概要及び要約書は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、上述したような様々な実施形態を提供する。本発明は、異性化不可能な脂肪族不飽和基を含むポリフルオロポリエーテル含有化合物(本明細書では、略して、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル、又は更に略して、ポリフルオロポリエーテル含有化合物と称する)、及びそれらを形成するための関連した方法を提供する。本発明は、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル及びSiH−官能性化合物を含む表面処理組成物も提供する。いくつかの態様では、SiH−官能性化合物は、更に少なくとも1つの硬化性基を含み、別の態様では、SiH−官能性化合物は硬化性基を含まない。各硬化性基は、独立して、加水分解性基又はフリーラジカル反応性基であってもよい。いくつかの態様では、表面処理組成物は、ヒドロシリル化触媒を更に含む。
本発明は、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル及びSiH−官能性化合物を含む表面処理組成物からケイ素含有ポリフルオロポリエーテルを形成する方法も提供する。形成方法は、表面処理組成物の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルとSiH−官能性化合物とのヒドロシリル化反応を含んでもよい。
また更に、本発明は、これらのケイ素含有ポリフルオロポリエーテルを含む又はこれらのケイ素含有ポリフルオロポリエーテルから構成される表面処理材料、この表面処理材料を生成する関連した方法、及びこの表面処理材料を含む表面処理された物品を提供する。表面処理材料が、SiH−官能性化合物が少なくとも1つの硬化性基を更に含む表面処理組成物から形成されている場合、表面処理材料自体が硬化性である。表面処理材料の硬化は、縮合反応(少なくとも1つの硬化性基が、後に記載するような加水分解性基の場合)を介して、又はフリーラジカル反応(少なくとも1つの硬化性基が、アクリレート基等のフリーラジカル反応性基の場合)を介してであってもよい。
本発明は、抗汚れ及び/又は抗しみ処理を必要とする機器の表面上での、例えば縮合硬化又はフリーラジカル硬化による等、表面処理材料の硬化により形成された結合コーティングも提供する。硬化は、表面処理材料が機器上に堆積された後に行われる。本発明は、機器上で合成された表面処理材料の硬化により形成された結合コーティングも提供する。硬化は、縮合硬化又はフリーラジカル硬化であってもよい。表面処理材料は、この表面処理組成物の層を機器上に形成し、この表面処理組成物の層をヒドロシリル化反応に供して、表面処理材料を機器上の層として定位置で合成することにより、機器上で合成することができる。その後、定位置で合成された表面処理材料を硬化させて、機器上の結合コーティングを形成することができる。
本発明は、SiH−官能性成分と、非発明の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルとの混合物を含む非発明の(non−inventive)表面処理組成物の問題点に対処する。非発明の組成物は、ヒドロシリル化反応性であってもよく、ヒドロシリル化反応により非発明の表面処理材料を調製するのに有用である。本発明者らは、これら非発明の表面処理材料が抗汚れ及び/又は抗しみ抵抗に関していくつかの有益な効果を有するかもしれない(未確認)が、これらは、機器の機能性及び/又は装飾表面上の非発明のコーティングとして使用する場合に有害な効果も有することを発見した。非発明のコーティングは、不十分な化学的及び/又は機械的特性を有する。また、非発明のコーティングは、未反応の従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルのような未反応成分を有し、これは非発明のコーティングを触る人々及び物に浸出し及び/又は擦り取られ得る。この浸出液は環境を汚染し、また更に、非発明のコーティングを脆弱にする。更に、非発明のコーティングは、それらの機器上での耐摩耗性が不十分であるために磨り減り、又は耐摩耗性が十分であり若しくは望ましい場合よりも、高い頻度で磨り減る。コーティングは、脆弱である。
本発明者らは、この問題の技術的解決法を模索した。解決法の発見は困難であった。最初に、本発明者らは、非発明のコーティングの乏しい性能の原因を特定し、次いで、この知見を、改善されたコーティングに転換する方法を見出す必要があった。非発明のコーティングの成分が問題の原因であったか?どの成分が?多大な研究後、本発明者らは、驚くべきことに、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物が、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分及びヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分の両方を含むことを発見した。本発明者らは、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分と、ヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分との相違が何であるか、また成分を変更することにより、コーティング特性の改善がもたらされるか否かを考えた。
本発明者らは、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分が末端脂肪族不飽和結合を含むのに対して、ヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分は内部脂肪族不飽和結合を含むことを見出した。この不飽和結合の位置の相違は、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物のそれぞれの成分のヒドロシリル化反応性における相違を説明し得る。ヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分分子の内部に位置する脂肪族不飽和結合は、立体障害がより高いため、表面処理組成物のSiH官能性成分とのヒドロシリル化反応に関してよりアクセスされにくく、そのためSiH官能性成分に対する共有結合の形成に関してよりアクセスされにくい。それに対して、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分分子の末端に位置する脂肪族不飽和結合は、立体障害がより低いため、SiH官能性成分とのヒドロシリル化反応に関してよりアクセスされやすく、そのためSiH官能性成分に対する共有結合の形成に関してよりアクセスされやすい。SiH−官能性成分と、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物とのヒドロシリル化反応中、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分は、反応して、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分とSiH官能性成分との間に形成される共有結合によって形成された巨大分子を形成する。ヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分は反応しない、又は反応が非常に緩慢である。それ故、本発明者らは、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分が末端脂肪族不飽和結合を含むのに対して、ヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分は内部脂肪族不飽和結合を含むと考える。
本発明者らは、SiH−官能性成分とのヒドロシリル化反応において、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物のヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分に対するヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分の割合が増大すると、ヒドロシリル化反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分とSiH官能性成分との間の共有結合の形成が増大するであろうと判断した。本発明者らは、この変更により、ヒドロシリル化前の表面処理組成物の特性と比較して、並びに、低い割合の反応性/非反応性を用いて作製された比較対照の表面処理材料、及びこのようにして形成された共有結合がより少ない比較対照の表面処理材料と比較して、結果として得られる表面処理材料(ヒドロシリル化反応組成物)の化学的及び/又は機械的特性が改善されるであろうと考えた。単位表面処理材料当たり形成される共有結合が多いほど、表面処理材料の分子量が大きくなるため、表面処理材料の化学的及び/又は機械的特性がより改善される。
非発明の表面処理材料の更なる問題は、SiH官能性成分が、更に、加水分解性基又はフリーラジカル反応性基等の硬化性基を含む独特の状況において見出された。従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分の混合物から、弱く結合されたコーティング又は非結合のコーティングが調製される。機器表面等の基材上に配置された場合、弱く結合されたコーティングは機器表面に対して共有結合を殆ど有さない。非結合のコーティングは、機器表面に対して共有結合されていない層である。非結合のコーティングは、層に硬化条件が適用されていないため、又は層が硬化性基を欠いた若しくは含まないSiH官能性成分から形成されているため、硬化されていない。本発明者らは、弱く結合された又は非結合のコーティングを使用した場合、コーティングを定期的に再適用する必要があることを見出した。したがって、他のタイプの硬化性基(例えば、縮合硬化性基)を有するSiH官能性成分と、非発明の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物とから形成された従来の表面処理材料は、機器の機能性及び/又は装飾表面上で弱く結合されたコーティングを形成する幾分かの能力を有する。しかし、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物のヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分分子の内部に位置する脂肪族不飽和結合が、Si官能性成分と共有結合を形成することが不可能であることは、より少ないケイ素含有ポリフルオロポリエーテル分子が生成され又は架橋されることを意味する。結果として得られるコーティングは脆弱である。成分間でヒドロシリル化により形成される共有結合が所望よりも少なく、また表面処理材料中で形成されるケイ素含有ポリフルオロポリエーテル分子がより少ないため、硬化後にケイ素含有ポリフルオロポリエーテルと機器の機能性及び/又は装飾表面との間で形成される共有結合がより少ないように、他のタイプの硬化性基を有するより少ない分子が存在する。更に、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物中のヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分分子の割合が高すぎる場合、それ自体が機器の表面に結合したSiH官能性成分で汚染されたコーティングが代わりに形成され得る。
したがって、前述した従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物に見出される割合と比較して、混合物中の反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分に対する非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分の割合を低減することは、本発明者らの発見を考慮すれば望ましいであろう。しかし、この技術的解決法を達成することは予想外に困難である。本発明者らは、末端位置のみに位置する不飽和結合を有する従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分の高純度ロットを出発材料として表面処理組成物を得た場合であっても、表面処理組成物を反応させるヒドロシリル化後、結果として得られた表面処理材料は、内部位置に位置する不飽和結合を有する非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分を不必要に含むことを見出した。これは、あたかも本発明者らが、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物を出発材料として用いてかのようであった。本発明者らは、ヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分が、ヒドロシリル化非反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分からその場で(in situ)形成された反応副産物であるとの仮説を立てた。更に、本発明者らは、それらが、反応性脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分の末端不飽和結合の移動的異性化を経由して、非反応性成分中に見出されるような内部不飽和結合を形成すると疑った。即ち、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物中では、末端脂肪族不飽和結合は、それら全部がヒドロシリル化反応に関与する前に、異性化することが可能である。そのような移動的異性化を表現する代替的方法は、ビシナル水素原子が移動すると言うことである。対照的に、おそらく内部脂肪族不飽和結合は、一旦形成されると、再び異性化することが不可能であり、又は、ヒドロシリル化反応速度と比較して再び異性化するのが遙かに遅い(さもなければ、それらは、末端異性体の全部が反応するまで、平衡異性化において末端不飽和へと引き寄せられているであろう)。
本発明は、前述した問題の少なくとも1つを解決する。技術的解決を達成するために、本発明者らは、末端不飽和結合を有し、かつ以下の2つの禁忌の特徴の組み合わせを有する新しい脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分の発見を模索した。(a)末端不飽和結合は、SiH−官能性シラン又はSiH−官能性シロキサン等、表面処理組成物の他の成分と前述した共有結合を形成するよう、十分にヒドロシリル化反応性である必要がある、及び(b1)末端不飽和結合(又はビシナル水素原子)は、移動して異性化可能ではない、若しくは移動して異性化する可能性が十分に低い必要がある、又は(b2)急速に可逆的に移動して異性化可能である、即ち、結果として得られた内部不飽和結合が、ヒドロシリル化反応の速度よりも速い速度で、再び移動して異性化し、末端不飽和結合になることが可能である必要がある、のいずれかである。この技術的解決を達成するために、本発明者らは、例えば、ビシナル水素原子(1つ又は複数)の酸性度及び/若しくは結合切断性(scissionability)を変更することによって、並びに/又は、近隣の基のサイズを増大若しくは低下させてビシナル水素原子(1つ又は複数)の周囲の立体障害を増大若しくは低下させることにより、ビシナル水素原子(1つ又は複数)に対してアクセスしやすさを低下又は増大させることによって、ビシナル水素原子(1つ又は複数)が移動を受けにくく、又は受けやすくされ得るか否かを考えた。
本発明は、特徴(a)及び(b1)の両方を有する末端不飽和結合を有する新しい脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル、即ち、異性化不可能な脂肪族不飽和基を含むポリフルオロポリエーテル含有化合物を提供することにより、技術的問題を解決する。本発明は、そのような脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを含む、関連した表面処理組成物、及びそのような表面処理組成物のヒドロシリル化反応により形成された表面処理材料も提供する。いくつかの実施形態では、本発明のケイ素含有ポリフルオロポリエーテル及び表面処理材料は、非硬化性であり又は硬化されない。別の実施形態では、本発明のケイ素含有ポリフルオロポリエーテル及び表面処理材料は、以下に記載するように硬化性である。本発明は、縮合硬化、あるいはフリーラジカル硬化等、表面処理材料を硬化させることにより形成された結合コーティング、並びにその方法及び結合コーティングの使用も提供する。
本発明者らは、本発明の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルと、更に他のタイプの硬化性基(例えば、縮合硬化性基)を含むSiH官能性成分との間に形成された共有結合が、これらの他のタイプの硬化性基を、本発明の表面処理材料の本発明のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルへと導入するのに有利であることを見出した。結果は、硬化性である表面処理材料の一実施形態、即ち、少なくとも1つの他のタイプの硬化性基を含むSiH−官能性成分と、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル成分とを含む本発明の表面処理組成物のヒドロシリル化反応により形成された本発明の硬化性表面処理材料である。本発明の結合コーティングは、機器の機能性及び/又は装飾表面上での縮合硬化又はフリーラジカル硬化により硬化性表面処理材料を硬化させることによって形成されてもよい。そのような硬化の結果は、機器の機能性及び/又は装飾表面に共有結合された結合コーティングを含む、本発明の表面処理された機器である。硬化時、硬化性表面処理材料の他のタイプの硬化性基のいくつかは、機能性及び/又は装飾表面上の官能基と反応して、硬化性表面処理材料を硬化させ、硬化性表面処理材料と、機器の機能性及び/又は装飾表面との間で共有結合を形成することにより、コーティングを機器に共有結合させる(したがって、用語「結合コーティング」)。更に、表面処理材料の硬化により、従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物を用いて形成されたコーティングの架橋密度と比較して、結合コーティング中の架橋密度が増大する。したがって、本発明の結合コーティングと機能性及び/又は装飾表面との間の共有結合と、内部の架橋密度の増大とは、それらの機器上の結合コーティングの耐摩耗性及び水接触角を望ましく増大させ得る。増大した耐摩耗性とは、本発明の結合コーティングが磨り減らず、又は比較対照の弱く結合されたコーティング又は非結合のコーティングよりも低い頻度で磨り減ることを意味する。本発明者らは、本発明の結合コーティングを再適用する必要性が比較的低いことを見出した。本発明は、本発明の結合コーティングと、結合コーティングの作製に有用な硬化性表面処理材料とを提供する。後に実施例が示すように、新しい表面処理組成物から形成された結合コーティングは、移動的異性化を受けやすい従来の脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの混合物を有する非発明の表面処理組成物から形成された非結合又は弱く結合されたコーティングと比較して、向上した水接触角、並びに向上した機械的及び/又は化学的特性を有する。本発明の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの実施形態は、内部脂肪族不飽和結合(例えば、C=C又はC≡C)を欠く(含まない)。本発明の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの実施形態は、ビシナル水素原子を欠き(含まず)、それにも係わらず、驚くべきことに、末端不飽和結合は、SiH−官能性化合物等の、表面処理組成物の他の成分と、前述した共有結合を形成するよう十分反応性である。ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルの実施形態は、脂肪族不飽和結合を欠く(含まない)。
本発明の表面処理された物品は、大きい水接触角を有する。それらの表面処理された物品は、多くの場合、特に、比較対照のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルを含み、かつ移動的異性化C=C結合又はC=C=C結合を含む副産物で汚染されている比較対照の表面処理された材料と比較した場合、比較対照のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルが移動的異性化を受ける前にCH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C=C結合又は末端C≡C結合を含んでいたか否かに応じて、汚れ/しみ抵抗力のより高い耐久性と、汚れ付着及びしみ付着に対して増大した抵抗力を有する。一般に、本発明者らは、比較対照のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルを形成するための比較対照の方法では、移動的異性化C=C結合又はC=C=C結合を含む副産物が形成され、好ましくないことを発見した。比較対照の方法は、本ポリフルオロポリエーテル含有化合物に代わって、CH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C=C結合又は末端C≡C結合を有する非発明のポリフルオロポリエーテル含有化合物が使用されることを除いて、本発明のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルを形成するための本方法と同一のやり方で行われる。CH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C=C結合又は末端C≡C結合を有する非発明のポリフルオロポリエーテル含有化合物では、CH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C=C結合は、それぞれ、プロペン−3−イル含有基(−CH2CH=CH2)又は3−メチル−プロペン−3−イル含有基(−CH(CH3)CH=CH2)で示され、CH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C≡C結合は、それぞれ、プロピン−3−イル含有基(−CH2C≡CH)又は3−メチル−プロピン−3−イル含有基(−CH(CH3)C≡CH)で示される。本発明者らは、非発明のポリフルオロポリエーテル含有化合物における末端C=C結合、又は末端C≡C結合のpi−結合が、内部位置(即ち、それぞれ−CH=CH−CH3又は−C(CH3)=CH−CH3における等の非末端位置、又はそれぞれ−CH=C=CH)又は−C(CH3)=C=CHにおける等の非末端位置)に移動することによって、移動的異性化C=C結合又はC=C=C結合を含む副産物が形成されることを見出した。副産物は、CH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C=C結合又は末端C≡C結合を有する非発明のポリフルオロポリエーテル含有化合物の非反応性構造異性体である。このC=C結合又はpi−結合の移動は、CH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C=C結合又は末端C≡C結合を有する非発明のポリフルオロポリエーテル含有化合物が、比較対照の方法においてSiH−官能性化合物(即ち、Si−H含有化合物)と反応し得る前に、CH2基又はC−H基に対してビシナルの末端C=C結合又は末端C≡C結合を有する非発明のポリフルオロポリエーテル含有化合物中に生じ得る。異性化C=C結合を含むこの副産物の形成により、合成中、より少ない所望の表面反応性の比較対照のケイ素含有ポリフルオロポリエーテル分子の形成がもたらされて、好ましくない。したがって、より少ない表面反応性の比較対照のケイ素含有ポリフルオロポリエーテル分子が比較対照の表面処理材料中に見出される。比較対照の表面処理材料中に所望の表面反応性分子がより少ないことは、比較対照の表面処理材料の露出外側表面(研磨前及び研磨後)上の水接触角が小さいため好ましくなく、したがって外側表面の水又は指紋若しくは皮脂等の他の汚染物質に対する湿潤性が増大して好ましくないことを意味する。比較対照の表面処理材料で処理された比較対照の物品では、外側表面上の水又は上述したような他の汚染物質の存在は、結果として、比較対照の表面処理物品の光学的特性にネガティブな影響を与えると考えられる。
しかしながら、本発明の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルの実施形態は、その末端C=C結合又は末端C≡C結合が、移動又は異性化が妨げられるように構造的に構成されている。それ故、本発明の表面処理材料は、以下により詳細に記載するように、物品の物理的及び光学的特性を改善するために、電子物品等の物品により呈される表面上に層を形成するのに特に好適である。しかしながら、本発明の表面処理材料は、それらの使用又は物品に限定されない。例えば、この表面処理材料は、器具又は乗物内に使用されているもの等の、ガラス、プラスチック又は金属等の他の物品及び/又は基材上に層を形成するのにも好適である。
様々な実施形態では、本発明の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルは、以下の一般式(A)を有する。Y−Za−[(OC3F6)b−(OCF(CF3)CF2)c−(OCF2CF(CF3))d−(OC2F4)e−(CF(CF3))f−(OCF2)g]−X−Q。下付き文字b〜gにより変更された基、即ち、式(A)の角括弧内の基は、上記の一般式(A)及び本明細書全体にて表されるような異なる順序を含む、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル内で任意の順序で存在してもよい。更に、これらの基は、ブロック形態を含むランダム化形態又は非ランダム化形態で存在し得る。加えて、下付き文字bにより変更される基は、典型的には直鎖であり、即ちあるいは(O−CF2−CF2−CF2)bとして記述されてもよい。
上記の一般式(A)において、Zは、独立して−(CF2)−、−(CF(CF3)CF2O)−、−(CF2CF(CF3)O)−、−(CF(CF3)O)−、−(CF(CF3)−CF2)−、−(CF2−CF(CF3))−及び−(CF(CF3))−から選択される。Zは、典型的には、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルが主鎖内に酸素−酸素(O−O)結合を含まないように、選択される。加えて、この一般式において、aは、1〜200の整数であり、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ独立して0から又は1〜200から選択される整数であり、各Qは、独立して−C≡CH又は−Y’−CR=CH2であり、各Rは、独立してH、CH3又はY’−ヒドロカルビルであり、各Y’は、独立してO、−N(R)−、S、又は、Qの炭素−炭素二重結合の移動的異性化を防止するヒドロカルビレン基である。いくつかの実施形態では、Zは、−(CF2)−であり、下付き文字aは、ZaがそれぞれCF2、CF2CF2、CF2CF2CF2、CF2CF2CF2CF2又はCF2CF2CF2CF2CF2であるように、1〜5である。
特定の実施形態においては、各Y’は、独立してO、又は、Qのビシナル−CR=CH2基内のC=C結合の移動的異性化を防止するヒドロカルビレン基であり、移動的異性化を防止するヒドロカルビレン基は、フェニレン、−アルキレン−フェニレン、−C(R1R2)−又は−L−C(R5R6)−であり、各R1及びR2は、独立して(C1〜C10)ヒドロカルビル基又はハロゲンであり、R5及びLは、互いに結合してシクロアルキレンを形成し、R6は、ヒドロカルビル基又はFである。Oは、Qのビシナル−CR=CH2基内のC=C結合の移動的異性化を防止する。
特定の実施形態においては、各Xは、独立して二価有機基、−[二価有機基]−O−又は−O−である。O又は「−[二価有機基]−O−」基のOは、Qのビシナル−C≡CH基内のC≡C結合の移動的異性化を防止する。
本明細書で使用するとき、用語「異性化不可能な脂肪族不飽和」は、白金ヒドロシリル化触媒の存在下、SiH−官能性化合物とのヒドロシリル化反応中、(C=C結合の、又はC≡C結合のpi−結合の)移動的異性化を受けないことを意味する。用語「表面処理組成物」は、ヒドロシリル化により互いに反応できる少なくとも2つの成分の混合物を意味する。用語「表面処理材料」は、ヒドロシリル化反応によって合成される物質を意味する。
本明細書で使用するとき、用語「基」は、分子体内の、確定的に連結(共有結合)した原子の集合又は単一原子、あるいは、確定的に連結した原子の集合を意味する。用語「基」は、本明細書では、用語「置換基(substituent)」又は「置換基(substituent group)」と交換可能に使用され得る。
用語「SiH−官能性」は、異性化不可能な脂肪族不飽和基とのヒドロシリル化反応を受けることが可能なSi−H基を含むことを意味する。
用語「一価」は、1つの自由原子価を有することを意味する。用語「一価(univalent)」は、本明細書では、用語「一価(monovalent)」と交換可能に使用され得る。
用語「二価」は、2つの自由原子価を有することを意味する。用語「二価(bivalent)」は、本明細書では、用語「二価(divalent)」と交換可能に使用され得る。
用語「一価有機基」は、オルガニル又はオルガノヘテリルを意味する。用語「一価(univalent)有機基」は、本明細書では、用語「一価(monovalent)有機基」と交換可能に使用され得る。
用語「オルガニル」は、官能性タイプに係わらず、その自由原子価を炭素原子において有する一価有機置換基を意味する(例えば、−CH3、−CH(CH3)2、−C(=O)CH3、−C≡CH又は−C6F5)。
用語「オルガノヘテリル」は、炭素を含むため有機であるが、その自由原子価を炭素以外の原子において有する一価基を意味する(例えば、CH3CH2NH−、−OC(=O)CF3又は−SC6H5)。
用語「二価有機基」は、オルガニレン又はオルガノヘテリレンを意味する。オルガニレン基は2つの自由原子価を有し、そのそれぞれは、同じ(例えば、−CH2−又は=CH2)又は異なり得る(例えば、−CH2CH2−)炭素原子に存在する。オルガニレンは、形式上、オルガニル基の炭素原子から、存在する場合、水素又はハロゲン原子を除去することにより誘導される。オルガノヘテリレン基は2つの自由原子価を有し、少なくとも1つの自由原子価、あるいは両方の自由原子価は、炭素以外の原子に存在する。例えば、CH3CH2N=、OCF2CF2CH2、OCH2CH2CH2O又はSC6H4。オルガノヘテリレンは、形式上、オルガノヘテリル基の炭素原子又はヘテロ原子から、存在する場合、水素又はハロゲン原子を除去することにより誘導される。用語「二価(bivalent)有機基」は、本明細書では、用語「二価(divalent)有機基」と交換可能に使用され得る。
本発明では、二価基Xは、一般式(A)のQと1つの共有結合を形成し、かつ−(OC3F6)、−(OCF(CF3)CF2)、−(OCF2CF(CF3)、−(OC2F4)又は−(CF(CF3))f−(OCF2)のうちの1つからの炭素原子ともう1つの共有結合を形成する。
特定の実施形態においては、Xの二価有機基は、−(CH2)h−であり、下付き文字hは、1〜20の整数である。それゆえ、例えば、下付き文字hが1の場合、Xは、式−(CH2)−で表されるメチレン架橋である。同様に、下付き文字hが2の場合、Xは、式−(CH2−CH2)−で表されるエチレン架橋であり、下付き文字hが3の場合、Xは、式−(CH2CH2CH2)−で表されるプロピレン架橋であり、等である。
特定の実施形態においては、Y’は−C(R1R2)−(式中、R1及びR2は、独立して、ヒドロカルビル基又はFである)である。別の実施形態では、Y’は−C6H4又は−Alk−C6H4−(式中、Alkは、アルキレン基である)である。尚更なる実施形態では、Y’は、−L−C(R3R4)−(式中、R3及びLは、互いに結合してシクロアルキレンを形成し、R4は、ヒドロカルビル基又はFである)である。
尚更なる実施形態では、Qが−Y’−C(Y’−ヒドロカルビル)=CH2の場合、少なくとも1つのY’は、Q内の炭素−炭素二重結合の移動的異性化を防止するヒドロカルビレン基である。
より特定の実施形態では、式[A]の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルは、式[B]による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルである。Y−Za−[(OC3F6)b−(OCF(CF3)CF2)c−(OCF2CF(CF3))d−(OC2F4)e−(CF(CF3))f−(OCF2)g]−X−Y’−CH=CH2。
式[B]において、各Xは、独立して二価有機基、[二価有機基]−O−又はOであり、Yは、F、H又は−X−Y’−CH=CH2であり、Zは、独立して−(CF2)−、−(CF(CF3)CF2O)−、−(CF2CF(CF3)O)−、−(CF(CF3)O)−、−(CF(CF3)CF2)−、−(CF2CF(CF3))−及び−(CF(CF3))−から選択され、aは、1〜200の整数であり、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ独立して0〜200から選択される整数であり、各Y’は、独立してO、−N(R)−、S、又は、Qの炭素−炭素二重結合の移動的異性化を防止するヒドロカルビレン基である。
別のより特定の実施形態では、式[A]の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルは、式[D]による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルである。Y−Za−[(OC3F6)b−(OCF(CF3)CF2)c−(OCF2CF(CF3))d−(OC2F4)e−(CF(CF3))f−(OCF2)g]−X−Q。
式[D]において、各Xは、独立して二価有機基、−[二価有機基]−O−又はOであり、Yは、F、H又は−X−Qであり、Zは、独立して−(CF2)−、−(CF(CF3)CF2O)−、−(CF2CF(CF3)O)−、−(CF(CF3)O)−、−(CF(CF3)CF2)−、−(CF2CF(CF3))−及び−(CF(CF3))−から選択され、aは、1〜200の整数であり、b、c、d、e、f及びgは、それぞれ独立して0〜200から選択される整数であり、各Qは、独立して−C≡CH又は−Y’−C≡CHであり、各Y’は、独立してO、−N(R)−、S又はヒドロカルビレン基である。
特に、例示的な異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルである上記の特定の式において、1つ以上のフッ素原子は、少なくとも2つのフッ素原子が分子内に残留することを条件として、他の原子で置き換えられてもよい。例えば、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル中に他のハロゲン原子(例えば、Cl)が存在してもよく、又は異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルは、フッ素化度が比較的低くてもよい。フッ素化度が比較的低いとは、少なくとも2つのフッ素原子が分子内に残留することを条件として、上記の任意の一般式のフッ素原子の1つ以上が、水素原子で置き換えられ得ることを意味する。
本発明は、異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを調製するための方法も提供する。
一般的に言えば、一般式[A](式中、Qは−Y’−CR=CH2である)の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを形成するために、本方法は、ポリフルオロポリエーテルアルコールを4−ビニルベンジルクロリド及び臭化テトラエチルアンモニウムと反応させる工程を含む。
したがって、例えば、より特定の一般式[B]の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを形成するために、使用されるポリフルオロポリエーテルアルコールは、式[A]Y−Za−[(OC3F6)b−(OCF(CF3)CF2)c−(OCF2CF(CF3))d−(OC2F4)e−(CF(CF3))f−(OCF2)g]−X−Y’−OH(式中、Z、X、Y’及び下付き文字a〜gは、一般式[A]に関連して上述した通りである)に従う。
別の実施形態では、一般式[a]によるポリフルオロポリエーテルアルコールは、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OH(式中、下付き文字nは、5〜75である)を含み、上記のプロセスにより形成された、一般式[B]による、得られた異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルは、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH=CH2を含む。
更に2つの特定の実施形態において、一般式[a]によるポリフルオロポリエーテルアルコールは、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OH(式中、下付き文字nは、10又は17である)を含み、上記のプロセスにより形成された、一般式[B]による、得られた異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルは、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)nCF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH=CH2(式中、nは、10又は17である)を含む。
これらの実施形態の特定のものにおいて、式[a]のポリフルオロポリエーテルアルコールの二価有機基Xは、−(CH2)h−(式中、hは、1〜20の整数である)である。
一般的に言えば、一般式[A](式中、Qは−C≡CHである)の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを形成するために、本方法は、Br−CH2C≡CH及び臭化テトラエチルアンモニウムをポリフルオロポリエーテルアルコールと混合し及び反応させる工程を含む。
したがって、例えば、より特定の一般式[D]の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを形成するために、ポリフルオロポリエーテルアルコールは、一般式[b]に従う。Y−Za−[(OC3F6)b−(OCF(CF3)CF2)c−(OCF2CF(CF3))d−(OC2F4)e−(CF(CF3))f−(OCF2)g]−X−Y’−OH(式中、X、Y、Y’及び下付き文字a〜gは、一般式[D]に関連して上記に記載した通りである)。
更なる実施形態において、一般式[b]によるポリフルオロポリエーテルアルコールは、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OHを含み、上記のプロセスにより形成された、一般式[D]による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルは、CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2C≡CHを含む。
これらの実施形態の特定のものにおいて、式[b]の二価有機基Xは、−(CH2)h−(式中、hは、1〜20の整数である)である。
本発明はまた、上述した任意の式による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルから誘導されたケイ素含有ポリフルオロポリエーテルと、これらのケイ素含有ポリフルオロポリエーテルを形成するための関連した方法とを提供する。また更に、本発明は、これらのケイ素含有ポリフルオロポリエーテルを含み又はこれらのケイ素含有ポリフルオロポリエーテルから構成された表面処理材料と、これらの表面処理材料を形成するための関連した方法とを提供する。
ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルの調製方法は、当技術分野にて一般に既知の方法に容易に基づくことができる。例えば、ポリフルオロポリエーテルシラン等の本発明のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは、典型的には、異性化不可能なアルケニル末端ポリフルオロポリエーテル化合物と、ケイ素が結合した水素原子を有するシラン化合物(即ち、SiH−官能性シラン化合物、即ち、Si−H含有シラン化合物)との間のヒドロシリル化反応により調製されてもよい。SiH−官能性シラン化合物は、典型的には、ケイ素が結合したハロゲン原子、ケイ素が結合したカルボキシ基(例えば、Si−アセトキシ基)、ケイ素が結合したアルコキシ基(例えば、Si−メトキシ又はSi−エトキシ基)、又はケイ素が結合したジアルキルアミノ基(例えば、Si−ジメチルアミノ基)等の少なくとも1つの加水分解性基を含む。ケイ素が結合したハロゲン原子は、反応して、他の加水分解性基に変換され得る。例えば、ケイ素が結合したハロゲン原子は、結果として得られたポリフルオロポリエーテルシラン化合物がSi−アルコキシ官能基を含むように、アルコールと反応してもよく、ここでアルコキシは、アルコールに起因する。水素原子が塩素の場合、そのような反応の副産物は、塩化水素である。この変換は、SiH−官能性シラン化合物と異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルとのヒドロシリル化反応の後に行われてもよい。当業者は、出発成分を変更して、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルの所望の構造を得る方法を理解している。材料なポリフルオロポリエーテルシランを調製する一般的方法の特定の例は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2009/0208728号に開示されている。
本発明の特定の別の実施形態では、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは、一般式[A]による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを、ヒドロシリル化触媒の存在下で、SiH−官能性シラン化合物と反応させることにより形成され得る。SiH−官能性シラン化合物は、トリメトキシシラン、ペンタエトキシジシラン、トリクロロシラン又は1,1,2,2−テトラクロロジシランであってもよい。これらの実施形態において、形成されたケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは、異性化C=C結合を含む副産物で汚染されていない。
本発明の別の実施形態では、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは、上述した特定の実施形態で形成された一般式[B]による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを、ヒドロシリル化触媒の存在下で、SiH−官能性シロキサン化合物(即ち、Si−H含有シロキサン化合物)と反応させることにより形成され得る。これらの実施形態の特定のものにおいて、SiH−官能性シロキサン化合物は、環状SiH−官能性シロキサン化合物であり、尚、更に別の実施形態では、SiH−官能性シロキサン化合物は非環状SiH−官能性シロキサン化合物である。非環状SiH−官能性シロキサン化合物は、ペンタメチルジシロキサンであってもよく、環状SiH−官能性シロキサン化合物は、ヘプタエチルシクロテトラシロキサン又はノナメチルシクロペンタシロキサンであってもよい。
特定の別の実施形態では、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは、上述した特定の実施形態で形成された一般式[D]による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを、ヒドロシリル化触媒の存在下、SiH−官能性化合物と反応させることにより形成され得る。
SiH−官能性化合物は、SiH−官能性シラン化合物、SiH−官能性シロキサン化合物、又はこれらの任意の2つ以上の混合物であってもよい。いくつかの実施形態では、SiH−官能性化合物は、ケイ素が結合した加水分解性基を更に含まない。別の実施形態では、SiH−官能性化合物は、少なくとも1つのケイ素が結合した加水分解性基を更に含む。好適なケイ素が結合した加水分解性基の例は、ケイ素が結合したジアルキルアミノ基(例えば、Si−N(メチル)2)、ケイ素が結合したカルボキシ基(例えば、Si−アセトキシ基)、ケイ素が結合したアルコキシ基(Si−メトキシ、Si−エトキシ基又はSi−ブトキシ)、又はケイ素が結合したハロゲン原子(例えば、Si−クロロ)である。いくつかの実施形態では、SiH−官能性化合物は、Si−アルコキシ又はSi−ハロゲン基を更に含む。
いくつかの実施形態では、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテル(異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル及びSiH−官能性化合物から、ヒドロシリル化反応により調製された)は、ケイ素が結合した加水分解性基を更に含まない。別の実施形態では、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは、少なくとも1つのケイ素が結合した加水分解性基を更に含む。いくつかの実施形態では、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルのケイ素が結合した加水分解性基は、それが調製されたSiH−官能性化合物の適切な(ad rem)実施形態のケイ素が結合した加水分解性基と同じである。いくつかの実施形態では、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルの少なくとも1つのケイ素が結合した加水分解性基は、SiH−官能性化合物の適切な実施形態のケイ素が結合した加水分解性基とは異なり、このSiH−官能性化合物から該ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルが形成された。
更なる別の実施形態では、一般式[C]のケイ素含有ポリフルオロポリエーテル化合物は、式CF
3CF
2CF
2O(CF(CF
3)CF
2O)nCF(CF
3)CH
2OCH
2(C
6H
4)CH=CH
2による異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテルを、ヒドロシリル化触媒の存在下、環状SiH−官能性シロキサンと反応させて、中間生成物を形成した後、この中間生成物を不飽和メタクリレート含有化合物と反応させることにより形成され得る。これらの実施形態において、下付き文字nは、5〜75、あるいは9〜60の範囲内、あるいは10又は11である。得られる式[C]のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは、以下の通りである。
(式中、nは、5〜75である。)
上記したように、本発明は、上記にて記載及び形成したケイ素含有ポリフルオロポリエーテル化合物を含む、表面処理材料及び組成物、並びに表面処理材料を形成するための方法も提供する。
いくつかの実施形態では、表面処理組成物は、ポリフルオロポリエーテル含有化合物と、SiH−官能性シラン、SiH−官能性シロキサン、又はこれらの組み合わせ等のSiH−官能性化合物とを含む。典型的には、表面処理組成物は、ヒドロシリル化触媒を更に含む。表面処理組成物をヒドロシリル化反応条件に供することにより、表面処理材料が提供される。
特定の別の実施形態では、表面処理材料は、一般式[A]によるポリフルオロポリエーテル含有化合物と、SiH−官能性シラン(即ち、ケイ素が結合した水素原子を有するシラン化合物)又はSiH−官能性シロキサンとのヒドロシリル化反応の生成物であり、このヒドロシリル化反応の生成物は、異性化C=C結合を含む副産物で汚染されていない。
特定の別の実施形態では、表面処理材料は、一般式[B]によるポリフルオロポリエーテル含有化合物と、環状SiH−官能性シロキサン化合物等のSiH−官能性シロキサン化合物とのヒドロシリル化反応の生成物である。
特定の別の実施形態では、表面処理材料は、一般式[D]によるポリフルオロポリエーテル含有化合物と、SiH−官能性化合物とのヒドロシリル化反応の生成物である。
上記に示したように、本発明は更に、下記により詳細に集合的に記載される表面処理物品と、表面処理物品の調製方法とを提供する。
この表面処理物品は、表面を呈する物品を含む。任意の表面を処理することができるが、典型的には、表面は、抗汚れ及び/又は抗しみ処理を必要とするものである。物品の表面に層を堆積させる。層は、表面処理材料から構成されている。層は、表面処理組成物から間接的に形成されてもよく、該表面処理組成物は次いでヒドロシリル化反応に供されて、表面処理材料の層となる。あるいは、この層は、表面処理材料から直接形成されてもよい。後者(直接形成)の態様は、前者(間接的形成)の態様よりも都合がよい。直接形成の態様では、表面処理組成物は、反応器等の容器内でヒドロシリル化反応条件に供されて、バルク材料として表面処理材料になる。次いで、このバルク表面処理材料を、物品の表面上にバルク表面処理材料の層として堆積又は形成する。典型的には、バルク表面処理材料は、物品の表面上にバルク表面処理材料の層として堆積される前に、容器から取り出される。所望であれば、物品上に配置された表面処理材料の層を硬化させて(例えば、場合に応じて縮合硬化又はフリーラジカル硬化)、物品上の結合コーティングとしてもよい。結合コーティングは、結合コーティングと、物品の表面との間の共有結合を有するものとして特徴付けられる。表面処理材料で処理されている物品は、任意の物品であり得るが、本発明の表面処理組成物及び表面処理材料から得られる優れた物理的特性のため、この物品は、典型的には、電子物品、光学物品、民生用機器及び部品、自動車車体及び部品等の任意の1つである。最も典型的には、この物品は、指紋又は皮脂によりもたらされる汚れ及び/又はしみを低減させることが望ましい物品である。
電子物品の例には、典型的には、電子ディスプレイ、例えば液晶ディスプレイ(LCD)、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機発光ダイオード(OLED)ディスプレイ、プラズマディスプレイ等を有するものが挙げられる。これらの電子ディスプレイは、種々の電子機器、例えば、コンピュータディスプレイ、テレビ、スマートフォン、グローバル・ポジショニング・システム(GPS)装置、音楽プレーヤー、リモートコントロール、携帯ゲーム機、ポータブルリーダ等に用いられることが多い。例示的な電子物品には、インタラクティブタッチスクリーンディスプレイ又は皮膚と接触することが多く、汚れ及び/若しくはしみを呈することが多い他の部品を有するものが挙げられる。
上記で紹介したように、物品はまた、民生用機器及び部品のような金属物品であってもよい。代表的な物品は、食器洗浄機、コンロ、電子レンジ、冷蔵庫、冷凍庫等、典型的には、例えば、ステンレス鋼、艶消しニッケル等のような光沢のある金属外観を有するものである。
あるいは、物品は、自動車車体又は部品等の乗物本体又は部品であってもよい。例えば、この表面処理材料は、自動車車体に光沢のある外観を付与する層であって、審美的に心地良く、埃等の汚れ及び指紋からのしみを防ぐ層を形成するために、自動車車体のトップコート上に直接適用されてよい。
好適な光学物品の例には、ガラス板、無機層、セラミックス等を含むガラス板等の無機材料が挙げられる。好適な光学物品の更なる例には、有機材料、例えば、透明なプラスチック材料及び無機層を含む透明なプラスチック材料等が挙げられる。光学物品の特定の例には、反射防止フィルム、光学フィルター、光学レンズ、眼鏡のレンズ、ビームスプリッタ、プリズム、鏡等が挙げられる。
有機材料の中で、透明なプラスチック材料の例としては、様々な有機ポリマーを含む材料が挙げられる。透明性、屈折率、分散性及びこれらに類するものといった光学特性、並びに、耐衝撃性、耐熱性及び耐久性等の様々な他の特性の観点から、光学部材として使用される材料は、通常、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、アクリル、セルロース(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セロファン等)又はこのような有機ポリマーのコポリマーを含む。これらの材料は、眼科用素子において利用され得る。眼科用素子の非限定例としては、二焦点、三焦点及び多重焦点レンズのようなシングルビジョン、又はマルチビジョンレンズ(セグメント化されていてもいなくてもよい)を含む、補正又は非補正レンズが挙げられ、並びに、限定するものではないが、例えば、コンタクトレンズ、眼球内レンズ、拡大レンズ及び保護レンズ又はバイザーを含む、視覚の補正、保護又は改善のために使用される他の素子が挙げられる。眼科用素子に好ましい材料は、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタレート、及びポリカーボネートコポリマー、ポリオレフィン(特にポリノルボルネン、CR39として知られているジエチレングリコール−ビス(アリルカーボネート)ポリマー、及びコポリマー)、(メタ)アクリルポリマー及びコポリマー(特にビスフェノールAから誘導される(メタ)アクリルポリマー及びコポリマー)、チオ(メタ)アクリルポリマー及びコポリマー、ウレタン及びチオウレタンポリマー及びコポリマー、エポキシポリマー及びコポリマー、並びに、エピスルフィドポリマー及びコポリマーから選択される1つ以上のポリマーを含む。
上述した物品に加えて、本発明の表面処理材料は、自動車又は飛行機用の窓部材等の他の物品上に層を形成するために適用することができ、これにより、機能性の向上をもたらす。表面硬度の更なる改善のために、この表面処理材料とTEOS(テトラエトキシシラン)を組み合わせて用いるいわゆるゾル−ゲルプロセスにより表面改質を行うことも可能である。
層を形成するために表面処理材料が適用され得る1つの具体的な対象基材は、Corning,New YorkのCorning Incorporatedから市販されている任意の世代のGorilla(登録商標)Glassである。別の特定の対象基材は、Tokyo,JapanのAsahi Glass Companyから市販されているDragontrail(登録商標)ガラスである。
表面処理材料を物品の表面上に適用して、表面処理物品を調製する方法は、様々であり得る。
例えば、特定の実施形態において、表面処理材料を物品の表面上に適用して湿潤層を形成する工程は、湿潤コーティング適用方法を用いる。本方法に好適な湿潤コーティング適用方法の特定の例には、ディップコーティング、スピンコーティング、フローコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スパッタリング、スロットコーティング、インクジェット印刷、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
別の実施形態では、表面処理材料を物品の表面上に適用する工程は、堆積装置を用いて物品の表面上に層を形成する工程を含み得る。例えば、堆積装置が利用される場合、堆積装置は典型的には物理蒸着装置を備える。これらの実施形態では、堆積装置は、典型的には、スパッタリング装置、原子層堆積装置、真空装置及び直流(DC)マグネトロンスパッタリング装置から選択される。これらの物理蒸着装置のそれぞれの最適な制御パラメータは、利用される表面処理材料、層が形成されることになる物品等に基づく。特定の実施形態では、堆積装置は、真空装置を備える。
例えば、層が物理蒸着(PVD)を用いて形成される場合には、この方法は、含浸ペレットを形成するように表面処理材料とペレットを組み合わせることを含む。ペレットは、典型的には、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、炭素、銅、セラミック等の、金属、合金又は他の頑強な材料を含む。典型的には、ペレットは、表面処理材料のケイ素含有ポリフルオロポリエーテルと接触するために、非常に高い表面積対体積の比を有する。ペレットの表面積対体積の比は、ペレットの多孔性に起因し得、即ち、ペレットは多孔質であり得る。あるいは、ペレットは、所望の表面積対体積の比を提供するために、織布、不織布、及び/又は、ナノ繊維等のランダム化繊維を含んでもよい。ペレットは、例えば、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、Al2O3、CaSO4、Cu、Fe、Al、ステンレス鋼、炭素、又はこれらの組み合わせから選択される材料を含んでもよい。この材料は、金属、合金、又は他の頑強な材料を含む、ケーシング内のプラグであってもよい。この表面処理材料は、ペレットの材料とケイ素含有ポリフルオロポリエーテルとが組み合わされるか、そうでない場合は接触される限りは、任意の様式でペレット中に又は該ペレットに対して導入されてよい。例えば、ペレットは表面処理材料中に浸漬されてもよく、又は、表面処理材料は、多孔質材料が表面処理材料で含浸されるようにケーシング内に配置されてもよい。これらの実施形態において、本方法は、含浸させたペレットから、存在する場合、フッ素化ビヒクルを除去して、堆積前に未加工のペレットを形成する工程を更に含む。例えば、フッ素化ビヒクルは、存在する場合、加熱によりペレットから勢いよく流され得る。あるいは、フッ素化ビヒクルは、存在する場合、室温又は僅かに高温にて、場合により真空又は圧縮空気の存在下で、乾燥させることにより、ペレットから除去され得る。
未加工のペレットは、堆積装置において利用されるまで、保存され得る。様々な実施形態では、未加工のペレットは、真空密封アルミニウムバッグの中に保存される。
表面処理材料から層を形成するのに好適な真空装置の1つの特定の例は、Hanil Vacuum Machine Co.,Ltd.(Incheon、South Korea)から市販されているHVC−900DA真空装置である。堆積装置の別の例は、Sanborn,NYのEdwardsから市販されているEdwards AUTO 306である。
未加工のペレットは一般に、堆積装置のチャンバ内の基材上に、コーティングされる物品と共に配置され、ケイ素含有ポリフルオロポリエーテルは抵抗加熱蒸発を用いて蒸発させられ、これにより物品の表面上に層を形成する。
層を形成する方法とは独立して、一旦、物品の表面上に表面処理材料から層が形成されると、層は更に、加熱、加湿、触媒後処理、光照射、電子ビーム照射等を受けてもよい。例えば、表面処理材料が堆積装置により適用された際、該表面処理材料から形成された層は、一般に、高温、例えば80〜150℃で一定時間、例えば45〜75分間加熱される。あるいは、表面処理材料から形成された層は、一定時間、例えば24時間、室温及び周囲条件にて静置され得る。
典型的には、表面処理材料から形成された層の厚さは、1〜1,000、あるいは1〜200、あるいは1〜100、あるいは5〜75、あるいは10〜50ナノメートル(nm)である。
上記したように、表面処理材料から形成された層は、大きい水接触角及び卓越した(即ち、高い)耐久性を有し得る。これは、表面処理材料が適用されるのが湿潤コーティング方法を用いてなのか又は堆積装置を用いてなのかによらず当てはまる。表面処理材料から形成された層の耐久性は一般に、層を摩耗試験にかける前後の層の水接触角により判定される。例えば、耐久性が低い層ほど、摩耗後に水接触角は減少し、これは通常、層が少なくとも部分的に劣化したことを示す。
特定の実施形態では、表面処理材料から形成された層は、層を摩耗試験にかける前後に、75〜150、あるいは80〜125、あるいは90〜110度(°)の水接触角(WCA)を有する。多くの場合、磨耗前、及び、更に一般的には磨耗後の両方の表面処理材料の水接触角は、異性化C=C結合又はC=C=C結合を含む副産物で汚染されたケイ素含有ポリフルオロポリエーテルで形成された表面処理材料に関する水接触角よりも大きい(同様の様式で同じ基材に同じ層厚さに適用された場合)。したがって、表面処理物品用のこのような表面処理材料は、従来の表面処理材料から形成された従来の層の物理的特性と比較して、また、異性化C=C結合又はC=C=C結合を含む副産物で汚染されたケイ素含有ポリフルオロポリエーテルで形成された表面処理材料と比較して、高い耐久性、並びに卓越した物理的及び化学的特性を有する物品を提供すると考えられる。
以下の実施例は、本発明を例示することを意図しており、決して本発明の範囲を限定するものとして見られるものではない。
プロトン核磁気共鳴(1H NMR)スペクトル:特に示さない限り、1H NMRスペクトルは全て、アセトン−d6を含む同軸インサートを有する5mm「300MHz」ガラス管で400 Megahertz(MHz)Agilent 400MRで得られた。化学シフト(δ)は、アセトン基準点に基づいて、PPMにて表す。ピークの帰属は、下線により示す。ピーク分裂は、一重項(s)、二重項(d)、三重項(t)、多重項(m)等として示した。ピーク積分値は、典型的な測定誤差内にある。積分値は、−CF(CF3)CH2OCH2−内の内部メチレン水素原子に関する積分値を2.00H、又は1分子と等しいと設定することにより比較し得る。これは、全ポリフルオロポリエーテル型分子(原料のPFPE、反応したPFPE及び異性化したPFPE)全てが−CF(CF3)CH2O−セグメントを有する筈であるため、それらの合計を占める筈である。例えば、下記の一例では、その値を2.00H、又は1分子と等しいように設定した場合、好ましくない異性化アリルエーテル((−CH2OCH=CHCH3)に対応する可能性がある関連ピークの積分値は0.18分子であり、したがって0.18/(1+0.18)=15mol%の好ましくない異性化異性体及び85mol%の所望の非異性化異性体であった。同様に、好ましくない異性体の積分値0.24分子は、0.24/(1+0.24)=19mol%の好ましくない異性化異性体及び81mol%の所望の非異性化異性体に対応する。
合成実施例1−CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH=CH2の合成。31.0グラム(g)(15.5ミリモル(mmol))のCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OHの30.0g(140.2mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン溶液に、2.24g(40mmol)の水酸化カリウムを加えた。これを65℃で3時間混合した後、2.25g(14.8mmol)の4−ビニルベンジルクロリド及び0.5g(1.6mmol)の臭化テトラエチルアンモニウムを加え、16時間混合した。この材料を3規定(N)塩酸で中和し、3N塩酸及びアセトンの1:1混合物で3回濯いだ。次いで、収集した生成物層をCelatom FW−80濾過助剤、5.0及び0.45μmフィルターを通して濾過した後、100℃及び真空にてストリッピングして、未加工のCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH=CH2を得た。
合成実施例2−CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2C≡CHの合成。31.0g(15.5mmol)のCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OHの30.0g(140.2mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン溶液に、2.24g(56mmol)の水酸化ナトリウムを加えた。これを65℃で3時間混合した後、5.0g(42.4mmol)のBr−CH2C≡CH及び0.5g(1.6mmol)の臭化テトラエチルアンモニウムを加え、更に3時間混合した。この材料を3N塩酸で中和し、3N塩酸及びアセトンの1:1(重量/重量)混合物で3回濯いだ。次いで、収集した生成物層をCelatom FW−80濾過助剤、5.0及び0.45umフィルターを通して濾過した後、100℃及び真空にてストリッピングして、未加工のCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2C≡CHを得た。
合成実施例3−CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3の合成。磁気撹拌棒、ドライアイスDewar型冷却器及び乾燥窒素パージを備えた50mLの3口フラスコに、10.00g(4.7mmol)の、実施例1で調製したCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH=CH2、7.14g(33.4mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、6.60g(48.7mmol)のトリクロロシラン及び0.01g(0.04mmol)のシリル化カルボン酸異性体防止化合物を加えた。反応物を53℃で撹拌し、3.0ミリグラム(mg)の、白金及び1,2−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(25重量パーセント(重量%)Pt)の錯体を、3時間かけて漸次的に加えた。次いで、過剰なトリクロロシラン及び1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを真空下で除去した。次いで、この混合物に5.69g(26.6mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、5.63g(53.1mmol)のトリメチルオルトホルメート及び0.08g(2.5mmol)の無水メタノールを加えた。これを室温で66時間混合させた後、過剰の溶媒及び反応物を真空下でストリッピング除去して、8.38gの濁黄色液体を得た。最終的な濁黄色液体を1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン中で50重量%に希釈し、アセトン−d6を含む同軸インサートを有する5mm「300MHz」ガラス管を使用することにより、NMR用のサンプルを調製した。1H NMR分析は、残留するビニル基を示さなかった(−CH2OCH2(C6H4)CH=CH2、δ 5.48−5.34、m、1H;−CH2OCH2(C6H4)CH=CH2、δ 4.52−4.42、m、1H及び4.01−3.91、m、1H)。ビニル二重結合の移動(即ち、移動的異性化)を示すピークは観察されず、NMRは最終的な材料が所望の生成物:CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3、(−CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3、δ 3.45−3.33、s、2.00H;−CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3、δ −0.13− −0.33、t、2.10H)であることを確認した。
合成実施例4−CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3の代替的合成。磁気撹拌棒、ドライアイスDewar型冷却器及び乾燥窒素パージを備えた50mLの3口フラスコに、10.00g(4.7mmol)の、実施例1で調製したCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH=CH2、7.24g(33.8mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン及び5.64g(41.6mmol)のトリクロロシランを加えた。反応物を60℃で撹拌し、5.2mgの、白金及び1,2−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(25重量%Pt)の錯体を、3.5時間かけて漸次的に加えた。次いで、過剰なトリクロロシラン及び1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを真空下で除去した。次いで、この混合物に5.34g(25.0mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、5.75g(54.2mmol)のトリメチルオルトホルメート及び0.08g(2.5mmol)の無水メタノールを加えた。これを室温で66時間混合させた後、過剰の溶媒及び反応物を真空下でストリッピング除去して、7.96gの濁黄色液体を得た。最終的な濁黄色液体を1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン中で50重量%に希釈し、アセトン−d6を含む同軸インサートを有する5mmガラス管を使用することにより、1H NMRスペクトルを得た。1H NMR分析は、残留するビニル基を示さなかった(−CH2OCH2(C6H4)CH=CH2、δ 5.48−5.34、m、1H;−CH2OCH2(C6H4)CH=CH2、δ 4.52−4.42、m、1H及び4.01−3.91、m、1H)。ビニル二重結合の移動(即ち、移動的異性化)を示すピークは観察されず、NMRは最終的な材料が所望の生成物:CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3、(−CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3、δ 3.46−3.34、s、2.00H;−CH2OCH2(C6H4)CH2CH2Si(OCH3)3、δ −0.17〜−0.27、t、2.07H)であることを確認した。
合成実施例5−CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2CH=CHSi(OCH3)3の合成。磁気撹拌棒、ドライアイスDewar型冷却器及び乾燥窒素パージを備えた50mLの3口フラスコに、10.00g(4.9mmol)の、実施例2で調製したCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2C≡CH、7.13g(33.3mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン及び6.21g(45.8mmol)のトリクロロシランを加えた。反応物を60℃で撹拌し、5.2mgの、白金及び1,2−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(25重量%Pt)の錯体を、4時間かけて漸次的に加えた。次いで、過剰なトリクロロシラン及び1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを真空下で除去した。次いで、この混合物に8.38g(39.2mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、7.95g(74.9mmol)のトリメチルオルトホルメート及び0.09g(2.8mmol)の無水メタノールを加えた。これを室温で39時間混合させた後、過剰の溶媒及び反応物を真空下でストリッピング除去して、10.59gの濁黄色液体を得た。最終的な濁黄色液体を1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン中で50重量%に希釈し、アセトン−d6を含む同軸インサートを有する5mmガラス管を使用することにより、1H NMRスペクトルを得た。1H NMR分析は、残留している三重結合を示さなかった(−CH2OCH2C≡CH、δ 1.30−1.02、t、1H)。この材料は、所望のCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)10CF(CF3)CH2OCH2CH=CHSi(OCH3)3、及び関連する−Si(OCH3)3のバリエーションである(−CH2OCH2CH=CHSi(OCH3)3、δ 2.95−2.86、m、2.00H;−CH2OCH2CH=CHSi(OCH3)3、δ 2.40−2.42、s、9.92H)であることが見出された。
合成実施例6−化合物[C]の合成
(式中、下付き文字nは11である。)9.6g(3mmol)の、実施例1で調製したF(CF(CF
3)CF
2O)
11CF(CF
3)CH
2OCH
2(C
6H
4)CH=CH
2の、20g(93mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン溶液に、0.72g(3mmol)の(SiH(CH
3)O
2/
2)
4と、1mgの、白金及び1,2−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(25重量%Pt)の錯体とを加えた。これを70℃で混合し、冷却した。この中間生成物に、1.36g(11mmol)のアリルメタクリレート、25g(117mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、0.01g(0.05mmol)のブチル化ヒドロキシトルエン及び0.01g(0.04mmol)のシリル化カルボン酸異性体防止化合物を加えた。これを60℃で混合し、冷却して所望の生成物F(CF(CF
3)CF
2O)
11CF(CF
3)CH
2OCH
2(C
6H
4)CH
2CH
2Si(CH
3)O(Si(CH
3)(CH
2CH
2CH
2OCOC(CH
2)CH
3)O)
3を得た。
1H NMR分析は、残留するビニル基を示さず(−CH
2OCH
2(C
6H
4)CH=CH
2、δ 5.48−5.34、m、1H;−CH
2OCH
2(C
6H
4)CH=CH
2、δ 4.52−4.42、m、1H及び4.01−3.91、m、1H)、またビニル二重結合の移動(即ち、移動的異性化)を示すピークは観察されなかった。
比較例1−CF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)17CF(CF3)CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3の合成。磁気撹拌棒、ドライアイスDewar型冷却器及び乾燥窒素パージを備えた50mLの3口フラスコに、20.72g(6.5mmol)のCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)17CF(CF3)CH2OCH2CH=CH2、14.31g(66.8mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、7.54g(55.7mmol)のトリクロロシラン及び0.021g(0.1mmol)のシリル化カルボン酸異性体防止化合物を加えた。反応物を60℃で撹拌し、8.9mgの、白金及び1,2−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(25重量%Pt)の錯体を4.5時間かけて漸次的に加えた。次いで、過剰なトリクロロシラン及び1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを真空下で除去した。次いで、この混合物に4.45g(20.8mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、9.70g(91.4mmol)のトリメチルオルトホルメート及び0.118g(3.7mmol)の無水メタノールを加えた。これを室温で18時間混合させた後、過剰の溶媒及び反応物を真空下でストリッピング除去して、20.94gの濁黄色液体を得た。最終的な濁黄色液体を1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン中で50重量%に希釈し、アセトン−d6を含む同軸インサートを有する5mmガラス管を使用することにより、1H NMRスペクトルを得た。1H NMR分析は、残留するアリルエーテルを示さなかった(−CH2OCH2CH=CH2、δ 4.81−4.69、m、1H及びδ 4.22−4.02、m、1H)。異性化した出発材料の所望の生成物に対する比は、PFPE−分子(−CF(CF3)CH2OCH2−、δ 2.90−2.76、d、2.00H)の総量を、異性化アリルエーテル(−CH2OCH=CHCH3、δ3.71−3.64及び3.38−3.28、m、0.18H)と比較することにより計算し、この場合、約15%の異性化アリルエーテルCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)17CF(CF3)CH2OCH=CHCH3と、約85%の所望のCF3CF2CF2O(CF(CF3)CF2O)17CF(CF3)CH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3及び関連する−Si(OCH3)3バリエーションであった。
比較例2−化合物[C]’の合成
(式中、下付き文字nは18である。)32g(10mmol)のF(CF(CF
3)CF
2O)
18CF(CF
3)CH
2OCH
2CH=CH
2を55g(257mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに加えることにより、溶液を調製した。この溶液に、2.4g(10mmol)の(SiH(CH
3)O
2/
2)
4及び1mgの、白金及び1,2−ジエテニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンの錯体(25重量%Pt)を加えた。これを70℃で混合し、冷却した。この中間生成物に、4.5g(36mmol)のアリルメタクリレート、100g(467mmol)の1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、0.05g(0.2mmol)のブチル化ヒドロキシトルエン及び0.05g(0.2mmol)のシリル化カルボン酸異性体防止化合物を加えた。これを60℃で混合し、冷却して所望の生成物を得た。
1H NMR分析は、残留するアリルエーテルを示さなかった(−CH
2OCH
2CH=CH
2、δ 4.81−4.69、m、1H及びδ 4.22−4.02、m、1H)。異性化した出発材料に対する所望の生成物の比は、PFPE−分子(−CF(CF
3)CH
2OCH
2−、δ 2.90−2.76、d、2.00H)の総量を、異性化アリルエーテル(−CH
2OCH=CHCH
3、δ 5.11−4.98及び4.84−4.64、m、0.24H)と比較することにより計算され、これは約19%の異性化アリルエーテルF(CF(CF
3)CF
2O)
18CF(CF
3)CH
2OCH=CHCH
3と、約81%の所望のF(CF(CF
3)CF
2O)
18CF(CF
3)CH
2OCH
2CH
2CH
2Si(CH
3)O(Si(CH
3)(CH
2CH
2CH
2OCOC(CH
2)CH
3)O)3及び関連したバリエーションであった。表1:
1H NMRによる異性化レベルの概略
表1に記載した結果が示すように、合成実施例3〜6で使用した出発材料の異性化不可能な脂肪族不飽和ポリフルオロポリエーテル(PFPE)構造は、末端−CH=CH2の移動的異性化を防止、又は検出可能でないレベルの移動的異性化をもたらした。その一方、比較例の構造は、末端−CH=CH2の移動的異性化が測定可能なレベルまで起き、好ましくなかった。
コーティング実施例
コーティング性能の比較として、比較例1及び合成実施例4で調製した材料を3M Novec 7200溶媒中で0.2重量%に希釈し、洗浄した2”×3”(5.08センチメートル(cm)×7.62cm)の顕微鏡スライドガラス上にスプレーコーティングした。その製造業者によれば、3M Novec 7200溶媒は、経験式C4H9OC2H5を有し、おそらく50/50混合物としての「本質的に同一の特性を有する分離不可能な2種の異性体:(CF3)2CFCF2OC2H5(CAS No.163702−06−5)及びCF3CF2CF2CF2OC2H5(CAS No.163702−05−4)からなる。」スライドガラスを洗剤で洗浄し、濯ぎ、コーティング前に大気プラズマで処理した。コーティング後、脱イオン水の蒸発皿を含む125℃の炉内でスライドガラスを1時間縮合硬化させて、高結合密度/結合コーティング(合成実施例4を用いて作製)又は低結合密度/弱く結合されたコーティング(比較例1を用いて作製)を得た。次いで、硬化コーティング/スライドガラス(即ち、結合コーティング又は弱く結合されたコーティングを有するスライドガラス)を3M Novec 7200溶媒で濯いで、任意の過剰な未硬化材料を除去した。次いで、静的水接触角を測定することにより性能を評価した。これは、コーティングされたままのスライドガラス上で、及びコーティング耐久性(架橋度及びコーティングの結合の程度を含む)を評価するために様々な方法で研磨されたスライドガラス上で行った。
本明細書では、変更を加えたASTM 5946−04に従い、2マイクロリットル(μL)の脱イオン水を用いて、AST Products,Inc.,Billerica,MAにより製造されたVCA Optima XEゴニオメーターを使用して静的水接触角の測定を行った。報告したデータは、複数のサンプルを使用した、コーティング上の複数の位置における6個の測定値の平均WCAであった。WCAは、研磨サイクルの前後の両方で測定した。一般に、研磨後、WCAが大きいほど、層の耐久性も高い。
耐摩耗性試験は、North Tonawanda、New YorkのTaber Industriesにより製造された往復研磨機Model 5900を使用した。この研磨機は、1インチ(2.54cm)のストローク長を有する。1回の前後の移動は、サイクルと称される。試験は、複数の研磨媒体を用いて行った。第1の場合、研磨は、0000#スチールウールを使用して、20ミリメートル(mm)×20mmの表面積に亘って、10ニュートンの負荷を用いて60サイクル/分の速度で2000サイクル行った。第2の場合、研磨は、0.25インチ(0.635cm)の直径を有する、Taber製のTaber CS−10研磨媒体(弾性又は陶化(粘土)バインダー中に埋め込まれた炭化ケイ素又は酸化アルミニウム研磨粒子)を使用して、7.5ニュートンの負荷を用いて25サイクル/分の速度で25サイクル行った。第3の場合、研磨は、6.0mmの直径を有する摩擦試験消しゴム(Munbangsawoo Co.,Ltd.)を使用して、5ニュートンの負荷を用いて40サイクル/分の速度で1500サイクル行った。結果を下記の表2報告する。
表2に記載した結果が示すように、本発明の実施形態(実施例4)に従って作製した材料を使用して調製したより高い架橋密度/結合コーティングは、比較例1から調製したより低い架橋密度/弱く結合されたコーティングと比較して、優れた研磨WCA性能を与え、検出可能な移動的異性体を欠いた本発明の材料の実施形態を使用した本発明の結合コーティングに関する優れた結果に相関していた。理論に束縛されるものではないが、末端脂肪族不飽和結合を有する所望の本発明の非異性化材料は、ヒドロシリル化反応中に反応して、SiH官能性化合物に対する結合を形成し、結果として得られた表面処理材料がより高い結合密度/より大きい分子量を有し、その後、更に基材の表面と縮合硬化により反応して、基材に対する共有結合を有する結合コーティングを形成し、基材上の結合コーティングを形成することを可能にする一方、内部脂肪族不飽和結合を有する比較例の移動的に異性化された材料は、そのような結合密度又はそのような高分子量の材料を形成することができず、又は、比較例の弱く結合されたコーティングと基材の表面との間で十分な数の共有結合を形成することが不可能であると考えられる。
比較例2及び合成実施例6で調製した材料を、紫外線(UV)硬化ハードコーティング配合物中に配合した。20.4部のKAYARAdジペンタエリトリトール(dipenthaerythiritol)ヘキサアクリレート(dPHA)、61.2部のNissan MEK−AC−2140Z、16.3部のプロピレングリコールモノメチルエーテル及び2.0部のCiba Irgacure 184を混合することにより、100部のハードコーティング配合物を調製した。MEK−AC−2140Zは、メチルエチルケトン中の表面処理されたコロイダルシリカであり、このシリカは、10〜15nmの粒子サイズを有する。Irgacure 184は、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンである。次いで、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン中の20重量%の合成実施例6又は比較例2の混合物を、2:98、1:99、0.5:99.5又は0.2:99.8の比で、ハードコーティング配合物に加えた。これは、様々なレベルで行って、洗浄容易性の特徴を付与する点での対照PFPE−アクリレート材料と低異性体PFPE−アクリレート材料の効果を評価した。次いで、これらのハードコーティング配合物をポリカーボネート基材上にスピンコートし、過剰な溶媒を80℃の炉内で10分間、急速に気化させ、2000ミリジュール/平方センチメートル(mJ/cm
2)のUV光によりフリーラジカル硬化させて、より高い架橋密度/結合コーティング(合成実施例6を用いて作製)又はより低い架橋密度/弱く結合されたコーティング(比較例2を用いて作製)を得た。次いで、水接触角を前述したように試験した。結果を下記の表3に報告する。
表3に記載した結果が示すように、本発明の実施形態(合成実施例6)に従って作製したコーティングは、1.0、0.5及び0.2重量%負荷において、比較例2を用いて調製したコーティングと比較して、優れたWCA性能を与え、検出可能な移動的異性体を欠いた本発明の材料の実施形態を使用したコーティングに関する優れた結果に相関していた。理論に束縛されるものではないが、末端脂肪族不飽和結合を有する所望の本発明の非異性化材料は、ヒドロシリル化反応中に反応して、SiH官能性化合物に対する架橋又は結合を形成し、結果として得られた表面処理材料がより高い架橋密度を有し、その後、更に、続く縮合又はフリーラジカル硬化反応中に基材の表面と反応して、基材に対する共有結合を有する結合コーティングを形成する一方、内部脂肪族不飽和結合を有する比較例の移動的に異性化された材料は、そのような架橋を形成することができず、又は、比較例の弱く結合されたコーティングと基材との間でのそのような共有結合の十分な形成が不可能であると考えられる。
添付の特許請求の範囲は、詳細な説明に記述された明確で特定の化合物、表面処理材料、又は方法に限定されず、化合物、組成物、又は方法が、添付の特許請求の範囲内にある特定の実施形態間で異なってもよい。本明細書において依拠されている任意のマーカッシュ群に関して、異なる、特殊な及び/又は不測の結果は、全ての他のマーカッシュ群の構成員から独立して、各マーカッシュ群のそれぞれの構成員から得られるものとする。マーカッシュ群の各要素は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に個別に及び/又は組み合わせて依存してもよく、適切な根拠を提供する。
更に、本発明の様々な実施形態を説明する際に依拠される任意の範囲及び部分範囲は独立して及び総じて、添付の請求の範囲内に入り、たとえ、本明細書にその中の全部及び/又は一部の値が明記されていなくても、そのような値を包含する全範囲を説明及び想到するものと理解される。計数範囲及び部分範囲が、本発明の様々な実施態様を十分に記述しかつ可能にし、かかる範囲及び部分範囲が、更に、関連する2分の1、3分の1、4分の1、5分の1等に詳述されてよいことを当業者は容易に理解するであろう。ほんの一例として、範囲「0.1〜0.9」は、下の方の3分の1、即ち、0.1〜0.3、中間の3分の1、即ち、0.4〜0.6、及び上の方の3分の1、即ち、0.7〜0.9に更に詳述でき、これらは、個別かつ集合的に添付の特許請求の範囲内であり、添付の特許請求の範囲内の特定の実施態様に個別及び/又は集合的に依存され、適切な根拠を提供し得る。更に、「少なくとも」、「より大きい」、「未満」、「以下」等の範囲を定義又は修飾する用語に関して、かかる用語が部分範囲及び/又は上限又は下限を含むことを理解されたい。別の例として、「少なくとも10」の範囲は、本質的に、少なくとも10〜35の部分範囲、少なくとも10〜25の部分範囲、25〜35の部分範囲等を含み、各部分範囲は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に個別及び/又は集合的に依存することがあり、これに適切な根拠を提供する。最終的には、開示された範囲内の個々の数は、添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に依存することができ、これに適切な根拠を提供する。例えば、範囲「1〜9」は、様々な個々の整数、例えば、3、並びに小数点(又は分数)を含む個別の数、例えば、4.1を含み、これは添付の特許請求の範囲内の特定の実施形態に依存してもよく、これに適切な根拠を提供する。
本発明は、例示的な方法にて記述されており、使用された用語は限定よりもむしろ説明的な言葉の性質を持つことを意図している。本発明の多くの修正及び変更が上記教示から可能である。本発明は、具体的に記載した方法の通り以外の方法でも実施され得る。
以下の特許請求の範囲は、用語「請求項」がそれぞれ用語「態様」に置き換わっている番号付けされた態様として、参照により本明細書に組み込まれる。