JP5796409B2 - 船舶バラストタンク用耐食鋼材 - Google Patents
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しかしながら、それらの防食対策を講じても、バラストタンクの腐食環境は依然として激しい状態にある。
そのため、補修塗装までの期間をできる限り延長でき、かつ補修塗装作業をできるだけ軽減できる耐食性に優れた鋼材の開発が望まれている。
例えば、特許文献1には、C:0.001〜0.15%の鋼に、Sn:0.03〜0.50%を含有した重防食被覆鋼材が開示されている。また、特許文献2には、C:0.001〜0.15%の鋼に、Sn:0.03〜0.50%を含有し、スラブの表面温度を1050〜1200℃に加熱した後、900℃以上の温度域で全圧下量のうち70%以上の圧延を行い、かつ800℃以上の温度域で圧延を終了したのち、冷却することを特徴とする耐食性およびZ方向靭性に優れた鋼材の製造方法が開示されている。
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示の技術はいずれも、バラストタンク用としては耐食性が不十分であった。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて開発されたものである。
1.質量%で、
C:0.03〜0.20%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.7〜2.0%、
P:0.035%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.10%以下、
Sn:0.02〜0.2%、
Nb:0.003〜0.03%、
O:0.0005〜0.0030%、
Ti:0.005〜0.030%および
N:0.0010〜0.010%
を含み、かつCu,NiおよびCrをそれぞれ
Cu:0.20%未満、
Ni:0.20%未満および
Cr:0.20%未満
で含有し、さらに
Co:0.01%以上0.20%未満
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐食性に優れる船舶
バラストタンク用耐食鋼材。
2.質量%で、
C:0.03〜0.20%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.7〜2.0%、
P:0.035%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.10%以下、
Sn:0.02〜0.2%、
Nb:0.003〜0.03%、
O:0.0005〜0.0030%、
Ti:0.005〜0.030%および
N:0.0010〜0.010%
を含み、かつCu,NiおよびCrをそれぞれ
Cu:0.20%未満、
Ni:0.20%未満および
Cr:0.20%未満
で含有し、さらに
B:0.0001〜0.003%
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
Ca:0.0005〜0.0030%
含有することを特徴とする前記2に記載の船舶バラストタンク用耐食鋼材。
まず、本発明において鋼材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、鋼板の成分組成における元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り単に「%」で示す。
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼材強度を上昇させるのに有効な元素であり、本発明では所望の強度を得るために0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、溶接熱影響部の靭性を低下させる。よって、C量は0.03〜0.20%の範囲とする。好ましくは0.05〜0.16%の範囲、さらに好ましくは0.07〜0.09%の範囲である。
Siは、脱酸剤として、また鋼材の強度を高めるために添加される元素であり、本発明では0.05%以上を含有させる。しかしながら、0.50%を超える添加は、鋼の靭性を劣化させるので、Si量の上限は0.50%とする。好ましくは0.15〜0.40%の範囲、さらに好ましくは0.25〜0.40%の範囲である。
Mnは、熱間脆性を防止して、鋼材の強度を高める効果があるので、0.7%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えるMnの添加は、鋼の靭性および溶接性を低下させるため、Mn量は2.0%以下とする。好ましくは0.9〜1.6%の範囲、さらに好ましくは1.2〜1.6%の範囲である。
Pは、鋼の母材靭性だけでなく、溶接性や溶接部靭性を劣化させる有害な元素であるので、極力低減するのが好ましい。特に、Pの含有量が0.035%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の低下が大きくなる。よって、P量は0.035%以下とする。好ましくは0.025%以下、さらに好ましくは0.010%以下である。
Sは、鋼の靭性および溶接性を劣化させる有害元素であるので、極力低減することが望ましい。特に、Sの含有量が0.010%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の低下が大 きくなる。よって、S量は0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下、さらに好ましくは0.002%以下である。
Alは、脱酸剤として添加するが、0.10%を超える含有は、溶接部靭性に悪影響を及ぼすので、0.10%以下に制限する。好ましくは0.07%以下である。
Snは、本発明の鋼材において、最も重要な耐食性向上元素である。Snは、鋼材が腐食するのに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用を有する。錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する。さらに、アノード反応の抑制に伴って、カソード反応であるH2OとO2から生成するOH-の生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する。そして、アルカリ化の抑制により、その後の塗膜膨れを抑制する。この効果は、0.02%以上のSn含有で発現するが、0.2%超えでは母材靭性およびHAZ部靭性を劣化させる。このため、Snは0.02〜0.2%の範囲で含有させるものとする。好ましくは0.02〜0.15%の範囲である。
Nbは、本発明の鋼材において、Snについで、重要な耐食性向上元素である。Nbは、鋼材が腐食するのに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用を有する。錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する。さらに、アノード反応の抑制に伴って、カソード反応であるH2OとO2から生成するOH-の生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する。そして、アルカリ化の抑制により、その後の塗膜膨れを抑制する。この効果は、0.003%以上Nbの含有で発現するが、0.03%超えでは溶接継手HAZ靭性を劣化させる。このため、Nbは0.003〜0.03%の範囲で含有させるものとする。好ましくは0.004〜0.02%の範囲である。
Oは、本発明の鋼材において、Sn、Nbについで、重要な耐食性向上元素である。Oは、鋼材中で低減させるほど耐食性が向上する。Oは、鋼中でMnOなどの酸化物、Mn(O,S)などの酸硫化物を形成するが、これら酸化物、酸硫化物は、Feの腐食反応の起点となる。したがって、これら酸化物、酸硫化物を低減することが腐食反応を抑制する上で好ましく、そのためには鋼中のOを低減させる必要がある。O量が0.0030%以下で耐食性の向上に効果を奏するが、O量を0.0005%未満にすることは工業的に困難である。そのため、O量は0.0005〜0.0030%とした。
Tiは、Nとの親和力が強くTiNとして析出して、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト生成核として溶接熱影響部の高靭性化に寄与する。このような効果は、0.005%以上の含有で認められるが、0.030%を超えて含有するとTiN粒子が粗大化して上記の効果が期待できなくなる。このため、Tiは0.005〜0.030%の範囲で含有させるものとする。好ましくは0.005〜0.018%の範囲である。
Nは、Tiと結合してTiNとして析出し、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト生成核として溶接熱影響部の高靭化に寄与する。このような効果を有するTiNを必要量確保するためには、Nは0.0010%以上含有させる必要がある。一方 、0.010%を超えて含有すると、溶接熱によってTiNが溶解する温度まで加熱される領域では固溶N量が増加し、靭性の著しい低下を招く。このため、Nは0.0010〜0.010%の範囲で含有させるものとする。好ましくは0.0010〜0.0070%の範囲である。
Cu,NiおよびCrはいずれも、ジンクプライマー塗膜がなく、かつ乾湿繰返しを含む腐食環境下では、塗装耐食性を劣化させる。したがって、これらの含有量をできるだけ低減することが好ましい。しかしながら、いずれの元素も鋼材強度を高める元素であり、必要に応じ添加することができる。そこで、本発明者らは、これらの元素の許容範囲について検討したところ、Cu,Ni,Crはいずれも0.20%未満であれば、塗装耐食性に対する悪影響があまりなく、許容できることが判明した。より好ましくはいずれも0.15%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
Ca:0.0005〜0.0030%
Caは、硫化物の形態を制御して鋼の溶接部靭性向上に寄与する元素である。このような効果を発揮させるためには、少なくとも0.0005%の含有を必要とする。一方、0.0030%を超えて含有しても、その効果は飽和する。このため、Ca含有量は0.0005〜0.0030%の範囲に制限した。
ZrおよびVはいずれも、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して含有させることができる。このような効果を得るためには、Zrは0.001%以上、またVは0.002%以上含有させることが好ましい。しかしながら、Zrは0.1%を超えて、またVは0.2%を超えてそれぞれ含有させると、靭性が低下するため、Zr,Vはそれぞれ、上記の範囲で含有させることが好ましい。
Coは、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して含有させることができる。このような効果を得るためには、0.01%以上のCoが必要である。しかしながら、Coは、ジンクプライマー塗膜がなく、かつ乾湿繰返しを含む腐食環境の場合、塗装耐食性を劣化させる。そこで、Co量の許容範囲について検討したところ、Coは0.20%未満であれば、塗装耐食性に対する悪影響があまりなく、許容できることが判明した。そこで、Coは、0.01%以上0.20%未満の範囲で含有させるものとした。
Bは、鋼材の強度を高める元素であり、必要に応じて含有させることができる。上記の効果を得るためには、0.0001%以上のBを含有させることが好ましいが、0.003%を超えて添加すると、靭性が劣化する。よって、Bは0.0001〜0.003%の範囲で含有させることが 好ましい。
REM,MgおよびYはいずれも、溶接熱影響部の靭性向上に効果のある元素であり、必要
に応じて選択して含有させることができる。この効果は、REM,MgおよびYとも、0.0001%以上の含有で得られるが、REMは0.015%を超えて、Mgは0.01%を超えて、Yは0.1%を超えてそれぞれ含有させると、却って靭性の低下を招く。従って、REM,MgおよびYはそれぞれ、上記の範囲で含有させることが好ましい。
ここに、エポキシ系塗膜としては、特に限定するものではなく、通常の造船の防錆用に使用されるエポキシ系塗料を使用すればよく、変性樹脂のないピュアエポキシ塗料や、他の成分で変性した変性エポキシ塗料等が適用可能である。また、性能が同等であれば、エポキシ系以外の塗料を用いてもよい。
また、ジンクプライマー塗膜としては、通常の造船一次防錆を目的として使用される無機ジンク系ショッププライマー、あるいは補修用で使用される有機ジンク系プライマー等が有利に適合する。
上記した好適成分組成になる溶鋼を、転炉や電気炉等の公知の炉で溶製し、連続鋳造法や造塊法等の公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とする。なお、溶製に際して、真空脱ガス精錬等を実施しても良い。
溶鋼の成分調整方法は、公知の鋼精錬方法に従えばよい。
なお、熱間圧延では、熱間仕上圧延終了温度を適正化する必要があり、600℃以上850℃以下とすることが好ましい。熱間仕上圧延終了温度が600℃未満では、変形抵抗の増大により圧延荷重が増加し、圧延の実施が困難となる。一方、850℃以上だと所望の強度を得ることができない。熱間仕上圧延終了後の冷却は、空冷または冷却速度:150℃/s以下の加速冷却とすることが好ましい。加速冷却する場合の冷却停止温度は300〜750℃の範囲とすることが好ましい。なお、冷却後、再加熱処理を施してもよい。
表1に示す成分組成になる溶鋼を、真空溶解炉で溶製後または転炉溶製後、連続鋳造によりスラブとした。ついで、1150℃に加熱後、仕上圧延終了温度:800℃の条件で熱間圧延を実施して、30mm厚の鋼板とした。これらの鋼板について、母材の引張特性(YS,TS,El)および衝撃特性(vE(-40℃))を調査した。また、大入熱溶接部靭性として、入熱:200kJ/cmの溶接熱影響部:1mm(ヒュージョンラインから母材側に1mm入った箇所)相当の再現熱サイクルを付与し、シャルピー衝撃試験により、−20℃における吸収エネルギーvE(-20℃)を測定した。さらに、上記の鋼板から、5mmt×150mmW×150mmLの試験片を採取し、その試験片の表面をショットブラストしたのち、(ジンクプライマー約15μm 塗布+変性エポキシ塗料約360μm塗布)の試験片を作製した。
そして、上記塗膜の上からカッターナイフで地鉄表面まで達する80mm長さのスクラッチ疵を一文字状に付与しておき、以下の条件の腐食試験後に、スクラッチ傷の周囲に発生した塗膜膨れ面積により、耐食性を評価した。
・腐食試験:実船のバラストタンクの上甲板裏に相当する腐食環境を模擬した、(35℃,5%NaCl溶液噴霧,2h)→(60℃,RH:25%、4h)→(50℃,RH:95%、2h)を1サイクルとする試験を540サイクル行った。
表1中のNo.18は、この分野で用いられる従来の一般的レベルの組成を有する鋼を、ベース鋼として例示したものである。
なお、塗膜膨れ面積は、ベース鋼であるNo.18の塗膜膨れ面積を100%とし、これとの相対比率で示した。この相対比率で示す塗膜膨れ面積が50%以下であれば、塗装耐食性に優れているといえる。
これに対して、本発明の適正成分組成から逸脱したNo.19,21,23〜26比較例は、塗膜膨れ面積は、ベース鋼であるNo.18よりも小さくなっているが、その面積はベース鋼に対して50%超えであり、十分な塗装耐食性を有しているとは言えない。
また、本発明の適正成分組成を満たさないNo.20,22の比較例は、塗装耐食性の点では問題なかったものの、No.20ではSn量が上限を超えているため、表3に示したとおり、溶接部靭性が50J未満と、十分な溶接部靭性が得られなかった。同様に、No.22は、塗装耐食性の点では問題なかったものの、Nb量が上限を超えているため、表3に示したとおり、溶接部靭性が50J未満と、やはり十分な溶接部靭性を得ることができなかった。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.03〜0.20%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.7〜2.0%、
P:0.035%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.10%以下、
Sn:0.02〜0.2%、
Nb:0.003〜0.03%、
O:0.0005〜0.0030%、
Ti:0.005〜0.030%および
N:0.0010〜0.010%
を含み、かつCu,NiおよびCrをそれぞれ
Cu:0.20%未満、
Ni:0.20%未満および
Cr:0.20%未満
で含有し、さらに
Co:0.01%以上0.20%未満
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。 - 質量%で、
C:0.03〜0.20%、
Si:0.05〜0.50%、
Mn:0.7〜2.0%、
P:0.035%以下、
S:0.01%以下、
Al:0.10%以下、
Sn:0.02〜0.2%、
Nb:0.003〜0.03%、
O:0.0005〜0.0030%、
Ti:0.005〜0.030%および
N:0.0010〜0.010%
を含み、かつCu,NiおよびCrをそれぞれ
Cu:0.20%未満、
Ni:0.20%未満および
Cr:0.20%未満
で含有し、さらに
B:0.0001〜0.003%
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。 - 前記鋼材が、さらに、質量%で
Ca:0.0005〜0.0030%
含有することを特徴とする請求項2に記載の船舶バラストタンク用耐食鋼材。
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