JP4345417B2 - 転がり軸受 - Google Patents
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Description
そのため、軌道面に十分な潤滑膜が形成され難く、形成された潤滑膜が部分的に破断され易い。これにより、軌道面と転動体とが接触し易くなる。特に、潤滑膜が破断された部分の軌道面は活性な新生面(鋼の組織が露出している面)となるため、この新生面が触媒となって、トライボケミカル反応により潤滑剤の成分および潤滑剤に含まれる水分が分解して、水素イオンが生じ易い。そして、この水素イオンが前記新生面に吸着して水素原子となり、高歪み場(最大剪断応力位置の近傍)に集積されることにより、組織が白色組織に変化する。
一方、車両のベルト式無段変速機は、自動変速機の変速機構として、ベルト駆動のプーリの半径を連続的に変える機構を有するものである。
例えば下記の特許文献1に記載のベルト式無段変速機では、図3に示すように、平行に配置された入力軸(駆動軸)5と出力軸(従動軸)6にそれぞれプーリ7,8が設けてあり、これらのプーリ間に金属製のベルト9が巻き付けてある。このベルト9は、厚さ0.2mm程度の薄板を10枚程度重ねた構造の2条のリング91に、多数の薄い(厚さ2mm程度の)摩擦片92を取り付けた構造となっており、この摩擦片92が押し合うときの押力で動力を伝えるものである。
これらのプーリ7,8の各可動円錐板72,82を軸方向に移動して溝幅を変え、ベルト9がプーリ7,8に接触する位置(プーリの有効回転半径)を変更することで、変速比を無段階に変えることができる。例えば、入力軸プーリの溝幅を縮小するとともに出力軸プーリの溝幅を拡大すれば、入力軸プーリの有効回転半径は小さくなり、出力軸プーリの有効回転半径が大きくなって、大きな変速比が得られる。
このようなベルト式無段変速機の潤滑には、トルクコンバーター、歯車機構、油圧機構、湿式クラッチ等を円滑に作動させて動力を伝達するために、前記プーリ軸を支持する玉軸受も含めて、トラクション係数(トルク伝達能力)の高い自動変速機用潤滑油(ATF:Automatic Transmission Fluid)や無段変速機用潤滑油(CVTF:Continuously Variable Transmission Fluid)等の潤滑油が使用される。
また、車両の走行中は加速と減速が繰り返されるため、ベルトの振動と車体の振動とが共振する場合がある。そして、車体には様々な周波数の振動が生じるため、ベルトとの間で頻繁に共振が生じ易い。その結果、ベルト式無段変速機用の転がり軸受には大きな振動が生じ易い。
すなわち、ベルト式無段変速機のプーリ軸を支持する転がり軸受は、このように高周波振動、荷重変動、滑り等が生じ易いとともに、ベルトとプーリとの摩擦による熱の影響を受けて高温になり易いため、軌道面に十分な潤滑膜が形成され難く、形成された潤滑膜が部分的に破断され易い。したがって、前述のエンジン補機用転がり軸受と同様のメカニズムで、軌道面に早期剥離が生じ易い。さらに、ベルト式無段変速機内にはベルトやプーリ等の摺動部品が存在するため、異物の噛み込みによる寿命低下も懸念される。
このようなトライボケミカル反応で生じる水素に起因する早期剥離を防止するために、下記の非特許文献1には、転動体の転動面に電気めっき法によりNi被膜を形成することにより、トライボケミカル反応で生じた水素イオンを鋼の組織に吸着し難くすることが記載されている。
本発明の課題は、軌道面に十分な潤滑膜が形成され難く、形成された潤滑膜が部分的に破断され易い用途で使用される転がり軸受であっても、トライボケミカル反応で生じる水素に起因する早期剥離を効果的に防止して、寿命を長くすることにある。
式中、tは一定温度での保持時間、γRt はt時間経過後の残留オーステナイト量(体積%)、γR0 はt=0での残留オーステナイト量(体積%)である。
前記定数Kを保持温度170℃で0.003以下とするために、前記表層部をなす鋼のマトリックス(組織から炭化物やその他の化合物からなる析出物を除いた部分)のクロム(Cr)当量を3.0以上とする。すなわち、クロム(Cr)当量が3.0以上である合金鋼を使用して所定形状に加工した後に、前記熱処理を行う。また、前記表層部をなす組織のマトリックスのニッケル(Ni)当量を0.5以上とする。クロム(Cr)当量は下記の(2)式で表される。ニッケル(Ni)当量は下記の(3)式で表される。
Ni当量=Ni+Co+0.5Mn+0.3Cu…(3)
浸炭処理および浸炭窒化処理は、例えば、雰囲気温度900〜960℃で、浸炭処理ではRXガス+エンリッチガスを、浸炭窒化処理ではRXガス+エンリッチガス+アンモニアガスを導入した炉内で数時間、加熱保持することにより行う。
なお、焼戻し温度は180〜240℃とすることが、残留オーステナイトを安定的に形成するという点で好ましい。
前記表層部に存在する残留オーステナイトは、前述のトライボケミカル反応により生じる水素イオンを捕らえる機能を有する。そして、前記オーステナイトに捕らえられた水素イオンは、軸受の回転時には、前記表層部(表層部を構成する組織のオーステナイト部分)への吸着速度と前記表層部からの放出速度が平衡状態となり、軸受の停止時には、前記表層部から容易に放出される。これにより、軸受の回転時に、水素イオンが前記表層部を構成する組織のマルテンサイト部分に吸着することが抑制される。
保持温度170℃での前記定数Kは0.002以下であることが好ましく、0.001以下であることがさらに好ましい。
試験用の転がり軸受として、呼び番号6206に相当する単列深溝玉軸受を、以下のようにして作製した。
内輪および外輪については、リング状の素材として、下記の表1に示す各組成のものを用意し、内輪および外輪の形状に切削加工した後、被加工物に対して各条件で熱処理を行った。No. 1〜3と6については、先ず、浸炭窒化処理を、雰囲気温度:930℃、導入ガス:RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス(0.8m3 /h)、処理時間:3.5時間の条件で行った。次に、室温まで徐冷した後に、表1に示す各焼入れ温度まで加熱して、焼入れを行った。次に、180℃で焼戻しを行った。
玉(転動体)については、先ず、高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)からなる素材を切削加工し、前記と同じガスを導入し、雰囲気温度820〜840℃、処理時間1.5時間で浸炭窒化処理を行った後に、そのまま焼入れを行い、さらに180℃での焼戻しを行った。
次に、研磨による仕上げ加工を行うことにより、内輪および外輪の表面粗さ(Ra)を0.01〜0.03μmとし、玉の表面粗さ(Ra)を0.003〜0.010μmとした。
また、各内輪を170℃に保持し、その軌道面の表層部の残留オーステナイト量を、100時間後、200時間後、300時間後、400時間後、500時間後に測定して、各保持時間での定数Kを前記(1)式から求め、その平均値を算出した。その結果も下記の表1に併せて示す。
この試験機は、油浴14と荷重付与装置15とからなり、油浴14内に、転がり軸受1が取り付けられたハウジング2の全体と、軸3の基端部31以外の部分とが配置されている。油浴14には、転がり軸受1の内輪と軸3の間に設けた止め輪17が略埋まる高さまで、潤滑油14aが入れてある。荷重付与装置15は、ハウジング2を介して転がり軸受1に荷重を与える負荷レバー15aを備えている。
転がり軸受を回転させて、回転試験中に軸受に生じる振動を測定し、回転中の振動値が初期振動値の5倍となった時点で試験を中断して、内輪もしくは外輪の軌道面または玉の表面にフレーキングが生じているかどうかを調べた。
これらの結果も下記の表1に示す。また、これらの結果から得られた、残留オーステナイト分解定数(K)と寿命比(L10/Lcal )との関係を図2にグラフで示す。
なお、本発明の転がり軸受は玉軸受に限定されず、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、ニードル軸受も含まれる。
2 ハウジング
3 軸
31 軸の基端部
11 ラジアル玉軸受
12 ラジアル玉軸受
14 油浴
14a 潤滑油
15 荷重付与装置
15a 負荷レバー
17 止め輪
20 ラジアル玉軸受
21 ラジアル玉軸受
5 入力軸(駆動軸)
6 出力軸(従動軸)
7 入力軸プーリ(プライマリプーリ)
71 固定円錐板
72 可動円錐板
8 出力軸プーリ(セカンダリプーリ)
81 固定円錐板
82 可動円錐板
9 ベルト
91 リング
92 摩擦片
Claims (3)
- 内輪と外輪との間に複数の転動体が転動自在に配設された転がり軸受において、
内輪、外輪、および転動体のうちの少なくともいずれかは、
合金鋼からなる素材を所定形状に加工した後、浸炭処理または浸炭窒化処理と焼入れおよび焼戻しを施して得られ、軌道輪の軌道面または転動体の転動面をなす表層部は、硬さがHRC(ロックウエルC硬度)60以上であり、残留オーステナイト量が15体積%以上45体積%以下であり、一定温度に所定時間保持したときの残留オーステナイトの分解速度を示す定数(下記の(1)式で算出されるK)が、保持温度170℃で0.003以下であり、
前記合金鋼は、下記の(2)式で表されるクロム(Cr)当量が3.0以上であり、下記の(3)式で表されるニッケル(Ni)当量が0.5以上であることを特徴とする転がり軸受。
K=−In(γRt /γR0 )/t…(1)
式中、tは一定温度での保持時間、γRt はt時間経過後の残留オーステナイト量(体積%)、γR0 はt=0での残留オーステナイト量(体積%)である。
Cr当量=Cr+2Si+1.5Mo+5V+5.5Al+1.75Nb+1.5Ti+0.75W…(2)
Ni当量=Ni+Co+0.5Mn+0.3Cu…(3) - 車両用ベルト式無段変速機のベルトを巻き付けるプーリの回転軸を支持する用途で使用される請求項1記載の転がり軸受。
- 車両用交流発電機の回転子が固定された回転軸と、固定子が固定された固定子側部材との間で、前記回転軸を前記固定子側部材に対して回転自在に支持する用途で使用される請求項1記載の転がり軸受。
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