JP3641658B2 - 卵殻へのマーキング方法およびマーキングした卵 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット方式により卵殻表面へマーキングした卵に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、製造年月日、賞味期限等の食品類への表示が必要とされる状況において、食品の通常は食べないような部分、例えば鶏卵の卵殻に、製造年月日等をマーキングすることが要請されている。鶏卵の卵殻への製造年月日等の表示は、鶏卵の生産、流通、販売段階での細菌汚染の対策に役立ち、購買者へ安心感を与えることにもなる。
一方、従来より、食品等の缶詰、パックに製造年月日やロット番号を記録するためにインクジェットプリンターや熱転写プリンターが使われている。これらのプリンターは、可変情報をダイレクトに記録できるため印刷の版を作成する必要がなく、コンピューターによる情報の変更が容易であり、生産現場において種々の用途展開がなされている。
【0003】
特に、インクジェットプリンターは、高速での印字ができ、必要なインキを吐出させるだけで消耗品の量が少量で済むことから、極めて広い範囲において使用されている。また、非接触で印字できるため卵殻へのマーキングに適している。
インクジェットプリンターに用いられるインキとしては、食品添加物着色料である水溶性染料を水に溶解したものがあるが、充分な印字濃度が得られなかった。また、耐水性が劣り、水に接触する食品には使用できなかった。特に、鶏卵の場合は、水中で煮沸して茹で卵とすることもあり、煮沸時に卵殻表面のマーキングから水溶性染料が溶出して鶏卵および卵白を汚染し、卵の商品価値を著しく損なう恐れがあった。
【0004】
これに対して、耐水性に優れ、卵殻の表面に印字するのに適したインクジェットインキとして、特開昭53−127010号公報に、バインダがセラックであり、水およびアルコールから成る溶剤と鉄クロロフィリンナトリウムまたは(および)銅クロロフィリンナトリウムを着色剤として含む緑色インク組成物が開示されている。しかし、該インク組成物は、インクジェットプリンターのノズル周辺にセラックの堆積を生じ、ノズルの目詰まりを起こすため、長期間にわたり安定して印字することができなかった。
【0005】
また、耐水性に優れたインクジェットインキとしては、油溶性染料をメチルエチルケトン、エタノール等の揮発性の溶剤に溶解したものや、さらにこれに塩酢ビ、キシレン樹脂、ブチラール樹脂等を溶解したインキもあり、速乾性インキとして広く用いられている。これらのインキは、耐水性に優れ、擦っても落ちないような耐性を有しているが、食品添加物で構成されていないため、食品に触れるような用途には使えない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
また、本発明は、水に濡れたり、煮沸等の調理操作を行っても着色料の溶出による鶏卵および卵白の汚染が少なく、見た目の嫌悪感を生じさせないようなマーキングした卵、および卵殻へのマーキング方法の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと水とを含むインクジェットインキに、アルギン酸のアルカリ金属塩および/またはアルギン酸プロピレングリコールエステルを添加することにより、卵殻表面に耐水性、耐摩擦性に優れ、印字濃度が高いマーキングができ、インクジェットプリンターによる吐出安定性に優れたインクジェットインキが得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、卵殻表面に、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウム0.1〜5重量%と、アルギン酸のアルカリ金属塩および/またはアルギン酸プロピレングリコールエステル0.05〜1重量%と、プロピレングリコールおよび/またはグリセリン1〜20重量%と、残量の水とからなるインクジェットインキをコンティニュアスタイプのインクジェット方式によりマーキングしてなる卵に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
鉄クロロフィリンナトリウムおよび銅クロロフィリンナトリウムは、卵殻表面に対して強固な親和性を示す水溶性色素であり、防黴、抗菌性も有している。したがって、卵殻表面に、水に浸漬したり水中で煮沸しても溶出することのない耐水性、耐摩擦性の良好なマーキングを行うことができる。また、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンターで連続運転する場合でも、インキに黴が発生しないため、黴に起因するノズルの目詰まりを起こすことがない。
【0010】
鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムは、インキ中に、0.1〜5重量%の範囲で含まれることが好ましい。含有量が0.1重量%より少ないと、印字濃度が不十分であり、また、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンターで連続運転する場合に、黴の発生を充分に抑制することができず、ノズルの目詰まりを生じることがある。一方、含有量が5重量%を越えると、インキの安定性が悪くなる傾向にある。
【0011】
アルギン酸のアルカリ金属塩およびアルギン酸プロピレングリコールエステルは、水に溶解してインキの粘度を上昇させる働きをするもので、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウムと併用することにより、濃度の高いマーキングが可能になる。アルギン酸のアルカリ金属塩およびアルギン酸プロピレングリコールエステルは、セラック等の水溶性樹脂と異なり、インクジェットプリンターのノズル周辺に堆積することがなく、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンターで連続運転する場合にも、ノズルの目詰まりを生じることがない。
【0012】
アルギン酸のアルカリ金属塩および/またはアルギン酸プロピレングリコールエステルは、インキ中に、0.05〜1重量%の範囲で含まれることが好ましい。含有量が0.05重量%より少ないと、適度な粘度が得られないため印字濃度が不充分であり、マーキング表面の滑らかさに欠ける。一方、含有量が1重量%を越えると、インキの粘度が高すぎるためノズルからの吐出性が悪くなる。
アルギン酸のアルカリ金属塩としては、アルギン酸ナトリウムが挙げられる。
本発明のインキの媒体である水としては、金属イオン等を除去したイオン交換水または蒸留水を用いる。水は、インキ中に、94〜99.85重量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0013】
本発明のインクジェットインキには、インキのノズルでの乾燥を防止するために、乳酸ナトリウムを、インキ中に0.5〜10重量%の範囲で含有させることが好ましい。乳酸ナトリウムは、インキをコンティニュアスタイプのインクジェットプリンターに用いる場合に、インキの導電性を調整する働きもする。乳酸ナトリウムの含有量が0.5重量%より少ないと保湿性が不充分であり、充分な導電性が得られない。一方、含有量が10重量%を越えると、過度な保湿作用のため乾燥不良を招く。
【0014】
本発明のインクジェットインキには、インキのノズルでの乾燥を防止するために、プロピレングリコールおよび/またはグリセリンを、インキ中に1〜20重量%の範囲で含有させることが好ましい。含有量が1重量%より少ないと、乾燥防止効果が不十分でノズルの目詰りの原因となり、20重量%を越えるとマーキング面の乾燥が遅くなり、容器の汚れ等の悪影響を与える。
また、本発明のインクジェットインキには、色の調整を行うために、卵殻表面に対して強固な親和性を示す他の食用色素を、インキ中に0.1〜5重量%の範囲で含有させることができる。該食用色素としては、ノルビルキシンカリウム、ノルビルキシンナトリウム、水溶性アナトー、クロロフィル、コウリャン、ベニコウジ、アカネなどが挙げられる。
【0015】
乳酸塩と、プロピレングリコールおよび/またはグリセリンとを含有させる場合には、本発明のインクジェットインキは、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウム0.1〜5重量%、アルギン酸のアルカリ金属塩および/またはアルギン酸プロピレングリコールエステル0.05〜1重量%、乳酸ナトリウム0.5〜10重量%、プロピレングリコールおよび/またはグリセリン1〜20重量%、および水64〜98.35重量%から構成されることが好ましい。
【0016】
本発明のインクジェットインキは、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウム、アルギン酸のアルカリ金属塩および/またはアルギン酸プロピレングリコールエステル、水、および必要に応じて乳酸ナトリウム、プロピレングリコールおよび/またはグリセリン、他の食用色素、色素の安定な溶解性を維持するためのpH緩衝剤などを混合攪拌したのち、0.2〜3.0μmのメンブランフィルターで濾過することにより、製造することができる。混合攪拌は、通常の羽根を具備した攪拌機のほか、高速の分散機、乳化機により行うこともできる。
【0017】
本発明のインクジェットインキの25℃における粘度は、1.3〜20cpsの範囲に調整することが好ましい。粘度が低すぎると、卵殻表面でのインクのドットの形成が不良となり、印字濃度が低くなる。一方、粘度が高すぎると、吐出の不良、乾燥不良に問題が出てくる。
表面張力は、プリンターとの適性もあるが、30〜50mN/cmの範囲に調整することが好ましい。また、コンティニュアスタイプのプリンターによりマーキングする場合には、インキの電導度は、3〜10μS/cmの範囲に調整することが好ましい。
【0018】
卵殻へのマーキングは、卵殻表面に、本発明のインクジェットインキを用いてインクジェット方式によりマーキングすることにより行われ、マーキングした卵が得られる。インクジェット方式には、コンティニュアス方式(多値偏向、2値偏向)、ドロップオンデマンド方式(バブルジェット方式、ピエゾ方式、電磁弁方式等)等が挙げられるが、高速でのマーキングおよび卵殻のような曲面へのマーキングは、コンティニュアス方式が適している。
インクジェットプリンターのノズル孔径は、8〜200μmであることが好ましい。
【0019】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。例中、部および%は、重量部および重量%をそれぞれ示す。
(実施例1)
下記の原料を混合、溶解したのち、0.8μmのメンブランフィルターで濾過し、インクジェットインキを調製した。
鉄クロロフィリンナトリウム 1.50部
アルギン酸ナトリウム 0.14部
乳酸ナトリウム 3.00部
プロピレングリコール 14.00部
蒸留水 81.36部
【0020】
(実施例2〜7)
表1に示す原料と適当量(100部から表1に示す原料の合計量を引いた量)の蒸留水を混合、溶解したのち、0.8μmのメンブランフィルターで濾過し、インクジェットインキを調製した。
【表1】
Figure 0003641658
*1 アルギン酸プロピレングリコールエステル
*2 50%水溶液
【0021】
(比較例1)
下記の原料を混合、溶解したのち、0.8μmのメンブランフィルターで濾過し、インクジェットインキを調製した。
食用赤色105号 1.0部
アルギン酸ナトリウム 0.1部
乳酸ナトリウム 1.0部
プロピレングリコール 5.0部
蒸留水 92.9部
【0022】
(比較例2)
アルギン酸ナトリウム0.14部を蒸留水0.14部に代えた以外は、実施例1と同様にしてインクジェットインキを調製した。
【0023】
(比較例3)
下記の原料を混合、溶解したのち、0.8μmのメンブランフィルターで濾過し、インクジェットインキを調製した。
銅クロロフィリンナトリウム 1.5部
シェラック樹脂の水/エタノール溶液 12.5部
(岐阜セラック製造所社製「ドラッグBA−40E」、固形分40%)
乳酸ナトリウム 3.0部
プロピレングリコール 14.0部
蒸留水 69.0部
【0024】
実施例および比較例で得られたインキについて、25℃における粘度(cps)、表面張力(mN/cm)および電導度(μS/cm)を測定した。なお、粘度の測定は粘度計(YAMAICHI社製「デジタルビスコメイト」)を用いて行い、表面張力の測定は表面張力計(KYOWA INTERFACE社製「サーフェイステンシオメーター」)を用いて行い、電導度の測定は電導度計(HORIBA社製「コンダクティビティメーター」)を用いて行った。
また、実施例1〜3および比較例1〜3で得られたインキについては、コンティニュアスタイプのインクジェットプリンターのインクタンクに入れて、実施例6〜7で得られたインキについては、サーマルタイプのインクジェットプリンターのインクタンクに入れて、卵殻表面にマーキングし、得られたマーキング物について下記の評価を行った。また、3ヶ月間連続してマーキングを行い、ノズル目詰まりの発生の有無およびインキ循環系での黴の発生の有無を評価した。さらに、3時間連続してマーキングを行い、吐出安定性を評価した(良:吐出の停止なし、不良:吐出の停止あり)。結果を表2に示す。
【0025】
Figure 0003641658
【0026】
【表2】
Figure 0003641658
【0027】
【発明の効果】
本発明のインクジェットインキは樹脂を含有せず、防黴性を有しているため、本発明のインクジェットインキを用いることにより、プリンターのノズル目詰まりを起こすことなく、長期間連続してマーキングできるようになった。
また、本発明のインクジェットインキを用いることにより、卵殻表面に強固に染着し、水または熱湯中に浸しても殆ど溶出しないマーキング物が得られるようになった。
本発明のインクジェットインキは、食品に用いることのできる食品添加物からのみ構成することができるため、食品へのマーキングに適している。

Claims (1)

  1. 卵殻表面に、鉄クロロフィリンナトリウムおよび/または銅クロロフィリンナトリウム0.1〜5重量%と、アルギン酸のアルカリ金属塩および/またはアルギン酸プロピレングリコールエステル0.05〜1重量%と、プロピレングリコールおよび/またはグリセリン1〜20重量%と、残量の水とからなるインクジェットインキをコンティニュアスタイプのインクジェット方式によりマーキングしてなる卵
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