JP2014159520A - インクジェットインキ、その製造方法、およびその使用方法 - Google Patents

インクジェットインキ、その製造方法、およびその使用方法 Download PDF

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Abstract

【課題】食品、または、薬剤への添加が許容される材料のみにより構成させたインキであって、吐出が安定で、且つ、再溶解性が良好なインクジェットインキを実現すること。
【解決手段】本発明のインクジェットインキは、いずれも、食品添加物または薬剤への使用が認可されている、色素と、セラック樹脂がエタノールに溶かされたセラック樹脂エタノール溶液と、セルロース系樹脂と、更なる希釈用のエタノールと、を含んで成るインクジェットインキであって、前記セラック樹脂エタノール溶液は、32重量%エタノール溶液において、酸価が80mg以上85mg以下、且つ、pHが0.5以上3.0以下に調整されていることを特徴とするものである。このインクジェットインキは、エタノール溶液中における酸価を下げることで、吐出が安定で、且つ、再溶解性が良好なインクジェットインキを実現できたのである。
【選択図】なし

Description

本発明は、食品、健康食品、および経口薬剤の表面、食品を包む包装材料、食品と接触する機会のある材料などに、インクジェットプリンタで印刷記録するために使用されるインキに係り、特にエタノールによる乾燥性を向上させたインクジェットインキ、その製造方法、およびその使用方法に関する。更には、インクジェットインキとしての安定性、再溶解性に優れたセラック樹脂を用いるインクジェットインキに関する。
インキを扱う技術分野としては、例えば筆記具、印刷、プリンタなどの分野が知られているが、なかでも印刷分野とプリンタ分野は文字フォントや図形を記録対象物に記録するという点で共通している。そのうち、印刷分野には、主なものとしてオフセット、グラビア、スクリーンなどが知られている。オフセットは、オフセット版に付けたインキをブランケットに転移させ、更に紙などに転移させて印刷するようになっている。このオフセットに使用されるインキは転写特性が必要であるため水飴状に調製されていて、従来一般には版に湿し水を使用してインキの付着を制御していることから、インキの乳化適性が求められる。スクリーンは、スクリーン版の穴からインクをスキュージで押し出して印刷するもので、使用されるインキにはそれなりの粘度が必要とされ、一般的には100mPa・s以上である。版での版乾きや版の目詰まりが生じやすいことから、乾きが遅い、いわゆる遅口の溶剤を使用する制約がある。グラビアは、凹版のくぼみセルにインキが入り、くぼみセルのインキを紙等に転写させるようになっている。しかしながら、凹版でのインキ転移率や凹版の詰まり等が課題となりやすい。
一方、インクジェットプリンタは、ポンプや圧電素子などにより加圧されたインキをノズル孔から記録対象物に噴きつけて記録するものである。印刷インキは版を用いるための特性が必要であるのに対し、インクジェットプリンタは版を用いないことから、プリンタとインキとのマッチング(吐出性、安定性、粘度、導電性、ドット形成など)が必要であり、それらは極めて重要である。そして、プリンタ用インキと印刷用インキは「インキ」という共通語で表わされるが、インクジェットの場合は記録計の記録液という意味合いが強く、印刷用インキとは別物であると考えられる。因みに、インクジェットプリンタに使用されるインキに近いものとしてはグラビア印刷用のインキがあるが、通常、グラビア印刷用インキの粘度はインクジェット用インキと比べて10倍以上高いという大きな違いがある。
ところで、近年、食品および食品用包装材料には生産地、生産者、生産履歴等の表示が必要になり、また品質に関しては賞味期限や製造日等の表示が必要になってきている。そして、これらの情報を表示することは、安全性の確認が行え、商品への安心感や信頼性が得られる。また、このような観点での対応から、品質の向上も図られる。一方で、食品類ないし関連の包装材料に、文字、図形、デザイン等の加工を施すことも、購買意欲をそそる商品とするための重要な要素である。食品に直接記録する場合は、当然可食性の材料からなるインキを用いることが必要であるが、食品に関連した例えば包装などの材料に記録する場合においても、可食性のインキ材料を使用すると、より安心感が得られる。このような観点から、食品素材ないし食品添加物からなる材料で構成されるインキが望まれている。
しかしながら、食品ないし食品添加物からなるインキを調製することは、インキ材料に制約がある。また、このようなインキ材料は種類が少ないことから、一般のインクジェットインキと同様に調製することは困難であった。 従来、食品関連への対応として、食品添加物からなるインキが知られている。たとえば、食品添加物着色料である水溶性染料を水に溶解したものがインクジェットインキとして公知である。しかしながら、このようなインキは、水に溶解する色素を含むため、耐水性が劣り、水に接触する対象物には使用できない。また、濃色の記録対象物に対しては、透明性がありすぎて濃度も十分にでない。
そこで、下記の特許文献1には、耐水性に優れ、食品表面への印字に適したインクジェットインキが開示されている。このインキは、セラック樹脂をバインダーとし、エタノールと水を溶剤とし、鉄クロロフィリンナトリウムまたは(および)銅クロロフィリンナトリウムを着色剤として含む緑色インキ組成物である。ところで、使用されている銅クロロフィリン等の着色材は、アルコールに対して十分な溶解性を有するものでなく水溶性の色素であるから、インキの濃度を上げるためには多量の水の使用が不可欠になる。従って、このインキは本質的に水を主体として含むものであり、これに少量のエタノールを混合して用いるものであった。また、食品添加物で許可されていない材料もその一部に用いていた。
特許文献2には、ヤマモモ抽出物等を可食性の安定剤として含有するインキが示されている。この特許文献2では、色素の耐光性を安定化させることを目的としている。インキの組成は、水をインキ全体の70重量%以上も用いるインキであり、色素および安定剤は、専ら水に対する溶解性を有するもので、エタノールはインキ全体の約20重量%程度しか使用されていない。従って、水によって容易に色素、樹脂等が溶解されやすい、いわゆる水性のインキを示したものと認められ、乾燥性の良好なアルコールを多く含むアルコールタイプのインキとは構成が異なる。
特許文献3には、乾燥性が良好なエタノール含有タイプのインクジェットインキが示されている。この特許文献3のようにエタノールを使用するインクジェットインキとして、セラック樹脂は、一般的に用いられる樹脂の一つである。しかしながら、セラック樹脂は、インクジェットインキへの適性を十分に備えた樹脂とは言いがたい特性を示すことがあり、溶解性の不足、とりわけインキの再溶解性においては、十分とは言いがたい面が問題となる材料でもあった。そこで、このセラック樹脂を用いるインキに関して、更に安定化させること、また、インクジェットインキとしての特性を損なわずに用いることが必要とされる。
特開昭53−127010号公報 特開平09−302294号公報 特開2005−314697号公報
本発明は、種々の食品、健康食品、経口する薬剤、食品と接する材料、食品包装材料等に記録した場合においても十分な視認性を有するインクジェットインキの提供を目的とする。また、種々の食品、食品に接する材料、食品包装材料等に記録した場合に水に濡れても、色素の溶出がなく、見た目に嫌悪感を生じさせないようなインキおよび記録された食品ないし包装材料等の提供を目的とする。また、食品、または、薬剤への添加が許容される材料のみにより構成させたインクジェットインキ、このインキにより記録された包装材料の提供を目的とし、特に、直接食品に接することがあって、また飲食に際して、食品が接する、あるいは、記録部分が、直接口に接触するような場合においても、衛生面に関する懸念を払拭することを目的とする。
尚、本発明の対象は、口にいれて食しても問題のないものを食品として対象とするが、健康食品や薬事法で制約されるような錠剤等も口にいれるものであるため、本発明では食品と同様の記録対象物として取り扱う。
本発明者等は、上記したセラック樹脂をインクジェットインキに用いる際の問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、乾燥性向上のためにエタノールを含むことを前提に、セラック樹脂の特性を鋭意検討したところ、エタノール溶液中における酸価を下げることで、吐出が安定で、且つ、再溶解性が良好なインクジェットインキを実現できたのである。
すなわち、本発明に係るインクジェットインキは、いずれも、食品添加物または薬剤への使用が認可されている、色素と、セラック樹脂がエタノールに溶かされたセラック樹脂エタノール溶液と、セルロース系樹脂と、更なる希釈用のエタノールと、を含んで成るインクジェットインキであって、前記セラック樹脂エタノール溶液は、32重量%エタノール溶液において、酸価が80mg以上85mg以下、且つ、pHが0.5以上3.0以下に調整されていることを特徴とするものである。この場合、食品添加物としての認可は食品衛生法の規定による。以下、同じである。
また、本発明は、上記構成において、食品添加物または薬剤への使用が認可されている導電剤を更に含んでいるインクジェットインキを提供する。
そして、本発明は、上記の各構成において、いずれも、食品添加物または薬剤への使用が認可されている、色素0.1重量部以上20重量部以下、セラック樹脂0.1重量部以上20重量部以下、セルロース系樹脂0.1重量部以上10重量部以下、エタノール40重量部以上90重量部以下、水1重量部以上20重量部以下、および導電剤0.1重量部以上2重量部以下を含んで成るインクジェットインキを提供する。
更に、本発明は、上記の各構成におけるセルロース系樹脂がヒドロキシプロピルセルロースであるインクジェットインキを提供する。
また、本発明は、上記の各構成における色素が酸化チタンであるインクジェットインキを提供する。
そして、本発明は、上記の各構成における色素が炭末色素であるインクジェットインキを提供する。
更に、本発明は、上記の各構成において、食品添加物または薬剤への使用が認可されているpH調整剤を更に含んでいるインクジェットインキを提供する。
また、本発明は、上記の各構成におけるセラック樹脂エタノール溶液が、固体の酸触媒と接触処理されたものであるインクジェットインキを提供する。
そして、本発明は、上記構成における固体の酸触媒がH+型陽イオン交換樹脂であるインクジェットインキを提供する。
更に、本発明は、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のインクジェットインキを製造する方法であって、セラック樹脂をエタノールに溶解させて得られた32重量%セラック樹脂エタノール溶液の酸価を調整する酸価調整工程と、水を主体として含む水系溶剤にセルロース系樹脂を溶解させて得られたセルロース系樹脂溶液に、色素を分散させて分散体を得る分散体調製工程と、前記酸価調整工程で酸価を調整されたセラック樹脂エタノール溶液に、前記分散体調製工程で得られた分散体を混合して色素を更に分散させる再分散工程と、を備えていることを特徴とするインクジェットインキの製造方法を提供する。
また、本発明は、請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで食品関連の記録対象物に記録するにあたり、エタノール、水、および炭酸アンモニウムを含んでなる希釈溶剤で前記インクジェットインキを希釈してインクジェットプリンタで用いることを特徴とするインクジェットインキの使用方法を提供する。
本発明によれば、粉末の白色セラックや精製セラックをエタノールにて溶解した溶液をそのまま使用するインクジェットインキに比べ、インクジェットプリンタでの稼動経過時間での安定性や再溶解性に優れたインキを得ることができた。すなわち、本発明のインクジェットインキによれば、色素と、セルロース系樹脂と、更なる希釈用のエタノールとに加えて、特に、32重量%エタノール溶液において、酸価が80mg以上85mg以下、且つ、pHが0.5以上3.0以下に調整されたセラック樹脂エタノール溶液が使用されるので、色素を安定に分散させたインクジェットインキを得ることができた。そして、この発明により、ノズル口径が微細なプリンタにて発生しやすいドット落ちや、飛行曲がりが生じにくくなり、高精細な文字の記録も、色素分の多いインキを処方するための対応も可能になったのである。
そして、この発明により、食品または、薬剤への添加が許容される材料のみにより構成されたインクジェットインキが得られた。このように食品素材および食品添加物にて構成されたインキは安心して食品包装材料に使用することができ、このインキにより記録された食品ないし包装材料は、記録の過程での食品への混入や接触があっても問題のない包装を実施することができる。本発明のインキを用いて種々の食品、食品と接する材料、食品包装材料等に記録した場合、その記録部分に十分な視認性をもたらすことができる。また、記録対象物が濃色の場合であっても、透明な染料を用いた場合のように視認性の低下を招くことがなく、不透明で明瞭な印刷記録を形成することができる。特に、直接食品に接することがあって、または飲食に際して、食品が接する、あるいは記録部分が、直接口に接触するような場合においても、衛生面に関する懸念を払拭することができる。そして、種々の食品、食品に接する材料、食品包装材料等に記録した場合に、水に濡れても色素の溶出がなく、見た目に嫌悪感を与えないという利点がある。
また、本発明に係るインクジェットインキの製造方法によれば、まず、エタノールに溶けやすいセラック樹脂がエタノールに溶解されてセラック樹脂エタノール溶液とされ、このセラック樹脂エタノール溶液に酸価調整処理が施される。一方、水に溶けやすいセルロース系樹脂が、水を主体とする水系溶剤に溶解されてセルロース系樹脂溶液とされ、このセルロース系樹脂溶液に可食の色材(たとえば、酸化チタン、炭末色素、食用合成色素等)が容易に分散されて分散体にされる。この分散体が、酸価調整処理後のセラック樹脂エタノール溶液に混合される。これにより、分散体中の色素が安定に分散されたインキを得ることができる。
そして、本発明に係るインクジェットインキの使用方法によれば、エタノール、少量の水、および炭酸アンモニウムを含んでなる希釈溶剤で、適宜インクジェットインキを希釈しながらインクジェットプリンタで使用するので、インクジェットプリンタで過酷な連続印字を行なう場合でも、プリンタ内でのインキの濃縮を防ぐことができ、pHをアルカリサイドに保持できる。これにより、インキ中でセラック樹脂の溶解性低下をもたらすことがなく、インキの安定性が確保されて長期の連続印字性能を安定に継続することができる。
以下、本発明に係る実施の形態を詳しく説明する。
「色素」
本発明に係るインクジェットインキは記録対象物にインキを噴き付けて印刷記録するインクジェットプリンタ用のインキであり、全ての成分が食品添加物または、薬剤、医薬品添加物として認可されたもので構成されている。そして、このインキは、酸化チタン、炭末色素、三二酸化鉄、黄色酸化鉄、食用タール色素およびそのアルミニウムレーキを可食性の色素および不透明性の材料として用いている。
本発明で用いる色素は、食品添加物または薬剤への使用が認可されているものであれば特に限定されないが、例えば植物を炭化して得た炭素を主成分とするものが食品関連用途の観点から好ましい。このような植物由来の炭末色素としては、カカオ果実の殻を焙焼したものが一般的に知られている。そして、例えば、植物を水蒸気賦活法で高温に加熱して炭化させて得たもの、植物油脂を燃焼させて得たもの等も、食品添加物色素として認められている。また、竹の炭化物である竹炭や、広葉樹や針葉樹等の木炭等も植物炭末色素として挙げられる。
本発明では、植物を由来とする炭末色素のなかでも、特に広葉樹である、樫、なら、しい、柏等を原料として用いたものが好ましい。特に、ウバメカシ等を用いて得られる備長炭を用いるとより好ましい。この備長炭は、紀州および土佐等にて生産されており、多数の孔を有する構造からなっている。これは、炭化前の植物の構造に関するものと推定されるが、このような構造であるためか、非常に硬い材料である割には、インクジェット用としてどうしても必要な微細化が比較的容易にできる。また、備長炭は炭素分が多いためにインキにした際の黒色感が得られやすい。また、備長炭は、食品類へ使用されて長い文化を経てきた材料でもある。従って、食品類での使用に対しての安心感が得られる貴重な材料でもある。また、備長炭は、タケスミよりも電気抵抗が低い材料であり、インキ製造における静電気の影響を受けにくく取り扱い易い材料である。
このような備長炭をはじめとする炭末色素は、一般的に塊状で入手されるので、これらを粉砕機にて粗粉砕し、そののちに、分散させやすい微細化を行なって使用する。このような微細化の方法としては、機械的な衝撃による各種の汎用粉砕機を用いることができる。また、更に微細化するためには、ジェットミル等の微粉砕機を用いることが望ましい。インクジェトインキとするためには、このように微粉砕された炭末色素を用いて、可食樹脂に分散させる。
インクジェットインキの材料として使用するため、可食樹脂に分散させる色素は、平均粒子径が0.01μm以上10μm以下のものが好ましい。平均粒子径が10μmよりも大きいと、可食樹脂への十分な分散に時間がかかりすぎる。また、過剰に熱の影響を受けて、可食樹脂の特性を変えてしまう恐れがある。色素の平均粒子径が0.01μmよりも小さいと、印字濃度の低下という不具合を生じる。
可食樹脂への分散に際しては、色素と可食樹脂を二本ロール間で板状に圧延して分散させる方法、炭末色素と可食樹脂との高粘度混合物を3本ロールで圧延して分散させる方法、中粘度状態の混合物を高速アジテーターミルで分散させる方法、溶剤分を少なくした状態で色素と可食樹脂とをボールミルによる衝撃を加える方法等を適宜選択して用いることができる。但し、分散における樹脂溶液との混合態様から、ジルコニアビーズ等を分散メディアとする横型サンドミルを用いた分散が好ましい。また、分散メディアを使用しないメディアレスの分散機を用いることも、コンタミネーション(異物の混入や汚染)の少ない分散体を製造するために有効な方法である。このようなメディアレスの分散機としては、製品名として例えば、ナノマイザー(ナノマイザー社)、スターバースト((株)スギノマシン)、マイクロフルイダイザー((株)パウレック)等が挙げられる。
上記のように混合した色素と可食樹脂からインキを調製する際には、色素の平均粒子径として0.05μm以上3μm以下にすることが好ましい。更には、平均粒子径1μm以下のものを分散させることがより好ましい。このような平均粒子径の調整は横型サンドミルにより行なうことができる。すなわち、色素の平均粒子径が3μmよりも大きい場合は、インキの保存中の沈降が著しく発生し、プリンタの配管系でのインキの沈降や詰りが発生しやすくなる。また、平均粒子径を0.05μmよりも微細にすることは、著しい分散エネルギーを無用に要するため得策でなく、また透明性を誘発する点でも好ましいといえない。このような平均粒子径0.05〜3μmの範囲内の色素を含むインキにより、良好な不透明性および各色の色再現が可能となる。インキ調製時に分散される色素の平均粒子径については、レーザー光を用いた、例えば光散乱法等の種々の方式の粒度分布計で測定することができる。
色素は、本発明における他の成分の含有重量部と関連するが、0.1重量部〜20重量部の範囲でインキに含まれることが好ましい。さらに、好ましくは、0.1〜15重量部である。含有量が0.1重量部より少ないと、印字濃度が不十分となる。色素の含有量が20重量部を越えると、分散の不良および連続印字適性の低下を生じる。特に、連続した記録において、安定性が悪くなる傾向にある。また、プリンタ内のインキ配管系での流動性が不足する問題を生じるおそれがある。そして、本発明では、白いインキ用の色素として、食品用の酸化チタンが使用できる。また、薬剤用の色素において、赤、茶色、黄色については、酸化鉄が使用できる。また、エタノールに対する溶解性のある食用色素、アルミニウムにてレーキ化された食用色素、または薬剤用色素を用いることができ、これらを組み合わせて用いることにより各種の色の調整も可能である。
「セラック樹脂」
本発明で使用するセラック樹脂は、ラックカイガラ虫由来の樹脂状物質を精製して得た可食性樹脂であり、多種類の樹脂酸およびそのエステル化物、ワックス、色素等の混合物とされていて、エタノール可溶性タイプのものが特に好ましく用いられる。インクジェットインキにおいては、セラック樹脂のなかでも、ワックスや色素分が予め除去された精製セラックを用いることが好ましい。更に、漂白処理された白色セラックも好ましく用いられる。このセラック樹脂は、本発明にて使用する色素の分散および耐水性を有する定着に寄与し、エタノールに溶解してインキの粘度を上昇させる働きも有する。また、このセラック樹脂は、水/エタノール混合系の溶剤にも溶解する。このように水を一部混合した溶剤に使える点でも好ましいバインダーとして寄与する。
「セラック樹脂エタノール溶液の酸価の調整」
セラック樹脂は、エタノール溶液としたとき、一般的に酸価が89前後になっていることが多い。また、このエタノール溶液のpHが、3.6付近になっていることが多い。しかしながら、このような酸価のセラック樹脂溶液にてインクジェットインキを調製すると、長期での連続吐出において、インキの飛行曲がりや、インキ滴着弾位置異常(ドット落ち)という現象が生じやすい。そこで、酸価について検討したところ、酸価が80〜85、pHが0.5〜3.0のセラック樹脂エタノール溶液を用いることで、これらの問題が格段に少なくなることを確認した。
すなわち、本発明は、32重量%濃度のときの酸価が80〜85、pHが0.5〜3.0であるセラック樹脂エタノール溶液を用いることを特徴とする。このエタノール溶液の酸価の調整は、酸の添加や、エタノール溶液調整後の経過時間や処理温度にても行うことができるが、調整に非常な長期間を有するため、この方法は容易には採用しがたい。そこで、セラック樹脂エタノール溶液を、固体の酸触媒と混合して処理する方法が好ましい。また、この固体の酸触媒としては、H+型陽イオン交換樹脂であることが、比較的短時間にて行なえるために好ましい。ここで用いられる酸触媒としては、例えばオルガノ株式会社より市販されているXN−1004,XN−1005、アンバーリスト15DRY、アンバーリスト15WET、アンバーリスト15JWET、アンバーリスト31WET等が例示される。特に、強酸性タイプのものが好ましい。
セラック樹脂のこのような酸価、pHへの調整は、粉末のセラック樹脂からエタノールの25〜50重量%の樹脂溶液を調整したのち、固体の酸触媒(たとえば、H+型陽イオン交換樹脂)を20〜40wt%添加して攪拌し、接触処理することを3〜10時間程度実施する。処理温度としては、20〜30℃にて行なうことができる。その後、酸触媒を濾過にて取り出す。また、酸触媒をカラム充填し、このカラムにセラック樹脂のエタノール溶液を通過させるという接触処理でも対応可能である。
常法により酸価を滴定し、酸価が80〜85、また、pHメーターにてpHを測定し、pHが0.5〜3.0であることを確認して、インクジェットインキの材料として使用する。
尚、酸価の調整に伴なうセラック溶液の特性の変化としては、固形分が約10%弱低下する。また、粘度は半分程度に低下する。再溶解性が格段に向上し(再溶解性のNGだったものが、OKレベルとなる)。また、エタノール溶液を乾燥させてフィルム形成した表面のエタノールによる拭き取りにおいても2倍程度のふき取り速さの向上が確認できる。
そして、このセラック樹脂を水と一部混合する形態にする場合、安定した溶解性を維持させるために、インキのpHを7.5〜10.5のアルカリサイドにpH調整剤にて調整することができる。インキのpHが7.5よりも低いと、セラック樹脂の一部が析出しやすくする。他方で、インキのpHが10.5を超えると、プリンタ内や印字時の臭気が問題になってくる。
インキのpHを上記範囲内に調整するpH調整剤としては、食品添加物であって印字後に揮発していく成分であることが耐水性の観点より好ましく、例えば水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。なかでも、残留が問題にならない観点から、水酸化アンモニウムないし炭酸アンモニウムを用いてpHを調整することが好ましい。
本発明のインクジェットインキにおいて、食品添加可能な樹脂を用いることによって、水に浸漬したり擦ったりしても、記録したインキの溶出を極力抑えられる耐水性と耐摩擦性を持たせることができる。このような食品添加可能樹脂としては、前記のセラック樹脂はもとより、ダンマル樹脂、コーパル樹脂等がエタノール系溶剤への溶解性が高いことから用いやすい。その他に、水溶性樹脂を用いることも可能である。かかる水溶性樹脂として、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、結晶セルロース、ゼラチン、カゼイン、大豆蛋白、アラビアゴムシクロデキストリン等を溶剤の種類に応じて樹脂の一部として用いることができる。
「セルロース系樹脂」
本発明では、前記したセラック樹脂とともにセルロース系樹脂を併用することができる。このセルロース系樹脂は、水単独、あるいは水とエタノールの混合溶剤に溶解させて用いられる。
また、色素のセラック樹脂への分散の前に、予め色素をセルロース系樹脂の水溶液に分散させたのち、これをセラック樹脂溶液に分散させると、良好な分散安定性を維持することができる。この分散安定性を良好に維持させるには、水およびエタノールに対して溶解性を有するセルロース系樹脂が適しており、なかでも水およびエタノールのいずれにも溶解性の高いヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
このセルロース系樹脂は種々の分子量のものを用いることができるが、この分散および粘度の適性から低分子量のものを用いることが好ましい。特に、20℃における2重量%濃度の水溶液において、1〜7mPa・sの粘度を示す分子量のものを用いると、いっそう好ましい。
このように、セルロース系樹脂に予め色素を分散させるには、セルロース系樹脂を、水単独、あるいは水とエタノールとの混合溶剤)に溶解させた樹脂溶液に色素を分散させる。この際、セルロース系樹脂を溶解させる溶剤は、水を主体として含む水系溶剤である。ここで、「水を主体として含む」とは、水を50重量%以上含有していることであり、それ以外に例えばエタノールを50重量%未満含有していてもよい。この水系溶剤中のエタノール含有量が50重量%以上になると、溶剤中での色素の分散が安定しなくなる。特に、次の再分散工程におけるセラック樹脂溶液へ分散させたときの分散安定性が低下したり、更には導電剤を添加した際に分散の破壊を招きやすくする。
本発明において食品添加可能な樹脂は、インキ全体の1〜20重量%、好ましくは2〜15重量%の範囲で含まれることが好ましい。樹脂の含有量が1重量%好ましくは2重量%より少ないと、適度な粘度のインキが得られない。また、記録対象物に対する十分な密着、耐摩擦性も得られにくい。また、20重量%好ましくは15重量%を超えると、インキの粘度が高くなりすぎて低温での流動性が不足し、インクジェットプリンタの記録時の安定性も低下する。
尚、色素10重量部に対して2〜5重量部のセルロース系樹脂を用いると、優れた分散性が得られる。セルロース系樹脂の含有量が2重量部よりも少ないと、色素の分散を十分に行なうことができない、また、セルロース系樹脂の含有量が5重量部を超えると、樹脂そのものの溶解性が不十分となり、分散時の粘度が高くなりすぎる等の問題を生じるおそれもある。
「インキの溶剤」
本発明のインクジェットインキは、1種類以上の溶剤を含むことができる。溶剤はインキ全体の50〜90重量%用いることができる。本発明では、乾燥性において優位なエタノールを多く用いる。本発明のインキは、エタノールをインキ全体の50重量%以上含むアルコール含有インキとすることが、乾燥性、耐水性のインキに適した処方になる。本発明において使用できるエタノールは、食品用の発酵エタノールが好適であるが、変性エタノールであっても使用できる。
また、本発明のインクジェットインキでは、他の成分の含有重量部と関連するが、水を3〜20重量部含有させる。この水は、色素の分散において、セルロース系樹脂を溶解し、色素の分散に供する。また、インキ化処方(再分散工程)において、プリンタの適性に応じた導電率を調整するための導電剤の溶解性を高め、所望の導電率を得るために用いられる。前記のような含有量にてインキ中に使用されるが、水の含有量が3重量部よりも少ないと、色素の分散の安定性が得られない。また、水の含有量が20重量部よりも多いと、乾燥性の低下を招き、エタノールインキとする目的の「早い乾燥性」の特性が得られなくなる。
「湿潤剤」
また、溶剤としては、記録時の乾燥性を低下させない範囲において、さらにはノズルでの乾燥性を調整するため、プロピレングリコールのような湿潤剤を用いても構わない。このような湿潤剤は、インキの乾燥性の調整、インキ粘度の調整等の役目をなす。また、被記録物の下地によっては、浸透性を調整する必要もあり、このような効果への使用目的としても適している。このようなプロピレングリコールは、インキ全体の0〜10重量%の範囲で用いると、記録対象物への適度な浸透、乾燥の調整が可能となる。プロピレングリコールの含有量が10重量%を超えると、目的とする乾燥性の向上が果たせなくなる。
「乳化剤」
本発明において、インキ成分として、食品への添加が可能な乳化剤を更に含むことができる。このような乳化剤としては、例えばソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は可食性で水系での安定性に優れるものであり、インキ中における色素の分散安定性に寄与する。
これらの乳化剤はエタノール溶剤への溶解性を考慮することが必要であり、インキ全体の5重量%以下で使用することが好ましく、その範囲内の使用により十分な効果が得られる。
これらの乳化剤のうち、非イオン活性剤は記録対象物の種類に応じてインキのHLBの適性があるため、記録対象物が包装用のフィルムである場合は、HLB8〜16が、また、油脂分の多い食材に対しては、HLB1〜2のようなインキ調整とすることが、記録時の適性を有する。
「導電剤」
本発明のインクジェットインクは、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンタとオンデマンドタイプのインクジェットプリンタのいずれにも使用できるが、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンタに用いるインキの場合は、使用するプリンタに応じた導電率の調整が行われる。かかる導電率の調整には導電剤が使用される。
このような導電剤は食品添加物として認可されたものが用いられ、例えば乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、パントテンサンナトリウム等が挙げられる。なかでも、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウムは、エタノール含有溶剤によく溶解し、プリンタにおけるインキの液滴の導電率を適度に保つ役割を少量にて達成することができる。
導電剤の添加量は、他の成分の含有重量部と関連するが、0.2〜2.0重量部であることが好ましい。この範囲内の使用により、インキの導電率を適正な0.5m〜5mS/cm程度に調整することができる。前記の範囲内であっても少量使用での調整が好ましい。導電剤の添加量が2.0重量部を超えると、色素の凝集を招くおそれがある。
本発明のインクジェットインキは、エタノールを含む、またはエタノールを溶剤主体として含むので、水をインキ全体の50重量%以上含有する水性のインキに比べて乾燥性が向上する。また、非浸透性の材料においても良好な耐水性を有する記録部分を形成することができ、記録システムによっては高速の可変情報の印字も可能となる。
本発明のインキは、食品、健康食品、経口する薬剤等に直に、また、食品に接触する材料、食品用包装材料に対して、特に好ましく使用することができる。このような包装材料は、必要に応じて表面処理を施したポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチック材料、または不織布、紙等が例示される。
更に、本発明のインキは、食品素材および食品添加物または、医薬品添加物として認められたもので全体が構成されるものであり、食品のデザイン、装飾、高品位のデータの表示、品質のトレーサビリティー等にも有効となる。前記のデザインおよびそのデータとして、生産地、収穫日時、生産者、日付、特殊記号、キャラクタ画像等を記録できる。これらの表記は、経路の確実な表示方法として商品の流通形態への信頼性も付与することができる。
本発明のインクジェットインキが記録される食品類としては、例えばガム、キャンディー、ビスケット、クッキー、饅頭、チョコレート等が例示される。また、例えばみかん、りんご、スイカ、メロン、マンゴー、柿、桃等の果物や、野菜、加工肉類等にも記録できる。また、健康食品類および薬剤の錠剤等への記録も可能である。また、これら食品類を包装する包装材料も記録の対象となる。あるいは、パンの包装、食品のトレイ、弁当容器、パック等、または割りはし、楊枝、串等といった食品との接触材料にも記録することができる。
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。
[実施例1]
本実施例のインクジェットインキを調製するにあたり、セラック樹脂エタノール溶液の調製、分散体の調製、および、インキの調製を行なった。
「セラック樹脂エタノール溶液の調製」として、99度の発酵エタノールに白色セラック樹脂を加えて撹拌し、32重量%セラック樹脂を含むエタノール溶液を得た。
そして、「酸価の調整」として、前記の32重量%セラック樹脂エタノール溶液100重量部にH+型陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーリスト15DRY)30重量部を加え、30℃の温度で浸漬して接触させながら7時間攪拌することにより、エタノール溶液の酸価を調整した。こののち、濾過してH+型陽イオン交換樹脂を除去した。濾別したセラック樹脂エタノール溶液の物性は、酸価が82.6mg(処理前の酸価は89.7mg)、粘度が22.6mPa・s(処理前の粘度は44.5mPa・s)、pHが1.0(処理前のpHは3.6)であった(酸価調整工程の酸触媒処理1、後出の表1参照)。この32重量%セラック樹脂エタノール溶液に、更なるエタノールを加えて希釈し25重量%のエタノール溶液に調製した。
続いて、「セルロース系樹脂溶液の調製」として、ヒドロキシプロピルセルロース(2重量%水溶液、20℃、2.5mPa・s)6重量部を水69重量部(水性溶剤)に溶解させて、ヒドロキシプロピルセルロース水溶液を得た(後出の表2参照)。
次に、「分散体の調製」として、前記のヒドロキシプロピルセルロース水溶液75重量部と、酸化チタン25重量部とを混合してミルベースを調製したのち、ジルコニアビーズを収容した横型ミルにて2時間分散させて、平均粒子径が0.34μmの酸化チタンが分散した分散体1を得た(分散体調製工程、後出の表2参照)。
そして、「インキの調製」として、40重量部の分散体1に、25重量%セラック樹脂エタノール溶液28重量部、グリセリン脂肪酸エステル0.5重量部、ソルビタン脂肪酸エステル0.5重量部、炭酸アンモニウム1.5重量部、50重量%乳酸ナトリウム水溶液0.1重量部、および、更なるエタノール29.4重量部を加えたのち、横型ミルにて混合して、分散体1中の酸化チタンを更に分散させた(再分散工程、後での表3および表4参照)。得られた分散液をNo.63(アドバンテック社製)のフィルターにて濾過した。次いで開目0.8μmのフィルターで濾過してインクジェットインキを得た。
[実施例2]
分散体1の代わりに分散体2の10重量部を用い、酸触媒処理1のセラック樹脂エタノール溶液の代わりに酸触媒処理2のセラック樹脂エタノール溶液40重量部を用い、エタノールの含有率を高くし、グリセリン脂肪酸エステルおよびソルビタン脂肪酸エステルを使用しなかったこと以外(表3参照)、実施例1と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
[実施例3]
分散体1の代わりに分散体3を用い、酸触媒処理1のセラック樹脂エタノール溶液の代わりに酸触媒処理3のセラック樹脂エタノール溶液を使用したこと以外(表3参照)、実施例1と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
[実施例4〜8]
下記の表1に示した酸触媒処理1〜3に係るセラック樹脂エタノール溶液を個々に使用するとともに、分散体1の代わりに分散体4〜8を用いたこと以外(表3参照)、それぞれ、実施例2と同様に処理してインクジェットインキを調製した。
[比較例1]
酸触媒処理1に係るセラック樹脂エタノール溶液の代わりに、酸価調整処理を施されなかったセラック樹脂エタノール溶液(酸価調整処理なし1)を用いたこと以外は、下記の表3に示すように、実施例1と同様に処理してインクジェットインキを製造した。
[比較例2]
酸触媒処理2に係るセラック樹脂エタノール溶液の代わりに、酸価調整処理を施されなかったセラック樹脂エタノール溶液(酸価調整処理なし2)を用いたこと以外は、下記の表3に示すように、実施例2と同様に処理してインクジェットインキを製造した。
[比較例3]
酸触媒処理3に係るセラック樹脂エタノール溶液の代わりに、酸価調整処理を施されなかったセラック樹脂エタノール溶液(酸価調整処理なし2)を用いたこと以外は、下記の表3に示すように、実施例3と同様に処理してインクジェットインキを製造した。
上記実施例と比較例で使用する分散体1〜8の処方、実施例1〜8と比較例1〜3で調製したインクジェットインキの処方と、各種物性を下記の表に示す。表1は実施例1〜8および比較例1〜3に使用するセラック樹脂エタノール溶液の処理方法に関するものである。表2は分散体1〜8の処方に関するものである。表3は実施例1〜8および比較例1〜3のインキ処方およびインキ特性に関するものである。表4は実施例1〜8および比較例1〜3の各インキの全体組成をならして表した処方に関するものである。
尚、表中に示した物性項目のうち、
「再分散性」は、放置しておいたインキを20回振とうさせたのちに濾過し、そのときの分散状態で評価した。
「耐水性」は、印字した記録対象物の印字面を水で湿らせたときのインキの溶け出しの有無、水の着色および印字面を拭ったティッシュペーパへの着色により確認した。
「密着性」は、食品用ポリアミドフィルムにインキを塗布し、塗布部分を綿棒で擦ったときの剥離の有無により確認した。
「印字濃度」は、PPC用紙へインキを印字し、この印字部分の反射濃度をマクベス反射濃度計(GretagMacbeth社製の型式RD918)で測定した。
「連続吐出性」は、上記のように調製したインキを、連続式インクジェットプリンタ(紀州技研工業社製の型式KGK−JET CCS3000(ノズル孔の口径40μm))に装填し、連続して印字テストを行なったときのトラブル(ノズルの詰り、印字不良(異常フォント)、噴出圧力異常など)の有無で判定した。この連続式インクジェットプリンタにて、菓子、りんご、マンゴー、食品用ポリアミドフィルム、錠剤に印字し、白色、茶色、黒色、灰色、青色、赤色の良好な印字物を得た。
「高温環境での印字性能」は、室温を45℃に保持した環境室内でインクジェットプリンタにより印字テストを行なったときの印字結果の状態を評価した。
「低温環境での印字性能」は、室温を5℃に保持した環境室内でインクジェットプリンタにより印字テストを行なったときの印字結果の状態を評価した。
「連続吐出性(飛行曲がり)」は、連続印字試験中にノズルからインキ吐出の飛行方向を確認し、ふらふらと変動したり、初期状態から変化して安定しなかったりするか否かを評価した。
「連続吐出性(インキ滴着弾位置異常)」は、連続印字試験中に印字した結果を確認し、インキ液滴の着弾位置が正規の位置から外れているか否かを評価した。
「再溶解性」は、ガラスシャーレの中で乾燥させたインキに溶剤を滴下した際、溶け残ることなく完全に溶解するか否かを評価した。
「拭き取り性」は、インキタンクや筐体に見立てた樹脂や金属にインキを塗布乾燥し、溶剤(例えばエタノール)を染込ませたワイパーでふき取った際のふき取り容易性や洗浄性を評価した。
「粘度(20℃、mPa・s)」はTOKI産業社製の粘度計(EHコーン型)を用いて測定し、「pH」はHoriba社製のpHメータを用いて測定し、「導電率(mS/cm)」はHoriba社製の導電率計を用いて測定した。
インキ中の色素の「平均粒子径」は日機装株式会社製の粒度分布計(UPA-150EX型)を用いメジアン径(d50)で測定した。
「酸価」は、試料中に含まれる酸性成分を中和するのに要した水酸化カリウムのmgで表わされ樹脂や油脂の精製度合いの尺度となる。食品添加物公定書(第8版、油脂試験法、3章.酸価)に則して測定した。日本工業規格ではJIS−K−2501に規定されている。
「固形分」は、試料中に含まれる加熱蒸発成分を除去して残った蒸発残分を示し、例えばJIS−K−5601に従って測定した。
尚、各表中で、処方を示す数値は重量部を表している。表2中で、ヒドロキシプロピルセルロース(*1)は平均分子量が4万であり、2重量%水溶液にしたときの粘度が2.5mPa・s(20℃)となるものを用いた。また、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(*2)は、2重量%水溶液にしたときの粘度が3mPa・s(20℃)となるものを用いている。
Figure 2014159520
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上記の表1〜4に示されるように、実施例1〜8のインクジェットインキは、平均粒子径、粘度、pH、導電率の各値が、実施例間で大きくバラツクことなく纏まっており、いずれも製品インキとして適正範囲内にある。また、実施例1〜8のインクジェットインキは、再分散性、耐水性、密着性、印字濃度、45℃環境における印字性能、5℃環境における印字性能、および連続吐出性の各項目に関しても、全ての項目が満足できる結果であった(表3参照)。これらのことは、実施例1〜8のインクジェットインキが、色素、セラック樹脂、セルロース系樹脂、エタノール、および水を含み、各成分が所定適正範囲内の含有量で配合されているためである。そして、セルロース系樹脂を水・エタノール系の溶剤に溶かした樹脂溶液に色素を分散させて分散体を得、この分散体を、酸価調整されたセラック樹脂エタノール溶液に混合して更に色素を分散させるという特徴製法で製造したためである。
尚、連続吐出性テストで長期の連続吐出を実施している過程において、エタノール成分の蒸発によるインキの濃縮に対しては、溶剤の補給分として、エタノール90重量部と水10重量部とから成るエタノール/水混合液に炭酸アンモニウム1.1重量部を溶解させた液を希釈液として加えて対処した。この希釈液のpHは10.4であった。この希釈液を加えたインキのpHは9以上というアルカリサイドであるため、インキ中でのセラック樹脂の溶解が更に良好に維持され、インキの安定性が確保され、長期の連続印字の安定性を継続することができている。
それに対し、比較例1〜3のインクジェットインキは、酸触媒との接触処理がされなかったセラック樹脂エタノール溶液を使用しているため、インキの再溶解性が劣るとともにバラツキがあり、洗浄性も低下していた。また、口径50μm以上という比較的大径のノズル孔を有するインクジェットプリンタに使用した場合は顕著な不具合を示さなかったのであるが、口径40μm以下という微細径のノズル孔を有するインクジェットプリンタを使用して高精細な文字の印字を連続的に行った際には、印字の乱れを生じることが観察された。特に、ドット落ちと称される現象や、飛行曲がりといった着弾の安定性を保持しにくい特性が現われることが観察された。
因みに、実施例1〜8のインキでは、セラック樹脂エタノール溶液をH+型陽イオン交換樹脂で酸価調整処理したことにより、インキ調製時の再溶解性の再現性が高まり、口径40μm以下という微細径のノズル孔を有するインクジェットプリンタに使用した場合でも、目詰まりやインク飛行曲がりなどを生じないという効果が認められた。
一方で、比較例1〜3のインクジェットインキは、実施例1〜8のインキによる洗浄性と比べると、ノズル孔周辺部を所定の洗浄度に到達させるまでに、2倍以上のふき取り回数を要した。

Claims (11)

  1. いずれも、食品添加物または薬剤への使用が認可されている、色素と、セラック樹脂がエタノールに溶かされたセラック樹脂エタノール溶液と、セルロース系樹脂と、更なる希釈用のエタノールと、を含んで成るインクジェットインキであって、前記セラック樹脂エタノール溶液は、32重量%エタノール溶液において、酸価が80mg以上85mg以下、且つ、pHが0.5以上3.0以下に調整されていることを特徴とするインクジェットインキ。
  2. 食品添加物または薬剤への使用が認可されている導電剤を更に含んでいる請求項1に記載のインクジェットインキ。
  3. いずれも、食品添加物または薬剤への使用が認可されている、色素0.1重量部以上20重量部以下、セラック樹脂0.1重量部以上20重量部以下、セルロース系樹脂0.1重量部以上10重量部以下、エタノール40重量部以上90重量部以下、水1重量部以上20重量部以下、および導電剤0.1重量部以上2重量部以下を含んで成る請求項2に記載のインクジェットインキ。
  4. セルロース系樹脂がヒドロキシプロピルセルロースである請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
  5. 色素が酸化チタンである請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
  6. 色素が炭末色素である請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
  7. 食品添加物または薬剤への使用が認可されているpH調整剤を更に含んでいる請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
  8. セラック樹脂エタノール溶液が、固体の酸触媒と接触処理されたものである請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のインクジェットインキ。
  9. 固体の酸触媒がH+型陽イオン交換樹脂である請求項8に記載のインクジェットインキ。
  10. 請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のインクジェットインキを製造する方法であって、セラック樹脂をエタノールに溶解させて得られた32重量%セラック樹脂エタノール溶液の酸価を調整する酸価調整工程と、水を主体として含む水系溶剤にセルロース系樹脂を溶解させて得られたセルロース系樹脂溶液に、色素を分散させて分散体を得る分散体調製工程と、前記酸価調整工程で酸価を調整されたセラック樹脂エタノール溶液に、前記分散体調製工程で得られた分散体を混合して色素を更に分散させる再分散工程と、を備えていることを特徴とするインクジェットインキの製造方法。
  11. 請求項1から請求項9までのいずれか一項に記載のインクジェットインキを用いてインクジェットプリンタで食品関連の記録対象物に記録するにあたり、エタノール、水、および炭酸アンモニウムを含んでなる希釈溶剤で前記インクジェットインキを希釈してインクジェットプリンタで用いることを特徴とするインクジェットインキの使用方法。
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