JP2011214109A - 包装容器蓋用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents

包装容器蓋用アルミニウム合金板およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】光沢の、圧延方向による異方性を少なくして、外観検査の誤検出を防止できる、缶蓋用のアルミニウム合金板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】冷間圧延における最終パスにおいて表面を放電加工されたワークロールを用いて圧延された包装容器蓋用アルミニウム合金板であって、表面の算術平均粗さRaが、前記冷間圧延における圧延方向および圧延直角方向のそれぞれにおいて0.10〜0.65μmの範囲であり、表面の粗さ曲線要素平均長さRSmが、前記圧延方向において70〜360μm、前記圧延直角方向において50〜100μmであることを特徴とする。このような表面性状とした包装容器蓋用アルミニウム合金板は、圧延方向および圧延直角方向のそれぞれにおける正反射率(%)の互いの差が25%以内となり、光沢の異方性が少なくなる。
【選択図】なし

Description

本発明は、飲料、食品用途に使用される包装容器である缶の蓋部に成形加工される包装容器蓋用アルミニウム合金板とその製造方法に関する。
飲料、食品用途に使用される包装容器の1つとして、飲料缶、缶詰等の食品缶が広く流通している。缶の構成としては、底と側壁が一体構造の有底円筒状の胴部(缶胴)と、この胴部の開口部に封止されて上面となる円板状の蓋部(缶蓋)とからなる2ピース缶、あるいは底と側壁が別部材で構成された3ピース缶が知られている。また、飲料缶としては、炭酸飲料や窒素充填された清涼飲料等のための陽圧缶と、コーヒー飲料等のための負圧缶とに大別され、いずれも缶蓋については、成形性、耐食性、強度等の面からアルミニウム合金板、特にAl−Mg系合金からなるものが適用されている。そしてこれらの缶蓋は、内圧または外圧により微小なキズでも破裂や漏れの原因となり得るため、両面(内側、外側)ともに厳しい検査が行われる。
検査としては、画像検査装置による外観検査が適用され、この装置では、表面のキズや付着したゴミは色の濃淡として検出される。そのため、缶蓋の表面の光反射率(以下、反射率)が方位により異なると、観察(検査)方向により光沢の強さが変化し、誤検出を生じる。ここで、缶蓋に成形されるアルミニウム合金板は、圧延により板材に仕上げられるが、このような圧延板の表面には、一般的にワークロールの表面性状がある程度転写されるため、その圧延方向に沿って、筋状の凹凸、いわゆる圧延目が形成されている。この圧延目が形成された圧延板の表面は、圧延方向においては凹凸(山谷)の間隔が広く、凹凸が緩やかであり、一方、圧延直角方向においては、山谷の間隔が狭く、凹凸が急峻である。したがって、一般的な圧延板は、圧延方向に沿って光を入射すると反射率(正反射率)が高く、すなわち光沢が強く、一方、圧延直角方向に沿って光を入射すると凹凸により乱反射するため正反射率が低く光沢が弱い。このように、圧延板は、観察方向によって表面の光沢が変化する、光学的異方性を有するため、外観検査の閾値を厳しくすると、誤検出が多くなり、生産性が低下する。そのため、缶蓋用のアルミニウム合金板には、方位による表面性状の差を低減することが要求されている。
アルミニウム板やアルミニウム合金板の表面性状を制御するために、多くの技術が提案されている。特許文献1には、成形性を向上させるために、算術平均粗さRaを規定したワークロールで冷間圧延を行う技術が開示されている。特許文献2には、化学的エッチングおよび電気化学的粗面化処理をされて平板印刷用支持体とするためのアルミニウム板を、表面に所定の凸凹パターンを放電加工で形成された鋼製ワークロールにて製造する技術が開示されている。さらに板表面の光学的異方性を抑制するための技術として、特許文献3には、表面の軸方向の中心線平均粗さを規定したワークロールで冷間圧延を行うことにより、光学的異方性の少ないアルミニウム合金板の製造方法が開示されている。また、特許文献4には、ショットブラストにて表面を梨地処理したワークロールを用いることで、反射率に異方性のないアルミニウム合金板を製造する技術が開示されている。
特開平2−107751号公報(2頁目右上欄14行目〜左下欄17行目) 特開2005−329451号公報(請求項1、請求項2、請求項9) 特開平10−99905号公報(請求項1) 特開平4−41003号公報(2頁目左上欄17行目〜右上欄19行目)
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、適度な表面粗さにより潤滑油の保持性の良好なアルミニウム合金板として成形における異方性を抑制するためのものであり、表面の外観については言及していない。また、規定の表面粗さのワークロールを得るために、砥粒径の細かい砥石で仕上げ加工しているが、このようなワークロールでは、従来と同様に圧延目が形成されて、圧延方向による外観の光学的異方性は解消されない。特許文献2に記載された技術は、比較的ワークロールの表面性状が転写され易い1000系アルミニウム板のためのものであり、缶蓋用の強度の高いAl−Mg系アルミニウム合金板に適用することは困難である。また、光学的異方性をなくすには、全方位からの光に対し、全く無秩序に反射するか、全方位からの反射特性が等しくなる必要があり、特許文献3に記載されたように、ワークロールの軸方向における粗さの管理のみで解決することは困難である。特許文献4の技術では、梨地処理されたワークロールの表面性状が転写されて光沢そのものが少ないアルミニウム合金板となるため、塗装、成形された外観が、缶蓋として好ましいものとならない場合がある。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、缶蓋に製造されるためのリベット成形性、スコア加工性、および開缶性を備えつつ、適度かつ異方性の少ない光沢を有するアルミニウム合金板およびその製造方法を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明者らは、アルミニウム合金板の圧延方向および圧延直角方向のそれぞれの方位の正反射率(%)が、その差が25%以内であれば、缶蓋の製造工程における外観検査で誤検出を生じ難くなり、さらに表面の粗さ曲線要素平均長さRSmの差を抑制することで前記反射率の差を満足できることを見出した。
すなわち、本発明に係る包装容器蓋用アルミニウム合金板は、表面の算術平均粗さRaが、冷間圧延における圧延方向およびその直角方向である圧延直角方向のそれぞれにおいて0.10μm以上0.65μm以下の範囲であり、表面の粗さ曲線要素平均長さRSmが、前記圧延方向において70μm以上360μm以下、前記圧延直角方向において50μm以上100μm以下であることを特徴とする。
このように、表面の算術平均粗さRaおよび粗さ曲線要素平均長さRSmを圧延方向および圧延直角方向の各方位について規定することで、適度な光沢とし、かつ圧延方向による異方性の少ない包装容器蓋用アルミニウム合金板とすることができる。
また、本発明に係る包装容器蓋用アルミニウム合金板は、Mg:1.9〜5.5質量%、Mn:0.2〜0.7質量%、Fe:0.10〜0.60質量%、Si:0.05〜0.30質量%、Cu:0.20質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で形成されることが好ましく、さらにCr:0.30質量%以下、Ti:0.005〜0.20質量%、Zn:0.30質量%以下の少なくとも一種を含有してもよい。
このような包装容器蓋用アルミニウム合金板は、所定量のMg、さらにMn,Cuを含有するAl−Mg系合金で形成することで、缶蓋としたときに十分な強度が得られ、また、Fe,Siを含有することで、缶蓋に成形するための十分な加工性を有する。
また、本発明に係る包装容器蓋用アルミニウム合金板の製造方法は、アルミニウム合金を溶解して鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を熱処理にて均質化する均質化熱処理工程と、前記均質化した鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板を製造する熱間圧延工程と、最終板厚まで冷間圧延する冷間圧延工程と、を行って、前記の包装容器蓋用アルミニウム合金板を製造する方法である。そして前記冷間圧延工程は、最終圧延パスにおいて、表面を放電加工されたワークロールを用いて、圧下率1〜15%で圧延することを特徴とする。
このような包装容器蓋用アルミニウム合金板の製造方法は、最終板厚とする冷間圧延の最後の1パスを、表面を従来の研削に代えて放電加工(EDT:Electron Discharge Texture)されたワークロールを用いることで、圧延方向による依存の小さい表面性状の包装容器蓋用アルミニウム合金板を製造することができる。
本発明に係る包装容器蓋用アルミニウム合金板によれば、缶蓋の製造において外観検査の誤検出を防止することができる。そして、本発明に係る包装容器蓋用アルミニウム合金板の製造方法によれば、前記の効果を有する包装容器蓋用アルミニウム合金板を安定して製造することができる。
ステイオンタブ式の缶の蓋部の外観図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA−A断面図である。 球頭張出し成形性試験の方法を模式的に説明する断面図である。 開缶性試験の方法を模式的に説明する図であり、(a)は試験装置の外観斜視図、(b)は(a)の要部断面図、(c)は判定方法を説明するサンプルの平面図である。
以下、本発明に係る包装容器蓋用アルミニウム合金板(以下、アルミニウム合金板と称す)を実現するための形態について説明する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、例えば後記に規定する所定の成分のアルミニウム合金を鋳造、均熱処理、熱間圧延、冷間圧延して、あるいはさらに中間焼鈍した後、冷間圧延して得られる(製造方法の詳細は後記にて説明する。)。そして、本発明に係るアルミニウム合金板は、公知の方法により、飲料缶の蓋部に製造される。飲料缶の蓋部の構成として、その一部が切り取られて飲み口を形成するように、手で容易に開缶するためのタブが取り付けられたステイオンタブ式(Stay-on tab,SOT)が普及している。以下に、ステイオンタブ式の蓋部の構成を説明する。
ステイオンタブ式の蓋部は、図1(a)、(b)に示すように、本発明に係るアルミニウム合金板を成形してなり蓋部本体である円板状の蓋材1と、5182合金等の別のアルミニウム合金板で形成されてなり開缶部材であるタブ2とで構成される。蓋材1には、開缶後に飲み口を形成するための開口領域13を囲んでスコア15が形成されている。このスコア15は主スコアとその内側の平行な補助スコアとからなり、開口領域13の周囲を完全には一周せず、一箇所(図1ではタブ2の下の領域)で不連続となるように形成されている。また、蓋材1は、上面に取り付けられたタブ2が大きく突出しないように、平面視でタブ2を囲む形状の浅い凹部や、その他剛性やデザイン性を付与するための図示しない凹凸が形成されている。
本発明に係るアルミニウム合金板をステイオンタブ式の缶の蓋部に製造するには、一例として、表面に塗装、焼付処理を施してから、円板形状に打ち抜いて(ブランキング)、その周縁部を、胴部に封止するために段状に持ち上がるように拡げた皿状に成形し(シェル成形)、さらに縁を外側に丸める(カーリング)。そして、前記したような凹凸、ならびに中心部にリベット部11となる突起をプレス加工等にて形成し、スコア15を形成する(スコアリング)。最後に、蓋材1の前記中心部の突起をタブ2のリベット孔21にかしめるように張出し絞り加工して、タブ2を取り付けて(リベット)、蓋部となる。得られた蓋部は、内容物(飲料)が充填された胴部を、その開口部に巻き締めて封止する。このような製造においては何らかの検査が工程毎に行われ、例えばシェル成形やリベット等の後に、蓋材1の表面(内外面)について、例えばタブの抜けのような製造不良や、汚れの付着、そして製缶後に内容物の漏れの原因となり得るキズやシワの有無を判定する外観検査を画像検査装置にて行う。
ステイオンタブ式の缶の開缶においては、タブ2の掛止部22を上方に引っ張って、リベット部11近傍を支点にしてタブ2を起こす(図1(b)上部白抜き矢印)。すると、タブ2の、リベット部11を挟んで掛止部22の反対側の端部がてこの働きで強く下方に押し込まれ、この端部の直下の蓋材1の開口領域13の一部を共に押し下げる。そして、蓋材1は、この押し下げられた部分の近傍からスコア15に沿って亀裂が入り、開口領域13が一部を残して蓋材1の他の部分から切り離されて下方(缶の内部)に押し込まれて(図1(b)下部白抜き矢印)、蓋材1に飲み口が形成される。したがって、蓋部(蓋材)とする本発明に係るアルミニウム合金板は、缶の密閉性を保持するための耐圧強度はもちろん、前記リベット等のための成形性や、開缶性等も要求され、その上で、適度かつ外観検査での誤検出を生じないような異方性の少ない光沢を有するものとする。以下、本発明に係るアルミニウム合金板を構成する各要素について説明する。
〔アルミニウム合金板の反射率〕
本発明に係るアルミニウム合金板は、方位を変化させて反射率(正反射率)を測定した場合において、その差(開き)が25%以内であることが望ましい。したがって、最大となり易い製造時の圧延方向における反射率と、最小となり易い圧延直角方向における反射率との差が25%以内となるようにする。また、本発明に係るアルミニウム合金板は、表面の反射率が方位にかかわらず70%を超えると、光沢が強過ぎて、誤検出が生じ易くなり、また、缶蓋に印刷した文字やデザイン等の視認性が低くなるため、反射率が70%以下であることが好ましい。
本発明に係るアルミニウム合金板の表面の反射率は、JIS Z 8741に基づく60度鏡面光沢法により測定される鏡面反射率(正反射率)として測定できる。測定は、市販されている光沢度計を使用でき、アルミニウム合金板の表面の圧延方向および圧延直角方向のそれぞれにおいて行う。
〔アルミニウム合金板の表面粗さ〕
本発明に係るアルミニウム合金板を、前記の反射率とするために、表面の算術平均粗さRaおよび粗さ曲線要素平均長さRSmを、圧延方向および圧延直角方向のそれぞれにおいて、次のように規定する。
(算術平均粗さRa:0.10〜0.65μm)
アルミニウム合金板の表面の算術平均粗さRaが0.10μm未満では、反射率が高く光沢が強過ぎる。一方、算術平均粗さRaが0.65μmを超えると、光沢が弱く、塗装、成形された外観が、缶蓋として好ましくないものとなる場合があり、また、圧延方向においてこのような粗さにしようとすると、圧延板(アルミニウム合金板)とワークロールとの摩擦が大きく圧延が困難となる。したがって、アルミニウム合金板の表面の算術平均粗さRaは0.10μm以上0.65μm以下とし、さらに圧延方向および圧延直角方向のそれぞれにおいて前記範囲とする。このようなアルミニウム合金板の表面の算術平均粗さRaは、製造時における最終の冷間圧延のさらに最後の1パス(最終圧延パス)に用いたワークロールの表面の凹凸が転写されることで得られ、当該ワークロールの表面の算術平均粗さRaや最終パスの圧下率等の条件に依存する。
(粗さ曲線要素平均長さRSm:圧延方向70〜360μm、圧延直角方向50〜100μm)
アルミニウム合金板の表面の粗さ曲線要素平均長さRSmによっても、反射率すなわち光沢の強弱が決まり、長くなると光沢が強くなる。具体的には、粗さ曲線要素平均長さRSmが360μmを超えると、面積あたりの凹凸が少ないため反射率が高く光沢が強過ぎる。反対に、粗さ曲線要素平均長さRSmが50μm未満では光沢が不足し、また、圧延方向においては、凹凸の工程差すなわち算術平均粗さRaにもよるが、圧延板(アルミニウム合金板)とワークロールとの摩擦が大きく圧延が困難となる。
アルミニウム合金板の表面の粗さ曲線要素平均長さRSmも算術平均粗さRaと同様に、製造時における冷間圧延の最終圧延パスの条件、およびそれに用いたワークロールの表面の粗さ曲線要素平均長さRSmに影響される。ここで、アルミニウム合金板の圧延直角方向における粗さ曲線要素平均長さRSm90は、ワークロールの表面の当該アルミニウム合金板に対面する方向、すなわちワークロールの軸に平行な方向(軸方向)における粗さ曲線要素平均長さRSmaxiに比較的近い値となる。一方、アルミニウム合金板の圧延方向における粗さ曲線要素平均長さRSm0は、対面するワークロールの表面の周方向における粗さ曲線要素平均長さRSmrndに対して長くなる傾向がある。したがって、例えば表面性状に異方性(軸方向と周方向の差)のないワークロールを用いて圧延しても、アルミニウム合金板の表面の粗さ曲線要素平均長さRSmは、圧延方向における値(RSm0)が圧延直角方向における値(RSm90)よりも長くなる。このことを加味して、アルミニウム合金板の表面の粗さ曲線要素平均長さRSmは、圧延方向においては(RSm0)、70μm以上360μm以下とし、圧延直角方向においては(RSm90)、50μm以上100μm以下とする。さらに圧延方向におけるRSm0が圧延直角方向におけるRSm90の1倍以上2.5倍以下(RSm0/RSm90:1〜2.5)であることが好ましい。このような、圧延方向と圧延直角方向とのそれぞれにおける表面の粗さ曲線要素平均長さRSm0,RSm90の差を抑制したアルミニウム合金板とするために、冷間圧延の最終圧延パスに用いるワークロールは、後記するように、異方性が小さくなるように表面を放電加工したものを適用する。
算術平均粗さRaおよび粗さ曲線要素平均長さRSmは、JIS B 0601に定義され、本発明に係るアルミニウム合金板の表面粗さは、市販されている触針式の表面粗さ測定機を使用でき、圧延方向および圧延直角方向のそれぞれについて測定する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、板厚を特に限定するものではなく、一般的な缶の蓋材用のアルミニウム合金板として適切な範囲とすればよい。
〔アルミニウム合金の成分〕
本発明に係るアルミニウム合金板は、一般的な飲料缶の蓋材に適用されるAl−Mg系合金で形成でき、具体的には、Mg:1.9〜5.5質量%、Mn:0.2〜0.7質量%、Fe:0.10〜0.60質量%、Si:0.05〜0.30質量%、Cu:0.20質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金が好ましく、さらにCr:0.30質量%以下、Ti:0.005〜0.20質量%、Zn:0.30質量%以下のいずれか1種以上を含有してもよい。
(Mg:1.9〜5.5質量%)
蓋材に製造されたときに必要な耐圧強度を付与する。Mgの含有量が1.9質量%未満では、特に負圧缶の缶蓋としての耐圧強度が十分に得られない。一方、Mgの含有量が5.5質量%を超えると、強度が過大となって成形性が低下する。したがって、Mgの含有量は、1.9質量%以上5.5質量%以下とすることが好ましい。
(Mn:0.2〜0.7質量%)
Mnは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果があり、また、Al−Mn(−Fe)系金属間化合物をアルミニウム合金板中に晶出させるが、蓋材の薄肉化および蓋部の小径化に伴う開缶性の低下に対して、前記の微細な晶出物が適度に分散することで、スコアに亀裂が伝搬し易くして開缶性を向上させる効果がある。Mnの含有量が0.20質量%未満であると、これらの効果を十分に得ることができない。一方、Mnの含有量が0.70質量%を超えると、金属間化合物が過剰に晶出して成形性が著しく低下する。したがって、Mnの含有量は、0.2質量%以上0.7質量%以下とすることが好ましい。
(Fe:0.10〜0.60質量%)
Feは、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、また、アルミニウム合金中で、Mnと共にAl−Mn−Fe系金属間化合物を生成する。この金属間化合物が適度に分散して晶出することで、熱間圧延後においてこの晶出物を核として再結晶が促進されて結晶粒が微細化されるため、成形性を向上させる。また、前記したように、晶出物が適度に分散することで、開缶性を向上させる効果がある。Feの含有量が0.10質量%未満では、晶出物が不足して、これらの効果が十分に得られない。一方、Feの含有量が0.60質量%を超えると、金属間化合物が過剰に晶出して成形性が著しく低下する。したがって、Feの含有量は0.10質量%以上0.60質量%以下とすることが好ましい。
(Si:0.05〜0.30質量%)
Siも、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、アルミニウム合金中でMgと共にMg−Si系金属間化合物(Mg2Si)を生成して、前記Al−Mn−Fe系金属間化合物と同様に開缶性を向上させる効果があり、また組織を安定化する効果がある。Siの含有量が0.05質量%未満では、これらの効果が不十分である。また、Siの含有量を0.05質量%未満にすると、原材料にするアルミニウム地金の必要純度が高くなり、コストを増大させる。一方、Siの含有量が0.30質量%を超えると、Mg−Si系金属間化合物の大きなものが多数形成されて成形性が低下する。したがって、Siの含有量は0.05質量%以上0.30質量%以下とすることが好ましい。
(Cu:0.20質量%以下)
Cuは、アルミニウム合金において固溶強化により強度を向上させる効果があり、前記のMg等、他の成分で十分な強度が得られない場合に、蓋材に製造されたときに必要な強度を付与するために添加する。一方、Cuはアルミニウム合金板の加工硬化を増大させるため、含有量が0.20質量%を超えると、加工硬化が過大となって、成形性が低下する場合があり、また、耐食性が低下する。したがって、Cuの含有量は0.20質量%以下とする。
(Cr:0.30質量%以下)
Crは、アルミニウム合金の強度を向上させる効果があり、この効果を十分に得るためには、含有量は0.001質量%以上が好ましく、0.002質量%以上がさらに好ましい。一方、Crは過剰に含有されると、粗大な晶出物を生成してアルミニウム合金板の成形性を低下させる虞があるため、含有量は0.30質量%以下とし、0.25質量%以下が好ましい。
(Ti:0.005〜0.20質量%)
Tiは、アルミニウム合金組織を安定化する効果があり、この効果を得るためには、含有量は0.005質量%以上が好ましい。一方、Tiの含有量が0.20質量%を超えると、粗大な晶出物を生成してアルミニウム合金板の成形性を低下させる虞があるため、Tiの含有量は0.20質量%以下とする。
(Zn:0.30質量%以下)
本発明に係るアルミニウム合金板は、Znを0.30質量%以下含有しても缶蓋用アルミニウム合金板として問題なく許容されるので、例えば製造(溶解)時にブレージングシート用のアルミニウム合金材の屑を配合(添加)してもよい。この場合は、Znはもちろん、Si等についても前記の範囲内となるように添加する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、通常、アルミニウム地金に不可避的不純物として含まれる元素を含有してもよく、例えば前記成分以外にZr:0.1質量%以下を含有しても、缶蓋用アルミニウム合金板として問題なく許容される。
〔アルミニウム合金板の製造方法〕
次に、本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法を説明する。本発明に係るアルミニウム合金板は、前記成分のアルミニウム合金を溶解、鋳造して鋳塊とする鋳造工程と、鋳塊を熱処理により均質化する均熱処理工程と、この熱処理後に鋳塊を熱間圧延して熱間圧延板とする熱間圧延工程と、熱間圧延板を最終板厚に冷間圧延する冷間圧延工程とを行うことにより製造される。以下に、各工程の条件について説明する。
(鋳造工程)
はじめに、アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法等の公知の半連続鋳造法により鋳造し、アルミニウム合金の固相線温度未満まで冷却して厚さ500〜600mm程度の鋳塊とし、必要に応じて面削を行う。
(均熱処理工程)
鋳塊を圧延する前に、所定温度で均質化熱処理(均熱処理)することが必要である。鋳塊に熱処理を施すことによって、内部応力が除去され、鋳造時に偏析した溶質元素が均質化され、また、鋳造冷却時やそれ以降に析出した金属間化合物が成長する。さらにこの熱処理は、後続の熱間圧延工程のための予備加熱を兼ねるものである。熱処理温度(鋳塊温度)は480〜540℃とする。鋳塊が480℃未満では、鋳造時に晶出した金属間化合物が適度に固溶されないために適度な晶出物分布が得られず、熱間圧延での変形抵抗が高くなり過ぎ、圧延表面の焼付きの原因となる。一方、540℃を超えると、鋳塊の表面で局部的な溶融(バーニング)が生じ、表面品質が劣化する。なお、熱処理時間(保持時間)は、均質化を完了させるためには1時間以上であればよい。
(熱間圧延工程)
均熱処理工程から連続して、均質化された鋳塊を熱間圧延する。まず、均熱処理工程の熱処理完了時の温度を保持して鋳塊を粗圧延して、さらに仕上げ圧延により、所望の板厚の熱間圧延板(ホットコイル)とする。熱間圧延板の板厚は、アルミニウム合金板の最終板厚から冷間圧延工程における総圧延率(冷間加工率)を逆算して設定し、具体的には、3.5mm以下が好ましい。また、熱間圧延板に加工組織が残留しないように、熱間圧延後に完全に再結晶させる必要があり、そのために、熱間圧延の終了温度(熱間圧延板の巻取り温度)が300℃以上となるように熱間圧延を行うことが好ましい。
(冷間圧延工程)
熱間圧延板は、冷間圧延して所定の板厚のアルミニウム合金板に仕上げる。冷間圧延工程の前または途中で中間焼鈍を行わず、当該冷間圧延工程にて最終板厚とする直通工程の場合には、総圧延率(冷間加工率)は、70〜95%とすることが好ましい。総圧延率が70%未満では強度が不足し、95%を超えると圧延方向に対して45°方向の耳率が高くなり、蓋材に製造された後、缶胴に巻き締める際に不良の原因となる。
冷間圧延においては、最終圧延パスを、後記に説明するような、表面に放電加工にて所定の凹凸パターンを形成されたワークロールを用いて圧延する。このようなワークロールを用いることで、研削加工されたワークロールによる冷間圧延のような圧延方向に沿った筋状の圧延目ではなく、面内において異方性の小さい凹凸パターンがアルミニウム合金板の表面に転写される。
本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法においては、冷間圧延工程の途中で中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延を行って(仕上げ冷間圧延工程)最終板厚としてもよい。中間焼鈍を行うことで、アルミニウム合金板の結晶粒が微細になり、成形性をいっそう向上させることができるため、例えば高い(苛酷な)リベット成形性を要求される場合は、中間焼鈍を行うことが好ましい。この場合、中間焼鈍前の冷間圧延における加工率および使用するワークロールは特に規定しないが、仕上げ冷間圧延工程における総圧延率(冷間加工率)は、50〜80%とすることが好ましい。直通工程における冷間圧延工程と同様、総圧延率が50%未満では強度が不足し、80%を超えると圧延方向に対して45°方向の耳率が高くなり、蓋材と缶胴を巻き締める際に不良の原因となる。また、仕上げ冷間圧延工程においては、直通工程における冷間圧延工程と同様に、最終圧延パスは、放電加工にて所定の凹凸パターンを形成されたワークロールを用いて圧延する。
(ワークロール)
一般的なアルミニウム合金の冷間圧延に用いるワークロールは、表面が研削加工で仕上げられ、ワークロールを圧延と同様に回転させながら研削具(砥石)も反対方向に回転させて加工される。そのため、表面が周方向すなわち圧延方向に沿った方向の筋状の凹凸となる傾向があり、また、凹凸の形状(例えば算術平均粗さRa、粗さ曲線要素平均長さRSm)を、軸方向においては制御し易いが、周方向においては凹凸の間隔が広くなり制御し難く、特に軸方向における値と同程度とすることは困難である。本発明に係るアルミニウム合金板の製造方法においては、最終の板厚とする直通工程における冷間圧延工程または中間焼鈍後の仕上げ冷間圧延工程の最終圧延パスにより、アルミニウム合金板の表面性状を圧延方向、圧延直角方向共に所定の粗さとするように、放電加工により表面をダル仕上げされたワークロールを用いる。放電加工は公知の方法(例えば、田中信男、外3名、“放電ダル加工機の設備と操業”、鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、1979年3月5日、第65巻、第4号、p.258参照)を適用することができ、表面粗さは放電の電圧、電流、および放電時間等によって制御できる。放電加工によれば、面内において異方性の小さい、すなわち軸方向と周方向の差の小さい表面性状のワークロールが得られ、このようなワークロールを用いて圧延することで、鱗状の凹凸パターンがアルミニウム合金板の表面に転写される。なお、異方性の小さい表面性状に加工する方法として、ショットブラストも挙げられるが、凹凸の工程差のバラつき(算術平均粗さRaのバラつき)が大きいワークロールとなるため、得られる圧延板(アルミニウム合金板)の光沢が望ましいものとならず、また、缶蓋に製造するための成形性に影響を及ぼす場合があり、好ましくない。
ワークロールの表面の凹凸形状は、そのままアルミニウム合金板に転写されることはなく、圧下率等にもよるが、高さ方向(凹凸の高低差)には小さくなり、また長さ方向(面方向)には、軸方向(圧延直角方向)においては変化が小さいが、圧延方向においては広がり易い。したがって、ワークロールの表面粗さについては、算術平均粗さRaは0.3〜1.5μmとすることが好ましく、粗さ曲線要素平均長さRSmは50〜100μmとすることが好ましい。このような表面粗さのワークロールで圧延することで、好ましい表面性状のアルミニウム合金板とすることができる。また、この範囲を超えてワークロールの表面を粗くする、すなわち算術平均粗さRaを大きく、また粗さ曲線要素平均長さRSmを短くすると、圧延荷重の増大および圧延歪みの悪化により製品(アルミニウム合金板)を得ることが困難となる。なお、これらの表面粗さ要素Ra,RSmの測定方向については、ワークロールの表面の面内において異方性が小さいため特に規定しないが、測定の容易さや精度から、曲線である周方向よりも直線である軸方向で管理することが好ましい。また、粗さ曲線要素平均長さRSmに代えてピークカウントで管理してもよく、PPI(1inchあたりの山または谷のピークの数)で250以上500以下とすることが好ましく、420以下とすることがさらに好ましい。
また、直通工程における冷間圧延工程または中間焼鈍後の仕上げ冷間圧延工程の最終圧延パスにおいて、圧下率は1%以上とする。圧下率1%未満とすると、圧延荷重が小さ過ぎてワークロールとアルミニウム合金板がスリップを起こして、圧延が不可能である。一方、1パスの圧下率を大きくすると、圧延荷重が大きくなって圧延歪みが増大する。特に放電加工されたワークロールは、研削されたワークロールと異なり、圧延方向において凹凸の間隔が短く急峻なため、このようなワークロールによる圧延では、圧下率が15%を超えると圧延が困難となり、また、摩耗粉が多量に発生してアルミニウム合金板の表面品質が低下する。したがって、冷間圧延工程または仕上げ冷間圧延工程において、最終圧延パスの圧下率は1%以上15%以下とする。
以上、本発明を実施するための形態について述べてきたが、以下に、本発明の効果を確認した実施例を、本発明の要件を満たさない比較例と対比して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
〔供試材作製〕
(アルミニウム合金板)
表1に示す組成のアルミニウム合金(合金記号A〜D)を、溶解し、半連続鋳造法にて鋳塊を作製し、面削処理をした。この鋳塊に、510℃にて4時間の均質化熱処理を行い、冷却することなく連続して、熱間圧延(粗圧延、仕上げ圧延)を施して、厚さ3.3mmの熱間圧延板とした。さらに、この熱間圧延板に、総圧延率92%で冷間圧延を施して、板厚0.25mmのアルミニウム合金板(供試材No.1〜6,8〜20)とした。 なお、供試材No.7については、熱間圧延板を板厚1.0mmまで冷間圧延した後、到達温度400℃にて1秒間保持の中間焼鈍を行い、さらに冷間圧延(仕上げ冷間圧延)を総圧延率75%で施して、板厚0.25mmのアルミニウム合金板とした。また、この冷間圧延(供試材No.7は仕上げ冷間圧延)における最終パスは、表面に表2に示すように放電加工または研削にてダル加工を施したワークロールを用いて、表2に示す圧下率で圧延した。
(ワークロール)
放電加工によるワークロールの仕様は次の通りである。放電ダル加工機(Profitex 30、Waldrich Siegen社製)にて、加工液としてパラフィン系加工液(メタルワークED、新日本石油(株)製)を適用し、加工電流:3〜24A、加工電圧:100〜230V、放電時間:0.5〜3000μsの範囲内で調整して、ワークロール軸方向(圧延直角方向)において、算術平均粗さRaが0.8μm、1.45μm、1.8μmの3種類(表2参照)になるように加工した。また、これらのワークロール軸方向におけるピークカウント(Pc)を測定した結果をPPIで表2に示す。なお、Ra0.8μm、PPI360のワークロールの粗さ曲線要素平均長さRSmは60μm相当である。ピークカウントの測定においては、ピークとして判断する基準値を0.5μmとし、粗さ曲線のカットオフ値(λc)を0.8mmとした。
従来例の冷間圧延に用いた研削によるワークロールの仕様は次の通りである。研削加工機(Type WS III、Waldrich Siegen社製)に、PA#120(アルミナ系砥粒)のホイール型砥石を使用し、砥石回転数:400〜440rpm、ワークロール回転数:35〜50rpm、テーブル速度:2000〜1300mm/minの範囲内で調整して、ワークロール軸方向において、前記放電加工によるワークロールに合わせて、算術平均粗さRaが0.5μmに、ピークカウントがPPI570(粗さ曲線要素平均長さRSmで40μm相当)になるように加工した。
(表面粗さ測定)
得られたアルミニウム合金板について、表面粗さ測定機(サーフコーダSE−30D、小坂研究所製)にて、触針径2μmで、圧延方向(0°)および圧延直角方向(90°)に走査速度0.5mm/秒にて走査することで表面粗さを測定した。算術平均粗さRaおよび粗さ曲線要素平均長さRSmは、規準長さ:8.00mm、カットオフ値λc:0.8mmとした。結果を表2に示す。
〔評価〕
(反射率測定)
得られたアルミニウム合金板について、光沢計(PG−3D、日本電色工業(株)製)にて、JIS Z 8741に基づく60度鏡面光沢法により、圧延方向(0°)および圧延直角方向(90°)のそれぞれについて鏡面反射率(正反射率)を測定した。結果を表2に示す。
(蓋材)
得られたアルミニウム合金板に、歪み矯正処理を施した後、両面に化成処理(リン酸クロメート処理)を施して、エポキシアクリル系を塗装し、連続焼付炉により到達温度250℃、通板時間25秒で焼付処理した。この塗装されたアルミニウム合金板から直径78mmのブランクを打ち抜き、シェル成形、コンバージョン成形を施して、図1に示す蓋材1を作製した。
(リベット成形性)
蓋材のリベット成形における割れの有無の評価に代えて、微小領域の球頭張出し成形による限界張出し高さを評価した。試験片として、前記蓋材1の作製における焼付処理後の塗装されたアルミニウム合金板を長さ100mm×幅20mmに切り出した。この試験片を、図2に示すように、両面から治具61,62で挟んで一定しわ押さえ力で固定し、球頭直径6mm(R:3mm)の球頭ポンチ5を試験片表面(図2では下面)に対して垂直方向に押し込んで張出し加工を行い、割れや括れが観察されるまでの張出し高さの限界値を求めた。限界張出し高さを表2に示し、また、1.7mm以上を合格とする。
(スコア加工性)
前記蓋材1の作製において、スコア加工を、スコア15(主スコア)の残厚105μm(加工率70%)とし、外観を目視にて観察した。顕著な割れの発生しなかったものを合格とし、さらに割れが全くなかったものを特に優れているとして「○」、微小割れのみが発生したものを「△」で、不合格を「×」で、表2に示す。
(開缶性)
前記蓋材1の作製において、スコア加工を、開缶状況の厳しい場合を想定するために、市販缶より厚めの、スコア15(主スコア)の残厚110μmとし、この蓋材1にステイオン式のタブ2(図1参照)をリベットにて取り付けて缶蓋のサンプルを作製した。このサンプルについて、図3(a)に示すLEAD測器製開缶試験機(開缶試験機)7を用いてタブ2の引き上げ動作を行った。詳しくは、サンプルを、図3(a)、(b)に示すように開缶試験機7の支持板72に取着して、タブ2の掛止部22に開缶試験機7の掛止具71を掛止し、支持板72と共に蓋材1を図3(b)の矢印方向に90°回転させた。
この引き上げ動作(開缶動作)により、蓋材1のスコア15に、図3(c)に一点鎖線で示すタブ長手方向延長線を越えてスコア亀裂が伝播した場合を「開缶」とした。それ以外、すなわちスコア亀裂が十分に伝播しなかったものを「半開缶」とした。10個のサンプルすべてについて「開缶」した仕様を開缶性合格として表1に「○」で示し、「半開缶」が1個でもあったものを不合格として表2に「×」で示す。
Figure 2011214109
Figure 2011214109
(ワークロールの表面加工法による評価)
表2に示すように、冷間圧延において、最終パスを研削加工により表面加工されたワークロールにて圧延された従来例の供試材No.17〜20は、表面の凹凸の間隔が、圧延方向がその直角方向の約10倍と差が大きく、その結果、方向による反射率の差が大きく、光沢が圧延方向においてより強いアルミニウム合金板となった。これに対して、冷間圧延の最終パスを放電加工により表面加工されたワークロールにて圧延された本発明に係る実施例である供試材No.3〜11は、いずれも表面粗さの圧延方向とその直角方向との差が小さく、方向による反射率の差が25%以内で、光学異方性の小さいアルミニウム合金板が得られた。また、これらの実施例は、冷間圧延における総圧延率を前記従来例と同じとしたことで、最終圧延パスのワークロールおよび圧下率を従来例と異なるものとしても、従来例と同等な加工性や開缶性を示し、飲料缶の蓋材として十分な特性を得られた。
一方で、放電加工により表面加工されたワークロールであっても、供試材No.16に用いたワークロールは表面の算術平均粗さRaが過大で、圧延板(アルミニウム合金板)とワークロールとの摩擦が大きくなり圧延できなかった。
(冷間圧延の最終パス圧下率による評価)
放電加工により表面をダル加工されたワークロールにて冷間圧延を行った場合、最終パスの圧下率を大きくした供試材No.12,13は、圧延歪みが大きく、圧延困難となって、アルミニウム合金板を得られなかった。反対に、圧下率を小さくした供試材No.1,2は、ワークロールが板表面上をスリップして圧延不可能となり、アルミニウム合金板を得られなかった。
(冷間圧延の総圧延率による評価)
なお、総圧延率が低い供試材No.14は、強度が不足して缶蓋とした場合のスコア加工性および開缶性が劣り、反対に総圧延率が高い供試材No.15は、強度が過大で缶蓋とした場合のスコア加工性が劣り、それぞれ従来の研削ワークロールにおいても生じる比較例となった。
前記実施例1の供試材No.3,7とそれぞれ同じ本発明に係る製造方法にて、アルミニウム合金の成分を変化させた供試材を作製し、その効果を比較した。
〔供試材作製〕
(アルミニウム合金板)
表3に示す組成のアルミニウム合金を、実施例1と同様に、鋳塊を作製して面削、均質化熱処理を行い、熱間圧延にて、厚さ3.3mmの熱間圧延板とした。さらに、この熱間圧延板に、冷間圧延を実施例1の供試材No.3と同じ条件で、すなわち総圧延率92%、および最終パスを供試材No.3と同じ放電加工を施したRa0.8μm、PPI360の表面性状のワークロールを用いて圧下率2%で施して、板厚0.25mmのアルミニウム合金板(供試材No.21〜39)とした。
表4に示す組成のアルミニウム合金を、実施例1と同様に、鋳塊を作製して面削、均質化熱処理を行い、熱間圧延にて、厚さ3.3mmの熱間圧延板とした。さらにこの熱間圧延板に、冷間圧延を実施例1の供試材No.7と同じ条件で施して板厚1.0mmの冷間圧延板とした後、400℃にて1秒間保持の中間焼鈍を行った。中間焼鈍後の冷間圧延板に、さらに供試材No.7と同じ条件で冷間圧延(仕上げ冷間圧延)を施して、すなわち総圧延率75%、および最終パスを供試材No.7(前記供試材No.3と同じ)と同じ放電加工を施したワークロールを用いて圧下率2%で施して、板厚0.25mmのアルミニウム合金板(供試材No.40〜58)とした。
〔評価〕
得られたアルミニウム合金板について、実施例1と同様の方法にて、圧延方向(0°)および圧延直角方向(90°)のそれぞれについて反射率を測定し、また、球頭張出し成形による限界張出し高さ、スコア加工性、および開缶性を評価し、結果を表3および表4に示す。表3には実施例1の供試材No.3を、表4には実施例1の供試材No.7を、それぞれ併記する。
Figure 2011214109
Figure 2011214109
(アルミニウム合金成分による評価)
表3および表4に示すように、アルミニウム合金の成分を変化させても、反射率に変化はなく、本発明に係る製造方法によれば、アルミニウム合金の成分に関係なく、光学異方性の少なくなる表面性状のアルミニウム合金板が得られるといえる。また、従来の製造方法と同様に、アルミニウム合金の成分を適切な範囲とすることで、缶蓋とする時のリベット成形性、スコア加工性、および開缶性が得られ、一方、アルミニウム合金の成分が不足または過剰となると、蓋材として強度や成形性等を満足しなかった。
供試材No.21,40はMgが不足したために強度が得られず、その結果、開缶性が低下した。供試材No.23,24,42,43はMnが不足したために、強度が不十分で、かつ晶出物が不足したことで開缶性が低下した。供試材No.27,28,46,47はFeが不足したために熱間圧延後の再結晶が不十分で結晶粒が粗大化し、その結果、スコア加工にて割れが生じ、また成形性が低下した。供試材No.31,32,50,51はSiが不足したため晶出物が不足して開缶性が低下した。
供試材No.22,41はMgが、供試材No.35,36,54,55はCuが、供試材No.38,57はZnが、それぞれ過剰なために、強度が過大となって、リベット成形性およびスコア加工性が低下した。供試材No.25,26,44,45はMnが、供試材No.29,30,48,49はFeが、供試材No.No.37,56はCrが、供試材No.No.39,58はTiが、それぞれ過剰なために金属間化合物が過剰に晶出して、スコア加工にてこれらの晶出物が起点となって割れが生じ、またリベット成形性が低下した。同様に、供試材No.33,34,52,53はSiが過剰なために金属間化合物が過剰に晶出してリベット成形性が低下した。
1 蓋材
11 リベット部
13 開口領域
15 スコア
2 タブ
21 リベット孔
22 掛止部

Claims (4)

  1. 表面の算術平均粗さRaが、冷間圧延における圧延方向およびその直角方向である圧延直角方向のそれぞれにおいて0.10μm以上0.65μm以下の範囲であり、
    表面の粗さ曲線要素平均長さRSmが、前記圧延方向において70μm以上360μm以下、前記圧延直角方向において50μm以上100μm以下であることを特徴とする包装容器蓋用アルミニウム合金板。
  2. Mg:1.9〜5.5質量%、Mn:0.2〜0.7質量%、Fe:0.10〜0.60質量%、Si:0.05〜0.30質量%、Cu:0.20質量%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の包装容器蓋用アルミニウム合金板。
  3. 前記アルミニウム合金がさらにCr:0.30質量%以下、Ti:0.005〜0.20質量%、Zn:0.30質量%以下の少なくとも一種を含有する請求項2に記載の包装容器蓋用アルミニウム合金板。
  4. アルミニウム合金を溶解して鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を熱処理にて均質化する均質化熱処理工程と、前記均質化した鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と、最終板厚まで冷間圧延する冷間圧延工程と、を行って、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の包装容器蓋用アルミニウム合金板を製造する包装容器蓋用アルミニウム合金板の製造方法であって、
    前記冷間圧延工程は、最終圧延パスにおいて、表面を放電加工されたワークロールを用いて、圧下率1〜15%で圧延することを特徴とする包装容器蓋用アルミニウム合金板の製造方法。
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