JP2012187070A - 湯種およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】明度が高く、経時的に生じ得る着色(変色を含む)が有意に抑制されてなる湯種及びその製造方法を提供する。さらに硬さ、付着性及びガム性といった物性に悪影響を与えることなく、上記特性を備えた湯種及びその製造方法を提供する。
【解決手段】澱粉質原料、食塩及び水の混合物を、55〜100℃で混捏して調製される湯種であって、当該湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%であることを特徴とする湯種。
【選択図】なし

Description

本発明は、明度が高く、経時的に生じ得る着色(変色を含む)が有意に抑制されてなる湯種及びその製造方法に関する。さらに本発明は、硬さ、付着性及びガム性といった物性に悪影響を与えることなく、上記特性を備えた湯種及びその製造方法に関する。さらに本発明は、湯種の明度を向上させ、また湯種の着色を抑制する方法に関する。
近年、ソフトでありながらも、しっとりとしたモチモチ感のある独特な食感を有するパン等のベーカリー製品を製造する方法として、湯種法が多く用いられている。湯種法とは、パン等の製造にあたり、原材料として使用する澱粉質原料の一部を、高温の水で混捏した中麺(これを「湯種」という)を調製し、当該湯種に、原材料として残りの澱粉質原料、イースト及び水、砂糖等の副原料を混捏して本捏生地を調製し、これを定法に従って発酵及び加熱処理してパン等を製造する方法である(例えば、特許文献1等参照)。
しかし、このような湯種法で製造される湯種は、55℃以上の水で混捏されることによって澱粉の多くがα化(糊化)されているため、保存による老化や変質(変色を含む)が著しい。かかる湯種の老化や変質は、湯種の物性を低下させたり着色や変色の原因となり、その後の生地及びそれに続くパン類の製造における作業効率の低下や、パン類の外観や食感の低下を招く。
従来から湯種の老化を防止する方法として、湯種に油脂を添加する方法(特許文献2参照)、湯種に乳化剤を添加する方法(特許文献3参照)、湯種に乳蛋白質を添加する方法(特許文献4参照)、及び湯種に酸性水中油型乳化油脂組成物を添加する方法(特許文献5参照)、及び湯種に乳由来の固形分中のリン脂質を添加する方法(特許文献6参照)等が知られている。
しかし、湯種の明度を上げ、経時的に生じ得る着色を抑制するための方法は今まで知られていない。
特許第3080368号公報 特開2003−265093号公報 特開2003−23955号公報 特開2003−265094号公報 特開2009−201468号公報 特開2009−201469号公報
本発明は、明度が高く、経時的に生じ得る着色(変色を含む)が有意に抑制されてなる湯種、及びそれを製造する方法を提供することを目的とする。特に本発明は、硬さ、付着性及びガム性といった物性に悪影響を与えることなく、上記特性(明度の向上と着色抑制)を備えた湯種、及びそれを製造する方法を提供することを目的とする。
また本発明は、湯種の明度を向上させる方法、また湯種の経時的な着色を抑制する方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、湯種の調製、特に澱粉質原料として小麦粉を用いた湯種の調製に際して食塩を配合することで、湯種の明度が格段に向上すること、しかも湯種の食塩濃度を2.4〜7重量%の範囲に設定することで、一定の安定した明度及び色調を有する湯種が調製できること、さらにかかる湯種は、保存、特に冷蔵保存しても色の経時変化が少なく安定していることを見出した。
ところで、湯種の硬さ、付着性及びガム性等の物性は、その後のパン生地(ベーカリー製品用生地)製造工程における作業性や生産効率に深く関係するため、常に安定して一定の物性を備えていることが望まれる。本発明者らは、湯種の製造に際して食塩を配合すると、その配合量に応じて湯種の上記物性(硬さ、付着性及びガム性)が変動するという問題に直面したが、湯種の食塩濃度を上記2.4〜7重量%の範囲にすることで、上記物性(硬さ、付着性及びガム性)の変動が殆どない安定した物性の湯種を製造できることを見出した。つまり、湯種の食塩濃度を2.4〜7重量%の範囲にすることで、その後の生地製造(ベーカリー製品用生地製造)における作業性や生産効率に関係する湯種の物性(硬さ、付着性及びガム性)が安定し、明度が高く、また明度と色調等の色の経時的変化が抑制されてなる湯種が調製できることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであって、下記の実施形態を包含するものである。
(I)湯種及びその製造方法
(I-1)澱粉質原料、食塩及び水の混合物を、55〜100℃で混捏する工程を経て調製される湯種であって、当該湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%であることを特徴とする湯種。
(I-2)澱粉質原料100重量部に対して、食塩の割合が5〜15重量部であることを特徴とする(I-1)記載の湯種。
(I-3)冷凍または冷蔵されてなる湯種である、(I-1)または(I-2)記載の湯種。
(I-4)澱粉質原料が、穀物、穀粉、澱粉質を含む植物種子、種子粉、澱粉質を含む植物体(野菜を含む)、当該植物体粉、及び澱粉(加工澱粉を含む)から選択されるいずれか少なくとも1種である(但し、100%米粉である場合を除く)、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する湯種。
(I-5)穀物が小麦、大麦またはともろこし;穀粉が小麦粉(例えば、強力粉、薄力粉、小麦全粒粉)またはコーンフラワー;澱粉質を含む植物種子が豆またはそば;種子粉が大豆粉またはそば粉;澱粉質を含む植物体が芋またはワラビ;植物体粉が馬鈴薯粉またはワラビ粉;澱粉がコーンスターチ、緑豆澱粉、馬鈴薯澱粉、または葛粉;加工澱粉がタピオカエーテル化澱粉または小麦アルファ化澱粉からなる群から選択されるいずれか少なくとも1種である(但し、100%米粉である場合を除く)、(I-4)に記載する湯種。
(I-6)水として55〜100℃に加温した水を使用する(I-1)乃至(I-5)のいずれかに記載する湯種。
(I-7)小麦粉100質量部に対して、大豆油20質量部、食塩10質量部及び砂糖10質量部を含む湯種を含まない、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する湯種。
(I-8)小麦粉(薄力粉)に加水し(加水量:対粉120重量%)、多糖分解酵素ヘミセルラーゼを添加して調製される湯種を含まない、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する湯種。
(I-9)澱粉質原料、食塩及び水を含有する食塩濃度2.4〜7重量%の混合物を55〜100℃で混捏する工程を有する湯種の製造方法。
(I-10)澱粉質原料100重量部に対して、食塩を5〜15重量部の割合で配合することを特徴とする(I-9)記載の製造方法。
(I-11)澱粉質原料、食塩及び水を常温で混合した後に、当該混合物を55〜100℃に加温して混捏する工程を有する、(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する製造方法。
(II)ベーカリー製品用生地及びその製造方法
(II-1)(I-1)乃至(I-8)のいずれかに記載する湯種を原料として、これに澱粉質原料、副材料及び水を混捏して調製されるベーカリー製品用生地。
(III)ベーカリー製品及びその製造方法
(III-1)(II-1)に記載するベーカリー製品用生地を、加熱処理して製造されるベーカリー製品。
(III-2)加熱処理が、焼成、蒸す、蒸し焼き、及び油ちょうからなる群から選択される少なくとも1つの処理である、(III-1)に記載するベーカリー製品。
(III-3)ベーカリー製品が、パン類、パン類乾燥品、ケーキ類、ワッフル、シュー、ドーナツ、揚げ菓子、パイ、ピザ、及びクレープからなる群から選択される少なくとも1つの処理である(III-1)または(III-2)に記載するベーカリー製品。
(IV)湯種の明度向上方法
澱粉質原料及び水を含む混合物を55〜100℃で混捏して調製される湯種の明度向上方法であって、上記混合物に加えて、食塩を、湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%となる割合で配合することを特徴とする、湯種の明度向上方法。
(V)湯種の着色抑制方法
澱粉質原料及び水を含む混合物を55〜100℃で混捏して調製される湯種の着色抑制方法であって、上記混合物に加えて、食塩を、湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%となる割合で配合することを特徴とする、湯種の着色抑制方法。
本発明によれば、一定の安定した明度及び色調を有する湯種を提供することができる。また、本発明の湯種は、保存、特に冷蔵保存しても色の経時変化が少なく安定している。また、食塩濃度が2.4〜7重量%の範囲にある本発明の湯種は、その食塩濃度間で硬さ、付着性及びガム性がほぼ等しく、物性が安定している。このため、本発明の湯種は、その後の生地製造(ベーカリー製品用生地製造)における作業性や生産効率に関係する物性(硬さ、付着性及びガム性)に悪影響を及ぼすことなく、高い明度を有し、また明度と色調等の色の経時的変化が抑制されてなるものである。このため、本発明の湯種は、工業的に生産されるベーカリー製品に適した湯種として有用である。
実験例1において湯種の食塩濃度と着色との関係を調べた結果を示す。図1-Aは、5℃条件下に1日間(24時間)保管した湯種(湯種D1)の食塩濃度とL値(明度)との関係、図1-Bは湯種D1の食塩濃度と a値(赤味)との関係、図1-Cは湯種D1の食塩濃度とb値(黄色味)との関係、及び図1-Dは湯種D1の食塩濃度と色差ΔE(L値、a値、b値を総合した色調の差、以下同じ)との関係を、それぞれ示す。 実験例1において湯種の食塩濃度と着色との関係を調べた結果を示す。図2-Aは、5℃条件下に10日間(240時間)保管した湯種(湯種D10)の食塩濃度とL値(明度)との関係、図2-Bは湯種D10の食塩濃度と a値(赤味)との関係、図2-Cは湯種D10の食塩濃度とb値(黄色味)との関係、及び図2-Dは湯種D10の食塩濃度と色差ΔEとの関係を、それぞれ示す。 実験例1において湯種の食塩濃度と着色との関係を調べた結果を示す。同一の食塩濃度の「湯種D1」と「湯種D10」との間の色差ΔEの経時変化を示す 実験例2で測定した湯種の物性値(硬さ、付着性、ガム性)が何を意味するかを示す模式図である。 実験例2において湯種の食塩濃度と物性値との関係を調べた結果を示す。図5-Aは、湯種の食塩濃度とかたさ荷重(N)との関係、図5-Bは湯種の食塩濃度と付着性(J/m3)との関係、及び図5-Cは湯種の食塩濃度とガム性荷重(N)との関係を、それぞれ示す。
(I)湯種、ベーカリー製品用生地、ベーカリー製品及びそれらの製造方法
(1)湯種及びその製造方法
本発明が対象とする湯種は、パン等のベーカリー製品の製造方法の一つである「湯種法」(「湯捏法」ともいう)の製造の過程で作製される、澱粉の一部がα化されてなる中麺である。
湯種法とは、ベーカリー製品の原材料として澱粉質原料の一部を、水と共に高温で混捏して中麺(湯種)を作製し、当該中麺(湯種)に、残りの原材料を混捏して生地(本発明では「ベーカリー製品用生地」という)を作製し、これを定法に従って加熱処理してベーカリー製品を製造する方法である。
なお、湯種の製造にあたり、澱粉質原料を水と共に混捏する際に採用される温度条件は、中麺(湯種)そのものが55〜100℃の温度範囲に少なくとも一回達する条件であればよく、その限りにおいて、その方法は問わない。好ましくは中麺(湯種)が60〜85℃の温度範囲に少なくとも一回達する条件である。
本発明が対象とする「ベーカリー製品」とは、澱粉質原料を主材料として、焼成、油ちょう、蒸す、または蒸し焼き等の加熱処理して製造される加工食品であり、例えばパン類、パン類乾燥品、ケーキ類、ワッフル、シュー、ドーナツ、揚げ菓子、パイ、ピザ、クレープ等が例として挙げられる。パン類としては、食事パン(例えば食パン、ライ麦パン、フランスパン、乾パン、バラエティブレッド、ロールパン等)、調理パン(例えばホットドッグ、ハンバーガー、ピザパイ等)、菓子パン(例えばジャムパン、アンパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパン、スイートロール、クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュ、コロネ等)、蒸しパン(例えば肉まん、中華まん、あんまん等)、特殊パン(例えばグリッシーニ、マフィン、ナン等)等が例として挙げられる。パン類乾燥品としては、ラスクやパン粉等が例として挙げられる。ケーキ類としては、蒸しケーキ、スポンジケーキ、バターケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、パウンドケーキ、チーズケーキまたはスナックケーキ等が例として挙げられる。
本発明において「澱粉質原料」とは、澱粉を含む可食性原料を意味する。
本発明が対象とする「澱粉質原料」には、穀物、穀物の胚乳または当該胚乳を胚芽や表皮を付けた状態で碾いて調製される粉(穀粉);澱粉質を含む穀物以外の植物種子、当該植物種子の胚乳または当該胚乳を胚芽や表皮を付けた状態で碾いて調製される粉(種子粉);澱粉質を含む野菜、それを粉状にしたもの(野菜粉);穀物、澱粉質を含む穀物以外の植物種子、澱粉質を含む野菜、またはその他の植物体から澱粉質のみを抽出したもの(澱粉);がいずれも含まれる。
ここで「穀物」としては、小麦、米(うるち米、もち米)、大麦、ライ麦、とうもろこし、あわ、ひえ、及びはと麦等を挙げることができ、かかる穀物の胚乳または当該胚乳を胚芽や表皮を付けた状態で碾いて調製される粉(穀粉)としては、小麦粉(例えば、強力粉、薄力粉、準強力粉、中力粉、全粒粉等)、米粉(上新粉、上用粉、餅粉、白玉粉、玄米粉等)、大麦粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉等を例示することができる。
また「植物種子」としては、例えば大豆及びそばの種子を挙げることができ、これらの種子の胚乳または当該胚乳を胚芽や表皮を付けた状態で碾いて調製される粉(種子粉)としては、大豆粉及びそば粉等を例示することができる。「澱粉質を含む野菜」としては、馬鈴薯や甘藷などの芋類やワラビ等の野菜を例示することができ、かかる野菜を粉状にしたもの(野菜粉)としては、例えば、粉末ポテトやワラビ粉等を例示することができる。また「穀物、澱粉質を含む穀物以外の植物種子、澱粉質を含む野菜、その他の植物体から澱粉質のみを抽出したもの(澱粉)」としては、コーンスターチ、緑豆澱粉、馬鈴薯澱粉、葛粉等を例示することができる。
なお、本発明が対象とする澱粉には加工澱粉(天然澱粉に物理的・化学的処理を施した機能性澱粉)も含まれる。かかる加工澱粉としては、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、タピオカ澱粉または小麦澱粉などを原料澱粉として加工処理されたアセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸化架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、未変性アルファ化デンプン、または変性アルファ化デンプン等を例示することができる。
これらの「澱粉質原料」は1種単独で使用してもよいし、また2種以上を組み合わせて使用することもできる。好ましくは穀粉、種子粉、野菜粉、及び澱粉(加工澱粉を含む)からなる群から選択される少なくとも1種である。より好ましくは穀粉、種子粉、及び澱粉(加工澱粉を含む)からなる群から選択される少なくとも1種;さらに好ましくは穀粉及び澱粉(加工澱粉を含む)からなる群から選択される少なくとも1種;特に好ましくは穀粉である。穀粉として好ましくは小麦粉であり、当該小麦粉は、他の澱粉質原料、例えば米粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、馬鈴薯澱粉、加工でん粉などから選択される少なくとも1種との組み合わせて用いることができる。
本発明の湯種は、前述する澱粉質原料及び水に加えて食塩を含有するものであり、湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%であることを特徴とする。かかる食塩濃度範囲であれば、本発明の効果を安定して得ることができるが、好ましくは3〜6重量%、より好ましくは3〜5重量%である。
ここで湯種の作製に使用される澱粉質原料は前述の通りであるが、本発明の明度向上という効果をより効果的に得ることができるという点で、米粉を用いる場合は、一部に米粉以外の穀粉、好ましくは小麦粉を含むものであることが好ましい。つまり、湯種に使用する澱粉質原料が100%米粉である場合は、最初から明度が高いため、食塩配合による明度向上という本発明の効果を享受する利益が少ない。よって、本発明の湯種は、それに配合する澱粉質原料が米粉100%でないことが好ましい。
食塩は、かかる湯種に使用する澱粉質原料の総量100重量部に対して5〜15重量部の割合で使用することが好ましい。好ましくは7〜13重量部、より好ましくは8〜12重量部、さらに好ましくは9〜11重量部の割合である。
本発明の湯種は、上記澱粉質原料、食塩及び水だけから構成されてもよいが、本発明の効果を妨げない限り、これらの成分の他に、所望により副材料を添加することもできる。副材料としては、パン酵母類(例えば、生イースト、ドライイースト、インスタントドライイースト等)、発酵種類(例えば、自家培養発酵種、簡易発酵種、酒種、ルヴァン種、パネトーネ種、ヨーグルト種、サワー種等)、イーストフード(例えば、無機フード、有機フード、酵素系フード等)、油脂類(例えば、ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油、粉末油等)、糖(例えば、トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース等)、糖アルコール(例えば、ソルビト−ル、マルチトール、パラチニット、還元水飴等)、乳製品(例えば、乳類、粉乳類、クリーム類、チーズ類等)、卵製品、膨脹剤(重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等)、乳化剤(例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、酵素類、調味料(例えば、アミノ酸、核酸等)、保存料、蛋白質、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸等)、香料等が例として挙げられる。これらの副材料は、単独で添加してもよく、又は2種以上を混合して添加してもよい。これらの副材料を添加する場合、湯種100重量%中の副材料の配合割合としては、通常0.1〜80重量%の範囲を挙げることができ、好ましくは1〜50重量%である。
本発明の湯種は、上記の澱粉質原料、食塩、及び水、さらに所望により上記副材料との混合物を、55〜100℃程度の温度条件で混捏することで作製される(以下、この工程を「湯種作製工程」ともいう。)。ここで「55〜100℃程度の温度条件で混捏する」とは、混捏中に湯種が少なくとも一回55〜100℃の温度に達する条件で混捏することを意味する。達する温度条件(達温条件)として、好ましくは60〜85℃程度を挙げることができる。
55℃〜100℃程度の温度条件で混捏する方法としては、上記水として、温〜熱水を使用して上記材料の混合物を混捏する方法を例示することができる。かかる温〜熱水の温度としては、上記温度の湯種が作製できる温度であれば特に制限されないが、通常70〜100℃程度、好ましくは80〜100℃程度を例示することができる。なお、湯種作製に使用する水の割合としては、作製される湯種(100重量%)中の水分含量に換算して30〜90重量%、好ましくは35〜80重量%、より好ましくは40〜70重量%である。かかる水分含量になるように、湯種に使用する澱粉質原料100重量部に対する水分含量としては50〜1100重量部、好ましくは80〜600重量部、より好ましくは100〜400重量部を挙げることができ、かかる範囲から適宜設定調整することができる。
澱粉質原料、食塩、及び水、並びに所望により上記副材料との混合物を55〜100℃で混捏する他の方法としては、常温の水を使用して、上記澱粉質原料、食塩、及び所望により副材料を混合してなる混合物を、蒸気、直火、電子レンジ、オーブン等の任意の方法で加熱しながら混捏することにより、混捏中に中麺(湯種)を少なくとも一回55〜100℃程度の温度状態に達せしめる方法を挙げることができる。達温条件として、好ましくは60〜85℃程度を挙げることができる。なお、ここで常温とは、20℃±15℃(5〜35℃)、好ましくは15〜25℃を挙げることができる。
混捏方法(練り上げる方法)は、特に制限されず、定法に従って行うことができる。簡便には、例えば縦型高速ミキサー等の混合機を用いて混捏する方法を挙げることができる。
斯くして作製される本発明の湯種は、食塩を添加しないで作製した湯種に比べて明度が高く(実験例1,図1-A参照)、その明度は、例えば10日間5℃の条件下で冷蔵保管しても維持されている(実験例1、図2-A参照)。また食塩濃度が2.4〜7重量%の範囲にある本発明の湯種は、食塩濃度にかかわらず明度及び色調がほぼ同じであり(実験例1,図1-A〜D参照)、その傾向は、例えば10日間5℃の条件下で冷蔵保管しても維持されている(実験例1、図2-A〜D参照)。さらに食塩濃度が2.4〜7重量%の範囲にある本発明の湯種は、食塩を添加しないで作製した湯種や食塩濃度が上記範囲以外である湯種に比べて、例えば10日間5℃の条件下で冷蔵保管しても、明度や色調等の変化(経時変化ΔE)が少なく、着色や退色等による影響を受けにくい(着色が抑制されている)(実験例1,図3)。
加えて、食塩濃度が2.4〜7重量%の範囲にある本発明の湯種は、その食塩濃度間で硬さ、付着性及びガム性がほぼ等しく(実験例2,図5-A〜C参照)、物性が安定している。このため、本発明の湯種は、その後のベーカリー製品用生地製造工程における作業性や生産効率性に関わる生地物性に悪影響を及ぼすことなく、高い明度を有し、経時的な着色が抑制されてなるものであり、この意味で、工業的に生産されるベーカリー製品に適した湯種として有用である。
斯くして調製された湯種は、そのままベーカリー製品用生地の材料として使用されてもよいし、当該生地の材料として使用されるまで、常温保存、冷蔵保存または冷凍保存されてよい。本発明が対象とする湯種には、かかる常温状態の湯種、冷蔵状態の湯種、および冷凍状態の湯種が含まれる。
湯種の常温保存条件としては、例えば、練り上げられた湯種をポリエチレン製フィルム等の気密性フィルムに空気を抜いて密封し、15℃〜25℃の温度帯で1時間〜24時間保管する条件を挙げることができる。また、湯種の冷蔵保存条件としては、例えば、練り上げられた湯種をポリエチレン製フィルム等の気密性フィルムに空気を抜いて密封し、−2℃〜5℃の温度帯で12時間〜480時間保管する条件を挙げることができる。また冷凍保存条件としては、例えば、ポリプロピレン製フィルム等の気密性フィルムに空気を抜いて密封し、−18℃〜−40℃の温度帯で24時間〜2年間の保管する条件を挙げることができる。かかる冷凍保存された湯種は、保管期間を経た後に、解凍して使用することができる。
(2)ベーカリー製品用生地、ベーカリー製品及びそれらの製造方法
本発明の湯種は、ベーカリー製品用生地の材料として使用される。すなわち、ベーカリー製品用生地は、上記方法で得られた湯種と、原材料(以下、「生地作製用原材料」ともいう。)、及び、所望により水分とを混捏することによって製造される(以下、この工程を「生地作製工程」という。)。具体的には、本発明の湯種、生地作製用原材料及び、所望により水分を、一緒にミキサーに投入して、一度に混捏することによりベーカリー製品用生地を作製することができる。
なお、ベーカリー製品用生地における本発明の湯種の割合としては、ベーカリー製品用生地100重量%中、2〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは7〜30重量%を例示することができる。
ベーカリー製品用生地の作製に用いる原材料(生地作製用原材料)としては、例えば小麦粉(例えば、強力粉、薄力粉、準強力粉、中力粉等)、大麦粉、米粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉等の穀粉;大豆、そばなどの澱粉質を含む植物種子の粉体(種子粉)(例えば、大豆粉、そば粉等);馬鈴薯、ワラビ等の野菜類の粉体(野菜粉)(例えば、粉末ポテト、ワラビ粉等);穀物、澱粉質を含む植物種子、澱粉質を含む野菜、澱粉質を含む植物体から澱粉質のみを抽出したもの(澱粉)(例えば、コーンスターチ、緑豆澱粉、馬鈴薯澱粉、葛粉等);さらに、それらの澱粉を使用した加工澱粉(例えばタピオカエーテル化澱粉、小麦アルファ化澱粉等);塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等);パン酵母類(例えば、生イースト、ドライイースト、インスタントドライイースト等)、発酵種類(自家培養発酵種、簡易発酵種、酒種、ルヴァン種、パネトーネ種、ヨーグルト種、サワー種等);イーストフード(例えば、無機フード、有機フード、酵素系フード等);油脂類(例えば、ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油、粉末油等);糖(例えば、トレハロース、グルコース、フルクトース、ラクトース、砂糖、マルトース、イソマルトース等);糖アルコール(例えば、ソルビト−ル、マルチトール、パラチニット、還元水飴等);乳製品(例えば、乳類、粉乳類、クリーム類、チーズ類等);卵製品;膨張剤(例えば、重曹、炭酸アンモニウム、ベーキングパウダー等);乳化剤(例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等);酵素類;調味料(例えば、アミノ酸、核酸等)、保存料、蛋白質、アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン酸等)、香料等が好適な例として挙げられる。
生地作製工程においては、生地作製用原材料として少なくとも澱粉質原料を用いることが好ましい。澱粉質原料の使用量は、湯種の作製に使用した澱粉質原料の量(湯種中の澱粉質原料の量)を100重量部とした場合に、0〜10000重量部が好ましく、100〜2500重量部がさらに好ましい。また、ベーカリー製品用生地は、前述する本発明の湯種以外に、別途、ベーカリー製品用生地を構成する原材料(生地作製用原材料)をあらかじめ混合しておき、当該混合物を上記湯種と混合して作製することもできる。
斯くして作製したベーカリー製品用生地を用いて、定法に従って、ベーカリー製品を製造することができる。例えば、ベーカリー製品が、パン類の場合は、生地作製工程に続いて、生地発酵工程、加熱処理工程に移る。生地発酵工程及び加熱処理工程における各操作やその条件には、常法の製パン工程で採用される操作及び条件が採用される。加熱処理工程は、ベーカリー製品の種類に応じて、焼成する、蒸す、蒸し焼きにする、油で揚げる等の方法によって行なわれる。
(II)湯種の明度向上方法
本発明は、さらに湯種の明度を向上させる方法を提供する。
当該方法は、澱粉質原料及び水を含む混合物を55〜100℃で混捏して調製される湯種の原料として、上記成分に加えて、さらに食塩を、湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%となる割合で配合することによって実施することができる。かかる食塩濃度範囲であれば、本発明の効果を安定して得ることができるが、好ましくは3〜6重量%、より好ましくは3〜5重量%である。
また食塩は、かかる湯種に使用する澱粉質原料の総量100重量部に対して5〜15重量部の割合で使用することが好ましい。好ましくは7〜13重量部、より好ましくは8〜12重量部、さらに好ましくは9〜11重量部の割合である。
ここで湯種の作製に使用される澱粉質原料の種類及びその割合、並びに水の配合量は、上記(I)で説明した通りである。また湯種の作製方法や作製条件についても、上記(I)で説明した通りである。
本発明の方法によれば、食塩を配合しないで作製した湯種に比べて高い明度を有する湯種を提供することができる。また本発明の方法によれば、食塩を配合しないで作製した湯種に比べて高い明度を有する湯種の明度を、長期に保存しても安定に維持することができる。かかる保存条件のうち、湯種の常温保存条件としては、例えば、練り上げられた湯種をポリエチレン製フィルム等の気密性フィルムに空気を抜いて密封し、15℃〜25℃の温度帯で1時間〜24時間保管する条件を挙げることができる。また、湯種の冷蔵保存条件としては、例えば、練り上げられた湯種をポリエチレン製フィルム等の気密性のフィルムに空気を抜いて密封し、−2℃〜5℃の温度帯で12時間〜480時間保管する方法が挙げられる。また冷凍保存条件としては、例えば、ポリプロピレン製フィルム等の気密性のフィルムに空気を抜いて密封し、−18℃〜−40℃の温度帯で24時間〜2年間保管する方法が挙げられる。保管期間を経た後は、解凍して使用することができる。
(III)湯種の着色抑制方法
本発明は、また湯種の着色を抑制する方法を提供する。
当該方法は、澱粉質原料及び水を含む混合物を55〜100℃で混捏して調製される湯種の原料として、上記成分に加えて、さらに食塩を、湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%となる割合で配合することによって実施することができる。かかる食塩濃度範囲であれば、本発明の効果を安定して得ることができるが、好ましくは3〜6重量%、より好ましくは3〜5重量%である。
また食塩は、かかる湯種に使用する澱粉質原料の総量100重量部に対して5〜15重量部の割合で使用することが好ましい。好ましくは7〜13重量部、より好ましくは8〜12重量部、さらに好ましくは9〜11重量部の割合である。
ここで湯種の作製に使用される澱粉質原料の種類及びその割合、並びに水の配合量は、上記(I)で説明した通りである。また湯種の作製方法や作製条件についても、上記(I)で説明した通りである。
本発明の方法によれば、食塩を配合しないで作製した湯種に比べて、保存によって経時的に生じ得る着色(退色や変色を含む)が有意に抑制されてなる湯種を提供することができる。湯種の保存条件としては、例えば、湯種の常温保存条件としては、練り上げられた湯種をポリエチレン製フィルム等の気密性フィルムに空気を抜いて密封し、15℃〜25℃の温度帯で1時間〜24時間保管する条件を挙げることができる。また、湯種の冷蔵保存条件としては、例えば、練り上げられた湯種をポリエチレン製フィルム等の気密性フィルムに空気を抜いて密封し、−2℃〜5℃の温度帯で12時間〜480時間保管する方法を挙げることができる。また冷凍保存条件としては、例えば、ポリプロピレン製フィルム等の気密性フィルムに空気を抜いて密封し、−18℃〜−40℃の温度帯で24時間〜2年間の保管する方法を挙げることができる。当該冷凍湯種は冷凍保管期間後に、解凍して使用することができる。
以下、実験例及び実施例をもとに、本発明の構成及び効果をより明確に説明する。但し、これらの実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下、「%」とは、特に言及しない限り「重量%」を意味する。
実験例1 湯種の食塩濃度と着色との関係
様々な食塩濃度(0〜23%)を有する湯種を5℃で1日間(24時間)保管するか、または5℃で10日間(240時間)保管した後に、色差計(商品名「Color Meter ZE2000」、日本電色工業株式会社製)を用いて色差を測定し(測定モード:L*a*b*)、湯種の食塩濃度と着色(変色)との関係を評価した。
(1)湯種の調製
強力粉(商品名「ヘルメス」(粗蛋白11.8%、灰分0.38%)、奥本製粉(株)製:以下同じ)100重量部に対して、水200重量部を加え、卓上ミキサー(商品名「ケンミックスアイコープロKM-600」、(株)愛工舎製作所製)で均一になるまで撹拌した後、1mm×1mmのメッシュで濾し、小麦粉溶液を作製した。この小麦粉溶液に対して、所定の塩分濃度(表1)になるように食塩(精製塩:塩化ナトリウム99.90%以上)を添加した。例えば、3%の食塩濃度とするには、小麦粉溶液97gに対し、食塩を3g添加し、完全に溶解させる。
所定の食塩濃度に調整した小麦粉溶液300gを、ポリプロピレン製レトルトパウチ(外径:縦300mm×横215mm、内径:縦280mm×195mm)に封入した。レトルトパウチに封入した各食塩濃度の小麦粉溶液を、オートクレーブ(商品名「HICLAVE HG-50」、(株)平山製作所製)に入れ、62℃1分の設定で加熱した(寒天培地溶解モードを使用)。この加熱後の混合物を湯種とする。作製した湯種を、下記の実験に供した。
(2)測定方法
上記で作製した各食塩濃度(0〜23%)の湯種を2つにわけ、一つは5℃条件下に1日間(24時間)保管し(以下、これを「湯種D1」という。)、もう一つは5℃条件下に10日間(240時間)保管した(以下、これを「湯種D10」という。)。これらをそれぞれポリ塩化ビニリデン製ラップに包み、色差計に乗せてL(明度)、a(赤味)、及びb(黄色味)を測定した。また、各「湯種D1」及び「湯種D10」について、食塩濃度が0%である湯種(「0%湯種D1」及び「0%湯種D10」)の各値(L値、a値、b値)との差を求め、それぞれΔL、Δa及びΔbとし、その値から総合的な色差(ΔE=√(ΔL2+Δa2+Δb2))を求めた。さらに、同一の食塩濃度の「湯種D1」と「湯種D10」との間の経時変化を、下記数式に従って求めた。なお、下記数式中、湯種D1と湯種D10は、互いに同一の食塩濃度の湯種である。
Figure 2012187070
(3)測定結果
結果を表1及び2,並びに図1〜3に示す。
Figure 2012187070
Figure 2012187070
図1-A〜Dは、湯種D1のL(明度)、a(赤味)、b(黄色味)及びΔEを、また図2-A〜Dは、湯種D10のL(明度)、a(赤味)、b(黄色味)及びΔEをそれぞれ示す。また図3は、同一の食塩濃度の「湯種D1」と「湯種D10」との間の経時変化ΔEを示す。
この結果からわかるように、湯種は、その食塩濃度が2.4〜7%の範囲にあると、L(明度)、a(赤味)、b(黄色味)及びΔEがいずれもほぼ一定であることが確認された(図1)。さらに、その傾向は、湯種を長期保存しておいても変化がなかった(図2、図3)。このことは、湯種の食塩濃度をこの範囲に設定すれば、湯種製造時の水分蒸散等によって食塩濃度がわずかに変化しても、調製される湯種の色(色度、色調、明度)に大きな影響を与えないこと、つまり色度や色調や明度が安定した湯種が調製できることを意味する。
実験例2 湯種の物性(硬さと粘性)評価
実験例1に記載する方法に従って調製した、様々な食塩濃度(0〜23%)を有する湯種を、レトルトパウチに入れた状態で5℃にて24時間保管した後、レオメーター(CREEP METER RE2-3305S、株式会社山電製)を用いて硬さ荷重(N)、付着性(J/m3)、及びガム性荷重(N)を測定し、物性を評価した。
(1)物性の測定
具体的には、5℃にて24時間保管した湯種をステンレス製カップ(直径:40mm、深さ:15mm)に隙間なく入れ、試料台にセットした。そこに、ロードセル(上限20N用)に固定したプランジャー(直径:5.0mm)を、湯種の高さの50%まで押し込み(測定歪み率:50%)、次いでこれを引き抜き、再度同じ場所にプランジャーを押し込み、同様に引き抜いた(圧縮回数:2回、圧縮速度:1 mm/秒)。これらの動作にかかった荷重から、硬さ荷重(N)、付着性(J/m3)、及びガム性荷重(N)を求めた。なお、硬さ荷重(N)は、図4に示すように、湯種にプランジャーを押し込んだ際にかかった最大圧力に相当する。
(2)結果
結果を表3及び図5に示す。
Figure 2012187070
図5中、図5-Aは各種食塩濃度の湯種の硬さ荷重(N)、図5-Bは各種食塩濃度の湯種の付着性(J/m3)、並びに図5-Cは各種食塩濃度の湯種のガム性荷重(N)をそれぞれ示す。
これからわかるように、湯種は、その食塩濃度が2.4〜7%の範囲であると、硬さ荷重(N)、付着性(J/m3)、及びガム性荷重(N)がいずれもほぼ一定であることが確認された。このことは、湯種の食塩濃度をこの範囲に設定すれば、調製に際して湯種製造時の水分蒸散等によって食塩濃度がわずかに変化しても、出来上がる湯種の物性に大きな影響を与えないこと、つまり物性値が安定した湯種が調製できることを意味する。
以上、実験例1と2の結果から、湯種の食塩濃度を2.4〜7%の範囲に設定すれば、調製に際して食塩濃度のわずかな変化があっても、出来上がる湯種の物性や色に大きな変化はなく、常に安定した湯種が調製できること、つまり、常に安定した湯種を提供し供給できることが判明した。
実施例1 小麦粉を用いた湯種の調製方法
<処方>
強力粉 100重量部(40.8%)(注)
食塩 15重量部(6.1%)
水 130重量部(53.1%)
(注)()内の%表記は、当該湯種中の各組成の重量パーセントを表す。
<製法>
強力粉と食塩(いずれも25℃)を容器に入れ、その中に95℃の湯を投入し、ダマが無くなるまで撹拌(ミキシング)した。ミキシングが終了した後の湯種の温度は70℃であった。その後、5℃で保管した。
実施例2.小麦粉以外の穀粉を使用した湯種の調製方法
<処方>
ライ麦粉 100重量部(16.3%)(注)
米粉 150重量部(24.4%)
食塩 15重量部(2.4%)
砂糖 50重量部(8.1%)
水 300重量部(48.8%)
(注)()内の%表記は、当該湯種中の各組成の重量パーセントを表す。
<製法>
ライ麦粉、米粉、食塩、砂糖、及び水をダマが無くなるまで撹拌した。この時、各材料の温度は10℃〜30℃とした。その後、この撹拌混合物をステンレス製容器に移し、その外側から電熱線を使用して、内容物が75℃になるまで加熱した。斯くして調製した湯種を、その後0℃で24時間冷却後、−18℃で冷凍保管した。
実施例3.副材料を多く含む湯種の調製方法
<処方>
強力粉 100重量部(23.3%)(注)
コーンスターチ 100重量部(23.3%)
食塩 30重量部(7.0%)
牛乳 100重量部(23.3%)
マーガリン 50重量部(11.55%)
水 50重量部(11.55%)
(注)()内の%表記は、当該湯種中の各組成の重量パーセントを表す。
<製法>
強力粉、コーンスターチ、及び食塩を容器に入れ、これに95℃に加温した牛乳を投入し、ダマが無くなるまで撹拌した。この時、牛乳を混ぜる前の強力粉、コーンスターチ、及び食塩の温度はそれぞれ20℃で、牛乳を混ぜた後の混合物の温度は60℃であった。その後、この混合物にマーガリン及び水(いずれも5℃)を投入し、再度ダマが無くなるまで混合した。斯くして調製した最終混合物(湯種)の温度は25℃であった。
実施例4.食パンの調製
<処方>
強力粉 100重量部
湯種(実施例1〜3のいずれか) 30重量部
食塩 0.1、1.3または0重量部(注)
砂糖 5重量部
ショートニング 5重量部
生イースト 2重量部
ビタミンC 0.001重量部
水 65重量部
(注)実施例1の湯種を使用した場合は0.1重量部:実施例2の湯種を使用した場合は1.3重量部:実施例3の湯種を使用した場合は0重量部。
<製法>
カントーミキサー製20コート縦型ミキサーを使用して、ショートニング以外の材料を混捏した。生地のグルテンが結合して、生地の弾力が強くなった時点で、ショートニングを加え、再度混捏し、パン生地のグルテンが十分に結合され、なめらかな生地状態になった段階で混捏を終了した。この時の生地温度は28℃であった。
その後、28℃湿度80%の恒温室で60分間保管後、生地を分割し、丸く形を整えた。28℃湿度80%の恒温室で20分間生地保管した後、生地のガスを抜き、再度生地を丸く成型し、食パン型に生地を詰めた。38℃湿度80%の恒温室で50分間保管した後、食パン型に蓋をして、上火200℃、下火220℃のオーブンで35分間焼成を行い、角型食パンを作製した。
実施例5.ロールパンの調製
<処方>
強力粉 100重量部
湯種(実施例1〜3のいずれか) 20重量部
食塩 0.3、1.0または0.1重量部(注)
砂糖 15重量部
マーガリン 15重量部
生イースト 3重量部
卵 15重量部
ビタミンC 0.001重量部
水 40重量部
(注)実施例1の湯種を使用した場合は0.3重量部:実施例2の湯種を使用した場合は1.0重量部:実施例3の湯種を使用した場合は0.1重量部。
<製法>
カントーミキサー製20コート縦型ミキサーを使用して、マーガリン以外の材料を混捏した。生地のグルテンが結合して、生地の弾力が強くなった時点で、マーガリンを加え、再度混捏し、パン生地のグルテンが十分に結合され、なめらかな生地状態になった段階で混捏を終了した。この時の生地温度は28℃であった。
その後、28℃湿度80%の恒温室で60分間保管後、生地を分割後、丸く形を整えた。28℃湿度80%の恒温室で20分間生地を保管後、生地のガスを抜いて薄く延ばし、生地を巻き込んで棒状とした。その後、38℃湿度80%の恒温室で45分間保管し、上火220℃、下火180℃のオーブンで12分間焼成を行い、サンドロールを作製した。
実施例6.米粉配合パンの調製
<処方>
米粉 80重量部
グルテン粉末 20重量部
湯種(実施例1〜3のいずれか) 30重量部
食塩 0.1、1.3または0重量部(注)
砂糖 10重量部
ショートニング 5重量部
生イースト 3重量部
水 75重量部
(注)実施例1の湯種を使用した場合は0.1重量部:実施例2の湯種を使用した場合は1.3重量部:実施例3の湯種を使用した場合は0重量部。
<製法>
カントーミキサー製20コート縦型ミキサーを使用して、すべての材料を混捏した。生地のグルテンが十分に結合された段階で混捏を終了した。この時の生地温度は28℃であった。
その後、28℃湿度80%の恒温室で20分間保管後、生地を分割し、丸く形を整えた。28℃湿度80%の恒温室で5分間生地を保管した後、生地のガスを抜き、再度生地を丸く成型し、食パン型に生地を詰めた。38℃湿度80%の恒温室で40分間保管した後、上火200℃、下火220℃のオーブンで35分間焼成を行い、山型の米粉食パンを作製した。

Claims (12)

  1. 澱粉質原料、食塩及び水の混合物を、55℃〜100℃で混捏して調製される湯種であって、当該湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%であることを特徴とする湯種。
  2. 澱粉質原料100重量部に対して食塩の割合が5〜15重量部であることを特徴とする請求項1記載の湯種。
  3. 澱粉質原料が穀粉である請求項1または2に記載の湯種。
  4. 澱粉質原料が小麦粉である請求項1または2に記載の湯種。
  5. 冷凍または冷蔵されてなる請求項1乃至4のいずれかに記載の湯種。
  6. 澱粉質原料、食塩及び水を含有する食塩濃度2.4〜7重量%の混合物を55〜100℃で混捏する工程を有する、請求項1乃至5のいずれかに記載する湯種の製造方法。
  7. 請求項1乃至5のいずれかに記載する湯種を原料として調製されるベーカリー製品用生地。
  8. 請求項7に記載するベーカリー製品用生地を、加熱処理して製造されるベーカリー製品。
  9. 澱粉質原料及び水を含む混合物を55〜100℃で混捏して調製される湯種の明度向上方法であって、上記混合物に、食塩を、湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%となる割合で配合することを特徴とする、湯種の明度向上方法。
  10. 食塩を、澱粉質原料100重量部に対して5〜15重量部の割合で配合することを特徴とする、請求項9に記載する湯種の明度向上方法。
  11. 澱粉質原料及び水を含む混合物を55〜100℃で混捏して調製される湯種の着色抑制方法であって、上記混合物に、食塩を、湯種中の食塩濃度が2.4〜7重量%となる割合で配合することを特徴とする、湯種の着色抑制方法。
  12. 食塩を、澱粉質原料100重量部に対して5〜15重量部の割合で配合することを特徴とする、請求項11に記載する湯種の着色抑制方法。
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