JP5644522B2 - 海洋構造物用厚鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、高い安全性が要求される海洋構造物用厚鋼板およびその製造方法に関する。
海洋構造物は、主として石油とガスの開発・生産に利用されるものであり、井戸を掘削する構造物としての掘削リブ、油ガスを生産する構造物としての生産プラットフォーム、生産プラットフォームを設置するための構造物と大型作業船に分類される。いずれも、大型構造物であり、海上で暴風に耐え長期間無補給で安全に操業するために、特に、強度および低温靱性に優れる厚鋼板が要求される。
このような大型構造物に用いられる厚鋼板は、スラブをオーステナイト温度域、すなわち、Ac3点以上に加熱後、所定の厚みまで圧延を行い、冷却処理することにより製造される。
厚鋼板の特性は、鋼組成、加熱温度条件、圧延条件、冷却条件などにより決定し、これらの条件を適宜調整することにより、付加価値の高い高性能厚鋼板を製造することが可能になる。
厚鋼板の製造における加熱温度は、従来、1150℃程度とオーステナイト温度域でも比較的高い温度で行われてきた。これは、高温加熱によるスラブの軟化作用により、次工程である圧延工程において、圧下の負荷を小さくするためである。
鋼板、なかでも、厚鋼板の製造では常にエネルギー原単位の減少が求められるが、近年のエネルギー資源の価格の高騰から、より一層のエネルギー原単位の減少が要求されるようになってきた。また、近年の地球環境への配慮から二酸化炭素などの温室効果ガスをなるべく出さずに鋼板を製造する技術が求められている。
厚鋼板の製造では、加熱工程において、スラブを加熱する際に、該スラブの中央部まで温度を均一化することが好ましい。このため、加熱工程では大量のエネルギーを必要とする。よって、加熱温度を低くして、例えば、加熱温度を1050℃以下として、厚鋼板を製造することができれば、上述の要求を満足することができる。
更に、低温加熱とマイクロアロイ技術を併用すると、加熱時のオーステナイト粒径を非常に小さく抑えることができる。それを応用すれば、制御圧延がさらに促進して、より細粒の組織を得ることができるので、鋼板の種々の特性改善に応用することができる。
スラブの加熱温度を1050℃以下に低下させることの可能な海洋構造物用厚鋼板の製造方法は、例えば、特許文献1〜3に開示されている。
すなわち、特許文献1には、スラブの加熱温度をAc3点以上、1150℃以下と規定し、2種類の熱間圧延を組み合わせることによって、低温靱性を向上させてなる高張力鋼材の製造方法が記載されている。そして、スラブの加熱温度として、1050℃以下の温度の実施例も開示されている。しかし、圧延開始温度の異なる複雑な2種類の圧延を実施し、更に第2回目の圧延はオーステナイト・フェライト二相温度域で実施するものである。その結果、微細なフェライト組織は得られるものの、極度に加工を受けたフェライト組織となる。したがって、強度および靭性の異方性が激しくなり、圧延方向の靭性は良好となるものの、板厚方向の靭性は一般に低下する傾向がある。これらの異方性の原因は圧延方向に延ばされた加工フェライトに起因し、他の特性においても透過方向による異方性が大きくなる。たとえば、超音波等の透過方向による異方性が大きくなる。また、高圧下率の複雑な圧延方法が必要とされることから、鋼板の板厚が厚くなると、その条件とする圧延を実施することは困難となる。
また、特許文献2には、スラブの加熱温度を1200℃以下に規定し、仕上圧延を特別な圧下条件で行うことによって、低温靱性を向上させてなる厚鋼板の製造方法が記載されている。そして、スラブの加熱温度として、1050℃以下の温度の実施例も開示されている。この発明も特許文献1と同様に二相域圧延を利用して鋼板の圧延方向の靭性を向上させるものであるので、特許文献1と同様の課題を有する。
さらに、特許文献3には、二相域圧延をあまり利用するものではなく、未加工のフェライト中心の組織を利用して、鋼材の疲労強度を向上させる発明が記載されている。そして、スラブの加熱温度として、1050℃以下の温度の実施例も開示されているが、低温の加熱温度を積極的に利用するものではない。ここでは、フェライトと硬質第二相とからなるミクロ組織となるが、硬質第2層のアスペクト比は10以上であるから、母材の靭性自体はあまり改善されない。
一方で、海洋構造物は海浜・海洋地域、すなわち、飛来塩分量が多い環境下で、あるいは海水飛沫環境下で使用される場合も多い。
一般に、耐候性鋼材を大気腐食環境中に暴露すると、その表面に保護性のあるさび層が形成され、それ以降の鋼材腐食が抑制される。そのため、耐候性鋼材は、塗装せずに裸のまま使用できるミニマムメンテナンス鋼材として構造物に用いられている。
ところが、飛来塩分量が多い地域では、耐候性鋼材の表面に保護性のあるさび層が形成されにくいために、腐食を抑制する効果が発揮されにくい。そのため、これらの地域では、裸のままの耐候性鋼材を用いることができず、普通鋼に塗装を施して使用する普通鋼の塗装使用が一般的である。しかし、このような普通鋼の塗装使用の場合には、腐食による塗膜劣化のため約10年毎に再塗装する必要があり、そのため維持管理に要する費用は莫大なものとなる。
近年、日本工業規格(JIS)で規格化された耐候性鋼(JIS G 3114:溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)は、飛来塩分量がNaClとして0.05mg/dm/day(0.05mdd)以上の地域では、ウロコ状錆や層状錆等の発生により腐食減量が大きいため、無塗装では使用できないことになっている(建設省土木研究所、(社)鋼材倶楽部、(社)日本橋梁建設協会:耐候性鋼の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XX)−無塗耐候性橋梁の設計・施工要領(改訂版−1993.3)参照)。
このように、塩分の多い環境下では、通常普通鋼材に塗装を行って対処している。しかしながら、飛来塩分量が多い海洋上に建設される構造物は腐食が著しく、再塗装せざるを得ないのが現状である。これらの再塗装には多大な工数がかかることから、無塗装で使用できる鋼材への要望が強い。
最近、Niを1〜3%程度添加したNi系高耐候性鋼が開発された。しかしながら、飛来塩分量が0.3〜0.4mddを越える地域では、このようなNi添加だけでは、無塗装で使用できる鋼材への適用が難しいことが判明してきた。
鋼材の腐食は、飛来塩分量が多くなるにしたがって激しくなるため、耐食性と経済性の観点からは、飛来塩分量に応じた耐候性鋼材が必要になる。また、使用される場所や部位により鋼材の腐食環境は同じではない。例えば、降雨、結露水および日照に曝される部位もあれば、結露水に曝されるが雨掛かりはない部位もある。一般に、飛来塩分量が多い環境では、前者の部位より後者の部位の方が腐食が激しいと言われている。
このような問題に対応するため、飛来塩分量が多い環境での腐食を防止する鋼材の開発が従来から進められている。
たとえば、特許文献4にはクロム(Cr)の含有量を増加させた耐候性鋼材が提案され、そして、特許文献5にはニッケル(Ni)含有量を増加させた耐候性鋼材が提案されている。
しかしながら、上記特許文献4で提案されたクロム(Cr)の含有量を増加させた耐候性鋼材は、ある程度以下の飛来塩分量の領域においては耐候性を改善することができるものの、それを超える厳しい塩分環境においては逆に耐候性を劣化させる。
また、上記特許文献5で提案されたニッケル(Ni)含有量を増加させた耐候性鋼材の場合、耐候性はある程度改善されるが、鋼材自体のコストが高くなる。これを避けるため、Ni含有量を少なくすると、耐候性はさほど改善されず、飛来塩分量が多い場合には、鋼材の表面に層状の剥離さびが生成し、腐食が著しく、長期間の使用に耐えられないという問題が生じる。
特開2000−8123号公報 特開平11−71615号公報 特開2003−3229号公報 特開平9−176790号公報 特開平5−118011号公報
本発明の目的は、破壊靱性に優れ、かつ高塩化物環境における耐食性に優れる海洋構造物用厚鋼板を安価かつ簡便な手段で実現し提供することである。より具体的には、降伏強度320MPa以上、引張強度440MPa以上、延性脆性遷移温度(vTrs)−70℃以下を満足する破壊靱性および耐食性に優れる海洋構造物用厚鋼板とその製造方法を提供することである。なお、ここで耐食性とは、塗装が剥離せず且つ塗装欠陥部における腐食が抑制され耐食性が維持されること(耐塗装剥離性)および無塗装時の耐候性を含む。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、種々の観点から破壊靱性および耐食性に優れる海洋構造物用厚鋼板について検討した結果、次の(a)〜(d)に示す知見を得た。
(a)温室効果ガスの排出抑制の観点から海洋構造物に用いられる厚鋼板の製造について考えた場合、熱間圧延に際してのスラブの加熱温度は低い方がよい。一方、スラブの加熱温度は鋼板のミクロ組織に大きな影響を及ぼす。すなわち、スラブの加熱温度が高いと加熱時にオーステナイト粒が大きくなり、結果として鋼板のミクロ組織に影響する。このため、得ようとするミクロ組織との関係でスラブの加熱温度を決定する必要がある。下記(b)にも示すように、NbおよびTiを含有するスラブを1050℃以上に加熱すると、Nb−Ti複合炭窒化物が溶解し、オーステナイト粒が急激に成長するので、スラブの加熱温度は1050℃未満とするのが好ましく、より好ましくは1000℃以下である。
また、熱間圧延に必要なスラブの軟化効果を得るためには、一定の温度以上でスラブを加熱する必要があるが、スラブをAc変態点(以下、単にAc点という)以上に加熱すると、粗大な組織を均一なオーステナイト粒に一旦変態し、ミクロ組織の均一化を図ることができることから、スラブ加熱温度はAc点以上とするのが好ましく、より好ましくはAc点+50℃以上である。
(b) 厚鋼板の特性の観点からはミクロ組織の微細化が必要となる。よって、厚鋼板の化学組成と厚鋼板の製造方法の両面から種々の検討を重ねた。
まず、発明者らは、厚鋼板の化学組成の観点から、ミクロ組織の微細化のアプローチをした。厚鋼板に微細に分散する析出物を導入できれば、微細な結晶粒を得ることができる。そこで、微量のNbおよびTiの元素を活用することにより、微細なNb−Ti複合炭窒化物からなる析出物を導入することを考えた。
微量のNbおよびTiの元素を含有するスラブをAc点以上の温度範囲に加熱すると、生成する炭窒化物が熱平衡的にNbと炭素にやや富んだ新たなNb−Ti複合炭窒化物に変化することによって、炭窒化物自体が微細分散する結果、粒界のピン止め効果によって、オーステナイト粒成長が抑制され、非常に均一で微細な加熱オーステナイト粒を形成できる。また、この温度域でスラブを加熱すれば、オーステナイト母相中に一部のNbが固溶するので、オーステナイト未再結晶温度域が拡大し、次工程である熱間圧延の際に、同温度域で十分な圧延を行うことができる。一方、スラブを1050℃以上に加熱すると、Nb−Ti複合炭窒化物が溶解し、オーステナイト粒が急激に成長する。よって、スラブの加熱温度はAc点〜1050℃未満とする。
スラブ加熱に続いて熱間圧延を行うことになるが、これら微量のNbおよびTiの元素が存在することにより、オーステナイト領域で圧延を終了後、冷却することで、少量の硬質第二相が生成しやすくなる。また、このときの仕上圧延温度を750℃以上で行うことによって、未再結晶オーステナイトから変態したフェライトと硬質第二相からなり、硬質第二相のアスペクト比が10未満であるミクロ組織を得ることができる。
このような微細なNb−Ti複合炭窒化物からなる析出物の導入はNbとTiを複合添加すればよく、Ac点〜1050℃未満という低温度域でスラブを加熱する場合には、低温度域での加熱による結晶粒の成長を抑制することができるだけでなく、微細なNb−Ti複合炭窒化物が析出することによっても再加熱オーステナイトの成長を抑制することができる。その結果、非常に細粒で均一な加熱オーステナイト粒組織を有する加熱スラブを得ることができる。
圧延後の冷却は、これらの変態組織を得やすくするためにやや速い冷却速度とするのが好ましい。板厚が薄い鋼板を製造する場合には、空冷でも自然と冷却速度が速くなるのに対して、海洋構造物用厚鋼板のように板厚の厚い製品を製造する場合には、鋼板内部の冷却速度が遅くならないように、加速冷却を適用するのが好ましい。
(c) こうして生成されるミクロ組織は、未再結晶オーステナイトから変態した微細なフェライトと硬質第二相とからなる。そして、フェライト粒径が2〜15μmでありかつ硬質第二層のアスペクト比は10未満のものが得られる。このようなミクロ組織は厚鋼板の低温靭性の向上に大きく寄与することになる。
(d)一方、本発明者らは、耐食性に関し、飛来塩分量の多い環境での腐食について検討した結果、飛来塩分量が多い環境下では、FeCl溶液の乾湿繰り返しが腐食の本質的な条件となり、Fe3+の加水分解によりpHが低下した状態で、かつFe3+が酸化剤として作用することによって腐食が加速されることを見出した。
このときの腐食反応は、以下に示すとおりである。
カソード反応としては、主として、次の反応が起こる。
Fe3++e→Fe2+ (Fe3+の還元反応)
そして、この反応以外に、次のカソード反応も併発する。
2HO+O+2e→4OH
2H+2e→H
一方、上記のFe3+の還元反応に対して、次のアノード反応が起こる。
アノード反応:Fe→Fe2++2e (Feの溶解反応)
従って、腐食の総括反応は、次の(1)式のとおりである。
2Fe3++Fe→3Fe2+・・・・・・(1)式
上記(1)式の反応により生成したFe2+は、空気酸化によってFe3+に酸化され、生成したFe3+は再び酸化剤として作用し、腐食を加速する。この際、Fe2+の空気酸化の反応速度は低pH環境では一般に遅いが、濃厚塩化物溶液中では加速され、Fe3+が生成され易くなる。このようなサイクリックな反応のため、飛来塩分量が非常に多い環境では、Fe3+が常に供給され続け、鋼の腐食が加速され、耐食性が著しく劣化することになることが判明した。
そして、本発明者らは、このような塩分環境における腐食のメカニズムを基に、種々の合金元素の耐候性への影響について検討した結果、下記の(e)〜(g)に示す知見を得た。
(e)Snは、Sn2+として溶解し、2Fe3++Sn2+→2Fe2++Sn4+なる反応によりFe3+の濃度を低下させることで、(1)式の反応を抑制する。Snには、さらにアノード溶解を抑制するという作用もある。
(f)Cuは、従来から飛来塩分量の多い環境において耐食性改善効果の基本とされていた元素であり、比較的濡れ時間が長い環境において耐食性改善効果は見られる。ただし、塩化物濃度がさらに大きくなり、局部的にpHが下がるような環境、例えば塩分が付着し、湿度が変化することにより乾湿が繰り返され、β−FeOOHが生成するような比較的ドライな環境では、Cuはむしろ腐食を促進することが判明した。
(g)このように、この鋼材は、高い耐食性が期待できる。さらに耐食性が高いことから、鋼材に塗装を行っても、鋼材の腐食に起因する塗装の剥離が少なく塗装欠陥部の腐食を抑制する一方、塗膜による防食効果も期待できるため、塗装をした場合には、より一層の耐食性の効果が期待できる。したがって、耐食性のほかに、塗装の寿命を延長化でき、補修塗装間隔を大きく延ばす作用をも有する。
本発明は、上記の知見を基礎として完成したものであって、その要旨は下記の(1)および(2)の海洋構造物用厚鋼板並びに(3)および(4)の海洋構造物用厚鋼板の製造方法にある。
(1) 質量%で、C:0.02〜0.1%,Si:0.03〜0.5%,Mn:0.5〜2.0%、Al:0.002〜0.08%,N:0.001〜0.008%,Nb:0.003〜0.05%,Ti:0.003〜0.05%,Sn:0.03〜0.50%,Cu:0.2%未満,残部がFeおよび不純物からなる厚鋼板であって、Cu/Sn比が1.0以下であり、鋼板のミクロ組織が、未再結晶オーステナイトから変態したフェライトと硬質第二相からなり、フェライト粒径が2〜15μmでありかつ硬質第二相のアスペクト比が10未満であることを特徴とする、降伏強度320MPa以上、引張強度440MPa以上、延性脆性遷移温度(vTrs)−70℃以下、板厚減少率0.25mm以下、剥離面積率30%以下の海洋構造物用厚鋼板。
(2) Feの一部に代えて、質量%で、Ni:3.0%以下,Cr:0.8%以下,Mo:0.8%以下,V:0.10%以下の元素のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)の海洋構造物用厚鋼板。
(3) 上記(1)または(2)の化学組成を有するスラブをAc変態点〜1050℃未満の温度範囲に加熱し、続けて熱間圧延を未再結晶オーステナイト温度域で行い、このときの仕上圧延温度を750℃以上で行うことを特徴とする、上記(1)または(2)の海洋構造物用厚鋼板の製造方法。
(4) さらに680℃以下で焼戻しを行うことを特徴とする、上記(3)の海洋構造物用厚鋼板の製造方法。
本発明によれば、破壊靱性に優れ、かつ高塩化物環境における耐食性に優れる海洋構造物用厚鋼板を安価かつ簡便な手段で得ることができる。より具体的には、降伏強度320MPa以上、引張強度440MPa以上、延性脆性遷移温度(vTrs)−70℃以下を満足する破壊靱性に優れる海洋構造物用厚鋼板を安価かつ簡便な手段で得ることができる。
以下に、本発明に係る破壊靱性及び耐食性に優れる海洋構造物用厚鋼板の実施形態を説明する。
A.厚鋼板の化学組成について
厚鋼板を構成する化学組成に関して、その含有量と作用効果を説明する。なお、含有量に関する「%」は「質量%」を意味する。
C:0.02〜0.1%
Cは、強度上昇に寄与する元素であり、強度を確保するためには、0.02%以上含有させる必要がある。また、Nb、Ti等の炭窒化物を利用するために、そして、適度な硬質第二相を生成させるために、Cの含有量を0.02%以上とする必要がある。Cの含有量は、好ましくは0.04%以上である。
一方、0.1%を超えて多量に含有すると、目的とする製品の溶接性および破壊靱性を低下させるので、Cの含有量を0.1%以下とする必要がある。また、安定して高い靭性を確保すべく、前述の硬質第二相の生成量をあまり増加させないように組織コントロールするために、Cの含有量を0.1%以下とするのが望ましい。Cの含有量は、より望ましくは0.09%以下である。
Si:0.03〜0.5%
Siは、Alとともに脱酸に有効な元素である。Siの含有量が0.03%未満となると、脱酸時にAlの損失が大きくなるので、Siの含有量を0.03%以上とする。また、Siは強度上昇への寄与が大きいので、Siの含有量を0.03%以上とする。Siの含有量は、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.07%以上である。
しかし、Siを0.5%を超えて含有させた場合、溶接熱影響部(HAZ)の靭性の低下が大きくなるので、Siの含有量を0.5%以下とする。また、Siが多くなるとオーステナイトからフェライトに変態する温度が上昇し、未再結晶オーステナイト領域での圧延可能範囲が狭くなってしまって、本発明の狙いとする組織制御が難しくなるので、Siの含有量を0.5%以下とする。Siの含有量は、好ましくは0.4%以下であり、より好ましくは0.3%以下である。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、鋼の強度および靱性を確保するために必要な元素であり、このような効果を確保するためには0.5%以上含有させる必要がある。また、Mnは、Siとは逆にオーステナイトフォーマーと呼ばれる元素のひとつであり、Mnの含有量が0.5%を下回ると、Siを多量に添加した場合と同様、鋼のオーステナイト温度領域が高温側に移行し、本発明のような組織を熱間圧延で製造するための未再結晶オーステナイト域での圧延を充分に実施することが難しくなる。よって、その下限を0.5%とする。Mnの含有量は、好ましくは0.8%以上であり、より好ましくは1.0%以上である。
一方、Mnを多量に添加すると溶接性を低下させる。また、MnはPと同様に鋼の凝固時に残留液相に偏析しやすく、最終的に鋼の中心偏析を助長するので、多量に添加すると鋼の内質が低下し、溶接時にHAZの靭性低下の一因ともなる。よって、Mnの含有量は2.0%以下とする。Mnの含有量は、好ましくは1.8%以下であり、より好ましくは1.6%以下である。
Al:0.002〜0.08%
Alは脱酸に有効な元素であり、0.002%以上の含有量が必要である。0.002%未満の添加量の場合には脱酸不十分のために、凝固時にピンホール等の内部欠陥が発生しやすくなる。よって、Alの含有量を0.002%以上とする。Alの含有量は、好ましくは0.005%以上である。
一方、Alの含有量が0.08%を超えると、靱性が低下しやすくなる。これは、粗大なクラスター状のアルミナ系介在物粒子が形成されやすくなるためと考えられる。よって、Alの含有量を0.08%以下とする。Alの含有量は、好ましくは0.06%以下であり、より好ましくは0.04%以下である。
N:0.001〜0.008%
Nは、TiN等の窒化物を生成するために必要である。TiN等の窒化物の生成によりHAZでのオーステナイト粒の粗大化を抑制して靭性の低下を防止する効果がある。更に、本発明鋼の場合には、Nb−Ti複合炭窒化物の低温加熱中の微細分散析出を通して加熱オーステナイトの成長を抑制するためにも有効である。これらの析出物の効果を有効利用するためには、Nの含有量を0.001%以上とする必要がある。Nの含有量は、好ましくは0.002%以上であり、より好ましくは0.0025%以上である。
一方、鋼中のNは、多量に存在する場合には靭性の悪化原因となるので、母材、HAZともに靱性が低下するのを避けるために、Nの含有量を0.008%以下とする必要がある。Nの含有量は、好ましくは0.007%以下であり、より好ましくは0.0065%以下である。
Nb:0.003〜0.05%
Nbは、次に述べる三つの理由から、本発明において必要不可欠な元素である。第一の理由として、Nb−Ti複合炭窒化物を有効に微細分散析出させて低温加熱中のオーステナイト粒成長を抑制し、微細で均一なオーステナイト組織の加熱スラブを準備するために必要である。第二の理由として、Nbは熱間圧延において未再結晶オーステナイト領域を拡大する代表的なマイクロアロイ元素であり、本発明における未再結晶オーステナイト領域での熱間圧延を充分に活用するために必要である。第三の理由として、Nbは硬化第二相を生成させることができる元素であり、オーステナイト中に固溶したNbはオーステナイトからフェライトに変態する温度を極度に低下させる効果があることから、Nbが存在するとフェライト以外の第二相が低温変態生成物となりやすく、極厚の鋼板に対しても強度を確保することができるために必要となる。これらのNbの効果を活用するために、Nbの含有量を0.003%以上とする必要がある。Nbの含有量は、好ましくは0.005%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。
しかし、Nbの含有量が0.05%を超えると過剰となり、溶接部の靱性が低下するばかりか、応力除去焼鈍した場合にも母材やHAZの靭性の低下を招く。また、溶接時に溶接金属部に溶け込んで、溶接金属部の過剰な硬化により靭性低下を招くことがある。よって、Nbの含有量は0.05%以下とする。Nbの含有量は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。
Ti:0.003〜0.05%
TiもNbと同様に、本発明において必要な元素である。Tiは、TiNとして析出してHAZのオーステナイト粒の粗大化防止に有効な元素であるだけでなく、上述した通り、Nb−Ti複合炭窒化物の低温加熱中の微細分散析出を通して加熱オーステナイトの成長を抑制するためにも有効である。TiおよびNbが共に添加された場合には、析出する炭窒化物はすべてNb−Ti複合炭窒化物となる。NbとTiの両元素が添加された場合には、両元素がともにCとNを取り込んで析出しようとするため、その析出物自体も均一で微細なものとなり、低温加熱時のオーステナイト粒成長抑制に対して非常に有効に働くこととなる。また、この複合炭窒化物はNb単体添加のときにできるNb炭窒化物よりもTiを含んでいる分、高温で安定であり、製品となった場合にも溶接時のHAZのオーステナイト粒成長抑制効果が大きく、溶接入熱が小さければHAZ靭性をより高位に安定化する傾向がある。さらに、Ti単体添加に比べても、炭窒化物が微細化する分、溶接入熱が小さい場合は、TiNのみを活用した場合に比べてHAZ靭性が高くなる場合が多い。このような効果をNbとの複合作用として得るために、Tiの含有量を0.003%以上とする必要がある。Tiの含有量は、好ましくは0.007%以上であり、より好ましくは0.010%以上である。
しかしながら、Tiを過剰に添加した場合には、溶接時にHAZ中で固溶するTi量が増加してしまい、逆にHAZ靭性を低下させてしまう。また溶接金属中に溶け込んで、溶接金属に対しても同様の悪影響がでてしまう。そこで、Tiの含有量を0.05%以下とする。Tiの含有量は、好ましくは0.04%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。
Sn:0.03〜0.50%
Snは、Sn2+となって溶解し、酸性塩化物溶液中でのインヒビター作用により腐食を抑制する作用を有する。また、Fe3+を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe3+濃度を低減する作用を有することにより、Fe3+の腐食促進作用を抑制するので、高飛来塩分環境における耐候性を向上させる。また、Snには鋼のアノード溶解反応を抑制し耐食性を向上させる作用がある。これらの作用は、Snを0.03%以上含有させることにより得られ、0.50%を超えると飽和する。したがって、Snの含有量は0.03〜0.50%とする。なお、好ましいSnの含有量の好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は0.30%である。
本発明に係る海洋構造物用厚鋼板は、上記の化学組成を有し、残部がFeおよび不純物からなる。ここで、不純物とは、厚鋼板を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明に係る厚鋼板は、上記の元素の他に、さらに、Ni、Cr、Mo、VおよびCuのうちの1種または2種以上を含有させてもよい。
Ni:3.0%以下
Niは、必要に応じて含有させることができる。Niを含有させれば、溶接性およびHAZ靱性に悪影響を及ぼすこともなく、母材の強度および靱性を向上させることができる。特に、鋼板の板厚が厚い場合あるいは鋼板に対する要求強度が高い場合には、Niを含有させることによって、Cの含有量を高めることなく、鋼板の強度を高めることができる。また、Niを含有させると、母材靭性を高める効果が大きいので、より低温での高い靭性が要求される鋼板に対しては、積極的に含有させるのが好ましい。
しかし、一般にNiは高価な金属であることから、Niを3.0%を超えて含有させると、構造用鋼材として極めて高価になるため経済性を失う。このため、Niを含有させるときの上限は3.0%とする。なお、Niを含有させることによる上記の効果を安定的に発現させたいときには、Niを0.25%以上含有させることが好ましい。
Cr:0.8%以下
Crは、必要に応じて含有させることができる。Crを含有させれば、固溶強化を通して強度を高めることができるだけでなく、耐炭酸ガス腐食性および焼入性を高めることができる。
しかし、Crを0.8%を超えて含有させると、他の成分条件を満足させても、HAZの硬化の抑制が難しくなるほか、耐炭酸ガス腐食性向上効果も飽和する。このため、Crを含有させるときの上限は、0.8%とする。なお、Crを含有させることによる上記の効果を安定的に発現させたいときには、Crを0.15%以上含有させることが好ましい。
Mo:0.8%以下
Mo、必要に応じて含有させることができる。Moを含有させれば、母材の強度と靱性を向上させる効果がある。
しかし、Moを0.8%を超えて含有させると、特にHAZの硬度が高まり靱性と耐SSC性を損なう。このため、Moの上限は0.8%とする。なお、Moを含有させることによる上記の効果を安定的に発現させたいときには、Moを0.05%以上含有させることが好ましい。
V:0.10%以下
Vは、必要に応じて含有させることができる。Vを含有させれば、母材の強度を向上させる効果がある。
しかし、Vを0.10%を超えて含有させると、母材やHAZの靱性が低下する。このため、Vの上限は0.10%とする。なお、Vを含有させることによる上記の効果を安定的に発現させたいときには、Vを0.02%以上含有させることが好ましい。
Cu:0.2%未満かつCu/Sn比 1.0以下
Cuは、必要に応じて含有させることができる。Cuを含有させれば、母材の靭性および溶接性をあまり損ねることなく、強度を高めることができる。特に、鋼板の板厚が厚い場合あるいは鋼板に対する要求強度が高い場合には、Cuを含有させることによって、Cの含有量を高めることなく、鋼板の強度を高めることができる。また、Cuを含有させることによって、圧延冷却後のCu析出処理による強化作用、つまり析出強化を活用することにより、低C材でもより高い強度を実現でき、溶接性に加えて低温靱性および破壊靱性の両者の向上を期待できる。
しかし、Snを含有する鋼では、Cuが0.2%以上またはCu/Sn比が1.0を超えると、Cuの含有による耐食性の低下が著しくなる。また、鋼板を製造する際に圧延割れの原因となる。このため、含有させる場合のCu含有量は0.2%未満かつSn含有量に対するCu含有量の比(Cu/Sn比)を1.0以下とする。Cu含有量の上限はより好ましくは0.15%である。なお、Cuによる上記の効果を安定的に発現させるためには、Cuを0.01%以上含有させることが好ましい。含有させる場合のCu含有量の下限はより好ましくは0.05%である。
B.厚鋼板のミクロ組織について
本発明に係る厚鋼板のミクロ組織は、未再結晶オーステナイトから変態したフェライトと硬質第二相からなり、フェライト粒径が2〜15μmでありかつ硬質第二層のアスペクト比が10未満であることを特徴とするものである。以下に、このようなミクロ組織を発現するための条件とそのメカニズムを説明する。
一般に、スラブをAc変態点(以下、単にAc点という)以上に加熱することによって、粗大な組織を均一なオーステナイト粒に一旦変態し、ミクロ組織の均一化を図ることができる。ただし、スラブの加熱温度が高くなりすぎると、炭窒化物が固溶し、それに伴ってオーステナイト粒の粗大化が生じる。また、スラブの加熱温度が高いほど、地球温暖化ガスの発生も多くなるので環境の面からも好ましくない。なお、スラブの加熱温度がAc点未満の温度域のときは、スラブの一部または全部がフェライトの状態で圧延を実施することになり、フェライトの冷間加工に類似した温間加工を行うこととなるので、本来のオーステナイトの熱間加工による種々の冶金的効果を利用できなくなる。
本発明では、地球温暖化ガスの発生を防止する観点とオーステナイトの熱間加工による種々の冶金的効果を利用する観点から、スラブの加熱温度をAc点〜1050℃未満の温度範囲に設定する。そして、厚鋼板のミクロ組織の微細化を図るべく、NbおよびTiの微量を含有させ、微細なNb−Ti複合単窒化物からなる析出物を導入するものである。すなわち、Ac点〜1050℃未満の温度範囲にスラブを加熱することで、NbとTiの炭窒化物が熱平衡的にNbと炭素にやや富んだ新たなNb−Ti複合炭窒化物に変化することによって、炭窒化物自体が微細分散する。この結果、粒界のピン止め効果によって、オーステナイト粒成長が抑制され、非常に均一で微細な加熱オーステナイト粒を形成できる。また、この温度域でスラブを加熱することによって、オーステナイト母相中に一部のNbが固溶するので、オーステナイト未再結晶温度域が拡大し、次工程である熱間圧延の際、同温度域で十分な圧延を行うことができる。
なお、スラブの加熱温度は上述したとおり、Ac点〜1050℃未満の温度範囲に設定されるが、より好ましいスラブの加熱温度の下限は、Ac点+50℃である。これは、スラブの加熱温度の下限を高くする方が、スラブを加熱した後に続く熱間圧延工程において、仕上圧延温度まで鋼材を確実にオーステナイト変態域(Ar点以上)に維持できるからである。一方、地球温暖化ガスの発生を防止するとの観点からスラブの加熱温度の上限は1050℃に設定されるが、地球温暖化ガスの発生をより防止するとの観点から、より好ましいスラブの加熱温度の上限は1000℃である。
スラブをAc点〜1050℃未満の温度範囲に加熱した後に続けて熱間圧延を行うが、このとき、仕上圧延を750℃以上で行うのが好ましい。熱間圧延工程における仕上圧延温度を750℃以上とすると、フェライト変態開始後の圧延が適度のものとなり、フェライトと硬質第二相からなる微細均一化したミクロ組織であって、フェライト粒径が2〜15μmでありかつ硬質第二相のアスペクト比が10未満のものを得ることができる。これに対して、熱間圧延工程における仕上圧延温度を750℃未満とすると、フェライト変態開始後の圧延が過度になるため、フェライトが加工硬化するととともに、硬質第二相が延伸して脆性が低下するおそれがある。
このように、本発明に係る厚鋼板のミクロ組織は、未再結晶オーステナイトから変態したフェライトと硬質第二相からなり、硬質第二相のアスペクト比が10未満であることを特徴とするものである。このような微細なミクロ組織を発現するためには、スラブの化学組成を前述のとおりに規定し、スラブ加熱工程における温度範囲をAc点〜1050℃未満に設定し、そして、その後に続く熱間圧延工程における仕上圧延温度を750℃以上に設定することによって、本発明の目的とするところの、微細均一化した「未再結晶オーステナイトから変態したフェライトと硬質第二相からなり、フェライト粒径が2〜15μmでありかつ硬質第二相のアスペクト比が10未満である」ミクロ組織を得ることができる。すなわち、本発明で特定する化学組成によりオーステナイト未再結晶温度域が拡大されること、そして、スラブ加熱工程での加熱温度が比較的低くかつ加熱温度域が狭いことから、必然的にその後に続く熱間圧延工程においては、大部分の圧延がオーステナイト未再結晶温度域で行われるので、上述のミクロ組織を得ることができる。ここで、オーステナイト未再結晶温度域での圧延は、その温度域内でなるべく低温域かつ高圧下率の圧延を行うことが望ましい。
ここで、未再結晶オーステナイトから変態したフェライトは、加工歪の累積したオーステナイト粒界および粒内の全ての領域からフェライトが一度に生成したものであり、その形態は均一かつ微細なものとなる。特に、大部分の圧延をオーステナイト未再結晶温度域で実施することとなって、圧延歪が回復されずにオーステナイト粒内に変形帯として堆積される結果、オーステナイトからフェライトへの変態にあたっては、オーステナイト粒界ばかりでなく、オーステナイト粒内の変形帯中の転位あるいは圧延により導入された転位から動的析出または静的析出した微細なNb−Ti炭窒化物を核としてフェライトが生成する。このようにオーステナイト粒界と粒内を問わず、大量の微細なフェライトが一度に生成する結果、フェライト粒径は円相当粒径で2〜15μm程度のものを得ることができる。なお、好ましいフェライト粒径は円相当粒径で2〜10μm程度である。
上述したオーステナイト未再結晶温度域での圧延後の鋼板のミクロ組織は、未再結晶オーステナイトから変態したフェライトおよび硬質第二相からなる。硬質第二相は、フェライト変態に伴って残留したオーステナイトに、ベイナイトやマルテンサイト等の低温変態生成物を含んだ硬化組織である。フェライト変態が一度にかつ均一に起これば、残留したオーステナイトは微細分散しかつ塊状の形態となりやすい。
このような組織となった場合に、鋼板は厚肉であっても最も優れる低温靭性が得られるのである。
なお、板厚が厚い場合には表面と内部の温度差が大きくなる。そして、厚鋼板は表面の温度が先に低下しやすくなる結果、厚鋼板の表面はフェライト変態が開始した状態となりやすく、上述したオーステナイト未再結晶温度域での圧延効果が発揮されないおそれがある。
しかしながら、板厚全体を通してみると、本発明における圧延はほぼオーステナイト未再結晶温度域で実施されるため、フェライト変態が一部開始した時点で若干の圧延が実施されたとしても、その後にオーステナイト未再結晶温度域で圧延が十分実施されれば、本発明の効果を充分に発揮させることができる。
ただし、前述したように、フェライト変態開始後の圧延が過度になると、変態したフェライトが加工硬化すると同時に、後述する硬質第二相が延伸化し、靭性に逆に悪影響を与えることとなる。このため、上述したオーステナイト未再結晶温度域での圧延効果を発揮するべく、フェライト粒径が2〜15μmでありかつ硬質第二相のアスペクト比が10未満となるようにコントロールしなければならない。
硬質第二相のアスペクト比10以上になると、鋼板のミクロ組織はバンド状であって、フェライトと硬質第二相が層状となった組織となり、破壊伝播停止性能等の一部の靭性は向上するものの、破壊発生特性および板厚方向の破壊靭性は一般に低下する傾向にあり、厚肉材でバランスのとれた高靭性の鋼板を得ることは難しい。
ここで、圧延完了後に鋼板は冷却されるが、その冷却速度は、変態したフェライトの成長を抑制し、残留オーステナイトの硬化組織への変態を促すことができる程度であることが望ましい。板厚が薄い場合には、圧延後の空冷でも十分な冷却速度が得られるので、加速冷却を実施する必要はないが、厚肉の鋼板においては圧延・フェライト変態後に加速冷却を適用することが望ましい。この場合、望ましい冷却条件は、板厚の(1/4)t部(tは板厚を示す)において、800℃から500℃までの冷却速度が0.5℃/秒以上であって、少なくとも500℃以下まで冷却されることが目安となる。
所望のミクロ組織が得られた場合には、圧延ないしは圧延・加速冷却した後に、焼戻しをすることができる。この場合、焼戻しを実施しても基本的なミクロ組織に大きな変化が起こらないことから、所望の厚鋼板の性能を維持することができる。ただし、焼戻温度が680℃を超えるような高温になると、硬化第二相が分解して強度が目標値を下回るおそれがある。よって、圧延・加速冷却した後に焼戻しする場合には、焼戻温度を680℃以下とすることが好ましい。
表1に実施例に用いた供試鋼の化学成分を示す。各供試鋼は造塊後、分塊圧延によりあるいは連続鋳造によりスラブとなしたものであり、研究所レベルの小型電気溶解炉によって溶製したものと、実機製鉄所の高炉、転炉により溶製したものの両方を含んでいる。
Figure 0005644522
ここで、表1に示す各供試鋼のうち、鋼番1〜14および20〜27は本発明で規定する化学組成の範囲内であり、そして、鋼番15〜18,28および29は本発明で規定する化学組成の範囲外である。
表2に、表1に示す各供試鋼のスラブの加工条件を示す。併せて、それぞれの変態点を示す。なお、変態点Ac3およびAr3は、下記の式によって推定した値である。
Ac3=910.7-295.7C+61.2Si-30.3Mn+333.1*P-27.1Cu-2.6Cr-27.5Ni-1.8Mo+70.9V
(ただし、今回の推定では、P=0.01%と仮定した)
Ar3=910-310C-80Mn-20Cu-15Cr-55Ni-80Mo+0.35*(板厚(mm)-8)
ここで、式中の元素記号は、各供試鋼中の元素の含有量(質量%)を表す。
Figure 0005644522
各スラブは表2に示す条件でスラブ全体が均一になるように加熱し、続けて圧延し、所定の仕上圧延後に室温まで冷却した。このうち、鋼番14については冷却後660℃で焼戻しした。なお、仕上圧延後の厚鋼板の板厚は表2に示すとおりである。
製造した厚鋼板については、機械的性質および耐食性を調査するとともにミクロ組織を観察した。具体的には、以下の調査を行った。
引張試験においては、JIS−Z−2201に記載の試験方法に準じて試片を採取した。採取位置は、板厚方向の1/2近辺およびT方向(圧延方向と直角)とした。なお、降伏点は10N/(mm・s)の試験速度として下降伏点を求め、明確な降伏点が現れない場合は0.2%耐力とした。
衝撃試験においては、JIS−Z−2202に記載の試験方法に準じて試片を採取した。採取位置は、板厚方向の1/2近辺およびT方向(圧延方向と直角)で、2mmVノッチシャルピー試験片とし、破面の脆性破面率が50%となる温度を延性−脆性遷移温度(vTrs)として計測した。
耐食性は、得られた鋼材から得た試験片をSAE(Society of Automotive Engineers)J2334試験により評価した。SAE J2334試験は、湿潤:50℃、100%RH、6時間、塩分付着:0.5%NaCl、0.1%CaCl、0.075%NaHCO水溶液浸漬、0.25時間、乾燥:60℃、50%RH、17.75時間を1サイクル(合計24時間)とした加速試験であり、腐食形態が大気暴露試験に類似しているとされている(長野博夫、山下正人、内田仁著:環境材料学、共立出版(2004)、p.74)。なお、本試験は、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。
SAE J2334試験120サイクル終了後、各試験片の表面のさび層を除去し、板厚減少量を測定した。ここで、「板厚減少量」は、試験片の平均の板厚減少量であり、試験前後の質量減少と試験片の表面積を用いて算出したものである。
また、耐塗装剥離性を調べるために、150×70mmの大きさの試験片にエアースプレーにより変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗装し、鋼材素地に達する深さでクロスカットを入れてから、同じくSAE J2334試験により評価した。
鋼板のミクロ組織は、鋼板長手方向に平行な板厚断面において、板厚の1/4および板厚中心部の組織を光学顕微鏡により観察し、硬化第二相の平均のアスペクト比を求めた。また、フェライト粒径はJISG0552で定められた試験方法に基づく顕微鏡観察から粒径を数値化した。
表3に、母材の機械的性質として、降伏点(MPa)および引張強さ(MPa)並びにシャルピー衝撃試験結果(延性脆性遷移温度(vTrs))、さらに、ミクロ組織観察によって得られた硬質第2相のアスペクト比とフェライト粒径(μm)を示す。
Figure 0005644522
本実施例における目標性能は、海洋構造物用の降伏強度320MPa以上、引張強度440MPa以上の厚鋼板とし、靱性の目標値はシャルピー試験の延性脆性遷移温度(vTrs)で−70℃以下、耐食性試験での板厚減少量が0.25mm、剥離面積率30%以下である。本発明例(鋼板1〜14)はいずれも良好な特性を有していることが判る。
これに対して、鋼番15〜17の厚鋼板は化学組成が本発明で規定する化学組成を満足しないために、良好な靭性を達成できなかった。
また、鋼番18の厚鋼板はNbを含有しない。このため、Nb−Ti複合炭窒化物によるオーステナイト粒の成長を抑制することができず、微細なフェライト組織を得ることができない。また、仕上圧延温度が低く硬質第二相のアスペクト比も大きくなったため、靭性が悪化した。
さらに、鋼番19〜21および24〜26の厚鋼板は本発明で規定する化学組成の範囲内であるが、いずれも仕上圧延温度が低いため、硬質第二相のアスペクト比も大きくなり、靭性が悪化した。このうち、鋼番24の厚鋼板はスラブ加熱温度も1100℃超と高く、フェライト粒径も大きくなったことも靭性が悪化した原因であると考えられる。
鋼番22、23および27の厚鋼板も本発明で規定する化学組成の範囲内であるが、いずれもスラブ加熱温度が高い。このため、フェライト粒径が大きくなり、靭性が悪化した。
鋼番28の厚鋼板は化学組成が本発明で規定する化学組成を満足しないスラブ、すなわちSn含有量に対しCuを多く含有するスラブを用いて厚鋼板を製造したため、圧延の際に割れが生じた。このため、以後の試験を中止した。
鋼番29の厚鋼板は化学組成が本発明で規定する化学組成を満足しないスラブ、すなわちSn含有量が少ないため、機械的性質は良好なものの、耐食性が悪化した。
本発明は、破壊靱性に優れ、かつ高塩化物環境における耐食性に優れる海洋構造物用厚鋼板を安価かつ簡便な手段で提供することができる。より具体的には、降伏強度320MPa以上、引張強度440MPa以上、延性脆性遷移温度(vTrs)−70℃以下を満足する破壊靱性ならびに耐食性(耐塗装剥離性および無塗装時の耐候性)に優れる海洋構造物用厚鋼板を安価かつ簡便な手段で提供することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.1%,Si:0.03〜0.5%,Mn:0.5〜2.0%、Al:0.002〜0.08%,N:0.001〜0.008%,Nb:0.003〜0.05%,Ti:0.003〜0.05%,Sn:0.03〜0.50%,Cu:0.2%未満,残部がFeおよび不純物からなる厚鋼板であって、Cu/Sn比が1.0以下であり、鋼板のミクロ組織が、未再結晶オーステナイトから変態したフェライトと硬質第二相からなり、フェライト粒径が2〜15μmでありかつ硬質第二相のアスペクト比が10未満であることを特徴とする、降伏強度320MPa以上、引張強度440MPa以上、延性脆性遷移温度(vTrs)−70℃以下、板厚減少率0.25mm以下、剥離面積率30%以下の海洋構造物用厚鋼板。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Ni:3.0%以下,Cr:0.8%以下,Mo:0.8%以下,V:0.10%以下の元素のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の海洋構造物用厚鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の化学組成を有するスラブをAc変態点〜1050℃未満の温度範囲に加熱し、続けて熱間圧延を未再結晶オーステナイト温度域で行い、このときの仕上圧延温度を750℃以上で行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の海洋構造物用厚鋼板の製造方法。
  4. さらに680℃以下で焼戻しを行うことを特徴とする、請求項に記載の海洋構造物用厚鋼板の製造方法。
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