JP2018197377A - 耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼 - Google Patents

耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた耐食性と耐水素脆化とを有する二相ステンレス鋼を、低コストで提供する。【解決手段】質量%で、C:0.05%以下、Si:0.03〜1.0%、Mn:0.05〜2.0%、P:0.05%以下、S:0.005%以下、Cr:17.0〜26.0%、Ni:7.0〜19.0%、Mo:0.1〜6.0%、W:1.1〜6.0%、およびSb:0.005〜0.5%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、少なくともフェライト相とオーステナイト相からなり、オーステナイト相の体積分率が45〜95%である組織を有する、耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。【選択図】 なし

Description

本発明は、耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼に関するものである。本発明の二相ステンレス鋼は、特に、酸、塩化物、炭酸ガスおよび硫化水素等の腐食環境に由来して鋼材中に水素が侵入する環境において使用されるステンレス鋼材およびそれを用いた鋼管、あるいは高圧水素環境で使用される蓄圧容器などに好適に用いることができる。
ステンレス鋼は、鋼材中に含まれるCrが大気中および溶液中で優先酸化され、鋼材表面にごく薄いCr23を主体とする酸化層を形成することにより、鋼材に高い耐食性を付与した鋼材である。ステンレス鋼はこの高い耐食性ゆえ、炭酸ガスや硫化水素が存在する環境下で、特に配管材料として使われてきた。近年では、石油や天然ガスの枯渇に伴い、より腐食環境の厳しいサイトでの掘削が行われるようになり、従来のステンレス鋼に比して高い耐食性を有するものが要求されつつある。
このような環境で使用されるステンレス鋼には、上記のような耐食性だけではなく、耐水素脆性も要求される。即ち、厳しい腐食環境によってステンレス鋼に生じた腐食が僅かであり、腐食によって減少した鋼管の断面積が無視できる程度であり、鋼管の強度の担保、あるいは鋼管内部の流体の搬送に全く影響を与えない場合でも、上記の僅かな腐食によって生じた水素がステンレス鋼内部に拡散し、ステンレス鋼の鋼組織の凝集エネルギーを低下せ、鋼材を貫通する割れ(水素脆化)を発生させる懸念がある。そのため、ステンレス鋼の長期の耐久性を担保するうえで、厳しい腐食環境における耐水素脆化を保証しなければならない。
鋼材中の水素の拡散係数は、鋼材の組織によって異なる。例えば、面心立方構造を持つフェライト中における拡散係数は、体心立方構造を持つオーステナイト中における拡散係数より2桁程度大きい。そのため、フェライト系あるいはマルテンサイト系ステンレス鋼よりオーステナイトステンレス鋼の方が耐水素脆化に優れる。
しかしながら、様々な温度領域でステンレス鋼がオーステナイトとして安定化するためには、大量のNiの添加が必須であり、さらに、ステンレス鋼の耐食性を向上すべくフェライトフォーマーであるCrやMo量を増加させた場合には、それに応じてNi量も増加させなければオーステナイトの構造を維持できないので、材料コストが極めて高くなる。そこで、Ni量を減じたステンレス鋼において、高い耐水素脆化を付与する技術が産業上重要になる。
例えば、特許文献1では、耐食性元素としてCu:0.2〜2%、Ni:5〜6.5%、Cr:23.0〜27.0%、Mo:2.5〜3.5%、W:1.5〜4%および、N:0.24〜0.4%を必須元素として含有する二相ステンレス鋼において、化学成分の濃度でそれぞれ表されるσ相感受性指数、強度指数および耐孔食性指数を所定の範囲に規定する技術が開示されている。
また、特許文献2では、耐食性元素としてNi:1.0〜10.0%、Cr:20.0〜25.0%、Mo:2.0〜5.0%、およびN:0.10〜0.20%を必須元素として含有する二相ステンレス鋼において、Taを0.01〜0.50%添加して積極的にTaを含有する硫化物や酸化物を形成させることにより、耐食性の低下を引き起こすMnSやCr酸化物の形成を抑制する技術が開示されている。
特開2014−043616号公報 特開2016−089263号公報
しかしながら、特許文献1および2記載の技術は、二相ステンレス鋼の耐食性の向上に寄与する可能性はあるものの、ステンレス鋼表面に吸着した原子状の水素がステンレス鋼内部に拡散した際に、ステンレス鋼の脆化を阻止する機能は全く付与されていない。実際、引用文献1、2の実施例には水素脆化に関するいかなる評価も記載されていない。
二相ステンレス鋼の水素脆化は、鋼中に拡散した局所的な水素濃度が数ppm程度以下でも十分起こり得るため、何等かの原因で一時的に腐食環境が厳しくなり僅かな局部腐食が発生した場合や、高圧水素環境にさらされた場合には、水素脆化の発生が否定できない。そのため、特許文献1および2で開示された技術では長期にわたる信頼性の確保が困難である。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、塩化物、炭酸ガスおよび硫化水素等の腐食因子が存在する環境下においても優れた耐食性と耐水素脆化とを有する二相ステンレス鋼を、低コストで提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を行った結果、以下の知見を得た。即ち、少なくともフェライト相とオーステナイト相からなる組織を有し、低コストで製造できるようNi量を減じた二相ステンレス鋼において、オーステナイト相の体積分率の範囲を規定するとともに、耐水素脆化の観点から化学成分を最適化することにより、オーステナイトに比して水素の拡散係数の大きなフェライトを通じて侵入する水素を鋼中トラップし、その結果、二相ステンレス鋼の耐水素脆化を飛躍的に向上させることができる。
本発明は、上記知見に立脚するものであり、その要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C :0.05%以下、
Si:0.03〜1.0%、
Mn:0.05〜2.0%、
P :0.05%以下、
S :0.005%以下、
Cr:17.0〜26.0%、
Ni:7.0〜19.0%、
Mo:0.1〜6.0%、
W :1.1〜6.0%、および
Sb:0.005〜0.5%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
少なくともフェライト相とオーステナイト相からなり、オーステナイト相の体積分率が45〜95%である組織を有する、耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。
2.上記成分組成が、さらに、
Al:0.005〜0.5%、
N :0.05〜0.30%、
Co:0.01〜2.0%、
Sn:0.005〜0.30%、
Cu:0.01〜0.80%、
Nb:0.001〜0.3%、
Ti:0.001〜0.30%、
V :0.001〜0.3%、
Zr:0.0005〜0.30%、
Ta:0.0005〜0.30%、
B :0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、および
Ca:0.0005〜0.01%、からなる群より選択される1または2以上含有する、上記1に記載の耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。
本発明に係る二相ステンレス鋼材は、従前よりも多量の塩化物、硫化水素および炭酸ガスを含有する腐食環境において、長期にわたって優れた耐水素脆性と耐食性を維持できるので、油井や天然ガスの各種配管を含む諸設備に使用でき、資源の枯渇に伴う掘削環境の厳格化に対応が可能である。また、水素蓄圧器等の水素ステーション関連の設備への適用も可能となる。
低歪速度引張応力腐食割れ試験片の構造を示す模式図である。
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施態様を示すものであり、本発明は以下の説明によって何ら限定されるものではない。
[成分組成]
まず、本発明の二相ステンレス鋼材の成分組成を上記範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.05%以下
Cは、鋼の強度を高める元素であり、オーステナイト相の安定化に寄与する元素である。本発明では、所望の強度を確保するために0.05%を上限として添加する。しかしながら、0.05%を超える添加は、クロム炭化物の形成を促進し、ステンレス鋼の耐食性を低下させるので好ましくない。よって、C量は0.05%以下を範囲とする。好ましくは0.03%以下の範囲である。
Si:0.03〜1.0%
Siは、脱酸剤として添加される元素であり、フェライト相の安定化に寄与する。1.0%を超える添加は、鋼の靭性や加工性を低下させるだけでなく、σ相の形成を促進し耐食性を低下させる。一方、0.03%未満の添加は鋼の脱酸剤として充分に寄与できない。よって、Si量は0.03〜1.0%の範囲とする。好ましくは0.05〜0.60%の範囲である。
Mn:0.05〜2.0%
Mnは、鋼の強度を高める元素であり、本発明では、所望の強度を得るために0.05%以上添加する。しかしながら、2.0%を超える添加は、MnSの形成促進により耐食性を低下させるので好ましくない。よって、Mn量は0.05〜2.0%の範囲とする。好ましくは0.07〜1.60%の範囲である。
P:0.05%以下
Pは、粒界に偏析して鋼の靭性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、0.05%を超えて含有されると、靭性が大きく低下する。よって、P量は0.05%以下とする。好ましくは0.03%以下である。
S:0.005%以下
Sは、非金属介在物であるMnSを形成して局部腐食の起点となり、耐局部腐食性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、0.005%を超えて含有されると、耐局部腐食性の顕著な低下を招く。よって、S量の許容上限は0.005%とする。好ましくは0.003%以下である。
Cr:17.0〜26.0%
Crは二相ステンレス鋼の不働態被膜を形成する主要な元素で、耐食性を確保するために必須の元素である。鋼中のCr添加量が多くなるほどステンレス鋼の耐食性は向上するが、フェライト相を安定化する作用があるため、二相ステンレス鋼におけるフェライト分率を一定の範囲内に収めるためには(オーステナイト分率を確保するためには)、オーステナイトを安定化させる作用を有するNiをCrの添加量に応じて増加させなければならない。Crが17.0%未満では十分な耐食性が発揮できず好ましくない。一方、26.0%を超えるCrの添加は、熱間加工性が低下するだけでなく、フェライト分率を一定の範囲内に維持するためのNi量が増大するため高コストになり、好ましくない。よってCr量は17.0〜26.0%とする。好ましくは、18.0〜24.0%とする。
Ni:7.0〜19.0%
Niは二相ステンレス鋼の耐食性向上に有効な元素であり、さらにはオーステナイト相の安定化にも寄与する。鋼中の水素拡散係数は面心立方構造を有するオーステナイト中で小さくなるため、耐水素脆化を確保するためには、オーステナイト分率を一定以上維持しなければならず、7.0%以上のNiの添加が必須である。一方、19.0%を超えるNiの添加は、鋼中にσ相の形成を促進し、加工性が低下するので好ましくない。よってNi量は7.0〜19.0%、好ましくは8.0〜18.0%とする。
Mo:0.1〜6.0%
Moは二相ステンレス鋼の耐食性の向上にきわめて有効な元素である。しかし、0.1%未満の添加では十分な耐食性の向上が発現しない。一方、6.0%を超えるMoの添加は、熱間加工性が低下するだけでなく、Moがフェライト相の安定化に寄与し、オーステナイト分率の減少を引き起こすため、耐水素脆化が低下する。よって、Mo量は0.1〜6.0%、好ましくは0.5〜5.0%とする。
W:1.1〜6.0%
Wは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、フェライト相を安定化させる元素である。W添加量が1.1%未満の場合には、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、6.0%を超えてWを添加した場合、靱性および加工性が低下する。そのため、W量は1.1〜6.0%、好ましくは1.1%〜5.5%とする。
Sb:0.005〜0.5%
Sbは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させるだけでなく、炭化物や硫化物を形成し、フェライト相を拡散した水素のトラップサイトとして作用し、二相ステンレス鋼の耐水素脆化を向上させる必須添加元素である。Sb添加量が0.005%未満ではその効果の発現が不十分であり、一方、0.5%を超えると熱間加工性が著しく低下する。よってSb量は0.005〜0.5%、好ましくは0.01〜0.4%とする。
本発明の一実施形態における二相ステンレス鋼は、上記元素と、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有するものとすることができる。
また、本発明の他の実施形態における二相ステンレス鋼は、前記成分組成がさらに以下に述べる各元素を1または2以上、任意に含有することができる。
Al:0.005〜0.5%
Alは、脱酸剤としての作用を有する元素である。Alを添加する場合、Al含有量を0.005%以上とする。一方、0.5%を超えてAlを添加すると、鋼の靭性が低下するばかりでなく、鋼中に形成されたアルミニウム酸化物が局部腐食の起点となり耐食性が低下する。そのため、Al量の上限は0.5%とする。
N:0.05〜0.30%
Nは二相ステンレス鋼の耐食性を著しく向上させ、オーステナイト相を安定化させる元素である。N添加量が0.05%未満の場合には、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、0.30%を超えてNを添加した場合、靱性および加工性が低下する。そのため、Nを添加する場合、N量は0.05〜0.30%、好ましくは0.10%〜0.30%とする。
Co:0.01〜2.0%
Coは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる必須添加元素である。Co添加量が0.01%未満の場合には、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、2.0%を超えてCoを添加した場合、靱性および加工性が低下する。よってCo量は0.01〜2.0%、好ましくは0.05%〜2.0%とする。
Sn:0.005〜0.30%
Snは耐食性を向上させる元素であり、その効果の発現には0.005%以上の添加が必要である。一方、0.30%を超えて添加すると熱間加工性や靱性が低下する。そのため、Snを添加する場合、Sn量を0.005〜0.30%、好ましくは、0.01〜0.20%とする。
Cu:0.01〜0.80%
Cuは、二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる元素である。Cu添加量が0.01%未満の場合、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、0.80%を超えてCuを添加した場合、靱性および熱間加工性が低下する。そのため、Cuを添加する場合、Cu量を0.01〜0.80%、好ましくは0.05%〜0.60%とする。
Nb:0.001〜0.3%
Nbは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて任意に添加することができる。前記効果を得るためにはNb含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、0.3%を超えてNbを添加すると靭性が低下する。そのため、Nbを添加する場合、Nb量を0.001〜0.3%、好ましくは0.005〜0.2%とする。
Ti:0.001〜0.3%
Tiは、Nbと同様、二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて任意に添加することができる。前記効果を得るためにはTi含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、0.3%を超えてTiを添加すると靭性が低下する。そのため、Tiを添加する場合、Ti量を0.001〜0.3%、好ましくは0.005〜0.2%とする。
V:0.001〜0.3%
Vは、Nb、Tiと同様、二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて任意に添加することができる。前記効果を得るためにはV含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、0.3%を超えてVを添加すると靭性が低下する。そのため、Vを添加する場合、V量を0.001〜0.3%、好ましくは0.005〜0.2%とする。
Zr:0.0005〜0.30%
Zrは二相ステンレス鋼の耐食性の向上に寄与する元素である。即ち、局部腐食の起点となるMnSに置換析出することにより、MnSの溶解を抑制する。この機能を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.30%を超えて添加すると窒化物を析出するようになるため、二相ステンレス鋼の靱性や加工性が低下する。よって、Zrを添加する場合、Zr量を0.0005〜0.30%、好ましくは0.001〜0.20%とする。
Ta:0.0005〜0.30%
Taは、Zrと同様、二相ステンレス鋼の耐食性の向上に寄与する元素である。即ち、局部腐食の起点となるMnSに置換析出することにより、MnSの溶解を抑制する。この機能を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.30%を超えて添加すると窒化物を析出するようになるため、二相ステンレス鋼の靱性や加工性が低下する。よって、Taを添加する場合、Ta量を0.0005〜0.30%、好ましくは0.001〜0.20%とする。
B:0.0005〜0.01%
BはMnよりも優先的に硫化物を形成する元素であるため、その添加により局部腐食の起点となるMnSの形成を抑制し、耐食性を向上させることができる。さらには、上記硫化物の形成により粒界への硫黄系の介在物の析出を抑制するため、加工性が向上する。これらの効果を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.01%を超えて添加すると、粗大な酸化物が析出するため、かえって加工性が低下する。よって、Bを添加する場合、B量を0.0005〜0.01%、好ましくは0.0008〜0.005%とする。
Mg:0.0005〜0.01%
Mgは、Bと同様、Mnよりも優先的に硫化物を形成する元素であるため、その添加により局部腐食の起点となるMnSの形成を抑制し、耐食性を向上させることができる。さらには、上記硫化物の形成により粒界への硫黄系の介在物の析出を抑制するため、加工性が向上する。これらの効果を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.01%を超えて添加すると、粗大な酸化物が析出するため、かえって加工性が低下する。よって、Mgを添加する場合、Mg量を0.0005〜0.01%、好ましくは0.0008〜0.005%とする。
Ca:0.0005〜0.01%
Caは、B、Mgと同様、Mnよりも優先的に硫化物を形成する元素であるため、その添加により局部腐食の起点となるMnSの形成を抑制し、耐食性を向上させることができる。さらには、上記硫化物の形成により粒界への硫黄系の介在物の析出を抑制するため、加工性が向上する。これらの効果を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.01%を超えて添加すると、粗大な酸化物が析出するため、かえって加工性が低下する。よって、Caを添加する場合、Ca量を0.0005〜0.01%、好ましくは0.0008〜0.005%とする。
[組織]
次に、本発明の二相ステンレス鋼材の組織を上記範囲に限定した理由について説明する。
本発明の二相ステンレス鋼は、少なくともフェライト相とオーステナイト相からなる組織を有する。なお、実施例に記載した方法でX線回折測定を行った時にα−Feとγ−Feのピークのみが観察される場合、フェライト相とオーステナイト相からなる組織を有しているとみなす。
オーステナイト分率:45〜95%
上記組織におけるオーステナイト相の体積分率は45〜95%でなければならない。前述のように、フェライト相の水素拡散係数はオーステナイト相のそれよりも2桁大きいので、オーステナイト相の体積分率が45%未満の場合には、フェライト分率が相対的に高くなり、耐水素脆化が大きく低下する。一方、オーステナイト相の体積分率が95%を超えると、残部のわずかなフェライト相にフェライトフォーマーであるCrおよびMoが濃化し、分率の高いオーステナイト相におけるCrおよびMoの濃度が低下する。このような鋼組織が厳しい腐食環境に晒された場合、フェライト相に比して耐食性の劣るオーステナイト相が優先的に溶解するため、鋼全体としての耐食性が低下する。よって、オーステナイト相の体積分率は45〜95%、好ましくは50〜90%とする。
[製造方法]
本発明の二相ステンレス鋼は、特に限定されることなく任意の方法で製造することができる。例えば、 上述した成分組成を有する鋼スラブを、仕上げ圧延終了温度900〜1000℃で熱間圧延して鋼板とし、次いで、水冷速度10〜16℃/sで冷却停止温度400〜480℃まで冷却することによって得ることができる。
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
(鋼材の作製)
表1に示した種々の成分組成を有する鋼を、真空溶解炉で溶製して鋼塊とするか、または転炉で溶製して連続鋳造により鋼スラブとし、これらを1150℃で1時間再加熱後、仕上げ圧延終了温度900〜1000℃で熱間圧延を施して板厚:25mmの厚鋼板とした後に、水冷速度10〜16℃/sで冷却停止温度400〜480℃まで冷却した。
得られたステンレス鋼板のそれぞれについて、以下の方法でオーステナイト相の体積分率を測定した。また、以下に述べるように低歪速度引張応力腐食割れ試験および耐食性試験を実施して、耐水素脆性および耐食性を評価した。
(オーステナイト相の体積分率)
得られたステンレス鋼板の板厚中心部から、20×20×6mmtの試験片を1鋼種につき1枚採取した。測定面をエメリー紙600番で研磨した後、XRD(X線回折)を測定し、得られたα−Feとγ−Feのピークの面積から、オーステナイト(γ)相の体積分率を求めた。
(低歪速度引張応力腐食割れ試験)
得られたステンレス鋼板の板厚中心部から、圧延方向と平行に、図1に示す低歪速度引張応力腐食割れ試験片を、1鋼種につき2本ずつ採取した。1本は大気中で、残りの1本は電解液中でガルバノスタットを用いて試験片に一定電流密度を印加し、鋼材表面に一定量の水素を定常的に発生させた状態で、それぞれ引張試験を行った。歪速度は3.3×10-6/sとした。また、電解液は3%NaCl+0.3%NH4SCNを用い、電流密度は30mA/cm2であった。
試験終了後、それぞれの試験における絞り値を求め、水素印加における絞り値を大気中における絞り値で除した値(絞り比)を求めた。絞り比が90%以上を◎、80%以上を○、60%以上を△、60%未満を×とした。なお、絞りが100%に近いほど耐水素脆性が優れることを意味する。
(耐食性試験)
試験片を溶液に浸漬する浸漬試験により耐食性を評価した。まず、得られたステンレス鋼板の板厚中心部から、40×40×6mmtの試験片を1鋼種につき5枚採取した。6面を全てエメリー紙600番で研磨した後、表面を残して5面をテープでシールし、浸漬試験時に溶液と触れないよう遮断した。前記溶液としては、4.0mol/l CH3COOH水溶液とCH3COONaを混合してpH2.3になるように調整した後、濃度5.0wt%になるようNaClを添加したものを用いた。
浸漬試験に当たっては、溶液を予めN2ガスで脱気した後、試験片を試験面が上方を向くよう投入し、20%H2Sおよび残部のCO2からなるガスを50ml/minで溶液中に流し、常温にて7日間放置した。試験終了後、溶液にN2ガスを吹き込んでH2Sを除いた後に試験片を取出し、水洗、乾燥し、腐食の有無を肉眼で観察した。5個全てに腐食が認められなかった場合を○、1個だけ腐食が認められた場合を△、2個以上に腐食が認められた場合を×とした。
各試験の結果は表1に示したとおりであった。本発明で規定された範囲内の化学成分を有し、かつ、オーステナイト相の体積分率が45〜95%である鋼No.1〜50は良好な試験結果(評価△以上)を示した。一方、本発明で規定された化学成分の範囲から外れる鋼No.51〜54や、規定された化学成分の範囲に合致するもののオーステナイト相の比率が45%未満のもの(鋼No.55)は、結果が劣っていた(評価×)。
Figure 2018197377

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C :0.05%以下、
    Si:0.03〜1.0%、
    Mn:0.05〜2.0%、
    P :0.05%以下、
    S :0.005%以下、
    Cr:17.0〜26.0%、
    Ni:7.0〜19.0%、
    Mo:0.1〜6.0%、
    W :1.1〜6.0%、および
    Sb:0.005〜0.5%を含有し、
    残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    少なくともフェライト相とオーステナイト相からなり、オーステナイト相の体積分率が45〜95%である組織を有する、耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。
  2. 上記成分組成が、さらに、
    Al:0.005〜0.5%、
    N :0.05〜0.30%、
    Co:0.01〜2.0%、
    Sn:0.005〜0.30%、
    Cu:0.01〜0.80%、
    Nb:0.001〜0.3%、
    Ti:0.001〜0.30%、
    V :0.001〜0.3%、
    Zr:0.0005〜0.30%、
    Ta:0.0005〜0.30%、
    B :0.0005〜0.01%、
    Mg:0.0005〜0.01%、および
    Ca:0.0005〜0.01%、からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項1に記載の耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。
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