JP5065700B2 - 切断性に優れる鋼板 - Google Patents
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これらの低合金鋼は、ステンレス鋼に比べて安価であり、普通鋼に比べて耐食性に優れるため、海洋構造物、土木、建築、橋梁、建設機械、鋼管、タンク等の鋼構造部材としてもよく使用されている。
鋼板は、母材と、その表面にスケール層を有するものである。そして、鋼板は、母材とスケール層との界面に存在する濃化層を有し、濃化層における所定元素の合計量と、母材における前記所定元素の合計量との関係を所定に規定し、かつ濃化層の厚さを所定に規定したものである。なお、本鋼板は、表面にスケール層を有する鋼板であって、スケール層と地鉄(母材)との界面の地鉄側にCu、Ni、Ti、Zn等が濃化した濃化層を有する鋼板である。また、スケール層、濃化層は、母材の両面に形成されるものである。
Cは鋼の強度に効く元素であり、390〜630N/mm2級乃至、それ以上の強度の確保に際して有効な元素である。しかし、0.20質量%を超えると、鋼の溶接性や裸耐候性を低下させる。従って、Cの含有量は、0.20質量%以下とする。なお、0.02質量%未満では強度確保が難しくなるため、0.02質量%以上とすることが望ましい。
Siは溶鋼の脱酸や固溶強化のための元素であり、また、緻密な保護性さび層の形成を促進し、裸耐候性等の耐食性を向上させる効果も有する。しかし、0.1質量%未満では、これらの効果が不十分である。一方、1.0質量%を超えると、溶接性が低下する。従って、Siの含有量は、:0.1〜1.0質量%とする。さらに、耐食性向上の観点から、下限値は0.15質量%とすることが望ましい。
Mnは鋼の強度に効く元素であり、390〜630N/mm2級乃至、それ以上の強度の確保に有効な元素である。しかし、2.5質量%を超えると、MnSが鋼中に多量に生成して、裸耐候性等の耐食性を低下させる。従って、Mnの含有量は、2.5質量%以下とする。なお、0.1質量%未満では、前記強度確保が難しくなるため、0.1質量%以上とすることが望ましい。
Niは切断性、耐食性、溶接性等の向上効果を有する元素である。またNiは、表面層において、一部酸化物になるが、多くは固溶状態で濃化し、表面スケールを緻密化し、密着性向上を高めることによりレーザー切断性を向上させる。
また、Niは鋼表面に生成するさび層を緻密化して、保護性さび層の形成を促進し、耐候性等の耐食性を向上させる効果を有する。また、溶接性の向上にも寄与する。さらに、Niは、鋼板製造のための熱間圧延等の加工の際における素材の脆化(以下、熱間加工脆性ともいう)を抑制する効果もある。
<(Cu+Ni):0.05〜9.0質量%>
また、Cuは電気化学的に鉄より貴な元素であり、Niの場合と同様に、鋼表面に生成するさび層を緻密化して、保護性さび層の形成を促進し、耐候性等の耐食性を向上させる効果を有する。また、溶接性の向上にも寄与する。
そして、NiをCuと併せて含有させる場合、(Cu+Ni)の含有量を0.05〜9.0質量%とする。
(Cu+Ni)の含有量が0.05質量%未満では、耐食性の向上効果が小さく、一方、9.0質量%を超えると、耐食性向上効果の飽和、熱間加工脆性の発生、耐溶接高温割れ性の悪影響等の不具合が生じる。
Tiは本発明で非常に重要な必須添加元素であり、Cu、Niと同様、鋼表面に生成するさび層を緻密化して、保護性さび層の形成を促進し、耐候性等の耐食性を向上させる効果を有していると共に、非常に優れた耐食性も有している。特に、海浜・海洋環境で特徴的に生成し、耐食性を悪化させるβ―FeOOHの生成を抑制する元素として、CuやNiと複合添加すると優れた効果を発揮する。また、鋼の清浄化という利点も併せ持っている。このような効果は、0.03質量%を超えて添加すると、著しく上昇する。従って、Tiの含有量は、0.03質量%以上とする。しかし、過剰な添加を行っても、その効果は飽和傾向を示し、経済的にも好ましくないので、1.0質量%を上限とする。また、前記効果は、いわゆる鋼材(鋼板)の腐食生成物の場合であるが、亜鉛の腐食生成物においても、Tiを含有することにより緻密性が増す効果がある。したがって、鋼自体および、鉄と亜鉛の腐食生成物にも作用して耐食性を向上させる効果があるので、非常に重要な元素である。
Sは0.02質量%を超えて含有量されると、腐食の起点となるFeS、MnSが鋼中に多量に生成して、前記安定さび層の形成を阻害して、耐食性劣化を招く可能性がある。また、Ni等を過剰に含有した場合に、Sとの反応により、溶接金属の粒界に低融点のNiS化合物を析出させ、凝固金属の粒界の延性を劣化させやすくなる。この点、S含有量を0.02質量%以下とすれば、前記低融点のNiS化合物を析出させずに、Niをより多量に含有することが可能になるという利点もある。例えば、Sが0.02質量%を超えた場合には、Niの上限値は3.0質量%とすべきであるが、S含有量を0.02質量%以下とすることにより、前記した通り、Niを6.0質量%まで含有することが可能となる。したがって、S含有量は0.02質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下の範囲とする。
Pは、耐候性鋼にとって、鋼表面に生成するさびへの塩化物イオンの進入を阻止し、緻密な安定さび層を形成して、耐食性を向上させる効果を有する。そして、従来の耐候性鋼では、この効果を発揮させるために、0.05質量%程度以上、0.15質量%以下程度の含有を必須としている。しかし、本発明においては、Pの0.2質量%を超えての過度の含有は、溶接性を著しく阻害し、例えば少数主桁橋等の施工上重要な、予熱なし(予熱フリー)で、高効率の大入熱溶接ができる溶接性の要求特性を満たすことができない。また、本発明では、Ti等の含有により、緻密な安定さび層の形成が達成できるゆえ、Pの過度の含有は必要ない。このP量の低減は、溶接性の向上にも寄与する。
Alは表層で酸化物を形成するが、Alの酸化物粒子は小さく、空隙の少ないきわめて安定した緻密なスケールを形成し、レーザー切断性に寄与する。また、AlはTiと複合添加することにより保護性さび層の形成を一層促進し、ひいては耐食性をさらに向上させる効果を有する。また、Alは溶接性の向上効果も有する。さらに、Alは、溶鋼の脱酸元素として、固溶酸素を捕捉すると共に、ブローホールの発生を防止し、また、鋼(鋼板)の靱性の向上のためにも有効な元素である。そしてAlの含有量が0.5質量%を超えると、前記の緻密なスケール層や保護性さび層形成の促進によるレーザー切断性や耐食性向上の効果は飽和し、逆に、溶接性を劣化させ、また、アルミナ系介在物の増加により鋼の靱性を劣化させる。なお、ある程度添加する方が、その効果を期待できるため、Alの含有量は0.03質量%以上が望ましく、さらに、0.1質量%以上が望ましい。
Znは本発明において非常に重要な必須添加元素である。Znは電気化学的に卑で鉄に広い組成範囲で固溶するので、腐食環境中へのFeの溶解を促進させる作用がある。これは一時的には鋼材の耐食性が低下することを意味するが、腐食初期にZnとFeが優先溶解することにより、結果的に鋼中のCu、Ni等が取り残される形で表面に濃化することになり、地鉄側に有効な作用を持つ合金元素が濃縮することになり、性能を向上させる働きがある。また腐食生成物も鉄さびにZnさびが混じることにより環境遮断効果が向上することにより耐食性も結果的に向上する。
Caは、耐食性をより向上させる元素であり、また溶接性の向上効果も有する。Caの耐食性向上の作用の1つは、耐食性に有害なSを固定して、鋼マトリックスを清浄化することである。また、さらに他の作用として、鋼中に微量固溶したCaが鋼表面やミクロ的な欠陥部での腐食進行過程において、鉄の腐食反応に伴い微量溶解してアルカリ性を呈する。したがって、腐食(アノード)先端部の溶液pH緩衝効果を有し、腐食先端部での腐食を抑制する効果を有する元素である。
また、CaをTiと併用すると、本発明のCrの低減効果やTi等の安定さび層の形成促進効果と合わせ、裸耐候性等の耐食性向上の相乗効果が生じる。
鋼板の成分は前記の他、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物としては、例えば、N等を0.01質量%以下含有することが考えられるが、本発明の効果を妨げない範囲においてこれらを含有することは許容される。
また、Crは不働態被膜を形成させる作用が強い元素で、0.2〜3.0質量%含有させることにより、強力に腐食を防止することができる。つまり、Crは鋼表面に生成する腐食生成物被膜を熱力学的に安定な保護性さび層を生成しやすくし、腐食起点、欠陥部の腐食を防止する働きを持つ。また、さび層の保護性を向上させる効果を持つ。しかし、その含有率が0.2質量%未満では、その効果が中途半端になり、かえって耐食性の悪化、例えば、孔食を招く場合がある。一方、3.0質量%を超えると、これら鋼材の溶接の施工性を著しく劣化させる。また、安価な鋼材を提供するという本発明の目的にも沿わない。一方で、特に塩化物環境においてはCr添加量が少ないと、孔食状の腐食を誘発する恐れがあるため、0.5質量%以上添加するのが望ましい。
なお、切断性と耐食性を考慮する場合、Crは使用環境を想定して、無添加(マイルド環境)、あるいは0.2〜3.0質量%添加(塩化物環境)とすることが望ましい。
Nb、V、Zr、Mo、Bは保護性さび層の生成を促進させる効果を有する。その他、Nb、V、Bは焼き入性を上昇させ、強度を増加させる効果を有する。
本発明では、表層のスケール層と母材の界面にNi、Ti、Zn(Cuを含有する場合は、Cu、Ni、Ti、Zn)の1種または2種以上が濃化した濃化層を有することを特徴としている。濃化層内では、Al、Crの微細な酸化物やCu、Niが存在し、濃化層が多孔化して母材(地鉄)との密着性が劣化するのを防止する作用を有している。レーザー光照射による熱衝撃により、スケール層は通常は簡単に剥離するが、地鉄との密着性の優れた濃化層は剥離することなく残存する。残存した濃化層はレーザー光のエネルギーを効率的に地鉄に吸収させる。このような濃化層の存在により、安定したレーザー切断性が得られると考えられる。
<濃化層の厚さ:1.0μm以上>
濃化層の厚さが1.0μm未満では、濃化層の分布が場所により不均一となり、レーザー切断性向上効果が認められない。なお、耐食性等の鋼板としての特性の観点から、また、100μmを超えるほどの厚さは不要であり、製造上も困難であること等から、100μm以下であることが望ましい。
レーザー切断性、耐局部腐食性、耐穴あき性の改善、塩分環境下における耐食性向上には、前記領域での平均フェライト粒径が5μm以下であることが有効である。
また、耐食性向上には粒径だけでなく、組織も影響する。望ましくは、フェライトが50%以上を占め、フェライト以外の第二相で耐食性に悪影響を及ぼすパーライト、ベイナイト、マルテンサイト相は面積率で25%以下にするのが望ましい。
<熱処理条件>
鋼板に切断性の良いスケールを形成させるためには、熱処理条件として、前記各工程を経ることが必要である。低温加熱工程は、前記組成からなるスラブを900〜1000℃に低温加熱する工程、粗圧延工程は、熱間圧延(粗圧延)を施しながら、700℃以下まで冷却する工程、複熱工程は、180秒以内に前記熱間圧延を施しながら、冷却した圧延板(鋼板)の表面を、前記冷却した温度から30℃以上加熱して10秒以上保持する工程、仕上圧延工程は、その後に仕上げ圧延を行う工程である。
鋼板に塗装を行う場合、各種用途に応じてリン酸塩処理等の化成処理や、電着塗装を施しても良い。塗料は公知の樹脂が使用可能であり、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂等を公知の硬化剤と共に使用可能である。特に耐食性の観点からすればエポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコンアクリル樹脂の使用が推奨される。その他、塗料に添加される公知の添加剤、たとえば着色用顔料、カップリング剤、レベリング剤、増感剤、酸化防止剤、紫外線安定剤、難燃剤等を添加しても良い。
なお、前記のスラブの加熱温度、熱間圧延(粗圧延)の開始温度、熱間圧延後の冷却温度、複熱処理条件等の熱処理条件は、表2に示す。また、表1において、成分を含有していないものは、「−」で示す。
ターゲット:Cu
単色化:モノクロメータを使用
ターゲット出力:40kV−200mA
モノクロメータ受光スリット:0.6mm
測定範囲:5〜80°
得られたデータから今回はFe2O3(104)の値を用いた。
<切断性評価>
切断性の評価は、5.5kW出力の炭酸ガスレーザーを用いてレーザー切断する切断試験によりを行った。
この切断試験結果については、断面の形状およびドロス付着の有無によって切断性を評価した。切断面良好、ドロスの付着無しのものを切断性が優良(◎)、切断面良好、ドロスの付着が少し発生したものを切断性が良好(○)、切断が途中で停止、ドロス付着量大のものを切断性が不良(×)とし、優良(◎)または良好(○)のものを切断性が優れると評価した。
評価結果を表2に示す。
こられの鋼板から、150mm長さ×70mm幅×6mm厚さの供試材を作製し、下記耐食性評価試験により耐食性を評価した。
耐食性評価試験は複合サイクルタイプの促進ラボ試験を7日間行った。前記複合サイクル試験は、1サイクルを、5%塩水噴霧8時間、35℃湿度60%(RH)の恒温恒湿試験16時間とし、7サイクル行った。試験後に、液体ホーニングにより除錆後、レーザー顕微鏡で最深の腐食部の深さを測定した。評価面を等間隔に16区画に分割して、各区画ごとに最大孔あき深さを測定し、その平均値を算出して、耐孔あき性を評価した。また、測定値は、試験前のサンプルについて同様の方法で処理した後のブランク値を引いて求めた。
孔あき深さが、80%以上の場合は、耐食性が低下(×)、孔あき深さが、80%未満の場合は、耐食性が優れる(△〜◎◎)と評価した。
評価結果を表2に示す。
なお、表1、2において、本発明の構成を満たさないもの等については、数値に下線を引いて示す。
なお、本実施例は代表的なものであって、本発明の有効性は前記試験環境に限定されるものではない。
Claims (4)
- C:0.20質量%以下、Si:0.1〜1.0質量%、Mn:2.5質量%以下、Ni:0.05〜6.0質量%、Ti:0.03〜1.0質量%、S:0.02質量%以下、P:0.2質量%以下、Al:0.5質量%以下、Zn:0.01〜3.0質量%、Ca:0.0001〜0.01質量%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、母材と、その表面にスケール層を有する鋼板であって、
前記母材と前記スケール層との界面に存在するNi、Ti、Znの1種または2種以上が濃化した濃化層を有し、
前記濃化層におけるNi、Ti、Znの合計量(質量%)が、前記母材におけるNi、Ti、Znの合計量(質量%)の1.5倍以上であり、かつ、
前記濃化層の厚さが1.0μm以上であることを特徴とする切断性に優れる鋼板。 - C:0.20質量%以下、Si:0.1〜1.0質量%、Mn:2.5質量%以下、Ni:0.05〜6.0質量%、Ti:0.03〜1.0質量%、S:0.02質量%以下、P:0.2質量%以下、Al:0.5質量%以下、Zn:0.01〜3.0質量%、Ca:0.0001〜0.01質量%未満を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、母材と、その表面にスケール層を有する鋼板であって、
前記組成からなるスラブを900〜1000℃に加熱した後、熱間圧延を施しながら、700℃以下まで冷却し、180秒以内に圧延板の表面を、前記冷却した温度から30℃以上加熱して10秒以上保持し、その後、さらに圧延を行うことにより製造されたことを特徴とする切断性に優れる鋼板。 - 前記鋼板は、さらに、Cr:0.2〜3.0質量%、Nb:0.005〜0.10質量%、V:0.01〜0.20質量%、Zr:0.005〜0.10質量%、Mo:0.1〜1.0質量%、B:0.0003〜0.0030質量%、Mg:0.0005〜0.01質量%、REM:0.0005〜0.01質量%のいずれか1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の切断性に優れる鋼板。
- 前記鋼板の板厚方向のそれぞれの表面から、板厚方向における板厚の10%〜30%の領域での平均フェライト粒径が5μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の切断性に優れる鋼板。
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