JP2018197377A - 耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼 - Google Patents
耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼 Download PDFInfo
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C :0.05%以下、
Si:0.03〜1.0%、
Mn:0.05〜2.0%、
P :0.05%以下、
S :0.005%以下、
Cr:17.0〜26.0%、
Ni:7.0〜19.0%、
Mo:0.1〜6.0%、
W :1.1〜6.0%、および
Sb:0.005〜0.5%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
少なくともフェライト相とオーステナイト相からなり、オーステナイト相の体積分率が45〜95%である組織を有する、耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。
Al:0.005〜0.5%、
N :0.05〜0.30%、
Co:0.01〜2.0%、
Sn:0.005〜0.30%、
Cu:0.01〜0.80%、
Nb:0.001〜0.3%、
Ti:0.001〜0.30%、
V :0.001〜0.3%、
Zr:0.0005〜0.30%、
Ta:0.0005〜0.30%、
B :0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、および
Ca:0.0005〜0.01%、からなる群より選択される1または2以上含有する、上記1に記載の耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。
まず、本発明の二相ステンレス鋼材の成分組成を上記範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り質量%を意味するものとする。
Cは、鋼の強度を高める元素であり、オーステナイト相の安定化に寄与する元素である。本発明では、所望の強度を確保するために0.05%を上限として添加する。しかしながら、0.05%を超える添加は、クロム炭化物の形成を促進し、ステンレス鋼の耐食性を低下させるので好ましくない。よって、C量は0.05%以下を範囲とする。好ましくは0.03%以下の範囲である。
Siは、脱酸剤として添加される元素であり、フェライト相の安定化に寄与する。1.0%を超える添加は、鋼の靭性や加工性を低下させるだけでなく、σ相の形成を促進し耐食性を低下させる。一方、0.03%未満の添加は鋼の脱酸剤として充分に寄与できない。よって、Si量は0.03〜1.0%の範囲とする。好ましくは0.05〜0.60%の範囲である。
Mnは、鋼の強度を高める元素であり、本発明では、所望の強度を得るために0.05%以上添加する。しかしながら、2.0%を超える添加は、MnSの形成促進により耐食性を低下させるので好ましくない。よって、Mn量は0.05〜2.0%の範囲とする。好ましくは0.07〜1.60%の範囲である。
Pは、粒界に偏析して鋼の靭性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、0.05%を超えて含有されると、靭性が大きく低下する。よって、P量は0.05%以下とする。好ましくは0.03%以下である。
Sは、非金属介在物であるMnSを形成して局部腐食の起点となり、耐局部腐食性を低下させる有害な元素であるので、極力低減させることが望ましい。特に、0.005%を超えて含有されると、耐局部腐食性の顕著な低下を招く。よって、S量の許容上限は0.005%とする。好ましくは0.003%以下である。
Crは二相ステンレス鋼の不働態被膜を形成する主要な元素で、耐食性を確保するために必須の元素である。鋼中のCr添加量が多くなるほどステンレス鋼の耐食性は向上するが、フェライト相を安定化する作用があるため、二相ステンレス鋼におけるフェライト分率を一定の範囲内に収めるためには(オーステナイト分率を確保するためには)、オーステナイトを安定化させる作用を有するNiをCrの添加量に応じて増加させなければならない。Crが17.0%未満では十分な耐食性が発揮できず好ましくない。一方、26.0%を超えるCrの添加は、熱間加工性が低下するだけでなく、フェライト分率を一定の範囲内に維持するためのNi量が増大するため高コストになり、好ましくない。よってCr量は17.0〜26.0%とする。好ましくは、18.0〜24.0%とする。
Niは二相ステンレス鋼の耐食性向上に有効な元素であり、さらにはオーステナイト相の安定化にも寄与する。鋼中の水素拡散係数は面心立方構造を有するオーステナイト中で小さくなるため、耐水素脆化を確保するためには、オーステナイト分率を一定以上維持しなければならず、7.0%以上のNiの添加が必須である。一方、19.0%を超えるNiの添加は、鋼中にσ相の形成を促進し、加工性が低下するので好ましくない。よってNi量は7.0〜19.0%、好ましくは8.0〜18.0%とする。
Moは二相ステンレス鋼の耐食性の向上にきわめて有効な元素である。しかし、0.1%未満の添加では十分な耐食性の向上が発現しない。一方、6.0%を超えるMoの添加は、熱間加工性が低下するだけでなく、Moがフェライト相の安定化に寄与し、オーステナイト分率の減少を引き起こすため、耐水素脆化が低下する。よって、Mo量は0.1〜6.0%、好ましくは0.5〜5.0%とする。
Wは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、フェライト相を安定化させる元素である。W添加量が1.1%未満の場合には、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、6.0%を超えてWを添加した場合、靱性および加工性が低下する。そのため、W量は1.1〜6.0%、好ましくは1.1%〜5.5%とする。
Sbは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させるだけでなく、炭化物や硫化物を形成し、フェライト相を拡散した水素のトラップサイトとして作用し、二相ステンレス鋼の耐水素脆化を向上させる必須添加元素である。Sb添加量が0.005%未満ではその効果の発現が不十分であり、一方、0.5%を超えると熱間加工性が著しく低下する。よってSb量は0.005〜0.5%、好ましくは0.01〜0.4%とする。
Alは、脱酸剤としての作用を有する元素である。Alを添加する場合、Al含有量を0.005%以上とする。一方、0.5%を超えてAlを添加すると、鋼の靭性が低下するばかりでなく、鋼中に形成されたアルミニウム酸化物が局部腐食の起点となり耐食性が低下する。そのため、Al量の上限は0.5%とする。
Nは二相ステンレス鋼の耐食性を著しく向上させ、オーステナイト相を安定化させる元素である。N添加量が0.05%未満の場合には、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、0.30%を超えてNを添加した場合、靱性および加工性が低下する。そのため、Nを添加する場合、N量は0.05〜0.30%、好ましくは0.10%〜0.30%とする。
Coは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる必須添加元素である。Co添加量が0.01%未満の場合には、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、2.0%を超えてCoを添加した場合、靱性および加工性が低下する。よってCo量は0.01〜2.0%、好ましくは0.05%〜2.0%とする。
Snは耐食性を向上させる元素であり、その効果の発現には0.005%以上の添加が必要である。一方、0.30%を超えて添加すると熱間加工性や靱性が低下する。そのため、Snを添加する場合、Sn量を0.005〜0.30%、好ましくは、0.01〜0.20%とする。
Cuは、二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、オーステナイト相を安定化させる元素である。Cu添加量が0.01%未満の場合、耐食性向上の効果発現が少ない。一方、0.80%を超えてCuを添加した場合、靱性および熱間加工性が低下する。そのため、Cuを添加する場合、Cu量を0.01〜0.80%、好ましくは0.05%〜0.60%とする。
Nbは二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて任意に添加することができる。前記効果を得るためにはNb含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、0.3%を超えてNbを添加すると靭性が低下する。そのため、Nbを添加する場合、Nb量を0.001〜0.3%、好ましくは0.005〜0.2%とする。
Tiは、Nbと同様、二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて任意に添加することができる。前記効果を得るためにはTi含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、0.3%を超えてTiを添加すると靭性が低下する。そのため、Tiを添加する場合、Ti量を0.001〜0.3%、好ましくは0.005〜0.2%とする。
Vは、Nb、Tiと同様、二相ステンレス鋼の耐食性を向上させ、鋼材強度を高める元素であり、必要とする強度に応じて任意に添加することができる。前記効果を得るためにはV含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、0.3%を超えてVを添加すると靭性が低下する。そのため、Vを添加する場合、V量を0.001〜0.3%、好ましくは0.005〜0.2%とする。
Zrは二相ステンレス鋼の耐食性の向上に寄与する元素である。即ち、局部腐食の起点となるMnSに置換析出することにより、MnSの溶解を抑制する。この機能を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.30%を超えて添加すると窒化物を析出するようになるため、二相ステンレス鋼の靱性や加工性が低下する。よって、Zrを添加する場合、Zr量を0.0005〜0.30%、好ましくは0.001〜0.20%とする。
Taは、Zrと同様、二相ステンレス鋼の耐食性の向上に寄与する元素である。即ち、局部腐食の起点となるMnSに置換析出することにより、MnSの溶解を抑制する。この機能を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.30%を超えて添加すると窒化物を析出するようになるため、二相ステンレス鋼の靱性や加工性が低下する。よって、Taを添加する場合、Ta量を0.0005〜0.30%、好ましくは0.001〜0.20%とする。
BはMnよりも優先的に硫化物を形成する元素であるため、その添加により局部腐食の起点となるMnSの形成を抑制し、耐食性を向上させることができる。さらには、上記硫化物の形成により粒界への硫黄系の介在物の析出を抑制するため、加工性が向上する。これらの効果を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.01%を超えて添加すると、粗大な酸化物が析出するため、かえって加工性が低下する。よって、Bを添加する場合、B量を0.0005〜0.01%、好ましくは0.0008〜0.005%とする。
Mgは、Bと同様、Mnよりも優先的に硫化物を形成する元素であるため、その添加により局部腐食の起点となるMnSの形成を抑制し、耐食性を向上させることができる。さらには、上記硫化物の形成により粒界への硫黄系の介在物の析出を抑制するため、加工性が向上する。これらの効果を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.01%を超えて添加すると、粗大な酸化物が析出するため、かえって加工性が低下する。よって、Mgを添加する場合、Mg量を0.0005〜0.01%、好ましくは0.0008〜0.005%とする。
Caは、B、Mgと同様、Mnよりも優先的に硫化物を形成する元素であるため、その添加により局部腐食の起点となるMnSの形成を抑制し、耐食性を向上させることができる。さらには、上記硫化物の形成により粒界への硫黄系の介在物の析出を抑制するため、加工性が向上する。これらの効果を発現するためには0.0005%以上の添加が必要である。一方、0.01%を超えて添加すると、粗大な酸化物が析出するため、かえって加工性が低下する。よって、Caを添加する場合、Ca量を0.0005〜0.01%、好ましくは0.0008〜0.005%とする。
次に、本発明の二相ステンレス鋼材の組織を上記範囲に限定した理由について説明する。
上記組織におけるオーステナイト相の体積分率は45〜95%でなければならない。前述のように、フェライト相の水素拡散係数はオーステナイト相のそれよりも2桁大きいので、オーステナイト相の体積分率が45%未満の場合には、フェライト分率が相対的に高くなり、耐水素脆化が大きく低下する。一方、オーステナイト相の体積分率が95%を超えると、残部のわずかなフェライト相にフェライトフォーマーであるCrおよびMoが濃化し、分率の高いオーステナイト相におけるCrおよびMoの濃度が低下する。このような鋼組織が厳しい腐食環境に晒された場合、フェライト相に比して耐食性の劣るオーステナイト相が優先的に溶解するため、鋼全体としての耐食性が低下する。よって、オーステナイト相の体積分率は45〜95%、好ましくは50〜90%とする。
本発明の二相ステンレス鋼は、特に限定されることなく任意の方法で製造することができる。例えば、 上述した成分組成を有する鋼スラブを、仕上げ圧延終了温度900〜1000℃で熱間圧延して鋼板とし、次いで、水冷速度10〜16℃/sで冷却停止温度400〜480℃まで冷却することによって得ることができる。
表1に示した種々の成分組成を有する鋼を、真空溶解炉で溶製して鋼塊とするか、または転炉で溶製して連続鋳造により鋼スラブとし、これらを1150℃で1時間再加熱後、仕上げ圧延終了温度900〜1000℃で熱間圧延を施して板厚:25mmの厚鋼板とした後に、水冷速度10〜16℃/sで冷却停止温度400〜480℃まで冷却した。
得られたステンレス鋼板の板厚中心部から、20×20×6mmtの試験片を1鋼種につき1枚採取した。測定面をエメリー紙600番で研磨した後、XRD(X線回折)を測定し、得られたα−Feとγ−Feのピークの面積から、オーステナイト(γ)相の体積分率を求めた。
得られたステンレス鋼板の板厚中心部から、圧延方向と平行に、図1に示す低歪速度引張応力腐食割れ試験片を、1鋼種につき2本ずつ採取した。1本は大気中で、残りの1本は電解液中でガルバノスタットを用いて試験片に一定電流密度を印加し、鋼材表面に一定量の水素を定常的に発生させた状態で、それぞれ引張試験を行った。歪速度は3.3×10-6/sとした。また、電解液は3%NaCl+0.3%NH4SCNを用い、電流密度は30mA/cm2であった。
試験片を溶液に浸漬する浸漬試験により耐食性を評価した。まず、得られたステンレス鋼板の板厚中心部から、40×40×6mmtの試験片を1鋼種につき5枚採取した。6面を全てエメリー紙600番で研磨した後、表面を残して5面をテープでシールし、浸漬試験時に溶液と触れないよう遮断した。前記溶液としては、4.0mol/l CH3COOH水溶液とCH3COONaを混合してpH2.3になるように調整した後、濃度5.0wt%になるようNaClを添加したものを用いた。
Claims (2)
- 質量%で、
C :0.05%以下、
Si:0.03〜1.0%、
Mn:0.05〜2.0%、
P :0.05%以下、
S :0.005%以下、
Cr:17.0〜26.0%、
Ni:7.0〜19.0%、
Mo:0.1〜6.0%、
W :1.1〜6.0%、および
Sb:0.005〜0.5%を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
少なくともフェライト相とオーステナイト相からなり、オーステナイト相の体積分率が45〜95%である組織を有する、耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。 - 上記成分組成が、さらに、
Al:0.005〜0.5%、
N :0.05〜0.30%、
Co:0.01〜2.0%、
Sn:0.005〜0.30%、
Cu:0.01〜0.80%、
Nb:0.001〜0.3%、
Ti:0.001〜0.30%、
V :0.001〜0.3%、
Zr:0.0005〜0.30%、
Ta:0.0005〜0.30%、
B :0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、および
Ca:0.0005〜0.01%、からなる群より選択される1または2以上を含有する、請求項1に記載の耐食性及び耐水素脆性に優れた二相ステンレス鋼。
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