次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。この実施の形態では本発明の像振れ補正装置をカメラのレンズ鏡筒に設けた手触れ補正装置として構成した例を示している。図1は当該カメラCAMの概念構成図であり、カメラボディCBと、このカメラボディCBと一体に形成され、または当該カメラボディCBに着脱可能なレンズ鏡筒、すなわちカメラレンズCLとで構成されており、カメラボディCB内にはレンズ鏡筒CLで結像された被写体像を撮像するための撮像素子ISが内装されている。レンズ鏡筒CLには被写体を結像するための結像光学系OLが内装されるとともに、この結像光学系OLで結像される被写体像の手振れを補正するための像振れ補正装置IRDが内装されている。
この像振れ補正装置IRDは、前記レンズ鏡筒CLに内装されて撮影時にカメラボディCBまたはレンズ鏡筒CLに生じる手振れ振動を検出する振動検出手段(ジャイロセンサ)XG,YGからの検出信号に基づいて当該振動を相殺するように、被写体像を光軸と直交するX方向(本発明における第1の方向、像振れ補正装置の水平方向、図1の左右方向、以下同じ)とY方向(本発明における第2の方向、像振れ補正装置の鉛直方向、図1の上下方向、以下同じ)に変位させる構成とされている。この補正を行うために、当該像振れ補正装置IRDには、結像光学系OLの光路上に配置した補正光学系、すなわち補正レンズRLを備えるとともに、この補正レンズRLをX方向、Y方向に駆動させるためのボイスコイル構造のX,Yの各磁気アクチュエータXM,YMと、補正レンズRLの駆動に伴うX方向、Y方向の位置を検出するためのX,Yの各位置センサXS,YSを備えている。
図2は前記像振れ補正装置IRDを後側(カメラボディ側、以下同じ)から見た外観斜視図であり、一部を破断している。この像振れ補正装置IRDの全体構成の概略を説明すると、周壁が部分的に除去された短円筒に近い形状をした固定枠1を備えており、この固定枠1の後側に円形の中心開口部21を有する円環板状をしたベースプレート2が固定的に取着されている。前記固定枠1は図1のレンズ鏡筒CL内に固定されており、したがってベースプレート2もレンズ鏡筒CLに固定されることになり、これら固定枠1とベース振れ2は本発明における装置の固定部を構成している。これら固定枠1とベースプレート2との光軸方向の間には、本発明における像補正手段として、像振れ補正を行うための補正レンズRLを支持した補正レンズ枠3が光軸と直交する平面内で移動可能に支持されており、この補正レンズ枠3の移動により像振れ補正が行われるようになっている。この補正レンズ枠3は後述するL字ガイド板4によって光軸と直交する平面内でX方向とY方向に移動されるように移動方向が規制されている。
図3は前記像振れ補正装置IRDを前側(被写体側、以下同じ)から見た部分分解斜視図である。図1に示したように、この像振れ補正装置IRDには、前記固定枠1および前記ベースプレート2に対して補正レンズ枠3をXY方向に移動させるためのX磁気アクチュエータXMとY磁気アクチュエータYMが設けられている。これらX磁気アクチュエータXMとY磁気アクチュエータYMは、詳細を後述するように、前記固定枠1に固定支持されたX駆動マグネット12xおよびY駆動マグネット12yと、前記補正レンズ枠3に一体的に支持されている中板5に配設されたX駆動コイル51xおよびY駆動コイル51yを主体に構成されている。
前記補正レンズ枠3がX方向およびY方向に移動する際のガイド構造として、当該補正レンズ枠3と前記ベースプレート2との光軸方向の間に前記L字ガイド板4が配設されている。このL字ガイド板4は当該補正レンズ枠3と前記ベースプレート2にそれぞれ係合されており、補正レンズ枠3はこのL字ガイド板4に対してX方向に移動できる。また、補正レンズ枠3はL字ガイド板4と一体となって前記ベースプレート2に対してY方向に移動できるようになっている。
また、前記補正レンズ枠3と前記ベースプレート2との光軸方向の間には、ロック機構を構成している円形の中心開口部61を有する円環板状をしたロック環6が光軸回りに所要の角度範囲で回転可能に配設されている。このロック環6の回転位置を変化させることにより、前記補正レンズ枠3の前記したX方向およびY方向の移動を係止し、あるいは係止を解除し、像振れ補正装置IRDのロックあるいはロック解除を行うように構成されている。
以上の構成の像振れ補正装置IRDの詳細について説明する。図2に示したように、前記固定枠1は中心部が開口されかつ円周壁の一部が切り欠かれた短円筒容器状に形成されており、その後面に前記ベースプレート2が固定されている。これら固定枠1とベースプレート2の光軸方向の間には、前記したように補正レンズ枠3がXY方向に移動可能に配設されているが、図3に示したように、この補正レンズ枠3の前側には異形枠状をした中板5が一体的に固定されており、補正レンズ枠3と一体的にX方向およびY方向に移動可能とされている。この中板5は前記補正レンズ枠3とともに本発明の像補正手段を構成する。
すなわち、図4は補正レンズ枠3と固定枠1を後側から見た正面図であり、前記固定枠1の後面の径方向の2箇所には後方に向けて突出したポスト11が固定されている。これら2つのポスト11は前記補正レンズ枠3および前記中板5のそれぞれの径方向の2箇所に開口された矩形の軸穴32,52に光軸方向に挿通されている。
図5(a)は図4のA−A線拡大断面図、図5(b)は図5(a)のB方向から見た部分の模式図である。前記ポスト11は円柱ボスとして形成されており、前側端面において小ネジ11aにより固定枠1に固定されている。前記補正レンズ枠3と中板5の各軸穴32,52にはそれぞれ当該ポスト11が内挿され、このポスト11によって補正レンズ枠3は固定枠1に支持されるとともに、固定枠1に対してX方向およびY方向の移動が許容されている。前記ポスト11の径寸法は補正レンズ枠3の軸穴32の1辺の寸法よりも小さくされているため、補正レンズ枠3はこれらポスト11と軸穴32との寸法差に相当する寸法だけ前記したX方向およびY方向に移動することが可能とされている。換言すれば、これらポスト11と軸穴32によって補正レンズ枠3のX方向およびY方向の最大の移動量が規制されることになる。
また、前記固定枠1とベースプレート2にはそれぞれ円周方向の3箇所にボールリテーナ13,23が配設されており、このボールリテーナ13,23により前記中板5を固定枠1とベースプレート2との間において光軸方向に挟持している。図6はこのボールリテーナ13,23の光軸方向の断面図である。固定枠1には前側から前セットカラー131がかしめ固定され、このセットカラー131に前セットネジ132が光軸方向に螺合されている。ベースプレート2には後側から後セットカラー231がかしめ固定され、これに後セットネジ232が光軸方向に螺合されている。各セットネジ132,232の互いに対向する先端面にはそれぞれボール133,233が配設されており、前記中板5は円周方向の3箇所においてこれらのボール133,233によって光軸方向に挟持されている。これにより、中板5は自身の前面と後面に当接されている両ボール133,233の転動によってX方向およびY方向に移動可能とされている。したがって、この中板5と一体化されている補正レンズ枠3も固定枠1とベースプレート2に対してX方向およびY方向に移動可能とされている。なお、中板5および補正レンズ枠3を安定に支持し、かつ適切な移動が可能となるように、後セットネジ232の軸方向位置を調整するためのスペーサ234と、前セットネジ132の光軸方向のガタを吸収するためのバネ134が配設されている。
図3に示したように、前記補正レンズ枠3と一体化されている前記中板5には、ムービングコイル型に構成された前記X磁気アクチュエータXMとY磁気アクチュエータYMの駆動コイル、すなわち前記したX駆動コイル51xとY駆動コイル51yが固着されている。ここでは、前記中板5には、前側方向から見たときに、円周に沿った右側部にX駆動コイル51xが固着され、下側部にY駆動コイル51yが固着されている。これらのX駆動コイル51xと駆動コイル51yはそれぞれ円周接線方向に長径を有する長円型となるように細導線が巻回された構成であり、X駆動コイル51xはY方向に長径が向けられ、Y駆動コイル51yはX方向に長径が向けられている。また、これらの駆動コイル51x,51yは後述するフレキシブル基板8に対して電気回路的には一体に構成されている。
一方、前記X磁気アクチュエータXMとY磁気アクチュエータYMを構成するために、前記固定枠1には前側方向から見て右側部と下側部にそれぞれ所要の寸法の開口15が光軸方向に貫通されており、これらの開口15内にそれぞれX駆動マグネット12xとY駆動マグネット12yが固定支持されている。これらのX駆動マグネット12xとY駆動マグネット12yは、それぞれ前面側に長方形に近い板状をした前ヨーク121が一体に設けられており、各駆動マグネット12x,12yはそれぞれ固定枠1の前側から開口15に内挿され、図2に示したように、前ヨーク121が小ネジ122によって固定枠1の前面に固定されている。この前ヨーク121は透磁性のある金属板、例えば鉄板で形成されている。
図3において、前記中板5と前記補正レンズ枠3の光軸方向の間の位置には、前記X駆動コイル51xとY駆動コイル51yが配設されている円周領域にわたって、概ね半円弧板状をしたヨーク板7が配設されており、当該ヨーク板7は、詳細を後述するように、自身の両端において前記固定枠1の後面に小ネジ(図示せず)によって固定されている。このヨーク板7は前記前ヨーク121と同様に透磁性のある金属板、例えば鉄板で形成されており、前記した前ヨーク121と協働して前記駆動マグネット12x,12yの磁束密度を増大させる。すなわち、このヨーク板7は前ヨーク121に対して後ヨークとして機能する。そして、前記したX駆動コイル51x、X駆動マグネット12x、前ヨーク121、後ヨーク(ヨーク板)7でムービングコイル型のX磁気アクチュエータXMが構成され、前記したY駆動コイル51y、Y駆動マグネット12y、前ヨーク121、後ヨーク(ヨーク板)7で同じくムービングコイル型のY磁気アクチュエータYMが構成される。
図7(a),(b)にY磁気アクチュエータYMの光軸方向の断面図と一部を破断した斜視図を示すが、光軸方向の前側に配置されたY駆動マグネット12yおよび前ヨーク121と、後側に配置された後ヨーク7とで磁界Bが構成され、Y駆動コイル51yはこの磁界内に配置された構成とされている。そして、中板5に設けられたフレキシブル基板8を介してY駆動コイル51yに電流Iを通電し、この電流Iの通電方向と通電量を制御することで、Y駆動コイル51yはY方向の駆動力Fが発生され、この駆動力によって移動制御されることになる。X磁気アクチュエータXMについても同様である。これにより、X駆動コイル51xとY駆動コイル51yを支持している中板5、すなわちこの中板5と一体的な補正レンズ枠3は光軸に対してX方向およびY方向に移動制御されることになる。
図8(a)は前記X磁気アクチュエータXMにおけるX駆動マグネット12xを前記固定枠1に固定する構造を説明するための分解斜視図であり、固定枠1の前側から見た図である。また、図8(b)はそのY方向の断面図であり、この断面構造の一部は図2にも示されている。X磁気アクチュエータXMのX駆動マグネット12xは直方体に形成されており、その前面に前記前ヨーク121が接着等の固着手段により固定されている。X駆動マグネット12xは前記固定枠1に形成されている前記開口15に光軸方向に内挿可能である。また、前ヨーク121はX駆動マグネット12xよりもY方向に長い寸法を有する板状に形成されており、そのY方向の両端に板厚方向のネジ挿通穴121aが開口されている。そして、このネジ挿通穴121aを挿通させた前記小ネジ122を前記固定枠1の前記開口15のY方向の両側に設けたネジ穴15aに螺合させることにより前ヨーク121およびX駆動マグネット12xを固定枠1に固定している。Y磁気アクチュエータYMも同様である。
前記後ヨーク7は、前記したように固定枠1の後面に固定されている。図8には図示されていないが、前記固定枠1の後面には光軸方向に所定長さの支持ボスが後側に向けて突出形成されており、この支持ボスの先端面に後ヨークを構成しているヨーク板7の前面が当接され、後側から挿通される小ネジにより固定されている。これにより、ヨーク板7は固定枠1に対して所定の位置、換言すれば固定枠1に固定支持されるX駆動マグネット12xおよび前ヨーク121に対して光軸方向の所定位置に固定支持されることになる。
前記X,Yの各駆動コイル51x,51yは中板5に支持されたフレキシブル基板8と電気回路的には一体的に形成されており、その上で補正レンズ枠3に対して位置決めした状態で支持されているが、ここではX駆動コイル51xの構造を説明する。図9(a),(b)はX駆動コイル51xの支持状態の斜視図と支持前の状態の斜視図であり、その断面構造は図2にも示されている。前記中板5のX駆動コイル51xを支持する部位に対応する補正レンズ枠3には、X駆動コイル51xの長径に沿った方向、すなわちY方向に所定の間隔をおいて対をなす支持片36a,36bが一体に形成されている。各支持片36a,36bはいずれも補正レンズ枠3の前面から前側方向に突出されている。
図9(b)において上側に位置している第1の支持片36aは光軸方向にほぼ真直に突出され、先端が下方にクランク状に曲げられた舌片として構成されている。下側に位置している第2の支持片36bは光軸方向にほぼ真直に突出し、その先端が下方に向けてほぼ直角に曲げられたフック片として構成されている。これらの支持片36a,36bは前記補正レンズ枠3と一体に形成されている。そして、これら支持片36a,36bは前記したようにY方向に所定の間隔で対峙されているが、この所定の間隔は前記X駆動コイル51xの長径方向の内径寸法にほぼ等しい間隔とされている。
X駆動コイル51xを補正レンズ枠3に対して固定する際には、図9(a)のように、補正レンズ枠3の前面側からX駆動コイル51xを押し付け、X駆動コイル51xの長径内に両支持片36a,36bを嵌合させる。ここでは、X駆動コイル51xの下側部位に第2の支持片36bを内挿して嵌合させた後、X駆動コイル51xを補正レンズ枠3に押しつけ、長径内の上側部位に第1の支持片36aを内挿させる。これにより、X駆動コイル51xの上側部位は第1の支持片36aに当接される。そして、X駆動コイル51xを第1と第2の支持辺36a,36bに対して接着剤により接着する。X駆動コイル51xはフック片からなる第2の支持片36bによって光軸方向の脱落が防止されるとともに、光軸方向には自身の後面が補正レンズ枠3と一体の中板5の前面に接しているので、光軸方向の位置が規制され、補正レンズ枠3ないし中板5に対する位置決めが行われる。Y駆動コイル51yについても同様である。
また、このようにX駆動コイル51xとY駆動コイル51yを補正レンズ枠3から前面方向に突出された支持片6a,36bのみを用いて固定する構成を採用することにより、各コイル51x,51yの前面側には固定のための別部材を配設する必要がない。例えば、特許文献1の図1に示されているように、コイル105v,105pの前面側から当接させてコイル105v,105pを固定するための逆L字型をした部材が不要になる。これにより、コイル51x,51yを配設している領域の光軸方向の寸法を小さくして薄型化が可能になり、後述するようにコイル51x,51yに対してL字ガイド板4を光軸方向に重ねて対向配置することも可能になる。このようにコイル51x,51yに対してL字ガイド板4を光軸方向に対向配置することにより、補正レンズ枠3のX方向およびY方向の移動に際しての重心をL字ガイド板4と光軸方向に重なる位置に設定でき、補正レンズ枠3の安定した移動が可能になる。
前記中板5は、図6に示したボールリテーナ13,23において、前セットカラー131と後セットカラー231に対する前セットネジ132と後セットネジ232の螺合位置を調整することにより、固定枠1に対する光軸方向の位置が調整でき、これにより中板5および補正レンズ枠3に支持したX,Yの駆動コイル51x,51yを固定枠1に対して位置調整することが可能になる。すなわち、固定枠1に固定された後ヨーク7との光軸方向の相対位置が調整できる。
以上のようにX磁気アクチュエータXMおよびY磁気アクチュエータYMを構成することにより、特にX,Yの各駆動マグネット12x,12yとこれと一体化された前ヨーク121は、図8(a)に示したように、像振れ補正装置IRDを組み立てた最終工程において、外部から固定枠1に対して固定することが可能になる。すなわち、固定枠1にベースプレート2、補正レンズ枠3および中板5、後ヨーク7等を組み立てた後に、固定枠1の前側からX駆動マグネット12xと前ヨーク121を小ネジ122で固定することが可能になる。Y駆動マグネット12yも同様である。そのため、駆動マグネット12x,12yに存在する磁力が像振れ補正装置IRDを組み立てる際に悪さをすることもなく、組立工程も容易になる。すなわち、通常の像振れ補正装置では駆動マグネットにネオジム磁石を用いる場合が多く、かなり強力な磁力が働いているため、この磁力によって当該駆動マグネットを所定位置に所定の姿勢で組み付け、かつその位置の微調整を行うことが困難になり、さらにはその後におけるメンテナンスも困難になるが、このような問題が解消できる。また、先に固定枠1にX,Yの駆動マグネット12x,12yと前ヨーク121を固定しておき、これに順次ベースプレート2、補正レンズ枠3と中板5、後ヨーク7等を組み付ける場合においても、後ヨーク7を組み付ける際に駆動マグネット12x,12yの磁力によって後ヨーク7が光軸方向の吸引力を受けることになり、この吸引力に抗して後ヨーク7を固定枠1に対して組み付けなければならず、正しい姿勢ならびに位置に固定することが困難になるが、この場合においても問題が解消できる。
また、図8にX磁気アクチュエータXMで例示したように、X駆動マグネット12xおよび前ヨーク121を固定枠1に固定する際に、必要に応じて前ヨーク121の後面と固定枠1の前面との間に円弧状をしたシム123を介装する。これは、図6に示したボールリテーナ13,23での光軸方向の位置調整を行えば、固定枠1に対するX駆動コイル51xと後ヨーク7との位置調整は可能であるが、これだけではX駆動コイル51xとX駆動マグネット12xとの位置調整は行われていない。そこで、図8(b)に示すように、前ヨーク121の後面と固定枠1の前面との間にシム123を介在させることにより、固定枠1の前面に対する前ヨーク121の後面の光軸方向の位置を変化させる。これにより、前ヨーク121と一体的なX駆動マグネット12xの後面が光軸方向に位置変化され、この後面に対向されるX駆動コイル51xとの間隙寸法が変化される。前記シム123は板厚寸法の異なる複数のものを用意しておき、必要に応じて選択して用いることにより、当該シム123の板厚寸法の差分での間隙寸法の調整が可能になる。Y磁気アクチュエータYMについても同様である。
これらX,Yの駆動マグネット12x,12yにおける光軸方向の厚み公差は±0.1mmであり、前ヨーク121の板厚の厚み公差は±0.05mmである。したがって、前記シム123として板厚が0.05mm、0.1mmのものを用意しておくことで、公差分を相殺した位置調整が可能になる。なお、シム123は同じ板厚寸法のものを板厚方向に複数枚重ねて使用することで、合計の板厚を相違させ、異なる寸法の位置調整ができるようにしてもよい。
前記補正レンズ枠3には光軸に対するX方向およびY方向の位置を検出するための前記した位置センサXS,YSを構成するX位置マグネット34xとY位置マグネット34yがそれぞれ周方向の異なる位置において一体的に固定支持されている。これに対向するように、前記固定枠1には、前記X位置マグネット34xとY位置マグネット34yをそれぞれ磁気検出するためのXホール素子ユニット14xとYホール素子ユニット14yが固定支持されている。
図10はY位置センサYSの光軸方向の断面図であり、補正レンズ枠3に固定支持されたY位置マグネット34yに対して、固定枠1に固定支持されたYホール素子ユニット14yが所要の間隔をおいて光軸方向に対向配置されている。Yホール素子ユニット14yは固定枠1に固定するためのホール素子台142にホール素子141が搭載されたものである。X位置センサXSについても同様である。補正レンズ枠3がX方向、Y方向に移動するのに伴って、各ホール素子ユニット14x,14yに対する各位置マグネット34x,34yの相対位置が変化されるため、この位置変化により各ホール素子ユニット14x,14yの電気出力が変化され、この電気出力により補正レンズ枠3のX方向およびY方向の位置が検出される。なお、このようなマグネットとホール素子による位置検出の作用は既に知られている技術であるので、ここでは詳細な説明は省略する。
前記補正レンズ枠3をX方向とY方向にガイドする前記L字ガイド板4は、図11(a),(b)に前側から見た斜視図と後側から見た斜視図を示すように、概ねL字型をした板材で構成されている。ここでは、L字の角部が円形をした固定枠1およびベースプレート2の外周縁から外径方向に突出されないように長さ方向の中央部分41を斜め方向に延長した形状としている。このL字ガイド板4は補正レンズ枠3およびベースプレート2を前側から見たときに、これらの右側領域と下側領域にわたる領域、換言すれば前記X磁気アクチュエータXMとY磁気アクチュエータYMが配設された円周方向の領域にわたって配設されている。また、このL字ガイド板4は前記したように固定枠1に対してX方向に、ベースプレート2に対してY方向にそれぞれ相対移動可能とされているが、その中央部分には前記ボールリテーナ13,23の一つを貫通するY方向に長い長円形の挿通穴42が開口されており、当該ボールリテーナ13,23と干渉することなくL字ガイド板4がベースプレート2に対してY方向に移動可能とされている。
前記L字ガイド板4にはガイドピン43x,43yが形成されている。すなわち、前記L字ガイド板4の両端領域の前面には光軸方向の前側に向けて1対のガイドピン43xが突出されている。これと反対にL字ガイド板4の両端領域の後面には光軸方向の後側に向けて1対のガイドピン43yが突出されている。ここでは前面のガイドピン43xをXガイドピンと称し、後面のガイドピン43yをYガイドピンと称する。
一方、図12(a),(b)に前記した中板5、補正レンズ枠3、L字ガイド板4およびベースプレート2の関係を示す要部の分解斜視図を示す。L字ガイド板4の前記挿通穴42に後面側からボールリテーナ23が挿通され、このボールリテーナ23の前面側から円筒状をしたカラー45が嵌合されており、前記L字ガイド板4は、これらボールリテーナ23とカラー45とで光軸方向に挟持されることにより当該光軸方向の位置決めが行われ、ベースプレート2に対してY方向に移動可能である。前記X,Yのガイドピン43x,43yに対応して、前記補正レンズ枠3の後面には一対のXガイド穴35が開口され、前記ベースプレート2の前面には一対のYガイド穴25が開口されている。すなわち、図12(a)は図3と同じ方向から見た斜視図であり、前記ベースプレート2の前面にY方向の長穴からなる一対のYガイド穴25が開口され、このYガイド穴25に前記L字ガイド板4のYガイドピン43yが嵌入され、Yガイド穴25内においてY方向に相対移動可能とされている。また、図12(b)は右後方から見た斜視図であり、前記補正レンズ枠3の後面にX方向の長穴からなる一対のXガイド穴35が開口され、このXガイド穴35に前記L字ガイド板7のXガイドピン43xが嵌入され、Xガイド穴35内においてX方向に相対移動可能とされている。これら各ガイド穴25,35はここでは光軸方向の貫通穴として形成されているが、光軸方向に凹んだ穴であってもよい。
このL字ガイド板4を備えることにより、図13に模式図を示すように、Xガイドピン43xとXガイド穴35との嵌合により、補正レンズ枠3はL字ガイド板4に対してX方向に相対移動される。このとき、L字ガイド板4はYガイドピン43yとYガイド穴25との嵌合によりX方向にはベースプレート2と一体であるので移動されることはない。また、Yガイドピン43yとYガイド穴25との嵌合により、補正レンズ枠3はL字ガイド板4と一体となって前記ベースプレート2に対してY方向に相対移動できる。すなわち、L字ガイド板4はXガイドピン43xとXガイド穴35との嵌合によりY方向には補正レンズ枠3と一体である。
前記補正レンズ枠3のX方向およびY方向の移動を規制するためのロック機構は、図3に示したロック環6を備えている。図14はこのロック環6で構成されるロック機構を含む前記ベースプレート2を前側から見た斜視図である。このロック環6は円形の中心開口部61を有する概ね円環板状に形成されており、光軸回りに所要の角度で回転できるようにベースプレート2に支持されている。例えば、図14には表れないが、ロック環6の内周縁、すなわち中心開口部61の周縁に沿って短円筒状のスリーブを光軸方向に突出して設け、このスリーブをベースプレート2の中心開口部21の内周縁に嵌合させて当該スリーブの外周面がベースプレート2の内周縁に沿って滑動する構成を採用することができる。
前記ロック環6の前面には円周方向の複数箇所、ここでは光軸を中心とした所定径寸法の仮想円の円周を4つに等分する4箇所に光軸方向に突出したロック片62が形成されている。このロック片62は、例えば、前記仮想円に沿って円環状に形成した円周壁のうち、ロック片62を形成する箇所以外を除去した離散的な部分壁として構成されている。この部分壁は円周壁の一部であるが、仮想円の接線方向に向けられた直線壁として構成されてもよい。これらのロック片62は前記補正レンズ枠3の後面に形成された4つのロック突起36に対向されるものである。また、ここでは後述するようにロック片62がロック突起36に対して当接される際に、その当接が円滑に行われるように、ロック環6を前方から見たときのロック片62の反時計方向の端部を楔状に近い形状に形成している。
一方、図4あるいは図12(b)に示されるように、補正レンズ枠3の後面には、円周方向に等配された4箇所に、光軸方向の後側に向けてロック突起36が突出形成されている。ここでは、当該ロック突起36は、補正レンズ枠3の一部を構成して補正レンズRLを固定するためのレンズ固定リング37の光軸方向の後面に形成された短い円柱ピン状に形成されている。これら4つのロック突起36は径方向には前記ロック片62を配設した際の仮想円とほぼ同じ径寸法の仮想円に沿った位置であり、円周方向には前記ロック片62を周方向に4等分した角度と同じ角度で等配された位置である。ここでは、4つのロック突起36はX方向およびY方向に対してそれぞれ45度で直交する角度位置にそれぞれ配設されている。
また、図14に示したように、前記ロック環6の外周の一部にはセクター歯車63が一体に形成されており、このセクター歯車63には前記ベースプレート2に支持されたギアボックス64が係合されている。このギアボックス64は図には表れないモータを駆動源とし、このモータによって回転駆動されるピニオン641を最終回転出力とするアクチュエータとして構成されており、このピニオン641が前記セクター歯車63に歯合されている。これにより、ギアボックス64が駆動してピニオン641が回転されると、これに歯合するセクター歯車63を介してロック環6が光軸回りにセクター歯車63の角度だけ回転されることになる。
さらに、前記ロック環6の外周縁の一部に臨む前記ベースプレート2の前面には、周方向に小間隔おいて1対のフォトインタラプタ65a,65bが配設されており、これらフォトインタラプタ65a,65bによってロック環6の回転位置を検出することが可能とされている。これらギアボックス64およびフォトインタラプタ65a,65bは、図3に示した前記ベースプレート2の後面に配設したフレキシブル基板9を通して外部に電気接続される。なお、フォトインタラプタ65a,65bによるロック環6の回転位置の検出の動作については、既に知られている位置検出技術を利用しているので、ここでは詳細な説明は省略する。この技術によりロック環6の回転位置が検出され、かつ検出された回転位置に基づいて前記ギアボックス64をフィードバック制御することにより、ロック環6はロック解除位置である第1の回転位置と、ロック位置である第2の回転位置にそれぞれ回転位置制御されることになる。
以上説明した像振れ補正装置IRDでは、カメラCAMでの撮影時に手振れが生じると、図1に示した振動検出手段XG,YGが手振れ振動を検出する。図示および説明は省略したが、レンズ鏡筒CLに搭載されているレンズCPUはこの手振れ振動に基づいて所要の演算を行い、演算された駆動電流をフレキシブル基板8を介してX駆動コイル51x、Y駆動コイル51yに供給する。これにより、X,Yの磁気アクチュエータXM,YMが駆動され、補正レンズ枠3をX方向、Y方向に移動して手振れ振動を相殺し、手振れ補正を実行する。このとき、補正レンズ枠3のX,Y方向の移動量はX,Yの各位置センサXS,YSによって検出され、各磁気アクチュエータXM,YMをフィードバック制御して補正レンズ枠3が目的とする位置に正確に移動して手振れを補正するように制御する。
ここで、X磁気アクチュエータXMにおいては、図7(b)を参照して説明したように、X駆動マグネット12xおよび前後のヨーク121,7で構成される磁界内においてX駆動コイル51xに電流が通流されることでローレンツ力による駆動力が発生し、この駆動力によって補正レンズ枠3がX方向に移動される。同様に、Y磁気アクチュエータYMにおいては、Y駆動マグネット12yおよび前後のヨーク121,7で構成される磁界内においてY駆動コイル51yに電流が通流されることで同様にして駆動力が発生し、この駆動力によって補正レンズ枠3はY方向に移動される。
補正レンズ枠3がX磁気アクチュエータXMによりX方向に移動されるときには、図11を参照して説明したように、補正レンズ枠3の後面のXガイド穴35とL字ガイド板4の前面のXガイドピン43xとのX方向の相対移動によって当該補正レンズ枠3の移動が可能になる。補正レンズ枠3がY磁気アクチュエータYMによりY方向に移動されるときには、Yガイドピン43yとYガイド穴25とY方向の相対移動により補正レンズ枠3はL字ガイド板4とともにY方向に移動される。
このような像振れ補正を行うときには、ロック機構を構成しているロック環6を第1の回転位置であるロック解除位置に設定する。この設定は撮影者の操作に基づいて行われる。すなわち、図15(a)はロック解除状態での、前記ベースプレート2、補正レンズ枠3、ロック環6を前側から見た斜視図である。この図では図示を省略したギアボックス64に供給する電流を制御してピニオン641を回転し、セクター歯車63によりロック環6を前方から見て時計方向に小角度だけ回転したロック解除位置に設定する。このロック解除位置では図15(b)に光軸方向から見た模式図を示すように、ロック環6の4つのロック片62は補正レンズ枠3の4つのロック突起36とはそれぞれ異なる周方向の位置に移動設定される。そのため、補正レンズ枠3がX方向またはY方向に移動してもロック突起36がロック片62に当接することがなく、補正レンズ枠3のX方向およびY方向の自由な自動が確保でき、像振れ補正が実現できる。ただし、このX方向とY方向の移動の移動量は、図5を参照して説明したポスト11と軸穴32との寸法差により規制されることは言うまでもない。
一方、像振れ補正を行わないとき、例えば非撮影時には、撮影者の操作に基づいて図示を省略したギアボックス64に供給する電流を制御してロック環6を前方から見て反時計方向に小角度だけ回転した第2の回転位置であるロック位置に設定する。図16(a)はロック状態での、前記ベースプレート2、補正レンズ枠3、ロック環6を前側から見た斜視図である。このロック位置では図16(b)に光軸方向から見た模式図を示すように、ロック環6の4つのロック片62は補正レンズ枠3の4つのロック突起36に対してそれぞれ周方向の同じ位置に設定され、各ロック片62と各ロック突起36は径方向に重なり、両者は互いに当接した状態となる。そのため、各ロック突起36はそれぞれロック片62によって外径方向の移動が規制されることになり、補正レンズ枠3としてはL字ガイド板4に沿った移動方向であるX方向およびY方向の移動が規制され、ロック状態となる。したがって、外部衝撃や振動等によって補正レンズ枠3がいたずらにX方向およびY方向に移動することが防止され、補正レンズ枠3ないしは像振れ補正装置の保護を図ることができる。
ロック位置とロック解除位置へのそれぞれのロック環6の回動位置の制御は、前記したようにロック環6の回動位置を前記した1対のフォトインタラプタ65a,65bで検出し、この検出に基づいてギアボックス64をフィードバック制御することにより行われる。例えば、ロック環6の外周縁の一部に設けた切欠きや穴をこれら1対のフォトインタラプタ65a,65bにより検出することでロック環6の回転位置が検出できる。また、手制御によってロック環6を回動するように構成してもよいことは言うまでもない。
以上のように像振れ補正装置において像振れ補正を実行するが、例えば、経時変化等によって像振れ補正効果が低下することがある。その要因として駆動マグネット12x,12yにおける磁力の劣化が推定される。このような場合には、レンズ鏡筒CL内に像振れ補正装置IRDを組み込んだまま、あるいはレンズ鏡筒CLから像触れ補正装置IRDを取り出すが、像触れ補正装置IRDが組み立てられたままの状態で駆動マグネット12x,12yの位置調整が可能になる。すなわち、小ネジ122を緩め、シム123を薄い板厚のものに変更する。あるいは装着されているシム123を取り除く。このようにすることで、駆動マグネット12x,12yと駆動コイル51x,51yとの間隙寸法を駆動マグネット12x,12yの磁力の劣化に対応した間隙寸法に調整でき、像振れ補正効果を改善することが可能になる。勿論、駆動マグネット12x,12yを磁力の劣化していないものに交換することも可能である。
さらに、駆動マグネット12x,12yを固定枠1から取り外したときには、固定枠1の開口15内に駆動コイル51x,51yが露呈される。駆動コイル51x,51yは補正レンズ枠3の前面に設けた支持片36a,36bによって光軸方向の一方から、すなわち前側から支持されているので、例えば、X駆動コイル51xの場合には、第2支持片36bを強制的に上方に弾性変形させることでX駆動コイル51xと支持片36の嵌合を解放し、支持片36a,36bから取り外すことができる。Y駆動コイル51yも同様である。この場合には、中板5を補正レンズ枠3から外すことにより、駆動コイル51x,51yをフレキシブル基板8および中板5とともに補正レンズ枠3から取り外すことも可能になる。したがって、駆動コイル51x,51yの修理や交換も可能であり、駆動コイル51x,51yの劣化が要因となる像振れ補正効果の低下を改善することができる。
このように、この像振れ補正装置では、磁気アクチュエータXM,YMを構成する駆動マグネット12x,12yを固定枠1に対して光軸方向の位置調整をすることが可能であるので、駆動コイル51x,51yとの間隙寸法を高い精度に管理することができ、補正レンズ枠3を所望の移動力で移動して適正な像振れ補正を行うことが可能である。また、駆動マグネット12x,12yと駆動コイル51x,51yの位置調整や交換も容易であり、像振れ補正装置を高い精度に制御することができる。
実施形態の説明では、本発明の磁気アクチュエータとしてムービングコイル型の例を説明したが、像補正手段としての補正レンズ枠または中板にマグネットを支持し、固定枠にコイルを支持したムービングマグネット型の磁気アクチュエータに適用してもよい。この場合には、固定枠に対してコイルを支持するが、当該コイルを固定枠の外部から取り付け、かつ光軸方向の位置調整ができるように構成することになる。
本発明の像振れ補正装置IRDを図1に示したようにカメラCAMのレンズ鏡筒CLに配設することにより、当該レンズ鏡筒CLを備えたカメラCAMの撮影時における手振れによる撮影画像の像振れを解消することができる。これとともに、ロック環によりロック解除状態またはロック状態に切り替えることにより、ロック解除状態のときには補正範囲の広い手振れ補正が可能になり、ロック状態のときには補正レンズ枠が意に反して移動してダメージを受けることがなく、信頼性の高い像振れ補正装置を組み込んだ撮影性能の高い小型のカメラCAMが実現できる。
本発明の像振れ補正装置はレンズ交換式カメラのレンズ鏡筒に内装することが可能であることは勿論であるが、レンズ鏡筒を一体に有するカメラのレンズ鏡筒ないしカメラボディ内に内装してもよい。また、本発明の像振れ補正装置を備える光学機器はレンズ鏡筒に限られるものではなく、当該レンズ鏡筒を備えたカメラ、特に静止画や動画を撮像するカメラであってもよい。