JP5480688B2 - Ppキャップ用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
また、固溶体強化に有効なMgをより多く添加した5000系合金を採用し、材料の高強度化を図るという技術が開示されている(例えば、特許文献1、2)。
さらにまた、固溶体強化に有効なCuをより多く添加したアルミニウム合金を採用し、材料の高強度化を図るという方法も存在する。
また、Mgをより多く添加した5000系合金を採用(例えば、特許文献1、2)するという技術によると、均質化熱処理や熱間圧延時に酸化皮膜が厚く形成されやすいため表面品質が低下してしまうという問題があった。加えて、Mgの添加量が多いため、成形性を低下させてしまうという問題点もあった。
さらにまた、Cuをより多く添加させるという方法によると、再結晶温度の上昇により熱間圧延後に再結晶組織が得られにくく耳率のばらつきの増大に繋がりやすいという問題があった。また、部分的にAl−Mg−Cu系金属間化合物を多く形成してしまい、板幅方向における引張強さのばらつきの増大を招いてしまうという問題があった。
また、再加熱処理を低温化することで表面劣化を押さえ、且つ再結晶の駆動力となる歪を効率的に導入し、アルミニウム合金組織中の再結晶方位を好適化することで、耳率の変化を低く抑える。
さらに、タンデム方式の熱間仕上げ圧延機にて、所定の最終スタンド圧下率、所定の圧延終了温度で熱間圧延を行うことによって、アルミニウム合金中のCu添加量が多い(0.3質量%を超えて0.5質量%以下)場合であっても、板幅方向における引張強さのばらつきを抑えることができる。
またさらに、冷間圧延の圧下率を特定の範囲に限定することによって、適正な加工硬化を得る。
加えて、冷間圧延の最終パスの圧下率を所定値以上とすることで、従来技術では対応することができなかった、優れた成形性を保持しつつ高い強度を具備した広口ボトル缶に用いられるPPキャップ用アルミニウム合金板を製造することができる。
本発明に係るPPキャップ用アルミニウム合金板は、Cu:0.3質量%を超えて0.5質量%以下、Mn:0.2〜0.5質量%、Mg:0.2〜0.6質量%、Si:0.1〜0.3質量%、Fe:0.2〜0.7質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物から構成される。また、このアルミニウム合金板は、引張強さが200〜240MPa、前記引張強さの板幅方向におけるばらつきが10MPa以下であるとともに、伸びが4%以上であり、板表面における平均結晶粒径が、圧延方向に平行となる圧延平行方向で50μm以下、圧延方向に垂直となる圧延垂直方向で30μm以下である。
以下に、本発明に係るPPキャップ用アルミニウム合金板に含まれる各合金成分と、当該アルミニウム合金板の引張強さ、引張強さのばらつき、伸び、また板表面における結晶粒径を数値限定した理由について説明する。
Cuは、アルミニウム合金板の強度を高める役割を担う。Cuの含有量が0.3質量%以下では、アルミニウム合金板を薄肉化した広口ボトル缶のPPキャップとして使用することを考慮した場合、強度が十分ではなく、密封性(耐圧強度)が低下することになる。一方、0.5質量%を超えると、強度が高くなりすぎて、キャップ巻締め成形性が低下するとともに、開栓性が低下する原因ともなる。従って、Cuの含有量を0.3質量%を超えて0.5質量%以下とする。
Mnは、アルミニウム合金板の強度を高めるとともに、金属間化合物を生成して亀裂伝播性、すなわちキャップ成形、巻締め後開栓するときのブリッジ破断性を向上させる役割を担う。Mnの含有量が0.2質量%未満であると、十分な強度確保が難しい上に金属間化合物が不足し、ブリッジ破断性が低下するので開栓性が低下する。一方、Mnの含有量が0.5質量%を超えると、強度が高くなりすぎて、キャップ巻締め成形性が低下するとともに、開栓不良の原因ともなる。従って、Mnの含有量を0.2〜0.5質量%とする。
Mgは、Cuと同様に強度向上、加工硬化性を高める役割を担う。つまり、Mgを添加すると、再結晶のための加工歪の蓄積に対して有効である。Mgの含有量が0.2質量%未満であると、十分な強度を確保できず、密封性(耐圧強度)が低下することになる。一方、Mgの含有量が0.6質量%を超えると、強度が高くなりすぎて、キャップ巻締め成形性が低下するとともに、開栓不良の原因ともなる。従って、Mgの含有量を0.2〜0.6質量%とする。
Siは、適度に添加すると絞り成形性を向上することができ、また耳率を調整する役割を担うとともに再結晶挙動、強度特性にも影響を及ぼす。Siの含有量が0.1質量%未満であると、絞り成形性向上効果が発揮できない上に、耳率が不安定になりやすい。一方、Siの含有量が0.3質量%を超えると、却ってキャップ絞り成形性およびキャップ巻締め成形性が低下する。従って、Siの含有量を0.1〜0.3質量%とする。
Feは、Al,MnやSiと結びついて金属間化合物を生成し、亀裂伝播性、すなわちキャップ成形、巻締め後開栓するときのブリッジ破断性を向上させ、且つ結晶粒の微細化に効果があるとともに、固溶鉄の状態により耳率を調整する役割を担う。Feの含有量が0.2質量%未満であると、結晶粒が粗大化し易く、適正な耳率の調整が困難となり、開栓性も低下する。一方、Feの含有量が0.7質量%を超えると、粗大な金属間化合物を生成してキャップ絞り成形性およびキャップ巻締め成形性が低下するだけでなく、耳の成長が大きくなり耳率の調整が困難となる。従って、Feの含有量を0.2〜0.7質量%とする。
不可避的不純物として、Crが0.05質量%以下、Znが0.05質量%以下、Tiが0.3質量%以下、Zrが0.05質量%以下、Bが0.01質量%以下含有されても、本発明の効果が妨げられるものではなく、このような不可避的不純物の含有量は許容される。
前記不可避的不純物において、TiおよびBは、鋳塊組織を微細化する作用を有する。通常、Tiを添加する場合には、Ti:B=5:1の割合とした鋳塊微細化剤(TiB)を、ワッフル状あるいはロッド状の形態で溶湯(溶解炉、介在物フィルター、脱ガス装置、溶湯流量制御装置のいずれかに投入された、スラブ凝固前の溶湯)に添加するため、含有割合に応じたBも必然的に添加されることとなる。Tiの含有量で0.005質量%以上の添加により、鋳塊の結晶粒が微細化され、アルミニウム合金板の成形性が向上する。このため、Tiの含有量を0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.015質量%以上とするのが好ましい。一方、Tiの含有量で0.3質量%を超えた含有量となると、粗大な晶出物が形成され、アルミニウム合金板の成形性が低下する。このため、Tiの含有量は0.3質量%以下、好ましくは0.2質量以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下とする。
本発明のPPキャップ用アルミニウム合金板の特性に影響のない範囲内であれば、ブレージングシート用アルミニウム材の屑を配合(添加)しても良い。この場合は、前記Siの規定範囲の上限、或いは、前記不可避不純物として記載したZnの含有が許容される範囲の上限(0.05質量%)のいずれかを目安に添加しても良い。
広口ボトル缶のPPキャップに要求される天面部の強度、耐内圧性能を踏まえると、アルミニウム合金板の引張強さは200〜240MPaであることが好ましい。なお、アルミニウム合金板を薄肉化した広口ボトル缶のPPキャップとして使用することを考慮した場合、引張強さが200MPa未満では、キャップ成形・巻締め後における密封性が不足する。一方、引っ張り強さが240MPaを超えると強度が高すぎ、キャップ成形時において破断、肌荒れの発生を招くことになる。従って、引張強さを200〜240MPaとする。
引張強さの板幅方向におけるばらつきが10MPaを超えると、キャップ成形時に破断、肌荒れなどに繋がり、また、キャップの特性にばらつきが生ずることになる。従って、引張強さのばらつきは10MPa以下とする。
なお、板幅方向における引張強さのばらつきとは、板幅方向における引張強さの最大値から最小値を引いた値である。
伸びが4%未満では、キャップ成形時においてしわが発生しやすくなり、また場合によっては破断、肌荒れに繋がることがある。従って、アルミニウム合金板の伸びは4%以上とする。
本発明では、結晶粒の平均結晶粒径の制御が重要となる。アルミニウム合金板の板表面における結晶粒の平均結晶粒径は、直接的には成形性に、また間接的には再結晶挙動による耳率に寄与する。
アルミニウム合金板の板表面における結晶粒の平均結晶粒径が、圧延方向に平行となる圧延平行方向で50μmを超えたり、圧延方向に垂直となる圧延垂直方向における結晶粒の平均結晶粒径が30μmを超えたりすると、PPキャップを作る際の深絞り成形において破断したり加工表面の肌荒れが発生する。
[PPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法]
図1に示すように、本実施形態に係るPPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法は、前記で説明した特定の成分組成で構成されるアルミニウム合金のスラブを用いて、均質化熱処理工程S1と、面削工程S2と、再加熱処理工程S3と、熱間圧延工程S4と、一次冷間圧延工程S5と、中間焼鈍工程S6と、仕上げ冷間圧延工程S7と、仕上げ焼鈍工程S8と、を含む各工程の工程内容を実施するというものである。
以下に、本発明に係るPPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法における各工程の工程内容について詳細に説明する。
均質化熱処理工程S1は、製造するアルミニウム合金板の鋳造偏析成分の均質化と再結晶に必要な析出物を適切に成長させるために行う。そのため、この均質化熱処理工程S1では、保持温度:550〜630℃、保持時間:1〜10時間の条件で、前記成分組成でなるアルミニウム合金のスラブに対して均質化熱処理を行う。
一方、均質化熱処理の処理温度が630℃を超えると、スラブがバーニングを起こすので、製品表面品質上問題となる。また、均質化熱処理の処理時間が10時間を超えると、金属間化合物が再結晶に必要な析出物サイズを超えて粗大成長し結晶粒、耳率がばらつく原因となる上、生産性も阻害され不適である。
面削工程S2は、均質化熱処理を行ったスラブの表面に生じた偏析を除去するために行う。面削工程S2におけるスラブ表面の面削量は、アルミニウム合金の成分組成や、均質化熱処理の処理条件などによって異なるので、事前に実験等によって適切な条件を設定するのが好ましい。
再加熱処理工程S3は、熱間圧延温度への加温のために行う。そのため、この再加熱処理工程S3は、保持温度:450〜530℃の条件で、前記した面削工程S2で表面を面削したスラブに対して再加熱処理を行う。
一方、再加熱処理の処理温度が530℃を超えると表面酸化膜が成長し、製品表面品質に悪影響を及ぼす。また、再加熱処理の処理時間が10時間を超えて実施しても、効果は変わらず却って生産性が低下するので不適である。
なお、再加熱処理工程S3の保持時間は、1〜10時間であることが好ましい。
熱間圧延工程S4は、冷間圧延開始板厚まで板厚を減少させるため、および最適な内部組織への制御のために行う。熱間圧延工程S4は通常、リバース圧延機にて所定厚まで板厚を減少させる熱間粗圧延と、熱間粗圧延後、一気にホットコイル厚までタンデム圧延機を使って高圧下をかける熱間仕上圧延と、に分かれる。熱間粗圧延では、最終組織が適正な再結晶状態となるよう、中途段階での組織変化を考慮した制御が実施される。
なお、前記した均質化熱処理工程S1を実施しておくことで、スラブ全体に亘って再結晶に寄与する適切なサイズの析出物を分散させているので、板面全体に亘って熱間圧延工程S4終了後の再結晶組織が安定したものとなる。
また、熱間圧延工程S4の圧延終了温度が300℃未満であると、十分な再結晶状態を得られない。一方、熱間圧延工程S4の圧延終了温度が380℃を超えると、表面品質が劣化する。従って、熱間圧延の圧延終了温度を300〜380℃とする。
一次冷間圧延工程S5は、中間焼鈍厚まで板厚を減少させるために行う。そのため、この一次冷間圧延工程S5は、圧下率:50〜90%の条件で、前記した熱間圧延工程S4で得た熱間圧延板に対して冷間圧延を行うことで、冷間圧延板を得る。
ここで、冷間圧延の圧下率が50%未満であると、冷間圧延で導入される歪が不十分で中間焼鈍において粗大な再結晶が生じやすくなるため不適である。一方、冷間圧延の圧下率が90%を超えると、中間焼鈍厚までの冷間圧延パス回数が増え、生産性が低下する。
中間焼鈍工程S6は、再結晶による結晶粒の微細化、および固溶硬化による焼付塗装後の強度維持を目的として行う。そのため、この中間焼鈍工程S6は、昇温速度:10℃/秒以上、保持温度:400〜530℃、降温速度:10℃/秒以上の条件で、前記した冷間圧延工程S5で得た冷間圧延板に対して中間焼鈍を行う。
ここで、昇温速度が10℃/秒未満であると、結晶粒が成長して粗大になり易い。また、保持温度が400℃未満であると再結晶に必要な熱エネルギーが得られず、中間焼鈍後も未再結晶粒が残る恐れがある。
一方、保持温度が530℃を超えるとスラブがバーニングを起こす危険性が高まる。
なお、前記した保持温度で冷間圧延板を処理できればよく、その保持時間は特に限定されるものではないが、10秒間以内であるのが好ましい。保持時間が10秒間を超えても、固溶硬化への効果は変わらず、処理時間が長時間化して生産性が低下する。
そして降温速度が10℃/秒未満であると、降温中に析出が生じるため、十分な固溶硬化を得ることができない。
なお、中間焼鈍工程S6の保持時間は、0〜10秒間であることが好ましい。
仕上げ冷間圧延工程S7は、製品厚へ板厚を薄肉化するため、および耳率と強度調整のために行う。そのため、この仕上げ冷間圧延工程S7は、前記した中間焼鈍工程S6で中間焼鈍を行った冷間圧延板に対して、総圧下率:30〜70%の条件で仕上げ冷間圧延を行うことで、仕上げ冷間圧延板を得る。
ここで、仕上げ冷間圧延の総圧下率が30%未満であると、十分な強度を得ることができない。一方、仕上げ冷間圧延の総圧下率が70%を超えると、圧延集合組織が発達して耳率が大きくなる。
なお、さらに好ましくは、最終パスの圧下率は、30%以上である。
仕上げ焼鈍工程S8は、PPキャップ用アルミニウム合金板の強度調整、および当該アルミニウム合金板の製造後に実施される塗装・印刷処理における板の塗装焼付炉内での熱変形防止のために行う。PPキャップ用アルミニウム合金板は通常、コイル形態にて製造後長手方向に切断され、シート形態で塗装・印刷処理が行われる。
塗装・印刷処理では、焼付のための熱処理(150〜200℃程度の温度で20分間×複数回)が実施されるが、その温度でアルミニウム合金板が熱軟化を起こして反りが発生すると、焼付炉内で前後の板と接触して塗装外観不良を起こす危険性がある。仕上げ焼鈍は、この熱軟化による板の変形を防止する観点でも必要な工程である。
ここで、仕上げ焼鈍の保持温度が200℃未満であると、十分な軟化状態が得られず、シート印刷工程で板反りを起こす危険性がある。一方、仕上げ焼鈍の保持温度が260℃を超えると、強度が過度に低下し、金属組織が完全に軟質化してしまう場合もある。
また、仕上げ焼鈍の保持時間が1時間未満であると、アルミニウム合金板の全長に亘って、均質な状態の金属組織を得ることができない。一方、仕上げ焼鈍の保持時間が4時間を超えても軟質程度は変わらず、却って表面酸化膜が成長し、表面品質が劣化する恐れがある。
なお、仕上げ焼鈍工程S8の保持時間は、1〜4時間であることが好ましい。
なお、表1における下線は、本発明の要件を満たしていないことを示す。
比較例3はMnの含有量が本発明で規定する下限値未満であり、比較例4は上限値を超えている。
比較例5はMgの含有量が本発明で規定する下限値未満であり、比較例6は上限値を超えている。
比較例7はSiの含有量が本発明で規定する下限値未満であり、比較例8は上限値を超えている。
比較例11は均質化熱処理温度が本発明で規定する下限値未満であり、比較例12は上限値を超えている。
比較例13は均質化熱処理の保持時間が本発明で規定する下限値未満である。
比較例14は再加熱処理温度が本発明で規定する下限値未満であり、比較例15は上限値を超えている。
比較例16は熱間仕上げ圧延時の最終スタンド圧下率が本発明で規定する下限値未満である。
比較例19は一次冷間圧延の圧下率が本発明で規定する下限値未満である。
比較例20は中間焼鈍時の昇温速度が本発明で規定する下限値未満である。
比較例21は中間焼鈍時の保持温度が本発明で規定する下限値未満であり、比較例22は上限値を超えている。
比較例23は中間焼鈍時の降温速度が本発明で規定する下限値未満である。
比較例26は仕上げ冷間圧延の最終パス圧下率が本発明で規定する下限値未満である。
比較例27は仕上げ焼鈍温度が本発明で規定する下限値未満であり、比較例28は上限値を超えている。
実施例1〜4、参考例1、および比較例1〜28のアルミニウム合金板の板表面の圧延平行方向における平均結晶粒径および圧延垂直方向における平均結晶粒径は、JIS H0501の方法に基づいて測定した。すなわち、アルミニウム合金板を研磨して鏡面仕上げとした後、表面をエッチングし、倍率が100倍の金属顕微鏡により金属組織を観察、写真撮影した。この際、圧延方向に平行および直角な方向に既知の長さの線分(例えば、1mm)を引き、線分の長さを、線分により切断された結晶粒の数で除することにより、結晶粒1個当たりの結晶粒幅を求めた(切断法)。場所を変えて同様の測定を繰返し行い(5箇所)、その平均値を各方向の平均結晶粒径とした。板表面の圧延平行方向における平均結晶粒径が50μm以下のものを好適と評価し、50μmを超えるものを不適と評価した。板表面の圧延垂直方向における平均結晶粒径が30μm以下のものを好適と評価し、30μmを超えるものを不適と評価した。
まず、実施例1〜4、参考例1、および比較例1〜28のアルミニウム合金板からJIS Z 2201に規定されている5号試験片を作製した。
そして、引張試験は、かかる試験片を用いてJIS Z 2241に規定の金属材料引張試験方法に準拠して行った。なお、この引張試験では、引張強さ(平均値)、板幅方向における引張強さのばらつき(最大値と最小値との差:MPa)、伸び(%)を測定した。
耳率は、実施例1〜4、参考例1、および比較例1〜28のアルミニウム合金板から直径φ40mmのブランクを作製し、直径φ76.9mmのポンチで絞り(絞り率48%)、この際の絞りカップの耳高さから算出した。すなわち、通常生じる8つの山谷の平均差をカップの平均高さで除算したものである(下記数1参照)。90度耳(山)はマイナス表示、45度耳はプラス表示であり、本発明では耳率が0%以上+3%未満のものをPPキャップに用いるのに好適であると評価した。なお、耳率が前記範囲を超えると、ブランクに印字した後、絞り成形してPPキャップを製造した際に、PPキャップの側面の印字が曲がることが強く懸念されるので好ましくない。
キャップ絞り成形性は、38mm径PPキャップのキャップシェル成形について評価を行った。キャップサイズは内径φ38mm、高さを17mmとした。これを1回の絞り成形にて成形した。
なお、結晶粒径が大きい場合、強度が過剰な場合、耳率が過大な場合、絞り成形時に割れや欠円を生じる恐れがある。
キャップシェル成形にて、問題なく成形できたものを「○」と評価し、欠円、絞り成形による肌荒れ、シワが生じたものを「△」、割れや破断により成形できなかったものを「×」と評価した。
キャップの巻締め性の評価は、密封性、開栓性を保持する上で極めて重要な特性である。キャップシェル成形後、常法によりキャップ天面付近の側壁にローレット加工を施すとともに、開口部付近側壁にミシン目加工およびスコア加工を施した後、内面に樹脂製モールドを装着した。その後、当該キャップシェルに適応したサイズのガラス瓶に専用の巻締め機にて巻締め成形を実施した。
このとき、結晶粒径が大きい場合や強度が過剰の場合には、回転ロールの圧入時にネジ部に肌荒れが生じることがある。また、強度が過大の場合には、ネジが十分に装入されず密封が不完全となったり、ネジ部に亀裂が生じたりする恐れがある。
キャップ巻締め成形時に、ネジ部の深さを十分に確保でき、密封性が確保できたものを「○」、ネジ部に肌荒れが生じたものを「△」、ネジ加工が不十分で密封が不完全となったり、ネジ部に亀裂が生じたりしたもの、または、巻締め時のロール圧入によりミシン目が破断したものを「×」と評価した。
巻締め後にトルクメーターを使用してキャップの開栓性を測定した。開栓トルクは通常3段階で評価される。つまり、キャップと瓶が相対的に滑りを生じるトルク(第1トルク)、ミシン目の破断トルク(第2トルク)、スコア破断によるリングの脱離トルク(第3トルク)が開栓過程で極大値として測定され、評価される。
この中で特に重要なのは、キャップの巻締め成形性の影響を受けるミシン目破断時の第2トルクであり、ネジ成形性や材料の適切な破断特性が要求される。第2トルクの適正値は用途によって様々であるが、どの様な用途であっても1Nmを超えると一般消費者は容易に開けることはできない。
良好な開栓挙動で第2トルクが1Nm以下であるものを「○」、ネジ成形深さが不十分でキャップが空回りして開栓できなかったり、第2トルクが1Nmを超えたりするものを「×」と評価した。
キャップ巻締め後に内圧を負荷したとき、漏れに至る直前の耐圧強度を評価した。900kPa以上を良好「○」とし、これに満たないものを「×」とした。
一方、比較例1〜28は、本発明で規定する要件のいずれかを満たさないので、(a)〜(d)の各項目のいずれかにおいて良好な評価結果を得ることができなかった。
比較例2は、Cuの含有量が本発明で規定する上限値を超えているので、キャップ巻締め成形性およびキャップ開栓性が好ましくない結果となった。
比較例3は、Mnの含有量が本発明で規定する下限値未満であるので、引張強さが低く耐圧強度が低下し、また耳率が好ましくない結果となった。
比較例4は、Mnの含有量が本発明で規定する上限値を超えているので、キャップ巻締め成形性およびキャップ開栓性が好ましくない結果となった。
比較例6は、Mgの含有量が本発明で規定する上限値を超えているので、引張強さが高すぎ、キャップ巻締め成形性およびキャップ開栓性について好ましくない結果となった。
比較例7は、Siの含有量が本発明で規定する下限値未満であるので、キャップ絞り成形性が好ましくない結果となった。
比較例9は、Feの含有量が本発明で規定する下限値未満であるので、板表面の圧延平方向における結晶粒径、板表面の圧延垂直方向における結晶粒径、耳率、キャップ絞り成形性、およびキャップ巻締め成形性について好ましくない結果となった。
比較例10は、Feの含有量が本発明で規定する上限値を超えているので、耳率、キャップ絞り成形性およびキャップ巻締め成形性について好ましくない結果となった。
比較例12は、予備均質化熱処理の処理時間が本発明で規定する上限値を外れているので、バーニングが発生し、最終製品板の製造ができなかった。
比較例13は、均質化熱処理の保持時間が本発明で規定する下限値を外れているので、板表面の圧延平行方向における結晶粒径、キャップ絞り成形性およびキャップ巻締め成形性が好ましくない結果となった。
比較例15は、再加熱処理温度が本発明で規定する上限値を外れているので、熱間圧延板の表面の焼き付きが著しく、冷間圧延以降に進めるに相応しくないと判断した。
比較例16は、熱間仕上げ圧延時の最終スタンド圧下率が本発明で規定する下限値を外れているので、板幅方向における引張強さのばらつきが10MPaを超え、また、製品板の耳率が好ましくない結果となった。また、キャップ絞り成形性が好ましくない結果となった。
比較例17は、熱間仕上げ終了温度が本発明で規定する下限値を外れているので、十分な再結晶状態が得られず、製品板の耳率が好ましくない結果となった。また、キャップ絞り成形性が好ましくない結果となった。
比較例18は、熱間仕上げ終了温度が本発明で規定する上限値を外れているので、熱間圧延板の表面の焼き付きが著しく、冷間圧延以降に進めるに相応しくないと判断した。
比較例19は、一次冷間圧下率が本発明で規定する下限値を外れているので、板表面の圧延平行方向における結晶粒径、板表面の圧延垂直方向における結晶粒径、および耳率が好ましくない結果となった。また、キャップ絞り成形性およびキャップ巻締め成形性が好ましくない結果となった。
比較例21は、中間焼鈍の保持温度が本発明で規定する下限値を外れているので、未再結晶粒が残存し、耳率およびキャップ絞り成形性が好ましくない結果となった。
比較例22は、中間焼鈍の保持温度が本発明で規定する上限値を外れているので、バーニングが生じ、最終製品板の製造ができなかった。
比較例23は、中間焼鈍の降温速度が本発明で規定する下限値を外れているので、引張強さが低く、耐圧強度が低下する結果となった。
比較例24は、仕上げ冷間圧延の総圧下率が本発明で規定する下限値を外れているので、引張強さおよび耳率が好ましくない結果となった。また、キャップ絞り成形性、耐圧強度が好ましくない結果となった。
比較例26は、仕上げ冷間圧延の最終パス圧下率が本発明で規定する下限値を外れているので、伸びが低く、キャップ絞り成形性が好ましくない結果となった。
比較例27は、仕上げ焼鈍の保持温度が本発明で規定する下限値を外れているので、引張強さが高く且つ伸びが低く、キャップ絞り成形性が好ましくない結果となった。
比較例28は、仕上げ焼鈍の保持温度が本発明で規定する上限値を外れているので、引張強さが低く、耐圧強度が好ましくない結果となった。
Claims (2)
- Cu:0.3質量%を超えて0.5質量%以下、Mn:0.2〜0.5質量%、Mg:0.2〜0.6質量%、Si:0.1〜0.3質量%、Fe:0.2〜0.7質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物から構成される口径30mm以上の広口ボトル缶に用いられるPPキャップ用アルミニウム合金板であって、
引張強さが200〜240MPa、前記引張強さの板幅方向におけるばらつきが10MPa以下であるとともに、伸びが4%以上であり、
板表面における結晶粒の平均結晶粒径が、圧延方向に平行となる圧延平行方向で50μm以下、圧延方向に垂直となる圧延垂直方向で30μm以下であることを特徴とするPPキャップ用アルミニウム合金板。 - 口径30mm以上の広口ボトル缶に用いられるPPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法であって、
Cu:0.3質量%を超えて0.5質量%以下、Mn:0.2〜0.5質量%、Mg:0.2〜0.6質量%、Si:0.1〜0.3質量%、Fe:0.2〜0.7質量%を含み、残部がAlおよび不可避的不純物から構成されるアルミニウム合金のスラブを、保持温度:550〜630℃、保持時間:1〜10時間という条件で均質化熱処理を行う均質化熱処理工程と、
前記均質化熱処理を行った前記スラブの表面を面削する面削工程と、
表面を面削した前記スラブに対し、保持温度:450〜530℃という条件で熱処理を行う再加熱処理工程と、
前記再加熱処理を行った前記スラブに対し、熱間粗圧延を行ったのち、タンデム方式の熱間仕上げ圧延機にて、最終スタンド圧下率40〜48%、圧延終了温度:300〜380℃という条件で熱間圧延を行い、熱間圧延板とする熱間圧延工程と、
前記熱間圧延板に対し、圧下率:50〜90%という条件で冷間圧延を行い、冷間圧延板とする一次冷間圧延工程と、
前記冷間圧延板に対し、昇温速度:10℃/秒以上、保持温度:400〜530℃、降温速度:10℃/秒以上という条件で中間焼鈍を行う中間焼鈍工程と、
前記中間焼鈍を行った前記冷間圧延板に対し、総圧下率:30〜70%、最終パスにおける圧下率を25%以上という条件で冷間圧延を行う仕上げ冷間圧延工程と、
前記仕上げ冷間圧延を行った前記冷間圧延板に対し、保持温度:200〜260℃という条件で仕上げ焼鈍を行い、アルミニウム合金板とする仕上げ焼鈍工程と、
を含むことを特徴とするPPキャップ用アルミニウム合金板の製造方法。
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