JP5879758B2 - 耐食性に優れた鋼材 - Google Patents
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カソード反応:Fe3++ e → Fe2+ (Fe3+の還元反応)
アノード反応:Fe → Fe2++ 2e (Feの溶解反応)
2Fe3++ Fe → 3Fe2+ ・・・ (1)式
となる。
本発明において、鋼材の化学組成を規定する理由は次のとおりである。
Cは、材料としての強度を確保するために必要な元素であり、0.01%以上の含有量が必要である。しかし、0.2%を超えて含有させると溶接性が著しく低下する。また、C含有量の増大とともに、pHが低下する環境でカソードとなって腐食を促進するセメンタイトの生成量が増大するため、耐食性が低下する。このため上限を0.2%とした。Cの下限値は0.02%が好ましく、0.03%がより好ましい。Cの上限値は0.18%が好ましく、0.16%がより好ましい。
Siは脱酸に必要な元素であり、十分な脱酸効果を得るためには0.01%以上含有させる必要がある。しかし、1.0%を超えて含有させると母材および溶接継手部の靱性が損なわれる。このため、Siの含有量を0.01〜1.0%とした。Siの下限値は0.03%が好ましく、0.05%がより好ましい。Siの上限値は0.8%が好ましく、0.6%がより好ましい。
Mnは低コストで鋼の強度を高める作用を有する元素であり、この効果を得るためには0.05%以上の含有量が必要である。しかし、3.0%を超えて含有させると溶接性が劣化するとともに継手靭性も劣化する。このため、Mnの含有量を0.05〜3.0%とした。Mnの下限値は0.2%が好ましく、0.4%がより好ましい。Mnの上限値は2.5%が好ましく、2.0%がより好ましい。
Pは鋼材中に不純物として存在する元素である。Pは耐酸性を低下させる元素であり、腐食界面のpHが低下する塩化物腐食環境においては耐食性を低下させる。さらには溶接性および溶接熱影響部の靭性を低下させることから、含有量は少なければ少ないほどよい。このため、Pの含有量は0.05%以下に制限する。0.04%以下とすることが好ましく、0.03%未満とすることがより好ましい。
Sは鋼材中に不純物として存在する元素である。Sは鋼中に腐食の起点となるMnSを形成し、その含有量が0.01%を超えると、耐食性の低下が顕著になる。このため、Sの含有量は0.01%以下に制限する。0.008%以下とすることが好ましく、0.006%以下とすることがより好ましい。
Snは本発明において重要な元素であり、低pH塩化物環境において鋼のアノード溶解反応を著しく抑制するため、塩化物腐食環境における耐食性を大幅に向上させる作用を有する。上記効果を得るには0.01%以上の含有量が必要である。一方、0.5%を超えて含有させても前記の効果は飽和するばかりでなく、母材および大入熱溶接継手の靭性が劣化する。したがって、Snの含有量は0.01〜0.5%とする。Snの下限値は0.02%が好ましく、0.03%がより好ましい。Snの上限値は0.4%が好ましく、0.3%がより好ましい。
Alは、鋼の脱酸に有効な元素である。本発明では鋼中にSiを含有させるので、Siによっても脱酸が期待できる。よって、Alで脱酸処理することは必ずしも必要でない。しかし、Siに加えて、さらにAlを含有させて複合脱酸することもできる。ただし、Alの含有量が0.1%を超えると、低pH環境における耐食性が低下するため塩化物腐食環境における耐食性が低下するばかりでなく、窒化物が粗大化するために靱性の低下を引き起こす。したがって、Alを含有させる場合の含有量の上限を0.1%以下とする。好ましい上限は0.06%である。なお、Alによる脱酸効果を安定的に得るためには、Alの下限値を0.01%とすることが好ましく、0.03%とすることがより好ましい。
Cuは低pH環境における鋼のアノード溶解を抑制することにより耐食性を向上させる作用を有するので、必要に応じて含有させることができる。ただし、1.0%を超えて含有させると効果が飽和するだけでなく、脆化を起こす原因となる。したがって、その含有量は1.0%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.02%以上含有させることが好ましく、0.03%以上含有させることがより好ましい。
NiもCuと同様に、低pH環境における鋼のアノード溶解を抑制することにより耐食性を向上させる作用を有するので、必要に応じて含有させることができる。ただし、1.0%を超えて含有させると効果が飽和するだけでなく、コストの著しい上昇につながる。したがって、その含有量は1.0%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.01%以上含有させることが好ましい。Niの下限値は0.02%とすることがより好ましい。また、Niの上限値は0.8%が好ましい。
Crは、耐食性を向上させる作用を有するので、必要に応じて含有させることができる。ただし、1.0%を超えて含有させると耐酸性が低下することから、塩化物が多い環境においては耐食性が低下する場合がある。一方、1.0%以下の含有量であれば耐酸性の低下は見られないことから、Crの含有量は1.0%以下とする。耐食性向上効果を安定的に得るためには、0.01%以上含有させることが好ましい。Crの下限値は0.02%とすることがより好ましい。また、Crの上限値は0.8%が好ましい。
Moは溶解して酸素酸イオンMoO4 2-の形でさびに吸着し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制する作用効果を有する元素であるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、含有量が1.0%を超えると効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが大幅に上昇する。したがって、Moの含有量は1.0%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.01%以上含有させることが好ましい。Moの下限値は0.02%とすることがより好ましい。また、Moの上限値は0.7%が好ましい。
WはMoと同様に、溶解して酸素酸イオンMoO4 2-の形で存在し、さび層中の塩化物イオンの透過を抑制する作用効果を有する元素であるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、含有量が1%を超えると効果が飽和するだけでなく、鋼材のコストが大幅に上昇する。したがって、Wの含有量は1.0%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.01%以上含有させることが好ましい。Wの下限値は0.02%とすることがより好ましい。また、Wの上限値は0.7%が好ましい。
Sbは耐酸性に優れた元素であり、低pH環境において鋼のアノード溶解反応を抑制するとともに、水素ガス発生反応やFe3+の還元反応を抑制することで塩化物環境における耐食性を向上させるので、必要に応じて含有させることができる。しかし、0.2%を超えて含有させると靭性が著しく劣化する。したがって、Sbの含有量は0.2%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.01%以上含有させることが好ましい。Sbの下限値は0.02%とすることがより好ましい。また、Sbの上限値は0.15%が好ましい。
Tiは硫化物の形成により腐食の起点となるMnSの形成を抑える作用効果を有する元素であるので、必要に応じて含有させることができる。しかし、0.2%を超えて含有させると効果が飽和するだけでなく鋼材のコストが上昇する。したがって、Tiの含有量は0.2%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.001%以上含有させることが好ましい。Tiの下限値は0.005%とすることがより好ましい。また、Tiの上限値は0.15%が好ましい。
ZrはTiと同様に、硫化物を形成することにより腐食の起点となるMnSの形成を抑える作用効果を有しているので、必要に応じて含有させることができる。しかし、0.2%を超えて含有させると効果が飽和するだけでなく鋼材のコストが上昇する。したがって、Zrの含有量は0.2%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.001%以上含有させることが好ましい。Zrの下限値は0.005%とすることがより好ましい。また、Zrの上限値は0.15%が好ましい。
Caは鋼中に酸化物の形で存在し、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制して、腐食の促進を抑える作用を有しているので、必要に応じて含有させることができる。しかし、0.01%を超えて含有させると効果が飽和する。したがって、Caの含有量は0.01%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.0002%以上含有させることが好ましい。Caの下限値は0.0005%とすることがより好ましい。また、Caの上限値は0.005%が好ましい。
Mgは、Caと同様に、腐食反応部における界面のpHの低下を抑制するので、必要に応じて含有させることができる。しかし、0.01%を超えて含有させると効果が飽和する。したがって、Mgの含有量は0.01%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.0002%以上含有させることが好ましい。Mgの下限値は0.0005%とすることがより好ましい。また、Mgの上限値は0.005%が好ましい。
Nbは鋼材の強度を上昇させる元素であるので、必要に応じて含有させることができる。しかし、0.1%を超えて含有させると効果が飽和するため、Nbの含有量は0.1%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.001%以上含有させることが好ましい。Nbの下限値は0.003%とすることがより好ましい。また、Nbの上限値は0. 05%が好ましい。
VはNbと同様に鋼材の強度を上昇させる元素であり、また、MoやWと同様に、溶解して酸素酸イオンの形で存在しさび層中の塩化物イオンの透過を抑制する作用も有するので、必要に応じて含有させることができる。しかし、含有量が0.5%を超えると効果が飽和するばかりでなくコストが著しく上昇する。したがって、Vの含有量は0.5%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.005%以上含有させることが好ましい。Vの下限値は0.01%とすることがより好ましい。また、Vの上限値は0.3%が好ましい。
Bは焼入性を向上させて強度を高める元素であるので、必要に応じて含有させることができる。しかし、Bの含有量が0.01%を超えると、強度を高める効果が飽和し、また、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、Bの含有量は0.01%以下とする。焼入れ性と強度を高める効果を安定的に得るためには、0.0003%以上含有させることが好ましい。
REM(希土類元素)は鋼の溶接性を向上させる作用を有するので、必要に応じて含有させることができる。しかし、含有量が0.01%を超えると効果が飽和するため、REMの含有量は0.01%以下とする。上記効果を安定的に得るためには、0.0002%以上含有させることが好ましい。REMの下限値は0.0005%とすることがより好ましい。また、REMの上限値は0.005%が好ましい。
ここで、REMとは、ランタノイドの15元素にYおよびScをあわせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種または2種以上を含有させることができる。なお、REMの含有量はこれら元素の合計含有量を意味する。
本発明においては、鋼材に添加したSnが高い割合で固溶していることが極めて重要である。Sn中の固溶Snの割合が95.0%以上とすることにより、十分な耐食性を確保することができる。というのは、先に延べたように、耐食性を向上させるのは腐食により溶解したSnイオンであることから、難溶性の析出物中にSnが含有されて鋼中への固溶度が低くなると、耐食性向上作用が十分でなくなるからである。
上記に説明した本発明の鋼材は、そのまま使用しても良好な耐食性を示す。しかし、その表面に防食処理を施した場合、具体的には有機樹脂や金属からなる防食被膜で表面を被覆した場合には、従来の鋼材に比べ防食被膜の耐久性が向上し、耐食性が一段と向上する。
Claims (7)
- 質量%で、C: 0.01〜0.2%、Si: 0.01〜1.0%、Mn: 0.05〜3.0%、P: 0.013%以下、S: 0.01%以下、Sn: 0.15〜0.5%、固溶Sn:0.147%以上、Al: 0.1%以下を含有し、残部Feおよび不純物からなり、かつ、Sn中の固溶Snの割合が95.0%以上であることを特徴とする、塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材。
- さらに、質量%で、Cu: 1.0%以下、Ni: 1.0%以下、Cr: 1.0%以下、Mo: 1.0%以下、W: 1.0%以下、Sb: 0.2%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材。
- さらに、質量%で、Ti: 0.2%以下、Zr: 0.2%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材。
- さらに、質量%で、Ca: 0.01%以下、Mg: 0.01%以下の1種または2種を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材。
- さらに、質量%で、Nb: 0.1%以下、V: 0.5%以下、B: 0.01%以下の1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材。
- さらに、質量%で、REM: 0.01%以下を含有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれかに記載の塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材。
- 鋼材表面の少なくとも一部に防食処理が施されたことを特徴とする、請求項1から6までのいずれかに記載の塩化物を含む乾湿繰り返し環境下で用いられる耐食性に優れた鋼材。
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