JP2967996B2 - L―トリプトファンの製造法 - Google Patents

L―トリプトファンの製造法

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Description

【発明の詳細な説明】 産業上の利用分野 本発明は、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソ
ネート−7−ホスフェートシンターゼ(以下DSと略
す),アンスラニル酸シンターゼ(以下ASと略す),ア
ンスラニル酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(以下
PRTと略す),N−5′−ホスホリボシルアランスラニル
酸イソメラーゼ(以下PRAIと略す),インドール−3−
グリセロールリン酸シンターゼ(以下InGPSと略す),
トリプトファンシンターゼ(以下TSと略す)および3−
ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼ(以下PGDHと略
す)の合成に関与する遺伝子(以下それぞれDS遺伝子,A
S遺伝子,PRT遺伝子,PRAI遺伝子,InGPS遺伝子,TS遺伝
子、PGDH遺伝子と称することもある)の全てを含むDNA
断片とベクターDNAとの組換え体DNAをコリネバクテリウ
ム属またはブレビバクテリウム属に属する微生物に保有
させ、該微生物を培地に培養し、培養物中にL−トリプ
トファンを生成蓄積させ、該培養物からL−トリプトフ
ァンを採取することを特徴とするL−トリプトファンの
製造法に関する。従って、本発明はバイオインダストリ
ーの産業分野に関し、特に医薬、飼料工業において有用
なL−トリプトファンの製造分野に関する。
従来の技術 組換えDNA技術により、コリネバクテリウム属または
ブレビバクテリウム属に属し、L−トリプトファン生成
能を有する菌株が種々作製されている。たとえば、AS遺
伝子を含む組換え体DNA(特開昭59−156292),PRT遺伝
子,PRAI遺伝子,InGPS遺伝子およびTS遺伝子を含む組換
え体DNA(特開昭61−149082),DS遺伝子を含む組換え体
DNA(特開昭62−51980),PRAI−InGPS遺伝子を含む組換
え体DNA(特開昭62−79775),DS遺伝子およびAS−TS遺
伝子を含む組換え体DNA〔日本農芸化学会誌63,(3)
p.701(1989)〕をそれぞれ導入したL−トリプトファ
ン生産菌などが知られている。
さらに、バチルス属に属し、セリン生合成系遺伝子を
含む組換え体DNAを導入したL−トリプトファン生産菌
(特開昭64−67178,特開昭64−67179)を用いたL−ト
リプトファンの製造法も知られている。
発明が解決しようとする課題および解決のための手段 近年、L−トリプトファンの需要が増大するにつれて
その製造法の改善が強く望まれている。本発明者は、こ
のような状況を考慮し、組換えDNA技術を有効に活用
し、すぐれたL−トリプトファン生産菌を造成するため
鋭意研究を重ねた。その結果、微生物のDS,AS,PRT,PRA
I,InGPS,TSおよびPGDHの合成に関与する遺伝情報の全て
を含むDNA断片を組み込んだ組換え体DNAをコリネバクテ
リウム属またはブレビバクテリウム属菌種に導入するこ
とにより、該菌株のL−トリプトファン生産能が改良さ
れることを見出し、本発明を完成するに至った。DS,AS,
PRT,PRAI,InGPS,TSおよびPGDHの全ての遺伝子を併用し
た例は知られておらず、これらすべての遺伝子の同時増
幅により、L−トリプトファンの生産性が一段と向上す
ることは本発明により初めて見出されたものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、微生物のDS,AS,PRT,PRAI,InGPS,TSおよびP
GDHの合成に関与する遺伝情報の全てを含むDNA断片とベ
クターとの組換え体DNAを保有するコリネバクテリウム
属またはブレビバクテリウム属に属する微生物を培地に
培養し、培養物中にL−トリプトファンを生成蓄積さ
せ、該培養物からL−トリプトファンを採取することを
特徴とするL−トリプトファンの製造法を提供する。
該DNA断片としては、コリネバクテリウム属またはブ
レビバクテリウム属に属する微生物に由来するものがあ
げられる。
上記各遺伝子の供給源となる微生物としては、芳香族
アミノ酸の生合成において自己栄養性の微生物であれば
いかなる微生物でもよい。とりわけ、原核生物である細
菌、たとえばエシェリシア属,コリネバクテリウム属ま
たはブレビバクテリウム属に属する菌株の遺伝子が望ま
しく、とくにこれらの細菌から誘導された芳香族アミノ
酸生産性変異株由来の遺伝子が好適である。
宿主微生物として用いるコリネバクテリウム属または
ブレビバクテリウム属に属する微生物としては、コリネ
型グルタミン酸生産菌として知られている微生物は全て
用いることができるが、好適には下記の菌株が用いられ
る。
コリネバクテリウム・グルタミクム ATCC 13032 コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC 13870 コリネバクテリウム・ハーキュリス ATCC 13868 コリネバクテリウム・リリウム ATCC 15990 コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC 17965 ブレビバクテリウム・ディバリカツム ATCC 14020 ブレビバクテリウム・フラブム ATCC 14067 ブレビバクテリウム・イマリオフィラム ATCC 14068 ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC 13869 ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC 19240 これらの細菌から変異誘導された芳香族アミノ酸生産
性菌株はさらに好ましい宿主として用いることができ
る。これら生産性変異株はアミノ酸要求性、アミノ酸ア
ナログ耐性あるいはこれを併有する菌株として取得する
ことができる〔日本農芸化学会誌,50,(1)p.R.79
(1976)〕。
該DNAを組み込むためのベクターとしては、コリネバ
クテリウム属またはブレビバクテリウム属菌種中で自律
複製できるものであれば特に限定されないが、例えばpC
G1(特開昭57−134500),pCG2(特開昭58−35197),pCG
4,pCG11(いずれも特開昭57−183799),pCE54,pCB101
(いずれも特開昭58−105999),pCE51,pCE52,pCE53〔い
ずれもモレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティ
クス(Mol.Gen.Genet.)196,175(1984)〕などのプラ
スミドを使用することができる。
DSをコードする遺伝子を含む供与体DNAとベクターDNA
との組換え体DNAは、試験管内で両DNAを制限酵素で切断
した後、DNAリガーゼで処理するか、またはその切断末
端をターミナルトランスフェラーゼやDNAポリメラーゼ
などで処理した後、DNAリガーゼを作用させて結合する
常法〔メソッヅ・イン・エンザイモロジィ(Methods in
Enzymology)68(1979)〕により種々の組換え体混成
物とともに生成させることができる。この混成物を用い
て、DSをコードする遺伝子の欠失したコリネバクテリウ
ム属またはブレビバクテリウム属の変異株を形質転換
し、欠損形質が相補された形質転換株を選択し、この形
質転換株の有するプラスミドを単離することによってDS
をコードする遺伝子を含む組換え体DNAを取得できる。
コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属微生
物の形質転換法としては、プロトプラストを用いる方法
(特開昭57−186492および特開昭57−186489)により実
施することができる。
同様にして、トリプトファン生合成系遺伝子を含む供
与体DNAとベクターDNAとの組換え体DNAを得ることがで
きる。すなわち、染色体DNAとベクターDNAとの組換え体
混成物を用いて、コリネバクテリウム属またはブレビバ
クテリウム属のトリプトファン生合成系遺伝子のいずれ
かが欠損したトリプトファン要求性変異株を形質転換
し、トリプトファン非要求性となった形質転換株からト
リプトファン生合成系遺伝子を含む組換え体DNAを取得
できる。トリプトファン生合成系遺伝子の同定は、コリ
ネバクテリウム属,ブレビバクテリウム属またはエシェ
リシア属に属する微生物から変異誘導され、遺伝子の欠
損部位が既に同定されているトリプトファン要求性変異
株を用いた相補試験により行うことができる。
実施例1(3)に示すように、コリネバクテリウム・
グルタミクムの染色体DNAを供与源とした場合には、ト
リプトファン生合成に係わるAS,PRT,PRAI,InGPSおよびT
Sの合成に関与する全ての遺伝情報は11.0キロベース(k
b)のBamHI DNA断片として単離される。
PGDH遺伝子を含む供与体DNAとベクターDNAとの組換え
体DNAも、染色体DNAとベクターDNAとの組換え体混成物
を用いて、コリネバクテリウム属またはブレビバクテリ
ウム属のPGDH遺伝子が欠損したセリン要求性変異株を形
質転換し、セリン非要求性となった形質転換株を選択す
ることによって同様に取得できる。
以上のようにして取得したDS遺伝子を含む組換え体DN
A、トリプトファン生合成系遺伝子を含むDNAおよびPGDH
遺伝子を含む組換え体DNAから各遺伝子を含むDNA断片を
切り出し順次組み換えて、全遺伝子を同時に含む組換え
体DNAを作製することができる。この組換え体DNAを宿主
微生物に導入することにより、上記遺伝子を同時に増幅
することができる。細胞内で共存できる別個のベクター
DNAに各々の遺伝子を組み換え、それらの組換え体DNAと
宿主微生物に共有させても同様な同時増幅が可能であ
る。
上記の組換え体DNAが、コリネバクテリウム属または
ブレビバクテリウム属菌種由来の野生型のDS遺伝子、ト
リプトファン生合成系遺伝子およびPGDH遺伝子を含む場
合、増幅効果によって各酵素の合成量は高まり、それに
よって宿主微生物のトリプトファン合成能を強化するこ
とができる。しかしながら、コリネバクテリウム属また
はブレビバクテリウム属菌種において、DSはフェニルア
ラニンおよびチロシンでフィードバック阻害を受け、ま
たASおよびPRTはトリプトファンでフィードバック阻害
を受けることが知られている〔アグリカルチュラル・ア
ンド・バイオロジカル・ケミストリー(Agric.Biol.Che
m.)39,351(1975),同書 47,2295(1983)〕。従っ
て、これらのフィードバック阻害から解除された変異型
のDS,ASおよびPRTをコードする遺伝子を有する組換え体
DNAを用いる方が、コリネバクテリウム属またはブレビ
バクテリウム属微生物に高いL−トリプトファン生産能
を付与できるので好ましい。変異型のDS,ASおよびPRT遺
伝子は、フィードバック阻害から解除された変異型のD
S,ASまたはPRTをコードする遺伝子を有するコリネバク
テリウム属またはブレビバクテリウム属の変異株の染色
体DNAを供与源として、前記のようにDS遺伝子またはト
リプトファン生合成系遺伝子の欠損変異の相補により得
ることができる。あるいは、野生型のDSまたはASおよび
PRTを有するコリネバクテリウム属またはブレビバクテ
リウム属菌種を受容菌として、各々、フェニルアラニン
のアナログ、例えばパラーフルオロフェニルアラニン
(以下、PFPと略す)、トリプトファンのアナログ、例
えば5−フルオロトリプトファン(以下、5FTと略す)
に耐性となった形質転換株を選択することによっても、
クローニングすることができる。変異型のDS,ASおよびP
RTをコードする遺伝子を有する組換え体DNAの作製は、
野生型の両遺伝子を有する組換え体DNAを作製するのと
同様な方法で実施可能である。変異型のDS,ASおよびPRT
をコードする遺伝子を有する組換え体DNAは、野生型の
両遺伝子を有する組換え体DNAをin vitroで変異処理
〔モレキュラー・アンド・ジェネラル・ジェネティクス
(Mol.Gen.Genet.)145,101(1978)〕するか、あるい
は、その組換え体DNAを保有する微生物を常法通り変異
処理することによっても得ることができる。野生型また
は変異型のDS遺伝子,トリプトファン生合成系遺伝子お
よびPGDH遺伝子を同時に含む組換え体DNAは、前記のよ
うなプロトプラストを用いる形質転換法によりコリネバ
クテリウム属またはブレビバクテリウム属微生物に導入
できる。
これらの組換え体DNA保有株によるL−トリプトファ
ンの生産は、発酵法によるアミノ酸の製造に用いられる
培養方法により行うことができる。すなわち、該形質転
換株を炭素源,窒素源,無機物,アミノ酸,ビタミンな
どを含有する培地中、好気的条件下、温度、pHなどを調
節しつつ培養を行えば、培養物中にL−トリプトファン
が生成蓄積するのでこれを採取する。
炭素源としてはグルコース,グリセロール,フラクト
ース,シュークロース,マルトース,マンノース,澱
粉,澱粉加水分解液,糖蜜などの炭水化物,ポリアルコ
ール,ピルビン酸,フマール酸,乳酸,酢酸などの各種
有機酸が使用できる。さらに微生物の資化性によって、
炭化水素,アルコール類なども用いられる。特に廃糖蜜
は好適に用いられる。
窒素源としてはアンモニアまたは塩化アンモニウム,
硫酸アンモニウム,炭酸アンモニウム,酢酸アンモニウ
ムなどの各種無機および有機アンモニウム塩類あるいは
尿素および他の窒素含有物質ならびにペプトン,NZ−ア
ミン,肉エキス,酵母エキス,コーン・スチープ・リカ
ー,カゼイン加水分解物,フィッシュミールまたはその
消化物,蛹加水分解物などの窒素含有有機物など種々の
ものが使用可能である。
さらに無機物としては、リン酸第一水素カリウム,リ
ン酸第二水素カリウム,硫酸アンモニウム,塩化アンモ
ニウム,硫酸マグネシウム,塩化ナトリウム,硫酸第一
鉄,硫酸マンガンおよび炭酸カルシウムなどを使用す
る。ビタミン,アミノ酸としては、使用する培地の炭素
源,窒素源などによって異なるが、必要に応じ、ビオチ
ン,サイアミンなどを添加する。また使用する菌株が、
要求性を示す場合は、その要求物質を添加する。
培養は振盪培養または通気撹拌培養などの好気的条件
下に行う。培養温度は一般に20〜40℃が好適である。培
地のpHは中性付近に維持することが望ましい。培養期間
は通常1〜5日間で培地中にL−トリプトファンが蓄積
する。培養終了後、菌体を除去して活性炭処理、イオン
交換樹脂処理などの公知の方法で培養液からL−トリプ
トファンを回収する。
このようにして、DS遺伝子、トリプトファン生合成系
遺伝子およびPGDH遺伝子を含む組換え体DNAを保有させ
たコリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属菌
株を用いることにより、高い収率でL−トリプトファン
を生産することができる。
本明細書では、コリネバクテリウム・グルタミクム
に、DS,AS,PRT,PRAI,InGPS,TSおよびPGDHの合成に関与
する遺伝情報の全てを含む組換え体DNAを導入し、L−
トリプトファンの生産性の向上について例示したが、代
わりに他のコリネ型グルタミン酸生産菌を用いても目的
は達成される。
グルタミン酸高生産能を有するいわゆるコリネ型グル
タミン酸生産菌は、主な菌学的性質を同じくしているに
もかかわらず、産業上の重要性から、各研究者により、
種々の菌名が付されており、属名までも、コリネバクテ
リウム属またはブレビバクテリウム属など種々である。
しかしながら、これらの菌群は、細胞壁のアミノ酸構成
やDNAの塩基組成が画一的であることから、同一の菌種
であることが指摘されていた。さらに、これらの菌種間
には、70〜80%以上のDNAの相同性があることが明らか
にされ、非常に近縁な微生物であることが明白である
〔コマツ ワイ(Komatsu Y.):レポート オブ ザ
ファーメンテイティブ リサーチ インスティチュート
(Report of the Fermentative Research Institute),
No.55,1,(1980)およびスズキ ケイ.,カネコ ティ.,
コマガタ ケイ(Suzuki,K.,Kaneko,T.,and Komagata,
K.):インターナショナル ジャーナル オブ システ
マティック バクテリオロジィ(Int.J.Syst.Bacterio
l.),31,131(1981)参照〕。上記の事実を踏まえれば
コリネ型グルタミン酸生産菌全般での効果が容易に類推
される。その効果の有無は組換え体DNAがコリネ型グル
タミン酸生産菌全般で自律的に複製し、DS遺伝子、トリ
プトファン生合成系遺伝子およびPGDH遺伝子が形質発現
できるか否かに係わり、コリネ型グルタミン酸生産菌間
のDNA相同性などにおける若干の相違は何ら関係ない。
しかるにこれらの菌種がプラスミドの複製と遺伝子発現
に係わる機能を等しく保持していることは、特開昭57−
183799に開示したコリネバクテリウム・グルタミクム22
5−250株から分離され、スペクチノマイシンおよび/ま
たはストレプトマイシン耐性遺伝子を有するプラスミド
pCG4がコリネバクテリウム属およびブレビバクテリウム
属菌種などコリネ型グルタミン酸生産菌内で同じく複製
でき、またその耐性遺伝子が発現される(特開昭57−18
6492)ことから明らかである。従って、本発明のDS,AS,
PRT,PRAI,InGPS,TSおよびPGDHの合成に関与する遺伝情
報の全てを含む組換え体DNAを導入することによるL−
トリプトファン生産菌の作製法を適用し得る菌株は、コ
リネバクテリウム・グルタミクムに限らずコリネバクテ
リウム属およびブレビバクテリウム属菌種を含むコリネ
型グルタミン酸生産菌全てが含まれる。
以下に本発明の実施例を示す。
実施例1. コリネバクテリウム・グルタミクムK38のDS遺伝子、
コリネバクテリウム・グルタミクムK55のAS,PRT,PRAI,I
nGPSおよびTSの合成に関与する全ての遺伝子およびコリ
ネバクテリウム・グルタミクムATCC31833のPGDH遺伝子
を同時に含む組換え体プラスミドを保有する菌株による
トリプトファンの生産 (1)コリネバクテリウム・グルタミクムK38(FERM BP
−454),コリネバクテリウム・グルタミクムK55(FERM
BP−864)およびコリネバクテリウム・グルタミクムAT
CC31833の染色体DNAおよびベクターpCE53とpCG116の調
製 NB培地(粉末ブイヨン20g,酵母エキス5gを水1に含
み、pH7.2に調整した培地)でそれぞれ増殖したコリネ
バクテリウム・グルタミクムK38(FERM BP−454)(PFP
およびパラ−アミノフェニルアラニンの耐性形質を有し
ている)、コリネバクテリウム・グルタミクムK55(FER
M BP−864)(フェニルアラニンおよびチロシン要求性
で、5−メチルトリプトファン,トリプトファンハイド
ロキサメート,6−フルオロトリプトファン,4−メチルト
リプトファン,PFP,パラ−アミノフェニルアラニン,チ
ロシンハイドロキサメートおよびフェニルアラニンハイ
ドロキサメートの耐性形質を有している)およびコリネ
バクテリウム・グルタミクムATCC31833の種培養20ml
を、それぞれフェニルアラニンおよびチロシン各100μg
/mlを含む半合成培地SSM〔グルコース20g、(NH4)2SO4
10g,尿素3g,酵母エキス1g,KH2PO4 1g,MgCl2・6H2O 0.4
g,FeSO4・7H2O 10mg,MnSO4・4〜6H2O 0.2mg,ZnSO4・7
H2O 0.9mg,CuSO4・5H2O 0.4mg,Na2B4O7・10H2O 0.09m
g、(NH4)6Mo7O24・4H2O 0.04mg、ビチオン30μgおよ
びサイアミン塩酸塩1mgを水1に含み、pH7.2に調整し
た培地〕400mlに接種して30℃で振盪培養した。東京光
電比色計で660nmにおける吸光度(OD)を測定(以下特
記しないかぎり吸光度は660nmで測定)し、ODが0.2にな
った時点で培養液へ0.5単位/mlの濃度となるようにペニ
シリンGを添加した。さらに培養を継続し、ODが0.6に
なるまで生育させた。
培養液から菌体をそれぞれ集菌し、TES緩衝液〔0.03M
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(以下トリス
と略す)、0.005Mエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム
(以下、EDTAと略す)、0.05M NaCl、pH8.0〕で洗浄
後、リゾチーム溶液(25%ショ糖、0.1M NaCl、0.05Mト
リス、0.8mg/mlリゾチーム、pH8.0)10mlに懸濁し、37
℃で2時間反応を行った。集菌した菌体から斎藤−三浦
の方法〔Saito,H.and Miura,K,:バイオキミカ・エ・バ
イオフィジカ・アクタ(Biochim.Biophys.Acta)、72,6
19(1963)〕に従って高分子染色体DNAを単離した。
ベクターとして用いるpCE53は、コリネバクテリウム
・グルタミクムのプラスミドpCG1(特開昭57−134500)
とエシェリシア・コリのプラスミドpGA22〔G.An,et al:
ジャーナル・オブ・バクテリオロジイ(J.Bacteriol.)
140,400(1979)参照〕を和合連結させたプラスミドで
ある。詳しくはpCG1上のBglII切断部位とpGA22上に2カ
所あるBamHI切断部位のうちテトラサイクリン耐性遺伝
子内でないBamHI切断部位とで、両制限酵素の同一接着
末端を利用して連結したものである。pCE53はpGA22由来
のカナマイシン耐性遺伝子などの選択マーカーを有し、
制限酵素BamHIに対する切断部位は1カ所である。
同じく、ベクターとして用いるpCG116は、コリネバク
テリウム・グルタミクムのプラスミドpCG11(特開昭57
−134500)上のStuIおよびPstI切断部位に、M13mp18 RF
DNA(宝酒造社製)をEcoRIで切断後、クレノー断片
(宝酒造社製)で平滑末端に修復し、さらにPstIで切断
して得たリンカーを両者の各々、平滑末端、接着末端を
利用して結合させたプラスミドである。pCG116は分子長
約6.5Kbのプラスミドで、単一の制限酵素切断部位とし
てBglII,PstI,SalI,XbaI,BamHI,SmaI,KpnIおよびSacIを
有し、ストレプトマイシンおよび/またはスペクチノマ
イシン耐性の表現型を与える(第1図参照)。
pCE53およびpCG116は各々を保有するコリネバクテリ
ウム・グルタミクムATCC13032またはコリネバクテリウ
ム・グルタミクムATCC31833の培養菌体から次の方法で
それぞれ単離した。
pCE53またはpCG116を保有するコリネバクテリウム・
グルタミクムATCC13032またはコリネバクテリウム・グ
ルタミクムATCC31833を、400mlSSM培地で、30℃にて振
盪培養し、上記と同様にしてペニシリンG処理後、ODが
約0.6になるまで生育させた。菌体を集菌しTES緩衝液で
洗浄後、リゾチーム溶液10mlに懸濁し、37℃で2時間反
応させた。反応液に5M NaCl 2.4ml、0.5MEDTA(pH8.5)
0.6ml、4%ラウリル硫酸ナトリウムと0.7M NaClからな
る溶液4.4mlを順次添加し、緩やかに混和してから氷水
上に15時間置いた。溶菌物を遠心管に移し、4℃で60分
間69,400×gの遠心分離にかけ上澄液を回収した。これ
に重量百分率10%相当のポリエチレングリコール(PE
G)6,000(半井化学薬品社製)を加え、静かに混和して
溶解後、氷水上に置いた。10時間後、1,500×gで10分
間遠心分離してペレットを回収した。TES緩衝液5mlを加
えてペレットを静かに再溶解してから1.5mg/mlエチジウ
ムブロマイド2.0mlを添加し、これに塩化セシウムを加
えて静かに溶解し、密度を1.580に合わせた。
この溶液を105,000×g、18℃で48時間超遠心分離に
かけ、紫外線照射下に検知される遠心チューブ下方の密
度の高い位置のバンドを遠心チューブの側面から注射器
で抜きとることによって、pCE53およびpCG116プラスミ
ドDNAをそれぞれ分離した。この分画液を等容量のイソ
プロピルアルコール液〔容量百分率90%イソプロピルア
ルコール、10%TES緩衝液(この混液中に飽和溶解量の
塩化セシウムを含む)〕で5回処理してエチジウムブロ
マイドを抽出除去し、しかる後にTES緩衝液に対して透
析した。
(2)DS遺伝子を含むDNA断片のクローニング 上記で、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC1303
2から調製したpCG116プラスミドDNA3μgを含む反応液
Y−100(トリス10mM,MgCl26mM,NaCl100mM,pH7.5)60μ
lに6単位のSalI(宝酒造社製、以下特記しないかぎり
制限酵素は宝酒造社製)およびBglIIを添加し、37℃で6
0分間反応させた。一方、コリネバクテリウム・グルタ
ミクムK38(FERM BP−454)の染色体DNA 3μgを含むY
−100反応液140μlに6単位のSalIおよびBglIIを添加
し、37℃で60分間反応させた。いずれもフェノール処理
により反応を停止させた。両反応液を混合し、2容のエ
タノールを加えてDNAを沈澱回収後、水200μlに溶解し
た。
このDNA溶液200μlに10倍濃度のT4リガーゼ用緩衝液
(トリス660mM,MgCl266mM,ジチオスレイトール100mM,pH
7.6)40μl,5mM ATP 40μl,T4リガーゼ(宝酒造社製)3
00単位および水120μlを加え、12℃で16時間反応させ
た。
このリガーゼ反応混合物をコリネバクテリウム・グル
タミクムATCC13032の形質転換に供した。コリネバクテ
リウム・グルタミクムATCC13032の種培養4mlをSSM培地4
0mlに植菌し、30℃で振盪培養した。ODが0.2になった時
点で上記(1)と同様な方法でペニシリンG処理後、OD
が0.6になるまで生育させた。菌体を集菌し、該細胞をR
CGP培地〔グルコース5g、カザミノ酸5g、酵母エキス2.5
g、K2HPO4 3.5g、KH2PO4 1.5g、MgCl2・6H2O 0.41g、Fe
SO4・7H2O 10mg、MnSO4・4〜6H2O 2mg、ZnSO4・7H2O
0.9mg、(NH4)6Mo7O24・4H2O 0.04mg、ビチオン30μ
g、サイアミン塩酸塩2mg、コハク酸二ナトリウム135
g、ポリビニルピロリドン(分子量10,000)30gを水1
に含む培地〕に1mg/mlのリゾチームを含む溶液(pH7.
6)10mlに約109細胞/mlとなるように懸濁し、L型試験
管に移して30℃で16時間緩やかに振盪反応してプロトプ
ラスト化した。
このプロトプラスト菌液0.5mlを小試験管にとり、2,5
00×gで5分間遠心分離し、TSMC緩衝液(MgCl210mM、C
aCl230mM、トリス50mM、ショ糖400mM、pH7.5)1mlに再
懸濁して遠心洗浄後、TSMC緩衝液0.1mlに再懸濁した。
この菌液に2倍高濃度のTSMC緩衝液と上記リガーゼ反応
液の1対1混合液100μlを加えて混和し、次いでTSMC
緩衝液中に20%PEG6,000を含む液0.8mlを添加して混合
した。3分後、RCGP培地(pH7.2)2mlを添加し、2,500
×gで5分間遠心分離にかけて上澄液を除去し、沈降し
たプロトプラストを1mlのRCGP培地に懸濁してから、こ
の菌液0.2mlをスペクチノマイシン400μg/mlを含むRCGP
寒天培地(RCGP培地に1.4%寒天を含む培地、pH7.2)に
塗布し、30℃で7日間培養した。
寒天培地上に生育したコロニーをかき集め、生理食塩
水で2回遠心洗浄後、生理食塩水1mlに懸濁した。この
菌液をPFP3mg/mlおよびスペクチノマイシン100μg/mlを
含有する最少寒天培地M1〔グルコース10g,(NH4)H2PO41
g,KCl 0.2g、MgSO4・7H2O 0.2g,FeSO4・7H2O 10mg,MnSO
4・4〜6H2O 0.2mg,ZnSO4・7H2O 0.9mg,CuSO4・5H2O
0.4mg,Na2B4O7・10H2O 0.09mg、(NH4)6Mo7O24・4H2O
0.04mg、ビオチン50μg、p−アミノ安息香酸2.5mg、
サイアミン塩酸塩1mgおよび寒天16gを水1中に含み、
pH7.2に調整した培地〕上に再塗布して30℃で5日間培
養し、PFPおよびスペクチノマイシンに耐性となった形
質転換株を選択した。
これらの形質転換株から、上記(1)でpCG116を単離
したのと同様な方法でプラスミドDNAを単離した。形質
転換株の一株から得られ、pCGDS1と命名したプラスミド
は、各種制限酵素による切断産物をアガロースゲル電気
泳動法で解析した結果、pCG116のSalI−BglII切断部位
に5.0KbのSalI−BglIIDNA断片が挿入された構造を有し
ていることがわかった(第1図参照)。
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032およびp
CGDS1を保有する形質転換株について、DS活性をP.R.Spr
inavasanとD.B.Sprinsonらの方法〔ジャーナル・オブ・
バイオロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)234,71
6(1959)〕に従って測定した。ATCC13032株のDS活性を
1としたときのpCGDS1を保有する形質転換株のDS活性は
8〜10倍に増加しており、また、フェニルアラニンおよ
びチロシンによる阻害を受けないことから、pCGDS1に挿
入されている5.0KbのDNA断片上には、コリネバクテリウ
ム・グルタミクムK38株由来のDS遺伝子が存在すること
が判明した。
(3)AS,PRT,PRAI,InGPSおよびTSの合成に関与する遺
伝情報の全てを含むDNA断片のクローニング 上記(1)で、コリネバクテリウム・グルタミクムAT
CC13032から調製したpCE53プラスミドDNA3μgを含むY
−100反応液60μlに6単位のBamHIを添加し、37℃で60
分間反応させた。一方、コリネバクテリウム・グルタミ
クムK55(FERM BP−864)の染色体DNA3μgを含むY−1
00反応液140μlに6単位のBamHIを添加し、37℃で60分
間反応させた。いずれも65℃で10分間加温して反応を停
止させた。
両反応液を混合し、10倍濃度のT4リガーゼ用緩衝液40
μl,5mM ATP40μl,T4リガーゼ(宝酒造社製)300単位お
よび水120μlを加え、12℃で16時間反応させた。
このリガーゼ反応混合物をコリネバクテリウム・グル
タミクムTA108(TSの2つのサブユニット、αおよびβ
のうち、βサブユニット遺伝子を欠損しており、トリプ
トファンの要求性を有している)(昭和63年4月9日付
で微工研にFERM BP−1846として寄託)の形質転換に供
した。TA108の種培養4mlを、トリプトファン50μg/mlを
含むSSM培地40mlに植菌して30℃で振盪培養した。ODが
0.2になった時点で上記(1)と同様な方法でペニシリ
ンG処理後、ODが0.6になるまで生育させた。菌体を集
菌し、該細胞を上記(2)と同様な方法によりリゾチー
ム処理してプロトプラスト化した。このプロトプラスト
を上記リガーゼ反応混合物を用いて上記(2)と同様な
方法により形質転換した。カナマイシン200μg/mlを含
むRCGP寒天培地上に生育したカナマイシン耐性コロニー
をかき集め、生理食塩水で2回遠心洗浄後、生理食塩水
1mlに懸濁した。この菌液をカナマイシン10μg/mlを含
有する最少寒天培地M1上に再塗布して30℃で3日間培養
し、カナマイシン耐性で、トリプトファン非要求性とな
った形質転換株を選択した。これらの形質転換株から上
記(1)でpCE53を単離したのと同様な方法でプラスミ
ドDNAを単離した。形質転換株の一株から得られ、pCtrp
1と命名したプラスミドは、各種制限酵素による切断産
物をアガロースゲル電気泳動で解析した結果、pCE53のB
amHI切断部位に11.0KbのBamHIDNA断片が挿入された構造
を有していることがわかった(第1図参照)。
この11.0KbのBamHIDNA断片に含まれる他のトリプトフ
ァン生合成系遺伝子の同定を行った。pCtrp1を用い、コ
リネバクテリウム・グルタミクムTA105(AS遺伝子を欠
損している),TA106(PRT遺伝子を欠損している)およ
びTA107(TS−αサブユニット遺伝子を欠損している)
を上記(3)と同様な方法により形質転換した。カナマ
イシン200μg/mlを含むRCGP寒天培地上に生育したカナ
マイシン耐性コロニーはいずれもトリプトファン非要求
性であることから、pCtrp1に挿入されている11.0KbのDN
A断片上には、少なくともAS,PRT,TS−αおよびTS−βの
各遺伝子が存在することが判明した。
次に、pCtrp1を用い、エシェリシア・コリATCC23719
(K−12,trpC-)をM.Dagertらの方法〔ジーン(Gene)
6,23(1979)〕に従って形質転換した。カナマイシン20
μg/mlを含むLB寒天培地(バクトトリプトン10g,酵母エ
キス5g,グリコース1g,NaCl 5gおよび寒天16gを水1中
に含み、pH7.2に調整した培地)上に生育したカナマイ
シン耐性コロニーはいずれもトリプトファン非要求性で
あることから、pCtrp1に挿入されている11.0KbのDNA断
片上には、PRAIおよびInGPSの合成に関与する遺伝情報
も存在することが判明した。
(4)トリプトファンアナログ耐性プラスミドpCtrp57
の取得 pCtrp1を保有するTA108株をカナマイシン10μg/mlを
含むNB培地で対数増殖の後期まで増殖させた。菌体を50
mMトリス・マレイン酸緩衝液(pH6.0)で1回遠心洗浄
後、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジ
ン400μg/mlを含む50mMトリス・マレイン酸緩衝液中で
室温で20分間処理した。処理菌体を50mMトリス・マレイ
ン酸緩衝液で2回遠心洗浄後、洗浄菌体をカナマイシン
10μg/mlを含むNB培地中、30℃で16時間培養し、上記
(1)と同様な方法でプラスミドDNAを単離した。単離
したプラスミドDNAを用い、TA108株を上記(3)と同様
な方法で形質転換した。カナマイシン200μg/mlを含むR
CGP寒天培地上に生育したカナマイシン耐性コロニーを
かき集め、生理食塩水を用いて2回遠心洗浄後、5FT 3m
g/mlを含む最少寒天培地M1に塗布して、30℃で3日間培
養した。出現したコロニーから5FT 3mg/mlを含むM1寒天
培地およびカナマイシン10μg/mlを含むNB寒天培地上で
生育できるコロニーを選択した。その一株から分離した
プラスミドをpCtrp57と命名した。
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032およびp
Ctrp1またはpCtrp57を保有するTA108株について、AS活
性をH.Haginoらの方法〔アグリカルチュラル・アンド・
バイオロジカル・ケミストリー(Agric.Biol.Chem.)3
9,323(1975)〕に従って、またPRT活性をJ.ItoとC.Yan
ofskyの方法〔ジャーナル・オブ・バクテリオロジィ
(J.Bacteriol.)97,734(1969)〕に従ってそれぞれ測
定した。ATCC13032株のASおよびPRT活性を各々1とした
ときのpCtrp1またはpCtrp57を保有するTA108株のASおよ
びPRT活性はいずれも10倍以上に増加していた。また、A
TCC39019株,pCtrp1を保有するTA108株およびpCtrp57を
保有するTA108株のASの50%阻害トリプトファン濃度
は、各々、0.002mM,0.008mM,4.0mMであり、PRTの50%阻
害トリプトファン濃度は、各々、0.19mM,0.19mM,4.8mM
であった。このことから、pCtrp57のコードするASおよ
びPRTは、pCtrp1のコードするASおよびPRTに比べ、各々
約500倍,約25倍トリプトファンに対して非感受性にな
っていることがわかった。
(5)AS,PRT,PRAI,InGPSおよびTSの合成に関与する遺
伝情報の全てを含むDNA断片のpCGDS1へのサブクローニ
ング pCtrp57プラスミドDNA 5μgを含むY−100反応液100
μlに0.5単位のBglIIを加え、37℃で10分間部分消化
後、アガロースゲルから7.5KbのDNA断片を分画〔モレキ
ュラー クローニング(Molecular Cloning),164(198
2)〕した。また、pCGDS1プラスミドDNA 3μgを含むY
−100反応液100μlに5単位のBglIIを加え37℃で60分
間反応後、フェノール処理により反応を停止させた。両
反応液を混合し、2容のエタノールを加えてDNAを沈澱
回収後、水200μlに溶解した。
このDNA溶液200μlに10倍濃度のT4リガーゼ用緩衝液
40μl,5mM ATP 40μl,T4リガーゼ(宝酒造社製)300単
位および水120μlを加え、12℃で16時間反応させた。
このリガーゼ反応混合物を用いて、TA108株を上記
(3)と同様な方法により形質転換した。スペクチノマ
イシン400μg/mlを含むRCGP寒天培地上に生育したスペ
クチノマイシン耐性コロニーをかき集め、生理食塩水で
2回遠心洗浄後、生理食塩水1mlに懸濁した。この菌液
をPFP3mg/mlおよびスペクチノマイシン100μg/mlを含有
する最少寒天培地M1上に再塗布して30℃で3日間培養
し、PFPおよびスペクチノマイシン耐性で、トリプトフ
ァン非要求性となった形質転換株を選択した。これらの
形質転換株から上記(1)と同様な方法でプラスミドDN
Aを単離した。形質転換株の一株から得られ、pCDtrp157
と命名したプラスミドは各種制限酵素による切断産物を
アガロースゲル電気泳動で解析した結果、pCGDS1のBglI
I切断部位に4.5Kbおよび3.0Kbの2つのBglIIDNA断片が
挿入された構造を有していることがわかった(第1図参
照)。
このようにして得たpCDtrp157に、AS,PRT,PRAI,InGPS
およびTSの合成に関与する全ての遺伝情報が存在するか
どうかを調べるため、pCDtrp157プラスミドDNAを上記と
同様にしてBglIIで部分消化後、アガロースゲルから7.5
KbのDNA断片を分画し、BamHIで切断したpCE53(コリネ
バクテリウム−大腸菌シャトルベクター)に連結した。
この連結物を用いて上記と同様にしてTA108株を形質転
換し、カナマイシン耐性でトリプトファン非要求性とな
った形質転換株を選択した。形質転換株の一株から得た
プラスミドpCtrp577は、各種制限酵素による切断産物を
アガロースゲル電気泳動で解析した結果、pCE53のBamHI
切断部位に4.5Kbおよび3.0Kbの2つのBglIIDNA断片が挿
入された構造を有していることがわかった。このpCtrp5
77を用い、上記(3)と同様な方法でトリプトファン生
合成系遺伝子の同定を行った結果、pCE53のBamHI切断部
位に挿入された7.5KbのDNA断片上には、AS,PRT,PRAI,In
GPSおよびTSの合成に関与する全ての遺伝情報が存在す
ることが証明された。この結果から、これらの遺伝情報
がpCDtrp157に含まれていることが確認された。
(6)PGDH遺伝子を含むDNA断片のクローニング 上記(1)で、コリネバクテリウム・グルタミクムAT
CC31833から調製したpCG116プラスミドDNA3μgを含む
Y−100反応液60μlに6単位のSalIを添加し、37℃で6
0分間反応させた。一方、コリネバクテリウム・グルタ
ミクムATCC31833の染色体DNA3μgを含むY−100反応液
140μlに6単位のSalIを添加し、37℃で60分間反応さ
せた。いずれも65℃で10分間加温して反応を停止させ
た。
両反応液を混合し、10倍濃度のT4リガーゼ用緩衝液40
μl、5mM ATP40μl、T4リガーゼ300単位および水120
μlを加え、12℃で16時間反応させた。
このリガーゼ反応混合物をコリネバクテリウム・グル
タミクムRS57(コリネバクテリウム・グルタミクムATCC
31833よりセリン要求性変異株として誘導されたPGDH遺
伝子欠損株)の形質転換に供した。RS57の種培養4ml
を、セリン100μg/mlを含むSSM培地40mlに植菌して30℃
で振盪培養した。ODが0.2になった時点で上記(1)と
同様な方法でペニシリンG処理後、ODが0.6になるまで
生育させた。菌体を集菌し、該細胞を上記(2)と同様
な方法により形質転換した。スペクチノマイシン400μg
/mlを含むRCGP寒天培地上に生育したスペクチノマイシ
ン耐性コロニーをかき集め、生理食塩水で2回遠心洗浄
後、生理食塩水1mlに懸濁した。この菌液をスペクチノ
マイシン100μg/mlを含有する最少寒天培地M1上に再塗
布して30℃で3日間培養し、スペクチノマイシン耐性
で、セリン非要求性となった形質転換株を選択した。こ
れらの形質転換株から上記(1)と同様な方法によりプ
ラスミドDNAを単離した。形質転換株の一株から得ら
れ、pCser571と命名したプラスミドは、各種制限酵素に
よる切断産物をアガロースゲル電気泳動で解析した結
果、pCG116のSalI切断部位に2.7kbのSalI DNA断片が挿
入された構造を有していることがわかった(第2図参
照)。
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC31833およびp
Cser571を保有する形質転換株について、PGDH活性をE.S
ugimotoとL.I.Pizerの方法〔ジャーナル・オブ・バイオ
ロジカル・ケミストリー(J.Biol.Chem.)243,2081(19
68)〕に従って測定した。ATCC31833株のPGDH活性を1
としたときのpCser571を保有する形質転換株のPGDH活性
は約13倍に増加していたことから、pCser571に挿入され
ている2.7kbのDNA断片上に、PGDH遺伝子が存在すること
を確認した。
(7)PGDH遺伝子を含むDNA断片のpCDtrp157への連結 pCser571プラスミドDNA3μgを含むY−100反応液100
μlに6単位のBamHIを添加し、37℃で60分間反応後、
アガロースゲルから1.4kbのDNA断片を分画した。また、
pCDtrp157プラスミドDNA3μgを含むY−100反応液100
μlに6単位のBamHIを加え、37℃で60分間反応後、65
℃で10分間加温して反応を停止させた。両反応液を混合
し、2容のエタノールを加えてDNAを沈澱回収後、水200
μlに溶解した。
このDNA溶液200μlに10倍濃度のT4リガーゼ用緩衝液
40μl、5mM ATP40μl、T4リガーゼ300単位および水12
0μlを加え、12℃で16時間反応させた。
このリガーゼ反応混合物を用いて、RS57株を上記
(6)と同様の方法により形質転換した。スペクチノマ
イシン400μg/mlを含むRCGP寒天培地上に生育したスペ
クチノマイシン耐性コロニーをかき集め、生理食塩水で
2回遠心洗浄後、生理食塩水1mlに懸濁した。この菌液
をスペクチノマイシン100μg/mlを含有する最少寒天培
地M1上に再塗布して30℃で3日間培養し、スペクチノマ
イシン耐性で、セリン非要求性となった形質転換株を選
択した。これらの形質転換株から上記(1)と同様な方
法によりプラスミドDNAを単離した。形質転換株の一株
から得られ、pDTS9901と命名したプラスミドは、各種制
限酵素による切断産物をアガロースゲル電気泳動で解析
した結果、pCDtrp157のBamHI切断部位に1.4kbのBamHI断
片が挿入された構造を有していることがわかった(第2
図参照)。
このようにして作製したpDTS9901を用いて、コリネバ
クテリウム・グルタミクムATCC21854(ATCC13032から誘
導されたフェニルアラニンおよびチロシン要求株)を上
記(2)と同様な方法により形質転換し、スペクチノマ
イシンに耐性となった形質転換株を選択した。
このpDTS9901を保有するコリネバクテリウム・グルタ
ミクムATCC21854菌株は、平成元年6月2日付でコリネ
バクテリウム・グルタミクムK82(FERM BP−2444)とし
て工業技術院微生物工業技術研究所(微工研)にブダペ
スト条約に基づいて寄託されている。
(8)pCDtrp157またはpDTS9901を保有する菌株による
トリプトファンの生産 L−トリプトファン生産性菌株コリネバクテリウム・
グルタミクムBPS−13(FERM BP−1777)(ATCC21851か
ら誘導した3−ブロモピルビン酸感受性変異を有する菌
株)の種培養4mlをフェニルアラニンおよびチロシン各5
0μg/mlを含むSSM培地40mlに植菌して30℃で振盪培養し
た。ODが0.2になった時点で上記(1)と同様な方法で
ペニシリンG処理後、ODが0.6になるまで生育させた。
菌体を集菌し、該細胞を上記(2)と同様な方法により
リゾチーム処理してプロトプラスト化した。このプロト
プラストをpCDtrp157およびpDTS9901を用いて上記
(2)と同様な方法により形質転換した。スペクチノマ
イシンに耐性となった形質転換株から上記(1)と同様
な方法によりプラスミドDNAを単離した。これらのプラ
スミドの各種制限酵素での切断解析により、形質転換株
がpCDtrp157またはpDTS9901を保有することを確認し
た。
形質転換株と親株のL−トリプトファン生産試験を太
型試験管培養により次のように行った。
種培地S1〔グリコース20g,ポリペプトン15g,酵母エキ
ス15g,NaCl2.5g,尿素1g,L−チロシン200mg,L−フェニル
アラニン200mgを水1に含み、pH7.2に調整した培地〕
3ml中で30℃,24時間振盪培養した種培養0.5mlを5mlの生
産培地P1〔グリコース60g,KH2PO4 1g,K2HPO4 1g,MgSO4
・7H2O 1g,(NH4)2SO420g,コーン・スチープ・リカー10
g,MnSO4 10mg,ビチオン30μg,CaCO3 20gを水1に含
み、pH7.2に調整した培地〕の入った太型試験管にそれ
ぞれ接種し、30℃で72時間振盪培養した。なお、形質転
換株の種培養およびP1生産培地での培養は、ストレプト
マイシン10μg/ml存在下で行った。培養後、培養液を
高速液体クロマトグラフィーを用いたOPAポストカラム
誘導体化法により定量して、L−トリプトファンの生成
量を測定した。結果を第1表に示す。
(9)2lジャーファーメンターによる培養試験 BPS−13株と該菌株のpCDtrp157またはpDTS9901の保有
株について、2lジャーファーメンターによる培養試験を
次のように行った。
20mlの第1種培地S1中で30℃,24時間振盪培養した第
1種培養10mlを、120mlの第2種培地S2〔シュクロース5
0g,KH2PO4 2g,MgSO4・7H2O 0.5g,(NH4)2SO4 5g,尿素1
g,FeSO4・7H2O 10mg,MnSO4・4〜6H2O 10mg,CuSO4・5H
2O 4mg,コーン・スチープ・リカー40g,L−チロシン222m
g,L−フェニルアラニン362mg,ビチオン50μg,サイアミ
ン塩酸塩100μg,CaCO320gを水1に含み、pH7.2に調整
した培地〕の入った1容三角フラスコにそれぞれ接種
し、30℃で24時間振盪培養した。この第2種培養120ml
を、550mlの生産培地J1〔シュークロース63g,KH2PO4 2
g,K2HPO4 1.2g,MgSO4・7H2O 1.7g,(NH4)2SO4 17g,FeSO
4・7H2O 13mg,MnSO4・4〜6H2O 13mg,CuSO4・5H2O 6m
g,コーン・スチープ・リカー66g,L−チロシン310mg,L−
フェニルアラニン650mg,ビオチン230μg,サイアミン塩
酸塩450μgを水1に含み、pH6.8に調整した培地〕の
入った2lジャーファーメンターに接種し、30℃,1vvm,80
0rpm条件下で、pH6.1にアンモニア水にて調整しなが
ら、菌体を増殖させた。途中、205mlのフィード液〔シ
ュークロース374g,KH2PO4 0.7g,K2HPO4 0.5g,L−チロシ
ン600mgを水1に含む培地〕を2回添加し、糖を消費
した時点で培養を終了した。なお、形質転換株のS1,S2
およびJ1培地での培養は、ストレプトマイシン10μg/ml
存在下で行った。培養液を水で100倍に希釈し60℃で5
分加熱後、培養液を高速液体クロマトグラフィーを用
いたOPAポストカラム誘導体化法により定量してL−ト
リプトファンの生成量を測定した。
結果を第2表に示す。
発明の効果 本発明によれば、微生物のDS,AS,PRT,PRAI,InGPS、TS
およびPGDHの合成に関与する遺伝情報の全てを含む組換
え体DNAを保有させて、コリネバクテリウム属またはブ
レビバクテリウム属菌種におけるL−トリプトファンの
生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】 第1図および第2図は、それぞれpCDtrp157およびpDTS9
901の制限酵素切断地図とその作製工程を示す。太い実
線部分の染色体DNA断片上にはDS遺伝子が、斜線部分の
染色体DNA断片上にはトリプトファン生合成系遺伝子
が、破線部分の染色体DNA断片上にはPGDH遺伝子がそれ
ぞれ含まれている。プラスミドの大きさはキロベース
(kb)で表示されている。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI (C12N 15/09 ZNA C12R 1:15)

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】細菌の3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプ
    ツロソネート−7−ホスフェートシンターゼ、アンスラ
    ニル酸シンターゼ、アンスラニル酸ホスホリボシルトラ
    ンスフェラーゼ、N−5′−ホスホリボシルアンスラニ
    ル酸イソメラーゼ、インドール−3−グリセロールリン
    酸シンターゼ、トリプトファンシンターゼおよび3−ホ
    スホグリセレートデヒドロゲナーゼの合成に関与する遺
    伝情報の全てを含むDNA断片とベクターDNAとの組換え体
    DNAを保有するコリネバクテリウム属またはブレビバク
    テリウム属に属する微生物を培地に培養し、培養物中に
    L−トリプトファンを生成蓄積させ、該培養物からL−
    トリプトファンを採取することを特徴とするL−トリプ
    トファンの製造法。
  2. 【請求項2】該DNA断片がコリネバクテリウム属または
    ブレビバクテリウム属に属する微生物に由来することを
    特徴とする請求項1記載の方法。
  3. 【請求項3】コリネバクテリウム属またはブレビバクテ
    リウム属に属する微生物由来の3−デオキシ−D−アラ
    ビノ−ヘプツロソネート−7−ホスフェートシンター
    ゼ、アンスラニル酸シンターゼ、アンスラニル酸ホスホ
    リボシルトランスフェラーゼ、N−5′−ホスホリボシ
    ルアンスラニル酸イソメラーゼ、インドール−3−グリ
    セロールリン酸シンターゼ、トリプトファンシンターゼ
    および3−ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼの合成
    に関与する遺伝情報の全てを含み、コリネバクテリウム
    属またはブレビバクテリウム属に属する微生物にトリプ
    トファンのアナログに耐性を付与することができるDNA
    断片とベクターDNAとが結合した組換え体DNA。
  4. 【請求項4】コリネバクテリウム属またはブレビバクテ
    リウム属に属する微生物由来の3−デオキシ−D−アラ
    ビノ−ヘプツロソネート−7−ホスフェートシンター
    ゼ、アンスラニル酸シンターゼ、アンスラニル酸ホスホ
    リボシルトランスフェラーゼ、N−5′−ホスホリボシ
    ルアンスラニル酸イソメラーゼ、インドール−3−グリ
    セロールリン酸シンターゼ、トリプトファンシンターゼ
    および3−ホスホグリセレートデヒドロゲナーゼの合成
    に関与する遺伝情報の全てを含むDNA断片とベクターDNA
    との組換え体DNAを保有するコリネバクテリウム属また
    はブレビバクテリウム属に属する微生物。
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