JP5979063B2 - 耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法 - Google Patents

耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、石炭船、鉱石船、鉱炭兼用船、原油タンカー、LPG船、LNG船、ケミカルタンカー、コンテナ船、ばら積み船、木材専用船、チップ専用船、冷凍運搬船、自動車専用船、重量物船、RORO船、石灰石専用船およびセメント専用船等の船舶用の鋼材、特に海水による厳しい腐食環境下にあるバラストタンク等に用いて好適な耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材に関するものである。
なお、本発明でいう船舶用鋼材とは、厚鋼板、薄鋼板、形鋼および棒鋼を含むものである。
一般に、船舶は、厚鋼板や薄鋼板、形鋼、棒鋼等の鋼材を溶接して建造されており、その鋼材は、海水による過酷な腐食環境におかれている。そのため、腐食を防ぐための防食手段として、電気防食や塗装が従来用いられている。
しかしながら、塗装を施しても、作業時における塗膜の損傷や、塗膜に存在するわずかな欠陥を起点とした局部腐食が進行することがある。また、電気防食は没水部において防食効果を発揮し、塗装と併用されているが、海水に浸からない部位では十分に機能しない。そのため、海水に浸からず、かつ腐食環境が厳しい部位においては、著しく腐食が進行することがある。
例えば、バラストタンク上甲板裏は、電気防食が全く働かず、また太陽光によって鋼板の温度が上昇するため、より厳しい腐食環境となり、激しい腐食を受ける。このような腐食環境におかれている部位には、船舶寿命前に補修塗装を施し、耐食性を維持しているのが実情である。
このような補修塗装は、狭い空間での作業となるため、作業環境としては好ましいものではない。また、部位によっては、塗膜劣化部のみに限定した補修塗装が困難であることから、健全部も含めた広範囲に再塗装を施す必要があり、補修塗装にかかる作業負荷およびコストは決して少なくない。
そこで、補修塗装までの期間をできる限り延長することのできる、耐食性に優れた鋼材の開発が望まれている。また、船舶は寒冷域での航行における安全性を確保する観点から、使用する鋼材には低温域での母材靭性に優れていることが要求されており、耐食性との両立が重要な課題の一つとなっている。
これまで、厳しい腐食環境にさらされる船舶用鋼材自体の耐食性を向上させる技術が種々提案されている。
例えば、特許文献1には、C:0.15質量%以下の鋼に耐食性改善元素としてCr:0.2〜5質量%を添加することにより、耐食性を向上させ、メンテナンスフリー化を実現しようとするバラストタンクが提案されている。また、特許文献2には、C:0.1質量%以下の鋼にCr:0.5〜3.5質量%を添加することにより、耐食性を向上させ、補修塗装等の保守費用を軽減する船舶用鋼材が開示されている。
特許文献3には、C:0.001〜0.025質量%の鋼に、Ni:0.1〜4.0質量%を添加することにより、耐塗膜損傷性を向上させ、補修塗装等の保守費用を軽減する船舶用鋼材が開示されている。
特許文献4には、C:0.01〜0.2質量%の鋼に、Cu:0.010〜1.5質量%、Cr:0.010〜1質量%およびAl:0.05〜0.5質量%を含有させ、Cr含有量とAl含有量の比を1〜15の範囲に調整した、大入熱溶接時のHAZ靭性および耐食性に優れた船舶用鋼材が開示されている。
特許文献5には、C:0.001〜0.15質量%の鋼に、Sn:0.03〜0.50%を含有させた重防食被覆鋼材が開示されている。
特許文献6には、C:0.001〜0.15質量%の鋼に、Sn:0.03〜0.50%を含有させ、スラブの表面温度を1050〜1200℃に加熱した後、900℃以上の温度域で全圧下量のうち70%以上の圧延を行い、かつ800℃以上の温度域で圧延を終了した後、冷却することからなる耐食性およびZ方向の靭性に優れた鋼材の製造方法が開示されている。
特許文献7には、C:0.01〜0.20質量%の鋼に、Co:0.01〜1%およびMg:0.0005〜0.02%を含有させ、全組織に占めるフェライトの面積率を70%以上とし、フェライトの平均結晶粒径を18.5μm以下とすることからなる耐食性と母材靭性に優れた船舶用高張力鋼材が開示されている。
特開平7−34196号公報 特開平7−310141号公報 特開2002−266052号公報 特開2007−197759号公報 特開2010−7108号公報 特開2010−7109号公報 特開2007−177301号公報
しかしながら、特許文献1のバラストタンクおよび特許文献2の鋼材は、いずれもCrを比較的多く含有させる必要があるため、溶接性および溶接部靭性に問題がある他、製造コストが高くなるという問題があった。
また、特許文献3の鋼材は、C含有量が比較的低く、Ni含有量が比較的高いため、製造コストが高くなるという問題があった。
さらに、特許文献4の鋼材は、Al含有量に対してCrを1〜15倍含有させる必要があるため、製造コストが高くなるという問題があった。
特許文献5の鋼材は、重防食被覆鋼材ならびにこの重防食被覆鋼材からなる海洋構造物、鋼管杭および矢板を対象としており、船舶用鋼材に必要とされる鋼板強度、靭性、伸びおよび溶接部靭性等の機械的特性は記載されていない。しかしながら、その成分組成を鑑みるに、船舶用鋼材として十分な機械的特性を備えているとは考え難く、耐食性と船舶用鋼材に必要とされる機械的特性とを両立できないという問題があった。
特許文献6の方法では、800℃以上の温度域で圧延を終了させるため、鋼材の細粒化が不十分で、船舶用鋼材に求められる強度と靭性を安定して得ることが難しく、特に船舶EH36およびEH40グレードの鋼材では、強度と靭性を両立することが非常に困難であるという問題があった。
特許文献7の鋼材は、Mgを必須としており、製鋼歩留りが安定しないため、鋼材の機械的性質が安定しないという問題があった。
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、高価な元素であるCrやNiの含有量を低減させても、船舶用鋼材がさらされる厳しい海水腐食環境下において、電気防食を施さなくても優れた耐食性を発揮するとともに、母材靭性にも優れた船舶用鋼材を提供することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の課題を解決すべく、海水浸漬環境と乾湿繰り返し環境が組み合わさった環境においても優れた耐食性を示すとともに、母材靭性にも優れた鋼材の開発に向けて鋭意研究を重ねた。
その結果、耐食性の向上には、鋼材表面に生成する錆粒子の微細性が関与しており、CrやNiなどの高価な元素を積極的に添加しなくても、Snを添加し、さらにSb、W、MoおよびNbのうちから選ばれる1種または2種以上を添加することにより、鋼材表面に微細な錆粒子からなる錆層を形成することで、耐食性が向上するとの知見を得た。
また、上記した各元素の中でも、Snの鋼中での存在形態が、耐食性のみならず母材靭性にも影響を及ぼしており、熱間圧延後の冷却速度を適切に制御し、Snを固溶状態で一定値以上存在させることにより、耐食性が一層向上し、母材靭性の向上にも有効であるとの知見を得た。
そして、さらに優れた母材靭性を得るべく検討した結果、上記した熱間仕上圧延後の冷却速度の制御に加え、熱間仕上圧延終了温度と冷却停止温度、さらにはAr3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率を適正化することで、鋼組織中に適正量のフェライト相を確保すると共に、組織の微細化を図ることができ、これにより、母材靭性が一層向上するとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて開発されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.03〜0.20%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.7〜2.00%、
P:0.035%以下、
S:0.010%以下、
Al:0.100%以下、
Ti:0.005〜0.030%、
N:0.0010〜0.010%、
Sn:0.02〜0.2%および
Cr:0.10%未満(但し、0%を含む)
を含有し、さらに
Sb:0.02〜0.2%および
Nb:0.003〜0.03%
のうちから選んだ1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からな成分組成を有する鋼素材を、表面温度:1000〜1350℃に加熱した後、Ar3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率:25%以上、熱間仕上圧延終了温度:650℃以上850℃未満として熱間圧延し、ついで空冷、または冷却速度:100℃/s以下で、冷却停止温度:300℃以上の加速冷却を施して、全組織に占めるフェライト相の面積率が3%以上で、かつ固溶Sn量が0.01%以上である鋼材を得ることを特徴とする耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
2.前記鋼材が、さらに、質量%で
Ca:0.0005〜0.0030%
を含有することを特徴とする前記1に記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
3.前記鋼材が、さらに、質量%で
Zr:0.001〜0.100%および
V:0.002〜0.200%
のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする前記1または2に記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
4.前記鋼材が、さらに、質量%で
B:0.0002〜0.0030%
を含有することを特徴とする前記1乃至3のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
5.前記鋼材が、さらに、質量%で
REM:0.0001〜0.030%、
Mg:0.0001〜0.010%および
Y:0.0001〜0.10%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする前記1乃至4のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
6.前記鋼材が、さらに、質量%で
Co:0.010〜0.500%
を含有することを特徴とする前記1乃至5のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
7.前記鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜を塗装ることを特徴とする前記1乃至6のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
8.前記鋼材の表面に、エポキシ系塗膜を塗装ることを特徴とする前記1乃至6のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
9.前記鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜およびエポキシ系塗膜を塗装ることを特徴とする前記1乃至6のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
本発明によれば、船舶用鋼材がさらされる厳しい海水腐食環境下において、電気防食を施さなくても優れた耐食性を発揮するとともに、母材靭性にも優れた船舶用鋼材を得ることができる。
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明における鋼材に含有させるSn、Sb、W、MoおよびNbの意義について詳述する。すなわち、鋼材中に、Snに加えて、Sb、W、MoおよびNbのうちから選んだ一種または二種以上を含有させることにより、生成する錆の成分のうち特にFe3O4を微細化し、緻密な錆層を形成することができ、その結果、特に海水浸漬環境と乾湿繰り返し環境が組み合わさった環境において、高い耐食性を発現する。この理由は、鋼材に生成する錆が緻密であるほど、塩化物イオンなどの腐食促進物質の鋼材表面への透過を抑制する効果が高くなるためである。
ここに、Sn、Sb、W、MoおよびNbの添加が、微細な錆形成に及ぼすメカニズムは、
(1)鋼が溶解する際に生じる微小なSn、Sb、W、Mo、Nbコロイドないし水酸化物が、Fe3O4錆成分の核として作用し、核生成頻度を上昇させる、および/または
(2)鋼が溶解する際に生じるSn、Sb、W、Mo、Nbイオン種が、成長中のFe3O4錆の表面に付着し、粒成長を阻害する
ものと考えられる。
本発明では、上記した各元素の中でも、Snの耐食性向上効果が高く、かつ合金コストも安価である。また、鋼中のSnのうちでも、固溶状態のSnが、上記した錆粒子の微細化による耐食性の向上に顕著な効果を発揮し、さらには母材靭性の向上にも有効に寄与する。
従って、本発明においては、Snが重要な元素であり、特に固溶状態のSnとこれを一定量以上得るための製造条件の制御が重要となる。
次に、本発明において鋼材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼板の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼材強度を上昇させるのに有効な元素であり、本発明では所望の強度を得るために0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、溶接熱影響部の靭性(HAZ靱性)を低下させる。よって、C量は0.03〜0.20%の範囲とする。また、靭性低下を防止するためには、0.05〜0.16%の範囲が好適であり、さらに好ましくは0.07〜0.09%の範囲である。
Si:0.05〜0.50%
Siは、脱酸剤として、また鋼材の強度を高めるために添加される元素であり、本発明では0.05%以上を含有させる。しかしながら、0.50%を超える添加は、鋼の靭性を劣化させるので、Si量の上限は0.50%とする。好ましくは0.15〜0.40%の範囲、さらに好ましくは0.25〜0.40%の範囲である。
Mn:0.7〜2.00%
Mnは、熱間脆性を防止し、鋼材の強度向上に有用な元素であるので、0.7%以上添加する。しかしながら、2.00%を超えるMnの添加は、鋼の靭性を低下させるため、Mn量は2.00%以下とする。好ましくは0.9〜1.60%の範囲、さらに好ましくは1.2〜1.60%の範囲である。
P:0.035%以下
Pは、鋼の母材靭性だけでなく、溶接性や溶接部靭性を劣化させる有害な元素であるので、極力低減するのが好ましい。特に、Pの含有量が0.035%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の低下が大きくなる。よって、P量は0.035%以下とする。好ましくは0.025%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
S:0.010%以下
Sは、鋼の靭性および溶接性を劣化させる有害元素であるので、極力低減することが望ましい。特に、Sの含有量が0.010%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の低下が大 きくなる。よって、S量は0.010%以下とする。好ましくは0.006%以下、さらに好ましくは0.002%以下である。
Al:0.100%以下
Alは、脱酸剤として添加するが、0.100%を超える含有は、溶接した場合に、溶接金属部の靭性を低下させるので、0.100%以下に制限する。好ましくは0.070%以下である。
Ti:0.005〜0.030%
Tiは、Nとの親和力が強くTiNとして析出して、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト生成核として溶接熱影響部の高靭性化に寄与する。このような効果は、0.005%以上の含有で認められるが、0.030%を超えて含有すると、溶接熱によってTiN粒子が粗大化して上記の効果が期待できなくなる。このため、本発明では、Tiは0.005〜0.030%の範囲に制限した。好ましくは0.005〜0.018%の範囲である。
N:0.0010〜0.010%
Nは、Tiと結合してTiNとして析出し、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト生成核として溶接熱影響部の高靭性化に寄与する。このような効果を有するTiNを必要量確保するためには、Nは0.0010%以上含有させる必要がある。一方 、0.010%を超えて含有させると、溶接熱によってTiNが溶解する温度まで加熱される領域では固溶N量が増加し、靭性の著しい劣化を招く。このため、本発明では、Nは0.0010〜0.010%の範囲に制限した。好ましくは0.0010〜0.0070%の範囲である。
Sn:0.02〜0.2%
Snは、本発明の鋼材において、最も重要な耐食性向上元素である。Snは、鋼材が腐食するのに伴って錆層中に存在し、錆粒子を著しく微細化する作用を有する。錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する。さらに、アノード反応の抑制に伴って、カソード反応であるH2OとO2から生成する水酸化物イオンの生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する。そして、アルカリ化の抑制により、塗膜膨れが抑制され、ひいては耐食性が向上する。この効果は、0.02%以上のSn含有で発現するが、0.2%超えでは母材靭性およびHAZ靭性を劣化させる。このため、Snは0.02〜0.2%の範囲で含有させるものとする。好ましくは0.02〜0.15%の範囲である。
固溶Sn量:0.01%以上
また、耐食性と母材靭性の向上のためには、Snを上記の範囲としたうえで、一定以上の固溶量を確保することが重要である。固溶状態のSnは、鋼材が腐食するのに伴って錆層中に取り込まれるため、錆粒子を微細化し、耐食性を向上させる。この固溶Snが0.01%未満の場合、Snが粒界に析出物を形成すると、析出物周囲にSnの低濃度域が生じるため、耐食性向上には好ましくない。また、析出物の粒界偏析による粒界脆化が生じ、靭性が低下する。このため、固溶Snは0.01%以上を含有させるものとする。好ましくは0.02〜0.15%の範囲である。
ここで、必要量の固溶Snを確保するには、Sn添加量もさることながら、製造工程中、特に熱間仕上圧延後の冷却速度を速くする(好ましくは5℃/s以上)ことが肝要である。
Cr:0.10%未満(但し、0%を含む)
Crは、本発明の鋼材において、錆の耐食性に大きく影響を及ぼす元素である。Crは、腐食に伴ってCr(OH)3として鋼中から溶出し、錆層に取り込まれるために、地鉄近傍の錆層のpHが低下し、塩化物イオンなどの腐食因子の地鉄への接近が促進される。従って、錆層の耐食性が劣化するため、Crは低減させることが好ましい。しかしながら、Crはスクラップ等を使用した場合の不可避的不純物として混入が避けられない元素である。そのため、Cr量は0.10%未満に制限した。好ましくは0.02%以下である。なお、このCr量は、0%であってもよい。
Sb:0.02〜0.2%、W:0.005〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%およびNb:0.003〜0.03%のうちから選んだ1種または2種以上
Sbは、塗装耐食性に効果がある元素である。Sbは、鋼材が腐食するのに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用がある。錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する。アノード反応の抑制に伴い、カソード反応であるH2OとO2から生成する水酸化物イオンの生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する。アルカリ化の抑制により、塗膜膨れが抑制される。この効果は、0.02%以上のSb含有で発現するが、0.2%超の含有では、母材靭性およびHAZ靭性を劣化させる。このため、Sbは0.02〜0.2%の範囲で含有させるものとする。
Wは、塗装耐食性に効果がある元素である。Wは、鋼材から溶出してWO4 2-として存在し、鋼材表面に不動態皮膜を形成し、塗膜膨れを抑制すると考えられる。加えて、Wは、鋼材が腐食するに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用を有する。錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する。アノード反応の抑制に伴い、カソード反応であるH2OとO2から生成する水酸化物イオンの生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する。アルカリ化の抑制により、塗膜膨れが抑制される。この効果は、0.005%以上の含有で発現するが、0.50%超の含有では、母材靭性およびHAZ靭性を劣化させる。このため、Wは0.005〜0.50%の範囲で含有させるものとする。
Moは、塗装耐食性に効果がある元素である。Moは、鋼材が腐食するに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用を有する。またMoは、鋼材から溶出してMoO4 2-として存在し、鋼材表面に不動態皮膜を形成し、塗膜膨れを抑制すると考えられる。この効果は、0.01%以上のMo含有で発現するが、0.50%超の含有では、母材靭性およびHAZ靭性を劣化させる。このため、Moは0.01〜0.50%の範囲で含有させるものとする。
Nbは、塗装耐食性に効果がある元素である。Nbは鋼材が腐食するに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用を有する。錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する。アノード反応の抑制に伴い、カソード反応であるH2OとO2から生成する水酸化物イオンの生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する。アルカリ化の抑制により、塗膜膨れが抑制される。その効果は、鋼材中のNb量が0.003%以上で発現する。しかしながら、Nb含有量が0.03%超になると、溶接継手HAZ靭性を劣化させる。このため、Nb量は0.003〜0.03%の範囲に制限した。
以上、基本成分について説明したが、本発明では、その他にも、以下に述べる成分を必要に応じて適宜含有させることができる。
Ca:0.0005〜0.0030%
Caは、硫化物の形態を制御して鋼の溶接部靭性向上に寄与する元素である。このような効果を発揮させるためには、少なくとも0.0005%含有させることが好ましい。一方、0.0030%を超えて添加すると、粗大な介在物を形成し、母材の靱性を劣化させる。このため、Ca量は0.0005〜0.0030%の範囲とすることが好ましい。
Zr:0.001〜0.100%、V:0.002〜0.200%
ZrおよびVはいずれも、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して含有させることができる。このような効果を得るためには、Zrは0.001%以上、またVは0.002%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Zrは0.100%を超えて、またVは0.200%を超えて含有させると、靭性が低下するため、Zr、Vはそれぞれ、上記の範囲で含有させることが好ましい。
B:0.0002〜0.0030%
Bは、鋼材の強度を高める元素であり、必要に応じて含有させることができる。上記の効果を得るためには、0.0002%以上のBを含有させることが好ましいが、0.0030%を超えて添加すると、靭性が劣化する。よって、Bは0.0002〜0.0030%の範囲で含有させることが好ましい。
REM:0.0001〜0.030%、Mg:0.0001〜0.010%、Y:0.0001〜0.10%
REM、MgおよびYはいずれも、溶接熱影響部の靭性向上に効果のある元素であり、必要に応じて含有させることができる。この効果は、REM、MgおよびYとも、0.0001%以上の含有で得られるが、REMは0.030%を超えて、Mgは0.010%を超えて、Yは0.10%を超えて含有させると、却って靭性の低下を招く。従って、REM、MgおよびYはそれぞれ、上記の範囲で含有させることが好ましい。なお、本発明において、REM(Rare Earth metals:希土類金属)とは、原子番号が57のLaから71のLuまでのいわゆるランタノイド元素を指すものとする。
REMであれば、どの元素であっても、上記の効果は共通して得られる。REMを含有させるに際しては、例えばCeやLaなどの一種類のREMやその化合物を添加してもよく、また複数種類のREMを含有する混合物として添加しても良い。混合物としては、例えば、一般にミッシュメタルと呼ばれるCeやLa、Ndなどを主成分とするものを用いることができ、その混合物の組成の如何によらず上記の効果が得られる。
Co:0.010〜0.500%
Coは、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて含有させることができる。この効果を得るためには、Coは0.010%以上含有させることが好ましいが、0.500%を超えて含有させると靱性や溶接性が劣化する。従って、Coは0.010〜0.500%の範囲で含有させることが好ましい。
本発明の鋼材において、上記以外の成分は、Feおよび不可避的不純物である。但し、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、上記以外の成分の含有を拒むものではない。
次に、本発明における錆の好適生成状態および好適組成について以下に説明する。
通常、鋼材表面に生成する鉄錆の主要な成分は、α−FeOOH、β−FeOOH、γ−FeOOHおよびFe3O4の結晶性の錆と、非晶質の錆との5種類からなる。このうち、非晶質の錆は、結晶性の錆よりも極めて微細で緻密な安定錆層を形成する。また、結晶性の錆の中でもα−FeOOHが主成分である場合は安定で緻密な錆層を形成しやすい。従って、鉄錆中の非晶質の錆の割合 (非晶質度) が高いほど、またα−FeOOHの割合が高いほど高い耐食性を有する。一方で、錆の主成分としてFe3O4が生成しやすい環境である場合は、安定で緻密な錆層は形成されにくく、一般に耐食性が劣る。しかしながら、Fe3O4が主成分である場合においても、Fe3O4が微細化した場合には、緻密な錆層が形成され、高い耐食性が発現する。
本発明では、前述したとおり、鋼材中に、Snに加えて、Sb、W、MoおよびNbのうちから選んだ一種または二種以上を含有させることにより、生成する錆の成分のうち特にFe3O4を微細化し、緻密な錆層を形成することができるので、たとえ海水浸漬環境と乾湿繰り返し環境が組み合わさった環境においても、高い耐食性を発現させることができる。
本発明でいう海水浸漬環境と乾湿繰り返し環境が組み合わさった環境とは、相対湿度:75%以上の湿潤工程と、相対湿度:75%未満の乾燥工程を交互に繰り返す環境であって、前述の湿潤工程中に2〜6%のNaClを含有する水溶液が鋼材表面に付着する環境である。
本発明において、鋼材の表面に形成される好適な錆層は、X線回折法により求められるFe3O4成分の結晶子サイズが40nm未満の錆粒子からなり、しかもこの錆層の分子吸着法により求められる比表面積が15m2/g以上であることである。
これによって、海水浸漬環境と乾湿繰り返し環境が組み合わさった安定錆の生成しにくい環境下にあっても、優れた耐食性を発揮できる。特に、Fe3O4錆が生成しやすい環境においては、Fe3O4錆の結晶子サイズと錆粒子の比表面積が錆層の耐食性の向上を決定する因子であり、Fe3O4錆の結晶子サイズが40nm以上になると緻密な錆層が形成し難くなるため、Fe3O4錆の結晶子サイズは40nm未満とすることが有用である。
好適な錆組成としては、X線回折法により求めたFe3O4成分とFeOOH成分(α−FeOOH、β-FeOOHおよびγ-FeOOH成分の合計)との強度比(Fe3O4/FeOOH)が1.0以上であることが好ましい。強度比(Fe3O4/FeOOH)が1.0に満たないと、錆層中のFe3O4成分の割合が少なく、Fe3O4成分が微細であっても錆層全体の緻密性向上に対する寄与が小さい。そのため、緻密な錆層を形成することができない。
また、本発明において、鋼材表面に生成する耐食性に優れた錆は、ジンクプライマーが鋼材表面に塗布されている場合、速やかに形成する。ジンクプライマー存在下では、ジンクプライマー中のZnが下地の鋼材の犠牲防食剤として働き溶出したのち、ZnO等のZn系腐食生成物を形成するが、このZn系腐食生成物がFe3O4錆成分の核として作用し、本発明の耐食性向上元素による微細な錆層の形成が促されるためである。
従って、耐食性に優れた緻密な錆層を速やかに形成するためには、鋼材表面にジンクプライマーを塗布することが好ましいが、ジンクプライマーが鋼材表面に塗布されていない場合であっても、本発明の微細な錆層の形成が否定されるものではない。
ここに、ジンクプライマーとしては、シリケート系およびエポキシ系等が有利に適合する。
なお、この高い耐食性を保証するためには、海水浸漬環境と乾湿繰り返し環境が組み合わさった環境を模擬した塩水散布(5%塩水散布)を含む乾湿繰り返し環境に曝したジンクプライマーを塗布した鋼材の耐食性で評価することが好ましい。
また、一層の耐食性向上のため、鋼材表面または上記したジンクプライマーを塗布した鋼材表面に、エポキシ系塗料を塗布し、塗膜を形成してもよい。ここに、エポキシ系塗料としては、変性エポキシ塗料、タールエポキシ塗料等が有利に適合する。
次に、本発明の鋼材の鋼組織を前記の範囲に限定した理由を説明する。
全組織に占めるフェライト相の面積率:3%以上
本発明では、全組織に占めるフェライト相の面積率を3%以上とすることが、重要である。本発明の鋼材は、船舶用の鋼材であるため、耐食性に加え、母材靭性にも優れることが要求される。この優れた母材靭性を達成するため、全組織に占めるフェライト相の面積率は3%以上に限定した。好ましくは10%以上である。
なお、フェライト相以外の組織としては、主にマルテンサイト相やベイナイト相、パーライト相が考えられるが、これらの組織については、強度と母材靭性を両立する観点から、全組織全体に占める面積率でマルテンサイト相を15%以下で、かつベイナイト相を3〜70%の範囲とすることが好ましい。
また、優れた母材靭性の達成には、後述する熱間圧延終了後の冷却条件を制御して上記の適正量のフェライト相を確保することに加え、熱間圧延条件を適正化して組織を微細化することが重要である。
ここに、好適なミクロ組織の大きさ(平均結晶粒径)としては、円相当径で25μm以下である。
次に、本発明の製造方法について説明する。
上記した成分組成になる溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の炉で溶製し、連続鋳造法や造塊法等の公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とする。なお、溶鋼に、取鍋精錬や真空脱ガス精錬等の処理を付加しても良いことは言うまでもない。
また、溶鋼の成分調整は、公知の鋼製錬方法に従えばよい。
加熱温度:1000〜1350℃
ついで、上記の鋼素材を加熱する。ここで、加熱温度が1000℃未満では変形抵抗が大きく、熱間圧延が困難となる。一方、1350℃を超えると、表面痕の発生原因となったり、スケールロスやエネルギー原単位の増加を招く。従って、上記加熱温度は1000〜1350℃の範囲とする。好ましくは1050〜1300℃の範囲である。
なお、鋼素材の温度がもともと1000〜1350℃の範囲の場合には、加熱することなく、または均熱する程度で、直ちに所望の寸法形状の鋼材に熱間圧延してもよい。
上記のように加熱した鋼素材に、熱間圧延を施す。ここで、この熱間圧延におけるAr3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率および熱間仕上圧延終了温度、ならびに熱間仕上圧延終了後の冷却を以下のように適正化する必要がある。
Ar3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率:25%以上
Ar3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率は25%以上とする必要がある。というのは、この温度域における圧下により、フェライト変態核の生成サイトとなる変形帯がオーステナイト粒内に生じるため、組織が微細化し、鋼材の高強度・高靱性を同時に達成できるからである。しかしながら、この温度域における累積圧下率が25%未満である場合には、変形帯の生成量が十分に得られず、上記した組織の微細化の効果が乏しい。従って、Ar3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率は25%以上に限定した。一方で、圧下率が大きい場合、スケールが地鉄に食い込み、表面欠陥が生じやすくなるため、Ar3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率は70%以下とすることが好ましい。
熱間仕上圧延終了温度:650℃以上850℃未満
熱間仕上圧延終了温度が650℃未満だと、変形抵抗の増大により圧延荷重が増加し、圧延することが困難になるとともに、鋼材の機械的性質に異方性が生じる。一方、850℃以上になると、所望の靭性を得ることができない。従って、熱間仕上圧延終了温度は650℃以上850℃未満の範囲に限定した。好ましくは700℃以上800℃未満の範囲である。
空冷または冷却速度:100℃/s以下で、冷却停止温度:300℃以上の加速冷却
熱間仕上圧延終了後の冷却は、空冷または冷却速度:100℃/s以下の加速冷却とする必要がある。この冷却においては、冷却速度が速いほど、固溶Snが酸化物として鋼材の結晶界面に析出することを抑制できる。そのためには、加速冷却を行うことが好ましい。
しかしながら、冷却速度が100℃/sを超える場合、鋼材組織としてはマルテンサイトが過度に増加し、靭性が著しく低下する。従って、冷却速度は100℃/s以下とする必要がある。一方、冷却速度の下限は空冷とする。なお、鋼材の強度と母材靭性の両立の観点からは、5〜20℃/sの範囲の冷却速度とすることがより好ましい。
また、300℃未満まで冷却するとフェライト量が少なくなり、靭性が劣化するため、加速冷却時の冷却停止温度は300℃以上とする必要がある。
なお、冷却後、冷却ムラにより生じる残留応力を取り除くための再加熱処理を施してもよい。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
種々の成分組成になる溶鋼を、真空溶解炉で溶製後または転炉溶製後、連続鋳造によりスラブとした。次いで、種々の条件で、スラブを加熱後、熱間圧延により30mm厚の鋼板とした。表1に得られた鋼板の成分組成を、また表2に上記の製造条件をそれぞれ示す。
なお、表1中のAr3変態温度は次式により求めた。
Ar3(℃)=910−273[%C]−74[%Mn]−56[%Ni]−16[%Cr]−9[%Mo]−5[%Cu]
−1620[%Nb]
ここで、[%M]はM元素の含有量(質量%)
かくして得られた鋼板の板厚の1/4の位置からC方向にミクロ引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して母材の引張特性(降伏点(YP)および引張強さ(TS))を調査した。また、上記鋼板の板厚の1/4の位置からL方向にNKU4号衝撃試験片(2mmVノッチ)を採取し、シャルピー衝撃試験をJIS Z 2242の規定に準拠して行い、-40℃における吸収エネルギー(vE(-40℃))を求め、衝撃特性を調査した。ここで、NKU4号衝撃試験片とは、日本海事協会(NK)の鋼船規則で規定されるU4号衝撃試験片である。
なお、降伏点(YP)が355MPa以上でかつ引張強さ(TS)が490MPa以上であれば、船舶用鋼材としての引張特性を満足すると評価した。また、-40℃における吸収エネルギー(vE(-40℃))が300J以上であれば、母材靭性に優れると評価した。
また、圧延方向に平行な、板厚の1/4の位置における鋼板面について、500倍の倍率でミクロ組織写真を撮影し、各相の面積率を求めた。各相の面積率の求め方は次の通りである。
すなわち、まず組織写真の画像をプリントアウトして、透明フィルムを重ねた上からフェライト相を黒マジックで塗りつぶした後、透明フィルムをスキャナーでパソコンに取り込み、汎用的な画像解析ソフトを用いて、上記塗りつぶした部分をフェライト面積率として求めた。また、ベイナイト相およびマルテンサイト相についても、同様の方法で、面積率を求めた。
これに加えて、上記組織の平均フェライト粒径についても調査した。調査方法は次の通りである。
すなわち、組織を顕微鏡により観察し、JIS G 0551の規定に準拠した直線切断法により、平均フェライト粒径を算出した。
これらの結果を表2に併せて示す。
さらに、上記鋼板について、3mmt×70mmW×150mmLの試験片を採取し、その試験片の表面をショットブラストして、表面のスケールや油分を除去したのち、ジンクリッチプライマーを約15μm 塗装し、さらにその上に変性エポキシ樹脂塗料(約320μm)の塗膜を塗装した試験片を作製した。この試験片に、塗膜の上からカッターナイフで地鉄表面まで達する80mm長さのスクラッチ疵を一文字状に付与しておき、以下の条件の腐食試験後に、スクラッチ疵:10mmあたりに発生した塗膜膨れ面積を算出して、耐食性を評価した。
なお、塗膜膨れ面積は、ベース鋼であるNo.1の塗膜膨れ面積を100%とし、これとの相対比率で示した。この相対比率で示す塗膜膨れ面積が50%以下であれば、塗装耐食性に優れているといえる。
・腐食試験:(35℃、5%NaCl溶液噴霧、2h)→(60℃、RH:25%、4h)→(50℃、RH:95%、2h)を1サイクルとする試験を540サイクル行った。ここで、RHとは相対湿度を意味する。なお、本腐食試験の条件は実船のバラストタンク上甲板裏の環境測定を基に設定しており、上記部位における海水浸漬環境と乾湿繰り返し環境が組み合わさった腐食環境を模擬したものである。
表3に、引張特性および衝撃特性調査結果、ならびに腐食試験結果を示す。
なお、表3中のNo.1は、この分野で用いられる従来の一般的レベルの組成を有する鋼を、ベース鋼として例示したものである。
Figure 0005979063
Figure 0005979063
Figure 0005979063
表3に示したとおり、発明例No.13〜38は全てベース鋼であるNo.1に対して膨れ面積率が50%未満と優れた塗装耐食性を有していたのに対し、比較例No.2〜10は、ベース鋼であるNo.1に対して膨れ面積率が50%以上で、十分な耐食性を有していなかった。
また、発明例No.13〜38は全て船舶用鋼材としての引張特性を満足するともに、-40℃における吸収エネルギー(vE(-40℃))が300J以上であり、優れた母材靭性を有している。
これに対し、比較例No.8はSn量が上限を超えているため、比較例No.9,10は固溶Sn量が下限に満たないため、比較例No.11は熱間仕上圧延終了温度が高いため、比較例No.12は冷却停止温度が低く、フェライト相の面積率が低いため、比較例No.39は冷却速度が速く、フェライト相の面積率が低いため、比較例No.40はAr3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率が小さく、組織の微細化が不十分であるため、それぞれ-40℃における吸収エネルギー(vE(-40℃))が300J未満であり、優れた母材靭性を有しているとはいえない。
本発明によれば、高価な元素であるCrやNi等の含有量を低減させても、海水腐食環境下において優れた耐食性を発揮するとともに、母材靭性にも優れた船舶用鋼材を安価に得ることができる。また、本発明の鋼材は、特に船舶に用いて有用であるが、海水による腐食環境下で優れた塗装耐食性を示すので、同様の環境下で使用される他の用途にも好適に使用することができる。

Claims (9)

  1. 質量%で、
    C:0.03〜0.20%、
    Si:0.05〜0.50%、
    Mn:0.7〜2.00%、
    P:0.035%以下、
    S:0.010%以下、
    Al:0.100%以下、
    Ti:0.005〜0.030%、
    N:0.0010〜0.010%、
    Sn:0.02〜0.2%および
    Cr:0.10%未満(但し、0%を含む)
    を含有し、さらに
    Sb:0.02〜0.2%および
    Nb:0.003〜0.03%
    のうちから選んだ1種または2種を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からな成分組成を有する鋼素材を、表面温度:1000〜1350℃に加熱した後、Ar3変態温度〜900℃の温度域における累積圧下率:25%以上、熱間仕上圧延終了温度:650℃以上850℃未満として熱間圧延し、ついで空冷、または冷却速度:100℃/s以下で、冷却停止温度:300℃以上の加速冷却を施して、全組織に占めるフェライト相の面積率が3%以上で、かつ固溶Sn量が0.01%以上である鋼材を得ることを特徴とする耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  2. 前記鋼材が、さらに、質量%で
    Ca:0.0005〜0.0030%
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  3. 前記鋼材が、さらに、質量%で
    Zr:0.001〜0.100%および
    V:0.002〜0.200%
    のうちから選んだ1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  4. 前記鋼材が、さらに、質量%で
    B:0.0002〜0.0030%
    を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  5. 前記鋼材が、さらに、質量%で
    REM:0.0001〜0.030%、
    Mg:0.0001〜0.010%および
    Y:0.0001〜0.10%
    のうちから選んだ1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  6. 前記鋼材が、さらに、質量%で
    Co:0.010〜0.500%
    を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  7. 前記鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜を塗装ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  8. 前記鋼材の表面に、エポキシ系塗膜を塗装ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
  9. 前記鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜およびエポキシ系塗膜を塗装ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の耐食性および母材靭性に優れた船舶用鋼材の製造方法
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