JP2017082310A - 製品部材の製造方法及び製品部材 - Google Patents

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Abstract

【課題】製造工程中に切削工具の摩耗を抑制でき、かつ、耐摩耗性、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度及び被削性に優れた製品部材及びその製造方法を提供する。【解決手段】粗部材に対して浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理、及び焼戻し処理を施して浸炭材を得る際に、浸炭温度を900°〜1050℃、浸炭時のカーボンポテンシャルを0.7〜1.0%、浸炭時間を60〜240分、恒温保持温度を820〜870℃、恒温保持処理時のカーボンポテンシャルを0.7〜0.9%、焼戻し温度を160〜200℃、焼戻し時間を60〜180分とする工程と、浸炭材に対して切削加工を施して製品部材を得る際に、切削工具のすくい角を−30°超−5°以下、工具のノーズを0.4〜1.2mm、送りを0.1mm/rev超0.4mm/rev以下、切削速度を50〜150m/分、切り込みを0.05mm〜0.2mmとする工程とを含む製品部材及びその製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は、製品部材の製造方法に関し、さらに詳しくは、浸炭焼入れを施す製品部材の製造方法に関する。また、本発明は製品部材に関する。
自動車や産業機械に使用される製品部材(例えば、機械構造部品)には、表面硬化処理の一種である浸炭焼入れが施されるものがある。
浸炭焼入れを施す製品部材の製造方法としては、例えば次の方法が挙げられる。即ち、初めに、最終製品に近い形状の粗部材を製造する。製造された粗部材に対して、切削加工を施して、最終製品にさらに近い中間部材を製造する。中間部材に対して浸炭焼入れ、研削加工を順次施して、製品部材を得る。
このように製造された部品は、小型化、軽量化が進み、部品にかかる負荷が増加する傾向にある。この結果、摺動面の耐摩耗性(特に高負荷が繰り返されることによる耐疲労摩耗)や、繰り返し数が107回オーダでの曲げ疲労強度(以下、単に「曲げ疲労強度」と称する場合がある)、さらには高負荷が繰り返される状況下における繰り返し数が104回オーダでの曲げ疲労強度(以下、単に「低サイクル曲げ疲労強度」と称する場合がある)に優れた部品の開発が、益々要請されている。疲労強度を高める技術は、特許文献1〜特許文献3に開示されている。
特許文献1には、鋼部材に、強度向上のためのショットピーニングを施し、さらにその極表層部を切削加工する技術が開示されている。特許文献1では、当該技術により、疲労特性及びショットピーニング加工部の被削性が向上する、とされている。
特許文献2には、浸炭焼入れ及び焼戻しを施して表面硬化層を形成した後、表面硬化層を研削除去する技術が開示されている。特許文献2では、当該技術により、疲労強度が高まる、とされている。
特許文献3には、金属部材に対して、すくい面をネガティブ方向に30〜50°の範囲で傾けた工具を用いて旋削加工を施す技術が開示されている。特許文献3では、当該技術により、ショットピーニングのような工程を施さなくても、圧縮残留応力を付与して疲労強度を高めることができる、とされている。
特開平3−120313号公報 特開平8−260125号公報 特開2007−210070号公報
ところで、昨今の機械構造部品、例えば、歯車、シャフトおよびCVTプーリーに用いられる機械構造部品については、摺動と衝撃荷重が繰り返し付加されることがあるという理由から、優れた耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が同時に要求される。しかしながら、特許文献1〜特許文献3に開示された技術により得られる製品部材では、表層の組織が不適切であるという理由により、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を同時に高いレベルで発現させることは困難な場合がある。さらに、コスト面を考慮した場合には、切削加工時に工具摩耗を抑制することも望まれる。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、切削加工時の工具摩耗を抑制できる(被削性に優れる)製品部材の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記の諸特性を有する製品部材を提供することも併せて目的とする。
本発明者らは、切削加工時の切削摩耗を抑制でき、かつ、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、しかも被削性にも優れた製品部材を得ることのできる製造方法について、鋭意検討した。その結果、製品部材の材料となる粗部材の化学組成と、浸炭後の金属組織及び硬さと、切削加工後の金属組織及び算術平均粗さと、を制御すれば、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、しかも被削性にも優れた製品部材を製造できる、との知見を得た。以上の知見に基づき、本発明者らは発明を完成した。その要旨は以下のとおりである。
[1]質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.25%以下、Mn:0.4〜2.0%、P:0.050%以下、S:0.005〜0.020%、Cr:0.4〜3.5%、Nb:0.01〜0.06%、Al:0.010〜0.050%、N:0.005〜0.025%及びO:0.003%以下を含有し、かつ、残部がFe及び不可避的不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する鋼材を加工して粗部材を得る工程と、
上記粗部材に対して浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して浸炭材を得る工程であって、
浸炭温度を900°以上1050℃以下とし、浸炭時のカーボンポテンシャルを0.7%以上1.0%以下とし、浸炭時間を60分以上240分以下とし、恒温保持温度を820℃以上870℃以下とし、恒温保持処理時のカーボンポテンシャルを0.7%以上0.9%以下とし、焼戻し温度を160℃以上200℃以下とし、焼戻し時間を60分以上180分以下とすることで、
上記浸炭材において、最終形態である製品部材の表面に相当する位置から20μmの深さ位置に相当する基準位置での組織が、マルテンサイトと体積率で12〜35%の残留オーステナイトとを含むとともに、上記マルテンサイト及び残留オーステナイト以外の他の相が体積率で2%以下となる工程と、
上記浸炭材に対して切削加工を施して製品部材を得る工程であって、
切削工具のすくい角を−30°超−5°以下とし、工具のノーズを0.4mm以上1.2mm以下とし、送りを0.1mm/rev超0.4mm/rev以下とし、切削速度を50m/分以上150m/分以下とし、切り込みを0.05mm以上0.2mm以下とすることで、
上記基準位置での組織において、残留オーステナイトの体積率が20%以下となり、切削前の残留オーステナイト体積率(RI)と切削後の残留オーステナイトの体積率(RF)から式(A)によって求められる残留オーステナイト減少率Δγが35%以上となり、
表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下となる工程と、
を備える、製品部材の製造方法。
1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr≧2.35 (1)
11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr≦33.8 (2)
ここで、式(1)、(2)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
Δγ=(RI−RF)/RI×100 (A)
[2] 上記鋼材が、Feの一部に代えて、Pb:0.5%以下を含有する、請求項1に記載の製品部材の製造方法。
[3] 上記鋼材が、Feの一部に代えて、V及びTiからなる群から選択される1種以上を総含有量で0.1%以下含有する、請求項1又は2に記載の製品部材の製造方法。
[4] 上記鋼材が、Feの一部に代えて、Mo:3.0%以下、Ni:2.5%以下からなる群から選択される1種以上を含有し、かつ、式(1)及び式(2)に代えて、式(3)及び式(4)を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の製品部材の製造方法。
1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr+1.77×Mo+0.63×Ni≧2.35 (3)
11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr+6.7×Mo+6.2×Ni≦33.8 (4)
ここで、式(3)、(4)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
[5] 質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.25%以下、Mn:0.4〜2.0%、P:0.050%以下、S:0.005〜0.020%、Cr:0.4〜3.5%、Nb:0.01〜0.06%、Al:0.010〜0.050%、N:0.005〜0.025%及びO:0.003%以下を含有し、かつ、残部がFe及び不可避的不純物からなり、式(5)及び式(6)を満たす化学組成を有し、
表層部のC含有量が0.6〜0.95%であり、
表面から20μmの深さ位置での組織がマルテンサイトと残留オーステナイトとの合計で98%以上であり、
表面から200μm深さまでの範囲における最大残留オーステナイト体積率が10〜30%であり、
上記深さ位置での、残留オーステナイト体積率(R2)と、最大残留オーステナイト体積率(R1)から式(B)によって求められる予想残留オーステナイト減少率Δγpが20%以上であり、
表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、
表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である、
ことを特徴とする、製品部材。
1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr≧2.35 (5)
11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr≦33.8 (6)
ここで、式(5)、(6)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
Δγp=(R1−R2)/R1×100 (B)
[6]Feの一部に代えて、Pb:0.5%以下を含有する、請求項5に記載の製品部材。
[7]Feの一部に代えて、V及びTiからなる群から選択される1種以上を総含有量で0.1%以下含有する、請求項5又は6に記載の製品部材。
[8]Feの一部に代えて、Mo:3.0%以下、Ni:2.5%以下からなる群から選択される1種以上を含有し、式(5)及び式(6)に代えて、式(7)及び式(8)を満たす、請求項5から7のいずれか1項に記載の製品部材。
1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr+1.77×Mo+0.63×Ni≧2.35 (7)
11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr+6.7×Mo+6.2×Ni≦33.8 (8)
ここで、式(7)、(8)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
[9] 鋼材に対して、浸炭焼入れ焼戻し及び切削加工を施して得られた、請求項5から8のいずれか1項に記載の製品部材。
本発明に係る製品部材の製造方法では、製品部材の材料となる粗部材の化学組成を調整することを前提に、特に、焼入れ後の浸炭材の金属組織と、切削加工後の製品部材の金属組織及び算術平均粗さと、について改良を加えている。その結果、本発明に係る製品部材の製造方法によれば、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度に優れ、しかも被削性にも優れた製品部材を得ることができる。
図1は、製品部材の軸方向に垂直な面の走査型電子顕微鏡像である。 図2は、二円筒摩耗試験に用いる摩耗試験片の側面図である。 図3は、小野式回転曲げ疲労試験に用いる疲労試験片の側面図である。 図4は、二円筒摩耗試験方法を示す正面図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、単に「実施形態」と称する場合がある)を詳細に説明する。これらの実施形態は、本発明を限定するものではない。また、上記実施形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。さらに、上記実施形態に含まれる各種形態は、当業者が自明の範囲内で任意に組み合わせることができる。なお、図中、同一又は相当する部材には、同一符号を付してその説明は繰り返さない。
<製品部材の製造方法>
本実施形態の製品部材の製造方法は、鋼材を加工して粗部材を得る工程(粗部材製造工程)と、粗部材に対して浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して浸炭材を得る工程(浸炭材製造工程)と、浸炭材に対して切削加工を施して製品部材を得る工程(製品部材製造工程)とを含む。
[粗部材製造工程]
本工程では、製品部材の形状に近い所望の形状を有する粗部材を製造する。初めに、鋼材を準備する。
(鋼材の化学組成(必須要件))
鋼材は以下の化学組成を有する。なお、以下に示す各元素の割合(%)は全て質量%を意味する。
C:0.1〜0.3%
炭素(C)は、製品部材の強度(特に芯部の強度)を高める。C含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、C含有量が高すぎれば、鋼材の強度が高くなりすぎ、粗部材の被削性が低下する。従って、C含有量は0.1〜0.3%である。C含有量の好ましい下限は0.15%である。C含有量の好ましい上限は0.25%である。
Si:0.25%以下
シリコン(Si)は浸炭焼入れ及び焼戻し後の切削加工時に、工具と反応して凝着摩耗を引き起こす。そのため、Siは、工具摩耗を増大させる。従って、Si含有量は0.25%以下である。Si含有量の好ましい上限は0.15%である。
Mn:0.4〜2.0%
マンガン(Mn)は、鋼の焼入れ性を高めるとともに、鋼中の残留オーステナイトを増加させる。Mnを含有するオーステナイトは、Mnを含有しないオーステナイトと比較して、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態しやすい。その結果、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が高まる。Mn含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。そのため、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生せず、切削加工後も残留オーステナイトが減少しにくい。その結果、切削加工後の製品部材の耐摩耗性及、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Mn含有量は0.4〜2.0%である。Mn含有量の好ましい下限0.8%である。Mn含有量の好ましい上限は1.8%である。
P:0.050%以下
燐(P)は不純物である。Pは、粒界に偏析して鋼を脆化する。従って、P含有量は0.050%以下である。P含有量の好ましい上限は0.030%である。P含有量はなるべく低い方がよい。
S:0.005〜0.020%
硫黄(S)は、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を高める。S含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、S含有量が高すぎれば、粗大なMnSを形成して、鋼の熱間加工性、冷間加工性、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、S含有量は0.005〜0.020%である。S含有量の好ましい下限は0.008%である。S含有量の好ましい上限は0.015%である。
Cr:0.4〜3.5%
クロム(Cr)は鋼の焼入れ性を高め、さらに、残留オーステナイトを増加させる。Cr含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、製品部材製造工程における切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生せず、切削加工後も残留オーステナイトが減少しにくい。その結果、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Cr含有量は0.4〜3.5%である。Cr含有量の好ましい下限は0.5%である。Cr含有量の好ましい上限は3.1%である。
Nb:0.01〜0.06%
ニオブ(Nb)は、C、Nと結合してNbC、NbN、Nb(C、N)を形成することで、浸炭加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する効果がある。その結果、使用時に亀裂の発生を抑制して、部品の低サイクル曲げ疲労強度が顕著に向上する。この効果を安定して得るためには、0.01%以上のNbを含有させる必要がある。一方、Nbの含有量が0.06%を超えると、NbC、NbN、Nb(C、N)が粗大化し、オーステナイト粒粗大化抑制の効果がむしろ低下する。従って、Nbの含有量を0.01〜0.06%とした。Nbの含有量は、0.015%以上とすることが好ましく、0.02%以上とすることが一層好ましい。また、Nbの含有量は0.05%以下とすることが好ましく、0.04%以下とすることが一層好ましい。
Al:0.010〜0.050%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Alはさらに、Nと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する。その結果、鋼の強度が高まる。Al含有量が低すぎれば、この効果は得られない。一方、Al含有量が高すぎれば、硬質で粗大なAlが生成して、鋼の被削性が低下し、さらに、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度も低下する。従って、Al含有量は0.010〜0.050%である。Al含有量の好ましい下限は0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.040%である。
N:0.005〜0.025%
窒素(N)は窒化物を形成して結晶粒を微細化し、鋼の曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を高める。N含有量が低すぎれば、この効果が得られない。一方、N含有量が高すぎれば、粗大な窒化物が生成して鋼の靱性が低下する。従って、N含有量は0.005〜0025%である。N含有量の好ましい下限は0.010%である。N含有量の好ましい上限は0.020%である。
O:0.003%以下
酸素(O)は不純物である。OはAlと結合して硬質な酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物は鋼の被削性を低下させ、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度も低下させる。従って、O含有量は0.003%以下である。O含有量はなるべく低い方がよい。
上記鋼材の化学組成の残部はFe及び不可避的不純物である。不可避的不純物とは、鋼の原料として利用される鉱石やスクラップ、又は、製造工程の環境等から混入する成分であって、鋼材に意図的に含有させた成分ではない成分を意味する。
(各元素の含有量の関係(必須要件))
鋼材を構成する各元素の含有量の関係は、以下に示す式(1)及び式(2)を満たす。
1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr≧2.35 (1)
11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr≦33.8 (2)
ここで、式(1)、(2)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
式(1)について
F1=1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Crと定義する。F1は、鋼の焼入れ性を表すパラメータである。F1が低すぎれば、鋼の焼入れ性が低くなる。この場合、強度の低いフェライト及びパーライトが生成し、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、F1は2.35以上である。F1の好ましい下限は3.0である。F1の上限は、製品部材の靭性確保のため8.0とすることが好ましい。
式(2)について
F2=−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Crと定義する。F2は、オーステナイトの安定度を表すパラメータである。F2が低すぎれば、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低くなる。一方、F2が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、F2は11.3以上33.8以下である。F2の好ましい下限は12.0である。F2の好ましい上限は33.0である。
(鋼材の化学組成(任意選択的要件))
鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Pbを含有してもよい。
Pb:0.5%以下
鉛(Pb)は任意選択的元素であり、含有されていなくてもよい。含有される場合、工具摩耗の低下及び切り屑処理性の向上が実現される。しかしながら、Pb含有量が高すぎれば、鋼の強度及び靱性が低下し、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度も低下する。従って、Pb含有量は0.5%以下とすることが好ましい。Pb含有量のさらに好ましい上限は0.4%である。なお、上記の効果を得るためにはPb含有量を0.03%以上とすることが好ましい。
鋼材はさらに、Feの一部に代えて、V及びTiからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
V及びTi:総含有量で0.1%以下
バナジウム(V)及びチタン(Ti)は任意選択的元素であり、含有されていなくてもよい。これらの元素は、C及びNと結合して、析出物を形成する。これらの元素の析出物は、AlNによる焼入れ部の結晶粒微細化を補完する。これらの元素の析出物は、製品部材の耐摩耗性を高める。しかしながら、これらの元素の総含有量が0.1%を超えれば、析出物が粗大化し、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度及び被削性が低下する。従って、V及びTiの総含有量は0.1%以下であることが好ましい。任意選択的元素として、V及びTiのいずれか1種以上が含有されれば、上記効果が得られる。V及びTiの総含有量のさらに好ましい上限は0.08%である。V及びTiの総含有量の好ましい下限は0.01%である。
鋼材はさらに、Feの一部に代えて、Mo及びNiからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。
Mo:3.0%以下
モリブデン(Mo)は任意選択的元素であり、含有されていなくてもよい。含有される場合、Moは鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。Moはさらに、焼戻し軟化抵抗を高め、耐摩耗性を高める。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。その結果、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Mo含有量は3.0%以下とすることが好ましい。Mo含有量のさらに好ましい上限は2.0%である。Mo含有量の好ましい下限は0.1%である。
Ni:2.5%以下
ニッケル(Ni)は任意選択的元素であり、含有されていなくてもよい。含有される場合、Niは鋼の焼入れ性を高め、残留オーステナイトを増加させる。Niはさらに、鋼の靱性を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、浸炭焼入れ及び焼戻し後の残留オーステナイトが過剰となる。この場合、焼戻し後の切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。その結果、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、Ni含有量は2.5%以下であることが好ましい。Ni含有量のさらに好ましい上限は2.0%である。Ni含有量の好ましい下限は0.1%である。
(各元素の含有量の関係(任意選択的要件))
鋼材を構成する各元素の含有量の関係は、以下に示す式(3)及び式(4)を満たすことが好ましい。
1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr+1.77×Mo+0.63×Ni≧2.35 (3)
11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr+6.7×Mo+6.2×Ni≦33.8 (4)
ここで、式(3)、(4)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
式(3)について
F3=1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr+1.77×Mo+0.63×Niと定義する。F3は、鋼の焼入れ性を表すパラメータである。F3は、上記F1にMoの項及びNiの項を加えたものである。F3が低すぎれば、鋼の焼入れ性が低くなり、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、F3は2.35以上であることが好ましい。F3のより好ましい下限は3.0である。製品部材の靭性確保のためF3の好ましい上限は8.0である。
式(4)について
F4=−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr+6.7×Mo+6.2×Niと定義する。F4は、オーステナイトの安定度を表すパラメータである。F4は上記F2にMoの項及びNiの項を加えたものである。F2と同様に、F4が低すぎても高すぎても、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。従って、F4は11.3〜33.8であることが好ましい。F4のより好ましい下限は12.0である。F4のより好ましい上限は33.0である。
(粗部材の製造)
上記化学組成を有する鋼材を加工して粗部材を得る。加工方法は周知の方法を採用することができる。加工方法としては、例えば、熱間加工、冷間加工、切削加工等が挙げられる。粗部材は、製品部材に近い形状とする。
[浸炭材製造工程]
上記のようにして得られた粗部材に対して、浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して浸炭材を得る。これにより、浸炭材において、最終形態である製品部材の表面に相当する位置から20μmの深さ位置に相当する基準位置での組織を、マルテンサイトと体積率で12〜35%の残留オーステナイトとを含むとともに、マルテンサイト及び残留オーステナイト以外の他の相が体積率で2%以下とする。
(浸炭焼入れ)
浸炭焼入れ工程は、初めに、浸炭処理を施し、その後、恒温保持処理を施す。浸炭処理及び恒温保持処理は、次の条件で行う。
(浸炭処理)
浸炭温度(T1):900〜1050℃
浸炭温度T1が低すぎれば、粗部材の表層が十分に浸炭されない。この場合、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なく、表層の硬さも低い。そのため、製品部材の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低くなる。一方、浸炭温度T1が高すぎれば、オーステナイト粒が粗大化して耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低下する。従って、浸炭温度T1は900〜1050℃である。浸炭温度T1の好ましい下限は910℃であり、好ましい上限は1000℃である。
カーボンポテンシャル(Cp1):0.7〜1.0%
カーボンポテンシャルCp1が低すぎれば、十分な浸炭がされない。この場合、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なく、表層の硬さも低い。そのため、製品部材の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低下する。一方、カーボンポテンシャルが高すぎれば、浸炭時に析出した硬質な初析セメンタイトが浸炭焼入れ後にも2%を超えて残存する。この場合、製品部材製造工程における切削加工時の工具摩耗が増大し、浸炭材の被削性が低下し、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度も低下する。従って、カーボンポテンシャルCp1は0.7〜1.0%である。カーボンポテンシャルCp1は浸炭処理時に上記範囲内で変動させてもよい。
浸炭時間(t1):60〜240分
浸炭処理の時間(浸炭時間)t1が短すぎれば、十分な浸炭がされない。一方、浸炭時間t1が長すぎれば、生産性が低下する。従って、浸炭時間は60〜240分である。
(恒温保持処理)
浸炭処理後、恒温保持処理を施す。恒温保持処理は、次の条件で行う。
恒温保持温度(T2):820〜870℃
恒温保持温度T2が低すぎれば、カーボンポテンシャル等の雰囲気制御が困難になる。この場合、残留オーステナイトの体積率が調整しにくい。一方、恒温保持温度T2が高すぎれば、焼入れ時に生じる歪が増大して、焼割れが発生する場合がある。従って、恒温保持温度T2は820〜870℃である。
カーボンポテンシャル(Cp2):0.7〜0.9%
恒温保持処理時におけるカーボンポテンシャルCp2が低すぎれば、浸炭時に侵入したCが再度外部に放出される。この場合、浸炭焼入れ後の残留オーステナイトが少なく、表層硬さも低い。その結果、製品部材の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低下する。一方、カーボンポテンシャルCp2が高すぎれば、硬質な初析セメンタイトが析出する。この場合、製品部材製造工程における切削加工時の工具摩耗が増大し、浸炭材の被削性が低下し、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度も低下する。従って、カーボンポテンシャルCp2は0.7〜0.9%である。
恒温保持時間(t2):20〜60分
恒温保持時間t2が短すぎれば、粗部材の温度が均一にならず、焼入れ時に生じる歪が増大する。この場合、浸炭材に焼割れが発生する場合がある。一方、恒温保持時間t2が長すぎれば、生産性が低下する。従って、恒温保持時間t2は20〜60分である。
(焼入れ処理)
恒温保持処理後、周知の方法で焼入れ処理を施す。焼入れ処理は、例えば、油焼入れとすることができる。
(焼戻し処理)
浸炭焼入れ処理を施した後、焼戻し処理を施す。焼戻し処理を施せば、製品部材の靱性が高まる。さらに、Cが拡散して炭化物の前駆体を生成するため、残留オーステナイトが不安定化して、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が発生しやすくなり、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が向上する。焼戻し処理は、次の条件で行う。
焼戻し温度(T3):160〜200℃
焼戻し温度T3が低すぎれば、焼戻しによる上記効果が得られない。一方、焼戻し温度が高すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理ひずみから解放されて安定化するため、切削加工時に十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生せず、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度の向上に貢献しない。従って、焼戻し温度T3は160〜200℃である。
焼戻し時間(t3):60〜180分
焼戻し時間t3が短すぎれば、上記焼戻しの効果が得られない。一方、焼戻し時間t3が長すぎれば、残留オーステナイトが著しく不安定化して、焼戻し中に残留オーステナイトが分解する。さらに、分解せずに残留したオーステナイトは、熱処理ひずみから解放されて安定化するため、切削加工時に十分に加工誘起マルテンサイト変態が発生せず、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度の向上に貢献しない。従って、焼戻し時間は60〜180分である。
(浸炭材製造工程終了後の浸炭材の組織及び硬さ)
上述の条件で浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して得られた浸炭材について、最終形態である製品部材の表面に相当する位置(以下、単に「最終表面位置」と称する場合がある)から20μm深さの位置に相当する基準位置の組織は、マルテンサイトと体積率で12〜35%の残留オーステナイトとを含有し、マルテンサイト及び残留オーステナイト以外の他の相が体積率で2%以下である。ここで、最終形態である製品部材の表面に相当する位置とは、浸炭材の表面から、後述する切削加工時(製品部材製造工程)に設定する切り込み分(厚み方向寸法)を控除した位置をいう。
なお、浸炭材における基準位置の組織観察は次の方法で実施される。即ち、浸炭材において、最終形態である製品部材の表面に相当する位置から20μm深さ位置である基準位置を含む試験片を用意する。この試験片を5%ナイタール溶液で腐食する。腐食された面を、倍率1000倍の光学顕微鏡にて3視野観察する。このとき、基準位置を視野の中心にする。視野の中心から浸炭材の表面方向に10μm、視野の中心から浸炭材の表面と反対の方向に10μm、視野の中心から浸炭材の表面方向と垂直な両方向に各々50μmの、20μm×100μmの範囲の平面内において、各相の面積率を通常の画像解析方法によって求める。得られた各相の面積率を各相の体積率と定義する。
光学顕微鏡による組織観察では、残留オーステナイトはマルテンサイトに含まれる。つまり、光学顕微鏡では、マルテンサイトと残留オーステナイトとの区別ができない。そこで、浸炭材の残留オーステナイトの体積率(RI)を、次の方法で測定する。浸炭材において、最終形態である製品部材の表面に相当する位置から20μm位置深さの基準位置を含むサンプルを採取する。基準位置を含む表面に対して、電解研磨を行う。11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液を用意する。この電解液を用いて、基準位置を含む表面に対して、電圧20Vで電解研磨を行う。
電解研磨された表面に対して、X線回折法により解析を行う。X線回折には、株式会社リガク製の商品名RINT−2500HL/PCを使用する。光源にはCr管球を使用する。X線回折により得られたbcc構造の(221)面と、fcc構造の(220)面の回折ピークの積分強度比に基づいて、残留オーステナイトの体積率(RI)を測定する。
浸炭材製造工程終了後の基準位置での残留オーステナイトの体積率は12〜35%である。残留オーステナイトは、浸炭焼入れ及び焼戻し後の切削加工時に、加工誘起マルテンサイト変態する。これにより、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が高まる。基準位置における残留オーステナイトの体積率が低すぎれば、この効果が得られない。一方、基準位置における残留オーステナイトの体積率が高すぎれば、切削加工後にも多くのオーステナイトが残留する。この場合、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度の向上は期待できない。
浸炭材の基準位置におけるマルテンサイト及び残留オーステナイト以外の他の相(例えば、フェライト、パーライト、初析セメンタイト)の体積率は2%以下である。浸炭材の基準位置にフェライト、パーライト等の強度の低い相が存在すれば、これらの相は切削加工後も維持されるため、これらの相を基点に亀裂が発生しやすく、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。また、初析セメンタイトが存在すれば、工具摩耗が増大し、優れた被削性を担保することができない。
[製品部材製造工程(切削加工)]
浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施した後、切削加工を施す。切削加工により、製品部材の形状に仕上げつつ、加工誘起マルテンサイト変態を発生させる。これにより、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が高まる。切削加工は、次の条件で行う。
切削工具のすくい角α:−30°<α≦−5°
すくい角αが−5°よりも大きければ、切削加工時に加工誘起マルテンサイト変態が十分に発生しない。そのため、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、すくい角が−30°以下であれば、切削抵抗が大きくなりすぎ、被削性が低下し、工具摩耗が増大し、場合によっては工具が欠損する。従って、すくい角αは、−30°<α≦−5°である。好ましいすくい角αは−25°≦α≦−15°である。
工具のノーズr:0.4〜1.2mm
工具のノーズrが小さすぎれば表面粗さが大きくなりすぎ、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。表面粗さが大きくなった場合には、仕上げ研磨を行って、表面粗さを小さくしなければならない。一方、工具のノーズrが大きすぎれば、切削抵抗が大きくなるため、被削性が低下し、工具摩耗が増大する。従って、工具のノーズrは0.4〜1.2mmである。
送りf:0.1超〜0.4mm/rev(回転)
送りfが小さすぎれば、切削抵抗、つまり、工具が被削材に押し付けられる力が小さすぎる。この場合、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、送りが大きすぎれば、切削抵抗が大きくなる。この場合、工具摩耗が大きくなり、被削性が低下する。従って、送りfは0.1超〜0.4mm/revである。送りfの好ましい下限は0.2mm/revである。
切削速度v:50〜150m/分
切削速度vが大きすぎれば、切削温度が上昇し、凝着摩耗が発生する。この場合、工具摩耗が増大し、被削性が低下する。一方、切削速度が小さすぎれば、切削能率が低下し、製造効率が低下する。従って、切削速度vは50〜150m/分である。
切り込みd:0.05〜0.2mm
切り込みdが小さすぎれば、切削抵抗が小さくなる。この場合、十分な加工誘起マルテンサイト変態が発生しない。そのため、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、切り込みvが大きすぎれば、切削抵抗が大きくなる。この場合、工具摩耗が大きくなり、被削性が低下する。従って、切り込みdは0.05〜0.2mmである。切り込みdの好ましい下限は0.08mmであり、好ましい上限は0.15mmである。
(製品部材の組織及び表面の算術平均粗さ)
以上に示す切削加工により製品部材が得られる。製品部材の上記基準位置において、残留オーステナイトの体積率は20%以下である。切削加工前後における残留オーステナイトの体積減少率は35%以上である。
切削加工後の製品部材の残留オーステナイトの体積率(RF)についても、前述の浸炭材の残留オーステナイト体積率(RI)と同様の方法にて測定する。製品部材でも、基準位置を含む表面を有するサンプルを採取する。このサンプルに対して、浸炭材に対して行った電解研磨と同じ電解研磨を行う。電解研磨後のサンプルに対して、X線回折法による解析を行い、残留オーステナイトの体積率(RF)を測定する。
求めた体積率(RI)及び(RF)に基づいて、式(A)により、切削加工前後の残留オーステナイトの体積減少率Δγを求める。
減少率Δγ=(RI−RF)/RI×100 (A)
製品部材の基準位置での残留オーステナイトの体積率は20%以下である。切削加工後の残留オーステナイトの体積率が高すぎれば、硬質なマルテンサイトが得られず、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。
切削加工前後の残留オーステナイトの体積減少率Δγは35%以上である。切削加工により残留オーステナイトが加工誘起マルテンサイト変態することにより、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が高まる。体積減少率Δγが低すぎれば、この効果が十分に得られない。
製品部材の表面の算術平均粗さRaは0.8μm以下である。製品部材の表面の算術平均粗さRaが大きすぎれば、製品部材の摺動時の摩擦抵抗が大きくなり、製品部材の耐摩耗性が低下する。
算術平均粗さRaは、JIS B0601(2001)に規定される算術平均粗さRaに相当し、この規定に準拠する。算術平均粗さRaの評価方法及び測定機の特定は、JIS B0633(2001)及びJIS B0651(2001)の規定に準拠する。
製品部材の表面の算術平均粗さRaが0.8μmよりも大きい場合、仕上げ研磨を行って、算術平均粗さRaを0.8μm以下にする。仕上げ研磨としては、例えばラップ研磨を採用することができる。
<製品部材>
本実施形態の製品部材は、上述した成分を含むとともに、上記式(1)、(2)を満たす化学組成を有し、表層部のC含有量が0.6〜0.95%であり、表面から20μmの深さ位置での組織がマルテンサイトと残留オーステナイトとの合計で98%以上(換言すれば、その他の相が体積率で2%以下)であり、表面から200μm深さまでの範囲における最大残留オーステナイト体積率(R1)が10〜30%であり、上記深さ位置での、残留オーステナイト体積率(R2)と、最大残留オーステナイト体積率(R1)から式(B)によって求められる予想残留オーステナイト減少率Δγpが20%以上であり、表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である。ここで、最大残留オーステナイト体積率R1とは、製品部材の表面から10μmピッチで200μm深さまで測定した残留オーステナイト体積率のうち最大の値を意味する。
Δγp=(R1−R2)/R1×100 (B)
[表層部のC含有量:0.6〜0.95%]
製品部材の表層部に含まれるCは、製品部材の耐摩耗性及び(曲げ)疲労強度を高める。ここで、部品表層部のC含有量は以下の手法で測定した。
部品表層50μmを切削加工によって切り出し、その切粉中のC含有量を発光分光分析で定量測定し、その値を表層部のC含有量とした。また、部品表層部のC濃度は、EPMA(電子線マイクロアナライザ)を用いて定量分析することもできる。
表層部に含まれるC含有量(Cs)が低ければ、上述した予想残留オーステナイト減少率(Δγp)が小さくなり、表層の硬さも低くなる。その結果、製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。一方、(Cs)が高ければ、製品部材の表層部に硬質な初析セメンタイトが生成する。Csが過度に高く、当該初析セメンタイトが2%を超えた場合には、セメンタイトが疲労破壊の起点となり、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が低下する。さらに、切削加工時の工具摩耗が増大し、被削性が低下する。従って、C含有量(Cs)は0.6〜0.95%である。Csの好ましい下限は0.65%である。Csの好ましい上限は0.90%である。
[表面から20μmの深さ位置での組織]
製品部材の表面から20μmの深さ位置での組織として、フェライト、パーライト等の強度の低い相が存在すれば、これらの相を基点に亀裂が発生しやすく、製品部材の耐摩耗性及び曲げ疲労強度が低くなる。また、初析セメンタイトが存在すれば、製品部材製造工程における切削加工時の工具摩耗が増大するうえに、疲労破壊の起点となるため曲げ疲労強度が低下する。従って、マルテンサイト及び残留オーステナイト合計の体積率を98%以上に限定する。なお、当該体積率の好ましい範囲は99%以上である。
[表面から200μm深さまでの範囲における最大残留オーステナイト体積率(R1)]
残留オーステナイトは、製品部材の仕上げ加工時に加工誘起マルテンサイト変態を生じる。その結果、製品部材の強度が上昇し、耐摩耗性及び曲げ疲労強度が上昇する。このような効果を得るためには、最大残留オーステナイト体積率(R1)が10%以上でなければならない。
一方、残留オーステナイトは軟質であるため、(R1)が30%を超えると。かえって製品部材の強度が低下する。なお、R1の範囲は11〜28%とすることが好ましい。
[上記深さ位置での、残留オーステナイト体積率(R2)と、上記最大残留オーステナイト体積率(R1)から求められる予想残留オーステナイト減少率Δγp]
表面から200μm深さまでの範囲における最大残留オーステナイト体積率(R1)が8〜30%であり、上記深さ位置での、残留オーステナイト体積率(R2)と、最大残留オーステナイト体積率(R1)から式(B)によって求められる予想残留オーステナイト減少率(Δγp)が20%以上である。ここで、表面から20μmの深さ位置での、残留オーステナイト体積率(R2)とは、上述した(製品部材の製造方法の欄で述べた)残留オーステナイト体積率(RF)である。また、最大残留オーステナイト体積率(R1)から式(B)によって求められる予想残留オーステナイト減少率(Δγp)とは、上述した(製品部材の製造方法の欄で述べた)Δγに類似した値であり、いずれも製品材製造工程における切削加工時の、オーステナイトの加工誘起変態の程度を表す。したがって、Δγが大きくなるほどΔγpも大きくなる。
予想残留オーステナイト減少率(Δγp)は、切削加工時の加工誘起マルテンサイト変態の程度を表す。Δγpが大きいと、切削時により多くの加工誘起マルテンサイト変態が発生したことを意味し、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が向上する。このような効果を得るためにはΔγpが20以上でなければならない。なお、好ましいΔγpの値は25以上である。
[表面の塑性流動組織の厚さ:1〜15μm]
製品部材の表面の塑性流動組織の厚さは、次の方法で測定される。製品部材の表面を含み、製品部材の軸方向(例えば、ダンベル状の試験片の場合はその長手方向)に垂直な面(横断面)が観察面になるような試験片を採取する。鏡面研磨した試験片を、5%ナイタール溶液で腐食する。腐食された面を、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察する。得られたSEM像の一例を図1に示す。同図において、塑性流動組織11は、中心部12に対して組織が製品部材の周方向(図1において紙面の左方向から右方向)に湾曲している部分であり、製品部材の表面から湾曲した組織の端までの距離を塑性流動組織11の厚さと定義した。
切削加工時に、浸炭材の表層部に大きな変形が生じることで、塑性流動組織が形成される。この塑性流動組織は硬質であり、厚さが1μm以上になると製品部材の耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が向上する。しかしながら、塑性流動組織は脆いため、その厚さが薄い場合にはある程度変形が可能であるが、厚さが15μmを超えると、割れが生じて亀裂発生の起点となるため、耐摩耗性、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度が逆に低下する。さらに、組成流動組織はその厚さが15μmを超えると、被削性が低下し、切削加工時の工具への負担が大きくなって工具寿命が著しく低下する。以上により、製品部材の表層の塑性流動組織の厚さは1〜15μmに限定した。
[表面の算術平均粗さRa:0.8μm以下]
製品部材表面の算術平均粗さRaについては、製品部材の製造方法の欄で上述したとおりである。
真空溶解炉を用いて、表1に示す化学組成を有する150kgの溶鋼A〜Tを得た。
各鋼種の溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを得た。各インゴットを1250℃で4時間加熱した後、熱間鍛造を行って直径35mmの丸棒を得た。熱間鍛造時の仕上げ温度は1000℃であった。
各丸棒に対して焼準処理を行った。焼準処理温度は925℃であり、焼準処理時間は2時間であった。焼準処理後、丸棒を室温(25℃)まで放冷した。
放冷後の丸棒に対して機械加工を実施して、図2に示す摩耗試験片21及び図3に示す回転曲げ疲労試験片31の元となる粗部材を製造した。製品部材相当の摩耗試験片21は、横断面が円形であり、円柱状の試験部22と、試験部22の両端に配置された円柱状の一対のつかみ部23とを備えている。図2に示すとおり、試験部22の外径は26mm、試験部22の長さは28mmであり、摩耗試験片21の全体長さは130mmであった。曲げ疲労試験片31は、横断面が円形であり、中央部に曲率半径1mmのノッチがある。また、放冷後の丸棒に対して機械加工を施して、直径30mm、長さ300mmの棒状の被削性試験片(図示せず)を製造した。
摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31の粗部材、並びに上記被削性試験片に対して、表2に示す条件a〜lに基づいて、浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施した。浸炭焼入れにはガス浸炭炉を利用した。焼戻し後、熱処理歪みを取り除く目的で、つかみ部23の仕上げ加工を実施した。表2に示す、Cp1、Cp2、T1、T2、T3、t1、t2、t3は、それぞれ、上述したカーボンポテンシャル、温度、時間である。
浸炭焼入れ及び焼戻し後の浸炭材(摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31の粗部材、並びに上記被削性試験片)は、切削加工前に、後述する方法で、残留オーステナイトの体積率の測定、組織観察試験を行った。
浸炭材となった摩耗試験片21の試験部22及び曲げ疲労試験片31のノッチに対して、表3に示す条件で切削加工を施して、製品部材相当の摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31を得た。但し、曲げ疲労試験片31に対しては、工具のノーズrは0.4mmに固定した。切削加工は、1パス、すなわち表3に示す切り込み量を1回だけ適用した。
切削工具には、cBN粒子を主成分とし、セラミックスを結合材とした焼結材の表面に、TiAlNベースのセラミックコーティングを施したcBN焼結工具を利用した。
そして、上記の切削加工を施した後、摩耗試験片21及び曲げ疲労試験片31を作成した。摩耗試験片21については、#2000のエメリー紙を用いて仕上げ研磨を実施した。仕上げ研磨後の各試験番号の摩耗試験片21及び切削加工後の曲げ疲労試験片31の表面の算術平均粗さRaは0.8μm以下であった。
[残留オーステナイトの体積率(RF)の測定]
製品部材相当の試験片(摩耗試験片21)表面に対して、電解研磨を施した。具体的には、試験片表面に穴の直径3mmのマスキングを施し、11.6%の塩化アンモニウムと、35.1%のグリセリンと、53.3%の水とを含有する電解液中において、試験片を陽極として、20Vの電圧で電解研磨を施し、表面から20μm深さの位置の表面(以下、観察面という)を露出させた。
観察面に対して、上述の方法でX線回折を実施し、表面から20μm位置の残留オーステナイトの体積率(RF(R2))を求めた。
観察面に対して、同様の方法で電解研磨を実施し、穴の深さを10μm深くして30μmとし、その表面に対して上述の方法でX線回折を実施し、表面から30μm位置の残留オーステナイトの体積率を求めた。この過程を繰り返すことで、10μmずつ穴を深くし、その都度残留オーステナイトの体積率(RF(R2))を測定することを、穴の深さが200μmとなるまで繰り返した。そしてその中で得られた最大の残留オーステナイト体積率をR1とした。
[組織観察試験]
製品部材相当の試験片において、残留オーステナイト以外の他の組織の体積率を、上述した方法で測定した。
[二円筒摩耗試験(RP試験)]
図2に示す摩耗試験片21を用いて、図4に示す二円筒摩耗試験(RP試験)を行った。図4は、RP試験方法を示す正面図である。図4に示すとおり、RP試験において、摩耗試験片21と大ローラ試験片41とを準備した。大ローラ試験片41は円板状であり、直径が130mm、円周面の幅が18mm、円周面のクラウニング曲率半径が700mmであった。大ローラ試験片は、JIS規格SCM882に相当する化学組成を有し、浸炭焼入れ処理がなされていた。大ローラ試験片41の円周面を摩耗試験片21の表面に接触させ、表4に示す条件でRP試験を行った。
試験後、摩耗試験片21の表面のうち、大ローラ試験片41と接触した部分の摩耗深さを測定した。摩耗深さの測定には、触針式の表面粗さ計を用いた。測定長さは26mmとして、摩耗試験片21の軸方向に触針を走査して、断面曲線を得た。各試験片において、円周方向に90°刻みの4箇所で、断面曲線を測定した。得られた断面曲線から、大ローラ試験片41が接触していない部分と、大ローラ試験片41が接触して最も摩耗した部分との高さの差を測定した。測定された高さの差の4箇所の平均値を、各試験番号の摩耗試験片21の摩耗深さ(RP摩耗量:単位はμm)と定義した。本試験においては、RP摩耗量が30μm以下の場合が、従来技術に対して優れた耐摩耗性を有するという点で合格である。
[回転曲げ疲労試験(曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度)]
図3に示す疲労試験片31を用いて、試験荷重を50MPaピッチで変化させて小野式回転曲げ疲労試験を行い、曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を求めた。
なお、繰り返し数10回に達する前に破断した応力の最小値(σf,min)と、(σf,min)より低い応力で最大の未破断点の応力(σr,max)の中間点(疲労限度)を求め、曲げ疲労強度とした。また、種々の荷重条件で試験片が破断するまで回転曲げ疲労試験を行い、繰り返し数1×104回での時間強度を算出し、低サイクル曲げ疲労強度とした。本試験においては、疲労限度(曲げ疲労強度)及び低サイクル曲げ疲労強度が、それぞれ750MPa及び900MPa以上の場合が、従来技術に対して優れた曲げ疲労強度及び低サイクル曲げ疲労強度を有するという点で合格である。
[工具摩耗測定]
切削工具の工具摩耗を逃げ面摩耗量(μm)によって評価した。方法は以下の通りである。即ち、浸炭焼入れ及び焼戻し後の被削性試験片(浸炭材相当)を、表3に示す粗部材と同じ切削条件で、1本あたり1パスの切削加工を行った。複数の試験片について切削加工を繰り返し、合計の切削時間が5分となるまで切削加工した後に、切削工具の逃げ面摩耗幅を測定した。逃げ面摩耗幅の測定には、マイクロスコープを用いた。工具逃げ面が測定物台と平行になるように工具を設置し、倍率200倍で摩耗部を観察した。この時の、摩耗部中心付近で摩耗が最大となる部分の切れ刃から摩耗先端部までの距離を測定し、逃げ面摩耗量とした。本測定においては、逃げ面摩耗量が40μm以下の場合が、従来技術に対して切削加工時の工具摩耗を抑制することができるという点で合格である。
[試験結果]
以上に説明した各試験等に関する結果を表5、表6に示す。
表5及び表6から明らかなように、本発明に係る製品部材の製造方法についての各条件を満たす(即ち、粗部材の化学組成を調整することを前提に、特に、焼入れ後の浸炭材の金属組織及び硬さと、切削加工後の製品部材の金属組織及び算術平均粗さと、について改良を加えている)試験番号1〜10、21〜24、32〜34、44〜46、50、51、54、57については、浸炭材の組織、並びに、製品部材の組織及び表面の算術平均粗さRa、のいずれについても、優れた結果が得られていることが判る。従って、これらの試験例の製造方法によれば、耐摩耗性、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度及び被削性に優れた製品部材を得ることができることが証明された。
これに対し、表5及び表6から明らかなように、本発明に係る製品部材の製造方法についての各条件を満たさない(即ち、粗部材の化学組成を調整、焼入れ後の浸炭材の金属組織、切削加工後の製品部材の金属組織、及び当該製品部材の算術平均粗さの、少なくともいずれかについて改良を加えていない)試験番号11〜20、25〜31、35〜43、47〜49、52、53、55、56、58〜73については、浸炭材の組織、当該部材のビッカース硬さ、製品部材の組織及び当該部材の表面の算術平均粗さRa、の少なくともいずれかについて、優れた結果が得られていないことが判る。従って、これらの試験例の製造方法によれば、耐摩耗性、曲げ疲労強度、低サイクル曲げ疲労強度及び被削性に優れた製品部材を得ることができるとはいえない。
11 塑性流動組織
12 中心部
21 摩耗試験片
22 試験部
23 つかみ部
31 曲げ疲労試験片
41 大ローラ

Claims (9)

  1. 質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.25%以下、Mn:0.4〜2.0%、P:0.050%以下、S:0.005〜0.020%、Cr:0.4〜3.5%、Nb:0.01〜0.06%、Al:0.010〜0.050%、N:0.005〜0.025%及びO:0.003%以下を含有し、かつ、残部がFe及び不可避的不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する鋼材を加工して粗部材を得る工程と、
    前記粗部材に対して浸炭処理、恒温保持処理、焼入れ処理及び焼戻し処理を施して浸炭材を得る工程であって、
    浸炭温度を900°以上1050℃以下とし、浸炭時のカーボンポテンシャルを0.7%以上1.0%以下とし、浸炭時間を60分以上240分以下とし、恒温保持温度を820℃以上870℃以下とし、恒温保持処理時のカーボンポテンシャルを0.7%以上0.9%以下とし、焼戻し温度を160℃以上200℃以下とし、焼戻し時間を60分以上180分以下とすることで、
    前記浸炭材において、最終形態である製品部材の表面に相当する位置から20μmの深さ位置に相当する基準位置での組織が、マルテンサイトと体積率で12〜35%の残留オーステナイトとを含むとともに、前記マルテンサイト及び残留オーステナイト以外の他の相が体積率で2%以下となる工程と、
    前記浸炭材に対して切削加工を施して製品部材を得る工程であって、
    切削工具のすくい角を−30°超−5°以下とし、工具のノーズを0.4mm以上1.2mm以下とし、送りを0.1mm/rev超0.4mm/rev以下とし、切削速度を50m/分以上150m/分以下とし、切り込みを0.05mm以上0.2mm以下とすることで、
    前記基準位置での組織において、残留オーステナイトの体積率が20%以下となり、切削前の残留オーステナイト体積率(RI)と切削後の残留オーステナイトの体積率(RF)から式(A)によって求められる残留オーステナイト減少率Δγが35%以上となり、表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下となる工程と、
    を備える、製品部材の製造方法。
    1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr≧2.35 (1)
    11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr≦33.8 (2)
    ここで、式(1)、(2)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
    Δγ=(RI−RF)/RI×100 (A)
  2. 前記鋼材が、Feの一部に代えて、Pb:0.5%以下を含有する、請求項1に記載の製品部材の製造方法。
  3. 前記鋼材が、Feの一部に代えて、V及びTiからなる群から選択される1種以上を総含有量で0.1%以下含有する、請求項1又は2に記載の製品部材の製造方法。
  4. 前記鋼材が、Feの一部に代えて、Mo:3.0%以下、Ni:2.5%以下からなる群から選択される1種以上を含有し、かつ、式(1)及び式(2)に代えて、式(3)及び式(4)を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の製品部材の製造方法。
    1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr+1.77×Mo+0.63×Ni≧2.35 (3)
    11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr+6.7×Mo+6.2×Ni≦33.8 (4)
    ここで、式(3)、(4)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
  5. 質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.25%以下、Mn:0.4〜2.0%、P:0.050%以下、S:0.005〜0.020%、Cr:0.4〜3.5%、Nb:0.01〜0.06%、Al:0.010〜0.050%、N:0.005〜0.025%及びO:0.003%以下を含有し、かつ、残部がFe及び不可避的不純物からなり、式(5)及び式(6)を満たす化学組成を有し、
    表層部のC含有量が0.6〜0.95%であり、
    表面から20μmの深さ位置での組織がマルテンサイトと残留オーステナイトとの合計で98%以上であり、
    表面から200μm深さまでの範囲における最大残留オーステナイト体積率が10〜30%であり、
    前記深さ位置での、残留オーステナイト体積率(R2)と、最大残留オーステナイト体積率(R1)から式(B)によって求められる予想残留オーステナイト減少率Δγpが20%以上であり、
    表面に厚さ1〜15μmの塑性流動組織を有し、
    表面の算術平均粗さRaが0.8μm以下である、
    ことを特徴とする、製品部材。
    1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr≧2.35 (5)
    11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr≦33.8 (6)
    ここで、式(5)、(6)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
    Δγp=(R1−R2)/R1×100 (B)
  6. Feの一部に代えて、Pb:0.5%以下を含有する、請求項5に記載の製品部材。
  7. Feの一部に代えて、V及びTiからなる群から選択される1種以上を総含有量で0.1%以下含有する、請求項5又は6に記載の製品部材。
  8. Feの一部に代えて、Mo:3.0%以下、Ni:2.5%以下からなる群から選択される1種以上を含有し、式(5)及び式(6)に代えて、式(7)及び式(8)を満たす、請求項5から7のいずれか1項に記載の製品部材。
    1.54×C+0.81×Si+1.59×Mn+1.65×Cr+1.77×Mo+0.63×Ni≧2.35 (7)
    11.3≦−0.1×Si+15.2×Mn+7.0×Cr+6.7×Mo+6.2×Ni≦33.8 (8)
    ここで、式(7)、(8)中の各元素記号には、各元素の含有量(質量%)が代入される。
  9. 鋼材に対して、浸炭焼入れ焼戻し及び切削加工を施して得られた、請求項5から8のいずれか1項に記載の製品部材。
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