JP5682485B2 - 冷鍛窒化用鋼材 - Google Patents

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本発明は、冷鍛窒化用鋼材に関する。詳しくは、冷間鍛造性および冷間鍛造後の被削性に優れるとともに、冷間鍛造と窒化の処理を施された部品に、高い芯部硬さおよび表面硬さ、ならびに深い有効硬化層深さを具備させることが可能であって、冷鍛窒化部品の素材として用いるのに好適な冷鍛窒化用鋼材に関する。
本発明でいう「窒化」には、「Nを侵入・拡散させる」処理である「窒化」だけではなく、「NおよびCを侵入・拡散させる」処理である「軟窒化」も含む。このため、以下の説明においては、「軟窒化」を含めて単に「窒化」ということがある。
また、上記の「冷鍛窒化」とは、「冷間鍛造」を行った後、さらに「窒化」処理を施すことを指す。
歯車、ベルト式無段変速機(CVT)用プーリ等の、自動車のトランスミッションなどに使用される機械構造用部品は、曲げ疲労強度向上、ピッチング強度向上および耐摩耗性向上の点から、通常、表面硬化処理が施される。代表的な表面硬化処理として、浸炭焼入れ、高周波焼入れ、窒化などがある。
上記のうちで、浸炭焼入れは、一般的に低炭素鋼を使用し、Ac3点以上の高温のオーステナイト域でCを侵入・拡散させた後、焼入れする処理である。浸炭焼入れは、高い表面硬さと深い有効硬化層深さが得られる長所があるが、変態を伴う処理であるため、熱処理変形が大きくなるという問題がある。したがって、高い部品精度が要求される場合には、浸炭焼入れ後に研削、ホーニングなどの仕上加工が必要となる。また、表層に生成する粒界酸化層、不完全焼入れ層などのいわゆる「浸炭異常層」が曲げ疲労などの破壊起点となり、疲労強度を低下させるといった問題もある。
高周波焼入れは、Ac3点以上の高温のオーステナイト域に急速加熱、冷却して焼入れする処理である。有効硬化層深さの調整が比較的容易である長所があるが、浸炭のようにCを侵入・拡散させる表面硬化処理ではないため、必要な表面硬さ、有効硬化層深さおよび芯部硬さを得るために、浸炭用鋼に比べC量が高い中炭素鋼を使用するのが一般的である。しかしながら、中炭素鋼は素材硬さが低炭素鋼に比べて高いため、被削性が低下する問題があった。また、部品ごとに高周波加熱コイルを作製する必要がある。
これに対して、窒化は、Ac1点以下の400〜550℃前後の温度で、Nを侵入・拡散させて高い表面硬さと適度な有効硬化層深さを得る処理である。浸炭焼入れおよび高周波焼入れに比べて処理温度が低いため、熱処理変形が小さい長所がある。
また、窒化のうちでも軟窒化は、Ac1点以下の500〜650℃前後の温度で、NおよびCを侵入・拡散させて高い表面硬さを得る処理であり、処理時間が数時間と短時間であることから大量生産に適した処理である。
さらに、昨今の地球温暖化抑制を背景とした温室効果ガス削減の潮流に伴い、熱間鍛造および浸炭焼入れのような高温で保持する工程の削減が要望されている。このため、窒化は時代に即応した処理である。
しかしながら、従来の窒化用鋼には、次の〈1〉〜〈3〉に示すような問題があった。
〈1〉窒化は高温のオーステナイト域からの焼入れ処理を行なわない、すなわちマルテンサイト変態を伴う強化ができない表面硬化処理である。このため、窒化部品に所望の芯部硬さを確保させるためには多量の合金元素を含有させる必要があり、冷間鍛造で成形加工することが困難で、熱間鍛造等による成形加工が必要である。
〈2〉代表的な窒化用鋼としては、JIS G 4053(2008)に規定されているアルミニウムクロムモリブデン鋼(SACM645)があるが、この鋼はCr、Alなどが表面付近に窒化物を生成するため高い表面硬さを得ることができるものの、有効硬化層が浅いので、高い曲げ疲労強度を確保することができない。
〈3〉窒化のうちでも軟窒化は、500〜650℃前後の温度域で数時間保持するため、部品の芯部は焼戻し軟化しやすい。この結果、高面圧が負荷される部品では、芯部で塑性変形が生じやすくなり、接触面がへこんで変形する。
そこで、前記した問題点を解消するべく、例えば、特許文献1〜3に窒化に関する技術が開示されている。
特許文献1に、圧延後の硬さがビッカース硬さで200以下であって、軟窒化性と冷間鍛造性が優れた軟窒化用鋼を提供することを目的とする「冷間鍛造性に優れた軟窒化用鋼」が開示されている。上記の「軟窒化用鋼」は、質量%で、C:0.05〜0.25%、Si:0.50%以下、Mn:0.55%以下、Cr:0.50〜2.00%、V:0.02〜0.35%およびAl:0.005〜0.050%を含有し、必要に応じてさらに、Nb:0.02〜0.35%を含有し、残部がFeおよび不純物元素からなるものである。
特許文献2に、表面硬化層が硬く、かつ有効硬化層深さが深く、また必要な心部硬さが得られるとともに切削等機械加工量が少なくてすむ「窒化処理部品の製造方法」が開示されている。上記の「窒化処理部品の製造方法」は、質量%で、C:0.10〜0.40%、Si:0.10〜0.70%、Mn:0.20〜1.50%、Cr:0.50〜2.50%およびV:0.05〜0.60%を含有し、必要に応じてさらに、Al、Mo、Ti、Nb、Ta、B、S、Pb、Te、Se、Ca、BiおよびSbのうちの1種又は2種以上を含有し、残部が実質的にFeから成る組成の鋼材を窒化処理前においてVの析出制御熱処理を行い、しかる後冷間加工を行ったうえで、さらに窒化処理を施すという技術である。
特許文献3に、熱間圧延または熱間鍛造ままの硬さがHvで200以下であって、冷間鍛造性と軟窒化性に優れた「軟窒化用鋼」が開示されている。上記の「軟窒化用鋼」は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.01〜1.00%、Mn:0.1〜1.5%、Cr:0.1〜2.0%、Al:0.10%超〜1.00%、V:0.05〜0.40%を含有し、必要に応じてさらに、Mo:0.10〜1.00%およびTi:0.010〜1.00%のうちの1種または2種を含有し、残部が鉄および不可避的な不純物からなるものである。
特開平5−171347号公報 特開平7−102343号公報 特開平9−279295号公報
前述の特許文献1で開示されている鋼は、必ずしも、冷間鍛造性、冷間鍛造後の被削性、耐変形性、曲げ疲労強度および耐摩耗性の全てにおいて優れるというものではない。また、有効硬化層深さもビッカース硬さ(以下、「HV」ということがある。)で400以上の深さを意味するものであり、十分な有効硬化層深さを有しているものではなかった。
特許文献2で開示されている鋼には、合金元素が多量に含まれている。このため、大きな加工度で冷間鍛造を行うと、必ずしも、十分な冷間鍛造性が確保できず、問題となる場合がある。
特許文献3で開示されている鋼は、冷間鍛造前の組織がフェライトおよびベイナイトの混合組織であり、冷間鍛造前硬さが高く、冷間鍛造性に優れているとは言い難い。またAl含有量が多く、窒化時の有効硬化層深さもビッカース硬さで400となる表面からの深さを意味するものであり、十分な有効硬化層深さを有しているものではなかった。
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、冷間鍛造性および冷間鍛造後の被削性に優れるとともに、冷間鍛造と窒化を施された部品に、高い芯部硬さ、高い表面硬さおよび深い有効硬化層深さを具備させることが可能であって、冷鍛窒化部品の素材として用いるのに好適な冷鍛窒化用鋼材を提供することを目的とする。
具体的には、冷間鍛造前の硬さがHVで130以下で、冷間鍛造後においては切削抵抗が低く、かつ切屑処理性にも優れ、さらに冷間鍛造と窒化を施した後の芯部硬さがHVで200以上、表面硬さがHVで650以上および有効硬化層深さが0.20mm以上の硬さ特性を得ることができ、冷鍛窒化部品の素材として用いることが可能な冷鍛窒化用鋼材を提供することを目的とする。
前述のとおり、窒化はオーステナイト域からの焼入れ処理を行なわない、すなわちマルテンサイト変態を伴う強化ができない表面硬化処理である。このため、窒化部品に所望の芯部硬さを確保させるためには多量の合金元素を含有させる必要があるが、この場合には冷間鍛造で成形加工することが困難である。
そこで、本発明者らは、前記した課題を解決するために、先ず、熱間鍛造および浸炭焼入れのような高温保持を行うことなく機械構造用部品を得る方法として、冷間鍛造により成形加工を施し、窒化により表面硬化処理を行うことによって、機械構造用部品として必要な芯部硬さ、表面硬さおよび有効硬化層深さを確保できる手段について検討した。
その結果、合金元素量を必要最小限に抑えて、優れた冷間鍛造性を確保し、冷間鍛造による加工硬化と窒化温度での時効硬化との複合効果で高い芯部硬さを得ることができれば、高い芯部硬さと良好な冷間鍛造性という相反する特性の双方を確保することができるとの技術的思想に到達した。
そこで、本発明者らは、上記の技術的思想に基づき、さらに実験を重ね、下記(a)〜(f)の知見を得た。
(a)鋼にCrおよびAlを含有させると、窒化によって表面硬さを高めることができる。
(b)窒化によってさらに高い表面硬さを得るとともに、窒化温度で時効硬化量を大きくするには、鋼中のNの含有量を制限したうえで、鋼にVを含有させることが有効である。さらには、Moを含有させればより大きな時効硬化量を得ることができる。
(c)一方で、CrおよびVを含有させると冷間鍛造性が低下する。芯部硬さを下げることなく冷間鍛造性を確保するために、個々の成分元素の含有量を制限するには限界がある。しかしながら、Nの含有量を制限したうえで、C、Si、Mn、Cr、MoおよびVの含有量を特定の範囲に制限すれば、CrおよびVを含有していても、優れた冷間鍛造性を確保することができる。
(d)そして、鋼材中の炭化物の分布を適切な状態にすることにより、冷間鍛造性をより向上させることができ、その結果、大きな加工度で冷間鍛造することができるので、加工硬化による強化を図ることができる。
(e)さらに、鋼のC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVの含有量を特定の範囲に制限すれば、冷間鍛造後に優れた被削性を付与することができる。
(f)上記の加工硬化と時効硬化により、機械構造用部品として必要な高い芯部硬さを確保することができる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記(1)〜(5)に示すに示す冷鍛窒化用鋼材にある。
(1)質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.35%以下、Mn:0.10〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.50〜2.0%、V:0.10〜0.50%、Al:0.01〜0.10%、N:0.0080%以下およびO:0.0030%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、さらに、下記の(1)式で表されるFn1が160以下、下記の(2)式で表されるFn2が20〜80、下記の(3)式で表されるFn3が160以上で、かつ下記の(4)式で表されるFn4が90〜170である化学組成を有し、組織が、フェライトおよび炭化物の混合組織であり、該炭化物は、粒径が3.0μm以下であり該炭化物のうち粒径が0.1μm以上3.0μm以下であるものは、平均アスペクト比が5.0以下、かつ母材組織中に占める面積率が0.2〜8.0%であることを特徴とする、冷鍛窒化用鋼材。
Fn1=399×C+26×Si+123×Mn+30×Cr+32×Mo+19×V・・・(1)
Fn2=(669.3×logeC−1959.6×logeN−6983.3)×(0.067×Mo+0.147×V)・・・(2)
Fn3=140×Cr+125×Al+235×V・・・(3)
Fn4=511×C+33×Mn+56×Cu+15×Ni+36×Cr+5×Mo+134×V・・・(4)
ただし、上記の(1)〜(4)式におけるC、Si、Mn、Cr、Mo、V、N、Al、CuおよびNiは、その元素の質量%での含有量を意味する。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.50%以下を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の冷鍛窒化用鋼材。
(3)Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.50%以下およびNi:0.50%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の冷鍛窒化用鋼材。
(4)Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.20%以下、Nb:0.10%以下およびZr:0.10%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする、上記(1)から(3)までのいずれかに記載の冷鍛窒化用鋼材。
(5)Feの一部に代えて、質量%で、Pb:0.50%以下、Ca:0.010%以下、Bi:0.30%以下、Te:0.30%以下、Se:0.30%以下およびSb:0.30%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする、上記(1)から(4)までのいずれかに記載の冷鍛窒化用鋼材。
残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
炭化物の「粒径」は、円相当径を指す。
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、冷間鍛造性および冷間鍛造後の被削性に優れるとともに、冷間鍛造と窒化の処理を施された部品に、高い芯部硬さ、高い表面硬さおよび深い有効硬化層深さを具備させることができる。このため、冷鍛窒化部品の素材として用いるのに好適である。
実施例で用いた冷間鍛造時の変形抵抗測定用平滑試験片の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いた冷間鍛造時の限界圧縮率測定用切欠き試験片の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いた窒化後の硬さ等の測定用丸棒試験片の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いた切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の冷間引抜き材から切り出したままの粗形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いた耐摩耗性調査用ブロック試験片Aの形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いた耐変形性調査用ブロック試験片Bの形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例において、図3〜6に示す試験片に施した軟窒化のヒートパターンを示す図である。 実施例で用いた切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片の仕上形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例のNC旋盤を用いた旋削加工で生じた切屑の長さについて説明する図である。 実施例で実施したブロックオンリング式摩耗試験の方法を説明する図である。 実施例のブロックオンリング式摩耗試験で用いたリング試験片の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例において、仕上研削前のリング試験片に施したガス浸炭焼入れ−焼戻しのヒートパターンを示す図である。 実施例で実施したブロックオンリング式摩耗試験後の摩耗深さの測定方法を説明する図である。 実施例で実施した押し込み試験の方法を説明する図である。 実施例の押し込み試験で用いた押し込み試験治具の形状を示す図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 (1)式で表されるFn1と実施例の調査4における冷間鍛造での変形抵抗の関係を整理した図である。 (1)式で表されるFn1と実施例の調査5における冷間鍛造での限界圧縮率の関係を整理した図である。 (2)式で表されるFn2と実施例の調査7における窒化後の芯部硬さ(HV)の関係を整理した図である。 (2)式で表されるFn2と実施例の調査10における押し込み変形量の関係を整理した図である。 (3)式で表されるFn3と実施例の調査7における窒化後の表面硬さ(HV)の関係を整理した図である。 (3)式で表されるFn3と実施例の調査8における回転曲げ疲労強度の関係を整理した図である。 (3)式で表されるFn3と実施例の調査9における摩耗深さの関係を整理した図である。 (4)式で表されるFn4と実施例の調査6における切削抵抗の関係を整理した図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成:
C:0.01〜0.15%
Cは、冷鍛窒化部品の曲げ疲労強度と芯部硬さ確保のために必須の元素であり、0.01%以上の含有量が必要である。しかし、Cの含有量が多すぎると硬さが高くなり冷間鍛造性が低下する。このため、上限を設け、Cの含有量を0.01〜0.15%とした。Cの含有量は0.03%以上とすることが好ましく、また0.10%以下とすることが好ましい。
Si:0.35%以下
Siは、鋼に不純物として含有される元素である。一方で、脱酸作用を有する元素でもある。Siの含有量が多すぎると硬さが高くなり冷間鍛造性が低下する。このため、上限を設け、Siの含有量を0.35%以下とした。脱酸作用を得るには、Siは0.02%以上の含有量とするのが好ましい。Siの含有量は0.02%以上とすることが好ましく、また0.15%以下とすることが好ましい。
Mn:0.10〜0.90%
Mnは、冷鍛窒化部品の曲げ疲労強度と芯部硬さを確保する作用および脱酸作用を有する。これらの効果を得るには、0.10%以上の含有量が必要である。しかし、Mnの含有量が多すぎると、硬さが高くなり冷間鍛造性が低下する。このため、上限を設け、Mnの含有量を0.10〜0.90%とした。Mnの含有量は0.10%以上とすることが好ましく、また0.70%以下とすることが好ましい。
P:0.030%以下
Pは、鋼に含有される不純物である。Pの含有量が多すぎると、結晶粒界に偏析したPが鋼を脆化させる場合がある。このため、上限を設け、Pの含有量を0.030%以下とした。より好ましいPの含有量は0.020%以下である。
S:0.030%以下
Sは、鋼に含有される不純物である。また、Sを積極的に含有させれば、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を向上させる効果を有する。しかしながら、Sの含有量が0.030%を超えると、粗大なMnSを形成して、熱間加工性および曲げ疲労強度が低下する。そのため、Sの含有量を0.030%以下とした。Sの含有量は、0.015%以下とすることが好ましい。なお、被削性の向上効果を得る場合には、Sの含有量は0.003%以上とすることが好ましく、0.005%以上とすることが一層好ましい。
Cr:0.50〜2.0%
Crは、窒化の際にNと結合して窒化物を生成し、窒化での表面硬さを向上させ、冷鍛窒化部品の曲げ疲労強度と耐摩耗性を確保する効果がある。しかしながら、Crの含有量が0.50%未満では前記の効果を得ることができない。一方、Crの含有量が2.0%を超えると、硬くなって冷間鍛造性が低下する。そのため、Crの含有量を0.50〜2.0%とした。Crの含有量は0.70%以上とすることが好ましく、また1.5%以下とすることが好ましい。
V:0.10〜0.50%
Vは、窒化の際にCまたは/およびNと結合して、炭化物、窒化物および炭窒化物を形成し、表面硬さを向上する効果を有する。また、窒化温度における時効硬化作用により、すなわち炭化物を形成することにより、芯部硬さを向上させる効果がある。これらの効果を得るには、Vを0.10%以上含有する必要がある。しかし、Vの含有量が多いと硬さが高くなりすぎるばかりか、冷間鍛造性が低下する。このため、上限を設け、Vの含有量を0.10〜0.50%とした。Vの含有量は0.15%以上とすることが好ましく、また0.40%以下とすることが好ましい。
Al:0.01〜0.10%
Alは、脱酸作用を有する。また、窒化時にNと結合してAlNを形成し、表面硬さを向上させる効果を有する。これらの効果を得るには、Alを0.01%以上含有させる必要がある。しかし、Alの含有量が多すぎると、硬質で粗大なAl23を形成して冷間鍛造性が低下するばかりか、窒化での有効硬化層が浅くなり曲げ疲労強度およびピッチング強度が低下する問題が生じる。そのため、上限を設け、Alの含有量を0.01〜0.10%とした。Alの含有量は0.02%以上とすることが好ましく、また0.07%以下とすることが好ましい。
N:0.0080%以下
Nは、Cとともに、Vなどの元素と結合して、炭窒化物を形成する。熱間圧延時に炭窒化物が析出してしまうと、硬さが高くなり、冷間鍛造性が低下する。また、窒化温度での時効硬化による芯部硬さの向上効果も十分に得られなくなる。そのため、Nの含有量は制限する必要があり、0.0080%以下とした。好ましいNの含有量は0.0070%以下である。
O:0.0030%以下
Oは、酸化物系の介在物を形成し、介在物起点の疲労破壊の原因となり、曲げ疲労強度を低下させる。Oの含有量が0.0030%を超えると、曲げ疲労強度の低下が著しい。そのため、Oの含有量を0.0030%以下とした。なお、好ましいOの含有量は0.0020%以下である。
本発明の冷鍛窒化用鋼材の一つは、上述のCからOまでの元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなる。なお、既に述べたように、「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
本発明の冷鍛窒化用鋼材の他の一つは、上述のFeの一部に代えて、Mo、Cu、Ni、Ti、Nb、Zr、Pb、Ca、Bi、Te、SeおよびSbから選択される1種以上の元素を含有するものである。
以下、任意元素である上記Mo、Cu、Ni、Ti、Nb、Zr、Pb、Ca、Bi、Te、SeおよびSbの作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
Mo:0.50%以下
Moは、窒化温度でCと結合して炭化物を形成し、時効硬化により芯部硬さを向上させる作用を有するので、含有させてもよい。しかしながら、0.50%を超えてMoを含有すると、硬くなって冷間鍛造性が低下する。したがって、含有させる場合のMoの量を0.50%以下とした。なお、含有させる場合のMoの量は0.40%以下であることが好ましい。
一方、前記したMoの効果を安定して得るためには、Moの量は0.05%以上であることが好ましい。
CuおよびNiは、いずれも、芯部硬さを向上させる作用を有する。このため、これらの元素を含有させてもよい。以下、上記のCuおよびNiについて説明する。
Cu:0.50%以下
Cuは、芯部硬さを向上させる作用を有するので、含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が多くなると、冷間鍛造性が低下し、加えて、熱間圧延などの高温下ではCuが溶融して液体となる。液体化したCuは結晶粒間に浸潤し、粒界を脆化させ、熱間圧延での表面疵の原因となる。したがって、含有させる場合のCuの量に上限を設け、0.50%以下とした。含有させる場合のCuの量は、0.40%以下であることが好ましい。
一方、前記したCuの効果を安定して得るためには、Cuの量は0.10%以上であることが好ましい。
Ni:0.50%以下
Niは、芯部硬さを向上させる作用を有するので、含有させてもよい。しかしながら、Niの含有量が多くなると、冷間鍛造性が低下する。したがって、含有させる場合のNiの量に上限を設け、0.50%以下とした。含有させる場合のNiの量は、0.40%以下であることが好ましい。
一方、前記したNiの効果を安定して得るためには、Niの量は0.10%以上であることが好ましい。
上記のCuおよびNiは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、CuおよびNiの含有量がそれぞれ上限値である場合の1.00%であってもよいが、0.80%以下であることが好ましい。また、Cuを含有させる場合には、前記した熱間圧延での表面疵の発生を避けるために、Niを複合して含有させることが好ましい。
Ti、NbおよびZrは、いずれも、結晶粒を微細化して曲げ疲労強度を向上させる作用を有する。このため、これらの元素を含有させてもよい。以下、上記のTi、NbおよびZrについて説明する。
Ti:0.20%以下
Tiは、Cまたは/およびNと結合して、微細な炭化物、窒化物および炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、曲げ疲労強度を向上させる作用を有する。したがって、Tiを含有させてもよい。しかしながら、Tiの含有量が多い場合には、粗大なTiNが生成するので、却って曲げ疲労強度が低下する。そのため、含有させる場合のTiの量に上限を設け、0.20%以下とした。含有させる場合のTiの量は、0.15%以下であることが好ましい。
一方、前記したTiの効果を安定して得るためには、Tiの量は0.005%以上であることが好ましい。
Nb:0.10%以下
Nbは、Cまたは/およびNと結合して、微細な炭化物、窒化物および炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、曲げ疲労強度を向上させる作用を有する。したがって、Nbを含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が多い場合には、硬さが上昇し、冷間鍛造性が低下する。そのため、含有させる場合のNbの量に上限を設け、0.10%以下とした。含有させる場合のNbの量は、0.07%以下であることが好ましい。
一方、前記したNbの効果を安定して得るためには、Nbの量は0.020%以上であることが好ましい。
Zr:0.10%以下
Zrも、Cまたは/およびNと結合して、微細な炭化物、窒化物および炭窒化物を形成して結晶粒を微細化し、曲げ疲労強度を向上させる作用を有する。したがって、Zrを含有させてもよい。しかしながら、Zrの含有量が多い場合には、硬さが上昇し、冷間鍛造性が低下する。そのため、含有させる場合のZrの量に上限を設け、0.10%以下とした。含有させる場合のZrの量は、0.07%以下であることが好ましい。
一方、前記したZrの効果を安定して得るためには、Zrの量は0.002%以上であることが好ましい。
上記のTi、NbおよびZrは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、Ti、NbおよびZrの含有量がそれぞれ上限値である場合の0.40%であってもよいが、0.24%以下であることが好ましい。
Pb、Ca、Bi、Te、SeおよびSbは、いずれも、被削性を向上させる作用を有する。このため、これらの元素を含有させてもよい。以下、上記のPb、Ca、Bi、Te、SeおよびSbについて説明する。
Pb:0.50%以下
Pbは、被削性を向上させる作用を有する。したがって、Pbを含有させてもよい。しかしながら、Pbの含有量が多い場合には、熱間加工性が低下し、さらに、冷鍛窒化部品の靱性低下も招く。そのため、含有させる場合のPbの量に上限を設け、0.50%以下とした。含有させる場合のPbの量は、0.20%以下であることが好ましい。
一方、前記したPbの効果を安定して得るためには、Pbの量は0.02%以上であることが好ましい。
Ca:0.010%以下
Caは、被削性を向上させる作用を有する。したがって、Caを含有させてもよい。しかしながら、Caの含有量が多い場合には、熱間加工性が低下し、さらに、冷鍛窒化部品の靱性低下も招く。そのため、含有させる場合のCaの量に上限を設け、0.010%以下とした。含有させる場合のCaの量は、0.005%以下であることが好ましい。
一方、前記したCaの効果を安定して得るためには、Caの量は0.0003%以上であることが好ましい。
Bi:0.30%以下
Biも、被削性を向上させる作用を有する。したがって、Biを含有させてもよい。しかしながら、Biの含有量が多い場合には、熱間加工性が低下し、さらに、冷鍛窒化部品の靱性低下も招く。そのため、含有させる場合のBiの量に上限を設け、0.30%以下とした。含有させる場合のBiの量は、0.10%以下であることが好ましい。
一方、前記したBiの効果を安定して得るためには、Biの量は0.005%以上であることが好ましい。
Te:0.30%以下
Teは、被削性を向上させる作用を有する。したがって、Teを含有させてもよい。しかしながら、Teの含有量が多い場合には、熱間加工性が低下し、さらに、冷鍛窒化部品の靱性低下も招く。そのため、含有させる場合のTeの量に上限を設け、0.30%以下とした。含有させる場合のTeの量は、0.10%以下であることが好ましい。
一方、前記したTeの効果を安定して得るためには、Teの量は0.003%以上であることが好ましい。
Se:0.30%以下
Seも、被削性を向上させる作用を有する。したがって、Seを含有させてもよい。しかしながら、Seの含有量が多い場合には、熱間加工性が低下し、さらに、冷鍛窒化部品の靱性低下も招く。そのため、含有させる場合のSeの量に上限を設け、0.30%以下とした。含有させる場合のSeの量は、0.15%以下であることが好ましい。
一方、前記したSeの効果を安定して得るためには、Seの量は0.005%以上であることが好ましい。
Sb:0.30%以下
Sbは、被削性を向上させる作用を有する。したがって、Sbを含有させてもよい。しかしながら、Sbの含有量が多い場合には、熱間加工性が低下し、さらに、冷鍛窒化部品の靱性低下も招く。そのため、含有させる場合のSbの量に上限を設け、0.30%以下とした。含有させる場合のSbの量は、0.15%以下であることが好ましい。
一方、前記したSbの効果を安定して得るためには、Sbの量は0.005%以上であることが好ましい。
上記のPb、Ca、Bi、Te、SeおよびSbは、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、0.50%以下であることが好ましく、0.30%以下であれば一層好ましい。
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、上述した各元素の含有量に加えて、次に示すFn1〜Fn4に関する条件を満足するものである。
Fn1:160以下
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、
Fn1=399×C+26×Si+123×Mn+30×Cr+32×Mo+19×V・・・(1)
で表されるFn1が160以下でなければならない。ただし、(1)式におけるC、Si、Mn、Cr、MoおよびVは、その元素の質量%での含有量を意味する。
上記のFn1は、冷間鍛造性の指標となるパラメータである。Fn1が160以下であれば、冷間鍛造前の硬さが低くなって、良好な冷間鍛造性が確保できる。一方、Fn1が160を超えると、冷間鍛造前の硬さが高くなり過ぎ、冷間鍛造性が低下する。Fn1は、80以上であることが好ましく、また150以下であることが好ましい。
Fn2:20〜80
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、
Fn2=(669.3×logeC−1959.6×logeN−6983.3)×(0.067×Mo+0.147×V)・・・(2)
で表されるFn2が20〜80でなければならない。ただし、(2)式におけるC、N、MoおよびVは、その元素の質量%での含有量を意味する。
上記のFn2は、冷間鍛造後の窒化による時効硬化量、すなわち、窒化による芯部硬さの向上代の指標となるパラメータである。Fn2が20以上であれば、窒化後の時効硬化量が大きくなり芯部硬さが向上する。しかしながら、Fn2が80を超えると、上記の効果が飽和する。Fn2は、30以上であることが好ましく、また80以下であることが好ましい。
Fn3:160以上
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、
Fn3=140×Cr+125×Al+235×V・・・(3)
で表されるFn3が160以上でなければならない。ただし、(3)式におけるCr、AlおよびVは、その元素の質量%での含有量を意味する。
上記のFn3は、窒化後の、表面硬さ、曲げ疲労強度および耐摩耗性の指標となるパラメータである。
Cr、AlおよびVは、窒化中に冷鍛窒化部品の表面近傍に硬さの高い、窒化物および炭窒化物を生成し、表面硬さを向上させることができる。Fn3を160とすることで、表面硬さはHVで650以上となり、浸炭焼入れ材と同等の曲げ疲労強度と耐摩耗性が得られる。Fn3が160より小さい場合、表面硬さが低く、浸炭焼入れ材に比べて曲げ疲労強度および耐摩耗性が劣る。Fn3は、170以上であることが好ましく、また300以下であることが好ましい。
Fn4:90〜170
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、
Fn4=511×C+33×Mn+56×Cu+15×Ni+36×Cr+5×Mo+134×V・・・(4)
の(4)式で表されるFn4が90〜170でなければならない。ただし、(4)式におけるC、Mn、Cu、Ni、Cr、MoおよびVは、その元素の質量%での含有量を意味する。
上記のFn4は、冷間加工後の被削性の指標となるパラメータである。
Fn4が90〜170であれば、冷間鍛造後の旋削において、切屑処理性が良く、優れた被削性を有する。Fn4が90より小さい場合は、旋削での切屑が長くなり、切屑処理性に劣る。また、Fn4が170より大きい場合は、旋削での切削抵抗が高くなり、工具寿命低下の原因となり得る。Fn4は、100以上であることが好ましく、また160以下であることが好ましい。
(B)組織:
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、前記(A)項に記載の化学組成を有することに加えて、組織が、フェライトおよび炭化物の混合組織であり、該炭化物は、粒径が3.0μm以下、平均アスペクト比が5.0以下、かつ母材組織中に占める面積率が0.2〜8.0%でなければならない。
組織が、フェライトおよび炭化物の混合組織であれば、マルテンサイトのような硬質相を含まない。このため、硬さが高くなって、冷間鍛造性および冷間鍛造後の被削性が低下することがない。
なお、鋼材の組織に占める「相」は、例えば、鏡面研磨した面をナイタルで腐食し、400倍程度の倍率で光学顕微鏡で観察することによって、容易に同定することができる。
炭化物の粒径が3.0μmを超えると、強度が高くなり冷間鍛造性を低下させる。また、粒径が3.0μm以下の炭化物でも平均アスペクト比が5.0を超えると、強度が高くなり冷間鍛造性を低下させる。さらに、炭化物について、粒径が3.0μm以下で平均アスペクト比が5.0以下であっても、母材組織中に占める面積率が8.0%を超えると、硬さが高くなり、冷間鍛造性および被削性が低下する原因となる。一方、炭化物が母材組織中に占める面積率は少なければ少ない方が望ましいが、本発明の化学組成では炭化物の形成を皆無とすることはできない。このため、母材組織中に占める炭化物の面積率について、0.2%以上とした。
炭化物の粒径は、2.0μm以下であることが好ましい。また、炭化物の平均アスペクト比は3.0以下であることが好ましく、1.0であれば最も好ましい。さらに、より冷間鍛造性を重視する場合には、炭化物が母材組織中に占める面積率は、6.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることが一層好ましい。
なお、粒径が0.1μm未満の炭化物は、母材硬さに対する寄与度が小さいため、冷間鍛造性に及ぼす影響は小さい。したがって、炭化物についての、平均アスペクト比および母材組織中に占める面積率は、例えば、上述のナイタルで腐食した面を、3000倍程度の倍率で走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)により観察して、粒径が0.1μm以上の炭化物について求めれば十分である。
一般に、熱間圧延または熱間鍛造のままでは、炭化物の平均アスペクト比が5.0を超えてしまう。したがって、その組織が、フェライトおよび炭化物の混合組織であり、該炭化物は、粒径が3.0μm以下、平均アスペクト比が5.0以下、かつ母材組織中に占める面積率が0.2〜8.0%である冷鍛窒化用鋼材を得るには、熱間圧延または/および熱間鍛造後に、例えば、700〜850℃に加熱して5〜10時間保持した後、5〜10時間かけて650℃まで徐冷し、その後放冷する処理を行えばよい。
(C)冷鍛窒化部品の製造方法:
前記(A)項に記載の化学組成および(B)項に記載の組織を有する冷鍛窒化用鋼材を素材として、例えば、鋼材が円筒状の形状を有する場合、50%以上の圧縮率で冷間鍛造を行った後、400〜650℃で1〜30時間の窒化を施すことによって、容易に所望の冷鍛窒化部品を製造することができる。圧縮率とは、冷間鍛造前の鋼材の高さをH0、冷間鍛造後の部品の高さをHとした場合、{(H0−H)/H0}×100で表わされる値である。
上記のように、冷間鍛造を行った後に施す窒化の条件は、加工硬化による強化に加えて、時効硬化による強化を活用するために、400〜650℃で1〜30時間とすることが好ましい。
窒化を行う温度が低く400℃未満の場合、冷鍛窒化部品に高い表面硬さを付与できるものの、有効硬化層が浅くなり、さらに時効硬化による芯部硬さ向上を達成し難いことがある。一方、窒化を行う温度が高く650℃を超える場合、冷鍛窒化部品の有効硬化層は深くなるものの、表面硬さが低くなり、さらに芯部硬さも低くなってしまうことがある。窒化を行う温度は、450℃以上とすることがより好ましく、また630℃以下とすることがより好ましい。
窒化を施す時間は、冷鍛窒化部品に必要とされる有効硬化層の深さによって変わってくるが、1時間未満の場合には、有効硬化層が浅くなることがある。一方、30時間を超える長時間の場合は、大量生産に適さないことが多い。窒化を行う時間は、2時間以上とすることがより好ましく、また20時間以下とすることがより好ましい。
所望の冷鍛窒化部品を得るための窒化方法は、特に規定されるものではなく、ガス窒化、塩浴窒化、イオン窒化等を用いることができる。軟窒化の場合には、例えばNH3に加えてRXガスを併用し、NH3とRXガスが1:1の雰囲気において処理を行えばよい。
窒化を施す時間は処理温度により異なるが、例えば、軟窒化を590℃で行う場合には9時間で、HVで650以上の表面硬さ、HVで200以上の芯部硬さおよび0.20mm以上の有効硬化層深さを得ることができる。
また、脆弱な化合物の形成を抑制したい場合には、NH3による窒化の前処理としてフッ素ガスを使用したり、窒化にNH3とH2との混合ガスを使用することが好ましい。
以下、ガス軟窒化で処理した実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学成分を有する鋼1〜21を180kg真空溶解炉によって溶製し、インゴットに鋳造した。
表1中の鋼1〜14は、化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼であり、一方、鋼15〜21は、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。
上記の比較例の鋼のうちで鋼15は、JIS G 4052(2008)に規定されたSCr420Hに相当する鋼である。
Figure 0005682485
各インゴットは、1250℃で5時間保持する均質化処理を施した後、熱間鍛造によって、直径が35mmで長さが1000mmの棒鋼および直径が45mmで長さが1000mmの棒鋼を作製した。
上記棒鋼のうち、鋼1〜14および鋼16〜21の棒鋼には、950℃で1時間保持した後、放冷して室温まで冷却することによって「焼準」を行なった。
一方、Vを含有しない鋼15の棒鋼は、920℃で1時間保持した後、放冷して室温まで冷却することによって「焼準」を行った。
上記のように焼準を行った各棒鋼について、鋼1〜18および鋼20〜21の場合は760℃に加熱して10時間保持した後、9時間かけて650℃まで冷却し、その後放冷することによって「球状化焼鈍」を行った。一方、鋼19の場合は760℃に加熱して3時間保持した後、5時間かけて650℃まで冷却し、その放冷することによって「球状化焼鈍」を行った。
各鋼について、上記のようにして焼準後に球状化焼鈍を施した直径35mmの棒鋼の一部から、各種の試験片を採取した。
具体的には、各鋼について、焼準後に球状化焼鈍を施した直径35mmの棒鋼を、いわゆる「横断」、すなわち、軸方向(長さ方向)に対して垂直に切断した。次いで、切断面が被検面になるように樹脂に埋め込んだ後、切断面が鏡面仕上となるように研磨して、球状化焼鈍したまま(すなわち、冷間加工前)のビッカース硬さ測定用およびミクロ組織観察用の試験片とした。
さらに、各鋼について、焼準後に球状化焼鈍した直径35mmの棒鋼の中心部から、冷間鍛造時の変形抵抗測定用として、軸方向に平行に、図1に示す平滑試験片を6個ずつ切り出した。同様に、焼準後に球状化焼鈍した直径35mmの棒鋼の中心部から、冷間鍛造時の限界圧縮率測定用として、軸方向に平行に、図2に示す切欠き試験片を5個ずつ切り出した。
各鋼について、焼準後に球状化焼鈍を施した、直径35mmの棒鋼の残りおよび直径45mmの棒鋼は、ピーリングした後、冷間鍛造の代わりに冷間での引抜き加工によりひずみを与え、その引抜き加工後の特性で冷間鍛造後の特性を評価した。
すなわち、焼準後に球状化焼鈍を施した直径35mmの棒鋼の残りは、直径28mmにピーリングし、酸洗および潤滑処理を行った後、直径が15.45mmとなるよう冷間で引抜き加工を施した。
引抜き加工に用いたダイスの直径は、順に26.5mm、23.5mm、21.5mm、19.95mm、18.17mmおよび15.45mmである。なお、直径28mmから15.45mmに引抜き加工を行った際の総減面率は70%である。
各鋼について、上記のようにして得た直径が15.45mmの冷間引抜き材を横断した。次いで、切断面が被検面になるように樹脂に埋め込んだ後、切断面が鏡面仕上となるように研磨して、引抜き加工後(すなわち、冷間加工後)のビッカース硬さ測定用試験片を作製した。
さらに、各鋼について、直径15.45mmの冷間引抜き材の中心部から、軸方向に平行に、窒化後の硬さ等の測定用として図3に示す直径10mmの丸棒試験片を切り出し、さらに、図4に示す粗形状の切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片を切り出した。
同様に、上記冷間引抜き材の中心部から、軸方向に平行に、図5に示す長さ15.75mm、幅10.16mmで厚さ6.35mmのブロック試験片(以下、「ブロック試験片A」という。)および、図6に示す長さ25mm、幅5mmで厚さ12.5mmのブロック試験片(以下、「ブロック試験片B」という。)を切り出した。
図1〜6中に示した上記の各切り出し試験片における寸法の単位は全て「mm」であり、図中の仕上記号「▽」、「▽▽」および「▽▽▽」は、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されていた表面粗さを示す「三角記号」である。
「▽▽▽」に付した「3.2S」は、 最大高さRmaxで3.2μm以下であることを意味する。「▽」に付した「Rq:0.10〜0.20μm」は、JIS B 0601(2001)に規定される二乗平均平方根粗さ「Rq」が0.10〜0.20μmであることを意味する。
一方、焼準後に球状化焼鈍を施した直径45mmの棒鋼は、直径34.7mmにピーリングし、酸洗および潤滑処理を行った後、直径が29mmとなるよう冷間で引抜き加工を施した。
引抜き加工に用いたダイスの直径は、順に32.88mm、30.5mmおよび29mmである。なお、直径34.7mmから29mmに引抜き加工を行った際の総減面率は30%である。
各鋼について、上記のようにして得た直径29mmの冷間引抜き材を、長さ300mmに切断し、引抜き加工後(すなわち、冷間加工後)の被削性調査用試験片とした。
上記のようにして作製した試験片のうち、窒化後の硬さ等の測定用である直径10mmの丸棒試験片、粗形状の切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片、ブロック試験片Aおよびブロック試験片Bに窒化を施した。具体的には、図7に示すヒートパターンによる「ガス軟窒化」を施した。なお、「120℃油冷却」は油温120℃の油中に投入して冷却したことを示す。
「ガス軟窒化」を施した上記粗形状の切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片を仕上加工して、図8に示す切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片を作製した。
図8に示した切欠き付き小野式回転曲げ疲労試験片における寸法の単位は「mm」であり、図中の仕上記号「▽」および「▽▽▽」は先の図1〜6におけると同様、それぞれ、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されていた表面粗さを示す「三角記号」である。
「〜」は「波形記号」であり、生地であること、すなわち、「ガス軟窒化」した表面のままであることを意味する。
上記のようにして作製した各試験片を用いて、次に示す試験を行った。
調査1:冷間加工前のビッカース硬さ試験
鏡面仕上した冷間加工前のビッカース硬さ測定用試験片の中心部1点とR/2部(「R」は棒鋼の半径を表す。)4点の計5点のHVを、JIS Z 2244(2009)に記載の「ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠して、試験力を9.8Nとしてビッカース硬さ試験機で測定し、5点の算術平均値を冷間加工前の硬さとした。
調査2:冷間加工前のミクロ組織観察
鏡面仕上した冷間加工前のミクロ組織観察用試験片をナイタルで腐食し、倍率を400倍として光学顕微鏡でR/2部を5視野観察して、「相」を同定した。
また、上述のナイタルで腐食した面を、SEMで倍率を3000倍としてR/2部にて30μm×30μmの5視野について画像解析することにより、炭化物の粒径を求め、さらに、炭化物について、平均アスペクト比および母材組織中に占める面積率を算出した。
具体的には、通常の画像解析による円相当径から個々の炭化物の粒径を求めて、5視野における粒径最大の炭化物を決定し、これによって、炭化物粒径を評価した。
炭化物の平均アスペクト比は、次のようにして求めた。
先ず、各視野毎に、粒径が0.1μm以上であった個々の炭化物について、〔長径/短径〕からアスペクト比を求め、これを算術平均して当該視野における炭化物の平均アスペクト比とした。次いで、上記のようにして求めた5視野についての各炭化物の平均アスペクト比をさらに算術平均して、組織全体における炭化物の平均アスペクト比とした。
また、各視野毎に、粒径が0.1μm以上であった炭化物が母材組織中に占める面積率を求め、これを算術平均して、炭化物が母材組織中に占める面積率とした。
調査3:冷間加工後のビッカース硬さ試験
前記「調査1」の場合と同様に、JIS Z 2244(2009)に準拠して、鏡面仕上した冷間加工後のビッカース硬さ測定用試験片の中心部1点とR/2部4点の計5点のHVを、試験力を9.8Nとしてビッカース硬さ試験機で測定し、5点の算術平均値を冷間加工後の硬さとした。
調査4:冷間鍛造での変形抵抗測定
図1に示した平滑試験片を10%、20%、30%、40%、50%および60%の各圧縮率で、端面拘束圧縮により冷間圧縮し、その際の変形抵抗を測定した。各変形抵抗は、社団法人日本塑性加工学会編の「鍛造」(1997年、初版第2刷、コロナ社)の158ページの表5.2に記載の方法にしたがって、平均変形抵抗(公称圧力/見掛けの拘束係数)を算出した。
次いで、各鋼について、横軸を対数ひずみ、縦軸を変形抵抗とし、6点のプロットから近似曲線を作成した。得られた近似曲線から、対数ひずみが1.0となる場合の変形抵抗を求め、その値が500MPa以下である場合、冷間鍛造性に優れるとして、これを目標とした。上記でいう「対数ひずみ」とは、前記社団法人日本塑性加工学会編の「鍛造」158ページ表5.2の平均対数ひずみεを指す。
調査5:冷間鍛造での限界圧縮率測定
図2に示した切欠き試験片を、切欠き部に肉眼で割れが発生するまで冷間圧縮し、割れが発生した時の圧縮率を求めた。そして、5個の試験片について、各々割れが発生した時の圧縮率を求め、この圧縮率の低い方から3番目の試験片の圧縮率を限界圧縮率とした。そして、その限界圧縮率が70%以上である場合、冷間鍛造性に優れるとして、これを目標とした。
調査6:被削性試験
直径29mmに冷間引抜き後、長さ300mmに切断した試験片の外周部を、NC旋盤を用いて旋削加工して被削性を調査した。
旋削加工は、チップブレーカのないWCを主体とした超硬工具を使用し、切削速度:150m/min、切込み:0.2mm、送り:0.8mm/revとし、水溶性潤滑剤で潤滑を施した状態で実施した。切削動力計を用いて、旋削加工時の切削抵抗と切屑処理性によって冷間加工後の被削性を評価した。
切削抵抗は、主分力、送り分力および背分力の合力を、
切削抵抗=(主分力2+送り分力2+背分力20.5
の式によって求めて評価した。切削抵抗が620N以下であれば、切削抵抗が小さいとして、これを目標とした。
切屑処理性は、各鋼について、旋削後の任意10個の切屑のうちで、図9に示す切屑長さが最大となる切屑を選び、その長さを測定することにより評価した。切屑処理性は、切屑長さが、5mm以下の場合、5mmを超えて10mm以下の場合および10mmを超える場合について、それぞれ、「特に良好(◎)」、「良好(○)」および「不良(×)」と評価した。
切削抵抗が620N以下で小さく、かつ、切屑処理性が良好以上の評価(◎または○)の場合に、被削性が優れるとして、これを目標とした。
調査7:窒化(ガス軟窒化)後の芯部硬さ、表面硬さおよび有効硬化層深さの測定
ガス軟窒化した前記直径10mmの丸棒試験片を横断し、切断面が被検面になるように樹脂に埋め込んだ後、前記面が鏡面仕上げになるように研磨し、ビッカース硬さ試験機を使用して、芯部硬さを測定した。また、マイクロビッカース硬さ測定機を使用して、表面硬さおよび有効硬化層深さを調査した。
具体的には、JIS Z 2244(2009)に準拠して、鏡面仕上した試験片の中心部1点とR/2部4点の計5点のHVを、試験力を9.8Nとしてビッカース硬さ試験機で測定し、5点の算術平均値を「芯部硬さ」とした。
同じ埋め込み試料を用いて、上記の場合と同様にJIS Z 2244(2009)に準拠して、マイクロビッカース硬さ測定機によって、試験力を0.98Nとして試験片の表面から0.01mmの深さ位置における任意の10点のHVを測定し、その値を算術平均して「表面硬さ」とした。
さらに、同じ埋め込み試料を用いて、JIS Z 2244(2009)に準拠して、マイクロビッカース硬さ測定機によって、試験力を1.96Nとして鏡面仕上げした試験片の表面から順次HVを測定し、硬さの分布図を作成した。そして、HVで550となる位置までの表面からの距離を「有効硬化層深さ」とした。
調査8:小野式回転曲げ疲労試験
窒化(軟窒化)後に仕上加工した小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、下記の試験条件によって小野式回転曲げ疲労試験を実施し、繰返し数が107回において破断しない最大の強度を「回転曲げ疲労強度」とした。回転曲げ疲労強度が400MPa以上である場合、回転曲げ疲労強度が優れるとして、これを目標とした。
・温度:室温、
・雰囲気:大気中、
・回転数:3000rpm。
調査9:耐摩耗性の調査
ブロックオンリング式摩耗試験によって、耐摩耗性を調査した。すなわち、図10に示すように、窒化(軟窒化)したブロック試験片Aの長さ15.75mmで厚さ6.35mmの面(以下、「試験面」という。)をリング試験片に押し付けて、リング試験片を回転させて摩耗試験を実施した。
具体的には、試験チャンバー内に潤滑油として市販のオートマティックトランスミッション油を100ミリリットル入れ、90℃まで昇温させた後、試験力1000Nでブロック試験片Aの試験面をリング試験片に押し付け、0.1m/秒のすべり速度で、総すべり距離が8000mになるまでリング試験片を回転させた。
上記のリング試験片には、JIS G 4053(2008)で規定されたSCM420の直径45mmの棒鋼から、その棒鋼と軸方向を揃えて、概ね図11に示す形状に試験片を切り出し、図12に示すヒートパターンによる「ガス浸炭焼入れ−焼戻し」を施し、その後、外周部を100μm研削して、図11に示す寸法形状に仕上げたものを使用した。
図11に示した上記のリング試験片における寸法の単位は「mm」であり、図中の仕上記号「▽」は、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されていた表面粗さを示す「三角記号」である。また、「▽」に付した「Rq:0.15〜0.35μm」は、JIS B 0601(2001)に規定される二乗平均平方根粗さ「Rq」が0.15〜0.35μmであることを意味する。
図12中の「Cp」はカーボンポテンシャルを表す。また、「80℃油冷却」は油温80℃の油中に投入して冷却したことを表す。
ブロックオンリング式摩耗試験終了後、ブロック試験片Aの試験面を表面粗さ計を用いて、図13の矢印1、矢印2および矢印3に示すように、非接触部、接触部、非接触部と連続して測定し、断面曲線において非接触部と接触部の最大の差を摩耗深さとした。なお、各3箇所ずつ測定し、その平均値を摩耗深さとした。このときの摩耗深さが10.0μm以下であれば耐摩耗性に優れると判断し、これを目標とした。
上記の「非接触部」と「接触部」は、リング試験片との「非接触部」と「接触部」を指す。
調査10:耐変形性の調査
押し込み試験によって、耐変形性を調査した。すなわち、図14に示すように、窒化(軟窒化)したブロック試験片Bの長さ25mmで厚さ12.5mmの面(以下、「試験面」という。)に図15に示す形状の押し込み試験治具を押し込んで、耐変形性を調査した。押し込み試験治具は、ブロックオンリング式摩耗試験のリング試験片と同様に、JIS G 4053(2008)で規定されたSCM420の直径45mmの棒鋼から、その棒鋼と軸方向を揃えて、概ね図15に示す形状に試験片を切り出した。図12に示すヒートパターンによる「ガス浸炭焼入れ−焼戻し」を施し、その後、外周部を100μm研削して、図15に示す寸法形状に仕上げたものを使用した。
具体的には、油圧サーボ試験機を用いて、試験力5000Nでブロック試験片Bの試験面に押し込み試験治具を押し込んだ。試験力を解除した後、ブロック試験片Bの試験面における押し込み変形量を調査10と同様に表面粗さ計で各3箇所ずつ測定し、3箇所の平均値を押し込み変形量とした。押し込み変形量が6.0μm以下であれば、耐変形性に優れると判断し、これを目標とした。
図15に示した上記の押し込み試験治具における寸法の単位は「mm」であり、図中の仕上記号「▽」は、JIS B 0601(1982)の解説表1に記載されていた表面粗さを示す「三角記号」である。また、「▽」に付した「Rq:0.10〜0.20μm」は、JIS B 0601(2001)に規定される二乗平均平方根粗さ「Rq」が0.10〜0.20μmであることを意味する。
表2に調査1〜6の各試験結果を、表3に調査7〜10の各試験結果を、それぞれ、まとめて示す。ただし、表3には、調査3の冷間加工後の硬さ(HV)も示し、窒化(ガス軟窒化)後の芯部硬さ(HV)と上記冷間加工後の硬さ(HV)の差を、窒化による時効硬化量(ΔHV)として示した。
上記の各試験結果のうち、Fn1と調査4における冷間鍛造での変形抵抗の関係およびFn1と調査5における冷間鍛造での限界圧縮率の関係を整理して、それぞれ図16と図17に示す。
図18と図19に、それぞれ、Fn2と調査7における窒化後の芯部硬さ(HV)の関係およびFn2と調査10における押し込み変形量の関係を整理して示す。
図20〜22に、それぞれ、Fn3と調査7における窒化後の表面硬さ(HV)の関係、Fn3と調査8における回転曲げ疲労強度の関係およびFn3と調査9における摩耗深さの関係を整理して示す。
図25に、Fn4と調査6における切削抵抗の関係を整理して示す。
Figure 0005682485
Figure 0005682485
表2および表3から、本発明で規定する条件を満たす本発明例の試験番号1〜14の場合、冷間鍛造性、冷間加工後の被削性および耐変形性に優れ、しかも、高い回転曲げ疲労強度および優れた耐摩耗性を有している。
上記の本発明例のうちでも、SeおよびSbを含有する鋼8を用いた試験番号8、PbおよびCaを含有する鋼11を用いた試験番号11、Biを含有する鋼12を用いた試験番号12、Teを含有する鋼13を用いた試験番号13は、いずれも、冷間加工後の被削性にも優れることが明らかである。
これに対して、比較例の試験番号15は、用いた鋼15のCとNの含有量がともに本発明で規定する範囲を超えて多く、Fn1も211で、本発明の「160以下」という規定から外れているため、球状化焼鈍したまま(すなわち、冷間加工前)の硬さがHVで130を超え、変形抵抗が538MPa、かつ限界圧縮率が62%と冷間鍛造性が劣っている。さらに、Fn2が0と本発明の「20〜80」という規定から外れており、窒化後の芯部硬さがHVで152と低く、押込み変形量が6.9μmと大きくなって、耐変形性に劣っている。また、鋼15はVを含有しておらず、Fn3が140と本発明で規定する「160以上」という規定から外れており、窒化後の表面硬さがHVで563と低く、さらに有効硬化層深さも0.13mmと浅く、曲げ疲労強度が360MPaと低い。さらに、上記窒化後の表面硬さがHVで563と低いため、摩耗深さが12.8μmと大きく、耐摩耗性にも劣っている。
試験番号16は、用いた鋼16のFn1が175と、本発明の「160以下」という規定から外れているため、球状化焼鈍したままである冷間加工前の硬さがHVで130を超え、変形抵抗が512MPa、限界圧縮率が63%と冷間鍛造性が劣っている。
試験番号17は、用いた鋼17のFn2が13と本発明の「20〜80」という規定から外れており、窒化後の芯部硬さが、HVで167と低く、押込み変形量が6.2μmと大きくなって、耐変形性に劣っている。
試験番号18は、用いた鋼18のV含有量が、0.51%と本発明で規定するより多いため、球状化焼鈍したままである冷間加工前の硬さがHVで130を超え、変形抵抗が501MPa、限界圧縮率が69%と冷間鍛造性が劣っている。
試験番号19は、用いた鋼19の鋼材中の炭化物の粒径および平均アスペクト比が本発明で規定する範囲を満たしていないため、冷間加工前の硬さがHVで130を超え、変形抵抗が537MPa、限界圧縮率が63%と冷間鍛造性が劣っている。また、Fn3が113と、本発明で規定する「160以上」という規定から外れており、窒化後の表面硬さがHVで632と低く、曲げ疲労強度が380MPaと劣り、さらに、摩耗深さが12.3μmと大きく、耐摩耗性にも劣っている。
試験番号20は、用いた鋼20のFn4が175と本発明の「90〜170」という規定より高いため、切削抵抗が641Nと高く、被削性に劣る。
試験番号21は、用いた鋼21のFn3が122と、本発明で規定する「160以上」という規定から外れており、窒化後の表面硬さがHVで638と低く、曲げ疲労強度が320MPaと劣り、さらに、摩耗深さが11.8μmと大きく、耐摩耗性に劣っている。また、Fn4が76と本発明の「90〜170」という規定より低いため、切屑処理性が悪く、被削性にも劣る。
本発明の冷鍛窒化用鋼材は、冷間鍛造性および冷間鍛造後の被削性に優れるとともに、冷間鍛造と窒化の処理を施された部品に、高い芯部硬さ、高い表面硬さおよび深い有効硬化層深さを具備させることができる。このため、冷鍛窒化部品の素材として用いるのに好適である。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.35%以下、Mn:0.10〜0.90%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:0.50〜2.0%、V:0.10〜0.50%、Al:0.01〜0.10%、N:0.0080%以下およびO:0.0030%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、さらに、下記の(1)式で表されるFn1が160以下、下記の(2)式で表されるFn2が20〜80、下記の(3)式で表されるFn3が160以上で、かつ下記の(4)式で表されるFn4が90〜170である化学組成を有し、組織が、フェライトおよび炭化物の混合組織であり、該炭化物は、粒径が3.0μm以下であり該炭化物のうち粒径が0.1μm以上3.0μm以下であるものは、平均アスペクト比が5.0以下、かつ母材組織中に占める面積率が0.2〜8.0%であることを特徴とする、冷鍛窒化用鋼材。
    Fn1=399×C+26×Si+123×Mn+30×Cr+32×Mo+19×V・・・(1)
    Fn2=(669.3×logeC−1959.6×logeN−6983.3)×(0.067×Mo+0.147×V)・・・(2)
    Fn3=140×Cr+125×Al+235×V・・・(3)
    Fn4=511×C+33×Mn+56×Cu+15×Ni+36×Cr+5×Mo+134×V・・・(4)
    ただし、上記の(1)〜(4)式におけるC、Si、Mn、Cr、Mo、V、N、Al、CuおよびNiは、その元素の質量%での含有量を意味する。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、Mo:0.50%以下を含有することを特徴とする、請求項1に記載の冷鍛窒化用鋼材。
  3. Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.50%以下およびNi:0.50%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の冷鍛窒化用鋼材。
  4. Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.20%以下、Nb:0.10%以下およびZr:0.10%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の冷鍛窒化用鋼材。
  5. Feの一部に代えて、質量%で、Pb:0.50%以下、Ca:0.010%以下、Bi:0.30%以下、Te:0.30%以下、Se:0.30%以下およびSb:0.30%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれかに記載の冷鍛窒化用鋼材。
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