以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1に示されるように、スクロール膨張機1を有する発電システム100は、スクロール膨張機1を動力源として発電機101を駆動するシステムである。スクロール膨張機1には、作動媒体供給部102から作動媒体として蒸気Vが供給される。この蒸気Vには、例えば、水蒸気や、ランキンサイクルに用いられる冷媒が挙げられる。スクロール膨張機1は、供給された蒸気Vをその内部において膨張させ、膨張時に生じるエネルギを回転エネルギに変換する。そして、スクロール膨張機1は、駆動軸を介して回転エネルギを発電機101へ伝達する。膨張後の蒸気Vは、スクロール膨張機1の外部へ排出される。排出される蒸気Vの温度は、供給される蒸気Vの温度よりも低い。すなわち、スクロール膨張機1は、供給時における蒸気Vの温度と、排出時における蒸気Vの温度との温度差に対応するエネルギを回転エネルギとして取り出す機械である。
スクロール膨張機1は、主要な構成部品として、ハウジング2と、入力駆動軸3と、出力駆動軸4と、駆動スクロール体6と、従動スクロール体7と、ベアリングプレート8と、連動機構9と、を備える。
ハウジング2は、一対のケース11,12を有し、その内部に駆動スクロール体6、従動スクロール体7、ベアリングプレート8及び連動機構9を収容する収容空間S1を形成する。ケース11は、入力駆動軸3が挿通される軸穴11aを有する。軸穴11aは、その中心軸線が第1の軸線A1を規定する。ケース11には、入力駆動軸3を回転支持する駆動軸受11bと、ベアリングプレート8を回転支持する従動軸受11cと、が配置されている。駆動軸受11bの中心軸線は、第1の軸線A1と一致する。一方、従動軸受11cの中心軸線は、第2の軸線A2と一致する。第2の軸線A2は、第1の軸線A1に対して距離tだけ偏心した軸線であり、従動軸受11cが嵌め込まれる軸受保持部11fの中心軸線が第2の軸線A2を規定する。ケース11の開口端11dには、作動媒体供給部102とのインターフェースとしてのキャップ13が取り付けられている。また、第1の軸線A1の方向において、駆動軸受11bと開口端11dとの間には、オイルシール14が配置されている。ケース12は、ケース11と略同様の構造を有する。すなわち、ケース12は、軸穴11aを有し、駆動軸受11b及び従動軸受11cが配置されている。また、ケース12には、膨張後の蒸気Vを排出する排出口11eが形成されている。
入力駆動軸3は、ケース11の軸穴11aに挿通されている。従って、入力駆動軸3の回転軸線は、第1の軸線A1と一致する。入力駆動軸3の一端は、駆動スクロール体6に取り付けられている。入力駆動軸3には、蒸気Vを導入するための作動媒体導入穴3aが形成されている。作動媒体導入穴3aは、入力駆動軸3の一端から他端まで貫通している。出力駆動軸4は、ケース12の軸穴11aに挿通されている。従って、出力駆動軸4の回転軸線は、第1の軸線A1と一致する。出力駆動軸4の一端は、駆動スクロール体6に取り付けられている。また、出力駆動軸4の他端は、発電機101に連結されている。
駆動スクロール体6は、収容空間S1内において第1の軸線A1周りに回転可能に収容されている。駆動スクロール体6は、円盤状をなす一対の駆動端板16と、駆動ラップ17とを有する。一対の駆動端板16は、駆動端板16の外周縁部16cにおいて互いに連結されている。一方の駆動端板16には、外表面16aに入力駆動軸3が取り付けられると共に、蒸気Vを導入するための作動媒体導入穴16bが形成されている。作動媒体導入穴16bは、入力駆動軸3の作動媒体導入穴3aと連通している。また、他方の駆動端板16の外表面16aには、出力駆動軸4が取り付けられている。駆動端板16の内表面16dには、らせん状或いは渦巻き状の形状をなす駆動ラップ17が立設されている。すなわち、駆動ラップ17は一対の駆動端板16の間に配置されている。上述した入力駆動軸3及び出力駆動軸4は、駆動スクロール体6を介して一体化され、これら入力駆動軸3、出力駆動軸4及び駆動スクロール体6は、第1の軸線A1周りに一体となって回転する。
従動スクロール体7は、収容空間S1内において第2の軸線A2周りに回転可能に収容されている。従動スクロール体7は、円盤状をなす従動端板18と、らせん状或いは渦巻き状の形状をなす従動ラップ19とを有する。従動端板18は、駆動スクロール体6の駆動端板16の間に配置され、ベアリングプレート8に対して連結されている。従動端板18の両面には、駆動端板16に向かう方向に従動ラップ19が立設されている。これら、駆動端板16、従動端板18、駆動ラップ17及び従動ラップ19は、蒸気Vを膨張させるらせん状或いは渦巻き状の膨張室S2を形成する。
ベアリングプレート8は、従動スクロール体7を第2の軸線A2周りに回転可能に保持する。ベアリングプレート8は略円盤状を呈する一対のプレート21を有し、それぞれのプレート21は、第1の軸線A1(又は第2の軸線A2)の方向において駆動端板16とケース11との間にそれぞれ配置されている。すなわち、ベアリングプレート8は、駆動スクロール体6及び従動スクロール体7を挟むように配置されている。一対のプレート21は、その外周縁部において、従動端板18の外周縁部に対して連結されている。プレート21は、第2の軸線A2を回転中心軸とする回転軸部21aを有する。回転軸部21aは、ケース11と対向するプレート21の表面側に形成され、従動軸受11cに嵌合している。従って、ベアリングプレート8と、ベアリングプレート8に連結された従動スクロール体7とは、第2の軸線A2周りに回転する。
連動機構9は、駆動スクロール体6と従動スクロール体7とを連動して互いに同期回転させる。連動機構9は、駆動スクロール体6に取り付けられた駆動ピン22と、ベアリングプレート8に取り付けられたガイドリング23とを有する。図2に示されるように、スクロール膨張機1は、3個の連動機構9を有する。連動機構9は、第1の軸線A1周りの円周方向に沿って略等間隔に配置されている。入力駆動軸3側に配置された連動機構9と、出力駆動軸4側に配置された連動機構9とは、第1の軸線A1と平行な仮想軸線上に配置されている。
図3に示されるように、駆動ピン22の一端側は、駆動スクロール体6の駆動端板16に取り付けられている。また、駆動ピン22の他端側は、ガイドリング23内に配置されている。駆動ピン22は、第1の軸線A1の方向に沿って延在する円柱状のピン部24と、駆動ピン22の一端側に形成されたフランジ部26とを有する。ピン部24とフランジ部26とは一体に形成され、金属材料(例えば、SUS303材)からなる。ピン部24の一端は、駆動端板16の凹部に嵌め込まれている。フランジ部26は、駆動端板16の外表面16aに対して例えばボルトにより固定されている。ピン部24の他端側は、ガイドリング23内に配置されている。
ピン部24の他端側における外周面22sは、ガイドリング23の内周面23aと接触する。この外周面22sには、硬質膜27が形成されている。硬質膜27は、ダイヤモンドライクカーボンであり、主に炭化水素或いは炭素の同位体からなるアモルファス(非晶質)である。硬質膜27は、例えば、1μm〜5μmの膜厚を呈する。ダイヤモンドライクカーボン(Diamond‐Like Carbon:DLC)からなる硬質膜27は、駆動ピン22におけるガイドリング23との接触部分に対して潤滑性、耐摩耗性を付与する。硬質膜27は、主成分である炭化水素或いは炭素の同位体の他に、添加材としてその他の成分を含んでいてもよい。硬質膜27の形成には、例えば、プラズマCDV法又はPVD法が用いられる。
さらに、駆動ピン22には、凝縮液供給部としての凝縮液供給穴22aが形成されている。凝縮液供給穴22aは、蒸気V或いは凝縮液をガイドリング23の内部に導いてガイドリング23と駆動ピン22との間に凝縮液を供給する凝縮液供給部である。ここで、蒸気Vが水蒸気である場合には、凝縮液は水である。凝縮液供給穴22aは、ピン部24の一端面から他端面に至る貫通孔である。凝縮液供給穴22aは、駆動端板16に嵌め込まれたピン部24の一端側において、駆動端板16に形成された凝縮液供給穴16eに連通している。従って、膨張室S2とガイドリング23の内部とは、凝縮液供給穴16e及び凝縮液供給穴22aを介して繋がっており、膨張室S2内の蒸気V或いは凝縮液がガイドリング23の内部に導入される。ガイドリング23内には、膨張後の蒸気Vを導入することが好ましい。従って、駆動端板16の凝縮液供給穴16eは、駆動スクロール体6の最外周の駆動ラップ17aと当該駆動ラップ17aに隣接する駆動ラップ17bとの間の空間S2aと連通する位置に設けるとよい。また、凝縮液供給穴16eと連通する凝縮液供給穴22aを有する駆動ピン22も、駆動端板16における同様の位置に取り付けるとよい。具体的には、凝縮液供給穴16eの軸線が駆動ラップ17a,17bの間に配置されるように、駆動ピン22を駆動端板16に取り付ける。
ガイドリング23は、駆動スクロール体6と対面するプレート21の内表面21bに取り付けられている。ガイドリング23は、自己潤滑性を有する高分子樹脂材料としてポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)からなる。なお、ガイドリング23は、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)であってもよい。ガイドリング23は、円筒状の形状を呈し、リング部28と、リング部28の一端側に形成されたフランジ部29とを有する。リング部28は、プレート21に形成された凹部に嵌め込まれている。フランジ部26は、プレート21に対してボルト固定されている。リング部28は、駆動ピン22が配置されるガイド穴23bを有する。ガイド穴23bは、内周面23aによって画成されている。ガイド穴23bの内径は、駆動ピン22におけるピン部24の外径よりも大きい。リング部28の内周面23aには、駆動ピン22が接触している。この構成は、駆動ピン22の中心軸線に対してガイドリング23の中心軸線を偏心させることにより実現されている。この偏心量は、第1の軸線A1に対する第2の軸線A2の偏心量(距離t:図1参照)と同じである。
図1に示されるように、上記構成を有するスクロール膨張機1には、作動媒体供給部102から蒸気Vがキャップ13を介して供給される。蒸気Vは、キャップ13の貫通穴13a及び入力駆動軸3の作動媒体導入穴3aを介して膨張室S2へ導入される。膨張室S2へ導入された蒸気Vは、駆動ラップ17及び従動ラップ19により形成される空間において膨張しつつ、膨張室S2の中心から外周へ向かって移動する。膨張室S2からハウジング2内に排出された蒸気Vは、排出口11eから排気される。この膨張により、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との間において旋回運動が生じる。この旋回運動は、ハウジング2から見ると、第1の軸線A1周りにおける駆動スクロール体6の回転運動と、第2の軸線A2周りにおける従動スクロール体7の回転運動と、に見える。従って、駆動スクロール体6に取り付けられた出力駆動軸4が第1の軸線A1周りに回転する。この出力駆動軸4の回転運動は、発電機101に伝達される。
このスクロール膨張機1は、駆動ピン22とガイドリング23とにより、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との間において、相対的な自転運動を規制しつつ、相対的な公転運動を行わせる。この原理に基づくスクロール膨張機1は、シンプルで構成要素が少ないので、製造コストを低減することができる。そして、駆動ピン22とガイドリング23とは、駆動ピン22の外周面22sがガイドリング23の内周面23aに当接して、内周面23a又は外周面22sの接線方向に滑ることにより、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との間において公転運動を許容する。従って、転動体を含む軸受を用いることなく、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との相対的な運動を規定することが可能である。従って、機械的なエネルギロスの増大を抑制することができる。さらに、駆動ピン22の外周面22sにはダイヤモンドライクカーボンを含む硬質膜27が形成され、ガイドリング23はポリエーテルエーテルケトン樹脂からなる。これら硬質膜27と、ポリエーテルエーテルケトン樹脂との接触状態によれば、良好な滑り状態が得られる。従って、長期間に亘って低摩耗で安定した旋回動作を実現することができる。さらに、駆動ピン22とガイドリング23との間に凝縮液が存在する場合には、駆動ピン22とガイドリング23との摩擦係数が低減されるので、機械的なエネルギロスが更に低減される。従って、スクロール膨張機1によれば、良好な回転状態を維持することができる。
また、駆動ピン22は、蒸気が凝縮して形成された凝縮液を駆動ピン22とガイドリング23との間に供給する凝縮液供給穴22aを有する。この凝縮液供給穴22aによれば、膨張室S2における蒸気の膨張圧によって、蒸気Vが駆動ピン22の先端側の開口に向かって蒸気V又は凝縮液が強制的に供給されるので、駆動ピン22とガイドリング23との間に凝縮液を強制的に供給することが可能になる。従って、駆動ピン22とガイドリング23との潤滑状態が良好になるので、駆動スクロール体6と従動スクロール体7との相対的な回転運動に伴う機械的なエネルギロスを低減することができる。そして、安定した凝縮液の供給によれば、必要動力及び動作音を低減することもできる。要するに、スクロール膨張機1では、蒸気化されたガスが膨張によって凝縮され、その凝縮液を潤滑剤として利用している。
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。
例えば、図4(a)に示されるように、駆動ピン22Aは、凝縮液供給穴22aに加えて、凝縮液供給部としての別の凝縮液供給穴22bを有していてもよい。凝縮液供給穴22bは、駆動ピン22Aの直径方向に沿って、凝縮液供給穴22aから外周面22sまで延在している。この凝縮液供給穴22bによれば、駆動ピン22Aとガイドリング23との接触界面に対して、蒸気V又は凝縮液を直接に供給することが可能になる。また、駆動ピン22Aは、駆動スクロール体6と共に第1の軸線A1周りに回転しているので、この回転による遠心力によって、蒸気V又は凝縮液を効率よく凝縮液供給穴22bから外周面22sへ供給することができる。従って、駆動ピン22Aとガイドリング23との間に安定的かつ連続的に潤滑液としての凝縮液が供給され、良好な潤滑状態を保持することができる。
さらに、駆動ピン22Aは、凝縮液供給穴22a,22bに加えて、凝縮液供給部としてのスパイラル溝22cを有していてもよい。スパイラル溝22cは、ガイドリング23の内周面23aに接触する外周面22sに形成されている。この構成によれば、膨張室S2から排出された膨張後の蒸気Vが駆動ピン22Aの周囲で凝縮した場合に、毛細管現象によってスパイラル溝22cの全体に行き渡らせることが可能になる。従って、駆動ピン22Aとガイドリング23との間に安定的かつ連続的に潤滑液としての凝縮液が供給され、良好な潤滑状態を保持することができる。
また、図4(b)に示されるように、駆動ピン22Bは、駆動ピン22Bとガイドリング23との接触界面に生じる凝縮液膜Wを保持する凝縮液保持部としてのディンプル22dを有していてもよい。また、図4(c)に示されるように、駆動ピン22Cは、外周面22s上に形成された親水膜31を有していてもよい。具体的には、親水膜31は、硬質膜27上に形成されている。また、ガイドリング23Aは、内周面23aに形成された親水膜32を有していてもよい。スクロール膨張機は、これら親水膜31,32を両方有していてもよいし、何れか一方を有していてもよい。すなわち、スクロール膨張機は、親水膜31,32の少なくとも一方を有していればよい。これらディンプル22d及び親水膜31,32によれば、潤滑液としての凝縮液膜Wの飛散を抑制し、良好な潤滑状態を保持することができる。