以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず,図1により,本形態に係る電極板1について説明する。図1に示す電極板1は,本形態においては,リチウムイオン二次電池に使用される正極板または負極板である。本形態の電極板1は,集電箔10,活物質層20,絶縁層30を有している。具体的には,電極板1は,集電箔10の表面上に活物質層20を有し,さらに活物質層20の表面上に絶縁層30を有する構造のものである。活物質層20および絶縁層30はともに,集電箔10の表裏の両面に設けられている。
集電箔10は,例えば金属箔である。例えば,電極板1がリチウムイオン二次電池の正極板である場合には,集電箔10としてアルミニウム箔を用いることができる。また,例えば,電極板1がリチウムイオン二次電池の負極板である場合には,集電箔10として銅箔を用いることができる。
また,活物質層20は,本形態では,活物質21と結着材22とを含むものである。活物質21は,例えば,リチウムイオン二次電池においては,リチウムイオンを吸蔵,放出することで,充放電に寄与するものである。また,結着材22は,活物質層20を構成する材料を互いに結着させて活物質層20を形成するとともに,その活物質層20を集電箔10の表面に結着することのできるものである。
また,電極板1がリチウムイオン二次電池の正極板である場合には,例えば,活物質21として三元系正極活物質であるNMC(LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2)を,結着材22としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いることができる。また,電極板1がリチウムイオン二次電池の負極板である場合には,例えば,活物質21として黒鉛を,結着材22としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。
また,本形態の電極板1は,図1における奥行き方向について長い長尺のものである。このため,電極板1について,図1における奥行き方向を長手方向,左右方向を幅方向,上下方向を厚み方向とする。
図1に示すように,電極板1は,活物質層20が,集電箔10の幅方向における全域ではなく一部に形成されているものである。具体的には,活物質層20は,集電箔10の幅方向の一端に沿って設けられた形成領域11に形成されている。一方,集電箔10の形成領域11以外の非形成領域12については,活物質層20が形成されておらず,集電箔10が露出している。
また,活物質層20の表面に設けられている絶縁層30は,絶縁粒子31を含むものである。絶縁粒子31としては,熱可塑性を有する絶縁性の樹脂粒子を用いることができる。具体的に,絶縁粒子31としては,例えば,ポリエチレン(PE)等のポリオレフィン材料や,アルミナ(Al2O3),ベーマイト(Al2O3・H2O),チタニア(TiO2),マグネシア(MgO)等の耐熱材料の粒子を用いることができる。
図1には,電極板1の下方に,電極板5を示している。電極板5は,電極板1とは逆極性のものである。すなわち,例えば電極板1が負極板である場合,電極板5は正極板である。電極板5は,集電箔50,活物質層60を有している。電極板5は,集電箔50の表面上に活物質層60を有する構造のものであり,絶縁層については有していない。また,電極板5についても,集電箔50の形成領域51に,活物質61および結着材62により活物質層60が形成されており,非形成領域52では集電箔50が露出している。
電極板1および電極板5は,これらを積層することで電極体となし,電解液とともに電池ケース内に収容することで,電池を構成することのできるものである。なお,電極体においては,電極板1,5は,形成領域11,51同士が重ね合わせられつつ,非形成領域12,52がそれぞれ反対側に突出するように積層される。そして,その電極板1および電極板5の積層において,セパレータは不要である。本形態の電極板1は,その絶縁層30により,電極板5と絶縁されるからである。また,図1においては,形成領域11,51を同じ幅として示しているが,一般的には,負極板の方が幅の広いものである。また,電極板1と電極板5の積層は,捲回によるものであっても,平積みによるものであってもよい。また,電極体を構成する際には,電極板1と電極板5との間にセパレータを挟み込んでもよい。この場合,電極板1の絶縁層30は,電池の安全性を高めるための耐熱層として機能させることができる。また,電極板5にも,活物質層60の表面に絶縁層を設けてもよい。
図2に,本形態の電極板製造装置100を示す。電極板製造装置100は,図1に示す電極板1の製造に係る装置である。電極板製造装置100は,矢印で示すように集電箔10をその長手方向に搬送しつつ,その表面に活物質層20,絶縁層30を連続して形成することのできるものである。
電極板製造装置100は,集電箔10を搬送するため,搬送経路101に沿って,第1ガイドロール110,第2ガイドロール120,第3ガイドロール130等の複数のローラーを有している。電極板製造装置100は,搬送経路101に沿って,集電箔10を第1ガイドロール110から第3ガイドロール130へと向かう向きに搬送しつつ,活物質層20,絶縁層30をこの順で形成するものである。
また,第1ガイドロール110と第2ガイドロール120との間には,活物質層形成部200が設けられている。さらに,第2ガイドロール120と第3ガイドロール130との間には,絶縁層形成部300が設けられている。加えて,第3ガイドロール130の下流側には,乾燥炉140が設けられている。つまり,電極板製造装置100は,集電箔10を,活物質層形成部200,絶縁層形成部300,乾燥炉140へとこの順で,搬送経路101に沿って搬送する。
活物質層形成部200は,活物質層形成位置Aにて,集電箔10の第1面15に,活物質層20を形成することができるものである。図2には,第1面15に活物質層20が形成された状態の集電箔10を,基材90として示している。
絶縁層形成部300は,絶縁層形成位置Bにて,基材90における少なくとも活物質層20の表面に,絶縁層30を形成することができるものである。絶縁層形成部300は,図2に示すように,グラビアロール310とチャンバー311とを有している。チャンバー311は,内部に絶縁粒子31を溶媒32中に分散させてなる絶縁材料35を収容しており,グラビアロール310の外周面に絶縁材料35を供給することのできるものである。乾燥炉140は,活物質層20および絶縁層30が形成された状態で通過する集電箔10の乾燥を行うことのできるものである。
また,本形態の電極板製造装置100の搬送経路101には,水平区間K1,転換区間K2,上昇区間K3が設けられている。転換区間K2は,第2ガイドロール120に巻き掛けられている基材90が,第2ガイドロール120の外周面に沿って,その厚み方向に屈曲している区間である。つまり,本形態において,第2ガイドロール120は,基材90の搬送方向を転換している搬送方向転換部である。また,図2に示すように,第2ガイドロール120は,基材90のうち,活物質層20が形成された側の面を支持することで,搬送方向を転換しているものである。
本形態の水平区間K1は,活物質層形成位置Aから,転換区間K2の搬送方向における上流側の端までの区間であり,集電箔10が水平に搬送されている区間である。本形態の上昇区間K3は,転換区間K2の搬送方向における下流側の端から第3ガイドロール130までの区間であり,集電箔10が重力に抗う向きに搬送されている区間である。そして,絶縁層形成位置Bは,この上昇区間K3内に設けられている。
図3に,本形態の活物質層形成部200を示す。活物質層形成部200は,第1ロール210,第2ロール220,第3ロール230を有している。第1ロール210,第2ロール220,第3ロール230はいずれも,軸方向を水平にした状態で配置されている。また,第1ロール210と第2ロール220とは,外周面の一箇所同士を対向させた状態で,水平方向に並んで配置されている(図3において左右方向)。第2ロール220と第3ロール230とは,外周面の一箇所同士を対向させた状態で,鉛直方向に並んで配置されている(図3において上下方向)。なお,第3ロール230は,第2ロール220の下方に配置されている。また,各ロールは,対向している他方のロールと対向位置に隙間を設けつつ設けられている。
第1ロール210,第2ロール220,第3ロール230は電極板1を製造する際にはそれぞれ回転するものである。図3には,第1ロール210,第2ロール220,第3ロール230の回転方向をそれぞれ矢印により示している。つまり,図3において,第1ロール210および第3ロール230の回転方向は時計回りであり,第2ロール220の回転方向は反時計回りである。
第1ロール210および第2ロール220の回転方向は,これらの対向位置における外周面の移動方向がともに,同じとなる向きである。具体的には,第1ロール210および第2ロール220の回転方向は,対向位置における外周面の移動方向がともに,鉛直方向の下向きとなる向きである。また,第3ロール230の回転方向は,第2ロール220との対向位置における外周面の移動方向が,第2ロール220の外周面の移動方向と同じとなる向きである。
また,本形態では,第2ロール220は,第1ロール210の周速よりも速い周速で回転するものである。さらに,第3ロール230は,第2ロール220の周速よりも速い周速で回転するものである。つまり,第1ロール210,第2ロール220,第3ロール230は,この順で,回転の周速が速いものである。
また,第1ロール210と第2ロール220との対向位置の上方には,仕切り部240が設けられている。仕切り部240は,第1ロール210および第2ロール220の上面から電極材料80がこぼれ落ちないようにするための囲いである。そして,仕切り部240の内側には,電極材料80が溜まっている。電極材料80は,第1ロール210および第2ロール220の回転により,仕切り部240の内側からその対向位置へと供給される。
電極材料80は,活物質層20を形成するための材料である。このため,電極材料80には,活物質21,結着材22が含まれている。さらに,本形態の電極材料80には,溶媒81も含まれている。本形態の電極材料80は,活物質21および結着材22の粉末を溶媒81とともに攪拌することで得られた湿潤造粒物である。
また,第3ロール230の外周面には,図3に示すように,集電箔10が巻き掛けられている。集電箔10は,第2面16側を第3ロール230の外周面に向けた状態で,第3ロール230の対向位置に巻き掛けられている。このため,集電箔10は,第3ロール230の回転により搬送される。
また,集電箔10の第1面15は,第2ロール220と第3ロール230との対向位置において,第2ロール220の外周面に対向している。なお,第3ロール230は,前述したように,第2ロール220よりも速い周速で回転するものである。このため,第2ロール220と第3ロール230との対向位置における集電箔10の第1面15の移動速度は,第2ロール220の外周面の移動速度よりも速いものである。
そして,仕切り部240の内部の電極材料80は,その下方のものより順に,第1ロール210および第2ロール220の回転によってこれらの対向位置へと送られる。また,電極材料80は,第1ロール210および第2ロール220の回転によってこれらの隙間を通過しつつ,その隙間の通過時に第1ロール210の外周面と第2ロール220の外周面との間で加圧される。この加圧により,電極材料80は圧延されつつ,電極材料80中の各粒子同士が結着材22の作用によって結着される。これにより,第1ロール210と第2ロール220との対向位置を通過した電極材料80はシート状に成形され,成膜シート85とされる。
また,成膜シート85は,第1ロール210の外周面および第2ロール220の外周面のうち,移動速度が速い方に付着する。そして,前述したように,活物質層形成部200においては,第2ロール220の方が,第1ロール210よりも周速の速いものである。このため,成膜シート85は,シート状に成形されるとともに,第2ロール220の外周面に付着する。第2ロール220の外周面に付着した成膜シート85は,第2ロール220の回転によって搬送され,第2ロール220と第3ロール230との対向位置へと到達する。
第2ロール220の回転によって第2ロール220と第3ロール230との対向位置へと到達した成膜シート85は,集電箔10とともに,第2ロール220と第3ロール230との隙間を通過する。その隙間の通過の際に,集電箔10および成膜シート85は,その厚み方向に第2ロール220および第3ロール230によって加圧される。
ここで加圧された成膜シート85は,第2ロール220の外周面および集電箔10の第1面15のうち,移動速度が速い方に付着する。そして,前述したように,活物質層形成部200における第3ロール230は,対向位置における集電箔10の第1面15の移動速度が,第2ロール220の周速よりも速くなる周速で回転している。このため,成膜シート85は,第2ロール220と第3ロール230との対向位置において,第2ロール220の外周面上から集電箔10の第1面15上に転写される。すなわち,図3に示すように,第2ロール220と第3ロール230との対向位置が,活物質層形成位置Aである。
よって,図3に示すように活物質層形成位置Aを通過後の集電箔10の第1面15には,活物質層20が形成されている。すなわち,集電箔10の第1面15に活物質層20が形成されてなる基材90が得られている。
ここで,本形態の活物質層形成部200は,湿潤造粒物である電極材料80により活物質層20を形成している。これが例えば,本形態とは異なり,活物質層を,湿潤造粒物よりも多くの溶媒中に活物質および結着材を分散させてなるペースト状の電極材料を用いて形成した場合には,その活物質層の上に絶縁層を適切に形成することができない。溶媒を多く含む活物質層は,その表面に塗布された絶縁材料と混ざり合ってしまうからである。これに対し,本形態では,含まれている溶媒81の量が少ない湿潤造粒物を電極材料80として用いているため,活物質層20を,絶縁材料35の混ざりにくいものとして形成することができる。
図4に,本形態の絶縁層形成部300を示す。本形態の絶縁層形成部300は,活物質層20中に溶媒81が残った状態の基材90の表面に,グラビアロール310によって絶縁材料35を塗布するものである。つまり,搬送経路101上における活物質層形成位置Aから絶縁層形成位置Bまでの長さは,活物質層20中の溶媒81が揮発により除去されてしまうほど長いものではない。さらに,本形態では,搬送経路101上における活物質層形成位置Aから絶縁層形成位置Bまでの間には,特段の乾燥手段等は設けられていない。ただし,本形態の活物質層20は,前述した通り,湿潤造粒物である電極材料80によって形成されたものであるため,溶媒81の量が少なく,絶縁材料35と混ざりにくいものである。このため,本形態において,絶縁層形成部300は,ペースト状の電極材料が用いられていた場合よりも適切に,活物質層20上に絶縁層30を形成することができる。また,絶縁層形成部300は,グラビアロール310に加え,上流ガイドロール320と下流ガイドロール330とを有している。なお,図4においては,チャンバー311を省略している。
上流ガイドロール320はグラビアロール310の上流側に,下流ガイドロール330はグラビアロール310の下流側に設けられている。上流ガイドロール320および下流ガイドロール330はともに,基材90における集電箔10の第2面16に接触するように設けられている。また,上流ガイドロール320と下流ガイドロール330とは,半径が同じであり,鉛直方向に並んで設けられている。
このため,絶縁層形成部300において,基材90は,上流ガイドロール320と下流ガイドロール330とにより略鉛直方向に搬送された状態で,その活物質層20側の水平方向よりグラビアロール310が接触している。そして,基材90の活物質層20とグラビアロール310との接触している位置が,絶縁層形成位置Bである。本形態では,グラビアロール310と基材90とは,基材90の搬送方向について長さのある面接触により接触している。
よって,本形態の絶縁層形成部300は,基材90を略鉛直方向に搬送しつつ,その活物質層20の表面に絶縁材料35を塗布することができる。これにより,本形態では,品質の高い電極板1を製造することができる。
例えば,基材90をその活物質層20を下方に向けつつ水平方向に搬送した状態で,その活物質層20の表面に絶縁材料35を塗布した場合には,基材90に塗布した絶縁材料35が重力の影響によって垂れてしまうおそれがある。このような絶縁材料35の垂れが生じた場合には,絶縁層30を均一な厚みで形成することができない。
また例えば,基材90をその活物質層20を上方に向けつつ水平方向に搬送した状態で,その活物質層20の表面に絶縁材料35を塗布した場合には,基材90に塗布した絶縁材料35が重力の影響によって,活物質層20の内部に進入してしまうおそれがある。絶縁材料35の絶縁粒子31が活物質層20の内部に進入してしまった場合には,電池において,活物質層20内における導電性が絶縁粒子31によって阻害されてしまうため,電池性能が低下してしまうおそれがある。
これに対し,本形態では,基材90を略鉛直方向に搬送している状態で絶縁材料35を塗布することができるため,基材90に塗布した絶縁材料35の垂れを抑制し,絶縁層30を均一な厚みで形成することができる。さらに,活物質層20内への絶縁粒子31の進入を抑制し,電池における活物質層20内の導電性の低下を防止することができる。すなわち,均一な厚みで形成された絶縁層30と,導電性の高い活物質層20とを備えた,品質の高い電極板1を製造することができる。
また,図4には,グラビアロール310の基材90の表面に接触している円弧部分の中心角Zを示している。そして,本形態のグラビアロール310は,中心角Zが10°以下の範囲内となるように基材90と接触している。グラビアロール310と基材90とを接触させすぎた場合には,その分,絶縁材料35が基材90の活物質層20へと押し付けられることとなる。このため,基材90を略鉛直方向に搬送していたとしても,絶縁粒子31の活物質層20への進入を適切に抑制することができないからである。なお,本形態において,この10°以下の範囲内には,グラビアロール310と基材90とが,グラビアロール310の軸方向について線接触した場合の0°も含まれる。
そして,本形態では,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zが10°以下の範囲内であることにより,グラビアロール310と基材90との接触が抑えられている。このため,絶縁材料35が基材90の活物質層20へと押しつけられることについても抑えられている。これにより,絶縁粒子31の活物質層20への進入が適切に抑制されている。
また,本形態では,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zが10°以下の範囲内となるように,図4に示す押付量Pを調整している。押付量Pは,上流ガイドロール320の外周面と下流ガイドロール330の外周面との共通外接線のうちのグラビアロール310側の接線Tに対して直角の向きに押し付けられたグラビアロール310の,接線Tに対するくい込み量である。本形態では,接線Tが鉛直方向に延びているため,押付量Pは,接線Tから,グラビアロール310の中心点aを通る水平線と外周面との交点のうちの上流ガイドロール320および下流ガイドロール330側の交点までの距離である。
なお,本形態では,具体的には,グラビアロール310の半径を30mm,上流ガイドロール320および下流ガイドロール330の半径をともに20mmとしている。また,鉛直方向について,上流ガイドロール320および下流ガイドロール330はともに,中心が,グラビアロール310の中心との距離が35mmとなるように設けられている。
このため,グラビアロール310の中心点aから,上流ガイドロール320の中心および下流ガイドロール330の中心を通る直線までの距離afは,次の数1の式により表される。
さらに,角度Xと角度Yとの和である角度X+Yは,次の数2の式により表される。
ここで,距離dfは,下流ガイドロール330の中心点dから,グラビアロール310の中心点aを通る水平線までの距離である。
加えて,グラビアロール310の中心点aと下流ガイドロール330の中心点dとの距離adは,ピタゴラスの定理に基づいて次の数3の式により表される。
そして,数7は,中心角Zと押付量Pとの関係を示す式となっている。よって,押付量Pを,中心角Zが10°以下の範囲内となるように定めることができる。そして,定めた押付量Pの分だけグラビアロール310を基材90に向けて押圧することで,本形態では,押付量Pの調整を適切に行うことができる。
また,グラビアロール310を基材90に,中心角Zが10°以下の範囲内となるように接触させていることで,基材90は,上流ガイドロール320から下流ガイドロール330までの区間K4を搬送されている間,略鉛直方向に沿って搬送されていることとなる。具体的には,基材90は,区間K4において,鉛直方向に対する傾斜角が10°以下の範囲内となるように搬送されている。
そして,絶縁層形成部300により絶縁層形成位置Bにて絶縁層30が形成された基材90は,搬送され,その後,乾燥炉140を通過する。そして,乾燥炉140を通過する際に,絶縁層30中等の溶媒が除去される。なお,乾燥炉140では,活物質層20中に溶媒81が残っている場合には,溶媒81についても除去される。
また,上記では,集電箔10の第1面15にのみ活物質層20および絶縁層30を形成する電極板製造装置100について説明しているが,集電箔10の第2面16にも同様の方法で活物質層20および絶縁層30を形成することができる。そして,集電箔10の第1面15および第2面16の両方に活物質層20および絶縁層30を形成することで,電極板1を製造することができる。
次に,本形態の実施例について説明する。本形態に係る実施例では,上記で説明した電極板製造装置100を用いて集電箔10の表面に活物質層20および絶縁層30を形成した。そして,絶縁層形成部300において,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zを異なるようにして絶縁材料35の塗工を行ったものをそれぞれ実施例1,実施例2,実施例3とした。その他の条件については,実施例1〜3において同じとした。
なお,実施例1〜3ではいずれも,リチウムイオン二次電池の負極板用の材料を用いた。具体期に,集電箔10としては銅箔を用いた。また,活物質層20を形成するための電極材料80について,活物質21として黒鉛を,結着材22としてCMCを,溶媒81として水を用いた。さらに,絶縁層30を形成するための絶縁材料35について,絶縁粒子31としてアルミナ(Al2O3)を用いた。
表1には,実施例1〜3のそれぞれについて,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zの大きさを示している。表1に示すように,実施例1〜3ではいずれも,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zを10°以下の範囲内として絶縁材料35の塗布を行っている。
また,表1には,実施例1〜3と比較するための比較例についても示している。比較例では,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zの大きさを,10°を超える12°としている。その他の条件については,比較例についても,実施例1〜3と同じとした。
そして,表1には,実施例1〜3および比較例により活物質層20および絶縁層30を形成後,活物質層20を観察し,その絶縁粒子31の進入について評価した結果を示している。その結果,表1に示すように,比較例では,絶縁粒子31の活物質層20への進入が確認された。具体的に,比較例の活物質層20では,絶縁粒子31が,厚み方向について集電箔10の表面から遠い箇所(活物質層20における絶縁層30との界面付近)だけでなく,集電箔10の第1面15の付近にまで存在していることが確認された。
これに対し,実施例1〜3ではいずれも,絶縁粒子31の活物質層20への進入が確認されなかった。具体的に,実施例1〜3では,活物質層20における絶縁層30との界面付近の,活物質層20を構成する固形分粒子の隙間には絶縁粒子31が存在するものの,集電箔10付近には絶縁粒子31が存在していなかった。これにより,本形態に係る実施例1〜3においては,絶縁粒子31の活物質層20内への進入が適切に抑制されていることが確認された。
また,図2において前述したように,本形態の電極板製造装置100において,第2ガイドロール120は,基材90の活物質層20側の面を支持することで,基材90の活物質層20と接触するものである。また,第2ガイドロール120は,形成された活物質層20に最初に接触するものである。よって,第2ガイドロール120は,活物質層20が付着してしまわないような構成のものであることが好ましい。
具体的には,第2ガイドロール120は,外周面に,離型性の高い処理が施されているものであることが好ましい。次の表2には,外周面にそれぞれ異なる処理を施した第2ガイドロール120を用いて搬送を行わせた基材90について,サンプル1〜7により示している。
表2には,サンプル1〜7のそれぞれについて,第2ガイドロール120の表面の材質および算術平均粗さ,第2ガイドロール120の外周面と電極材料80に使用した溶媒81との接触角を示している。すなわち,サンプル1〜6については,外周面にフッ素樹脂によるコーティングを施した第2ガイドロール120を用いている。そして,サンプル1〜6に係る第2ガイドロール120では,フッ素樹脂コーティングにより,外周面と電極材料80の溶媒81との接触角が100°以上となっている。
これに対し,サンプル7では,外周面に硬質クロムめっきを施した第2ガイドロール120を用いている。そして,この硬質クロムめっきを施したサンプル7に係る第2ガイドロール120の外周面は,電極材料80の溶媒81との接触角が100°未満である。つまり,サンプル7に係る硬質クロムめっきを施した第2ガイドロール120については,その他のフッ素樹脂コーティングを施したものよりも,電極材料80の溶媒81との接触角が小さく,ぬれやすいものである。
また,表2には,サンプル1〜7について,基材90が通過した後の第2ガイドロール120の表面の活物質層20の付着状態について示している。表2に示すように,フッ素樹脂コーティングを施した第2ガイドロール120を使用したサンプル1〜6については,活物質層20の付着が「なし」または「ほぼなし」であった。一方,硬質クロムめっきを施した第2ガイドロール120を使用したサンプル7については,活物質層20の付着が「あり」であった。
なお,ここにおける「なし」は,基材90にかかる張力を100N以下の範囲内として基材90を搬送した場合において,活物質層20の付着がなかった場合を示している。また,「ほぼなし」は,基材90にかかる張力を80N以下の範囲内として基材90を搬送した場合において,活物質層20の付着がなかった場合を示している。つまり,「ほぼなし」については,基材90に80Nを超える張力をかけて搬送した場合に,活物質層20の付着が生じたものである。また,「あり」は,基材90にかける張力を80Nよりもさらに低くしたとしても,活物質層20の付着が生じたものである。
そして,表2より,基材90の活物質層20に接触する第2ガイドロール120については,フッ素樹脂コーティングを施しておくことが好ましいことが確認された。基材90の活物質層20が第2ガイドロール120に付着してしまった場合,活物質層20の厚みが不均一なものとなってしまう。このような問題に対し,第2ガイドロール120にフッ素樹脂コーティングを施しておくことにより,均一な厚みの活物質層20を有する電極板1を製造することができるからである。
また,第2ガイドロール120は,外周面に,外周面から外側に向かって気体を吹き出させる吹き出し口が複数,形成されたものであってもよい。このような第2ガイドロール120では,外周面より吹き出す気体によって,基材90を,第2ガイドロール120の外周面から浮かせた状態で搬送することができる。すなわち,基材90の表面に位置する活物質層20を第2ガイドロール120に接触させずに,基材90の搬送を行うことができるからである。これにより,第2ガイドロール120に,活物質層20が付着してしまうことを抑制することができるからである。
なお,このような第2ガイドロール120は,例えば,中空で,かつ,その内部空間から外周面まで貫通する複数の貫通孔が周方向および軸方向に並べて形成されており,その内部空間に空気を供給するものとして構成することができる。吹き出し口となる貫通孔の個数や間隔,内部空間に供給する空気の圧力については,適宜,基材90にかけられる張力等によって定めることができる。
次の表3には,第2ガイドロール120として,吹き出し口より吹き出させる空気の温度をそれぞれ異なるものとしたサンプル8〜12について示している。なお,サンプル8〜12において,第2ガイドロール120の吹き出し口より吹き出す空気の圧力や流量等は,すべて同じとした。
また表3には,サンプル8〜12との比較のため,上記の表2において用いた硬質クロムメッキに係るサンプル7についても示している。そして,表3にも,基材90が通過した後の第2ガイドロール120の表面の活物質層20の付着状態について示している。
表3に示すように,サンプル8〜12については,サンプル7とは異なり,第2ガイドロール120への活物質層20の付着が抑制されることが確認された。すなわち,外周面に吹き出し口が形成されている第2ガイドロール120を用い,その吹き出し口から気体を吹き出させることで,第2ガイドロール120と基材90との接触を抑制できるため,活物質層20を均一な厚みで形成できることが確認された。
また,表3に示すようにサンプル8〜12では,第2ガイドロール120の吹き出し口より吹き出す空気の温度をそれぞれに異なる温度としている。そして,表3には,第2ガイドロール120を通過した基材90の活物質層20の表面に絶縁層30を形成し,その絶縁粒子31の活物質層20への進入の程度について評価した結果を示している。なお,表3に係る絶縁層30の形成においては,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zが15°となるように,グラビアロール310と基材90とを接触させた。この中心角15°は,上記の実施形態における10°以下の範囲内よりも大きなものであり,より絶縁粒子31の活物質層20への進入が生じやすい条件である。
そして,表3に示すように,サンプル7においては,絶縁粒子31の活物質層20への進入が確認された。これは,グラビアロール310の外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zが15°となるように,グラビアロール310と基材90とを接触させたため,絶縁材料35が基材90の活物質層20へと押し付けられすぎたことによるものであると考えられる。
一方,外周面より気体を吹き出しつつ搬送を行う第2ガイドロール120を用いたサンプル8〜12のなかには,絶縁粒子31の活物質層20への進入が抑制されているものがあった。具体的には,第2ガイドロール120の外周面から吹き出す空気の温度を70℃以上,90℃以下の範囲内としたサンプル10,11においては,絶縁粒子31の活物質層20への進入が抑制されていることが確認された。
これは,サンプル10,11では,基材90の表面の活物質層20を,絶縁粒子31の進入を抑制できる状態としておくことができるからである。すなわち,第2ガイドロール120の通過時に,70℃以上,90℃以下の範囲内の空気が吹き付けられた基材90の活物質層20は,乾燥され,少なくともその表面に含まれている溶媒81が適切に除去される。溶媒81が適切に除去された活物質層20の表面は,その後,絶縁材料35が押し付けられたとしても,絶縁粒子31が進入しないものとなる。
よって,第2ガイドロール120の外周面から吹き出す空気の温度を70℃以上,90℃以下の範囲内としておくことで,グラビアロール310の基材90との接触箇所の中心角Zを15°まで大きくしたとしても,活物質層20への絶縁材料35の進入を適切に抑制できることが確認された。従って,第2ガイドロール120の外周面から吹き出す空気の温度を70℃以上,90℃以下の範囲内としておくことで,グラビアロール310の基材90との接触箇所の中心角Zを15°まで大きくしたとしても,品質の高い電極板1を製造できることが確認された。
以上詳細に説明したように,本実施形態の電極板製造装置100は,集電箔10,活物質層20,絶縁層30を有する構造の電極板1の製造に係るものである。電極板製造装置100は,集電箔10を搬送経路101に沿って搬送する第2ガイドロール120等を有する。また,活物質層形成位置Aにて,集電箔10の第1面15に,電極材料80により活物質層20を形成することで基材90とする活物質層形成部200を有する。さらに,絶縁層形成位置Bにて,基材90の活物質層20の表面に絶縁粒子31を含む絶縁材料35によって絶縁層30を形成する絶縁層形成部300を有する。活物質層形成部200は,電極材料80として,活物質21,結着材22,溶媒81を少なくとも用いて形成された湿潤造粒物を用いる。そして,電極材料80をシート状に成形しつつ活物質層形成位置Aにて集電箔10の第1面15に転写することで,活物質層20を形成する。第2ガイドロール120は,搬送経路101に転換区間K2を形成している。また,搬送経路101には,転換区間K2の下流に,絶縁層形成位置Bを含む上昇区間K3が設けられている。さらに,搬送経路101には,転換区間K2の上流に,上昇区間K3と交差する方向に延びる水平区間K1が設けられている。そして,絶縁層形成部300は,絶縁層形成位置Bにて,活物質層20中に溶媒81が残った状態の基材90の表面に接触しつつ絶縁材料35を塗布するグラビアロール310を有している。グラビアロール310は,外周面における基材90の表面との接触箇所の中心角Zが10°以下の範囲内で,基材90に接触している。これにより,品質の高い電極板を製造することのできる電極板製造装置が実現されている。
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本発明に係る電極板は,必ずしも集電箔の両面に活物質層および絶縁層が形成されている必要はなく,その片面にのみ活物質層および絶縁層が形成されたものであってもよい。
また,電極板製造装置は,図1に示す電極板1に限らず,例えば,図5の(a),(b),(c)にそれぞれ示すような電極板を製造するものであってもよい。図5(a)に示す電極板2は,幅方向について,活物質層20の,集電箔10が露出している側の側面にも絶縁層30が形成されたものである。また,図5(b)に示す電極板3は,幅方向における中央部分に活物質層20および絶縁層30が形成されたものである。そして,図5(b)に示す電極板3は,その後,一点鎖線で示す幅方向の中心に沿って切断することで,図1に示す電極板1とすることができる。また,図5(c)に示す電極板4は,幅方向における中央部分に活物質層20および絶縁層30が形成されているとともに,活物質層20の幅方向における側面にも絶縁層30が形成されたものである。そして,図5(c)に示す電極板4は,その後,一点鎖線で示す幅方向の中心に沿って切断することで,図5(a)に示す電極板2とすることができる。
また例えば,電極板製造装置は,図6に示すような構成のものであってもよい。図6に示す電極板製造装置500は,活物質層形成位置Aと絶縁層形成位置Bとの間に,1つの第4ガイドロール150と,2つの第2ガイドロール120とを有している点について,図2の電極板製造装置100と異なる。第4ガイドロール150は,基材90の活物質層20が形成された側とは反対側の面を支持している。2つの第2ガイドロール120はともに,基材90の活物質層20が形成された側の面を支持している。そして,第4ガイドロール150と,2つの第2ガイドロール120とにより,基材90の搬送方向を転換する転換区間を形成する搬送方向転換部が構成されている。そして,電極板製造装置500では,図6の電極板製造装置500によっても,図2の電極板製造装置100と同様に,品質の高い電極板1を製造することができる。
また例えば,上記の実施形態で説明した電極板の製造に使用する材料は,単なる一例にすぎず,その他の材料を用いることもできる。また例えば,本発明は,リチウムイオン二次電池の電極板に限らず,その他の種類の電池の電極板にも適用することが可能である。