JP2016180175A - 製缶後の光沢性に優れた樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板および絞りしごき缶用樹脂被覆アルミニウム合金板 - Google Patents

製缶後の光沢性に優れた樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板および絞りしごき缶用樹脂被覆アルミニウム合金板 Download PDF

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悟 高田
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良治 正田
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Yushi Inoue
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Abstract

【課題】絞りしごき缶表面の光沢性を向上させ得る缶胴用アルミニウム合金板の提供。【解決手段】質量%でMgが0.1〜6.0%、Feが0.01〜0.5%、Mnが0.01〜0.85%、Fe+Mnが1.3%未満であり、残りがAl及び不可避的不純物からなり、樹脂が予め被覆された上で絞りしごき缶に製缶される缶胴用アルミニウム合金板であって、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqが0.12μm以下であるとともに、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率を2.4%未満として、特に図1の缶の0°位置部分などの光沢性を優れさせる樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板。【選択図】図1

Description

本発明は、樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板および絞りしごき缶用樹脂被覆アルミニウム合金板に関する。
本発明の絞りしごき缶用アルミニウム合金板は、樹脂被覆絞りしごき缶用として、樹脂が予め被覆された上で、絞りしごき加工により、包装容器の缶胴(絞りしごき缶)に製缶される、樹脂が被覆される前の素材アルミニウム合金板である。
本発明の樹脂被覆アルミニウム合金板は、樹脂が予め被覆されており、絞りしごき加工により前記包装容器の缶胴に製缶される、樹脂が被覆された素材アルミニウム合金板である。
包装容器としての飲料缶の胴部(缶胴)は、DI缶とも称される絞りしごき缶が一般的である。DIは「Drawing and wall Ironing」の略であり、素材アルミニウム合金板を先ず絞り加工して、側面継目のない胴部と該胴部に継目なしに一体に接続された底部とから成るカップに成形し、次いで、このカップの胴部にしごき加工をおこなう、多段階の絞り加工−しごき加工(以下、絞りしごき加工とも言う)により製缶される。
この製缶により、飲料缶では高さのある円筒形状の胴部が成形され、この胴部は、塗装、焼付けされ、ネッキング加工により開口部を縮径されて、フランジング加工により開口部の縁を外側に拡げられて、最終の缶胴となる。
このような絞りしごき缶の素材(材料)として、成形性、耐食性、強度等の面から、AA乃至JIS3000系などの圧延されたアルミニウム合金板に、予め樹脂を被覆した(プレコート)アルミニウム合金板が用いられている。
この樹脂被覆アルミニウム合金板は、樹脂としてワックス等の潤滑剤を予め製缶前に塗布しているので、ドライな状態での絞りしごき加工ができる。このため、樹脂を被覆していない素材アルミニウム合金板を絞りしごき加工する場合に必要な、アルミニウム合金板と工具との摩擦低減のための、大量の水や水系潤滑剤を用いる必要が無く、環境負荷の少ない製缶プロセスが可能となる。
このような樹脂被覆アルミニウム合金板に対する、絞りしごき缶の側からの特性向上の要求に対して、従来から、板の組成や組織などの観点からの改善提案が数多くなされている。
例えば、特許文献1では、絞りしごき缶の耐突刺し性や、缶胴開口部の拡缶性を十分に有するために、板断面の板厚方向中心部に存在する金属間化合物を規定し、最大長さが1μm以上の金属間化合物の面積率が0.3%を超え1.3%未満であり、最大長が11μm以上の金属間化合物の個数が100個/mm以下とすることが提案されている。
これに対して、近年では、包装容器の意匠性の更なる向上のために、光輝性や鮮鋭性などとも表現される光沢性が優れた外観(外表面)を有する絞りしごき缶が強く求められるようになっている。
この点、樹脂被覆アルミニウム合金板の製缶後の絞りしごき缶としての光沢性は、樹脂被覆を施さないアルミニウム合金板を素材とする絞りしごき缶に比べて劣っている。
この理由は、樹脂被覆アルミニウム合金板において、絞り加工、しごき加工で使用されるポンチとダイスに直接接触するのは、あくまで外面側の被覆樹脂であり、内面側となるアルミニウム合金板が直接ポンチやダイスと接触しないことによる。
光沢性は、絞りしごき加工中に、アルミニウム合金板が直接ポンチやダイスと接触し、板表面への圧下あるいは摩擦、摩耗作用により、アルミニウム合金板の表面が平滑化されることによって増す。したがって、樹脂被覆アルミニウム合金板では、外面側の被覆樹脂の存在によって、この効果が無いか小さくなり、光沢性が増すことが無い。
このため、樹脂被覆アルミニウム合金板を製缶した絞りしごき缶表面の光沢性(以下、絞りしごき缶の光沢性とも言う)は、絞りしごき加工などの製缶工程の条件の変更では、効果的に向上させることができない。
したがって、樹脂被覆アルミニウム合金板を製缶した絞りしごき缶の光沢性(光輝性、鮮鋭性)の向上は、必然的に素材側であるアルミニウム合金板に、改善が求められることとなる。ただ、このような缶の光沢性向上に関して、公知となっている従来技術はあまり無く、特許文献2が散見される程度である。
この特許文献2では、絞りしごき缶の光沢性を増すために、被覆する樹脂(外面塗膜)の膜厚と、素材アルミニウム合金板表面の粗度との関係を規定している。具体的には、絞りしごき缶用の樹脂被覆アルミニウム合金板の、缶外面となる面の算術平均粗さ(Ra)を0.5μm以内とし、このアルミニウム合金板の樹脂被覆の厚みを0.02μm〜6μmとし、その上で、前記Raが0.2μm未満の場合には、樹脂の厚みを6μm以上とするなど、前記Raが小さくなるほど、樹脂の膜厚を厚くしている。
特開2010−236075号公報 特開2011−201198号公報
ただ、アルミニウム合金板の表面のRaと樹脂層の厚みとは、従来から光沢性向上のための一般的な制御対象でもあって、このような汎用される制御対象の範囲では、要求される絞りしごき缶の光沢性を得るには、十分とは言えない。
この点、これまで、樹脂被覆アルミニウム合金板を製缶した絞りしごき缶の光沢性に大きく影響する、素材のアルミニウム合金圧延板の、特に表面の因子に対する解明も、充分なされているとは言い難い。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、樹脂が予め被覆された上で絞りしごき缶に製缶されるアルミニウム合金板であって、絞りしごき缶の光沢性を向上させることができるアルミニウム合金板および樹脂被覆アルミニウム合金板を提供することを目的とする。
前記課題を解決するための、本発明の製缶後の光沢性に優れた樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板の要旨は、質量%で、Mg:0.1〜6.0%、Fe:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.85%、を各々含有するとともに、FeとMnとの合計含有量が1.3%未満であり、残部Alおよび不可避的不純物からなる樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板であって、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqが0.12μm以下であるとともに、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率が2.4%未満であることとする。
また、前記課題を解決するための、本発明の絞りしごき缶用樹脂被覆アルミニウム合金板の要旨は、上記アルミニウム合金板の表面に熱可塑性樹脂フィルム被覆層を有することである。
本発明では、これまでは注目されていなかった、絞りしごき缶表面の光沢性に大きく影響する、素材圧延板表面の重要な制御因子を知見し、これを制御する。
この重要な制御因子の一つは、素材板の種々の表面粗さの内でも、前記絞りしごき缶外面側となる表面における、圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqである。
実際の目視評価による絞りしごき缶の光沢性あるいは外観性は、後述する通り、特に、前記絞りしごき缶の外表面における、前記圧延痕の方向としごき加工痕の方向とが互いに略平行となり、一致する表面部分はもっとも光沢性が高いことから、最も光沢性に対する印象を与える部分である。
したがって、絞りしごき缶の光沢性に対しては、この評価方法と密接に相関する、素材板の圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqの制御が、素材板の他の方向の表面粗さよりも、有効となる。
同時に、本発明では、他の重要な制御因子として、この素材板の、前記絞りしごき缶外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、比較的大きなFe系晶出物の存在を規制する。
これは、この素材板の前記表層部における比較的大きなFe系晶出物が、後述する通り、絞りしごき加工によって変形して、缶表面の凹凸あるいはマトリックスに対する異材部分として出現し、絞りしごき缶表面の光沢性あるいは外観性を低下させることを知見したからである。
本発明は、これらの絞りしごき缶表面の光沢性に大きく影響する、素材圧延板表面の因子を制御することによって、要求される絞りしごき缶表面の光沢性を得ることができる、アルミニウム合金板あるいは樹脂被覆アルミニウム合金板を提供できる。
素材板と絞りしごき缶表面の圧延痕としごき加工痕との関係を示す模式図である。 素材板(圧延板)の表層部を部分的かつ模式的に示す断面図である。
以下、本発明缶胴用アルミニウム合金板(以下、アルミニウム合金板とも称す)を実現するための形態について説明する。
本発明の樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板は、缶胴素材としてのアルミニウム合金圧延板(冷延板)であって、樹脂、特に熱可塑性樹脂フィルムなどが予め被覆された上で、絞り加工およびしごき加工されて、絞りしごき缶(以下、単に缶とも言う)に製缶される、樹脂被覆前の素材アルミニウム合金板である。また、本発明絞りしごき缶用樹脂被覆アルミニウム合金板は、上記アルミニウム合金圧延板に、熱可塑性樹脂フィルムが前記製缶前に予め被覆されたものである。
以下の組成や組織などの説明では、これら樹脂被覆前の前記アルミニウム合金板と、樹脂被覆後の前記アルミニウム合金板とを合わせて、アルミニウム合金板あるいは素材アルミニウム合金板と総称する。
(アルミニウム合金組成)
本発明アルミニウム合金板の組成は、絞りしごき缶表面の光沢性の観点だけからではなく、前提として、缶への絞りしごき加工性、缶としての必要強度、耐食性などの、缶の要求諸特性を兼備するために規定される。
このために、本発明アルミニウム合金板の組成は、質量%で、Mg:0.1〜6.0%、Fe:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.85%、を各々含有するとともに、FeとMnとの合計含有量が1.3%未満であることとする。
このアルミニウム合金組成に、さらに、強度を向上させる同効元素として、質量%で、Si:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜0.5%の一種または二種、あるいは前記Cuに加えて、Cr:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.5%の一種または二種を、選択的に含有する組成としてもよい。
そして、このアルミニウム合金組成は、前記必須元素や選択的添加元素の残部を、Alおよび不可避的不純物とすることが好ましい。なお、組成(各元素含有量)に関する%表示は全て質量%の意味である。
(Mg:0.1〜6.0%)
Mgは、固溶強化によってアルミニウム合金の強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.1%未満では、アルミニウム合金板が缶胴に成形されたときに、薄肉な側壁強度が低くなって、缶としての耐圧性や缶体強度が不足する。一方、Mgの含有量が6.0%を超えると、アルミニウム合金板の加工硬化が過大となって、しごき加工時のティアオフ(胴体割れ)等の割れ、ネッキング加工時のシワやスジ等の不良が発生し易くなる。
ちなみに、MgはMgSiの晶出物として現れる可能性があるが、固溶しやすい元素であり、また、晶出物量はSi濃度に依存する傾向があり、Al−Fe系の晶出物に比して圧倒的に少ないため、後述する通り、晶出物としては特に規制する必要はない。
したがって、Mgの含有量は、0.1〜6.0%の範囲とし、好ましくは0.2〜2. 6%、より好ましくは1.2〜2.2%とする。
(Fe:0.01〜0.5%)
Feは、素材アルミニウム合金板組織中で、A1−Fe(−Mn)系、A1−Fe(−Mn)−Si系などのAl−Fe系の晶出物(金属聞化合物)を形成する。これらの晶出物は、絞りしごき缶表面の光沢性(光輝性)を阻害する。
すなわち、製缶時のしごき加工の際に、アルミニウム合金板が延ばされると、アルミニウム合金板表面近傍のAl−Fe系の晶出物は延性がないため、そのままの形をとどめるか、砕けながら、缶表面に現れるか、あるいは缶表面近傍に分布することになる。
また、Al−Fe系の晶出物が存在すると、上記絞り加工時に前記晶出物周りでシワが助長され、前記Al−Fe系の晶出物には延性がないため、前記しごき加工時に前記晶出物が伸びず、前記晶出物周りで、しごき加工方向にアルミのき裂が発生しやすく、これも缶表面の粗化と、缶の光沢性低下の原因となる。更に、前記Al−Fe系の晶出物は、絞りしごき加工性(DI成形性)や、缶の耐圧強度や耐突き刺し性も低下させる。
しかも、Feは地金やスクラップなどのアルミニウム合金の溶解原料から混入しやすく、その含有量が光沢性を低下させない許容量(上限値)である0.5%を超えて多くなりやすい。
以上のことから、Feの含有量は0.01〜0.5%の範囲に制御する。
(Mn:0.01〜0.85%)
Mnも、アルミニウム合金板組織中で、A1−Fe−Mn系、A1−Fe−Mn−Si系などの晶出物(金属間化合物)を形成する。これらの晶出物は絞りしごき缶表面の光沢性に悪影響を与えるAl−Fe系の晶出物周りに、前記晶出物として形成されやすく、缶の光沢性を低下させる。
前記Al−Fe−Mn系の晶出物も、延性がないため、製缶時のしごき加工の際に、缶表面に現れるか、あるいは缶表面近傍に分布し、缶表面(外面、外表面)の粗化の原因となり、缶の光沢性を低下させる。また、前記しごき加工時に前記Al−Fe−Mn系の晶出物が伸びず、前記晶出物周りで、しごき加工方向にアルミのき裂が発生しやすく、これも缶表面の粗化と、缶の光沢性低下の原因となる。
しかも、Mnも地金やスクラップなどのアルミニウム合金の溶解原料から混入しやすく、その含有量が、光沢性を低下させない許容量(上限値)である0.85%を超えて多くなりやすい。
以上のことから、Mnの含有量は0.01〜0.85%の範囲に制御する。光沢性の観点からは、Mn含有量の上限は、0.5%とすることが好ましい。
(FeとMnとの合計含有量が1.3%未満)
以上の通り、FeとMnは各々上記所定量の範囲に制御するが、缶の光沢性に悪影響を与えるFeとMnとに基づく晶出物を、より確実に規制するため、FeとMnの合計含有量(Fe+Mn)は1.3%未満とする。好ましくは0.9%未満、より好ましくは0.7%未満、更に好ましくは0.55%未満となるように規制する。なお、これらFeとMnとの合計含有量は、前記FeとMnの各下限量があるために0%にはならない。
(Si:0.01〜1.5%)
Siはアルミニウム合金の強度を向上させる効果があるので、選択的に含有させる。Siが過剰になると、晶出物として、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物やMg−Si系金属間化合物の大きなものが多数形成されて、絞りしごき缶表面の光沢性(光輝性)や、缶の強度や耐突き刺し性などが低下する。この晶出物形成のリスクを減らすために、Siの含有量を減らしても、強度確保のためには、固溶しやすいMgの添加で対応できるので、Si含有量は少なめとすることが好ましい。このため、含有させる場合のSi含有量は0.01〜1.5%の範囲、好ましくは0.01〜0.4%とする。
(Cu:0.01〜0.5%)
Cuは、固溶強化によって強度を増加させるため、選択的に含有させる。Cu含有量の下限量は0.01%以上、好ましくは0.05%以上とする。一方、Cuが過剰になると、高強度は容易に得られるものの、硬くなりすぎるために、成形性が低下する。このため、含有させる場合のCu含有の上限量は0.5%、好ましくは0.3%とする。
(Cr:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.5%)
Cuと同時に含有させる強度向上元素としてCr、Znが挙げられ、Cuを選択的に含有させる際に、更に、Cr:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.5%の一種または二種を選択的に含有させることができる。
Cuとともに含有させる場合のCrの含有量は0.001%以上、好ましくは0.002%以上とする。一方、Crが過剰になると、巨大晶出物が生成して成形性が低下するので、Cr量の上限は0.1%、好ましくは0.05%程度とする。
また、Cuとともに含有させる場合のZnの含有量は0.01%以上、好ましくは0.02%以上とする。一方、Znが過剰になると成形性が低下するので、Zn含有量の上限は0.5%、好ましくは0.45%程度とする。
これらの元素以外は不可避的不純物であり、例えば、Zr:0.10%以下、Ti:0.2%以下、B:0.05%以下、であれば、本発明に係るアルミニウム合金板の特性に影響せず、含有が許容される。
(アルミニウム合金板表面)
以上のアルミニウム合金組成を前提として、絞りしごき缶表面の光沢性の向上のために、本発明ではアルミニウム合金板表面の特定方向の表面粗さの制御を行う。
そして、これと併せて、前記光沢性の向上のために、後述する通り、このアルミニウム合金板の表層部の組織(板表面から15μm以内の表層部の組織)中に存在する、晶出物の制御(規制)を行う。
また、更に、前記表層部組織の結晶粒の長軸と短軸の比(長軸/短軸)として定義されるアスペクト比の制御を行うことが好ましい。
(光沢性の評価方法)
光沢性の客観的な評価の有り方として、見た目の光沢性を数値化することが重要であり、市販の光沢計による反射率など各種方法を検討した。その結果、見た目の光沢性と一致する方法でかつ簡易に評価できる方法として見出したのが、市販のコピー機による散乱光を評価する方法であった。
図1に、順に左から、素材圧延板(アルミニウム合金板)の平面図、この板を製缶した後の絞りしごき缶を散乱光強度率用に平板状に展開した平面図を各々示す。
この図1の右側に示すように、絞りしごき缶を平坦な板状に展開した試験片を、素材板の圧延痕がコピー機のスキャン方向に平行になる様に、コピー機上に配置し、通常通りコピーした画像をデジタル化し、そのデジタル化した画像を画像処理して、散乱光を評価するものである。これによると測定したい部位、面積を任意で選択できることから、正確かつ容易に測定が可能となる。以上のことから、この方法を光沢性の評価方法として採用した。
この散乱光は、白紙の散乱光強度率が1、アルミ蒸着板の反射率が0.9であることから、アルミ蒸着板の散乱光強度率を0.1(=白紙の散乱光強度率−アルミ蒸着板の反射率)とし、この白紙とアルミ蒸着板の2種の標準試料をコピー機によりスキャンし、画像の濃淡、すなわち白紙の画像(散乱光強度率:1)とアルミ蒸着板の画像(散乱光強度率:0.1)の濃淡の差異は散乱光強度率の差に基づくものとして、且つ、通常この両者の中間の散乱光強度率を有する試験片では、画像の濃淡の変化は散乱光強度率と比例の関係にあるとして、当該試験片の画像から求めた値を散乱光強度率(散乱光強度比率の意味:無次元)とした。
そして、絞りしごき缶表面の光沢性はこの散乱光強度率が低いほど良く、本発明では、この散乱光強度率の合格基準を0.5未満とする。
(表面粗さ)
更に、光沢性が表面のどの形態により決定されるかを検討したところ、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)で測定した数μmの領域の凹凸は相関せず、レーザ顕微鏡で測定した数百μmの凹凸と相関することがわかり、特に、表面粗さRqが光沢性にもっともよく相関することがわかった。
以上のことから、本発明では、これまでは注目されていなかった、絞りしごき缶表面の光沢性に大きく影響する、素材圧延板表面の重要な制御因子として、素材板の種々の表面粗さの内でも、圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqを制御する。
本発明において、目視評価による絞りしごき缶の光沢性あるいは外観性は、前記図1の絞りしごき缶の、0°位置部分の目視検査によって、主として評価する。
缶の0°位置部分は、図1の通り、圧延痕の方向と、図示しないしごき加工の方向がともに缶軸方向の直線状となって、互いに略平行で一致している表面部分である。このような、缶の0°位置部分は他の90°、−90°の位置部分に比して、缶表面部位の中で、もっとも光沢性が高くなるためである。このため、この缶の0°位置部分の表面部分の光沢性向上は、缶の光沢性を上げるために、最も重要となる。
これに対して、図1に示す、缶の90°、−90°の位置部分では、実線で示す圧延痕の延在方向が絞りしごき加工によって、円弧状に湾曲しており、図示しないが缶軸方向の直線状となっているしごき加工痕の延在方向とは大きく異なっており、両者が一致していない。このような缶の表面部分は、前記缶の0°位置部分に比して、光沢性が低くなる。
このように、素材圧延板を絞りしごき加工した際に、缶の表面部位によって、圧延痕としごき加工との方向が一致する(平行な)部分と、一致しない(平行でない)部分が生じるのは、素材圧延板の表面粗さが、圧延痕方向および圧延方向に垂直な方向(板幅方向)で異なることにもよる。
したがって、素材板の表面粗さとしては、絞りしごき缶の代表的な光沢性として、前記0°位置部分の圧延痕としごき加工との方向に密接に相関する、素材板の圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqの制御が、素材板の他の方向の表面粗さよりも、重要で、かつ有効となる。
このため、本発明では、素材アルミニウム合金板の缶胴外面側となる表面における圧延方向(板幅方向に対し垂直な方向)の表面粗さRqを0.12μm以下、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.07μm以下と、できるだけ小さくする。これによって、特に、絞りしごき缶の0°位置部分の表面部分の散乱光強度率を、上記のように0.5 未満、好ましくは0.45未満に下げて、光沢性を向上させる。
この結果、素材アルミニウム合金板を絞りしごき加工により製缶した絞りしごき缶表面の圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqも0.12μm以下とでき、絞りしごき缶表面の光沢性を効果的に向上させることができる。
ちなみに、前記絞りしごき加工によって、絞りしごき缶表面の圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqも増大しやすいので、素材アルミニウム合金板の段階での圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqを下げることが、絞りしごき缶表面の光沢性向上のために重要となる。
この表面粗さRqの測定は、レーザ顕微鏡(反射式共焦点レーザ顕微鏡)を用い、JIS2001の測定方法を用いて、素材圧延板から採取した試料の、缶外面となる表面を、図1の素材圧延板に矢印で示すように、圧延痕の延在方向に沿って平行な方向に、200μmの長さだけ測定した時の表面粗さRqを測定する。測定は、試料の適当な間隔をあけた10箇所について行い、測定値を平均化する。
このRqの制御は、後述する通り、冷延時の冷延ロールの表面粗さや、板表面の機械的あるいは化学的な研磨によるテクスチャー処理で制御することができる。
ちなみに、素材アルミニウム合金圧延板の表面粗さRqは、樹脂が被覆された上での絞り加工、しごき加工の製缶では、使用されるポンチとダイスに直接接触するのは被覆樹脂であり、アルミニウム合金板が直接、ポンチやダイスと接触しないため、平滑化されず、概ね変化しない。
このため、素材アルミニウム合金板の缶胴外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqを0.12μm以下とすることによって、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の散乱光強度率を上記のように下げて、光沢性を向上させることが可能となる。
(アルミニウム合金板の表層部)
更に、本発明では、前記光沢性の向上のために、素材アルミニウム合金板の、缶胴外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、晶出物と、結晶粒のアスペクト比の制御を行う。
(晶出物)
本発明では、素材アルミニウム合金板の、缶胴外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物(金属間化合物)の面積率を2.4%未満に制御し、より好ましくは2.0%未満とする。これによって、素材アルミニウム合金圧延板の表面粗さRqを0.12μm以下と保証でき、 特に、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の散乱光強度率を上記のように合格基準の0.5未満に下げて、光沢性を向上させることができる。
素材アルミニウム合金板の、缶胴外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率を2.4%未満に制御できなければ、この晶出物による製缶時の後述する作用によって、例え冷延ロールの表面粗さRqを0.12μm以下としても、あるいは、冷延された素材アルミニウム合金 板の表面粗さRqを0.12μm以下としても、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の散乱光強度率を合格基準の0.5未満に下げて、光沢性を向上させることができない。
ここで、前記表層部とは、素材アルミニウム合金板の缶胴外面側となる表面における、最外表面の酸化物皮膜を除く、アルミマトリックス表面から深さ15μm以内の部分を言う。
Fe系晶出物とは、A1−Fe(−Mn)系、A1−Fe(−Mn)−Si系、A1−Fe−Mn系、A1−Fe−Mn−Si系などの晶出物(金属聞化合物)を総称している。素材アルミニウム合金板での晶出物の種類は、前記組成からすると、大きくはAl−Fe系、Mg−Si系の2種類が存在するが、Al−Fe系の晶出物が圧倒的に多いことから、Al−Fe系の晶出物の制御が重要である。またAl−Fe系の晶出物の中でも、数が多いのがAl−Fe−Mn系であり、この制御が晶出物の制御の上では重要となる。
ちなみに、Al−Fe系の晶出物の面積率の観察、測定は、倍率1000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて行うが、Al−Fe系に比して、Mg−Si系の晶出物は圧倒的に少ない。このため、Mg−Si系晶出物と光沢性には相関がないことから、SEM観察の際に、アルミニウムマトリックスに対し、白く写る部分として識別できる晶出物を、全てAl−Fe系晶出物(金属間化合物)と見なしてカウントし、それぞれの晶出物の面積を測定し、測定した面積から晶出物の面積率を算出することができる。ちなみに、Mg−Si系晶出物は、前記SEMにて、Al−Fe系の晶出物とは異なり、アルミマトリックスに対して黒く写り、Al−Fe系の晶出物とは容易に識別できる。
ここで、従来でも晶出物の制御をしているが、それは、光沢性向上目的ではないため、必然的に、素材アルミニウム合金板の缶胴外面側となる表面ではなく、板厚中心などの板の内部組織を問題としている。このため、絞りしごき缶表面の光沢性に対しては影響が小さいか、全く効果が無い。
図2に素材圧延板の断面を、部分的かつ模式的に示す。この図2において、前記圧延痕は、板幅方向に多数存在し、かつ圧延方向に互いに平行に延在する凹溝状の痕として示されている。
そして、この図2に示すように、通常、Fe系晶出物は、素材アルミニウム合金板の板厚中心などの内部よりも、表面側の方が、その数が多くなる。
しかも、素材アルミニウム合金板の最表面や表層部にある晶出物は、延性に乏しいことから、しごき加工で基本的には形を変えない(砕けたりはするが)。このため、しごき加工により板厚が薄くなるにつれ、素材アルミニウム合金板の最表面や表層部にある多くの晶出物が、より最表面側に分布する。その結果、製缶後の缶においては、表面に多くの晶出物がアルミニウム合金を突きやぶり表面に現れたり、突き破らないまでも缶表面の形状に影響を与えることとなる。
ただ、前記表層部に存在する小さなFe系晶出物は、存在しても、また薄肉化しても、表面形状(粗度)に影響を与えないので、光沢性に影響する表層部におけるFe系晶出物の大きさを、最大長さが0.3μm以上とした。また、常法では、板の強度や成形性などの基本特性を阻害するような大きさのFe系晶出物はほとんど存在しないので、このFe系晶出物の最大長さの上限は10μm程度である。
また、前記した通り、素材アルミニウム合金板表面の求められる表面粗さはRqが0.12μm以下であるが、この時の表面粗さのピークToバレー(最大高さ:ピーク値Pと最小高さ:バレー値Vとの差で規定される表面粗さP−V値)は1μm程度である。このことからすると、前記光沢性に影響を与える最小の晶出物サイズはサブμmレベルである。
更に、光沢性には晶出物の大きさも重要であるが、その数も光沢性に大きな影響を与えることから、本発明のように、サイズの因子と数の因子を含む、晶出物の面積(面積率)で評価するのが適切である。
ちなみに、大きいサイズの晶出物は、板内部の深い位置に存在するものでも、薄肉化すれば、表面形状(粗度)に影響を与えるが、このような大きいサイズの晶出物は、前記した通り、板の強度や成形性などの基本特性を阻害するため、常法により製造された板にはほとんど存在しない。また、板内部の深い位置に存在する小さな晶出物は、存在しても、また薄肉化しても、表面形状(粗度)に影響を与えない。
したがって、前記した表層部の晶出物の大きさや、絞り加工、しごき加工の合計の加工率がおおむね30%〜80%であることなどを考慮すると、板の晶出物が、絞り加工、しごき加工によって、表面に出て表面粗さに影響を与える、板のマトリックス表面からの深さは15μm程度の深さまでであり、これを表面層の深さと規定した理由である。
(結晶粒のアスペクト比)
また、以上の晶出物制御と併せて、前記光沢性の向上のために、アルミニウム合金板の表層部の組織(板表面から15μm以内の表層部の組織)の結晶粒の長軸と短軸の比(長軸/短軸)として定義されるアスペクト比の制御を行い、前記アスペクト比を3.0以上とすることが好ましい。
素材であるアルミニウム合金板(冷延板)の表層部の前記アスペクト比を大きくして3.0以上とすることで、このアルミニウム合金板の製缶時のしごき加工で、種々の結晶方位粒の形状が変化し、缶胴の前記表面粗さRqが大きくなることが抑制され、光沢性が向上する。
これに対して、前記表層部組織のアスペクト比が1に近いと、製缶時のしごき加工で、種々の結晶方位粒の形状が変化して缶胴の前記表面粗さRqが大きくなり、光沢性を低下させる。また、製缶(DI)時に結晶面のズレが生じ、結晶方位の違いにもより(凸になる傾向の結晶面と凹になる結晶面があり)、凹凸が発生し、缶胴の前記表面粗さRqが大きくなり、光沢性を低下させる。
このため、製缶前の素材アルミニウム合金板(冷延板)の状態で、前記アスペクト比を3.0以上に、十分大きくして、組織をランダム化しておく必要がある。
この結晶粒のアスペクト比は、主に圧延工程と熱処理により決まる。
冷延板の表層部の前記アスペクト比を大きくして3.0以上とするためには、後述する通り、所定の表面粗さの冷延ロールを用いて、出来るだけ冷延率を高くするなどして、所定の板厚の冷延板を得る。
(製造方法)
次に、本発明における素材缶胴用アルミニウム合金板の製造方法を説明する。本発明のアルミニウム合金板は、前記組成のアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊とする鋳造工程と、鋳塊を熱処理により均質化する均熱処理工程と、均質化した鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板とする熱間圧延工程と、熱間圧延板を焼鈍することなく冷間圧延する冷間圧延工程からなる常法によって製造される。但し、幾つかの工程を、常法とは異なる条件で行い、冷延後のアルミニウム合金板の表面粗さや、表層部のFe系晶出物を、本発明で規定するものとする。
(溶解、鋳造)
先ず、アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法等の公知の半連続鋳造法により鋳造し、アルミニウム合金の固相線温度未満まで冷却して鋳塊とする。通常の平均鋳造速度が20〜100mm/分の範囲で、平均冷却速度が0.5℃/秒未満と遅いと、鋳塊中に粗大な金属間化合物が多量に晶出する可能性がある。したがって、通常の平均鋳造速度の範囲において、平均冷却速度は0.5℃/秒以上とするのが好ましい。また、この冷却速度は、鋳塊の中央部の温度、すなわち鋳造方向に垂直な面の中央部の温度についてのものであり、アルミニウム合金の液相線温度から固相線温度までの冷却における速度とする。
(熱間圧延)
次いで、常法により均熱処理して均質化された鋳塊に熱間圧延を行うが、この熱延条件は常法あるいは一般的な条件の範囲で良く、まず鋳塊を粗圧延して、さらに仕上げ圧延により、所定の板厚のアルミニウム合金熱間圧延板とする。
(冷間圧延)
熱間圧延板は、300〜580℃で中間焼鈍を行いながら冷間圧延して、所定の板厚のアルミニウム合金板に仕上げる。
冷間圧延率が5%以上の冷間圧延を少なくとも1回施して、所定の板厚の板厚の冷延板を得る。これは、製缶時のしごき加工で、種々の結晶方位粒の形状が変化することで、表面粗度が大きくなるためで、出来るだけ冷延率を高くした方が、表面粗度に影響を与えないためである。
以上のことから、冷間圧延の途中で行われる中間焼鈍を行わず、冷間圧延のみでアスペクト比3.0以上を得たり、焼鈍前後の冷延率や中間焼鈍条件を選ぶことで、アスペクト比3.0以上を得ることが光沢性には望ましい。
ただ、単純に圧延を行えば、あるいは圧延率が高ければ、アスペクト比が大きくなるというものではなく、合金組成や中間焼鈍などの熱処理にも大きく影響される。
例えば、合計の冷延の圧延率を60%以上としても、温度が高く、保持時間が長いなどの中間焼鈍条件によっては、アスペクト比が大きくならない場合もある。
したがって、後述する表1の実施例の通り、合金組成の関係で、アスペクト比を大きくするための最適な圧延率や中間焼鈍条件を選択する必要がある。
この点で、冷間圧延の途中で行われる中間焼鈍を行わず、冷間圧延のみで上記板厚の冷間板を得ることも選択しうる。
また、Mg量が多いなどの高合金組成の場合には、圧延率を高くし過ぎないように注意する。これは、高合金組成の場合に圧延率が高すぎると、圧延で加工集合組織が発達し、この加工集合組織が素材アルミニウム合金板(冷延板)に多く存在すると、アスペクト比を大きくしても、製缶時に発達して、光沢性を低下させる要因の一つとなるからである。
ここで、規定する板表面の圧延痕方向のRqの制御は、冷延ロールの表面粗さをロールテクスチャで制御して行うことが好ましい。この冷延ロールの圧延痕方向(圧延方向)の表面粗さRqは、当然ながら、前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqの上限値である0.12μm以下であることが必要となる。ちなみに、通常、冷延ロールの表面粗さは、ロールの軸方向(板幅方向)の粗さRaなどで管理されており、ロールの周方向の表面粗さRqでは管理されていないが、光沢性においてはロールの周方向の表面粗さRqの管理が重要となる。この冷延ロール周方向の表面粗さは、0.15μm以下が望ましい。
また、板表面の圧延痕方向のRqの制御は、板表面の機械的あるいは化学的な研磨によるテクスチャー処理でも制御できるが、生産性を含めて、圧延ロールによる方が簡便にできる。
圧延ロール径は小径であるほど、高圧下が可能となり、晶出物を破砕し、サイズを小さくでき、更にオイルピットによるアルミ基材表面の粗れ(荒れ)が小さくなることから、光沢性を向上させる効果がある。この点で、圧延ロール径は600mm以下、更に好ましくは400mm以下として冷延する。
冷延板は、そのまま樹脂を被覆して、絞りしごき缶素材として使用しても良いが、必要に応じて調質(熱処理)を行っても良い。但し、熱処理温度が高すぎると、再結晶がおこり、これが冷延板の表面粗さを悪化させる原因になるので、注意を要する。この点、例えば、300℃以下の熱処理(低温での焼鈍や人工時効硬化処理)などは施しても良いが、400℃を超える溶体化処理などは、冷延板の表面粗さを悪化させるために不可である。
(絞りしごき缶の作製方法)
本発明素材アルミニウム合金板(冷延板)から、絞りしごき缶(DI缶)の缶胴を作製する製缶方法の一例を以下に説明する。先ず、本発明に係るアルミニウム合金板に、耐食性皮膜を形成するため、例えばリン酸クロメート処理を施す。そして、アルミニウム合金板の保護層として樹脂、具体的には、ポリエステル樹脂やポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等の熱可塑性樹脂あるいは結晶性熱可塑性樹脂からなるフィルム(図示せず)を両面にラミネートして、缶胴用樹脂被覆アルミニウム合金板とする。このような保護層を被覆することで、アルミニウム合金板の表面がしごきダイス等の工具に接触しないため、DI成形時の焼付きや焼付き起因のティアオフの発生を防止できて、成形歩留を向上させることができる。
この缶胴用樹脂被覆アルミニウム合金板を円板形状に打ち抜いて(ブランキング加工)、浅いカップ形状に絞り加工(カッピング加工)を施す。これら絞り加工と、さらにしごき加工を複数回繰り返して徐々に側壁を高くして、所定の底面形状および側壁高さの有底筒形状とする。この際、これらの絞り加工、しごき加工による缶胴の側壁の板厚減少率(絞りしごき加工率)は、40%以上とすることが好ましく、更に好ましくは60%以上である。そして、側壁(開口部)の縁を切り落として整えるトリミング加工を行う。この状態で、最薄部の側壁厚さが0.085〜0.150mmの範囲の薄肉の缶胴に成形される。
次いで、缶胴は脱脂洗浄され、外面、内面にそれぞれ塗装、塗膜の焼付け(ベーキング)を施され、高強度化される。塗膜焼付け後の缶胴は、開口部を縮径し(ネッキング加工)、開口部の縁を外側に拡げて(フランジング加工)、最終の缶胴となる。飲料、食品用途に使用する際には、開口部から内容物(飲料、食品)が缶胴に充填され、別工程で作製された缶蓋を開口部に巻き締めて封止される。
以上、本発明を実施するための形態について述べたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(供試材アルミニウム合金板)
表1に示す化学成分組成の各アルミニウム合金を、溶解、連続鋳造し、厚さ600mmの鋳塊を作製した。この鋳造工程での鋳造速度は、各例とも共通して、好ましい50mm/分、冷却速度は1.0℃/分で制御した。この鋳塊に、各例とも共通して、常法の範囲で、500℃で均質化熱処理を施した後に熱間圧延を行い、板厚を2〜3mmtとした。
なお、表1に示す化学成分組成において、元素の含有量が空欄の場合は、不可避不純物レベル(50ppm以下)であることを示す。
実施例1は、1次冷延後に500℃×0.1秒の条件で連続焼鈍炉での中間焼鈍を行い、再度、圧延率65%の2次冷延を行い、0.32mmtの冷延板とした。
実施例2 、3、5〜8、10、11、比較例12〜14は、中間焼鈍を施すことなく、0.32mmtまで冷間圧延を行った。
実施例4は、中間焼鈍を施すことなく、0.20mmtまで冷間圧延を行った。
実施例9は0.32mmtまで、中間焼鈍を施すことなく冷延後、前記500℃×0.1秒の条件で連続焼鈍炉での焼鈍を行った。
これら冷延板の缶胴外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqは、最終の冷間圧延の圧延ロールの表面粗さRqを、表1に示すように種々変えて制御し、表1に挙げる冷延板の各表面粗さに制御した。この時の圧延のロール径は350mmであった。これら冷延板を調質(熱処理)することなく、以下に示す組織や特性を測定した。
(晶出物)
前記冷延板から、表層部を含む断面方向に供試材を切り出して樹脂埋めし、前記図2に示すような表層部を含む断面が観察面となるように研磨して、酸化物皮膜を除去した鏡面とし、マトリックス表面から15μmまでの深さの面を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率1000倍で100視野程度観察した。白く写る部分を、前記したAl−Fe系晶出物(金属間化合物)と見なし、画像処理により最大長が0.3μm以上の金属間化合物の面積の合計を求め、面積率(%)を算出した。
(冷間板の表面粗さRq、及び圧延ロールの表面粗さRq)
前記冷延板から供試材を切り出して、供試材の前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延方向の表面粗さRqを、前記した要領にて、反射式共焦点レーザ顕微鏡(キーエンス社製)を用い、JIS2001規格の通り、圧延痕方向に200μm測定した時の平均値として測定した。
なお、板の冷延に使用した圧延ロールの表面粗さRqは、圧延ロールのサンプリングができないため、レーザ顕微鏡で直接測定できない。このため、レプリカフィルムに圧延ロール形状を一旦転写した後、このレプリから圧延ロールの周方向(回転方向)の表面粗さRqを、上記冷間板の表面粗さ測定の要領で、レーザ顕微鏡にて測定した。
これら測定した各例の板の、表面粗さRq(μm)や、前記15μmの深さまでの表層部における最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率(%)を表1に各々示す。
(絞りしごき缶の作製)
前記冷延板に、リン酸クロメート処理を施し、板両面に厚さ20μmのポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムをラミネートした。このフィルムラミネートを施されたアルミニウム合金板を、カッピング、DI成形し、表1に示す各製缶加工率とした。そして、開口部をトリミングして、外径約66mmの有底筒形状の缶胴とした。さらに、塗装時の焼付けを想定した270℃×30秒間の熱処理をおこなった。
(光沢性)
この缶胴の光沢性を示す散乱光強度率は、前記図1の缶の前記0°位置部分の、圧延痕としごき加工の方向が一致する表面部分を、前記した要領にて、市販のコピー機(FUJIXEROX社製:型 式Apeos Port IVC4475)で測定した。また、前記0°位置部分の圧延痕方向の表面粗さRqも前記した方法で測定した。各例の絞りしごき缶の散乱光強度率を、前記圧延痕方向の表面粗さRqとともに、表1に各々示す。
表1に示すように、各実施例は、アルミニウム合金の組成が本発明範囲内であり、好ましい製造条件で、素材冷延板や絞りしごき缶が製造されている。このため、各発明例は、表1の通り、素材冷延板が本発明で規定した通り、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqが0.12μm以下であるとともに、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率が2.4%未満である。
ここで、実施例1〜8、10、11は、各々の合金組成と中間焼鈍との関係で、1次、2次の合計の冷延の圧延率が適切で、前記アルミニウム合金板(冷延板)の表層部の組織の結晶粒の長軸と短軸の比(長軸/短軸)として定義されるアスペクト比が3.0以上である。
これに対して、実施例9は、冷延の圧延率が比較的低く、アスペクト比が3.0未満である。
この結果、実施例1〜8、10、11は、素材アルミニウム合金冷延板を、加工率を好ましい40%以上として、絞りしごき加工した、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の散乱光強度率が合格基準の0.5未満で、更には、より優れた光沢性の目安である0.45以下が得られた。
これに対して、前記実施例9は、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の散乱光強度率が合格基準の0.5未満であり、優れた光沢性ではあるが、より優れた光沢性の目安である0.45には至らなかった。
表1における素材冷延板と絞りしごき缶との表面粗さRq同士を比較すると、絞りしごき缶の表面粗さRqの方が、絞りしごき加工によって、素材冷延板よりも著しく大きくなり、光沢性が低下する傾向であることが分かる。すなわち、絞りしごき加工が缶の光沢性に不利に働くことが分かる。
それにも関わらず、各実施例は、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の散乱光強度率が0.5未満であって、優れた光沢性が得られており、この点に本発明の大きな意義がある。
一方、比較例12、13は、表1に示すように、好ましい製造条件で、素材冷延板や絞りしごき缶が製造されているものの、Fe+Mnなどのアルミニウム合金の組成が本発明範囲から外れている。このため、これら比較例は、表1の通り、素材冷延板の前記絞りしごき缶外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率が2.4%を超えて大きくなっている。
この結果、比較例12、13は、素材冷延板の前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqは0.12μm以下であるものの、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の、表面粗さRqが0.12μmを超えており、散乱光強度率が0.5を超え、発明例に比して著しく光沢性が劣る。
比較例14は、アルミニウム合金の組成が本発明範囲内であるものの、冷延の圧延ロールの周方向の表面粗さRqが好ましい範囲から外れて製造されている。このため、比較例14は、表1の通り、素材冷延板の前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqが0.12μmを超えて粗くなっている。
この結果、比較例14は、素材冷延板の前記最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率が2.4%以下であるものの、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の散乱光強度率が0.5を超えており、発明例に比して著しく光沢性が劣る。
これらの実施例の結果から、本発明の要件の、絞りしごき缶の前記0°位置部分の表面の光沢性を向上させることの、技術的な意義が裏付けられる。
Figure 2016180175
以上、本発明は、樹脂が予め被覆された上で絞りしごき缶に製缶されるアルミニウム合金板であって、絞りしごき缶表面の光沢性を向上させることができる缶胴用アルミニウム合金板を提供することができる。このため、缶壁厚さが薄肉化、高強度化され、より厳しい製缶条件での光沢性が要求されるDI缶胴に用いられるアルミニウム合金冷延板に最適である。

Claims (5)

  1. 質量%で、Mg:0.1〜6.0%、Fe:0.01〜0.5%、Mn:0.01〜0.85%、を各々含有するとともに、FeとMnとの合計含有量が1.3%未満であり、残部Alおよび不可避的不純物からなる樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板であって、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面における圧延痕方向の表面粗さRqが0.12μm以下であるとともに、この板の前記絞りしごき缶外面側となる表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における、最大長さが0.3μm以上のFe系晶出物の面積率が2.4%未満であることを特徴とする、製缶後の光沢性に優れた樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板。
  2. 前記アルミニウム合金板の表面から板厚方向に15μmの深さまでの表層部における組織の結晶粒の長軸と短軸の比(長軸/短軸)として定義されるアスペクト比が3.0以上である請求項1に記載の製缶後の光沢性に優れた樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金板のFeとMnとの合計含有量が0.55質量%未満である請求項1または2に記載の樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板。
  4. 前記アルミニウム合金板が、質量%で、Si:0.01〜1.5%、Cu:0.01〜0.5%の一種または二種、あるいは前記Cuに加えて、Cr:0.001〜0.1%、Zn:0.01〜0.5%の一種または二種を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の樹脂被覆絞りしごき缶用アルミニウム合金板。
  5. 請求項1乃至4のいずれかのアルミニウム合金板の表面に熱可塑性樹脂フィルム被覆層を有する絞りしごき缶用樹脂被覆アルミニウム合金板。
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