JP5958102B2 - 耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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しかし、バラストタンクは、上記のように厳しい腐食環境にあるため、補修塗装を行ってもその効果を長時間持続させることが難しい。また、補修塗装は、狭い空間での作業となるため、作業環境としては好ましくない。
[1]質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.7〜2.0%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、Al:0.10%以下、Sn:0.02〜0.2%、Nb:0.003〜0.03%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0010〜0.010%を含有し、さらにCu、Ni、CrをそれぞれCu:0.20%未満、Ni:0.20%未満、Cr:0.20%未満とし、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を1000〜1350℃に加熱した後、600℃以上800℃未満の温度域で圧延を終了し、冷却することを特徴とする耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[2]さらに、質量%でCa:0.0005〜0.0030%含有することを特徴とする[1]に記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[3]さらに、質量%でZr:0.001〜0.1%、V:0.002〜0.2%のうちから1種以上含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[4]さらに、質量%でCo:0.01%以上0.20%未満を含有することを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか一つに記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[5]さらに、質量%でB:0.0001〜0.003%を含有することを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼。
[6]さらに、質量%でREM:0.0001〜0.015%、Mg:0.0001〜0.01%、Y:0.0001〜0.1%のうちから選んだ1種以上を含有することを特徴とする[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[7]鋼材の表面に、エポキシ系塗膜が形成されていることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[8]鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜が形成されていることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[9]鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜とエポキシ系塗膜が形成されていることを特徴とする[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材。
[10][1]乃至[6]のいずれか一つに記載の成分組成の鋼素材を1000〜1350℃に加熱した後、600℃以上800℃未満の温度域で圧延を終了し、冷却することを特徴とする耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材の製造方法。
まず、本発明において、鋼材の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
Cは、鋼材強度を上昇させるのに有効な元素であり、本発明では所望の強度を得るために0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、溶接熱影響部の靭性を低下させる。よって、Cは0.03〜0.20%の範囲とする。なお、好ましくは、0.05〜0.16%の範囲であり、さらに好ましくは、0.07〜0.09%の範囲である。
Siは、脱酸剤として、また、鋼材の強度を高めるために添加される元素であり、本発明では、0.05%以上を含有させる。しかしながら、0.50%を超える添加は、鋼の靭性を劣化させるので、Siの上限は0.50%とする。なお、好ましくは、0.15〜0.40%の範囲であり、さらに好ましくは、0.25〜0.40%の範囲である。
Mnは、熱間脆性を防止し、鋼材の強度を高める効果がある元素であり、0.7%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えるMnの添加は、鋼の靭性および溶接性を低下させるため、2.0%以下とする。なお、好ましくは、0.9〜1.6%の範囲であり、さらに好ましくは、1.2〜1.6%の範囲である。
Pは、鋼の母材靭性、さらに溶接性および溶接部靭性を劣化させる有害な元素であり、できるだけ低減するのが好ましい。特に、Pの含有量が0.035%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の低下が大きくなる。よって、Pは0.035%以下とする。なお、好ましくは、0.025%以下であり、さらに好ましくは、0.010%以下である。
Sは、鋼の靭性および溶接性を劣化させる有害元素であるので極力低減することが望ましい。特に、Sの含有量が0.01%を超えると、母材靭性および溶接部靭性の低下が大きくなる。よって、Sは0.01%以下とする。なお、好ましくは、0.006%以下であり、さらに好ましくは、0.002%以下である。
Alは、脱酸剤として添加するが、0.10%を超える含有は、溶接部靭性に悪影響を及ぼすので、0.10%以下に制限する。好ましくは、0.07%以下である。
Snは、本発明の鋼材において、最も重要な耐食性向上元素である。Snは、鋼材が腐食するのに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用を有し、錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する。アノード反応の抑制に伴い、カソード反応であるH2OとO2から生成するOH−の生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する。このアルカリ化の抑制により、その後の塗膜膨れを抑制するという効果を奏する。この効果は、0.02%以上の含有で発現するが、0.2%超えでは、母材靭性およびHAZ部靭性を劣化させる。このため、Snは0.02〜0.2%の範囲で含有させるものとする。なお、好ましくは0.02〜0.15%の範囲である。
Nbは、本発明の鋼材において、Snに次ぎ、重要な耐食性向上元素である.Nbは鋼材が腐食するのに伴って錆層中に存在し、錆粒子を微細化する作用を有する.錆粒子の微細化に伴い、Feのアノード反応を抑制する.アノード反応の抑制に伴い、カソード反応であるH2OとO2から生成するOH−の生成を抑制し、塗膜膨れ先端部でのアルカリ化を抑制する.アルカリ化の抑制により、その後の塗膜膨れを抑制するという効果を奏する.この効果は、0.003%以上の含有で発現するが、0.03%超えでは、溶接継手HAZ靭性を劣化させる.このため、Nbは0.003〜0.03%の範囲で含有させるものとする.なお、好ましくは0.004〜0.02%の範囲である.
Ti:0.005〜0.030%
Tiは、Nとの親和力が強くTiNとして析出して、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト生成核として溶接熱影響部の高靭性化に寄与する。このような効果は、0.005%以上の含有で認められるが、0.030%を超えて含有するとTiN粒子が粗大化して前記効果が期待できなくなる。このため、Tiは0.005〜0.030%の範囲で含有させるものとする。なお、好ましくは、0.005〜0.018%の範囲である。
Nは、Tiと結合してTiNとして析出して、溶接熱影響部でのオーステナイト粒の粗大化を抑制し、あるいはフェライト生成核として溶接熱影響部の高靭化に寄与する。このような効果を有するTiNを必要量確保するためには、Nは0.0010%含有する必要がある。一方、0.010%を超えて含有すると、溶接熱によってTiNが溶解する温度まで加熱される領域では固溶N量が増加し、靭性の著しい低下を招く。このため、Nは0.0010〜0.010%の範囲で含有させるものとする。なお、好ましくは、0.0010〜0.0070%の範囲である。
Cu、Ni、Crは、ジンクプライマー塗膜がなく、かつ、乾湿繰返しを含む腐食環境の場合、塗装耐食性を劣化させる。したがって、これらの含有量をできるだけ低減するのが好ましい。しかし、いずれの元素も鋼材強度を高める元素であり、必要に応じ添加することができる。そこで、本発明者らは、これらの元素の許容範囲について検討したところ、Cu、Ni、Crはいずれも0.20%未満であれば、塗装耐食性に対する悪影響があまりなく、許容できることが判明した。より好ましくは、いずれも0.15%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
Caは、硫化物の形態を制御して鋼の溶接部靭性向上に寄与する元素である。このような効果を発揮させるためには、少なくとも0.0005%含有することが必要である。一方、0.0030%を超えて含有しても、その効果は飽和する。このため、Ca含有量は0.0005〜0.0030%の範囲に制限することが好ましい。
Zr、Vは、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して含有することができる。このような効果を得るためには、Zrはそれぞれ0.001%以上、Vは0.002%以上含有することが好ましい。しかし、Zrは0.1%、Vは0.2%を超えて添加すると、靭性が低下するため、Nb、Zr、Vは、上記値を上限として添加するのが好ましい。
Coは、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて選択して含有することが出来る。このような効果を得るためには、0.01%以上必要である。しかし、Coは、ジンクプライマー塗膜がなく、かつ、乾湿繰返しを含む腐食環境の場合、塗装耐食性を劣化させる。そこで、Co量の許容範囲について検討したところ、Coは0.20%未満であれば、塗装耐食性に対する悪影響があまりなく、許容できることが判明した。
Bは、鋼材の強度を高める元素であり、必要に応じて含有することができる。上記効果を得るためには、0.0001%以上含有することが好ましいが、0.003%を超えて添加すると、靭性が劣化する。よって、Bは0.0001〜0.003%の範囲で含有させるのが好ましい。
REM、Mg、Yは、いずれも、溶接熱影響部の靭性向上に効果のある元素であり、必要に応じて選択して含有することができる。この効果は、REM:0.0001%以上、Mg:0.0001%以上、Y:0.0001%以上の含有で得られるが、REM:0.015%を超えて、Mg:0.01%を超えて、Y:0.1%を超えてそれぞれ含有させると、却って靭性の低下を招くので、REM、Mg、Yは、それぞれ上記値を上限として含有するのが好ましい。
上記した好適成分組成になる溶鋼を、転炉、電気炉等の公知の方法で溶製し、連続鋳造法や造塊法等の公知の方法でスラブやビレット等の鋼素材とする。なお、溶製に際して、真空脱ガス精錬等を実施してもよい。溶鋼の成分調整方法は、公知の鋼精錬方法に従えばよい。
(1)ジンクプライマー約15μm塗布 + 変性エポキシ塗料約360μm塗布
(2)変性エポキシ塗料約360μm塗布
そして、上記塗膜の上からカッターナイフで地鉄表面まで達する80mm長さのスクラッチ疵を一文字状に付与しておき、これら試験片を、図1に示すように、実船のバラストタンク4の3箇所(位置1〜3での暴露試験を暴露試験1〜3とする)に装着し、暴露試験に供した。この暴露試験の期間は2.5年間であり、バラストタンクの腐食環境は、バラストタンク内に海水5が入っている期間が約20日、海水5が入っていない期間が約20日を1サイクルとして、これを繰り返すものであった。
暴露試験1:
バラストタンク内に海水が入っている期間:海水飛沫
バラストタンク内に海水が入っていない期間:大気(乾湿繰返し)
暴露試験2:
バラストタンク内に海水が入っている期間:海水浸漬
バラストタンク内に海水が入っていない期間:大気(乾湿繰返し)
暴露試験3:
バラストタンク内に海水が入っている期間:海水浸漬
バラストタンク内に海水が入っていない期間:海水浸漬(残留海水による浸漬)
以上の暴露試験後に、スクラッチ疵の周囲に発生した塗膜膨れ面積を測定した。表3に腐食試験結果を、表4に機械的特性調査結果を示す。
4 バラストタンク
5 海水
Claims (5)
- 質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.7〜2.0%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、Al:0.10%以下、Sn:0.02〜0.2%、Nb:0.003〜0.03%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0010〜0.010%を含有し、さらにCu、Ni、CrをそれぞれCu:0.20%未満、Ni:0.20%未満、Cr:0.20%未満とし、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を1000〜1350℃に加熱した後、600℃以上800℃未満の温度域で圧延を終了し(ただし、700℃で圧延を終了する場合を除く)、冷却することを特徴とする耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材の製造方法。
- 質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.7〜2.0%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、Al:0.10%以下、Sn:0.02〜0.2%、Nb:0.003〜0.03%、Ti:0.005〜0.030%、N:0.0010〜0.010%を含有し、さらにCu、Ni、CrをそれぞれCu:0.20%未満、Ni:0.20%未満、Cr:0.20%未満とし、さらに、質量%で、Ca:0.0005〜0.0030%、Zr:0.001〜0.1%、V:0.002〜0.2%、Co:0.01%以上0.20%未満、B:0.0001〜0.003%、REM:0.0001〜0.015%、Mg:0.0001〜0.01%、Y:0.0001〜0.1%のうちから選んだ1種以上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼素材を1000〜1350℃に加熱した後、600℃以上800℃未満の温度域で圧延を終了し、冷却することを特徴とする耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材の製造方法。
- 鋼材の表面に、エポキシ系塗膜を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材の製造方法。
- 鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材の製造方法。
- 鋼材の表面に、ジンクプライマー塗膜とエポキシ系塗膜を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の耐食性に優れる船舶バラストタンク用耐食鋼材の製造方法。
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