及び個数密度(単位面積あたりの個数)は、重要である。
本実施形態では、(Mg、Mn)S粒子の粒子径を0.015〜0.2μmとする。0.015μm未満ではオーステナイト粒成長抑制効果が小さくなる。より好ましい粒子径の下限は0.020μmである。一方、0.2μm超の粒子が増加すると鋼中のMg量が限られているため結果的に微細な粒子の個数が大幅に減少することになり、オーステナイト粒成長抑制効果が小さくなる。より好ましい粒子径の上限は0.15μm、さらにより好ましくは0.12μmである。
また、0.015〜0.2μmのサイズの(Mg、Mn)S粒子の個数が1平方mmあたり1.0×10個以上の場合にオーステナイト粒成長抑制効果が顕著となる。より好ましい粒子個数の下限は1平方mmあたり3.0×10個以上であり、さらに好ましい下限値は1平方mmあたり4.0×10個以上である。一方、3.0×10個以上に増やすには過剰なMg添加が必要となり経済性を損なうので(Mg、Mn)S粒子の個数の上限を1平方mmあたり3.0×10個に制限した。より好ましい上限値は1平方mmあたり2.0×10個である。
粒子個数の測定方法は、鋼板(溶接用鋼材)から抽出レプリカを作成し、特性X線検出器(EDX)付きの透過型電子顕微鏡(TEM)で、0.015〜0.2μmの大きさの粒子個数を、少なくとも1000μm以上の面積につき測定し、単位面積当たりの個数に換算する。例えば、2万倍の倍率にて1視野を100mm×80mmとして観察した場合、1視野あたりの観察面積は20μmであるから少なくとも50視野につき観察を行う。この時の0.015〜0.2μmの粒子の個数が50視野(1000μm)で100個であれば、粒子個数は1平方mmあたり1×10個と換算できる。
次に、個数を測定した粒子のうち、(Mg、Mn)S粒子がどれだけ存在したかを測定する。粒子個数は多い場合には1000個以上となるため全粒子を逐一同定することは大変な作業となる。このため、少なくとも20個以上の粒子について下記の条件にて(Mg、Mn)Sであるかどうかを同定しその存在割合を求め、先に求めた粒子個数に(Mg、Mn)Sの存在割合をかけることで(Mg、Mn)S粒子の個数を求めればよい。例えば、上述した粒子個数、1平方mmあたり1×10個に対し、(Mg、Mn)Sの存在割合が90%であった場合には(Mg、Mn)S粒子の個数は1平方mmあたり9×10個であるとする。
次に、(Mg、Mn)S粒子の同定方法について述べる。本実施形態では(Mg、Mn)S粒子中のMgとMnとの合計に対するMgとMnのそれぞれの割合を、原子%で、70%≦Mg≦90%及び10%≦Mn≦30%とする。Mg、Mnを主体とする硫化物であればオーステナイト粒微細化効果を発揮するため、Mg、Mn以外の元素が検出されても構わない。また、粒子中から微量のOが検出される場合があるが、S及びOの割合が原子%で、95%≦Sであり、含まれているOが5%未満と微量であれば(Mg、Mn)S粒子であるとみなす。ただし、S及びOの割合が、原子%にて95%≦Sであり、含まれているOが5%未満であっても、粒子が明らかにMnSとMgOの複合体であると同定できる場合には、(Mg、Mn)S粒子とはみなさない。MgとMnの割合およびSとOの割合は、EDXにて定量して求める。この定量時に使用する電子ビーム径は0.001〜0.02μm、TEM観察倍率は5万〜100万倍とし、微細な(Mg、Mn)S粒子内の任意の位置を定量する。
鋼板から抽出レプリカを作成した場合に、0.015〜0.2μmのサイズの(Mg、Mn)S粒子以外の析出物、例えばセメンタイトや合金炭窒化物などが多数生成して(Mg、Mn)S粒子の個数を測定しにくい場合には、1400℃にて60秒程度保持して(Mg、Mn)S以外の粒子を固溶させ、その後急冷、もしくは急冷途中でフェライトが生成する熱サイクルを付与してセメンタイトや合金炭窒化物が少ないサンプルを作成し、これから抽出レプリカを作成しても良い。
(Mg、Mn)S粒子は、高温で安定であるため、上記の熱サイクルを付与しても結果は変わらない。
上記のようなサイズおよび個数の粒子を鋼中に分散させるために、本実施形態では、溶接用鋼材の化学成分として、Mg、Mn、S、およびAlの含有量を下記のとおり限定した。
Mg:0.0015%以上、0.0030%以下
Mgは(Mg、Mn)S粒子の生成に必須の元素である。Mg含有量が0.0015%未満では必要な個数の(Mg、Mn)S粒子を得ることはできない。また、(Mg、Mn)S粒子中のMgの割合が低くなる。より多量の微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させるためには0.0018%以上又は0.0020%以上の添加がより好ましい。0.0030%超の含有ではMgが酸化物を生成しやすくなり(Mg、Mn)S量が飽和しHAZ靭性向上効果も飽和する上、経済性を損なうのでその上限値を0.0030%とした。経済性のため、その上限を0.0027%又は0.025%としてもよい。
Mn:1.40%以上、1.80%以下
Mnは(Mg、Mn)S粒子を構成する元素であるために必須の元素である。Mnは0.2%以上含有することで微細な(Mg、Mn)S粒子の多量分散が可能となるが、10%≦Mn≦30%を含む(Mg、Mn)S粒子を十分に得るためには1.40%以上含有する必要がある。また、1.40%未満では、強度とHAZ靭性を確保するためにも不利となる。HAZ靱性を改善するために、含有量の下限を1.45%又は1.50%としてもよい。一方、Mnが1.80%を超えると(Mg、Mn)S粒子が粗大化しやすくなりHAZ靭性を低下させるため1.80%を上限とした。HAZ靱性の向上のため、その上限を1.75%又は1.70%としてもよい。
S:0.0020%以上、0.0080%以下
Sは(Mg、Mn)S粒子を生成させるために必須の元素である。S含有量が、0.0020%未満では(Mg、Mn)S粒子の量が不十分であるので、下限を0.0020%とした。より多量の微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させるためには0.0025%以上又は0.0030%以上の添加がより好ましい。一方、0.0080%超含有すると、(Mg、Mn)S粒子中のMgの割合が低くなり、粒子の高温での安定性が不十分となるため、0.2μm以下の微細な(Mg、Mn)S粒子の個数が減少し、超大入熱溶接HAZのγ粒(オーステイナイト粒)微細化効果が小さくなる。更に、粗大な(Mg、Mn)S粒子が生成し、脆性破壊の発生起点として作用する。そのため低温HAZ靭性が低下する。従ってその上限値を0.0080%とした。より好ましいS量の上限値は0.0070%である。HAZ靱性向上のため、その上限を0.0065%、0.0060%又は0.0055%としてもよい。
Al:0.020%以上、0.070%以下
AlはMgが粗大な酸化物を生成することを抑制し、Mgが微細な(Mg、Mn)S粒子を生成するために必須の元素である。そのため、0.020%以上の含有量が必要である。より多量の微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させるためには、0.025%以上又は0.030%以上のAl添加がより好ましい。一方、0.070%を超えて含有すると、HAZに硬質の脆化組織であるマルテンサイトとオーステナイトの混合相(MA:Martensite−Austenite Constituent)が生成しやすくなったり、固溶AlによるHAZ脆化が起るためHAZ靭性が低下する。従って、上限を0.070%とした。より好ましいAl量の上限値は0.060%である。HAZ靱性改善のため、その上限を0.055%又は0.050%としてもよい。
Ca:0.0005%以下、及びREM:0.0005%以下
本実施形態では微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させることが必要である。このためにMg、Mn以外の硫化物形成元素の含有量は極力低減することが望ましい。Mg、Mn以外の硫化物形成元素が過剰であると、十分な数の(Mg、Mn)S粒子が得られなくなる。代表的な元素はCaおよびREMであり、これらは0.0005%以下とする必要がある。このためCaおよびREMの上限値を0.0005%に制限した。より望ましい上限値は0.0003%である。これらの下限を特に制限する必要はなく、これらの下限は0%である。
HAZ靭性はオーステナイト粒微細化と粒内組織微細化や、粗大なセメンタイトや島状マルテンサイトの低減および粗大な酸化物や窒化物の低減だけではなく、合金元素の含有量により大きく変化する。また、構造物として必要な母材の強度や靭性の確保のためにも適正な合金元素を含有させることが望ましい。そのため、上記以外の合金元素(化学成分)についても、以下の理由により含有量(添加量)を限定した。
C:0.05%以上、0.12%未満
Cは母材の強度を上昇させる元素である。0.05%未満では母材強度の向上効果が小さいので0.05%を下限とした。より好ましいC含有量の下限値は0.06%である。一方、C含有量が0.12%を超えて含有すると、脆性破壊の起点となるセメンタイトや島状マルテンサイトが増加するため、HAZ靭性が低下する。特に、−20℃での低温靭性に対しては、比較的少量の小さなセメンタイトや島状マルテンサイトでも脆性破壊の起点となりやすくHAZ靭性を低下させる場合があるため、C含有量の上限については厳格な規制が必要である。より好ましいC含有量の上限値は0.10%又は0.09%であり、さらに好ましいC含有量の上限値は0.08%である。
Si:0.10%未満
Siを含有するとHAZのミクロ組織中に硬質な脆化組織である島状マルテンサイト相が生成しやすくなる。この島状マルテンサイトは、HAZの低温靭性を劣化させるためSi含有量は0.10%未満とする。含有量は少ないほうが望ましいが、0.03%未満へのSi含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があり、その場合には0.03%を下限とすることが望ましい。Si量の下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。なお、HAZ靭性の向上のためにはSiの含有は望ましくないが、0.10%未満であれば、Siを意図的に添加してもよい。
Ti:0.004%以上、0.012%以下
Tiは主にBによる焼入れ性向上効果を高めるので、母材の強度上昇およびHAZ組織の微細化に有効である。HAZ組織の微細化には固溶B量の確保が重要であり、固溶Bは超大入熱HAZのフェライト変態を遅らせることでHAZ組織を微細化する。Tiは固溶NをTiNとして固定し、BNの生成を抑制するので固溶B量を確保することができる。また、TiNによるオーステナイト粒の粒成長抑制効果による母材の組織微細化(細粒化)と、1350℃以下に加熱されるHAZ組織の微細化とに有効である。しかしながら、0.004%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.004%とした。これらのTi添加効果を確実に発揮させるため、その下限を0.005%又は0.006%としてもよい。一方、0.012%超含有すると、粗大なTiNを生成しこれが破壊の発生起点となるため、HAZ靭性が低下する。従って、上限値を0.012%とした。より好ましいTi量の上限値は0.010%又は0.009%であり、さらに好ましいTi量の上限値は0.008%である。
B:0.0005%以上、0.0020%以下
Bは制御冷却を施す場合に顕著な強度上昇の効果を発揮し、母材強度上昇に有効な元素である。また、超大入熱HAZにおいて固溶Bがフェライト変態を遅らせるため、ミクロ組織の微細化に有効である。しかしながら、0.0005%未満の含有量では強度上昇効果が得られないので下限値を0.0005%とした。これらのB添加効果を確実に発揮させるため、その下限を0.0007%又は0.008%としてもよい。一方、0.0020%超含有すると粗大なB窒化物や炭硼化物を析出してこれが破壊の起点となるために、HAZ靭性が低下する。従って、上限値を0.0020%とした。より好ましいB量の上限値は0.0017%であり、さらに好ましいB量の上限値は0.0015%又は0.0013%である。
N:0.0020%以上、0.0050%以下
Nは含有量が多いと粗大なTiNや(Ti、Nb)(C、N)を生成しやすくなる。これらの粒子は、脆性破壊の発生起点となる。超大入熱HAZの−20℃での評価では数μmのTiNや(Ti、Nb)(C、N)でも脆性破壊の発生起点になりHAZ靭性の低下を招くため、厳格に制御する。また、固溶N量が多いとBNを生成し固溶B量が低減するので好ましくない。固溶B量が低減すると、固溶Bがフェライト変態を遅らせHAZ組織を微細化させる効果や母材強度を向上させる効果が低減する。特に、本実施形態に係る溶接用鋼材では、粗大なTiNを生成させないようにTi含有量を0.012%以下に限定しているため、TiNとしてTiに固定されていない固溶N量が増えやすい。そのため、最初からN含有量)を厳格に制限しておく必要がある。このため上限値を0.0050%とした。より好ましい上限値は0.0045%又は0.0040%であり、さらにより好ましくは0.0030%である。N含有量は少ないほうが望ましいが、0.0020%未満へのN含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0020%を下限とした。コスト上昇を避けるため、0.0023%又は0.0026%をその下限としてもよい。
O:0.0007%以上、0.0020%以下
O含有量が多いと粗大な酸化物が多数生成しやすい。粗大な酸化物は破壊の発生起点となり、HAZ靭性を低下させる。また、Mgの添加に先立つAl含有量が0.020%以上の場合でも、設備上あるいは操業上の不具合などの特殊な要因による溶鋼の大気汚染などにより酸素量が0.0020%を超える場合には、粗大な酸化物に消費されるMg量が増加する。その結果、微細な(Mg、Mn)S粒子中のMg割合が低下し、(Mg、Mn)S粒子の個数が減少し、HAZ靭性が低下する場合がある。このためO含有量の上限を0.0020%とした。より好ましい上限値は0.0018%又は0.0016%である。O含有量は少ないほうが望ましいが、0.0007%未満へのO含有量の低減はコスト上昇を伴う場合があるので0.0007%を下限とした。コスト上昇をさけるため、その下限を0.0009%又は0.0011%としてもよい。
P:0.010%以下
Pは粒界脆化をもたらし、靭性に有害な元素である。そのため、P含有量は少ないほうが望ましい。0.010%超含有すると(Mg、Mn)S粒子によってHAZのオーステナイト粒を微細化してもHAZ低温靭性が低下するので0.010%に制限する。好ましくは、0.009%以下、さらに好ましくは、0.008%以下である。P量の下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Cu:1.0%以下
Cuは母材強度上昇に有効な元素であり、Cuを含有してもよいが、1.0%超含有するとHAZ靭性が低下する。従って、Cu含有量を、1.0%以下に制限した。好ましくは、0.8%以下、さらに好ましくは、0.7%以下、なお一層好ましくは、0.5%以下である。Cuは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Ni:1.5%以下
Niは焼入れ性を上昇させることにより母材強度上昇に効果を有し、さらに、靭性を向上させる。このため、Niを含有してもよい。しかしながら、Niは高価な元素であり、1.5%超含有すると経済性を損なうためNi含有量を、1.5%以下に制限した。好ましくは、1.2以下、さらに好ましくは、1.0%以下、なお一層好ましくは、0.7%以下である。Niは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Cr:0.6%以下
Crは母材強度上昇に効果を有するため、Crを含有してもよい。しかしながら、0.6%超含有するとHAZに島状マルテンサイトが生成し、HAZ靭性が低下する。従って、Cr含有量を、0.6%以下に制限した。好ましくは、0.4%以下、さらに好ましくは、0.3%以下である。Crは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Mo:0.40%以下
Moは母材強度上昇に効果を有するため、Moを含有してもよい。しかしながら、0.40%超含有するとHAZに硬化組織を生成し、HAZ靭性が低下する。従って、Mo含有量を、0.40%以下に制限した。好ましくは、0.25%以下、さらに好ましくは、0.10%以下である。Moは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
Nb:0.020%以下
Nbは母材の強度上昇および組織微細化に有効な元素であるため、Nbを含有してもよい。しかしながら、0.02%超含有するとHAZにおけるNb炭窒化物の析出が顕著となり、HAZ靭性が低下する。従って、Nb含有量を、0.020%以下に制限した。好ましくは、0.018%以下、さらに好ましくは、0.016%以下である。Nbは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
V:0.060%以下
Vは母材の強度上昇および組織微細化に有効な元素であるため、Vを添加してよい。しかしながら、0.060%超含有するとHAZにおける炭窒化物の析出が顕著となり、HAZ靭性が低下する。従って、V含有量を、0.060%以下に制限した。好ましくは、0.050%以下である。Vは溶鋼製造時にスクラップ等から不可避的不純物として混入する場合があるが、その下限を特に制限する必要はなく、その下限は0%である。
また、本実施形態に係る溶接用鋼材では、y形溶接割れ試験時の必要予熱温度を25℃以下とするために、下記式1で表されるPcm値を、0.23%以下とする。より好ましくは0.22%以下又は0.21%以下である。一方、Pcm値が0.16%を下回ると十分な母材強度、あるいは十分な継手強度が得られない場合があるのでPcm値の下限値を0.16%とした。より好ましい下限値は0.17%である。
Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]…式1
さらに、本実施形態に係る溶接用鋼材では、超大入熱溶接後のHAZの焼入れ性を高めてフェライト変態温度を低下させることで、フェライトを微細化させるため、式2で表される焼入れ性指数DI値を0.70以上とした。超大入熱HAZにおけるフェライトを微細化させることで、HAZ靭性が向上する。すなわち、DIが0.70未満では、オーステナイト粒径が細粒であっても、オーステナイトから変態したフェライトの微細化が十分でなく靭性が低下する。より好ましくは0.75である。一方、DI値が2.30を超えるとHAZが硬化しHAZ靭性が低下するため上限値を2.30とした。より好ましいDI値の上限値は1.50であり、さらに好ましくは1.30である。
DI=0.367×([C]1/2)×(1+0.7×[Si])×(1+3.33×[Mn])×(1+0.35×[Cu])×(1+0.36×[Ni])×(1+2.16×[Cr])×(1+3.0×[Mo])×(1+1.75×[V])×(1+1.77×[Al])…式2
上述の式1、式2において、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Al、Bの質量%で表した含有量を意味する。
本実施形態に係る溶接用鋼材は、上記成分を含有または制限し、残部が鉄および不可避的不純物を含む。しかしながら、本実施形態に係る溶接鋼材には、上記成分の他に、鋼材自体の強度、靭性等を一段と改善する目的で、あるいはスクラップ等の副原料からの不可避的不純物として、以下の合金元素を含有してもよい。
SbはHAZ靭性を損なうため、Sb含有量[Sb]は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
SnはHAZ靭性を損なうため、Sn含有量[Sn]は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
AsはHAZ靭性を損なうため、As含有量[As]は、0.005%以下であることが好ましく、0.003%以下であることがより好ましく、0.001%以下であることが最も好ましい。
また、上記成分の上記効果を十分に発揮させるために、Zr、Co、Zn及びW)を、それぞれ0.01%以下又は0.005%以下に制限することが好ましい。
Sb、Sn、As、Zr、Co、Zn及びWの下限を制限する必要はなく、各元素の下限は0%である。また、下限の規定がない合金元素(例えば、Si、Ca、REM、P、Ni、Cr、Mo、Nb、V及びSb)が意図的に添加されたとしても、または不可避的不純物としての混入であっても、その含有量が請求範囲内にあれば、その鋼材は本発明の請求範囲内と解釈する。
本実施形態に係る溶接用鋼材におけるHAZ靭性向上効果は超大入熱溶接ばかりでなく、大入熱溶接(例えば、100〜200未満kJ/cm程度)でも有効である。
次に、本実施形態に係る溶接用鋼材の製造方法について説明する。
鋼の溶製方法は、例えば溶鋼温度を1650℃以下として、溶鋼O濃度を0.01%以下、溶鋼S濃度を0.02%以下とした状態で、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加する。その際、Ca、REMの混入が0.0005%未満に抑制できていることを確認してからMgを添加し、必要に応じてその他の元素の含有量の調整を行った後、連続鋳造により鋳造することにより、鋼中にMgとMnとの合計に占めるMgの割合が、原子%で70%以上90%以下である(Mg、Mn)Sの微細粒子を含有した鋳片を得ることができる。
Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加し溶鋼中の酸素量を低減しておかないと、その後に添加したMgが粗大な酸化物として消費されてしまうため微細な(Mg、Mn)S粒子となるMg量が減少する。その結果、(Mg、Mn)S粒子中のMg/Mn割合が低下して(Mg、Mn)S粒子の高温での安定性が低下する。このため、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加することは特に重要である。
Ca、REMは意図的に添加していない場合でも、溶鋼鍋に使用される耐火物や、脱硫などの目的で添加されるフラックスやスラグ、合金原料中などから溶鋼中に混入する場合がある。そのため、Ca、REMの混入を0.0005%以下に抑制することは重要である。Ca、REMの混入を0.0005%以下に抑制するには、耐火物、フラックス、スラグや合金原料中などに含まれるCa、REM量を管理する。あるいは、Ca、REMが酸化物等の安定な形態、形状をしており溶鋼中に混入しにくいか否かを管理する。Ca及びREMの下限を制限する必要はなく、その下限は0%である。
上述のように、AlとMgの添加順、及びCa、REMの混入量を制御する理由について説明する。単に鋼中にMgを添加しただけでは(Mg、Mn)S粒子はほとんど生成しない。その理由はMgが強脱酸元素であり酸化物となってしまうことにある。また、Mgは溶鋼中での蒸気圧が高く、多量に添加しても溶鋼中に歩留りにくい元素である。このため、0.0015〜0.0030%程度の微量のMgが酸化物として消費されてしまうのを防ぎ、(Mg、Mn)S粒子を生成させることは極めて重要である。Mgの添加に先立ちAl添加した際のAl含有量が0.020%未満では(Mg、Mn)S粒子の個数が十分に得られない。この時のMgは主にMgAlあるいはMgOとして酸化物として存在する。また、Mgが酸化物の形成に消費されるため、(Mg、Mn)S粒子中のMgとMnの合計に占めるMgの割合も低下する。
一方、Mgの添加に先立ってAl含有量を0.020%以上とした場合、Alによる十分な溶鋼脱酸が可能となり、溶鋼中の酸素量を0.0020%以下に安定して低減できる。その結果酸化物量が減少し、また、酸化物の組成もAlが主体となりMgOは減少するので、Mgの多くは(Mg、Mn)S粒子として存在する。すなわち、Mgの添加に先立つ0.020%以上のAl添加により、微細な(Mg、Mn)S粒子を多数生成させることができる。
さらに、微細な(Mg、Mn)S粒子を生成させるには、Mg、Mn以外の硫化物形成元素の含有量は極力低減することが望ましい。代表的な元素はCaおよびREMであり、CaやREMはMgに比較し酸素や硫黄と結合しやすく粗大な酸・硫化物を形成しやすい。Mg添加前にAlが0.020%以上添加されていても、CaやREMが0.0005%を超えて溶鋼中に混入していると、CaまたはREMとAlとを含む粗大な酸・硫化物が多く生成し、その後にMgを添加しても微細な(Mg、Mn)S粒子を安定して得ることが難しくなる。また、Alを0.020%以上添加した後の、Mg添加中や添加後にCaやREMが混入する場合でも、それらの混入量が0.0005%を超えると微細な(Mg、Mn)S粒子を安定して得ることが難しくなる。
鋳造後の加熱、圧延、熱処理条件は、母鋼材の目標とする機械的性質に応じて、例えば、制御圧延・制御冷却、圧延後直接焼入れ・焼き戻し、圧延後一旦冷却後焼入れ・焼戻し、など適宜選定すればよい。
以下に本発明の実施例を示す。転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さが320mmのスラブを製造した。表1、表2に鋼種A1〜A52の化学成分を示す。表1の鋼種A1〜A24は、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加し、Ca、REMの混入が0.0005%以下に抑制できていることを確認してからMgを添加した。表2の鋼種A27〜A35、A37〜A42、A45〜A52は、Mgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加し、Ca、REMの混入が0.0005%以下に抑制できていることを確認してからMgを添加した。表2の鋼種A36はMgの添加に先立ちAlを添加したが、その際のAl含有量が0.020%未満であった。鋼種A43はMgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加したが、Caが過剰に混入した状態でMgを添加した。鋼種A44はMgの添加に先立ちAlを0.020%以上添加したが、REMが過剰に混入した状態でMgを添加した。鋼種A25、A26はMgを添加してからAlを添加した。
Figure 0005321766
Figure 0005321766
表3、表4に鋼種A1〜A52の化学成分を有するスラブを用いて製造した鋼材(鋼材No.1〜52)の製造方法、板厚、母材特性及び溶接再現熱サイクルによる継手靭性評価結果を示す。表3、表4に示すとおり、制御圧延・制御冷却法、焼入れ・焼戻し法、直接焼入れ・焼戻し法より鋼板を製造し、板厚は40〜100mmとした。母材強度(降伏応力及び引張強さ)は、JIS Z 2241に規定の4号丸棒引張試験片を板厚の1/4部(1/4t部)から圧延方向に平行な方向(L方向)にて採取し、JIS Z 2241に規定の方法で評価した。母材靭性は、1/4t部から圧延方向に直角な方向(C方向)にJIS Z 2242に規定の衝撃試験片を採取し、JIS Z 2242に規定の方法で−40℃でのシャルピー吸収エネルギー(vE−40)を求めて評価した。溶接性はJIS Z 3158に規定の方法で、入熱1.7kJ/mmで被覆アーク溶接を行い、ルート割れ防止に必要な予熱温度を求めて評価した。継手靭性の評価は入熱500kJ/cmでの超大入熱溶接を再現した熱サイクルを付与した試験片からシャルピー衝撃試験片を採取することで評価した。熱サイクルはピーク温度1400℃で30秒保持し、その後1℃/秒の冷却速度で100℃以下まで冷却した。衝撃試験は−20℃で行い(vE−20)、9本繰り返しの平均値と最低値とで靭性を評価した。また、ピーク温度1400℃で100秒保持後、100℃以下まで急冷する熱サイクルを付与したサンプルにつき、オーステナイト粒径を測定し、さらに、0.015〜0.2μmの粒子径の(Mg、Mn)S粒子の粒子個数を上述の方法に従って測定した。この時、個数を測定した粒子はMgとMnとの合計に占めるMgの割合が、原子%で70%以上90%以下である。表3、表4には参考として、0.015〜0.2μmの粒子径のMgとMnとを含有する硫化物粒子中の、Mgの割合(原子%)を各粒子につき平均した値を記す。
各特性の目標値はそれぞれ母材降伏応力が355MPa以上、母材引張強さが490MPa以上、720MPa以下、母材のvE−40が100J以上、必要予熱温度が25℃以下、超大入熱溶接を再現した熱サイクルを付与したvE−20が平均値で150J以上、最低値で100J以上とした。
Figure 0005321766
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表3、表4から明らかな通り、鋼材No.1〜24は必要予熱温度、超大入熱溶接を再現した熱サイクルでのHAZ靭性の目標値をいずれも満足し、粒子径が0.015〜0.2μmの(Mg、Mn)S粒子を1平方mmあたり1.0×10個以上含み、オーステナイト粒径が150μm以下と細粒である。なお、引張強さも490MPa以上と高かった。
これに対して、鋼材No.28、29および30、33、37、41、50はそれぞれC含有量、Si含有量、P含有量、Al含有量、B含有量、DI値が上限値を超えており、オーステナイト粒が細粒であってもHAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。鋼材No.32、39、45はそれぞれMn含有量、Ti含有量、N含有量が上限値を超えており、また鋼材No.31、40、47、49はDI値が不足しているため、HAZ靭性の最低値、もしくは、最低値と平均値の両方において目標値を満足できない。鋼材No.34、36、42はS含有量、Al含有量、Mg含有量が不足しており、(Mg、Mn)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。鋼材No.35、43、44、46はS含有量、Ca含有量、REM含有量、O含有量が過剰であり、(Mg、Mn)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性が平均値、最低値ともに目標値を満足できない。鋼材No.48はPcm値が上限値を超えており、必要予熱温度の目標値25℃以下を満足できない。鋼材No.25、26はMgを添加してからAlを添加したものであり、(Mg、Mn)S粒子の個数が少なくオーステナイト粒が粗大であり、HAZ靭性の平均値では目標値を満足できるものの、最低値が目標値を満足できない。鋼材No.38は、Ti含有量が不足しているため、組織微細化効果が得られず、HAZ靭性の平均値、最低値の目標値を満足できない。鋼材No.51は、Cu含有量、鋼材No.52は、Cr含有量、Nb含有量、V含有量が上限を超えているため、HAZ靭性が目標値を満足できない。鋼材No.27、31、38、40、47は、母材の降伏応力及び引張強さが目標値を満足していなかった。
本発明の溶接用鋼材によれば、超大入熱溶接が適用される構造物に適用することにより、極めて信頼性の高い溶接構造物を製造することが可能であり、その工業界への効果は極めて大きい。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.05%以上、0.12%未満、
    Mn:1.40%以上、1.80%以下、
    S:0.0020%以上、0.0080%以下、
    Al:0.020%以上、0.070%以下、
    Ti:0.004%以上、0.012%以下、
    B:0.0005%以上、0.0020%以下、
    Mg:0.0015%以上、0.0030%以下、
    N:0.0020%以上、0.0050%以下、
    O:0.0007%以上、0.0020%以下、
    を含有し、
    Si:0.10%未満、
    Ca:0.0005%以下、
    REM:0.0005%以下、
    P:0.01%以下、
    Cu:1.0%以下、
    Ni:1.5%以下、
    Cr:0.6%以下、
    Mo:0.4%以下、
    Nb:0.02%以下、
    V:0.06%以下、
    に制限し、
    残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    下記式1で表される溶接割れ感受性指数であるPcm値が0.16%以上、0.23%以下であり、
    下記式2で表される焼入れ性指数であるDI値が0.70以上、2.30以下であり、
    粒子径が0.015μm以上0.2μm以下のMg・Mn含有硫化物を1平方mmあたり1.0×10個以上3.0×10個以下含み、
    前記Mg・Mn含有硫化物において、MgとMnとの合計に占めるMgの割合が、原子%で70%以上90%以下である、
    ことを特徴とする溶接用鋼材。
    Pcm=[C]+[Si]/30+[Mn]/20+[Cu]/20+[Ni]/60+[Cr]/20+[Mo]/15+[V]/10+5×[B]…式1
    DI=0.367×([C]1/2)×(1+0.7×[Si])×(1+3.33×[Mn])×(1+0.35×[Cu])×(1+0.36×[Ni])×(1+2.16×[Cr])×(1+3.0×[Mo])×(1+1.75×[V])×(1+1.77×[Al])…式2
    ここで、[C]、[Si]、[Mn]、[Cu]、[Ni]、[Cr]、[Mo]、[V]、[Al]、[B]は、それぞれC、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Al、Bの質量%で表した含有量を意味する。
  2. 更に、質量%で、
    Ni:0.7%以下、
    に制限することを特徴とする請求項1記載の溶接用鋼材。
  3. 更に、質量%で、
    Cu:0.5%以下、
    Cr:0.3%以下、
    Mo:0.10%以下、
    に制限することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接用鋼材。
  4. 板厚が、40mm以上100mm以下、
    降伏応力が、355MPa以上、
    引張強さが、490MPa以上720MPa以下、
    であることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の溶接用鋼材。
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