JP2013221179A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】内輪1および外輪2を、クロム含有率〔Cr〕が0.9質量%以上1.8質量%以下の合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化と焼入れ焼戻しを行って得る。軌道面にSi・Mn系窒化物を、面積比で1.0%以上5.0%以下の範囲で存在させる。軌道面の表面からボール3の直径の0.01倍に相当する深さの位置で、窒素の含有率〔N〕を0.05質量%以上、残留オーステナイト量を20体積%以上40体積%以下、圧縮残留応力を100MPa以上500MPa以下にする。
【選択図】図1
Description
また、使用条件によっては、転がり軸受の使用中に内外輪および転動体の金属組織が変化して、その組織変化部を起点として生じた亀裂から早期に剥離に至る場合もある(組織変化型剥離)。金属組織の変化は、潤滑油の分解によって発生する水素が内外輪および転動体の金属組織に侵入することに起因して生じ、この水素が組織変化を加速していると考えられている。水素により、金属組織はマルテンサイトからフェライトへ変化する。この組織変化が生じた部分をエッチングを行って観察すると、フェライトに変化した部分が白く見える(白色組織)。
特許文献1には、白色組織への組織変化を遅らせるクロムの含有率が高い(クロム含有率2.5〜17.0質量%)鋼を使用するとともに、鋼中の旧オーステナイト結晶粒径を小さくして水素の集積を抑制し、白色組織の成長を抑制するピン止め効果を有する炭化物および炭窒化物の鋼中含有率を特定することが記載されている。
(a) 質量比で、Cの含有率が0.2〜0.6%、Crの含有率が2.5〜7.0%、Mnの含有率が0.5〜2.0%、Siの含有率が0.1〜1.5%、Moの含有率が0.5〜3.0%、Vの含有率が2.0%以下、Niの含有率が2.0%以下、残部がFeおよび不可避不純物である鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭又は浸炭窒化処理、焼入れ処理および焼戻し処理が施されて得られ、その転がり面をなす表層部は、CおよびNの合計含有率が質量比で1.0〜2.5%、残留オーステナイト量が体積比で15〜45%、硬さがロックウェル硬さでHRC60以上、炭化物および炭窒化物の少なくとも一種からなる析出物の存在率が転がり面内の面積比で15〜35%となっている。転がり面をなす表層部の定義に関しては、「表面から所定深さ(例えば、転動体直径Daの5%である0.05Da)までの範囲を指す」と記載されている。
(b) 前記転がり面をなす表層部の圧縮残留応力の最大値は、150〜2000MPaとなっている。
(c) 合金成分として、炭素(C)を0.40重量%以上1.20重量%以下の範囲で、珪素(Si)および/またはアルミニウム(Al)を0.7重量%以上2.0重量%以下の範囲で、マンガン(Mn)を0.2重量%以上2.0重量%以下の範囲で、ニッケル(Ni)を0.1重量%以上3.0重量%以下の範囲で、クロム(Cr)を3.0重量%以上9.0重量%以下の範囲で含有し、下記の(1)式で示すクロム当量が9.0重量%以上17.0重量%以下である鉄鋼材料で形成された後、焼入れ、焼き戻しを施すことにより得られたものである。
Cr当量=[Cr]+2[Si]+1.5[Mo]+5[V]
+5.5[Al]+1.75[Nb]+1.5[Ti]‥‥(1)
(式中、[Cr],[Si],[Mo],[V],[Al],[Nb],[Ti]は、それぞれ、鉄鋼材料中のCr,Si,Mo,V,Al,Nb,Tiの含有率(重量%)を示す。)
(d) 軌道面の表面硬さがHRC57以上であり、軌道面に、直径が50nm以上500nm以下の微細炭化物が分散析出していて、軌道面に存在する炭化物の最大直径が10μm未満である。
また、特許文献5に記載された転がり軸受では、使用する鋼のSi含有率を0.3wt%以上2.2wt%以下、Mn含有率を0.3wt%以上2.0wt%以下、Si/Mnを5以下にし、Cr含有率は0.5wt%以上2.0wt%以下にしている。
特許文献5には、転がり軸受の組織変化型剥離を抑制することに関する記載はなく、特許文献5に記載された転がり軸受では組織変化型剥離の抑制効果が得られない。
この発明の課題は、潤滑剤が分解され易い環境で使用された場合でも組織変化型剥離が生じにくい転がり軸受を、旋削性と熱処理性が良好な鋼を使用して得ることである。
(1) 炭素含有率〔C〕が0.9質量%以上1.1質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.4質量%以上0.9質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.6質量%以上1.2質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が0.9質量%以上1.8質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が0.27質量%以下、ニッケル含有率〔Ni〕が0.2質量%以下、銅含有率〔Cu〕が0.2質量%以下、硫黄含有率〔S〕が0.01質量%以下、リン含有率〔P〕が0.02質量%以下、酸素含有率〔O〕が10質量ppm以下、残部が鉄(Fe)および不可避不純物である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭または浸炭窒化と焼入れ焼戻しを行って得られる。
(3) 軌道面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上5.0%以下の範囲で存在する。
(4) 軌道面から転動体の直径の0.01倍に相当する深さの位置(1%D位置)で、窒素の含有率〔N〕が0.05質量%以上0.42質量%以下、残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、圧縮残留応力が100MPa以上500MPa以下である。
また、前記構成(4) のうち1%D位置の〔N〕≧0.05質量%は、浸炭窒化時の雰囲気ガスの窒素濃度と雰囲気ガスでの保持時間を調整することで得られる。
具体的には、前記構成(1) で特定された合金鋼および熱処理により、軌道面に熱的に安定なSi・Mn系窒化物が、0.01μm〜1μmの大きさで、基地組織に均一に分散される。Si・Mn系窒化物の組成はSi:Mn≒5:1である。このSi・Mn系窒化物は、基地組織であるマルテンサイトと結晶構造が異なるため、水素を強くトラップする作用を有する。
Si・Mn系窒化物の面積率が1.0%未満であると、これらの作用が実質的に得られない。Si・Mn系窒化物の面積率が5.0%を超えると、表面が硬すぎて研削性が不十分となる。
具体的には、残留オーステナイトがSi・Mn系窒化物と同様に、基地組織であるマルテンサイトと結晶構造が異なるため、水素のトラップサイトになる。この残留オーステナイト量を20体積%以上にすることで、金属組織内への水素の拡散速度が遅くなる作用が実質的に得られる。残留オーステナイト量が40体積%を超えると、寸法安定性が不十分となる。
さらに、1%D位置での圧縮残留応力が100MPa以上であると、組織変化部からの疲労亀裂の進展が抑制される。1%D位置での圧縮残留応力が500MPaを超えると、表面付近の靱性が低下する恐れがある。
〔C〕を0.9質量%以上1.1質量%以下とする理由は以下の通りである。
炭素(C)は、焼入れによって基地(マトリックス)に固溶し、組織をマルテンサイト化することで鋼を強化する元素である。また、他の合金元素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成させ、耐摩耗性を向上させる作用も有する。さらに、オーステナイトを安定化する元素であるため、残留オーステナイト量を多くする作用も有する。
これらの作用を得るために、炭素含有率を0.9質量%以上とする。
ただし、炭素含有率が1.1質量%を超えると、鋼中に粗大な炭化物が生成しやすくなり、靱性および加工性(研削性)が不十分となる。
珪素(Si)は、内外輪の軌道面および転動体の転動面にSi・Mn系窒化物を面積比で1.0%以上析出させるために、0.4質量%以上含有されている必要がある。
また、精鋼時に脱酸剤として作用し、基地に固溶して焼入れ性を向上させる作用も有する。さらに、マルテンサイトを安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。
ただし、珪素含有率が0.9質量%を超えると、靱性、冷間加工性および被削性が不十分となる。
マンガン(Mn)は、内外輪の軌道面および転動体の転動面にSi・Mn系窒化物を面積比で1.0%以上析出させるために、0.6質量%以上含有されている必要がある。また、基地に固溶して焼入れ性を向上させる作用を有する。
また、マルテンサイトを安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。さらに、オーステナイトを安定化する元素でもあるため、鋼の組織変化の原因となる水素の局所集積を抑制する残留オーステナイト量を多くする作用も有する。
ただし、マンガン含有率が1.2質量%を超えると、残留オーステナイト量が多くなり過ぎて寸法安定性が低下する。
クロム(Cr)は、基地に固溶して焼入れ性を向上させる作用を有する。また、炭素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる作用を有する。また、マルテンサイトと炭化物を安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。クロム含有率が0.90質量%未満であると、これらの作用が実質的に得られない。
ただし、クロムは高価な元素であるため含有率は少ない方が好ましい。また、クロム含有率が1.8質量%を超えると、旋削性が不十分となる。つまり、クロム含有率が1.8質量%以下の合金鋼を使用することで、旋削性と熱処理性が良好になる。
モリブデン(Mo)は、基地に固溶して焼入れ性および焼戻し軟化抵抗性を向上させる作用を有する。また、炭素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる作用を有する。また、マルテンサイトを安定化する元素であるため、水素によるマルテンサイトからフェライトへの組織変化を抑制する作用を有する。さらに、オーステナイトを安定化する元素でもあるため、鋼の組織変化の原因となる水素の局所集積を抑制する残留オーステナイト量を多くする作用も有する。
モリブデンは高価な元素であり、必須成分ではないが、その含有率が0.01質量%未満であると、これらの作用が実質的に得られないため、モリブデンを含有させる場合にはその含有率を0.01質量%以上とする。
ただし、モリブデン含有率が0.27質量%を超えると、冷間加工性および被削性が不十分となって、生産性が低下する。
ニッケル(Ni)は、基地に固溶して焼入れ性および靱性を向上させる作用を有する。また、オーステナイトを安定化する元素であるため、鋼の組織変化の原因となる水素の局所集積を抑制する残留オーステナイト量を多くする作用を有する。
ニッケルは高価な元素であるため、含有率を0.2質量%以下とする。また、ニッケルは必須成分ではないが、その含有率が0.01質量%未満であると、これらの作用が実質的に得られないため、ニッケルを含有させる場合にはその含有率を0.01質量%以上とする。
銅(Cu)は、基地に固溶して焼入れ性および粒界強度を向上させる作用を有する。銅は必須成分ではないが、その含有率が0.02質量%未満であるとこれらの作用が実質的に得られないため、銅を含有させる場合にはその含有率を0.02質量%以上とする。
ただし、銅の含有率が0.20質量%を超えると、熱間鍛造性が不十分となって、生産性が低下する。
硫黄(S)は、マンガン(Mn)と結合してMnSを形成し、介在物となるため、その含有率を0.01質量%以下にする。
〔P〕を0.02質量%以下とする理由は以下の通りである。
リン(P)は、結晶粒界に偏析して、粒界強度や破壊靱性を低下させるため、その含有率を0.02質量%以下にする。
酸素(O)は、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等と結合してAl2 O3 、MgO、CaO等の酸化物を形成する。これらの酸化物は介在物となり、剥離の起点となるため、その含有率を10質量ppm以下にする。
したがって、この発明の転がり軸受は、旋削性と熱処理性が良好な鋼を使用していながら、潤滑剤が分解され易い環境で使用された場合でも組織変化型剥離が生じにくいものである。
(5) 転動面の表面位置(表面から深さ20μm以内)での窒素の含有率〔N〕が0.2質量%以上1.0質量%以下であり、転動面の表面位置(深さ20μm以内)での炭素の含有率〔C〕が1.1質量%以上1.5質量%以下である。
(6) 転動面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上5.0%以下の範囲で存在する。
(7) 転動面から転動体の直径の0.01倍に相当する深さの位置(1%D位置)で、窒素の含有率〔N〕が0.05質量%以上0.42質量%以下、残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、圧縮残留応力が600MPa以上1000MPa以下である。
転動体は、その挙動から、内輪および外輪と比較して亀裂が進展しやすいため、1%D位置での圧縮残留応力が600MPa未満では、組織変化部からの疲労亀裂の進展を抑制する効果が不十分となる。1%D位置での圧縮残留応力が1000MPaを超えると、圧縮残留応力と釣り合う大きさで内部に発生する引張応力の作用によって、亀裂の進展が促進される場合がある。
したがって、この発明の転がり軸受は、前記構成(1) および(5) 〜(7) を有する転動体を備えることにより、これ以外の転動体を備えたものと比較して、より一層組織変化型剥離が生じにくいものとなる。
(8) 基油と、ジウレア化合物からなる増ちょう剤と、カルボン酸またはカルボン酸金属塩からなる防錆剤と、アミン系の腐食防止剤と、ジチオカーバメイトからなる耐剥離添加剤とを含有するグリース。
ジウレア化合物は高温安定性に優れるため、高温環境下でのちょう度の低下が抑制される。カルボン酸またはカルボン酸金属塩からなる防錆剤は、腐食反応を抑制する効果が高い。アミン系の腐食防止剤は、水分の侵入に伴う潤滑剤や樹脂製保持器の劣化を防止する効果が高い。ジチオカーバメイトからなる耐剥離添加剤は、剥離寿命を長くする効果が高い。
よって、この発明の転がり軸受は、前記構成(8) のグリースにより潤滑されていることにより、これ以外のグリースにより潤滑されているものと比較して、より一層組織変化型剥離が生じにくく剥離寿命が長いものとなる。
図1は、この発明の一実施形態に相当する玉軸受を示す断面図である。この玉軸受は、内輪1、外輪2、ボール(転動体)3、保持器4、シールド板5で構成されている。
内輪1、外輪2、およびボール3は、前記構成(1) を満たす合金鋼および熱処理方法により得られ、内輪1および外輪2の軌道面の表面位置とボール3の転動面での窒素の含有率〔N〕が0.2質量%以上1.0質量%以下であり、炭素の含有率〔C〕が1.1質量%以上1.5質量%以下である。
内輪1および外輪2の軌道面からボール3の直径の0.01倍に相当する深さの位置(1%D位置)で、窒素の含有率〔N〕が0.05質量%以上0.42質量%以下、残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、圧縮残留応力が100MPa以上500MPa以下である。
さらに、ボール3の表面から1%D位置で、窒素の含有率〔N〕が0.05質量%以上0.42質量%以下、残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、圧縮残留応力が600MPa以上1000MPa以下である。
この実施形態の玉軸受は、旋削性と熱処理性が良好な鋼を使用していながら、潤滑剤が分解され易い環境で使用された場合でも組織変化型剥離が生じにくいものである。
この発明の転がり軸受は、潤滑剤が分解され易い環境で使用された場合でも組織変化型剥離が生じにくいため、自動車や産業機械の変速機、ゴムベルトとプーリーで回転を伝達する構造、自動車のオルタネータ等の電装補機、および電気モータ用の転がり軸受として好適に使用できる。
自動車や産業機械の変速機では、添加剤を多く含む潤滑剤が使用されている。添加剤を多く含む潤滑剤は分解されやすい。
自動車のオルタネータ等の電装補機は、エンジンからの回転をゴムベルトとプーリーで伝達している。
電気モータの回転軸を支持する転がり軸受では、電気モータからの微量な電流が回転軸を通って内部に流れる場合がある。この場合は、静電気の場合と同様に潤滑剤の分解が加速される。
鋼種Gからなる素材(〔Si〕>0.9質量%)と鋼種Iからなる素材(〔Cr〕>1.8質量%)は、球状化焼鈍後の硬さが硬すぎて、内輪および外輪の形状に旋削加工することが難しかった。
サンプルNo. 16では、鋼種Fからなる素材を球形に粗加工した後、以下に示す熱処理イを行った。次に、ボールピーニングおよび研磨を行ってボール3を得た。サンプルNo. 20では、通常のボールに対する熱処理として以下に示す熱処理ウを行った以外は、No. 16と同じ方法でボール3を得た。
800〜880℃の各温度に調整されたRxガス+プロパンガス+アンモニアガス雰囲気に2〜8時間保持する浸炭窒化処理を行った後、油冷する焼入れを行い、次いで160〜240℃の各温度で2時間保持する焼戻しを行った後、空冷する。
<熱処理イ:浸炭窒化→焼入れ焼戻し>
820℃に調整されたRxガス+プロパンガス+アンモニアガス雰囲気に4時間保持する浸炭窒化処理を行った後、油冷する焼入れを行い、次いで175℃で2時間保持する焼戻しを行った後、空冷する。
<熱処理ウ:焼入れ焼戻し>
840℃のRxガス雰囲気に1時間保持した後、油冷する焼入れを行い、次いで180℃で2時間保持する焼戻しを行った後、空冷する。
表面のSi・Mn系窒化物の面積率の測定では、電界放射型走査型顕微鏡(FE−SEM)を用い、試験片の表面を加速電圧10kVで観察し、倍率5000倍で3視野以上の写真を撮影した。この写真を二値化してから、画像解析装置を用いてSi・Mn系窒化物の面積率を計算した。これにより、0.01μm〜1μmの微細な大きさで均一に分散しているSi・Mn系窒化物の面積率を、精度良く測定できる。
1%D位置表層部の残留オーステナイト量および残留応力は、試験片の表面を電解研磨して1%D位置を露出させて、X線回折装置により測定した。この測定を1%D位置の3カ所以上で行い、平均値を算出した。
これらの測定結果を下記の表2に示す。残留応力の表記は、「−」が圧縮残留応力であり、「+」が引張残留応力であることを示す。
また、サンプルNo. 5〜9の鋼種Bからなる試験片のうちNo. 9の試験片は、圧縮残留応力が720MPaと過剰であり、表面が過浸炭となっている。その結果、No. 9の内輪および外輪の表面が硬くなり過ぎて、軌道面が研削しにくい状態となっていた。
また、No. 17の試験片は、鋼種H(〔Mn〕>1.2質量%)を用いたことで、残留オーステナイト量が46体積%と過剰であり、No. 17の内輪および外輪の寸法安定性に問題がある。
グリースB:基油がグリースAと同じエーテル油、増ちょう剤がグリースAと同じジウレア化合物であり、腐食防止剤としてベンゾトリアゾール、防錆剤としてナフテン酸亜鉛、耐剥離添加剤としてジチオカルバミン酸亜鉛が配合されているもの。
オルタネータシュミレート試験機は、プーリーとゴムベルトでシャフトの回転を伝達しているため、試験中にプーリーとゴムベルトの間に静電気が生じて、グリースが分解されて水素が発生しやすい条件になっている。
ラジアル荷重:66.2kN
回転速度:2000min-1
これに対して、この発明の範囲内にあるNo. 1、2、5、6、10〜15の内輪および外輪を有するJ1、J2、J5〜J7、J10〜J17の軸受は、剥離寿命が600時間以上であり、内輪と外輪には剥離が生じていなかった。
そのうち、No. 20のボールを用いたJ1、J2、J4、J5、J10〜J12、J15〜J17の軸受は、剥離寿命が600〜750時間であり、ボールのみに剥離が生じていた。また、ボールの剥離部の断面には白色組織が形成されていた。これらの軸受の剥離寿命は基準となるJ18の軸受の3倍以上である。
このうち、グリースAを使用したJ6とJ13の軸受は、1000時間の試験打ち切り後、外輪の断面に白色組織が少しだけ発生していたが、剥離には至らなかった。図2は、J6およびJ13の軸受を構成する外輪の断面を示す顕微鏡写真である。また、グリースBを使用したJ7とJ14の軸受は、1000時間の試験打ち切り後、外輪の断面に白色組織は発生しなかった。図3は、J7およびJ14の軸受を構成する外輪の断面を示す顕微鏡写真である。
2 外輪
3 ボール(転動体)
4 保持器
5 シールド板
Claims (3)
- 内輪、外輪、転動体を有し、
内輪および外輪少なくとも何れかは、
炭素含有率〔C〕が0.9質量%以上1.1質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.4質量%以上0.9質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.6質量%以上1.2質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が0.9質量%以上1.8質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が0.27質量%以下、ニッケル含有率〔Ni〕が0.2質量%以下、銅含有率〔Cu〕が0.2質量%以下、硫黄含有率〔S〕が0.01質量%以下、リン含有率〔P〕が0.02質量%以下、酸素含有率〔O〕が10ppm以下、残部が鉄(Fe)および不可避不純物である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化と焼入れ焼戻しを行って得られ、
軌道面の表面位置での窒素の含有率〔N〕が0.2質量%以上1.0質量%以下であり、
軌道面の表面位置での炭素の含有率〔C〕が1.1質量%以上1.5質量%以下であり、
軌道面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上5.0%以下の範囲で存在し、
軌道面の表面から転動体の直径の0.01倍に相当する深さの位置で、窒素の含有率〔N〕が0.05質量%以上0.42質量%以下、残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、圧縮残留応力が100MPa以上500MPa以下であることを特徴とする転がり軸受。 - 前記転動体は、
炭素含有率〔C〕が0.9質量%以上1.1質量%以下、珪素含有率〔Si〕が0.4質量%以上0.9質量%以下、マンガン含有率〔Mn〕が0.6質量%以上1.2質量%以下、クロム含有率〔Cr〕が0.9質量%以上1.8質量%以下、モリブデン含有率〔Mo〕が0.27質量%以下、ニッケル含有率〔Ni〕が0.2質量%以下、銅含有率〔Cu〕が0.2質量%以下、硫黄含有率〔S〕が0.01質量%以下、リン含有率〔P〕が0.02質量%以下、酸素含有率〔O〕が10ppm以下、残部が鉄(Fe)および不可避不純物である合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭窒化と焼入れ焼戻しを行って得られ、
転動面の表面位置での窒素の含有率〔N〕が0.2質量%以上1.0質量%以下であり、転動面の表面位置での炭素の含有率〔C〕が1.1質量%以上1.5質量%以下であり、
転動面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上5.0%以下の範囲で存在し、
転動面から転動体の直径の0.01倍に相当する深さの位置で、窒素の含有率〔N〕が0.05質量%以上0.42質量%以下、残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であり、圧縮残留応力が600MPa以上1000MPa以下である請求項1記載の転がり軸受。 - 基油と、ジウレア化合物からなる増ちょう剤と、カルボン酸またはカルボン酸金属塩からなる防錆剤と、アミン系の腐食防止剤と、ジチオカーバメイトからなる耐剥離添加剤とを含有するグリースにより潤滑されている請求項1または2記載の転がり軸受。
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