JP2015021599A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】組織変化を伴う短時間での剥離が発生しやすい過酷な環境で使用される転がり軸受の寿命延長を、一般的な軸受鋼レベルの鋼を用いて安価に実現する。【解決手段】本発明の転がり軸受は、軌道輪の軌道面側表面に高周波加熱による硬さ550HV以上の硬化層が形成されているとともに、下記(A)及び(B)を満たす。(A)前記硬化層の深さをY0(mm)、転動体の直径をDW(mm)とするとき、0.07DW≰Y0である。(B)前記硬化層が形成された軌道輪における転動体と接触する領域の平均肉厚をT(mm)とするとき、Y0≰(980−10T)/(4320/T−40)である。【選択図】なし
Description
本発明は転がり軸受に関し、より詳細には風力発電機の増幅機や主軸、あるいは建設機械、産業用ロボット等のように、組織変化(白色組織変化)を伴う短時間での剥離が発生しやすい過酷な環境で使用される転がり軸受に関する。
転がり軸受は、ハウジング等に固定されたり、軸とともに回転する軌道輪と、軌道輪の間に配置される複数の転動体とを備えており、軌道輪と転動体とは非常に狭い領域で接触しつつ相対的に滑りを伴いながら転がり運動を行う。そのため、軌道輪の軌道面には高い接触面圧が繰り返し作用し、正常に使用されていたとしても軌道面の表面、あるいはせん断応力の作用する表面直下では金属疲労が起こる。
また、十分に潤滑が行われている場合、せん断応力が材料内部の非金属介在物周りに集中して局部的に疲労が蓄積する。最数的には亀裂が発生・進展して表面に至り、軌道面が部分的に欠損する剥離と呼ばれる破損に至る。尚、この剥離が生じた時間は、内部起点型剥離による軸受の寿命と呼ばれる。
一方、潤滑油粘度や表面粗さの影響により潤滑が不十分な場合は、軌道面表面が疲労を受ける場所となり、特に硬質の異物を噛み込んだときには圧痕が形成され、圧痕周りには高い応力集中が生じる。この場合も同様に疲労の蓄積から亀裂の発生・進展が起こって剥離に至る。尚、この剥離は表面起点型剥離と呼ばれる。
これらの剥離の発生を遅らせるためには、材料の疲労強度自体を向上させる必要があり、そのために炭素量の多い鋼や、浸炭・浸炭窒化により表面炭素濃度を高めた鋼の焼入れが行われている。これにより、十分に金属疲労に強い軌道輪あるいは転動体の材料を得ることができる。
ところで、産業用ロボットに使用される転がり軸受は高い荷重が加わることが多く、剥離寿命の向上が大きな課題になっている。また、この転がり軸受では温度、回転数、ゴミの混入等、過酷な潤滑条件で使用されるため、表面に疲労が蓄積しやすい。そのため、これまでの技術開発は、表面疲労に対して更に耐久性を上げることを主眼に行われてきており、例えば特許文献1では、剥離起点の状態に着目し、熱処理により、残留オーステナイト量と表面硬さとを適切な範囲にすることによりゴミ圧痕周りの応力集中を緩和して疲労を低減することを提案している。
しかしながら、近年では風力発電機の増幅機に用いられる大型軸受のように過酷な環境で使用される軸受において、軸受部材内部に組織変化を伴う短時間の剥離現象が見受けられるようになってきた。この組織変化を伴う短時間の剥離が発生する機構は未だ完全に解明されていないが、現在のところ、潤滑油が高い接触面圧や滑りによって分解された際に発生する水素が鋼中に浸入し、水素脆性により組織変化の発生を促進して疲労破壊に至っていると考えられている。また、この組織変化を伴う短時間の剥離は、水素が発生しやすい特殊な潤滑油を含有する潤滑剤を使用する場合や、静電気が介在したり、水が混入するような装置や環境で使用する場合に加速されることもあると考えられている。
そこで、組織変化を伴う短時間の剥離を遅延させて転がり疲れ寿命を向上させるために、潤滑剤を工夫することが提案されている。例えば、特許文献2では、グリースに酸化剤を添加し、軌道面表面に酸化物層を形成して潤滑油の分解及び水素の浸入を防止して寿命延長している。また、特許文献3では、グリースに導体粒子を混在させて電位を安定させて水素の発生を抑制することで転がり疲れ寿命を向上している。
また、鋼材の工夫も提案されており、例えば、特許文献4では組織変化を遅延させるCrに着目し、外輪・内輪・転動体の少なくも1つを、Crを添加した合金鋼とすることにより白色組織の発生を抑制して寿命を延長している。
しかしながら、特許文献2、3のようにグリース組成を工夫した技術は、軸受が油浴中で使用される場合や循環給油により使用される場合に採用できない。また、特許文献4のように鋼材組成を工夫した技術は、鋼材のコスト高を招く。
そこで本発明は、風力発電機の増幅機や主軸、あるいは建設機械、産業用ロボット等のように、組織変化を伴う短時間での剥離が発生しやすい過酷な環境で使用される転がり軸受の寿命延長を、一般的な軸受鋼レベルの鋼を用いて安価に実現することを目的とする。
組織変化を伴う短時間での剥離に至るには、内部に発生した亀裂が進展する課程が必要である。また、表面で発生した亀裂の深さ方向への進展と、より深い位置(心部)で発生した亀裂の表面への進展が剥離を招く。要素的な引張圧縮モード等では亀裂の進展を抑制する手段として圧縮の残留応力の付与が考えられ、軌道面に平行な面内の圧縮応力は、亀裂の表面から深さ方向への進展及び心部から表面への進展の両方に対して抑制効果がある。
軌道面に平行な面内に圧縮応力を付与する方法として、(a)浸炭鋼、あるいは軸受鋼に浸炭処理または浸炭窒化処理を行って、焼入れするときの相変態に、表面と内部とでタイムラグを生じさせる手法、(b)ショットピーニングのような表面処理を施す手法も考えられる。しかし、(a)では浸炭に適した高級な鋼を使用することや熱処理によるコスト増を招き、(b)では応力が付与される深さが浅く、特に大型軸受には不向きである。
これに対し、更なる検討の結果、高周波加熱処理が有効であることが判明した。高周波加熱では、ワークに対置させたコイルが磁界を発生させ、それによりワーク表面に誘導電流が流れて表面加熱が行われる。そのため、ワークの表面のみが加熱されるようにコイル形状及び出力・周波数・時間を調整することにより、最表面の任意の深さの領域においてマルテンサイト変態させ、心部については非硬化層のまま残すことができる。そして、表面の硬化層がマルテンサイトに変態するときに膨張し、心部は膨張せず、両者のバランスにより表面に圧縮残留応力が付与される。また、このときに硬化層が厚すぎたり、引張り応力を担う心部の厚みが不足すると、適度のバランスが得られずに表面の圧縮残留応力が弱まる。そこで本発明では、寿命延長に必要な硬化層深さ及び心部の厚さを規定した。
即ち、本発明は、一対の軌道輪と、前記軌道輪間に転動自在に保持される複数の転動体とを備える転がり軸受において、少なくとも一方の軌道輪の軌道面側表面に高周波加熱による硬さ550HV以上の硬化層が形成されているとともに、下記(A)及び(B)を満たすことを特徴とする転がり軸受である。
(A)前記硬化層の深さをY0(mm)、転動体の直径をDW(mm)とするとき、0.07DW≦Y0である。
(B)前記硬化層が形成された軌道輪における転動体と接触する領域の平均肉厚をT(mm)とするとき、Y0≦(980−10T)/(4320/T−40)である。
(A)前記硬化層の深さをY0(mm)、転動体の直径をDW(mm)とするとき、0.07DW≦Y0である。
(B)前記硬化層が形成された軌道輪における転動体と接触する領域の平均肉厚をT(mm)とするとき、Y0≦(980−10T)/(4320/T−40)である。
本発明によれば、組織変化型剥離が発生しても亀裂が進展するのを抑え、風力発電機の増幅機や主軸、あるいは建設機械、産業用ロボット等のように過酷な環境で使用されるような転がり軸受であっても、剥離の発生を抑えて寿命の延長を図ることができる。
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
本発明の転がり軸受は、一対の軌道輪間に、複数の転動体を転動自在に保持したものであるが、何れか一方の軌道輪、好ましくは両方の軌道輪の軌道面側表面に、高周波加熱による硬さ550HV以上の硬化層(以下「有効硬化層」)が形成されている。高周波加熱では、軌道輪の軌道面側表面と加熱コイルとを対向配置し、加熱コイルに高周波電流を流すことで誘導加熱し、軌道面側表面をある深さにわたって硬化させる。その際、下記(A)及び(B)を満たし、好ましくは更に(C)を満たすように硬化処理される。
(A)有効硬化層の深さをY0(mm)、転動体の直径をDW(mm)とするとき、0.07DW≦Y0である。
(B)有効硬化層が形成された軌道輪における転動体と接触する領域の平均肉厚をT(mm)とするとき、Y0≦(980−10T)/(4320/T−40)である。
(C)有効硬化層が形成された軌道輪における硬さ550HV未満の領域の肉厚をW(mm)とするとき、T<4Wである。
(A)有効硬化層の深さをY0(mm)、転動体の直径をDW(mm)とするとき、0.07DW≦Y0である。
(B)有効硬化層が形成された軌道輪における転動体と接触する領域の平均肉厚をT(mm)とするとき、Y0≦(980−10T)/(4320/T−40)である。
(C)有効硬化層が形成された軌道輪における硬さ550HV未満の領域の肉厚をW(mm)とするとき、T<4Wである。
尚、Y0は、有効硬化層が形成された軌道輪を厚さ方向に切断し、その断面について表面から内部に向かってビッカース硬度計を走査し、硬さが550HV以上である領域(有効硬化層)の表面からの距離(深さ)を求めればよい。また、Wも同様にして断面における硬さを測定し、550HV未満の領域を求めればよい。更に、上記条件(B)の式は、有効硬化層深さに対して残留応力をプロットしたデータから得た肉厚Tを含む式で表される直線が、亀裂を抑制するために必要な残留応力の最大値以下となる条件を不等式で表し、有効硬化層深さについて解くことで得た。
また、Tは次のようにして規定される。図1(A)は円筒ころ軸受において内輪10の外径面10aに有効硬質層を形成した場合を示すが、ころ1の転動面1aのR部側両端P1から内輪10に垂線Lを引き、垂線Lの内輪外径面10aから内輪内径面10bまでの距離を測定し、その平均値をTとする。同図(B)は円錐ころ軸受において内輪10の外径面10aに有効硬質層を形成した場合を示すが、内輪外径面10aの逃げ溝11を除く領域においてころ1の転動面1aと接触する幅方向両端P2から内輪10に垂線Lを引き、この垂線Lの内輪外径面10aから内輪内径面10bまでの距離を測定し、その平均値をTとする。また、図1(C)は自動調心ころ軸受において、外輪12の内径面12aに有効硬化層を形成した場合を示すが、外輪12の内径面12aにおいて、ころ1の転動面1aのR部側両端P3から外輪12に垂線Lを引き、この垂線Lの外輪内径面12aから外輪外径面12bまでの距離を測定し、その平均値をTとする。また、圧砕強度を向上するためには、T<4Wとすることが好ましく、1.3W≦T≦1.5Wがより好ましい。
また、図示は省略するが、玉軸受においては、軌道輪の軌道溝と玉とが点接触になるため、軌道溝の底部及びその近傍から反軌道面までの距離の平均値がTとなる。
更に、Tは、条件(B)のようなY0との関係に加えて、15〜45mmが好ましい。
また、高周波加熱によれば、有効硬化層の他にも、反軌道面及び軌道輪側面も硬化されるが、何れの表面も硬さ500HV以上であることが好ましく、特に反軌道面の表面は硬さ550HV以上であることが好ましい。また、このような硬さの表層部の深さは0.1mm以上であることが好ましい。反軌道面や軌道輪側面はハウジングや他の固定部材、軸等と嵌合する部分であり、それぞれの表面を上記の硬さ及び深さにすることにより耐久性が高まる。
尚、軌道輪を形成する鋼材は、高周波加熱によって表層に十分な硬度が得られるだけのベースカーボン量を備える必要があるため、炭素含有量が0.5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.7質量%以上である。このときにCr、Mn、Si、Ni、Moを任意に含み、焼入性を確保している鋼材においては、上記(A)〜(C)を満足する軌道輪を比較的容易に得ることができる。具体的には、高炭素クロム軸受鋼、一定以上の炭素を含有する炭素鋼、あるいは表面に浸炭等により十分な炭素濃度を付与した合金鋼等が挙げられる。
高周波加熱による処理条件は、上記(A)〜(C)を満足できる限り制限はないが、周波数としては3〜200kHzの範囲が好ましい。
軸受の種類にも制限はないが、大型軸受では表面起点型剥離も問題になる場合が多いため、表面起点型剥離に対する寿命向上のために、軌道面硬さは650HV以上であるとともに、12〜40体積%の残留オーステナイトを持つ表面組織とすることが望ましい。また、高周波加熱においてはワークの温度分布が存在し、これにより部分的であってもオーバーヒートが起こると粒径が粗大化して強度の低下を招く。そこで、好ましくは軌道輪の全ての部分、少なくとも軌道面において粒径が30μm以下になるようにすることが望ましい。
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれいより何ら制限されるものではない。
(実施例1〜6、比較例1〜3)
ここでは、表1に示す3種の円筒ころ軸受について試験を行った。素材は、高炭素クロム軸受鋼である。尚、各ころ軸受の緒元は表1に示すとおりであり、d(mm)は軸受内径、D(mm)は軸受外径、FW(mm)は内輪外径、Cr(N)は基本動定格荷重である。また、ころの直径をDW(mm)とした。更に、図1(A)のように、内輪の内径面から軌道面までの厚さをT(mm)とした。
ここでは、表1に示す3種の円筒ころ軸受について試験を行った。素材は、高炭素クロム軸受鋼である。尚、各ころ軸受の緒元は表1に示すとおりであり、d(mm)は軸受内径、D(mm)は軸受外径、FW(mm)は内輪外径、Cr(N)は基本動定格荷重である。また、ころの直径をDW(mm)とした。更に、図1(A)のように、内輪の内径面から軌道面までの厚さをT(mm)とした。
また、実施例1〜6及び比較例1〜2では、各ころ軸受の内輪の軌道面側表面に高周波加熱による硬化層を形成した。その際、加熱コイルの周波数を3kHz〜100kHzの間で変化させた。また、比較例3では内輪をずぶ焼入れした。
そして、内輪を径方向に切断し、その断面について、内輪の軌道面側表面から硬さ550HV以上である領域(有効硬化層)の深さを測定してY0とした。また、同断面において内輪内径面の表面から硬さ550HV以上の領域の深さを測定し、反軌道面における硬化層深さ(Y0´)とした。また、内輪のY0及びY0 ´以外の領域の厚さをW(mm)とした。このようして求めた内輪の各部の寸法及び硬化層の厚さを表2に示す。
上記のような熱処理を行った実施例1〜4及び比較例1〜2の内輪を用いて円筒ころ軸受NU221EMまたはNU2325Mを組み立て、寿命試験を行った。試験条件は以下の通りであり、比較例2の寿命に対する相対値を求めた。結果を表3に示す。
<寿命試験条件>
・面圧:1.7GPa
・潤滑条件:高トラクション油(分解して水素が発生しやすい潤滑油)
・回転速度:2000min−1(NU221EM)
1000min−1(NU2326M)
<寿命試験条件>
・面圧:1.7GPa
・潤滑条件:高トラクション油(分解して水素が発生しやすい潤滑油)
・回転速度:2000min−1(NU221EM)
1000min−1(NU2326M)
また、実施例1〜6及び比較例1〜3の内輪について、X線回折装置を用い、軌道面に平行な面内方向においてころの進行方向と、それに垂直な方向で残留応力を測定し、その平均値(σ平均値)を求めた。結果を表3に示すが、このσ平均値がマイナスの場合に圧縮残留応力が存在することを示す。
表3に示すように、実施例は条件(A)及び(B)を満たしており、圧縮残留応力が付与されたことにより亀裂の進展が抑えられて寿命が大幅に延長している。これに対し、比較例1では条件(A)を満たしておらず、比較例2では条件(B)を満たしておらず、比較例3ではずぶ焼入れのため条件(A)〜(C)を満足しておらず、何れも短寿命である。
1 ころ
1a 転動面
10 内輪
10a 内輪外径面
10b 内輪内径面
12 外輪
12a 外輪内径面
12b 外輪外径面
L 垂線
1a 転動面
10 内輪
10a 内輪外径面
10b 内輪内径面
12 外輪
12a 外輪内径面
12b 外輪外径面
L 垂線
Claims (1)
- 一対の軌道輪と、前記軌道輪間に転動自在に保持される複数の転動体とを備える転がり軸受において、
少なくとも一方の軌道輪の軌道面側表面に高周波加熱による硬さ550HV以上の硬化層が形成されているとともに、下記(A)及び(B)を満たすことを特徴とする転がり軸受。
(A)前記硬化層の深さをY0(mm)、転動体の直径をDW(mm)とするとき、0.07DW≦Y0である。
(B)前記硬化層が形成された軌道輪における転動体と接触する領域の平均肉厚をT(mm)とするとき、Y0≦(980−10T)/(4320/T−40)である。
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2013
- 2013-07-23 JP JP2013152358A patent/JP2015021599A/ja not_active Ceased
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JPH10226817A (ja) * | 1996-12-11 | 1998-08-25 | Sumitomo Metal Ind Ltd | 軟窒化用鋼材の製造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品 |
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