JP2018053180A - ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム及びこれを用いた多層フィルム - Google Patents
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Description
プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、プロピレン系重合体成分(Ax)と、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)とからなる組成物である。本発明に用いるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)とそれを構成するプロピレン系重合体成分(Ax)及びプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)について、その製造方法は限定されない。以下の原料、重合方法によって好ましく製造することが出来る。また、プロピレン系重合体成分(Ax)及びプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の混合についても、どのような方法で混合してもよい。本発明に用いるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の好ましい実施態様は、多段重合法の製造方法により得られる多段重合体であるプロピレン−エチレンブロック共重合体である。
本発明に用いられるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を製造するに際し使用される触媒として、マグネシウム、ハロゲン、チタン、電子供与体を触媒成分とするマグネシウム担持型触媒、三塩化チタンを触媒とする固体触媒成分と有機アルミニウムからなる触媒、またはメタロセン触媒が使用される。具体的な触媒の製造法は特に限定されず、一例として特開2007−254671号公報に開示のチーグラー触媒が例示される。また、重合される原料オレフィンは、プロピレン、エチレンであり、必要により、本発明の目的を損なわない程度の他のオレフィン、例えば、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−ペンテン−1等が使用される。
前記の触媒の存在下にて行われる重合工程は2段階からなる。はじめに、プロピレン系重合体成分(Ax)、つまりポリプロピレンを製造する重合工程(i)である。次に重合工程(i)より得られたプロピレン系重合体成分(Ax)の存在下、プロピレンとエチレンを共重合させる重合工程(ii)である。重合工程(ii)では、エチレンはプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)におけるエチレン含有量が40〜60重量%の割合となるようにプロピレンと共重合される。
重合工程(i)では、プロピレン単独、もしくはプロピレン及びエチレンの混合物は、前記の触媒を加えた重合系に供給され、エチレン含有量が2重量%以下(0ないし2重量%の範囲)であるプロピレン系単独重合体またはプロピレン−エチレンランダム共重合体が製造される。重合工程(i)では、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の全重合体量の好ましくは60ないし95重量%に相当する量となるプロピレン系重合体(Ax)が形成される。
重合工程(ii)では、重合工程(i)に引き続きプロピレンとエチレンの混合物がさらに導入され、エチレン含有量を40〜60重量%とするプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)が得られる工程である。重合工程(ii)では、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の全重合体量の好ましくは5ないし40重量%に相当する量のプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)が形成される。
W(Ax)=重合工程(i)の製造量÷{重合工程(i)の製造量+重合工程(ii)の製造量}
W(Ay)=重合工程(ii)の製造量÷{重合工程(i)の製造量+重合工程(ii)の製造量}
W(Ax)+W(Ay)=1
ここで、W(Ax)、W(Ay)は、それぞれプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)におけるプロピレン系重合体成分(Ax)とプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の重量比率である。
E(A)={E(Ax)×W(Ax)}+{E(Ay)×W(Ay)}
ここで、E(A)、E(Ax)、E(Ay)は、順にプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)、プロピレン系重合体成分(Ax)、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)のエチレン含有量である。この式はエチレン含有量に関するマテリアルバランスを示す。
MFR(Ay)=exp〔loge[MFR(A)]−{W(Ax)×loge[MFR(Ax)]÷W(Ay)}〕
ここで、logeはeを底とする対数である(lnとも記される。)。MFR(A)、MFR(Ax)、MFR(Ay)はそれぞれ、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)、プロピレン系重合体成分(Ax)、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)のMFR(メルトフローレート)である。
この式は一般に粘度の対数加成則と呼ばれる次の経験式
loge[MFR(A)]=W(Ax)×loge[MFR(Ax)]+W(Ay)×loge[MFR(Ay)]
を変形したものであり、当業界で日常的に使われる式である。
プロピレン−エチレン系樹脂組成物として多段重合法により得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を用い、この共重合体中の各エチレン含有量を測定した。すなわち、第1重合工程終了時に得られたプロピレン系重合体(Ax)及び第2重合工程を経て得られたプロピレン−エチレンブロック共重合体(Ay)における各々のエチレン含有量は、プロトン完全デカップリング法により以下の条件に従って測定した13C−NMRスペクトルを解析することにより求めた。
機種:日本電子(株)製,GSX−400または同等の装置(炭素核共鳴周波数100MHz以上)
溶媒:o−ジクロロベンゼン+重ベンゼン(4:1(体積比))
濃度:100mg/mL
温度:130℃
パルス角:90°
パルス間隔:15秒
積算回数:5000回以上
スペクトルの帰属は、例えば、Macromolecules 17,1950(1984)等を参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は下表の通りである。表1中Sαα等の記号はCarmanら(Macromolecules 10,536(1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
[PPP]=k×I(Tββ)…(1)
[PPE]=k×I(Tβδ)…(2)
[EPE]=k×I(Tδδ)…(3)
[PEP]=k×I(Sββ)…(4)
[PEE]=k×I(Sβδ)…(5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4}…(6)
ここで[□□□](かぎ付きかっこ)はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。
従って、
[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]
=1…(7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えば、I(Tββ)は、Tββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。上記(1)ないし(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含有量が求まる。
エチレン含有量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
エチレン含有量(重量%)=(28×X/100)/{28×X/100
+42×(1−X/100)}×100
ここで、Xはモル%表示でのエチレン含有量である。
本発明のポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム10の組成樹脂であるエチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)は、低結晶性ないし非晶性の共重合体エラストマーであり、エチレンと共重合モノマーのαオレフィンとの共重合体である。エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)は、主に当該シーラントフィルム10の耐衝撃性を向上させる成分となる。そこで、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)は、次の(b1)ないし(b3)の3つに規定される関係を満たす樹脂成分である。
本発明のポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム10の組成樹脂である直鎖状低密度ポリエチレン(C)は、一般にLLDPEと称される。直鎖状低密度ポリエチレン(C)は、主に当該シーラントフィルム10の白化を抑制する成分となる。そこで、直鎖状低密度ポリエチレン(C)は、次の(c1)ないし(c4)の4つに規定される関係を満たす樹脂成分である。
これまで説明してきたプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(C)の3種類の樹脂から、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム10を形成するに際し、各樹脂を配合するための好適な重量比が存在する。具体的には、プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は78ないし96重量%であり、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)は2ないし10重量%であり、直鎖状低密度ポリエチレン(C)は2ないし12重量%の範囲である。
一連の説明の樹脂成分から形成されるポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムは、そのフィルム単独としても成立する。その上でレトルト包装用の機能を勘案すると当該ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム(プロピレン−エチレンブロック共重合体組成部)に、他のフィルム(樹脂組成部)が備えられる。他のフィルム(樹脂組成部)としては、プロピレン単独重合体またはプロピレン−エチレン共重合体のフィルムである。それらの樹脂は単独使用、または複数種を混合してもよい。さらに、エラストマーの成分を配合してもよい。他のフィルムの樹脂種は、前述のポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの組成樹脂ほど厳密に限定されず、一般に入手可能な樹脂種から選択可能である。
(1.MFR[単位:g/10min])
MFRの測定は、JIS K 7210−1(2014)のA法に準拠した(各MFRの測定条件は後記の原料にて示す)。
厚さの測定は、JIS K 7130(1999)に準拠した。
ヘーズの測定は、JIS K 7136(2000)に準拠した。
引張降伏応力[単位:MPa]、引張破壊力[単位:MPa]、引張ひずみ[単位:%]、及び引張弾性率[単位:GPa]の測定は、JIS K 7161−1(2014)に準拠した。前記の4項目は、実施例及び比較例の各フィルムのMD(製膜方向,機械方向)とTD(幅方向)の両方の測定とした。各フィルムとも試験片(10mm×200mm)に切り出し、株式会社オリエンテック製,引張試験機(RTF−1310)を使用し、同試験機のチャック間距離を50mmとし、200mm/minの引張り速度にて測定した。
ヒートシール開始温度の測定は、JIS Z 1713(2009)に準拠し、0.35MPa,1.0secの条件下にて実施した。各フィルム測定片(幅50mm、長さ250mm)の長手方向をフィルムの製膜方向(MD)とした。そして、2枚の試験片のヒートシール層同士を重ね、株式会社東洋精機製作所製,熱傾斜試験機(ヒートシール試験機)を使用し、ヒートシールした。ヒートシールにより融着した試験片を180°に開き、株式会社島津製作所製,引張試験機(EZ−SX)により未シール部分を引張した。そして、ヒートシール強度が3Nに到達した時点の温度を求めた。
ダート衝撃強さの測定には、低温槽付ダートインパクトテスター(東洋精機製作所製)を使用し、貫通破壊に要した仕事量を測定した。すなわち、実施例及び比較例の測定対象のフィルムを固定装置により水平に固定して、質量を調節したダート(半球型の金属貫通部:直径25.4mm)を落下させてフィルムを破壊・貫通させた時のフィルム通過後におけるダートの通過速度(V1)と、フィルムが存在しない状態でダートを落下させた時のV1測定地点と、同地点におけるダートの通過速度(V0)とを測定し、下記の式(f)により測定対象のフィルムの破壊エネルギー(J)を求めた。なお、Mはダートの重さである。
全光線透過率の測定は、JIS K 7361−1(1997)に準拠した。135℃、30分間のレトルト処理を行った測定対象のフィルムから、室温にて製膜方向(MD)45mmと直行方向(TD)100mmの試験片をチャック間30mm、引張速度200mm/minで150%のひずみを与え、1分間ホールドした。そして、ひずみ部分の全光線透過率を測定した。ひずみ付与には、引張試験機(株式会社島津製作所製,EZ−SX)を使用し、全光線透過率の測定には、ヘーズメーター(日本電色工業株式会社,NDH5000)を使用した。
測定対象のフィルムから、サイズ200mm×140mmの3方袋を作成し、この中に蒸留水200mLを注入し、残りの開口部をインパルスシーラー(富士インパルス株式会社製,VG−400)により封止(1.0sec)して、サンプル袋とした。このサンプル袋を135℃、30分間レトルト殺菌(レトルト加熱)した(オートクレーブ:株式会社トミー精工製,SR−240使用)。JIS Z 0238(1998)に準拠の方法により、サンプル袋のヒートシール強度を測定した。
測定対象のフィルムから、サイズ200mm×140mmの3方袋を作成し、何も入れず残りの開口部を脱気シーラー(富士インパルス株式会社製,VG−400)でシールして、サンプル袋とした。このサンプル袋を135℃、30分間レトルト殺菌(レトルト加熱)した(オートクレーブ:株式会社トミー精工製,SR−240使用)。引張試験機(株式会社島津製作所製,EZ−SX)を用い、サンプル袋の面同士が融着した部分をT字剥離した。このときの強度を融着強度とした。
ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの製造に際し、はじめにプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)から製造した。プロピレン−エチレン系樹脂組成物としては、多段重合法により得られるプロピレン−エチレンブロック共重合体、すなわち下記の製造例A−1、A−2、A−3、及びA−4で得られた4種類のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)(それぞれ、A−1、A−2、A−3、及びA−4と略称する。)を用いた。
{触媒組成の分析}
Ti(チタン)含有量:試料を正確に秤量し、加水分解した上で比色法を用いて測定した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含有量を計算した。
ケイ素化合物含有量:試料を正確に秤量し、メタノールで分解した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較する事により、得られたメタノール溶液中のケイ素化合物濃度を求めた。メタノール中のケイ素化合物濃度と試料の重量から、試料に含まれるケイ素化合物の含有量を計算した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含有量を計算した。
{(1)固体触媒の調製}
撹拌装置を備えた容量10Lのオートクレーブを充分に窒素で置換し、精製したトルエン2Lを導入した。ここに、室温で、Mg(OEt)2を200g投入し、TiCl4を1Lゆっくりと添加した。温度を90℃に上げて、フタル酸ジ−n−ブチルを50mL導入した。その後、温度を110℃に上げて3時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl4を1L添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。精製したトルエンを導入して全体の液量を2Lに調整した。室温でTiCl4を1L添加し、温度を110℃に上げて2時間反応を行った。反応生成物を精製したトルエンで充分に洗浄した。さらに、精製したn−ヘプタンを用いて、トルエンをn−ヘプタンで置換し、固体成分のスラリーを得た。このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分のTi含有量は2.7wt%であった。
上記の調製により得た固体触媒を用い、以下の手順により予備重合を行った。上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、固体触媒の濃度が20g/Lとなるように調整した。スラリーを10℃に冷却した後、Et3Alのn−ヘプタン希釈液をEt3Alとして10g添加し、280gのプロピレンを4時間かけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、さらに30分間反応を継続した。次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーをオートクレーブから抜き出し、真空乾燥を行って予備重合触媒を得た。この予備重合触媒は、固体触媒1gあたり2.5gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この予備重合触媒のポリプロピレンを除いた部分は、Tiを1.0wt%、i−Pr2Si(OMe)2を8.3wt%含有していた。この予備重合触媒を用いて、以下の手順に従ってプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の製造を行った。
内容積2m3の流動床型重合槽が2個直列につながった2槽連続重合設備を用いてプロピレン−エチレンブロック共重合体を製造した。使用するプロピレン、エチレン、水素、窒素は一般的な精製触媒を用いて精製したものを使用した。第1重合槽におけるプロピレン系重合体成分(Ax)の製造量、及び第2重合槽におけるプロピレン−エチレンランダム重合体成分(Ay)の製造量は重合槽の温度制御に使用する熱交換器の冷却水温度の値から求めた。
第1重合槽を用いてプロピレンの単独重合を行った。重合温度は65℃、全圧は3.0MPaG(ゲージ圧、以下同様)、パウダーホールド量は40kgとした。重合槽に連続的にプロピレン、水素、及び窒素を供給し、プロピレン及び水素の濃度がそれぞれ70.83mol%、0.64mol%となるように調整した。助触媒として、Et3Alを5.0g/hの速度で連続的に供給した。第1重合槽におけるプロピレン系重合体成分(A1)の製造量が20.0kg/hとなるように、上記で得られた予備重合触媒を重合槽に連続的に供給した。生成したプロピレン系重合体成分(Ax)は連続的に抜き出しを行い、パウダーホールド量が40kgで一定となるように調整した。第1重合槽から抜き出したプロピレン系重合体成分(Ax)は第2重合槽に連続的に供給し、プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の製造を引き続いて行った。第1重合槽で生成したプロピレン系重合体成分(Ax)の一部を抜き出して分析したMFR(Ax)(230℃、2.16kg荷重)は、6.0g/10minであった。
第2重合槽を用いてプロピレンとエチレンのランダム共重合を行った。重合温度は65℃、全圧は2.0MPaG、パウダーホールド量は40kgとした。重合槽に連続的にプロピレン、エチレン、水素、及び窒素を供給し、プロピレン、エチレン、及び水素の濃度がそれぞれ45.72mol%、25.71mol%、0.43mol%となるように調整した。重合抑制剤であるエタノールを連続的に供給し、第2重合槽におけるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)の製造量が5.0kg/hとなるように調整した。こうして生成したプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を連続的に抜き出し、パウダーホールド量が40kgで一定となるように調整した。第2重合槽から抜き出したプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、さらに乾燥機に移送し、充分に乾燥を行った。生成したプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の一部を分析したMFR(A)(230℃、2.16kg荷重)は2.5g/10min、エチレン含有量E(A)は10.4wt%であった。
また、計算には以下の式を使用した。
E(Ay)={E(A)−E(Ax)×W(Ax)}÷W(Ay)
ここで、プロピレン系重合体成分(Ax)はプロピレン単独重合体であるので、E(Ax)は0wt%である。また上記の式は前述のE(A)について記載したものをE(Ay)についてそれぞれ整理し直したものである。
結果、エチレン含有量E(Ay)は52.0重量%であった。
製造例A−2,A−3,及びA−4については、次の表2に記載の条件に基づき、前述の製造例A−1と同様の方法により、各例のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を調製した。表2中、上から順に、重合工程(i){プロピレン濃度(mol%),エチレン濃度(mol%),水素濃度(mol%)}、重合工程(ii){プロピレン濃度(mol%),エチレン濃度(mol%),水素濃度(mol%)}、重合結果{重合工程(i)製造量(kg/h),重合工程(ii)製造量(kg/h),総製造量(kg/h),W(Ax)(kg/h),W(Ay)(kg/h)}、ポリマー分析{E(Ax)(wt%),W(Ay)(wt%),E(A)(wt%),MFR(Ax)(g/10min),MFR(A)(g/10min),MFR(Ax)/MFR(A)}である。
製造例A−1ないしA−4により得た各プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)100重量部に対し、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン0.05重量部、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト0.10重量部、ステアリン酸カルシウム0.05重量部を添加してタンブラーにて混合し均一化した。得られた混合物を35mm径の二軸押出機により230℃で溶融混練し、製造例A−1ないしA−4に対応する樹脂のペレットを調製した。
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)として、次の2種類を使用した。便宜上、「EL1及びEL2」と表記する。メルトフローレート(MFR(B))の条件は190℃、2.16kg荷重である。また、コモノマーとは、α−オレフィンの炭素数である。
EL1 三井化学株式会社製,商品名「タフマー(登録商標)A−1085S」,密度:0.885g/cm3,MFR:1.2g/10min,コモノマー炭素数:4
EL2 三井化学株式会社製,商品名「タフマー(登録商標)A−4085S」,密度:0.885g/cm3,MFR:3.6g/10min,コモノマー炭素数:4
直鎖状低密度ポリエチレン(C)として、次の6種類を使用した。便宜上、「LL1、LL2、LL3、LL4、LL5、及びLL6」と表記する。メルトフローレート(MFR(C))の条件は190℃、2.16kg荷重である。また、コモノマーとは、α−オレフィンの炭素数である。
LL1 日本ポリエチレン株式会社製,商品名「カーネルKF360T」,密度:0.898g/cm3,MFR:3.5g/10min,コモノマー炭素数:3及び6,メタロセン触媒使用
LL2 宇部丸善ポリエチレン株式会社製,商品名「ユメリット1540F」,密度:0.913g/cm3,MFR:4g/10min,コモノマー炭素数:6,メタロセン触媒使用
LL3 宇部丸善ポリエチレン株式会社製,商品名「ユメリット2040FC」,密度:0.919g/cm3,MFR:5g/10min,コモノマー炭素数:6,メタロセン触媒使用
LL4 宇部丸善ポリエチレン株式会社製,商品名「ユメリット0540F」,密度:0.904g/cm3,MFR:4g/10min,コモノマー炭素数:6,メタロセン触媒使用
LL5 日本ポリエチレン株式会社製,商品名「ノバテックUF240」,密度:0.920g/cm3,MFR:2.1g/10min,コモノマー炭素数:4,チーグラー触媒使用
LL6 京葉ポリエチレン株式会社製,商品名「M6901」,密度:0.962g/cm3,MFR:13g/10min,チーグラー触媒使用
多層フィルムの作製に際し、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの表面側に付加する他の重合体フィルムを形成する樹脂として次の種類を使用した。前出のA−3のプロピレン−エチレンブロック共重合体、EL2のエチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー、そして、プロピレン単独重合体として、A−5 日本ポリプロ株式会社製,商品名「ノバテックFB3B」,密度:0.90g/cm3,MFR:7.5g/10minである。
LF1 ポリアミド樹脂フィルム,ユニチカ株式会社製,商品名「エンブレムNX」,膜厚15μm
LF2 ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム,フタムラ化学株式会社製,商品名「FE2001」,膜厚12μm
ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの作製は、原料となる樹脂を溶融、混練してTダイフィルム成形機を用いた。各実施例及び各比較例とも、表中の厚さ(μm)とする条件で製膜した。なお、「8.ヒートシール強度」ないし「9.融着」の項目については、出来上がった実施例またはポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムと、LF1(ポリアミド樹脂フィルム)、LF2(ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム)を積層した積層フィルムの状態で測定した。
多層フィルムの作製は、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの原料樹脂を溶融、混練するとともに、その両面に配する他のフィルムの原料樹脂も溶融、混練し、これらを共押出Tダイフィルム成形機を用いた。各実施例とも、表中の厚さ(μm)とする条件で製膜した。フィルムにおける厚さの比率(相対比)は、「1:6:1」に設定した。なお、「8.ヒートシール強度」ないし「9.融着」の項目については、出来上がった実施例またはポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムまたは多層フィルムと、LF1(ポリアミド樹脂フィルム)、LF2(ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム)を積層した積層フィルムの状態で測定した。
はじめに、LF1(ポリアミド樹脂フィルム)に前記のドライラミネート接着剤を塗布し(塗布量5g/m2)、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムまたは多層フィルムの一方の面に積層した。次に、積層後のLF1に前記のドライラミネート接着剤を塗布し(塗布量5g/m2)、ここにLF2(ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム)を積層した。続いて、80℃、30秒間乾燥した後、40℃、4日間エージングして各実施例及び比較例に対応する積層フィルム(ラミネートフィルム)を作製した。
表3ないし7において、上から順にプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)とその該当樹脂「A−1ないしA−4」、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の該当樹脂「EL1,EL2」、直鎖状低密度ポリエチレン(C)の該当樹脂「LL1ないしLL6」とし、厚さ(μm)、ヘーズ(%)、引張降伏応力(MD,TD)(MPa)、引張破壊力(MD,TD)(MPa)、引張ひずみ(MD,TD)(%)、引張弾性率(MD,TD)(GPa)、ヒートシール開始温度(℃)、ダート衝撃強さ(0℃)(J)、全光線透過率(%)、レトルト後ヒートシール強度(N/15mm)、融着(N)である。
〔3成分の重量組成割合〕
ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムを構成するプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(C)の3成分の重量組成割合(重量%)を相互間で変化した例は、実施例1ないし11、比較例1ないし6である。各例をプロットして樹脂配合割合の関係を図3の三角図により表した。
表2に開示のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のA−1ないしA−4の分析値と当該樹脂(A)の性能を規定する指標(a1)ないし(a4)との対応関係は、次のとおりである。項目E(Ax)は指標(a1)に、項目MFR(A)は指標(a2)に、項目E(Ay)は指標(a3)に、項目MFR(Ax)/MFR(A)は指標(a4)に対応する。
比較例9はプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のA−3を使用し、比較例10は同(A)のA−4を使用した。比較例9,10はともにダート衝撃強さやヒートシール強度等の性能低下が顕著となった。この結果も併せてプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)の4つの指標(a1)ないし(a4)の範囲は、次のとおり表すことができる。
各製造例のプロピレン系重合体成分(Ax)のエチレン含有量は、いずれも0重量%であった。また、その製造工程からも明らかであるように、プロピレン系重合体成分(Ax)はプロピレン単独重合体であった。なお、製造は連続的であるため、直接プロピレン−エチレンランダム共重合体が製造される場合もある。そこで、プロピレン系重合体成分(Ax)がプロピレン−エチレンランダム共重合体となる場合やプロピレン−エチレンランダム共重合体を含有する場合も想定され得る。従って、プロピレン系重合体成分(Ax)のエチレン含有量は、0ないし2重量%として導き出すことができる。
各製造例のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレート「MFR(A)」(230℃、2.16kg荷重)は、2.1ないし7.0g/10minであった。当該範囲から、好ましいMFR(A)は0.5ないし10.0g/10minと導き出すことができる。
各製造例のプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)におけるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)のエチレン含有量E(Ay)は、38.0ないし52.0重量%であった。当該範囲から、好ましいエチレン含有量E(Ay)は、40ないし60と導き出すことができる。
各製造例におけるプロピレン系重合体成分(Ax)のMFR(Ax)とプロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のMFR(A)の比、すなわち「MFR(Ax)/MFR(A)」の値は、1.14ないし2.4であった。当該範囲から、好ましい比は、2.0ないし4.5と導き出すことができる。
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)はEL1及びEL2の2種類であった。開示の実施例の結果から明らかように、いずれも、前掲の同(B)の2ないし10重量%の重量配合割合を満たす限り好適な性能を示すに至った。このことから、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)に関する(b1)ないし(b3)の3項目の物性は次のとおり勘案することができる。
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の密度に関し、EL1及びEL2はともに0.885g/cm3である。そこで、0.860ないし0.895g/cm3の密度の範囲が導き出される。
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)のメルトフローレート「MFR(B)」(190℃、2.16kg荷重)に関し、EL1は1.2g/10minであり、EL2は3.6g/10minであった。そこで、0.5ないし10.0g/10minのMFRの範囲が導き出される。
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の構造に関し、実施例にて使用したEL1及びEL2に含有されるα−オレフィンは両方とも3ないし8の範囲の炭素数(コモノマー)である。そのため、EL1及びEL2は、ともにエチレンと炭素数3ないし8(C3ないしC8)のα−オレフィンとのランダム共重合体であるといえる。
比較例7は直鎖状低密度ポリエチレン(C)のLL5を使用し、比較例8は同(C)のLL6を使用した。比較例7,8はともに透明性の悪化(白化)が顕著となった。この結果も併せて直鎖状低密度ポリエチレン(C)の4つの指標(c1)ないし(c4)の範囲は、次のとおり表すことができる。
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)の密度は、0.898ないし0.962g/cm3であった。比較例8(LL6使用)及び比較例7(LL5使用)の0.920g/cm3を超過すると、性能低下を招くことから、およそ当該値のLL5の密度が上限と考えられる。従って、好ましい密度は0.895〜0.920g/cm3と導き出すことができる。
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)のメルトフローレート「MFR(C)」(190℃、2.16kg荷重)に関し、2.1ないし13g/10minの範囲であった。このことから0.5〜20.0g/10minの範囲とすることができる。その上で、比較例7の最小値と比較例8の最大値の例の性能低下を勘案して、好ましくは3ないし7g/10minの範囲を規定することができる。
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)に含有されるα−オレフィンは、いずれも3ないし6の範囲の炭素数(コモノマー)であった。そこで、存在可能なコモノマーの炭素数を加味して、直鎖状低密度ポリエチレン(C)はエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体とすることが好ましい。
実施例及び比較例にて使用した直鎖状低密度ポリエチレン(C)に関し、比較例7(LL5)及び比較例8(LL6)はチーグラー触媒による重合であり、これ以外はメタロセン触媒による重合であった。比較例7,8の性能低下の結果から、直鎖状低密度ポリエチレン(C)はメタロセン触媒による重合物であることが好ましい。
実施例16ないし18はポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの片面または両面に他の樹脂組成のフィルム部位を形成した例である。実施例16及び18は両面形成であり、実施例17は片面形成である。表8から把握されるように、両例とも良好な結果を得た。従って、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムのみならず、同フィルムを含む多層フィルムにおいても本発明の所望とする性能を確認することができた。また、ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムの表面に追加される他のフィルムの樹脂組成に着目すると、実施例16のA−3はプロピレン−エチレン共重合体を含有し、実施例17のA−3はプロピレン−エチレン共重合体を含有し、実施例18はA−5のプロピレン単独重合体を含有する例である。ゆえに、多層フィルムの形成に際し、プロピレン−エチレン共重合体もプロピレン単独重合体も使用可能である。
F1 ポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム
F2 他のフィルム
Claims (2)
- プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)を78〜96重量%と、
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)を2〜10重量%と、
直鎖状低密度ポリエチレン(C)を2〜12重量%と、を含有してなるポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルムであって、
前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)は、
プロピレン系重合体成分(Ax)とプロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)とからなる組成物であり、
(a1):前記プロピレン系重合体成分(Ax)はエチレン含有量が0〜2重量%のプロピレン単独重合体またはプロピレン−エチレンランダム共重合体であり、
(a2):前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレート(MFR(A))(230℃、2.16kg荷重)が0.5〜10.0g/10minであり、
(a3):前記プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(Ay)におけるエチレン含有量が40〜60重量%であり、
(a4):前記プロピレン系重合体成分(Ax)のメルトフローレート(MFR(Ax))と、前記プロピレン−エチレンブロック共重合体(A)のメルトフローレート(MFR(A))(230℃、2.16kg荷重)との比が、
MFR(Ax)/MFR(A)=2.0〜4.5である
前記(a1)ないし(a4)の関係を満たし、
前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)は、
(b1):前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)の密度が0.860〜0.895g/cm3であり、
(b2):前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)のメルトフローレート(MFR(B))(190℃、2.16kg荷重)が0.5〜10.0g/10minであり、
(b3):前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体エラストマー(B)が、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとのランダム共重合体である
前記(b1)ないし(b3)の関係を満たし、
前記直鎖状低密度ポリエチレン(C)は、
(c1):前記直鎖状低密度ポリエチレン(C)の密度が0.895〜0.920g/cm3であり、
(c2):前記直鎖状低密度ポリエチレン(C)のメルトフローレート(MFR(C))(190℃、2.16kg荷重)が0.5〜20.0g/10minであり、
(c3):前記直鎖状低密度ポリエチレン(C)がエチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体であり、
(c4):前記直鎖状低密度ポリエチレン(C)がメタロセン触媒の重合物である
前記(c1)ないし(c4)の関係を満たしている
ことを特徴とするポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム。 - 請求項1に記載のポリプロピレン系レトルト用シーラントフィルム(F1)と、プロピレン単独重合体またはプロピレン−エチレン共重合体のフィルム(F2)とを備えてなることを特徴とする多層フィルム。
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