JP2015160825A - リラキシンの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】有害な不純物を含むことなく、研究用並びに臨床用に供しうる高い純度のリラキシンを合理的な合成工程ならびに単純な精製プロセスで安価に供給することができる、リラキシンの製造方法を提供すること。
【解決手段】(1)リラキシンの還元型ペプチドA鎖のシステイン残基のスルファニル基(SH)の一部を酸化剤によりジスルフィド結合(S-S)に変換する工程、及び(2)上記工程(1)で得られたリラキシンのペプチドA鎖と、リラキシンの還元型ペプチドB鎖とを用いて酸化反応を行うことにより、リラキシンペプチドA鎖とリラキシンペプチドB鎖の間のジスルフィド結合を形成する工程を含む、リラキシンの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、リラキシンの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、リラキシンの還元型ペプチドA鎖を部分酸化した後に、リラキシンの還元型ペプチドB鎖と混合して更に酸化することによってリラキシンを製造する方法に関する。
リラキシンは卵巣から分泌される分子量約6000ダルトンのペプチドホルモンであり妊娠の維持および分娩の補助に重要な役割をもつと考えられている。また、リラキシンは、急性心不全の改善効果(特許文献1)を有すること、さらに心臓血管の治療や神経退化性疾患の治療(特許文献2)さらに強皮症の治療(特許文献3)において効果があることが報告されている。このホルモンのレセプターが心臓、平滑筋、結合組織及び自律神経系に存在することが知られてきたことから、多様な生理活性を有することが期待されている。
リラキシンのアミノ酸配列は豚、ラット(非特許文献1)、サメ、鯨、サル、ヒト(非特許文献2)など多くの生物において決定されている。リラキシンは、ペプチドA鎖(以下、A鎖とも称する)、ペプチドB鎖(以下、B鎖とも称する)の2本のペプチド鎖が2個のジスルフィド結合(以下、S- Sとも称する)でつながった構造をもつ。しかし、A鎖とB鎖のアミノ酸配列は種によって大きく異なることが知られている。
天然のリラキシンは、生体内で、先ず分子量約23000ダルトンのプレプロリラキシンとして合成され、次いでシグナルペプチドが取り除かれた分子量約19000ダルトンのプロリラキシンに変換された後に、A鎖とB鎖の間のC鎖と呼ばれる部分が切り取られて、二個のジスルフィド結合によりつながれたA鎖とB鎖よりなる分子量約6000ダルトンのリラキシンになる。
現在、リラキシンは遺伝子組み換え法により生産されているが、一般に遺伝子組み換え法は、(1)目的のDNA断片の調製、(2)制限酵素認識部位などを組み込んだ上記DNA断片のベクターへの組み込み、(3)ペプチド産生細胞への上記ベクターの取り込み、(4)上記ベクターを取り込んだ細胞の選別、並びに(5)組み換えDNAから産生されるペプチドの回収という5工程からなる。しかし、上記各工程においては複数の障害要因が存在するなど、経済的生産方法としては十分に確立されていない。また、生体由来の生理活性物質を完全に除くために高度な不純物除去工程が要求されるなど、遺伝子組み換え法による生産は非常に高価である。
リラキシンを安価で供給するための化学合成法の研究もなされているが、合成工程及び精製工程が長く、収率が低い等の理由で、未だ実用化には至っていない。一般にリラキシンの化学合成法では、先ずペプチド固相合成法により、A鎖及びB鎖、又はこれらのペプチド鎖のアミノ酸残基を特定の官能基で保護あるいは修飾した修飾A鎖及び修飾B鎖を合成する。これらA鎖、B鎖あるいは修飾A鎖、修飾B鎖のシステイン残基のスルファニル基(以下、SHとも称する)の酸化によりA鎖、B鎖間ならびにA鎖内のジスルフィド結合を形成し、リラキシンあるいはリラキシン前駆体を得る。リラキシン前駆体は修飾基の種類に応じた化学変換を行い、リラキシンに変換される。
これまで報告されている化学反応によるリラキシン合成は反応工程が多く、また、工程ごとの損失も多いため、リラキシンの収率は低いものに留まっていた。非特許文献3においては、4種類のSH保護基を用い、制御されたSH脱保護反応を駆使し、これとヨウ素(I2)を用いるSHの酸化カップリングによりリラキシンの3個のジスルフィド結合を構築しているが、反応および精製の工程数が多く、通算収率は非常に低い。非特許文献4においては、2−ジピリジルジスルフィド並びにヨウ素を酸化剤として用いる多段合成で通算収率4.4%のマウスリラキシンを得ている。非特許文献5及び特許文献5においては、ヒトリラキシンのペプチドB鎖のメチオニン残基を酸化し、B鎖の溶解性を改善し、このB鎖とペプチドA鎖間のジスルフィド結合形成後、還元反応によりメチオニン残基を回復する方法により収率48%でリラキシンを得ている。
特許文献4には、B鎖の変性が起こる特定の温度及びpH条件で還元型A鎖及び還元型B鎖の混合物から酸素の存在下でリラキシンを合成する方法が記載されており、B鎖ペプチド基準で19.5%収率のリラキシンを得ている。特許文献6においては、ペプチド固相合成工程でA鎖中の4個のシステイン残基に三種類の異なる保護基を用いる手法により特定の一対のシステイン間のジスルフィド結合を形成させ,このようにして得られた(環状の)A鎖をB鎖と反応することにより、80%前後の収率でリラキシンが生成する。特許文献7においては、等モル量のA鎖(水溶液)とB鎖(50%アセトニトリル溶液)の混合物を脱気したのち、これに大過剰のシステインとシスチンの混合物を作用させてペプチド内ならびにペプチド間のジスルフィド結合形成によりリラキシンが合成されている。また、非特許文献8においては、A鎖のシステインのスルファニル基が容易に酸化され、2個のジスルフィド結合を有するビシクロペプチドA鎖を生成することが記載されている。このビシクロペプチドA鎖とB鎖でそのC末端に余分なアミノ酸を4つ連結し溶解性を増したもの(延長型B鎖)との反応で、延長型B鎖を有するリラキシン類似体の生成が報告されているが、反応生成物中にはビシクロペプチドA鎖と延長型B鎖の酸化型のものがそれぞれ大量に存在し、かつ、多数の未確認生成物が多量に生じており(非特許文献8、FIGURE 8のRP-HPLCトレース参照)、リラキシン類似体の収率は低い(収率の報告なし)。
P. Hudson et al. Nature,291、127(1981) P. Hudson et al. EMBO J.,3、2333(1984) E. E. Bullesbach and C. Schwabe J. Biol. Chem. 1991; 266: 10754-10761. C. S. Samuel et al. Biochemistry, 2007; 46: 5374-5381. K. K. Barlos et al. J. Pept. Sci. 2010 Apr; 16(4): 200-211. K. Arai, M. Noguchi, B. G. Singh, K. I. Priyadarsini, K. Fujio, Y. Kubo, K. Takayama, S. Ando, M. Iwaoka, FEBS Open Bio, 3, 55-64 (2013) T. W. Bruice, G. L. Kenyon, J. Protein Chem. 1, 47-58 (1982) J.-G. Tang et al. Biochemistry 2003, 42, 2731-2739
特開2013−40174号公報 特許第3747058号公報 特表平11−512072号公報 米国特許第4835251号公報 国際公開WO2010/140060号公報 中国特許公開CN102180964A号公報 国際公開WO2013/017679号公報 特許第4433521号公報
本発明の課題は、有害な不純物を含むことなく、研究用並びに臨床用に供しうる高い純度のリラキシンを合理的な合成工程ならびに単純な精製プロセスで安価に供給することができる、リラキシンの製造方法を提供することである。即ち、本発明の課題は、通常のペプチド固相合成法で製造されるリラキシンのA鎖ならびにB鎖を、特殊な化学変性あるいは化学修飾することなくそのまま用いて、酸化反応により、正しい位置にジスルフィド結合を有するリラキシン分子を高収率で合成し、簡単な精製工程で高純度のリラキシンを得ることができるリラキシンの製造方法を提供することである。
リラキシンを構成する2本のペプチド鎖はシステイン残基を有する還元型の形での物性、特に水溶液中への溶解度が異なるため、A鎖ペプチド及びB鎖ペプチドがそれぞれ互いの親和性によって自己凝集してしまい、自発的にA鎖−B鎖の対構造を形成するのは困難と推測される。そのため、自然界ではリラキシンは、大分子量のプレプロリラキシン、あるいはプロリラキシンから不要部分を切り取る方法で作られており、化学合成法の先行技術では一方のペプチド鎖の化学修飾により、溶媒との親和性を変えることにより、或いは水以外の溶剤を用いることによりこの問題を回避してきた。また、還元型のA鎖には4個のSHが存在し、同B鎖には2個のSHが存在するためA鎖とB鎖が1:1で反応しリラキシンを生成する以外に、A鎖上の残りのSHがこれ以外のB鎖やA鎖上のSHとジスルフィド結合を形成するなど、クリーンなリラキシン形成には望ましくない副反応を生じさせる。このような問題を回避するためには水溶液中でA鎖とB鎖が自発的に1:1コンプレックスを形成しやすく、よって、A鎖、B鎖間のジスルフィド結合がこのコンプレックス内でのみ形成されるように反応条件を設定するのが望ましい。
このような状況に鑑み、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の温度及びpH条件下において特定の酸化剤を用いてリラキシンのA鎖を部分酸化することにより、A鎖を構成するシステイン残基のスルファニル基の一部をジスルフィド結合に変換し、その後、この部分酸化A鎖をB鎖と混合し、A鎖及びB鎖中のシステイン残基のスルファニル基(SH)を穏やかな酸化条件下でジスルフィド化することによって、良好な収率でリラキシンが生成することを見出した。さらに、本発明者らは、この反応物を逆相液体クロマトグラフで精製することにより、高純度のリラキシンを単離できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
<1> (1)リラキシンの還元型ペプチドA鎖のシステイン残基のスルファニル基(SH)の一部を酸化剤によりジスルフィド結合(S-S)に変換する工程、及び
(2)上記工程(1)で得られたリラキシンのペプチドA鎖と、リラキシンの還元型ペプチドB鎖とを用いて酸化反応を行うことにより、リラキシンペプチドA鎖とリラキシンペプチドB鎖の間のジスルフィド結合を形成する工程
を含む、リラキシンの製造方法。
<2> 工程(1)において、ペプチドA鎖1分子当たり平均0.5〜1.5個のジスルフィド結合(S-S)が分子内に形成される、<1>に記載のリラキシンの製造方法。
<3> 工程(1)で使用する酸化剤が、セレノキシド化合物、ジスルフィド化合物、又は酸素であり、工程(2)で使用する酸化剤が、ジスルフィド化合物又は酸素である、<1>又は<2>に記載のリラキシンの製造方法。
<4> リラキシンがヒト2型リラキシンである、<1>から<3>の何れかに記載のリラキシンの製造方法。
本発明のリラキシンの製造方法では、ペプチド固相合成法で作成したリラキシンA鎖及びリラキシンB鎖を化学修飾する必要がなく、また化学修飾したリラキシン修飾A鎖及び修飾B鎖をペプチド固相合成法で合成する必要がなく、ペプチド固相合成法で作成したリラキシンA鎖及びリラキシンB鎖を直接、リラキシンの合成原料として用いることができる。本発明におけるA鎖の部分酸化による分子内ジスルフィド結合の形成においては、スルファニル基に対する酸化剤の作用により、迅速かつクリーンに進行し、好ましくは分子内に平均0.5〜1.5個のジスルフィド結合を有する部分酸化リラキシンA鎖を得ることができる。この部分酸化A鎖とリラキシンB鎖間のジスルフィド架橋形成反応はスルファニル基とジスルフィド結合の交換連鎖反応を伴って起こるため、結果として熱力学的に安定なリラキシン構造を高い収率で生成することになる。
本発明によれば、ペプチド鎖の化学修飾を行うことなく、少ない合成工程でリラキシンを良好な収率で製造することができる。粗リラキシンの精製は逆相液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を用いて行うことができ、反応系がクリーン、すなわち余分な副生成物が少なく、過剰量の試薬が共存しないために、この操作は効率的であり、高純度のリラキシンを安価に供給できる。また、本発明の製造方法はリラキシンのアミノ酸配列の一部を変化させたリラキシン変異体を効率的に製造する手法としても応用することができる。
DHSox を酸化剤(1当量)とするヒトリラキシンA鎖の部分酸化反応前(0 min)、後(1 min)のクロマトグラムを示す。反応条件:4℃、pH 10。 図中のARはヒトリラキシンA鎖の還元体、AoxはヒトリラキシンA鎖の部分酸化体およびジスルフィド結合を2個もつ酸化体のいずれかを表す。縦軸はクロマトグラムの強度を示し、横軸は保持時間を示す。 部分酸化A鎖と還元型B鎖の混合物(0 min)と第二段目の酸化反応(空気中、15℃で24時間反応)後(24 h)のクロマトグラムを示す。反応条件:15℃、pH 10。 図中のARはヒトリラキシンA鎖の還元体、AoxはヒトリラキシンA鎖の部分酸化体およびジスルフィド結合を2個もつ酸化体のいずれか、BRはヒトリラキシンB鎖の還元体、BoxはヒトリラキシンB鎖の酸化体、Relaxinは生成したリラキシンを表す。縦軸はクロマトグラムの強度を示し、横軸は保持時間を示す。 HPLCの保持時間比較によるヒトリラキシン生成物の同定。本発明による合成物(リフォールド)(下段)、市販のヒト2型リラキシン (中段)、両者の混合物(上段)のクロマトグラムを示す。縦軸はクロマトグラムの強度を示し、横軸は保持時間を示す。
以下、本発明について更に説明する。
<リラキシン>
本発明で用いるリラキシンの由来は、哺乳類、魚類、鳥類など特に限定されず、例えば、ラット、サメ、鯨、ウシ、ヒツジ、サル又はヒトなどを挙げることができ、好ましくは哺乳類であり、特に好ましくはヒトである。
ヒトリラキシンとしては、ヒト1型(H1)リラキシン、ヒト2型(H2)リラキシン及びヒト3型(H3)リラキシンの何れでもよい。
本発明で言うリラキシンは、リラキシンの生物学的活性を保持する限り、天然に存在するリラキシンの変異体でもよい。
ヒト2型リラキシンのA鎖及びB鎖のアミノ酸配列を以下に示す。
A鎖:Gln-Leu-Tyr-Ser-Ala-Leu-Ala-Asn-Lys-Cys-Cys-His-Val-Gly-Cys-Thr-Lys-Arg-Ser-Leu-Ala-Arg-Phe-Cys(配列番号1)
B鎖:
Asp-Ser-Trp-Met-Glu-Glu-Val-Ile-Lys-Leu-Cys-Gly-Arg-Glu-Leu-Val-Arg-Ala- Gln-Ile-Ala-Ile-Cys-Gly-Met-Ser-Thr-Trp-Ser(配列番号2)
ペプチドA鎖とペプチドB鎖との間のジスルフィド結合は、A鎖のアミノ酸番号11番目のCys残基のスルファニル基(SH)と、B鎖のアミノ酸番号11番目のCys残基のスルファニル基(SH)との間で形成され、かつA鎖のアミノ酸番号24番目のCys残基のスルファニル基(SH)と、B鎖のアミノ酸番号23番目のCys残基のスルファニル基(SH)との間で形成される。
<部分酸化A鎖の合成>
本発明においては、先ず、リラキシンの還元型ペプチドA鎖のシステイン残基のスルファニル基(SH)の一部を酸化剤によりジスルフィド結合(S-S)に変換する。この工程により、リラキシンA鎖が部分酸化され、リラキシンA鎖に分子内ジスルフィド結合が形成される。本発明においては、溶液中のA鎖に、酸化剤を適量添加し適切な時間放置する。これにより、好ましくは、A鎖1分子当たり平均0.5〜1.5個のジスルフィド結合(S-S)を有する部分酸化A鎖を形成することができる。
上記の酸化反応に用いることができる酸化剤としてはシステイン残基のスルファニル基(SH)の酸化カップリング反応によってジスルフィド結合(S-S)を持つシスチン残基を形成することができる酸化剤であれば特に限定されない。所望のジスルフィド形成反応以外の酸化反応を起こしにくい酸化剤を使用することが好ましい。また、反応の副生物の除去が困難であったり、副生物が不都合な生理活性を有するなど目的物質の利用を困難にすることがない酸化剤を使用することが好ましい。本発明において好適な酸化剤の具体例としては、一般式 RSe=Oで表されるセレノキシド化合物、一般式RSSRで表されるジスルフィド化合物、又は酸素(O)が挙げられる。
一般式RSe=Oで表されるセレノキシドにおいてR、Rは独立にC1からC10のアルキル基、C6からC10のアリール基、C7からC12のアラルキル基、C1からC10のアルコキシ基、C6からC10のアリールオキシ基、C7からC12のアラルキルオキシ基から選ばれる置換基であり、これらの置換基はその一部にヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、スルファニル基、エーテル基、チオエーテル基に代表される非炭化水素系官能基を有してもよい。また、R、Rが互いに結合して環状構造を形成してもよい。セレノキシド化合物としては、具体的には、ジメチルセレノキシド、メチルメトキシセレノキシド、ジ(3−ヒドロキシプロピル)セレノキシド、1,2−オキサセレノラン-2−オキシド、1,3,2−ジオキサセレノラン-2−オキシド、3,4−ジヒドロキシ−1−セレノランオキシド(以下、DHSoxとも略記する:構造[化1]を下に示す)を例示することができる。
Figure 2015160825
一般式RSSRで表されるジスルフィドにおいてR、Rは独立にC1からC10のアルキル基、C6からC10のアリール基、C7からC12のアラルキル基であり、これらの置換基はその一部にヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、カルボニル基、スルファニル基、エーテル基、チオエーテル基に代表される非炭素官能基を有してもよい。また、R、Rが互いに結合して環状構造を形成してもよい。ジスルフィド化合物としては、具体的には、ジメチルジスルフィド、メチルエチルジスルフィド、ジ(3−ヒドロキシプロピル)ジスルフィド、ジフェニルジスルフィド、シスチン、ジチオジグリコール酸、トランス−4,5−ジヒドロキシ−1,2−ジチアン(酸化型のジチオスレイトール)を例示することができる。
酸化剤として酸素を用いる場合には酸素ガスを含む雰囲気中で反応を行うが、空気雰囲気、酸素雰囲気のほか、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンに代表される不活性ガスで希釈した酸素雰囲気を用いることができる。
ジスルフィド類や酸素を酸化剤として用いる場合にはペプチドA鎖の部分酸化反応によるジスルフィド形成反応において十分高い反応速度を得るために過剰のジスルフィド系酸化試剤または酸素を用いることになるが、目的の酸化反応以外の副反応が少ないジスルフィド酸化試剤が好適であり、また、ジスルフィド形成反応においての副生物が反応溶媒である水分子のみであること並びに製造工程で雰囲気を置換する特別の設備やステップを要しない点で、空気を用いることが好ましい。反応の迅速性、副反応の少なさ、過剰量の酸化剤を必要としないことを考慮すると、セレノキシド化合物が好ましく、そのなかでも3,4−ジヒドロキシ−1−セレノランオキシドDHSox(特許文献8)が特に好ましい。
酸化剤としてDHSoxを用いる場合、A鎖の選択的部分酸化を行うにはA鎖の水溶液で脱気あるいは窒素によるパージにより酸素を除いたものに、計算量0.5〜1.5当量の酸化剤を加えて反応を行うことができる。反応条件はpH 7〜10炭酸水素ナトリウム緩衝溶液またはトリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)緩衝溶液、温度4〜25℃、尿素濃度0〜2 M、リラキシンA鎖還元体の濃度500〜1300μMで行うことが可能である。反応時間は、例えば1〜10分間、より好ましくは1〜5分間である。これより長い反応時間では、副反応や生成物の分解が起こりやすくなり、収率の低下をもたらす。選択的酸化剤としてジチオスレイトール酸化体(DTTox)を用いてA鎖の部分酸化を行う場合には、A鎖の水溶液(濃度約700μM、pH10炭酸水素ナトリウム緩衝溶液、尿素濃度約0.5 M)で脱気あるいは窒素によるパージにより酸素を除いたものに、大過剰の選択的酸化剤(約70 mM)(約100当量)を加え、窒素気流下、4℃の反応温度で約48時間反応させる。また、選択的酸化剤として酸素(空気酸化)を用いる場合には、A鎖の水溶液(濃度約700μM、pH10炭酸水素ナトリウム緩衝溶液、尿素濃度約0.5 M)を空気とともに密閉した状態で、4℃の反応温度で約48時間反応させる。
上記の中でも、次に行うB鎖との混合実験および副生成物の生成を抑えることを考慮すると、pH 8〜10、温度4℃、酸化剤DHSox 1当量、尿素濃度0.5 M、リラキシンA鎖還元体の濃度500〜1300 μM、反応時間1〜5分間で行うことが好ましい。
上記のようにして得られた部分酸化A鎖を含んだ溶液は、精製することなく、そのままB鎖との反応に用いることができる。
<部分酸化A鎖とB鎖の反応によるリラキシン合成>
本発明においては、上記した部分酸化A鎖の合成において得られたリラキシンのペプチドA鎖と、リラキシンの還元型ペプチドB鎖とを用いて酸化反応を行うことにより、リラキシンペプチドA鎖とリラキシンペプチドB鎖の間のジスルフィド結合を形成する。部分酸化A鎖溶液とB鎖溶液を混合し、スルファニル基の酸化反応によりジスルフィド結合を形成させることができる。この反応の酸化剤としては、本明細書中上記した一般式RSSRと表されるジスルフィド、又は空気(O)等の弱い酸化剤を用いることができる。
この反応中には上記A鎖の分子内反応により生成したS-Sを含め系中のSHとS-Sが連鎖的に反応し、スルファニル基とジスルフィド結合の移動が起きるが、最終的には大部分のシステイン残基のスルファニル基(SH)が3個の正しいジスルフィド結合(S-S)に変換され、良好な収率でリラキシンが生成する。
酸化剤として空気(O)を用いる場合、密閉容器に空気を満たし、pH 8〜10、温度−7〜25℃、尿素濃度0.8〜2 M、リラキシンB鎖還元体の濃度20〜600μMで行うことが好ましい。得られるリラキシンの収率を向上させるには、pH 9〜10、温度−7〜15℃、尿素濃度約0.9M、リラキシンB鎖還元体の濃度100〜200μMで行うことがより好ましく、pH 10、温度−7〜15℃、尿素濃度0.9 M、リラキシンB鎖還元体の濃度約150μMで行うことがさらに好ましい。リラキシンB鎖還元体に対するA鎖部分酸化体の濃度比は、1〜4倍が適当であるが、反応効率を考慮すると濃度比は1.0〜1.3倍が好ましい。反応時間は、反応温度−7℃では96時間、5℃では72時間、10℃では48時間、15℃では24時間が最適であり、これより2倍以上に長いと若干のリラキシンの分解が起こり、この二分の一以下の短い反応時間ではリラキシンの生成量が少なくなる。
酸化剤としてジチオスレイトール酸化体(DTTox)を用いる場合は、酸化剤を約100当量用い、窒素気流下、上記の空気酸化と同様の反応条件を適用できる。
<粗リラキシンの精製>
本発明の製造方法で得られた粗リラキシンは、反応停止剤(スルファニル基ブロック試剤)を加えて酸化反応を停止させた後、弱酸性として、逆相カラムを用いて高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)により分離精製することができる。本明細書の実施例で精製したヒトリラキシンは、ESI-TOF-MS分析の結果、分子イオンピーク(M+4H+)がm/z1496.1に観測された。この値は、ヒト2型リラキシンの理論分子量5980.6と一致しており、ヒトリラキシンA鎖とB鎖が1:1で結合した生成物であることが確認された。また、リラキシンの同定は、市販品を標準物質として、HPLCによる溶出時間の比較(図3)により行うことができる。
以下の実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例で用いた高速液体クロマトグラフ装置は、島津製作所製のオンラインデガッサ DGU-12A、紫外可視検出器 SPD-10Avp、カラムオーブン CTO-10Avp、デュアルポンプ LC-10Aiであり、逆相カラムは東ソー株式会社製 Tosoh TSKgel ODS-100V 4.6×150 mmを使用した。
略語の定義を下に示す。
HBTU: ヘキサフルオロリン酸o-ベンゾトリアゾール-1-イル-N,N,N’N’-テトラメチルウロニウム
HOBt: 1-ヒドロキシベンゾトリアゾール
EDTA: エチレンジアミン四酢酸
HPLC: 高速液体クロマトグラフィー
MALDI TOF-MS: マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法
ESI-TOF-MS:エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析法
[参考例1]ペプチド鎖の合成
リラキシンA鎖ならびにリラキシンB鎖はペプチド固相合成法により、ポリスチレンビーズ上に合成した。これを担体から切り出すために、切り出し試薬のトリフルオロ酢酸を用いて、すべてのアミノ酸の保護基をはずし、逆相液体グロマトグラフィーで精製し、下記のヒト2型リラキシンのペプチド配列を有するA鎖ならびにB鎖を得た。本実施例ではすべての保護基を同時に簡便に脱離できるトリチル基(Trt基)を使用した。この方法で製造される保護基を取り除いたリラキシンA鎖及びリラキシンB鎖を、それぞれリラキシンA鎖還元体、リラキシンB鎖還元体と呼ぶ。
A鎖:Gln-Leu-Tyr-Ser-Ala-Leu-Ala-Asn-Lys-Cys-Cys-His-Val-Gly-Cys-Thr-Lys-Arg-Ser-Leu-Ala-Arg-Phe-Cys (配列番号1)
B鎖:Asp-Ser-Trp-Met-Glu-Glu-Val-Ile-Lys-Leu-Cys-Gly-Arg-Glu-Leu-Val-Arg-Ala- Gln-Ile-Ala-Ile-Cys-Gly-Met-Ser-Thr-Trp-Ser(配列番号2)
<リラキシンA鎖還元体の合成>
合成はバイオタージ社のSyrowaveペプチド自動固相合成装置を用いて、0.20mmol スケールで合成した。アミノ酸はFmoc-アミノ酸[Fmoc-Gln(OtBu)-OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Tyr(tBu)-OH, Fmoc-Ser(tBu)-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Asn(Trt)-OH, Fmoc-Lys(Boc)-OH, Fmoc-Cys(Trt)-OH, Fmoc-Cys(Trt)-OH, Fmoc-His(Trt)-OH, Fmoc-Val−OH, Fmoc-Gly−OH, Fmoc-Cys(Trt)-OH, Fmoc-Thr(tBu)-OH, Fmoc-Lys(Boc)-OH, Fmoc-Arg(pbf)-OH, Fmoc-Ser(tBu)-OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Arg(pbf)-OH, Fmoc-Phe-OH]を使用し、樹脂としてH-Cys(Trt)-Trt(2-Cl) -Alko-PEG -Resinを使用し、20% ピペリジン/N-メチル-2-ピロリドンを脱Fmoc試薬として、HBTU/HOBt(N,N-ジメチルホルムアミド溶液で溶解した)を活性縮合剤として用いて、カップリングを繰り返し合成した。手動固相合成容器に移し、ジクロロメタンで数回洗浄後、デシケーターにて一晩減圧乾燥させた。乾燥後、樹脂よりペプチドの切断および側鎖の最終脱保護のために、切り出し試薬 [トリフルオロ酢酸 (8.25ml ) / 水 (0.5ml ) / 1,2-エタンジチオール (0.25ml) /フェノール (0.75g) / チオアニソール (0.5ml ) ] を加えて2時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液をナスフラスコに移して、窒素ガスで濃縮した。冷ジエチルエーテルを用いて結晶化させ、10回のデカンデーション後にこれを濾取し、粗ペプチドを得た(240 mg)。上記操作は、文献(非特許文献6)に記載の方法を参考にして行った。
上記のペプチド固相合成法によって得られた粗ペプチド3 mgを、pHを8.5に調整した4 Mグアニジンチオシアン酸塩を含有する100 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)/1 mM EDTA緩衝溶液500 μLに溶解し、ジチオスレイトール還元体(DTTred) 7-8 mgを加え、28℃で50分間反応させた。遠心分離器(14,000 rpm)を用いて、生成した沈殿物を10分間沈降させ、上澄み液をSephadex G15樹脂カラムに通して0.1 M酢酸水溶液中に脱塩した。得られたペプチドを含む溶液を凍結乾燥し、白色固体を得た。これを、0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)を含む20%アセトニトリル水溶液に溶かし、不溶物を14,000 rpmで10分間遠心分離したのち、上澄み液を逆相HPLCにより分離精製した。逆相HPLCの精製条件を表1に示す。リラキシンA鎖還元体を含むフラクション(溶出時間16.0分)を集め、凍結乾燥することにより、高純度(>90%、HPLC分析)のヒト2型リラキシンA鎖還元体を白色固体として得た。収量0.7 mg。
得られた白色固体は−30℃で冷凍保存した。ESI-TOF-MS分析の結果、分子イオンピーク(M+2H+)がm/z 1337.7に観測された。これより、ヒト2型リラキシンA鎖還元体(理論分子量2673.8)を同定した。
Figure 2015160825
<リラキシンB鎖還元体の合成>
B鎖の合成はアプライドバイオシステム社モデル433Aペプチド自動固相合成装置を用いて、0.25mmol スケールで合成した。アミノ酸はFmoc-アミノ酸[Fmoc-Asp(tBu)-OH, Fmoc-Ser(tBu)-OH, Fmoc-Trp(Boc)-OH, Fmoc-Met-OH, Fmoc-Glu(tBu)-OH, Fmoc-Glu(tBu)-OH, Fmoc-Val-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Lys(Boc)- OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Cys(Trt)-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Arg(pbf)-OH, Fmoc-Glu(tBu)-OH, Fmoc-Leu-OH, Fmoc-Val-OH, Fmoc-Arg(pbf)-OH, Fmoc-Ala-OH Fmoc-Gln(Trt)-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Ala-OH, Fmoc-Ile-OH, Fmoc-Cys(Trt)-OH, Fmoc-Gly-OH, Fmoc-Met-OH, Fmoc-Ser(tBu)-OH, Fmoc-Thr(tBu)-OH, Fmoc-Trp(Boc)-OH]を使用し、樹脂としてFmoc-Ser(tBu) -Alko-PEG-Resinを使用し、20% ピペリジン/N-メチル-2-ピロリドンを脱Fmoc試薬として、HBTU/HOBt (N,N-ジメチルホルムアミド溶液で溶解した)を活性縮合剤として用いて、カップリングを繰り返し合成した。手動固相合成容器に移し、ジクロロメタンで数回洗浄後、デシケーターにて一晩減圧乾燥させた。乾燥後、樹脂よりペプチドの切断および側鎖の最終脱保護のために、切り出し試薬 [トリフルオロ酢酸 (8.25ml ) / 水 (0.5ml ) / 1, 2-エタンジチオール (0.25ml) /フェノール (0.75g) / チオアニソール (0.5ml ) ]を加えて2時間撹拌した。溶液をろ過し、ろ液をナスフラスコに移して、窒素ガスで濃縮した。冷ジエチルエーテルを用いて結晶化させ、10回のデカンデーション後にこれを濾取し、粗ペプチドを得た(294 mg)。
得られた粗ペプチド3 mgを、pHを8.5に調整した8 M尿素を含有する100 mM トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩(Tris-HCl)/1 mM EDTA緩衝溶液800μLに溶解し、ジチオスレイトール還元体(DTTred) 7-8 mgを加え、28℃で50分間反応させた。遠心分離器(14,000 rpm)を用いて、生成した沈殿物を10分間沈降させ、上澄み液をSephadex G15樹脂カラムに通して0.1 Mアンモニア水溶液中に脱塩した。得られたペプチドを含む溶液にpHが3〜4となるように酢酸約100μLを加えた後、凍結乾燥し、白色固体を得た。これを、0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)を含む30%アセトニトリル水溶液に溶かし、不溶物を14,000 rpmで10分間遠心分離器したのち、上澄み液を逆相HPLCにより分離精製した。逆相HPLCの精製条件を表2に示す。リラキシンB鎖還元体を含むフラクション(溶出時間20.0分)を集め、凍結乾燥することにより、高純度(>90% by HPLC分析)のヒト2型リラキシンB鎖還元体を白色固体として得た。収量0.3 mg。
得られた白色固体は−30℃で冷凍保存した。ESI-TOF-MS分析の結果、分子イオンピーク(M+3H+)がm/z 1105.6に観測された。これより、ヒト2型リラキシンB鎖還元体(理論分子量3312.9)を同定した。
Figure 2015160825
以下の実施例1〜3では、本発明の方法によりヒト2型リラキシンを製造した。高選択性スルファニル基酸化剤(DHSox)の合成は、既報(特許文献8)の方法で行った。反応停止剤(スルファニル基ブロック試剤)として用いたメタンチオスルホン酸アミノエチル(AEMTS)は文献(非特許文献7)の方法により合成した。生成したリラキシンの物性からの確認は高速液体クロマトグラフでのヒトリラキシン標準サンプル(シグマ−アルドリッチ社製、Relaxin-2 human recombinant, SRP3147-25UG)との保持時間の比較で行った(図3)。表3にリラキシンのHPLCによる分離精製条件を示す。
Figure 2015160825
[実施例1]
リラキシン合成条件:pH 10, 温度-7℃ , DHSox 1当量, 尿素濃度0.9 M, A鎖濃度154μM, B鎖濃度154μM
緩衝溶液は全て、あらかじめ窒素ガスで十分にパージしたものを用いた。
参考例1で合成したヒトリラキシンA鎖還元体約0.6 mgを、pHを10に調整した3 M尿素を含有する25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液70 μLに加え、完全に溶解させた。これにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液350 μLを加えて6倍に希釈した。この溶液中のヒトリラキシンA鎖還元体の濃度を、ヒトリラキシンA鎖還元体のモル吸光係数ε275 (1650 cm-1M-1)を用いて、次のようにして決定した。すなわち、6倍に希釈した溶液から正確に10 μLを分け取り、これに0.5 M尿素を含有するpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液990 μLを加え、紫外可視分光光度計(島津製作所、UV-1700)を用いて波長275 nmにおける吸光度を測定したところ、その値は0.0089であった。これより、溶液中のヒトリラキシンA鎖還元体の濃度は540 μMと決定された。
別の容器を用いて、DHSox 3.8 mgを、0.5 M尿素を含有するpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液500 μLに溶解させ、さらに同じ緩衝溶液で希釈して、10 mM DHSox溶液を調整した。ヒトリラキシンA鎖還元体溶液とDHSox溶液をアルミブロック恒温槽中で4℃に保ち、 溶液の温度が一定になったのち、ヒトリラキシンA鎖還元体溶液380 μLとDHSox溶液20 μLを混合し、5分間反応させてヒトリラキシンA鎖部分酸化体溶液を調整した(図1)。
一方、参考例1で合成したヒトリラキシンB鎖還元体約1.2 mgを、pHを10に調整した6 M尿素を含有する25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液250 μLに加え、完全に溶解させた。これにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液250 μLを加えて2倍に希釈した。この溶液中のヒトリラキシンB鎖還元体の濃度を、ヒトリラキシンB鎖還元体のモル吸光係数ε275 (8300 cm-1M-1)を用いて、次のようにして決定した。すなわち、2倍に希釈した溶液から正確に10 μLを分け取り、これに3 M尿素を含有するpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液990 μLを加え、紫外可視分光光度計を用いて波長275 nmにおける吸光度を測定したところ、その値は0.0599であった。これより、溶液中のヒトリラキシンB鎖還元体の濃度は720 μMと決定された。
上記のように調整したヒトリラキシンA鎖部分酸化体溶液400 μLとヒトリラキシンB鎖還元体溶液300 μLを4℃で混合し、さらにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液700 μLを加えて希釈した。この混合溶液を−7℃の恒温槽中に放置した。96時間後に反応溶液50 μLに対してメタンチオスルホン酸アミノエチル(AEMTS)水溶液(濃度8 mg/mL)200 μLを加えて反応を停止させた。反応停止10分後に、0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液750 μLを加え、HPLCで生成物の分析を行った。HPLCのピーク面積より、ヒト2型リラキシンの収率は48%であった。溶出液を分取後、凍結乾燥して、ヒト2型リラキシンを白色固体として得た(図3)。
[実施例2]
リラキシン合成条件: pH 10, 温度15℃, DHSox 1当量, 尿素濃度0.9 M, A鎖濃度156 μM, B鎖濃度132 μM
緩衝溶液は全て、あらかじめ窒素ガスで十分にパージしたものを用いた。
参考例1で合成したヒトリラキシンA鎖還元体約0.2 mgを、pHを10に調整した3 M尿素を含有する25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液15 μLに加え、完全に溶解させた。これにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液75 μLを加えて6倍に希釈した。この溶液中のヒトリラキシンA鎖還元体の濃度を、実施例1と同様の方法で求めたところ、ヒトリラキシンA鎖還元体の濃度は715 μMであった。
別の容器を用いて、DHSox 4.0 mgを、0.5 M尿素を含有するpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液500 μLに溶解させ、さらに同じ緩衝溶液で希釈して、5 mM DHSox溶液を調整した。ヒトリラキシンA鎖還元体溶液とDHSox溶液をアルミブロック恒温槽中で4℃に保ち、溶液の温度が一定になったのち、ヒトリラキシンA鎖還元体溶液35 μLとDHSox溶液5 μLを混合し、5分間反応させてヒトリラキシンA鎖部分酸化体溶液を調整した。
一方、参考例1で合成したヒトリラキシンB鎖還元体約0.1 mgを、pHを10に調整した6 M尿素を含有する25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液30 μLに加え、完全に溶解させた。これにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液30 μLを加えて2倍に希釈した。この溶液中のヒトリラキシンB鎖還元体の濃度を、実施例1と同様の方法で求めたところ、ヒトリラキシンB鎖還元体の濃度は527 μMと決定された。
上記のように調整したヒトリラキシンA鎖部分酸化体溶液20 μLとヒトリラキシンB鎖還元体溶液20 μLを4℃で混合し、さらにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液40 μLを加えて希釈した。この混合溶液を15℃の恒温槽中に放置した。24時間後に反応溶液20 μLに対してメタンチオスルホン酸アミノエチル(AEMTS)水溶液(濃度8 mg/mL)200 μLを加えて反応を停止させた。反応停止10分後に、0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液800 μLを加え、HPLCで生成物の分析を行った(図2)。HPLCのピーク面積より、ヒトリラキシンの収率は、ヒトリラキシンB鎖還元体を基準として47%であった。溶出液を分取後、凍結乾燥して、ヒト2型リラキシンを白色固体として得た。
[実施例3]
リラキシン合成条件:pH 10, 温度4℃, 空気あるいはジチオスレイトールによる酸化条件, 尿素濃度0.88 M, A鎖濃度85 μM, B鎖濃度22 μM
緩衝溶液は全て、あらかじめ窒素ガスで十分にパージしたものを用いた。
参考例1で合成したヒトリラキシンA鎖還元体約0.2 mgを、pHを10に調整した3 M尿素を含有する25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液12.5 μLに加え、完全に溶解させた。これにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液62.5 μLを加えて6倍に希釈した。この溶液中のヒトリラキシンA鎖還元体の濃度を、実施例1と同様の方法で求めたところ、ヒトリラキシンA鎖還元体の濃度は800 μMであった。この溶液を30 μLずつに二分した。一方の溶液には、空気存在下で、0.5 M尿素を含有するpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液4.3 μLを加えた。もう一方の溶液には、500 mMジチオスレイトール(DTTred)および0.5 M尿素を含有するpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液4.3 μLを加えた。このように調整した2つの溶液をそれぞれ、密閉した容器に入れ、アルミブロック恒温槽中で4℃に保ち、48時間反応させた後、0.5 M尿素を含有するpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液で希釈して、338 μMヒトリラキシンA鎖部分酸化体溶液を2種類調整した。
一方、参考例1で合成したヒトリラキシンB鎖還元体約0.1 mgを、pHを10に調整した6 M尿素を含有する25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液15 μLに加え、完全に溶解させた。これにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液15 μLを加えて2倍に希釈した。この溶液中のリラキシンB鎖還元体の濃度を、実施例1と同様の方法で求めたところ、ヒトリラキシンB鎖還元体の濃度は89.2 μMと決定された。
上記のように調整したヒトリラキシンA鎖部分酸化体溶液12.5 μLとヒトリラキシンB鎖還元体溶液12.5 μLを4℃で混合し、さらにpH 10の25 mM炭酸水素ナトリウム緩衝溶液25 μLを加えて希釈した。空気雰囲気中この混合溶液を4℃の恒温槽中に放置した。96時間後に反応溶液30 μLに対してメタンチオスルホン酸アミノエチル(AEMTS)水溶液(濃度8 mg/mL)200 μLを加えて反応を停止させた。反応停止10分後に、0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液790 μLを加え、HPLCで生成物の分析を行った。溶出液を分取後、凍結乾燥して、ヒト2型リラキシンを白色固体として得た。HPLCのピーク面積より、ヒトリラキシンB鎖還元体を基準としてヒトリラキシンの収率を求めたところ、A鎖部分酸化体作成時の酸化剤として空気(O2)を用いた場合のヒトリラキシンの収率は70%であり、A鎖部分酸化体作成時の酸化剤としてDTTredを用いた場合のヒトリラキシンの収率は62%であった。

Claims (4)

  1. (1)リラキシンの還元型ペプチドA鎖のシステイン残基のスルファニル基(SH)の一部を酸化剤によりジスルフィド結合(S-S)に変換する工程、及び
    (2)上記工程(1)で得られたリラキシンのペプチドA鎖と、リラキシンの還元型ペプチドB鎖とを用いて酸化反応を行うことにより、リラキシンペプチドA鎖とリラキシンペプチドB鎖の間のジスルフィド結合を形成する工程
    を含む、リラキシンの製造方法。
  2. 工程(1)において、ペプチドA鎖1分子当たり平均0.5〜1.5個のジスルフィド結合(S-S)が分子内に形成される、請求項1に記載のリラキシンの製造方法。
  3. 工程(1)で使用する酸化剤が、セレノキシド化合物、ジスルフィド化合物、又は酸素であり、工程(2)で使用する酸化剤が、ジスルフィド化合物又は酸素である、請求項1又は2に記載のリラキシンの製造方法。
  4. リラキシンがヒト2型リラキシンである、請求項1から3の何れか1項に記載のリラキシンの製造方法。
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