JP4924775B2 - 溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、造船、海洋構造物、建築構造物、橋梁、土木などの分野で用いる、溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板に関する。特に、隅肉溶接の作業時に発生する溶接変形が小さく耐食性に優れた厚鋼板に関する。
一般に、各種溶接鋼構造物の製作時には、溶接金属の凝固収縮およびその後の冷却と相変態による収縮・膨張により、変形が発生する。溶接変形の代表的なものとして、T型隅肉溶接部の角変形が挙げられる。角変形を残したまま構造物を製作すると、部材の変形により座屈強度が大幅に低下したり、破壊特性が劣化したりするので、設計者が狙った構造物とはならないおそれがある。そのような事態を防ぐために、様々な工夫により防止策が講じられている。
現状適用されている溶接変形防止策を大別すると、次の(i)〜(iii)の3つになる。
(i) 設計の工夫(被変形部材の剛性を高める方法)
溶接変形が残留する原因は、溶接金属や母材の溶接止端部近傍が塑性変形を受けるためである。塑性変形を受けた部位は、その外側の部分を弾性的に変形させようとするが、剛性が高い、すなわち断面積が大きい場合には、その変形量は小さくなる。したがって、断面積を大きくするように設計変更することが一つの防止策となり得る。しかしながら、断面積を大きくするという設計変更は、使用鋼材のコストアップ、重量アップおよび工期長期化の面でロスが多い。
(ii) 溶接時の工夫
溶接時に、何らかの工夫をしておくことで溶接変形を防止することが可能である。幾つかの方法があるが、まずは溶接前に予め逆方向に曲げておくことである。溶接後には角変形が発生するが、予め逆方向に曲げておくことにより所望の形状に仕上がる可能性がある。また、溶接時に端部を拘束しておき変形を許容しない方法もある。さらに、後行トーチを設置し、溶接後に適切な位置を再加熱することにより逆に曲げ戻す方法も採られる場合がある。しかしながら、何れも大幅な工数増加を伴うので、コストアップ要因となる。
(iii) 溶接後の矯正加工
溶接後に矯正する方法として、機械的矯正と線状加熱矯正がある。しかしながら、これらの方法も大幅な工数増加が必要であるとともに熟練した高度な技能も要求される。
上記の(i)〜(iii)の対策はすべて製作上の工夫であるが、溶接材料の工夫により溶接変形の低減を図ることが、たとえば、特許文献1に提案されている。しかしながら、溶接材料のコストアップが経済性を阻害したり、また効果が不十分であったりと、問題は多く、現実的に適用が進んでいない状況である。
これに対して、母材となる鋼材の工夫により溶接変形を抑制しようとした例もあり、次のとおり、いくつか提案されている。
特許文献2には、NbとMoを複合添加することにより溶接熱履歴中の析出を促し降伏応力を高める方法が開示されている。しかしながら、特にMoの添加は大幅なコストアップをもたらすため、汎用性に乏しい。
特許文献3および4には、母材となる鋼材のベイナイトおよび/又はマルテンサイトの分率を20%以上に制御し、さらに炭窒化物の分散状態を規定することによって、降伏応力を高め、もって溶接変形を抑制することの記載がある。しかしながら、必ずしも実用上十分な溶接変形低減効果を得るまでには至っていない。
そして、特許文献5には、母材となる鋼材のベイナイト率を70%以上とし、さらに固溶Nb量を0.040%以上確保することによって、溶接変形を抑制することの記載がある。しかしながら、ベイナイト比率が70%以上になると母材の強度が汎用レンジから逸脱する場合が生じるだけでなく、Nbによる溶接割れ性の阻害が問題化するおそれがある。
一方で、溶接鋼構造物は海浜地域や融雪塩が散布される地域等、飛来塩分量が多い環境下で、さらに造船分野では海水飛沫環境下で使用される場合が多い。
一般に、耐候性鋼材を大気腐食環境中に暴露すると、その表面に保護性のあるさび層が形成され、それ以降の鋼材腐食が抑制される。そのため、耐候性鋼材は、塗装せずに裸のまま使用できるミニマムメンテナンス鋼材として橋梁等の構造物に用いられている。
ところが、海浜地域だけでなく、内陸部であっても融雪塩や凍結防止剤が散布される地域のように飛来塩分量が多い地域では、耐候性鋼材の表面に保護性のあるさび層が形成されにくいために、腐食を抑制する効果が発揮されにくい。そのため、これらの地域では、裸のままの耐候性鋼材を用いることができず、普通鋼に塗装を施して使用する普通鋼の塗装使用が一般的である。しかし、このような普通鋼の塗装使用の場合には、腐食による塗膜劣化のため約10年毎に再塗装する必要があり、そのため維持管理に要する費用は莫大なものとなる。
近年、日本工業規格(JIS)で規格化された耐候性鋼(JIS G 3114:溶接構造用耐候性熱間圧延鋼材)は、飛来塩分量がNaClとして0.05mg/dm/day(0.05mdd)以上の地域、たとえば海浜地域では、ウロコ状錆や層状錆等の発生により腐食減量が大きいため、無塗装では使用できないことになっている(建設省土木研究所、(社)鋼材倶楽部、(社)日本橋梁建設協会:耐候性鋼の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XX)−無塗耐候性橋梁の設計・施工要領(改訂版−1993.3)参照)。
このように、海浜地域などの塩分の多い環境下では、通常普通鋼材に塗装を行って対処している。しかしながら、河口付近の海浜地域や融雪塩を撒く山間部等の道路に建設される橋梁は腐食が著しく、再塗装せざるを得ないのが現状である。これらの再塗装には多大な工数がかかることから、無塗装で使用できる鋼材への要望が強い。
最近、Niを1〜3%程度添加したNi系高耐候性鋼が開発された。しかしながら、飛来塩分量が0.3〜0.4mddを越える地域では、このようなNi添加だけでは、無塗装で使用できる鋼材への適用が難しいことが判明してきた。
鋼材の腐食は、飛来塩分量が多くなるにしたがって激しくなるため、耐食性と経済性の観点からは、飛来塩分量に応じた耐候性鋼材が必要になる。また、橋梁といっても、使用される場所や部位により鋼材の腐食環境は同じではない。例えば、桁外部では、降雨、結露水および日照に曝される。一方、桁内部では、結露水に曝されるが雨掛かりはない。一般に、飛来塩分量が多い環境では、桁外部より桁内部の方が腐食が激しいと言われている。
また、融雪塩や凍結防止剤を道路に撒く環境では、その塩が走行中の車に巻き上げられ、道路を支える橋梁に付着するので、厳しい腐食環境となる。さらに、海岸から少し離れた軒下等も厳しい塩害環境に曝され、このような地域では、飛来塩分量が1mdd以上の厳しい腐食環境になる。
このような問題に対応するため、飛来塩分量が多い環境での腐食を防止する鋼材の開発が従来から進められている。
たとえば、特許文献6にはクロム(Cr)の含有量を増加させた耐候性鋼材が提案され、そして、特許文献7にはニッケル(Ni)含有量を増加させた耐候性鋼材が提案されている。
しかしながら、上記特許文献6で提案されたクロム(Cr)の含有量を増加させた耐候性鋼材は、ある程度以下の飛来塩分量の領域においては耐候性を改善することができるものの、それを超える厳しい塩分環境においては逆に耐候性を劣化させる。
また、上記特許文献7で提案されたニッケル(Ni)含有量を増加させた耐候性鋼材の場合、耐候性はある程度改善されるが、鋼材自体のコストが高くなり、橋梁等の用途に使用される材料としては高価なものになる。これを避けるため、Ni含有量を少なくすると、耐候性はさほど改善されず、飛来塩分量が多い場合には、鋼材の表面に層状の剥離さびが生成し、腐食が著しく、長期間の使用に耐えられないという問題が生じる。
特開平7-9191号公報 特開平7-138715号公報 特開2003-268484号公報 特開2006-2211号公報 特開2006-2198号公報 特開平9-176790号公報 特開平5-118011号公報
このように、従来方法では、それぞれ経済性および再現性の観点から難があり、実用上では改良の余地が大きい。
特に、厚さ15mm以上の厚鋼板を用いて製造される溶接構造物では、個々の溶接箇所における変形量は小さくても溶接構造物全体としては大きな変形が生じ得るため、溶接変形量を極力小さくすることが必要となる。なお、厚みの上限は特に限定するものではないが、50mmまでのものを扱うことができるのが好ましい。
さらに、飛来塩分量が多い環境下で使用される溶接鋼構造物では耐塗装剥離性が大きな問題となる。すなわち、上記に示したように、多量の塩化物が飛来する海岸環境や、融雪剤や凍結防止剤を散布する環境においては、塗装を施しても塗装が早期に剥離し、且つ腐食が進行するという問題があり、数年から十数年毎に塗装の塗り替えを実施する必要がある。また、塗装の塗り替えを実施する際にはその前工程として、一度腐食した橋梁に足場を組んで再ブラスト処理を施す必要があるので多大なコストがかかる。そして、再ブラスト処理を施してもさびを完全に除去することは困難であるところ、さびを完全には除去しきれていない鋼材上に再度、塗装しても、塗装寿命が著しく短くなる。耐塗装剥離性は下地である鋼材の耐食性を含めた特性によるところも大きい。
したがって、塗装の寿命を延長し、補修塗装間隔を大きく延ばすことが強く望まれていた。すなわち、塗装が必要とされる船舶分野や橋梁分野においても、ライフサイクルコストのミニマム化の要求が高く、塗装寿命を延長することは橋梁のライフサイクルマネジメントを考える上で非常に重要となる。
本発明は、上記事情に鑑み、低コストで確実に溶接変形を抑制させる技術を確立し、溶接変形が小さい鋼板を提供することを目的とする。特に、隅肉溶接において、溶接変形が小さい鋼板を提供することを目的とする。なお、溶接変形量の目標値は従来鋼の1/2とする。
さらに、本発明は、高塩化物環境における耐食性(塗装が剥離せず且つ塗装欠陥部における腐食が抑制され耐食性が維持されること(耐塗装剥離性)および無塗装時の耐候性を含む)にも優れた鋼材を提供することを目的とする。
本発明者らは、かかる課題を解決すべく、種々検討の結果、鋼板の化学組成を規定するとともに、その金属組織についても規定した。実験と併せて実施した熱連成FEM解析によって得られた各材料物性値の独立した影響を示したものを図1に示す。また、FEM解析の計算条件を図2に示す。
図1中、横軸は熱伝導率(白丸プロット)、変態点Ac1(黒丸プロット)、強度TS(四角プロット)であり、縦軸は角変形量を示す。図1より、鋼板の熱伝導率を大きくしても角変形量は変化がなく、変態点が上昇すると角変形量は大きくなり、強度が大きくなると角変形量は小さくなることが判る。よって、溶接変形は特に強度や変態点に大きく依存し、溶接変形量(角変形量)の目標値を従来鋼(角変形量はおよそ0.8mm)の1/2、すなわち0.4mmとすると、強度が極めて高くなって汎用強度クラスから逸脱することになる。汎用強度クラスからの逸脱は、一般的な商取引上の対象外となるだけでなく、構造設計上の問題や溶接性の問題も併発する可能性があり、望ましくない。
そこで本発明者らは、汎用強度クラスに適合する常温強度は保持したまま、高温強度を増加させてなる鋼種の開発を目指した。
なお、従来から高温強度の増加に効果のあると言われるMoは、合金コストの高騰を招き、コストアップ要因となるので、現実的ではない。そこで、本発明者らは比較的安価で溶接性への悪影響も小さいCrに着目し、種々試験を実施した。その結果、次の(a)〜(d)に示す知見が得られた。
(a) Crは高温強度を増加させることができる。Crを1.0%以上含有させると、Moを共存させなくても高温強度を確保することができ、もって溶接変形を十分に抑制することができる。しかしながら、Crの含有量が1.0%未満では、Moを共存させない場合には高温強度の確保は不十分なものとなる。
(b) また、Nbを含有させることは必須である。Nbを含有させることによって、高温強度の確保が十分なものとなる。なお、Nbの添加量は少量でよく、0.005%以上であれば良い。
(c) 汎用強度レベルに適合させるためにはフェライト組織を含ませることが必須である。靭性の観点からフェライト組織の結晶粒径は30μm以下であることが必要である。また、溶接変形を最小化するためにベイナイトあるいはマルテンサイト組織からなる硬相の硬さは硬い方が良く、硬相と軟相の硬さ比は1.5以上とする必要がある。
(d) 鋼板の製造方法は一般的な条件でも良いが、通常鋼に比べ焼入性が高い傾向にあるため、汎用強度レベルに適合させるために工夫するのが好ましい。
一方、本発明者らは、飛来塩分量の多い環境での腐食について検討した結果、このような環境下では、FeCl溶液の乾湿繰り返しが腐食の本質的な条件となり、Fe3+の加水分解によりpHが低下した状態で、かつFe3+が酸化剤として作用することによって腐食が加速されることを見出した。
このときの腐食反応は、以下に示すとおりである。
カソード反応としては、主として、次の反応が起こる。
Fe3++e→Fe2+ (Fe3+の還元反応)
そして、この反応以外にも、次のカソード反応も併発する。
2HO+O+2e→4OH
2H+2e→H
一方、上記のFe3+の還元反応に対して、次のアノード反応が起こる。
アノード反応:Fe→Fe2++2e (Feの溶解反応)
従って、腐食の総括反応は、次の(1)式のとおりである。
2Fe3++Fe→3Fe2+・・・・・・(1)式
上記(1)式の反応により生成したFe2+は、空気酸化によってFe3+に酸化され、生成したFe3+は再び酸化剤として作用し、腐食を加速する。この際、Fe2+の空気酸化の反応速度は低pH環境では一般に遅いが、濃厚塩化物溶液中では加速され、Fe3+が生成され易くなる。このようなサイクリックな反応のため、飛来塩分量が非常に多い環境では、Fe3+が常に供給され続け、鋼の腐食が加速され、耐食性が著しく劣化することになることが判明した。
本発明者らは、このような塩分環境における腐食のメカニズムを基に、種々の合金元素の耐候性への影響について検討した結果、下記の(e)〜(g)に示す知見を得た。
(e)Snは、Sn2+として溶解し、2Fe3++Sn2+→2Fe2++Sn4+なる反応によりFe3+の濃度を低下させることで、(1)式の反応を抑制する。Snには、さらにアノード溶解を抑制するという作用もある。
(f)Cuは、従来から飛来塩分量の多い環境において耐食性改善効果の基本とされていた元素であり、比較的濡れ時間が長い環境において耐食性改善効果は見られる。しかしながら、塩化物濃度がさらに大きくなり、局部的にpHが下がるような環境、例えば塩分が付着し、湿度が変化することにより乾湿が繰り返され、β−FeOOHが生成するような比較的ドライな環境では、Cuはむしろ腐食を促進することが判明した。
(g)このように、Snを積極的に含有させかつCuの含有量を抑制した鋼材は、高い耐食性が期待できる。さらに耐食性が高いことから、鋼材に塗装を行っても、鋼材の腐食に起因する塗装の剥離が少なく塗装欠陥部の腐食を抑制する。一方、塗膜による防食効果も期待できるため、塗装をした場合には、より一層の耐食性の効果が期待できる。したがって、耐食性のほかに、塗装の寿命を延長化でき、補修塗装間隔を大きく延ばす作用をも有する。特に、船舶分野や橋梁分野における耐塗装剥離性の改善において、効果を発揮する。
本発明は、上記の知見を基礎として完成したものであって、その要旨は下記の(1)〜(3)に示す溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板にある。
(1) 質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.70%、Mn:0.3〜2.00%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2%未満、Cr:1.00〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.100%、Al:0.003〜0.100%、N:0.0100%以下Sn:0.03〜0.50%並びにNi:3.5%以下、V:0.1%以下、B:0.004%以下およびZr:0.02%以下のうちの1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板。
(2) 質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.70%、Mn:0.3〜2.00%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2%未満、Cr:1.00〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.100%、Al:0.003〜0.100%、N:0.0100%以下Sn:0.03〜0.50%並びにCa:0.004%以下、Mg:0.002%以下およびREM:0.002%以下のうちの1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板。
(3) 質量%で、さらに、Ti:0.1%以下を含有することを特徴とする上記(1)または(2)の溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板。
なお、鋼板における溶接変形の小さい溶接方法との観点から本発明を考察すると、鋼板における溶接変形は実質的には溶接熱影響部における溶接変形であるので、溶接熱影響部において所定の要件を満足した上で溶接をすれば、溶接変形抑制能は向上すると考えられる。
したがって、本発明は、溶接方法の観点からは、次の3つの溶接方法と把握することができる。
その第1の溶接方法は、「質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.70%、Mn:0.3〜2.00%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2%未満、Cr:1.00〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.100%、Al:0.003〜0.100%、N:0.0100%以下、Sn:0.03〜0.50%並びにNi:3.5%以下、V:0.1%以下、B:0.004%以下およびZr:0.02%以下のうちの1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼板の溶接方法であって、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接方法。」である。
その第2の溶接方法は
「質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.70%、Mn:0.3〜2.00%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2%未満、Cr:1.00〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.100%、Al:0.003〜0.100%、N:0.0100%以下Sn:0.03〜0.50%並びにCa:0.004%以下、Mg:0.002%以下およびREM:0.002%以下のうちの1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有する鋼板の溶接方法であって、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接方法。」である。
そして、その第3の溶接方法は、上記の第1または第2の溶接方法において用いる鋼板の化学組成として、「質量%で、さらに、Ti:0.1%以下を含有する」ことを特徴とする溶接方法である。

なお、後述するように、母材となる鋼板全体が上記の要件を満足するように製造した上で溶接してもよいし、母材となる鋼板のうち溶接しようとする部位(溶接熱影響部となる部位)のみを加工してその部位について上記の要件を満足させた上で溶接してもよい。
そして、この溶接方法は、溶接変形の大きい隅肉溶接の際にも適用することができる。なお、隅肉溶接は、重ね継手、T継手、十字継手などにおいて行われるが、この溶接方法は継手母材の相対的な位置関係で特に大きな溶接変形が生じるT継手と十字継手における隅肉溶接に特に有効である。
本発明によれば、低コストで確実に溶接変形を抑制することができ、かつ耐食性にも優れた鋼板を提供することができる。
溶接角変形量に及ぼす各材料物性値の影響を示すFEM計算結果である。 FEM解析の計算条件を示す模式図である。 溶接角変形量を評価するのに用いた試験片を示す図である。 溶接角変形量の定義を示す図である。
本発明において、溶接変形が小さい鋼板の化学組成および金属組織を限定する理由は次のとおりである。
(A)鋼板の化学組成
鋼板の各成分の作用効果および各成分の好ましい含有量は下記のとおりである。なお、含有量に関する「%」は「質量%」を意味する。
C:0.02〜0.25%
Cは強度向上にもっとも有効な元素であり、かつ安価な元素である。ただし、0.02%未満では他の元素の併用による強度保証が必要となり、結果的にコストアップ要因となる。また、0.25%を超えて含有させると溶接性を著しく阻害する。したがって、Cの含有量は0.02〜0.25%とする。
Si:0.01〜0.7%
Siは強度向上に寄与する元素である。ただし、0.01%未満では必要とする強度を確保することができない。また、0.7%を超えて添加すると母材靱性と溶接熱影響部(HAZ)靱性を著しく劣化させることになる。したがって、Siの含有量は0.01〜0.7%とする。
Mn:0.3〜2%
Mnは強度確保のために必要な元素である。ただし、0.3%未満では必要とする強度を確保することができない。また、2%を超えて添加すると溶接性が劣化する。したがって、Mnの含有量は0.3〜2%とする。
P:0.05%以下
Pは、不純物として鋼中に存在する元素である。Pの含有量が0.05%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招くため、Pの含有量を0.05%以下とする。
S:0.008%以下
Sは、不純物として鋼中に存在す元素である。Sの含有量が0.008%を超えると、中心偏析を助長したり、延伸形状のMnSが多量に生成したりするため、母材およびHAZの機械的性質が劣化する。したがって、Sの含有量の上限を0.008%とする。
Cu:0.2%未満
Cuは、一般的に耐候性を向上させる基本元素とされ、全ての海浜耐候性鋼や耐食鋼に添加されているが、高飛来塩分下の比較的ドライな環境においては、むしろ耐食性を低下させる。またSnと共存すると圧延時に割れが生じる。したがって、Cuの含有量は抑制する必要がある。不純物として含有されるとしても、Cu含有量は0.2%未満とする必要がある。好ましくは0.1%未満である。
Cr:1〜2.5%
Crは焼入れ性の向上を通じて強度を高めるのに有効な元素である。この効果を得るには1%以上の添加が必要となる。しかし、2.5%を超えると靱性が劣化する。したがって、Crの含有量は1〜2.5%とする。なお、Crの好ましい含有量は1〜1.8%である。なお、後述するように、Crは塩分環境では耐食性を劣化させる元素であるが、Snと共存させると、その悪影響は著しく抑制される。
Mo:0.05%以下
Moは、コストの著しい増加をもたらすため、添加しない。なお、不純物として混入してくる場合があるが、その場合でもMoの含有量は0.05%以下とする。
Nb:0.005〜0.1%
Nbは、鋼板の金属組織の再結晶化を遅延させる効果がある。ただし、その含有量が0.005%未満ではその効果が得られない。また、0.1%を超えると前記効果が飽和する一方でHAZの靱性を著しく損なう。したがって、Nbの含有量は0.005〜0.1%とする。なお、Nbの含有量の範囲の好ましい下限は0.008%であり、好ましい上限は0.020%である。
Al:0.003〜0.1%
Alは脱酸のために必須の元素である。脱酸を確実に行うためには、0.003%以上の含有量が必要である。ただし、0.1%を超えると、特にHAZにおいて靱性が劣化しやすくなる。これは、粗大なクラスター状のアルミナ系介在物粒子が形成されやすくなるためと考えられる。したがって、Alの含有量は0.003〜0.1%とする。
N:0.01%以下
Nは、不純物として鋼中に存在する元素である。Nの含有量が0.01%を超えると、母材靱性とHAZ靭性の悪化原因となる。したがって、Nの含有量の上限を0.01%とする。
Sn:0.03〜0.50%
Snは、Sn2+となって溶解し、酸性塩化物溶液中でのインヒビター作用により腐食を抑制する作用を有する。また、Fe3+を速やかに還元させ、酸化剤としてのFe3+濃度を低減する作用を有することにより、Fe3+の腐食促進作用を抑制するので、高飛来塩分環境における耐候性を向上させる。また、Snには鋼のアノード溶解反応を抑制し耐食性を向上させる作用がある。さらに、Snを含有することにより、飛来塩分が多い環境においてもCrの耐候性を向上させる効果が発揮される。これらの作用は、Snを0.03%以上含有させることにより得られ、0.50%を超えると飽和する。したがって、Snの含有量は0.03〜0.50%とする。Snの含有量の範囲の好ましい下限は0.03%であり、好ましい上限は0.20%である。
Cu/Sn比:1以下
Snを含有する鋼の場合には、Cuと共存させると耐食性の低下が著しい。また、鋼材を製造する際、Cuの含有による圧延割れの原因ともなる。このため、Cu/Sn比、すなわち、Sn含有量に対するCu含有量の比を1以下とする必要がある。
本発明に係る鋼板は、上記の化学組成を有し、残部がFeおよび不純物からなる。ここで、不純物とは、鋼板を工業的に製造する際に鉱石やスクラップ等のような原料をはじめとして製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明に係る鋼板は、次のとおり、上記の元素の他に、必要に応じて、次の第1群から第3群までの少なくとも1群から選んだ1種以上の成分を含有させることができる。以下、これらの群に属する成分について述べる。
第1群の成分:Ti
Ti:0.1%以下
Tiは、主に脱酸元素として作用するので、必要に応じて含有させることができる。ただし、脱酸はAlによっても可能であるため、必ずしも含有させる必要はない。ただし、Ti含有量が多い場合にはTi酸化物またはTi−Al酸化物が形成されるため、特に小入熱溶接部熱影響部における組織を微細化する能力が失われる。このため、含有させる場合のTi含有量は0.1%以下とする。なお、Tiを含有させることによる脱酸効果を安定的に得るためには、その含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
第2群の成分:Ni、V、B、Zr
Ni:3.5%以下
Niは母材靱性を向上させ、かつ焼入性向上により強度向上にも寄与する元素であるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、Niは高価な元素であるからNiを過大に含有させると大きなコストアップ要因となる。また、Snと共存すると、塩化物存在下での耐食性を劣化させる。このため、含有させる場合のNiの含有量の上限を3.5%以下とする。好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下である。なお、Niを含有させることによる上記効果を安定的に得るためには、その含有量を0.02%以上とするのが好ましい。
V:0.1%以下
Vは強度向上に有効な元素であるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、Vの含有量が0.1%を超えると靱性が大きく劣化するので、含有させる場合のV含有量は0.1%以下とする。なお、Vを含有させることによる強度向上効果を安定的に得るためには、その含有量を0.005%以上とするのが好ましい。
B:0.004%以下
Bは焼入性を向上させて強度を高める作用があるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、Bの含有量が0.004%を超えると、強度を高める効果が飽和し、また、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、含有させる場合のBの含有量は0.004%以下とする。なお、Bを含有させることによる焼入れ性と強度を高める効果を安定的に得るためには、Bの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
Zr:0.02%以下
Zrは鋼中で窒化物を微細分散析出し、強度を向上させる効果があるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、0.02%を超えて添加すると粗大析出物を形成し、靭性を劣化させるので、含有させる場合のZrの含有量は0.02%以下とする。なお、Zrを含有させることによる強度向上効果を安定的に得るためには、Zrの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
第3群の成分:Ca、Mg、REM
Ca:0.004%以下
Caは鋼中のSと反応して溶鋼中で酸硫化物(オキシサルファイド)を形成する。この酸硫化物はMnSなどの延伸形状の介在物とは異なり、圧延加工で圧延方向に伸びることがなく圧延後も球状であるため、延伸形状の介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れを抑制する作用があるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、その含有量が0.004%を超えると靱性の劣化を招くことがある。したがって、含有させる場合のCaの含有量は0.004%以下とする。なお、溶接割れや水素誘起割れを抑制する効果を安定的に得るためには、Caの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
Mg:0.002%以下
MgはMg含有酸化物を生成し、TiNの発生核となり、TiNを微細分散させる効果を持つので、必要に応じて含有させることができる。ただし、その含有量が0.002%を超えると、酸化物が多くなりすぎて延性低下をもたらす。したがって、含有させる場合のMgの含有量の上限を0.002%とする。なお、TiNを微細分散させる効果を安定的に得るためには、Mgの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
REM:0.002%以下
REMは、溶接熱影響部の組織の微細化や、Sの固定に寄与するので、必要に応じて含有させることができる。ただし、その含有量が0.002%を超えると、REMは母材の靱性に悪影響を与える介在物となるので、含有させる場合のREMの含有量0.002%以下とする。なお、組織の微細化やSの固定効果を安定的に得るためには、REMの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。なお、REMとは、ランタニドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種又は2種以上を含有させることができる。また、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
(B)金属組織
金属組織のフェライト分率は、10〜60%とする。溶接変形防止の観点から、降伏しやすい組織であるフェライトは少ない方が良いが、汎用強度鋼の強度レンジに適合させるため、フェライト分率の上下限を、それぞれ60%および10%とした。また、フェライト組織の平均粒径は破壊靭性の観点から小さい方が良い。そして、フェライト組織の平均粒径が30μmを超えると十分な破壊靭性を得ることができないため、その上限値を30μmとした。
フェライト組織以外の組織はベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織である。したがって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の分率は40〜90%となる。なお、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織とは、ベイナイト組織、マルテンサイト組織または(ベイナイト+マルテンサイト)組織である。
ここで、フェライト組織を軟相、そして、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織を硬相と呼ぶ。素材が多様な温度で全降伏することを極力防ぐ必要があることから、硬相の硬度は高い方が望ましい。一方、軟相が存在することにより、構造用鋼として降伏強度と引張強度を規格などに適合するレンジに調整することが可能となる。ただし、前述したとおり、硬相を硬くしておくことにより溶接変形は抑制されるので、ここでは、硬相と軟相の硬度比という指標を用いて、溶接変形抑制能を規定することとした。発明者らの検討により、硬相の硬度が軟相の硬度の1.5倍以上となると、溶接変形抑制能の向上が顕著化するため、硬度比は1.5倍以上とする。
次に、本発明に係る鋼板を得るための圧延や熱処理の条件等について説明する。
熱間圧延に先立ってまず鋼塊を加熱するが、このときの加熱温度をAc点以上にすると完全にオーステナイト相にすることができ、未変態部分がない状態で均質化されるため、加熱温度をAc点以上とするのが好ましい。具体的には900〜1200℃に加熱するのが好ましい。そして、熱間圧延に際して薄肉端の圧延仕上げ温度を900℃以下にすると、結晶粒が適度な大きさとなって、素材の破壊靭性が十分となることから、900℃以下とするのが好ましい。圧延仕上げ温度の下限は、特に定めるものではなく、強度を汎用強度レンジに適合させることができればどのような条件でも良い。ただし、圧延仕上げ温度を700℃以上にすると、二相域加工による異方性は目立たないから、望ましい。圧延に引き続いて、加速冷却なども行って良い。加速冷却を行う場合には、圧延後直ちにあるいは若干の放置時間のあと、中心部の冷却速度を0.5〜20℃/sに制御するのが好ましい。冷却停止温度については150〜500℃を目安に制御するのが好ましい。また、圧延後に熱処理を適宜実施してもよい。熱処理を実施する場合には焼ならし処理か焼戻し処理を行うのが好ましく、温度はそれぞれ800〜1100℃、300〜700℃の温度帯を選ぶのが好ましい。
本発明にかかる鋼板の一例を示す。表1に示す組成成分の鋼塊を、表2に示すそれぞれの加熱温度・仕上げ温度・加速冷却・熱処理条件にて製造した。鋼板の板厚は16mmとした。
Figure 0004924775
Figure 0004924775
また、表3にこのようにして得られた鋼板の降伏点YP、引張強度TS、遷移温度vTrs、フェライト分率、フェライト平均粒径、硬相と軟相の硬さ比、溶接角変形量、板厚減少量および剥離面積率をそれぞれ示す。
Figure 0004924775
なお、得られた鋼板の引張特性を測定するために、JIS−Z−2201に記載の試験方法に準じて試片を採取した。採取位置は、板厚(t)方向の(1/4)t厚近辺およびL方向(圧延方向と平行)とした。なお、降伏点は10N/mm・sの試験速度として下降伏点を求め、明確な降伏点が現れない場合は0.2%耐力とした。引張特性の目標値は、降伏点YPが350N/mm以上、そして、引張強度TSが490〜720N/mmとした。
また、得られた鋼板の衝撃特性を測定するために、JIS−Z−2202に記載の試験方法に準じて試片を採取した。採取位置は、板厚(t)方向の(1/4)t厚近辺およびL方向(圧延方向と平行)で、2mmVノッチシャルピー試験片とし、様々な温度における脆性破面率を測定し、遷移温度を求めた。シャルピー特性の目標値は遷移温度が0℃以下であることとした。組織観察は光学顕微鏡で行った。観察によって得られた像を画像解析した。例えば、粒径を算出する場合には、短径と長径を測定し、その和の1/2から粒径を求めた。このようにして100視野観察して求めた個々の粒子の粒径について、算術平均したものを「平均粒径」と規定した。また、金属組織のフェライト分率は、上記と同様の観察法によって得られた100視野観察分の面積に対するフェライトの面積割合を算出することによって求めた。ベイナイト分率とマルテンサイト分率についても同様であるが、表3にはフェライト分率のみを表示した。
さらに、隅肉溶接による溶接角変形量は次の要領にて評価を行った。
鋼板は、図3に示すように、T型の溶接試験片(単位:mm)を作成し、片側を三角形の剛性の高い鋼板で拘束し、反対側を1パスの隅肉溶接を実施した。使用した溶接材料は、一般的な50キロ鋼用フラックスコアードワイヤであり、溶接条件は10.4kJ/cm(200A−26V−30cm/min)とした。溶接後の十分時間が経ったところで、試験片を定板の上に置き、図4に定義する角変形量θを、溶接開始位置・中央位置・終端位置の3箇所において、すきまゲージによって測定し、それらの平均値を溶接角変形量とした。なお、この方法で測定した通常の汎用50キロ鋼の溶接角変形量はおよそ1゜程度であり、本発明の目標とする溶接角変形レベルは0.5゜である。
そして、耐食性に関しては、得られた鋼材から得た試験片をSAE(Society of Automotive Engineers)J2334試験により評価した。SAE J2334試験は、湿潤:50℃、100%RH、6時間、塩分付着:0.5%NaCl、0.1%CaCl、0.075%NaHCO水溶液浸漬、0.25時間、乾燥:60℃、50%RH、17.75時間を1サイクル(合計24時間)とした加速試験であり、腐食形態が大気暴露試験に類似しているとされている(長野博夫、山下正人、内田仁著:環境材料学、共立出版(2004)、p.74)。なお、本試験は、飛来塩分量が1mddを超えるような厳しい腐食環境を模擬する試験である。
SAE J2334試験120サイクル終了後、各試験片の表面のさび層を除去し、板厚減少量を測定した。ここで、「板厚減少量」は、試験片の平均の板厚減少量であり、試験前後の重量減少と試験片の表面積を用いて算出したものである。
また、耐塗装剥離性を調べるために、150×70mmの大きさの試験片にエアースプレーにより変性エポキシ塗料(バンノー200:中国塗料製)を乾燥膜厚で150μmになるように塗装し、鋼材素地に達する深さでクロスカットを入れてから、同じくSAE J2334試験により評価した。
この結果、Mark 1-eの鋼板(比較例)においては、仕上温度が910℃と高くかつ冷却条件を空冷としたため、フェライトの生成量が多く、また生成したフェライトが粒成長して平均粒径が大きくなった。このため、引張強度が小さくなった。また、硬相と軟相の硬さの比は本発明の範囲内にあるにもかかわらず、溶接角変形量も大きくなった。これは、軟相としてのフェライトと硬相の量のバランスが崩れたためであると考えられる。以上のように、Mark 1-eの鋼板は引張強度が低く、溶接角変形量も大きいので、構造用鋼板として不適切な鋼材である。
次に、Mark 1-fの鋼板(比較例)においては、加熱後の冷却速度を25℃/secとしたため、焼きが入りすぎてフェライトが生成されず、鋼板自体の引張強度が大きくなり、かつ靭性も大きく低下した。溶接角変形量は小さいものの構造用鋼板としては不適切な鋼材である。
また、Mark12-bの鋼板(比較例)においては、水冷停止温度を120℃とし、比較的低温まで焼入れしたため、硬相と軟相の硬さ比が小さくなり、溶接角変形量が大きくなった。
さらに、Mark 40〜46の鋼板(比較例)においては、本発明に規定する鋼組成を満足しておらず、鋼板自体の靭性が低下した。構造用鋼板としては不適切の鋼材である。Mark 47の鋼板(比較例)においては、圧延時に割れが発生したため試験を中止した。また、Mark48の鋼板(比較例)においては、本発明に規定する鋼組成のうちSnの含有量が満足しておらず耐食性が低下した。
これに対して、その他のMarkで示される本発明例に係る鋼板においては、いずれも引張特性が、降伏点YPが350N/mm以上、そして、引張強度TSが490〜720N/mm級の汎用鋼であって、遷移温度vTrs、フェライト分率、フェライト平均粒径、硬相と軟相の硬さ比も適正範囲にあり、溶接角変形量も目標の0.5゜以内に収まっているので、構造用鋼板として適切であることが分かる。また、高い耐食性も有しており、塗装した場合のクロスカット部に腐食は見られたもののいずれの鋼板も剥離も少ないので塗装の補修間隔を延ばすことができることがわかる。
以上説明したように、本発明によれば、低コストで確実に隅肉溶接において溶接変形を抑制することができ、耐食性に優れた鋼板を提供することができる。

Claims (3)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.70%、Mn:0.3〜2.00%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2%未満、Cr:1.00〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.100%、Al:0.003〜0.100%、N:0.0100%以下Sn:0.03〜0.50%並びにNi:3.5%以下、V:0.1%以下、B:0.004%以下およびZr:0.02%以下のうちの1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板。
  2. 質量%で、C:0.02〜0.25%、Si:0.01〜0.70%、Mn:0.3〜2.00%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2%未満、Cr:1.00〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.100%、Al:0.003〜0.100%、N:0.0100%以下Sn:0.03〜0.50%並びにCa:0.004%以下、Mg:0.002%以下およびREM:0.002%以下のうちの1種又は2種以上を含み、残部Feおよび不純物からなり、かつ、Cu/Sn比が1以下である化学組成を有し、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板。
  3. 質量%で、さらに、Ti:0.1%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接変形が小さく耐食性に優れた鋼板。
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