JP2010144207A - 鋼管矢板および鋼管矢板壁 - Google Patents

鋼管矢板および鋼管矢板壁 Download PDF

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洋一 小林
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Abstract

【課題】十分な耐食性を有する鋼管矢板および鋼管矢板壁を提供する。
【解決手段】鋼管部とこの鋼管部の長手方向の側面に設けられた継手部からなる鋼管矢板であって、上記鋼管部の外面の少なくとも一部は次の(i)で規定する防食処理鋼材で被覆されており、かつ、上記継手部の少なくとも一部は次の(i)で規定する防食処理鋼材からなる防食継手部で置換されている鋼管矢板。(i)質量で、C、Si、Mn、P、S、Cu、Ni、Cr、Al、NおよびSnを含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼材の表面に防食被膜層を有する防食処理鋼材。(ii)質量で、C、Si、Mn、P、S、Cu、Ni、Cr、Al、NおよびSnを含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼材の表面に防食被膜層を有する防食処理鋼材。
【選択図】図1

Description

本発明は、海岸、湾岸または河川等において岸壁形成または護岸等のために使用される鋼管矢板および鋼管矢板壁に関する。
鋼管部と継手部からなる鋼管矢板は、連続的に地中に打ち込まれ、隣接する鋼管矢板の継手部同士を嵌合されることによって、鋼管矢板壁を形成して、主に河川、海岸、港湾などの護岸に用いられている。したがって、屋外の自然環境の中で、河川水、排水、雨水、海水などの水、大気、太陽光などに曝され、また土砂、泥、瓦礫などに直接強く接するので、鋼管矢板および鋼管矢板壁を構成する鋼材には、著しい腐食が起こり易い。特に、海洋環境においては、非常に過酷な腐食環境であるため、鋼材が著しく腐食し、鋼管矢板および鋼管矢板壁の寿命を大きく低下させる。したがって、より長期間持続可能でかつ効果的な防食対策が望まれている。
この対策として、従来より、1〜3mm厚を有するポリオレフィンやポリウレタン等の樹脂でもって、鋼管矢板の鋼管部に防食被膜層を形成することにより、鋼管矢板に防食性を与えてなる防食被膜処理鋼矢板(以下、単に「防食鋼矢板」とも言う。)が使用されている。
しかしながら、鋼管矢板は、隣接する継手部を互いに嵌合させる必要があるため、継手部に防食被膜を形成することが困難であり、また、鋼管部においては防食被膜層の周縁は防食することができず、その結果、鋼材の端面が露出する形となることが一般的である。そのため、鋼管矢板の防食には、防食被膜の形成に加えて電気防食(カソード防食)が併用されることが一般的である。
このように、電気防食を併用することによって、防食被膜がなされない端面においても鋼材は防食される。しかしながら、防食電流が及ぶ海中部(没水部)は防食されるが、防食電流が及ばない飛沫部においては有効な防食手段がないという問題があった。また、主に干満部において、流木等で防食被膜にキズが生じる場合があるが、干満部は常に防食電流が流れる状況であるというわけではないため、キズが生じた部位における防食被膜の剥がれの発生やその部位が腐食する場合があることが課題であった。
このため、防食鋼矢板の使用期間中の電気防食下の剥離現象を防止するために、耐水密着性や耐陰極剥離性を向上させるための種々の提案がなされてきた。
特許文献1には、Cr含有量が0.5質量%以上の低合金鋼に、絶縁抵抗が10Ωm以上の被膜を形成することによって、耐水密着性および耐陰極剥離性を向上させてなる防食鋼管矢板が開示されている。
また、特許文献2には、濃度0.5MのNaCl溶液中で常温における腐食電位が0〜−550mV vs SCE の範囲内を満足する鋼材と、この鋼材の表面に形成される有機被膜層とからなり、有機被膜層の耐端面剥離性と、鋼板と有機被膜層との二次密着性を改善してなる有機被膜鋼材が開示されている。
また、上記のような被膜を形成することなく鋼管矢板の防食性を向上させる技術も提案されている。例えば、特許文献3に記載の鋼管矢板では、防食性を向上させるために、鋼管部の外面のうち水と接触する部分がチタンクラッド鋼板によって被覆されている。
特開2000-355775号公報 特開2003-301284号公報 特開平11-293664号公報
しかしながら、特許文献1で開示された技術は、没水部における剥離はある程度抑制できるものの、海洋飛沫部のように乾湿繰り返しがあり、電気防食の効果が及ばない部位では、逆に腐食が促進されるという問題がある。
そして、特許文献2で開示された技術は、塩水噴霧試験では優れた効果を示しており、常時濡れた環境では防食効果がある。しかしながら、海洋飛沫部のような乾湿繰り返し環境では局部的に腐食が進行するという問題がある。
また、特許文献3記載の鋼管矢板においては、チタンクラッド鋼板の端部が継手部に接触している。この場合、チタンクラッド鋼板と継手部との接触部において異種金属接触腐食が発生する。それにより、鋼管矢板の防食性が低下する。
本発明は、このような状況に鑑み、十分な耐食性を有しかつ異種金属接触腐食の発生が防止された鋼管矢板および鋼管矢板壁を提供することを目的とする。
本発明者らは、防食被膜鋼材の端面あるいは損傷部からの被膜層の剥がれと膨れ、そして、鋼材の腐食深さ、特に乾湿繰り返し環境となる海洋飛沫部における現象について、種々の実験と詳細な検討を重ねた。
その結果、海洋飛沫部のように塩分量の付着が多く、乾湿繰り返しの環境下では、FeCl溶液の乾湿繰り返しが本質的な条件となり、Fe3+の加水分解によりpHが低下した状態で、かつFe3+が酸化剤として作用することによって腐食が加速されることを見出した。
このときの腐食反応は、以下に示すとおりである。
カソード反応としては、主として、次の反応が起こる。
Fe3++e→Fe2+ (Fe3+の還元反応)
そして、この反応以外にも、次のカソード反応も併発する。
2HO+O+2e→4OH
2H+2e→H
一方、上記のFe3+の還元反応に対して、次のアノード反応が起こる。
アノード反応:Fe→Fe2++2e (Feの溶解反応)
従って、腐食の総括反応は、次の(1)式のとおりである。
2Fe3++Fe→3Fe2+ ・・・・・・(1)式
上記(1)式の反応により生成したFe2+は、空気酸化によってFe3+に酸化され、生成したFe3+は再び酸化剤として作用し、腐食を加速する。この際、Fe2+の空気酸化の反応速度は低pH環境では一般に遅いが、濃厚塩化物溶液中では加速され、Fe3+が生成され易くなる。このようなサイクリックな反応のため、塩分量が非常に多い環境では、Fe3+が常に供給され続け、鋼の腐食が加速され、耐食性が著しく劣化することになることが判明した。
このように、塩分量が非常に多い環境では、鋼自身のアノード溶解反応を遅くするのが有効である。すなわち、塩分量が非常に多い環境では、Crを含有する鋼はアノード溶解反応が促進されるために、耐食性が劣化するものと想定される。
上述の塩分環境における腐食のメカニズムを基に、種々の合金元素の耐食性ならびに耐剥離性への影響について検討した結果、下記の(a)〜(i)に示す知見を得た。
(a)Snは、Sn2+として溶解し、2Fe3++Sn2+→2Fe2++Sn4+なる反応によりFe3+の濃度を低下させることで、(1)式の反応を抑制する。Snには、さらにアノード溶解を抑制するという作用もある。このSnの添加による耐食性向上により、防食被膜の端部ならびにキズ部の剥離が抑制されることが判明した。
(b)Niは、従来から耐食性を向上させる合金元素として知られているが、Snと複合添加した場合には、塩分の多い環境における耐食性の改善効果が無く、多量に添加すると、逆に耐食性を劣化させることが判明した。このNiの挙動は、Ni添加量が増すほど耐食性が向上するという従来の知見とは相反するものである。
(c)これに対して、Crは単独添加した場合には、塩分量の多い環境において耐食性を劣化させるが、Snと複合添加した場合には、塩分量の多い環境での耐食性を向上させる効果を発揮することが判明した。
(d)Alを含有させると、海洋飛沫環境では耐食性が向上する。
(e)Nはアンモニアとして溶解し、腐食界面のpHを上昇させる作用を有する。塩分量の多い環境では、上記Fe3+の加水分解によりpHが低下するが、Nを含有させることにより、腐食界面のpH低下が抑制され、耐食性および塗膜剥離性が向上する。
(f)以上の(a)〜(e)の成分を含有させた材料に、Ti、Nb、Mo、W、V、CaおよびMgから選んだ1種または2種以上を含有させても、耐食性の改善に効果がある。
(g)さらに、REMを含有させると、鋼材の溶接性が改善される。
(h)これらの鋼材は、表面に防食被膜を形成した場合、端面ならびにキズ部の腐食深さを抑制するとともに、防食被膜の剥離を抑制する効果がある。
(i)鋼管矢板の耐食性を向上させるためには、鋼管部の全部にこの防食被膜を有する鋼材を用いなくても、防食性の要求される鋼管部の一部をこの防食被膜を有する防食処理鋼材で被覆するだけでもよい(以下、防食処理鋼材で被覆した部分を「防食層」という。)。そして、継手部の全部にこれらの防食被膜を有する防食処理鋼材を用いなくても、継手部の一部を防食処理鋼材で置換するだけでよい(以下、この防食処理鋼材で置換した部分を「防食継手部」という。)。また、防食処理鋼材は、汎用の鋼矢板、鋼管矢板または鋼管杭等に用いられるいわゆる炭素鋼と海水中における電位の差が殆どないため、異種金属接触腐食を考慮する必要がない。
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は、次の(1)〜(8)の鋼管矢板および(9)の鋼管矢板壁にある。以下、総称して、本発明ということがある。
(1) 鋼管部とこの鋼管部の長手方向の側面に設けられた継手部からなる鋼管矢板であって、上記鋼管部の外面の少なくとも一部は次の(i)で規定する防食処理鋼材で被覆されており、かつ、上記継手部の少なくとも一部は次の(ii)で規定する防食処理鋼材からなる防食継手部で置換されていることを特徴とする鋼管矢板。
(i) 質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5%を超え2.5%以下、P:0.03%未満、S:0.005%以下、Cu:0.2%未満、Ni:0.2%未満、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.1%およびSn:0.03〜0.50%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼材の表面に防食被膜層を有する防食処理鋼材。
(ii) 質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5%を超え2.5%以下、P:0.03%未満、S:0.005%以下、Cu:0.2%未満、Ni:0.2%未満、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.1%およびSn:0.03〜0.50%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼材の表面に防食被膜層を有する防食処理鋼材。
(2) (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、Ti:0.3%以下およびNb:0.1%以下よりなる群から選ばれた1種又は2種を含有することを特徴とする、上記(1)の鋼管矢板。
(3) (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下およびV:1.0%以下よりなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)又は(2)の鋼管矢板。
(4) (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、Ca:0.1%以下およびMg:0.1%以下よりなる群から選ばれた1種又は2種を含有することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼管矢板。
(5) (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、REMを0.02%以下含有することを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の鋼管矢板。
(6) 防食被膜は、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリオレフィン樹脂のうちの1種又は2種以上からなることによってなされることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼管矢板。
(7) 鋼管矢板の少なくとも水面の変動範囲および飛沫帯に、(i)の防食処理鋼材が被覆されていることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の鋼管矢板。
(8) 鋼管矢板の少なくとも水面の変動範囲および飛沫帯に、(ii)の防食処理鋼材が置換されていることを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれかに記載の鋼管矢板。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれかに記載の鋼管矢板により形成されることを特徴とする鋼管矢板壁。
本発明にかかる鋼管矢板および鋼管矢板壁は、塩分量が多い環境下においても十分な耐食性を有している。また、防食被膜の剥離抑制、被膜の端部およびキズ部の耐食性・耐剥離性に優れるため、欠陥部等からの腐食を著しく抑制することができるので、メンテナンスミニマム化に寄与する材料として広く適用することができる。
以下、本発明の実施の形態に係る鋼管矢板および鋼管矢板壁について図面を用いて説明する。
1.鋼管矢板に用いられる防食処理鋼材の詳細
以下に、本発明にかかる鋼管矢板に用いられる防食処理鋼材に含まれる合金元素の作用効果を、その含有量の限定理由とともに、説明する。なお、合金元素の含有量「%」は、いずれも「質量%」を意味する。
C:0.001〜0.15%
Cは、鋼の強度を確保するために必要な合金元素であるが、多量に含有させると鋼材の溶接性が劣化する。したがって、C含有量は0.15%を上限とする。また、0.001%未満になると所定の強度が確保できないので、下限は0.001%とする。望ましい範囲は、0.005%〜0.15%である。
Si:2.5%以下
Siは、製鋼時の脱酸に必要な合金元素である。同じく脱酸剤としての働きをするAlを含有する場合には、特に添加をしなくてもよいが、Al含有量が0.005%未満の場合には、0.4%以上含有させるのが望ましい。一方、Siを2.5%を超えて含有させると、鋼の靱性が損なわれる。したがって、Siの含有量は2.5%以下とする。また、Siには耐食性を向上させる効果もある。この効果を確実に得たい場合には、0.1%以上添加するのが好ましい。
Mn:0.5%を超え2.5%以下
Mnは、低コストで鋼の強度を高める作用効果を有する元素であり、鋼中のSの含有量が低い場合には、一般に塩分環境における耐食性を向上させる作用を有する。しかしながら、鋼中のSと結合してMnSを形成し、このMnSが腐食の起点となり、耐食性を劣化させる。また、機構は不明であるが、Niと共存する場合にはMnの含有量が2.5%を超えると耐食性が劣化する。したがって、Mnの含有量は2.5%以下とする。望ましくは1.5%以下とする。なお、構造用鋼としての強度を維持するためには、Mnを0.5%を超えて含有させる必要がある。
P:0.03%未満
Pは、不純物として含有されるが、濃厚塩化物環境での過度のPの含有は耐食性を劣化させるため、できるだけ少なくする必要がある。したがって、その含有量は0.03%未満とする。
S:0.005%以下
Sは、不純物として含有されるが、Mnと結合すると非金属介在物のMnSを形成して腐食の起点となり易く、耐食性を劣化させる。したがって、Sの含有はできるだけ少なくする必要があるので、その上限は0.005%とする。
Cu:0.2%未満
Cuは、一般的に耐食性を向上させる基本元素とされ、ほぼ全ての耐食鋼に添加されているが、高塩分の比較的ドライな環境においては、むしろ耐食性を低下させる場合がある。したがって、Cuの含有はできるだけ少なくする必要があり、不純物として含有されるとしても、Cu含有量は0.2%未満とする必要がある。
Ni:0.2%未満
Niは、一般的に塩分量の多い環境下での耐食性を著しく向上させる元素として従来から鋼中に添加され、Ni系耐候性鋼として開発・実用化されてきている。しかし、理由は定かではないが、Snと複合添加した場合には、耐食性の改善効果がないばかりか、Snによる耐食性改善効果を低下させるという悪影響が現れる。したがって、Niの含有はできるだけ少なくする必要があり、不純物として含有されるとしても、Ni含有量は0.2%未満とする必要がある。
Cr:0.01〜3.0%
Crは、塩分量がそれほど多くない環境では耐食性の向上が期待できるが、塩分量が多い環境において鋼のアノード溶解反応を促進し耐候性を劣化させる。ところが、Snを含有する場合には、塩分量が多い環境においても、Cr含有による耐食性の向上効果が発揮される。この効果は含有量0.01%以上で発揮されるが、3.0%を超えると局部腐食感受性が高まるとともに、溶接性が劣化する。したがって、Cr含有量は0.01〜3.0%とする必要がある。なお、Crの含有量の望ましい範囲は0.05〜1.0%である。
Al:0.003〜0.1%
Alは、0.003%以上含有させると耐食性が向上するが、含有量が0.1%を超えると鋼が脆化し易くなる。したがって、Alの含有量は0.003〜0.1%とする。
N:0.001〜0.1%
Nは、アンモニアとなって溶解し、塩分量の多い環境におけるFe3+の加水分解によるpH低下を抑制することで、塩分環境における耐食性を向上させる効果を有する。この効果はNを0.001%以上含有させることにより得られ、0.1%を超えると飽和する。したがって、Nの含有量は0.001〜0.1%とする。含有量の望ましい範囲は0.002〜0.08%である。
Sn:0.03〜0.50%
Snは、Sn2+となって溶解し、酸性塩化物溶液中でのインヒビター作用により腐食を抑制する作用を有する。また、Fe3+を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe3+濃度を低減する作用を有することにより、Fe3+の腐食促進作用を抑制するので、高塩分環境における耐食性を向上させる。また、Snには鋼のアノード溶解反応を抑制し耐食性を向上させる作用がある。さらに、Snを含有することにより、塩分が多い環境においてもCrの耐候性を向上させる効果が発揮される。
これらの作用は、Snを0.03%以上含有させることにより得られ、0.50%を超えると飽和する。したがって、Snの含有量は0.03〜0.50%とする。Snの含有量の望ましい範囲は0.03〜0.20%である。
Cu/Sn比:1以下
本願発明のようにSnを含有する鋼の場合には、Cuの含有による耐食性の低下が著しい。また、鋼材を製造する際、Cuの含有による圧延割れの原因ともなる。このため、Cu/Sn比、すなわち、Si含有量に対するCu含有量の比を1以下とする必要がある。
本発明にかかる防食処理鋼材は、上記の合金元素の他に、さらにTi、Nb、Mo、W、V、CaおよびMgよりなる群から選ばれた1種または2種以上を含有してもよいし、また、REMを含有してもよい。これらの元素を含有させてもよい理由とそのときの含有量は、次の通りである。
Ti:0.3%以下
Tiは、TiCを形成してCを固定することによって、クロム炭化物の形成を抑制して耐食性を向上させる。また、TiSの形成によりSを固定することによって、腐食の起点となるMnSの形成を抑える。しかしながら、Tiの含有量が0.3%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.3%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Tiを0.01%以上含有させるのが好ましい。
Nb:0.1%以下
Nbには、Tiと同様、NbCを形成することによって、クロム炭化物の形成を抑制して耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Nbの含有量が0.1%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、防食処理鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.1%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Nbを0.01%以上含有させるのが好ましい。
Mo:1.0%以下
Moは、溶解して酸素酸イオンMoO 2−の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Moの含有量が1.0%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、防食処理鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は1.0%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Moを0.01%以上含有させるのが好ましい。
W:1.0%以下
Wは、Moと同様、溶解して酸素酸イオンMoO 2−の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Wの含有量が1.0%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、防食処理鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は1.0%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Wを0.01%以上含有させるのが好ましい。
V:1.0%以下
Vは、MoやWと同様、溶解して酸素酸イオンMoO 2−の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制し、耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Vの含有量が1.0%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、防食処理鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は1.0%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Vを0.01%以上含有させるのが好ましい。
Ca:0.1%以下
Caは、鋼中に酸化物の形で存在し、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制して、腐食の促進を抑える効果がある。しかしながら、Caの含有量が0.1%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、防食処理鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.1%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Caを0.0001%以上含有させるのが好ましい。
Mg:0.1%以下
Mgは、Caと同様、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制し、耐食性を向上させる効果がある。しかしながら、Mgの含有量が0.1%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、防食処理鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.1%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、Mgを0.0001%以上含有させるのが好ましい。
REM:0.02%以下
REMは、鋼の溶接性を向上させる目的で含有させることができる。しかしながら、REMの含有量が0.02%を超えると、この効果が飽和するだけでなく、防食処理鋼材のコストが上昇するので、その含有量の上限は0.02%とする。なお、この効果を確実に発現させるために、REMを0.0001%以上含有させるのが好ましい。なお、REMとは、ランタニドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種又は2種以上を含有させることができる。なお、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
本発明に係る防食処理鋼材は、上記の必須元素あるいはさらに上記の任意元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなる防食処理鋼材である。ここで、不純物とは、原料鉱石やスクラップ等から混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。なお、鋼中にオキサイド等の介在物が微細分散されている鋼も本発明の防食処理鋼材に含まれる。
本発明に係る防食処理鋼材は、板材、管材、棒材、H型鋼などの異形鋼材を含む多様な形状とすることができる。鋼材の厚みは一般に3mm以上とすることが好ましい。耐食性鋼材は一般に熱間圧延材であるが、本発明の防食処理鋼材を製造する際の熱間圧延条件は特に制限されず、通常と同様でよい。
本発明に係る防食処理鋼材に用いられる「防食被膜」とは、樹脂の厚膜被膜であって、鋼材に優れた防食性を与えることができるものをいう。この厚膜に用いる各樹脂は公知のものでよい。より具体的には、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリオレフィン樹脂のうちの1種または2種以上からなる樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂の厚みは、加工性及び海上の浮遊物に対する耐衝撃性等を考慮して決定されることが好ましい。例えば、0.3〜5mmとすることが好ましい。
防食処理される鋼材は、予めショットブラスト、グリッドブラストまたはサンドブラスト等の物理的手段により、あるいは酸洗またはアルカリ脱脂などの化学的手段により表面が清浄化されていることが好ましい。
また、公知のクロメ−ト処理やリン酸塩処理を施すことが可能も可能である。さらに、ジンクリッチプライマーあるいはジンクリッチペイントを樹脂被膜下に予め形成することもできる。特に、汎用のエポキシ樹脂や変性エポキシ樹脂の被膜の場合には効果が大きい。
ポリウレタン被膜も公知のプライマーを施した後に形成することができる。また、ポリオレフィン樹脂被膜は、公知のエポキシプライマーや変性ポリオレフィン樹脂を介して形成することができる。
2.鋼管矢板および鋼管矢板壁の形状的特徴
次に、本発明の実施の形態に係る鋼管矢板および鋼管矢板壁について図面を用いて説明する。
図1は、本実施の形態に係る鋼管矢板の一例を示す斜視図である。なお、図1には、鋼管矢板の上端側が示されている。
ここでは、本実施の形態に係る鋼管矢板10は、長尺状の鋼管部11およびその鋼管部11の側面に設けられる断面略C字状の2つの継手部12を有する。2つの継手部12は、鋼管部11の軸心を対象軸として線対称となるように、鋼管部11の側面に設けられている。また、各継手部12は、鋼管部11の軸方向に平行な方向に延びるように設けられている。
そして、各継手部12は、防食継手部12aおよび下部継手部12bとから構成されている。防食継手部12aは、前述の防食処理鋼材からなる。下部継手部12bは、例えば炭素鋼からなる。防食継手部12aと下部継手部12bとは、溶接(例えば、シーム溶接)により接合されている。
また、鋼管部11の外面は、一方の継手部12と他方の継手部12とにより、内外面の2つの領域に分割されている。そして、鋼管部11の外面の手前側には、一方の防食継手部12aと他方の防食継手部12aとの間の領域を前述の防食処理鋼板で被覆することによって、防食層13が形成されている。
防食層13の鋼材は、防食継手部12aの鋼材と同種の化学組成を有する。防食継手部12aと防食層13とは、溶接(例えば、シーム溶接)により接合されている。また、防食層13の下端面は、溶接(例えば、シーム溶接)により鋼管部11の外面に接合されている。
以下、使用例に基づいて鋼管矢板10及び鋼管矢板壁20をより詳細に説明する。
図2および図3は、鋼管矢板10の海岸での使用の一例を示す図である。なお、図2は、鋼管矢板10から形成される鋼管矢板壁20を示す斜視図(一部断面図)であり、図3は、その側面図(一部断面図)である。
図2および図3に示す例では、複数個の鋼管矢板10を隣接する継手同士を嵌合することにより鋼管矢板壁20が形成されている。鋼管矢板壁20は、海岸の岸壁50に沿って直立するように海底地盤(水底地盤)51に打ち込まれている。各鋼管矢板10の上端部は、岸壁50上のコンクリート構造物52内に埋設されている。これにより、鋼管矢板壁20が固定されている。
図4は、鋼管矢板壁20を形成する手順を説明するための図である。なお、図4において、(a)は鋼管矢板壁20の斜視図であり、(b)は(a)のA−A線矢視断面図である。
図4に示すように、鋼管矢板10同士を連結する場合には、鋼管矢板10の継手部12の一つが、隣接する鋼管矢板10の継手部12の一つにはめ込まれる。このようにして、複数の鋼管矢板10を連結することにより鋼管矢板壁20が形成される。なお、本実施の形態においては、各々の鋼管矢板10の各々の防食層13が鋼管矢板壁20の手前の外面に配置されている。
このように、鋼管矢板壁20は、防食層13が海60に面するように設置されている。また、防食継手部12aおよび防食層13は、海面61の上下の変動範囲と飛沫帯をカバーするように形成されている。なお、図3において二点鎖線で示す位置h1は、干潮時の海面61の位置を示し、位置h2は満潮時の海面61の位置を示し、位置h3は満潮時に海面61からの飛沫が到達可能な位置を示す。したがって、位置h2と位置h3との間の領域が、満潮時の飛沫帯となる。
本実施の形態においては、防食継手部12aおよび防食層13の下端が、位置h1よりも下方に位置するように防食継手部12aおよび防食層13が形成されている。これにより、干潮時においても、鋼管部11の表面の腐食を著しく抑制することができる。また、防食継手部12aおよび防食層13の上端は、位置h3よりも上方に位置している。これにより、満潮時においても、海水の飛沫によって鋼管部11が腐食されることを著しく抑制することができる。
また、鋼管部11の下部(または下部継手部12b)の海側には、流電陽極70が設けられている。本実施の形態においては、この流電陽極70を用いて鋼管部11および下部継手部12bの電気防食処理を行うことができる。それにより、海側の鋼管部11および下部継手部12bの腐食を十分に防止することができる。
なお、流電陽極70は、浮遊物(流木等)の衝突による損傷を避けるため、海面61から十分に離間した位置に取り付けることが好ましい。また、流電陽極70は、鋼管部11の長さ等を考慮して、鋼管部11全体を効率よく防食できる位置に取り付けることが好ましい。なお、流電陽極70としては、アルミニウム合金または亜鉛合金等を用いることができる。この場合、鋼管部11を−0.77V(vs.SCE)よりも卑な電位に保つことができ、鋼管部11の腐食を十分に防止することができる。
また、防食継手部12aの岸壁50の側の表面には、ポリウレタン塗装を施すことが好ましい。
以上のように、本実施の形態においては、海面61の変動範囲および飛沫帯に応じて鋼管矢板10の所定の領域に防食継手部12aおよび防食層13が設けられている。また、防食継手部12aおよび防食層13は、優れた耐食性を有する防食被膜鋼材からなる。これらの結果、鋼管矢板10の耐食性を十分に向上させることができる。
また、本実施の形態においては、工場等において管理された状態で、防食継手部12aおよび防食層13を鋼管部11に接合することができる。それにより、鋼管矢板10の耐食性を容易かつ確実に向上させることができる。また、作業に適さない環境(例えば、海中等)において鋼管矢板10に防食処理を施す必要がないので、鋼管矢板10を容易に設置することができるとともに、設置コストを低減することができる。
また、本実施の形態においては、防食継手部12aが防食被膜鋼材により形成されているので、防食層13によって防食継手部12aを被覆しなくてよい。この場合、防食継手部12aの形状に応じて防食層13の形状を調整する必要がないので、防食層13の加工が容易になる。すなわち、防食層13の形状は鋼管部11の形状に応じて調整されていればよいので、本発明は極めて汎用性が高い発明である。長期の耐久性向上には防食継手部12aの岸壁50の側の表面には、塗装(例えばポリウレタン塗装)を施すことが好ましい。
また、本実施の形態においては、防食継手部12aと防食層13とが溶接により接合されているので、鋼管部11と防食継手部12aとの接合部分において鋼管部11と防食層13との間に隙間が生じることが防止される。
なお、鋼管矢板10の完成時に鋼管部11と防食層13との間への酸素流入が遮断されている場合には、鋼管部11と防食層13とは完全に密着していなくてもよい。この場合、鋼管矢板10の加工段階において鋼管部11と防食層13との間に酸素が流入しても、その酸素は鋼管部11の表面の酸化によって消費される。そのため、鋼管部11の腐食は進行しない。鋼管部11と防食層13との間への酸素流入は、鋼管部11、防食継手部12aおよび防食層13を溶接により適切に接合することにより遮断することができる。
また、鋼管部11と防食層13との間に樹脂等からなる充填材を充填してもよい。この場合、鋼管部11と防食層13とが絶縁される。したがって、浮遊物等の衝突により防食層13に貫通孔が形成されても、樹脂等からなる充填材が存在するので、その貫通孔の近傍で腐食が発生することを防止することができる。また、貫通孔からの酸素流入を防止することができるので、鋼管部11の腐食を防止することができる。なお、防食層13に充填材を注入するための注入孔および空気抜き孔(注入量の確認にも用いることができる孔)を設けてもよい。この場合、防食層13を鋼管部11および防食継手部12aに接合した後に、注入孔から充填材を注入することができる。なお、注入孔および空気抜き孔の形状は、細いパイプ形状であることが好ましい。この場合、充填材の注入後に、溶接またはかしめにより注入孔および空気抜き孔を容易に塞ぐことができる。
なお、接着剤等を用いて樹脂シートを予め鋼管部11に貼り付けてもよく、あるいは鋼管部11に樹脂塗装を施してもよい。この場合、鋼管部11の外面のうち、浮遊物の衝突等による損傷が発生する恐れがある領域に樹脂シートの貼り付けまたは樹脂塗装を行っていればよい。具体的には、防食継手部12aと防食層13との接合部から約10cm以上離れた領域に樹脂シートの貼り付けまたは樹脂塗装を行ってもよい。この場合、防食継手部12aと防食層13との溶接時に発生する熱により樹脂部(樹脂シートまたは塗装された樹脂)が劣化することを防止することができる。なお、樹脂部を設けた後に防食層13を鋼管部11に取り付ける場合には、樹脂部が接着機能を有することが好ましい。この場合、鋼管部11と防食層13とを確実に接着することができるので、引き波等により防食層13が鋼管部11から剥離されることを防止することができる。
なお、鋼管部11の形状および継手部12の形状は上記の例に限定されず、例えば特許文献3に記載された鉤状の継手部の形状を含めて、種々の形状の鋼管部11および継手部12を用いることができる。
また、防食継手部12aおよび防食層13の形成領域も上記の例に限定されない。例えば、鋼管部11の海60に面する領域だけが被覆されるように防食層13が形成されてもよく、あるいは、鋼管部11の外面の全周が完全に被覆されるように防食層13が形成されてもよい。また、継手部12は、防食継手部12aと下部継手部12bから構成されてもよいが、継手部12のすべてが防食継手部12aだけで構成されてもよい。
また、鋼管矢板10のコンクリート構造物52に埋設される領域では腐食がほとんど発生しない。また、鋼管矢板10のコンクリート構造物52により、鋼管部11と防食層13への間への酸素および水の流入が遮断される。このような場合には、鋼管部11と防食層13とを殊更に接合しなくてもよい。
なお、防食継手部12aの上端部および防食層13の上端部がコンクリート等に埋設されている場合には、防食継手部12aの上端の位置と防食層13の上端の位置とが異なっていてもよい。また、海60の側において鋼管部11の電気防食が施されている場合には、防食継手部12aの下端の位置および防食層13の下端の位置が異なってもよい。
また、例えば、継手部12のうち海水等の飛沫が付着するおそれがない領域においては、防食継手部12aの代わりに、下部継手12bと同種の炭素鋼からなる継手部を設けてもよい。この場合、炭素鋼からなる継手部にはウレタン塗装等による防食被膜処理を施すことが好ましい。鋼管部11においても、継手部12と同様であり、海水等の飛沫が付着するおそれがない領域においては、防食層13を設けなくてもよい。この場合、鋼管部11の表面にウレタン塗装等による防食被膜処理を施してもよい。
なお、上記においては、鋼管矢板10が海岸で用いられる場合について説明したが、本発明に係る鋼管矢板10は、海上または川岸等の種々の場所でも用いることができる。
実施例においては、上記の防食継手部12aおよび防食層13に用いられる防食処理鋼材の性能を試験室レベルで評価した。以下、その評価結果について説明する。
表1に示した化学組成を有するNo.1〜No.26の鋼について、150Kg真空溶解炉で溶製し、インゴットに鍛造した後、1100℃に加熱後、圧延を行って、厚さ4mm×幅150mm×長さ1000mmの寸法の鋼材を作製した。次いで、この鋼材の表裏面を機械研削し、厚さ3.2mm×幅70mm×長さ150mmの試験片を切り出した。なお、本実施例で作製した鋼材の酸素含有量は0.0001〜0.005%の範囲であった。
Figure 2010144207
得られた鋼材をブラスト処理(R=50μm)した後、ウレタン用プライマー(日本ペイント(株)製の防食コーティングス製Rプライマー(N))を30ミクロンバーコーターにより塗布し、2時間室温にて乾燥後、ウレタン被膜(日本ペイント(株)製の防食コーティングス「ミゼロンS-100/A-1000」)を厚み1.5mmになるように鋼材上に形成し、鋼面にキズがつくまで塩化ビニルカッターによりクロスにカットを入れて、クロスカット試験評価を行った。なお、実施例ではウレタン被膜を例示するが、上述の他の樹脂被膜でも同様の改善効果が観察された。また、通常、ウレタン被膜は2〜5mm程度の厚みの防食被膜を形成されるが、本実施例では厚膜となると長期の試験が必要となるために、その厚みを1.5mmとした。
得られた試験片をSAE(Society of Automotive Engineers)J 2334試験を改良した改良SAE J2334試験により評価した。
改良前のSAE J2334試験は、次の条件で行う加速試験である。
湿潤:50℃、100%RH、6時間、
塩分付着:0.5質量%NaCl、0.1質量%CaCl、0.075質量%NaHCO水溶液浸漬、0.25時間、
乾燥:60℃、50%RH、17.75時間
を1サイクル(合計24時間)としたものである。
これに対して、本発明の評価に用いた改良SAE J2334試験は、海洋飛沫暴露試験を模擬するためのものであって、上記塩分付着時の水溶液を5質量%NaCl、0.1質量%CaCl、0.075質量%NaHCO水溶液浸漬に変更した。この改良SAE J2334試験における被膜の剥離と腐食形態が海洋飛沫暴露試験に類似しており、また普通鋼(JIS SM材)を無塗装材(裸材)で20サイクル試験すると、約0.4mmの平均板厚の減少となり、非常に厳しい試験と言える。
上述の改良SAE J2334試験片のクロスカット試験の120サイクル終了後、ポイントマイクロメーターを用いて、キズ部の最大腐食深さと被膜の剥離面積を、試験後の剥離部の被膜を剥がすことによって、写真撮影したのち画像処理にて測定し、試験片の表面積で割ることにより、剥離面積率を計算により得た。試験結果を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、本発明例に係る防食処理鋼材では、いずれも本発明で規定する化学組成を満足しているので、改良SAE J2334試験の結果、優れた耐食性ならびに耐剥離性に優れている。
これに対して、比較例の鋼No.23及び26の鋼材においてはSnの量が不足するために、改良SAE J2334試験で、最大腐食深さと剥離面積率が増大する傾向が明瞭に観察された。そして、比較例の鋼No.24及び25の鋼材においては、Snが規定範囲に添加されており、最大腐食深さと剥離面積率は良好なものの、Cu量が多すぎるため、Cu/Snが1を超えてしまっており、改良SAE J2334試験で腐食減量が増大する傾向が明瞭に観察された。なお、比較例の鋼No.24及び25の鋼材は、圧延後に微小の割れも観察された。
本発明に係る鋼管矢板および鋼管矢板壁は、塩分量が多い環境下においても十分な耐食性を有している。また、防食被膜の耐剥離性に優れ、そして、被膜端部およびキズ部の耐食性と耐剥離性に優れるため、海洋鋼構造物に使用した場合、欠陥部等からの腐食を著しく抑制するためメンテナンスミニマム化に寄与する材料として広く適用することができる。
本実施の形態に係る鋼管矢板の一例を示す斜視図である。 鋼管矢板の海岸での使用の一例を示す斜視図(一部断面図)である。 鋼管矢板の海岸での使用の一例を示す側面図(一部断面図)である。 鋼管矢板壁を形成する手順を説明するための図である。
符号の説明
10 鋼管矢板
11 鋼管部
12 継手部
12a 防食継手部
12b 下部継手部
13 防食層
20 鋼管矢板壁
50 岸壁
51 海底地盤
52 コンクリート構造物
60 海
61 海面

Claims (9)

  1. 鋼管部とこの鋼管部の長手方向の側面に設けられた継手部からなる鋼管矢板であって、上記鋼管部の外面の少なくとも一部は次の(i)で規定する防食処理鋼材で被覆されており、かつ、上記継手部の少なくとも一部は次の(ii)で規定する防食処理鋼材からなる防食継手部で置換されていることを特徴とする鋼管矢板。
    (i) 質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5%を超え2.5%以下、P:0.03%未満、S:0.005%以下、Cu:0.2%未満、Ni:0.2%未満、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.1%およびSn:0.03〜0.50%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼材の表面に防食被膜層を有する防食処理鋼材。
    (ii) 質量%で、C:0.001〜0.15%、Si:2.5%以下、Mn:0.5%を超え2.5%以下、P:0.03%未満、S:0.005%以下、Cu:0.2%未満、Ni:0.2%未満、Cr:0.01〜3.0%、Al:0.003〜0.1%、N:0.001〜0.1%およびSn:0.03〜0.50%を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼材の表面に防食被膜層を有する防食処理鋼材。
  2. (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、Ti:0.3%以下およびNb:0.1%以下よりなる群から選ばれた1種又は2種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の鋼管矢板。
  3. (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、Mo:1.0%以下、W:1.0%以下およびV:1.0%以下よりなる群から選ばれた1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼管矢板。
  4. (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、Ca:0.1%以下およびMg:0.1%以下よりなる群から選ばれた1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の鋼管矢板。
  5. (i)の防食処理鋼材及び/又は(ii)の防食処理鋼材は、さらに、質量%で、REMを0.02%以下含有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の鋼管矢板。
  6. 防食被膜は、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂およびポリオレフィン樹脂のうちの1種又は2種以上からなることを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載の鋼管矢板。
  7. 鋼管矢板の少なくとも水面の変動範囲および飛沫帯に、(i)の防食処理鋼材が被覆されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載の鋼管矢板。
  8. 鋼管矢板の少なくとも水面の変動範囲および飛沫帯に、(ii)の防食処理鋼材が置換されていることを特徴とする、請求項1から7までのいずれかに記載の鋼管矢板。
  9. 請求項1から8までのいずれかに記載の鋼管矢板により形成されることを特徴とする鋼管矢板壁。
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