JP2012229482A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】転動体3に用いられる鋼の成分組成に加え、転動体3の表面のケイ素とマンガンとの両方を含有する窒化物の量及び窒素量を規定した。さらに、転動体3の表面からの所定の深さ位置の窒素量、残留オーステナイト量、及び、圧縮残留応力を規定した。これらのことによって、本発明の転がり軸受は、生産性が良好であることに加えて、白色組織剥離が生じにくく長寿命である。
【選択図】図1
Description
特許文献1及び2には、白色組織剥離の対策として、Crを多量に添加した鋼を用いて転がり軸受を製作することにより、金属組織の変化の発生を遅延させる方法が記載されている。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、生産性が良好であることに加えて、白色組織剥離が生じにくく長寿命な転がり軸受を提供することを目的とする。
条件1:濃度0.9質量%以上1.1質量%以下の炭素、濃度0.4質量%以上0.9質量%以下のケイ素、濃度0.6質量%以上1.2質量%以下のマンガン、濃度0.9質量%以上1.8質量%以下のクロム、濃度0.27質量%以下のモリブデン、濃度0.2質量%以下のニッケル、濃度0.2質量%以下の銅、濃度0.01質量%以下のイオウ、濃度0.02質量%以下のリン、濃度10質量ppm以下の酸素を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である鋼で構成されている。
条件3:前記転動体の表面におけるケイ素とマンガンとの両方を含有する窒化物の量を、面積率で1%以上5%以下とする。
条件4:前記転動体の直径の1%の長さをXとした時、前記転動体の表面から深さXの位置の窒素量を0.05質量%以上とする。
条件5:前記転動体の表面から深さXの位置の残留オーステナイト量を20体積%以上40体積%以下とする。
条件6:前記転動体の表面から深さXの位置の圧縮残留応力を800MPa以上1100MPa以下とする。
さらに、上記転がり軸受は、自動車の電装補機に用いられることが好ましい。
また、上記転がり軸受は、電気モータに用いられることが好ましい。
さらに、上記転がり軸受は、変速機に用いられることが好ましい。
図1の深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、内輪1の軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有する外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体3と、両軌道面1a,2a間に転動体3を保持する保持器4と、ゴムシール等の密封装置5,5と、を備えている。なお、保持器4及び密封装置5は、備えていなくてもよい。
本実施形態における転動体3は、下記の成分組成を有する鋼で構成されている。なお、転動体3以外の軸受部品についても、下記の鋼で構成することとしてもよい。例えば、転動体3の他、内輪1及び外輪2の両方又は一方を下記の鋼で構成することとしてもよい。
炭素(C)は、焼入れによって基地に固溶し、転がり軸受として要求される硬さを得るための元素である。また、他の合金元素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果も有する。こうした効果を得るためには、炭素の含有量は0.9質量%以上1.1質量%以下であることが必要である。炭素の含有量が0.9質量%未満であると、焼入れ後の硬さが低下して、転動疲労寿命と耐摩耗性が不十分となる恐れがある。一方、炭素の含有量が1.1質量%を超えると、鋼中に共晶炭化物が生成されやすくなって、転動疲労寿命が低下する恐れがある。また、冷間加工性、研削性、及び破壊靭性値も低下する恐れがある。
ケイ素(Si)は、後述する、ケイ素とマンガンとの両方を含有する窒化物(以後、Si−Mn系窒化物と称する。)の析出に必要な元素であり、マンガンとの共存によって、窒素と効果的に反応して、Si−Mn系窒化物を顕著に析出する。また、基地に固溶して、焼入れ性を向上させるとともに焼戻し軟化抵抗性を向上させる元素である。さらに、基地組織のマルテンサイトを安定化させるため、本発明において重要な、水素による組織変化を遅延させて転動疲労寿命を延長する効果がある。また、基地組織を強化し、転動疲労寿命と耐摩耗性を向上させる効果も有する。
マンガン(Mn)は、後述するSi−Mn系窒化物の析出に必要な元素であり、ケイ素との共存によって、Si−Mn系窒化物の析出を促進させる作用がある。また、基地に固溶して、焼入れ性を向上させる元素である。また、基地組織のマルテンサイトを安定化させ、本発明において重要な水素による組織変化を遅延させて転動疲労寿命を延長する効果がある。さらに、本発明において重要な、熱処理後の鋼の表面の残留オーステナイトの形成を助け、安定化させる効果も有する。さらに、析出したSi−Mn系窒化物、及び、生成された残留オーステナイトは、鋼中の水素の拡散・集積を遅延させるので、組織変化が局所的に生じるのを遅延させ、転動疲労寿命を延長する効果がある。
クロム(Cr)は、基地に固溶して、焼入れ性、耐食性等を向上させるとともに、炭素と結合して鋼中に硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる元素である。また、炭化物と基地組織のマルテンサイトを安定化させるため、本発明において重要な水素による組織変化に対する抵抗力を向上させる効果も有する。具体的には、クロムは、水素が鋼中に侵入する速度を低下させる効果を有する。さらに、水素が侵入しても基地組織を安定化させることによって、水素による転動疲労寿命の低下を抑制する効果を有する。
モリブデン(Mo)は、焼入れ性及び焼戻し軟化抵抗性を向上させ、基地に固溶して、焼入れ性、耐食性等を向上させるとともに、炭素や窒素と結合して鋼中に硬い炭窒化物を形成し、耐摩耗性及び転動疲労寿命を向上させる元素である。また、基地組織のマルテンサイトを安定化させるため、本発明において重要な水素による組織変化を遅延させて寿命を延長する効果がある。しかし、非常に高価な元素であるため鋼材のコストアップが生じる。そのため、本実施形態では、添加されるモリブデンの含有量は0.27質量%以下とする。
ニッケル(Ni)は、焼入れ性を向上させるとともに、オーステナイトを安定化させるのに有効な元素であり、鋼材の靭性を向上させる。しかし、非常に高価な元素であるため鋼材のコストアップが生じる。そのため、本実施形態では、添加されるニッケルの含有量は0.2質量%以下とする。
[銅の含有量について]
銅(Cu)は、焼入れ性を向上させるとともに、粒界強度を向上させる効果がある。しかし、含有量が多くなると熱間鍛造性を低下させる。そのため、本実施形態では、添加される銅の含有量を0.2質量%以下とする。
イオウ(S)は、凝固時、熱処理時にマンガンと結合してMnSを形成し介在物として作用するため、鋼中のイオウの含有量は少ない方が好ましい。そのため、本実施形態では、添加されるイオウの量を0.02質量%以下とする。
[リンの含有量について]
リン(P)は、結晶粒界に偏析して、粒界強度や破壊靭性値、ならびに転動疲労寿命を低下させることから、鋼中のリンの含有量は少ない方が好ましい。そのため、本実施形態では、添加されるリンの量を0.02質量%以下とする。
酸素(O)は、酸化アルミニウム(Al2O3)等の硬質の酸化物系非金属介在物を生成して剥離の起点となり、転動疲労寿命を低下させることから、鋼中の酸素の含有量は少ない方が好ましい。そのため、本実施形態では、添加される酸素の量を10質量ppm以下とする。
[Si−Mn系窒化物について]
合金成分であるケイ素及びマンガンを多く添加した鋼に窒化処理又は浸炭窒化処理を行うことによって、ケイ素及びマンガンを含んだ析出物が発生する。この析出物は、熱的に安定なSi−Mn系窒化物であり、基地組織に、直径0.01μm以上1μm以下の大きさで均一微細に分散する。
上記したSi−Mn系窒化物が鋼中で析出するためには、窒化処理又は浸炭窒化処理によって侵入する窒素の量が必要量以上とならなければならない。転動体3の表面のSi−Mn系窒化物の量が面積率で1%となるためには、少なくとも転動体3の表面の窒素量が0.2質量%以上必要である。
基地組織中の残留オーステナイトは、基地組織であるマルテンサイトと結晶構造が異なり、Si−Mn系窒化物と同様に水素のトラップサイトとして機能し、水素の拡散速度を低下させる効果がある。一方、転動体3の内部では、転動体3の表面からの、転動体3の直径の1%の深さ位置でせん断応力が最大となるため、水素が集積しやすい。したがって、この深さ位置の残留オーステナイト量を多くすることで、水素の局所的な集積が遅延されるため、水素による白色組織剥離の発生を遅延することができる。こうした効果を得るためには、該深さ位置の残留オーステナイト量は20体積%以上40体積%以下であることが必要である。該深さ位置の残留オーステナイト量が20体積%未満であると、上記の効果が不十分となる恐れがある。一方、該深さ位置の残留オーステナイト量が40体積%を超えると、寸法安定性が低下する恐れがある。
窒化処理又は浸炭窒化処理により、表面から侵入して拡散した窒素は、転動体3の表面で濃度が高くなり、内部に向かって濃度が低くなっていく。前述のように転動体3の表面付近の高濃度の窒素は、Si−Mn系窒化物を形成する。一方、内部に拡散した低濃度の窒素は、残留オーステナイトを安定化させる効果がある。したがって、転動体3の表面からの、転動体3の直径の1%深さ位置まで微量の窒素を拡散させることによって、該深さ位置の残留オーステナイトを安定化させることができるため、前述の残留オーステナイトによる組織変化の遅延の効果を高めることができる。こうした効果を得るためには、該深さ位置の窒素量が0.05質量%以上であることが必要である。該深さ位置の窒素量が、0.05質量%未満であると、上記の効果が不十分となる恐れがある。なお、該深さ位置の窒素量は、窒化処理又は浸炭窒化処理時の雰囲気ガス中の窒素ポテンシャル及び保持時間を変えることによって調整することができる。
前述のように本発明においては、表面のSi−Mn系窒化物と、転動体3の表面からの、転動体3の直径の1%の深さ位置の残留オーステナイトの効果によって、白色組織剥離の発生を遅延することができる。しかし、転がり軸受の使用時間の経過に伴い、いずれは白色組織剥離が発生することは避けられない。白色組織剥離が発生すると、正常組織との界面から微小な亀裂が発生する。圧縮残留応力は、この微小な亀裂が進展するのを抑制し、白色組織剥離に至るまでの時間を著しく延長する効果がある。
本実施形態の転がり軸受は、水素による白色組織の発生が遅延されて、水素による寿命低下が抑制されるので、潤滑剤の分解によって水素が発生しやすい環境においても好適に使用できる。
水素の発生のしやすさは潤滑剤の種類により異なり、トラクション係数を向上させる目的や摩耗を防止する目的等のために添加剤を多く含む潤滑剤には、水素を発生しやすいものがある。例えば、自動車や産業機械の変速機に使用される潤滑油は添加物を多く含み、水素が発生しやすいので、本実施形態の転がり軸受を好適に使用できる。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、転がり軸受の一実施形態としてとして深溝玉軸受を用いて説明したが、アンギュラ玉軸受などのその他の玉軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、自動調心ころ軸受等のころ軸受に対しても本発明を適用可能であり、同様の効果を得ることができる。さらに、ボールねじ、リニアガイド等、その他の転動部材に対しても本発明を適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
表1に示す成分組成の鋼材から円板試験片及び転動体試験片を製作し、各条件で熱処理を施して熱処理品質を調査した。次に、熱処理品質調査において、転動体として加工可能であると判断した実施例及び比較例を用いて、白色組織剥離寿命評価試験を行なった。
表1には、各鋼種の成分組成を記載している。また、表2に、表1の鋼種を用いた実施例及び比較例の各種熱処理品質調査及び白色組織剥離寿命評価試験の結果を示す。なお、表中数値に下線があるものは、実施形態に記載した好適な範囲から外れる数値を示したものである。また、表中の「転動体の直径の1%の深さ位置」とは、転動体の表面からの深さが転動体の直径の1%である位置を意味し、これ以降の説明においては、「深さ1%の位置」と記すこともある。
転動体として加工可能であるかを調査するため、熱処理を施した円板試験片の表面のSi−Mn系窒化物の量、及び窒素量の調査を行った。また、熱処理を施した転動体試験片の深さ1%の位置における窒素量、残留オーステナイト量及び圧縮残留応力の調査を行った。
熱処理後の鋼の表面のSi−Mn系窒化物の量及び窒素量を調べるため、鋼種A〜E,G,I,Jを用いて円板試験片を製作し、熱処理を施した後に、それらの熱処理品質調査を行った。
円板試験片の製作は、以下のようにして行った。まず、鋼種A〜E,G,I,Jを、直径65mm、厚さ6mmの円板に切削加工し、Rxガス、プロパンガス、及び、アンモニアガスの混合ガスを用いて、温度820℃で2〜8時間浸炭窒化処理を行った後に、油焼入れを施した。その後、温度175℃で2時間焼戻し処理を施した。このように、浸炭窒化処理時間を変化させて、実施例1〜10及び比較例1〜9の円板試験片を製作した。
熱処理後の転動体の深さ1%の位置における窒素量、残留オーステナイト量及び圧縮残留応力を調べるため、鋼種A〜E,G,I,Jを用いて転動体試験片を製作し、熱処理を施した後に、それらの熱処理品質調査を行った。なお、本調査で使用する実施例1〜10及び比較例1〜9は、上記1−1で行った円板試験片による熱処理品質調査で用いた実施例1〜10及び比較例1〜9と対応しており、試験片の形状以外は違いがなく、同様の処理を行ったものである。
[2−1.転動疲労試験]
上記の熱処理品質調査において、転動体の製作に不適格と判断された比較例1及び5を除き、残りの実施例1〜10及び比較例2〜4,6〜9の転動体試験片を用いて、転動疲労試験を行なった。
最大面圧 : 4.1GPa
回転速度 : 1000min−1
潤滑油 : ISO粘度グレードがISO VG68である一般鉱油
この様な条件で求めた転動疲労寿命比を表2に示す。
前述の転動疲労試験で、特に寿命が長かった表2の実施例5〜10及び、JIS規格のSUJ2の成分に相当する比較例2及び3の転動体試験片を転動体として使用して、呼び番号が6303である深溝玉軸受(外径=47mm,内径=17mm,幅=14mm)を製作した。なお、これらの深溝玉軸受にはナイロン製保持器を組み込むとともに、グリースを充墳した。また、転動体の剥離までの寿命を評価できるように、内輪及び外輪は白色組織剥離に対して寿命の長い、マルテンサイト系ステンレス鋼で製作した。
以上より、本発明の転がり軸受は白色組織の発生が遅延されるため、水素が発生しやすい環境下においても好適に使用できる。
2 外輪
3 玉
Claims (5)
- 内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、前記転動体が、下記の6つの条件を満たすことを特徴とする転がり軸受。
条件1:濃度0.9質量%以上1.1質量%以下の炭素、濃度0.4質量%以上0.9質量%以下のケイ素、濃度0.6質量%以上1.2質量%以下のマンガン、濃度0.9質量%以上1.8質量%以下のクロム、濃度0.27質量%以下のモリブデン、濃度0.2質量%以下のニッケル、濃度0.2質量%以下の銅、濃度0.01質量%以下のイオウ、濃度0.02質量%以下のリン、濃度10質量ppm以下の酸素を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物である鋼で構成されている。
条件2:前記転動体の表面の窒素量を0.2質量%以上とする。
条件3:前記転動体の表面におけるケイ素とマンガンとの両方を含有する窒化物の量を、面積率で1%以上5%以下とする。
条件4:前記転動体の直径の1%の長さをXとした時、前記転動体の表面から深さXの位置の窒素量を0.05質量%以上とする。
条件5:前記転動体の表面から深さXの位置の残留オーステナイト量を20体積%以上40体積%以下とする。
条件6:前記転動体の表面から深さXの位置の圧縮残留応力を800MPa以上1100MPa以下とする。 - ベルトと、前記ベルトが巻回されたプーリーとを介して回転が伝達されるシャフトの支持に用いられることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
- 自動車の電装補機に用いられることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
- 電気モータに用いられることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
- 変速機に用いられることを特徴とする請求項1に記載の転がり軸受。
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