JP4520883B2 - 電着塗装後の耐食性に優れた熱延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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そのなかで、熱延鋼板はメッキ処理を施さずに、リン酸亜鉛皮膜を付着させるための化成処理を下地として、電着塗装処理のみが行われるものも多い。
この電着塗装後の耐食性を確保するためには、下地処理である化成処理において、リン酸亜鉛皮膜に充分に緻密に付着させる必要があり、例えば、日本パーカライジング技法(1988年創刊号P104-109)には、この化成処理性を向上させることで電着塗装後の耐食性が確保されることが記載されている。
しかし、鋼板の組成によっては、化成処理性が良好にならず、電着塗装後の耐食性が良好にならないケースがある。
しかし、表面調整剤を使ってもなおかつ化成処理性が良好にならない場合があった。
また、特開H10-158784号公報には、鋼板の表面より内部に特定の酸化物を生成させることで、化成処理性を良好にし耐食性を改善する技術が開示されている。
しかし、このような技術を適用しても、化成処理性が充分に確保できない場合があった。
日本パーカライジング技法(1988年創刊号P30-36 、P104-109)
(1)質量%で、C:0.05〜0.08%、S i:0.5〜1.5%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.009%以下、Ti:0.05〜0.2%を含有し、かつ、下記A値が0〜0.06の範囲の組成であり、その他が鉄及び不可避的不純物からなる鋼板の最表面部から深さ1μm、長さ100μmの断面範囲内に、最長径0.05μm以上の炭化物が10個以上150個以下存在することを特徴とする電着塗装後の耐食性に優れた熱延鋼板。
ここに、A値:C−(Ti/5.5)
C,Tiはそれぞれの元素の質量%
(2)質量%で、C:0.05〜0.08%、S i:0.5〜1.5%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.009%以下、Ti:0.05〜0.2%を含有し、さらに質量% で、Nb:0.005〜0.1%、Mo:0.005〜0.4%、V:0.005〜0.3%、Cr:0.02〜0.5%、B:0.001〜0.005%、Cu:0.1〜2%、Ni:0.1〜2%、Ca:0.001〜0.01%の1種または2種以上を含み、かつ下記A値が0〜0.06の範囲の組成であり、その他が鉄及び不可避的不純物からなる鋼板の最表面部から深さ1μm、長さ100μmの断面範囲内に、最長径0.05μm以上の炭化物が10個以上150個以下存在することを特徴とする電着塗装後の耐食性に優れた熱延鋼板。
ここに、A値:C−(Ti/5.5)−(Nb/11)−(Mo/9)−(V/7)
C,Ti,Nb,V,Moはそれぞれの元素の質量%
(3)(1)乃至(2)のいずれかに記載の組成からなる鋳片を熱延する際に、仕上げ圧延前の鋼板の最表面部を900〜1050℃の範囲にいったん冷却した後に仕上げ圧延を行い、さらに平均冷却速度20℃/s以上で650℃以下の温度まで冷却し、400〜650℃の温度で巻き取ることを特徴とする電着塗装後の耐食性に優れた熱延鋼板の製造方法。
具体的には、TiCのような微細炭化物で強化する鋼板は、Cと炭化物形成元素のバランスと熱延途中の温度履歴により、下記のメカニズムで化成処理性と電着塗装後の耐食性を改善できることが判明した。
(2)鋼板表面に化成処理を施した場合、前記(1)のような範囲の炭化物が存在すると、化成結晶粒が緻密で微細に付着する。この場合、電着塗装後の耐食性が良好になる。
(3)一方、炭化物の個数が本発明範囲より多い場合には、鉄が溶出する箇所が多くなりすぎるため、近隣の腐食反応が合体して腐食速度が全体的に速くなり、耐食性が低下する。さらにこの場合は、化成結晶粒は均一に付着するものの、電着塗装後の耐食環境において、鋼板表面で鉄が溶出する箇所が多くなりすぎるため、近隣の腐食反応が合体して大きな腐食が発生する。また、これら炭化物の個数が本発明範囲より少ない場合、化成結晶粒の付着にムラが生じやすくなるとともに、電着塗装後の耐食環境において、わずかに存在する起点に腐食反応が集中しやすくなり、むしろ激しい腐食が局部的に発生するため、耐食性が低下する。
(4)このような炭化物分散状態とするための鋼の組成は、C量と炭化物形成元素であるTi,Nb,Mo,Vなどとのバランスを最適にする必要があり、下記のA値を0〜0.06の範囲にする必要がある。
A値:C-(Ti/5.5)-(Nb/11)-(V/9)-(Mo/7)
ここに、C,Ti,Nb,V,Moはそれぞれの元素の質量%を示す。
(5)さらに、最表面近傍の炭化物析出を促すために、仕上げ熱延前に最表面部を900〜1050℃の範囲にいったん冷却し、仕上げ圧延を行う必要がある。
本発明の熱延鋼板は、質量%で、C:0.015%〜0.08%、Si:1.5%以下、Mn:0.1〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.009%以下、Ti:0.05〜0.2%を含有し、かつ、下記A値が0〜0.06の範囲の組成であり、その他が不可避的不純物からなる鋼板の断面を観察した際に、該鋼板の最表面部から1μmまでの深さの間で、100μm長さの範囲に、最長径0.05μm以上の炭化物が10個以上150個以下存在することを特徴とする。
ここに、A値:C-(Ti/5.5)-(Nb/11)-(Mo/9)-(V/7)
C,Ti,Nb,V,Moはそれぞれの組成の質量%
C:0.015%〜0.08%とするのは、0.015%未満だと炭化物個数を充分に確保できず化成結晶の付着ムラを生じ、電着塗装後の腐食環境において局部腐食が発生しやすくなるためであり、また、0.08%を超えると、炭化物個数が多くなりすぎることにより、鉄が溶出する速度が速くなり腐食が進みやすくなるためである。
Si:1.5%以下とするのは、1.5%を超えると炭化物個数が増加し、鉄が溶出する速度が速くなり腐食が進みやすくなるためである。
Mn:0.1〜2.5%とするのは、0. 1%未満だと鋼中の硫化鉄が増加し、腐食起点が増加するため耐食性が低下する。一方、2.5%を超えるとMnSのサイズが大きくなることにより、それが腐食の起点となり耐食性が低下する。
P:Pは不可避的に含まれる元素であるが、鋼の局部延性を低下させ加工性を低下させるため、0.015%以下でなければならない。
S:Sは不可避的に含まれる元素であるが、延性を低下させ、さらに腐食起点となる化合物を形成しやすくなる。その悪影響を抑えるためには0.015%以下が必要であり、好ましくは0.005%以下が良い。
AL:ALは鋼中のNを固定し、延性低下を防止する効果がある。0.01%以上であればその効果が発揮できる。しかし、0.08%を超えるとその効果が飽和する。
N:Nは、不可避的に含まれる元素であるが、鋼の延性を低下させ加工性を低下させるため、0.009%以下でなければならない。
Ti:0.05〜0.2%とするのは、0.05%未満だと炭化物のサイズが小さくなることにより化成結晶粒付着に有効な炭化物を形成させることが困難となり、また0.2%を超えると炭化物の個数が減少することにより、いずれも化成処理性および耐食性を低下するためである。
A値を0〜0.06の範囲とするのは、A値がマイナスだと炭化物の個数が減少することにより化成処理性および耐食性が低下し、一方A値が0.06を超えると炭化物のサイズが小さくなることにより化成結晶粒付着に有効な炭化物を形成させることが困難となり、化成処理性および耐食性を低下するためである。
なお、本発明における鋼板深さ1μmの方向および鋼板表面の100μmの方向は図1に示す通りである。
Nb: 0.005〜0.1%とするのは、0.005%以上では0.05μm以上の炭化物形成に効果を発揮し耐食性を改善する効果があるからであり、0.1%を超えると炭化物のサイズが大きくなることによりその個数が減少し、耐食性を低下するからである。
Mo: 0.005〜0.4%とするのは、0.005%以上では0.05μm以上の炭化物形成に効果を発揮し耐食性を改善する効果があるからであり、0.4%を超えると炭化物のサイズが大きくなることによりその個数が減少し、耐食性を低下するからである。
V: 0.005〜0.3%とするのは、0.005%以上では0.05μm以上の炭化物形成に効果を発揮し耐食性を改善する効果があるからであり、0.3%を超えると炭化物のサイズが大きくなることによりその個数が減少し、耐食性を低下するからである。
B:0.001〜0.005%とするのは、0.001%以上ではNと反応しやすくなり、NbとNの化合物形成を抑制することで、Nbの炭化物形成を促進させ、耐食性を改善する効果があるためである。また、0.005%を超えるとその効果が飽和する。
Cu:Cuは耐食性を向上させるのに有効な元素であり、0.1%以上の添加でその効果が発揮できる。しかし、2%を超えると効果が飽和する。
Ni:Niは耐食性を向上させるのに有効な元素であり、Cuと併用して添加することによりその効果がさらに大きく発揮される。0.1%以上の添加でその効果が発揮できる。しかし、2%を超えると効果が飽和する。
Ca:Caは、鋼中のSと化合し延性低下の防止に有効に作用する。0.001%以上であればその効果が発揮できる。しかし、0.01%を超えると効果が飽和する
仕上げ熱延前に最表面部を900〜1050℃の範囲にいったん冷却するのは、鋼板最表面において、オーステナイト中で最表面炭化物の一部が最長径0.05μm以上のサイズとなって析出するからである。
また、平均冷却速度を20℃/s以上とするのは、析出した炭化物の粗大化を防止して微細な炭化物のまま保持し、炭化物個数を確保するためである。
また、400〜650℃の温度で巻き取ることは、鋼板表面部の0.05μm以上の炭化物個数を本発明に確保するためである。400℃よりも低い温度で巻き取った場合は、0.05μmよりも微細な析出物が増加し、0.05μm以上の炭化物数が減少する。一方、650℃を超える温度で巻き取った場合は、炭化物のサイズが粗大化することにより炭化物数が減少し、本発明範囲の個数が確保できなくなる。その他の熱延条件としては特に限定する必要はなく適宜必要な材質特性に応じて実施すれば良い。
表1に記載した各種成分の鋼材を1240℃に加熱し熱延する際に、表2に示すように、仕上げ圧延前に鋼板表面に冷却水をかけ、鋼板表面を850〜1100℃に冷却した後に仕上げ圧延を行い、仕上げ圧延後平均冷却速度10〜50℃/sの種々の冷却速度で350〜700℃まで冷却し、300〜680℃の種々の温度で巻き取った。
製造された鋼板の板厚表面を電解抽出レプリカ法によってした抽出した炭化物を、図1に示すように表面から深さ方向1μm、長さとして鋼板の幅方向100μm範囲を透過型電子顕微鏡で観察し、この範囲内に含まれる最大長さが0.05μm以上の炭化物の個数を測定した。さらにこれら鋼板表面に化成処理を施した後に20μm厚のカチオン電着塗装を行い、その電着塗膜上にカッターナイフによって長さ40mmの切り込みを入れ、この面にJIS Z 2371の方法にて35℃の5%濃度塩水を500hr噴霧する耐食試験を行い、耐食試験後のサビ幅を測定した。
表2の試験番号1〜4、10〜23は本発明範囲であり、一方、試験番号5〜9、24〜34は、成分、仕上げ圧延前の鋼板の最表面部温度、冷却速度、冷却終了温度、巻取温度、0.05μm以上のサイズの炭化物個数のいずれか1つあるいは複数が本発明からはずれている。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.05〜0.08%、S i:0.5〜1.5%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.009%以下、Ti:0.05〜0.2%を含有し、かつ、下記A値が0〜0.06の範囲の組成であり、その他が鉄及び不可避的不純物からなる鋼板の最表面部から深さ1μm、長さ100μmの断面範囲内に、最長径0.05μm以上の炭化物が10個以上150個以下存在することを特徴とする電着塗装後の耐食性に優れた熱延鋼板。
ここに、A値:C−(Ti/5.5)
C,Tiはそれぞれの元素の質量% - 質量%で、C:0.05〜0.08%、S i:0.5〜1.5%、Mn:0.8〜2.5%、P:0.015%以下、S:0.015%以下、Al:0.01〜0.08%、N:0.009%以下、Ti:0.05〜0.2%を含有し、さらに質量% で、Nb:0.005〜0.1%、Mo:0.005〜0.4%、V:0.005〜0.3%、Cr:0.02〜0.5%、B:0.001〜0.005%、Cu:0.1〜2%、Ni:0.1〜2%、Ca:0.001〜0.01%の1種または2種以上を含み、かつ下記A値が0〜0.06の範囲の組成であり、その他が鉄及び不可避的不純物からなる鋼板の最表面部から深さ1μm、長さ100μmの断面範囲内に、最長径0.05μm以上の炭化物が10個以上150個以下存在することを特徴とする電着塗装後の耐食性に優れた熱延鋼板。
ここに、A値:C−(Ti/5.5)−(Nb/11)−(Mo/9)−(V/7)
C,Ti,Nb,V,Moはそれぞれの元素の質量% - 請求項1乃至請求項2のいずれかに記載の組成からなる鋳片を熱延する際に、仕上げ圧延前の鋼板の最表面部を900〜1050℃の範囲にいったん冷却した後に仕上げ圧延を行い、さらに平均冷却速度20℃/s以上で650℃以下まで冷却し、400〜650℃で巻き取ることを特徴とする電着塗装後の耐食性に優れた熱延鋼板の製造方法。
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