JP2012188704A - 樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】270℃×20秒のベーキング処理後の耐力が225N/mm2以上である樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板であって、Si:0.10〜0.40質量%、Fe:0.35〜0.80質量%、Cu:0.10〜0.35質量%、Mn:0.20〜0.80質量%、Mg:1.5〜2.5質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、前記Feに対する前記Siの含有量の比(Si/Fe)が0.75以下であり、固溶Mn量が0.12〜0.20%であることを特徴とする。
【選択図】図3
Description
詳細には、鋳塊に600℃前後の高温の均質化熱処理を施したのち、冷却、そして再加熱(2回均熱)を行うことにより、固溶Mn量を一定値以下に抑え、且つ、微細析出物の生成を抑制して(析出物を成長・粗大化させ)、熱間仕上げ圧延時の巻取り温度で完全再結晶組織が得られるように製造条件をコントロールするという方法である。なお、前記の2回均熱に代えて、600℃前後の高温の均質化熱処理を施したのち、所定速度で500℃前後まで冷却し、その後、熱間圧延を行うという方法(2段均熱)も存在する。
しかしながら、特許文献1〜4に開示された技術では、前記のような要望に応えることはできなかった。
近年、製缶工程における環境負荷軽減策として、クーラント(潤滑・冷却材)を使用せずに成形可能な「樹脂被覆アルミニウム合金板を用いたドライ成形技術」が広く採用されるようになっている。当該技術は、当初、3ピースタイプのボトル缶への適用のみであったが、現在では2ピースタイプのDI缶への適用も徐々に進んできている。
この「樹脂被覆アルミニウム合金板を用いたドライ成形技術」では、しごきダイスとアルミニウム合金板の間に樹脂フィルムが存在するため、アルミニウム合金板表面のAl−Fe−Mn系金属間化合物の分布状況はしごき加工性に殆ど影響しない。したがって、Al−Fe−Mn系金属間化合物の形成に必須の元素であるMnの含有量を0.8質量%以下に制限しても連続的なしごき加工が可能であることを本発明者らは見出した。
加えて、Mg含有量の増加は強度向上にも寄与するため、Mn含有量の低減による強度低下を十分に補うことができ、アルミ缶の剛性も確保できることもわかった。
以上の事項に基づき、本発明を創出した。
タンデム方式の圧延機を用いることで、シングル方式の圧延機と比較して、1回の通板における圧延率を高くすることができる。これにより、1回の通板における発熱量が安定して高くなり、コイルハンドリング時間の短縮、生産歩留まりの向上、エネルギー消費の減少等を図ることができる。そのため、冷間圧延を効率的、経済的に行うことができ、アルミニウム合金板の生産性が向上する。
また、本発明に係る樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板によれば、各成分を所定量に規定していることから、均熱処理工程における熱処理の到達温度を従来よりも大幅に低下させるとともに熱処理を1回に制限することができる。したがって、製造時の省エネルギー化・環境負荷軽減を図ることができる。
そして、本発明に係る樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板の製造方法によれば、均熱処理工程における熱処理の到達温度を従来よりも大幅に低下させるとともに熱処理を1回に制限していることから、製造時の省エネルギー化・環境負荷軽減を図ることができる。
さらに、本発明に係る樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板およびその製造方法は、均熱処理工程における熱処理が1回でよいことから当該工程を短縮化することができ、樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板の生産性を向上させることができる。
なお、樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板とは、表面(片面または両面)に樹脂からなる保護層を被覆して缶胴に成形する缶胴用のアルミニウム合金板のことである。
アルミニウム合金板は、ベーキング処理後の耐力が所定値以上であって、Si、Fe、Cu、Mn、Mgを所定量含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、さらに、前記Siと前記Feとの比(Si/Fe)を所定値以下に、前記Mnの固溶量を所定量以下に規制したものである。
以下、アルミニウム合金板の成分の限定理由およびアルミニウム合金板の特性について説明する。
Siは、熱間圧延時の再結晶挙動および集合組織に影響を及ぼす元素である。
Siの含有量が0.10質量%未満では、0−180°耳が高くなり、しごき加工時の耳切れの発生、ひいてはフランジ部の欠けによる寸法不良が生じやすい。一方、Siの含有量が0.40質量%を超えると、ホットコイルで再結晶しにくくなるため、加工組織(未再結晶部)の残存により冷間圧延した後の製品板の45°耳が高くなり、フランジ部の欠けなどの寸法不良が生じやすい。
したがって、Siの含有量は、0.10〜0.40質量%とする。
Feは、熱間圧延時の再結晶挙動および集合組織に影響を及ぼす元素である。
Feの含有量が0.35質量%未満では、ホットコイルで再結晶しにくくなるため、加工組織の残存により45°耳が高くなり、フランジ部の欠けによる寸法不良が生じやすい。一方、Feの含有量が0.80質量%を超えると、Al−Fe−Mn系金属間化合物が多く形成されてしまい、ボトル缶のカール成形や、DI缶のフランジ成形時にクラックが発生しやすくなる。
したがって、Feの含有量は、0.35〜0.80質量%とする。
Cuは、アルミニウム合金板の強度に寄与する元素である。
Cuの含有量が0.10質量%未満では、強度が不足し、ボトル缶の首部座屈強度不足や、DI缶の耐圧強度が不足する。一方、Cuの含有量が0.35質量%を超えると、ホットコイルで再結晶しにくくなるため、加工組織の残存により45°耳が高くなり、フランジ部の欠けなどの寸法不良が生じやすい。
したがって、Cuの含有量は、0.10〜0.35質量%とする。
Mnは、アルミニウム合金板の強度に寄与するとともに、熱間圧延時の再結晶挙動および集合組織に影響を及ぼす元素である。
Mnの含有量が0.20質量%未満では、強度が不足し、ボトル缶の首部座屈強度不足や、DI缶の耐圧強度が不足する。一方、Mnの含有量が0.80質量%を超えると、ホットコイルで再結晶しにくくなるため、加工組織の残存により45°耳が高くなり、フランジ部の欠けによる寸法不良が生じやすい。
したがって、Mnの含有量は、0.20〜0.80質量%とする。
Mgは、アルミニウム合金板の強度に寄与する元素である。
Mgの含有量が1.5質量%未満では、強度が不足し、ボトル缶の首部座屈強度不足や、DI缶の耐圧強度が不足する。一方、Mgの含有量が2.5質量%を超えると、熱間圧延時に表面が焼き付きやすく、製缶したときに缶壁部にフローマークによる外観不良が生じやすい。
したがって、Mgの含有量は、1.5〜2.5質量%とする。
アルミニウム合金板の成分は、前記の他、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものである。なお、不可避的不純物として、例えば、Zr:0.10質量%以下、B:0.05質量%以下の含有は本発明の効果を妨げるものではなく、このような不可避的不純物の含有は許容される。
Feに対するSiの含有量の比(Si/Fe)は0.75を超えると、ホットコイルで再結晶しにくくなり、加工組織の残存により45°耳が高くなるため、フランジ部の欠けなどの寸法不良を生じやすい。
したがって、Feに対するSiの含有量の比(Si/Fe)は、0.75以下とする。
Mnの固溶量が0.12質量%未満では、強度が不足し、ボトル缶の首部座屈強度不足や、DI缶の耐圧強度が不足する。一方、Mnの固溶量が0.20質量%を超えると、ホットコイルで再結晶しにくくなるため、加工組織の残存により45°耳が高くなり、フランジ部の欠けなどの寸法不良を生じやすくなる。
したがって、Mnの固溶量は、0.12〜0.20質量%とする。
また、前記Mnの固溶量は、前記Mnの含有量、および後記の均熱処理工程の処理条件(温度範囲、処理回数)を適性化することにより制御することができる。
樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板は、当該アルミニウム合金板に対して印刷・塗装後の焼付けを想定した条件である「270℃、20秒間」という熱処理を施した後の耐力(0.2%耐力)が重要な指標となる。
なお、当該耐力は、前記Cu、Mn、Mgの含有量、および冷間圧延率により制御することができる。
したがって、270℃×20秒のベーキング処理後の耐力は、225N/mm2以上とする。
<Cr:0.10質量%以下>
板表面に樹脂被覆を施した後に缶を成形するタイプのアルミニウム合金板は、樹脂被覆の前処理として、樹脂の密着性向上のために板にリン酸クロメート処理を行う。したがって、Crの含有量は樹脂被覆を施さないものと比べて必然的に多くなる。ここで、Crの添加を許容することで、これら樹脂被覆タイプのアルミニウム合金板を製缶する際に発生する屑の使用量を増やすことができる。一方、Crの含有量が0.10質量%を超えると、ホットコイルで再結晶しにくくなるため、加工組織の残存により45°耳が高くなり、フランジ部の欠けなどの寸法不良が生じやすい。
したがって、Crの含有量は、0.10質量%以下とする。
Tiは、鋳塊組織の微細化に寄与する元素である。Tiを添加することにより鋳造時に鋳塊組織を微細化すると、鋳造性が向上して高速鋳造が可能となる。その効果は0.01質量%以上の添加により得られる。但し、0.10質量%を超える量を添加すると、フィルターの目詰まりが早くなるため、鋳造中に次第に溶湯がフィルターを通過しにくくなり、ついには鋳造を中止せざるを得なくなる。
したがって、Tiの含有量は、0.10質量%以下とする。
なお、Tiを添加する場合には、Ti:B = 5:1の割合とした鋳塊微細化剤(Al−Ti−B)を、ワッフルあるいはロッドの形態で鋳造前の溶湯に添加するため、含有割合に応じたBも必然的に添加される。
Znは、不純物と判断される元素である。Znの含有量が0.40質量%以下であれば、材料特性、缶特性に影響を及ぼさない。なお、原料中へのスクラップ配合率の向上(たとえば熱交換器用クラッド材のスクラップ使用量の向上)、ひいてはコストダウンのために、Znの積極添加は有効である。
したがって、Znの含有量は、0.40質量%以下とする。
≪樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板の製造方法≫
樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板の製造方法は、鋳造工程、均熱処理工程、熱間圧延工程および冷間圧延工程を含むものである。
以下、各工程について説明する。
鋳造工程は、前記組成を有するアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊を作製する工程である。
アルミニウム合金を溶解、鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、真空誘導炉を用いて溶解し、連続鋳造法や、半連続鋳造法を用いて鋳造することができる。
均熱処理工程は、鋳造工程で作製された鋳塊を均質化熱処理する工程である。
ここで、均熱処理工程においては、到達温度450〜550℃で1回の熱処理を行う。到達温度が450℃未満では、熱間仕上げ圧延時の巻取り温度も不十分となるので、ホットコイルで再結晶しない。また、圧延自体が困難となる。一方、到達温度が550℃を超えると、Mnの再固溶が進んで、やはりホットコイルで再結晶しにくくなり、加工組織の残存により冷間圧延した後の製品板の45°耳が高くなり、フランジ部の欠けなどの寸法不良を生じやすい。
なお、前記の低い熱処理温度で、且つ、1回のみの熱処理であっても、前記組成を有するアルミニウム合金を用いることにより、缶胴材(キャンボディ材)として十分満足できる性能を発揮させることができる。
保持時間が2時間未満であると、十分な均質化が得られないからである。
熱間圧延工程は、均熱処理工程で均質化熱処理された鋳塊を冷却することなく熱間圧延して圧延板を作製する工程である。
ここで、熱間圧延工程においては、終了温度を300〜380℃とする条件で熱間圧延を行う。終了温度が300℃未満では、ホットコイルが再結晶せず、加工組織の残存により冷間圧延した後の製品板の45°耳が高く、フランジ部の欠けなどの寸法不良が生じやすい。一方、終了温度が380℃を超えると、板表面の酸化皮膜増大・焼き付き発生により、缶の表面品質を低下させ商品価値がなくなる。
なお、熱間圧延する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。
冷間圧延工程は、熱間圧延工程で作製された圧延板を冷間圧延してアルミニウム合金板を作製する工程である。
ここで、冷間圧延工程においては、総圧延率を80〜90%とする条件で冷間圧延を行う。総圧延率が80%未満では強度不足となってしまう。一方、総圧延率が90%を超えると45°耳の増加を招いてしまう。なお、この45°耳の増加は、フランジ部の欠けなどの寸法不良につながってしまう。
表1の実施例1〜13および比較例1〜19に示すような合金組成を備えたアルミニウム合金を溶解し、半連続鋳造法により厚さ600mmの鋳塊を作成した。
次に、この鋳塊を面削し、その後均熱処理、続いて熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延を行い、ホットコイル(熱間圧延板)を製造した。更に、このホットコイルに冷間圧延を施し、アルミ缶用のアルミニウム合金板(板厚0.300mm)とした。
なお、均熱処理、熱間圧延(熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延)および冷間圧延における各条件については、表1に示すとおりである。
次に、このようにして製造されたアルミニウム合金板の特性として、製造後(すなわち、冷間圧延後)における270℃×20秒のベーキング処理(熱処理)後の0.2%耐力を以下の測定方法により求めた。
270℃で20秒のベーキング処理を施したアルミニウム合金板からJIS5号試験片を採取し、この試験片を用いて、JISZ2241に準拠して引張試験を行い、ベーキング処理後の0.2%耐力を測定した。
また、固溶Mn量(%)については、以下の測定方法により求めた。
固溶Mn量(%)については、熱フェノールによる残渣抽出法(フィルターのメッシュサイズ0.1μm)による残渣抽出溶液を得、その溶液中の元素量をICP発光分析法によって測定し、Mnの固溶量を求めた。
アルミニウム合金板にリン酸クロメート処理を施し、両面に厚さ16μmのポリエチレンテレフタラート樹脂フィルムをラミネートした。この板に絞り成形(カップ成形)、その後DI成形(しごき成形)を行い、開口部をトリミングして外径66mm、高さ124mm、側壁厚さ0.1mm(フィルムを含まない)の有底筒形状の缶胴とした。そして、印刷・塗装後の焼付けを想定した270℃×20秒の熱処理を行って供試材とした。
<フランジ部寸法評価>
前記缶胴20缶について開口部に4段のネック成形、さらにはフランジ成形を施したのち、開口端を目視観察し、全20缶ともにフランジ部に欠けが生じていなければ「良好:○」とし、1缶でも欠けが生じていれば「不良:×」とした。
前記缶胴20缶について水圧式耐圧強度測定器にて内圧をかけていき、バックリングしたときの内圧の最大値を耐圧強度として評価した。その値(平均値)が647kPa以上(6.6kg/cm2以上)の場合を「良好」とし、647kPa未満(6.6kg/cm2未満)のものを「不良」と判断した。
前記缶胴20缶の側壁部を目視観察し、すべての缶についてループ状の黒い線(フローマーク)が1本以下であれば「良好:○」とし、2本以上認められる缶が1缶でもあれば「不良:×」とした。
一方、比較例1〜19は、本発明の要件のうちのいずれかを満たしていないので、以下のような好ましくない結果が得られた。
以下に、比較例の試験結果について説明する。
なお、比較例19のアルミニウム合金板は、特許文献1に記載(合金A)された従来のアルミニウム合金板を想定したものである。本実施例で示すように、従来のアルミニウム合金板は、均熱処理工程における熱処理の熱処理温度を従来よりも低下させるとともに熱処理を1回に制限してしまうと、そもそもホットコイルの時点で満足な材料組織とならない。そのため、缶の評価を行うまでもなく、本発明に係るアルミニウム合金板が従来のアルミニウム合金板と比較して、優れていることが明らかとなった。
2、12 胴体部
3、13 ネック部
4、14 開口部
5 ネジ部
6 底部
11 DI缶
15 フランジ部
A ラミネート材
Claims (4)
- 270℃×20秒のベーキング処理後の耐力が225N/mm2以上である樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板であって、
Si:0.10〜0.40質量%、Fe:0.35〜0.80質量%、Cu:0.10〜0.35質量%、Mn:0.20〜0.80質量%、Mg:1.5〜2.5質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、
前記Feに対する前記Siの含有量の比(Si/Fe)が0.75以下であり、
固溶Mn量が0.12〜0.20%であることを特徴とする樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板。 - さらに、Cr:0.10質量%以下、Zn:0.40質量%以下、Ti:0.10質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板。
- 請求項1または請求項2に記載の成分を含有するアルミニウム合金を、溶解、鋳造して鋳塊とする鋳造工程と、
前記鋳塊を、到達温度450〜550℃で1回の熱処理を行うことにより均質化する均熱処理工程と、
均質化した前記鋳塊を、冷却することなく熱間圧延して熱間圧延板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延板を、焼鈍することなく、冷間圧延する冷間圧延工程と、を含み、
前記熱間圧延工程は、終了温度が300〜380℃であり、
前記冷間圧延工程は、総圧延率80〜90%であることを特徴とする樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。 - 前記冷間圧延工程の冷間圧延は、タンデム方式の圧延機を用いて行うことを特徴とする請求項3に記載の樹脂被覆缶胴用アルミニウム合金板の製造方法。
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