JP2002275584A - 被削性に優れた軸受要素部品用鋼材 - Google Patents

被削性に優れた軸受要素部品用鋼材

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Abstract

(57)【要約】 【課題】被削性と転動疲労寿命に優れた軸受要素部品用
鋼材(鋼線材、棒鋼および鋼管)の提供。 【解決手段】本発明の鋼材は、C:0.8〜1.2%、
Si:0.2〜2.0%、Mn:0.2〜1.5%、C
r:0.6〜2.0%、Al≦0.05%、Cu≦2.
0%、Ni≦4.0%、Mo≦0.5%、V≦0.2
%、Nb≦0.10%、Ca≦0.003%、Mg≦
0.003%を含有し、残部はFeと不純物からなり、
不純物としてのTi≦0.002%、P≦0.02%、
S≦0.015%、N≦0.009%、O≦0.001
5%で、Si、Mn、CrおよびMoの関係が式「5.
0≦1.6×%Si+4.0×%Mn+3.0×%Cr
+5.0×%Mo≦9.0」を満たし、かつセメンタイ
ト中のCr+Mn濃度が5.0%以上である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軸受を構成するボ
ール、コロ、ニードル、シャフト、レースなどの軸受要
素部品の用途に好適な被削性に優れた軸受要素部品用鋼
材に関する。
【0002】
【従来の技術】ボール、コロ、ニードル、シャフト、レ
ースなどの軸受要素部品の素材鋼としては、一般に、J
IS G 4805に規定されているSUJ2鋼などの
高炭素クロム軸受鋼が多用されている。
【0003】上記の所謂「軸受用鋼」は、熱間圧延など
の手段で加工された後、軟化を目的とした球状化焼鈍を
受け、次いで冷間鍛造、冷間抽伸や切削などの加工を施
され、さらに、焼入れと低温での焼戻しによる熱処理を
受けて所望の機械的性質を付与される。
【0004】上記の各工程のうち、切削加工はコストが
嵩むので、切削速度の向上や工具寿命の延長が可能とな
る被削性に優れた軸受用鋼に対する要求が極めて大きく
なっている。
【0005】鋼にPbやSなどの快削元素(被削性改善
元素)を単独あるいは複合させて添加すれば、被削性が
向上することはよく知られている。しかし、各種の産業
機械や自動車などに使用される軸受には高い面圧が繰り
返し作用する。このため、軸受用鋼に前記快削元素を添
加すれば、軸受(要素部品)の転動疲労寿命が大幅に低
下してしまう。さらに、前記快削元素は一般に熱間加工
性を低下させる。したがって、熱間圧延などの熱間加工
時に表面割れや疵が発生しやすくなるという問題もあ
る。
【0006】このため、特開平1−255651号公報
には、鋼中にREM(希土類元素)を含有させた「被削
性に優れた高Si−低Cr軸受鋼」が開示されている。
しかし、REMは極めて酸化されやすいため、鋼中での
歩留まりが不安定である。また、鋼中に生成しやすいR
EM酸化物の粒径や分散状態を制御することは、工業的
には難しい。粗大なREM酸化物が生成したり、REM
酸化物が多量に生成すると、転動疲労寿命が大幅に低下
してしまう。
【0007】特開平3−56641号公報には、鋼中に
BN化合物を生成させることで、転動疲労寿命を低下さ
せることなく被削性を向上させる「被削性に優れた軸受
鋼」が開示されている。しかし、Bは鋼中への溶解度が
小さいため、鋼中での歩留まりが不安定であるし、偏析
も生じやすい。さらに、Bは高炭素鋼の凝固開始温度を
著しく低下させるので、Bの偏析と相まって、凝固偏析
が助長されることになる。加えて、凝固開始温度の低下
が熱間加工性の低下につながり、熱間加工時に表面割れ
や疵が生成しやすくなる。したがって、軸受用鋼のB含
有量をたとえ前記公報で規定された値、つまり、質量%
で、0.004〜0.020%にしても、必ずしも工業
的規模で安定して軸受要素部品が製造できるというもの
でもなかった。
【0008】特開平9−227991号公報には、特定
の条件で熱処理して組織中の炭化物数と硬さを調整する
「被削性および冷間加工性に優れる軸受鋼およびその製
造方法」が開示されている。しかし、この公報で提案さ
れた焼鈍条件では、加熱工程の途中で徐熱または等温保
持をおこなう必要がある。このため、焼鈍時間が長くな
り生産性の低下をきたす。さらに、徐熱、急熱、徐冷な
ど熱処理条件の変更が必要であるため、例えば、鋼線材
(以下、「鋼線材」を単に「線材」という)の一般的な
形状である巻取りコイルを対象とする場合、コイル全体
を均一に熱処理(焼鈍処理)することが困難である。た
とえ均一な熱処理ができたとしても、工業的規模で用い
られる連続熱処理炉は、一般に各ゾーンの温度が決まっ
ていて、ゾーンの数も限られているため、前記公報で規
定された条件で焼鈍を実施することは難しいし、規定条
件で焼鈍するためには連続熱処理炉の改造や更新が必要
でコストが嵩んでしまう。
【0009】上記の各公報で提案された技術によれば、
一応は被削性に優れた鋼材、具体的には線材、棒鋼およ
び鋼管を得ることができる。しかし、既に述べたよう
に、生産性、品質の点で大きな問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記現状に
鑑みなされたもので、その目的は、快削元素を特別に添
加含有させることなく、かつ、焼鈍時間も従来と同様の
10〜20時間程度であるため生産性の低下をきたすこ
ともなく、ボール、コロ、ニードル、シャフト、レース
などの軸受要素部品の用途に好適な被削性に優れた鋼材
(線材、棒鋼または鋼管)を提供することである。
【0011】なお、既に述べたように、軸受には高い面
圧が繰り返し作用するので、後述の実施例における転動
疲労試験で、1.0×10 回以上の転動疲労寿命を
有することを目標とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記の
被削性に優れた軸受要素部品用鋼材にある。
【0013】質量%で、C:0.8〜1.2%、Si:
0.2〜2.0%、Mn:0.2〜1.5%、Cr:
0.6〜2.0%、Al:0.05%以下、Cu:2.
0%以下、Ni:4.0%以下、Mo:0.5%以下、
V:0.2%以下、Nb:0.10%以下、Ca:0.
003%以下、Mg:0.003%以下を含有し、残部
はFeおよび不純物からなり、不純物中のTiは0.0
02%以下、Pは0.02%以下、Sは0.015%以
下、Nは0.009%以下、O(酸素)は0.0015
%以下で、Si、Mn、CrおよびMoの関係が式
「5.0≦1.6×%Si+4.0×%Mn+3.0×
%Cr+5.0×%Mo≦9.0」を満たし、セメンタ
イト中のCrとMnの合計濃度が5.0%以上であるこ
とを特徴とする被削性に優れた軸受要素部品用鋼材。
【0014】上記の本発明においては、上記各元素のう
ち、Cu、Ni、Mo、V、Nb、CaおよびMgの7
元素については、必ずしも添加含有させる必要はなく、
不純物量レベルであってもよい。また、本発明にいう鋼
材とは、線材、棒鋼または鋼管をいう。
【0015】本発明者らは、線材、棒鋼および鋼管の球
状化焼鈍後の組織、セメンタイト中のCr、Mn濃度、
およびセメンタイト粒径が被削性に及ぼす影響について
調査、研究を重ね、その結果、下記の知見を得た。 (a)軸受用鋼の切削加工においては、被切削材中の炭
化物の硬さが工具寿命や上限切削速度に大きく影響す
る。 (b)セメンタイト中にCr、Mnが濃化すると、セメ
ンタイトが硬化することは知られているが、マトリック
スであるフェライト中のCr、Mnが減少すると、フェ
ライトは軟化し、セメンタイトとマトリックスであるフ
ェライトの硬度差が大きくなればなるほど、被削性が向
上する。 (c)セメンタイト中のCr、Mn濃度を高めるために
は、球状化焼鈍中にオーステナイトからフェライトに変
態した後も、徐冷または保定すればよい。 (d)転動疲労寿命を確保するためには一定以上の焼入
性の確保が必要で、そのためにはSi、Mn、Crおよ
びMoの含有量を制御すればよい。
【0016】本発明は、上記の知見に基づいて完成され
たものである。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳しく説明
する。なお、以下において、「%」は「質量%」を意味
する。 (A)化学組成 C:0.8〜1.2% Cは、焼入れと低温での焼戻しによる熱処理をおこなっ
て軸受用鋼材(軸受要素部品)に所望の機械的性質を付
与させるが、その含有量が0.8%未満では焼入れ焼戻
し後の硬度が低く、所望の転動疲労寿命(後述の実施例
における転動疲労試験で、1.0×10 回以上の転
動疲労寿命)が得られない。一方、Cの含有量が1.2
%を超えると、鋼の凝固開始温度が低下して熱間加工
時、なかでも鋼材が鋼管の場合、熱間製管時に割れや疵
が多発する。また、鋼の凝固時に巨大な炭化物が生成し
やすくなるので、長時間の均質化熱処理をおこなわない
場合には目標とする転動疲労寿命が得られない。したが
って、C含有量は0.8〜1.2%とした。好ましい範
囲は0.8〜1.0%、より好ましい範囲は0.8〜
0.9%である。
【0018】Si:0.2〜2.0% Siは、転動疲労寿命を高めるのに有効な元素であるほ
か、脱酸剤として必要な元素でもある。また、Siは鋼
の焼入性を向上させる元素でもある。しかし、その含有
量が0.2%未満では前記の効果が得難い。なお、Si
の含有量が0.6%以上になると被削性向上効果も大き
くなる。一方、Siの含有量が2.0%を超えると、熱
間圧延後や球状化焼鈍後に脱スケールするために長時間
を要するので生産性の大幅な低下を招く。したがって、
Si含有量は0.2〜2.0%とした。好ましい範囲は
0.5〜1.5%、より好ましい範囲は0.5〜1.0
%である。
【0019】Mn:0.2〜1.5% Mnは、鋼の焼入性を向上させると同時に、Sによる熱
間脆性の防止に必要な元素である。これらの効果を発揮
させるためにはMnを0.2%以上含有させる必要があ
る。一方、Mnの含有量が1.0%を超えるとMnのみ
ならずCの中心偏析が生じるようになり、1.5%を超
えるとMn、Cの中心偏析が顕著になり、転動疲労寿命
の低下を招く。したがって、Mn含有量は0.2〜1.
5%とした。好ましい範囲は0.2〜1.0%、より好
ましい範囲は0.2〜0.8%である。
【0020】Cr:0.6〜2.0% Crは、鋼の焼入性を向上させると同時に、セメンタイ
ト中に濃化しやすい元素で、セメンタイトを硬化させて
被削性を向上させる。しかし、その含有量が0.6%未
満では前記の効果が得難い。一方、1.6%を超えると
CrのみならずC元素の中心偏析が生じるようになり、
2.0%を超えるとCr、Cの中心偏析が顕著になり、
転動疲労寿命の低下を招く。したがって、Cr含有量は
0.6〜2.0%とした。好ましい範囲は0.6〜1.
6%、より好ましい範囲は0.6〜1.3%である。
【0021】Al:0.05%以下 Alは脱酸剤として添加するが、過剰なAlは非金属系
介在物を形成して転動疲労寿命を低下さる。特に、その
含有量が0.05%を超えると、粗大な非金属系介在物
を形成して転動疲労寿命の著しい低下を招き、所望の転
動疲労寿命(後述の実施例における転動疲労試験で、
1.0×10 回以上の転動疲労寿命)が得られなく
なる。したがって、Alの含有量は0.05%以下とし
た。好ましい上限は0.04%、より好ましい上限は
0.03%である。一方、十分な脱酸効果を得るために
は、その含有量を0.0003%以上とするのがよい。
なお、Alは、上記のSiによって脱酸が十分になされ
る場合には必ずしも添加する必要はなく、その含有量は
不純物量レベルであってもよい。
【0022】Cu:2.0%以下(添加時の望ましい範
囲は0.05〜2.0%) Cuは添加しなくてもよい。添加すれば耐食性を高める
作用がある。この効果を確実に得るには、Cuは0.0
5%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その
含有量が2.0%を超えると結晶粒界に偏析して鋼塊の
分塊圧延や線材の熱間圧延などの熱間加工時における割
れや疵の発生が顕著になる。したがって、Cuの含有量
は2.0%以下とした。好ましい上限は1.5%、より
好ましい上限は1.0%である。
【0023】Ni:4.0%以下(添加時の望ましい範
囲は0.2〜4.0%) Niは添加しなくてもよい。添加すれば、焼入れ後のマ
ルテンサイト中に固溶して靱性を高める作用を有する。
この効果を確実に得るには、Niは0.2%以上の含有
量とすることが好ましい。しかし、4.0%を超えて含
有させても、前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかり
である。したがって、Niの含有量を4.0%以下とし
た。好ましい上限は3.0%、より好ましい上限は2.
0%である。
【0024】Mo:0.5%以下(添加時の望ましい範
囲は0.05〜0.5%) Moも添加しなくてもよい。添加すれば、焼入性を高
め、転動疲労寿命を高める作用がある。この効果を確実
に得るには、Moは0.05%以上の含有量とすること
が好ましい。しかし、その含有量が0.5%を超える
と、焼入性が高くなり過ぎて熱間圧延後にマルテンサイ
トが生成しやすくなり、割れが発生しやすくなる。した
がって、Moの含有量は0.5%以下とした。好ましい
上限は0.3%、より好ましい上限は0.2%である。
【0025】V:0.2%以下(添加時の望ましい範囲
は0.03〜0.2%) Vは添加しなくてもよい。添加すれば、オーステナイト
結晶粒を微細化させ、靱性を高める作用を有する。この
効果を確実に得るには、Vは0.03%以上の含有量と
することが好ましい。しかし、0.2%を超えて含有さ
せても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりであ
る。したがって、Vの含有量は0.2%以下とした。好
ましい上限は0.1%である。
【0026】Nb:0.10%以下(添加時の望ましい
範囲は0.01〜0.10%) Nbは添加しなくてもよい。添加すれば、オーステナイ
ト結晶粒を微細化させ、靱性を高める作用を有する。こ
の効果を確実に得るには、Nbは0.01%以上の含有
量とすることが好ましい。しかし、0.10%を超えて
含有させても前記の効果は飽和し、コストが嵩むばかり
である。したがって、Nbの含有量は0.10%以下と
した。好ましい上限は0.08%、より好ましい上限は
0.05%である。
【0027】Ca:0.003%以下 Caは添加しなくてもよい。添加すれば、熱間加工性を
高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Ca
は0.0001%以上の含有量とすることが好ましい。
しかし、Caを0.003%を超えて含有させても前記
の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがっ
て、Caの含有量は0.003%以下とした。好ましい
上限は0.002%である。
【0028】Mg:0.003%以下 Mgも添加しなくてもよい。添加すれば、熱間加工性を
高める作用を有する。この効果を確実に得るには、Mg
は0.0001%以上の含有量とすることが好ましい。
しかし、Mgを0.003%を超えて含有させても前記
の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがっ
て、Mgの含有量は0.003%以下とした。好ましい
上限は0.002%である。
【0029】本発明においては、不純物としてのTi、
P、S、NおよびO(酸素)の含有量を下記のとおりに
制限することが重要である。その理由は以下の通りであ
る。
【0030】Ti:0.002%以下 Tiは、Nと結合してTiNを形成し、転動疲労寿命を
低下させてしまう。特にその含有量が0.002%を超
えると、転動疲労寿命の低下が著しくなり、所望の転動
疲労寿命(後述の実施例における転動疲労試験で、1.
0×10 回以上の転動疲労寿命)が得られない。し
たがって、Tiの含有量は0.002%以下とした。な
お、不純物としてのTiの含有量はできるだけ少なくす
ることが望ましい。
【0031】P:0.02%以下 Pは、粒界に偏析して転動疲労寿命を低下させてしま
う。特に、その含有量が0.02%を超えると転動疲労
寿命の低下が著しくなり、所望の転動疲労寿命(後述の
実施例における転動疲労試験で、1.0×10 回以
上の転動疲労寿命)が得られなくなる。したがって、P
の含有量は0.02%以下とした。
【0032】S:0.015%以下 Sは、Mnと結合してMnSを形成し、転動疲労寿命を
低下させてしまう。特にその含有量が0.015%を超
えると、粗大なMnSを形成しやすくなるので転動疲労
寿命の低下が著しくなり、所望の転動疲労寿命(後述の
実施例における転動疲労試験で、1.0×10 回以
上の転動疲労寿命)が得られない。したがって、Sの含
有量は0.015%以下とした。
【0033】N:0.009%以下 Nは、TiやAlと結合してTiNやAlNを形成しや
すく、N含有量が多くなって粗大なTiNやAlNが形
成されると、転動疲労寿命が低下してしまう。特にその
含有量が0.009%を超えると、転動疲労寿命の低下
が著しくなり、所望の転動疲労寿命(後述の実施例にお
ける転動疲労試験で、1.0×10回以上の転動疲労
寿命)が得られない。したがって、Nの含有量は0.0
09%以下とした。
【0034】O(酸素):0.0015%以下 Oは、酸化物系介在物を形成し、転動疲労寿命を低下さ
せてしまう。特にその含有量が0.0015%を超える
と転動疲労寿命の低下が著しくなり、所望の転動疲労寿
命(後述の実施例における転動疲労試験で、1.0×1
回以上の転動疲労寿命)が得られない。したがっ
て、Oの含有量は0.0015%以下とした。なお、不
純物としてのO含有量はできる限り少なくすることが望
ましい。 (B)Si、Mn、CrおよびMoの関係 本発明においては、Si、MnおよびCrの各含有量を
(A)で規定した範囲内において、式「5.0≦1.6
×%Si+4.0×%Mn+3.0×%Cr+5.0×
%Mo≦9.0」を満たす量に規定する。これは、後の
実施例に示すように、式「1.6×%Si+4.0×%
Mn+3.0×%Cr+5.0×%Mo」で求められ値
が5.0未満では、焼入性が不足するために、焼入れ後
の硬度が低く、転動疲労寿命の低下が著しくなり、所望
の転動疲労寿命(後述の実施例における転動疲労試験
で、1.0×10 以上の転動疲労寿命)が得られな
い。一方、式「1.6×%Si+4.0×%Mn+3.
0×%Cr+5.0×%Mo」で求められる値が9.0
を超えると、焼入性が過剰で、熱間圧延後の冷却中にマ
ルテンサイト組織が生成して、焼割れやハンドリング時
の割れが発生しやすくなる。したがって、Si、Mnお
よびCrの各含有量を式「5.0≦1.6×%Si+
4.0×%Mn+3.0×%Cr+5.0×%Mo≦
9.0」満たす量とした。
【0035】ここで、上記の式「1.6×%Si+4.
0×%Mn+3.0×%Cr+5.0×%Mo」は、鋼
の焼入性を表し、下記の実験結果に基づいて各元素の係
数を最小二乗法を用いて求めることにより、本発明者が
初めて定めた式である。
【0036】すなわち、一般に、鋼の焼入性は、例えば
AISI規格にも規定されているように、鋼の化学組成
と結晶粒度から計算によって求め得る。しかし、本発明
のような高炭素で、かつセメンタイト中にMn、Crが
濃化している鋼の場合、マトリックス中のMn、Cr濃
度が低下しているため、その計算結果と実際の焼入性と
が一致しない。このため、以下に述べる実験をおこな
い、高炭素で、かつセメンタイト中にMn、Crが濃化
している本発明鋼の焼入性を正確に表すパラメータ式と
して上記の式を定めたのである。
【0037】実験内容:後述する表1に示す各鋼を用
い、同じく後述する表2に示す「条件Y」と同じ条件で
球状化焼鈍をおこなった外径40mmの棒鋼から試験片
を採取し、JISG 0561に規定される方法に準拠
してジョミニー試験をおこなった。その際、試験片の加
熱条件は、軸受用部品の一般的な焼入温度である820
℃×20分間保持とした。次いで、ロックウェルC硬度
50を示す位置までの冷媒供給側の試験片端部からの距
離を各鋼について求めた。そして、この求めた各鋼の距
離と、当該鋼中に含まれる各元素中、鋼の焼入性に大き
な影響を及ぼすといわれているSi、Mn、Crおよび
Moの4元素の含有量とから、各元素の効果が加算でき
ると仮定し、最小二乗法によって、各元素の係数を求め
た。その結果、各元素の係数は上記の式中に示す通りで
あった。 (C)セメンタイト中のCrとMnの合計濃度 本発明においては、セメンタイト中のCrとMnの合計
濃度(以下、Cr+Mn濃度という)を5.0%以上に
規定する。これは、後述の実施例に示すように、セメン
タイト中のCr+Mn濃度が5%未満であると、セメン
タイトの硬化が十分ではないために、切削試験での工具
寿命が一般的な方法で製造された鋼材切削時の工具寿命
の1.3倍以上にならないためである。さらに、セメン
タイト中のCr+Mn濃度が6.0%以上の場合、その
工具寿命が一般的な方法で製造された鋼材切削時の工具
寿命の1.5倍以上になるので、セメンタイト中のCr
+Mn濃度は6.0%以上であることが望ましい。一
方、セメンタイト中のCr+Mn濃度の上限は特に制限
しないが、セメンタイト中のCr+Mn濃度が15%を
超えると、セメンタイト以外の炭化物になる可能性があ
るため、上限は15%以下にすることが望ましい。
【0038】セメンタイト中のCr+Mn濃度を5.0
%以上にするためには、鋼中のCrとMnの含有量を増
加させるとともに、球状化焼鈍中にマトリックスがオー
ステナイトからフェライトに変態した後に、徐冷または
保定することが有効である。
【0039】例えば、後の実施例に示すように、鋼B
(0.90%C−0.50%Mn−0.82%Cr)を
770℃で2時間保持した後、10℃/時間で680℃
まで冷却し、その後炉外で放冷すると、セメンタイト中
のCr+Mn濃度は4.2%となる。また、770℃で
2時間保持した後、10℃/時間で700℃まで冷却し
た後、650℃までを5℃/時間で冷却し、その後炉外
で放冷すると5.8%となる。なお、650℃未満で
は、CrおよびMnの拡散が極めて遅くなるため、65
0℃未満の冷却速度はセメンタイト中のCrおよびMn
濃度にほとんど影響しない。
【0040】セメンタイト中のCrとMn濃度の測定
は、次の方法によって決定した。すなわち、抽出レプリ
カ法によって、セメンタイトを取り出し、透過型電子顕
微鏡(TEM)に付属したエネルギー分散形X線分析
(EDS)によって、各試料につき5個のセメンタイト
中のCとMnの濃度を測定し、その各平均値をその試料
のセメンタイト中のCrとMnの濃度とした。
【0041】また、セメンタイトの粒径については、特
に規定しないが、その平均粒径が0.4μm未満になる
と、鋼材の強度が上昇して、切削加工での切削抵抗が増
加して工具寿命が短くなる傾向が大きくなる。このた
め、セメンタイトの平均粒径は0.4μm以上であるこ
とが好ましい。また、その上限も特に規定しないが、セ
メンタイトの平均粒径が0.8μmを上回ると、工具寿
命の改善効果も飽和してくる傾向があり、球状化焼鈍に
要する時間も長くなって生産性が低下するため、セメン
タイトの平均粒径は0.8μm以下であることが好まし
い。
【0042】セメンタイトの平均粒径は、次のように定
義されるものである。すなわち、各セメンタイト粒の面
積を求め、その面積と等価な面積の円の直径を求め、そ
れを各セメンタイト粒の見かけの粒径とする。次いで、
面積を測定したすべてのセメンタイト粒の見かけの粒径
の平均値を見かけのセメンタイト平均粒径とし、上記の
見かけのセメンタイトの平均粒径を1.12倍したもの
をセメンタイト平均粒径と定義する。
【0043】前記(A)、(B)および(C)に記載し
た構成要件からなる本発明の鋼材(鋼線材、棒鋼または
鋼管)は、通常の方法で冷間鍛造、冷間抽伸や切削など
の加工を施され、さらに、焼入れと低温での焼戻しによ
る熱処理を受けて所望の機械的性質を有する軸受要素部
品に仕上げられてから、精密機械部品である最終製品と
しての軸受に組み立てられる。
【0044】以下、実施例により本発明をさらに詳しく
説明する。
【0045】
【実施例】表1に示す化学組成を有する18種類の鋼を
容量300kgの真空溶解炉を用いて溶製した。表1
中、代符B〜IおよびO〜Rの鋼は化学組成が本発明で
規定する範囲内のものであり、代符AおよびJ〜Nの鋼
は成分のいずれかが本発明で規定する範囲から外れた比
較例である。
【0046】
【表1】 各鋼は、1200℃に加熱後、仕上げ温度950℃の条
件で熱間鍛造して直径40mm、長さ約2450mmの
鍛造材に成形した後、放冷した。放冷後の鍛造材の外観
を観察したところ、代符GおよびHの鍛造材には微小な
クラックの発生が認められ、その組織を観察した結果マ
ルテンサイト組織が混在していた。このため、代符Gお
よびHの鍛造材については以後の試験には供しなかっ
た。
【0047】クラックの発生が認められなかった代符A
〜FおよびI〜Rの鋼からなる鍛造材は、長さ600m
mに切断した後、電気炉を用いて表2に示す4通りの熱
処理条件(ヒートパターン)のそれぞれによる球状化焼
鈍をおこなった。なお、表2中の条件Wは、従来の焼鈍
処理のヒートパターンに相当し、炉外放冷に至るまでの
所要時間は11時間である。また、他の条件の所要時間
は、条件Xが18時間、条件Yが14時間、条件Zが1
0時間である。
【0048】
【表2】 球状化焼鈍後の各鍛造材は、研削加工して直径38mm
の丸棒にし、これを対象にセメンタイト中のCr+Mn
濃度とセメンタイトの平均粒径を測定した。
【0049】すなわち、Cr+Mn濃度は、各丸棒の横
断面を鏡面研磨した後、抽出レプリカ法によってセメン
タイトを取り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)に付属
したエネルギー分散形X線分析(EDS)によって各試
料につき5個のセメンタイト中のCとMnの濃度を測定
し、その平均値をその試料のセメンタイト中のCrとM
nの濃度とし、これを合計して求めた。
【0050】セメンタイトの平均粒径は、上記と同様に
鏡面研磨した各丸棒の横断面をピクラールで腐食処理
し、その腐食処理表面を走査型電子顕微鏡を用いて各試
料の円中心から半径の1/2位置を倍率5000倍で1
0視野撮影し、この写真を通常の方法による画像解析に
よって各セメンタイト粒の面積を求め、それと等価な面
積の円を計算して求められる直径を各セメンタイト粒の
直径とし、その直径の平均値を1.12倍した値をセメ
ンタイトの平均粒径とした。
【0051】また、球状化焼鈍後、研削加工して仕上げ
た直径38mmの各丸棒を対象に、切削試験もおこなっ
た。すなわち、切削工具としてJIS G 4403に
規定されるSKH4からなる三角チップを用い、無潤
滑、周速50m/min、切り込み量0.7mm、送り
0.2mm/rev.の条件で旋削加工して工具寿命を
調査し、被削性の指標とした。
【0052】なお、工具寿命は、前記条件で丸棒を切削
加工した場合に、切削時間10分までは30秒ごと、そ
れ以降は1分ごとに工具の主切り刃摩耗量を測定して、
主切り刃摩耗量が0.20mmになった時点とした。ま
た、被削性の目標は下記(イ)の条件を満足することと
した。 (イ)各鋼について、条件Wで球状化焼鈍した丸棒の工
具寿命を基準とし、これよりも30%以上工具寿命が長
いこと。
【0053】さらに、上記の切削加工に供した各丸棒か
ら、直径12mm、長さ22mmの試験片を切り出し、
この試験片を焼入れ焼戻し処理(820℃×30分間保
持後油焼入れ→160℃×1時間保持の焼戻し)して次
の条件による転動疲労試験に供した。
【0054】すなわち、円筒型の転動疲労試験機を用い
て、潤滑油にJIS規格に規定される#68タービン油
を使用して、ヘルツ最大接触応力が588MPa、試験
片負荷回数が46000回/分の条件で転動疲労試験を
おこなった。試験片は各鋼について10個ずつとし、1
0個の試験片の中で最初に表面剥離をおこしたときの回
転数を「転動疲労寿命」とした。転動疲労寿命が1.0
×10 以上の場合に転動疲労特性に優れていると評
価した。
【0055】表3および表4に、球状化焼鈍後のセメン
タイト中のCr+Mn濃度、セメンタイトの平均粒径、
旋盤による切削加工での工具寿命、転動疲労寿命の各調
査結果をまとめて示す。
【0056】
【表3】
【表4】 表3および表4から明らかなように、比較例の代符Aお
よびI〜Nの鋼を用いた試験、すなわち、C含有量が
0.8%未満の代符A鋼を用いた試番1〜4、X値(X
=1.6×%Si+4.0×%Mn+3.0×%Cr+
5.0×%Mo)が5.0未満の代符I鋼を用いた試番
25〜28、Al含有量が0.05%を超える代符J鋼
を用いた試番29〜32、Ti含有量が0.002%を
超える代符K鋼を用いた試番33〜36、P含有量とS
含有量がそれぞれ0.02%と0.015%を超える代
符L鋼を用いた試番37〜40、N含有量が0.009
%を超える代符M鋼を用いた試番41〜44、およびO
含有量が0.0015%を超える代符N鋼を用いた試番
45〜48は、転動疲労寿命が1.0×10 回に達
していない。
【0057】上記のうち、試番1、4、25、28、2
9、32、33、36、41および44〜46は、セメ
ンタイト中のCr+Mn濃度が5.0%未満であるた
め、工具寿命も目標の値に達していない。
【0058】また、試番5、8、9、12、13、1
6、17、20、21、24、49、52、53、5
6、57、60、61および64は、鋼の化学組成は本
発明で規定する範囲内であるが、セメンタイト中のCr
+Mn濃度が5.0%未満であるため、工具寿命が目標
の値に達していない。
【0059】これに対し、本発明で規定する条件を満た
す代符B〜IおよびO〜R鋼を用いた試番6、7、1
0、11、14、15、18、19、22、23、5
0、51、54、55、58、59、62および63
は、工具寿命が目標の値に達しており、しかも転動疲労
寿命も目標の1.0×10 回を上回っている。
【0060】特に、セメンタイト中のCr+Mn濃度が
6.0%以上の試番11、22、23、50、51、5
4、55、57、60、61および64の工具寿命は、
条件Wで球状化焼鈍したものに比べて50%以上と長
く、一段と優れている。
【0061】
【発明の効果】本発明の軸受要素部品用鋼材は、被削性
に優れるとともに、転動疲労寿命が長い。このため、ボ
ール、コロ、ニードル、シャフト、レースなどの軸受要
素部品の高寿命化が図れる。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) F16C 33/62 F16C 33/62

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】質量%で、C:0.8〜1.2%、Si:
    0.2〜2.0%、Mn:0.2〜1.5%、Cr:
    0.6〜2.0%、Al:0.05%以下、Cu:2.
    0%以下、Ni:4.0%以下、Mo:0.5%以下、
    V:0.2%以下、Nb:0.10%以下、Ca:0.
    003%以下、Mg:0.003%以下を含有し、残部
    はFeおよび不純物からなり、不純物中のTiは0.0
    02%以下、Pは0.02%以下、Sは0.015%以
    下、Nは0.009%以下、O(酸素)は0.0015
    %以下で、Si、Mn、CrおよびMoの関係が下記の
    (1) 式を満たし、セメンタイト中のCrとMnの合計濃
    度が5.0%以上であることを特徴とする被削性に優れ
    た軸受要素部品用鋼材。 5.0≦1.6×%Si+4.0×%Mn+3.0×%Cr+5.0×%Mo≦9.0 ・・・(1)
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