JP7410391B2 - 機械構造用鋼、機械構造部品およびその製造方法 - Google Patents

機械構造用鋼、機械構造部品およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、被削性に優れた機械構造用鋼、機械構造部品とその製造方法に関する。
自動車や産業機械に使用される機械構造部品には、表面硬化処理の一種である浸炭焼入れ焼戻しが施されるものがある。
浸炭焼入れ焼戻しを施す機械構造部品の製造方法としては、例えば次の方法が挙げられる。即ち、初めに、最終製品に近い形状の粗部材を製造する。製造された粗部材に対して、浸炭焼入れ焼戻しを施して、機械構造部品用素形材を得る。さらに、機械構造部品用素形材に対して仕上げ加工(切削または研削)を施し、機械構造部品を得る。
通常、機械構造部品には、優れた疲労強度が要求される。疲労強度を高める技術は、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1には、浸炭焼入れ焼戻しを施して得た機械構造部品用素形材に対して特定の条件で切削加工仕上げをすることで耐摩耗性および曲げ疲労強度を高めることができる、とされている。
しかし、浸炭焼入れ焼戻しを施して得た機械構造部品用素形材に対して切削加工を実施する場合には、高価なCBN工具を用いることが一般的であり、莫大な工具コストが発生する。
即ち、浸炭焼入れ焼戻しを施して得た機械構造部品用素形材は、工具寿命を延長し、工具コストを低減することが喫緊の課題であり、優れた被削性が要求される。
従来から、Pbを含有すれば、被削性が高まることは知られている。しかしながら、Pbは環境負荷物質であることから、Pb含有量を極力削減し被削性を改善する技術が求められている。
一方、被削性を改善する技術として、Inに着目した発明はこれまでにいくつかなされている。例えば特許文献2および3にはInを微量から多量までの広い範囲で含有することで、高速度鋼 (high-speed steel)からなる工具(以下、「ハイス工具」と略称する)を用いて40~50m/分で穴あけした時の工具寿命が改善することが開示されている。また、特許文献4にはInを比較的少ない範囲で含有し、ハイス工具で10~40m/分で旋削した時の切りくず処理性が改善することが開示されている。さらに特許文献5でも、比較的多量のIn含有により、ハイス工具を用いた20m/分での切りくず処理性が改善することが開示されている。
特開2017-082310号公報 特開昭62-20853号公報 特開昭62-33743号公報 特開平7-54099号公報 特開2001-131684号公報
しかしながら、前述した従来の技術には、いくつかの問題点がある。
特許文献1は、Si含有量を低減することで被削性を改善できるとしているが、Siは面疲労強度を向上させる効果があり、Si含有量を低減せずとも被削性を改善できることが望ましい。
また、Inは一般に高価な元素であるため、含有コストに見合うだけの大きな被削性改善効果が求められる。特許文献2、3および5はInを単純に含有しているのみであり、十分な効果が得られているとは言い難い。特許文献4はInを含有するのみならず、その含有効果を高める技術を提案しているが、この技術の適用はそもそもIn含有量が少ない範囲に限られているため、被削性を確保する観点から不十分である。
また、特許文献2、3、4および5は、いずれもハイス工具を用いた比較的低切削速度域での効果を開示しているのみである。一方浸炭焼入れ焼戻し後の機械構造部品用素形材は硬質であるため、切削加工する際にはCBN工具を用いることが多い。従って、これらの特許文献2~5に記載の技術では、CBN工具を用いて浸炭焼入れ焼戻し後の機械構造部品用素形材を切削する際に被削性改善効果が得られるとは限らない。さらに、Inは低融点金属であるため、熱間延性を低下させて連続鋳造、熱間圧延や熱間鍛造時の製造性を低下させる恐れがあるが、この点を解決する技術は提案されていない。
本発明は、上述した問題点に鑑みて創案されたものであり、その目的は、浸炭焼入れ焼戻し後の機械構造部品用素形材の切削に焦点を当て、Inを含有することにより被削性を改善するだけでなく、面疲労強度および熱間延性を担保することを課題とし、そのような機械構造用鋼、機械構造部品とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するため、まずInが被削性を改善する機構を調査した。Inは含有量が少ないと鋼中に固溶し、含有量を増やしていくと固溶Inに加えて、析出してIn介在物としても存在するようになる。固溶Inは鋼材自体を脆化させることにより、またIn介在物は切削時にき裂発生の起点となり、さらに工具上で潤滑効果を与えることで被削性改善に寄与するものと考えられる。
Inを含有した鋼材を浸炭焼入れ焼戻し後に切削試験することにより、固溶InとIn介在物のそれぞれが被削性に及ぼす影響を調査した。その結果、浸炭焼入れ焼戻し後の切削ではIn介在物を増やす方が効率的に被削性を改善できることがわかった。
一般に鋼の切削加工は工具により被削材の一部を切りくずとして破断分離する加工であるため、被削材が脆化すると被削性は良好となると考えられる。一方、被削材の硬度が大きくなると、切削発熱が大きくなり、被削材から分離された切りくずは高温となるため、切削加工中の切りくずの延性は向上する。
固溶Inを増加して被削材を脆化させても、浸炭焼入れ焼戻し後の切削では、切削発熱により切りくずは比較的十分な延性を有すると考えられる。即ち、浸炭焼入れ焼戻し後の切削では、切削発熱により被削材が高温となって工具近傍での延性が向上するため、固溶Inによる脆化の効果が相殺されると考えられる。このため、浸炭焼入れ焼戻し後の鋼材の切削では固溶InよりもIn介在物を増やす方が有効になる。
鋼中のIn介在物を詳細に観察したところ、Al等の酸化物の周辺部に存在することが認められた。この結果に基づき、同じIn含有量でIn介在物を増やすには、Al等の酸化物を疲労強度等の機械的性質にあまり影響しない範囲で多くすることが重要であることを知見した。
被削性改善効果を得るには、同時にIn含有量自体もなるべく多くすれば良いと考えられる。しかし、Inは、熱間延性を低下させ、鋼製造時の鋳造や熱間圧延、部品製造時の熱間鍛造時の製造性を低下させるという技術的な課題が存在する。
そこで、本発明者らは種々の化学成分を有する鋼材の熱間延性を詳細に調査分析した結果、熱間延性はIn単独の含有量よりもむしろ、SとInを足し合わせた量と良い相関関係があることを見出した。つまり、S量に応じて、含有可能なIn量が変化することを知見した。
以上のように、In含有による被削性改善機構を理解した上で、Alを適正量確保するため、鋼材成分、特にinsol.Al含有量およびO含有量を適正化して浸炭焼入れ焼戻し後の切削で優れた被削性を確保すること、並びに、必要な熱間延性を確保するために硫黄(S)とInの合計含有量を適正な範囲に制限することが重要であることを見出した。
さらに、SiとInの含有によって工具との反応を抑制して被削性を改善し、工具摩耗を低減することができることも知見した。この効果を十分に得るには、Si含有量に対In含有量の比を式2に示す範囲に制限するとよいことを見出した。
これらに加え、各成分が切削加工後の疲労特性に影響するオーステナイトの安定度を評価する指標と、各成分が浸炭焼入れおよび焼戻し後の焼戻し軟化抵抗に影響する程度を評価する指標を導入し、これらの指標を一定範囲内に制御するとよいことも見出した。
本発明は、これらの知見を組み合わせることで成したものであり、その要旨とするところは、次のとおりである。
(1)
成分が、質量%で、
C:0.05~0.35%、
Si:0.25~1.00%、
Mn:0.01~1.50%、
Cr:0.01~3.00%、
P:0.100%以下、
S:0.001~0.150%、
In:0.038~0.230%、
Al:0.002~0.050%、
N:0.0030~0.0250%、
O:0.0009~0.0050%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
insol.Al:0.0011~0.0060%であり、かつ下記(式1)~(式4)を満たすことを特徴とする機械構造用鋼。
[S]+[In]≦0.230 ・・・(式1)
[In]/[Si]≧0.15 ・・・(式2)
11.3≦-0.1×[Si]+15.2×[Mn]+7.0×[Cr]≦24.0 ・・・(式3)
31×[Si]+15×[Mn]+23×[Cr]≧50.0 ・・・(式4)
ここで、[In]、[Si]、[S]、[Mn]および[Cr]は、それぞれIn、Si、S、MnおよびCrの鋼中の含有量(質量%)を表す(以下、同じ。)。
(2)
成分が、さらに、質量%で、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下、および、
REM:0.0050%以下
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の機械構造用鋼。
(3)
成分が、さらに、質量%で、
Ti:1.000%以下、
Nb:1.000%以下、および、
V:1.000%以下
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)または(2)に記載の機械構造用鋼。
(4)
成分が、さらに、質量%で、
Mo:1.00%以下、
Ni:1.40%以下、
Cu:1.40%以下、および、
B:0.0050%以下
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)~(3)のいずれか1つに記載の機械構造用鋼。
(5)
成分が、さらに、質量%で、
Sn:0.5000%以下、
Sb:0.5000%以下、
Se:0.5000%以下、
Te:0.5000%以下、
Zn:0.5000%以下、
Bi:0.500%以下、および
Pb:0.09%以下
からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)~(4)のいずれか1つに記載の機械構造用鋼。
(6)
表面から厚さ方向に2.00mm以上の深さにおいて前記(1)~(5)のいずれか1つに記載の成分であり、表面から厚さ方向に50μm深さ位置での300℃焼戻し硬さが650HV以上であり、表面から厚さ方向に200μm深さまでの範囲で厚さ方向に10μm間隔における残留オーステナイト体積率の最大値が12.0~25.0%であることを特徴とする機械構造部品。
(7)
前記(6)に記載の機械構造部品の製造方法であって、前記(1)~(5)のいずれか1つに記載の成分を有する鋼材を加工して粗部材を製造する工程、前記粗部材を浸炭焼入れする工程、前記浸炭焼入れした粗部材を焼戻しする工程、前記焼戻した粗部材に表面から板厚方向に0.05~0.40mmの深さを切削加工する切削加工工程を有することを特徴とする機械構造部品の製造方法。
本発明によれば、被削性と熱間延性を両立した機械構造用鋼、機械構造部品とその製造方法を得ることができる。
本実施形態に係る機械構造用鋼および機械構造部品について説明する。まず、機械構造用鋼(以下、単に鋼とも称する。)の成分を限定する理由について説明する。機械構造用鋼の成分は、浸炭焼入れ後の機械構造部品の芯部の成分に相当する。なお機械構造部品の芯部とは、浸炭焼入れの前後において炭素濃度が変化しない領域を意味し、より具体的には例えば機械構造部品の表面から板厚方向に2.0mm以上の深さ部分が該当する。以下の説明において、各元素の含有量についての「%」は、特に断りのない限り「質量%」を意味する。
C:0.05~0.35%
Cは、鋼の強度を確保するために含有させる元素である。Cの含有量が0.05%未満では、浸炭焼入れ焼戻し後の硬化層深さが低下し、機械構造部品の疲労強度が得られない。このため、C含有量は、0.05%以上とする。一方、C含有量が0.35%より多いと、粗部材製造時の切削加工や冷間鍛造における加工性を低下させる恐れがある。このため、C含有量は、0.35%以下とする。C含有量の好ましい下限は0.10%であり、好ましい上限は0.30%である。
Si:0.25~1.00%
Siは、一般に脱酸元素として含有されているが、フェライトの強化および焼戻し軟化抵抗を付与する効果があり、機械構造部品に必要な面疲労強度を向上させる効果がある。しかしながら、Si含有量が0.25%未満の場合、十分な面疲労強度の向上の効果が得られない。一方、Si含有量が1.00%を超えると、浸炭焼入れ焼戻し後の切削加工時に、工具と反応して凝着摩耗を引き起こす。そのため、Siは工具摩耗を増大させる。よって、Si含有量は0.25~1.00%とする。好ましいSi含有量の好ましい下限は0.40%であり、好ましい上限は0.80%である。
Mn:0.01~1.50%
Mnは、鋼中の硫黄(S)をMnSとして固定・分散させると共に、マトリックスに固溶して焼入れ性の向上や焼入れ後の強度を確保するために必要な元素である。しかしながら、Mn含有量が0.01%未満であると、鋼中のSがFeと結合してFeSとなり、鋼が脆くなる。一方、Mn含有量が増えると、具体的には、Mn含有量が1.50%を超えると、焼入れ性が高くなりすぎて粗部材の硬さの大幅な増大を招き、粗部材の切削加工時の被削性が低下する。よって、Mn含有量は0.01~1.50%とする。Mn含有量の好ましい下限は0.10%でありさらに好ましくは0.20%である。Mn含有量の好ましい上限は1.30%でありさらに好ましくは1.20%である。
Cr:0.01~3.00%
Crは、鋼の固溶強化元素であり、また部品を焼入れ、焼戻しして使用する場合には、焼入れ性を向上すると共に、焼戻し軟化抵抗を付与して焼入れ後の疲労強度を向上させる。Cr含有量が0.01%未満だと、これらの効果が得られない。一方、Cr含有量が3.00%を超えると、Cr炭化物が生成して鋼が脆化する。よって、Cr量を0.01~3.00%とする。Cr含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cr含有量の好ましい上限は2.00%でありさらに好ましくは1.30%である。
P:0.100%
Pは不純物である。Pはオーステナイト粒界に偏析して、熱間加工時に粒界割れの原因となるので、P量を0.100%以下にする。Pはできるだけ低減することが望ましいので、好ましくは0.030%以下にするとよい。P含有量の下限は特に限定しないが、P量を0.001%未満に制限するには過剰なコストがかかる。従って、P含有量の範囲は0.001%以上であってもよい。
S:0.001~0.150%
SはMnと結合してMnSを形成する。MnSは被削性を向上させる効果があるが、その効果を得るためには、Sを0.001%以上含有させる必要がある。一方、S含有量が0.150%を超えると、靭性や疲労強度を顕著に低下させる。よって、S含有量を0.001~0.150%とする。S含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.010%である。S含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.030%である。
In:0.038~0.230%
Inは被削性を向上させる効果があるが、In含有量が0.230%を超えると、800℃以上における延性が低下し、連続鋳造、圧延などの歩留まり低下や部品製造の鍛造時の製造性の低下の原因になる。このためにIn量を0.230%以下とするとよい。
一方、Inは、それ単体で被削性を向上させる効果があるため、少しでもInを含有させるとよい。後述するInとSiの関係(式2)からInは0.038%以上であるとよい。In含有による被削性改善効果を確実に得るため、In含有量の下限は、0.039%、0.040%、0.041%、0.042%、0.044%、0.046%、0.048%、0.050%、0.052%、0.054%、0.0056%、0.058%、0.060%の値を取り得る。一方、In含有量の上限は、熱間延性を確保することとコスト低減の観点から、0.220%、0.210%、0.200%、0.190%、0.180%、0.170%、0.160%、0.150%、0.140%、0.130%、0.120%、0.110%、0.100%、0.090%、0.080%の値を取り得る。
Al:0.002~0.050%
Alは、Nと結合してAlNを形成し、オーステナイト領域での結晶粒粗大化を抑制する作用がある。この効果を得るためには、Alの含有量を0.002%以上とする必要がある。しかしながら、Alを過剰に含有すると、粗大な酸化物として残存しやすくなり、強度特性が低下する。従って、Al量の範囲は0.002~0.050%である。Al量の好ましい上限は0.040%でありさらに好ましくは0.030%である。Al量の好ましい下限は0.010%でありさらに好ましくは0.020%である。なお、ここでいうAl量とは全Al量を意味する。
insol.Al:0.0011~0.0060%
Inの形態を制御するため、鋼に含有されるAlを、Alとして鋼中に分散させるとよい。酸不溶性Alであるinsol.Alは、Alとして存在するAlの量とみなされ、その量が測定される。所定サイズのInを十分確保する上では、insol.Alを0.0011%以上とするとよい。insol.Alの下限は、0.0012%、0.0015%、0018%、0.0020、0.0025%、0.0030%の値を取り得る。
また、insol.Alが多い場合は粗大な酸化物が残存しやすくなり、疲労特性が低下することが懸念される。このため、insol.Alは0.0060%以下にするとよい。insol.Alの上限は、0.0058%、0.0055%、0052%、0.0050、0.0048%、0.0045%の値を取り得る。
insol.Alは酸不溶性残さをICP(誘導結合プラズマ)分析することにより測定する。本実施の形態では、採取した試料を王水で分解した後、溶液をろ紙(5種C)を用いてろ過することで得られる。抽出された残さを融解合剤を用いて加熱融解した後、融解物を冷却して固体化する。次に、前記固体化した融解物を硝酸等を用いて溶解し、ICP(誘導結合プラズマ)分析により測定する。なお、使用する試薬や試料調整はJIS G 1257:2013 鉄および鋼-原子吸光分析方法を参考にしても良い。
N:0.0030~0.0250%
N(窒素)は鋼中でAlやVなどと結合して炭窒化物を形成し、オーステナイト結晶粒界をピンニングすることによって粒成長を抑制し、オーステナイトから変態する組織を微細化する働きがあり、この効果を得るには0.0030%以上含有させるとよい。一方、Nが0.0250%を超えて過剰に含有すると1000℃以上の高温域における延性が低下し、連続鋳造、圧延時の歩留まり低下の原因になる。このため、N量を0.0250%以下とする必要がある。N含有量の好ましい下限は0.0050%でありさらに好ましくは0.0080%である。N含有量の好ましい上限は0.0200%でありさらに好ましくは0.0180%である。
O:0.0009~0.0050%
O(酸素)は酸化物系介在物を形成し、酸化物上に析出するIn介在物を増やすことを通じて被削性を向上させる。この効果を得るには、O含有量を0.0009%以上にするとよい。一方、Oの含有量が多い場合は粗大な酸化物として残存しやすくなり、強度特性が低下する。このためO含有量を0.0009%~0.0050%とするとよい。O含有量の好ましい下限は0.0010%でありさらに好ましくは0.0020%である。O含有量の好ましい上限は0.0045%でありさらに好ましくは0.0040%である。
[S]+[In]≦0.230 ・・・(式1)
SとInは共に被削性を改善する元素であるが、含有量が増えると高温域における延性が顕著に低下するため、連続鋳造、熱間圧延などの歩留まり低下や部品製造の熱間鍛造時の製造性の低下の原因になる。よってSとInの含有量(質量%)の和を0.230%以下に制限するとよい。SとInの含有量の和の上限は、好ましくは0.225、0.220、0.210、0.215、0.200、0.195、0.190、0.185、0.180、0.175、0.170、0.165、0.160、0.155、0.150の値を取り得る。 なお、ここで[S]、「In」は、それぞれSとInの含有量(質量%)を示す。
[In]/[Si]≧0.15 ・・・(式2)
Siは浸炭焼入れ焼戻し後の切削加工時に、工具と反応して凝着摩耗を引き起こすが、Inの含有によって工具との反応を抑制して被削性を改善し、工具摩耗を低減することができる。この効果を十分に得るには、Si含有量に対して、所定量以上のInを含有するとよいる。具体的にはInとSiの含有量の比である[In]/[Si]が0.15以上にするとよい。InとSiの比[In]/[Si]の下限は、0.17、0.19、0.21、0.23、0.25、0.27、0.30、0.33、0.37、0.40、0.43、0.47、0.50の値を取り得る。
なお、ここで[Si]、「In」は、それぞれSiとInの含有量(質量%)を示す。
11.3≦-0.1×[Si]+15.2×[Mn]+7.0×[Cr]≦24.0 ・・・(式3)
ここで、便宜上、F3=-0.1×[Si]+15.2×[Mn]+7.0×[Cr]と定義する。F3はオーステナイトの安定度を表すパラメータである。F3が低すぎれば部品の疲労強度が低くなる。一方、F3が高すぎれば、浸炭焼入れおよび焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となってしまい、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、部品の疲労強度が低下する。従って、F3は11.3以上24.0以下にするとよい。F3の下限は、11.5、11.7、11.9、12.0、12.5、13.0、13.5、14.0、14.5、15.0の値を取り得る。F3の上限は、23.5、23.0、22.5、22.0、21.5、21.0、20.5、20.0の値を取り得る。
ここで、[Si]、[Mn]、[Cr]は、それぞれSi、Mn、Crの含有量(質量%)を示す(以下同様。)。
31×[Si]+15×[Mn]+23×[Cr]≧50.0 ・・・(式4)
ここで、便宜上、F4=31×[Si]+15×[Mn]+23×[Cr]と定義する。F4は[Si]、[Mn]および[Cr]が、浸炭焼入れおよび焼戻し後の焼戻し軟化抵抗に影響する程度を、各元素の影響度に重みを付けて相加的に評価する指標である。ここでいう焼戻し軟化抵抗とは浸炭焼入れ、焼戻しおよび切削後に300℃で焼戻した後の表面の硬さを意味する。F4を50.0以上とすることで、部品の300℃焼戻し硬さが増加し、面疲労強度を高めることができる。F4の下限は、52.5、55.0、57.5、60.0、62.5、65.0、67.5、70.0、72.5、75.0、77.5、80.082.5、85.0、87.5、90.0、92.5、95.0、97.5、100.0の値を取り得る。
上記の基本成分に加え、以下に示す元素からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有させると特性向上に効果的である。
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、
Zr:0.0050%以下、および、
REM:0.0050%以下の1種または2種以上
Ca、Mg、Zr、およびREM(希土類元素)は、いずれも脱酸元素であり、鋼中で酸化物を生成し、鋼中のMnSの形態を制御して機械特性の向上に寄与する元素である。これらの効果を得るためには、本発明の特性を損なわない範囲で、Ca、Mg、Zr、およびREMを含有させてもよい。いずれの元素も好ましくは0.0001%以上、0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上含有するとよい。一方、Ca、Mg、ZrおよびREMが0.0050%を超えて含有させると、酸化物が粗大化し、疲労強度が低下する。従って、Ca、Mg、ZrおよびREMは0.0050%以下とし、好ましくは0.0020%以下とするとよい。
なお、REMは希土類金属元素を示し、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuから選択される1種以上である。前記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
Ti:1.000%以下、
Nb:1.000%以下、
V:1.000%以下の1種または2種以上
Ti、NbおよびVは、Cおよび/またはNと微細な炭化物、窒化物、および/または炭窒化物を形成して、オーステナイト温度域加熱時の結晶粒成長および異常粒成長を抑制して、組織の微細均質化に寄与し、衝撃特性を改善する。この効果を得るために、Ti、NbおよびVは、1種または2種以上を含有させてもよい。いずれの元素も好ましくは0.005%以上、0.010%以上、より好ましくは0.020%以上含有するとよい。一方、Ti、NbおよびVが1.000%を超えて含有されると、硬質の炭化物が生成して被削性が低下する。従って、Ti、NbおよびVの含有量は、それぞれ1.000%以下とする。Ti、Nbのいずれの元素も、好ましい含有量は0.200%以下、より好ましくは0.150%以下、さらに好ましくは0.040%以下である。Vは、好ましくは0.500%以下、より好ましくは0.320%以下である。
Mo:1.00%以下、
Ni:1.40%以下、
Cu:1.40%以下、および
B:0.0050%以下の1種または2種以上
Mo、Ni、CuおよびBは、いずれも、焼入れ性向上元素である。この効果を得るためには、本発明の鋼の優れた特性を損なわない範囲で含有してもよい。含有する場合、Mo、Ni、Cuは、それぞれ好ましくは0.01%以上、0.05%以上、より好ましくは0.10%以上含有するとよい。Bは、好ましくは0.0003%以上、0.0007%以上、より好ましくは0.0010%以上含有するとよい。一方、Moが1.00%を超えると、焼入れ性が高くなりすぎて粗部材の硬さの大幅な増大を招き、粗部材の切削や鍛造時の加工性が低下する。このため、Mo含有量は1.00%以下とし、好ましくは0.30%以下とする。NiとCuがいずれも1.40%を超えると、やはり、Moと同様に、焼入れ性が高くなりすぎて、粗部材の硬さの大幅な増大を招き、加工性が低下する。このため、NiとCuの含有量の上限は、いずれも1.40%以下とし、好ましくは1.00%以下とする。Bは0.0050%を超えて含有しても効果が飽和する。従ってBを含有する場合、B量を0.0050%以下とし、好ましくは0.0025%以下とする。
Sn:0.5000%以下、
Sb:0.5000%以下、
Se:0.5000%以下、
Te:0.5000%以下、
Zn:0.5000%以下、
Bi:0.500%以下、および
Pb:0.09%以下の1種または2種以上
Sn、Sb、Se、Te、ZnおよびBiは、被削性向上元素である。この効果を得るためには、本発明鋼の優れた特性を損なわない範囲でおよび含有してもよい。含有する場合、Sn、Sb、Se、Te、Znは、それぞれ好ましくは0.0003%以上、0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上含有するとよい。Biは、好ましくは0.001%以上、0.005%以上、より好ましくは0.010%以上含有するとよい。一方、Sn、Sb、Se、TeおよびZnが0.5000%を超え、Biが0.500%を超えると、熱間脆性が発現し、疵の原因となったり、圧延が困難になったりするので、Sn、Sb、Se、TeおよびZnは0.5000%以下、Biは0.500%以下とする。Sn、Sb、SeおよびTeは0.2000%以下が好ましい。Biは0.200%以下が好ましい。Pbも被削性を改善する元素であるが、環境負荷物質であるため、極力含有させないことが好まく、含有する場合は0.09%以下とする。
上記の成分組成の他、残部はFeおよび不純物である。なお、原料、資材、製造設備等の状況によっては、不純物(例えばAs、Co等)が鋼中に混入するが、本発明の優れた特性を阻害しない範囲であれば許容される。
[製造方法]
[粗部材を製造する工程]
本発明に係る機械構造部品の製造方法の一例を説明する。例えば、上記した成分組成を有する溶鋼を、転炉等で溶製し、連続鋳造法等でスラブ等とし、それを加熱し、熱間圧延または熱間鍛造等で鋼素材を得ることができる。さらに、鋼素材を熱間加工、あるいは冷間加工などを施して所望の部品形状にすることによって、機械構造部品の粗部材を製造することができる。
続いて、得られた粗部材に浸炭焼入れ焼戻しを施して製造することができる。
[浸炭焼入れする工程]
浸炭焼入れはガス浸炭焼入れ、真空浸炭焼入れ等で実施できるが、真空浸炭焼入れが好ましい。浸炭は、拡散現象を利用する処理であり、浸炭温度が850℃より低い場合、部品中に十分なCを拡散させるために長時間の加熱処理を行うことが必要となる。一方、浸炭温度が1100℃よりも高い場合、著しい粗粒化や混粒化を招くことになる場合がある。そのため、浸炭は850~1100℃の温度域で行うのが好ましい。より好ましくは、900以上にするとよく、1050℃以下にするとよい。
前記粗部材表面に炭素を導入する浸炭時間と、ガスの供給を停止し、前記粗部材表面の炭素をその内部へ拡散させる拡散時間の和である処理時間は10~500分とすることができる。処理時間が10分より短い場合、前記粗部材表面および内部に十分な炭素が供給されず、目標の表面硬さおよび有効硬化層深さを得ることが出来ない場合がある。一方、処理時間が500分より長い場合、前記粗部材表面の炭素濃度が過剰となることで、粗大な炭化物が生成し、これが疲労破壊の起点となる場合がある。そのため、浸炭時間と拡散時間の和である処理時間は10~500分とするのが好ましい。なお真空浸炭に使用するガス種および流量は特に限定されるものではないが、例えばアセチレン、プロパン、エチレン等の炭化水素ガスを用い、流量は5~10L/分で行うことができる。
真空浸炭処理では、はじめに、例えば10Pa以下に減圧した炉内で前記粗部材を所定の浸炭温度まで加熱を行う。次に、浸炭温度で前記粗部材を均熱する均熱工程を行う。均熱工程における炉内の圧力は、100Pa以下であってもよいし、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気を同時に行って、1000Pa以下の窒素雰囲気としてもよい。続いて、炉内に浸炭ガスを導入し、所定の浸炭ガス圧および浸炭温度で前記粗部材を浸炭処理する浸炭工程を行う。浸炭工程における浸炭ガス圧は、高すぎれば炉内に煤が発生しやすくなる。従って、浸炭ガス圧Psは10000Pa以下である。好ましい浸炭ガス圧は1000Pa以下である。その後、浸炭温度を維持した状態で前記粗部材に侵入した炭素を前記粗部材中に拡散させる拡散工程を行う。拡散工程における炉内の圧力は、浸炭工程における残留ガスを取り除くため、100Pa以下であってもよいし、窒素ガスの導入と真空ポンプによる真空排気を同時に行って、1000Pa以下の窒素雰囲気としてもよい。
[焼戻しする工程]
浸炭焼入れ後の焼戻しは、例えば120~180℃で0.5~3時間の条件で行うことが好ましい。この浸炭焼入れ焼戻しによって、表面から0.05~0.40mmの深さにおける硬さを700~850HVとした機械構造部品用素形材を得ることができる。
[切削加工する工程]
浸炭焼入れ焼戻し後に、前記素形材の表層を切削加工することで表面の硬さが700~900HVに調整された機械構造部品を得ることができる。なお、切削加工は部品表層の全てに施す必要はなく、寸法精度、強度が求められる部分に選択的に施すことができる。
切削加工により、部品の形状に仕上げつつ、加工誘起マルテンサイト変態を発生させる。これにより、部品の疲労強度が高まる。切削加工は次の条件で行うことが好ましい。
切削工具のすくい角α:-30°<α≦-5°
切削工具のすくい角αが-5°よりも大きければ、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が十分に発生しない場合がある。一方、すくい角が-30°以下であれば、切削抵抗が大きくなりすぎ、工具摩耗が増大する場合がある。従って、すくい角αは、-30°<α≦-5°であることが好ましい。
工具のノーズr:0.4~1.2mm
工具のノーズrが小さすぎれば表面粗さが大きくなりすぎ、部品の疲労強度が低下する場合がある。一方、工具のノーズrが大きすぎれば、切削抵抗が大きくなり、工具摩耗が増大する場合がある。従って、工具のノーズrは0.4~1.2mmであることが好ましい。
送りf:0.1超~0.4mm/rev(回転)
送りfが小さすぎれば、切削抵抗、つまり、工具が被削材に押し付けられる力が小さくなり、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない場合がある。一方、送りが大きすぎれば、切削抵抗が大きくなり、工具摩耗が大きくなる場合がある。従って、送りfは0.1超~0.4mm/revであることが好ましい。
切削速度v:50~250m/分
切削速度vが大きすぎれば、切削温度が上昇し、凝着摩耗が発生する場合がある。一方、切削速度が小さすぎれば、切削能率が低下し製造効率が低下する場合がある。従って、切削速度vは50~250m/分が好ましく、上限は150m/分がさらに好ましい。
切り込みd:0.05~0.40mm
切り込みdが小さすぎれば、切削抵抗が小さくなり、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない場合がある。一方、切り込みdが大きすぎれば、切削抵抗が大きくなり、工具摩耗が大きくなる場合がある。従って、切り込みdは0.05~0.40mmが好ましく、上限は0.20mmがさらに好ましい。
機械構造部品の表面から50μm深さ位置の300℃焼戻し硬さが650HV以上
本実施形態で得られた機械構造部品の断面において、表面から厚さ方向(円柱形の場合は表面から中心方向)に50μm深さ位置の300℃焼戻し硬さは650HV以上となる。300℃焼戻し硬さは、機械構造部品の面疲労強度に影響する。部品表面の300℃焼戻し硬さが650HVを下回ると十分な面疲労強度が得られない。
機械構造部品の表面から厚さ方向に200μm深さまでの範囲で厚さ方向に10μm間隔における残留オーステナイト体積率の最大値が12.0~25.0%
本実施形態の機械構造部品の表面から厚さ方向(円柱形状の場合は中心方向)に200μm深さまでの範囲で厚さ方向に10μm間隔における残留オーステナイトの体積率の最大値は12.0~25.0%である。この残留オーステナイトの体積率は切削加工前の残留オーステナイトの体積率に対応する。残留オーステナイトは、浸炭焼入れおよび焼戻し後の切削加工時に、加工誘起マルテンサイト変態する。これにより、部品の疲労強度が高まる。残留オーステナイトの体積率が低すぎれば、この効果が得られないので、12.0%以上あるとよい。一方、残留オーステナイトの体積率が高すぎれば、切削加工後にも多くのオーステナイトが残留し、疲労強度の向上は期待できないので、25.0%以下であるとよい。
本実施形態の機械構造部品の表面の算術平均粗さRaは0.8μm以下が好ましい。算術平均粗さRaが大きすぎれば、部品の摺動時の摩擦抵抗が大きくなり、製品部材の耐摩耗性や疲労強度が低下する場合がある。算術平均粗さRaは、JIS B0601(2001)に規定される算術平均粗さRaに相当し、この規定に準拠する。算術平均粗さRaの評価方法および測定機の特定は、JIS B0633(2001)およびJIS B0651(2001)の規定に準拠する。算術平均粗さRaが0.8μmよりも大きい場合、仕上げ研磨を行って、算術平均粗さRaを0.8μm以下にすることができる。仕上げ研磨としては、例えばラップ研磨を採用することができる。
本実施形態の機械構造部品の表面の塑性流動組織の厚さは1~15μmが好ましい。機械構造部品の表面の塑性流動組織の厚さは、次の方法で測定される。部品の表面を含み、部品の軸方向(例えば、ダンベル状の試験片の場合はその長手方向)に垂直な面(横断面)が観察面になるような試験片を採取する。鏡面研磨した試験片を、5%ナイタール溶液で腐食する。腐食された面を、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。塑性流動組織は、中心部に対して組織が部品の周方向に湾曲している部分であり、部品の表面から湾曲した組織の端までの距離を塑性流動組織の厚さと定義した。
切削加工時に、浸炭材の表層部に大きな変形が生じることで、塑性流動組織が形成される。この塑性流動組織は硬質であり、厚さが1μm以上になると部品の耐摩耗性や疲労強度が向上する場合がある。しかしながら、塑性流動組織は脆いため、その厚さが薄い場合にはある程度変形が可能であるが、厚さが15μmを超えると、割れが生じてき裂発生の起点となる場合がある。
次に、実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
真空溶解炉を用いて、表1に示す成分を有する150kgの鋼を溶製し、造塊法により鋼材1~29を得た。なお、表1に示す成分組成の“REM”は、La、 Ce、Ndである。
各鋼材を1250℃で1~4時間加熱した後、熱間鍛造を行って直径40mmの丸棒を得た。熱間鍛造時の仕上げ温度は1000℃であった。
各丸棒に対して焼準処理を行った。焼準処理温度は925℃であり、焼準処理時間は2時間であった。焼準処理後、丸棒を室温(25℃)まで放冷した。
放冷後の丸棒に対して機械加工を実施して、被削性試験片を製造した。被削性試験片は、直径35mm長さ300mmの円柱形状(丸棒)である。
上記被削性試験片に対して、浸炭温度930℃、浸炭期と拡散期の合計の処理時間200分の条件で真空浸炭を実施し、その後油焼入れを行い、被削性試験片(機械構造部品用素形材相当)を作製した。
[被削性試験(工具逃げ面摩耗量の測定)]
被削性試験は、切削工具の逃げ面摩耗量(μm)によって評価した。浸炭焼入れ焼戻し後の被削性試験片(機械構造部品用素形材相当)について、汎用旋盤による旋削加工を実施した。切削工具は、CBN粒子を主成分とし、セラミックスを結合材とした焼結材の表面に、TiAlNベースのセラミックコーティングを施したCBN焼結工具を利用した。切削条件は、切り込み0.1mm、切削速度150m/min、送り0.4mm/revとし、水溶性切削油を用いて湿式で行った。試験片1本あたり1パスの切削加工を行い、複数の試験片について切削加工を繰り返し、合計の切削時間が10分となるまで切削加工した後に、切削工具の逃げ面摩耗量を測定した。逃げ面摩耗量の測定には、マイクロスコープを用いた。工具逃げ面が測定物台と平行になるように工具を設置し、倍率200倍で摩耗部を観察した。この時の、摩耗部中心付近で摩耗が最大となる部分の切れ刃から摩耗先端部までの距離を測定し、逃げ面摩耗量とした。被削性試験の結果を「逃げ面摩耗量」として表2に示す。本測定において逃げ面摩耗量が40μm以下の場合が、従来技術に対して切削加工時の工具摩耗を抑制することができるという点で合格である。
[表面硬さ、表面の塑性流動組織の厚さ]
機械構造部品の表面のビッカース硬さは次の方法で測定した。即ち、浸炭焼入れ焼戻し後の被削性試験片を使用して、前記と同じ方法で1パスの切削加工を行った。切削加工後の試験片から、長さ方向と垂直な円形断面の円周から中心方向に50μm離れた位置を観察できるように試料を切り出して樹脂に埋め、研磨した後、同位置のビッカース硬さを測定した。上記位置にて硬さ測定を3回行い、その平均値を求めたところ、いずれの試験片においても700~900HVの範囲であった。
さらに同様の試験片を腐食して塑性流動組織の厚さを求めたところ、いずれの試験片においても1~15μmの範囲であった。
[300℃焼戻し硬さ]
機械構造部品の表面の300℃焼戻し硬さは次の方法で測定した。即ち、浸炭焼入れ焼戻し後の被削性試験片を使用して、前記と同じ方法で1パスの切削加工を行った。切削加工後の試験片を分割し、そのうち一つを、300℃で90分間の焼戻しを行った後、長さ方向と垂直な円形断面の円周から中心方向に50μm離れた位置を観察できるように試料を切り出して、樹脂に埋め、研磨した後、同位置のビッカース硬さを測定した。上記位置にて硬さ測定を3回行い、その平均値を「300℃焼戻し硬さ」として表2に示す。
[最大の残留オーステナイト体積率]
機械構造部品の残留オーステナイト体積率は次の方法で測定した。即ち、浸炭焼入れ焼戻し後の被削性試験片を使用して、前記と同じ方法で1パスの切削加工を行った後の分割した試験片の一つを、試験片表面に対して、電解研磨を施した。具体的には、試験片表面に穴の直径3mmのマスキングを施し、11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液中において、試験片を陽極として、20Vの電圧で電解研磨を施し、表面から20μm深さの位置の表面(以下、観察面という)を露出させた。観察面に対して、上述の方法でX線回折を実施し、表面から20μm位置の残留オーステナイトの体積率を求めた。観察面に対して、同様の方法で電解研磨を実施し、穴の深さを10μm深くして30μmとし、その表面に対して上述の方法でX線回折を実施し、表面から30μm位置の残留オーステナイトの体積率を求めた。光源にはCr管球を使用した。X線回折により得られたbcc構造の(221)面と、fcc構造の(220)面の回折ピークの積分強度比に基づいて、残留オーステナイトの体積率を測定した。この過程を繰り返すことで、10μmずつ穴を深くし、その都度残留オーステナイトの体積率を測定することを、穴の深さが200μmとなるまで繰り返した。そしてその中で得られた残留オーステナイト体積率のうち、最大値を最大残留オーステナイト体積率とした。(表2では、オーステナイトをγと表記している。)
[熱間延性試験]
熱間延性の調査を次のように高温引張試験にて実施した。直径40mmの熱間鍛造後の丸棒を用いて、その長さ方向と垂直な円形断面上の円の中心と表面間の中間位置の部分から、Φ10×170mmの引張試験片を棒鋼の長さ方向に沿って作製した。熱間延性は1250℃に加熱して1分間保持後、1000℃まで温度を下げ、1000℃に達した後に1分間保持後に歪速度が5×10-3/sで引張試験を行い、その絞りの値により評価した。熱間延性は表2において、絞りが60%以上であれば合格(表2では○と表記)、60%未満であれば不合格(表2では×と表記)とした。
[ローラーピッチング試験]
面疲労強度の評価は次のようなローラーピッチング試験にて実施した。まず、機械加工の後に前記条件で浸炭焼入れ焼戻しを実施し、試験部の直径26.2mmのローラーピッチング試験片用素形材を作製した。さらにローラーピッチング試験用片素形材の試験部について、CBN粒子を主成分とし、セラミックスを結合材とした焼結材の表面に、TiAlNベースのセラミックコーティングを施したCBN焼結工具を利用し、切り込み0.1mm、切削速度150m/min、送り0.4mm/revの切削条件で、水溶性切削油を用いて湿式で旋削加工を行い、ローラーピッチング試験片(機械構造部品相当)を作製した。ローラーピッチング試験は、大ローラー:SCM420浸炭品でクラウニング150R、回転数:2000rpm、潤滑油:トランスミッション油、油温:80℃、すべり率:-40%、最大1000万回の条件で行った。S-N線図を作成して疲労限(MPa、ローラーピッチング疲労強度)を求めた。比較のため、浸炭歯車に多く使用されるJIS-SCr420の107回疲労限も求めた。JIS-SCr420の10回疲労限は2600MPaである。本発明の疲労限(ローラーピッチング疲労強度)の目標値は、これを、約20%向上させた3200MPa以上とし、表2において疲労限度が3200MPa以上の場合が合格であり、3200MPa未満の場合が不合格とした。
番号17、18はSi含有量が多すぎた。そのため、切削加工時に凝着摩耗が生じ、工具摩耗が大きかった。
番号19はInが含有されていなかった。そのため、十分な被削性改善効果が得られず、工具摩耗量が大きかった。
番号20はinsol.Alが不足していた。そのため、十分な被削性改善効果が得られず、工具摩耗量が大きかった。
番号21はinsol.AlとO含有量が不足していた。そのため、十分な被削性改善効果が得られず、逃げ面摩耗量が大きかった。
番号22、23はIn/Siが小さくなったため、切削加工時に凝着摩耗が生じ、工具摩耗が大きかった。
番号24、25は、[S%]+[In%]の値が大きくなったため、高温引張試験での絞り値が不合格である。
番号26はIn含有量が過剰であり、[S%]+[In%]の値も大きくなったため、高温引張試験での絞り値が不合格である。
番号27はF3の値が大きかった。そのため、残留オーステナイト量が過剰となり、面疲労強度が目標に未達であった。
番号28はF3の値が小さかった。そのため、残留オーステナイト量は少なくなり、面疲労強度が目標に未達であった。
番号29はF4の値が小さかった。そのため、300℃焼戻し硬さが低くなり、面疲労強度が目標に未達であった。
番号30はSi含有量が不足しており、且つF4の値が小さかった。そのため、面疲労強度が目標に未達であった。
番号1~16は、面疲労強度、工具摩耗量および高温引張試験での絞り値が良好である。
Figure 0007410391000001
Figure 0007410391000002
本発明は、広く産業機械、輸送機械など、あらゆる産業分野において利用することができる。

Claims (7)

  1. 成分が、質量%で、
    C:0.05~0.35%、
    Si:0.25~1.00%、
    Mn:0.01~1.50%、
    Cr:0.01~3.00%、
    P:0.100%以下、
    S:0.001~0.150%、
    In:0.038~0.230%、
    Al:0.002~0.050%、
    N:0.0030~0.0250%、
    O:0.0009~0.0050%
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
    insol.Al:0.0011~0.0060%であり、かつ下記(式1)~(式4)を満たすことを特徴とする機械構造用鋼。
    [S]+[In]≦0.230・・・(式1)
    [In]/[Si]≧0.15・・・(式2)
    11.3≦-0.1×[Si]+15.2×[Mn]+7.0×[Cr]≦24.0・・・(式3)
    31×[Si]+15×[Mn]+23×[Cr]≧50.0・・・(式4)
    ここで、[In]、[Si]、[S]、[Mn]および[Cr]は、それぞれIn、Si、S、MnおよびCrの鋼中の含有量(質量%)を表す。
  2. 成分が、さらに、質量%で、
    Ca:0.0050%以下、
    Mg:0.0050%以下、
    Zr:0.0050%以下、および、
    REM:0.0050%以下
    からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼。
  3. 成分が、さらに、質量%で、
    Ti:1.000%以下、
    Nb:1.000%以下、および、
    V:1.000%以下
    からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の機械構造用鋼。
  4. 成分が、さらに、質量%で、
    Mo:1.00%以下、
    Ni:1.40%以下、
    Cu:1.40%以下、および、
    B:0.0050%以下
    からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の機械構造用鋼。
  5. 成分が、さらに、質量%で、
    Sn:0.5000%以下、
    Sb:0.5000%以下、
    Se:0.5000%以下、
    Te:0.5000%以下、
    Zn:0.5000%以下、
    Bi:0.500%以下、および
    Pb:0.09%以下
    からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の機械構造用鋼。
  6. 表面から厚さ方向に2.00mm以上の深さにおいて請求項1~5のいずれか1項に記載の成分であり、表面から厚さ方向に50μm深さ位置での300℃焼戻し硬さが650HV以上であり、表面から厚さ方向に200μm深さまでの範囲で厚さ方向に10μm間隔における残留オーステナイト体積率の最大値が12.0~25.0%であることを特徴とする機械構造部品。
  7. 請求項6に記載の機械構造部品の製造方法であって、請求項1~5のいずれか1項に記載の成分を有する鋼材を加工して粗部材を製造する工程、前記粗部材を浸炭焼入れする工程、前記浸炭焼入れした粗部材を焼戻しする工程、前記焼戻した粗部材に表面から板厚方向に0.05~0.40mmの深さを切削加工する工程を備えることを特徴とする機械構造部品の製造方法。
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