JP4507364B2 - 高強度熱延鋼板の製造方法 - Google Patents

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【0001】
【従来の技術】
近年、地球環境問題や衝突安全性の観点から、メンバー類を中心とした自動車部材に高強度熱延鋼板の適用が検討されている。なかでも、曲げ加工など、大きな加工度を受ける部材においては、スプリングバック量のバラツキが問題になるので、その直接の原因となる強度のバラツキの小さな鋼板が望まれている。
【0002】
特に、強度が490MPa以上の高強度熱延鋼板には、これまでCを0.1mass%以上添加し、低温変態相を形成させた鋼板が使用されていたが、このようなC量の高い範囲で低温変態相を形成させると、形成される変態相の量は製造条件、特に、熱延後の巻取温度の影響を敏感に受けるため、強度や延性などの材質に大きなバラツキが生じ、安定製造が困難であった。
【0003】
こうした材質のバラツキを小さくするには、C量を極力低減し、それによる強度不足をTi添加で補償する方法が有効であり、490MPa以上の強度を有するTi添加熱延鋼板の製造方法について、すでに幾つか提案されている。例えば、文献1[CAMP-ISIJ, Vol.5(1992),1863]には、C:0.07%、Mn:0.50%、Ti:0.12〜0.21%を含有する鋼にNi、Cu、Bなどを添加して、熱間圧延時のTiCの析出を制御する方法が提案されている。
【0004】
特公平8-26433号公報には、C:0.03〜0.05%、Mn:1%以上、Ti:0.10〜0.20%を含有する鋼を用いて、熱間圧延後の低温変態相の量を制御する方法が、特開平10-46258号公報には、C:0.10%以下のTi添加鋼を用いて、スラブ加熱条件によってTiCの析出を制御する方法が、また、文献2[CAMP-ISIJ, Vol.1(1998),1302]には、C:0.05%のTi添加鋼を用いて、熱間圧延後の冷却速度によってTiCの析出を制御する方法などが提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記文献や特許公報に記載の方法では、従来のCが0.1mass%以上の鋼に比べ強度や延性のバラツキは減少するが、低C鋼のため溶接熱影響部(HAZ部)が軟化することが問題となる。このように、機械的特性のバラツキとHAZ部の軟化の双方の防止を両立させることは困難であった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、強度および伸びのバラツキが小さく、材質安定性および溶接性に優れる、高強度熱延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、mass%で、C:0.05〜0.09%、Si:0.05%以下、Mn:0.4〜2%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、N:0.001〜0.008%、Ti:0.03〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物を含む鋼からなるスラブを製造する工程と、前記スラブを、Ar変態点以上860℃以下の仕上温度で熱間圧延する工程と、前記熱間圧延後の鋼板を下記の式(1)を満足し、かつ20℃/s以上の平均冷却速度CR(℃/s)で700℃以下の温度まで冷却する工程と、巻取温度が520℃以上650℃以下の範囲内で前記鋼板を巻取る工程と、を有する下記鋼板特性を有する高強度熱延鋼板の製造方法。
143×[Ti]+3≦CR≦143×[Ti]+23 (1)ただし、[Ti]はTiの含有量(mass%)を表す。
鋼板特性;前記巻取温度が前記範囲内で変動した場合、鋼板の引張強度および全伸びの各々のバラツキの絶対値がそれぞれ20MPa以下および3%以下で、490MPa以上の強度を有する鋼板の特性。
【0008】
また、この発明において、スラブを製造する工程を、mass%で、C:0.05〜0.09%、Si:0.05%以下、Mn:0.4〜2%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、N:0.001〜0.008%、Ti:0.03〜0.15%を含み、かつ、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下の内1種以上、残部Feおよび不可避的不純物を含む鋼からなるスラブを製造する工程とすることもできる。
【0009】
以下に、成分および製造条件の限定理由について説明する。
C:0.05〜0.09%
Cは、 490MPa以上の強度を確保するために少なくとも0.05%は必要であるが、0.09%を超えると粗大なパーライトが形成され延性の著しい低下を招くので、0.05〜0.09%とする。
【0010】
Si:0.05%以下
Siは、過剰に含有されると赤スケールが形成され、表面性状が劣化するので、0.05%以下とする。
【0011】
Mn:0.4〜2%
Mnは、 490MPa以上の強度を確保するために少なくとも0.4%は必要であるが、2%を超えると、熱間圧延冷却時に低温変態相の生成を促進して巻取温度の変化による特性のバラツキを増長させ、また溶接性を劣化させるので、0.4〜2%とする。
【0012】
P:0.02%以下
Pは、過剰に含有されると粒界脆化を招くので、0.02%以下とする。
【0013】
S:0.005%以下
Sは、粒界で低融点物質を形成し熱間延性を低下させて表面性状を劣化させるのみならず、高温でTiと結合して強度に寄与するTiCの析出量を低減させるので、0.005%以下、より好ましくは0.003%以下とする。
【0014】
Sol.Al:0.01〜0.1%
Sol.Alは、鋼の脱酸のために少なくとも0.01%は必要であるが、0.1%を超えると延性を劣化させるので、0.01〜0.1%とする。
【0015】
N:0.001〜0.008%
Nは、高温で安定なTiNによるピンニング効果を利用してオーステナイト粒径の粗大化を防止するために、少なくとも0.001%は必要であるが、0.008%を超えると過剰なTiNによる延性の著しい低下を招くので、0.001〜0.008%とする。
【0016】
Ti:0.03〜0.15%
Tiは、0.03%未満では粗大なパーライトが形成され延性の著しい低下を招き、0.15%を超えるとTiCの析出強化能が増大してHAZ部の著しい軟化を招くので、0.03〜0.15%とする。
【0017】
Cr:1%以下、Mo: 1%以下、Nb:0. 1%以下、V: 0. 1%以下
Cr、Mo、Nb、Vは、強化元素であり、必要に応じて添加することができる。しかし、Cr、Moについては、添加量が1%を超えると熱間圧延冷却時に低温変態相の生成を促進して、巻取温度の変化による特性のバラツキを増長させ、また溶接性を劣化させる。また、Nb、Vについては0.1%を超えると、延性が低下する。従って、Cr、Moを添加する場合はそれぞれ1%以下、Nb、Vを添加する場合はそれぞれ0.1%以下とする。
【0018】
なお、上記の成分以外に、Zrが0.1%以下、Bが0.01%以下、Caが0.01%以下の範囲内で含有されても、本発明の効果が得られる。また、耐食性向上のために、Ni、Cuを1%を超えない範囲内で添加することもできる。
【0019】
上記成分を有する鋼からなるスラブを熱間圧延するに際し、以下に詳述するように、圧延終了温度すなわち仕上温度と圧延後の冷却速度および巻取温度を厳密に制御すれば、加工性に優れ、強度、伸びのバラツキが少なく、かつHAZ軟化の小さい鋼板を製造できる。
【0020】
図1に、仕上温度FTと引張強度TS、全伸びT.Elとの関係を示す。図1は、mass%で、C:0.065%、Si:0.02%、Mn:0.63%、P:0.007%、S:0.003%、Sol.Al:0.036%、N:0.0046%、Ti:0.115%を含有する鋼を、仕上温度FTを変えて板厚4.5mmに熱間圧延し、得られた鋼板からJIS5号試験片を採取し引張強度TS、全伸びT.Elを測定し、仕上温度に対してプロットしたものである。
【0021】
FTを860℃以下にすれば、FTが変動してもTS、T.Elとともにほぼ一定となり、バラツキの小さい高強度熱延鋼板が得られる。
【0022】
一方、FTが860℃を超えると、FTとともにTSが低下し、T.Elが増大するので、材質の安定化にとって相応しくない。この原因は、この温度域では加工オーステナイトが再結晶するので、変態後のフェライト粒がFTとともに粗大化するためと考えられる。
【0023】
なお、FTがAr3 変態点未満だと、フェライト域の圧延となり、変態時に析出したTiCにより一部フェライト粒の粒成長が抑制され、混粒組織となって延性が著しく低下するので、FTはAr3 変態点以上にする必要がある。
【0024】
図2に、巻取温度CTによる引張強度TS、全伸びT.Elの差の絶対値におよぼすTi量、平均冷却速度CRの影響を示す。
【0025】
図2は、C:0.065%、Si:0.02%、Mn:0.63%、P:0.007%、S:0.003%、Sol.Al:0.036%、N:0.0046%を含み、Tiを0.05〜0.12%の範囲で変えた鋼を用い、840℃の仕上温度FTで圧延し、その後650℃までの平均冷却速度CRを5〜45℃/sの範囲で変えて、560℃と600℃の2水準の巻取温度CTで巻取り、得られた鋼板の引張強度TS、全伸びT.Elの各CT間の差の絶対値|ΔTS|、|ΔT.EL|を求め、Ti量、平均冷却速度CRに対してプロットしたものである。
【0026】
圧延後650℃までのCRが上記式(1)を満足する場合は、|ΔTS|、|ΔT.EL|、すなわち強度、全伸びのバラツキが、それぞれ20MPa以下、3%以下になり、材質安定性に優れる高強度熱延鋼板が得られる。
【0027】
なお、CRが上記式(1)より小さい側に外れると、TiCは比較的粗大に析出するので巻取り後のTiCの成長にバラツキが生じ、材質のバラツキを増長し、上記式(1)より大きい側に外れると、フェライト組織が混粒となり、T.ELが大きく低下する。また、平均冷却速度CRで冷却するのは、粗大なパーライトの生成を防止するため、仕上圧延後700℃以下の温度域までとする。
【0028】
スラブ製造後、高温状態にあるスラブを従来の再加熱炉で加熱することなく圧延を行う、いわゆる直送圧延で熱間圧延を行うと、全ての析出物が固溶した状態で圧延が開始されるので、全ての析出物を均一微細に分散でき、材質のバラツキを低減できるとともに必要なTi量も低減できる。
【0029】
スラブの製法は特に規定しないが、通常は、鋼を電気炉や転炉で溶製後、連続鋳造法や造塊ー分解圧延法によって製造される。溶製後、連続鋳造により粗バー相当の厚みを有する薄スラブとしてもよく、この場合は粗圧延を省略できる。
【0030】
圧延後の平均冷却速度を本発明範囲に納めるために、仕上圧延機入側または仕上圧延機間で被圧延材を誘導加熱やガス加熱により加熱することが有効である。粗圧延後の粗バーを接合して行う連続圧延を適用することもできる。
【0031】
巻取温度は、500℃未満では良好な形状を確保できず、強度のバラツキの原因となる低温変態相が生成し、650℃を超えるとパーライトが生成して加工性が劣化するので、500℃以上650℃以下にすることが必要である。調質圧延を施すこともできるが、過度の圧下は延性劣化を招くので、3%以下の圧下率が好ましい。
【0032】
【実施例】
[実施例1]
表1に示す成分を有する鋼No.1〜9を溶製後スラブとなし、そのまま直送圧延、あるいは一旦室温まで冷却後1250℃で再加熱後、表2に示す条件で熱間圧延して板厚4.5mmの熱延鋼板No.1〜33を製造した。そして、上記したように、JIS5号試験片を用いて引張強度TS、全伸びT.El、および一つの圧延パラメータを変えた範囲内におけるTS、T.Elの最大差の絶対値|ΔTS|、|ΔT.EL|を測定した。
結果を表2に示す。
【0033】
本発明例にあるように、FTが860℃以下で、CRが上記式(1)を満足していれば、CTが520〜620℃間で変動しても、|ΔTS|、|ΔT.EL|がそれぞれ20MPa以下、3%以下でバラツキの小さい490MPa以上の強度を有する高延性な高強度熱延鋼板が得られる。また、直送圧延を行うと、同程度の強度を得るためのTi量を低減でき、かつT.Elも向上する。
【0034】
一方、比較例にあるように、FTが860℃を超えたり、CRが上記式(1)を満足しない場合は、TS、T.Elの変動が大きく、安定した材質が得られない。
【0035】
【表1】
Figure 0004507364
【0036】
【表2】
Figure 0004507364
【0037】
[実施例2]
表3に示す成分を有する鋼No.10〜15を溶製後スラブとなし、一旦室温まで冷却したものおよび、表1の鋼6,9を用いて、1250℃で再加熱後、熱間圧延を行った。熱間圧延は表4の条件にて行い、板厚4.5mmの熱延鋼板No.34〜42を製造した。これを3.2mmに両面切削して、TIG溶接試験を、10V,100A、溶接速度10cm/minで行った。溶接後のHAZ部の最軟化部と母材部の硬度差ΔHv(200g)を測定した。その結果を表4に示す。
【0038】
【表3】
Figure 0004507364
【0039】
【表4】
Figure 0004507364
【0040】
本発明例の鋼板No.34〜39はΔHvが小さいが、比較例の鋼板No.40〜42ではΔHvが大きくなっている。比較例のNo.40はTi添加量が本発明範囲外のためTiCが溶接熱影響で軟化し、No.41はCTが低いため低温変態相が溶接熱影響で軟化した結果、ΔHvが本発明鋼と比較して大きくなっている。このように、本発明の製造
方法を用いることで、ΔHv で示されるHAZ部の軟化を小さくできる。
【0041】
【発明の効果】
本発明は以上説明したように構成され、仕上温度と圧延後の冷却速度および巻取温度を厳密に制御しているので、強度および伸びのバラツキが小さく、材質安定性に優れる、溶接用高強度熱延鋼板を製造することが可能となる。
【0042】
なお、本発明は、亜鉛めっき、錫めっきあるいは化成処理の施される熱延鋼板にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】仕上温度FTと引張強度TS、全伸びT.Elとの関係を示す図である。
【図2】巻取温度CTによる引張強度TS、全伸びT.Elの差の絶対値におよぼすTi量、平均冷却速度CRの影響を示す図である。

Claims (3)

  1. mass%で、C:0.05〜0.09%、Si:0.05%以下、Mn:0.4〜2%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、N:0.001〜0.008%、Ti:0.03〜0.15%、残部Feおよび不可避的不純物を含む鋼からなるスラブを製造する工程と、前記スラブを、Ar変態点以上860℃以下の仕上温度で熱間圧延する工程と、前記熱間圧延後の鋼板を下記の式(1)を満足し、かつ20℃/s以上の平均冷却速度CR(℃/s)で700℃以下の温度まで冷却する工程と、巻取温度が520℃以上650℃以下の範囲内で前記鋼板を巻取る工程と、を有する下記鋼板特性を有する高強度熱延鋼板の製造方法。
    143×[Ti]+3≦CR≦143×[Ti]+23 (1)ただし、[Ti]はTiの含有量(mass%)を表す。
    鋼板特性;前記巻取温度が前記範囲内で変動した場合、鋼板の引張強度および全伸びの各々のバラツキの絶対値がそれぞれ20MPa以下および3%以下で、490MPa以上の強度を有する鋼板の特性。
  2. 請求項1記載の高強度熱延鋼板の製造方法において、スラブを製造する工程をその記載に代えて、mass%で、C:0.05〜0.09%、Si:0.05%以下、Mn:0.4〜2%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Sol.Al:0.01〜0.1%、N:0.001〜0.008%、Ti:0.03〜0.15%を含み、かつ、Cr:1%以下、Mo: 1%以下、Nb:0. 1%以下、V: 0. 1%以下の内1種以上、残部Feおよび不可避的不純物を含む鋼からなるスラブを製造する工程としたことを特徴とする高強度熱延鋼板の製造方法。
  3. 熱間圧延する工程では、直送圧延または鋳造後断面温度がAr変態点以下に下がらないよう炉加熱する工程を経て、熱間圧延を行うことを特徴とする請求項1または請求項2記載の高強度熱延鋼板の製造方法。
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