JP2004011712A - 転がり軸受、これを用いたベルト式無段変速機 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】内輪1および外輪2を特定の合金鋼(C:0.60〜1.20質量%、Cr:0.5〜3.0質量%、Mn:0.10〜1.5質量%、Si:0.10〜1.5質量%)で形成する。軌道面表層部の炭素含有率を0.80〜1.30質量%、窒素含有率を0.05〜0.50質量%、前記表層部の残留オーステナイト量を15体積%以上45体積%以下、軌道面の表面硬さをHvで700以上850以下とする。前記表層部の残留圧縮応力を−100MPa乃至−500MPaとする。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両のベルト式無段変速機のプーリ軸を支持する用途に好適な転がり軸受に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両のベルト式無段変速機は、自動変速機の変速機構として、ベルト駆動のプーリの半径を連続的に変える機構を有するものである。
例えば特公平8−30526号公報等に記載のベルト式無段変速機では、図3に示すように、平行に配置された入力軸(駆動軸)5と出力軸(従動軸)6にそれぞれプーリ7,8が設けてあり、これらのプーリ間に金属製のベルト9が巻き付けてある。このベルト9は、厚さ0.2mm程度の薄板を10枚程度重ねた構造の2条のリング91に、多数の薄い(厚さ2mm程度の)摩擦片92を取り付けた構造となっており、この摩擦片92が押し合うときの押力で動力を伝えるものである。
【0003】
このベルト9を介して、入力軸プーリ(プライマリプーリ)7から出力軸プーリ(セカンダリプーリ)8に駆動力の伝動がなされる。両プーリ7,8は、各軸5,6に固定された固定円錐板71,81と、油圧機構によって軸方向に移動可能な可動円錐板72,82とで構成され、両円錐板によってV字状プーリ溝が形成されている。
【0004】
これらのプーリ7,8の各可動円錐板72,82を軸方向に移動して溝幅を変え、ベルト9がプーリ7,8に接触する位置(プーリの有効回転半径)を変更することで、変速比を無段階に変えることができる。例えば、入力軸プーリの溝幅を縮小するとともに出力軸プーリの溝幅を拡大すれば、入力軸プーリの有効回転半径は小さくなり、出力軸プーリの有効回転半径が大きくなって、大きな変速比が得られる。
【0005】
各プーリ7,8の固定円錐板71,81が一体化された軸部(プーリ軸)71a,81aは、ラジアル玉軸受11,12により支持されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このようなベルト式無段変速機(B−CVT)で使用される転がり軸受には、以下のような課題がある。
前述のリング91と多数の摩擦片92とからなる構造のベルトに生じる振動の周波数(f:Hz)は、摩擦片の個数(Zb)とベルトの回転速度(Nb:rpm)とにより「f=Zb×(Nb/60)」で表される。通常、摩擦片の数は例えば250〜400個であり、この場合、エンジンの回転速度が600rpmから7000rpmへ変化すると、プライマリプーリに生じる振動の周波数の一次成分は減速時で1000〜3000Hz、加速時で10000〜35000Hzとなる。
【0007】
この周波数は、マニュアルトランスミッション(MT)や普通の(無段変速機以外の)オートマチックトランスミッション(AT)でギヤのかみ合いに伴って生じる振動の周波数より高い。これは、MTやATでかみ合うギヤの歯数が50以下であるのに対して、B−CVTの摩擦片の数が250〜400個と多いためと考えられる。
【0008】
また、車両の走行中は加速と減速が繰り返されるため、ベルトの振動と車体の振動とが共振する場合がある。そして、車体には様々な周波数の振動が生じるため、ベルトとの間で頻繁に共振が生じ易い。その結果、B−CVT用の転がり軸受には大きな振動が生じ易い。
一方、B−CVTには、ベルトによる動力伝達効率を良好にすること、ベルト駆動の騒音を抑制すること、プーリとベルトの摩耗を抑えることが求められており、これらの点からは、流動性の高い(粘度の低い)潤滑油を使用することが望ましい。
【0009】
しかしながら、B−CVTの潤滑に流動性の高い潤滑油を使用することは、プーリの回転軸を支持する転がり軸受の潤滑性能の点で好ましくない。すなわち、プーリの回転軸を支持する転がり軸受はプーリの側面に位置するため、この転がり軸受には潤滑油が供給され難いとともに、前述の振動に起因して軌道輪と転動体との間の潤滑膜の状態が悪化し易く、滑りの影響によっても潤滑膜が破壊されやすい。
【0010】
例えば、B−CVTにSUJ2鋼製の転がり軸受を組み込んで、基油動粘度が40℃で40mm2 /sec以下、100℃で10mm2 /sec以下であるCVT用潤滑油を使用した場合、特公昭63−34423号公報に記載された方法で測定した疲労度インデックス(疲労度パラメータ)は、図4に示すように、表面で2.0より高くなる。これに対して、MTやATに同じ軸受を組み込んで同じ潤滑油を使用した場合には、図5に示すように、表面の疲労度パラメータが2.0より小さい。
【0011】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、ベルト式無段変速機の潤滑油として流動性の高い(粘度の低い)潤滑油を使用した場合でも、プーリの回転軸を支持する転がり軸受の寿命を長くできるようにすることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、内輪と外輪との間に複数の転動体が転動自在に配設された転がり軸受において、内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれかが下記の▲1▼〜▲5▼を満たすことを特徴とする転がり軸受を提供する。
▲1▼質量比で、炭素(C)の含有率が0.60%以上1.20%以下、硅素(Si)の含有率が0.10%以上1.5%以下、マンガン(Mn)の含有率が0.10%以上1.5%以下、クロム(Cr)の含有率が0.50%以上3.0%以下である合金鋼を所定形状に成形した後、浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻しを施して得られたものである。
▲2▼軌道輪の軌道面および/または転動体の転動面をなす表層部(表面から50μmの深さまでの部分)の炭素含有率が、0.80質量%以上1.30%質量以下である。
▲3▼前記表層部の窒素含有率が0.05質量%以上0.50質量%以下である。
▲4▼前記表層部の硬さが、ビッカース硬度(Hv)で700以上850以下である。
▲5▼前記表層部の残留圧縮応力が−100MPa乃至−500MPaである。
【0013】
本発明の転がり軸受によれば、内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれかを、上記特定の合金鋼で形成するとともに前記表層部の炭素含有率、窒素含有率、硬さ、および残留圧縮応力を上記構成にすることにより、ベルト式無段変速機の潤滑油として流動性の高い(粘度の低い)潤滑油を使用した場合でも、プーリの回転軸を支持する転がり軸受の寿命を、従来の合金鋼(SUJ2等の軸受鋼、SCR420やSCM420等の肌焼鋼)で形成された軸受よりも長くすることができる。
【0014】
本発明の転がり軸受は、さらに下記の▲6▼および/または▲7▼を満たすことが好ましい。
▲6▼前記表層部の残留オーステナイト量が、15体積%以上45体積%以下である。
▲7▼前記表層部に、平均粒径100nm以上500nm以下の炭化物および/または炭窒化物が分散析出されている。
【0015】
合金鋼各成分等の数値限定の臨界的意義は以下の通りである。
[合金鋼の炭素(C)含有率:0.60質量%以上1.20質量%以下]
Cは、鋼の清浄度を高めるとともに、マトリックスに固溶して鋼に硬さを付与する元素である。また、Cr、Mo、V、W等の元素と結合して炭化物を形成する。熱処理後のマトリックス硬さをHv650とするために、0.60%以上含有する必要がある。
【0016】
1.20%を超えて含有すると、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成され易くなって、転がり疲労寿命や耐衝撃性が著しく低下する場合がある。
[合金鋼の硅素(Si)含有率:0.10質量%以上1.5質量%以下]
Siは、転がり疲労下で見られる白色組織変化を遅延させる効果、焼入れ性能を向上させる効果、および焼戻し軟化抵抗性を向上させる効果を有する。
【0017】
0.10%未満であると、焼戻し軟化抵抗性を向上させる効果が十分に得られない。1.5%を超えると、加工性が著しく低下する。
[合金鋼のマンガン(Mn)含有率:0.10質量%以上1.5質量%以下]
Mnは焼入れ性を高くする作用を有する。0.10%未満であると、この作用が実質的に得られない。1.5%を超えると、加工性が著しく低下する。
[合金鋼のクロム(Cr)含有率:0.50質量%以上3.0質量%以下]
Crは、マトリックスに固溶して、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗性、耐食性等を高くする元素である。また、微細な炭化物を形成して、熱処理時の結晶粒の粗大化を防止することにより、転がり疲労寿命を長くしたり、耐摩耗性や耐熱性を高くしたりする元素である。0.50%未満であると、これらの作用が十分に得られない。
【0018】
Crの含有率が多いと、製鋼時に粗大な共晶炭化物が生成され易くなって、転がり疲労寿命や機械的強度が著しく低下する場合がある。特に、3.0%を超えると旋削性が低くなる場合がある。
[合金鋼のその他の合金成分、不可避不純物]
酸素(O)は、マトリックス中に酸化物系介在物を生成する。この介在物は、曲げ応力疲労の起点(フィッシュアイ)となったり、軸受寿命を低下させる原因となる。そのため、Oの含有率は9ppm以下とすることが好ましい。
【0019】
リン(P)は、転がり寿命および靱性を低下させる元素である。そのため、Pの含有率は0.02質量%以下とすることが好ましい。
硫黄(S)は、切削性を向上させる元素であるが、Mnと結合して硫化物系介在物を生成する。この介在物は転がり寿命を低下させる。そのため、Sの含有率は0.02質量%以下とすることが好ましい。
[表層部の炭素含有率〔C〕:0.80質量%以上1.30%質量以下]
軌道輪(内輪および/または外輪)の軌道面および/または転動体の転動面をなす表層部の炭素含有率が0.8質量%未満であると、十分な転がり疲れ寿命を得るために必要な硬さが得られない。
【0020】
また、1.30質量%を超えると、巨大炭化物が生成し易くなる。巨大炭化物は割れ起点になり易い。
[表層部の窒素含有率〔N〕:0.05質量%以上0.50質量%以下]
0.05%以上であると、焼戻し軟化抵抗性の向上作用によって、微細な炭窒化物が分散析出し易くなる。0.50%を超えると、研磨加工が困難になり、脆性割れ強度が低下する。
[表層部の硬さ:Hv700以上850以下]
軌道面等(軌道面および/または転動面)の表層部の硬さ(表面硬さ)がHv700未満であると、耐摩耗性や表面疲労を十分に軽減できない。また、靱性を考慮して上限値をHv850とした。
[表層部の残留圧縮応力:−100MPa乃至−500MPa]
軌道面等表層部の残留圧縮応力を前記範囲にすることにより、前記表層部に微小な亀裂や微小剥離が生じた場合でも、亀裂伝播を抑制して早期剥離が防止される。
[表層部の残留オーステナイト量:15体積%以上45体積%以下]
残留オーステナイトは表面疲労を著しく軽減する作用があるが、ベルト式無段変速機のプーリの回転軸を支持する転がり軸受の場合には、残留オーステナイト量が15体積%未満であるとこの作用が十分には得られない。軌道面等表層部の残留オーステナイト量は20体積%以上であることが好ましい。
【0021】
軌道面等表層部の残留オーステナイト量が45体積%を超えると、表面硬さが低下したり、組み込み時に軌道輪に変形が生じる恐れがある。
[表層部に分散析出されている炭化物および/または炭窒化物の平均粒径:100nm以上500nm以下]
前記平均粒径とすることにより、亀裂伝播抑制効果、耐摩耗性向上効果、耐水素脆性抑制のための水素トラップ効果が得られる。前記平均粒径の炭化物および/または炭窒化物は、電子顕微鏡によりその存在が確認できるが、その存在比率は、軌道面等(軌道面および/または転動面)の10μm2 当たり10個以上であることが好ましい。
【0022】
本発明の転がり軸受は、ベルト式無段変速機のベルトを巻き付けるプーリの回転軸を支持する用途で好適に使用される。
本発明はまた、本発明の転がり軸受により、ベルトを巻き付けるプーリの回転軸が支持されているベルト式無段変速機を提供する。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
先ず、13種類の合金鋼からなる素材を用意した。各合金鋼の合金成分を表1に示す。表1において、合金成分の含有率が本発明の範囲から外れるものに下線を施した。
【0024】
これらの合金鋼を用いて、呼び番号6208のラジアル玉軸受(内径40mm、外径80mm、幅18mm)用の内輪と外輪を作製した。その際、内輪および外輪の軌道溝を、玉の直径(D)に対する軌道溝の曲率半径(R)の比(R/D)が52.0%となるように形成した。
各合金鋼を所定形状に成形加工した後に、熱処理として、No.7以外では、図2に示す方法で浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻しを行った。なお、No.7については、浸炭窒化処理を行わず、通常の焼入れと焼戻しを行った。
【0025】
先ず、温度830〜930℃、吸熱型ガス、エンリッチガス、およびアンモニアガスの雰囲気で、外輪は2〜5時間、内輪は2〜5時間加熱することにより、浸炭窒化処理を行った後、放冷して洗浄した。次に、吸熱型ガスの雰囲気中で830〜870℃に加熱し、0.5〜3時間加熱することにより「ずぶ焼き」を行った後、油温度50〜150℃で油焼入れを行った。次に、洗浄を行った後、160〜200℃の大気中で1〜5時間加熱することにより、焼戻しを行った。その後、空冷した。この熱処理により、表層部に平均粒径100nm以上500nm以下の炭化物および炭窒化物が分散析出される。
【0026】
熱処理後に、研削仕上げ加工と超仕上げ加工を行った。内輪および外輪の軌道溝の表面粗さは0.01〜0.03μmRaの範囲内とした。
また、直径(D)が11.906mmである、SUJ2製の等級20相当の玉を用意した。この玉には浸炭窒化処理がなされている。この玉と、上述の内輪および外輪と、金属製の波形プレス保持器とを用いて、試験軸受を組み立てた。
【0027】
各試験軸受の内輪および外輪について、「軌道面表層部のC濃度(炭素含有率)」、「軌道面表層部のN濃度(窒素含有率)」、「表層部に分散析出している炭化物および/または炭窒化物(炭化物等)の平均粒径」、「軌道面の表面硬さ(Hv)」、「軌道面表層部の残留γ(残留オーステナイト量)」、「軌道面表層部の残留圧縮応力(残留σ)」は、表1に示す各種構成となっている。なお、ラジアル内部すきまは「C3すきま」以下とした。また、表1において、各構成が本発明の範囲から外れるものに下線を施した。
【0028】
これらの試験軸受を、各6体ずつ用意し、図1に示すB−CVTユニットを使用して寿命試験を行った。このB−CVTユニットでは、プライマリープーリ7およびセカンダリープーリ8の回転軸(入力軸)が、それぞれ1対の転がり軸受11a,11b、12a,12bで支持されている。この4個の転がり軸受のうち、プライマリーフロント軸受(すなわち、プライマリープーリ7よりもエンジン側で入力軸を支持する転がり軸受)11aとして、各試験軸受を取り付けた。これ以外の転がり軸受11b,12a,12bとしては、各試験で同じものを使用した。
【0029】
また、このB−CVTユニットのベルト9は、図3に示すように、厚さ0.2mmの鋼製薄板を10枚重ねた構造の2条のリング91に、280枚の厚さ2mmの摩擦片92を取り付けた構造であり、ベルト長は600mmである。
上記以外の試験条件は以下の通りである。
<寿命試験の条件>
エンジンからの入力トルク:200Nm
入力軸の回転速度:6000rpm
潤滑油:「CVTフルード」に分類される潤滑油であって、動粘度が40℃で35×10−5m2 /s(35cSt)、100℃で7×10−5m2 /s(7cSt)であり、滑り速度0.5m/s時の摩擦係数0.013であるもの。
【0030】
潤滑油供給量:プライマリーフロント軸受は10ミリリットル/分、他の軸受は200ミリリットル/分。
軸受温度:120℃
回転中に振動を測定し、軸受の振動値が初期振動値の5倍となった時点で回転を終了し、この時点までの回転時間を寿命とした。また、この時点で内外輪の軌道溝面のいずれに剥離が生じているかを調べた。なお、軸受の振動値が初期振動値の5倍とならない場合の試験の打ち切り時間は、1500時間とした。
【0031】
なお、各6体の試験軸受のうちの1体については、回転時間100時間で回転試験を止め、特公昭63−34423号公報に記載された方法により、疲労度(疲労度パラメータF)を測定した。この疲労度パラメータFは、転がり疲労前後に、軌道面について、X線回折によるマルテンサイト相を示すピークの半値幅と残留オーステナイト量を測定し、疲労前後の半値幅の差ΔBと残留オーステナイトの差ΔRA(体積%)と、軌道面をなす金属材料によって決まる定数Kにより、F=ΔB+K×ΔRAで表される。
【0032】
そして、各種類毎に5体の試験軸受の結果をワイブル分布のグラフ(累積破損確率−寿命)にプロットし、このグラフから、短寿命側から10%の軸受に剥離が発生するまでの総回転時間(L10寿命)を求めた。
これらの試験結果を下記の表1に併せて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
これらの結果から分かるように、内輪および外輪の構成が全て本発明の範囲を満たすNo.1〜6の試験軸受は、内輪および外輪の構成の少なくとも一つが本発明の範囲から外れるNo.7〜13の試験軸受と比較して、疲労度が小さく(2.0以下)、L10寿命も長かった(1000時間以上であった)。
No.1〜6のうち、No.1〜3とNo.5では、疲労度が1.4以下でL10寿命が1500時間以上となり、No.4およびNo.6よりも疲労度が小さく、L10寿命も長かった。また、No.1〜3とNo.5では、1500時間後に5体全てに軌道面の剥離は見られず、No.4およびNo.6では5体中2体に剥離が生じていた。この結果から、残留オーステナイトが25体積%以上45体積%以下であって、残留圧縮応力が−250MPa乃至−500MPaであることが好ましいことが分かる。
【0035】
これに対して、No.7〜13では、疲労度が2.0を超え、L10寿命も110〜255時間と短かった。特に、No.7では、残留圧縮応力が+80MPaであって本発明の範囲を外れ、残留オーステナイト量も7体積%であって本発明の範囲を外れることから、L10寿命が130時間と短く、試験軸受5体の全てに剥離が生じた。No.7は、SUJ2を素材として用い、浸炭窒化を施していない構成である。
【0036】
また、No.8と12では表面硬さがHv600、640で本発明の範囲より小さいため、疲労度が2.5以上と大きく、L10寿命が120時間、110時間と短かった。また、No.11では残留オーステナイト量が10体積%で本発明の範囲より小さいため、L10寿命が190時間と短かった。さらに、No.13では、残留圧縮応力が0MPaであって本発明の範囲を外れることから、L10寿命が125時間と短かった。また、No.9〜11でも試験軸受5体の全てに剥離が生じた。
【0037】
このように、内輪および外輪が本発明の範囲を満たすNo.1〜6の構成とすることにより、ベルト式無段変速機のプーリ軸を支持するラジアル玉軸受として好適な、流動性の高い(粘度の低い)潤滑油を使用した場合でも転がり疲労が生じ難く、寿命の長い転がり軸受が得られる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれかを、特定の合金鋼で形成するとともに軌道面等の表層部の炭素含有率、窒素含有率、硬さ、および残留圧縮応力を特定の構成にすることにより、ベルト式無段変速機の潤滑油として流動性の高い(粘度の低い)潤滑油を使用した場合でも、プーリの回転軸を支持する転がり軸受の寿命を、従来の合金鋼(SUJ2等の軸受鋼、SCR420やSCM420等の肌焼鋼)で形成された軸受よりも長くすることができる。
【0039】
すなわち、ベルト式無段変速機のプーリの回転軸を支持する転がり軸受として本発明の転がり軸受を使用することによって、流動性の高い(粘度の低い)潤滑油を使用しても十分な軸受寿命が確保できるようになる。これにより、ベルト式無段変速機で要求されていた、ベルトによる動力伝達効率を良好にすること、ベルト駆動の騒音を抑制すること、プーリとベルトの摩耗を抑えることが可能になり、低燃費、低騒音、高耐久性を兼ね備えたベルト式無段変速機が実現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態で寿命試験に使用したベルト式無段変速機を示す概略構成図である。
【図2】実施形態で行った熱処理条件を示す図である。
【図3】車両のベルト式無段変速機の一例を示す断面図である。
【図4】B−CVTにSUJ2鋼製の転がり軸受を組み込んで、基油動粘度が40℃で40mm2 /sec以下、100℃で10mm2 /sec以下であるCVT用潤滑油を使用した場合の、特公昭63−34423号公報に記載された方法で測定した疲労度インデックス(疲労度パラメータ)を示すグラフである。
【図5】MTやATにSUJ2鋼製の転がり軸受を組み込んで、基油動粘度が40℃で40mm2 /sec以下、100℃で10mm2 /sec以下であるCVT用潤滑油を使用した場合の、特公昭63−34423号公報に記載された方法で測定した疲労度インデックス(疲労度パラメータ)を示すグラフである。
【符号の説明】
11 転がり軸受
11a 転がり軸受(プライマリーフロント軸受)
11b 転がり軸受
12 転がり軸受
12a 転がり軸受
12b 転がり軸受
5 入力軸(駆動軸)
6 出力軸(従動軸)
7 入力軸プーリ(プライマリプーリ)
71 固定円錐板
72 可動円錐板
8 出力軸プーリ(セカンダリプーリ)
81 固定円錐板
82 可動円錐板
9 ベルト
91 リング
92 摩擦片
Claims (5)
- 内輪と外輪との間に複数の転動体が転動自在に配設された転がり軸受において、
内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれかは、
質量比で、炭素(C)の含有率が0.60%以上1.20%以下、硅素(Si)の含有率が0.10%以上1.5%以下、マンガン(Mn)の含有率が0.10%以上1.5%以下、クロム(Cr)の含有率が0.50%以上3.0%以下である合金鋼を所定形状に成形した後、浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻しを施して得られ、軌道輪の軌道面および/または転動体の転動面をなす表層部の炭素含有率が0.80質量%以上1.30%質量以下、前記表層部の窒素含有率が0.05質量%以上0.50質量%以下であり、前記表層部の硬さがビッカース硬度(Hv)で700以上850以下であり、前記表層部の残留圧縮応力が−100MPa乃至−500MPaであることを特徴とする転がり軸受。 - 前記表層部の残留オーステナイト量が15体積%以上45体積%以下である請求項1記載の転がり軸受。
- 前記表層部に平均粒径100nm以上500nm以下の炭化物および/または炭窒化物が分散析出されている請求項1または2記載の転がり軸受。
- ベルト式無段変速機のベルトを巻き付けるプーリの回転軸を支持する用途で使用される請求項1乃至3のいずれか1項に記載の転がり軸受。
- 請求項1乃至3のいずれか1項に記載の転がり軸受により、ベルトを巻き付けるプーリの回転軸が支持されているベルト式無段変速機。
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