JP2016183399A - 浸炭機械構造部品 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、しかも被削性にも優れた浸炭機械構造部品を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜0.25%、Mn:0.4〜0.9%、S:0.003〜0.050%、Cr:1.65〜2.00%、Al:0.01〜0.06%、Nb:0.01〜0.06%、及びN:0.010〜0.025%を含有するとともに、残部:Fe及び不可避的不純物を含む。下記の(1)式で表されるFn1が、−35≦Fn1≦−30を満たす。
Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
【選択図】図1

Description

本発明は、浸炭して表面硬化を施した機械構造部品に関する。
自動車や産業機械の歯車、シャフトなどの鋼製動力伝達部品には、表面硬化処理の一種である浸炭焼入れが施されるものがある。
浸炭焼入れする機械構造部品の製造方法は、例えば次の方法が挙げられる。即ち、初めに、最終部品に近い形状の粗部材を製造する。製造された粗部材に対して、切削加工を施して、最終部品形状にさらに近い中間部材を製造する。中間部材に対して浸炭焼入れ、研削加工を順次施して、最終部品としての機械構造部品を得る。
このように製造された部品は、燃費向上のため、小型化、軽量化が進み、部品にかかる負荷が増加する傾向にある。この結果、摺動面の耐摩耗性(特に高負荷が繰り返されることによる耐疲労摩耗)や、繰り返し数が107回オーダでの曲げ疲労強度(以下、単に「曲げ疲労強度」と称する場合がある)、さらには高負荷が繰り返される状況下における繰り返し数が104回オーダでの曲げ疲労強度(以下、単に「低サイクル曲げ疲労強度」と称する場合がある)に優れた部品の開発が、益々要請されている。
疲労強度を高める技術は、特許文献1から3に開示されている。
特開平3−120313号公報 特開平8−260125号公報 特開2007−210070号公報
特許文献1には、鋼部材に、強度向上のためのショットピーニングを施し、さらにその極表層部を切削加工する技術が開示されている。特許文献1では、当該技術により、疲労特性及びショットピーニング加工部の被削性が向上する、とされている。
特許文献2には、浸炭焼入れ及び焼戻しを施して表面硬化層を形成した後、表面硬化層を研削除去する技術が開示されている。特許文献2では、当該技術により、疲労強度が高まる、とされている。
特許文献3には、金属部材に対して、すくい面をネガティブ方向に30〜50°の範囲で傾けた工具を用いて旋削加工を施す技術が開示されている。特許文献3では、当該技術により、ショットピーニングのような工程を施さなくても、圧縮残留応力を付与して疲労強度を高めることができる、とされている。
ところで、昨今の機械構造部品、例えば、歯車、シャフトおよびCVTプーリーに用いられる機械構造部品については、摺動と衝撃的な荷重が繰り返し付加されることがあるという理由から、優れた耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が同時に要求される。
しかしながら、特許文献1から3に開示された技術によって製造された機械構造部品であっても、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を同時に高いレベルで発現させることは困難な場合がある。また、コスト面からは、ショットピーニングを省略し、さらに切削加工時に工具摩耗を抑制することも望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、しかも被削性にも優れた浸炭機械構造部品を提供することを目的とする。
本発明者らは、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、しかも被削性にも優れた浸炭機械構造部品について、鋭意検討した。その結果、浸炭機械構造部品の化学組成と、金属組織と、表面の算術平均粗さと、を制御すれば、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、しかも被削性にも優れた浸炭機械構造部品を得ることができる、との知見を得た。以上の知見に基づき、本発明者らは発明を完成した。その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜0.25%、Mn:0.4〜0.9%、S:0.003〜0.050%、Cr:1.65〜2.00%、Al:0.01〜0.06%、Nb:0.01〜0.06%、及びN:0.010〜0.025%を含有するとともに、残部:Fe及び不可避的不純物を含み、
下記の(1)式で表されるFn1が、−35≦Fn1≦−30を満たし、
不純物としてのP及びOの含有量が、それぞれ、P:0.020%以下、及びO:0.002%以下であり、
表層部のC含有量(Cs)が、0.65〜1.0%であり、
表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトの合計で97%以上であり、
表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が13〜28%であり、
表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から200μmの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比が0.8以下であり、
表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、
表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である、
ことを特徴とする浸炭機械構造部品。
Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(1)
但し、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
[2]質量%で、Pb:0.5%、Cu:0.05〜0.3%、Ni:0.05〜0.3%、及びMo:0.05〜0.15%から選択される1種以上を含有する、上記[1]に記載の浸炭機械構造部品。
本発明に係る浸炭機械構造部品では、浸炭機械構造部品の化学組成と、金属組織と、表面の算術平均粗さと、について改良を加えている。その結果、本発明に係る浸炭機械構造部品によれば、耐摩耗性、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度、被削性を、すべて高いレベルで発現することができる。
図1は、浸炭機械構造部品の軸方向に垂直な面の走査型電子顕微鏡像である。 図2は、二円筒摩耗試験に用いる摩耗試験片の側面図である。 図3は、小野式回転曲げ疲労試験に用いる疲労試験片の側面図である。 図4は、二円筒摩耗試験方法を示す正面図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、単に「実施形態」と称する場合がある)を詳細に説明する。これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。また、上記実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。なお、図中、同一又は相当する部材には、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
<浸炭機械構造部品>
浸炭機械構造部品(以下、単に「部品」と称する場合がある)の素材となる鋼材は、次の化学組成を有する。なお、以下に示す各元素の割合(%)は全て質量%を意味する。
[浸炭機械構造部品の化学組成(必須要件)}
C:0.1〜0.3%
炭素(C)は、部品の強度(特に芯部の強度)を高める。C含有量が低すぎれば、この効果が得られず、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、C含有量が高すぎれば、鋼材の強度が高くなり、鋼材の被削性が低下する。従って、C含有量は0.1〜0.3%とする。C含有量の好ましい下限は0.15%である。C含有量の好ましい上限は0.25%である。
Si:0.25%以下
シリコン(Si)は、表面硬化処理後の切削加工時に、工具と鋼の凝着を引き起こし、工具摩耗を増大させる。従って、Si含有量は0.25%以下とする。Si含有量の好ましい上限は、0.15%である。なお、量産における製造コストを考慮すると、Si含有量の下限は0.01%とすることが好ましい。
Mn:0.4〜0.9%
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高めるとともに、鋼中の残留オーステナイトを増加させる。その結果、部品の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が高まる。しかし、Mn含有量が0.4%未満では、この効果が得られない。一方、Mn含有量が0.9%を超えると、ガス浸炭中の表層にセメンタイトが生成しやすくなり、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Mn含有量は0.4〜0.9%に限定する。Mn含有量の好ましい下限は0.5%である。Mn含有量の好ましい上限は0.8%である。
P:0.050%以下
燐(P)は不純物である。Pは、オーステナイト結晶粒界に偏析して鋼を脆化する。従って、P含有量は0.050%以下とする。P含有量の好ましい上限は0.030%であって、さらに低いことがより好ましい。
S:0.003〜0.050%
硫黄(S)は、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を高める。S含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、S含有量が高すぎれば、粗大なMnSを形成して、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、S含有量は0.003〜0.050%に限定する。S含有量の好ましい上限は0.015%である。
Cr:1.65〜2.00%
クロム(Cr)は、炭素との親和性が高いため、ガス浸炭時に表面炭素濃度を増大させる効果があり、また、浸炭層のMs点を低下させる効果がある。その結果、浸炭焼入れ後の表層に残留オーステナイトが生成するため、疲労摩耗による耐摩耗性向上に有効な元素である。しかし、その含有量が1.65%未満では、上記効果が十分でなく、目標とする耐摩耗性が得られない。一方、Crの含有量が2.00%を超えると、ガス浸炭中の表層にセメンタイトが生成しやすくなり、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Crの含有量を1.65〜2.00%とした。Crの含有量は、1.70%以上とすることが好ましく、1.75%以上とすることが一層好ましい。また、Crの含有量は1.95%以下とすることが好ましく、1.90%以下とすることが一層好ましい。
Al:0.010〜0.060%
アルミニウム(Al)は、Nと結合してAlNを形成し、鋼の結晶粒を微細化することで、鋼の強度を高める。Al含有量が低すぎれば、この効果は得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、硬質で粗大なAlが生成して、鋼の被削性が低下し、さらに、曲げ疲労強度及び低サイクル疲労強度も低下する。従って、Al含有量は0.010〜0.060%とする。Al含有量の好ましい下限は0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.050%である。
Nb:0.01〜0.06%
ニオブ(Nb)は、C、Nと結合してNbC、NbN、Nb(C、N)を形成することで、浸炭加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果がある。その結果、使用時に亀裂の発生を抑制して、部品の低サイクル曲げ疲労強度が顕著に向上する。この効果を安定して得るためには、0.01%以上のNbを含有させる必要がある。一方、Nbの含有量が0.06%を超えると、オーステナイト粒粗大化抑制の効果がむしろ低下する。従って、Nbの含有量を0.01〜0.06%とした。Nbの含有量は、0.015%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることが一層好ましい。また、Nbの含有量は0.05%以下とすることが好ましく、0.04%以下とすることが一層好ましい。
N:0.010〜0.025%
窒素(N)は窒化物を形成して鋼の結晶粒を微細化し、部品の耐摩耗性を高める。N含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、N含有量が高すぎれば、粗大な窒化物が生成して鋼の靱性が低下する。従って、N含有量を0.010〜0025%に限定する。N含有量の好ましい上限は0.020%である。
O:0.002%以下
酸素(O)は不純物である。OはAlと結合して硬質な酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物は鋼の被削性を低下させ、曲げ疲労強度及び低サイクル疲労強度も低下させる。従って、O含有量は0.002%以下とする。O含有量はなるべく低い方がよい。
上記鋼材の化学組成の残部には、Fe及び不可避的不純物が含まれる。不可避的不純物は、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、又は、製造工程の環境等から混入する成分であって、鋼材に意図的に含有させた成分ではない成分を意味する。例えば、0.01%以下のB、0.01%以下のCa、0.01%以下のMgなどが該当する。
[浸炭機械構造部品の化学組成(任意選択的要件)]
Pb:0.5%以下
鉛(Pb)は選択元素であり、含有されなくてもよい。Pbを含有した場合、工具摩耗の低減、及び切り屑処理性の向上などの被削性が良好となる。しかしながら、Pb含有量が高すぎれば、鋼の強度及び靱性が低下し、耐摩耗性及び曲げ疲労強度も低下するため、Pb含有量の上限は0.5%以下とすることが好ましい。このようなPbの効果を安定して得るためには、Pbの含有量は0.03%以上とすることが好ましい。Pb含有量のさらに好ましい上限は0.4%以下である。
Cu:0〜0.3%
銅(Cu)は、焼入れ性を高める作用があり、低サイクル曲げ疲労強度や耐ピッチング強度を高めるので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が0.3%を超えると、浸炭性を阻害するために浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが増加しにくくなり、耐摩耗性が低下する。従って、含有させる場合のCu含有量は0.3%以下とすることが好ましい。Cuの含有量は0.25%以下とすることがさらに好ましく、0.2%以下とすることが一層好ましい。このようなCuの効果を安定して得るためには、Cuの含有量は、0.05以上とすることが好ましく、0.1%以上とすることが一層好ましい。
鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Mo及びNiからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。
Mo:0.15%以下
モリブデン(Mo)は選択元素であり、含有されなくてもよい。Moは鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。Moはさらに、焼戻し軟化抵抗を高め、耐摩耗性及び曲げ疲労強度を高める。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。その結果、部品の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低下する。従って、Mo含有量を0.15%以下に限定することが好ましい。Mo含有量のさらに好ましい上限は0.13%である。また、Moを添加する場合、上記の効果を得るためのMo含有量の好ましい下限は0.05%である。
Ni:0.3%以下
ニッケル(Ni)は選択元素であり、含有されなくてもよい。Niは鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。Niはさらに、鋼の靱性を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、焼戻し後の切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。その結果、部品の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低下する。従って、Ni含有量を0.3%以下とすることが好ましい。Ni含有量のさらに好ましい上限は0.2%である。また、Niを添加する場合、上記の効果を得るためのNi含有量の好ましい下限は0.05%である。
[各元素の含有量の関係(必須要件)]
本実施形態に係る浸炭機械構造部品は、下記(2)式で表されるFn1が、−35以上−30以下の範囲内でなければならない。
Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(2)
なお、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態に係る浸炭機械構造部品において、耐摩耗性を効率的に発現させるためには、浸炭焼入れ後に安定して残留オーステナイトを生成することが必要である。このためには、Fn1が上記範囲になければならない。Fn1は、ガス浸炭における炭素侵入のしやすさの指標であり、Fn1が小さいほど同じガス浸炭条件でも、表面の炭素濃度は高くなる。
しかしながら、Fn1が−35より小さくなると、表面にセメンタイトが生成し、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。また、Fn1が−30を超えると、表面の炭素濃度の上昇が不十分であり浸炭焼入れ時に生じる残留オーステナイト量が不十分となり、有効な耐摩耗性を発現できない。従って、−35≦Fn1≦−30とした。Fn1は、−33以上であることが好ましく、また、−31以下であることが好ましい。
[表層部のC含有量(Cs):0.65〜1.0%]
表層部に含まれるCは、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を高める。Csが低ければ、切削加工前後での残留オーステナイトの体積減少率が小さくなり、表層の硬さも低くなる。その結果、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、Csが高ければ、表層部に硬質な初析セメンタイトが生成する。Csが過度に高く、表層部の初析セメンタイトが3%を超えた場合、セメンタイトが疲労破壊の起点となり、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下するだけでなく、切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、表層部のC含有量(Cs)を0.65〜1.0%に限定する。Csの好ましい下限は0.70%である。Csの好ましい上限は0.95%である。
[浸炭機械構造部品の組織及び表面の算術平均粗さ]
本実施形態に係る浸炭機械構造部品は、その表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトの合計で97%以上であり、表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率(R1)が13〜28%であり、表面から20μmの深さ位置(以下、単に「基準位置」と称する場合がある)での残留オーステナイト体積率(R2)と、表面から200μmの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比(M)が0.8以下であり、表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である。
浸炭機械構造部品の組織観察は次の方法で実施される。上記基準位置を含む試験片を用意する。鏡面研磨した試験片を、5%ナイタール溶液で腐食する。表面から20μm深さの位置を中心として、倍率1000倍の光学顕微鏡にて3視野観察する。観察の対象範囲は、視野の中心から部品の表面方向に10μm、視野の中心から部品内部方向に10μm、視野の中心から部品の表面方向と垂直な両方向に各々50μmの20μm×100μmの範囲内であり、各相の面積率を通常の画像解析方法によって求める。得られた各相の面積率を各相の体積率と定義する。
光学顕微鏡による組織観察では、フェライト、セメンタイト、及びマルテンサイトと残留オーステナイトの混合組織が区別して観察される。但し、残留オーステナイトはマルテンサイト相中に含まれるため、光学顕微鏡では、マルテンサイトと残留オーステナイトを区別することができない。そこで、部品の残留オーステナイトの体積率を、次の方法で測定する。
即ち、部品の表面にφ3mmの穴が開いたマスキングを施し、電解研磨を施す。11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液を準備する。この電解液を用いて、基準位置を含む表面を、+20Vの電圧で電解研磨を実施する。電解研磨の時間を変化させることで研磨量を調整し、20μm深さの穴を開ける。
続いて、電解研磨された穴底面の残留オーステナイト量を測定する。測定には市販のX線回折装置を使用することができる。光源にはCr管球を使用する。X線回折により得られたbcc構造の(221)面と、fcc構造の(220)面の回折ピークの積分強度比に基づいて、残留オーステナイトの体積率を測定する。
(基準位置での組織:マルテンサイトと残留オーステナイト合計で97%以上)
表面から20μmの深さ位置(基準位置)にフェライト、パーライト等の強度の低い相が存在すれば、これらの相を基点に亀裂が発生しやすく、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。また、初析セメンタイトが存在すれば、切削加工時の工具摩耗が増大するうえに、疲労破壊の起点となるため、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、マルテンサイト及び残留オーステナイト合計の体積率を97%以上に限定する。上記体積率は99%以上とすることが好ましい。
(表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率(R1):13〜28%)
残留オーステナイトは、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態を発生する。その結果、表面の強度が上昇し、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が上昇する。このような効果を得るためには、最大残留オーステナイト体積率(R1)が少なくとも13%存在しなければならない。一方、残留オーステナイトは軟質であるため体積率(R1)が28%を超えるとかえって強度が低下する。従って、体積率(R1)は13〜28%に限定する。体積率(R1)は15〜25%とすることが好ましい。なお、上述した電解研磨方法と同じ方法を用いて、表面から10μmピッチで200μm深さまで測定した残留オーステナイトの体積率のうち最大の値を、最大残留オーステナイト体積率(R1)とした。
(基準位置での残留オーステナイト体積率(R2)と、表面から200μmの範囲で最大残留オーステナイト体積率(R1)との、比(M(=R2/R1))が0.8以下)
比Mは、仕上げ加工時の加工誘起マルテンサイト変態の程度を表す。Mが小さいと、仕上げ加工時により多くの加工誘起マルテンサイト変態が発生したことを意味し、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が向上する。上記の効果を得るためにはMが0.8以下でなければならない。なお、好ましいMの値は0.75以下である。
(表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織が存在すること)
表層の塑性流動組織の厚さは次の方法で測定される。部品の表面を含み、部品の軸方向(例えば、ダンベル状の試験片の場合はその長手方向)に垂直な面(横断面)が観察面になるような試験片を採取する。鏡面研磨した試験片を、5%ナイタール溶液で腐食する。腐食された面を、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。得られたSEM像の一例を図1に示す。同図において、塑性流動組織11は、中心部12に対して組織が製品部材の周方向(図1において紙面の左方向から右方向)に湾曲している部分であり、製品部材の表面から湾曲した組織の端までの距離を塑性流動組織11の厚さと定義した。
本実施形態に係る浸炭機械構造部品を製造する際には、切削加工時に、表層に大きな変形が生じ、塑性流動組織が形成される。この塑性流動組織は硬質であり、厚さが1μm以上になると部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が向上する。しかし、塑性流動組織は脆いため、その厚さが薄い場合にはある程度変形が可能であるが、厚さが15μmを超えると、割れが生じて亀裂の発生起点となるため、部品の曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が逆に低下する。さらに、厚さが15μmを超えると、仕上げ加工時の工具への負担が大きくなり、工具寿命が著しく低下する。従って、表層の塑性流動組織の厚さは1〜15μmに限定した。
(表面の算術平均粗さRa:0.8μm以下)
算術平均粗さRaは、JIS B0601(2001)に規定される算術平均粗さRaであり、この規定に準拠する。算術平均粗さRaの評価方法及び測定機は、JIS B0633(2001)及びJIS B0651(2001)の規定に準拠する。
表面の算術平均粗さRaが0.8μmよりも大きい場合、仕上げ研磨を行って、算術平均粗さRaを0.8μm以下にする。仕上げ研磨としては、例えば、ラップ研磨を採用することができる。
部品表面の算術平均粗さRaが大きすぎれば、部品摺動面の摩擦抵抗が大きくなり、部品の耐摩耗性が低下する。従って、部品表面の算術平均粗さRaは0.8μm以下に限定する。
以上示したように、本実施形態に係る浸炭機械構造部品では、特定の成分の鋼材に対して加工誘起変態を発生させて硬質のマルテンサイトを十分に存在させることで、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度、及び被削性を高めることができる。また、本実施形態に係る浸炭機械構造部品では、さらに、Nbを添加したことで、浸炭加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制し、亀裂の発生を抑制し、特に、部品の低サイクル曲げ疲労強度を一段と高めることができる。
<浸炭機械構造部品の製造方法>
次に、本実施形態に係る浸炭機械構造部品の製造方法の一例を説明する。
[粗加工品の製造工程]
上記化学組成を有する鋼材を加工して粗加工品を製造する。加工方法は周知の方法でよい。例えば、熱間加工、冷間加工、切削加工等を用いることができる。粗加工品は、最終部品に近い形状とする。
[浸炭焼入れ工程]
浸炭焼入れ工程は、初めに、浸炭処理を施し、その後、恒温保持処理を施し、さらに、焼入れ処理及び焼き戻し処理を施す。浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼き戻し処理は、それぞれ、次の条件で行う。
(浸炭処理)
浸炭温度(T1):900〜1050℃
浸炭温度T1が低すぎれば、粗加工品の表層が十分に浸炭されない。この場合、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なく、表層の硬さも低い。そのため、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低くなる。一方、浸炭温度T1が高すぎれば、オーステナイト粒が粗大化して耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、浸炭温度T1は、例えば900〜1050℃とすることができる。
カーボンポテンシャル(Cp1):0.7〜1.1%
カーボンポテンシャルCp1が低すぎれば、十分浸炭されない。Cp1が低い場合、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なく、仕上げ加工後の表層の硬さが低くなるため、部品の耐摩耗性が低下する。一方、Cp1が高すぎれば、浸炭時に析出した硬質な初析セメンタイトが残存して切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、Cp1は、例えば0.7〜1.1%とすることができる。Cp1は浸炭処理時に上記範囲内で変動させてもよい。
浸炭時間(t1):60〜240分
浸炭処理の時間(浸炭時間)t1が短すぎれば、十分な浸炭がされない。一方、t1が長すぎれば、生産性が低下する。従って、t1は、例えば60〜240分とすることができる。
(恒温保持処理)
浸炭処理後、恒温保持処理を施す。恒温保持処理は、次の条件で行う。
恒温保持温度(T2):820〜870℃
恒温保持温度T2が低すぎれば、カーボンポテンシャル等の雰囲気制御が困難になり、残留オーステナイトの体積率が調整しにくい。一方、T2が高すぎれば、焼入れ時に生じる歪みが増大して、焼割れが発生する場合がある。従って、恒温保持温度T2は、例えば820〜870℃とすることができる。
カーボンポテンシャル(Cp2):0.7〜0.9%
恒温保持処理時におけるカーボンポテンシャルCp2が低すぎれば、浸炭時に侵入したCが再度外部に放出されて浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なくなり、表層硬さが低下し、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、Cp2が高すぎれば、硬質な初析セメンタイトが析出して切削加工時の工具摩耗が増大し、浸炭品の被削性が低下する。従って、Cp2は、例えば0.7〜0.9%とすることができる。
恒温保持時間(t2):20〜60分
恒温保持時間t2が短すぎれば、浸炭品の温度が均一にならず、焼入れ時に生じる歪みが増大して、浸炭品に焼割れが生じる場合がある。一方、t2が長すぎれば、生産性が低下する。従って、t2は、例えば20〜60分とすることができる。
(焼入れ処理)
上記恒温保持処理後、周知の方法で焼入れ処理を施す。焼入れ処理としては、例えば、油焼入れが挙げられる。
(焼戻し処理)
上記浸炭焼入れ処理を施した後、焼戻し処理を施す。焼戻し処理を行えば、製品部材の靱性が高まる。さらに、Cが拡散して炭化物の前駆体を生成するため、残留オーステナイトが不安定化して、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が発生しやすくなる。焼戻し処理は次の条件で行われる。
焼戻し温度(T3):160〜200℃
焼戻し温度T3が低すぎれば、上記焼戻しによる効果が得られない。一方、焼戻し温度が高すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、T3は、例えば160〜200℃とすることができる。
焼戻し時間(t3):60〜180分
焼戻し時間t3が短すぎれば、上記焼戻しの効果が得られない。一方、焼戻し時間t3が長すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理歪みから解放されて安定化するため、切削加工時に十分に加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。従って、t3は60〜180分とする。
以上に示す浸炭焼入れ工程により得られた浸炭品は、その表面から50μmの深さまでのC含有量(Cs)が、0.6〜1.0%となっている。その後、以下に示すような仕上げ加工としての切削加工を経て、所望の浸炭機械構造部品が得られる。なお、浸炭部品の表層部のC濃度は、当該部品の表層50μmを切削加工によって切り出し、その切粉中のC含有量を発光分光分析で定量測定する。また、部品表層部のC濃度は、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて定量分析することもできる。
[切削加工工程]
上記浸炭焼入れ工程を経た後、切削加工工程を行う。切削加工工程により、製品部材の形状に仕上げつつ、表層に加工誘起マルテンサイト変態を生じさせる。これにより、部品の耐摩耗性が高まる。切削加工工程は、次の条件で行う。
切削工具のすくい角α:−30°<α≦−5°
すくい角αが−5°よりも大きければ、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が十分に発生しない。そのため、部品の耐摩耗性が低下する。一方、αが−30°以下であれば、切削抵抗が大きくなりすぎる。この場合、工具摩耗が増大し、場合によっては工具が欠損する。従って、αは、例えば−30°<α≦−5°とすることができる。より好ましいαの範囲は−25°以上−15°以下である。
工具のノーズr:0.4〜1.2mm
工具のノーズrが小さければ表面粗さが大きくなり、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。表面粗さが大きくなった場合には、仕上げ研磨を実施して、表面粗さを小さくしなければならない。一方、rが大きければ、切削抵抗が大きくなるため、工具摩耗が増大する。従って、rは、例えば0.4〜1.2mmとすることができる。
送りf:0.1超〜0.4mm/rev
送りfが小さければ、切削抵抗、つまり、工具が被削材に押し付けられる力が小さくなり、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、送りが大きければ、切削抵抗が大きくなって工具摩耗が大きくなる。そのため、部品の耐摩耗性が低下する。従って、fは、例えば0.1超〜0.4mm/revとすることができる。fの好ましい下限は0.2mm/revである。
切削速度v:50〜150m/分
切削速度vが大きければ、切削温度が上昇し、凝着摩耗が発生して工具摩耗が増大する。さらに、発熱によってオーステナイトの加工誘起変態が抑制され、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、vが小さければ、切削能率が低下する。従って、切削速度vは、例えば50〜150m/分とすることができる。
切り込みd:0.05〜0.2mm
切り込みdが小さければ、切削抵抗が小さくなるため、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、切り込みdが大きければ、切削抵抗が大きくなり、工具摩耗が大きくなる。従って、dは、例えば0.05〜0.2mmとすることができる。dの好ましい下限は0.08mmであり、好ましい上限は0.15mmである。
以上に示す浸炭機械構造部品の製造方法では、特に、浸炭焼入れ工程及び切削加工工程における上述した諸条件設定により、化学組成と、金属組織と、表面の算術平均粗さと、について改良を加えられた浸炭機械構造部品が得られる。従って、当該製造方法により得られた浸炭機械構造部品は、耐摩耗性、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度、被削性を、すべて高いレベルで発現することができる。
真空炉を用いて、表1に示す化学組成を有する150kgの鋼片A〜Sを得た。
各鋼種の溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを得た。各インゴットを1250℃で4時間加熱した後、熱間鍛造を行って直径35mmの丸棒を得た。熱間鍛造時の仕上げ温度は1000℃であった。
各丸棒に対して焼準処理を行った。焼準処理温度は925℃であり、焼準処理時間は2時間であった。焼準処理後、丸棒を室温(25℃)まで放冷した。
放冷後の丸棒に対して機械加工を実施して、図2に示す摩耗試験片21及び図3に示す回転曲げ疲労試験片31の元となる粗加工品を製造した。浸炭機械構造部品に相当する摩耗試験片21の横断面は円形であり、円柱状の試験部22と、試験部22の両端に配置された円柱状の一対のつかみ部23とを備えている。図2に示すとおり、試験部22の外径は26mm、試験部22の長さは28mmであり、摩耗試験片21の全体長さは130mmであった。曲げ疲労試験片31の横断面は円形であり、中央部に曲率半径1mmのノッチがある。また、放冷後の丸棒に対して機械加工を施して、直径30mm、長さ300mmの棒状の被削性試験片(図示せず)を製造した。
摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31の粗加工品、並びに上記被削性試験片に対して、表2に示す条件a〜kに基づいて、浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施した。浸炭焼入れにはガス浸炭炉を利用した。焼戻し後、熱処理歪みを取り除く目的で、つかみ部23の仕上げ加工を実施した。表2に示す、Cp1、Cp2、T1、T2、T3、t1、t2、t3は、それぞれ、上述したカーボンポテンシャル、温度、時間である。
浸炭焼入れ及び焼戻し後の浸炭品(摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31の粗加工品、並びに上記被削性試験片)は、切削加工前に、後述する方法で、残留オーステナイトの体積率の測定、組織観察試験及びビッカース硬さ試験を行った。
浸炭品となった摩耗試験片21の試験部22及び曲げ疲労試験片31のノッチに対して、表3に示す条件で切削加工を施して、部品相当の摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31を得た。但し、曲げ疲労試験片31に対しては、工具のノーズrは0.4mmに固定した。切削加工は、1パス、すなわち表3に示す切り込み量を1回だけ適用した。
切削工具には、cBN粒子を主成分とし、セラミックスを結合材とした焼結材の表面に、TiAlNベースのセラミックコーティングを施したcBN焼結工具を利用した。
そして、上記の切削加工を施した後、摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31を作成した。摩耗試験片21については、#2000のエメリー紙を用いて仕上げ研磨を実施した。仕上げ研磨後の各試験番号の摩耗試験片21及び切削加工後の曲げ疲労試験片31の表面の算術平均粗さRaは0.8μm以下であった。
[残留オーステナイトの体積率(RF)の測定]
部品相当の試験片(摩耗試験片21)表面に対して、電解研磨を施した。具体的には、試験片表面に穴の直径3mmのマスキングを施し、11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液中において、試験片を陽極として、20Vの電圧で電解研磨を施し、表面から20μm深さの位置の表面(以下、観察面という)を露出させた。
観察面に対して、上述の方法でX線回折を実施し、表面から20μm位置の残留オーステナイトの体積率(R2)を求めた。
観察面に対して、同様の方法で電解研磨を実施し、穴の深さを10μm深くして30μmとし、その表面に対して上述の方法でX線回折を実施し、表面から30μm位置の残留オーステナイトの体積率を求めた。この過程を繰り返すことで、10μmずつ穴を深くし、その都度残留オーステナイトの体積率(R2)を測定することを、穴の深さが200μmとなるまで繰り返した。そしてその中で得られた最大の残留オーステナイト体積率をR1とした。
[組織観察試験]
部品相当の試験片において、残留オーステナイト以外の他の組織の体積率を、上述した方法で測定した。
[二円筒摩耗試験(RP試験)]
図2に示す摩耗試験片2を用いて、図4に示す二円筒摩耗試験(RP試験)を行った。図4は、RP試験方法を示す正面図である。図4に示すとおり、RP試験において、摩耗試験片21と大ローラ試験片41とを準備した。大ローラ試験片41は円板状であり、直径が130mm、円周面の幅が18mm、円周面のクラウニング曲率半径が700mmであった。大ローラ試験片は、JIS規格SCM882に相当する化学組成を有し、浸炭焼入れ処理がなされていた。大ローラ試験片41の円周面を摩耗試験片21の表面に接触させ、表4に示す条件でRP試験を実施した。
試験後、摩耗試験片21の表面のうち、大ローラ試験片41と接触した部分の摩耗深さを測定した。摩耗深さの測定には、触針式の表面粗さ計を用いた。測定長さは26mmとして、摩耗試験片21の軸方向に触針を走査して、断面曲線を得た。各試験片において、円周方向に90°刻みの4箇所で、断面曲線を測定した。得られた断面曲線から、大ローラ試験片41が接触していない部分と、大ローラ試験片41が接触して最も摩耗した部分との高さの差を測定した。測定された高さの差の4箇所の平均値を、各試験番号の摩耗試験片21の摩耗深さ(RP摩耗量:単位はμm)と定義した。
[回転曲げ疲労試験]
図3に示す疲労試験片31を用いて、試験荷重を50MPaピッチで変化させて小野式回転曲げ疲労試験を行い、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を求めた。
なお、繰り返し数10回に達する前に破断した応力の最小値(σf,min)と、(σf,min)より低い応力で最大の未破断点の応力(σr,max)の中間点(疲労限度)を求め、曲げ疲労強度とした。また、種々の荷重条件で試験片が破断するまで回転曲げ疲労試験を行い、繰り返し数1×104回での時間強度を算出し、低サイクル曲げ疲労強度とした。
[工具摩耗測定]
切削工具の工具摩耗を逃げ面摩耗量(μm)によって評価した。方法は以下の通りである。即ち、浸炭焼入れ及び焼戻し後の被削性試験片(浸炭品相当)を、表3に示す粗加工品と同じ切削条件で、1本あたり1パスの切削加工を行った。複数の試験片について切削加工を繰り返し、合計の切削時間が5分となるまで切削加工した後に、切削工具の逃げ面摩耗幅を測定した。逃げ面摩耗幅の測定には、マイクロスコープを用いた。工具逃げ面が測定物台と平行になるように工具を設置し、倍率200倍で摩耗部を観察した。この時の、摩耗部中心付近で摩耗が最大となる部分の切れ刃から摩耗先端部までの距離を測定し、逃げ面摩耗量とした。本測定においては、逃げ面摩耗量が40μm以下の場合が、従来技術に対して切削加工時の工具摩耗を抑制することができるという点で合格である。
[試験結果]
以上に説明した各試験等に関する結果を表5、表6に示す。
表5及び表6から明らかなように、所定の製造方法によって得られた浸炭機械加工部品であって本願所定の条件を満たす(即ち、浸炭機械構造部品の化学組成と、金属組織と、表面の算術平均粗さと、について改良を加えている)試験番号1〜9、20〜23、30については、耐摩耗性、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度、被削性を、すべて高いレベルで発現することができている、ことが判る。
これに対し、表5及び表6から明らかなように、所定の製造方法によって得られていない浸炭機械加工部品であって本願所定の条件を満たさない(即ち、浸炭機械構造部品の化学組成と、金属組織と、表面の算術平均粗さと、の少なくともいずれかについて改良を加えていない)試験番号10〜19、24〜29、31〜39については、耐摩耗性、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度、被削性、の少なくともいずれかについて、優れた結果が得られていないことが判る。
11 塑性流動組織
12 中心部
21 摩耗試験片
22 試験部
23 つかみ部
31 曲げ疲労試験片
41 大ローラ

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.10〜0.30%、Si:0.01〜0.25%、Mn:0.4〜0.9%、S:0.003〜0.050%、Cr:1.65〜2.00%、Al:0.01〜0.06%、Nb:0.01〜0.06%、及びN:0.010〜0.025%を含有するとともに、残部:Fe及び不可避的不純物を含み、
    下記の(1)式で表されるFn1が、−35≦Fn1≦−30を満たし、
    不純物としてのP及びOの含有量が、それぞれ、P:0.020%以下、及びO:0.002%以下であり、
    表層部のC含有量(Cs)が、0.65〜1.0%であり、
    表面から20μmの深さの組織が、マルテンサイト及び残留オーステナイトの合計で97%以上であり、
    表面から200μm深さの範囲での最大残留オーステナイト体積率が13〜28%であり、
    表面から20μmの深さ位置での残留オーステナイト体積率と、表面から200μmの範囲で最大残留オーステナイト体積率との、比が0.8以下であり、
    表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、
    表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である、
    ことを特徴とする浸炭機械構造部品。
    Fn1=38×Si−7×Mn+7×Ni−17×Cr−10×Mo ・・・(1)
    但し、(1)式中の元素記号には、その元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 質量%で、Pb:0.5%、Cu:0.05〜0.3%、Ni:0.05〜0.3%、及びMo:0.05〜0.15%から選択される1種以上を含有する、請求項1に記載の浸炭機械構造部品。
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