JP2015038021A - 強化用ガラス板 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の技術的課題は、イオン交換性能と耐失透性が高いと共に、KNO溶融塩の劣化に対して耐性を有し、しかも大型のガラス板を強化処理しても、反りが発生し難い強化ガラス及び強化ガラス板を創案することである。
【解決手段】本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜4%、NaO 7〜20%、KO 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする。
【選択図】図1

Description

本発明は、強化ガラス及び強化ガラス板に関し、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイのガラス基板に好適な強化ガラス及び強化ガラス板に関する。
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイ、大型テレビ、非接触給電灯のデバイスは、益々普及する傾向にある。
これらの用途には、イオン交換処理等で強化処理した強化ガラスが用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
特に、近年では大型テレビのディスプレイの保護部材として、強化ガラスが用いられている。これらの保護部材には、(1)高い機械的強度を有すること、(2)大型のガラス板を大量に成形するために、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法等のダウンドロー法、フロート法等に適した液相粘度を有すること、(3)成形に適した高温粘度を有すること、(4)強化処理を安価、且つ効率的に行えること等の特性が求められる。
特開2006−83045号公報
泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
強化ガラスの機械的強度を高めるためには、圧縮応力層の圧縮応力値を高める必要がある。圧縮応力値を高める成分として、Al等の成分が知られている。しかし、Alの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下して、オーバーフローダウンドロー法、スリットダウンドロー法等のダウンドロー法、フロート法等に適した液相粘度を得難くなることに加えて、高温粘性が上昇して、フロート法等に適した成形温度を得難くなる。
また、KNO溶融塩を用いると、大型のガラス板を継続的、且つ大量にイオン交換処理することができる。しかし、KNO溶融塩を用いると、経時的にKNO溶融塩が劣化して、KNO溶融塩を頻繁に交換しなければならないという問題がある。KNO溶融塩のバス交換は、時間と費用がかかるため、イオン交換処理の効率が低下して、強化ガラスの製造コストが高騰し易くなる。
更に、大型のガラス板を強化処理する場合、ガラス板の表裏面(相対する表面)の特性差によって、強化ガラス板に反りが発生するという問題があった。また、この場合、強化処理の際に、平面方向の残留応力により、一時的にガラス板が反り、これが原因で強化ガラス板に反りが発生するという問題があった。近年、強化ガラス板に対して薄型化の要求があるが、このような場合、上記問題は特に顕著になる。
そこで、本発明の技術的課題は、イオン交換性能と耐失透性が高いと共に、KNO溶融塩の劣化に対して耐性を有し、しかも大型のガラス板を強化処理しても、反りが発生し難い強化ガラス及び強化ガラス板を創案することである。
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ガラス組成を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜4%、NaO 7〜20%、KO 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする。ここで、「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が0.05モル%未満であることを指す。
本発明者等は、種々の検討を行った結果、以下の知見を得るに至った。AlとMgOの含有量(又は含有比)を同時に規制すると、イオン交換性能と耐失透性を高めることができる。Alとアルカリ金属酸化物の含有量(又は含有比)を同時に規制すると、耐失透性を高めることができる。KOを所定量添加すると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。KOとNaOの含有量(又は含有比)を同時に規制すると、圧縮応力層の圧縮応力値を低下させずに、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。
更に、ガラス組成を上記範囲に規制すると、劣化したKNO溶融塩を用いた場合であっても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが極端に低下しないため、KNO溶融塩の交換頻度を低下させることが可能になる。
第二に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75
%、Al 4〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜2%、NaO 9〜18%、KO 1〜8%、MgO 0.5〜12%、CaO 0〜3.5%、SrO 0〜3%、TiO 0〜0.5%を含有することが好ましい。
第三に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜17%、KO 2〜7%、MgO 1.5〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、TiO 0〜0.5%を含有することが好ましい。
第四に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜75%、Al 4〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜16%、KO 2〜7%、MgO 3〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、ZrO 0.5〜10%、TiO 0〜0.5%を含有することが好ましい。
第五に、本発明の強化ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜69%、Al 4〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 11〜16%、KO 2〜7%、MgO 3〜9%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、ZrO 1〜9%、TiO 0〜0.1%を含有することが好ましい。
第六に、本発明の強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚み(深さ)が10μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
第七に、本発明の強化ガラスは、劣化係数Dが0.01〜0.6であることが好ましい。ここで、劣化係数Dは、(圧縮応力値(新品KNO溶融塩)−圧縮応力値(劣化KNO溶融塩))/圧縮応力値(新品KNO溶融塩)の式で算出した値を指す。ここで、「劣化KNO溶融塩」は、NaOを約1500ppm、LiOを約20ppm含むKNO溶融塩を指し、例えば、以下の方法で作製可能である。SiO 58.7質量%、Al 12.8質量%、LiO 0.1質量%、NaO 14.0質量%、KO 6.3質量%、MgO 2.0質量%、CaO 2.0質量%、ZrO 4.1質量%のガラス組成を有するガラスを粉砕し、篩目開き300μmを通過し、篩目開き150μmを通過しないガラス粉末を採取し、平均粒子径225μmのガラス粉末を得る。次に、このガラス粉末95gを篩目開き100μmの金属メッシュで作製した籠の中に入れる。続いて、440℃に保持したKNO 400ml中に上記のガラス粉末を60時間浸漬(24時間毎に籠を上下に10回振盪)する。一方、「新品KNO溶融塩」は、過去にイオン交換処理に供されていないKNO溶融塩を指し、NaOの含有量が200ppm以下、LiO含有量が3ppm以下のKNO溶融塩を指す。
第八に、本発明の強化ガラスは、液相温度が1075℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
第九に、本発明の強化ガラスは、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
第十に、本発明の強化ガラスは、104.0dPa・sにおける温度が1250℃以下であることが好ましい。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
第十一に、本発明の強化ガラスは、密度が2.6g/cm以下であることが好ましい
。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定可能である。
第十二に、本発明の強化ガラスは、ヤング率が65GPa以上であることが好ましい。ここで、「ヤング率」は、周知の共振法等で測定可能である。
第十三に、本発明の強化ガラス板は、上記のいずれかに記載の強化ガラスからなることを特徴とする。
第十四に、本発明の強化ガラス板は、フロート法で成形されてなることが好ましい。
第十五に、本発明の強化ガラス板は、厚み方向に0.5μm以上研磨されてなる表面を有することが好ましい。
第十六に、本発明の強化ガラス板は、相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSが50MPa以下であることが好ましい。フロート法でガラス板を成形する場合、溶融錫に接触した面と接触していない面では、同様にイオン交換処理を行ったとしても、形成される圧縮応力層の圧縮応力値に差が生じて、特に大型、且つ薄い強化ガラス板の場合に反りが発生し易くなる。そこで、ΔCSを上記範囲とすれば、このような不具合を防止し易くなる。
第十七に、本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力を有する強化ガラス板であって、長さが500mm以上、幅が500mm以上、厚みが0.5〜1.5mm、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が200MPa以上、圧縮応力層の厚みが20μm以上、劣化係数Dが0.6以下、相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSが50MPa以下であることを特徴とする。
第十八に、本発明の強化ガラス板は、タッチパネルディスプレイに用いることが好ましい。
第十九に、本発明の強化ガラス板は、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。
第二十に、本発明の強化ガラス板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
第二十一に、本発明の強化ガラス板は、ディスプレイの保護部材に用いることが好ましい。
第二十二に、本発明の強化ガラス板は、表面に圧縮応力を有する強化ガラス板であって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜17%、KO 2〜7%、MgO 1.5〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、TiO 0〜0.5%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5以上、長さが500mm以上、幅が500mm以上、厚みが0.5〜1.5mm、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が400MPa以上、圧縮応力層の厚みが30μm以上、劣化係数Dが0.4以下であることを特徴とする。
第二十三に、本発明の強化用ガラスは、強化処理に供される強化用ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜4%、NaO 7〜20%、KO 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする。
第二十四に、本発明の強化用ガラス板は、強化処理に供される強化用ガラス板であって、板厚が1.5mm以下であり、強化用ガラス板の全平面部位に対する平面方向の残留応力の最大値Fmaxが5MPa以下であることを特徴とする。ここで、「Fmax」は、500mm×500mm以上の寸法を有するガラス板(特に1m×1mの寸法)において、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR−10Aを用いて、10cmピッチの格子状交点位置及び4辺の外周部付近の複屈折(単位:nm)を計測し、平面方向の残留応力に換算した場合の最大値である。また、光学的な複屈折の測定、すなわち直交する直線偏光波の光路差の測定により、ガラス板中の残留応力値を見積ることが可能であり、残留応力により発生する偏差応力F(MPa)は、F=R/CLの式で表記される。なお、「R」は光路差(nm)であり、「L」は偏光波が通過した距離(cm)であり、「C」は光弾性定数(比例定数)であり、通常、20〜40(nm/cm)/(MPa)の値になる。なお、平面方向の残留応力には、引っ張り応力と圧縮応力が存在するが、上記では、両者の絶対値を評価するものとする。
本発明の強化ガラスは、イオン交換性能が高いため、短時間のイオン交換処理であっても、圧縮応力層の圧縮応力値が高まり、且つ圧縮応力値が深くまで形成される。このため、機械的強度が高くなり、また機械的強度のばらつきが小さくなる。
また、本発明の強化ガラスは、耐失透性に優れるため、オーバーフローダウンドロー法、フロート法等で効率良く成形することが可能である。なお、オーバーフローダウンドロー法、フロート法等であれば、大型、且つ薄いガラス板を大量に成形することができる。
更に、本発明の強化ガラスは、劣化係数Dが小さいため、長期に亘ってイオン交換処理しても、形成される圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが低下し難いため、KNO溶融塩の交換頻度を低下させることが可能である。
[実施例3]に係るガラス板の平面方向の残留応力を示すデータである。 [実施例4]に係るガラス板の平面方向の残留応力を示すデータである。
本発明の実施形態に係る強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有し、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜4%、NaO 7〜20%、KO 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。なお、以下では、特に断りのない限り、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指すものとする。
表面に圧縮応力層を形成する方法としては、物理強化法と化学強化法がある。本実施形態の強化ガラスは、化学強化法で作製されてなることが好ましい。
化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラスの表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが薄い場合でも、圧縮応力層を適正に形成できると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラスを切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラスが容易に破壊しない。
本実施形態の強化ガラスにおいて、上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は50〜75%であり、好ましくは55〜75%、55〜72%、55〜69%、特に58〜67%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。更には劣化係数Dが大きくなり易い。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。
Alは、イオン交換性能を高める成分であると共に、劣化係数Dを低減する効果が最も高い成分である。また歪点やヤング率を高める成分である。Alの含有量は3〜13%である。Alの含有量が少な過ぎると、劣化係数Dが大きくなる傾向があり、またイオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの好適な下限範囲は4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、7%以上、8.5%以上、10%以上、特に10.5%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、フロート法やオーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は12.5%以下、特に12%以下である。
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、また液相温度を低下させる成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなり易い。よって、Bの含有量は0〜1.5%であり、好ましくは0〜1.3%、0〜1.1%、0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分である。更にLiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きいが、NaOを7%以上含むガラス系において、LiOの含有量が極端に多くなると、かえって圧縮応力値が低下する傾向がある。また、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなり、かえって圧縮応力値が低下する場合がある。また劣化係数Dが大きくなる傾向がある。よって、LiOの含有量は0〜4%であり、好ましくは0〜2.5%、0〜2%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.3%である。
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、NaOの含有量は7%以上であり、好適な下限範囲は8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に13%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。更に劣化係数Dが大きくなる傾向がある。よって、NaOの含有量は20%以下であり、好適な上限範囲は19%以下、17%以下、特に16%以下である。
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくし易い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。よって、KOの含有量は0.5%以上であり、好適な下限範囲は1%以上、1.5%以上、特に2%以上である。しかし、KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの含有量は10%以下であり、好適な上限範囲は9%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下である。
LiO+NaO+KOの好適な含有量は10〜25%、13〜22%、15〜20%、16〜20%、16.5〜20%、特に18〜20%である。LiO+NaO+KOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。一方、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、劣化係数Dが大きくなり過ぎる。またガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。なお、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO、及びKOの合量である。
本実施形態に係るガラス組成系において、LiO+NaO+KOの含有量が劣化係数Dに影響を与える要因を説明する。本実施形態では、LiOの含有量が4%以下に抑えられているため、主にNaイオンとKイオンのイオン交換により、ガラス表面に圧縮応力層が形成される。LiO+NaO+KOの含有量が少なくなると、イオン交換される成分の含有量が少なくなるため、圧縮応力値が小さくなるが、逆にLiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、NaイオンとKイオンのイオン交換(圧縮応力層の形成)が促進されると同時に、KNO中に含まれるLiイオンとNaイオンのイオン交換が、NaイオンとKイオンのイオン交換よりも優先して生じ易くなる。LiイオンとNaイオンのイオン交換が生じると、引っ張り応力が形成されるため、圧縮応力値が低下するものと考えられる。
モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な範囲は1〜3である。モル比(LiO+NaO+KO)/Alが大き過ぎると、歪点が低下して、かえってイオン交換性能が低下し易くなったり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。また劣化係数Dが大きくなる虞がある。しかし、モル比(LiO+NaO+KO)/Alが小さ過ぎると、ガラスの粘性が高くなり過ぎて、泡品位が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な下限範囲は1以上、1.2以上、1.4以上、1.5以上、1.7以上、特に1.8以上であり、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な上限範囲は3以下、2.8以下、2.6以下、2.5以下、特に2.3以下である。また劣化係数Dを重視する場合、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な下限範囲は1以上、特に1.2以上であり、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な上限範囲は3以下、2.5以下、2以下、1.8以下、1.5以下、特に1.4以下である。また、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な範囲は1〜3、1.2〜3、特に1.2〜2.5である。モル比(LiO+NaO+KO)/Al、モル比NaO/Alを上記範囲に規制すると、耐失透性や劣化係数Dを顕著に改善することができる。
モル比KO/NaOの好適な範囲は0.1〜0.8、0.2〜0.8、0.2〜0.5、特に0.2〜0.4である。モル比KO/NaOが小さくなると、圧縮応力層の厚みが小さくなり易く、モル比KO/NaOが大きくなると、圧縮応力値が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、ガラスが失透し易くなる。
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。よって、MgOの含有量は0.5%以上であり、好適な下限範囲は1%以上、1.5以上、2%以上、3%以上、5%以上、特に6%以上である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラスが失透し易くなる傾向がある。よって、MgOの含有量は13%以下であり、好適な上限範囲は12%以下、11%以下、9%以下、8%以下、7%以下、特に6.5%以下である。
モル比MgO/(MgO+Al)が小さくなると、イオン交換性能やヤング率が低下し易くなる。また劣化係数Dが大きくなる傾向にある。モル比MgO/(MgO+Al)の好適な下限範囲は0.05以上、0.1以上、0.15以上、0.2以上、0.25以上、特に0.3以上である。一方、モル比MgO/(MgO+Al)が大きくなると、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、熱膨張係数が高くなり過ぎる。モル比MgO/(MgO+Al)の好適な上限範囲は0.95以下、0.9以下、0.85以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、特に0.5以下である。なお、「MgO+Al」は、MgOとAlの合量である。
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜6%である。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下したり、劣化係数Dが大きくなる傾向がある。よって、CaOの好適な含有量は0〜5%、0〜4%、0〜3.5%、0〜3%、0〜2%、特に0〜1%である。
MgO含有量を上記の範囲に規制した上で、モル比MgO/(MgO+CaO)を0.5以上、0.55以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、特に0.9以上に規制することが好ましい。モル比MgO/(MgO+CaO)が小さくなると、劣化係数Dが大きくなる傾向があると共に、イオン交換性能が低下する傾向がある。なお、MgO含有量が上記の範囲外になると、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなることに加えて、モル比MgO/(MgO+CaO)を規制することによる効果を享受し難くなる。なお、「MgO+CaO」は、MgOとCaOの合量である。
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。SrOの含有量は0〜6%である。SrOの含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなることに加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。SrOの好適な含有量は0〜4.5%、0〜3%、0〜2%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
本実施形態の強化ガラスは、環境的配慮から、ガラス組成として、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。BaOの含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなること加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。BaOの好適な含有量は0〜6%、0〜3%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
SrO+BaOの含有量を規制すれば、イオン交換性能を顕著に高めることができる。SrO+BaOの好適な含有量は0〜6%、0〜3%、0〜2.5%、0〜2%、0〜1%、特に0〜0.2%である。なお、「SrO+BaO」は、SrOとBaOの合量である。
モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOの好適な範囲は0〜1、0〜0.9、0〜0.8、0〜0.75、特に0〜0.5である。モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが大きくなると、耐失透性が低下したり、イオン交換性能が低下したり、劣化係数Dが大きくなったり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、「CaO+SrO+BaO」は、CaO、SrO、及びBaOの合量である。
MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は0.5〜10%、0.5〜8%、0.5〜7%、0.5〜6%、特に0.5〜4%が好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、溶融性や成形性を高め難くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下し易くなることに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。なお、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO、及びBaOの合量である。
質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)は0.5以下、0.3以下、特に0.2以下が好ましい。質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)が大きくなると、耐失透性が低下する傾向が現れる。
TiOは、イオン交換性能を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。よって、TiOの含有量は0〜3%、0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%が好ましい。
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrOの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、3%以下、特に1%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ZrOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%が好ましい。
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下し易くなる。よって、Pの含有量は0〜10%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
清澄剤として、CeO、SnO、Cl、SOの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0〜3%添加してもよい。SnO+SO+Clの含有量は0〜1%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、特に0.03〜0.2%が好ましい。なお、「SnO+SO+Cl」は、SnO、Cl、及びSOの合量である。
SnOは、清澄効果に加えて、イオン交換性能を高める効果も有する。このため、SnOを添加すると、清澄効果とイオン交換性能を高める効果を同時に享受することができる。SnOの含有量は0〜3%、0.01〜3%、0.01〜3%、特に0.1〜1%が好ましい。一方、SnOを添加すると、ガラスが着色する場合があるため、ガラスの着色を抑制しつつ、清澄効果を得る必要がある場合は、SOを添加することが好ましい。SOの含有量は0〜3%、特に0.001〜3%が好ましい。なお、SnOとSOを共存させると、イオン交換性能を高めつつ、着色を抑えることが可能になる。
Feの含有量は1000ppm未満(0.1%未満)、800ppm未満、600ppm未満、400ppm未満、特に300ppm未満が好ましい。更にFeの含有量を上記範囲に規制した上で、モル比Fe/(Fe+SnO)を0.8以上、0.9以上、特に0.95以上に規制することが好ましい。このようにすれば、板厚1mmにおけるガラスの透過率(400nm〜770nm)が向上し易くなる(例えば90%以上)。
NbやLa等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
ガラスを強く着色させるような遷移金属元素(Co、Ni等)は、ガラスの透過率を低下させる虞がある。特に、タッチパネルディスプレイに用いる場合、遷移金属元素の含有量が多過ぎると、タッチパネルディスプレイの視認性が低下し易くなる。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下になるように、ガラス原料(カレットを含む)を選択することが好ましい。
本実施形態の強化ガラスは、環境的配慮から、実質的にBiを含有しないことが好ましい。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が0.05モル%未満であることを指す。
本実施形態の強化ガラスにおいて、各成分の好適な含有範囲を適宜選択し、好適なガラス組成範囲とすることが可能である。その中でも、特に好適なガラス組成範囲は以下の通りである。
(1)ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜17%、KO 2〜7%、MgO 1.5〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、TiO 0〜0.5%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5〜1、
(2)ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜17%、KO 2〜7%、MgO 1.5〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、TiO 0〜0.5%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.2〜0.85、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.85、
(3)ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜69%、Al 4〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 11〜16%、KO 2〜7%、MgO 3〜9%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、ZrO 1〜9%、TiO 0〜0.1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5〜1、
(4)ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜69%、Al 4〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 11〜16%、KO 2〜7%、MgO 3〜9%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、ZrO 1〜9%、TiO 0〜0.1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.25〜0.8、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.75、
(5)ガラス組成として、モル%で、SiO 58〜67%、Al 4〜11%、B 0〜0.5%、LiO 0〜0.5%、NaO 11〜16%、KO 2〜6%、MgO 3〜6.5%、CaO 0〜3%、SrO 0〜0.5%、ZrO 2〜6%、TiO 0〜0.1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.25〜0.8、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.75、
(6)ガラス組成として、モル%で、SiO 58〜67%、Al 7〜11%、B 0〜0.5%、LiO 0〜0.5%、NaO 11〜16%、KO 2〜6%、MgO 3〜6.5%、CaO 0〜3%、SrO 0〜0.5%、ZrO 2〜6%、TiO 0〜0.1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.25〜0.8、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.75。
更に、密度を低下させた上で、高いイオン交換性能を得たい場合は、以下のガラス組成範囲が好ましい。
(7)ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 10〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜2%、NaO 12〜20%、KO 0.5〜9%、MgO 3〜12%、CaO 0〜6%、SrO 0〜6%を含有、
(8)ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜75%、Al 10〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜2%、NaO 13〜20%、KO 1〜8%、MgO 6〜12%、CaO 0〜6%、SrO 0〜6%、ZrO 0〜1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.1〜0.9、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.75、
(9)ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜75%、Al 10〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜2%、NaO 13〜20%、KO 1〜8%、MgO 6〜12%、CaO 0〜6%、SrO 0〜6%、ZrO 0〜1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.7〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.25〜0.6、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.5、
(10)ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜75%、Al 10〜13%、B 0〜1%、LiO 0〜2%、NaO 13〜20%、KO 1〜8%、MgO 6〜12%、CaO 0〜6%、SrO 0〜6%、ZrO 0〜1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.7〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.25〜0.6、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.5、
(11)ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜70%、Al 10〜13%、B 0〜0.1%、LiO 0〜0.2%、NaO 13〜20%、KO 1〜8%、MgO 6〜12%、CaO 0〜6%、SrO 0〜6%、ZrO 0〜1%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.7〜1、モル比MgO/(MgO+Al)が0.25〜0.6、モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが0〜0.5。
本実施形態の強化ガラスは、例えば、下記の特性を有することが好ましい。
本実施形態の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、特に900MPa以上である。圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生して、かえって強化ガラスの機械的強度が低下する虞がある。また、強化ガラスに内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は2000MPa以下が好ましい。なお、ガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgO、ZnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
圧縮応力層の厚みは、好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、特に40μm以上である。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷が付いても、強化ガラスが割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスを切断し難くなる。このため、圧縮応力層の厚みは500μm以下が好ましい。なお、ガラス組成中のKO、Pの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。
本実施形態の強化ガラスにおいて、密度は2.6g/cm以下、2.55g/cm以下、2.50g/cm以下、特に2.48g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は80〜120×10−7/℃、85〜110×10−7/℃、90〜110×10−7/℃、特に90〜105×10−7/℃が好ましい。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、歪点は500℃以上、520℃以上、530℃以上、特に540℃以上が好ましい。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラスを熱処理する場合、圧縮応力層が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換処理の際に応力緩和が生じ難くなるため、圧縮応力値を維持し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物の含有量を低減すれば、歪点が高くなり易い。
本実施形態の強化ガラスにおいて、104.0dPa・sにおける温度は1250℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1180℃以下、特に1160℃以下が好ましい。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度は1600℃以下、1550℃以下、1530℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。すなわち、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、液相温度は1075℃以下、1050℃以下、1030℃以下、1010℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に870℃以下が好ましい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、液相粘度は104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.3dPa・s以上、105.5dPa・s以上、105.7dPa・s以上、105.8dPa・s以上、特に106.0dPa・s以上が好ましい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
本実施形態の強化ガラスにおいて、ヤング率は65GPa以上、69GPa以上、71GPa以上、75GPa以上、特に77GPa以上が好ましい。ヤング率が高い程、強化ガラスが撓み難くなり、タッチパネルディスプレイ等に用いる際、ペン等で強化ガラスの表面を強く押しても、強化ガラスの変形量が小さくなり、結果として、背面に位置する液晶素子に接触して、表示不良が生じる事態を防止し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、劣化係数Dは0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。劣化係数Dが小さい程、経年劣化したKNO溶融塩内でイオン交換処理した場合でも、得られる圧縮応力値が低下し難くなるため、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。
本発明の実施形態に係る強化ガラス板は、上記の実施形態の強化ガラスからなることを特徴とする。よって、本実施形態の強化ガラス板の技術的特徴及び好適な範囲は、本実施形態の強化ガラスの技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本実施形態の強化ガラス板において、相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは、好ましくは50MPa以下、30MPa以下、20MPa以下、10MPa以下、特に5MPa以下である。ΔCSが大きくなると、大型のガラス板のイオン交換処理後に、強化ガラス板に反りが発生し易くなる。ΔCSを上記範囲にするために、ガラス板の相対する表面を0.2μm以上、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上、1μm以上、3μm以上、特に5μm以上研磨することが好ましい。
本実施形態の強化ガラス板において、表面の平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは10Å以下、8Å以下、6Å以下、4Å以下、3Å以下、特に2Å以下である。平均表面粗さ(Ra)が大きい程、強化ガラス板の機械的強度が低下する傾向がある。ここで、平均表面粗さ(Ra)は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値を指す。
本実施形態の強化ガラス板において、長さは500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましく、幅は500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましい。強化ガラス板を大型化すると、大型TV等の表示部のカバーガラスとして好適に使用可能になる。
本実施形態の強化ガラス板において、板厚は3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に.7mm以下が好ましい。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、特に0.5mm以上が好ましい。
本発明の実施形態に係る強化用ガラスは、イオン交換処理に供される強化用ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜4%、NaO 7〜20%、KO 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする。本実施形態の強化用ガラスの技術的特徴は、上記の本実施形態の強化ガラス、強化ガラス板の技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本実施形態の強化用ガラスは、430℃のKNO溶融塩中でイオン交換処理した場合、表面の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上になることが好ましく、また表面の圧縮応力が600MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが50μm以上になることが好ましく、さらに表面の圧縮応力が700MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが50μm以上になることが好ましい。
イオン交換処理の際、KNO溶融塩の温度は360〜550℃が好ましく、イオン交換時間は2〜10時間、特に4〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。なお、本実施形態の強化用ガラスは、上記のガラス組成を有するため、KNO溶融塩とNaNO溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みを大きくすることが可能になる。また劣化したKNO溶融塩を用いた場合であっても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが極端に低下することがない。
本実施形態の強化用ガラス板において、ガラス板の全平面部位に対する平面方向の残留応力の最大値Fmaxは、5MPa以下、3MPa以下、1MPa以下、0.5MPa以下、特に0.1MPa以下が好ましい。残留応力の最大値Fmaxが大きいと、大型のガラス板を強化処理した際に、強化ガラス板の反りが大きくなる場合がある。
本実施形態の強化用ガラス板は、表面にSiO、TiO、ネサ、ITO、AR等の膜を成膜してなることが好ましい。このようにすれば、研磨処理しなくても、強化ガラス板の反りを低減することができる。成膜の方法として、CVD、スパッタ、スピンコート等が挙げられる。スパッタで成膜する場合、膜厚は1nm以上、5nm以上、10nm以上、30nm以上、特に50nm以上が好ましい。一方、膜厚が厚過ぎると、膜面における圧縮応力層の圧縮応力値が低下し過ぎる虞がある。よって、膜厚の好適な上限範囲は1000nm以下、800nm以下、500nm以下、特に300nm以下である。なお、強化処理後に、反りが発生し易い部分に成膜することが好ましい。なお、本実施形態の強化ガラス板は、強化処理前に、表面にSiO、TiO、ネサ、ITO、AR等の膜を成膜してなることが好ましい。
以下のようにして、本実施形態の強化用ガラス、強化ガラス、及び強化ガラス板を作製することができる。
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で板状等に成形し、徐冷することにより、板状等のガラスを作製することができる。
板状に成形する方法として、フロート法を採用することが好ましい。フロート法は、安価で大量にガラス板を作製し得る方法であり、大型のガラス板も容易に作製し得る方法である。
フロート法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、オーバーフローダウンドロー法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
次に、得られたガラスを強化処理することにより、強化ガラスを作製することができる。強化ガラスを所定寸法に切断する時期は、強化処理の前でもよいが、強化処理の後に行う方がコスト面から有利である。
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、厚み、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、400〜550℃のKNO溶融塩中に、ガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することが可能になる。
以下、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
表1〜5は、本発明の実施例(試料No.1〜24)を示している。なお、表中の「未」は、未測定を意味している。
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
表1〜5から明らかなように、試料No.1〜24は、密度が2.54g/cm以下、熱膨張係数が87〜107×10−7/℃であり、強化ガラスの素材、つまり強化用ガラスとして好適であった。また液相粘度が104.5dPa・s以上であるため、フロート法で板状に成形可能であり、しかも102.5dPa・sにおける温度が1622℃以下であるため、生産性が高く、安価に大量のガラス板を作製し得るものと考えられる。なお、強化処理の前後で、ガラスの表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、ガラス組成が実質的に相違しない。
次に、各試料の両表面に光学研磨を施した後、440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。算出に当たり、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
以下のようにして、劣化係数Dを算出した。まずSiO 58.7質量%、Al 12.8質量%、LiO 0.1質量%、NaO 14.0質量%、KO 6.3質量%、MgO 2.0質量%、CaO 2.0質量%、ZrO 4.1質量%のガラス組成を有するガラスを作製した。次に、このガラスを粉砕し、篩目開き300μmを通過し、篩目開き150μmを通過しないガラス粉末を採取し、平均粒子径225μmのガラス粉末を得た。続いて、440℃に保持したKNO 400ml中に上記のガラス粉末を60時間浸漬(24時間毎に籠を上下に10回振盪)して、劣化したKNO溶融塩を擬似的に再現した。なお、この条件で作製した劣化KNO溶融塩に含まれるNaOは1000ppm(モル)以上であった。
この条件で作製した劣化KNO溶融塩中に、各試料を440℃で6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。その後、上記の方法と同様にして、表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを求めた。このようにして得られた圧縮応力値(新品KNO溶融塩、劣化KNO溶融塩)から、劣化係数D=(圧縮応力値(新品KNO溶融塩)−圧縮応力値(劣化KNO溶融塩))/圧縮応力値(新品KNO溶融塩)を算出した。
表1〜5から明らかなように、試料No.1〜24について、新品KNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、その表面の圧縮応力層の圧縮応力値は730MPa以上、厚みは43μm以上であった。また、劣化KNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、その表面の圧縮応力層の圧縮応力値は625MPa以上、厚みは43μm以上であり、劣化係数Dは0.22以下であった。
試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、ガラス板を成形した。次に、得られたガラス板を440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。続いて、ガラス板について、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。また、ガラス板の両表面を0.2μm研磨した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。更に、ガラス板の両表面を10μm研磨した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。算出に当たり、ガラス板の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。その結果、未研磨の場合、表面(おもて面)と裏面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは40MPaであり、両表面を0.2μm研磨した場合、表面(おもて面)と裏面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは20MPaであり、両表面を10μm研磨した場合、表面(おもて面)と裏面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは認められなかった。
次に、試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、板厚1mmのガラス板を成形した。その際、スズ浴槽入り口付近の温度が1200℃、出口付近の温度が700℃程度となるように、温度設定を行った。続いて、スズ浴槽を出たガラス板を徐冷炉内を通過させた。徐冷炉入り口付近の温度が約700℃、出口付近の温度が100℃程度となるように温度設定を行い、板幅方向の温度分布が±2%以下、徐冷炉内のガラス板の表裏面の温度差が±1%以下となるように、温度制御しながら徐冷を行った。得られたガラス板から1m×1mのガラス板を切り出し、同ガラス板について、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR−10Aを用い、10cmピッチの格子状交点位置、更に4辺の外周部付近における残留応力値を測定した。そのデータを図1に示す。その結果、ガラス板の平面方向の残留応力の最大値Fmaxは0.25MPaであった。更に、440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に、このガラス板を6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行ったところ、強化ガラス板の反り量は0.1%であった。この結果から、平面方向の残留応力の分布を規制すれば、研磨処理しなくても、強化ガラス板の反り量を低減し得ることが分かる。なお、強化ガラス板の反り量は、レーザー干渉計を用いて、長辺寸法当たりの真直度を測定した値である。
また、試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、板厚1mmのガラス板を成形した。その際、スズ浴槽入り口付近の温度が1200℃、出口付近の温度が700℃程度となるように、温度設定を行った。続いて、スズ浴槽を出たガラス板を徐冷炉内を通過させた。徐冷炉入り口付近の温度が約700℃、出口付近の温度が100℃程度となるように温度設定を行い、板幅方向の温度分布が±2%以下、徐冷炉内のガラス板の表裏面の温度差が±1%以下となるように、温度制御しながら徐冷を行った。なお、[実施例3]と[実施例4]は徐冷速度が相違している。得られたガラス板から1m×1mのガラス板を切り出し、同ガラス板について、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR−10Aを用い、10cmピッチの格子状交点位置、更に4辺の外周部付近における残留応力値を測定した。そのデータを図2に示す。その結果、ガラス板の平面方向の残留応力の最大値Fmaxは0.80MPaであった。更に、440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に、このガラス板を6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行ったところ、強化ガラス板の反り量は0.1%であった。この結果から、平面方向の残留応力の分布を規制すれば、研磨処理しなくても、強化ガラス板の反り量を低減し得ることが分かる。なお、強化ガラス板の反り量は、レーザー干渉計を用いて、長辺寸法当たりの真直度を測定した値である。
ここで、スズ浴槽を出たガラスがその後のローラー搬送で傷が付かないように、スズ浴槽の出口付近において、上下からSOガスを吹き付けることが好ましい。SOガスはガラスに付着すると、ガラス中のNaを溶出させる効果がある。一方、ガラスの上下面に組成的な不均衡が生じると、反りの原因となり得る。このため、SOガスが、ガラスの上下で一定になり、且つ、上下それぞれの幅方向においても一定となるようにすることが好ましい。そこで、ガラスの上下それぞれにおいて、幅方向に延びるスリット状のガス噴出口を設けるとともに、そのガス噴出口のすぐ後方に、幅方向に延びるスリット状のガス排気口を設け、SOガスを供給することが好ましい。SOガスの流速は、例えば、1リットル/minに設定する。
次に、試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、板厚1mmのガラス板を成形した。その際、スズ浴槽入り口付近の温度が1200℃、出口付近の温度が700℃程度となるように、温度設定を行った。続いて、スズ浴槽を出たガラス板を徐冷炉内を通過させた。徐冷炉入り口付近の温度が約700℃、出口付近の温度が100℃程度となるように温度設定を行い、板幅方向の温度分布を±2%以下に温度制御すると共に、徐冷炉内でのガラス板の表裏面の温度差(±2%超±10%以下)が大きくなるように、温度制御しながら徐冷を行った。得られたガラス板を440℃のKNO(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬すると、強化ガラス板がトップ面方向(スズ浴槽に接触していない方向)に1%程度凸に反る。その際、トップ面側の圧縮応力層の圧縮応力値は、ボトム面(スズ浴槽接触面)側よりも15MPa高かった。なお、圧縮応力層の厚みは、トップ面とボトム面で同等であった。そこで、得られたガラス板について、スパッタ法によりトップ面側に膜厚100nmのSiO膜を成膜した後、440℃のKNO(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬したところ、トップ面とボトム面の圧縮応力値の差は約1MPa以下となり、反り量も0.1%まで低減した。
本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、或いはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明の強化ガラス及び強化ガラス板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。
本発明は、強化ガラス及び強化ガラス板に関し、特に、携帯電話、デジタルカメラ、PDA(携帯端末)、太陽電池のカバーガラス、或いはディスプレイ、特にタッチパネルディスプレイのガラス基板に好適な強化ガラス及び強化ガラス板に関する。
携帯電話、デジタルカメラ、PDA、タッチパネルディスプレイ、大型テレビ、非接触給電灯のデバイスは、益々普及する傾向にある。
これらの用途には、イオン交換処理等で強化処理した強化ガラスが用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)。
特に、近年では大型テレビのディスプレイの保護部材として、強化ガラスが用いられている。これらの保護部材には、(1)高い機械的強度を有すること、(2)大型のガラス板を大量に成形するために、オーバーフローダウンドロー法、スロットダウンドロー法等のダウンドロー法、フロート法等に適した液相粘度を有すること、(3)成形に適した高温粘度を有すること、(4)強化処理を安価、且つ効率的に行えること等の特性が求められる。
特開2006−83045号公報
泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p.451−498
強化ガラスの機械的強度を高めるためには、圧縮応力層の圧縮応力値を高める必要がある。圧縮応力値を高める成分として、Al等の成分が知られている。しかし、Alの含有量が多過ぎると、耐失透性が低下して、オーバーフローダウンドロー法、スリットダウンドロー法等のダウンドロー法、フロート法等に適した液相粘度を得難くなることに加えて、高温粘性が上昇して、フロート法等に適した成形温度を得難くなる。
また、KNO溶融塩を用いると、大型のガラス板を継続的、且つ大量にイオン交換処理することができる。しかし、KNO溶融塩を用いると、経時的にKNO溶融塩が劣化して、KNO溶融塩を頻繁に交換しなければならないという問題がある。KNO溶融塩のバス交換は、時間と費用がかかるため、イオン交換処理の効率が低下して、強化ガラスの製造コストが高騰し易くなる。
更に、大型のガラス板を強化処理する場合、ガラス板の表裏面(相対する表面)の特性差によって、強化ガラス板に反りが発生するという問題があった。また、この場合、強化処理の際に、平面方向の残留応力により、一時的にガラス板が反り、これが原因で強化ガラス板に反りが発生するという問題があった。近年、強化ガラス板に対して薄型化の要求があるが、このような場合、上記問題は特に顕著になる。
そこで、本発明の技術的課題は、大型のガラス板を強化処理しても、反りが発生し難い強化ガラス及び強化ガラス板を創案することである。
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ガラス組成を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化ガラスは、強化処理に供される強化用ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、Li O+Na O+K O 10〜25%、Na O 7〜20%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%を含有し、板厚が1.5mm以下であり、強化用ガラス板の全平面部位に対する平面方向の残留応力の最大値Fmaxが5MPa以下であることを特徴とする。ここで、「Fmax」は、500mm×500mm以上の寸法を有するガラス板(特に1m×1mの寸法)において、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR−10Aを用いて、10cmピッチの格子状交点位置及び4辺の外周部付近の複屈折(単位:nm)を計測し、平面方向の残留応力に換算した場合の最大値である。また、光学的な複屈折の測定、すなわち直交する直線偏光波の光路差の測定により、ガラス板中の残留応力値を見積ることが可能であり、残留応力により発生する偏差応力F(MPa)は、F=R/CLの式で表記される。なお、「R」は光路差(nm)であり、「L」は偏光波が通過した距離(cm)であり、「C」は光弾性定数(比例定数)であり、通常、20〜40(nm/cm)/(MPa)の値になる。なお、平面方向の残留応力には、引っ張り応力と圧縮応力が存在するが、上記では、両者の絶対値を評価するものとする。「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が0.05モル%未満であることを指す。
本発明者等は、種々の検討を行った結果、以下の知見を得るに至った。AlとMgOの含有量(又は含有比)を同時に規制すると、イオン交換性能と耐失透性を高めることができる。Alとアルカリ金属酸化物の含有量(又は含有比)を同時に規制すると、耐失透性を高めることができる。
更に、ガラス組成を上記範囲に規制すると、劣化したKNO溶融塩を用いた場合であっても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが極端に低下しないため、KNO溶融塩の交換頻度を低下させることが可能になる。
発明に係る強化ガラスは、圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚み(深さ)が10μm以上であることが好ましい。ここで、「圧縮応力層の圧縮応力値」および「圧縮応力層の厚み」は、表面応力計(例えば、株式会社東芝製FSM−6000)を用いて、試料を観察した際に、観察される干渉縞の本数とその間隔から算出される値を指す。
発明に係る強化ガラスは、劣化係数Dが0.01〜0.6であることが好ましい。ここで、劣化係数Dは、(圧縮応力値(新品KNO溶融塩)−圧縮応力値(劣化KNO溶融塩))/圧縮応力値(新品KNO溶融塩)の式で算出した値を指す。ここで、「劣化KNO溶融塩」は、NaOを約1500ppm、LiOを約20ppm含むKNO溶融塩を指し、例えば、以下の方法で作製可能である。SiO 58.7質量%、Al 12.8質量%、LiO 0.1質量%、NaO 14.0質量%、KO 6.3質量%、MgO 2.0質量%、CaO 2.0質量%、ZrO 4.1質量%のガラス組成を有するガラスを粉砕し、篩目開き300μmを通過し、篩目開き150μmを通過しないガラス粉末を採取し、平均粒子径225μmのガラス粉末を得る。次に、このガラス粉末95gを篩目開き100μmの金属メッシュで作製した籠の中に入れる。続いて、440℃に保持したKNO 400ml中に上記のガラス粉末を60時間浸漬(24時間毎に籠を上下に10回振盪)する。一方、「新品KNO溶融塩」は、過去にイオン交換処理に供されていないKNO溶融塩を指し、NaOの含有量が200ppm以下、LiO含有量が3ppm以下のKNO溶融塩を指す。
発明に係る強化ガラスは、液相温度が1075℃以下であることが好ましい。ここで、「液相温度」とは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れて、温度勾配炉中に24時間保持した後、結晶が析出する温度を指す。
発明に係る強化ガラスは、液相粘度が104.0dPa・s以上であることが好ましい。ここで、「液相粘度」は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
発明に係る強化ガラスは、104.0dPa・sにおける温度が1250℃以下であることが好ましい。ここで、「104.0dPa・sにおける温度」は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
発明に係る強化ガラスは、密度が2.6g/cm以下であることが好ましい。ここで、「密度」とは、周知のアルキメデス法で測定可能である。
発明に係る強化ガラスは、ヤング率が65GPa以上であることが好ましい。ここで、「ヤング率」は、周知の共振法等で測定可能である。
発明に係る強化ガラス板は、上記のいずれかに記載の強化ガラスからなることが好ましい
発明に係る強化ガラス板は、フロート法で成形されてなることが好ましい。
発明に係る強化ガラス板は、厚み方向に0.5μm以上研磨されてなる表面を有することが好ましい。
発明に係る強化ガラス板は、相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSが50MPa以下であることが好ましい。フロート法でガラス板を成形する場合、溶融錫に接触した面と接触していない面では、同様にイオン交換処理を行ったとしても、形成される圧縮応力層の圧縮応力値に差が生じて、特に大型、且つ薄い強化ガラス板の場合に反りが発生し易くなる。そこで、ΔCSを上記範囲とすれば、このような不具合を防止し易くなる。
発明に係る強化ガラス板は、表面に圧縮応力を有する強化ガラス板であって、長さが500mm以上、幅が500mm以上、厚みが0.5〜1.5mm、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が200MPa以上、圧縮応力層の厚みが20μm以上、劣化係数Dが0.6以下、相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSが50MPa以下であることが好ましい
発明に係る強化ガラス板は、タッチパネルディスプレイに用いることが好ましい。
発明に係る強化ガラス板は、携帯電話のカバーガラスに用いることが好ましい。
発明に係る強化ガラス板は、太陽電池のカバーガラスに用いることが好ましい。
発明に係る強化ガラス板は、ディスプレイの保護部材に用いることが好ましい。
発明に係る強化ガラス板は、表面に圧縮応力を有する強化ガラス板であって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜17%、KO 2〜7%、MgO 1.5〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、TiO 0〜0.5%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5以上、長さが500mm以上、幅が500mm以上、厚みが0.5〜1.5mm、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が400MPa以上、圧縮応力層の厚みが30μm以上、劣化係数Dが0.4以下であることが好ましい
本発明に係る強化ガラスは、イオン交換性能が高いため、短時間のイオン交換処理であっても、圧縮応力層の圧縮応力値が高まり、且つ圧縮応力値が深くまで形成される。このため、機械的強度が高くなり、また機械的強度のばらつきが小さくなる。
また、本発明に係る強化ガラスは、耐失透性に優れるため、オーバーフローダウンドロー法、フロート法等で効率良く成形することが可能である。なお、オーバーフローダウンドロー法、フロート法等であれば、大型、且つ薄いガラス板を大量に成形することができる。
更に、本発明に係る強化ガラスは、劣化係数Dが小さいため、長期に亘ってイオン交換処理しても、形成される圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが低下し難いため、KNO溶融塩の交換頻度を低下させることが可能である。
[実施例3]に係る強化用ガラス板の平面方向の残留応力を示すデータである。 [実施例4]に係る強化用ガラス板の平面方向の残留応力を示すデータである。
表面に圧縮応力層を形成する方法としては、物理強化法と化学強化法がある。本実施形態の強化ガラスは、化学強化法で作製されてなることが好ましい。
化学強化法は、ガラスの歪点以下の温度でイオン交換処理によりガラスの表面にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入する方法である。化学強化法で圧縮応力層を形成すれば、ガラスの厚みが薄い場合でも、圧縮応力層を適正に形成できると共に、圧縮応力層を形成した後に、強化ガラスを切断しても、風冷強化法等の物理強化法のように、強化ガラスが容易に破壊しない。
本実施形態の強化ガラス(強化用ガラス)において、上記のように各成分の含有範囲を限定した理由を下記に示す。なお、以下では、特に断りのない限り、各成分の含有範囲の説明において、%表示はモル%を指すものとする。
SiOは、ガラスのネットワークを形成する成分である。SiOの含有量は50〜75%であり、好ましくは55〜75%、55〜72%、55〜69%、特に58〜67%である。SiOの含有量が少な過ぎると、ガラス化し難くなる。また熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下し易くなる。更には劣化係数Dが大きくなり易い。一方、SiOの含有量が多過ぎると、溶融性や成形性が低下し易くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。
Alは、イオン交換性能を高める成分であると共に、劣化係数Dを低減する効果が最も高い成分である。また歪点やヤング率を高める成分である。Alの含有量は3〜13%である。Alの含有量が少な過ぎると、劣化係数Dが大きくなる傾向があり、またイオン交換性能を十分に発揮できない虞が生じる。よって、Alの好適な下限範囲は4%以上、4.5%以上、5%以上、5.5%以上、6%以上、7%以上、8.5%以上、10%以上、特に10.5%以上である。一方、Alの含有量が多過ぎると、ガラスに失透結晶が析出し易くなって、フロート法やオーバーフローダウンドロー法等でガラス板を成形し難くなる。また熱膨張係数が低くなり過ぎて、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更には高温粘性が高くなり、溶融性が低下し易くなる。よって、Alの好適な上限範囲は12.5%以下、特に12%以下である。
は、高温粘度や密度を低下させると共に、ガラスを安定化させて結晶を析出させ難くし、また液相温度を低下させる成分である。しかし、Bの含有量が多過ぎると、イオン交換によって、ヤケと呼ばれるガラス表面の着色が発生したり、耐水性が低下したり、圧縮応力層の厚みが小さくなり易い。よって、Bの含有量は、好ましくは0〜1.50〜1.3%、0〜1.1%、0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
LiOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分であると共に、ヤング率を高める成分である。更にLiOは、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力値を高める効果が大きいが、NaOを7%以上含むガラス系において、LiOの含有量が極端に多くなると、かえって圧縮応力値が低下する傾向がある。また、LiOの含有量が多過ぎると、液相粘度が低下して、ガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。更に、低温粘性が低下し過ぎて、応力緩和が起こり易くなり、かえって圧縮応力値が低下する場合がある。また劣化係数Dが大きくなる傾向がある。よって、LiOの含有量は、好ましくは0〜4%0〜2.5%、0〜2%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.3%である。
NaOは、イオン交換成分であり、また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。また、NaOは、耐失透性を改善する成分でもある。NaOの含有量が少な過ぎると、溶融性が低下したり、熱膨張係数が低下したり、イオン交換性能が低下し易くなる。よって、NaOの含有量は7%以上であり、好適な下限範囲は8%以上、9%以上、10%以上、11%以上、12%以上、特に13%以上である。一方、NaOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する場合がある。更に劣化係数Dが大きくなる傾向がある。よって、NaOの含有量は20%以下であり、好適な上限範囲は19%以下、17%以下、特に16%以下である。
Oは、イオン交換を促進する成分であり、アルカリ金属酸化物の中では圧縮応力層の厚みを大きくし易い成分である。また高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高める成分である。更には、耐失透性を改善する成分でもある。よって、KOの含有量は、好ましくは0.5%以上1%以上、1.5%以上、特に2%以上である。しかし、KOの含有量が多過ぎると、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎたり、ガラス組成の成分バランスを欠き、かえって耐失透性が低下する傾向がある。よって、KOの含有量は、好ましくは10%以下9%以下、8%以下、7%以下、特に6%以下である。
LiO+NaO+KOの好適な含有量は10〜25%、13〜22%、15〜20%、16〜20%、16.5〜20%、特に18〜20%である。LiO+NaO+KOの含有量が少な過ぎると、イオン交換性能や溶融性が低下し易くなる。一方、LiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、劣化係数Dが大きくなり過ぎる。またガラスが失透し易くなることに加えて、熱膨張係数が高くなり過ぎて、耐熱衝撃性が低下したり、周辺材料の熱膨張係数に整合させ難くなる。また歪点が低下し過ぎて、高い圧縮応力値が得られ難くなる場合がある。更に液相温度付近の粘性が低下して、高い液相粘度を確保し難くなる場合がある。なお、「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO、及びKOの合量である。
本実施形態に係るガラス組成系において、LiO+NaO+KOの含有量が劣化係数Dに影響を与える要因を説明する。本実施形態では、主にNaイオンとKイオンのイオン交換により、ガラス表面に圧縮応力層が形成される。LiO+NaO+KOの含有量が少なくなると、イオン交換される成分の含有量が少なくなるため、圧縮応力値が小さくなるが、逆にLiO+NaO+KOの含有量が多過ぎると、NaイオンとKイオンのイオン交換(圧縮応力層の形成)が促進されると同時に、KNO中に含まれるLiイオンとNaイオンのイオン交換が、NaイオンとKイオンのイオン交換よりも優先して生じ易くなる。LiイオンとNaイオンのイオン交換が生じると、引っ張り応力が形成されるため、圧縮応力値が低下するものと考えられる。
モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な範囲は1〜3である。モル比(LiO+NaO+KO)/Alが大き過ぎると、歪点が低下して、かえってイオン交換性能が低下し易くなったり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。また劣化係数Dが大きくなる虞がある。しかし、モル比(LiO+NaO+KO)/Alが小さ過ぎると、ガラスの粘性が高くなり過ぎて、泡品位が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなる。モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な下限範囲は1以上、1.2以上、1.4以上、1.5以上、1.7以上、特に1.8以上であり、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な上限範囲は3以下、2.8以下、2.6以下、2.5以下、特に2.3以下である。また劣化係数Dを重視する場合、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な下限範囲は1以上、特に1.2以上であり、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な上限範囲は3以下、2.5以下、2以下、1.8以下、1.5以下、特に1.4以下である。また、モル比(LiO+NaO+KO)/Alの好適な範囲は1〜3、1.2〜3、特に1.2〜2.5である。モル比(LiO+NaO+KO)/Al、モル比NaO/Alを上記範囲に規制すると、耐失透性や劣化係数Dを顕著に改善することができる。
モル比KO/NaOの好適な範囲は0.1〜0.8、0.2〜0.8、0.2〜0.5、特に0.2〜0.4である。モル比KO/NaOが小さくなると、圧縮応力層の厚みが小さくなり易く、モル比KO/NaOが大きくなると、圧縮応力値が低下したり、ガラス組成の成分バランスを欠いて、ガラスが失透し易くなる。
MgOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分であり、アルカリ土類金属酸化物の中では、イオン交換性能を高める効果が大きい成分である。よって、MgOの含有量は0.5%以上であり、好適な下限範囲は1%以上、1.5以上、2%以上、3%以上、5%以上、特に6%以上である。しかし、MgOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラスが失透し易くなる傾向がある。よって、MgOの含有量は13%以下であり、好適な上限範囲は12%以下、11%以下、9%以下、8%以下、7%以下、特に6.5%以下である。
モル比MgO/(MgO+Al)が小さくなると、イオン交換性能やヤング率が低下し易くなる。また劣化係数Dが大きくなる傾向にある。モル比MgO/(MgO+Al)の好適な下限範囲は0.05以上、0.1以上、0.15以上、0.2以上、0.25以上、特に0.3以上である。一方、モル比MgO/(MgO+Al)が大きくなると、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、熱膨張係数が高くなり過ぎる。モル比MgO/(MgO+Al)の好適な上限範囲は0.95以下、0.9以下、0.85以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、特に0.5以下である。なお、「MgO+Al」は、MgOとAlの合量である。
CaOは、他の成分と比較して、耐失透性の低下を伴うことなく、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める効果が大きい。CaOの含有量は0〜6%である。しかし、CaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなり、またガラス組成の成分バランスを欠いて、かえってガラスが失透し易くなったり、イオン交換性能が低下したり、劣化係数Dが大きくなる傾向がある。よって、CaOの好適な含有量は0〜5%、0〜4%、0〜3.5%、0〜3%、0〜2%、特に0〜1%である。
MgO含有量を上記の範囲に規制した上で、モル比MgO/(MgO+CaO)を0.5以上、0.55以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、特に0.9以上に規制することが好ましい。モル比MgO/(MgO+CaO)が小さくなると、劣化係数Dが大きくなる傾向があると共に、イオン交換性能が低下する傾向がある。なお、MgO含有量が上記の範囲外になると、ガラス組成の成分バランスを欠いて、耐失透性が低下し易くなることに加えて、モル比MgO/(MgO+CaO)を規制することによる効果を享受し難くなる。なお、「MgO+CaO」は、MgOとCaOの合量である。
SrOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。SrOの含有量は0〜6%が好ましい。SrOの含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなることに加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。SrOの好適な含有量は0〜4.5%、0〜3%、0〜2%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
本実施形態の強化ガラスは、環境的配慮から、ガラス組成として、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しない。
上記成分以外にも、例えば以下の成分を添加してもよい。
BaOは、高温粘度を低下させて、溶融性や成形性を高めたり、歪点やヤング率を高める成分である。BaOの含有量が多過ぎると、イオン交換反応が阻害され易くなること加えて、密度や熱膨張係数が高くなったり、ガラスが失透し易くなる。BaOの好適な含有量は0〜6%、0〜3%、0〜1.5%、0〜1%、0〜0.5%、特に0〜0.1%である。
SrO+BaOの含有量を規制すれば、イオン交換性能を顕著に高めることができる。SrO+BaOの好適な含有量は0〜6%、0〜3%、0〜2.5%、0〜2%、0〜1%、特に0〜0.2%である。なお、「SrO+BaO」は、SrOとBaOの合量である。
モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOの好適な範囲は0〜1、0〜0.9、0〜0.8、0〜0.75、特に0〜0.5である。モル比(CaO+SrO+BaO)/MgOが大きくなると、耐失透性が低下したり、イオン交換性能が低下したり、劣化係数Dが大きくなったり、密度や熱膨張係数が高くなり過ぎる。なお、「CaO+SrO+BaO」は、CaO、SrO、及びBaOの合量である。
MgO+CaO+SrO+BaOの含有量は0.5〜10%、0.5〜8%、0.5〜7%、0.5〜6%、特に0.5〜4%が好ましい。MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が少な過ぎると、溶融性や成形性を高め難くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaOの含有量が多過ぎると、密度や熱膨張係数が高くなったり、耐失透性が低下し易くなることに加えて、イオン交換性能が低下する傾向がある。なお、「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO、及びBaOの合量である。
質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)は0.5以下、0.3以下、特に0.2以下が好ましい。質量比(MgO+CaO+SrO+BaO)/(LiO+NaO+KO)が大きくなると、耐失透性が低下する傾向が現れる。
TiOは、イオン交換性能を高める成分であり、また高温粘度を低下させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが着色したり、失透し易くなる。よって、TiOの含有量は0〜3%、0〜1%、0〜0.8%、0〜0.5%、特に0〜0.1%が好ましい。
ZrOは、イオン交換性能を顕著に高める成分であると共に、液相粘度付近の粘性や歪点を高める成分であるが、その含有量が多過ぎると、耐失透性が著しく低下する虞があり、また密度が高くなり過ぎる虞がある。よって、ZrOの好適な上限範囲は10%以下、8%以下、6%以下、4%以下、3%以下、特に1%以下である。なお、イオン交換性能を高めたい場合、ZrOの好適な下限範囲は0.01%以上、0.1%以上、0.5%以上、1%以上、特に2%以上である。
ZnOは、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力値を高める効果が大きい成分である。また低温粘性を低下させずに、高温粘性を低下させる成分である。しかし、ZnOの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐失透性が低下したり、密度が高くなったり、圧縮応力層の厚みが小さくなる傾向がある。よって、ZnOの含有量は0〜6%、0〜5%、0〜3%、特に0〜1%が好ましい。
は、イオン交換性能を高める成分であり、特に圧縮応力層の厚みを大きくする成分である。しかし、Pの含有量が多過ぎると、ガラスが分相したり、耐水性が低下し易くなる。よって、Pの含有量は0〜10%、0〜3%、0〜1%、特に0〜0.5%が好ましい。
清澄剤として、CeO、SnO、Cl、SOの群(好ましくはSnO、Cl、SOの群)から選択された一種又は二種以上を0〜3%添加してもよい。SnO+SO+Clの含有量は0〜1%、0.001〜1%、0.01〜0.5%、特に0.03〜0.2%が好ましい。なお、「SnO+SO+Cl」は、SnO、Cl、及びSOの合量である。
SnOは、清澄効果に加えて、イオン交換性能を高める効果も有する。このため、SnOを添加すると、清澄効果とイオン交換性能を高める効果を同時に享受することができる。SnOの含有量は0〜3%、0.01〜3%、0.01〜3%、特に0.1〜1%が好ましい。一方、SnOを添加すると、ガラスが着色する場合があるため、ガラスの着色を抑制しつつ、清澄効果を得る必要がある場合は、SOを添加することが好ましい。SOの含有量は0〜3%、特に0.001〜3%が好ましい。なお、SnOとSOを共存させると、イオン交換性能を高めつつ、着色を抑えることが可能になる。
Feの含有量は1000ppm未満(0.1%未満)、800ppm未満、600ppm未満、400ppm未満、特に300ppm未満が好ましい。更にFeの含有量を上記範囲に規制した上で、モル比Fe/(Fe+SnO)を0.8以上、0.9以上、特に0.95以上に規制することが好ましい。このようにすれば、板厚1mmにおけるガラスの透過率(400nm〜770nm)が向上し易くなる(例えば90%以上)。
NbやLa等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分である。しかし、原料自体のコストが高く、また多量に添加すると、耐失透性が低下し易くなる。よって、希土類酸化物の含有量は3%以下、2%以下、1%以下、0.5%以下、特に0.1%以下が好ましい。
ガラスを強く着色させるような遷移金属元素(Co、Ni等)は、ガラスの透過率を低下させる虞がある。特に、タッチパネルディスプレイに用いる場合、遷移金属元素の含有量が多過ぎると、タッチパネルディスプレイの視認性が低下し易くなる。よって、遷移金属酸化物の含有量が0.5%以下、0.1%以下、特に0.05%以下になるように、ガラス原料(カレットを含む)を選択することが好ましい。
本実施形態の強化ガラスは、環境的配慮から、実質的にBiを含有しないことが好ましい。「実質的にBiを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にBiを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Biの含有量が0.05モル%未満であることを指す。
本実施形態の強化ガラスは、例えば、下記の特性を有することが好ましい。
本実施形態の強化ガラスは、表面に圧縮応力層を有している。圧縮応力層の圧縮応力値は、好ましくは300MPa以上、400MPa以上、500MPa以上、600MPa以上、特に900MPa以上である。圧縮応力値が大きい程、強化ガラスの機械的強度が高くなる。一方、表面に極端に大きな圧縮応力が形成されると、表面にマイクロクラックが発生して、かえって強化ガラスの機械的強度が低下する虞がある。また、強化ガラスに内在する引っ張り応力が極端に高くなる虞がある。このため、圧縮応力層の圧縮応力値は2000MPa以下が好ましい。なお、ガラス組成中のAl、TiO、ZrO、MgO、ZnOの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を短くしたり、イオン交換溶液の温度を下げれば、圧縮応力値が大きくなる傾向がある。
圧縮応力層の厚みは、好ましくは10μm以上、15μm以上、20μm以上、30μm以上、特に40μm以上である。圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスに深い傷が付いても、強化ガラスが割れ難くなると共に、機械的強度のばらつきが小さくなる。一方、圧縮応力層の厚みが大きい程、強化ガラスを切断し難くなる。このため、圧縮応力層の厚みは500μm以下が好ましい。なお、ガラス組成中のKO、Pの含有量を増加させたり、SrO、BaOの含有量を低減すれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。また、イオン交換時間を長くしたり、イオン交換溶液の温度を上げれば、圧縮応力層の厚みが大きくなる傾向がある。
本実施形態の強化ガラスにおいて、密度は2.6g/cm以下、2.55g/cm以下、2.50g/cm以下、特に2.48g/cm以下が好ましい。密度が小さい程、強化ガラスを軽量化することができる。なお、ガラス組成中のSiO、B、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、ZrO、TiOの含有量を低減すれば、密度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数は80〜120×10−7/℃、85〜110×10−7/℃、90〜110×10−7/℃、特に90〜105×10−7/℃が好ましい。熱膨張係数を上記範囲に規制すれば、金属、有機系接着剤等の部材の熱膨張係数に整合し易くなり、金属、有機系接着剤等の部材の剥離を防止し易くなる。ここで、「30〜380℃の温度範囲における熱膨張係数」は、ディラトメーターを用いて、平均熱膨張係数を測定した値を指す。なお、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を増加すれば、熱膨張係数が高くなり易く、逆にアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物の含有量を低減すれば、熱膨張係数が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、歪点は500℃以上、520℃以上、530℃以上、特に540℃以上が好ましい。歪点が高い程、耐熱性が向上し、強化ガラスを熱処理する場合、圧縮応力層が消失し難くなる。また、歪点が高い程、イオン交換処理の際に応力緩和が生じ難くなるため、圧縮応力値を維持し易くなる。なお、ガラス組成中のアルカリ土類金属酸化物、Al、ZrO、Pの含有量を増加させたり、アルカリ金属酸化物の含有量を低減すれば、歪点が高くなり易い。
本実施形態の強化ガラスにおいて、104.0dPa・sにおける温度は1250℃以下、1230℃以下、1200℃以下、1180℃以下、特に1160℃以下が好ましい。104.0dPa・sにおける温度が低い程、成形設備への負担が軽減されて、成形設備が長寿命化し、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、104.0dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、102.5dPa・sにおける温度は1600℃以下、1550℃以下、1530℃以下、1500℃以下、特に1450℃以下が好ましい。102.5dPa・sにおける温度が低い程、低温溶融が可能になり、溶融窯等のガラス製造設備への負担が軽減されると共に、泡品位を高め易くなる。すなわち、102.5dPa・sにおける温度が低い程、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。なお、102.5dPa・sにおける温度は、溶融温度に相当する。また、ガラス組成中のアルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、ZnO、B、TiOの含有量を増加させたり、SiO、Alの含有量を低減すれば、102.5dPa・sにおける温度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、液相温度は1075℃以下、1050℃以下、1030℃以下、1010℃以下、1000℃以下、950℃以下、900℃以下、特に870℃以下が好ましい。なお、液相温度が低い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KO、Bの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相温度が低下し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、液相粘度は104.0dPa・s以上、104.4dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、105.3dPa・s以上、105.5dPa・s以上、105.7dPa・s以上、105.8dPa・s以上、特に106.0dPa・s以上が好ましい。なお、液相粘度が高い程、耐失透性や成形性が向上する。また、ガラス組成中のNaO、KOの含有量を増加させたり、Al、LiO、MgO、ZnO、TiO、ZrOの含有量を低減すれば、液相粘度が高くなり易い。
本実施形態の強化ガラスにおいて、ヤング率は65GPa以上、69GPa以上、71GPa以上、75GPa以上、特に77GPa以上が好ましい。ヤング率が高い程、強化ガラスが撓み難くなり、タッチパネルディスプレイ等に用いる際、ペン等で強化ガラスの表面を強く押しても、強化ガラスの変形量が小さくなり、結果として、背面に位置する液晶素子に接触して、表示不良が生じる事態を防止し易くなる。
本実施形態の強化ガラスにおいて、劣化係数Dは0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。劣化係数Dが小さい程、経年劣化したKNO溶融塩内でイオン交換処理した場合でも、得られる圧縮応力値が低下し難くなるため、結果として、強化ガラスの製造コストを低廉化し易くなる。
本発明の実施形態に係る強化ガラス板は、上記の実施形態の強化ガラスからなることを特徴とする。よって、本実施形態の強化ガラス板の技術的特徴及び好適な範囲は、本実施形態の強化ガラスの技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本実施形態の強化ガラス板において、相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは、好ましくは50MPa以下、30MPa以下、20MPa以下、10MPa以下、特に5MPa以下である。ΔCSが大きくなると、大型のガラス板のイオン交換処理後に、強化ガラス板に反りが発生し易くなる。ΔCSを上記範囲にするために、ガラス板の相対する表面を0.2μm以上、0.3μm以上、0.4μm以上、0.5μm以上、1μm以上、3μm以上、特に5μm以上研磨することが好ましい。
本実施形態の強化ガラス板において、表面の平均表面粗さ(Ra)は、好ましくは10Å以下、8Å以下、6Å以下、4Å以下、3Å以下、特に2Å以下である。平均表面粗さ(Ra)が大きい程、強化ガラス板の機械的強度が低下する傾向がある。ここで、平均表面粗さ(Ra)は、SEMI D7−97「FPDガラス基板の表面粗さの測定方法」に準拠した方法により測定した値を指す。
本実施形態の強化ガラス板において、長さは500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましく、幅は500mm以上、700mm以上、特に1000mm以上が好ましい。強化ガラス板を大型化すると、大型TV等の表示部のカバーガラスとして好適に使用可能になる。
本実施形態の強化ガラス板において、板厚は3.0mm以下、2.0mm以下、1.5mm以下、1.3mm以下、1.1mm以下、1.0mm以下、0.8mm以下、特に.7mm以下が好ましい。一方、板厚が薄過ぎると、所望の機械的強度を得難くなる。よって、板厚は0.1mm以上、0.2mm以上、0.3mm以上、0.4mm以上、特に0.5mm以上が好ましい。
本発明の実施形態に係る強化用ガラスは、イオン交換処理に供される強化用ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、Li O+Na O+K O 10〜25%、NaO 7〜20%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%を含有することを特徴とする。本実施形態の強化用ガラスの技術的特徴は、上記の本実施形態の強化ガラス、強化ガラス板の技術的特徴と同様になる。ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本実施形態の強化用ガラスは、430℃のKNO溶融塩中でイオン交換処理した場合、表面の圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上になることが好ましく、また表面の圧縮応力が600MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが50μm以上になることが好ましく、さらに表面の圧縮応力が700MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが50μm以上になることが好ましい。
イオン交換処理の際、KNO溶融塩の温度は360〜550℃が好ましく、イオン交換時間は2〜10時間、特に4〜8時間が好ましい。このようにすれば、圧縮応力層を適正に形成し易くなる。なお、本実施形態の強化用ガラスは、上記のガラス組成を有するため、KNO溶融塩とNaNO溶融塩の混合物等を使用しなくても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みを大きくすることが可能になる。また劣化したKNO溶融塩を用いた場合であっても、圧縮応力層の圧縮応力値や厚みが極端に低下することがない。
本実施形態の強化用ガラス板において、ガラス板の全平面部位に対する平面方向の残留応力の最大値Fmaxは、5MPa以下、3MPa以下、1MPa以下、0.5MPa以下、特に0.1MPa以下が好ましい。残留応力の最大値Fmaxが大きいと、大型のガラス板を強化処理した際に、強化ガラス板の反りが大きくなる場合がある。
本実施形態の強化用ガラス板は、表面にSiO、TiO、ネサ、ITO、AR等の膜を成膜してなることが好ましい。このようにすれば、研磨処理しなくても、強化ガラス板の反りを低減することができる。成膜の方法として、CVD、スパッタ、スピンコート等が挙げられる。スパッタで成膜する場合、膜厚は1nm以上、5nm以上、10nm以上、30nm以上、特に50nm以上が好ましい。一方、膜厚が厚過ぎると、膜面における圧縮応力層の圧縮応力値が低下し過ぎる虞がある。よって、膜厚の好適な上限範囲は1000nm以下、800nm以下、500nm以下、特に300nm以下である。なお、強化処理後に、反りが発生し易い部分に成膜することが好ましい。なお、本実施形態の強化ガラス板は、強化処理前に、表面にSiO、TiO、ネサ、ITO、AR等の膜を成膜してなることが好ましい。
以下のようにして、本実施形態の強化用ガラス、強化ガラス、及び強化ガラス板を作製することができる。
まず上記のガラス組成になるように調合したガラス原料を連続溶融炉に投入して、1500〜1600℃で加熱溶融し、清澄した後、成形装置に供給した上で板状等に成形し、徐冷することにより、板状等のガラスを作製することができる。
板状に成形する方法として、フロート法を採用することが好ましい。フロート法は、安価で大量にガラス板を作製し得る方法であり、大型のガラス板も容易に作製し得る方法である。
フロート法以外にも、種々の成形方法を採用することができる。例えば、オーバーフローダウンドロー法、ダウンドロー法(スロットダウン法、リドロー法等)、ロールアウト法、プレス法等の成形方法を採用することができる。
次に、得られたガラスを強化処理することにより、強化ガラスを作製することができる。強化ガラスを所定寸法に切断する時期は、強化処理の前でもよいが、強化処理の後に行う方がコスト面から有利である。
強化処理として、イオン交換処理が好ましい。イオン交換処理の条件は、特に限定されず、ガラスの粘度特性、用途、厚み、内部の引っ張り応力等を考慮して最適な条件を選択すればよい。例えば、イオン交換処理は、400〜550℃のKNO溶融塩中に、ガラスを1〜8時間浸漬することで行うことができる。特に、KNO溶融塩中のKイオンをガラス中のNa成分とイオン交換すると、ガラスの表面に圧縮応力層を効率良く形成することが可能になる。
以下、本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
表1〜5は、試料No.1〜24を示している。なお、表中の「未」は、未測定を意味している。
次のようにして表中の各試料を作製した。まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合し、白金ポットを用いて1580℃で8時間溶融した。その後、得られた溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して、板状に成形した。得られたガラス板について、種々の特性を評価した。
密度ρは、周知のアルキメデス法によって測定した値である。
熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃の温度範囲における平均熱膨張係数を測定した値である。
歪点Ps、徐冷点Taは、ASTM C336の方法に基づいて測定した値である。
軟化点Tsは、ASTM C338の方法に基づいて測定した値である。
高温粘度104.0dPa・s、103.0dPa・s、102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値である。
液相温度TLは、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れた後、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。
液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値である。
表1〜5から明らかなように、試料No.1〜24は、密度が2.54g/cm以下、熱膨張係数が87〜107×10−7/℃であり、強化ガラスの素材、つまり強化用ガラスとして好適であった。また液相粘度が104.5dPa・s以上であるため、フロート法で板状に成形可能であり、しかも102.5dPa・sにおける温度が1622℃以下であるため、生産性が高く、安価に大量のガラス板を作製し得るものと考えられる。なお、強化処理の前後で、ガラスの表層におけるガラス組成が微視的に異なるものの、ガラス全体として見た場合は、ガラス組成が実質的に相違しない。
次に、各試料の両表面に光学研磨を施した後、440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。イオン交換処理後に各試料の表面を洗浄した。続いて、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。算出に当たり、各試料の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。
以下のようにして、劣化係数Dを算出した。まずSiO 58.7質量%、Al 12.8質量%、LiO 0.1質量%、NaO 14.0質量%、KO 6.3質量%、MgO 2.0質量%、CaO 2.0質量%、ZrO 4.1質量%のガラス組成を有するガラスを作製した。次に、このガラスを粉砕し、篩目開き300μmを通過し、篩目開き150μmを通過しないガラス粉末を採取し、平均粒子径225μmのガラス粉末を得た。続いて、440℃に保持したKNO 400ml中に上記のガラス粉末を60時間浸漬(24時間毎に籠を上下に10回振盪)して、劣化したKNO溶融塩を擬似的に再現した。なお、この条件で作製した劣化KNO溶融塩に含まれるNaOは1000ppm(モル)以上であった。
この条件で作製した劣化KNO溶融塩中に、各試料を440℃で6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。その後、上記の方法と同様にして、表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを求めた。このようにして得られた圧縮応力値(新品KNO溶融塩、劣化KNO溶融塩)から、劣化係数D=(圧縮応力値(新品KNO溶融塩)−圧縮応力値(劣化KNO溶融塩))/圧縮応力値(新品KNO溶融塩)を算出した。
表1〜5から明らかなように、試料No.1〜24について、新品KNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、その表面の圧縮応力層の圧縮応力値は730MPa以上、厚みは43μm以上であった。また、劣化KNO溶融塩でイオン交換処理を行ったところ、その表面の圧縮応力層の圧縮応力値は625MPa以上、厚みは43μm以上であり、劣化係数Dは0.22以下であった。
試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、ガラス板を成形した。次に、得られたガラス板を440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行った。続いて、ガラス板について、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。また、ガラス板の両表面を0.2μm研磨した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。更に、ガラス板の両表面を10μm研磨した後、表面応力計(株式会社東芝製FSM−6000)を用いて観察される干渉縞の本数とその間隔から表面の圧縮応力層の圧縮応力値と厚みを算出した。算出に当たり、ガラス板の屈折率を1.52、光学弾性定数を28[(nm/cm)/MPa]とした。その結果、未研磨の場合、表面(おもて面)と裏面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは40MPaであり、両表面を0.2μm研磨した場合、表面(おもて面)と裏面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは20MPaであり、両表面を10μm研磨した場合、表面(おもて面)と裏面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSは認められなかった。
次に、試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、板厚1mmのガラス板を成形した。その際、スズ浴槽入り口付近の温度が1200℃、出口付近の温度が700℃程度となるように、温度設定を行った。続いて、スズ浴槽を出たガラス板を徐冷炉内を通過させた。徐冷炉入り口付近の温度が約700℃、出口付近の温度が100℃程度となるように温度設定を行い、板幅方向の温度分布が±2%以下、徐冷炉内のガラス板の表裏面の温度差が±1%以下となるように、温度制御しながら徐冷を行った。得られたガラス板から1m×1mのガラス板を切り出し、同ガラス板について、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR−10Aを用い、10cmピッチの格子状交点位置、更に4辺の外周部付近における残留応力値を測定した。そのデータを図1に示す。その結果、ガラス板の平面方向の残留応力の最大値Fmaxは0.25MPaであった。更に、440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に、このガラス板を6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行ったところ、強化ガラス板の反り量は0.1%であった。この結果から、平面方向の残留応力の分布を規制すれば、研磨処理しなくても、強化ガラス板の反り量を低減し得ることが分かる。なお、強化ガラス板の反り量は、レーザー干渉計を用いて、長辺寸法当たりの真直度を測定した値である。
また、試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、板厚1mmのガラス板を成形した。その際、スズ浴槽入り口付近の温度が1200℃、出口付近の温度が700℃程度となるように、温度設定を行った。続いて、スズ浴槽を出たガラス板を徐冷炉内を通過させた。徐冷炉入り口付近の温度が約700℃、出口付近の温度が100℃程度となるように温度設定を行い、板幅方向の温度分布が±2%以下、徐冷炉内のガラス板の表裏面の温度差が±1%以下となるように、温度制御しながら徐冷を行った。なお、[実施例3]と[実施例4]は徐冷速度が相違している。得られたガラス板から1m×1mのガラス板を切り出し、同ガラス板について、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR−10Aを用い、10cmピッチの格子状交点位置、更に4辺の外周部付近における残留応力値を測定した。そのデータを図2に示す。その結果、ガラス板の平面方向の残留応力の最大値Fmaxは0.80MPaであった。更に、440℃のKNO溶融塩(新品KNO溶融塩)中に、このガラス板を6時間浸漬することにより、イオン交換処理を行ったところ、強化ガラス板の反り量は0.1%であった。この結果から、平面方向の残留応力の分布を規制すれば、研磨処理しなくても、強化ガラス板の反り量を低減し得ることが分かる。なお、強化ガラス板の反り量は、レーザー干渉計を用いて、長辺寸法当たりの真直度を測定した値である。
ここで、スズ浴槽を出たガラスがその後のローラー搬送で傷が付かないように、スズ浴槽の出口付近において、上下からSOガスを吹き付けることが好ましい。SOガスはガラスに付着すると、ガラス中のNaを溶出させる効果がある。一方、ガラスの上下面に組成的な不均衡が生じると、反りの原因となり得る。このため、SOガスが、ガラスの上下で一定になり、且つ、上下それぞれの幅方向においても一定となるようにすることが好ましい。そこで、ガラスの上下それぞれにおいて、幅方向に延びるスリット状のガス噴出口を設けるとともに、そのガス噴出口のすぐ後方に、幅方向に延びるスリット状のガス排気口を設け、SOガスを供給することが好ましい。SOガスの流速は、例えば、1リットル/minに設定する。
次に、試料No.1に記載のガラス組成になるようにガラス原料を調合した上で、得られたガラスバッチを溶融した後、フロート法により、板厚1mmのガラス板を成形した。その際、スズ浴槽入り口付近の温度が1200℃、出口付近の温度が700℃程度となるように、温度設定を行った。続いて、スズ浴槽を出たガラス板を徐冷炉内を通過させた。徐冷炉入り口付近の温度が約700℃、出口付近の温度が100℃程度となるように温度設定を行い、板幅方向の温度分布を±2%以下に温度制御すると共に、徐冷炉内でのガラス板の表裏面の温度差(±2%超±10%以下)が大きくなるように、温度制御しながら徐冷を行った。得られたガラス板を440℃のKNO(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬すると、強化ガラス板がトップ面方向(スズ浴槽に接触していない方向)に1%程度凸に反る。その際、トップ面側の圧縮応力層の圧縮応力値は、ボトム面(スズ浴槽接触面)側よりも15MPa高かった。なお、圧縮応力層の厚みは、トップ面とボトム面で同等であった。そこで、得られたガラス板について、スパッタ法によりトップ面側に膜厚100nmのSiO膜を成膜した後、440℃のKNO(新品KNO溶融塩)中に6時間浸漬したところ、トップ面とボトム面の圧縮応力値の差は約1MPa以下となり、反り量も0.1%まで低減した。
本発明に係る強化ガラス及び強化ガラス板は、携帯電話、デジタルカメラ、PDA等のカバーガラス、或いはタッチパネルディスプレイ等のガラス基板として好適である。また、本発明に係る強化ガラス及び強化ガラス板は、これらの用途以外にも、高い機械的強度が要求される用途、例えば窓ガラス、磁気ディスク用基板、フラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス、固体撮像素子用カバーガラス、食器への応用が期待できる。
そこで、本発明の技術的課題は、イオン交換性能と耐失透性が高いと共に、KNO 溶融塩の劣化に対して耐性を有し、しかも大型のガラス板を強化処理しても、反りが発生し難い強化ガラス及び強化ガラス板を創案することである。
本発明者等は、種々の検討を行った結果、ガラス組成を厳密に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の強化用ガラスは、強化処理に供される強化用ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、 0〜1.5%、LiO+NaO+KO 10〜25%、Li O 0〜4%、NaO 7〜20%、 O 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%、As 0〜0.05%未満、Sb 0〜0.05%未満を含有し、板厚が1.5mm以下であり、強化用ガラス板の全平面部位に対する平面方向の残留応力の最大値Fmaxが0.5MPa以下であることを特徴とする。ここで、「Fmax」は、500mm×500mm以上の寸法を有するガラス板(特に1m×1mの寸法)において、ユニオプト社製複屈折測定機:ABR−10Aを用いて、10cmピッチの格子状交点位置及び4辺の外周部付近の複屈折(単位:nm)を計測し、平面方向の残留応力に換算した場合の最大値である。また、光学的な複屈折の測定、すなわち直交する直線偏光波の光路差の測定により、ガラス板中の残留応力値を見積ることが可能であり、残留応力により発生する偏差応力F(MPa)は、F=R/CLの式で表記される。なお、「R」は光路差(nm)であり、「L」は偏光波が通過した距離(cm)であり、「C」は光弾性定数(比例定数)であり、通常、20〜40(nm/cm)/(MPa)の値になる。なお、平面方向の残留応力には、引っ張り応力と圧縮応力が存在するが、上記では、両者の絶対値を評価するものとする。「実質的にAsを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にAsを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Asの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にSbを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にSbを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Sbの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にPbOを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、PbOの含有量が0.05モル%未満であることを指す。「実質的にFを含有しない」とは、ガラス成分として積極的にFを添加しないものの、不純物として混入する場合を許容する趣旨であり、具体的には、Fの含有量が0.05モル%未満であることを指す。
本発明者等は、種々の検討を行った結果、以下の知見を得るに至った。AlとMgOの含有量(又は含有比)を同時に規制すると、イオン交換性能と耐失透性を高めることができる。Alとアルカリ金属酸化物の含有量(又は含有比)を同時に規制すると、耐失透性を高めることができる。 Oを所定量添加すると、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。K OとNa Oの含有量(又は含有比)を同時に規制すると、圧縮応力層の圧縮応力値を低下させずに、圧縮応力層の厚みを大きくすることができる。

Claims (24)

  1. 表面に圧縮応力層を有する強化ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜4%、NaO 7〜20%、KO 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする強化ガラス。
  2. ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜2%、NaO 9〜18%、KO 1〜8%、MgO 0.5〜12%、CaO 0〜3.5%、SrO 0〜3%、TiO 0〜0.5%を含有することを特徴とする請求項1に記載の強化ガラス。
  3. ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜17%、KO 2〜7%、MgO 1.5〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、TiO 0〜0.5%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の強化ガラス。
  4. ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜75%、Al 4〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜16%、KO 2〜7%、MgO 3〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、ZrO 0.5〜10%、TiO 0〜0.5%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強化ガラス。
  5. ガラス組成として、モル%で、SiO 55〜69%、Al 4〜11%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 11〜16%、KO 2〜7%、MgO 3〜9%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、ZrO 1〜9%、TiO 0〜0.1%を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強化ガラス。
  6. 圧縮応力層の圧縮応力値が300MPa以上、且つ圧縮応力層の厚みが10μm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の強化ガラス。
  7. 劣化係数Dが0.01〜0.6であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化ガラス。
  8. 液相温度が1075℃以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の強化ガラス。
  9. 液相粘度が104.0dPa・s以上であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の強化ガラス。
  10. 104.0dPa・sにおける温度が1250℃以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の強化ガラス。
  11. 密度が2.6g/cm以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の強化ガラス。
  12. ヤング率が65GPa以上であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の強化ガラス。
  13. 請求項1〜12のいずれかに記載の強化ガラスからなることを特徴とする強化ガラス板。
  14. フロート法で成形されてなることを特徴とする請求項13に記載の強化ガラス板。
  15. 厚み方向に0.5μm以上研磨されてなる表面を有することを特徴とする請求項13又は14に記載の強化ガラス板。
  16. 相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSが50MPa以下であることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の強化ガラス板。
  17. 表面に圧縮応力を有する強化ガラス板であって、長さが500mm以上、幅が500mm以上、厚みが0.5〜1.5mm、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が200MPa以上、圧縮応力層の厚みが20μm以上、劣化係数Dが0.6以下、相対する表面の圧縮応力層の圧縮応力値の差ΔCSが50MPa以下であることを特徴とする強化ガラス板。
  18. タッチパネルディスプレイに用いることを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の強化ガラス板。
  19. 携帯電話のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の強化ガラス板。
  20. 太陽電池のカバーガラスに用いることを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の強化ガラス板。
  21. ディスプレイの保護部材に用いることを特徴とする請求項13〜17のいずれかに記載の強化ガラス板。
  22. 表面に圧縮応力を有する強化ガラス板であって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 4〜12%、B 0〜1%、LiO 0〜1%、NaO 10〜17%、KO 2〜7%、MgO 1.5〜12%、CaO 0〜3%、SrO 0〜1%、TiO 0〜0.5%を含有し、モル比MgO/(MgO+CaO)が0.5以上、長さが500mm以上、幅が500mm以上、厚みが0.5〜1.5mm、ヤング率が65GPa以上、圧縮応力層の圧縮応力値が400MPa以上、圧縮応力層の厚みが30μm以上、劣化係数Dが0.4以下であることを特徴とする強化ガラス板。
  23. 強化処理に供される強化用ガラスであって、ガラス組成として、モル%で、SiO 50〜75%、Al 3〜13%、B 0〜1.5%、LiO 0〜4%、NaO 7〜20%、KO 0.5〜10%、MgO 0.5〜13%、CaO 0〜6%、SrO 0〜4.5%を含有し、実質的にAs、Sb、PbO、及びFを含有しないことを特徴とする強化用ガラス。
  24. 強化処理に供される強化用ガラスであって、板厚が1.5mm以下であり、強化用ガラス板の全平面部位に対する平面方向の残留応力の最大値Fmaxが5MPa以下であることを特徴とする強化用ガラス板。
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