JP2014175179A - ナトリウム溶融塩電池用正極活物質、ナトリウム溶融塩電池用正極およびナトリウム溶融塩電池 - Google Patents

ナトリウム溶融塩電池用正極活物質、ナトリウム溶融塩電池用正極およびナトリウム溶融塩電池 Download PDF

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瑛子 井谷
Koma Numata
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Abstract

【課題】充放電に寄与しない副反応が抑制され、優れた電池特性および信頼性を有するナトリウム溶融塩電池を提供する。
【解決手段】電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出可能であるナトリウム含有金属酸化物を含み、炭酸ナトリウムの質量割合が500ppm以下である、ナトリウム溶融塩電池用正極活物質。
【選択図】図5

Description

本発明は、ナトリウムイオン伝導性を有する溶融塩を電解質として含むナトリウム溶融塩電池に関し、特にナトリウム溶融塩電池の正極活物質の改良に関する。
近年、太陽光、風力などの自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目を集めている。また、多くの電気エネルギーを蓄えることができる高エネルギー密度の電池として、非水電解質二次電池の需要が拡大している。非水電解質二次電池の中では、リチウムイオン二次電池が、軽量かつ高い起電力を有する点で有望である。しかし、リチウムイオン二次電池は、有機溶媒を電解質成分として用いるため、耐熱性が低いという欠点がある。また、リチウムイオン二次電池の市場の拡大に伴い、リチウム資源の価格も上昇しつつある。
そこで、難燃性の溶融塩を電解質として用いる溶融塩電池の開発が進められている。溶融塩は、熱安定性に優れており、安全性の確保が比較的容易であり、かつ、高温域での継続的使用にも適している。また、溶融塩電池は、リチウム以外の安価なアルカリ金属(特にナトリウム)をカチオンとする溶融塩を電解質として使用することができるため、製造コストも安価である。
なお、溶融塩電池とは、溶融状態の塩(溶融塩)を電解質として含む電池の総称である。溶融塩は、イオン伝導性を有する液体(イオン性液体)である。
ナトリウムをイオン伝導のキャリアとして利用する溶融塩電池(以下、ナトリウム溶融塩電池と称する)の正極には、正極活物質として、例えば、亜クロム酸ナトリウムのようなナトリウム含有金属酸化物が使用されている。亜クロム酸ナトリウムは、例えば、酸化クロムと炭酸ナトリウムとを混合し、所定の温度、時間で加熱することで得られる。正極は、例えば、正極活物質と、導電性炭素材料と、バインダとを含む合剤を用いて形成できる。
ナトリウム溶融塩電池においては、電池内に過剰な水分が存在すると、電極反応に寄与しない副反応が起こることがある。副反応としては、例えば、溶融塩の加水分解反応が挙げられる。溶融塩の加水分解反応が起こると、ガスが発生したり、反応生成物が抵抗成分となって円滑な電極反応を阻害したりすることがある。そこで、溶融塩の副反応を抑制する観点から、電池内の水分量を低減するための種々の検討が行われている(例えば、特許文献1参照)。
特開2012−162416号公報
しかし、電池内の水分量を低減するだけでは、副反応を十分に抑制することは困難である。最近の検討により、電池内の水分量が低減されることで、正極活物質に残存する炭酸ナトリウムに由来する副反応が顕在化することが判明してきている。例えば、充電により正極電位が3V程度にまで達すると、正極において、導電性炭素材料と炭酸ナトリウムとが反応して、炭酸ガスが発生する。この反応は、以下の反応式で示される。
2Na2CO3+C→4Na++3CO2
炭酸ガスが過剰に発生すると、電池内圧が上昇し、電池の信頼性の低下に繋がる。また、炭酸ナトリウムとの副反応によって導電性炭素材料が消費されると、電池特性の低下を招く。従って、電池特性および信頼性の向上の観点から、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの残存量を低減することが非常に重要である。
本発明の一局面は、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出可能であるナトリウム含有金属酸化物を含み、炭酸ナトリウムの質量割合が500ppm以下である、ナトリウム溶融塩電池用正極活物質に関する。
本発明によれば、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの残存量が低減されていることから、炭酸ナトリウムに由来する充放電反応に寄与しない副反応を抑制することができる。よって、優れた電池特性および信頼性を有するナトリウム溶融塩電池を提供することができる。
本発明の一実施形態に係る正極の正面図である。 図1のII−II線断面図である。 本発明の一実施形態に係る負極の正面図である。 図3のIV−IV線断面図である。 本発明の一実施形態に係る溶融塩電池の電池ケースの一部を切り欠いた斜視図である。 図5のVI−VI線断面を概略的に示す縦断面図である。
[発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の一局面は、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出可能であるナトリウム含有金属酸化物を含み、炭酸ナトリウムの質量割合が500ppm以下である、ナトリウム溶融塩電池用正極活物質に関する。このようなナトリウム溶融塩電池用正極活物質によれば、溶融塩電池に特有の環境下においても、副反応が抑制され、ナトリウム溶融塩電池の電池特性および信頼性が向上する。
ナトリウム含有金属酸化物は、一般式:Na1-x1 xCr1-y2 y2(0≦x≦2/3、0≦y≦0.7であり、M1およびM2は、それぞれ独立にCrおよびNa以外の金属元素である)で表される化合物であることが好ましい。このようなナトリウム含有金属酸化物を含む正極活物質は、低コストであるとともに、充放電に伴う構造変化の可逆性に優れているため、サイクル特性に特に優れたナトリウム溶融塩電池を得ることができる。
また、本発明の他の局面は、正極集電体および正極集電体に付着した正極活物質層を含み、正極活物質層が、上記の正極活物質と、導電性炭素材料とを含む、ナトリウム溶融塩電池用正極に関する。このような正極によれば、炭酸ナトリウムと導電性炭素材料との副反応が十分に抑制されるため、サイクル特性および信頼性に優れたナトリウム溶融塩電池を得ることができる。
上記のナトリウム溶融塩電池用正極に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合についても、500ppm以下であることが好ましい。正極に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合を500ppm以下に制限することで、副反応を抑制する効果を得やすくなる。
また、正極に含まれる水分の質量割合は200ppm以下であることが好ましい。これにより、電池内の水分量が低減され、ナトリウム溶融塩電池のイオン伝導を担うキャリアであるナトリウムイオンと水分との反応が抑制される。したがって、炭酸ナトリウムを低減することによるガス発生を抑制する効果が顕著となる。
本発明の更に他の局面は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレータおよび電解質を含み、電解質が、少なくともナトリウムイオンを含む溶融塩であり、正極が、上記のナトリウム溶融塩電池用正極である、ナトリウム溶融塩電池に関する。
電解質に含まれるナトリウムイオン濃度が、電解質に含まれるカチオンの2モル%以上、更には5モル%以上を占めている場合、炭酸ガスが発生しやすくなる傾向がある。この原因は、必ずしも明確ではないが、電解質として溶融塩を用いる電池の作動温度が比較的高くなることが関連しているものと推測される。
具体的には、ナトリウムイオン濃度が高くなると、微小なナトリウムデンドライト(金属ナトリウム)が生成しやすくなり、ナトリウムと導電性炭素材料との副反応が促進されるものと推測される。また、電池の作動温度が比較的高くなると、副反応が更に促進されるものと考えられる。従って、電解質に含まれるカチオンの2モル%以上、更には5モル%以上がナトリウムイオンで占めている場合には、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合を500ppm以下とすることが特に重要となる。
本発明の一実施の形態において、ナトリウム溶融塩電池の設計容量は、10Ah以上である。本発明に係る正極活物質は、炭酸ナトリウムの残存量が十分に低減されているため、ガス発生の影響を受けやすい比較的大型のナトリウム溶融塩電池においても、優れたサイクル特性および信頼性が得られる。
[発明の実施形態の詳細]
本発明の一局面は、ナトリウムをイオン伝導のキャリアとして利用するナトリウム溶融塩電池に用いられる正極活物質を包含する。ただし、正極活物質は、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出可能であるナトリウム含有金属酸化物を含む。
ナトリウム含有金属酸化物は、例えば、炭酸ナトリウムと金属酸化物とを混合し、所定の条件で加熱することで得られる。このとき、生成物であるナトリウム含有金属酸化物には、通常、原料の炭酸ナトリウムが相当量残存する。しかし、充電によって正極電位が3V程度に達すると、正極活物質に残存する炭酸ナトリウムと、正極に導電材として含まれる導電性炭素材料との副反応により、炭酸ガスが発生する。また、ナトリウム溶融塩電池の一般的な使用温度である90℃前後の環境下においては、副反応が顕在化しやすい。正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの残存量が過剰であるほど、副反応の影響が大きくなり、電池特性や信頼性の低下に繋がる。
そこで、本発明では、ナトリウム溶融塩電池用正極活物質における炭酸ナトリウムの残存量を500ppm以下にまで低減している。このような正極活物質を用いた溶融塩電池は、副反応が顕在化しやすいナトリウム溶融塩電池に特有の使用環境下においても、優れた電池特性および信頼性を示す。正極活物質における炭酸ナトリウムの質量割合は、電池特性および信頼性の更なる向上の観点から、100ppm以下まで低減されることがより好ましい。
正極活物質に残存する炭酸ナトリウムの質量割合は、例えばイオンクロマトグラフ法により求めることができる。
具体的には、イオン交換水と正極活物質とを混合し、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムをイオン交換水に溶解させて測定用試料を得る。その後、測定用試料における炭酸イオン(CO3 2-)濃度をイオンクロマトグラフィにより測定することで、正極活物質に残存する炭酸ナトリウムの質量割合を求めることができる。
ナトリウム含有金属酸化物は、ナトリウムイオンが挿入、脱離可能な層間隔を有する層状構造を有することが好ましい。このようなナトリウム含有金属酸化物としては、例えば、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO2)を用いることができる。亜クロム酸ナトリウムは、CrまたはNaの一部が他元素で置換されていてもよく、例えば、一般式:Na1-x1 xCr1-y2 y2(0≦x≦2/3、0≦y≦0.7、M1およびM2は、それぞれ独立にCrおよびNa以外の金属元素である)で表される化合物であることが好ましい。上記の一般式において、xは、0≦x≦0.5を満たすことがより好ましく、M1およびM2は、例えばNi、Co、Mn、FeおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、M1はNaサイト、M2はCrサイトを占める元素である。
また、ナトリウム含有金属酸化物として、鉄マンガン酸ナトリウム(Na2/3Fe1/3Mn2/32など)を用いることもできる。鉄マンガン酸ナトリウムのFe、MnまたはNaの一部は、他元素で置換されていてもよい。例えば、一般式:Na2/3-x3 xFe1/3-yMn2/3-z4 y+z2(−1/3≦x≦2/3、0≦y≦1/3、0≦z≦1/3、M3およびM4は、それぞれ独立にFe、MnおよびNa以外の金属元素である)で表される化合物であることが好ましい。上記の一般式において、xは、0≦x≦1/3を満たすことがより好ましい。M3は、例えばNi、Co、Mn、FeおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、M4は、Ni、CoおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、M3はNaサイト、M4はFeまたはMnサイトを占める元素である。
また、ナトリウム含有金属酸化物として、Na2FePO4F、NaVPO4F、NaCoPO4、NaNiPO4、NaMnPO4、NaMn1.5Ni0.54、NaMn0.5Ni0.52などを用いることもできる。
ナトリウム含有金属酸化物は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質の粒子の平均粒径(体積粒度分布の累積体積50%における粒径D50)は、2μm以上、20μm以下であることが好ましい。このような正極活物質は、原料の反応性が高く、残存する炭酸ナトリウムの量をより低減しやすい。平均粒径D50は、例えば、レーザ回折式の粒度分布測定装置を用いて、レーザ回折散乱法によって測定される値であり、以下も同様である。
以下、ナトリウム溶融塩電池用正極活物質の製造法の一例について説明する。
炭酸ナトリウムと、所要の金属を含む金属化合物(酸化物、水酸化物等)とを混合する。得られる正極活物質における炭酸ナトリウムの残存量を十分に低減する観点から、炭酸ナトリウムと金属化合物との原料混合物において、金属化合物の量を、化学量論量より0〜3モル%大きくすることが望ましい。原料混合物を、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中で、所定の条件で加熱することで、ナトリウム含有金属酸化物を含む正極活物質が得られる。不活性雰囲気の圧力は、8.1×104〜1.2×105Pa(0.8〜1.2atm)が好ましく、9.1×104〜1.1×105Pa(0.9〜1.1atm)がより好ましい。例えば、加熱温度は850〜950℃であることが好ましく、850〜900℃がより好ましい。加熱時間は3〜20時間が好ましく、5〜10時間がより好ましい。
金属化合物の平均粒径D50は、0.05μm以上、5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上、3μm以下であることがより好ましい。このような金属化合物は反応性が高く、正極活物質の生成反応において、より多くの炭酸ナトリウムが消費されやすい。したがって、正極活物質に残存する炭酸ナトリウムの量をより低減しやすい。
炭酸ナトリウムの平均粒径D50は、0.05μm以上、5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上、3μm以下であることがより好ましい。このような炭酸ナトリウムは反応性が高く、正極活物質の生成反応において、その多くが消費されやすい。したがって、正極活物質に残存する炭酸ナトリウムの量をより低減しやすい。
次に、ナトリウム含有金属酸化物の一種である亜クロム酸ナトリウムを含む正極活物質を例に、その製造法をより詳細に説明する。
亜クロム酸ナトリウム(NaCrO2)を含む正極活物質は、化学量論量基準で、炭酸ナトリウム量より酸化クロムを0〜3モル%、更に好ましくは0.5〜1モル%過剰に含む原料混合物を、所定の条件で加熱することで得られる。なお、過剰分の酸化クロムは、未反応のまま正極活物質中に存在することとなるが、電池特性にはほとんど影響しない。
すなわち、原料混合物は、ナトリウム1モルに対してクロムを1〜1.03モル、更に好ましくは1.005〜1.01モル含むことが好ましい。原料混合物におけるクロムの量に応じて、温度や時間などの条件を制御して原料混合物を加熱することで、炭酸ナトリウムの質量割合が500ppm以下である正極活物質を得ることができる。
次に、ナトリウム溶融塩電池およびナトリウム溶融塩電池用正極の各構成要素について具体的に説明する。
[正極]
図1は、本発明の一実施形態に係る正極の正面図であり、図2は図1のII−II線断面図である。
ナトリウム溶融塩電池用正極2は、正極集電体2aおよび正極集電体2aに付着した正極活物質層2bを含む。正極活物質層2bは、正極活物質を必須成分として含み、任意成分として導電性炭素材料、結着剤等を含んでもよい。
正極に含まれる水分の質量割合は200ppm以下であることが望ましい。例えば、正極を90〜200℃の温度で、2〜24時間減圧乾燥させることで、正極の水分の質量割合を200ppm以下にまで低減することができる。乾燥雰囲気の圧力は、例えば10Pa以下であり、好ましくは1Pa以下に制御される。
このような方法は、簡易であり、製造コストを増大させない点で有利である。処理雰囲気を減圧環境とする前に、処理雰囲気の空気を予め不活性ガス(例えば窒素、ヘリウム、アルゴン)や露点温度−50℃以下のドライエアーに置換しておくことで、より効果的に正極から水分を除去することができる。
正極に含まれる水分の質量割合は、カールフィッシャー法により測定される水分量である。また、正極の水分量は、正極集電体と正極活物質層との合計における水分量である。具体的には、試料である正極を、陰極液とともに、水分量測定装置のセルに投入し、水分を測定する。陰極液には、アルコール、塩基、二酸化硫黄、ヨウ化物イオンなどが含まれている。カールフィッシャー法は、容量滴定法と電量滴定法とに分類されるが、ここでは、分析精度の高い電量滴定法を採用する。また、水分量測定機器には、市販のカールフィッシャー水分計(例えば京都電子工業(株)製のMKC−610)を用いることができる。
正極に含まれる水分の質量割合は、窒素雰囲気中で、新鮮な陰極液で満たされた水分量測定装置のセルに試料を投入して測定する。試料の重量は、例えば0.05〜5gの範囲内とすればよい。
正極に含ませる導電性炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維などが挙げられる。導電性炭素材料は、良好な導電経路を確保しやすいものの、正極活物質に残存する炭酸ナトリウムとの間での副反応の原因となる。しかし、本発明においては、炭酸ナトリウムの残存量を大きく低減しているため、副反応を十分に抑制しつつ、良好な導電性を確保することができる。導電性炭素材料のうちでは、少量使用で十分な導電経路を形成しやすいことから、カーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック等を挙げることができる。導電性炭素材料の量は、正極活物質100質量部あたり、2〜15質量部が好ましく、3〜8質量部がより好ましい。
結着剤は、正極活物質同士を結合させるとともに、正極活物質を正極集電体に固定する役割を果たす。結着剤としては、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を用いることができる。結着剤の量は、正極活物質100質量部あたり、1〜10質量部が好ましく、3〜5質量部がより好ましい。
通常、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合を500ppm以下に制限することで、正極全体に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合も500ppmに制限される。ただし、導電性炭素材料または結着剤が微量の炭酸ナトリウムを含有している場合、正極全体に含まれる炭酸ナトリウム量はその分多くなる。このような場合でも、正極に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合を500ppmに制限することが、副反応を効果的に抑制する観点から望ましい。
正極集電体2aとしては、金属箔、金属繊維製の不織布、金属多孔体シートなどが用いられる。正極集電体を構成する金属としては、正極電位で安定であることから、アルミニウムやアルミニウム合金が好ましいが、特に限定されない。アルミニウム合金を用いる場合、アルミニウム以外の金属成分(例えばFe、Si、Ni、Mnなど)は0.5質量%以下であることが好ましい。正極集電体となる金属箔の厚さは、例えば10〜50μmであり、金属繊維の不織布や金属多孔体シートの厚さは、例えば100〜600μmである。正極集電体2aには、集電用のリード片2cを形成してもよい。リード片2cは、図1に示すように、正極集電体と一体に形成してもよく、別途形成したリード片を溶接などで正極集電体に接続してもよい。
[負極]
図3は、本発明の一実施形態に係る負極の正面図であり、図4は図3のIV−IV線断面図である。
負極3は、負極集電体3aおよび負極集電体3aに付着した負極活物質層3bを含む。負極活物質層3bには、例えば、ナトリウム、ナトリウム合金またはナトリウムと合金化可能な金属を用いることができる。このような負極は、例えば、第1金属により形成された負極集電体と、負極集電体の表面の少なくとも一部を被覆する第2金属とを含む。ここで、第1金属は、ナトリウムと合金化しない金属であり、第2金属は、ナトリウムと合金化する金属である。
負極に含まれる水分の質量割合は300ppm以下であることが望ましい。例えば、負極を90〜200℃の温度で、2〜24時間減圧乾燥させることで、負極の水分の質量割合を300ppm以下にまで低減することができる。乾燥雰囲気の圧力は、例えば10Pa以下であり、好ましくは1Pa以下に制御される。正極と同様に、処理雰囲気の空気を予め不活性ガスや露点温度−50℃以下のドライエアーに置換しておくことで、より効果的に水分を除去できる。
負極に含まれる水分の質量割合は、試料として負極を用いること以外、正極と同様にしてカールフィッシャー法により測定すればよい。
第1金属により形成された負極集電体としては、金属箔、金属繊維製の不織布、金属多孔体シートなどが用いられる。第1金属としては、ナトリウムと合金化せず、負極電位で安定であることから、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金などが好ましい。これらのうち、軽量性に優れる点では、アルミニウムやアルミニウム合金が好ましい。アルミニウム合金は、例えば、正極集電体として例示したものと同様のアルミニウム合金を用いてもよい。負極集電体となる金属箔の厚さは、例えば10〜50μmであり、金属繊維の不織布や金属多孔体シートの厚さは、例えば100〜600μmである。負極集電体3aには、集電用のリード片3cを形成してもよい。リード片3cは、図3に示すように、負極集電体と一体に形成してもよく、別途形成したリード片を溶接などで負極集電体に接続してもよい。
第2金属としては、亜鉛、亜鉛合金、錫、錫合金、ケイ素、ケイ素合金などを挙げることができる。これらのうち、溶融塩に対する濡れ性が良好である点において、亜鉛や亜鉛合金が好ましい。第2金属により形成された負極活物質層の厚さは、例えば0.05〜1μmが好適である。なお、亜鉛合金または錫合金における亜鉛または錫以外の金属成分(例えばFe、Ni、Si、Mnなど)は0.5質量%以下とすることが好ましい。
好ましい負極の一形態としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金(第1金属)により形成された負極集電体と、負極集電体の表面の少なくとも一部を被覆する亜鉛、亜鉛合金、錫または錫合金(第2金属)とを具備する負極を例示することができる。このような負極は、高容量であり、長期間に亘って劣化しにくい。
第2金属による負極活物質層は、例えば、第2金属のシートを負極集電体に貼り付けたり、圧着したりすることにより得ることができる。また、真空蒸着法、スパッタリング法などの気相法により、第2金属をガス化させて負極集電体に付着させてもよく、あるいは、めっき法などの電気化学的方法により、第2金属の微粒子を負極集電体に付着させてもよい。気相法やめっき法によれば、薄く均一な負極活物質層を形成することができる。
また、負極活物質層3bは、負極活物質を必須成分として含み、任意成分として結着剤、導電材等を含む合剤層であってもよい。負極に用いる結着剤および導電材としても、正極の構成要素として例示した材料を用いることができる。結着剤の量は、負極活物質100質量部あたり、1〜10質量部が好ましく、3〜5質量部がより好ましい。導電材の量は、負極活物質100質量部あたり、5〜15質量部が好ましく、5〜10質量部がより好ましい。
負極合剤層を構成する負極活物質としては、熱的安定性や電気化学的安定性の観点から、ナトリウム含有チタン化合物、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)等が好ましく用いられる。ナトリウム含有チタン化合物としては、チタン酸ナトリウムが好ましく、より具体的には、Na2Ti37およびNa4Ti512よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、チタン酸ナトリウムのTiまたはNaの一部を他元素で置換してもよい。例えば、Na2-x5 xTi3-y6 y7(0≦x≦3/2、0≦y≦8/3、M5およびM6は、それぞれ独立にTiおよびNa以外の金属元素であって、例えばNi、Co、Mn、Fe、AlおよびCrよりなる群から選択される少なくとも1種である)や、Na4-x7 xTi5-y8 y12(0≦x≦11/3、0≦y≦14/3、M7およびM8は、それぞれ独立にTiおよびNa以外の金属元素であって、例えばNi、Co、Mn、Fe、AlおよびCrよりなる群から選択される少なくとも1種である)などを用いることもできる。ナトリウム含有チタン化合物は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。ナトリウム含有チタン化合物は、難黒鉛化性炭素と組み合わせて用いてもよい。なお、M5およびM7はNaサイト、M6およびM8はTiサイトを占める元素である。
難黒鉛化性炭素とは、不活性雰囲気中で加熱しても黒鉛構造が発達しない炭素材料であり、微小な黒鉛の結晶がランダムな方向に配置され、結晶層と結晶層との間にナノオーダーの空隙を有する材料をいう。代表的なアルカリ金属であるナトリウムイオンの直径は、0.95オングストロームであることから、空隙の大きさは、これより十分に大きいことが好ましい。難黒鉛化性炭素の平均粒径(体積粒度分布の累積体積50%における粒径D50)は、例えば3〜20μmであればよく、5〜15μmであることが、負極における負極活物質の充填性を高め、かつ電解質(溶融塩)との副反応を抑制する観点から望ましい。また、難黒鉛化性炭素の比表面積は、ナトリウムイオンの受け入れ性を確保するとともに、電解質との副反応を抑制する観点から、例えば1〜10m2/gであればよく、3〜8m2/gであることが好ましい。難黒鉛化性炭素は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
[電解質(溶融塩)]
電解質(溶融塩)としては、電池の作動温度域(好ましくは90℃以下、更に好ましくは70℃以下)でイオン性液体となる塩が使用される。溶融塩は、カチオンとして、溶融塩電池内において電荷のキャリアとなるナトリウムイオンを少なくとも含む。
電解質に含まれるナトリウムイオン濃度は、電解質に含まれるカチオンの2モル%以上、更には5モル%以上を占めていることが好ましい。このような電解質は、優れたナトリウムイオン伝導性を有し、高電流による充放電を行う場合でも、高容量を達成することが容易となる。
溶融塩としては、例えば、N(SO21)(SO22)・M(ただし、X1およびX2は、それぞれ独立に、フッ素原子または炭素数1〜8のフルオロアルキル基であり、Mはアルカリ金属または窒素含有へテロ環を有する有機カチオンである)で表される化合物を用いることができる。この場合、N(SO21)(SO22)・Mは、少なくともN(SO21)(SO22)・Naを含む。
ナトリウム溶融塩電池において、正極と負極との間にはセパレータが介在しており、セパレータの空隙内には溶融塩が含浸されている。電池作製前の溶融塩に含まれる水分量は、例えば質量比で100ppm以下、更には50ppm以下、特に10ppm以下とすることが好ましい。このような溶融塩と、それぞれが十分に水分量を低減した正極、負極およびセパレータとを用いることで、ナトリウム溶融塩電池内に含まれる水分量(正極、負極およびセパレータに由来する水分を含む)を、十分に小さく低減することができる。
1およびX2で表されるフルオロアルキル基においては、アルキル基の一部の水素原子がフッ素原子で置き換わっていてもよく、全ての水素原子がフッ素原子で置き換わったパーフルオロアルキル基であってもよい。イオン性液体の粘度を低減する観点から、X1およびX2のうち少なくとも一方は、パーフルオロアルキル基であるのが好ましく、X1およびX2の双方が、パーフルオロアルキル基であるのがさらに好ましい。炭素数を1〜8とすることで、電解質の融点の上昇を抑制することができ、低粘度のイオン性液体を得るのに有利となる。特に低粘度のイオン性液体を得る観点からは、パーフルオロアルキル基の炭素数は、1〜3が好ましく、1または2であるのが更に好ましい。具体的には、X1およびX2は、それぞれ独立に、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基などであればよい。
また、N(SO21)(SO22)で表されるビススルフォニルアミドアニオンの具体例としては、ビス(フルオロスルフォニル)アミドアニオン(FSA-);ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)アミドアニオン(TFSA-)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)アミドアニオン、フルオロスルフォニルトリフルオロメチルスルフォニルアミドアニオン(N(FSO2)(CF3SO2))などが挙げられる。
Mで示されるナトリウム以外のアルカリ金属としては、カリウム、リチウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられる。これらのうちでは、カリウムが好ましい。
Mで示される窒素含有へテロ環を有する有機カチオンとしては、ピロリジニウム骨格、イミダゾリウム骨格、ピリジニウム骨格、ピペリジニウム骨格等を有するカチオンを用いることができる。これらの中でも、ピロリジニウム骨格を有するカチオンは、融点の低い溶融塩を形成することができ、かつ高温でも安定である点で好ましい。
ピロリジニウム骨格を有する有機カチオンは、例えば、一般式(1):
Figure 2014175179
で表される。ただし、R1およびR2は、それぞれ独立に、炭素数1〜8のアルキル基である。炭素数を1〜8とすることで、電解質の融点の上昇を抑制することができ、低粘度のイオン性液体を得るのに有利となる。特に低粘度のイオン性液体を得る観点からは、アルキル基の炭素数は、1〜3が好ましく、1または2であるのが更に好ましい。具体的には、R1およびR2は、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などであればよい。
ピロリジニウム骨格を有する有機カチオンの具体例としては、メチルプロピルピロリジニウムカチオン、エチルプロピルピロリジニウムカチオン、メチルエチルピロリジニウムカチオン、ジメチルピロリジニウムカチオン、ジエチルピロリジニウムカチオンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらのうちでは、特に熱的安定性および電気化学的安定性が高いことから、メチルプロピルピロリジニウムカチオン(Py13+)が好ましい。
溶融塩の具体例としては、ナトリウムイオンとFSA-との塩(NaFSA)、ナトリウムイオンとTFSA-との塩(NaTFSA)、Py13+とFSA-との塩(Py13FSA)、Py13+とTFSA-との塩(Py13TFSA)などが挙げられる。
溶融塩の融点は、低い方が好ましい。溶融塩の融点を低下させる観点からは、2種以上の塩の混合物を用いるのが好ましい。例えば、ナトリウムと、ビススルフォニルアミドアニオンとの第1塩を用いる場合、ナトリウム以外のカチオンと、ビススルフォニルアミドアニオンとの第2塩と併用することが好ましい。第1塩および第2塩を形成するビススルフォニルアミドアニオンは、同じであっても異なってもよい。
第1塩として、NaFSA、NaTFSAなどを用いる場合、第2塩としては、カリウムイオンとFSA-との塩(KFSA)、カリウムとTFSA-との塩(KTFSA)などが好ましい。より具体的には、NaFSAとKFSAとの混合物や、NaTFSAとKTFSAとの混合物を用いることが好ましい。この場合、第1塩と第2塩とのモル比(第1塩/第2塩)は、電解質の融点、粘度およびイオン伝導性のバランスを考慮すると、例えば、40/60〜70/30であり、45/55〜65/35であることが好ましく、50/50〜60/40であることが更に好ましい。
第1塩としてPy13の塩を用いる場合、そのような塩は融点が低く、常温でも低粘度である。ただし、ナトリウム塩、カリウム塩などを第2塩として併用することにより、更に低融点となる。第1塩として、Py13FSA、Py13TFSAなどを用いる場合、第2塩としては、NaFSA、NaTFSAなどが好ましい。より具体的には、Py13FSAとNaFSAとの混合物や、Py13TFSAとNaTFSAとの混合物を用いることが好ましい。この場合、電解質の融点、粘度およびイオン伝導性のバランスを考慮すると、第1塩と第2塩とのモル比(第1塩/第2塩)は、例えば98/2〜80/20であればよく、95/5〜85/15であることが好ましい。
電解質には、溶融塩以外に、様々な添加剤を含ませることができる。ただし、イオン伝導性や熱安定性を確保する観点から、電池内に充填される電解質の90〜100質量%、更には95〜100質量%が溶融塩により占められていることが好ましい。
[セパレータ]
セパレータの材質は、電池の使用温度を考慮して選択すればよいが、電解質との副反応を抑制する観点からは、ガラス繊維、シリカ含有ポリオレフィン、フッ素樹脂、アルミナ、ポリフェニレンサルファイト(PPS)などを用いることが好ましい。なかでもガラス繊維の不織布は、安価であり、耐熱性も高い点で好ましい。また、シリカ含有ポリオレフィンやアルミナは、耐熱性に優れる点で好ましい。また、フッ素樹脂やPPSは、耐熱性と耐腐食性の点で好ましい。特にPPSは、溶融塩に含まれるフッ素に対する耐性に優れている。
セパレータの水分量は、例えば質量比で10〜200ppmであることが好ましい。このような水分量を有するセパレータは、例えば、90℃以上(より好ましくは90〜300℃)の乾燥温度で、10Pa以下、好ましくは1Pa以下、より好ましくは0.4Pa以下の減圧環境中で、乾燥することで得られる。正極や負極と同様に、処理雰囲気の空気を予め不活性ガスや露点温度−50℃以下のドライエアーに置換しておくことで、より効果的に水分を除去できる。セパレータに含まれる水分の質量割合は、試料としてセパレータを用いること以外、正極および負極と同様にしてカールフィッシャー法により測定すればよい。
セパレータの厚さは、10μm〜500μm、更には20〜50μmであることが好ましい。この範囲の厚さであれば、内部短絡を有効に防止でき、かつ電極群に占めるセパレータの容積占有率を低く抑えることができるため、高い容量密度を得ることができるからである。
[電極群]
溶融塩電池は、上記の正極と負極を含む電極群および電解質を、電池ケースに収容した状態で用いられる。電極群は、正極と負極とを、これらの間にセパレータを介在させて積層または捲回することにより形成される。このとき、金属製の電池ケースを用いるとともに、正極および負極の一方を電池ケースと導通させることにより、電池ケースの一部を第1外部端子として利用することができる。一方、正極および負極の他方は、電池ケースと絶縁された状態で電池ケース外に導出された第2外部端子と、リード片などを用いて接続される。
次に、本発明の一実施形態に係るナトリウム溶融塩電池の構造について説明する。ナトリウム溶融塩電池は、正極、負極、正極と負極との間に介在するセパレータおよび電解質を含む。電解質は、少なくともナトリウムイオンを含む溶融塩からなる。なかでも、設計容量が10Ah以上である比較的大型のナトリウム溶融塩電池は、ガス発生の影響を受けやすいことから、本発明に係る正極活物質を用いることにより、副反応を抑制することが非常に有効である。また、本発明に係る正極活物質は、例えば33Ah以下、特に15〜30Ahの設計容量を有する比較的大容量のナトリウム溶融塩電池に用いるのに特に有効である。
ナトリウム溶融塩電池の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。ただし、本発明に係るナトリウム溶融塩電池の構造は、以下の構造に限定されるものではない。
図5は、電池ケースの一部を切り欠いた溶融塩電池の斜視図であり、図6は、図5におけるVI−VI線断面を概略的に示す縦断面図である。
溶融塩電池100は、積層型の電極群11、電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型のアルミニウム製の電池ケース10を具備する。電池ケース10は、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋部13とで構成されている。溶融塩電池100を組み立てる際には、まず、電極群11が構成され、電池ケース10の容器本体12に挿入される。その後、容器本体12に溶融状態の電解質を注液し、電極群11を構成するセパレータ1、正極2および負極3の空隙に電解質を含浸させる工程が行われる。あるいは、加熱された溶融状態の電解質(溶融塩)に電極群を含浸し、その後、電解質を含んだ状態の電極群を容器本体12に収容してもよい。
蓋部13の一方側寄りには、電池ケース10と導通した状態で蓋部13を貫通する外部正極端子14が設けられ、蓋部13の他方側寄りの位置には、電池ケース10と絶縁された状態で蓋部13を貫通する外部負極端子15が設けられている。蓋部13の中央には、電子ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。
積層型の電極群11は、いずれも矩形のシート状である、複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。図6では、セパレータ1は、正極2を包囲するように袋状に形成されているが、セパレータの形態は特に限定されない。複数の正極2と複数の負極3は、電極群11内で積層方向に交互に配置される。
各正極2の一端部には、正極リード片2cを形成してもよい。複数の正極2の正極リード片2cを束ねるとともに、電池ケース10の蓋部13に設けられた外部正極端子14に接続することにより、複数の正極2が並列に接続される。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3cを形成してもよい。複数の負極3の負極リード片3cを束ねるとともに、電池ケース10の蓋部13に設けられた外部負極端子15に接続することにより、複数の負極3が並列に接続される。正極リード片2cの束と負極リード片3cの束は、互いの接触を避けるように、電極群11の一端面の左右に、間隔を空けて配置することが望ましい。
外部正極端子14および外部負極端子15は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋部13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋部13の内面に、ワッシャ9を介して固定される。
次に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
《実施例1》
(正極活物質の調製)
平均粒径D50が2.0μmの炭酸ナトリウム(Na2CO3)と、平均粒径D50が1.5μmの酸化クロム(Cr23)とを、ナトリウムとクロムのモル比が1:1.01となる量で混合した。得られた混合物を、窒素雰囲気中、900℃で8時間加熱して、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO2)を含む正極活物質を得た。
(炭酸ナトリウム量の測定)
次に、以下の方法で正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合を求めた。
所定量のイオン交換水と、得られた正極活物質とを混合して、測定用試料を得た。測定用試料における炭酸イオン(CO3 2-)濃度を、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス株式会社製のイオンクロマトグラフ分析装置:ICS−3000)により求めたところ、測定できなかった。したがって、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、測定限界である1ppm未満であることがわかった。
(正極の作製)
得られた正極活物質に対して粉砕、分級を行い、平均粒径を10μmとした。平均粒径10μmの正極活物質85質量部、アセチレンブラック(導電性炭素材料)10質量部およびポリフッ化ビニリデン(結着剤)5質量部を、分散媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させ、正極ペーストを調製した。得られた正極ペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥させ、圧延し、所定の寸法に裁断して、両面に厚さ80μmの正極活物質層を有する正極を作製した。正極の寸法は、幅46mm、長さ46mm、総厚180μmとした。
(負極の作製)
厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に、厚さ100μmのナトリウム金属を貼り付けた。アルミニウム箔には、アルミニウム製の負極リードを溶接した。
(セパレータ)
厚さ50μm、空隙率90%のポリオレフィン製のセパレータを準備した。セパレータは、50×50mmの寸法に裁断した。
(電解質)
ナトリウムビス(フルオロスルフォニル)アミド(NaFSA)とカリウムビス(フルオロスルフォニル)アミド(KFSA)とのモル比56:44の混合物からなる電解質を調製した。この電解質(溶融塩)の融点は61℃である。
(ナトリウム溶融塩電池の作製)
正極、負極およびセパレータを、0.3Paの減圧下で、90℃以上で加熱して乾燥させた。乾燥は、正極および負極の水分量が、それぞれ50ppmおよび30ppmになり、セパレータの水分量が100ppmになるまで行った。
正極、負極およびセパレータの水分量は、それぞれ5gを測定試料として、水分量測定装置(京都電子工業株式会社製のMKC−610)を用いてカールフィッシャー法(電量滴定法)により測定した。
一方、溶融塩に、露点温度−50℃以下の雰囲気中で、固体状のナトリウムを、溶融塩100質量部あたり10質量部浸漬し、90℃で攪拌した。その結果、溶融塩の水分量は1ppm未満に低減した。
正極と負極とを、これらの間にセパレータを介在させて積層し、電極群を作製した。得られた電極群をアルミニウム製のケースに収容し、ケース内に電解質を注液して、設計容量500mAhのナトリウム溶融塩電池を作製した。
[評価]
(i)サイクル特性
得られたナトリウム溶融塩電池を恒温室内で90℃になるまで加熱し、温度が安定した状態で、以下の(1)〜(3)の条件を1サイクルとして、1000サイクル充放電を行い、1サイクル目の放電容量に対する1000サイクル目の放電容量(容量維持率)を求めた。結果を表1に示す。
(1)充電電流0.2Cで、充電終止電圧3.5Vまで充電
(2)3.5Vの定電圧で終止電流0.01Cまで充電
(3)放電電流0.2Cで、放電終止電圧2.5Vまで放電
(ii)ガス発生の有無の評価
(i)のサイクル特性評価後の電池の厚さを、ダイヤルゲージを用いて測定した。この厚さを、サイクル特性評価前の電池の厚さと比較することにより、ガスによる電池膨れの有無を確認した。なお、電池膨れが初期厚さの3%未満であるとき、電池膨れ「なし」と判断し、電池膨れが初期厚さの3%以上であるとき、電池膨れ「あり」と判断した。
《実施例2》
正極活物質の調製において、炭酸ナトリウムと酸化クロムとを、ナトリウムとクロムのモル比が1:1となる量で混合したこと以外、実施例1と同様にして、正極活物質を調製した。得られた正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、100ppmであった。
《実施例3》
正極活物質の調製において、加熱時間を5時間としたこと以外、実施例2と同様にして、正極活物質を調製した。得られた正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、400ppmであった。
《実施例4》
正極活物質の調製において、加熱時間を5時間としたこと以外、実施例1と同様にして、正極活物質を調製した。得られた正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、200ppmであった。
《実施例5》
正極活物質の調製において、加熱温度を850℃としたこと以外、実施例1と同様にして、正極活物質を調製した。得られた正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、500ppmであった。
《比較例1》
正極活物質の調製において、加熱温度を850℃とし、加熱時間を5時間としたこと以外、実施例2と同様にして、正極活物質を調製した。得られた正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、0.1%(1000ppm)であった。
《比較例2》
正極活物質の調製において、炭酸ナトリウムと酸化クロムとを、ナトリウムとクロムのモル比が1:0.99となる量で混合したこと以外、実施例1と同様にして、正極活物質を調製した。得られた正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、900ppmであった。
《比較例3》
正極活物質の調製において、加熱温度を850℃としたこと以外、実施例2と同様にして、正極活物質を調製した。得られた正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合は、600ppmであった。
上記の正極活物質を用いたこと以外、実施例1と同様にして各ナトリウム溶融塩電池を作製し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
Figure 2014175179
表1より、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合が500ppm以下である実施例1〜5のナトリウム溶融塩電池は、いずれも電池膨れがみられなかった。また、実施例1〜5の電池は、いずれも優れたサイクル特性を示した。これは、炭酸ナトリウムの質量割合を低減したことで、炭酸ナトリウムに由来する副反応が十分に抑制されたためであると考えられる。
一方、正極活物質に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合が500ppmを超える比較例1〜3のナトリウム溶融塩電池は、いずれも多量の炭酸ガスが発生したことによると思われる、電池の膨れが確認された。また、比較例1〜3の電池は、いずれも、実施例1〜5の電池に比べて容量維持率が大きく低下していた。これは、正極に含まれる導電性炭素材料が、正極活物質に残存する炭酸ナトリウムと反応して失われ、十分な導電経路を確保できなくなったためと考えられる。
本発明に係るナトリウム溶融塩電池用正極活物質によれば、炭酸ナトリウムと導電性炭素材料の副反応に由来する炭酸ガスの発生が抑制されるため、優れたサイクル特性および信頼性を有するナトリウム溶融塩電池を提供することができる。本発明に係るナトリウム溶融塩電池は、例えば、家庭用または工業用の大型電力貯蔵装置、電気自動車、ハイブリッド自動車などの電源として有用である。
1:セパレータ、2:正極、2a:正極集電体、2b:正極活物質層、2c:正極リード片、3:負極、3a:負極集電体、3b:負極活物質層、3c:負極リード片、7:ナット、8:鍔部、9:ワッシャ、10:電池ケース、11:電極群、12:容器本体、13:蓋部、14:外部正極端子、15:外部負極端子、16:安全弁、100:溶融塩電池
蓋部13の一方側寄りには、電池ケース10と絶縁した状態で蓋部13を貫通する外部正極端子14が設けられ、蓋部13の他方側寄りの位置には、電池ケース10と導通した状態で蓋部13を貫通する外部負極端子15が設けられている。蓋部13の中央には、電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。

Claims (8)

  1. 電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出可能であるナトリウム含有金属酸化物を含み、炭酸ナトリウムの質量割合が500ppm以下である、ナトリウム溶融塩電池用正極活物質。
  2. 前記ナトリウム含有金属酸化物が、一般式:Na1-x1 xCr1-y2 y2(0≦x≦2/3、0≦y≦0.7であり、M1およびM2は、それぞれ独立にCrおよびNa以外の金属元素である)で表される化合物である、請求項1に記載のナトリウム溶融塩電池用正極活物質。
  3. 正極集電体および前記正極集電体に付着した正極活物質層を含み、
    前記正極活物質層が、請求項1または2に記載の正極活物質と、導電性炭素材料とを含む、ナトリウム溶融塩電池用正極。
  4. 前記正極に含まれる炭酸ナトリウムの質量割合が500ppm以下である、請求項3に記載のナトリウム溶融塩電池用正極。
  5. 前記正極に含まれる水分の質量割合が200ppm以下である、請求項3または4に記載のナトリウム溶融塩電池用正極。
  6. 正極、負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータおよび電解質を含み、
    前記電解質が、少なくともナトリウムイオンを含む溶融塩であり、
    前記正極が、請求項3〜5のいずれか1項に記載のナトリウム溶融塩電池用正極である、ナトリウム溶融塩電池。
  7. 前記電解質に含まれる前記ナトリウムイオンの濃度が、前記電解質に含まれるカチオンの2モル%以上を占めている、請求項6に記載のナトリウム溶融塩電池。
  8. 設計容量が、10Ah以上である、請求項6または7に記載のナトリウム溶融塩電池。


JP2013047169A 2013-03-08 2013-03-08 ナトリウム溶融塩電池用正極活物質、ナトリウム溶融塩電池用正極およびナトリウム溶融塩電池 Pending JP2014175179A (ja)

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